(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149937
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】被加工物の加工方法及び加工装置
(51)【国際特許分類】
B26F 3/00 20060101AFI20241016BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20241016BHJP
B23P 17/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B26F3/00 R
H01L21/78 P
B23P17/00 A
B26F3/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063122
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】山田 千悟
(72)【発明者】
【氏名】木内 逸人
【テーマコード(参考)】
3C060
5F063
【Fターム(参考)】
3C060AA10
3C060CE07
3C060CE11
3C060CE14
3C060CE16
3C060CE21
3C060CE28
5F063AA02
5F063AA04
5F063BA17
5F063BA48
5F063CB02
5F063CB06
5F063CB09
5F063CB30
5F063DD55
5F063DD56
5F063DD99
5F063EE21
5F063FF01
5F063FF33
5F063FF35
5F063FF38
(57)【要約】
【課題】液体の昇圧によって、被加工物や被加工物を支持する支持部材、保持テーブルなどの装置内の他部品を損傷しない加工方法を提供する。
【解決手段】保持テーブル(18)の上方に設けた噴射ユニット(40)から加圧された液体(W)を噴射して被加工物(50)にウォータージェット加工を施す加工方法であり、被加工物を保持テーブルにより保持する保持ステップと、液体の圧力が所定値に上昇するまで噴射ユニットから液体を噴射し続ける際に、噴射ユニットから噴射される液体によって被加工物を貫通しないように、被加工物の不要な部分(57)で一定の圧力になるまで相対的に移動させながら待機し、噴射ユニットが一定の圧力になったときに該被加工物を加工する加工ステップと、を行う。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持テーブルの上方に設けた噴射ユニットから加圧された液体を噴射して被加工物にウォータージェット加工を施す加工方法であって、
該被加工物を該保持テーブルにより保持する保持ステップと、
該液体の圧力が所定値に上昇するまで該噴射ユニットから液体を噴射し続ける際に、該噴射ユニットから噴射される該液体によって該被加工物を貫通しないように、該被加工物の不要な部分で一定の圧力になるまで相対的に移動させながら待機し、該噴射ユニットが一定の圧力になったときに該被加工物を加工する加工ステップと、
を備えることを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項2】
ウォータージェットによる加工装置であって、
被加工物を保持する保持テーブルと、
該保持テーブルの上方に設けられ、該保持テーブルに保持された被加工物に加圧された液体を噴射しウォータージェット加工を施す噴射ユニットと、
該保持テーブルと該噴射ユニットとを相対的に移動させる移動ユニットと、を備え、
該液体の圧力が所定値に上昇するまで該噴射ユニットから液体を噴射し続ける際に、該噴射ユニットから噴射される該液体によって該被加工物を貫通しないように、該被加工物の不要な部分で一定の圧力になるまで相対的に移動させながら待機し、該噴射ユニットが一定の圧力になったときに被加工物を加工することを特徴とする加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の加工方法及び加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のように、加圧された液体を噴射して被加工物を加工するウォータージェット方式の加工装置が知られている。噴射された液体によって、被加工物に溝や孔を形成したり、被加工物を切断したり、被加工物から不要部分や異物(例えば、加工に伴って生じたバリや加工屑など)を除去したり、被加工物を洗浄したりする。このような加工装置では、噴射する液体の圧力を上昇させる昇圧時には、液体を噴射し続けることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
噴射ノズルから加圧された液体を噴射して加工する加工装置においては、昇圧時に噴射され続ける液体によって、被加工物やその周辺の加工装置内の構造物に破損が生じるおそれがあった。例えば、被加工物よりも面積が大きい保持テーブル(チャックテーブル)によって被加工物を保持している場合に、被加工物の外側の領域で保持テーブルの上方に噴射ノズルを位置付けて昇圧すると、昇圧中の液体が保持テーブルに噴射され続けて局所的に負荷が集中し、保持テーブルを破損させてしまうことがある。また、被加工物よりも面積の大きいテープなどの支持部材で被加工物を支持している場合には、昇圧中の液体が支持部材を破損させてしまうことがある。また、被加工物のうち、チップなどが形成されたデバイス形成領域の外側の領域(チップの分割後に端材となる端材領域)の上方に噴射ノズルを位置付けて昇圧すると、噴射ノズルと被加工物との位置関係が変わらない状態で液体を噴射するため、昇圧中の液体が端材領域の同じ箇所に噴射され続けて、やがて被加工物を貫通し、被加工物を保持する保持テーブルに孔を開けてしまうことがある。
【0005】
保持テーブルが被加工物を吸引保持する構造である場合、液体の噴射によって保持テーブルが破損すると、吸引エラーが発生して被加工物を適切に保持できなくなってしまう。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、液体の昇圧によって、被加工物や被加工物を支持する支持部材、保持テーブルなどの装置内の他部品を損傷しない加工方法及び加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る被加工物の加工方法は、保持テーブルの上方に設けた噴射ユニットから加圧された液体を噴射して被加工物にウォータージェット加工を施す加工方法であって、該被加工物を該保持テーブルにより保持する保持ステップと、該液体の圧力が所定値に上昇するまで該噴射ユニットから液体を噴射し続ける際に、該噴射ユニットから噴射される該液体によって該被加工物を貫通しないように、該被加工物の不要な部分で一定の圧力になるまで相対的に移動させながら待機し、該噴射ユニットが一定の圧力になったときに該被加工物を加工する加工ステップと、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る加工装置は、ウォータージェットによる加工装置であって、被加工物を保持する保持テーブルと、該保持テーブルの上方に設けられ、該保持テーブルに保持された被加工物に加圧された液体を噴射しウォータージェット加工を施す噴射ユニットと、該保持テーブルと該噴射ユニットとを相対的に移動させる移動ユニットと、を備え、該液体の圧力が所定値に上昇するまで該噴射ユニットから液体を噴射し続ける際に、該噴射ユニットから噴射される該液体によって該被加工物を貫通しないように、該被加工物の不要な部分で一定の圧力になるまで相対的に移動させながら待機し、該噴射ユニットが一定の圧力になったときに被加工物を加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液体の昇圧によって、被加工物や被加工物を支持する支持部材、保持テーブルなどの装置内の他部品を損傷しない被加工物の加工方法及び加工装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】被加工物である半導体ウエーハを示す図である。
【
図3】被加工物であるパッケージ基板を示す図である。
【
図5】加工ステップにおける動作を説明する図である。
【
図6】加工準備ステップでの被加工物に対する噴射ユニットの移動軌跡の例を示す図である。
【
図7】加工準備ステップでの被加工物に対する噴射ユニットの移動軌跡の変形例を示す図である。
【
図8】加工準備ステップでの被加工物に対する噴射ユニットの移動軌跡の変形例を示す図である。
【
図9】複数の加工ブロックを備える被加工物に対する噴射ユニットの移動軌跡の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本実施形態に係る被加工物の加工方法及び加工装置について説明する。
図1に示す加工装置10は、被加工物50を加工する第1加工部11と第2加工部12とを備えている。第1加工部11を用いて被加工物に加工溝51(
図4及び
図5参照)を形成し、加工溝51の形成に伴って被加工物50に生じたバリ53(
図4参照)を、第2加工部12を用いて除去する。加工装置10におけるX軸方向とY軸方向は水平な方向であり、Z軸方向は上下方向である。X軸方向とY軸方向は互いに垂直である。
【0012】
図2及び
図3は、加工装置10で加工される被加工物50の例を示している。
図2に示すウエーハ90は、例えばシリコンなどからなる円板形状の半導体ウエーハである。ウエーハ90の表面側には、格子状の複数の分割予定ラインで区画された複数のデバイス形成領域内に電子デバイスであるチップ91が形成されている。ウエーハ90は、裏面側に貼着した支持部材であるテープ92を介して環状のフレーム93に支持されている。
【0013】
図3に示すパッケージ基板94には、格子状の複数の分割予定ラインで区画された複数のデバイス形成領域内に電子デバイスであるチップ95が形成されている。パッケージ基板94は、裏面側に貼着した支持部材であるテープ96を介して環状のフレーム97に支持されている。
【0014】
加工装置10では、ウエーハ90における複数のチップ91間の分割予定ラインや、パッケージ基板94における複数のチップ95間の分割予定ラインに沿って、加工溝を形成する。以下の説明においては、ウエーハ90(
図2)やパッケージ基板94(
図3)のように加工溝が形成される様々な被加工物を被加工物50と総称する。また、テープ92(
図2)やテープ96(
図3)のような支持部材を支持部材52と総称する。
【0015】
なお、
図4では被加工物50の断面構造を簡略に示しているが、被加工物50の上面側に金属膜や樹脂膜が形成されていてもよい。金属膜や樹脂膜を有する被加工物50に加工溝51を形成する際に、加工溝51に沿ってバリ53が発生する場合がある(
図4参照)。
【0016】
図1に戻って加工装置10の説明を続ける。加工装置10は、制御部39によって統括的に制御される。制御部39は、各種処理を実行するプロセッサと、各種パラメータやプログラムなどを記憶する記憶部(メモリ)と、によって構成されている。以下に説明する加工装置10の各種動作は、制御部39の制御に基づいて実行される。制御の主体を特に明記していない場合は、制御部39が制御を行っているものとする。
【0017】
加工装置10は基台13を備えており、基台13上に様々な構成要素が配置されている。基台13の隅に設けたカセット載置部14にはカセット15が載置される。被加工物50はカセット15に収容された状態で加工装置10に搬入される。
【0018】
基台13上には、Y軸方向でカセット載置部14に隣接する位置に開口部16が形成されている。開口部16はX軸方向に延在しており、開口部16の内側にテーブルカバー17が支持され、テーブルカバー17上に保持テーブル18が設けられている。テーブルカバー17のX軸方向の両側に蛇腹19が接続しており、テーブルカバー17と蛇腹19によって開口部16が覆われている。
【0019】
保持テーブル18は、チャックテーブルとも呼ばれ、被加工物50を保持する保持面を備えるテーブルである。保持テーブル18はポーラスセラミックスなどの多孔質材からなり、保持テーブル18の保持面に吸引力を作用させる吸引機構(図示略)に接続している。吸引機構を動作させることによって、保持テーブル18の保持面に被加工物50が吸引保持される。また、保持テーブル18は、保持面の外側に、
図2に示すフレーム93や
図3に示すフレーム97を保持するクランプを備えている。
【0020】
テーブルカバー17及び保持テーブル18は、開口部16の下方で基台13の内部に設けられたテーブル送り機構(図示略)によって、X軸方向へ移動される。テーブル送り機構は、X軸方向に延在するガイドレール及びボールネジを備え、テーブルカバー17及び保持テーブル18を支持する台座部がガイドレールによってX軸方向へ移動可能に支持される。ボールネジが台座部に螺合しており、モータによってボールネジを回転すると、台座部がX軸方向に移動する。
【0021】
また、保持テーブル18は、テーブル回転機構(図示略)によって、台座部に対してZ軸方向に向く軸を中心として回転される。
【0022】
基台13上には、開口部16をY軸方向に跨ぐ門型のコラム20が設けられている。コラム20のうちY軸方向の片側に第1加工部11が支持され、Y軸方向の反対側に第2加工部12が支持されている。第1加工部11と第2加工部12はそれぞれ、コラム20に備えたY軸移動機構によってY軸方向に移動し、コラム20に備えたZ軸移動機構によってZ軸方向へ移動する。Y軸移動機構とZ軸移動機構について説明する。
【0023】
コラム20の前面には、Y軸方向に延在する一対のガイドレール21とボールネジ22とボールネジ23とが設けられている。一対のガイドレール21は、Y軸移動テーブル24とY軸移動テーブル25をY軸方向へ移動可能に支持している。ボールネジ22はY軸移動テーブル24が備える雌ネジ部(図示略)に螺入されており、ボールネジ23はY軸移動テーブル25が備える雌ネジ部(図示略)に螺入されている。ボールネジ22の端部に設けたモータ26によってボールネジ22を回転駆動させることによって、Y軸移動テーブル24がY軸方向へ移動する。ボールネジ23の端部に設けたモータ(図示略)によってボールネジ23を回転駆動させることによって、Y軸移動テーブル25がY軸方向へ移動する。
【0024】
Y軸移動テーブル24の前面には、Z軸方向に延在する一対のガイドレール27とボールネジ28とが設けられている。一対のガイドレール27は、Z軸移動テーブル29をZ軸方向へ移動可能に支持している。ボールネジ28の端部に設けたモータ30によってボールネジ28を回転駆動させることによって、Z軸移動テーブル29がZ軸方向へ移動する。
【0025】
Y軸移動テーブル25の前面には、Z軸方向に延在する一対のガイドレール31とボールネジ32とが設けられている。一対のガイドレール31は、Z軸移動テーブル33をZ軸方向へ移動可能に支持している。ボールネジ32の端部に設けたモータ34によってボールネジ32を回転駆動させることによって、Z軸移動テーブル33がZ軸方向へ移動する。
【0026】
Z軸移動テーブル29の下端に第1加工部11が支持されている。第1加工部11は、被加工物50に加工溝51(
図4)を形成するツールである。例えば、第1加工部11は、切削加工を行う切削加工部である。この場合、第1加工部11は、Y軸方向に延びるスピンドルの先端に切削ブレードを備えており、スピンドルの回転によって切削ブレードが被加工物50を切削して加工溝51を形成する。
図4に示すように、本実施形態では、第1加工部11を用いて形成する加工溝51は、被加工物50の上面から所定の深さまでの有底の(Z軸方向に貫通していない)ハーフカット溝である。
【0027】
なお、第1加工部11として加工溝51を形成するツールは、切削ブレードには限定されない。例えば、第1加工部11は、ウォータージェット式の加工部であってもよい。この場合、第1加工部11は、加圧された液体をZ軸方向の下方に向けて噴射するウォータージェット用の噴射ノズルを備えており、噴射ノズルから噴射した高圧の液体によって被加工物50に加工溝51を形成する。あるいは、第1加工部11は、レーザー光を照射してアブレーション加工によって加工溝51を形成するレーザー加工部であってもよい。
【0028】
第1加工部11を用いて加工溝51を形成すると、
図4に示すように、加工溝51の周囲にバリ53が生じる。一般的に、加工溝51の両方の縁54に沿う位置にバリ53が生じることが多い。
【0029】
Z軸移動テーブル33の下端に第2加工部12が支持されている。第2加工部12は、被加工物50に形成した加工溝51の周囲に存在するバリ53を除去するためのツールである。具体的には、第2加工部12は、加圧された液体を被加工物50に向けて噴射して加工を行うウォータージェット式の加工部である。
【0030】
図4に示すように、第2加工部12は、噴射ユニット40を備えている。噴射ユニット40は、筒部41の内部に噴射ノズル42が保持され、噴射ノズル42に高圧液体供給源43が接続した構成である。筒部41は、Z軸移動テーブル33(
図1参照)の下端付近に設けられており、Z軸移動テーブル33と共にY軸方向及びZ軸方向へ移動する。
【0031】
図4に示すように、高圧液体供給源43は、液体供給源44と、流量制御部45と、ポンプ46と、を含んでいる。液体供給源44から送られた液体の流量を流量制御部45で制御し、ポンプ46で液体の圧力を調整して噴射ノズル42に液体を送る。高圧液体供給源43から噴射ノズル42に供給される液体は所定の圧力まで昇圧され、噴射ノズル42からZ軸方向の下方に向けて加圧された液体Wとして噴射される。高圧液体供給源43から噴射ノズル42に液体を送る供給路に接続する圧力センサ47によって、噴射ノズル42から噴射される液体Wの圧力が検出され、その検出信号が制御部39に入力される。
【0032】
保持テーブル18をX軸方向に移動させるテーブル送り機構、第1加工部11と第2加工部12をY軸方向及びZ軸方向に移動させるY軸移動機構及びZ軸移動機構は、加工装置10における移動ユニットを構成している。移動ユニットによって、保持テーブル18と、第1加工部11又は第2加工部12と、を相対的に移動させることができる。
【0033】
テーブルカバー17及び保持テーブル18は、テーブル送り機構によってX軸方向に移動され、カセット載置部14に隣接する搬入出領域と、第1加工部11及び第2加工部12による加工が可能な加工領域と、に位置させることができる。搬入出領域には、Y軸方向に延在して開口部16の上方を横切る一対のガイドレール35が設けられている。図示を省略する搬送機構を用いてカセット15から引き出された被加工物50は、一対のガイドレール35に載せられ、搬入出領域に位置する保持テーブル18に受け渡されて保持テーブル18の保持面に保持される。被加工物50を保持した保持テーブル18は、テーブル送り機構によって、搬入出領域から加工領域へ移動される。
【0034】
加工領域では、X軸方向への保持テーブル18の移動を加工送り動作とし、Y軸方向への第1加工部11や第2加工部12の移動を割り出し送り動作として、被加工物50に対する加工が行われる。
【0035】
具体的には、加工溝51の形成に際して、移動ユニット(テーブル送り機構、Y軸移動機構、Z軸移動機構)を制御して、第1加工部11と保持テーブル18の相対的な位置を調整して、第1加工部11を構成する切削ブレードや噴射ノズルなどを、被加工物50における分割予定ラインの始点の上方に位置付ける。そして、テーブル送り機構によって保持テーブル18をX軸方向に移動させながら、第1加工部11の加工動作(回転する切削ブレードの切り込み、加圧された液体の噴射など)を用いて、被加工物50に対してX軸方向に延びる加工溝51の形成を実行する。1つの加工溝51の終点まで達したら、Y軸移動機構によって第1加工部11をY軸方向に移動させて、次の加工溝51の始点の上方に第1加工部11を位置付ける。そして、上記と同様に、保持テーブル18をX軸方向に移動させながら、第1加工部11の加工動作を用いて加工溝51の形成を実行する。
【0036】
Y軸方向に並ぶ全ての加工溝51の形成が完了したら、テーブル回転機構によって保持テーブル18を90度回転させる。これにより、未加工の分割予定ラインがY軸方向に並ぶ状態になる。そして、上記と同様に、テーブル送り機構によるX軸方向への保持テーブル18の移動と、第1加工部11の加工動作とを用いて、X軸方向へ延びる加工溝51を形成する。1つの加工溝51の終点まで達したら、Y軸移動機構によって第1加工部11をY軸方向に移動させて、次の加工溝51の形成を実行する。
【0037】
このようにして、被加工物50上の全ての分割予定ラインに沿って加工溝51を形成したら、第1加工部11による加工を完了する。続いて、被加工物50の加工溝51に沿って生じたバリ53を除去するために、第2加工部12を用いてバリ取り加工を行う。
【0038】
バリ取り加工では、移動ユニット(テーブル送り機構、Y軸移動機構、Z軸移動機構)を制御して、第2加工部12と保持テーブル18の相対的な位置を調整して、噴射ユニット40を構成する噴射ノズル42を、被加工物50における加工溝51の始点の上方に位置付ける。そして、高圧液体供給源43で加圧された液体Wを噴射ノズル42から噴射しながら、テーブル送り機構によって保持テーブル18をX軸方向に移動させて、加工溝51に沿ってバリ53を除去する。1つの加工溝51の終点まで達したら、Y軸移動機構によって第2加工部12をY軸方向に移動させて、次の加工溝51の始点の上方に噴射ユニット40を位置付ける。そして、上記と同様に、保持テーブル18をX軸方向に移動させながら、噴射ノズル42からの高圧の液体Wの噴射を用いて加工溝51に沿ってバリ53を除去する。
【0039】
Y軸方向に並ぶ全ての加工溝51に沿うバリ取り加工が完了したら、テーブル回転機構によって保持テーブル18を90度回転させる。これにより、バリ取りを行っていない加工溝51がY軸方向に並ぶ状態になる。そして、上記と同様に、テーブル送り機構によるX軸方向への保持テーブル18の移動と、第2加工部12の噴射ユニット40からの高圧の液体Wの噴射とを用いて、加工溝51に沿ってバリ取り加工を行う。1つの加工溝51の終点まで達したら、Y軸移動機構によって第2加工部12をY軸方向に移動させて、次の加工溝51のバリ取り加工を実行する。このようにして、被加工物50上の全ての加工溝51に沿ってバリ取り加工を行う。
【0040】
加工装置10は、開口部16を挟んでカセット載置部14とはY軸方向の反対側に、洗浄部36を備えている。洗浄部36は、被加工物50を保持して回転可能なスピンナテーブル37と、スピンナテーブル37上の被加工物50に向けて洗浄液や乾燥用のエアを噴射する洗浄ノズル38と、を備えている。
【0041】
図示を省略する搬送機構を用いて、搬入出領域にある保持テーブル18と洗浄部36との間で被加工物50を搬送することができる。被加工物50を受け取った洗浄部36では、洗浄ノズル38から洗浄液を供給し、被加工物50を保持したスピンナテーブル37を回転させることによって、被加工物50を洗浄する。洗浄後に洗浄ノズル38からエアを供給して被加工物50を乾燥させる。洗浄部36による被加工物50の洗浄は、加工溝51の形成後やバリ取り加工の完了後など、任意のタイミングで行うことができる。
【0042】
加工溝51の形成、バリ取り加工、洗浄などの一連の処理が完了した被加工物50は、搬送機構を用いてカセット載置部14に搬送されてカセット15の内部に回収される。
【0043】
ところで、加工装置10における第2加工部12のようなウォータージェット式の加工部においては、加工を実行する前に、噴射する液体の圧力が所定値に上昇するまで昇圧する必要があり、昇圧時には液体を噴射し続けることになる。ここで、加工部から噴射される液体は非常に高圧であるため、噴射され続ける液体によって、加工部の本来の加工対象以外の箇所で破損などが生じるおそれがある。
【0044】
例えば、噴射ノズルの直下に被加工物が位置する状態で液体の昇圧を開始し、噴射ノズルと被加工物の相対的な位置を変更しないまま液体の昇圧を続けると、噴射ノズルから噴射される液体が被加工物を損傷させたり、噴射ノズルから噴射される液体が被加工物を貫通して被加工物を保持する保持テーブルに孔を開けたりしてしまう。
【0045】
また、被加工物を保持する保持テーブルが加工部の噴射ノズルの直下に位置していない状態で液体の昇圧を開始し、その後に保持テーブルと噴射ノズルを相対的に移動させて、噴射ノズルの位置を加工開始点(所定の加工溝の一端)の上方に位置付ける場合、加工開始点まで移動させる途中で昇圧後の噴射ノズルが保持テーブル上を横切って、噴射ノズルから噴射した加圧された液体が保持テーブルを破損させるおそれがある。あるいは、噴射ノズルを加工開始点まで移動させる途中で、噴射ノズルから噴射した加圧された液体が、保持テーブルの周囲の装置構成物を破損させるおそれがある。
【0046】
また、被加工物50がテープ92(
図2)やテープ96(
図3)のような支持部材52で支持されている被加工物ユニットの場合は、噴射ノズルを加工開始点まで移動させる途中で、噴射ノズルから噴射した加圧された液体が支持部材52を破損させるおそれがある。
【0047】
研究の結果、昇圧中の液体の噴射を受けた箇所が凹むと、当該凹み部分で液体の逃げ場がなくなり、孔が形成されるスピードが一気に上る傾向があることが判明した。つまり、昇圧中の液体を同じ位置に噴射し続けていると、凹みをきっかけとして被加工物や保持テーブルの破損(穿孔)が顕著に生じやすい状況になることが分かった。
【0048】
そこで、本実施形態の加工装置10は、このような問題への対策として、液体の圧力が所定値に達するまで噴射ユニット40から液体を噴射し続ける際に、噴射ユニット40から噴射される液体によって被加工物50を貫通しないように、液体が一定の圧力になるまで噴射ユニット40を被加工物50の不要な部分の上方で相対的に移動させながら待機し、噴射ユニット40から噴射される液体が一定の圧力になったときに被加工物50の加工を開始するものとした。以下にその詳細を説明する。
【0049】
図5は、説明を分かりやすくするために、被加工物50の上面の構造を簡略化して示したモデル図である。被加工物50の上面には、格子状の加工溝51によって区画された複数(
図5の例では4つ)のデバイス形成領域55が形成されており、個々のデバイス形成領域55内にデバイス56(
図2のチップ91や
図3のチップ95に相当する製造物)が形成されている。被加工物50において複数のデバイス形成領域55の外側は、デバイス56が形成されない端材領域57になっている。端材領域57は、加工溝51に沿って個々のデバイス56を個片化(分割)した後は不要となる部分である。加工開始点58は、後述する本加工ステップにおいて、第2加工部12によるバリ取り加工を開始する位置であり、Y軸方向の1ライン目の加工溝51の一端部付近に設定されている。
【0050】
なお、
図5では、加工溝51が端材領域57を横切って被加工物50の外縁まで達しているが、被加工物50の外縁まで達していない構成の加工溝であってもよい。例えば、加工開始点58の位置が加工溝の末端であってもよい。
【0051】
[保持ステップ]
まず、保持テーブル18に被加工物50を保持する保持ステップを行う。保持ステップでは、保持テーブル18の保持面に吸引力を作用させて、被加工物50及び支持部材52を保持面に吸引保持する。また、保持テーブル18が備えるクランプによって、被加工物50を支持するフレーム(
図2のフレーム93や
図3のフレーム97)を固定する。保持ステップの実施によって、被加工物50が保持テーブル18に固定されて、保持テーブル18と被加工物50が一体的に移動するようになる。従って、以降の説明では、保持テーブル18の移動として実現されるものを、被加工物50の移動として表現する場合がある。
【0052】
[加工準備ステップ(加工ステップの前半)]
保持ステップに続いて、噴射ユニット40において噴射ノズル42から噴射する液体Wの圧力を高める加工準備ステップを行う。加工準備ステップでは、被加工物50の端材領域57の上方に噴射ユニット40を位置付ける。そして、高圧液体供給源43から噴射ノズル42へ液体の供給を行って、噴射ノズル42からの液体Wの噴射を続けながら昇圧を行う。つまり、噴射ユニット40における昇圧動作は、被加工物50の端材領域57の上方に噴射ユニット40の噴射ノズル42を位置付けた状態で行う。
【0053】
加工準備ステップでは、噴射ユニット40から噴射される液体Wが一定の圧力になるまで、噴射ユニット40と被加工物50を水平方向に相対的に移動させながら待機して、端材領域57の上方で噴射ユニット40での昇圧動作を実行する。このとき、噴射ユニット40から噴射される液体Wが、端材領域57から外れないように(噴射される液体Wが、内側のデバイス形成領域55や、被加工物50の外側の保持テーブル18などに当たらないように)、噴射ユニット40と被加工物50の移動を制御する。加工準備ステップにおいて、被加工物50に対して噴射ユニット40の相対的な移動を行わせる領域を待機領域59(
図5参照)とする。
【0054】
本実施形態の加工装置10では、保持テーブル18をX軸方向に移動させるテーブル送り機構と、第2加工部12をY軸方向に移動させるY軸移動機構と、によって、加工準備ステップでの噴射ユニット40と被加工物50の相対的な移動を行なわせる。制御部39は、加工準備ステップにおいてテーブル送り機構とY軸移動機構を適宜制御して、所定の移動軌跡で噴射ユニット40と被加工物50の相対的な移動を行なわせる。
【0055】
加工準備ステップでの待機領域59における噴射ユニット40と被加工物50の相対的な移動の例を
図6に示した。
図6は、被加工物50を基準とした場合の噴射ユニット40の移動軌跡を破線の矢印で示している。
【0056】
図6(A)に示す形態では、端材領域57のうち加工開始点58の近傍位置で、矩形状(四角形状)に循環する移動軌跡Maで噴射ユニット40を移動させている。制御部39は、噴射ユニット40が噴射する液体Wの圧力を圧力センサ47によって監視し、圧力が予め設定された所定の値に達したら、移動軌跡Maから加工開始点58に向けて噴射ユニット40の位置を変化させる。
【0057】
図6(B)に示す形態では、端材領域57のうち加工開始点58の近傍位置で、円形状に循環する移動軌跡Mbで噴射ユニット40を移動させている。制御部39は、噴射ユニット40が噴射する液体Wの圧力を圧力センサ47によって監視し、圧力が予め設定された所定の値に達したら、移動軌跡Mbから加工開始点58に向けて噴射ユニット40の位置を変化させる。
【0058】
このように、移動軌跡Maや移動軌跡Mbに沿って噴射ユニット40と被加工物50の相対的な移動を行なわせながら噴射ユニット40での液体Wの昇圧を行うことによって、噴射ユニット40を同じ位置に留まらせて被加工物50の同じ位置に液体Wを噴射させ続ける場合に比べて、被加工物50に局所的な負荷が集中することを防止できる。その結果、液体Wが被加工物50を凹ませたり貫通したりして、被加工物50の下方の保持テーブル18や支持部材52などを損傷させてしまうことが無くなる。
【0059】
移動軌跡Maや移動軌跡Mbを一回り移動した時点で噴射ユニット40の昇圧が完了していなければ、移動軌跡Maや移動軌跡Mbに沿って複数回繰り返して移動させる。このように待機領域59において一つの形状のみに沿って噴射ユニット40を移動させると、移動の制御が容易であり、制御部39の処理負担が少なくて済むという利点がある。また、噴射ユニット40の移動軌跡がシンプルであるため、何らかの動作エラーがあった場合でも、端材領域57の上方から噴射ユニット40が逸脱してしまうおそれが少ない。
【0060】
図6(C)に示す形態では、端材領域57の待機領域59において、矩形(四角形)の辺の長さが徐々に長くなる渦巻き状の移動軌跡Mcで噴射ユニット40を移動させている。
【0061】
図6(D)に示す形態では、端材領域57の待機領域59において、円形の径が徐々に大きくなる渦巻き状の移動軌跡Mdで噴射ユニット40を移動させている。
【0062】
図6(E)に示す形態では、端材領域57の待機領域59において、直線状に移動した後で位置をずらして折り返すことを繰り返すつづら折り状の移動軌跡Meで噴射ユニット40を移動させている。
【0063】
これらの移動軌跡Mcや移動軌跡Mdや移動軌跡Meで噴射ユニット40を移動させる形態においても、噴射ユニット40と被加工物50の相対的な移動を行なわせながら噴射ユニット40での液体Wの昇圧を行うので、被加工物50に局所的な負荷が集中せず、液体Wが被加工物50を貫通して保持テーブル18や支持部材52などを損傷させてしまうことを防止できる。また、移動軌跡Mcや移動軌跡Mdや移動軌跡Meでは、噴射ユニット40から噴射し続ける液体Wが端材領域57の同じ箇所を繰り返して通らないので、液体Wから被加工物50に加わる負荷を待機領域59で効率的に分散させることができ、被加工物50が損傷するリスクをより一層低くすることができる。
【0064】
端材領域57の同じ箇所を循環する移動軌跡Maや移動軌跡Mbとは異なり、移動軌跡Mcや移動軌跡Mdや移動軌跡Meのような一筆書き状の移動軌跡では、噴射ユニット40の昇圧が完了するタイミングと、移動軌跡に沿う移動が完了するタイミングとの関係を考慮する必要がある。噴射ユニット40の昇圧が完了するタイミングの方が早すぎると、昇圧が完了しているにも関わらず噴射ユニット40が加工開始点58に到達せず、加工溝51に対する加工開始までのタイムラグが大きくなり、加工効率が悪くなる。移動軌跡に沿う移動が完了するタイミングの方が早すぎると、噴射ユニット40の移動が停止して同じ位置にある状態で液体を噴射し続けてしまうおそれがある。
【0065】
その対策の一例として、高圧液体供給源43の仕様などから、噴射ユニット40の昇圧に要する時間が事前に分かっている場合には、昇圧に要する時間と、噴射ユニット40と被加工物50の相対的な移動速度とに基づいて、移動軌跡Mcや移動軌跡Mdや移動軌跡Meの最適な長さ(距離)を演算して、過不足の無い経路長を設定することができる。
【0066】
あるいは、噴射ユニット40と被加工物50の相対的な移動速度を変更可能な場合に、圧力センサ47の検出結果を参照して、昇圧の完了が近いと推定される状態では移動速度を速くさせ、昇圧までの時間が多くかかると推定される状態では移動速度を遅くさせるように、制御部39が速度調整制御を行いながら移動軌跡Mcや移動軌跡Mdや移動軌跡Meに沿う噴射ユニット40の移動を行わせてもよい。
【0067】
あるいは、噴射ユニット40の昇圧を完了させるのに十分な長さ(距離)を移動軌跡Mcや移動軌跡Mdや移動軌跡Meに持たせた上で、噴射ユニット40が噴射する液体Wの圧力を圧力センサ47によって監視する。そして、圧力が予め設定された所定の値に達したら、制御部39の制御によって、移動軌跡Mcや移動軌跡Mdや移動軌跡Meに沿う移動を終わらせて、加工開始点58まで最短距離で到達するショートカットの経路で噴射ユニット40の位置を変化させることも可能である。
【0068】
これらの対策を伴った動作制御を行うことにより、移動軌跡Mcや移動軌跡Mdや移動軌跡Meに沿う噴射ユニット40の移動の完了と、噴射ユニット40の昇圧の完了のタイミングを一致もしくは近似させて、効率良く加工準備ステップを完了させることができる。
【0069】
以上の各形態のように、加工準備ステップでの待機領域59における噴射ユニット40と被加工物50の相対的な移動は、様々な移動軌跡を選択することができる。また、
図6に示す各形態とは異なる移動軌跡を採用することも可能である。
【0070】
但し、待機領域59での噴射ユニット40の移動は、端材領域57の上方を逸脱して端材領域57よりも内側(デバイス形成領域55)や端材領域57よりも外側(支持部材52や保持テーブル18が露出している領域)に入らないようにする必要がある。その観点からは、待機領域59における端材領域57の形状に近い形状で移動軌跡を設定すると、噴射ユニット40の移動軌跡が端材領域57からはみ出すことを抑制しやすいので好ましい。例えば、
図5及び
図6に示す例では、待機領域59を設定する端材領域57が、被加工物50の角隅部分の矩形状領域であり、これに近い矩形状である
図6(A)の移動軌跡Maや
図6(C)の移動軌跡Mcが、端材領域57からの噴射ユニット40の移動軌跡のはみ出し防止において特に好適である。
【0071】
以上の加工準備ステップでは、被加工物50の端材領域57の上方に噴射ユニット40を位置付けて液体Wの圧力を上昇させる昇圧動作を行うので、被加工物50から遠く離れた場所で昇圧動作を行う場合に比べて、昇圧完了後に迅速に噴射ユニット40を加工開始点58の上方に位置付けて、次に説明する本加工ステップに移行でき、生産性に優れている。特に、
図6に示す各形態では、噴射ユニット40を移動させながら待機する待機領域59を加工開始点58の近傍に設定しているので、液体Wの圧力が所定値に達した後で噴射ユニット40を極めて迅速に加工開始点58の上方に位置付けして、直ちに加工を開始できるという利点がある。
【0072】
また、加工準備ステップでは、噴射ユニット40の位置が被加工物50の端材領域57の外側に逸脱しないように制御されるので、被加工物50の外側で、保持テーブル18や支持部材52やその他の構造物が、噴射ユニット40から噴射される液体Wを直接的に受けて損傷するおそれがない。
【0073】
そして、上記の通り、噴射ユニット40と被加工物50を相対的に移動させながら昇圧動作を行うので、噴射ユニット40から噴射され続ける液体Wが被加工物50の端材領域57の特定箇所に継続して当たることがなく、液体Wが被加工物50を貫通して支持部材52や保持テーブル18を損傷させることを防止できる。
【0074】
被加工物50の端材領域57は、加工溝51に沿って複数のデバイス56を分割した後には不要となる部分であるため、端材領域57自体が多少の負荷を受けてもデバイス56の性能には影響しない。このような着眼に基づいて、加工準備ステップでは、端材領域57に待機領域59を設定し、昇圧しながら噴射され続ける液体Wから保持テーブル18やデバイス形成領域55などを保護する一種の保護部材として端材領域57を機能させている。そして、噴射ユニット40と被加工物50を相対的に移動させながら昇圧動作を行うことにより、保護部材として機能する端材領域57の耐久性が向上することを見出して、以上のような加工準備ステップを設定している。
【0075】
[本加工ステップ(加工ステップの後半)]
噴射ユニット40における昇圧が完了したら、噴射ユニット40を加工開始点58の上方に位置付けて、本加工ステップを行う。
図5に示すように、加工開始点58は、Y軸方向の1ライン目の加工溝51の一端部付近に設定されている。加工開始点58から1ライン目の加工溝51の一方の縁54に沿って、X軸方向に噴射ユニット40を移動させる(
図5の矢印Fa)。この移動の際に、噴射ユニット40から噴射される加圧された液体Wによって、加工溝51の一方の縁54に沿う領域でバリ53が除去される。なお、実際には、矢印Faの当該移動は、テーブル送り機構によってX軸方向に移動する保持テーブル18の動作によって行われる。
【0076】
噴射ユニット40が1ライン目の加工溝51の他端部付近に達したら、加工溝51の幅の分だけ噴射ユニット40をY軸方向に移動させ(
図5の矢印Fb)、1ライン目の加工溝51の他方の縁54の上方に噴射ユニット40を位置させる。そして、加工溝51の他方の縁54に沿って、X軸方向に噴射ユニット40を移動させる(
図5の矢印Fc)。この移動の際に、噴射ユニット40から噴射される加圧された液体Wによって、加工溝51の他方の縁54に沿う領域でバリ53が除去される。なお、実際には、矢印Fcの当該移動は、テーブル送り機構によってX軸方向に移動する保持テーブル18の動作によって行われる。
【0077】
噴射ユニット40が1ライン目の加工溝51の一端部付近まで戻ったら、デバイス形成領域55の一区画分、噴射ユニット40をY軸方向に移動させ(
図5の矢印Fd)、2ライン目の加工溝51の一端部付近の上方に噴射ユニット40を位置させる。そして、2ライン目の加工溝51についても、1ライン目の加工溝51と同様に、一方の縁54と他方の縁54に沿って噴射ユニット40を往復移動させて、噴射ユニット40から噴射される加圧された液体Wによって、両方の縁54に沿う領域でバリ53を除去する。
【0078】
さらに、最後の3ライン目の加工溝51についても、1ライン目及び2ライン目の加工溝51と同様の動作によってバリ取りを行う。3ライン目の加工溝51において、一方の縁54と他方の縁54に沿って噴射ユニット40を往復移動させて加工終了点60に到達したら、噴射ユニット40からの液体Wの噴射を終了して、本加工ステップが完了する。
【0079】
図5においては、X軸方向に延びる複数の加工溝51に対する本加工ステップでの噴射ユニット40の移動軌跡を示しているが、
図5でY軸方向に延びている複数の加工溝51についても、テーブル回転機構で保持テーブル18を90°回転させてX軸方向に延びる加工溝51にした上で、同様に本加工ステップを行うことができる。
【0080】
なお、加工溝51の幅が狭く、液体Wの噴射範囲(Y軸方向の噴射幅)が加工溝51の幅全体をカバーできる場合には、1つの加工溝51の両方の縁54付近のバリ取り加工を、1回の液体Wの噴射で完了させることも可能である。
【0081】
以上のようにして、本加工ステップが完了する。加工準備ステップと本加工ステップとを合わせて、本発明における加工ステップとする。
【0082】
第2加工部12を用いたバリ取り加工後に、各加工溝51をフルカットして、被加工物50を個々のデバイス56(
図2のチップ91、
図3のチップ95など)に分割する。加工溝51のフルカットは、加工装置10の第1加工部11を用いて実施してもよいし、加工装置10とは別の加工装置で実施してもよい。
【0083】
本実施形態の加工装置10のように、ハーフカット溝である加工溝51の状態でバリ取り加工を行うと、被加工物50が複数のデバイス56に分離されていないので、被加工物50が複数のデバイス56に分割されている状態に比べて、個々の加工溝51に対して第2加工部12(噴射ユニット40)を高い精度で位置付けやすいという利点がある。
【0084】
本加工ステップで第2加工部12(噴射ユニット40)と保持テーブル18(被加工物50)との相対位置を変化させるために元々備えられている移動ユニットを利用して、加工準備ステップでの噴射ユニット40と被加工物50との相対的な移動を実施するので、新規な構造や複雑な機器類を追加することなく、制御部39が行うソフトウェア的な制御に基づいて上記の効果を得ることができるので、導入コストを低く抑えることができる。
【0085】
続いて、上記実施形態とは異なる変形例について説明する。上記実施形態では、加工準備ステップにおいて、加工開始点58に近い被加工物50の角隅部分に設定した待機領域59で噴射ユニット40が移動するようにしているが、これとは異なる範囲で噴射ユニット40を移動させることも可能である。
【0086】
例えば、
図7に示す変形例では、被加工物50の端材領域57が存在する外縁側の4辺のうち、X軸方向に延びる1つの辺に沿う領域を、加工準備ステップで噴射ユニット40の移動を行う待機領域として用いており、当該待機領域においてX軸方向に長く往復移動する形態の移動軌跡Mfを設定している。
【0087】
図8に示す変形例では、被加工物50の端材領域57が存在する外縁側の4辺全体を、加工準備ステップで噴射ユニット40の移動を行う待機領域として用いており、当該待機領域において複数のデバイス形成領域55の外側を大きく周回する形態の移動軌跡Mgを設定している。
【0088】
これらの変形例の移動軌跡Mfや移動軌跡Mgでは、噴射ユニット40が加工開始点58から離れた位置にあるときに、噴射ユニット40の昇圧が完了する可能性がある。このような場合、制御部39の制御によって、移動軌跡Mfや移動軌跡Mgに沿う噴射ユニット40の移動を終わらせて、当該位置から加工開始点58まで最短距離で到達するショートカットの経路で噴射ユニット40の位置を変化させることができる。
【0089】
但し、ショートカットの経路がデバイス形成領域55を横切る場合には、噴射ユニット40から噴射する液体Wがデバイス形成領域55内のデバイス56を損傷させるおそれがあるため、噴射ユニット40がデバイス形成領域55を横切らない経路に設定して加工開始点58まで移動させる必要がある。従って、制御部39は、噴射ユニット40の昇圧完了時点での噴射ユニット40の位置情報と加工開始点58の位置情報とを参照し、これらの2つの位置を最短距離で結んだ場合に噴射ユニット40がデバイス形成領域55の上方を横切るか否かを判定し、横切ると判定した場合には、ショートカットした経路ではなく、元の移動軌跡Mfや移動軌跡Mgに沿う移動を継続して、噴射ユニット40を加工開始点58まで移動させてもよい。
【0090】
仮に、移動軌跡Mfや移動軌跡Mgに沿う移動を継続して噴射ユニット40を加工開始点58まで移動させる場合でも、被加工物50から大きく離れた位置で噴射ユニット40の昇圧動作を行ってから加工開始点58まで移動させる場合に比べて、短い時間で効率的に移動させることができれば、
図7や
図8の変形例を採用する時間的及び効率的な利点がある。
【0091】
また、噴射ユニット40の昇圧に要する時間が事前に分かっている場合には、昇圧に要する時間と、噴射ユニット40と被加工物50の相対的な移動速度とに基づいて、移動軌跡Mfや移動軌跡Mgの最適な長さ(距離)を演算して、過不足の無い経路長を設定することができる。
【0092】
あるいは、噴射ユニット40と被加工物50の相対的な移動速度を変更可能な場合に、圧力センサ47の検出結果を参照して、昇圧の完了が近いと推定される状態では移動速度を速くさせ、昇圧までの時間が多くかかると推定される状態では移動速度を遅くさせるように、制御部39が速度調整制御を行いながら移動軌跡Mfや移動軌跡Mgに沿う噴射ユニット40の移動を行わせてもよい。
【0093】
これらの制御を行うことにより、移動軌跡Mfや移動軌跡Mgに沿う噴射ユニット40の移動の完了と、噴射ユニット40の昇圧の完了のタイミングを一致もしくは近似させることができる。
【0094】
図9は、
図5や
図8に示す複数の加工溝51によって構成される一連の加工パターンを、複数備えているタイプの被加工物70を示している。
図9では、被加工物70において、先に説明した被加工物50と同様の構成については同じ符号で示して説明を省略する。
【0095】
被加工物70は一連の加工パターンを3つ備えており、それぞれの加工パターンを含む3つのブロックを、第1加工ブロック71、第2加工ブロック72、第3加工ブロック73とする。各加工ブロックの間は境界溝74で区切られている。境界溝74は、被加工物70の厚み方向(Z軸方向)に貫通する貫通溝である。境界溝74は、被加工物70の幅方向を完全には横断しておらず、境界溝74の両端部分には各加工ブロックを接続する接続部75が存在している。
【0096】
このような構成の被加工物70では、第1加工ブロック71での加工溝51の加工に際して噴射ユニット40の昇圧(加工準備ステップ)を行った後は、噴射ユニット40からの加圧された液体Wの噴射を止めることなく、第1加工ブロック71での本加工ステップ、第2加工ブロック72での本加工ステップ、第3加工ブロック73での本加工ステップを連続して行うことができる。
【0097】
具体的には、第1加工ブロック71においては、上記の実施形態及び変形例(
図5から
図8参照)のように加工準備ステップを実施し、続いて、加工開始点58から加工終了点60まで各加工溝51の縁54に沿って噴射ユニット40の位置を変化させて本加工ステップを実施する。
【0098】
第1加工ブロック71で噴射ユニット40が加工終了点60まで到達したら、噴射ユニット40からの液体Wの噴射を停止せずに、第1加工ブロック71と第2加工ブロック72との間の接続部75の上方を通るように噴射ユニット40を移動させて(
図9の矢印Fe)、噴射ユニット40を第2加工ブロック72の加工開始点58の上方に位置付ける。そして、加工開始点58から加工終了点60まで各加工溝51の縁54に沿って噴射ユニット40の位置を変化させて、第2加工ブロック72での本加工ステップを実施する。
【0099】
第2加工ブロック72で噴射ユニット40が加工終了点60まで到達したら、噴射ユニット40からの液体Wの噴射を停止せずに、第2加工ブロック72と第3加工ブロック73との間の接続部75の上方を通るように噴射ユニット40を移動させて(
図9の矢印Ff)、噴射ユニット40を第3加工ブロック73の加工開始点58の上方に位置付ける。そして、加工開始点58から加工終了点60まで各加工溝51の縁54に沿って噴射ユニット40の位置を変化させて、第3加工ブロック73での本加工ステップを実施する。
【0100】
このように、端材領域57に含まれる接続部75の上方を噴射ユニット40が通るように移動させることで、噴射ユニット40から噴射される液体Wで保持テーブル18や支持部材52を損傷しないように保護しながら、各加工ブロック間で噴射ユニット40を移動させることができる。その結果、複数の加工ブロックを備える被加工物70においても、加工準備ステップを実施するのは最初に加工する第1加工ブロック71のみでよく、それ以降の第2加工ブロック72及び第3加工ブロック73では、加工準備ステップを行わずに本加工ステップを連続して実施するので、効率的に加工を行うことができる。
【0101】
なお、
図9に示す被加工物70とは異なり、複数の加工ブロック間が接続部75のような部分で接続されておらずに完全に分かれている場合には、噴射ユニット40が各加工ブロック間を移動する際に、保持テーブル18(または被加工物を支持するテープなどの支持部材)が露出している箇所の上方を横切って移動する。そのため、このような場合には、噴射ユニット40から噴射される加圧された液体Wが保持テーブル18などを損傷させることを防ぐために、各加工ブロックで本加工ステップが完了する毎に、噴射ユニット40からの液体Wの噴射を停止し、次の加工ブロックにおいて再び加工準備ステップと本加工ステップを繰り返すように制御することが好ましい。
【0102】
また、
図9に示す例とは異なり、各加工ブロックが接続部75によって接続されている被加工物70において、各加工ブロックでの本加工ステップ後に噴射ユニット40からの液体Wの噴射を停止し、噴射ユニット40が次の加工ブロックへ移動する毎に、加工準備ステップを行ってから本加工ステップを実施してもよい。
【0103】
上記実施形態及び変形例では、被加工物50にハーフカット溝である加工溝51を形成し、加工溝51の近傍に生じるバリ53を除去しているが、本発明の加工方法及び加工装置の用途は、これに限定されない。例えば、加工溝は被加工物の厚みを貫通するフルカット溝であってもよく、加工溝としてフルカット溝を形成した後のバリ取り加工に本発明を適用してもよい。
【0104】
さらに、バリ取り加工以外の加工に本発明を適用することも可能である。例えば、加工装置10の第1加工部11をウォータージェット式の加工部として構成し、第1加工部11によって被加工物50に加工溝や加工孔を形成する場合に、第1加工部11の構成及び加工方法に本発明を適用することができる。つまり、
図4に示す構成や
図5から
図9に示す動作の制御を、第2加工部12に代えて第1加工部11に関するものとして適用することが可能である。
【0105】
また、加工装置10では第1加工部11と第2加工部12を備えているが、ウォータージェット式の加工部を1つだけ備えるタイプの加工装置に本発明を適用することも可能である。この場合、別の加工装置で被加工物50に加工溝51を形成してから、ウォータージェット式の加工部を備える加工装置(加工装置10に相当する加工措置)に被加工物50を搬送する。
【0106】
また、第1加工部11と第2加工部12との両方がウォータージェット式の加工部であってもよい。
【0107】
上記実施形態及び変形例では、被加工物50がテープなどの支持部材52を介して支持されているが、支持部材を備えずに被加工物50が保持テーブル18に対して直接的に支持されていてもよい。
【0108】
なお、本発明の実施の形態は上記の実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【産業上の利用可能性】
【0109】
以上説明したように、本発明の被加工物の加工方法及び加工装置は、加工用の液体の昇圧によって、被加工物や被加工物を支持する支持部材、保持テーブルなどの装置内の他部品を損傷することがなく、電子デバイスなどの生産分野において有用性が高い。
【符号の説明】
【0110】
10 :加工装置
11 :第1加工部
12 :第2加工部
15 :カセット
18 :保持テーブル
21 :ガイドレール
22 :ボールネジ
23 :ボールネジ
24 :Y軸移動テーブル
25 :Y軸移動テーブル
26 :モータ
27 :ガイドレール
28 :ボールネジ
29 :Z軸移動テーブル
30 :モータ
31 :ガイドレール
32 :ボールネジ
33 :Z軸移動テーブル
34 :モータ
35 :ガイドレール
36 :洗浄部
37 :スピンナテーブル
38 :洗浄ノズル
39 :制御部
40 :噴射ユニット
41 :筒部
42 :噴射ノズル
43 :高圧液体供給源
44 :液体供給源
45 :流量制御部
46 :ポンプ
47 :圧力センサ
50 :被加工物
51 :加工溝
52 :支持部材
53 :バリ
54 :加工溝の縁
55 :デバイス形成領域
56 :デバイス
57 :端材領域(被加工物の不要な部分)
58 :加工開始点
59 :待機領域
60 :加工終了点
70 :被加工物
71 :第1加工ブロック
72 :第2加工ブロック
73 :第3加工ブロック
74 :境界溝
75 :接続部
90 :ウエーハ
91 :チップ
92 :テープ
93 :フレーム
94 :パッケージ基板
95 :チップ
96 :テープ
97 :フレーム
Fa~Ff :本加工ステップでの噴射ユニットの移動軌跡
Ma~Mg :加工準備ステップでの噴射ユニットの移動軌跡
W :液体