IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日本無線株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150214
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】半導体装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20241016BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20241016BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20241016BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20241016BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H01L29/78 652N
H01L29/78 652T
H01L29/78 652J
H01L29/78 652P
H01L29/78 658K
H01L29/78 652D
H01L29/78 653A
H01L29/06 301M
H01L29/06 301G
H01L29/06 301V
H01L21/02 B
H01L29/78 658A
H01L29/78 658G
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063523
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】木内 祐治
(72)【発明者】
【氏名】出口 忠義
(57)【要約】
【課題】電界集中を緩和できる周辺耐圧構造を備える貼合せトランジスタの半導体装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る半導体装置は、第1導電型のワイドギャップ半導体層2と第2導電型の珪素半導体層3とが接合する接合構造32にゲート構造33が形成された活性領域部30と、活性領域部30の外周の前記接合構造に形成される周辺耐圧構造部35と、を備える。周辺耐圧構造部35は、ワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)の珪素半導体層(第3半導体層3)の側において第2導電型に変換された変換領域(第4半導体層4、5、6)と、前記珪素半導体層(第3半導体層3)であって、活性領域部30から一定の位置より外側には珪素半導体層がない電極構造(第5半導体層10)と、で構成され、且つ前記変換領域と前記電極構造とが電気的に接続されていることを特徴とする。
【選択図】図23
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型のワイドギャップ半導体層と第2導電型の珪素半導体層とが接合する接合構造にゲート構造が形成された活性領域部と、
前記活性領域部の外周の前記接合構造に形成される周辺耐圧構造部と、
を備える半導体装置であって、
前記周辺耐圧構造部は、
前記ワイドギャップ半導体層の前記珪素半導体層の側であって、前記ワイドギャップ半導体層を第2導電型に変換した複数の変換領域と、
前記珪素半導体層であって、前記活性領域部から一定の位置より外側には前記珪素半導体層がない電極構造と、で構成され、且つ前記変換領域と前記電極構造とが電気的に接続されていること
を特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記ゲート構造は、前記珪素半導体層から前記ワイドギャップ半導体層と前記珪素半導体層との接合面を貫通して前記ワイドギャップ半導体層まで至る縦型トレンチ構造であること、及び
前記変換領域は、前記珪素半導体層の側から前記縦型トレンチ構造の底より深い位置まであること
を特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記変換領域は、前記活性領域部から外側に離れるに従い、段階的に不純物濃度が低下するJTE(Junction Termination Extension)構造であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記電極構造の外側の端は、前記活性領域部に最も近い前記JTE構造の外側の端より前記活性領域部側にあることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記変換領域は、前記活性領域部から外側に向かって複数箇所に形成されているフィールドリミッティング構造であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記電極構造の外側の端は、前記フィールドリミッティング構造のうち前記活性領域部に最も近い第1段目の前記変換領域の外側の端より内側にあることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記変換領域は、比抵抗が100Ωcm以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記ワイドギャップ半導体層は、炭化珪素半導体、窒化ガリウム系の半導体、又は酸化物半導体であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項9】
第1導電型のワイドギャップ半導体層と第2導電型の珪素半導体層とが接合する接合構造にゲート構造が形成された活性領域部と、
前記活性領域部の外周の前記接合構造に形成される周辺耐圧構造部と、
を備える半導体装置の製造方法であって、
前記ワイドギャップ半導体層の一方の表面において、周辺耐圧構造部となる範囲について前記表面から一定の深さまで第2導電型に変換して変換領域を形成すること、
前記ワイドギャップ半導体層の前記表面の上に前記珪素半導体層を形成すること、及び
前記珪素半導体層から電極構造を形成すること
を有しており、
前記電極構造の形成では、
前記珪素半導体層の外側の端の前記活性領域部からの位置が、前記活性領域部に最も近い前記変換領域であって、前記変換領域の外側の端の前記活性領域部からの位置より前記活性領域部側にあるように、前記珪素半導体層をエッチングで除去すること
を特徴とする製造方法。
【請求項10】
第1導電型のワイドギャップ半導体層と第2導電型の珪素半導体層とが接合する接合構造にゲート構造が形成された活性領域部と、
前記活性領域部の外周の前記接合構造に形成される周辺耐圧構造部と、
を備える半導体装置の製造方法であって、
前記ワイドギャップ半導体層の一方の表面において、前記周辺耐圧構造部となる範囲のうち、前記活性領域部に接する部分については前記表面から一定の深さまで、他の部分については不純物濃度がレトログレードとなるように、第2導電型に変換して変換領域を形成すること、
前記ワイドギャップ半導体層の前記表面の上に前記珪素半導体層を形成すること、及び
前記珪素半導体層から電極構造を形成すること
を有しており、
前記電極構造の形成では、
前記珪素半導体層の外側の端の前記活性領域部からの位置が、前記活性領域部に最も近い前記変換領域であって、前記変換領域の外側の端の前記活性領域部からの位置より前記活性領域部側にあるように、前記珪素半導体層から前記ワイドギャップ半導体に至るまでをエッチングで除去すること
を特徴とする製造方法。
【請求項11】
前記電極構造を形成するときに、同時に
前記活性領域部となる範囲において前記ゲート構造が縦型トレンチ構造となるように前記珪素半導体層を前記ワイドギャップ半導体層に至るまでをエッチングで除去し、トレンチを形成すること、及び
前記電極構造を形成した後に、
前記周辺耐圧構造部において、前記エッチングで現れた前記ワイドギャップ半導体層のエッチング面に絶縁膜を形成することと、前記活性領域部において、前記トレンチの内壁に絶縁膜を形成することを同時に行うこと
を特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
第1導電型のワイドギャップ半導体層と第2導電型の珪素半導体層とが接合する接合構造にゲート構造が形成された活性領域部と、
前記活性領域部の外周の前記接合構造に形成される周辺耐圧構造部と、
を備える半導体装置の製造方法であって、
前記接合構造を形成すること、
前記周辺耐圧構造部となる範囲において、前記活性領域部側から一定の位置までの前記珪素半導体層からイオン注入を行い、前記珪素半導体層の下の前記ワイドギャップ半導体層の前記珪素半導体層側を第2導電型に変換して変換領域を形成すること、
前記活性領域部側から前記一定の位置より外側において、前記珪素半導体層から前記ワイドギャップ半導体層に至るまでをエッチングで除去すること、及び
前記活性領域部側から前記一定の位置より外側に現れた前記ワイドギャップ半導体層の表面から所定の深さまで第2導電型に変換して外側の変換領域を形成すること
を特徴とする製造方法。
【請求項13】
前記イオン注入を行うときに、前記活性領域部となる範囲において前記ゲート構造が形成される範囲も前記ワイドギャップ半導体層の前記珪素半導体層側を第2導電型に変換すること、
前記エッチングを行うときに、前記活性領域部となる範囲において前記ゲート構造が縦型トレンチ構造となるように前記珪素半導体層を前記ワイドギャップ半導体層に至るまでを除去し、トレンチを形成すること、及び
前記周辺耐圧構造部において、前記エッチングで現れた前記ワイドギャップ半導体層のエッチング面に絶縁膜を形成することと、前記活性領域部において、前記トレンチの内壁に絶縁膜を形成することを同時に行うこと
を特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ワイドギャップ半導体層は、炭化珪素半導体、窒化ガリウム系の半導体、又は酸化物半導体であることを特徴とする請求項9から13のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、珪素(Si)半導体と炭化珪素(SiC)のようなワイドギャップ半導体とを貼り合わせたトランジスタ構造の半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Si半導体層とワイドギャップ半導体層とを積層し、トレンチゲートを形成したMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)が開示されている(例えば、特許文献1、2を参照。)。ワイドギャップ半導体には、炭化珪素の他に、酸化ガリウム、窒化ガリウム、酸化亜鉛等がある。以下の説明ではワイドギャップ半導体の代表として炭化珪素の場合を説明するが、他のワイドギャップ半導体であっても同様である。なお、Si層とSiC層とを積層し、トレンチゲートを形成したトランジスタを「Si/SiC貼合せトランジスタ」と記載することがある。
【0003】
Si層のみ、あるいはSiC層のみを積層し、トレンチゲートを形成したMOSFETが一般的だが、Si層のみの構造ではドリフト層が高抵抗、SiC層のみの構造ではチャネル層が高抵抗という課題があった。Si/SiC貼合せトランジスタはSiをチャネル層、SiCをドリフト層としているため、前述の課題を解決することが期待されている。
【0004】
一方、トレンチゲートを形成したMOSFETの半導体装置は、活性領域の周辺に形成される周辺耐圧構造における電界集中を緩和することが求められている。例えば、非特許文献1は、SiC層のみの構造の半導体装置の周辺領域における電界集中を緩和するための周辺耐圧構造(図1図2)を開示している。図1は、活性領域部30から離れるに従い3段階的に第4半導体層(4、5、6)の不純物濃度が低くなっているJTE(Junction Termination Extension)構造、図2は、活性領域部30から離れる方向に第4半導体層14を複数個配置するフィールドリミッティング構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-153893号公報
【特許文献2】国際公報WO2019/239632パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Raul Perez et.al, IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES, VOL. 52, NO. 10, pp. 2309-2316, OCTOBER 2005
【非特許文献2】Y. Negoro et.al, Journal of Applied Physics 96, 224 (2004)
【非特許文献3】Y. Okuto and C. R. Crowell, Solid-State Electronics, vol. 18, no. 2, pp. 161-168, 1975.
【非特許文献4】Hiroki Niwa et.al, 2012 Appl. Phys. Express 5 064001
【非特許文献5】A Itoh et.al, IEE Electron Device Letters, vol. 17, no.3, p139-141, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図3は、非特許文献1の効果を確認するための周辺耐圧構造35を説明する図である。当該周辺耐圧構造35はJTE構造である。炭化珪素(SiC)半導体の第1導電型のドリフト層2は、650V仕様、不純物濃度が2.0×1016cm-3、膜厚が5.5μmである。電界強度を緩和する第2導電型の第4半導体層(4、5、6)は、不純物濃度が順に3段階に低くなっている。第4半導体層4の幅(図3において横方向の長さ)が5μm、第4半導体層5の幅が50μm、第4半導体層6の幅が50μmである。
なお、図面では第1導電型をn型、第2導電型をp型として説明するが、第1導電型がp型、第2導電型がn型であっても同様である。
【0008】
図4は、第4半導体層(4、5、6)それぞれの不純物濃度分布を説明する図である。横軸はドリフト層2と酸化膜7又はソース電極8との界面からの深さ(図3において下方向)、縦軸は不純物濃度である。第4半導体層4の不純物濃度は深さが0.4μmまで1×1019cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。第4半導体層5の不純物濃度は深さが0.7μmまで2×1017cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。第4半導体層6の不純物濃度は深さが0.7μmまで1×1017cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。
第4半導体層(4、5、6)の作成は、アルミニウムを高温でイオン注入し、1700℃でアニールすることで形成することができる(例えば、非特許文献2を参照)。
【0009】
この周辺耐圧構造について、耐圧特性のシミュレーション(VS=0V)を行った。シミュレーションは、炭化珪素半導体の異方性を考慮した、OkutoCrowellモデル(非特許文献3参照)を導入し、NIWAのパラメータ(非特許文献4参照)を使用し、炭化珪素半導体と酸化膜の界面準位を2.0×1012cm-2としている。
本シミュレーションでは、VS=0V、つまりソース電極8のソース電位をゼロボルトとし、ドレイン電極9のドレイン電位を変化させ、ドレイン電流が1μAに達したドレイン電位を耐圧としている。図5は、その耐圧特性の結果を説明する図である。本デバイスの耐圧は定格耐圧650Vを超えた、約1060Vであった。
【0010】
図6は、同電圧時の電界強度分布のシミュレーション結果を示す。本電界強度分布では、視認性を高めるため、酸化膜7の電界を表示していない。以降で説明する電界強度分布についても同様である。電界強度は、第4半導体層(4、5、6)の不純物濃度の順に低下しており、電界強度を緩和していることがわかる。
【0011】
なお、アルミニウムの高温イオン注入し、1700℃でのアニール以外の方法として、非特許文献5では、炭化珪素半導体にボロンを1.0×1015cm-2の濃度でイオン注入し、1050℃にてアニールした、高抵抗ガードリング構造(図7)にて1100Vの耐圧を報告している。
【0012】
JTE構造及びフィールドリミッティング構造は、図1図2のようなSiC半導体の周辺耐圧構造として効果はあるが、貼り合わせトランジスタの構造では上記のような効果が得られないという課題がある。以下に、上記課題についてワイドギャップ半導体層を炭化珪素半導体として説明する。
【0013】
当該貼り合わせトランジスタは、図8のような周辺耐圧構造を持つ。
当該周辺耐圧構造は、炭化珪素半導体の第1導電型の第1半導体層1、第2半導体層(ドリフト層)2、及び珪素半導体の第2導電型の第3半導体層3を基板としている。そして、第2半導体層2には、第3半導体層3側に活性領域部30側から第4半導体層(1段目)4、第4半導体層(2段目)5、第4半導体層(3段目)6が形成される。第4半導体層(1段目)4は、活性領域部30に接している。さらに、第3半導体層3には、活性領域部30側から第5半導体層(1段目)10、第5半導体層(2段目)11、第5半導体層(3段目)12が形成される。第5半導体層(1段目)10は、活性領域部30に接している。
【0014】
図9は、第4半導体層(4、5、6)及び第5半導体層(10、11、12)それぞれの不純物濃度分布を説明する図である。
横軸は第3半導体層3と酸化膜7との界面からの深さ(図8において下方向)、縦軸は不純物濃度である。第2半導体層2と第3半導体層3との界面は1.0μmの深さにある。第4半導体層4と第5半導体層10の不純物濃度は深さが1.4μmまで1×1019cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。第4半導体層5と第5半導体層11の不純物濃度は深さが1.7μmまで2×1017cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。第4半導体層6と第5半導体層12の不純物濃度は深さが1.7μmまで1×1017cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。
【0015】
図10は、図8の周辺耐圧構造について耐圧特性のシミュレーション(VS=0V)を行った。本シミュレーションの手法は図5のシミュレーションの手法と同じである。本デバイスの耐圧は約13Vであった。
【0016】
図11は、同電圧時の電界強度分布のシミュレーション結果を示す。図12は、そのシミュレーション結果について第4半導体層6と第5半導体層12の付近を拡大表示させたものである。図11図12から、図8の周辺耐圧構造が13Vの耐圧しか得られなかった理由を次のように考察する。
周辺部の第2半導体層2と第3半導体層3には0.6MV/cmの電界強度が印加されている。この電界強度は、第2半導体層2である炭化珪素半導体の絶縁破壊電界強度の約1/5程度である。しかし、この電界強度は、第3半導体層3である珪素半導体の絶縁破壊電界強度0.3MV/cmを超えている。このため、図8の周辺耐圧構造では第3半導体層3を通じて電流が流れ、耐圧が低下していると考えられる。
【0017】
図13は、電界強度が臨界に達した珪素半導体の部分(第3半導体層12の外側の第3半導体層3の部分)を除去した周辺耐圧構造を説明する図である。図13の周辺耐圧構造での耐圧シミュレーションの結果は、図14の通り約63Vであった。図15は、同電圧時の電界強度分布のシミュレーション結果を示す。図16は、そのシミュレーション結果について第4半導体層6と第5半導体層12の付近を拡大表示させたものである。本構造でも、第5半導体層12の電界強度が、珪素半導体の絶縁破壊電界を超えており、第5半導体層12を通じて電流が流れ、耐圧が低下していると考えられる。
【0018】
このように、貼合せトランジスタは、図1図2のようなSiC層のみのトランジスタの周辺耐圧構造では所望の耐圧を得ることが困難という課題があった。そこで、本発明は、前記課題を解決するために、電界集中を緩和できる周辺耐圧構造を備える貼合せトランジスタの半導体装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明に係る半導体装置は、ソース電極より外側の珪素半導体層を除去した周辺耐圧構造を備えることとした。
【0020】
具体的には、本発明に係る半導体装置は、
第1導電型のワイドギャップ半導体層と第2導電型の珪素半導体層とが接合する接合構造にゲート構造が形成された活性領域部と、
前記活性領域部の外周の前記接合構造に形成される周辺耐圧構造部と、
を備える半導体装置であって、
前記周辺耐圧構造部は、
前記ワイドギャップ半導体層の前記珪素半導体層の側であって、前記ワイドギャップ半導体層を第2導電型に変換した複数の変換領域と、
前記珪素半導体層であって、前記活性領域部から一定の位置より外側には前記珪素半導体層がない電極構造と、で構成され、且つ前記変換領域と前記電極構造とが電気的に接続されていること
を特徴とする。
【0021】
本発明に係る半導体装置の前記ゲート構造は、前記珪素半導体層から前記ワイドギャップ半導体層と前記珪素半導体層との接合面を貫通して前記ワイドギャップ半導体層まで至る縦型トレンチ構造であること、及び前記変換領域は、前記珪素半導体層の側から前記縦型トレンチ構造の底より深い位置まであることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る半導体装置の前記変換領域は、前記活性領域部から外側に離れるに従い、段階的に不純物濃度が低下するJTE(Junction Termination Extension)構造とすることができる。この場合、前記電極構造の外側の端は、前記活性領域部に最も近い前記JTE構造の外側の端より前記活性領域部側にあることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る半導体装置の前記変換領域は、前記活性領域部から外側に向かって複数箇所に形成されているフィールドリミッティング構造とすることができる。この場合、前記電極構造の外側の端は、前記フィールドリミッティング構造のうち前記活性領域部に最も近い第1段目の前記変換領域の外側の端より内側にあることを特徴とする。
【0024】
本発明に係る半導体装置の前記変換領域は、比抵抗が100Ωcm以上であることを特徴とする。
【0025】
前述の半導体装置の第1の製造方法は、
第1導電型のワイドギャップ半導体層と第2導電型の珪素半導体層とが接合する接合構造にゲート構造が形成された活性領域部と、
前記活性領域部の外周の前記接合構造に形成される周辺耐圧構造部と、
を備える半導体装置の製造方法であって、
前記ワイドギャップ半導体層の一方の表面において、周辺耐圧構造部となる範囲について前記表面から一定の深さまで第2導電型に変換して変換領域を形成すること、
前記ワイドギャップ半導体層の前記表面の上に前記珪素半導体層を形成すること、及び
前記珪素半導体層から電極構造を形成すること
を有しており、
前記電極構造の形成では、
前記珪素半導体層の外側の端の前記活性領域部からの位置が、前記活性領域部に最も近い前記変換領域であって、前記変換領域の外側の端の前記活性領域部からの位置より前記活性領域部側にあるように、前記珪素半導体層をエッチングで除去すること
を特徴とする。
【0026】
前述の半導体装置の第2の製造方法は、
第1導電型のワイドギャップ半導体層と第2導電型の珪素半導体層とが接合する接合構造にゲート構造が形成された活性領域部と、
前記活性領域部の外周の前記接合構造に形成される周辺耐圧構造部と、
を備える半導体装置の製造方法であって、
前記ワイドギャップ半導体層の一方の表面において、前記周辺耐圧構造部となる範囲のうち、前記活性領域に接する部分については前記表面から一定の深さまで、他の部分については不純物濃度がレトログレードとなるように、第2導電型に変換して変換領域を形成すること、
前記ワイドギャップ半導体層の前記表面の上に前記珪素半導体層を形成すること、
前記珪素半導体層から電極構造を形成すること
を有しており、
前記電極構造の形成では、
前記珪素半導体層の外側の端の前記活性領域部からの位置が、前記活性領域部に最も近い前記変換領域であって、前記変換領域の外側の端の前記活性領域部からの位置より前記活性領域部側にあるように、前記珪素半導体層から前記ワイドギャップ半導体に至るまでをエッチングで除去すること
を特徴とする。
【0027】
第2の製造方法では、
前記電極構造を形成するときに、同時に
前記活性領域部となる範囲において前記ゲート構造が縦型トレンチ構造となるように前記珪素半導体層を前記ワイドギャップ半導体層に至るまでをエッチングで除去し、トレンチを形成すること、及び
前記電極構造を形成した後に、
前記周辺耐圧構造部において、前記エッチングで現れた前記ワイドギャップ半導体層のエッチング面に絶縁膜を形成することと、前記活性領域部において、前記トレンチの内壁に絶縁膜を形成することを同時に行うこと
を特徴とする。
【0028】
前述の半導体装置の第3の製造方法は、
第1導電型のワイドギャップ半導体層と第2導電型の珪素半導体層とが接合する接合構造にゲート構造が形成された活性領域部と、
前記活性領域部の外周の前記接合構造に形成される周辺耐圧構造部と、
を備える半導体装置の製造方法であって、
前記接合構造を形成すること、
前記周辺耐圧構造部となる範囲において、前記活性領域部側から一定の位置までの前記珪素半導体層からイオン注入を行い、前記珪素半導体層の下の前記ワイドギャップ半導体層の前記珪素半導体層側を第2導電型に変換して変換領域を形成すること、
前記活性領域部側から前記一定の位置より外側において、前記珪素半導体層から前記ワイドギャップ半導体層に至るまでをエッチングで除去すること、及び
前記活性領域部側から前記一定の位置より外側に現れた前記ワイドギャップ半導体層の表面から所定の深さまで第2導電型に変換して外側の変換領域を形成すること
を特徴とする。
【0029】
第3の製造方法では、
前記イオン注入を行うときに、前記活性領域部となる範囲において前記ゲート構造が形成される範囲も前記ワイドギャップ半導体層の前記珪素半導体層側を第2導電型に変換すること、
前記エッチングを行うときに、前記活性領域部となる範囲において前記ゲート構造が縦型トレンチ構造となるように前記珪素半導体層を前記ワイドギャップ半導体層に至るまでを除去し、トレンチを形成すること、及び
前記周辺耐圧構造部において、前記エッチングで現れた前記ワイドギャップ半導体層のエッチング面に絶縁膜を形成することと、前記活性領域部において、前記トレンチの内壁に絶縁膜を形成することを同時に行うこと
を特徴とする。
【0030】
前記ワイドギャップ半導体層は、炭化珪素半導体、窒化ガリウム系の半導体、又は酸化物半導体であることを特徴とする。
【0031】
周辺耐圧構造部における電界緩和のための構造は、ワイドギャップ半導体層に形成された変換領域が、活性領域部から離れるに従って段階的に不純物濃度が低くなるJTE構造、活性領域部から外側に向かって複数箇所に配置されたフィールドリミッティング構造、比抵抗100Ωcm以上の高抵抗である構造のいずれかである。そして、ソース電極より外側の珪素半導体層を除去してトレンチを形成し、絶縁破壊電界強度が弱い珪素半導体に電界が集中することを防ぎ、絶縁破壊電界強度が強いワイドギャップ半導体中にて電界緩和させることで高い耐圧を実現する。
【0032】
なお、ソース電極と電位を合せるために、ソース電極の下の珪素半導体層は不純物濃度を高濃度とし、且つワイドギャップ半導体層中の変換領域の1段目(活性領域部に最も近い変換領域)と接している。
【0033】
また、周辺耐圧構造部のトレンチと活性領域部におけるゲート形成用トレンチ部分を、少なくとも珪素半導体層を貫通するように同時にエッチングして形成することも可能である。さらに、変換領域とゲート形成用トレンチのゲート酸化膜保護の緩和層とを同時に形成することも可能である。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、電界集中を緩和できる周辺耐圧構造を備える貼合せトランジスタの半導体装置及び製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】SiC層のみ半導体装置における周辺耐圧構造を説明する図である。
図2】SiC層のみ半導体装置における周辺耐圧構造を説明する図である。
図3】SiC層のみ半導体装置における周辺耐圧構造を説明する図である。
図4】SiC層のみ半導体装置における周辺耐圧構造を説明する図である。
図5】SiC層のみ半導体装置における周辺耐圧構造の効果を説明する図である。
図6】SiC層のみ半導体装置における周辺耐圧構造の効果を説明する図である。
図7】高抵抗ガードリング構造を説明する図である。
図8】貼り合わせトランジスタの構造を説明する図である。
図9】貼り合わせトランジスタの構造を説明する図である。
図10】貼り合わせトランジスタの課題を説明する図である。
図11】貼り合わせトランジスタの課題を説明する図である。
図12】貼り合わせトランジスタの課題を説明する図である。
図13】貼り合わせトランジスタの構造を説明する図である。
図14】貼り合わせトランジスタの課題を説明する図である。
図15】貼り合わせトランジスタの課題を説明する図である。
図16】貼り合わせトランジスタの課題を説明する図である。
図17】本発明に係る半導体装置(構造例1)の製造方法を説明する図である。
図18】本発明に係る半導体装置(構造例1)の製造方法を説明する図である。
図19】本発明に係る半導体装置(構造例1)の製造方法を説明する図である。
図20】本発明に係る半導体装置(構造例1)の製造方法を説明する図である。
図21】本発明に係る半導体装置(構造例1)の各層の不純物濃度分布を説明する図である。
図22】本発明に係る半導体装置(構造例1)の製造方法を説明する図である。
図23】本発明に係る半導体装置(構造例1)の製造方法を説明する図である。
図24】本発明に係る半導体装置(構造例2)の製造方法を説明する図である。
図25】本発明に係る半導体装置(構造例2)の製造方法におけるイオン注入量を説明する図である。
図26】本発明に係る半導体装置(構造例2)の製造方法を説明する図である。
図27】本発明に係る半導体装置(構造例2)の製造方法を説明する図である。
図28】本発明に係る半導体装置(構造例2)の製造方法を説明する図である。
図29】本発明に係る半導体装置(構造例2)の各層の不純物濃度分布を説明する図である。
図30】本発明に係る半導体装置(構造例2)の製造方法を説明する図である。
図31】本発明に係る半導体装置(構造例3)の製造方法を説明する図である。
図32】本発明に係る半導体装置(構造例3)の製造方法におけるイオン注入量を説明する図である。
図33】本発明に係る半導体装置(構造例3)の製造方法を説明する図である。
図34】本発明に係る半導体装置(構造例3)の製造方法を説明する図である。
図35】本発明に係る半導体装置(構造例3)の各層の不純物濃度分布を説明する図である。
図36】本発明に係る半導体装置(構造例3)の製造方法を説明する図である。
図37】本発明に係る半導体装置(構造例3)の製造方法を説明する図である。
図38】本発明に係る半導体装置(構造例4)の製造方法を説明する図である。
図39】本発明に係る半導体装置(構造例4)の各層の不純物濃度分布を説明する図である。
図40】本発明に係る半導体装置(構造例5)の製造方法を説明する図である。
図41】本発明に係る半導体装置(構造例5)の製造方法を説明する図である。
図42】本発明に係る半導体装置(構造例5)の製造方法を説明する図である。
図43】本発明に係る半導体装置(構造例5)の製造方法を説明する図である。
図44】本発明に係る半導体装置(構造例5)の製造方法を説明する図である。
図45】本発明に係る半導体装置(構造例1)のドレイン耐圧のシミュレーション結果を説明する図である。
図46】本発明に係る半導体装置(構造例1)において、ドレインに約1020Vを印加した時の電界強度分布を説明する図である。
図47】本発明に係る半導体装置(構造例2)のドレイン耐圧のシミュレーション結果を説明する図である。
図48】本発明に係る半導体装置(構造例2)において、ドレインに約960Vを印加した時の電界強度分布を説明する図である。
図49】本発明に係る半導体装置(構造例3)のドレイン耐圧のシミュレーション結果を説明する図である。
図50】本発明に係る半導体装置(構造例3)において、ドレインに約990Vを印加した時の電界強度分布を説明する図である。
図51】本発明に係る半導体装置(構造例4)のドレイン耐圧のシミュレーション結果を説明する図である。
図52】本発明に係る半導体装置(構造例4)において、ドレインに約920Vを印加した時の電界強度分布を説明する図である。
図53】本発明に係る半導体装置(構造例5)のドレイン耐圧のシミュレーション結果を説明する図である。
図54】本発明に係る半導体装置(構造例5)において、ドレインに約900Vを印加した時の電界強度分布を説明する図である。
図55】本発明に係る半導体装置における界面準位と耐圧の関係を説明する図である。
図56】本発明に係る半導体装置における界面準位と電界強度の関係を説明する図である。
図57】本発明に係る半導体装置における電極構造と変換領域との関係を説明する図である。
図58】本発明に係る半導体装置における電極構造と変換領域との関係を説明する図である。
図59】本発明に係る半導体装置における電極構造と変換領域との関係を説明する図である。
図60】本発明に係る半導体装置(構造例5)におけるトレンチ深さと耐圧の関係を説明する図である。
図61】本発明に係る半導体装置(構造例5)におけるトレンチ深さと耐圧の関係を説明する図である。
図62】本発明に係る半導体装置(構造例5)におけるトレンチ深さと耐圧の関係を説明する図である。
図63】本発明に係る半導体装置において電極構造と活性領域部との位置関係を説明する図である。
図64】本発明に係る半導体装置において電極構造と活性領域部との位置関係を説明する図である。
図65】本発明に係る半導体装置において電極構造と活性領域部との位置関係を説明する図である。
図66】本発明に係る半導体装置において電極構造と活性領域部との位置関係を説明する図である。
図67】本発明に係る半導体装置において電極構造と活性領域部との位置関係を説明する図である。
図68】本発明に係る半導体装置において電極構造と活性領域部との位置関係を説明する図である。
図69】本発明に係る半導体装置の構造を説明する図である。
図70】本発明に係る半導体装置の製造方法を説明する図である。
図71】本発明に係る半導体装置の製造方法を説明する図である。
図72】本発明に係る半導体装置の製造方法を説明する図である。
図73】本発明に係る半導体装置の製造方法を説明する図である。
図74】本発明に係る半導体装置の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0037】
本実施形態で説明する半導体装置は、
第1導電型のワイドギャップ半導体層と第2導電型の珪素半導体層とが接合する接合構造32にゲート構造33が形成された活性領域部30と、
活性領域部30の外周の前記接合構造に形成される周辺耐圧構造部35と、
を備える。
なお、以下の実施形態では、例としてワイドギャップ半導体を炭化珪素半導体で説明するが、ワイドギャップ半導体層は、窒化ガリウム系の半導体、又は酸化物半導体でもよい。また、本実施形態では第1導電型をn型、第2導電型をp型として説明するが、第1導電型がp型、第2導電型がn型であってもよい。
【0038】
(構造例1)
本構造例の半導体装置の製造方法を工程順に図17図23に沿って説明する。本製造方法は、
ワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)の一方の表面において、周辺耐圧構造部35となる範囲について前記表面から一定の深さまで第2導電型に変換して変換領域(第4半導体層4、5、6)を形成すること(図18)、
ワイドギャップ半導体層の前記表面の上に珪素半導体層(第3半導体層3)を形成すること(図19)、及び
珪素半導体層3から電極構造(第5半導体層10)を形成すること
を有しており、
前記電極構造の形成では、
珪素半導体層3の外側の端の活性領域部30からの位置が、活性領域部30に最も近い変換領域(第4半導体層4)であって、前記変換領域(第4半導体層4)の外側の端の活性領域部30からの位置より活性領域部30側にあるように、珪素半導体層3をエッチングで除去すること(図22
を特徴とする。
【0039】
図17は製造を開始する基板32を説明する図である。基板32は、第1導電型のn型炭化珪素半導体基板(第1半導体層)1に、それより不純物濃度が低い、第1導電型のn型炭化珪素半導体のドリフト層(第2半導体層)2を積層したものである。
【0040】
図18は、第2半導体層2中に変換領域である第4半導体層(4、5、6)を形成する工程を説明する図である。具体的には、第2半導体層2中に、p型不純物アルミニウムをイオン注入、1700℃のアニールし、活性領域部となる部分31に近い方から順に、第4半導体層(1段目)4、第4半導体層(2段目)5、第4半導体層(3段目)6を形成する。つまり、変換領域(第4半導体層(4、5、6))は第2半導体層2の一部であって、第2半導体層2の極性を変換させた領域である。なお、第4半導体層(4、5、6)の不純物濃度分布を図4で説明したようにイオン注入で調整する。
【0041】
図19は、ワイドギャップ半導体(第2半導体層2)と珪素半導体(第3半導体層3)とを貼り合わせる工程を説明する図である。具体的には、第2半導体層2の表面に第2導電型の珪素半導体(第3半導体層3)を積層する。
【0042】
図20は、第5半導体層10を形成する工程を説明する図である。具体的には、第3半導体層3の一部(活性領域部となる部分31の外周を囲む枠状の部分)に第2導電型の不純物ボロンをイオン注入し、1050℃のアニールすることで第5半導体層10を形成する。つまり、第5半導体層10は第3半導体層3の一部であって、第3半導体層3の極性を変換させた領域である。なお、第5半導体層10の外側の端は第4半導体層(1段目)4の外側の端より内側(活性領域部側)にある。
【0043】
図21は、各半導体層の不純物濃度分布の関係を説明する図である。
横軸は第3半導体層3と酸化膜7との界面からの深さ(図20において下方向)、縦軸は不純物濃度である。第2半導体層2と第3半導体層3との界面は1.0μmの深さにある。第4半導体層4と第5半導体層10の不純物濃度は深さが1.4μmまで1×1019cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。第4半導体層5の不純物濃度は深さが1.7μmまで2×1017cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。第4半導体層6の不純物濃度は深さが1.7μmまで1×1017cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。つまり、変換領域(第4半導体層(4、5、6))は、活性領域部となる部分31から外側に離れるに従い、段階的に不純物濃度が低下するJTE構造である。
【0044】
図22は、電極構造形成工程を説明する図である。具体的には、第5半導体層10の外側の第3半導体層3をエッチングで除去し、第3半導体層3として第5半導体層10のみを残し、電極構造とする。なお、本構造例では第2半導体層2のエッチングを行っていない。この状態を「トレンチ深さ0μm」と呼ぶ。
【0045】
図23は、最終工程及び周辺耐圧構造部35の構造を説明する図である。具体的には、第3半導体層3が除去されて表面に現れている第2半導体層2の上に層間絶縁膜7を堆積する。さらに、第5半導体層10の上面にソース電極8、第1半導体層1の裏面にドレイン電極9を形成する。本工程で、貼り合わせトレンチMOSの周辺耐圧構造部35が完成する。
【0046】
つまり、本半導体装置の周辺耐圧構造部35は、
ワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)の珪素半導体層(第3半導体層3)の側において第2導電型に変換された変換領域(第4半導体層4、5、6)と、
前記珪素半導体層(第3半導体層3)であって、活性領域部30から一定の位置より外側には珪素半導体層がない電極構造(第5半導体層10)と、で構成され、且つ
前記変換領域と前記電極構造とが電気的に接続されていることを特徴とする。
【0047】
(構造例2)
本構造例の半導体装置の製造方法は、構造例1の製造方法の一部を改変した方法である。本製造方法は、
ワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)の一方の表面において、周辺耐圧構造部35となる範囲のうち、活性領域30に接する部分については前記表面から一定の深さまで、他の部分については不純物濃度がレトログレードとなるように、第2導電型に変換して変換領域(第4半導体層4、5、6)を形成すること(図24)、
ワイドギャップ半導体層の前記表面の上に珪素半導体層(第3半導体層3)を形成すること(図26)、及び
珪素半導体層(第3半導体層3)から電極構造(第5半導体層10)を形成すること
を有しており、
前記電極構造の形成では、
珪素半導体層(第3半導体層3)の外側の端の活性領域部30からの位置が、活性領域部30に最も近い変換領域(第4半導体層4)であって、前記変換領域の外側の端の活性領域部30からの位置より活性領域部30側にあるように、珪素半導体層(第3半導体層3)からワイドギャップ半導体(第2半導体層2)に至るまでをエッチングで除去することを特徴とする。
【0048】
本構造例では、構造例1と異なる工程のみ説明する。
図24は、第2半導体層2中に変換領域である第4半導体層(4、5、6)を形成する工程を説明する図である。本構造例の製造方法では、第3半導体層3を除去する際に、活性領域部30におけるトレンチMOSのトレンチ溝を同時に形成するため、第2半導体層2の一部も削ることになる(図28)。このため、第4半導体層(2段目)5、第4半導体層(3段目)5については、削られる部分より下に不純物をイオン注入して形成する。その濃度分布は、図25に示すようなレトログレードの分布とし、図4よりイオン注入の深さを深くする。イオン注入後、1700℃のアニールがなされる。
【0049】
図25は、各半導体層の不純物濃度分布の関係を説明する図である。
横軸は第2半導体層2の表面からの深さ(図24において下方向)、縦軸は不純物濃度である。第4半導体層4の不純物濃度は深さが1.0μmまで1×1019cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。第4半導体層5の不純物濃度は深さが0.6μmから1.3μmまでの間で2×1017cm-3であり、それより浅くなる領域及びそれより深くなる領域では深さに従い不純物濃度が下がる。第4半導体層6の不純物濃度は深さが0.6μmから1.3μmまでの間で1×1017cm-3であり、それより浅くなる領域及びそれより深くなる領域では深さに従い不純物濃度が下がる。
本構造例でも変換領域(第4半導体層(4、5、6))は、活性領域部となる部分31から外側に離れるに従い、段階的に不純物濃度が低下するJTE構造である。
【0050】
図26は、ワイドギャップ半導体(第2半導体層2)と珪素半導体(第3半導体層3)とを貼り合わせる工程を説明する図である。具体的には、第2半導体層2の表面に第2導電型の珪素半導体(第3半導体層3)を積層する。
【0051】
図27は、第5半導体層10を形成する工程を説明する図である。構造例1と同様に、第3半導体層3の一部に第5半導体層10を形成する。第5半導体層10は第3半導体層3の一部であること、及び第5半導体層10の外側の端は第4半導体層(1段目)4の外側の端より内側(活性領域部側)にあることは構造例1と同様である。
【0052】
図28は、電極構造形成工程を説明する図である。本構造例では、活性領域部30のトレンチMOSのトレンチ溝と同時にエッチングするために、第3半導体層3と第2半導体層2の一部をエッチングで除去する。第3半導体層3として第5半導体層10のみを残し、電極構造とする。なお、本構造例では第2半導体層を0.6μmだけエッチングしている。この状態を「トレンチ深さ0.6μm」と呼ぶ。
【0053】
図29は、各半導体層の不純物濃度分布の関係を説明する図である。
横軸は第5半導体層10の表面からの深さ(図28において下方向)、縦軸は不純物濃度である。第2半導体層2と第3半導体層3との界面は1.0μmの深さにある。第4半導体層4と第5半導体層10の不純物濃度は深さが2.0μmまで1×1019cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。第4半導体層5の不純物濃度は深さが1.6μmから2.3μmまで2×1017cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。第4半導体層6の不純物濃度は深さが1.6μmから2.3μmまで1×1017cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。
【0054】
図30は、最終工程及び周辺耐圧構造部35の構造を説明する図である。具体的には、第3半導体層3と第2半導体層2の一部が除去され、その表面に現れている第2半導体層2の上に層間絶縁膜7を堆積する。さらに、第5半導体層10の上面にソース電極8、第1半導体層1の裏面にドレイン電極9を形成する。本工程で、貼り合わせトレンチMOSの周辺耐圧構造部35が完成する。
【0055】
(構造例3)
構造例1では、JTE構造の周辺耐圧構造部(トレンチ深さ0μm)を説明した。本構造例ではフィールドリミッティング構造の周辺耐圧構造部(トレンチ深さ0μm)を説明する。つまり、本構造例の半導体装置の変換領域は、活性領域部30から外側に向かって複数箇所に形成されているフィールドリミッティング構造であることを特徴とする。
【0056】
図31から図37は、本構造例の半導体装置の製造方法を説明する図である。変換領域が構造例1ではJTE構造であることに対し、本構造例ではフィールドリミッティング構造となる点以外は構造例1と同じ工程で製造することができる。
製造に使用する基板は図17で説明した基板と同じである。
図31は、第2半導体層2中に変換領域である複数の第4半導体層(13、14)を形成する工程を説明する図である。具体的には、第2半導体層2中に、p型不純物アルミニウムをイオン注入、1700℃のアニールすることで、複数個の第4半導体層(13、14)を形成する。図面では、活性領域部となる部分31に最も近い第4半導体層を“13”、それ以外を“14”と表示している。
【0057】
図32は、第4半導体層(13、14)の不純物濃度分布である。全ての第4半導体層(13、14)の不純物濃度分布は同じである。
横軸は第2半導体層2の表面からの深さ(図31において下方向)、縦軸は不純物濃度である。第4半導体層4の不純物濃度は深さが0.4μmまで1×1019cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。
【0058】
図33は、ワイドギャップ半導体(第2半導体層2)と珪素半導体(第3半導体層3)とを貼り合わせる工程を説明する図である。具体的には、第2半導体層2の表面に第2導電型の珪素半導体(第3半導体層3)を積層する。
【0059】
図34は、第5半導体層10を形成する工程を説明する図である。構造例1と同様に、第3半導体層3の一部に第5半導体層10を形成する。第5半導体層10は第3半導体層3の一部であること、及び第5半導体層10の外側の端は第4半導体層13の外側の端より内側(活性領域部側)にある。
【0060】
図35は、各半導体層の不純物濃度分布の関係を説明する図である。
横軸は第5半導体層10の表面からの深さ(図34において下方向)、縦軸は不純物濃度である。第2半導体層2と第3半導体層3との界面は1.0μmの深さにある。第4半導体層13と第5半導体層10の不純物濃度は深さが1.4μmまで1×1019cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。
【0061】
図36は、電極構造形成工程を説明する図である。図37は、最終工程及び周辺耐圧構造部35の構造を説明する図である。どちらの工程も構造例1と同様である。なお、本構造例のトレンチ深さは0μmである。
【0062】
(構造例4)
構造例2では、JTE構造の周辺耐圧構造部(トレンチ深さ0.6μm)を説明した。本構造例ではフィールドリミッティング構造の周辺耐圧構造部(トレンチ深さ0.6μm)を説明する。つまり、本構造例も、半導体装置の変換領域が、活性領域部30から外側に向かって複数箇所に形成されているフィールドリミッティング構造であることを特徴とする。
【0063】
図38図39は、本構造例の半導体装置の製造方法を説明する図である。変換領域が構造例2ではJTE構造であることに対し、本構造例ではフィールドリミッティング構造となる点以外は構造例2と同じ工程で製造することができる。
【0064】
図38は、最終工程及び周辺耐圧構造部35の構造を説明する図である。本構造例の半導体装置は、構造例2と同様に、2番目に活性領域部30に近い第4不純物層14、及びその外側の第4不純物層14の不純物濃度分布をレトログレードとする。なお、最も活性領域部30に近い第4不純物層13の不純物濃度分布はレトログレードではない。第3半導体層3の除去のときにトレンチMOSのトレンチ溝を同時に形成するため、第2半導体層2の一部を削ることになり、本半導体装置のトレンチ深さは0.6μmである。
【0065】
図39は、各半導体層の不純物濃度分布の関係を説明する図である。
横軸は第5半導体層10の表面からの深さ(図38において下方向)、縦軸は不純物濃度である。第2半導体層2と第3半導体層3との界面は1.0μmの深さにある。第4半導体層13と第5半導体層10の不純物濃度は深さが2.0μmまで1×1019cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。2段目及び3段目の第4半導体層14の不純物濃度は深さが1.6μmから2.3μmまで1×1019cm-3であり、それより深くなると深さに従い不純物濃度が下がる。なお、図39では、第4半導体層13と第4半導体層14の不純物濃度が同じ値なので重なっている。
【0066】
(構造例5)
本構造例の半導体装置の製造方法を工程順に図40図44に沿って説明する。本製造方法は、
ワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)珪素半導体層(第3半導体層3)とを貼り合わせた接合構造を形成すること(図40)、
周辺耐圧構造部35となる範囲において、活性領域部30側から一定の位置までの珪素半導体層(第3半導体層3)からイオン注入を行い、前記珪素半導体層の下のワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)の前記珪素半導体層側を第2導電型に変換して変換領域(第4半導体層15)を形成すること(図41)、
活性領域部30側から前記一定の位置より外側において、珪素半導体層(第3半導体層3)からワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)に至るまでをエッチングで除去すること(図42)、及び
活性領域部30側から前記一定の位置より外側に現れたワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)の表面から所定の深さまで第2導電型に変換して外側の変換領域(第4半導体層16)を形成すること(図43
を特徴とする。
【0067】
図40は、第1導電型のワイドギャップ半導体層と第2導電型の珪素半導体層とを接合した接合構造を説明する図である。第1半導体層1と第2半導体層2の基板において、第2半導体層2の表面に第3半導体層3を貼り合わせる。なお、図40のような接合構造が形成されている基板を用いて以下の工程を実施してもよい。
【0068】
図41は、第3半導体層3の一部にイオン注入を行う工程を説明する図である。具体的には、珪素半導体層3のうち、活性領域部30の外周を囲む一定の幅の枠の領域にボロンイオンを注入する。このイオン注入により第3半導体層3の前記枠の領域に第5半導体層10と第2半導体層2の前記枠の領域に第4半導体層(1段目高抵抗ガードリング層)15を同時に形成する。
【0069】
図42は、枠の外側の第3半導体層3をエッチングする工程を説明する図である。本構造例の製造方法では、第3半導体層3を除去する際に、活性領域部30におけるトレンチMOSのトレンチ溝を同時に形成するため、第2半導体層2の一部も削ることになる。なお、本半導体装置のトレンチ深さは0.6μmである。
【0070】
図43は、第2半導体層2中に変換領域である第4半導体層16を形成する工程を説明する図である。具体的には、前記枠の外側の第2半導体層の一部に、ボロンイオンを注入して1050℃のアニールし、第4半導体層(2段目高抵抗ガードリング層)16を形成する。なお、第4半導体層15と第4半導体層16を合せて「変換領域」と呼ぶ。そして、前記変換領域は、比抵抗が100Ωcm以上の高抵抗であることを特徴とする。
【0071】
図23は、最終工程を説明する図である。具体的には、第3半導体層3が除去されて表面に現れている第2半導体層2の上に層間絶縁膜7を堆積する。さらに、第5半導体層10の上面にソース電極8、第1半導体層1の裏面にドレイン電極9を形成する。本工程で、貼り合わせトレンチMOSの周辺耐圧構造部35が完成する。
【0072】
なお、ワイドギャップ半導体が窒化ガリウム系の半導体材料の場合、前述のp型不純物としてマグネシウムをイオン注入し、1万気圧の窒素中で加熱処理を行う。また、ワイドギャップ半導体が酸化ガリウム半導体である場合、前述のp型不純物の層(変換領域)を酸化イリジウムをCVDにて堆積することで形成する。
【0073】
(ゲート構造)
図69は、活性領域部30に形成されるゲート構造を説明する図である。前記ゲート構造は、珪素半導体層(第3半導体層3)からワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)と珪素半導体層(第3半導体層3)との接合面を貫通してワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)まで至る縦型トレンチ構造である。
【0074】
前記ゲート構造は、前記縦型トレンチの少なくとも内側の表面に設けられたゲート絶縁膜17と、ゲート絶縁膜17で埋めきれなかった縦型トレンチの穴を埋め込む電極層18と、ゲート電極20を有する。電極層18は第1導電型のポリシリコンである。さらに、前記ゲート構造は、前記縦型トレンチの下部に第2導電型の第4半導体層19を有する。第4半導体層19は周辺耐圧構造部35の第4半導体層(4、13、15)と接する。
【0075】
図70から図74は、前記ゲート構造を形成するための工程を説明する図である。図69のゲート構造は、上記の構造例全ての活性領域部に配置することができるが、特に構造例2、4及び5の場合、ゲート構造を周辺耐圧構造部35と同時に形成することができる。
【0076】
構造例2、4の場合、電極構造(第5半導体層10)を形成するときに、同時に
活性領域部となる範囲31において前記ゲート構造が縦型トレンチ構造となるように珪素半導体層(第3半導体層3)をワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)に至るまでをエッチングで除去し、トレンチを形成すること、及び
前記電極構造を形成した後に、
周辺耐圧構造部35において、前記エッチングで現れたワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)のエッチング面に絶縁膜7を形成することと、活性領域部30において、前記トレンチの内壁に絶縁膜17を形成することを同時に行うこと
を特徴とする。
【0077】
構造例5の場合、前記イオン注入を行うときに、活性領域部となる範囲31において前記ゲート構造が形成される範囲もワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)の珪素半導体層(第3半導体層3)側を第2導電型に変換すること、
前記エッチングを行うときに、活性領域部となる範囲31において前記ゲート構造が縦型トレンチ構造となるように珪素半導体層(第3半導体層3)をワイドギャップ半導体層(第2半導体層2)に至るまでを除去し、トレンチを形成すること、及び
周辺耐圧構造部35において、前記エッチングで現れた前記ワイドギャップ半導体層のエッチング面に絶縁膜7を形成することと、活性領域部30において、前記トレンチの内壁に絶縁膜17を形成することを同時に行うこと
を特徴とする。
【0078】
図70は、図24で説明した周辺耐圧構造部35の状態における活性領域部となる部分31を説明する図である。部分31には、縦型トレンチの底部となる第4半導体層19のためのイオン注入部19bが変換領域(第4半導体層(4、13、15))とともに形成される。
図71は、図26で説明した周辺耐圧構造部35の状態における活性領域部となる部分31を説明する図である。部分31にも第2導電型の珪素半導体(第3半導体層3)が積層される。
図72は、図27で説明した周辺耐圧構造部35の状態における活性領域部となる部分31を説明する図である。周辺耐圧構造部35には第5半導体層10となる部分にボロンが注入されるが、部分31にはボロンは注入されない。
図73は、図28で説明した周辺耐圧構造部35の状態における活性領域部となる部分31を説明する図である。周辺耐圧構造部35において第3半導体層3と第2半導体層2の一部をエッチングで除去するときに、同時に部分31のトレンチを形成する。
図74は、図30で説明した周辺耐圧構造部35の状態における活性領域部となる部分31を説明する図である。周辺耐圧構造部35において層間絶縁膜7を堆積するときに、同時に前記トレンチの内壁と底部にゲート酸化膜17を形成する。
さらに、第5半導体層10の上面にソース電極8を形成するときに、同時に電極層18とゲート電極20を形成し、周辺耐圧構造部35の完成とともに図69のゲート構造も完成する。
【0079】
(効果1)
構造例1の周辺耐圧構造部35についての効果を説明する。当該効果を確認するために、第1導電型のn型炭化珪素半導体基板(第1半導体層1)の濃度を1.0×1019cm-3、第1導電型のn型炭化珪素半導体のドリフト層(第2半導体層2)の濃度を2.0×1016cm-3、膜厚を5.5μm、第2導電型のp型珪素半導体(第3半導体層3)の1.0×1017cm-3、膜厚を1.0μmとする。第4半導体層(4、5、6)と第5半導体層10の不純物濃度分布は図21の通りである。第5半導体層10の幅(図23において横方向の長さ)は2.0μm、第4半導体層4の幅は5.0μm、第4半導体層5の幅は50μm、第4半導体層6の幅は50μmとする。
【0080】
この周辺耐圧構造部35について、耐圧特性のシミュレーション(VS=0V)を行った。なお、珪素半導体(第3半導体層3)と酸化膜の界面準位を1.0×1011cm-2と炭化珪素半導体(第2半導体層2)と酸化膜の界面準位を2.0×1012cm-2、炭化珪素半導体(第2半導体層2)と珪素半導体(第3半導体層3)の界面準位を2.0×1012cm-2とした。
【0081】
図45は、その耐圧特性の結果を説明する図である。耐圧は本デバイスの定格耐圧650Vを超えた、約1,010Vであることがわかる。図46は、約1,010V時の電界強度分布のシミュレーション結果を説明する図である。電界強度が、第4半導体層4、第4半導体層5、第4半導体層6の順に低下して、各々の層ごとにほぼ均一である。構造例1の周辺耐圧構造部35は、電界を第4半導体層(4、5、6)それぞれに分散させることで約1,010Vの耐圧が得られている。
【0082】
(効果2)
構造例2の周辺耐圧構造部35についての効果を説明する。第4半導体層(4、5、6)及び第5半導体層10の不純物濃度分布は図29の通りである。第2半導体層2の一部をエッチングする(トレンチの深さは第2半導体層から0.6μm)以外の条件は効果1(構造例1)と同じ条件にて耐圧特性のシミュレーション(VS=0V)を行った。
【0083】
図47は、その耐圧特性の結果を説明する図である。耐圧は本デバイスの定格耐圧650Vを超えた、約960Vであることがわかる。図48は、約960V時の電界強度分布のシミュレーション結果を説明する図である。電界強度が、第4半導体層4、第4半導体層5、第4半導体層6の順に低下して、各々の層ごとにほぼ均一である。構造例2の周辺耐圧構造部35は、電界を第4半導体層(4、5、6)それぞれに分散させることで約960Vの耐圧が得られている。
【0084】
(効果3)
構造例3の周辺耐圧構造部35についての効果を説明する。第1半導体層1、第2半導体層2、及び第3半導体層3の条件は効果1及び2(構造例1及び2)の条件と同じである。第5半導体層10の幅を5.0μm、活性領域部30に最も近い第4半導体層13の幅を7.0μm、それ以外の第4半導体層14の幅を1.7μmとしている。第4半導体層(13、14)及び第5半導体層10の不純物濃度分布は図35の通りである。また、第4半導体層(13、14)は合わせて20本とし、第4半導体層の間隔は活性領域部側から外側に向かって0.8μmから1.3μmへ変化させている。その他の条件は効果1(構造例1)と同じ条件にて耐圧特性のシミュレーション(VS=0V)を行った。第4半導体層20本の周辺構造について、耐圧特性のシミュレーション(VS=0V)を行った。
【0085】
図49は、その耐圧特性の結果を説明する図である。耐圧は本デバイスの定格耐圧650Vを超えた、約990Vであることがわかる。図50は、990V時の電界強度分布のシミュレーション結果を説明する図である。構造例3の周辺耐圧構造部35は、各第4半導体層(13、14)に電界を分散させることで約990Vの耐圧が得られている。
【0086】
(効果4)
構造例4の周辺耐圧構造部35についての効果を説明する。第4半導体層(13、14)及び第5半導体層10の不純物濃度分布は図39の通りであること、及び第2半導体層の一部をエッチングする(トレンチの深さは第2半導体層から0.6μm)こと以外は、効果3(構造例3)と同じ条件にて、耐圧特性のシミュレーション(VS=0V)を行った。
【0087】
図51は、その耐圧特性の結果を説明する図である。耐圧は本デバイスの定格耐圧650Vを超えた、約920Vであることがわかる。図52は、920V時の電界強度分布のシミュレーション結果を説明する図である。構造例4の周辺耐圧構造部35は、各第4半導体層(13、14)に電界を分散させることで約920Vの耐圧が得られている。
【0088】
(効果5)
構造例5の周辺耐圧構造部35についての効果を説明する。第1半導体層1、第2半導体層2、及び第3半導体層3の条件は効果1及び2(構造例1及び2)の条件と同じである。第4半導体層第15の幅を5.0μm、第4半導体層16の幅を100μmとし、第2半導体層の一部をエッチングする深さは第2半導体層から0.6μm(トレンチの深さは第2半導体層から0.6μm)とした。その他の条件は効果1(構造例1)と同じ条件とし、耐圧特性のシミュレーション(VS=0V)を行った。
【0089】
図53は、その耐圧特性の結果を説明する図である。耐圧は本デバイスの定格耐圧650Vを超えた、約900Vであることがわかる。図54は、約900V時の電界強度分布のシミュレーション結果を説明する図である。不純物濃度は第4半導体層15、第4半導体層16の順で低下する。第4半導体層(15、16)の直下の第2半導体層2の電界強度は、第4半導体層(15、16)の不純物濃度順に低下する。そして、各々の層の電界強度はそれぞれの層においてほぼ均一である。構造例5の周辺耐圧構造部35は、各第4半導体層(15、16)に電界を分散させることで約900Vの耐圧が得られている。
【0090】
(考察1)
図55は、前述した構造例1から5の周辺耐圧構造部35について、第2半導体層2と第3半導体層3の界面における界面準位と耐圧の関係をシミュレーションした結果を説明する図である。構造例1から4の周辺耐圧構造部35では界面準位の大きさで耐圧は変わらない。一方、構造例5の周辺耐圧構造部35では、界面準位が増えるにつれて耐圧が低下し、界面準位が1.0×1014cm-2において定格耐圧650Vを下回る。
【0091】
図56は、珪素半導体と炭化珪素半導体の界面における界面準位が(A)2.0×1012cm-2、(B)2.0×1013cm-2、(C)5.0×1013cm-2、(D)1.0×1014cm-2の時の活性領域部30付近の周辺耐圧構造部35の電界強度分布を説明する図である。図56より、界面準位上昇により珪素半導体と炭化珪素半導体の接する周辺構造の電界強度が低下するため、界面準位が増えるにつれて耐圧が低下することがわかる。
【0092】
なお、この現象が構造例1から4の周辺耐圧構造部35でみられないのは、第5半導体層10と接する第4半導体層(4、13)の不純物濃度を必ず高濃度に設定しているため、界面準位電荷の影響を受けにくいと推測される。構造例5の周辺耐圧構造部35の場合、図41で説明したように、第2半導体層2と第3半導体層3に同時にボロン注入を行い、第4半導体層15と第5半導体層10を一括して作成するため、第4半導体層15の不純物濃度を高濃度とすることが困難である。
【0093】
(考察2)
図57は、構造例1の周辺耐圧構造部35に対する比較例を説明する図である。当該比較例の構造部は、第4半導体層4の外周4aが第5半導体層10の外周10aより内側(活性領域部30側)にあることが構造例1の周辺耐圧構造部35と異なる。図58は、第2半導体層2と第3半導体層3の界面における界面準位と耐圧の関係をシミュレーションした結果を説明する図である。界面準位が5.0×1013cm-2、及び1.0×1014cm-2の時に耐圧が極端に低下している。
【0094】
図59は、界面準位が5.0×1013cm-2、ドレイン電圧が0.4Vの時の比較例の構造における電流分布を説明する図である。ソース電極8からの電子が、第5半導体層10と第4半導体層4との界面、第5半導体層10と第4半導体層5との界面、層間絶縁膜7と第4半導体層5との界面、層間絶縁膜7と第4半導体層6との界面を経由し、第2半導体層2、第1半導体層1、ドレイン電極9へ流れていることがわかる。このことより、当該比較例の構造部では逆方向に電流が流れることがあり、耐圧の低下が発生しているといえる。従って、周辺耐圧構造部35は、図23のように、電極構造(第5半導体層10)の外周10aは、変換領域のうち活性領域部30に接している不純物濃度が最も高い領域(第4半導体層4)の外周4aより内側にあることが求められる。
【0095】
なお、構造例2~4の周辺耐圧構造部35でも同様である。すなわち、構造例2の周辺耐圧構造部35は、図30のように、電極構造(第5半導体層10)の外周は、変換領域のうち活性領域部30に接している不純物濃度が最も高い領域(第4半導体層4)の外周より内側にあることが求められる。構造例3及び4の周辺耐圧構造部37は、図37及び図38のように、電極構造(第5半導体層10)の外周は、前記フィールドリミッティング構造のうち活性領域部30に最も近い第1段目の変換領域(第4半導体層13)の外周より内側にあることが求められる。
【0096】
(考察3)
図60は、構造例5の周辺耐圧構造部35に対する比較例を説明する図である。当該比較例の構造部は、トレンチ深さが0μmであることが構造例5の周辺耐圧構造部35と異なる。図61は、第2半導体層2と第3半導体層3の界面における界面準位と耐圧の関係をシミュレーションした結果を説明する図である。界面準位が5.0×1013cm-2、及び1.0×1014cm-2の時に耐圧が極端に低下している。
【0097】
図62は、界面準位が5.0×1013cm-2、ドレイン電圧が0.6Vの時の比較例の構造における電流分布を説明する図である。電流はドレイン電極9から、第1半導体層1、第2半導体層2、第4半導体層16、第5半導体層10、第3半導体層3、ソース電極8まで流れることがわかる。図61及び図62より、図60の構造の場合、第2半導体層2と第3半導体層3の界面における界面準位が耐圧に影響するので、その設定に注意することが必要である。
【0098】
(考察4)
図63は、構造例1の周辺耐圧構造部35を備える半導体装置301を説明する図である。半導体装置301は、第4半導体層4の活性領域部側の端が活性領域部30の境界であるトレンチと接していること、且つ第5半導体層10の活性領域部側の端が当該トレンチに接していないことが特徴である。第5半導体層10の活性領域部側の端と当該トレンチとの距離Δは1.0μmである。
【0099】
図64は、図64の半導体装置に対する比較例を説明する図である。比較例の半導体装置302は、第5半導体層10の活性領域部側の端が活性領域部30の境界であるトレンチと接していること、且つ第4半導体層4の活性領域部側の端が当該トレンチに接していないことが特徴である。第4半導体層4の活性領域部側の端と当該トレンチとの距離Δは1.0μmである。
【0100】
図65は、両半導体装置について、第2半導体層2と第3半導体層3の界面における界面準位と耐圧の関係をシミュレーションした結果を説明する図である。なお、これらのシミュレーションは他のシミュレーションと同様、トレンチ界面を省略して実施した。半導体装置301は、界面準位によって耐圧は変化しなかった。一方、半導体装置302は、界面準位が2.0×1012cm-2において約300V、5.0×1012cm-2において約100Vの耐圧しかなく、1.0×1013cm-2以上において短絡していた。
【0101】
図66は、半導体装置301における、界面準位が2.0×1012cm-2の場合にドレイン電極9に約1020Vを印加した時の電界強度分布を説明する図である。図46と同様に、電界強度が、第4半導体層(4、5、6)の不純物濃度の順に低下して、各々の層ごとにほぼ均一である。半導体装置301は、電界を第4半導体層(4、5、6)それぞれに分散させている。
【0102】
図67は、半導体装置302における、界面準位が2.0×1012cm-2の場合にドレイン電極9に約300Vを印加した時の電界強度分布を説明する図である。電界強度の最も高い箇所が第4半導体層6の最も外側の部分にあらわれる。その電界強度は炭化珪素半導体の絶縁破壊電界の約2分の1程度であるので、電界を十分に分散させていない。
【0103】
図68は、半導体装置302における、ドレイン電極9に約300Vを印加した時の電流分布を説明する図である。電流はドレイン電極9から、第2半導体層2、活性領域部と第4半導体層4との間、第5半導体層10を経て、ソース電極8に流れている。これらのことから、半導体装置302では、第5半導体層10と第2半導体層2が接しているため、第2半導体層2と第3半導体層3の界面における界面準位の欠陥が多いほどソース電極8から電子を捕獲し、放出しやすくなる(つまり耐圧が低下する)と推測される。
【0104】
図64から図68のシミュレーション結果より、半導体装置において、耐圧を維持するために活性領域部30と変換領域(第4半導体層4)とが接触していることが必要であり、活性領域部30と電極構造(第5半導体層10)とは接触していなくてもよいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る半導体装置の周辺耐圧構造は、高耐圧で高チャネル移動度を有する高耐圧パワーデバイス、特に、MOSFET、あるいはIGBT回路などのゲート絶縁膜を用いる半導体装置の周辺構造に適用することができる。
【符号の説明】
【0106】
1:第1半導体層
2:第2半導体層(ワイドギャップ半導体層、ドリフト層)
3:第3半導体層(珪素半導体層)
4:第4半導体層の1段目
4a:第4半導体層4の外周
5:第4半導体層の2段目
6:第4半導体層の3段目
7:層間絶縁膜
8:ソース電極
9:ドレイン電極
10:活性化領域と接する第5半導体層の1段目
10a:第5半導体層10の外周
11:第5半導体層の2段目
12:第5半導体層の3段目
13:第4半導体層(最も活性領域部に近いもの)
14:第4半導体層
15:第4半導体層(1段目高抵抗ガードリング層)
16:第4半導体層(2段目高抵抗ガードリング層)
17:ゲート絶縁膜
18:電極層
19:第4半導体層(縦型トレンチの底部)
19b:イオン注入部
20:ゲート電極
30:活性領域部
31:活性領域部となる部分
35:周辺耐圧構造部
301、302:半導体装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
図49
図50
図51
図52
図53
図54
図55
図56
図57
図58
図59
図60
図61
図62
図63
図64
図65
図66
図67
図68
図69
図70
図71
図72
図73
図74