(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150281
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】マルチコアファイバおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/02 20060101AFI20241016BHJP
C03B 37/012 20060101ALI20241016BHJP
C03B 37/027 20060101ALI20241016BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20241016BHJP
G02B 6/032 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
G02B6/02 461
C03B37/012 A
C03B37/027 Z
G02B6/036
G02B6/032 Z
G02B6/02 376A
G02B6/02 401
G02B6/02 471
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063624
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武笠 和則
【テーマコード(参考)】
2H250
4G021
【Fターム(参考)】
2H250AA52
2H250AB04
2H250AB05
2H250AB10
2H250AB18
2H250AC51
2H250AC64
2H250AC78
2H250AC83
2H250AC94
2H250AC98
2H250AD00
2H250AD13
2H250AD32
2H250AE25
2H250AE63
2H250BA32
2H250BC02
4G021BA02
4G021HA00
(57)【要約】
【課題】コア間クロストークが抑制された一列型のマルチコアファイバおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】マルチコアファイバは、複数のコア部と、前記コア部の最大屈折率よりも屈折率が低く、それぞれが複数の前記コア部のそれぞれの外周を取り囲む、複数の内側クラッド部と、複数の前記内側クラッド部を取り囲む外側クラッド部と、を備え、前記外側クラッド部の内側には、長手方向に垂直な断面において、第1方向における長さが前記第1方向と直交する第2方向における長さよりも長い内側領域が存在しており、前記複数のコア部および前記複数の内側クラッド部は、前記内側領域において前記第1方向に一列に配列しており、前記内側領域において、2つの前記コア部の間には、前記内側クラッド部の外周面の一部と前記内側領域の内周面の一部とを内壁として有する第1空隙が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコア部と、
前記コア部の最大屈折率よりも屈折率が低く、それぞれが複数の前記コア部のそれぞれの外周を取り囲む、複数の内側クラッド部と、
複数の前記内側クラッド部を取り囲む外側クラッド部と、
を備え、
前記外側クラッド部の内側には、長手方向に垂直な断面において、第1方向における長さが前記第1方向と直交する第2方向における長さよりも長い内側領域が存在しており、
前記複数のコア部および前記複数の内側クラッド部は、前記内側領域において前記第1方向に一列に配列しており、
前記内側領域において、2つの前記コア部の間には、前記内側クラッド部の外周面の一部と前記内側領域の内周面の一部とを内壁として有する第1空隙が形成されている
マルチコアファイバ。
【請求項2】
前記第1空隙の内壁は、長手方向に垂直な断面が略円弧状である前記内側クラッド部の外周面の一部と、長手方向に垂直な断面が略直線状である前記内側領域の内周面の一部とを含む
請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項3】
前記内側領域において、前記外側クラッド部の外周面と、前記外側クラッド部の前記外周面に最も近い前記内側クラッド部との間には、前記最も近い前記内側クラッド部の外周面の一部と前記内側領域の内周面の一部とを内壁とする第2空隙が形成されている
請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項4】
前記第2空隙の内壁は、長手方向に垂直な断面が略円弧状である前記最も近い前記内側クラッド部の外周面の一部を含む
請求項3に記載のマルチコアファイバ。
【請求項5】
前記外側クラッド部は、実質的な石英ガラスまたはフッ素がドープされた石英系ガラスからなる
請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項6】
前記コア部は、ゲルマニウム、フッ素、塩素、カリウムおよびナトリウムの少なくともいずれか一種を含む
請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項7】
入力される光をシングルモードで伝搬する
請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項8】
入力される光の波長における長さ100m当たりのコア間クロストークが-20dB以下である
請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項9】
入力される光の波長におけるモードフィールド径が5μm以上である
請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項10】
前記外側クラッド部の外径が125±10μmである
請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項11】
長手方向に垂直な断面における形状が非円形である
請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項12】
長手方向に垂直な断面において、第1方向における長さが前記第1方向と直交する第2方向における長さよりも長い孔を有する管状クラッド母材を準備する第1準備工程と、
それぞれが、母材コア部と、前記母材コア部の最大屈折率よりも屈折率が低く、前記母材コア部の外周を取り囲む母材内側クラッド部と、を有する複数の柱状母材を準備する第2準備工程と、
前記複数の柱状母材を、互いに離間させて、前記管状クラッド母材の孔内に一列に配置し、光ファイバ母材を形成する配置工程と、
前記光ファイバ母材からマルチコアファイバを線引きする線引工程と、
を備える
マルチコアファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチコアファイバおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のコア部を有するマルチコアファイバとして、配列がし易いなどの理由から、コア部が一列に並んで配列された、いわゆる一列型のマルチコアファイバが盛んに検討されている。しかしながら、一列型のマルチコアファイバでは、限られた外径のクラッド部の内部に複数のコア部を配列しながらコア部の間の距離を大きくするのが困難なので、コア間クロストークが大きくなる傾向にある。
【0003】
特許文献1には、コアが互いに光学的に結合した、いわゆる結合型マルチコアファイバであって、一列型の構成が開示されている。結合型マルチコアファイバでは、コア間クロストークが前提となっているので、コア部の間の距離は小さくてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、結合型マルチコアファイバを光伝送路として用いた光伝送システムでは、MIMO(Multi-Input Multi-Output)を前提としているため、光伝送システムの消費電力が増大する。また、結合型マルチコアファイバは、光学特性が難しかったり、接続が難しかったりする問題がある。一方、コア間クロストークを抑制すべき非結合型のマルチコアファイバにおいて、コア間クロストークを抑制する有効な方法は提案されていなかった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、コア間クロストークが抑制された一列型のマルチコアファイバおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、複数のコア部と、前記コア部の最大屈折率よりも屈折率が低く、それぞれが複数の前記コア部のそれぞれの外周を取り囲む、複数の内側クラッド部と、複数の前記内側クラッド部を取り囲む外側クラッド部と、を備え、前記外側クラッド部の内側には、長手方向に垂直な断面において、第1方向における長さが前記第1方向と直交する第2方向における長さよりも長い内側領域が存在しており、前記複数のコア部および前記複数の内側クラッド部は、前記内側領域において前記第1方向に一列に配列しており、前記内側領域において、2つの前記コア部の間には、前記内側クラッド部の外周面の一部と前記内側領域の内周面の一部とを内壁として有する第1空隙が形成されているマルチコアファイバである。
【0008】
前記第1空隙の内壁は、長手方向に垂直な断面が略円弧状である前記内側クラッド部の外周面の一部と、長手方向に垂直な断面が略直線状である前記内側領域の内周面の一部とを含んでもよい。
【0009】
前記内側領域において、前記外側クラッド部の外周面と、前記外側クラッド部の前記外周面に最も近い前記内側クラッド部との間には、前記最も近い前記内側クラッド部の外周面の一部と前記内側領域の内周面の一部とを内壁とする第2空隙が形成されていてもよい。
【0010】
前記第2空隙の内壁は、長手方向に垂直な断面が略円弧状である前記最も近い前記内側クラッド部の外周面の一部を含んでもよい。
【0011】
前記外側クラッド部は、実質的な石英ガラスまたはフッ素がドープされた石英系ガラスからなってもよい。
【0012】
前記コア部は、ゲルマニウム、フッ素、塩素、カリウムおよびナトリウムの少なくともいずれか一種を含んでもよい。
【0013】
前記マルチコアファイバは、入力される光をシングルモードで伝搬してもよい。
【0014】
前記マルチコアファイバは、入力される光の波長における長さ100m当たりのコア間クロストークが-20dB以下でもよい。
【0015】
前記マルチコアファイバは、入力される光の波長におけるモードフィールド径が5μm以上でもよい。
【0016】
前記外側クラッド部の外径が125±10μmでもよい。
【0017】
前記マルチコアファイバは、長手方向に垂直な断面における形状が非円形でもよい。
【0018】
本発明の一態様は、長手方向に垂直な断面において、第1方向における長さが前記第1方向と直交する第2方向における長さよりも長い孔を有する管状クラッド母材を準備する第1準備工程と、それぞれが、母材コア部と、前記母材コア部の最大屈折率よりも屈折率が低く、前記母材コア部の外周を取り囲む母材内側クラッド部と、を有する複数の柱状母材を準備する第2準備工程と、前記複数の柱状母材を、互いに離間させて、前記管状クラッド母材の孔内に一列に配置し、光ファイバ母材を形成する配置工程と、前記光ファイバ母材からマルチコアファイバを線引きする線引工程と、を備えるマルチコアファイバの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれは、コア間クロストークが抑制された一列型のマルチコアファイバを実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るマルチコアファイバの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係るマルチコアファイバの製造方法の一例の説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係るマルチコアファイバの製造方法の一例の説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係るマルチコアファイバの製造方法の他の一例の説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態2に係るマルチコアファイバの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。
【
図7】
図7は、内側クラッド部間の最小距離とカットオフ波長および2コア間クロストークとの関係の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、内側クラッド部間の最小距離と閉じ込め損失との関係の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態3に係るマルチコアファイバの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。
【
図10】
図10は、実施形態4に係るマルチコアファイバの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。
【
図11】
図11は、実施形態5に係るマルチコアファイバの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。
【
図12】
図12は、実施形態6に係るマルチコアファイバの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、本明細書においては、カットオフ波長または実効カットオフ波長とは、国際通信連合(ITU)のITU-T G.650.1で定義するケーブルカットオフ波長(λcc)をいう。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはG.650.1およびG.650.2における定義、測定方法に従うものとする。
【0022】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るマルチコアファイバの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。石英系ガラスからなるマルチコアファイバ10は、複数のコア部である4個のコア部11と、複数の内側クラッド部である4個の内側クラッド部12と、外側クラッド部13と、を備えている。
図1に示すように、マルチコアファイバ10の長手方向に垂直な面において、第1方向D1と、第1方向D1と直交する第2方向D2とを定義する。
【0023】
4個のコア部11は、第1方向D1に一列に配列しており、長手方向に垂直な面において外形が略円形である。コア部11の屈折率プロファイルは、単峰のステップ型、W型、トレンチ型など、特に限定はされない。コア部11は、たとえば石英系ガラスからなる。コア部11は、純石英ガラスでもよいし、所望の屈折率プロファイルとなるようにドーパントが添加された石英系ガラスでもよい。コア部11に含まれるドーパントは、ゲルマニウム、フッ素、塩素、カリウムおよびナトリウムの少なくともいずれか一種である。また、純石英ガラスとは、波長1550nmにおける屈折率が約1.444である、きわめて高純度の石英ガラスである。また、コア部11の直径はコア径とも呼ばれる。
【0024】
4個の内側クラッド部12は、それぞれが、4個のコア部11のそれぞれの外周を取り囲んでおり、長手方向に垂直な面において外形が略円形である。内側クラッド部12は、コア部11の最大屈折率よりも屈折率が低い石英系ガラスからなる。内側クラッド部12は、たとえば、実質的な石英ガラスまたはフッ素がドープされた石英系ガラスからなる。ここで、実質的な石英ガラスとは、純石英ガラス、または、光ファイバの製造工程において使用する塩素や、コア部11に添加したドーパントが、マルチコアファイバ10の特性に影響しない程度の量で混入した石英ガラスを意味する。なお、内側クラッド部12の外径はd1である。
【0025】
外側クラッド部13は、4個の内側クラッド部12を取り囲んでおり、長手方向に垂直な面において外形が略円形である。外側クラッド部13は、たとえば内側クラッド部12と同じ材質からなる。すなわち、外側クラッド部13は、たとえば、実質的な石英ガラスまたはフッ素がドープされた石英系ガラスからなる。外側クラッド部13の外径はd2であり、クラッド径またはファイバガラス径とも呼ばれる。
【0026】
外側クラッド部13の内側には、長手方向に垂直な断面において、第1方向D1における長さが第2方向D2における長さよりも長い内側領域A1が存在している。内側領域A1は、略トラック状の輪郭を有する領域である。
【0027】
4個のコア部11および4個の内側クラッド部12は、内側領域A1において第1方向D1に一列に配列している。なお、
図1において破線で示す箇所は、4個の内側クラッド部12のうち第1方向D1において端部に位置する2つの内側クラッド部12(内側クラッド部12aや12c)と外側クラッド部13との境界であり、内側領域A1の輪郭の一部を形成している。ただし、内側クラッド部12aや12cと外側クラッド部13とは、この破線に示す箇所で一体化していてもよい。
【0028】
マルチコアファイバ10では、第1空隙である3個の空隙G1が形成されている。空隙G1は、内側領域A1において、2つのコア部11の間に形成されている。また、空隙G1は、内側クラッドの外周面の一部と内側領域A1の内周面の一部とを内壁としている。たとえば、
図1に示すように、空隙G1aは、内側クラッド部12bの外周面の一部12b1および内側クラッド部12cの外周面の一部12c1と、内側領域A1の内周面の一部A1a、A1bとを内壁としている。
【0029】
なお、外周面の一部12b1、12c1は長手方向に垂直な断面が略円弧状である。また、内周面の一部A1a、A1bは長手方向に垂直な断面が略直線状である。ただし、
図2に示すように、現実のマルチコアファイバでは、外周面の一部12b1、12c1は円弧が歪んだ形状となる場合がある。ただし、このような場合も、外周面の一部12b1、12c1は円弧で近似できるので、略円弧状であるといる。また、内周面の一部A1a、A1bも、歪んでいる場合も直線で近似できるので、略直線状であるといえる。
【0030】
図1に戻って、マルチコアファイバ10において、2つの内側クラッド部12の間の最小距離、すなわち第1空隙である空隙G1の最小幅をd3とする。また、4個の内側クラッド部12のうち第1方向D1において端部に位置する(すなわち、外側クラッド部13の外縁に最も近い)2つの内側クラッド部12(たとえば内側クラッド部12a)の外縁から外側クラッド部13の外縁までの距離の最小値を外側クラッド厚d4とする。
【0031】
以上のように構成されたマルチコアファイバ10は、一列に配列されたコア部11の間に空隙G1が形成されているので、一列型マルチコアファイバでありながらコア間クロストークが抑制されている。
【0032】
(製造方法)
実施形態1に係るマルチコアファイバの製造方法の一例を
図3、4を参照して説明する。まず、
図3に示すように、管状クラッド母材100を準備する(第1準備工程)。管状クラッド母材100は、マルチコアファイバ10の外側クラッド部13の母材である円柱状の部材である。管状クラッド母材100には、長手方向に垂直な断面においてトラック状の形状を有する孔101が形成されている。孔101は、内側領域A1を規定するとともに空隙G1となる。孔101は、長手方向に垂直な断面において、第1方向における長さが第1方向と直交する第2方向における長さよりも長い孔の一例である。
【0033】
一方、複数の柱状母材として、
図4に示す4本の柱状母材200を準備する(第2準備工程)。柱状母材200は、母材コア部201と、母材コア部201の最大屈折率よりも屈折率が低く、母材コア部201の外周を取り囲む母材内側クラッド部202と、を有する。柱状母材200は、母材コア部201がマルチコアファイバ10のコア部11となり、母材内側クラッド部202が内側クラッド部12となる母材である。柱状母材200は、たとえばVAD(Vapor Axial Deposition)法やMCVD(Modified Chemical Vapor Deposition)法のような方法を用いて製造できる。
【0034】
つぎに、4本の柱状母材200を、互いに離間させて、管状クラッド母材100の孔101内に一列に配置し、光ファイバ母材1000を形成する(配置工程)。配置工程においては、たとえば、
図4のように、柱状母材200を挿入可能でありかつ互いに離間した状態で一列に並んだ4つの孔301を有する支持治具300を使用してもよい。この場合、支持治具300の孔301は適正な間隔で設けられており、矢印Ar1で示すように孔301のそれぞれに柱状母材200を挿入すると、柱状母材200は所望の間隔で配列される。柱状母材200が支持治具300に挿入された状態で、矢印Ar2で示すように柱状母材200を孔101に挿入すると、管状クラッド母材100の孔101内で柱状母材200を所定の間隔で一列に配置する作業が極めて容易になる。なお、支持治具300はその後取り外してもよいし、ガラスからなるものであればそのまま取り付けておいてもよい。また、支持治具300に柱状母材200を挿入し、柱状母材200を管状クラッド母材100に挿入した後、上記の支持治具300に対して、管状クラッド母材100を挟んだ位置にさらにもう1枚の支持治具300を配置し、この配置した支持治具300に柱状母材200を挿入してもよい。これにより、柱状母材200は管状クラッド母材100を挟んだ2つの支持治具300で固定されるので、管状クラッド母材100内での間隔や姿勢がより安定する。また、一方の支持治具300をテーパ状に加工しておけば、その支持治具300の側から線引きを開始しやすい。
【0035】
なお、柱状母材200と管状クラッド母材100とを火炎等で加熱して互いに溶着してもよい。また、支持治具300を管状クラッド母材100に溶着してもよい。また、支持治具300の厚さを厚くして、挿入された柱状母材200の姿勢や位置関係を安定させてもよい。
【0036】
その後、公知の方法にて光ファイバ母材1000からマルチコアファイバ10を線引きする(線引工程)。線引きの際は、光ファイバ母材1000に加圧ガスを加えて、柱状母材200の間の空隙が塞がれないようにしてもよい。これにより、マルチコアファイバ10を製造することができる。
【0037】
(他の製造方法)
実施形態1に係るマルチコアファイバの製造方法の他の一例を
図5を参照して説明する。本製造方法は、堆積法を用いた製造方法であって、まず、
図5に示すように、4本の柱状母材200を準備し、所望の間隔で配列した状態で互いの相対位置を固定する。そして、外側クラッド部の原料ガスと、酸素ガスと、水素ガスとを流した酸水素火炎等のバーナ400で、外側クラッド部となるスート500を柱状母材200に堆積する。さらに、スート500を堆積しながら、4本の柱状母材200を矢印Ar3で示すように回転する。その後、矢印Ar4、Ar5のように進めて堆積を継続すると、堆積の初期は、部分的に堆積が進み、外周が円形ではない形状でスート500の堆積が進んでいくが、そのまま柱状母材200を回転しながら堆積させていくと、柱状母材200間に空隙gが残った状態で堆積が進む。その後、スート500は、徐々に円形に近い形状で堆積されていく。
【0038】
スート500の堆積が終了したら、スート500に脱水処理、ガラス化処理を施して、光ファイバ母材を形成する。その後、公知の方法にて光ファイバ母材からマルチコアファイバ10を線引きすることにより、マルチコアファイバ10を製造することができる。
【0039】
(実施形態2)
図6は、実施形態2に係るマルチコアファイバの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。石英系ガラスからなるマルチコアファイバ20は、複数のコア部である4個のコア部21と、複数の内側クラッド部である4個の内側クラッド部22と、外側クラッド部23と、を備えている。
【0040】
4個のコア部21は、第1方向D1に一列に配列しており、長手方向に垂直な面において外形が略円形である。コア部21の屈折率プロファイルや構成材料や添加されるドーパントは、実施形態1におけるコア部11と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
4個の内側クラッド部22は、それぞれが、4個のコア部21のそれぞれの外周を取り囲んでおり、長手方向に垂直な面において外形が略円形である。内側クラッド部22の屈折率プロファイルや構成材料や添加されるドーパントは、実施形態2における内側クラッド部12と同じでもよいし、異なっていてもよい。なお、内側クラッド部22の外径はd1である。
【0042】
外側クラッド部23は、4個の内側クラッド部22を取り囲んでおり、長手方向に垂直な面において外形が略円形である。外側クラッド部23は、たとえば内側クラッド部22と同じ材質からなる。外側クラッド部23の外径はd2であり、クラッド径またはファイバガラス径とも呼ばれる。
【0043】
外側クラッド部23の内側には、長手方向に垂直な断面において、第1方向D1における長さが第2方向D2における長さよりも長い内側領域A2が存在している。内側領域A2は、略角丸長方形状の輪郭を有する領域である。
【0044】
4個のコア部21および4個の内側クラッド部22は、内側領域A2において第1方向D1に一列に配列している。
【0045】
マルチコアファイバ20では、第1空隙である3個の空隙G21が形成されている。空隙G21は、内側領域A2において、2つのコア部21の間に形成されている。また、空隙G21は、内側クラッドの外周面の一部と内側領域A2の内周面の一部とを内壁としている。たとえば、
図6に示すように、空隙G21aは、内側クラッド部22bの外周面の一部22b1および内側クラッド部22cの外周面の一部22c1と、内側領域A2の内周面の一部A2a、A2bとを内壁としている。
【0046】
また、マルチコアファイバ20では、第2空隙である2個の空隙G22が形成されている。空隙G22は、内側領域A2において、外側クラッド部23の外周面と、外側クラッド部23の外周面に最も近い内側クラッド部22(内側クラッド部22aや22c)との間に形成されている。また、空隙G22は、外側クラッド部23の外周面に最も近い内側クラッド部22の外周面の一部と内側領域A2の内周面の一部とを内壁としている。たとえば、
図6に示すように、空隙G22aは、内側クラッド部22aの外周面の一部22a1と内側領域A2の内周面の一部A2cとを内壁としている。
【0047】
実施形態1の場合と同様に、外周面の一部22a1、22b1、22c1は長手方向に垂直な断面が略円弧状である。また、内周面の一部A2a、A2bは長手方向に垂直な断面が略直線状である。また、内周面の一部A2a、A2bは長手方向に垂直な断面が略角丸長方形状の一部である。
【0048】
マルチコアファイバ20において、実施形態1の場合と同様に、2つの内側クラッド部22の間の最小距離、すなわち第1空隙である空隙G1の最小幅をd3とする。また、マルチコアファイバ20においては、第2空隙である空隙G22の最小幅をd5とする。また、空隙G22から外側クラッド部13の外縁までの距離の最小値を外側クラッド厚d6とする。
【0049】
以上のように構成されたマルチコアファイバ20は、一列に配列されたコア部21の間に空隙G21が形成されているので、一列型マルチコアファイバでありながらコア間クロストークが抑制されている。
【0050】
また、マルチコアファイバ20では、外側クラッド部23の外周面と内側クラッド部22a、22cとの間に空隙G22が存在するので、内側クラッド部22a、22cに囲まれたコア部21において閉じ込め損失が増大することが抑制される。
【0051】
なお、マルチコアファイバ20は、実施形態1に係るマルチコアファイバ10と同様な方法で製造することができる。
【0052】
(マルチコアファイバの特性)
つぎに、実施形態に係るマルチコアファイバの特性について説明する。
図7は、実施形態1に係るマルチコアファイバ10における、内側クラッド部12間の最小距離(空隙G1の最小幅、
図1のd3)とカットオフ波長(λcc)および2コア間クロストーク(XT)との関係の一例を示す図である。なお、マルチコアファイバ10のファイバガラス径(
図1のd2)は125μmとし、内側クラッド部12の外径(
図1のd1)は18μmとした。また、入力される光の波長を1550nmとした。なお、内側クラッド部12間の最小距離が0μmとは、空隙G1が無い場合に相当する。
【0053】
図7に示すように、内側クラッド部12間の最小距離d3を大きくしていくと、2コア間XTを小さくすることができ、たとえばd3を適正に設定することで、長さ100m当たりのコア間XTを-20dB以下さらには-30dB以下とできることを確認した。
【0054】
また、
図7に示すように、d3を大きくしていくとλccが大きくなるが、d3が或る程度以上大きくなるとその増加率が小さくなることが確認された。これは、空隙G1の最小幅を大きくしていくと光の閉じ込めが強くなってλccは大きくなるが、高次モードの光は、内側クラッド部12と外側クラッド部13とが光学的に接続している部分から或る程度リークするからであると考えられる。たとえば、
図7の例ではλccは1260nm以下であるので、マルチコアファイバ10は、入力される波長1550nmの光をシングルモードで伝搬することができる。
【0055】
つぎに、
図8は、内側クラッド部12間の最小距離と閉じ込め損失との関係の一例を示す図である。なお、
図8に示す閉じ込め損失は、外側クラッド部13の外縁に最も近いコア部(たとえばコア部11a)における閉じ込め損失である。
【0056】
図8に示すように、内側クラッド部12間の最小距離d3を大きくしていくと閉じ込め損失が大きくなっていくが、d3が5μm程度以下であれば、閉じ込め損失は0.01dB/km以下であり、許容範囲であることが分かる。
【0057】
なお、
図7、8は、マルチコアファイバ10の構成を前提としているが、実施形態2に係るマルチコアファイバ20においても、ファイバガラス径を125μmとし、内側クラッド部22の外径を18μmとし、入力される光の波長を1550nmとした場合、
図7と同じ傾向の特性が得られる。すなわち、マルチコアファイバ20においても長さ100m当たりのコア間XTを-20dB以下さらには-30dB以下とでき、入力される光をシングルモードで伝搬することができる。
【0058】
また、マルチコアファイバ20は、第2空隙である空隙G22が形成されているので、閉じ込め損失を
図8の場合よりも小さくできる。たとえば、空隙G22の最小幅(
図6のd5)を1μm以上とすれば、空隙G22がない場合に対して閉じ込め損失を3/4以下にすることができ、d5を2μm以上とすれば、空隙G22がない場合に対して閉じ込め損失を1/2以下にすることができる。
【0059】
その他、実施形態に係るマルチコアファイバにおいては、たとえば入力される波長におけるモードフィールド径が5μm以上であることが好ましい。これにより、同種のマルチコアファイバや、光ファイバリボンとの接続特性が良好であり、たとえば1dB程度の平均損失で融着接続することができる。また、外側クラッド部の外径であるガラスファイバ径は、125μm±10μmであることが、通常の通信用光ファイバとの適合性の観点や、通常の通信用光ファイバ用の治具を適用できる観点から好ましい。また、コアの数については特に限定されないが、ファイバガラス径の過度な増大を抑制する観点からは、いずれの波長帯でもコアの数は2以上10以下程度が好ましい。
【0060】
入力される光をシングルモードで伝搬し、入力される光の波長における長さ100m当たりのコア間クロストークが-20dB以下であり、入力される光の波長におけるモードフィールド径が5μm以上である、という3つの特性を満たすためのマルチコアファイバの構造パラメータの一例を表1に示す。表1は、本発明者が体系的な検討の結果得た、入力される光の波長がそれぞれの波長帯である場合の、構造パラメータの好適な範囲を示す表である。これらの波長帯は、光通信に使用される波長帯であって、800~900nm帯、1.0μm帯(たとえば1000nm~1100nm)、1.3μm帯(たとえば1260nm~1360nm)、C-band(たとえば1530nm~1565nm)、L-band(たとえば1565nm~1625nm)である。また、最大Δとは、コア部における最大屈折率の、内側クラッド部に対する比屈折率差である。
【0061】
表1に示すように、波長帯に応じて適正な構造パラメータの組み合わせとすることで好適な特性が得られる。適正な構造パラメータは、最大Δが0.17~0.67%(好ましくは0.28~0.55%)であり、コア径は4.8~15.8μm(好ましくは5.2~10.5μm)であり、内側クラッド部の外径は9.0~59.9μm(好ましくは10.0~45.0μm)である。なお、表1には示していないが、コア部の屈折率プロファイルがW型やトレンチ型の場合の最小Δ(コア部において屈折率が最も低い部分の、内側クラッド部に対する比屈折率差)は-0.3%以上(好ましくは-0.12%以上)である。コア径に対する内側クラッド部の外径の比は1.2~6.0(好ましくは1.8~4.8)であり、ガラスファイバ径は、7.0~650.0μm(好ましくは75.0~250.0μm)である。
【0062】
【0063】
また、入力される光をシングルモードで伝搬し、入力される光の波長における長さ100m当たりのコア間クロストークが-20dB以下であり、入力される光の波長におけるモードフィールド径が5μm以上である、という3つの特性を満たし、かつファイバガラス径を125μmにする観点からすると、たとえば表2のNo.1~12のようにマルチコアファイバの構造パラメータを設定することが好ましい。なお、表2において第2空隙の最小幅が0μmの例は、第2空隙が無いマルチコアファイバ10のようなマルチコアファイバである。
【0064】
【0065】
(実施例)
実施例として、
図6に示す実施形態2に係るマルチコアファイバ20と同じ構成のマルチコアファイバを製造した。製造の際は、
図3、4を参照して説明した製造方法を用いた。このとき、柱状母材はVAD法を用いて製造した。2つの支持治具として柱状母材の長さの1/5の厚さのガラス製のものを用い、かつ一方の支持治具としてテーパ状に加工したものを用いた。2つの支持治具は、柱状母材を管状クラッド母材内に配置した後に、管状クラッド母材に溶着した。
【0066】
作製した実施例のマルチコアファイバは、コア径が7μmであり、コア部の屈折率プロファイルがステップ型であり、最大Δが0.37%であった。また、内側クラッド部の外径は21μmであった。また、内側クラッド部間の最小距離は3μmであり、第2空隙の最小幅は2μmであり、外側クラッド厚は14μmであり、ガラスクラッド径は125μmであった。また、コア部の配列方向における内側領域の長さは97μmであった。
【0067】
実施例のマルチコアファイバの特性を測定したところ、表3のような結果となった。コアNo.とは、コア部に端から1、2、3、4と付けた番号である。また「MFD」はモードフィールド径を意味する。表3に示すように、コアNo.1~4のいずれのコア部も、λccが1000nm未満であり、1.0μm帯の波長の光や1550nmのような波長の光をシングルモード伝搬することが確認された。また、1550nmにおけるモードフィールド径は5μm以上であった。また、1550nmにおける伝送損失は0.187dB/km以下であった。伝送損失がこのように小さい値であることは、端に存在するコアNo.1、4であっても、第2空隙の存在によって閉じ込め損失が抑制されていることを示す。
【0068】
【0069】
また、表4は、2コア間XTを示している。表4において、たとえば「1-2」とは、コアNo.1のコア部とコアNo.2のコア部との2コア間XTを示している。表4に示すように、実施例のマルチコアファイバは、いずれの2コア間XTも―30dB以下であった。
【0070】
【0071】
また、実施例のマルチコアファイバは、1.0μm帯や1.3μm帯の波長の光を入力した場合にも、光をシングルモードで伝搬し、長さ100m当たりのコア間クロストークが-20dB以下であり、モードフィールド径が5μm以上である、という3つの特性を満たすことが確認された。
【0072】
(その他の実施形態)
図9は、実施形態3に係るマルチコアファイバ10Aの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。マルチコアファイバ10Aは、
図1に示すマルチコアファイバ10の外側クラッド部13を外側クラッド部13Aに置き換えた構成を有する。外側クラッド部13Aは、長手方向に垂直な断面が非円形であり、外周面の一部が、コア部11の配列方向である第1方向D1に平行な平面13A1となっている。このようなマルチコアファイバ10Aは、マルチコアファイバ10と同様にコア間クロストークが抑制されているとともに、平面13A1をコア部11の配列方向の目印として利用できる。
【0073】
図10は、実施形態4に係るマルチコアファイバ20Aの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。マルチコアファイバ20Aは、
図6に示すマルチコアファイバ20の外側クラッド部23を外側クラッド部23Aに置き換えた構成を有する。外側クラッド部23Aは、長手方向に垂直な断面が非円形であり、コア部11の配列方向と長辺とが平行である角丸長方形状を有している。このようなマルチコアファイバ20Aは、マルチコアファイバ20と同様にコア間クロストークが抑制されているとともに、外側クラッド部23Aの外周の平面をコア部11の配列方向の目印として利用できる。
【0074】
図11は、実施形態5に係るマルチコアファイバ20Aの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。マルチコアファイバ20Bは、
図6に示すマルチコアファイバ20の外側クラッド部23を外側クラッド部23Bに置き換え、さらに外側クラッド部23Bの外周に一次被覆24、二次被覆25を順次形成した構成を有する。外側クラッド部23Bは、長手方向に垂直な断面が非円形であり、コア部11の配列方向と長辺とが平行である角丸長方形状を有している。また、一次被覆24、二次被覆25は、光ファイバの被覆として用いられる公知の材質からなる。このようなマルチコアファイバ20Bは、マルチコアファイバ20と同様にコア間クロストークが抑制されているとともに、二次被覆25の外周の平面をコア部11の配列方向の目印として利用できる。
【0075】
図12は、実施形態6に係るマルチコアファイバ20Cの長手方向に垂直な面における模式的な断面図である。マルチコアファイバ20Cは、
図11に示すマルチコアファイバ20Bの外側クラッド部23Bを外側クラッド部23Cに置き換えた構成を有する。外側クラッド部23Cは、長手方向に垂直な断面が非円形であり、コア部11の配列方向と長軸方向とが平行である楕円形状を有している。このようなマルチコアファイバ20Cは、マルチコアファイバ20Bと同様にコア間クロストークが抑制されているとともに、長軸方向をコア部11の配列方向の目印として利用できる。
【0076】
なお、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
10、10A、20、20A、20B、20C:マルチコアファイバ
11、11a、21:コア部
12、12a、12b、12c、22、22a、22b、22c:内側クラッド部
12b1、12c1、22a1、22b1、22c1:一部
13、13A、23、23A、23B、23C:外側クラッド部
13A1 :平面
24 :一次被覆
25 :二次被覆
100 :管状クラッド母材
101、301 :孔
200 :柱状母材
201 :母材コア部
202 :母材内側クラッド部
300 :支持治具
400 :バーナ
500 :スート
1000 :光ファイバ母材
A1、A2:内側領域
A1a、A2a、A2c:一部
Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5:矢印
D1 :第1方向
D2 :第2方向
g、G1、G1a、G21、G21a、G22、G22a:空隙