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特開2024-150298磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150298
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】磁性楔、回転電機及び磁性楔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/493 20060101AFI20241016BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H02K3/493
H02K15/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063650
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】野口 伸
【テーマコード(参考)】
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB14
5H604CC15
5H604DA03
5H604QC01
5H604QC09
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP19
5H615TT16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】スロット開口部を充填するのに効果的な磁性楔と、その磁性楔の製造方法を提供する。
【解決手段】回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔であって、前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、前記幅の方向に垂直な平面に投影された、磁性楔の投影形状は、直角台形であり、当該直角台形を構成する四辺のうち、最長の辺が斜辺である磁性楔。回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔の製造方法であって、前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、軟磁性粒子を含む原料粉末を前記幅の方向にプレス成形して成形体を得るプレス成形工程を有し、当該プレス成形工程において、直角台形の形状の開口部を有する金型と、前記金型の開口部に挿入可能なパンチを使用することを特徴とする磁性楔の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔であって、
前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、
前記幅の方向に垂直な平面に投影された磁性楔の投影形状は直角台形形状であり、当該直角台形を構成する四辺のうち、最長の辺が斜辺である磁性楔。
【請求項2】
前記直角台形形状は、角部にアールを有することを特徴とする請求項1に記載の磁性楔。
【請求項3】
複数の軟磁性粒子と、前記軟磁性粒子の間に電気絶縁性の物質とを含むこと
を特徴とする請求項1に記載の磁性楔。
【請求項4】
前記軟磁性粒子はFe基軟磁性粒子であり、
前記Fe基軟磁性粒子は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するとともに、
前記電気絶縁性の物質は、前記元素Mを含む酸化物相であり、
前記Fe基軟磁性粒子が前記酸化物相で結着されていることを特徴とする請求項3に記載の磁性楔。
【請求項5】
前記元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項4に記載の磁性楔。
【請求項6】
前記Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子であることを特徴とする請求項5に記載の磁性楔。
【請求項7】
複数のティースと前記複数のティースにより形成された複数のスロットとを有する回転電機用固定子と、前記回転電機用固定子と軸を共有する位置に配置された回転子とを有する回転電機であって、
前記複数のスロットの各々のスロット開口部には複数の磁性楔が軸方向に縦列に挿入されており、前記複数の磁性楔のうちの少なくとも1個が請求項1~6いずれかの磁性楔である回転電機。
【請求項8】
回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔の製造方法であって、
前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、
軟磁性粒子を含む原料粉末を前記幅の方向にプレス成形して成形体を得るプレス成形工程を有し、
当該プレス成形工程において、直角台形形状の開口部を有する金型と、
前記金型の開口部に挿入可能なパンチを使用し、
前記直角台形形状を構成する四辺のうち、最長の辺が斜辺である磁性楔の製造方法。
【請求項9】
前記直角台形の形状の開口部の角部にアールを有することを特徴とする請求項8に記載の磁性楔の製造方法。
【請求項10】
前記原料粉末は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するFe基軟磁性粒子の粉末と、バインダとの混合粉であり、
前記プレス成形工程の後に、前記成形体に熱処理を施して、前記Fe基軟磁性粒子の粒子間に、前記Fe基軟磁性粒子同士を結着する前記Fe基軟磁性粒子の表面酸化物相を形成する熱処理工程
を有する請求項9に記載の磁性楔の製造方法。
【請求項11】
前記元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種である請求項10に記載の磁性楔の製造方法。
【請求項12】
前記Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子である請求項11に記載の磁性楔の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の磁気回路に用いられる磁性楔、及び回転電機、並びにかかる磁性楔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なラジアルギャップ型回転電機では、固定子と回転子とを同軸にして配し、回転子周りの固定子に、コイルを巻き回した複数のティースを、周方向等間隔に配している。また、ティースの回転子側先端には、隣り合うティースの先端を接続するよう、磁性楔を配することがある。なお、この場合、磁性楔は、コイル部品等とは異なり、磁性楔自体にはコイルを巻き回さずに用いられる。
【0003】
このような磁性楔を配することで、回転子からコイルに到達する磁束を磁気シールドでき、コイルの渦電流損失を抑制することができる。また、磁性楔を配することで、固定子と回転子との間のギャップ内磁束分布(特に周方向の磁束分布)をなだらかにし、回転子に生じる損失(漂遊負荷損)を低減することができる。このように、磁性楔を配することで、高効率な回転電機を得ることができる(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、従来の磁性楔としては、鉄粉などの強磁性粉末と熱硬化性樹脂からなるコンポジット材が知られている。この磁性楔の製造方法は、強磁性粉末と熱硬化性樹脂を混練してペースト状にした後、これを磁性楔の厚さ方向に圧縮成形しつつ熱硬化させて板状の母材をまずは作製し、機械加工にて磁性楔として必要な寸法、形状に加工するというものである。
【0005】
このような従来の磁性楔は、通常、細長い直方体(短冊形状)か、さらには長さ方向に垂直な断面が台形型やT型となるような機械加工が施され、ティース先端部に設けられた溝等に、磁性楔の長さ方向に挿入される。隣接するティースの間(この空間をスロットと呼ぶ)にはコイルが収められているため、磁性楔は背後(モータの外径側)からコイルによって内周側に押される。この力によって磁性楔はティース先端部の溝に押し付けられて固定される。
【0006】
従来の磁性楔は上記のように短冊形状が基本となっているため、厚さが一定の形状を有していることが一般的である。つまり、磁性楔の幅方向に垂直な断面は基本的には長方形である。ただし、回転電機への磁性楔の挿入を容易にするために当該長方形の一つの角に面取り加工を施して、端部にテーパーを設けることがある。このテーパー加工も機械加工で行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3-27745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スロット内のコイルは通常湾曲しており、回転電機の軸方向両端ではスロットの若干奥側(回転電機の外周側)にあり、軸方向中央付近ではスロット開口部側(回転電機の内周側)にせり出している。従って、磁性楔を挿入するスペースも軸方向両端で広く、軸方向中央付近で狭くなる。従来の磁性楔は基本的に長さ方向に厚みは一定であるため、軸方向中央付近ではスロット開口部のスペースを隙間なく埋めることができるものの、軸方向両端部分では、磁性楔の背後に無駄なスペースが空くことになる。特に、スロット内のコイルの湾曲が大きい場合には、軸方向中央付近の狭いスペースに合わせて磁性楔の厚さを薄くする必要があるため、軸方向両端部に生じる無駄なスペースがさらに拡大する結果となる。このため、磁性楔がスロット開口部のスペースを十分充填できれば得られたはずの効果が得られないという課題があった。
【0009】
そこで本発明では、スロット開口部を充填するのに効果的な磁性楔と、その磁性楔の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔であって、前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、前記幅の方向に垂直な平面に投影された、磁性楔の投影形状は直角台形形状であり、当該直角台形を構成する四辺のうち、最長の辺が斜辺である。
【0011】
また、前記直角台形形状の角部にアールを有することが好ましい。
【0012】
また、前記磁性楔は、複数の軟磁性粒子と、前記軟磁性粒子の間に電気絶縁性の物質とを含むことが好ましい。
【0013】
また、前記軟磁性粒子はFe基軟磁性粒子であり、前記Fe基軟磁性粒子は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するとともに、前記電気絶縁性の物質は、前記元素Mを含む酸化物相であり、前記Fe基軟磁性粒子が前記酸化物相で結着されていることが好ましい。
【0014】
また、前記元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0015】
また、前記磁性楔において、前記Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子であることが好ましい。
【0016】
本発明の回転電機は、複数のティースと前記複数のティースにより形成された複数のスロットとを有する回転電機用固定子と、前記回転電機用固定子と軸を共有する位置に配置された回転子とを有する回転電機であって、各スロットのスロット開口部には複数の磁性楔が軸方向に縦列に挿入されており、そのうちの少なくとも1個が前記磁性楔である。
【0017】
本発明の磁性楔の製造方法は、回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔の製造方法であって、前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、軟磁性粒子を含む原料粉末を前記幅の方向にプレス成形して成形体を得るプレス成形工程を有し、当該プレス成形工程において、直角台形の形状の開口部を有する金型と、前記金型の開口部に挿入可能なパンチを使用する方法で、前記直角台形形状を構成する四辺のうち、最長の辺が斜辺である。
【0018】
また、前記直角台形の形状の開口部の角部にアールを有することが好ましい。
【0019】
また、前記磁性楔の製造方法において、前記原料粉末は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するFe基軟磁性粒子の粉末と、バインダとの混合粉であり、前記プレス成形工程の後に、前記成形体に熱処理を施して、前記Fe基軟磁性粒子の粒子間に、前記Fe基軟磁性粒子同士を結着する前記Fe基軟磁性粒子の表面酸化物相を形成する熱処理工程を有することが好ましい。
【0020】
また、前記磁性楔の製造方法において、前記元素Mは、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0021】
さらに、前記磁性楔の製造方法において、前記Fe基軟磁性粒子は、Fe-Al-Cr系合金粒子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、スロット内のコイルの湾曲によって生じるスペースを無駄なく磁性楔で充填することができ、より高い効率の回転電機を実現することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態である磁性楔の形状を示す模式図である。
図2】ラジアルギャップタイプの回転電機に本発明の実施形態である磁性楔を装着する場合の模式図である。
図3】本発明の実施形態である磁性楔がステータのスロット開口部に取り付けられた状態の断面模式図である。
図4】粉末プレス成形で磁性楔を製造する際に使用する成形用の金型(ダイス)および上下パンチの模式図である。
図5】ラジアルギャップタイプの回転電機に厚さが一定の磁性楔を装着する場合の模式図である。
図6】厚さが一定の磁性楔がステータのスロット開口部に取り付けられた状態の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、従来の磁性楔の実施形態について説明した後に、本発明の実施形態について説明するが、本発明がかかる実施形態に限定されるものではない。また、重複する部分は説明を省略する。
【0025】
まず、従来の磁性楔について説明する。図5は、従来の磁性楔9をラジアルギャップタイプの回転電機に取り付ける際の形態を示す模式図である。磁性楔9は、隣接するティース34とコイル33とに囲まれた隙間(これをスロット開口部と呼ぶ)に、磁性楔9の長さ方向に挿入される。磁性楔9の長さ方向に垂直な断面の形状は、図のように、スロット開口部に嵌合できる形状となっている。
磁性楔9は基本的には厚さが一定である。磁性楔9の長さは、ステータ31の厚さと同じにすることが一般的であるが、磁性楔の挿入作業を簡便にするために、ステータの厚さよりも短い磁性楔を複数個、縦列に挿入することがある。なお、実際には、コイル33とステータ31、ティース34の間に、電気的絶縁を確保するためにスロットライナーと呼ばれる絶縁シートが挿入されるが、図では省略している。
【0026】
図6に、従来の磁性楔9がステータ31のスロット開口部に取り付けられた状態の断面模式図を示す。この図は、ステータ31を回転電機の軸を含む平面でティース34間の中央付近(スロット中央付近)をカットした断面図を示している。この図の紙面左右方向が回転電機の軸方向であり、紙面上方が回転電機の内径側、紙面下方が外径側である。
【0027】
磁性楔9は、図のように、スロットの内径側に設置されている。磁性楔の外径側には、スロットライナー35があり、さらにその下側にコイル33がある。コイル33は、スロット内に複数本設置されている。後述する図1では見やすくするために、スロットライナー35とコイル33の間、あるいはコイル33同士の間に隙間を空けて描いているが、実際にはこれらは密着している。また、通常コイル33は、内径側に存在するロータ(図示せず)との干渉を避けるため、スロットの外側では、図のように外径側に押し広げるように固定される。そのためコイル33は、スロットの内部では図のように湾曲し、スロットの軸方向中央付近では内径側にせり出し、両端付近では外径側に引っ込む形となる。磁性楔9は、中央付近でスロットライナー35と接触するが、スロットの軸方向両端付近では、図のように磁性楔9とスロットライナー35との間に隙間が生じる。
【0028】
図6の模式図を、回転電機の軸に垂直な面(A-A´およびB-B´)でカットした断面模式図を同図の下に示す。断面の位置は、軸方向端部(A-A´断面)と軸方向中央部(B-B´断面)の2カ所である。磁性楔9の断面は、図のようにT型をしており、両側の鍔部(T型の両端)がティース34の突起に引っかかって回転電機の内径側に脱落しないようになっている。また、B-B´断面に示されているように、軸方向中央部分において、磁性楔9はスロットライナー35を介してコイル33によって外径側からティース34に押しつけられて固定される。一方、スロット端部のA-A´断面では、磁性楔9とスロットライナー35の間には隙間が生じている。
【0029】
基本的には、スロット開口部の隙間を充填する磁性楔9の体積が大きいほど(スロット開口部の隙間が小さいほど)磁性楔の効果が高まり、回転電機の高効率化に有利であるため、図のような隙間の存在は好ましくない。また、磁性楔9とティース34はワニス含浸で接着固定されるものの、回転電機の駆動時には電磁力が磁性楔9に繰り返し働くため、長期的には接着が劣化して固定が緩くなるリスクがある。固定が弱くなると、電磁力で磁性楔が振動して摩耗や折損などのトラブルに至るので、このような観点からも図のような隙間の存在は好ましくない。
【0030】
次に、本実施形態の磁性楔について説明する。図1に本実施形態にかかる磁性楔10の五面図を示す。磁性楔の基本形状は、長さL、幅W、厚さTで表される短冊形状(棒状)であり、厚さTが長さL方向にT1からT2まで変化することで、幅方向から見たときに直角台形の形状をしている。また、後述するアールが隣接する場合など、直角台形の上底(辺24)が限りなく小さいときは、幅方向から見たときの形状は、直角三角形に近くなるが、これも直角台形とみなすことができる。ただし、欠け防止等の観点から、上底は直線部分を有することが好ましい。従来の磁性楔は一般的に厚さが一定であるので、この厚さが長手方向の両端で異なる点が、従来の磁性楔との大きな相違点である。
【0031】
図1(a)の正面図(中央の図)は、磁性楔10を幅方向から見た形状で直角台形の形状をしている。このとき、当該直角台形の下底(辺23)および上底(辺24)より高さ(辺21)の方が長く、当然のことながら、直角台形の高さ(辺21)より斜辺(辺22)の方が長い。よって、当該直角台形を構成する四辺のうち、最長の辺が斜辺である。
【0032】
ここで辺21を基準辺とする。基準辺21は、図5で説明したスロット開口部に挿入する方向と平行になる。基準辺21に対向する辺22は斜めになっている。この辺を斜辺22と呼ぶ。斜辺22は、図1(b)のように、基準辺21側に湾曲する曲線でも良いし、図1(c)のように、基準辺21側にVの字に折れ曲がっても良い。換言すると、斜辺22は直角台形の面積が狭くなる方向に変形したコンケーブ状でも良い。すなわち、概形として直角台形と認識できるものは、直角台形形状に含まれる。
【0033】
基準辺21に隣接する辺23(台形の下底)と辺24(台形の上底)は、基準辺21に対してそれぞれ直角である。この直角は、厳密に90度である必要はなく、ティースに挿入し易くするため、テーパーやアールを有していても良い。また、斜辺22に対して、辺23または辺24が接する角部も同様に、テーパーやアールを付けても良い。以上のような形状も、直角台形形状に含まれる。
【0034】
通常は、コイルはなだらかに湾曲しているから、コイルとの隙間を埋めるために、磁性楔の斜辺22も湾曲していることが好ましい。斜辺22の傾斜角度や曲線形状は、磁性楔10が挿入されるスロット開口部の形状に合わせて種々選択可能である。
【0035】
図1(a)の側面図(左右の図)は、磁性楔10を長さ方向から見た形状を示している。長さ方向に垂直な断面の形状は、単純な矩形でも良く、図のように、T型の形状(図ではT型が上下反転した向き)をしていても良い。紙面下に左側面図の拡大図を示す。ここで、T型の中央を胴部と呼び、横に伸びた部分(幅方向に突き出た部分)を鍔部25と呼ぶ。また、胴部の厚さをTとする。磁性楔10の厚さTは長さ方向に変化するが、胴部の厚さTは長さ方向に変化せず、一定である。
【0036】
鍔部25は、磁性楔10が挿入されるスロット開口部の形状に合わせてテーパーが付いていても良く、テーパー角度(図1中のθ)は0°以上90°未満とすることができる。ただし、角度θが0°に近いと鍔部25の根本に応力が集中し、鍔部25が折れるリスクが高まる。一方で、角度θが90°に近いほど磁性楔10がスロット開口部から脱落しやすくなる。かかる観点から角度θは、10°以上80°以下がより好ましく、20°以上70°以下がさらに好ましい。
【0037】
また、角度θ以外の寸法や形状も磁性楔10が挿入されるスロット開口部の形状に合わせて種々選択可能である。一般的な三相誘導モータに磁性楔10を装着する場合、幅Wは3~15mm、厚さTは1~5mmの範囲となる。長さLについては後述のように、スロット内に磁性楔を複数個縦列に並べて挿入することも可能であるため、必ずしもステータの厚さに一致させる必要はなく、例えば20~100mmの範囲で種々選択可能である。
【0038】
本実施形態の磁性楔が挿入される回転電機は、複数のティースと前記複数のティースにより形成された複数のスロットとを有する固定子と、これと軸を共有する位置に配置された回転子とを有する回転電機であれば良く、ラジアルギャップタイプの回転電機でもアキシャルギャップタイプの回転電機でも良い。
【0039】
図2はラジアルギャップタイプの回転電機に磁性楔10を装着する場合の模式図である。磁性楔10は、回転電機のスロット開口部に厚さが薄い方から挿入される。図のように、磁性楔10の長さ方向は回転電機の軸方向に、磁性楔の厚さ方向は回転電機の径方向に相当し、磁性楔の幅方向が回転電機の周方向に相当する。
一方、アキシャルギャップタイプの回転電機に磁性楔10を装着する場合は、ステータの外周側から、磁性楔10の厚さの薄い方から挿入される。この場合、磁性楔の長さ方向は回転電機の径方向に、磁性楔の厚さ方向は回転軸の軸方向に相当し、磁性楔の幅方向は回転電機の周方向に相当する。
【0040】
図3に本実施形態にかかる磁性楔10がステータ31のスロット開口部に取り付けられた状態の断面模式図を示す。この図は、ステータ31を回転電機の軸を含む平面でティース34間の中央付近(スロット中央付近)をカットした断面図を示している。この図の紙面左右方向が回転電機の軸方向であり、紙面上方が回転電機の内径側であり、紙面下方が外径側である。磁性楔は、図のようにスロットの内径側に3個列をなして設置されている。これらの内、軸方向両端に位置するものが本実施形態の磁性楔10であり、中央のものは厚さが一定の磁性楔9である。
【0041】
磁性楔9および10の外形側にはスロットライナー35があり、さらに、その外形側にコイル33がある。コイル33は、スロット内に複数本設置されている。図1では説明の便宜上、磁性楔10とスロットライナー35とコイル33の間に隙間を空けた模式図にしているが、実際には、これらは接触ないし密着している。またコイル33は、通常、内周側に存在するロータ(図示せず)との干渉を避けるため、スロットの外側では、図のように外径側に押し広げる形で固定される。そのためコイル33は、スロットの内部では図のように湾曲するが、本実施形態の磁性楔10を図のようにスロット軸方向両端に設置することにより、無駄な隙間がなくなるので、磁性楔による回転電機の効率向上効果をより高めることができる。
【0042】
図3の模式図を、回転電機の軸に垂直な面でカットした断面模式図を同図の下側に示す。断面の位置は軸方向端部(A-A´断面)と軸方向中央部(B-B´断面)の2カ所である。磁性楔10の断面は、図のようにT型をしており、両側の鍔部(T型の両端)がティース34の突起に引っかかって回転電機の内径側には脱落しないようになっている。本実施形態の磁性楔10を使用した場合には、軸方向端部(A-A´断面)においても、磁性楔10はスロットライナー35を介してコイル33によって外径側からティース34に押しつけられて固定される。さらに、ワニス含浸により、磁性楔10はティース34のみならずスロットライナー35とも接着されるため、より強固に固定される。この結果、回転電機駆動時の電磁力による振動に対しても耐性が高まり、磁性楔の摩耗や折損といったトラブルの発生リスクを減じることができる。
【0043】
なお、図3にはスロットの軸方向両端に本実施形態の磁性楔10、中央に厚さが一定の磁性楔9の計3個を挿入した例を示したが、磁性楔の挿入形態はこれに限らない。例えばコイル33の湾曲が大きい場合は、両端から本実施形態の磁性楔10を挿入して、1スロットに2個挿入する形態でも良い。このような場合は、ステータ31が薄い小型の回転電機などで好適である。一方、ステータ31が厚い大型の回転電機などでは、軸方向中央の厚さが一定の磁性楔9の数を増やした上で、スロットの両端にだけ本実施形態の磁性楔10を2個挿入する形態にしても良い。この場合、中央の複数の磁性楔9を比較的長い1個の磁性楔9に置き換えても良い。
【0044】
磁性楔10は、軟磁性粒子(以下、軟磁性粉末ともいう)、例えば、鉄粉またはFe基軟磁性合金粉末のいずれか、あるいはその両方からなる圧粉体とすることができる。磁性楔10をこのような材質とすることにより、粉末プレス成形で製造することが可能となり、その結果、以下のように機械加工によらず前記の形状を容易に形成することができる。
【0045】
図4は、粉末プレス成形で成形体11を製造する際に使用する、成形用の金型(ダイス40)および上パンチ41および下パンチ42の模式図である。ダイス40には、成形体11(後に焼成して磁性楔10となる)の側面形状(図1の中央図の形状)に等しい直角台形の形状の開口部43を有するキャビティが設けられている。このとき、当該直角台形の形状は、上述した磁性楔10の形状と同様に、台形の下底および上底より、高さの方が長く、当然のことながら、直角台形の高さより斜辺の方が長い。よって、当該直角台形を構成する四辺のうち、最長の辺が斜辺である。
【0046】
上パンチ41および下パンチ42は、成形方向(紙面上下方向)に垂直な断面形状が、磁性楔10の側面形状に等しい形状となっている。ただし、上パンチ41および下パンチ42は、ダイス40の開口部43内に挿入可能とするため、開口部43の寸法よりも数μm程度小さい寸法となっている。
【0047】
図4の紙面下側に、下パンチ42の拡大図を示す。この図から分かるように、下パンチ42には、磁性楔の鍔部25を成形するための凹凸がある。図1で説明した磁性楔10の基準辺21は、下パンチ42の辺421側で形成され、磁性楔10の斜辺22は、下パンチ42の辺422側で形成され、磁性楔10の鍔部25の角度θは、下パンチ42の辺423および辺424によって形成される。この時、辺421に対して、辺423と辺424は平行である。これは、つまり、図3のA-A´断面またはB-B´断面の図において、磁性楔10はティース34より内径側(紙面上側)に突き出ておらず(換言すると、ティース34の先端位置と磁性楔10の基準面21は同じ高さであり)、この位置関係を維持する形状である。さらに換言すると、上下パンチのパンチ面に凹凸があり、その凹凸の等高線が直角台形の長辺と平行である。
【0048】
本発明の実施形態である磁性楔の製造方法は、回転電機の固定子のスロット開口部に設置される磁性楔の製造方法であって、前記回転電機の周方向における磁性楔の寸法を幅とすると、軟磁性粒子を含む原料粉末を前記幅の方向にプレス成形して成形体を得るプレス成形工程を有し、当該プレス成形工程において、磁性楔10の側面形状と同じ形状の開口部を有する金型と、前記金型の開口部に挿入可能なパンチを使用する。
【0049】
ここで、プレス成形工程では、例えば、ダイスと上下パンチを使用して磁性楔10の成形体11を得ることができる。ダイス40と上パンチ41および下パンチ42を使用した磁性楔10の成形方法は以下の通りである。まず、ダイス40に下パンチ42だけを挿入しておき、キャビティ内に軟磁性粉末を含む原料粉末を充填する。その後、上パンチ41をダイスの開口部43に挿入し所定の圧力で加圧する。このとき、加圧方向(成形方向)は磁性楔10の幅方向となる。
【0050】
さらに、図4の模式的に示したように、上下パンチにおけるパンチ面の形状を、磁性楔10の側面部の形状と同一にしておき、磁性楔10の幅方向に加圧成形することが好ましい。加圧された原料粉末は圧密化されて磁性楔10の形状を有した成形体11となる。この成形体11に熱処理等を施して固化することにより、余分な機械加工を行うことなく、容易に磁性楔10を得ることができる。
【0051】
磁性楔10の長さ方向に垂直な断面における形状は、図1に示したT型形状に限らず、厚さ方向に磁性楔の幅が異なる形状であれば良く、例えば台形型など、各種の形状を採用することができる。そして、この場合、上パンチ41および下パンチ42のパンチ面も、磁性楔10の側面形状に合わせた形状で構成される。
【0052】
さらに、磁性楔10の側面形状(および上パンチおよび下パンチの形状)は、直線と曲線からなり、それらを滑らかに接続した形状とすることが好ましい。このような形状であれば、成形時に、ダイスの開口部のキャビティ内の原料粉末が上下パンチに押された際に、パンチ表面の形状に沿って原料粉末が圧力の高い部分から低い部分へと移動できるので、成形体11内部の密度均一性を向上させることができる。また、このようなパンチ面形状とすることにより、成形時にパンチ面に加わる応力が変曲部へ集中することを防止することができ、パンチの耐久性向上、寿命向上の面でも好ましい。さらに、磁性楔10はモータ駆動時に電磁加振力によりティースに繰り返し押し付けられて応力が生じるが、磁性楔10の側面をこのような形状とすることにより、上記の応力が変曲部に集中することを防止できる。このため、磁性楔の耐久性向上、寿命向上の面で有効である。
【0053】
加圧成形の方法としては、図4のように単純に上下パンチで圧縮する成形法(一段成形)が使用可能であるが、それ以外にも、上下パンチの片方もしくは両方を分割してそれぞれを独立に制御して圧縮する成形法(多段成形)を使用することもできる。これらのうち、一段成形法であれば使用するプレス機や金型の複雑化、大型化を回避することができ、また、成形に要する時間も比較的短時間にすることができるため好ましい。ただし、一段成形法を採用する場合は、成形体内部での密度差が大きくなりすぎないように配慮する必要がある。
【0054】
すなわち、図1に示した磁性楔10の長さ方向に垂直な断面の形状において、上辺の長さをWとし、下辺の長さをWとしたとき、W/Wが小さすぎると、上辺付近の成形体密度が上がりやすくなる一方、下辺付近の成形体密度が上がり難くなるため、成形体内部での密度差が大きくなり、強度低下や磁気特性不足を生じやすくなる。かかる観点から、一段成形の場合は、W/Wは65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましい。一方で、W/Wの値が100%となると幅方向の突起がなくなり、図3に示したような形態では磁性楔を固定できなくなる。かかる観点から、W/Wの値は95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、85%以下がさらに好ましい。
【0055】
一方、固定子の構造上、W/Wの値を65%以下等にせざるを得ない場合がある。このような際には多段成形法を使用することにより、W/Wを60%以下、もしくは50%以下、さらには40%以下といった形状も作製可能である。
【0056】
成形時の加圧方向は上記の幅方向以外にも、厚さ方向や長さ方向に加圧することも原理的には可能である。しかし、厚さ方向に加圧する場合、加圧面が磁性楔10の最大の面で加圧することになるため、多くの荷重が必要となる。このため、大型のプレス機が必要となり、設備コストが高くなるなどの問題が生じる。一方、長さ方向に加圧する場合には、加圧面は最小になるものの、図1に示したような形状を成形工程のみで形成することが困難になる。さらに、かなり厚いダイスと細長い上下パンチを用意する必要があり、金型の耐久性も含めて金型コスト増大の原因となる。その点、幅方向に加圧する本実施形態の製造方法によれば、比較的面積の小さい面で加圧することができ、厚さ方向に成形する場合に比べて荷重を大幅に低減できる。さらに、磁性楔の斜辺22の形状も、上述のようにダイスの開口部を適切な形状にすることで容易に形成することができる。
【0057】
成形圧力は、原料粉末の材質と性状に応じて適宜調整することが可能であるが、低すぎると成形体の密度が低すぎて成形体強度不足となり、後工程でのハンドリングに支障をきたすほか、熱処理後でも低密度となって強度不足や所望の磁気特性が得られないという問題を引き起こす場合がある。そのため、成形圧力は、0.1GPa以上が好ましく、0.2GPa以上が好ましく、0.3GPa以上がさらに好ましい。一方、成形圧力が高すぎると金型への負荷が大きくなって摩耗や亀裂が発生しやすくなり、金型寿命が短くなる。このような観点から成形圧力は、3GPa以下が好ましく、2GPa以下がより好ましく、1GPa以下がさらに好ましい。
【0058】
また、金型の長寿命化のためには、ダイスと上パンチおよび下パンチの少なくとも成形体11に接する部分を超硬合金で形成することが好ましい。
【0059】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、機械加工を行うことなく磁性楔10の端部にアール形状を形成することができ、回転電機の効率を高めやすい磁性楔10を低コストで製造することが可能となる。さらに、ダイスの開口部の角部、およびそれに対応する上下パンチの角部にアールが施されていてもよい。これにより成形圧力によって生じる角部への応力集中がアール形状によって緩和され、金型寿命の向上という点でも効果を有する。アールの半径は、上述の効果をより確実に享受するためには、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。
【0060】
磁性楔10の実効的な長さを確保する観点からは、アールの半径は磁性楔10の厚さの50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。一方で、アールを小さめにすることで、この部分の磁性楔とティース先端部との間の隙間を低減し、磁性楔の固定を強め、隙間の周辺で生じる磁束の分布の乱れも抑制し、結果として、磁性楔によるモータ効率の向上にも寄与する。かかる観点においても、アールの半径は磁性楔10の厚さの50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。
【0061】
また、磁性楔10は、軟磁性粒子と電気絶縁性の物質からなる複合材(コンポジット材)とすることができる。コンポジット材は、複数の軟磁性粒子間に電気絶縁性の物質を存在させて、軟磁性粒子同士を結着させるとともに、粒子間を電気的に隔絶したものであり、磁性楔10の電気抵抗を高めることによって、磁性楔10に生じる渦電流損失を抑制することができる。
【0062】
軟磁性粒子の平均粒径(累積粒度分布におけるメジアン径d50)は、大きすぎると電気抵抗が下がって渦電流損失が大きくなるため、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。一方、高い透磁率を維持し、磁性楔の効果を高めるためには、強磁性粒子の平均粒径は、2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。
【0063】
電気絶縁性の物質としては、有機物、無機物のいずれも使用可能であり、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリアミドイミド、シリコン樹脂、コロイダルシリカ、低融点ガラスなどが使用可能である。これらを使用した場合、強磁性粉末とこれらの電気絶縁性物質を混合後、前記の粉末プレス成形のほか、トランスファー成形、射出成形、ホットプレス等の方法でも作製できる。
【0064】
本実施形態である磁性楔の製造方法は、前記原料粉末は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有するFe基軟磁性粒子の粉末と、バインダとの混合粉であり、前記プレス成形工程の後に、前記成形体に熱処理を施して、前記Fe基軟磁性粒子の粒子間に、前記Fe基軟磁性粒子同士を結着する前記Fe基軟磁性粒子の表面酸化物相を形成する熱処理工程を有する。
【0065】
また、磁性楔10は、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有する複数のFe基軟磁性粒子1の圧密体である。ここで、「Feよりも酸化しやすい元素M」とは、酸化物の標準生成ギブズエネルギーが、Feよりも低い元素を意味している。元素Mとしては、Al、Si、Cr、ZrおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種を使用することができる。
【0066】
磁性楔10の一形態として、軟磁性粒子がFeより酸化しやすい元素Mを含むFe基合金であり、軟磁性粒子間に元素Mの酸化物相を生成させて粒子同士を結着した形態とすることも可能である。この形態の磁性楔10の作製方法としては、軟磁性粒子を前記の方法でプレス成形後、酸素が存在する雰囲気で熱処理することにより、元素Mの酸化物相を粒界に成長させることができる、この形態であれば、粒界の電気絶縁性物質の割合を最小化することができ、高密度となるので、高強度、高透磁率となって、より好適である。
【0067】
元素Mの酸化物相を生成させるためには、熱処理温度を650℃以上とするのが好ましく、700℃以上とするのがさらに好ましい。一方、熱処理温度が高すぎるとFeの酸化が進んで磁気特性が劣化(透磁率減少および鉄損増大)するため、かかる観点から熱処理温度は850℃以下とするのが好ましく、800℃以下とするのがさらに好ましい。また、熱処理時間は短すぎると元素Mの生成が不十分となって強度が低下する一方、長すぎるとFeの酸化が進んで磁気特性が劣化する。かかる観点から熱処理時間は30分~6時間の範囲とするのが好ましく、1~3時間の範囲とするのがさらに好ましい。
【0068】
ここで、元素Mは、一種だけでなく、AlとCr、SiとCrなどの組み合わせで二種以上選択してもよい。例えば、AlとCrの二種を選択して、Fe基軟磁性粒子を、Fe-Al-Cr系合金粒子にしてもよい。このようにすることで、曲げ強度と電気抵抗の高い磁性楔10とすることができる。なお、Fe-Al-Cr系合金とは、Feの次に含有量が多い元素が、CrおよびAl(順不同)である合金のことであり、その他の元素がFe、Cr、Alより少量含まれていても良い。Fe-Al-Cr系合金の組成はこれを特に限定するものではないが、例えばAlの含有量としては、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上である。高飽和磁束密度を得る観点からは、Alの含有量は、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下である。また、Crの含有量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上である。高飽和磁束密度を得る観点からは、Crの含有量は、好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは4.5質量%以下である。
【0069】
なお、上記元素Mに二種以上の元素を選択した場合、それら含有量の合計は、一種を選択した場合と同様に、1.0質量%以上20質量%以下にするのが好ましい。
【0070】
また、Fe基軟磁性粒子は、化学的手法や熱処理などで表面処理された粒子にしてもよい。さらに、Fe基軟磁性粒子は、組成が異なる複数種のFe基軟磁性粒子で構成することもできる。
【0071】
以上のように、本発明によれば、回転電機の効率をより高めることのできる磁性楔を得ることができ、また、そのような磁性楔を機械加工をせずに低コストで製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0072】
9:磁性楔(厚さが一定)
10:磁性楔(厚さが異なる)
11:成形体(磁性楔)
21:磁性楔の基準辺
22:磁性楔の斜辺
23:磁性楔の辺
24:磁性楔の辺
25:磁性楔の鍔部
31:ステータ
32:ロータ
33:コイル
34:ティース
35:スロットライナー
36:二次導体
40:ダイス
41:上パンチ
42:下パンチ
43:ダイスの開口部
L:磁性楔の長さ
R:アール
T:磁性楔の厚さ
:磁性楔の厚さ
:磁性楔の厚さ
:磁性楔の胴部の厚さ
W:磁性楔の幅
:磁性楔の上辺の長さ
:磁性楔の下辺の長さ

図1
図2
図3
図4
図5
図6