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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150279
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】移動体制御システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
G08G1/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063622
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 秀成
(72)【発明者】
【氏名】井上 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】田向 権
(72)【発明者】
【氏名】福田 有輝也
(72)【発明者】
【氏名】三井 悠也
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC14
5H181FF14
5H181FF27
5H181LL09
5H181LL15
5H181MB02
(57)【要約】
【課題】移動体の周囲のリスクを適切に評価することができる技術を提供する。
【解決手段】移動体制御システムは、移動体に搭載された外界センサによる検出結果に基づいて、複数の単位エリアに分割されたエリアの標高地図を取得する。移動体制御システムは、標高地図に基づいて、単位エリア毎に、隣接する単位エリアに対する路面の傾斜を算出する。移動体制御システムは、単位エリア毎に、傾斜に基づいてリスク度合いを算出し、リスク度合いに基づいて移動体の走行を制御する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を制御する移動体制御システムであって、
1又は複数のプロセッサを備え、
前記1又は複数のプロセッサは、
前記移動体に搭載された外界センサによる検出結果に基づいて、複数の単位エリアに分割されたエリアの標高地図を取得し、
前記標高地図に基づいて、単位エリア毎に、隣接する単位エリアに対する路面の傾斜を算出し、
単位エリア毎に、前記傾斜に基づいてリスク度合いを算出し、
前記リスク度合いに基づいて、前記移動体の走行を制御する
ように構成された
移動体制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体制御システムであって、
検知エリアは、前記外界センサによる検知度合いが所定レベル以上である単位エリアであり、
未検知エリアは、前記外界センサによる前記検知度合いが前記所定レベル未満である単位エリアであり、
前記1又は複数のプロセッサは、更に、
前記外界センサによる前記検出結果に基づいて、前記検知エリアにおける標高である第1標高の情報を取得し、
前記未検知エリアの周辺の前記検知エリアにおける前記第1標高に基づいて、前記未検知エリアにおける標高である第2標高を推定し、
前記検知エリアにおける前記第1標高と前記未検知エリアにおける前記第2標高を示す前記標高地図に基づいて、前記傾斜を算出する
ように構成された
移動体制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の移動体制御システムであって、
前記1又は複数のプロセッサは、更に、ベイズ一般化カーネル推論を前記未検知エリアに適用することによって、前記未検知エリアの周辺の前記検知エリアにおける前記第1標高から前記未検知エリアにおける前記第2標高を推定するように構成された
移動体制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載の移動体制御システムであって、
前記1又は複数のプロセッサは、更に、ベイズ一般化カーネル推論を前記検知エリアにも適用することによって、前記検知エリアにおける前記第1標高を補正するように構成された
移動体制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載の移動体制御システムであって、
前記1又は複数のプロセッサは、更に、前記検知エリアに対する前記ベイズ一般化カーネル推論のウィンドウサイズを、前記未検知エリアに対する前記ベイズ一般化カーネル推論のウィンドウサイズよりも小さく設定するように構成された
移動体制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、自動運転のための機械学習用教師データを収集する教師データ収集装置を開示している。教師データ収集装置は、車両に搭載したカメラによって収集される外部環境情報を取得し、ラベルを付与する。
【0003】
非特許文献1は、LIDARにより計測される点群データにベイズ一般化カーネル(Bayesian Generalized Kernel: BGK)推論を適用することによって標高を推定する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/116423号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Shan, J. Wang, B. Englot, and K. Doherty, “Bayesian Generalized Kernel Inference for Terrain Traversability Mapping,” in Conference on Robot Learning, pp. 829-838, PMLR, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
移動体に搭載される外界センサは、移動体の走行制御に利用される。例えば、外界センサによる検出結果に基づいて移動体の周囲のリスクが認識される。そして、認識されたリスクに基づいて、走行可能性(traversability)が推定される。あるいは、認識されたリスクに基づいて、移動体の目標経路が決定される。移動体の走行制御の精度を向上させるためには、移動体の周囲のリスクを適切に評価することが必要である。
【0007】
本開示の1つの目的は、移動体の周囲のリスクを適切に評価することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の観点は、移動体を制御する移動体制御システムに関する。
移動体制御システムは、1又は複数のプロセッサを備える。
1又は複数のプロセッサは、
移動体に搭載された外界センサによる検出結果に基づいて、複数の単位エリアに分割されたエリアの標高地図を取得し、
標高地図に基づいて、単位エリア毎に、隣接する単位エリアに対する路面の傾斜を算出し、
単位エリア毎に、傾斜に基づいてリスク度合いを算出し、
リスク度合いに基づいて、移動体の走行を制御する
ように構成される。
【0009】
本開示の第2の観点は、第1の観点において、更に次の特徴を有する。
検知エリアは、外界センサによる検知度合いが所定レベル以上である単位エリアである。
未検知エリアは、外界センサによる検知度合いが所定レベル未満である単位エリアである。
1又は複数のプロセッサは、更に、
外界センサによる検出結果に基づいて、検知エリアにおける標高である第1標高の情報を取得し、
未検知エリアの周辺の検知エリアにおける第1標高に基づいて、未検知エリアにおける標高である第2標高を推定し、
検知エリアにおける第1標高と未検知エリアにおける第2標高を示す標高地図に基づいて、傾斜を算出する
ように構成される。
【0010】
本開示の第3の観点は、第2の観点において、更に次の特徴を有する。
1又は複数のプロセッサは、更に、ベイズ一般化カーネル推論を未検知エリアに適用することによって、未検知エリアの周辺の検知エリアにおける第1標高から未検知エリアにおける第2標高を推定するように構成される。
【0011】
本開示の第4の観点は、第3の観点において、更に次の特徴を有する。
1又は複数のプロセッサは、更に、ベイズ一般化カーネル推論を検知エリアにも適用することによって、検知エリアにおける第1標高を補正するように構成される。
【0012】
本開示の第5の観点は、第4の観点において、更に次の特徴を有する。
1又は複数のプロセッサは、更に、検知エリアに対するベイズ一般化カーネル推論のウィンドウサイズを、未検知エリアに対するベイズ一般化カーネル推論のウィンドウサイズよりも小さく設定するように構成される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、グリッド毎に、隣接グリッドに対する路面の傾斜が算出される。そして、その傾斜に基づいて、グリッド毎のリスク度合いが算出される。これにより、リスク度合いをより適切に算出することが可能となる。すなわち、リスクをより適切に評価することが可能となる。その結果、リスクに基づいて行われる移動体の走行制御の精度も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施の形態に係る車両制御システムの概要を説明するための概念図である。
図2】第1の実施の形態に係る車両制御システムの構成例を示すブロック図である。
図3】第1の実施の形態に係るリスク評価処理の例を説明するための概念図である。
図4】第2の実施の形態に係る処理例を説明するための概念図である。
図5】第3の実施の形態に係る処理例を説明するための概念図である。
図6】第4の実施の形態に係る処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
地上を自律的に移動可能な移動体について考える。移動体としては、車両、ロボット、等が例示される。車両は、自動運転車両であってもよい。一例として、以下の説明においては、移動体が車両である場合について考える。一般化する場合には、以下の説明における「車両」を「移動体」で読み替えるものとする。
【0016】
1.第1の実施形態
1-1.車両制御システムの概要
図1は、第1の実施の形態に係る車両制御システム10の概要を説明するための概念図である。車両制御システム10は、車両1を制御する。例えば、車両制御システム10は、車両1の自動走行を制御する。例えば、車両制御システム10は、目的地に向かう目標経路を決定し、目標経路に追従するように車両1の自動走行を制御する。
【0017】
車両1の周囲には、車両1の走行を妨げるリスクが存在する可能性がある。例えば、障害物が、車両1の走行を妨げるリスクとなる。そのようなリスクは、車両1に搭載された外界センサによる検出結果に基づいて認識される。そして、認識されたリスクを回避するように目標経路が算出される。あるいは、認識されたリスクに基づいて走行可能性(traversability)が推定されてもよい。
【0018】
車両1が未知の環境を走行する場合もある。例えば、車両1が広大な不整地(uneven surface, uneven terrain)を走行する場合もある。不整地をオフロードと呼ぶこともできる。未舗装の不整地には、白線は存在しない。その代わり、不整地には、岩石、樹木、急坂、崖、丘陵、谷、穴、等、車両1の走行を妨げるリスクが存在する可能性がある。
【0019】
車両制御システム10は、リスクの大きさを定量的に示す「リスク度合い(リスクレベル)」を算出する。より詳細には、車両1の周囲のエリアは格子状に分割される。分割により得られる単位エリアを、以下、「グリッド」と呼ぶ。例えば、各グリッドの形状は正方形である。車両制御システム10は、外界センサによる検出結果に基づいて、グリッド毎にリスク度合いを算出する。そして、車両制御システム10は、算出されたリスク度合いに基づいて、走行可能性を推定したり、目標経路を決定したりする。
【0020】
車両1の走行制御の精度を向上させるためには、車両1の周囲のリスクを適切に評価する、すなわち、リスク度合いを適切に算出することが必要である。そのための一手法が後のセクション1-3において説明される。
【0021】
1-2.車両制御システムの構成例
図2は、車両制御システム10の構成例を示すブロック図である。典型的には、車両制御システム10は、車両1に搭載されている。車両制御システム10は、センサ群20、走行装置30、及び制御装置100を含んでいる。
【0022】
センサ群20は、車両1に搭載されている。センサ群20は、車両1の周囲の状況を認識する外界センサ21(認識センサ)を含んでいる。外界センサ21としては、カメラ、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ、等が例示される。また、センサ群20は、車両1の状態を検出する内界センサ22(車両状態センサ)を含んでいる。内界センサ22は、速度センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、舵角センサ、等を含んでいる。
【0023】
走行装置30は、車両1を走行させる。より詳細には、走行装置30は、操舵装置、駆動装置、及び制動装置を含んでいる。操舵装置は、車両1の車輪を転舵する。駆動装置としては、エンジン、電動機、インホイールモータ、等が例示される。制動装置は、制動力を発生させる。走行装置30は、キャタピラにより車両1を走行させてもよい。
【0024】
制御装置100は、車両1を制御するコンピュータである。制御装置100は、1又は複数のプロセッサ110(以下、単にプロセッサ110と呼ぶ)と1又は複数の記憶装置120(以下、単に記憶装置120と呼ぶ)を含んでいる。プロセッサ110は、各種処理を実行する。記憶装置120は、プロセッサ110による処理に必要な各種情報を格納する。
【0025】
車両制御プログラム130は、プロセッサ110によって実行されるコンピュータプログラムである。プロセッサ110が車両制御プログラム130を実行することにより、制御装置100の機能が実現される。車両制御プログラム130は、記憶装置120に格納される。あるいは、車両制御プログラム130は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。
【0026】
制御装置100は、センサ群20を用いて、車両1の運転環境を示す運転環境情報200を取得する。運転環境情報200は、記憶装置120に格納される。運転環境情報200は、周辺状況情報、車両状態情報、地図情報、等を含んでいる。
【0027】
周辺状況情報は、外界センサ21による検出結果を示す情報であり、車両1の周囲の状況を示す。例えば、周辺状況情報は、カメラによって撮像される画像情報を含む。他の例として、周辺状況情報は、LIDARによって得られる点群情報を含む。周辺状況情報は、更に、車両1の周囲の物体に関する物体情報を含んでいる。物体は、車両1の走行を妨げる障害物を含む。物体情報は、車両1に対する物体の相対位置及び相対速度を示す。例えば、カメラによって得られた画像情報を解析することによって、物体を識別し、その物体の相対位置を算出することができる。また、LIDARによって得られた点群情報に基づいて、物体を識別し、その物体の相対位置と相対速度を取得することもできる。
【0028】
車両状態情報は、車両1の状態を示す情報であり、内界センサ22から得られる。車両1の状態としては、速度、加速度、ヨーレート、舵角、等が挙げられる。
【0029】
地図情報は、車両1が走行するエリアの地図である。車両1が走行するエリアは、少なくとも車両1の出発地と目的地を含んでいる。
【0030】
また、制御装置100は、外界センサ21による検出結果に基づいて、標高地図300を取得する。標高地図300は、標高(elevation)の2次元地図である。標高地図300は、DEM(Digital Elevation Model)あるいはDTM(Digital Terrain Model)とも呼ばれる。制御装置100は、上述の周辺状況情報(すなわち、外界センサ21による検出結果)に基づいて、車両1の周囲のエリアの標高を算出して標高地図300を取得することができる。例えば、制御装置100は、LIDARによって得られた点群情報に基づいて、車両1の周囲のエリアの点群の標高を算出して標高地図300を取得することができる。標高地図300は、記憶装置120に格納される。
【0031】
更に、制御装置100は、車両1の走行を制御する車両走行制御を実行する。車両走行制御は、操舵制御、加速制御、及び減速制御を含む。制御装置100は、走行装置30を制御することによって車両走行制御を実行する。
【0032】
更に、制御装置100は、運転環境情報200と標高地図300に基づいて自動運転制御を行う。より詳細には、制御装置100は、運転環境情報200と標高地図300に基づいて、グリッド毎にリスク度合いを算出する。そして、制御装置100は、算出されたリスク度合いに基づいて、車両1の走行を制御する。具体的には、制御装置100は、算出されたリスク度合いに基づいて、走行可能性を推定する。更に、制御装置100は、算出されたリスク度合いや走行可能性に基づいて、目標経路を決定する。そして、制御装置100は、車両1が目標経路に追従するように車両走行制御を行う。
【0033】
車両走行制御の精度を向上させるためには、車両1の周囲のリスクを適切に評価する、すなわち、リスク度合いを適切に算出することが必要である。以下、リスク度合いを適切に算出することができる手法について説明する。
【0034】
1-3.傾斜に基づくリスク評価
図3は、本実施の形態に係るリスク評価処理を説明するための概念図である。本実施の形態によれば、車両1が走行する路面の「傾斜」を考慮することによりリスク度合いが算出される。傾斜が大きいほど、リスク度合いは高い。つまり、傾斜が大きい位置のリスク度合いは、傾斜が小さい位置のリスク度合いよりも高くなるように算出される。
【0035】
より詳細には、制御装置100は、標高地図300に基づいて、グリッド毎の標高の情報を取得する。例えば、標高地図300は、LIDARによって計測された点群の標高を示しており、制御装置100は、点群の標高を取得する。それら点群の標高から、グリッド毎の最大標高(最高標高)と最小標高(最低標高)の情報を取得することもできる。
【0036】
そして、制御装置100は、グリッド毎に、隣接するグリッドに対する路面の傾斜を算出する。傾斜算出の向きは、図3中の矢印で示されている通りであり、車両1から離れる方向である。例えば、傾斜算出対象であるグリッドp(着目グリッド)と、傾斜算出の向きにおいてグリッドpと隣接する隣接グリッドp’について考える。制御装置100は、グリッドpと隣接グリッドp’の各々の最大標高と最小標高を取得する。そして、制御装置100は、標高差が最大となるようなグリッドpの標高pzと隣接グリッドp’の標高p’zのペアを取得する。この場合、グリッドpから見た隣接グリッドp’への傾斜(angle(p,p'))は、図3中の式(1)で表される。dは、グリッド間の距離である。但し、逆正接関数は計算コストが高いため、式(1)を線形近似することにより得られる式(2)が用いられてもよい。α及びβは、線形近似により得られる係数である。制御装置100は、式(1)あるいは式(2)に基づいて、グリッドpに関する傾斜を算出する。
【0037】
車両1からみて斜め方向のグリッドpに関しては、3つの隣接グリッドp1’,p2’,p3’が存在する。この場合、制御装置100は、3つの隣接グリッドp1’,p2’,p3’のそれぞれに対する3種類の傾斜を算出する。そして、制御装置100は、算出された3種類の傾斜のうち最も大きいものを、グリッドpに関する傾斜として選択する。
【0038】
更に、制御装置100は、グリッド毎の傾斜に基づいて、グリッド毎のリスク度合いを算出する。このとき、制御装置100は、傾斜が大きいグリッドほどリスク度合いを高く算出する。例えば、制御装置100は、図3中の式(3)に従ってリスク度合い(risk)を算出する。式(3)中のmax angleは、車両1が走破可能な限界傾斜角であり、予め定められる。つまり、制御装置100は、傾斜をmax angleで正規化することによってリスク度合いを算出する。傾斜が大きいグリッドのリスク度合いは、傾斜が小さいグリッドのリスク度合いよりも高くなる。
【0039】
1-4.効果
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、グリッド毎に、隣接グリッドに対する路面の傾斜が算出される。そして、その傾斜に基づいて、グリッド毎のリスク度合いが算出される。比較例として、グリッド内の標高だけが当該グリッドのリスク度合いの算出に用いられる場合、隣接グリッドとの関係が考慮されないため、リスクが過小評価されるおそれがある。本実施の形態のように、隣接グリッドに対する路面の傾斜を考慮することにより、リスク度合いをより適切に算出することが可能となる。すなわち、リスクをより適切に評価することが可能となる。その結果、リスクに基づいて行われる車両走行制御の精度も向上する。
【0040】
2.第2の実施形態
図4は、第2の実施の形態に係る処理例を説明するための概念図である。地形によっては、外界センサ21によって検知しにくいエリアも存在する。以下の説明において、外界センサ21による検知度合いが所定レベル以上であるグリッドを「検知エリアA1」と呼び、外界センサ21による検知度合いが所定レベル未満であるグリッドを「未検知エリアA2」と呼ぶ。例えば、検知エリアA1は、LIDARにより計測される点群数が閾値TH以上であるグリッドである。一方、未検知エリアA2は、LIDARにより計測される点群数が閾値TH未満であるグリッドである。例えば、車両1から見て遠方に存在するグリッドは、点群密度が低いため、未検知エリアA2となりやすい。他の例として、障害物で遮蔽されたグリッドも未検知エリアA2となりやすい。
【0041】
未検知エリアA2に関しては、標高の情報が得られない、あるいは、大きく不足している。よって、そのままでは、未検知エリアA2のリスク度合いを算出することができず、また、未検知エリアA2に隣接する検知エリアA1に関するリスク度合いを精度良く算出することができない。リスクを更に適切に評価するためには、検知エリアA1だけでなく未検知エリアA2も考慮に入れてリスク度合いを算出することが望ましい。
【0042】
そこで、第2の実施の形態では、制御装置100は、未検知エリアA2の標高を推定する。便宜上、以下の説明において、検知エリアA1における標高を「第1標高」と呼び、未検知エリアA2における標高を「第2標高」と呼ぶ。制御装置100は、外界センサ21による検出結果、すなわち、標高地図300に基づいて、検知エリアA1における第1標高の情報を取得する。そして、制御装置100は、未検知エリアA2の周辺の検知エリアA1における第1標高に基づいて、未検知エリアA2における第2標高を推定する。言い換えれば、制御装置100は、未検知エリアA2の周辺の検知エリアA1における第1標高を用いて、未検知エリアA2における第2標高を補完する。そして、制御装置100は、推定した第2標高を標高地図300に反映することによって、標高地図300を更新する。これにより、検知エリアA1における第1標高と未検知エリアA2における第2標高を示す標高地図300が得られる。そのような標高地図300を用いることによって、未検知エリアA2における第2標高も考慮した適切なリスク度合いを算出することが可能となる。
【0043】
未検知エリアA2における第2標高を推定するために、ベイズ一般化カーネル(Baysian Generalized Kernel: BGK)推論が用いられてもよい。BGK推論に基づく標高推定手法は、非特許文献1に記載されている。BGK推論は、計算速度と精度の両面で他の統計的な推論手法を上回るものとして知られている。BGK推論を用いることによって、高速且つ高精度に未検知エリアA2における第2標高を推定することが可能となる。
【0044】
制御装置100は、BGK推論を未検知エリアA2に適用することによって、未検知エリアA2の周辺の検知エリアA1における第1標高から未検知エリアA2における第2標高を推定する。図4中の式(4)及び式(5)は、BGK推論による標高推定の例を表している(非特許文献1参照)。D={x,yは、標高推定に用いられるデータセットであり、推定対象のグリッドの近傍のグリッドの値を示す。xはi番目のグリッドの座標であり、yはi番目のグリッドの標高値である。また、μは推論対象である標高値であり、xは推論対象のグリッドの座標であり、σは標高値の分散である。λは事前確率に対する信頼度を示すハイパーパラメータである。λ=0は信頼度がゼロであることを表す。k(x,x)は、カーネル関数であり、ここではスパースカーネルが用いられる。事後確率の期待値と分散は、式(5)で表される。式(5)で示される事後確率期待値が、未検知エリアA2における第2標高の推定値として用いられる。
【0045】
以上に説明されたように、第2の実施の形態によれば、検知エリアA1だけでなく未検知エリアA2も考慮に入れてリスク度合いが算出される。未検知エリアA2も考慮されるため、リスク度合いがより精密に算出され、結果として、リスクに基づいて行われる車両走行制御の精度も更に向上する。また、未検知エリアA2の標高推定にBGK推論が適用される場合、高速且つ高精度に標高推定を実施することができ、好適である。
【0046】
3.第3の実施形態
ある点を中心に隣接する4つのグリッドについて考える。その中心点の近傍にLIDARで計測された点がある場合、車両1の姿勢(ロール、ピッチ、ヨー)の変化によって当該点が属するグリッドが4つのグリッド間で短期間に目まぐるしく変動するおそれがある。その場合、4つのグリッドの各々の標高の分布が頻繁に切り替わり、結果として、4つのグリッドに関するリスク度合いが頻繁に変動するおそれがある。すなわち、グリッドのリスク度合いの“ちらつき(ハンチング)”が発生するおそれがある。例えば,現在フレームではリスク度合いが低いと判断されていたグリッドが,次フレームではリスク度合いが高いと判断されてしまう。このようなグリッドのリスク度合いのちらつき(ハンチング)は、後段の経路算出処理を複雑化し、車両走行制御の観点から好ましくない。
【0047】
そこで、第3の実施の形態は、グリッドのリスク度合いのちらつき(ハンチング)を抑制するための技術を提案する。より詳細には、制御装置100は、上記のBGK推論を未検知エリアA2だけでなく検知エリアA1にも適用する。制御装置100は、BGK推論を検知エリアA1にも適用することによって、検知エリアA1における第1標高を補正する。言い換えれば、制御装置100は、BGK推論を検知エリアA1にも適用することによって、検知エリアA1における第1標高を平準化する。これにより、グリッドのリスク度合いのちらつき(ハンチング)が抑制される。
【0048】
図5は、第3の実施の形態に係る処理例を説明するための概念図である。図5に示される例では、BGK推論に用いるデータセットの有効範囲(ウィンドウサイズ)が検知エリアA1と未検知エリアA2とで異なっている。未検知エリアA2に関しては、ある程度の大きさを想定しているため、未検知エリアA2に適用されるデータセットの有効範囲(ウィンドウサイズW2)は、比較的大きく設定される。一方、検知エリアA1に関しては、BGK推論に用いるデータセットの有効範囲(ウィンドウサイズW1)が大きすぎると、オリジナルの精密な情報が不必要に失われてしまう。よって、検知エリアA1に関しては、BGK推論に用いるデータセットの有効範囲(ウィンドウサイズW1)は、比較的小さく設定される。すなわち、制御装置100は、検知エリアA1に対するBGK推論のウィンドウサイズW1を、未検知エリアA2に対するBGK推論のウィンドウサイズW2よりも小さく設定する。例えば、検知エリアA1に対するBGK推論のウィンドウサイズW1は近傍3グリッドに設定され、未検知エリアA2に対するBGK推論のウィンドウサイズW2は近傍5グリッドに設定される。
【0049】
以上に説明されたように、第3の実施の形態によれば、BGK推論が未検知エリアA2だけでなく検知エリアA1にも適用される。BGK推論が検知エリアA1にも適用されることによって、検知エリアA1における第1標高が平準化される。その結果、グリッドのリスク度合いのちらつき(ハンチング)が抑制される。また、検知エリアA1における第1標高が補正されることにより、その検知エリアA1における第1標高の信頼性も確保される。これらのことにより、リスク度合いがより精密に算出され、結果として、リスクに基づいて行われる車両走行制御の精度も更に向上する。
【0050】
4.第4の実施形態
上述の第1~第3の実施の形態のうち2以上は、矛盾しない限りにおいて組み合わせることが可能である。図6は、上述の第1~第3の実施の形態を組み合わせた場合の処理フローを示している。
【0051】
ステップS10において、制御装置100は、LIDAR(外界センサ21)を用いて路面の点群を観測する。
【0052】
ステップS20において、制御装置100は、観測された点群をグリッド毎に区分け(配分)する。
【0053】
ステップS30において、制御装置100は、グリッド毎に、グリッド内の点群数が閾値TH以上であるか否かを判定する。
【0054】
グリッド内の点群数が閾値TH以上である場合(ステップS30;Yes)、制御装置100は、当該グリッドを検知エリアA1に設定する(ステップS41)。更に、制御装置100は、当該グリッド(検知エリアA1)に対するBGK推論のためのウィンドウサイズW1を比較的小さく設定する(ステップS43)。その後、処理は、ステップS50に進む。
【0055】
一方、グリッド内の点群数が閾値TH未満である場合(ステップS30;No)、制御装置100は、当該グリッドを未検知エリアA2に設定する(ステップS42)。更に、制御装置100は、当該グリッド(未検知エリアA2)に対するBGK推論のためのウィンドウサイズW2を比較的大きく設定する(ステップS44)。その後、処理は、ステップS50に進む。
【0056】
ステップS50において、制御装置100は、BGK推論を用いることにより、検知エリアA1だけでなく未検知エリアA2の標高(最大標高及び最小標高)を補完して算出する。
【0057】
ステップS60において、制御装置100は、隣接グリッド間の傾斜を算出し、傾斜に基づいてリスク度合いをグリッド毎に算出する。
【0058】
ステップS70において、制御装置100は、リスク度合いに基づいて、車両1の目標経路を算出する。目標経路内に未検知エリアA2が有る場合(ステップS70;Yes)、処理は、ステップS80に進む。一方、目標経路内に未検知エリアA2が無い場合(ステップS70;Yes)、処理は、ステップS90に進む。
【0059】
ステップS80において、制御装置100は、未検知エリアA2には現時点では進入してはいけないが、接近して観測すべきエリアとして、目標経路を決定する。典型的には、制御装置100は、車両1を減速させつつ未検知エリアA2にゆっくり近づくように目標経路を決定する。これにより、車両1は、徐行しつつ、未検知エリアA2の状況を観測することが可能となる。
【0060】
ステップS90において、制御装置100は、進入可能な目標経路を設定する。
【0061】
ステップS100において、制御装置100は、決定された目標経路に追従するように車両1の自動運転制御を行う。
【0062】
第4の実施の形態によれば、第1~第3の実施の形態の効果の全てが得られる。
【符号の説明】
【0063】
1…車両, 10…車両制御システム, A1…検知エリア, A2…未検知エリア
図1
図2
図3
図4
図5
図6