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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150423
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】外来性遺伝子発現組換えイネ
(51)【国際特許分類】
   A01H 6/46 20180101AFI20241016BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20241016BHJP
   C07K 14/28 20060101ALI20241016BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20241016BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20241016BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20241016BHJP
   A61K 39/106 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A01H6/46 ZNA
C12N15/31
C07K14/28
A01H5/10
A23L33/17
A23L7/10 Z
A61K39/106
A61P31/04
A61P37/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024062517
(22)【出願日】2024-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2023063263
(32)【優先日】2023-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518277343
【氏名又は名称】株式会社HanaVax
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】幸 義和
(72)【発明者】
【氏名】清野 宏
【テーマコード(参考)】
4B018
4B023
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD20
4B018MD49
4B018MD50
4B018ME14
4B018MF14
4B023LC09
4B023LP20
4C085AA03
4C085BA20
4C085CC24
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA11
4H045DA86
4H045EA01
4H045EA05
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】本発明は、、コレラトキシンB鎖(CTB)などの外来性遺伝子(例えば、病原性微生物由来の抗原性タンパク質をコードする遺伝子)を安定的に保持し、赤色光を含む光照明下においても、発育することができるイネ植物およびその種子の提供を課題とする。
【解決手段】本発明は、病原性微生物由来の抗原性タンパク質をコードするDNAが発現可能に染色体DNAに組み込まれた遺伝子導入イネであって、当該DNAが組み込まれた染色体が1番染色体であることを特徴とする遺伝子導入イネおよび当該イネから採取した種子である。当該遺伝子導入イネとして、受託番号FERM BP-22475で寄託された種子から生育したイネなどが例示される。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病原性微生物由来の抗原性タンパク質をコードするDNAが発現可能に染色体DNAに組み込まれた遺伝子導入イネであって、当該DNAが組み込まれた染色体が1番染色体であることを特徴とする、前記遺伝子導入イネ。
【請求項2】
前記DNA構築物が組み込まれたイネ1番染色体の位置が、イネ1番染色体DNAの29,910,245位置から上流に向かって約500 bpの位置と29,910,245位置から下流に向かって約17,342 bpの間の位置である、請求項1に記載の遺伝子導入イネ。
【請求項3】
染色体に組み込まれた抗原性タンパク質をコードするDNAのコピー数が1であることを特徴とする、請求項2に記載の遺伝子導入イネ。
【請求項4】
前記抗原性タンパク質がコレラトキシンB鎖(CTB)である、請求項3に記載の遺伝子導入イネ。
【請求項5】
受託番号FERM BP-22475で寄託された種子から生育したことを特徴とする、請求項4に記載の遺伝子導入イネ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の遺伝子導入イネから採取された種子。
【請求項7】
受託番号FERM BP-22475で寄託されたことを特徴とする請求項6に記載の種子。
【請求項8】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の遺伝子導入イネから採取されたコメ、または抗原性タンパク質を含有するコメ加工物。
【請求項9】
請求項8に記載のコメ、または抗原性タンパク質を含有するコメ加工物を有効成分として含有するワクチン組成物。
【請求項10】
請求項7に記載の種子から製造されたコメ、または抗原性タンパク質を含有するコメ加工物。
【請求項11】
請求項10に記載のコメ、または抗原性タンパク質を含有するコメ加工物を有効成分として含有するワクチン組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コレラトキシンB鎖などの外来性遺伝子を発現する組換えイネ、該組換えイネから採取される種子またはコメ、該種子またはコメを利用したワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の感染症に対するワクチンは、注射により投与する注射型が多かった。しかし、注射によるワクチン投与では、全身免疫の誘導は可能であるが、粘膜免疫の誘導が十分ではない。これに対し、粘膜ワクチンは、全身及び粘膜の両方の免疫応答を誘導することができ、防御免疫系を成立させる上で、有効な手段である。
また、注射ワクチンなど従来型のワクチン製剤は、温度に対して不安定であるため、その保存には、低温状態に保つ必要があり、世界規模の広い地域においてワクチンを供給する上で、常温での保存が可能であるワクチン製剤が嘱望されていた。
【0003】
上記問題点を克服するための粘膜ワクチンとして、本出願の発明者らは、コメ型ワクチンであるMucoRice(登録商標)を開発した(特許文献1)。具体的には、発明者らは、無毒なコレラ毒素B鎖(CTB)遺伝子を、アグロバクテリウム法でイネの胚乳細胞特異的発現プロモーターの制御下で発現させたコメ型経口ワクチン(MucoRice-CTB)を開発した。この発現プロモーターを持つT-DNAをイネゲノムに導入することで、ワクチン抗原であるCTB分子をイネ種子であるコメの胚乳細胞内の蛋白貯蔵体に特異的に発現させることができる。それにより、コメ型ワクチンMucoRice-CTBは経口で投与されたときでも胃での消化分解を免れて腸管に到達する。MucoRice-CTBを経口免疫したマウスは、コレラ毒素で攻撃された場合でも下痢を発症しなったが,CTBを発現していない米を投与されたマウス群は下痢を発症した(非特許文献1)。すなわち、MucoRice-CTBは、コレラ毒素による攻撃に対して有効な防御効果を示すワクチンとして機能することが確認された。また、MucoRice-CTBを室温(30℃)条件下において乾燥状態で保存して、定期的にその含有量および抗原特異的粘膜IgAの誘導能を調べたところ、室温24カ月保存しても含有量およびIgA抗体誘導能とも,低温保存群に比較してまったく遜色ないことが確認されている(非特許文献2)。
【0004】
粘膜ワクチンとして期待されていたMucoRice-CTBであるが、ある問題を抱えていた。特定の遺伝子が組み込まれた細胞をスクリーニングする場合、膨大な量の非形質転換体から特定遺伝子で形質転換された形質転換体を選択するためには、薬剤耐性の選択マーカー(例えば、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子など)の利用が必須とも言える。MucoRice-CTBの作製においても、CTBによって形質転換された細胞の選択に薬剤耐性マーカーを使用しており、その結果、薬剤耐性遺伝子が最終的に得られたワクチン中に残存したままの状態であった。
薬剤耐性の選択マーカーが、遺伝子導入細胞に保持されたままだと、その遺伝子導入細胞が遺伝子導入作物に分化生育していく能力が抑制されたり、あるいは、遺伝子導入作物を栽培する過程において、薬剤耐性遺伝子が雑草や野草に取り込まれたりする危険が存在する。また、遺伝子導入されたワクチン製剤を経口投与した場合、腸バクテリアが抗生物質耐性遺伝子を保有するに至るなどの可能性が、懸念される。
【0005】
そこで、本願の発明者らは、選択マーカー遺伝子であるハイグロマイシン耐性遺伝子を含まない、選択マーカーフリーのMucoRice-CTBの作製を行い、MucoRice-CTB 51A株を得た(非特許文献3)。MucoRice-CTB 51A株は、3番染色体にタンデムに2コピーのCTB遺伝子、および12番染色体に1コピーのCTB遺伝子が導入されていた。MucoRice-CTB 51Aは、CTBの発現が高くワクチンとしての利用に適していると考えられたが、この種子から発芽したイネは、太陽光、特に赤色光下での発育ができず、量産には向かないことが明らかとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4769977号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nochiら, Proc. Natl. Aca. Sci. USA. 104:10986-10991 2007.
【非特許文献2】Tokuhara et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 107, 8794-8799 2010
【非特許文献2】Mejimaら, Plant Cell Tiss. Org. Cut. 120:35-48 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、コレラトキシンB鎖(CTB)などの外来性遺伝子(例えば、病原性微生物由来の抗原性タンパク質をコードする遺伝子)を安定的に保持し、赤色光を含む光照明下においても、発育することができるイネ植物およびその種子の提供を課題とする。さらに、該イネ植物由来のコメから製造したワクチン製剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々のCTB導入イネの解析を行ったところ、CTB遺伝子がイネ1番染色体(具体的には、29,910,245の位置)に1コピーだけ導入された株は、太陽光下における稔実率が良好であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)~(11)である。
(1)病原性微生物由来の抗原性タンパク質をコードするDNAが発現可能に染色体DNAに組み込まれた遺伝子導入イネであって、当該DNAが組み込まれた染色体が1番染色体であることを特徴とする、前記遺伝子導入イネ。
(2)前記DNA構築物が組み込まれたイネ1番染色体の位置が、イネ1番染色体DNAの29,910,245位置から上流に向かって約500 bpの位置と29,910,245位置から下流に向かって約17,342 bpの間の位置である、上記(1)に記載の遺伝子導入イネ。
(3)染色体に組み込まれた抗原性タンパク質をコードするDNAのコピー数が1であることを特徴とする、上記(2)に記載の遺伝子導入イネ。
(4)前記抗原性タンパク質がコレラトキシンB鎖(CTB)である、上記(3)に記載の遺伝子導入イネ。
(5)受託番号FERM BP-22475で寄託された種子から生育したことを特徴とする、上記(4)に記載の遺伝子導入イネ。
(6)上記(1)から(5)までのいずれかに記載の遺伝子導入イネから採取された種子。
(7)受託番号FERM BP-22475で寄託されたことを特徴とする上記(6)に記載の種子。
(8)上記(1)から(5)までのいずれかに記載の遺伝子導入イネから採取されたコメ、または抗原性タンパク質を含有するコメ加工物。
(9)上記(8)に記載のコメ、または抗原性タンパク質を含有するコメ加工物を有効成分として含有するワクチン組成物。
(10)上記(7)に記載の種子から製造されたコメ、または抗原性タンパク質を含有するコメ加工物。
(11)上記(10)に記載のコメ、または抗原性タンパク質を含有するコメ加工物を有効成分として含有するワクチン組成物。
なお、本明細書において「~」の符号は、その左右の値を含む数値範囲を示す。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、CTB遺伝子など外来性遺伝子を保持するイネ植物を、赤色光を含む光(例えば、太陽光、LED照明光)などの下で良好に生育させることが可能となる。その結果、ワクチン抗原を含有するコメの量産が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、各種組換えCTB発現イネにおけるCTB遺伝子の導入状態を確認するためのサザンブロット解析の結果を示す。
図2図2は、各種組換えCTB発現イネの稔実率(A)と種子数(B)を比較した結果を示す。値は、野生型イネの日本晴れの稔実率(A)と種子数に対する割合(B)で示した。
図3図3は、各種組換えCTB発現イネから採取されたコメのマウスへの経口投与によって誘導される抗体価を比較した結果を示す。
図4図4は、MucoRice-CTB 19Aの1番染色体に導入された配列の存在をPCRにより確認した結果を示す。上図は、導入配列(CTB CassetteおよびRNAi Cassette)を確認するためのプライマーの設定位置を示す。下図は、PCR産物をアガロースゲル電気泳動で確認した結果を示す。
図5図5は、MucoRice-CTB 19Aの1番染色体に導入された配列の全塩基配列を確認するために増幅したPCR増幅領域(上図)とPCR増幅断片のアガロースゲル電気泳動の結果を示す(下図)。
図6-1】図6-1は、MucoRice-CTB 19Aの1番染色体に導入された導入遺伝子の全塩基配列の一部を示す(1)。
図6-2】図6-2は、MucoRice-CTB 19Aの1番染色体に導入された導入遺伝子の全塩基配列の一部を示す(2)。
図6-3】図6-3は、MucoRice-CTB 19Aの1番染色体に導入された導入遺伝子の全塩基配列の一部を示す(3)。
図6-4】図6-4は、MucoRice-CTB 19Aの1番染色体に導入された導入遺伝子の全塩基配列の一部を示す(4)。
図7図7は、CTB遺伝子を含むT-DNAが挿入されたMucoRice-CTB 19Aの1番染色体上の位置(A)と隣接領域に存在するORF(B)を示す図である。
図8図8は、MucoRice-CTB 19Aの1番染色体に導入したT-DNAの構造を示す。
図9図9は、MucoRice-CTB 19Aから採取した種子からの抽出物を電気泳動したゲルの染色像(A)と13kDa prolamin、Glutelin AまたはCTBに対する抗体を用いたウエスタンブロッティグの結果(B)を示す。
図10図10は、MucoRice-CTB 19Aから採取した種子の組織切片を13kDa prolamin、Glutelin AまたはCTBに対する抗体で免疫染色した顕微鏡画像を示す。
図11図11は、MucoRice-CTB 19Aから採取した種子中のCTBの定量結果およびその生物活性を確認した結果を示す。
図12図12は、MucoRice-CTB 19Aから採取した種子中の主要貯蔵タンパク質のmRNA発現量を、定量的リアルタイムPCRで測定した結果を示す。
図13図13は、MucoRice-CTB 19Aから採取したコメのワクチンとしての機能について解析した結果を示す。
図14図14は、MucoRice-CTB 19Aから採取したコメの経口投与による下痢抑制効果を確認した結果である。
図15図15は、MucoRice-CTB 19Aゲノム中のHPT遺伝子の有無を確認した結果を示す。
図16図16は、MucoRice-CTB 19Aから採取したコメ中のアレルゲンについて分析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態について説明する。なお、「本実施形態」と記す場合、特に断らない限り、本明細書に記載されている全ての実施形態を指すものとする。
第1の実施形態は、外来性遺伝子、特に、病原性微生物由来の抗原性タンパク質をコードするDNAが発現可能に染色体DNAに組み込まれた遺伝子導入イネであって、当該DNAが組み込まれた染色体が1番染色体であることを特徴とする、前記遺伝子導入イネである。
本実施形態において「イネ」とは、イネ属(Oryza sativa)の植物であれば、特に限定されるものではない。さらに、本実施形態には、当該遺伝子導入イネから採取される種子(籾)、コメおよびコメ加工物が含まれる。また、本実施形態における「コメ」とは、種子から殻を除いた部分で、玄米、精米(白米)およびこれらの一部分のことである。「コメ加工物」とは、抗原性タンパク質を含有する限りいかなる加工物であってもよく、粉末化物、タンパク質画分の抽出物などのことである。
【0013】
第1の実施形態にかかる遺伝子導入イネは、特に、例えば、病原性微生物由来の抗原性タンパク質(例えば、コレラ菌由来のコレラトキシンB鎖(CTB))をコードするDNA(以下「抗原コードDNA」とも記す)が1番染色体のエキソン以外の領域に組み込まれたイネである。抗原コードDNAは、発現可能に、すなわち、抗原タンパク質がイネの細胞内で発現し得るような状態で、当該抗原コードDNAがイネの1番染色体のエキソン以外の領域に組み込まれており、好ましくは、コメ(イネ種子)の胚乳細胞内のタンパク質貯蔵体(プロテインボディーI、II)に特異的に発現し得るように、胚乳細胞特異的発現プロモーター、例えば、グルテリンプロモーター、プロラミンプロモーターなどで発現制御されるようにイネ染色体に組み込まれていることが望ましい。また、抗原コードDNAの転写終結を制御するターミネーターも胚乳細胞特異的ターミネーターを使用することが望ましい。従って、抗原コードDNAは、胚乳細胞特異的プロモーター、当該抗原コードDNAおよび胚乳細胞特異的ターミネーターを含むDNAコンストラクトとして、イネ1番染色体のエキソン以外の領域に組み込まれていてもよい。
【0014】
抗原をイネ種子中で高発現させるためには、イネ種子の主要な貯蔵タンパク質(例えば、13Kプロラミン(Prolamin)、グルテリン(Glutelin)など)の発現を抑制することが望ましい。そのためには、例えば、これらのタンパク質の発現をRNAi法などで抑制するためのRNAを発現するための構成要素が前記DNAコンストラクトと共にイネ1番染色体に組み込まれてもよい(例えば、Kurodaら, Biosci. Biotechnol. Biochem. 74:2348-2351 2010などを参照のこと)。
【0015】
抗原コードDNAが導入されるイネ1番染色体上の位置は、エキソン以外の領域であれば特に限定されないが、例えば、イネ1番染色体DNAの29,910,245位置から上流に向かって約541 bp(+541 bp)の位置と29,910,245位置から下流に向かって約17,342 bp(-17,342bp)の間の位置が好ましく、より好ましくは、29,910,245位置から±約300 bpの位置、最も好ましくは、29,910,245位置から±約100 bpの位置である。
抗原コードDNAが組み込まれたイネ染色体上の位置は、公知の方法、例えば、サザンブロット法やDNAシークエンシングを組み合わせて実施することで容易に確認することができる。
【0016】
抗原コードDNAが染色体に組み込まれた遺伝子導入イネは、公知の方法により容易に作出することができる。遺伝子導入イネの作出は、特に限定しないが、例えば、抗原コードDNA、プロモーター、ターミネーターなどで構成されるDNAコンストラクトを、植物細胞でのタンパク質発現に使用可能なベクター、例えば、T-DNAバイナリーベクター(例えば、pBG、pBI、pPZP、pRIなど)に挿入し、当該ベクターをイネ細胞に導入した後、形質転換したイネ細胞を培養してイネ植物体を再生させることにより作出することができる。ベクターを導入するイネ細胞の形態は、植物体に再生可能である限り特に限定されるものではなく、例えば、培養細胞、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根、カルス等が挙げられる。ベクターが導入されたイネ細胞を選択するために、ハイグロマイシン、テトラサイクリン、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子を当該ベクターに含有させてもよい。ただし、薬剤耐性遺伝子を含むコメを動物に投与することは、安全性の面で問題が生じる可能性があるため、最終的には、薬剤耐性遺伝子を含まない細胞を選択する必要がある。そのための方法については、例えば、Mejimaら, Plant Cell Tiss. Org. Cult. 120:35-48 2015などを参照のこと。
【0017】
イネ細胞へのベクターの導入方法は、特に限定しないが、例えば、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法 、パーティクルガン法などの公知の方法により容易に実施することができる。また、イネ細胞を培養してイネ植物体を再生させる方法についても、特に限定されず、公知の方法により容易に実施することができる。
【0018】
本実施形態において、「抗原性タンパク質」とは、免疫原性(抗体産生および/または細胞背負い免疫を誘導する性質)を有するタンパク質のことである。本実施形態における抗原性タンパク質は、病原性微生物に由来するタンパク質であって、それ自体は病原性または毒性を有しないか、または生体に悪影響を与えない程度の非常に弱い病原性または毒性しか有さず、免疫原性を保持しているタンパク質が好ましい。
【0019】
本実施形態における病原性微生物とは、特に限定はしないが、例えば、コレラ菌、病原性大腸菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌、百日咳菌、ジフテリア菌、ペスト菌、破傷風菌、ボツリヌス菌、炭ソ菌、野兎病菌、大腸菌O157、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌、結核菌、赤痢菌、腸チフス菌、パラチフス菌、クラミジア菌、アメーバ赤痢、レジオネラ菌、ライム病ボレリア菌などの病原性細菌、ロタウイルス、肝炎ウイルス(A型、B型、C型)、B型肝炎ウイルス、C 型肝炎ウイルス、ノロウイルス属のウイルス、ロタウイルス属のウイルス、狂犬病ウイルス、RSウイルス、サイトメガロウイルス、口蹄疫ウイルス、伝染性胃腸炎ウイルス、風疹ウイルス、ATLウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、HIV(AIDSウイルス)、コロナウイルス(SARS/ MERS)、エボラ出血熱ウイルス( フィロウイルス)、ラッサ熱ウイルス、新型コロナウイルス(SARS Cov2)、デングウイルス、ニパウイルス、エンテロウイルス71・D68、サル痘ウイルス、天然痘ウイルス、ジカウイルス、チクングニアウイルスなどの病原性ウイルスの他、真菌(クリプトコッカス・ネオフォルマンス、カンジダ・アウリス、アスペルギルス・フミガーツス、カンジダ・アルビカンス、ナカセオミセス・グラブラータ、ヒストプラズマ属、ユーマイセトーマ原因物質、フザリウム属、カンジダ・トロピカンス、カンジダ・パラプシローシス)、マラリア原虫、トリパノソーマなどの原虫が挙げられる。
【0020】
また、病原性微生物に由来するタンパク質であって、それ自体は病原性または毒性を有しないか、または生体に悪影響を与えない程度に弱い病原性もしくは毒性しか有さず、かつ、免疫原性は保持しているタンパク質としては、例えば、コレラトキシンB鎖(CTB)、大腸菌易熱性毒素B鎖(LTB)、炭そ菌防御抗原、破傷風毒素ToxCドメイン、ボツリヌス毒素Hcドメイン、インフルエンザウイルスHA抗原、ロタウイルスVP6、ノロウイルスVP1などのタンパク質が挙げられ、特にコレラトキシンB鎖が好ましい。また、抗原性タンパク質は、2種類以上のタンパク質(またなペプチド)からなる融合タンパク質であってもよく、単量体のみならず、多量体(ホモ多量体またはヘテロ多量体)であってもよい。
【0021】
さらに、本実施形態における抗原性タンパク質は、所望の抗原性を有する限り、天然由来のタンパク質に限定されるものではなく、変異体タンパク質であってもよい。具体的には、天然由来のタンパク質のアミノ酸配列中に、1または複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入または付加などを含むアミノ酸配列からなり、天然由来のタンパク質と同様の抗原性を有するタンパク質であっても、本実施形態の抗原性タンパク質に含まれる。また、天然由来のタンパク質のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、天然由来のタンパク質と同様の抗原性を有するタンパク質も本実施形態の抗原性タンパク質に含まれる。
【0022】
本実施形態における抗原性タンパク質は、所望の抗原性を有する限り、その他のタンパク質またはペプチドなどとの融合タンパク質であってもよい。例えば、当該抗原性タンパク質は、イネ種子の胚乳細胞内のタンパク質貯蔵体(プロテインボディーI、II)へ移行するためのシグナルペプチド、例えば、グルテリン、プロラミンなどのシグナルペプチドと融合したタンパク質であってもよい(例えば、特許文献1などを参照のこと)。
【0023】
第1の実施形態にかかる遺伝子導入イネの種子の1例として、MucoRice-CTB 19A(実施例を参照のこと)の識別名にて、2023年3月10日(原寄託日)付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(IPOD)(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に寄託された、受託番号FERM BP-22475で特定される種子を挙げることができる。この種子は、上記保存機関より入手可能である。
【0024】
第2の実施形態は、本実施形態にかかるコメまたは抗原性タンパク質を含有するコメ加工物を含有するワクチン組成物である。
本実施形態にかかるワクチン組成物を投与する動物としては、例えば、ヒトおよびその他の脊椎動物(例えば、哺乳類、鳥類、両性類、魚類、爬虫類) などが挙げられる。ワクチン組成物の形態は、投与経路等に応じて適宜選択することができる。ワクチン組成物の形態としては、医薬組成物、飲食品組成物、飼料組成物等が挙げられる。医薬組成物、飲食品組成物、飼料組成物等の種々の形態の組成物は常法に従って調製することができる。ワクチン組成物は適当なアジュバントとともに投与してもよい
ワクチン組成物の投与量は、投与対象の年齢や体重等により適宜決定することができるが、薬学的に有効な量の抗原性タンパク質を含む。薬学的に有効な量とは、その抗原性タンパク質に対する免疫反応を誘導するのに必要な抗原量をいう。例えば、1回のワクチン抗原投与量数μg~数10mgで1日1回~数回投与し、1~数週間間隔でトータル数回、例えば1~5回程度投与すればよい。
【0025】
本明細書において引用されたすべての文献の開示内容は、全体として明細書に参照により組み込まれる。また、本明細書全体において、単数形の「a」、「an」、および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものを含むものとする。また、本明細書において、「同程度」、「約」とは、±10%の数値範囲を意味する。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0026】
1.マーカーフリーMucoRice-CTBの作製
ヒトへの投与が可能な薬剤選択マーカーフリーのMucoRice-CTBを確立するために、(hygromycin phosphotransferase:HPT)発現カセットを含むT-DNAバイナリーベクター(pZH2B)、およびCTB発現カセットとRNAi発現カセットを含むT-DNAバイナリーベクター(pZAAMP-CTB-10Li45GB3A)を構築した。これら2つのT-DNAバイナリーベクターを、それぞれ異なるT-DNAを持つ2つのアグロバクテリウム形質転換体を用いて、共形質転換を行った。得られた95の共形質転換体から6つのHPT選択マーカーフリーMucoRice-CTBラインを作出することに成功した(方法の詳細は、Mejimaら, Plant Cell Tiss. Org. Cult. 120:35-48 2015を参照のこと)。これらのマーカーフリー株は、PCRによる確認、およびハイグロマイシンを用いた選択培地培養の2つの方法によって同定した。6つのマーカーフリー系統のそれぞれにおいて、種子に蓄積されたCTB抗原のレベルが最も高い植物を選択し、自家受粉によってT4世代に進め、ホモ接合系統を得た(Mejimaら, Plant Cell Tiss. Org. Cult. 120:35-48 2015)。
【0027】
得られた6つの系統のうち、種子におけるCTB蓄積量が最も高かった系統(51A株)を量産するために、栽培規模のスケールアップを行ったところ、51A株は太陽光では発育することができず、特に赤色光下での発育不全が確認された。そこで、赤色光を含む太陽光下においても発育し得る系統の有無について、残りの5系統に対して調べることにした。太陽光下での発育状況、免疫的効果の観点を考慮し、19A株が量産に最も適していると判断した。以下、19Aの解析結果を示す。
【0028】
2.MucoRice CTB株の特徴付け
2-1.サザンブロット解析
51A株以外の系統(9B株、19A株、43B株、50A)および非組換えイネ(日本晴)の幼若葉2.0 gを細かく刻み、Nucleon PhytoPure(GE Healthcare/ RPN8510)を用いてゲノムDNAの抽出を行った。Phusion High-Fidelity DNA Polymerase(New England BioLabs)を用いて検出用プローブの作製を行った。PCRにはCTB遺伝子検出用プローブ作成プライマー(CTB-F:5’-ACACCTCAACAGATTACTGA-3’(配列番号1)、CTB-R:5’-TCAATTTGCCATACTAATTGCG-3’(配列番号2))を用いた。PCR 増幅は94 ℃ 30秒、55 ℃ 30秒および72 ℃ 30秒を35サイクル行った。PCR増幅後、2.0% Agarose gelにて100v 25分電気泳動を行い、PCR 増幅産物を切り出しWizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いたDNAゲル抽出を行った。
【0029】
イネゲノム20μgをEcoRIおよびSacIによる制限酵素消化を37℃で一晩行った。その後制限酵素処理したゲノムをフェノール/クロロホルムで精製し、0.7%アガロースゲルを用いて、100v 約3.5時間電気泳動を行った。泳動終了後、ゲル撮影装置FAS-III UVイルミネーター(TOYOBO)を用いて泳動パターンを記録した。次いで、0.7% アガロースゲルを0.25N HCl 300mLに浸し、室温で10分間ゆっくり振とうした。続いて、0.7% アガロースゲルを変性液(0.5 mol/L NaOH、1.5 mol/L NaCl)300mLに浸し、室温で30分間ゆっくり振とうした。 さらに、0.7% アガロースゲルを中和液(0.5 mol/L Tris-HCl pH 7.5、1.5 mol/L NaCl)300mLに浸し、室温で30分間ゆっくり振とうした。 ブロッティング台に、ろ紙2枚でブリッジを組み、0.7% アガロースゲル、メンブレン、ろ紙2枚の順に重ねた。さらに、ペーパータオル200枚と500gの重しをのせ、10×SSCを用いて一晩静置することでDNAをメンブレンに転写させた。転写が終了したらメンブレンを注意深くはがし、2×SSC にてメンブレンを洗浄した後に風乾した。UV Cross Linkerを用いてメンブレンにUVを照射し、制限酵素消化されたDNAをメンブレンに固定した。検出用プローブ2種をAlkPhos Direct Labelling Moduleを用いてAP標識し、55℃ 1時間のプレハイブリダイゼーションを行った後55℃で一晩ハイブリダイゼーションした。24時間経過後、あらかじめ55℃に温めておいた一次洗浄バッファーにメンブレンを浸し、55℃で10分間穏やかに振とうした。新しい一次洗浄バッファーにメンブレンを浸し、次に、二次洗浄バッファーにメンブレンを浸し、室温で5分間穏やかに振とうした。CDP-Star検出試薬による化学発光にて検出を行った。露光時間1時間でImageQuant LAS 4000mini(GE Healthcare)で画像の取り込みを行った(図1)。
【0030】
19A株のサザンブロット解析の結果、CTB遺伝子検出用プローブによって1本のバンドが検出された(図1、矢印)。一方、非組換えイネの日本晴はCTB遺伝子を持たないため、CTB遺伝子検出用プローブによってバンドが検出されなかった(図1、「W」)。本結果より、MucoRice-CTB 19A株は、 第4世代においてイネゲノムへのCTB遺伝子の導入が1コピーであることが推定された。なお、9B株は3コピー、43B株は1コピー、50A株は2コピーであることが推定された。
【0031】
2-2.各株の稔実率および採取された種子数の算出
MucoRice-CTB9B、19A、43Bおよび50B、それぞれ5種子を発芽させ、太陽光下で発育させたイネから採取したコメの温室(約25℃~35℃)での稔実率(1植物当たり)と種子数を算出し、野生米の日本晴の稔実率および種子数と比較した。その結果、1コピーのみがイネゲノム中に導入されている19A株の稔実率および種子数の値が最も高かった(図2)。
【0032】
2-3.各株から得られたコメによって誘導される抗体価
各種組換えコメを7週齢の雌BALB/c(それぞれn = 5)へ、25mg /ドーズで、1週間おきに3回、経口投与した。最終免疫から1週間後に血清を採取し、CTB特異的IgG抗体価を測定した。
Microtiter plate(Thermo Fisher)のウェルに、最終濃度5μg/mLとなるように調製した組換体CTB(rCTB)の100μL/wellを固相化し、各血清の抗体価を測定した。検出は、HRP標識二次抗体および抗マウスIgG HRPを用いて、室温で90分間反応させることで行った。反応後、TMB(Seracare社)を基質として、HRP活性をOD450nmで測定した。各プレートのカットオフ値より高いwellの最高希釈倍率をlog2 titerで表し抗体価とした。抗体価は、導入されたCTBのコピー数に依存して若干の変動が認められたが、それほど大きな差ではなかった(図3)。
【0033】
3.MucoRice CTB 19A株の解析
3-1.CTB遺伝子が導入された染色体の確認
次世代シークエンサーを用いたMucoRice-CTB 19Aのリシークエンスにより得られたペアエンドのリードデータ(174,320,981リード)の中から、挿入配列のLBまたはRB近傍に存在する特異的配列と相同性の高いリードを抽出した結果、207リードが抽出された。各リードは1つのDNA断片の両側に位置しており、固有の番号によりお互いのペアを抽出することができるため、挿入配列を参照配列として、得られた207リードをマッピングした。マッピングされなかったリード群をイネゲノムに対してBLAST検索し、以下のイネゲノム由来の配列とインサートの双方の配列を持つリードを抽出した。その結果、3番染色体由来の13リード、1番染色体由来の10リード、11番染色体由来の4リード、12番染色体由来の3リードの合計30リードの配列が、ゲノム挿入部位近傍配列の候補として抽出された。3番染色体由来および11番染色体由来と予想したリード配列はいずれもインサート配列で、ゲノムと高い相同性のある部位を誤認識したものであることが判明した。1番染色体由来および12番染色体由来と予想した配列近傍を挟むように設計したプライマーを用いてPCRを行ったところ、1番染色体にはT-DNA領域の挿入が確認されたのに対し、12番染色体にはT-DNA領域が挿入されていないことが判明した。
以上の結果から、1番染色体由来と予想された10個のリード配列はインサート配列と100%の相同性を有しておらず、ゲノム中のCTB導入部位近傍の候補配列であると推定された。
イネ1番染色体に導入された配列の存在の確認(PCR産物の配列確認)は、PCRにより行った。得られたPCR産物の電気泳動パターンを図4に示す。なお、用いたプライマーは、以下の組み合わせを使用した。
(i)#19A ch1-R1および31out2(増幅されるDNA;427bp)
#19A ch1-R1;5’-CGAACCTTAATCTGCCCGGT-3’(配列番号3)
131out2;5’-CTTTCTTTTGAACTGAACGGG-3’(配列番号4)
(ii)10TLend5および#19A ch1-F1(増幅されるDNA;676bp)
10TLend5;5’-AGTGGGTAGTGGTTACTAGT-3’(配列番号5)
#19A ch1-F1;5’-CGATCGAGCCCCTCTCTCTA-3’(配列番号6)
【0034】
3-2.導入されたCTB遺伝子の全塩基配列の確認
MucoRice-CTB 19Aの幼若葉約0.1 gを細かく刻み、Nucleon PhytoPure(GE Healthcare/ RPN8510)を用いてゲノムDNAの抽出を行った。得られたMucoRice-CTB 19AのゲノムDNA 2 0ngを鋳型に、KOD FX(TOYOBO/ KFX-101)を用いて下記の2通りのプライマーセットでPCRを行った。反応液は、25μLを調製した。
(i)#19A ch1-R3 および RAPint3-R(増幅されるDNA;4.9kbp)
#19A ch1-R3:5’-GCAACGCGAGTGACTTGTAC-3’(配列番号7)
RAPint3-R:5’-ACATGAGATATGCCACCAGC-3’ (配列番号8)
(ii)RAPint4-Fおよび#19A ch1-F(増幅されるDNA;2.5kbp)
RAPint4-F:5’-ATGTTGTGACTGTCTGCCTC-3’(配列番号9)
#19A ch1-F:5’-CGATCGAGCCCCTCTCTCTA-3’(配列番号10)
PCR反応は、Veriti Thermal Cycler(Thermo Fisher Scientific)を使用し、増幅は以下の条件で行った。
94℃、2分
98℃、10秒および68℃、5分を35サイクル
【0035】
PCR産物を0.7 %アガロースゲルにて100 V、25分間電気泳動し、ゲル撮影装置FAS-III UVイルミネーター(TOYOBO)を用いて泳動パターンを確認した。TArget Clone -Plus- (TOYOBO/TAK-201)を用いてPCR産物をpTA2 vectorにクローニングした。複数の大腸菌コロニーからプラスミドをNucleoSpin Plasmid QuickPure (MACHEREY-NAGEL/ 740615.250)を用いて抽出した。
PCR産物をTAベクターに組込み、各2~3個の大腸菌コロニーからプラスミドを抽出した。pTA2 Vector上に設計したT3プライマーおよびT7プライマー、ならびに導入遺伝子内部に設計したシークエンス用プライマー13種類を用いて塩基配列確認を行った。T3プライマーおよびT7プライマー配列を以下の表1に、シークエンス用プライマー配列を以下の表2に示す。
【表1】
【表2】
【0036】
1種類のPCR産物で2つのクローンの配列を確認し、単一のクローンにのみ塩基置換が観察された場合はPCRエラーと判断した。今回調べたN = 3のサンプル全てについて、導入遺伝子の端(Right Border)にCからAへの1塩基置換が検出された(図6-4)。それ以外の配列については変異が確認されなかった。結果を図6-1~図6-4に示す(配列番号26)。図6-1~図6-4に示す塩基配列は、この順に連続した塩基配列であって、導入遺伝子の全塩基配列である。導入遺伝子の全長は、6933bpであった。
【0037】
3-3.イネ1番染色体上のCTBが導入された位置の確認
MucoRice-CTB 19Aの1番染色体への遺伝子の導入部位について解析を行った結果を図7Aに示す。ゲノムへの導入部位をシークエンシングした結果、MucoRice-CTB 19Aにおいて、導入したT-DNA領域は、イネ1番染色体(アクセッション番号:AP014957)の29,910,245に挿入されたことが明らかとなった。なお、挿入に伴いイネ1番染色体のゲノムDNA 57bp(29,910,246-29,910,302:TGTCGCCTCGGAACACAAGTTGGGGAGATATTA
AATCAGTTCGTGCGACAAGATAAG:配列番号27)が欠失していることが分かった。登録された最新のゲノム情報から、挿入部位上流に登録されている遺伝子Os01g0718150(29,907,349-29,909,704)の3’末端は、T-DNAの挿入部位である29,910,245から541bp離れており、Os01g0718150のエキソン間には挿入されていなかった。なお、Os01g0718150のコーディング領域(CDS)はisoleucyl-tRNA synthetaseと登録されている。また、挿入部位下流に登録されている遺伝子Os01g0718300(29,927,587-29,931,452)の5’末端は、挿入部位29,910,245から17,342bp離れており、図7Bから分かるように、挿入部位はOs01g0718300のエキソン間には挿入されていない。なお、Os01g0718300のコーディング領域(CDS)はSimilar to Systemin receptor SR160 precursorと登録されている。
【0038】
3-4.イネ1番染色体上に導入されたT-DNAの構造
MucoRice-CTB 19Aの1番染色体に、設計上のT-DNA領域(LBからRB)の1コピーが逆位に挿入されており、その全長は6933bpであった。MucoRice-CTB 19A の1番染色体への導入配列と設計上の構造との違いを図8に示す。実際の構造と設計上の構造では、図8に示した点線で囲まれた2ヶ所において、以下の(a)~(c)に示すように異なる構造となっていた。
(a)LB 25bpが欠失していた。
(b)LB下流領域163bp(acaaattgacgcttagacaacttaataacacattgcggacgtttttaatgtactgaattaacgccgaattgctctagcattcgccattcaggctgcgcaactgttgggaagggcgatcggtgcgggcctcttcgctattacgccagctggcgaaagggggatg:配列番号28)が欠失していた。
(c)RB 25bpのうち、3’側の17bp(GATATATTGGCGGGTAA:配列番号29)が欠失していた。
なお、13KDa Prolamin Promoterは保持されていた。
【0039】
4.MucoRice-CTB 19Aから採取した種子(コメ)の解析
4-1.MucoRice-CTB 19A から採取されたコメにおけるCTBの発現解析
MucoRice-CTB 19Aおよび野生型日本晴れ(陰性対照)から採取したコメ抽出物、および組換えCTB(陽性対照)を、12% NuPAGE Bis-Tris Gel (Life Technologies社製)を用いて電気泳動し、タンパク質を分離した。泳動後のゲルをCBB染色および脱色したところ、rCTBと同一の分子量(約12.5 kDa)を示すバンドが、MucoRice-CTB 19Aのコメ抽出物中に確認された(図9A)。
【0040】
次に、ウエスタンブロッティング分析を行った。SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離した後、タンパク質を転写装置(Bio-Rad社製) にてPVDFメンブレン(Merck Millipore社製)に転写した。転写後のメンブレンをブロッキング溶液(5%[w/v] スキムミルク-0.05% [w/v] Tween 20 (TBS-T))に浸して室温で2時間振とうさせることでブロッキングを行った後、TBS-T)で希釈した13kDa prolamin(Rabbit)、Glutelin A(Mouse)、CTB(Rabbit)に対する各抗体を室温で1時間反応させた。次いでTBS-Tで5分間、3回の洗浄後、TBS-Tで20,000倍希釈したHRP標識抗ウサギもしくは抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製) を室温にて1時間反応させた。洗浄後、発光基質(Thermo Fisher Scientific社製)を加えて約5分反応させ、ルミノイメージアナライザー(ImageQuant LAS 4000mini、GE Healthcare社製)を用いて化学発光を検出した。その結果、野生型を比較し、MucoRice-CTB 19AにおけるGultelinおよび13K prolamin に対応するバンドの濃度に低下が認められた(図9B)。
以上のことから、MucoRice-CTB 19Aのコメ中において、CTBが発現しており、貯蔵タンパク質であるGultelinおよび13K prolaminの発現量の減少が確認できた。
【0041】
4-2.MucoRice-CTB 19A から採取した種子中におけるCTBの発現分布
MucoRice-CTB 19Aおよび野生型日本晴れ(対照試料)の開花後14日目にあたる登熟種子を用いて解析を行った。採取した種子は籾殻を除いた後、顕鏡下で厚さ0.3mm、幅0.5~1mm程度に細切した後、固定液4%[w/v] paraformaldehydeで、固定した。固定後、洗浄、脱水後、LR White樹脂(London Resin社製)とエタノールの混合液(1:3、1:1、3:1の比率、4℃で各8-12時間)中で徐々に組織内のエタノールを樹脂に置換した後、100% LR White樹脂に4℃で一晩浸漬した。組織片をゼラチンカプセル中に包埋し、50℃で48時間、樹脂を重合させ、試料ブロックを作製した。作製した試料ブロックをウルトラミクロトーム(Leica EM UC6 ultramicrotome、Leica社製)にセットし、ダイヤモンドナイフ(日新EM株式会社製)を用いて約500 nmの超薄切片を作製した。切片にブロッキングバッファー(1% BSA-5% goat serum-PBS)を滴下し、室温で1時間反応させた後、1% BSA-PBSで希釈したanti-CTB(Rabbit IgG、5μg/mL)、anti-GluA(Mouse IgG、5μg/mL)、anti-13kDa prolamin(Rabbit IgG、5μg/mL)と切片を室温で2時間反応させた。免疫染色のコントロールとして、Normal Rabbit IgG(Jackson社製、5μg/mL)、Normal Mouse IgG(Jackson社製、5μg/mL)を使用した。抗体と反応させた切片は、洗浄後、1% BSA-PBSで希釈したAlexa647 anti-rabbit IgG antibody(invitrogen社製)およびDL488-anti Mouse IgG(Jackson社製)と、室温にて1.5時間反応させた。反応後、共焦点レーザー顕微鏡 (LSM800, ZEISS社製)下で観察を行った(図10)。
【0042】
CTBは、胚乳組織最表層のアリューロン層には認められず、その下層であるサブアリューロン層(亜糊粉層)に最も多く局在していた。CTB特異抗体による蛍光強度は種子の内部(中央)に向かうに従ってタンパク質顆粒が減りデンプン粒が大半を占めるのに伴って弱くなっていった。特に、細胞質およびprotein body I(PB-I)外周へのCTBの局在が多く認められ、一部protein body II(PB-II)のタンパク質顆粒や細胞壁への局在も認められた。13kDa prolamin抗体で染色されるPB-IとGluA抗体で染色されるPB-IIはRNAiにより発現抑制がかかり、数と大きさ共に野生型と比較して減少していることが示された(図10)。
【0043】
4-3.MucoRice-CTB 19Aから採取した種子中のCTBの定量およびその生物活性の確認
4-3-4.CTBの定量
MucoRice-CTB 19A から採取した種子を適量、粉砕装置にて微粉末にした後、微粉末20 mgにSDSおよび2-メルカプトエタノールを含む抽出液1mLを加え、粉のかたまりがなくなるまで十分懸濁混和し、100℃にて5~10分間加熱した。加熱後の試料を15,000~20,000g、4℃にて10分間遠心分離し、上清を分取した。分離ゲルのアクリルアミド濃度が12%であるポリアクリルアミドゲルを使用し、各レーンに試料溶液10μLを注入した。同様に処理したコントロール標準品(CTB)を、10μLあたり、10、20、40、80、120μgとなるように、ポリアクリルアミドゲルの各レーンに10μLずつ注入した。その後、電気泳動を行い、泳動後のゲルを5分間、3回振とう水洗し、CBB染色試液にゲルを浸し、室温で2時間振とうしながら染色した。水でゲルを浸し1時間振とう水洗し、次いで水を交換し、一晩脱色を行った。
自動校正機能を備えたデンシトメーター(BIO RAD社製 GS-800 callibrated Densitometer)を用いて、ゲルの透過画像を撮影し、操作履歴記録機能を有した専用の画像解析ソフトを用いて得られた画像の解析を行った。試料溶液を泳動したレーンにおける、標準品と同一分子量にある目的タンパク質のバンドをゲルの背景色およびコメ由来であるタンパク質の推定値を用いて補正し、標準品を用いた検量線に内挿して定量した。定量結果を図11(左図)に示す。
【0044】
4-3-5.生物活性試験(GM1ELISA)
MucoRice-CTB 19A から採取した種子を適量、粉砕装置にて微粉末にした後、微粉末20 mgにPBS抽出液1mLを加え、粉のかたまりがなくなるよう十分懸濁混和し、2~8℃にて約30分間転倒混和した。試料を15,000~20,000g、4℃にて10分間遠心分離し、上清を分取した。上清にウシ血清アルブミンを含むブロッキング緩衝液を加え、正確に1,600倍、3,200倍、6,400倍、12,800倍に希釈したものをそれぞれ試料溶液とした。
濃度が200ng/mLの標準品に、ウシ血清アルブミンを含むブロッキング緩衝液を加え、正確に2倍ずつ段階希釈し、濃度が50、25、12.5、6.25、3.125、1.563、0.781、0.391、0.195、0.098、0.049ng/mLとなるよう11段階に希釈したものをそれぞれ各標準溶液とした。平底マイクロプレートの各ウェルにモノシアロガングリオシド(GM1)液100μLを分注し、2~8℃にて一晩静置した後、液を除き、各ウェルをPBS-Tで5回洗浄し、ブロッキング緩衝液200μLを分注した後、室温にて1.5~2時間静置した。続いて、各ウェルをPBS-Tで3回洗浄し、試料溶液および各標準溶液をそれぞれ100μL分注し、室温で2時間静置した。続いて、各ウェルをPBS-Tで5回洗浄し、抗体希釈液100μLを分注した後、室温にて1.5時間静置した。その後、各ウェルをPBS-Tで5回洗浄し、発色液100μLを加えた後、室温にて約5分間静置し、2N硫酸50μLを加えた。紫外可視吸光度測定法により、各ウェルの吸光度(波長450nm)を測定した。各標準溶液から作成した検量線を使用し、各希釈倍の試料溶液の濃度をそれぞれ求めた。得られた濃度より試料1mgあたりのモノシアロガングリオシド結合タンパク質の量を求めた。CTBはモノシアロガングリオシドGM1と特異的に結合する活性を有する。従って、モノシアロガングリオシドGM1と結合したタンパク質の量を活性のあるCTB量として評価することができる。結果を図11(右図)に示した。
【0045】
4-4.MucoRice-CTB 19Aから採取した種子中の主要貯蔵タンパク質のmRNA発現量の定量
MucoRice-CTB 19Aおよび野生型日本晴れ(WT対照試料)の開花後14日目の登熟種子を別々の株からランダムに採取し、Rneasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いてtotal RNAを抽出した後、0.5mgのRNAからPrimeScript RT Reagent Kit with gDNA Eraser (Takara社製) を使用しcDNAを合成した。50倍希釈したcDNAを鋳型に、終濃度0.5mMの各プライマーセット、Fast SYBR Green Master Mix (Applied Biosystems社製) を混和した反応液を作製し、StepOnePlus Real-Time PCR System(Applied Biosystems社製)に定量的リアルタイムPCR反応(95℃、20秒;95℃、3秒および60℃、30秒(40サイクル);95℃、15s秒;60℃、1分)を行った。19A種子中のmRNA発現レベルは、内部標準遺伝子17S rRNAの発現レベルで補正し、WT対照試料中の発現レベルに対する相対値を出すことによって算出した.
MucoRice-CTB 19A種子中の13K ProlaminおよびGlutelin Bは、RNAiでノックダウンしているが、Glutein Bと相同性の高いGlutelin AのmRNA発現レベルも低下していた(図12)。
【0046】
5.MucoRice-CTB 19Aから採取したコメのワクチンとしての機能の解析
5-1.MucoRice-CTB 19Aから採取したコメの経口投与後のマウスにおけるCTB特異的効果価の検出
閉鎖型植物生産研究施設において、LED照明下で栽培されたMucoRice-CTB 19Aから籾を採取して95%精米した。得られたコメをミルサーで粉砕し、さらにマルチビーズショッカーで微粉砕して、被験物質とした。また、対照物質として、被験物質と同様の方法で粉砕した野生米である日本晴を用いた。
被験物質および対照物質は、1匹あたり150 mgをD-PBS(ナカライテスク、14249-24)500μL中に懸濁させ、7週齢の雌BALB/c(各々、n = 10)に経口投与した。投与は、合計で6回、隔週で行った。最終免疫から1週間後、血清、糞便を採取した。糞便は0.1g/mLとなるように0.1%NaN3 PBS中に懸濁し、その遠心上清(糞便抽出液)を実験に使用した。血清および糞便抽出液のCTB特異的抗体価を定法のELISA法で測定した。
Microtiter plate(Thermo Fisher)のウェルに、最終濃度5μg/mLとなるように調製した組換体CTB(rCTB)の100μL/wellを固相化し、次いで、血清または糞便抽出液を添加して、抗体価を測定した。検出は、HRP標識二次抗体および抗マウスIgG HRPを用いて、室温で90分間反応させることで行った。反応後、TMB(Seracare社)を基質として、HRP活性をOD450nmで測定した。各プレートのカットオフ値より高いwellの最高希釈倍率をlog2 titerで表し抗体価とした。5回目の投与から1週間後の抗体価を図13に示す。被験物質投与群における血清中IgG、IgAおよび糞便抽出液中のCTB特異的IgAの抗体価は、いずれも対照物質投与群と比較して有意に上昇した。
【0047】
5-2.MucoRice-CTB 19Aから採取したコメの経口投与による下痢抑制効果
上記5-1に記載の被験物質の最終投与から2週後に、コレラトキシン(Cholera Tosin:CT)(List Biological Laboratories)を経口投与し、下痢抑制評価を行った。CTを経口投与する12時間前から絶食させ、30分前に炭酸水素ナトリウム注射液(メイロン、大塚製薬)100μL/mouseを経口投与した。CTは1mLの注射用蒸留水(大塚製薬)で溶解し、PBSにて20μg/200μL(100μg/mL)となるように希釈した。CT経口投与から12時間経過後、マウスの腸管内貯留水を1.5mLチューブに回収し、4℃にて、13,000rpmで10分間遠心した。遠心後、ピペットで腸管内貯留水を回収し、水分量を測定した。Student’s t testを行い、p<0.05を有意と判定した。結果を図14に示す。対照物質投与群では、腸管内貯留水の水分量の増加が認められたのに対し、被験物質投与群では対照物質投与群と比較して有意に腸管内貯留水が減少し、被験物質を経口投与後、下痢抑制効果が確認された。
【0048】
6.MucoRice-CTB 19Aの安全性の確認
6-1.MucoRice-CTB 19Aゲノム中におけるHPT遺伝子の有無の確認
MucoRice-CTB 19Aから抽出したゲノムDNA中に薬剤選択マーカーであるHPT(hygromycin phosphotransferase)遺伝子が残っていないかどうかの確認を、以下に示プライマーを使用してPCRにより確認した。
CTB-F:5’-ACACCTCAACAGATTACTGA-3’(配列番号30)
CTB-R:5’-TCAATTTGCCATACTAATTGCG-3’(配列番号31)
HPT-F:5’-TGAACTCACCGCGACGTCT-3’(配列番号32)
HPT-R:5’-TCGGCGAGTACTTCTACAC-3’ (配列番号33)
なお、コントロールとして、以下のDNAテンプレートを使用した:
(i)pZAAMP-CTB-10Li45GB3Aプラスミド(CTB遺伝子が挿入されているプラスミド、25ng;PC1)
(ii)pZH2Bプラスミド(HPT遺伝子が挿入されているプラスミド、25ng;PC2)
(iii)非トランスジェニックOryza sativa L cv.から分離したゲノムDNA(日本晴れ、WT)
その結果、図15に示すように、MucoRice-CTB 19A ゲノム中には、CTB遺伝子の存在は確認されたが(図15A)、を確認。選択マーカーであるHPT(hygromycin phosphotransferase)遺伝子は確認されなかった(図15B)。
【0049】
6-2.MucoRice-CTB 19Aから採取したコメ中のイネアレルゲンの分析
MucoRice-CTB 19Aまたは野生型である日本晴れのコメ微粉末から1M NaClにより、塩溶性タンパク質を抽出した。タンパク質(各10μg)を還元アルキル化した後、リシルエンドペプチダーゼ(Lys-C)で消化し、次いで修飾トリプシン(Sequencing grade、Promega)で37℃、一晩消化をした。得られたペプチド混合物に対し、ナノフローLCシステム(Dina-2A、KYA Technologies)と組み合わせたリニアイオントラップ・オービトラップ質量分析計(LTQ-Orbitrap Velos, Thermo Fisher Scientific)を用いて、ショットガン・プロテオーム解析を実施した。タンパク質の同定は、MSおよびMS/MSデータをNational Center for Biotechnology Information (NCBI) nonredundant rice protein database に対して、Mascot(Matrix Science)を使用して行った。
【0050】
結果を図16に示す。ショットガンMS/MSによりMucoRice-CTB 19Aおよび野生型イネで同定されたタンパク質数はそれぞれ452および405であり、254のタンパク質が重複していた(図16A)。次に、各タンパク質のMS/MSスペクトルのうち、ペプチドと一致するものの総数を計算し、ペプチドスペクトル一致度(PSM)を決定した。PSMはタンパク質の存在量に比例するため、野生型コメタンパク質と重なるMucoRice-CTB 19Aタンパク質の相対的存在量はPSM比、MucoRice-CTB/WTとして計算することができる。同定した主なイネアレルゲンとそのPSM比を図16Bに示す。あるタンパク質のPSM比が1未満の場合、MucoRice-CTB 19Aにおけるそのタンパク質の発現レベルは野生型イネにおける発現レベルよりも低いことになる。特にRAG2、RA5、RA16を含むalpha-amylase/trypsin-like protein familyなどのアレルゲン関連タンパク質の発現レベルは、MucoRice-CTB 19Aでは野生型イネの種子での発現レベルと比較して低かった。この結果からMucoRice-CTB 19Aは、アレルゲン関連タンパク質の発現量が少ないため、ワクチン候補として野生型イネよりも安全性の懸念が少ないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の遺伝子導入イネから採取されるコメにはワクチン抗原が発現している。また、当該遺伝子導入イネは、赤色光を含む太陽光下においても良好の生育可能であるため、ワクチン抗原を含むコメを量産することができる。従って、本発明は、医学または獣医学、より具体的には、感染症の予防または治療の分野における利用が期待される。
図1
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【配列表】
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