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  • 特開-ガラスクロス及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150149
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ガラスクロス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/03 20060101AFI20241016BHJP
   C03C 25/40 20060101ALI20241016BHJP
   C03C 25/16 20060101ALI20241016BHJP
   C03C 25/1095 20180101ALI20241016BHJP
   C03C 25/64 20060101ALI20241016BHJP
   C03C 25/26 20180101ALI20241016BHJP
   C03C 25/70 20060101ALI20241016BHJP
   D06M 13/513 20060101ALI20241016BHJP
   D06C 7/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H05K1/03 610T
C03C25/40
C03C25/16
C03C25/1095
C03C25/64
C03C25/26
C03C25/70
D06M13/513
D06C7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063415
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】糸川 肇
【テーマコード(参考)】
3B154
4G060
4L033
【Fターム(参考)】
3B154AA13
3B154AB20
3B154AB27
3B154BB12
3B154BE01
3B154BF01
3B154DA11
4G060BA01
4G060BA05
4G060BB02
4G060BC01
4G060BC12
4G060BD15
4G060BD22
4G060CA21
4L033AA09
4L033AB05
4L033AC15
4L033BA96
(57)【要約】
【課題】誘電正接の経時変化が少なく、高周波において誘電正接の周波数依存性が低く、かつ信頼性に優れた基板を作製することができるガラスクロス及び製造方法、ならびにプリプレグ、積層板及びプリント配線板を提供する。
【解決手段】シランカップリング剤で処理されたガラスクロスであって、30℃・80%RHの条件下で30日保存した場合、保存前に対する保存後の空洞共振器法によって測定される10GHzにおける誘電正接の変化率が、1.5倍以下であるガラスクロス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤で処理されたガラスクロスであって、30℃・80%RHの条件下で30日保存した場合、保存前に対する保存後の空洞共振器法によって測定される10GHzにおける誘電正接の変化率が、1.5以下であるガラスクロス。
【請求項2】
10GHz、28GHz及び40GHzにおける誘電正接を縦軸、横軸を周波数とした場合、各周波数における誘電正接を結んだ近似直線の傾きが2.00×10-5以下となる請求項1記載のガラスクロス。
【請求項3】
保存後の近似直線の傾きが2.5×10-5以下である請求項2記載のガラスクロス。
【請求項4】
保存前に対する保存後の保存後の近似直線の傾きの変化量が、0.4×10-5以下である請求項2記載のガラスクロス。
【請求項5】
10GHzにおける誘電正接が0.0010以下である、請求項1記載のガラスクロス。
【請求項6】
SiO2量が70質量%以上のガラスクロスである、請求項1記載のガラスクロス。
【請求項7】
SiO2量が95質量%以上のガラスクロスである、請求項6記載のガラスクロス。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のガラスクロスと、有機樹脂とを含むプリプレグ。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のガラスクロスと、有機樹脂とを含む積層板。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のガラスクロスと、有機樹脂を含むプリント配線板。
【請求項11】
サイズ剤が付着したガラスクロスを、露点が15℃以下の気体中でヒートクリーニングする工程と、ヒートクリーニングしたガラスクロスを、シランカップリング剤で処理するシラン処理工程とを有する、シラン処理ガラスクロスの製造方法であって、
シラン処理工程前のガラスクロスの金属水酸化物及び結合水の量が1,000ppm以下である、シラン処理ガラスクロスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波において低い誘電正接であり、かつ誘電正接の周波数依存性が低く、かつ誘電正接の経時変化が少ないガラスクロス及びその製造方法、ならびにプリプレグ、積層板及びプリント配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、高速通信化に伴い、使用されるプリント配線板において、高密度化、極薄化と共に、低誘電化、低誘電正接化が著しく進行している。このプリント配線板の絶縁材料としては、ガラスクロスをエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂(以下、「マトリックス樹脂」という。)に含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板が広く使用されている。基板における信号の伝送ロスは、Ed wardA.Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδ、が示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られており、特に上記の式より伝送損失に対しては誘電正接の寄与が大きいことが知られている。
【0003】
そのため、ガラスクロスにおいては低い誘電正接が求められ、Dガラス、NEガラス、Lガラス、石英ガラス等の誘電特性が向上されたガラスクロスが提案されている(特許文献1~5)。また、今後の5G通信用用途等において使用される周波数は10GHz以上の高周波であり、どのような周波数でも安定した伝送速度性能を達成する観点から、10GHz以上の周波数における誘電正接の周波数依存性が低いことが求められている。特許文献6では石英ガラスクロスを用いた低い誘電性正接と低い周波数依存性を持ったガラスクロスおよび基板が記載されている。しかしながら、ガラスクロスは経時で水と反応し、誘電正接が上昇することが問題となっており、特に低い誘電正接を持つガラスクロスではその影響が顕著であり、周波数だけでなく経時の変化にも誘電正接が安定なガラスクロスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-170483号公報
【特許文献2】特開2009-263569号公報
【特許文献3】特開2009-19150号公報
【特許文献4】特開2006-282401号公報
【特許文献5】特開2021-195689号公報
【特許文献6】特開2022-131074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般にガラスクロスの原料となるガラスは、SiO2、Al23、B23といった金属酸化物であり、これらの金属酸化物は水と反応してSiOH、Al2(OH)3、B(OH)3といった金属水酸化物が生成しやすく、さらに、金属水酸化物は極性を持つため、付近に存在する水と強固な水素結合を生じる。金属水酸化物及び結合水は10GHz以上の高周波で一様に誘電正接が増加する。そのため金属酸化物であるガラスの組成を変更するだけでは経時の誘電正接の悪化を抑え、周波数依存性を低くすることは困難であった。特に、ガラスクロスの表面はガラスクロスの製造工程であるヒートクリーニングによって加熱処理が施される際に空気中の水分と反応して大量の金属水酸化物及び結合水が生成する。さらに、表面に金属水酸化物及び結合水が存在すると、室温であっても空気中の水分を取り込んでゆっくりガラスクロスと反応し連鎖的に金属水酸化物と結合水が増えていく。そのため、初期では誘電正接が低く、周波数依存性の小さい基板を作製できていても、経時で誘電正接が悪化してしまうという問題があった。このような事情により、これまでの方法では経時の変化の少なくかつ周波数依存性の小さいガラスクロスの製造は困難であった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、誘電正接の経時変化が少なく、高周波において誘電正接の周波数依存性が低く、かつ信頼性に優れた基板を作製することができるガラスクロス及び製造方法、ならびにプリプレグ、積層板及びプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、30℃・80%RHの条件下で30日保存した場合、保存前に対する保存後の空洞共振器法によって測定される10GHzにおける誘電正接の変化率が、1.5以下であるガラスクロスとすることで、上記課題を解決できることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は下記発明を提供する。
1.シランカップリング剤で処理されたガラスクロスであって、30℃・80%RHの条件下で30日保存した場合、保存前に対する保存後の空洞共振器法によって測定される10GHzにおける誘電正接の変化率が、1.5以下であるガラスクロス。
2.10GHz、28GHz及び40GHzにおける誘電正接を縦軸、横軸を周波数とした場合、各周波数における誘電正接を結んだ近似直線の傾きが2.00×10-5以下となる1記載のガラスクロス。
3.保存後の近似直線の傾きが2.5×10-5以下である2記載のガラスクロス。
4.保存前に対する保存後の保存後の近似直線の傾きの変化量が、0.4×10-5以下である2又は3記載のガラスクロス。
5.10GHzにおける誘電正接が0.0010以下である、1~4のいずれかに記載のガラスクロス。
6.SiO2量が70質量%以上のガラスクロスである、1~5のいずれかに記載のガラスクロス。
7.SiO2量が95質量%以上のガラスクロスである、6記載のガラスクロス。
8.1~7のいずれかに記載のガラスクロスと、有機樹脂とを含むプリプレグ。
9.1~7のいずれかに記載のガラスクロスと、有機樹脂とを含む積層板。
10.1~7のいずれかに記載のガラスクロスと、有機樹脂を含むプリント配線板。
11.サイズ剤が付着したガラスクロスを、露点が15℃以下の気体中でヒートクリーニングする工程と、ヒートクリーニングしたガラスクロスを、シランカップリング剤で処理するシラン処理工程とを有する、シラン処理ガラスクロスの製造方法であって、
シラン処理工程前のガラスクロスの金属水酸化物及び結合水の量が1,000ppm以下である、シラン処理ガラスクロスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、誘電正接の経時変化が小さく、高周波において低い誘電正接のガラスクロス及び製造方法を提供できる。このようなガラスクロスを用いたプリプレグ、積層板、プリント配線板は、今後増えていく5G等の高速通信等においてどのような環境や周波数でも安定して伝送損失を抑えることができるという著大な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の近似直線の傾きの求め方を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
I.ガラスクロスの物性
本発明のガラスクロスは、シランカップリング剤で処理されたガラスクロスであって、30℃・80%RHの条件下で30日保存した場合、保存前に対する保存後の空洞共振器法によって測定される10GHzにおける誘電正接の変化率が、1.5以下であるガラスクロスである。この変化率は、(保存後の10GHzにおける誘電正接)/(保存前の10GHzにおける誘電正接)であり、1.3以下が好ましく、1.2以下がより好ましい。変化率が1.5を超えると保存時に誘電正接が大きく変化してしまい、基板に適用した際に設計通りの低い伝送損失が得られない。ガラスクロスや、シランカップリング剤での処理については後述する。空洞共振器法による誘電正接の測定方法及び保存方法の詳細は、後述する実施例に記載する。以下、「保存後」と記載されていない値は、上記保存前又は保存をしていないガラスクロスの値をいう。
【0012】
本発明におけるシランカップリング剤で処理後のガラスクロスの10GHzの誘電正接は低い方が好ましく、0.0015以下が好ましく、0.0010以下がより好ましく、0.0005以下がさらに好ましい。特に、10GHzにおける誘電正接を下げる方法としては、SiO2量を増やし、金属水酸化物及び結合水を減らす方法が挙げられる。
【0013】
本発明のガラスクロスは、誘電正接の周波数依存性が低いことから、28GHz及び40GHzにおける誘電正接は、0.0020以下が好ましく、0.0017以下が好ましく、0.0015以下がより好ましく、0.0014以下がさらに好ましく、0.0010以下が特に好ましい。
【0014】
本発明のガラスクロスは、空洞共振器法によって測定される10GHz、28GHz及び40GHzにおける誘電正接を縦軸、横軸を周波数とした場合、各周波数における誘電正接を結んだ近似直線の傾きが2.00×10-5以下が好ましい。このような範囲とすることで、高周波においてより低い誘電正接であり、誘電正接の経時変化がより少ないガラスクロスが得られる。この近似直線の傾きは、1.50×10-5以下がより好ましく、1.00×10-5以下がさらに好ましく、0以下が特に好ましい。下限は特に限定されず、例えば、-1.00×10-5としてもよい。近似直線の傾きが2.0×10-5を超えると、基板とした際に高周波で低周波と同様の伝送損失を達成できないおそれがある。なお、これは保存前の値である。
【0015】
近似直線の傾きの測定について、近似直線の傾きは、例えば、エクセル等の表計算ソフトで、誘電正接(少数点第5位を四捨五入)を縦軸、周波数を横軸にプロットし、近似直線を算出し、近似直線の値は有効数字3桁で表示する。
【0016】
30℃・80%RHの条件下で30日保存後においては、近似直線の傾きが2.50×10-5以下が好ましく、1.70×10-5以下がより好ましく、1.20×10-5以下がさらに好ましい。下限は特に限定されず、例えば、-1.00×10-5としてもよい。
【0017】
保存前に対する保存後の近似直線の傾きの変化量は、0.40×10-5以下が好ましく、0.30×10-5がより好ましい。下限は特に限定されず、例えば、0であってもよい。
【0018】
II.製造方法
本発明のガラスクロスの製造方法は、ガラスクロスが上記特徴を有していれば特に限定されるものではないが、例えば以下のような方法が挙げられる。具体的には、サイズ剤が付着したガラスクロスを、露点が15℃以下の気体中でヒートクリーニングする工程と、ヒートクリーニングしたガラスクロスを、シランカップリング剤でシラン処理するシラン処理工程とを有するガラスクロスの製造方法であって、
シラン処理工程前のガラスクロスの金属水酸化物及び結合水の量が1,000ppm以下である、シラン処理ガラスクロスの製造方法が好ましい。
【0019】
[ガラスクロス]
本発明のガラスクロスに用いられるガラスクロスの組成は特には限定されないが、周波数が増加した際のSiOHの誘電正接の上昇率が、Al2(OH)3やB(OH)3よりも低い観点から、SiO2量が、50質量%以上のものが好ましく、70質量%のものがより好ましく、95質量%以上の石英ガラスがさらに好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。
【0020】
ガラスクロスはガラスフィラメントを束ね、ストランドにした後、撚りをかけてヤーンとし、製織して製造される。ガラスフィラメントの製造方法としては特に限定はされないが、規定のガラス組成インゴットを加熱延伸する方法や、加熱熔融して熔融ガラスとした後、ブッシングによって糸状に成形する方法が挙げられる。特に、SiO2の割合が95質量%以上になると、溶融する温度が高くなり、ブッシングによる延伸が難しくなるので酸水素バーナーによる加熱延伸が行われている。
【0021】
延伸されたガラスフィラメントの表面に集束剤を塗布し、束ねることによりガラスストランドを形成できる。集束剤は澱粉を主原料とし、機能性付与のため、柔軟剤や潤滑剤を配合することができる。集束剤組成物は一般にサイズ剤と呼称される。サイズ剤処理は公知の方法を用いることができ、サイズ剤の種類、サイズ剤処理の方法は特に限定されないが、毛羽、糸切れが生じにくい方法を適宜選定する。サイズ剤処理により、毛羽、糸切れが軽減される。サイズ剤としては、例えば、澱粉等を含むものが挙げられ、処理方法としては、浸漬法、ローラー式又はベルト式のアプリケーターにより塗布する方法、噴霧法等が挙げられる。
【0022】
得られたガラスストランドに撚りをかけることでガラスヤーンが得られる。撚りの頻度としては、25mmあたり0.1~5.0回が好ましい。ガラスクロスはガラスヤーンを製織することで得られる。本発明のガラスクロスは、特に限定されないが、目付量が10~100g/m3のものが好適に用いられる。製織方法は、特に限定はされないが、例えば、エアージェット織機、ウォータージェット織機、レピア織機、シャトル織機等による製織方法が挙げられる。エアージェット織機などで製織を行う場合は、さらなる潤滑性を得るためにPVAや澱粉を二次サイズ剤として付着させることができる。サイズ剤の処理量は、サイズ剤処理の目的を達成できる量でれば特に限定されない。
【0023】
ガラスクロスは製織後樹脂との含侵性を高めるために、開繊処理が施されることが好ましい。開繊方法は特に限定されないが、超音波を利用する開繊処理方法、高圧柱状水位流による方法、拡散スプレーを大気中に噴霧する方法等が挙げられる。特に、気水体積比を調整した気液混合ミストを利用する方法が、ストランドの目ずれや、毛羽立ちを抑制しながら、効率よく拡繊することができる点で好適である。開繊のタイミングは特には限定されないが、サイズ剤の除去前に行うことが、サイズ剤の滑り性を利用する点で好ましい。
【0024】
[脱油工程]
製織された後のガラスクロスの表面には、上記のサイズ剤が表面に付着したままであり、ガラスクロスへのシランカップリング剤処理が不十分になり、マトリックス樹脂との接着不良が発生し好ましくない。そこで付着したサイズ剤を除去するために製織後、脱油工程が必要になる。脱油工程は特には限定されないが、表面の金属水酸化物を増やさないために、下記に示す露点15℃以下の雰囲気下でヒートクリーニングすることが好ましい。なお、サイズ剤自体は有機基を含むため、周波数の増加による誘電正接の上昇は抑えられるものの誘電正接自体が高いため、高周波での誘電正接は高いものになってしまうおそれがある。
【0025】
[ヒートクリーニング工程]
本発明の好ましいヒートクリーニング工程としては、ガラスクロス中の金属水酸化物を限りなく低減させる目的で、サイズ剤が付着したガラスクロスを、露点が15℃以下の気体中でヒートクリーニングする工程が挙げられる。露点は15℃以下が好ましく、0℃以下がより好ましく、-50℃以下がより好ましい。このような条件でヒートクリーニングすることが、初期だけではなく、保存後においても低い誘電正接を維持する要因となり得る。ヒートクリーニングに用いる加熱炉は、100~900℃に加熱することができ、炉内を真空又は露点15℃以下の乾燥気体雰囲気下にすることができるものを用いることが好ましく、そのような加熱炉であれば特に限定されず、ガス炉、電気炉、マッフル炉が使用できる。
【0026】
それらの中でも、単位発熱量(1,000kcal)当たりに生じる水の量が0.12L以下となるような発熱機構を有する加熱炉を用いることが好ましい。このような発熱機構を有していれば、特に限定されず、電気炉、マッフル炉等で、上記が可能な発熱機構を有する加熱炉を含む装置が挙げられる。特に、電気炉は燃焼を伴わないため、気体中の水の量を0.12L以下、さらに0.10L未満とすることができるので好ましい。
【0027】
加熱炉には、乾燥気体を炉内に送り込む装置を有することが好ましい。この装置としては、コンプレッサー又はエアドライヤー等の乾燥気体を生成する機構、乾燥気体を充填又は導入する、乾燥気体を生成する機構と炉内を結合する配管、炉内から排気を行う排出機構を有しているものが挙げられる。
【0028】
炉内を露点15℃以下の気体中にする方法としては、炉内が露点15℃以下の気体中であれば特に限定されないが、加熱前に、露点15℃以下の乾燥気体で炉内を充填、又は露点15℃以下の乾燥気体を、炉内に導入する方法が挙げられる。導入は、加熱前、昇温中、温度保存中及び降温中のいずれでもよく、この中から複数を選んで導入してもよい。中でも、露点15℃以下、好ましくは0℃以下の乾燥気体を、炉内に導入することが好ましく、さらに、降温中に、炉内に導入することが好ましい。乾燥気体としては、空気、窒素及びアルゴン等の不活性ガスから選択される露点15℃以下の乾燥気体が挙げられる。中でも、生産効率の面で乾燥空気が好ましい。上記の乾燥空気を生成する装置としてはコンプレッサーやエアドライヤー等が挙げられる。なお、本発明における露点とは大気圧露点を指す。充填又は導入する乾燥気体の露点は、15℃以下(水分含有量;12.8g/m3)が好ましく、0℃(水分含有量;4.85g/m3)以下がより好ましく、-20℃以下(水分含有量;1.07g/m3)がさらに好ましく、-60℃(水分含有量;0.0193g/m3)以下が特に好ましい。なお、本発明における露点とは大気圧露点を指す。充填又は導入する乾燥気体の露点は、15℃以下(水分含有量;12.8g/m3)が好ましく、0℃(水分含有量;4.85g/m3)以下がより好ましく、-20℃以下(水分含有量;1.07g/m3)がさらに好ましく、-60℃(水分含有量;0.0193g/m3)以下が特に好ましい。
【0029】
加熱前に、炉内に予め充填・導入する乾燥気体は露点15℃以下であり、0℃以下が好ましく、生産効率、経済性の点から、-20℃以下の乾燥空気がより好ましい。
加熱炉に導入する乾燥気体の露点は15℃以下が好ましく、露点は0℃以下がより好ましく、-20℃がさらに好ましく、-60℃以下が特に好ましい。乾燥気体の導入量については特には限定されないが、炉内の露点を十分に低下させ、かつ炉内の温度を一定に保てる範囲として一時間当たり乾燥炉の体積に対して0.5~20倍が好ましい。
【0030】
ヒートクリーニングの加熱温度は200~900℃が好ましく、300~700℃がより好ましく、300℃以上450℃未満とすることもできる。また、最高加熱温度も同様に、200~900℃が好ましく、300~700℃がより好ましく、300℃以上450℃未満とすることもできる。温度が低すぎると、下記に示す反応が進行しづらく、900℃を超えるとクロスのフィラメント同士の融着が生じ柔軟性が失われるおそれがある。ヒートクリーニング時の加熱に関しては特には限定されず、一定の温度で保存してもよく、複数の温度でステップごとに加熱を行ってもよい。
【0031】
加熱時間については、真空又は露点15℃以下の気体中で、100℃以上の加熱温度(℃)×加熱時間(h)で表される加熱量が450(℃・h)以上となる条件が好ましい。本発明の加熱量は、例えば、最高加熱温度:T(℃)、最高加熱温度での保温時間X:(h:時間)、昇温レート:Y℃/h、降温レート:Z℃/hで、昇温中、温度保存中及び降温中の全ての工程において、真空又は露点15℃以下の気体中で加熱したのであれば、100℃以上の加熱温度(℃)×加熱時間(h)で表される加熱量は、下記昇温時熱量、保温時加熱量及び降温時加熱量の合計量となる。真空又は露点15℃以下の気体中での加熱が、降温中のみであれば、降温時加熱量が本発明の加熱量となる。
昇温時熱量:((T-100)×(T-100)/Y)÷2
保温時加熱量:(T-100)×X
降温時加熱量:((T-100)×(T-100)/Z)÷2
【0032】
上記熱量が450(℃・h)未満だと、下記に示す平衡反応を十分に左に傾ける時間が足りなく、ガラスクロスの誘電正接が低下しきらないために不適である。加熱量が450(℃・h)以上であれば特には限定されないが、生産効率の点で450~100,000(℃・h)が好ましく、3,000~100,000(℃・h)がより好ましい。
【0033】
加熱は、昇温中、温度保存中及び降温中に関しては数ステップに分けてもよく、温度保存も複数の温度で保存してもよい。また上記の加熱量が満たせれば保存時間がなくてもよい。昇温及び降温レートに関しては特に限定されないが、生産性の点から、10℃/h以上が好ましく、サイズ剤の黒変防止、石英ガラスクロスの強度の点から、200℃/h未満が好ましい。
【0034】
昇温レートに関しては、例えば、450℃以上、特に500℃を超える温度で加熱を行う際は、フィラメントの熱膨張によってガラスフィラメントにマイクロクラックが発生しやすくなる。そのため、より高温ではより低い昇温レートが適している。
具体的には、昇温レート(℃/h)=100(℃/h)-(加熱温度(℃)-400℃)/6以下となる様に適宜調整することが好ましい。下限は特には限定されないが生産性の観点から、5℃/h以上が好ましい。また上記の範囲内であれば複数ステップに分けて昇温を行ってもよい。このような範囲の昇温レートで加熱を行えば石英ガラスクロスを加熱する際に急激な熱膨張によるフィラメントのマイクロクラックを抑制でき、後のシラン処理や樹脂塗工の際にクロスの強度低下による破れをより抑制することができる。
【0035】
ヒートクリーニング工程では、MO+H2O⇔M-OH(MはSi、Al、B等の金属)の反応は、露点が低く、かつ温度が高いほど平衡が左に傾き、ガラスクロスの金属水酸化物を低減させることができる。しかしながら生じた水を、露点を調整することで除去しなければ金属水酸化物を減少させたとしても、すぐに水素結合によってガラスクロス内に吸着してしまう。そのため、既存のガス炉や電気炉のみを用いたヒートクリーニング方法では水分管理ができず金属水酸化物や特に結合水が多く生じてしまう。加えて上記の反応はガラスクロスの表面及び内部で同時に進行し、特にガラスクロス内部に生じた金属水酸化物は後処理で減少させることができないため、ヒートクリーニングにおける露点の調整は重要である。しかしながら、内部の金属水酸化物及び結合水を完全に除去することは困難であり、後述するシランカップリング剤でわずかに存在する金属水酸化物の影響を打ち消すことができる。
【0036】
上述したように、ヒートクリーニング工程としては、サイズ剤が付着したガラスクロスを、露点が15℃以下の気体中でヒートクリーニングする工程が挙げられるが、別途、サイズ剤が付着したガラスクロスを、露点等を調整しない気体中でヒートクリーニングする工程後、さらに、上記ヒートクリーニング工程の加熱方法を用いた加熱工程をさらに有してもよい。
【0037】
[シラン処理工程前の金属水酸化物及び結合水の量]
本発明におけるシラン処理工程前のガラスクロスの金属水酸化物及び結合水の量は、1,000ppm(質量)以下が好ましく、600ppm以下がより好ましく、400ppm以下がより好ましく、300ppm以下がさらに好ましい。下限は特に限定されず、0ppmでもよい。この範囲とすることで、本発明の目的とするガラスクロスをより得ることができる。1,000ppmを超えると、金属水酸化物及び結合水の影響が大きくなる。
【0038】
本発明のガラスクロスの金属水酸化物及び結合水は以下のように測定ができる。
シラン処理工程前のガラスクロス200g以上採取し、105℃・2時間乾燥後に、デシケーターで室温まで降温する。乾燥後のガラスクロスを真空炉で、1,300℃で2時間加熱し、加熱前後の質量を測定することで、金属水酸化物及び結合水を算出できる。
金属水酸化物及び結合水の量(ppm)=真空加熱後のガラスクロスの質量/乾燥後のガラスクロスの質量×106
【0039】
水分が完全に除去された真空炉において1,300℃で2時間加熱することによってMO+H2O⇔M-OH(MはSi、Al、B等の金属)の反応が完全に左に傾き、生じた水及び金属水酸化物に結合していた水が完全にガラスクロスから除去されることでガラスクロスに含まれる金属水酸化物及び結合水の量を定量することができる。なお、赤外分光法やSi-NMRによって金属水酸化物は測定することができるが、金属水酸化物と結合した水は測定ができない。
【0040】
シラン処理工程前のガラスクロスの金属水酸化物及び結合水の量は、1,000ppm以下にする方法としては、上記の露点管理された条件でヒートクリーニングすることに加え、ヒートクリーニング工程後からシラン処理工程までに、ヒートクリーニングしたガラスクロスを低露点の環境で保管することが好ましい。具体的には、保管条件が、露点が15℃以下の空間で168時間以下が好ましい。露点としては、10℃以下が好ましく、5℃以下がより好ましい。保管時間は、36時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましい。
【0041】
保管時の露点を管理する方法としては、除湿器等の温湿度管理ができる設備を備えた部屋や、露点が15℃以下の空気を絶えず送り込むこと等が挙げられる。ヒートクリーニング工程後からシラン処理工程までの保管条件の管理による効果のメカニズムは明確ではないが、例えば、下記のように考えられる。低露点でヒートクリーニングを行うと、金属水酸化物が極端に少なくなるものの、表面にはわずかに金属水酸化物及び結合水が存在する。室温でも金属水酸化物及び結合水はそこを起点としてMO+H2O⇔M-OH(Mは金属)の反応が徐々に進行する。そのため、ヒートクリーニング工程等の脱油後からシラン処理工程までに、なるべく低湿度で短時間の条件で保つことが好ましい。
【0042】
シラン処理工程後は、表面の金属水酸化物及び結合水はシランカップリング剤と反応するため、ガラスクロスの表面に存在する金属酸化物及び結合水は除去される。また、シラン処理後のガラスクロスの表面は撥水性が発現するため、新たに金属水酸化物及び結合水が発生する反応は極めて生じにくくなる。しかしながら、シラン処理工程前のガラスクロスの金属水酸化物及び結合水の量が1,000ppmを超える場合、表面の金属水酸化物及び結合水の量も多くなるため、シラン処理によって除去しきれずにガラスクロスの表面に残存し、特に保存安定性に悪影響を与える。シランカップリング剤の処理量を増やすことで金属水酸化物及び結合水の量を減らすこともできると考えられる。後述するように、0.3質量%以上のシランカップリング剤を付着させると、シランカップリング剤自体に含まれるSiOH基が過剰となり、保存安定性及び周波数依存性に悪影響を与える。すなわち、シラン処理工程前にガラスクロスに存在する金属酸化物及び結合水を1,000ppmに抑え、適正な量のシラン処理を行うことで本発明は達成される。
【0043】
[シラン処理]
本発明のガラスクロスはヒートクリーニングにより脱油処理されたガラスクロスの表面を、シランカップリング剤で表面処理することで得られる。シラン処理液に関しては特に限定はされないが、生産性や環境負荷の観点からシランカップリング剤を0.01~5質量%を分散させた水溶液が好適であり、シランカップリング剤の種類に応じてpHを調整して分散させることができる。pHの調整方法としては特に限定されないが使用するシランカップリング剤に合わせて酢酸やアンモニアによる調整が好ましい。
【0044】
シランカップリング剤としては、例えばトリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルメチルビニルエトキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、ナフチルトリエトキシシラン、1,4-ビス(メトキシジメチルシリル)ベンゼン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びその塩酸塩、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリスエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のアルコキシシラン化合物が挙げられ、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。中でも、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0045】
シラン処理液の塗布方法に関して特に限定はされないが、シラン処理液中にガラス繊維を浸透させる方法、ロールコートによる処理等が挙げられる。シラン処理液の乾燥方法としては、特に制限されないが、熱風、赤外線、ホットロールによる乾燥方法が挙げられる。
【0046】
シランカップリング剤の効果としては、ガラスクロスの強度の上昇、次工程で樹脂を塗工する際に樹脂との親和性を上げる効果が一般的に知られている。本発明では、さらにシランカップリング剤に含まれる有機物は、周波数が高くなると金属水酸化物とは逆に誘電正接が低下する効果があることを確認した。すなわち、ガラスクロスに内部に微量に存在する金属水酸化物の周波数上昇による誘電正接の上昇を打ち消すことができる。しかしながら、シランカップリング剤自体もSiOH基を含むため、ガラスクロスの表面に存在する金属酸化物に対して、適量の処理することが重要であると考えられる。
【0047】
シラン処理後のシランカップリング剤の付着量に関しては、ガラスクロスに対して0を超え0.3質量%以下が好ましく、0.01~0.1質量%がより好ましい。シランカップリング剤の付着量に関してはJISR3420に記載の強熱減量に従って測定することができる。シランカップリング剤の量を0.3質量%以下とすることで、周波数及び経時で誘電正接が上昇をより抑制することができる。シランカップリング剤付着量が上記の範囲よりも大きい場合、ガラスクロスに対してシランカップリング剤が過剰となり、金属水酸化物であるシランカップリング剤のSiOH基が余剰に生じることとなり、経時の安定性及び周波数依存性に悪影響を与えるおそれがある。
【0048】
さらに、シラン処理後のシランカップリング剤の付着量に関しては、同一濃度でシラン処理を行ってもガラスクロスの表面の金属水酸化物及び結合水の量に応じてシランカップリング剤の反応量が異なる。このため、ガラスクロスの表面の金属水酸化物及び結合水の量が少なくなるほど、シランカップリング剤の付着量は少なくなる。ガラスクロスの表面の金属水酸化物及び結合水の量は、ガラスクロス全体の金属水酸化物及び結合水の量に比例するため、ガラスクロスに対するシランカップリング剤の付着量は、下記式において、Xが0を超え0.00100以下となる範囲が好ましく、0.00005以上0.00080以下となる範囲がより好ましい。
ガラスクロスに対するシランカップリング剤の付着量(質量%)=シラン処理工程前のクロス中の金属水酸化物及び結合水の量(ppm)×Q
Qは、金属水酸化物及び結合水に対するシランカップリング剤の付着量である。
【0049】
[プリント基板用プリプレグ]
本発明のガラスクロスは高強度で誘電特性に優れるため、より薄く、高強度で誘電特性に優れたプリント基板用プリプレグが得られる。プリント基板用プリプレグとしては、上記ガラスクロスと、有機樹脂とを含むプリプレグが挙げられる。
【0050】
[積層板]
本発明のガラスクロスは高強度で誘電特性に優れるため、より薄く、高強度で誘電特性に優れた積層板が得られる。積層板としては、上記ガラスクロスと、有機樹脂とを含むものが挙げられる。
【0051】
[プリント基板]
本発明の薄物ガラスクロスは高強度で誘電特性に優れるため、より薄く、高強度で誘電特性に優れたプリント基板が得られる。プリント基板としては、上記ガラスクロスと、有機樹脂とを含むものが挙げられる。プリント基板の製造方法としては特に限定されず、一般的なプリント基板の製造方法を適用することができる。基板の周波数依存性としては、実施例で記載の方法において、近似直線の傾きは0.30×10-5以下が好ましく、0.05×10-5以下がより好ましく、0.00×10-5以下がさらに好ましい。なお、下限は限定されず傾きが0未満、-になってもよく、例えば、-1.0×10-5としてもよい。
【0052】
30℃・80%RHの条件下で30日保存後のガラスクロスを用いた基板の近似直線の傾きが0.90×10-5以下が好ましく、0.80×10-5以下がより好ましく、0.50×10-5以下がさらに好ましい。下限は特に限定されず、例えば、-1.0×10-5としてもよい。
【0053】
保存前に対する保存後クロスを用いた基板の近似直線の傾きの変化量は、0.50×10-5以下が好ましく、0.3×10-5がより好ましく、0.1×10-5がさらに好ましい。下限は特に限定されず、例えば、0であってもよい。
【0054】
有機樹脂としては、特に限定されず、シアン酸エステル樹脂、ビスマレイミド-シアン酸エステル樹脂、エポキシ樹脂、多官能マレイミド樹脂、不飽和基含有ポリフェニレンエーテル樹脂、フッ素樹脂等が挙げられ、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。中でも、周波数の依存性が低いビスマレイミド樹脂、多官能マレイミド樹脂、不飽和基含有ポリフェニレンエーテル樹脂、フッ素樹脂が好ましい。樹脂の周波数依存性としては、近似直線の傾きは2.50×10-5以下が好ましく、1.5×10-5以下がより好ましく1.0×10-5がさらに好ましい。なお下限は限定されず傾きが0未満と、-になってもよい。また樹脂の誘電正接は10GHzにおいて0.0025以下が好ましく0.020以下がより好ましく、0.0018以下がさらに好ましい。有機樹脂の使用量は、公知の範囲である。また、有機樹脂にはシリカ、ミルドファイバー等の無機フィラーを添加してもよい。無機フィラーの周波数依存性としては近似直線の傾きは、2.50×10-5以下が好ましく、1.5×10-5以下がより好ましく、1.0×10-5がさらに好ましい。なお下限は限定されず傾きが0未満と、-になってもよい。また無機フィラーの誘電正接は10GHzにおいて、0.0020以下が好ましく、0.015以下がより好ましく、0.0010以下がさらに好ましい。無機フィラーの誘電正接の測定方法としては特許文献6に記載の通り、樹脂に対して無機フィラーを所定の体積分率で配合し、樹脂と無機フィラーの混合物の誘電正接の変化率より無機フィラーの誘電正接を算出する方法で測定が可能である。有機樹脂又は無機フィラーが添加された有機樹脂の付着量としては、ガラスクロス内外を十分に有機樹脂で満たして絶縁信頼性を向上させる観点から、有機樹脂、無機フィラー及びガラスクロス全体の質量に対して30~90質量%が好ましく、50~80質量%がさらに好ましい。
【実施例0055】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0056】
[実施例1]
澱粉3.0質量%、牛脂0.5質量%、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルミン-NL:三洋化成工業株式会社製)を0.1質量、残りが水からなる繊維用サイズ剤(集束剤)を調製した。
SiO2が99.9%質量%以上の石英ガラスインゴットを加熱延伸して、直径5.3μmの石英ガラスフィラメントからなる石英ガラス繊維を作製し、上記の繊維用集束剤を信越エンジニアリング株式会社製アプリケーター(型番:LQ01A)にて塗布した後に集束機により集束し、巻き取って石英ガラスフィラメント本数100本の石英ガラスストランドを作製した。巻き取った石英ガラスストランドに24T/mの撚りを掛け、石英ガラスヤーンを作製した。
【0057】
得られた石英ガラスヤーンに二次サイズ剤(集束剤)としてポリ酢酸ビニル部分けん化物1.5質量%、澱粉1.5質量%からなる水溶液を塗布した後に、エアージェット織機を用いて、IPC規格1035の織密度で石英ガラスクロスを製織し、株式会社いけうち社製PSNスリットノズルを用い、25℃、0.3MPaの水道水と0.3MPaに圧搾された空気を用い、気水体積比がV2/V1=35となるように開繊処理を行った。開繊後の石英ガラスクロスの通気度は26.3cm3/cm2/sであった。開繊後の石英ガラスクロスをネムス社製電気炉(型番:B80×85×200-3Z12-10)を用いて400℃・72時間加熱によるヒートクリーニングを行い、サイズ剤を除去し、ヒートクリーニング(脱油)した石英ガラスクロスを得た。ヒートクリーニングの昇温レートは50℃/時間、降温レートは15℃/時間で行った。その際、昇温から降温時までHITACHI社製インバーターパッケージオイルフリーベビコン POD-15VNPを用いて作製した露点-20℃の乾燥空気を、1時間当たり、電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行った。真空又は露点15℃以下の気体中で、100℃以上の加熱温度(℃)×加熱時間(h)で表される加熱量は、下記の合計で25,500℃・hとなる。
昇温時熱量:((400-100)×(400-100)/50)÷2=900
保温時加熱量:(400-100)×72=21,600
降温時加熱量:((400-100)×(400-100)/15)÷2=3,000
【0058】
脱油後の石英ガラスクロスの目付量は26g/m2であった。ヒートクリーニング(脱油)後の1035石英ガラスクロスを加熱炉から取り出し、ナカトミ社製コンプレッサー式除湿機DM-10により露点を5℃とした部屋で24時間保管した。その後、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503、信越化学工業製)を0.2質量%、酢酸が0.1質量%分散した水溶液に浸漬し、ヤマト社製送風定温恒温器DKN602で110℃×10分間乾燥させてシラン処理をおこない、シランカップリング剤の付着量が0.05質量%の石英ガラスクロスを得た。
【0059】
[実施例2]
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)水溶液の濃度を0.4質量%へ変更したこと以外は、実施例1と同様に脱油後の1035石英ガラスクロスを処理し、シランカップリング剤の付着量が0.1質量%の石英ガラスクロスを得た。
【0060】
[実施例3]
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)水溶液の濃度を1.2質量%へ変更したこと以外は、実施例1と同様に脱油後の1035石英ガラスクロスを処理し、シランカップリング剤の付着量が0.3質量%の石英ガラスクロスを得た。
【0061】
[実施例4]
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503、信越化学工業製)0.2質量%を、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-903、信越化学工業製)が0.1質量%分散された水溶液に変更し、実施例1と同様に脱油後の1035石英ガラスクロスを処理し、シランカップリング剤の付着量が0.05質量%の石英ガラスクロスを得た。
【0062】
[実施例5]
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503、信越化学工業製)0.2質量%を、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403、信越化学工業製)が0.1質量%分散された水溶液に変更し、実施例1と同様に脱油後の1035石英ガラスクロスを処理し、シランカップリング剤の付着量が0.05質量%の石英ガラスクロスを得た。
【0063】
[実施例6]
実施例1で得られた開繊後の1035石英ガラスクロスをネムス社製電気炉(型番:B80×85×200-3Z12-10)を用いて500℃・48時間加熱によるヒートクリーニングを行い、サイズ剤を除去し、脱油した石英ガラスクロスを得た。その際、昇温から降温時までCKD株式会社製 スーパーヒートレスドライヤー SHD3025で作製した露点-70℃の乾燥空気を、1時間当たり、電気炉の体積の10倍量送り込んで加熱処理を行った。ヒートクリーニングの昇温レートは50℃/時間、降温レートは15℃/時間で行った(加熱量26,133℃・h)。脱油後の石英ガラスクロスの目付量は26g/m2であった。脱油後の石英ガラスクロスを加熱炉から取り出し、ナカトミ社製コンプレッサー式除湿機DM-10により露点を5℃とした部屋で24時間保管した。その後、石英ガラスクロスを、KBM-503を0.2質量%、酢酸を0.1質量%分散した水溶液に浸漬し、ヤマト社製送風定温恒温器DKN602で110℃×10分間乾燥させてシラン処理をおこない、シランカップリング剤の付着量が0.03質量%の石英ガラスクロスを得た。
【0064】
[実施例7]
実施例1で得られた開繊後の1035石英ガラスクロスを、ネムス社製電気炉(型番:B80×85×200-3Z12-10)を用いて700℃・10時間加熱によるヒートクリーニングを行い、サイズ剤を除去し、脱油した石英ガラスクロスを得た。その際、昇温から降温時までCKD株式会社製 スーパーヒートレスドライヤー SHD3025で作製した露点-70℃の乾燥空気を、1時間当たり、電気炉の体積の10倍量送り込んで加熱処理を行った。ヒートクリーニングの昇温レートは25℃/時間、降温レートは15℃/時間で行った(加熱量25,200℃・h)。脱油後の石英ガラスクロスの目付量は26g/m2であった。脱油後の1035石英ガラスクロスを加熱炉から取り出し、ナカトミ社製コンプレッサー式除湿機DM-10により露点を5℃とした部屋で24時間保管した。その後、石英ガラスクロスを、KBM-503を0.2質量%、酢酸を0.1質量%分散した水溶液に浸漬し、ヤマト社製送風定温恒温器DKN602で110℃×10分間乾燥させてシラン処理をおこない、シランカップリング剤の付着量が0.02質量%の石英ガラスクロスを得た。
【0065】
[実施例8]
澱粉を3.0質量%、牛脂を0.5質量%、乳化剤を0.1質量%、残りが水からなる繊維用集束剤を調製した。
SiO2が74質量%、B23が22質量%、K2Oが1.5質量%、Na2Oが1.5質量%、Al23が0.5質量%、CaOが0.5質量%のDガラスインゴットを加熱延伸して、直径3.5μmのDガラスフィラメントからなるDガラス繊維を作製し、上記の繊維用集束剤を信越エンジニアリング株式会社製アプリケーター(型番:LQ01A)にて塗布した後に集束機により集束し、巻き取ってDガラスフィラメント本数100本のDガラスストランドを作製した。巻き取ったDガラスストランドに24T/mの撚りを掛け、Dガラスヤーンを作製した。
得られたDガラスヤーンに二次集束剤としてポリ酢酸ビニル部分けん化物1.5質量%、澱粉1.5質量%からなる水溶液を塗布した後に、エアージェット織機を用いて、IPC規格1035の織密度でDガラスクロスを製織し、株式会社いけうち社製PSNスリットノズルを用い、25℃、0.3MPaの水道水と0.3MPaに圧搾された空気を用い、気水体積比がV2/V1=35となるように開繊処理を行った。開繊後のDガラスクロスの通気度は30.2cm3/cm2/sであった。製織後のDガラスクロスを、ネムス社製電気炉(型番:B80×85×200-3Z12-10)を用いて700℃・10時間加熱によるヒートクリーニングを行い、サイズ剤を除去し、脱油した石英ガラスクロスを得た。その際、昇温から降温時までCKD株式会社製 スーパーヒートレスドライヤー SHD3025で作製した露点-70℃の乾燥空気を、1時間当たり、電気炉の体積の10倍量送り込んで加熱処理を行った。ヒートクリーニングの昇温レートは25℃/時間、降温レートは15℃/時間で行った(加熱量25,200℃・h)。脱油後のDガラスクロスの目付量は25g/m2であった。
【0066】
脱油後のDガラスクロスを加熱炉から取り出し、ナカトミ社製コンプレッサー式除湿機DM-10により露点を5℃とした部屋で24時間保管した。その後、Dガラスクロスを、KBM-503を0.2質量%、酢酸を0.1質量%分散した水溶液に浸漬し、ヤマト社製送風定温恒温器DKN602で110℃×10分間乾燥させてシラン処理をおこない、シランカップリング剤の付着量が0.07質量%のDガラスクロスを得た。シラン処理の際も露点が10℃の部屋で行い、脱油後からシラン処理まで露点が15℃を超える時間は0時間であった。
【0067】
[実施例9]
実施例1で得られた脱油後の1035石英ガラスクロスを加熱炉から取り出し、ナカトミ社製コンプレッサー式除湿機DM-10により、露点を15℃とした部屋で168時間保管した。その後、KBM-503を0.2質量%、酢酸を0.1質量%分散した水溶液に浸漬し、ヤマト社製送風定温恒温器DKN602で110℃×10分間乾燥させてシラン処理を行い、シランカップリング剤の付着量が0.07質量%の石英ガラスクロスを得た。
【0068】
[比較例1]
実施例1で得られた脱油後の1035石英ガラスクロスを、シラン処理を行わずにすぐに誘電正接を測定した。
【0069】
[比較例2]
実施例1で得られた脱油後の1035石英ガラスクロスを加熱炉から取り出し、ナカトミ社製コンプレッサー式除湿機DM-10により、露点を15℃とした部屋で240時間保管した。その後、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)を0.2質量%、酢酸が0.1質量%分散した水溶液に浸漬し、ヤマト社製送風定温恒温器DKN602で110℃×10分間乾燥させてシラン処理をおこない、シランカップリング剤の付着量が0.07質量%の石英ガラスクロスを得た。
【0070】
1.金属水酸化物及び結合水の量
実施例及び比較例で得られたシラン処理工程前のガラスクロスを200g採取し、ヤマト社製送風定温恒温器DKN602で105℃、2時間乾燥後、デシケーター内で降温した。乾燥後のガラスクロスを、真空加熱焼成炉VASTAを用いて1,300℃で2時間加熱した。なお昇温から降温まで真空状態を保存した。
金属水酸化物及び結合水の量(ppm)=真空加熱後のガラスクロスの質量/乾燥後のガラスクロスの質量×106
【0071】
2.露点の測定
露点はオリオン社製露点モニタ-MG-40を用いて測定した。ただし加熱中の露点は測定できないため、加熱炉内に乾燥空気を導入する場合は乾燥空気の露点を炉内の露点とし、導入しない場合は加熱炉が置かれている外気の12時間ごとの露点の平均を露点とした。
【0072】
3.シランカップリング剤の付着量
JISR3420に記載の強熱減量の方法に従って625℃、2時間加熱して測定を行った。
【0073】
4.金属水酸化物及び結合水の量に対する付着量
金属水酸化物及び結合水の量に対する付着量=[ガラスクロスに対するシランカップリング剤の付着量(質量%)]/[シラン処理工程前のクロス中の金属水酸化物及び結合水の量(ppm)]
【0074】
5.誘電正接の測定
得られたガラスクロスを、ヤマト社製送風定温恒温器DKN602で105℃、2時間乾燥しデシケーターで放冷した後、10GHz、28GHz及び40GHzの誘電正接はエーイーティー社製空洞共振器(TE011モード)を用いて測定した。なおガラスクロスの厚みは理論膜厚を用いて測定しており、ガラスクロスの理論膜厚は
理論膜厚t(μm)=目付量(g/m2)/比重(g/cm3
から算出した。
【0075】
6.近似直線の傾き
1で測定した誘電正接を縦軸に、周波数を横軸としたグラフを作成し、図1のように近似直線を求め、グラフの傾きを算出した。
【0076】
7.保存後の誘電正接及び誘電正接の変化率
1で測定したガラスクロスをエスペック社製小型環境試験機(SH-222)内で30℃、80%の条件下で30日静置し、再度105℃、2時間乾燥しデシケーターで放冷した後、1と同様に10Hzでの誘電正接を測定した。変化率を(保存後の誘電正接)/(保存前の誘電正接)で示す。
【0077】
8.基板の近似直線の傾き(周波数依存性)及び近似直線の変化量
保存前シランカップリング剤処理済みクロスと、上記7と同様の方法で、30℃、80%の条件下で30日保存をした保管後のシランカップリング剤処理済みクロスを、ビスマレイミド樹脂:SLK-3000(信越化学社製 商品名)55質量%、ラジカル開始剤:パークミルD(日油株式会社)2質量%が含まれたトルエン溶液に浸漬し110℃、10分乾燥させてプリプレグ化した。プリプレグを3層重ねて真空プレスによって180℃、1時間、0.5MPaで硬化させ基板を得た。得られた基板の誘電正接をエーイーティー社製空洞共振器(TE011モード)で測定し、上記6と同様に周波数依存性を測定した。30日保管前及び保管後のクロスを用いた基板の近似直線の傾きの変化量が0.5×10-5以下となるものを合格とした。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
KBM-503:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
KBM-903:3-アミノプロピルトリメトキシシラン
KBM-403:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0081】
実施例の基板を100℃、2時間煮沸後表面の水分をふき取って260℃に加熱したはんだ浴の中に30秒沈めた後に、アセトンとドライアイスからなる-78℃の冷材に30秒沈めた。260℃のはんだ浴及び78℃のアセトンに沈める操作を3セット行った。実施例の基板は、ガラスクロスと樹脂間に剥離がなかった。この結果から、実施例の基板が、信頼性の高いものであることが確認された。
【0082】
表1,2より、実施例のガラスクロスは、30℃・80%RHの条件下で30日保存した場合、保存前に対する10GHzにおける誘電正接の変化率が低く、高周波において低い誘電正接であり、誘電正接の周波数依存性が低く、上述したように、信頼性に優れた基板を作製することができた。比較例1ではシラン処理を行っていないため、初期の10GHzの誘電正接の値は優れるが、変化率が高く、周波数依存性が大きくなっている。比較例2では、変化率が高く、近似直線の傾きが高く、周波数依存性が大きかった。
【0083】
本件発明のガラスクロスを用いた基板は、今後増えていく5G等の高速通信等において、どのような周波数でも安定して伝送損失を抑えることができるという著大な効果を奏する。なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1