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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150564
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ペリクル及びペリクルアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/64 20120101AFI20241016BHJP
   G03F 7/20 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
G03F1/64
G03F7/20 503
G03F7/20 521
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024113899
(22)【出願日】2024-07-17
(62)【分割の表示】P 2022189160の分割
【原出願日】2018-06-08
(31)【優先権主張番号】17176205.7
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17190503.7
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】504151804
【氏名又は名称】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴレス,デイビッド,フェルディナンド
(72)【発明者】
【氏名】アンデ,チャイタニヤ クリシュナ
(72)【発明者】
【氏名】デ グロート,アントニウス,フランシスカス,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ギースバーズ,アドリアヌス,ヨハネス,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ヤンセン,ヨハネス,ヨセフ
(72)【発明者】
【氏名】ヤンセン,ポール
(72)【発明者】
【氏名】クルートウィック,ヨハン,ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】クナペン,ピーター,サイモン,アントニウス
(72)【発明者】
【氏名】クルガノワ,エフゲニア
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,マルセル,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】メイジェリンク,ワウター,ロジェ
(72)【発明者】
【氏名】ナザレヴィッチ,マキシム,アレクサンドロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ノッテンブーム,アーノウド,ウィレム
(72)【発明者】
【氏名】オルスマン,レイモンド
(72)【発明者】
【氏名】パテル,フリシケス
(72)【発明者】
【氏名】ピーター,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン デン ボッシュ,ゲリット
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン デン アインデン,ウィルヘルムス,セオドロス,アントニウス,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン デル ザンデ,ウィレム,ヨアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ツヴォル,ピーター-ジャン
(72)【発明者】
【氏名】フェルメーレン,ヨハネス,ペトラス,マルチヌス,ベルナルドス
(72)【発明者】
【氏名】フォールトハイゼン,ウィレム-ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ウォンデルゲム,ヘンドリカス,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ツドラヴコフ,アレクサンダー,ニコロフ
(57)【要約】
【課題】ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリを提供する。
【解決手段】 ペリクルアセンブリは、ペリクルが応力下で展張することを可能にする1つ以上の三次元展張構造物を備える。本発明はまた、ペリクルアセンブリをパターニングデバイスと接近及び離隔するように移動させる1つ以上のアクチュエータを備えるパターニングデバイスのペリクルアセンブリにも関する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリであって、
前記ペリクルアセンブリは、前記ペリクルが応力下で展張することを可能にする1つ以上の三次元展張構造物を備える、ペリクルアセンブリ。
【請求項2】
前記三次元展張構造物のうち少なくとも1つは前記ペリクルフレーム内に形成され、それによって前記ペリクルに付与される、請求項1のペリクルアセンブリ。
【請求項3】
前記三次元展張構造物のうち少なくとも1つはバネを形成する、請求項1又は2のペリクルアセンブリ。
【請求項4】
前記バネは、前記ペリクルフレーム内に形成された少なくとも1つのV字形の構成を備える、請求項3のペリクルアセンブリ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの構造物は、前記ペリクルフレーム内に形成され前記ペリクルの中央部の周りに配置された複数のバネを備える、請求項1から4のいずれかのペリクルアセンブリ。
【請求項6】
前記少なくとも1つのバネは板バネである、請求項2又は請求項2に従属するいずれかの請求項のペリクルアセンブリ。
【請求項7】
前記三次元展張構造物のうち少なくとも1つは、前記ペリクルの中央部に存在している、請求項1から6のいずれかのペリクルアセンブリ。
【請求項8】
前記フレームは基板を備え、前記ペリクルアセンブリは前記基板と前記ペリクルとの間に少なくとも1つのバネ層を備えており、前記バネ層内に少なくとも1つのバネが形成される、請求項7のペリクルアセンブリ。
【請求項9】
前記少なくとも1つの三次元展張構造物はヘリンボンパターンを備える、請求項1から8のいずれかのペリクルアセンブリ。
【請求項10】
前記少なくとも1つの三次元展張構造物は、前記ペリクルの全面の大部分にわたって延びるヘリンボンパターンを備える、請求項9のペリクルアセンブリ。
【請求項11】
前記少なくとも1つの三次元展張構造物は、前記ペリクルの表面全体にラフネスをもたらす、請求項1から10のいずれかのペリクルアセンブリ。
【請求項12】
ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリであって、
前記表面は、接着剤の広がりを低減するための少なくとも1つの接着剤境界を備える、ペリクルアセンブリ。
【請求項13】
前記少なくとも1つの接着剤境界は円形の境界を備える、請求項12のペリクルアセンブリ。
【請求項14】
前記少なくとも1つの接着剤境界は線境界を備える、請求項12又は13のペリクルアセンブリ。
【請求項15】
前記線境界は前記フレームの縁に隣接して配置され、前記フレームの前記縁は前記ペリクルの中央部に隣接する、請求項14のペリクルアセンブリ。
【請求項16】
前記線境界は前記円形の境界と前記ペリクルの中央部との間に配置される、請求項13に従属する請求項14又は145のペリクルアセンブリ。
【請求項17】
前記少なくとも1つの境界は前記フレーム内の溝を備える、請求項12から16のいずれか一項のペリクルアセンブリ。
【請求項18】
前記ペリクルアセンブリは前記円形の境界と略同心の接着剤を備える、請求項12から17のいずれか一項のペリクルアセンブリ。
【請求項19】
ペリクルフレームと、
ペリクルと、
前記ペリクルアセンブリをパターニングデバイスと接近及び離隔するように移動させる1つ以上のアクチュエータと
を備えるペリクルアセンブリ。
【請求項20】
前記アクチュエータは、前記ペリクルアセンブリを、前記ペリクルとパターニングデバイスとの間に略密封された容積が形成される閉じた構成と、前記ペリクルと前記パターニングデバイスとの間の容積が周囲環境と流体連通する開いた構成との間で遷移させるように構成されている、請求項19のペリクルアセンブリ。
【請求項21】
前記ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリであって、
前記ペリクルフレームは、第1の熱膨張率を有する第1の材料と、第2の熱膨張率を有する第2の材料とを備える、ペリクルアセンブリ。
【請求項22】
前記第1の材料はシリコンを備える、請求項21のペリクルアセンブリ。
【請求項23】
前記第1の材料は複数の孔を備え、前記第2の材料は前記複数の孔の中に位置している、請求項21又は22のペリクルアセンブリ。
【請求項24】
前記第2の材料は少なくとも部分的に前記第1の材料を囲む、請求項21,22又は23のペリクルアセンブリ。
【請求項25】
前記第2の材料は金属を備える、請求項21から24のいずれか一項のペリクルアセンブリ。
【請求項26】
前記ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリであって、
前記ペリクルフレームは前記ペリクルに結合される、ペリクルアセンブリ。
【請求項27】
前記ペリクルはアニールされたペリクルであり、前記ペリクルフレームはアニールの後に前記ペリクルに結合された、請求項26のペリクルフレーム。
【請求項28】
前記ペリクルフレームはシリコンの熱膨張率(CTE)よりも低いCTEを有する材料を備える、請求項26又は27のペリクルアセンブリ。
【請求項29】
前記ペリクルフレームはガラスセラミック材料を備える、請求項26,27又は28のペリクルアセンブリ。
【請求項30】
前記ペリクルフレームは、およそ摂氏160度未満の温度で動作する結合手順を用いて前記ペリクルに結合されている、請求項26から29のいずれかのペリクルアセンブリ。
【請求項31】
前記ペリクルフレームは、光学的圧着、水素結合、金拡散接合又は陽極接合のうち少なくとも1つを用いて前記ペリクルに結合されている、請求項26から30のいずれかのペリクルアセンブリ。
【請求項32】
前記ペリクルフレームは単一片で形成される、請求項26乃至31のいずれかのペリクルアセンブリ。
【請求項33】
前記ペリクルフレームはガス放出を低減するための不活性コーティングを備える、請求項26乃至32のいずれかのペリクルアセンブリ。
【請求項34】
前記ペリクルフレームはシリコンを備えない、請求項26乃至33のいずれかのペリクルアセンブリ。
【請求項35】
前記ペリクルフレームは、アルミニウム、チタン、ベリリウム、窒化アルミニウム、ゼロデュア(登録商標)、酸化シリコン及び炭化シリコンのうち少なくとも1つを備える、請求項26から34のいずれか一項のペリクルアセンブリ。
【請求項36】
ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリであって、
パターニング対象の基板をパターニングするために放射ビームで照射されるとき、前記ペリクルは、1つ以上の皺を備えるとともに、前記放射ビームを部分的に反映し、
前記1つ以上の皺は、前記放射ビームの一部を、パターニング対象の前記基板から遠ざかるように反射するように構成されている、ペリクルアセンブリ。
【請求項37】
前記ペリクルは、前記皺が、前記パターニングデバイスの前記表面によって定義される平面に対して、35mradよりも大きい最大角度を成すように構成されている、請求項36のペリクルアセンブリ。
【請求項38】
前記ペリクルは、前記皺が、前記パターニングデバイスの前記表面によって定義される平面に対して、300mrad未満の最大角度を成すように構成されている。請求項36又は37のペリクルアセンブリ。
【請求項39】
前記ペリクルは、使用時に入射する放射ビームのおよそ0.4%を反射するように構成されている、請求項36,37又は38のペリクルアセンブリ。
【請求項40】
前記ペリクルは二珪化モリブデン(MoSi2)を備えており、前記ペリクル内の平均応力は、室温で、100MPaから250MPaの範囲内である、請求項1から39のいずれかのペリクルアセンブリ。
【請求項41】
前記ペリクルは黒鉛系材料を備えており、前記ペリクル内の平均応力は、室温で、300MPaから450MPaの範囲内である、請求項1から40のいずれかのペリクルアセンブリ。
【請求項42】
パターニングデバイスから基板上にパターンを投影するように配置されたリソグラフィ装置であって、粒子が前記パターニングデバイスに接触するのを防止するべく前記パターニングデバイスの近傍に配置された請求項1から41のいずれかに記載のペリクルアセンブリを備える、リソグラフィ装置。
【請求項43】
ペリクルアセンブリを製造する方法であって、
基板上にペリクルを堆積することと、
前記ペリクルがペリクルフレームと前記基板との間にあるように前記ペリクルフレームを前記ペリクルに結合することと、
前記ペリクル及び前記ペリクルフレームを残すように前記基板をエッチングすることと
を備える、方法。
【請求項44】
前記ペリクルフレームは摂氏160度を下回る温度で前記ペリクルに結合される、請求項43の方法。
【請求項45】
前記ペリクルを前記基板上に堆積させた後、前記ペリクルフレームを前記ペリクルに結合する前に、前記ペリクルをアニールすることを更に備える、請求項43又は44の方法。
【請求項46】
ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリであって、
前記ペリクルフレームの上又は中にコンピュータ読み取り可能且つ書き込み可能な追跡デバイスが提供される、ペリクルアセンブリ。
【請求項47】
前記コンピュータ読み取り可能且つ書き込み可能な追跡デバイスは、前記ペリクル及び/又は前記ペリクルアセンブリの識別子を記憶するように構成されている、請求項46のペリクルアセンブリ。
【請求項48】
前記コンピュータ追跡デバイスは、前記ペリクルの使用履歴及び/又はペリクル固有の特性を示す動作データを記憶するように構成されている、請求項46又は47のペリクルアセンブリ。
【請求項49】
パターニングデバイスから基板上にパターンを投影するように配置されたリソグラフィ装置であって、コンピュータ読み取り可能命令を実行してトランシーバ配置に請求項46から48のいずれか一項に記載のペリクルアセンブリの追跡デバイスからの読み出し及び前記追跡デバイスへの書き込みを行わせるように構成されたプロセッサを備えたコントローラを備える、リソグラフィ装置。
【請求項50】
前記コンピュータ読み取り可能命令は、前記プロセッサに、前記追跡デバイスから1つ以上の動作データ項目を取得させるとともに前記1つ以上の動作データ項目が閾値を超えるかどうかを判定させるように構成されている、請求項49のリソグラフィ装置。
【請求項51】
前記コンピュータ読み取り可能命令は、前記プロセッサに、前記1つ以上の動作データ項目が閾値を超えるという判定に応答して、前記リソグラフィ装置に前記ペリクルアセンブリをアンロードさせるように構成されている、請求項50のリソグラフィ装置。
【請求項52】
前記コンピュータ読み取り可能命令は、前記プロセッサに、前記トランシーバ配置に前記ペリクルアセンブリがアンロードされたことを示すデータを前記追跡デバイスに書き込ませるように構成されている、請求項51のリソグラフィ装置。
【請求項53】
前記コンピュータ読み取り可能命令は、前記プロセッサに、前記1つ以上の動作データ項目が前記閾値を超えないという判定に応答して、前記トランシーバに前記リソグラフィ装置の使用時に前記追跡デバイスについての動作データを記録させるように構成されている、請求項50又は52のリソグラフィ装置。
【請求項54】
ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームと、
前記ペリクルと機械的に連通し前記ペリクルフレームの内縁を越えて内向きに延びる1つ以上の張力層と
を備えるペリクルアセンブリ。
【請求項55】
前記1つ以上の張力層のうち少なくとも1つは、前記ペリクルが前記張力層と前記フレームとの間に配置されるように、前記ペリクルの上側に提供される、請求項54のペリクルアセンブリ。
【請求項56】
前記1つ以上の張力層のうち少なくとも1つは前記ペリクルの下側に提供される、請求項54又は55のペリクルアセンブリ。
【請求項57】
前記1つ以上の張力層は、前記ペリクルの上側に提供された第1の張力層と前記ペリクルの下側に提供された第2の張力層とを備える、請求項54,55又は56のペリクルアセンブリ。
【請求項58】
前記1つ以上の張力層のうち少なくとも1つは、前記ペリクルフレームの前記内縁から内向きに延びる第1の部分と、前記ペリクルフレームの前記内縁から外向きに延びる第2の部分とを備えており、前記第2の部分は前記第1の部分よりも長い、請求項54から57のいずれか一項のペリクルアセンブリ。
【請求項59】
前記1つ以上の張力層のうち少なくとも1つは多層構造を備える、請求項54から57のいずれか一項のペリクルアセンブリ。
【請求項60】
パターニングデバイスから基板上にパターンを投影するように配置されたリソグラフィ装置であって、粒子が前記パターニングデバイスに接触するのを防止するべく前記パターニングデバイスの近傍に配置された請求項54から59のいずれかに記載のペリクルアセンブリを備える、リソグラフィ装置。
【請求項61】
請求項1から41,46から48又は54から59のいずれか一項に記載のペリクルアセンブリを備えるリソグラフィ装置の動的ガスロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
[0001] 本願は2017年6月15日に提出された欧州出願第17176205.7号及び2017年9月12日に提出された欧州出願第17190503.7号の優先権を主張するものであり、これらの出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002] 本発明は、ペリクル及びペリクルアセンブリに係る。ペリクルアセンブリは、ペリクルと、ペリクルを支持するフレームとを備え得る。ペリクルは、リソグラフィ装置のパターニングデバイスと共に使用されるのに適しているであろう。本発明は、特にEUVリソグラフィ装置及びEUVリソグラフィツールに関連して用いられるが、これに限られない。
【背景技術】
【0003】
[0003] リソグラフィ装置とは、基板上に所望のパターンを適用するように構成された機械である。リソグラフィ装置は、例えば、集積回路(IC)の製造において使用可能である。リソグラフィ装置は、例えば、パターニングデバイス(例えばマスク)から基板上に提供された放射感応性材料(レジスト)層にパターンを投影し得る。
【0004】
[0004] パターンを基板上に投影するためにリソグラフィ装置によって使用される放射の波長は、その基板上に形成されることが可能なフィーチャの最小寸法を決定する。(例えば193nmの波長を有する電磁放射を使用し得る)従来のリソグラフィ装置よりも小さなフィーチャを基板上に形成するためには、4~20nmの範囲内の波長を有する電磁放射であるEUV放射を使用するリソグラフィ装置が用いられ得る。
【0005】
[0005] リソグラフィ装置においては、パターニングデバイスを用いて放射ビームにパターンが付与され得る。パターニングデバイスは、ペリクルによって粒子汚染から保護されるであろう。ペリクルはペリクルフレームによって支持されてもよい。
【0006】
[0006] リソグラフィにおけるペリクルの使用は、周知であるとともに確立されたものである。DUVリソグラフィ装置における典型的なペリクルは、パターニングデバイスから離れて位置し、使用中のリソグラフィ装置の焦点面から外れた、メンブレンである。ペリクルがリソグラフィ装置の焦点面から外れているので、ペリクルに付着する汚染粒子はリソグラフィ装置の焦点から外れる。したがって、汚染粒子の画像は基板上に投影されない。ペリクルが存在しなければ、パターニングデバイスに付着した汚染粒子が、基板上に投影されて、投影パターンに欠陥を導入するであろう。
【0007】
[0007] EUVリソグラフィ装置においてペリクルを使用することは望ましいであろう。EUVリソグラフィは、典型的には真空内で実施され、パターニングデバイスが一般的には透過性ではなく反射性であるという点で、DUVリソグラフィと異なる。
【0008】
[0008] 従来技術に関連する1つ以上の課題を克服又は緩和するペリクル及び/又はペリクルアセンブリを提供するのが望ましい。本明細書に記載される本発明の実施形態は、EUVリソグラフィ装置において使用され得る。本発明の実施形態は、DUVリソグラフィ装置又は別の形態のリソグラフィ装置においても使用され得る。
【発明の概要】
【0009】
[0009] 本明細書に記載の第1の態様によれば、ペリクルアセンブリが提供される。ペリクルアセンブリは、ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備える。ペリクルアセンブリは更に、ペリクルが応力下で展張する(expand)ことを可能にする1つ以上の三次元展張構造物(three-dimensional expansion structure)を備える。
【0010】
[00010] これにより、ペリクルアセンブリの寿命及び信頼性が向上し得る。
【0011】
[00011] 三次元展張構造物のうち少なくとも1つはペリクルフレーム内に形成され、それによってペリクルに付与されてもよい。例えば、三次元展張構造物をペリクルフレーム内に形成し、そのペリクルフレームの上にペリクルを堆積させることによって、三次元展張構造物はペリクルにも付与され得る。
【0012】
[00012] 三次元展張構造物のうち少なくとも1つはバネを形成してもよい。例えば、バネは、ペリクルフレーム内に形成された少なくとも1つのV字形の構成を備えていてもよい。少なくとも1つの構造物は、ペリクルフレーム内に形成されペリクルの中央部の周りに配置された複数のバネを備えていてもよい。ペリクルの中央部とは、ペリクルの、フレームと直接接触しない部分である。このようにすれば、ペリクルの内の応力の制御がより正確に制御され得る。少なくとも1つのバネは板バネであってもよい。
【0013】
[00013] 三次元展張構造物のうち少なくとも1つは、ペリクルの中央部に存在していてもよい。
【0014】
[00014] フレームは基板を備えていてもよく、ペリクルアセンブリは基板とペリクルとの間に少なくとも1つのバネ層を備えていてもよい。少なくとも1つのバネはバネ層内に形成されてもよい。板バネの追加は、ペリクル内で所望の応力を選択する能力を更に高める。
【0015】
[00015] 少なくとも1つの三次元展張構造物はヘリンボンパターン(herringbone pattern)を備えていてもよい。ヘリンボンパターンは、ペリクル全体に、又はペリクルの外側(例えば非画像フィールド)部分に延びていてもよい。
【0016】
[00016] 少なくとも1つの三次元展張構造物は、ペリクルの表面全体にラフネス(roughness)をもたらし得る。
【0017】
[00017] 本明細書に記載の第2の態様によれば、ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリが提供される。表面は、接着剤の広がりを低減するための少なくとも1つの接着剤境界を備える。接着剤境界を設けることにより、接着剤の広がる傾向が低減され、ひいてはパターニングデバイスとペリクルとの間の空間の汚染が低減される。
【0018】
[00018] 少なくとも1つの接着剤境界は、円形の境界を備えていてもよい。追加的又は代替的には、少なくとも1つの接着剤境界は、線境界を備えていてもよい。円形の境界を設けることにより、接着剤は、円形の境界内で適用され、円形の境界内で広がるとともにセンタリングするであろうが、円形の境界を越えて広がる接着剤の量は減少する。このようにすれば、接着剤が適用され得る正確性が有益に高まり得る。
【0019】
[00019] 線境界はペリクルフレームの縁に隣接して配置されてもよく、フレームの縁はペリクルの中央部に隣接しており、ここで、ペリクルの中央部とは、ペリクルの、ペリクルフレームと直接接触しない部分である。
【0020】
[00020] 線境界は、円形の境界とペリクルの中央部との間に配置されてもよい。
【0021】
[00021] 少なくとも1つの境界は、フレーム内の溝を備えていてもよい。
【0022】
[00022] ペリクルアセンブリは、円形の境界と略同心の接着剤を備えていてもよい。
【0023】
[00023] 本明細書に記載の第3の態様によれば、ペリクルフレームと、ペリクルと、ペリクルアセンブリをパターニングデバイスと接近及び離隔するように移動させる1つ以上のアクチュエータとを備えるペリクルアセンブリが提供される。このようにすれば、ペリクルとパターニングデバイスとの間の空間が、その空間の処理を可能にするべく開閉され得る。例えば、開いているときには空間はフラッシュされてもよく、その一方で閉じているときには空間は密封され圧力制御されてもよい。
【0024】
[00024] アクチュエータは、ペリクルアセンブリを、ペリクルとパターニングデバイスとの間に略密封された容積が形成される閉じた構成と、ペリクルとパターニングデバイスとの間の容積が周囲環境と流体連通する開いた構成との間で遷移させるように構成されていてもよい。
【0025】
[00025] 本明細書に記載の第4の態様によれば、ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリが提供される。ペリクルフレームは、第1の熱膨張率(CTE)を有する第1の材料と、第2の熱膨張率を有する第2の材料とを備える。このようにすれば、ペリクルフレームの全体のCTEが、ペリクルのCTEに対する差を低減(又は増加)するように調整及び選択され得る。ペリクルとペリクルフレームとの間のCTEの差は、製造時、(アニールなどの)処理後のペリクル内に応力をもたらす。ペリクルフレームの全体のCTEを制御することによって、ペリクル内の応力の量は制御され得る。
【0026】
[00026] 第1の材料はシリコンを備えていてもよい。第1の材料は複数の孔を備えていてもよく、第2の材料はその複数の孔の中に位置している。他の実施形態においては、第1の材料は1つ以上のチャネルを備えていてもよく、第2の材料はその1つ以上のチャネルの中に提供されてもよい。
【0027】
[00027] 第2の材料は、少なくとも部分的に第1の材料を囲んでいてもよい。
【0028】
[00028] 第2の材料は金属を備えていてもよい。例えば、第2の材料はアルミニウム及び/又はモリブデンを備えていてもよい。
【0029】
[00029] 本明細書に記載の第5の態様によれば、ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリが提供され、ペリクルフレームはペリクルに結合される。ペリクルはアニールされたペリクルであってもよく、フレームはそのようなアニールの後にペリクルに結合され得る。
【0030】
[00030] ペリクルフレームは、シリコンの熱膨張率(CTE)よりも低いCTEを有する材料を備えていてもよい。例えば、ペリクルフレームは、ゼロデュア(登録商標)のようなガラスセラミック材料を備えていてもよい。
【0031】
[00031] ペリクルフレームは、およそ摂氏160度未満の温度で動作する結合手順を用いてペリクルに結合されていてもよい。このようにすれば、およそ200MPaというペリクル内の非動作応力(すなわち予応力)を達成しつつ、シリコンを備えるペリクルフレームが用いられ得る。
ペリクルフレームは、光学的圧着、水素結合、金拡散接合又は陽極接合のうち少なくとも1つを用いてペリクルに結合されていてもよい。任意の他の結合方法が用いられてもよく、ここで、特定の結合方法は製造後のペリクル内で所望の予応力を生じる温度で動作することが理解されるであろう。例示に過ぎないが、結合の他の例には、機械的(例えばボルト、ファスナ等)、(焼結中にグリーン状態のセラミック材料の2片が結合されてモノリシック部品に変化する)セラミックグリーン体結合(別の通称を同時焼成結合という)、直接結合、ガラス接合、原子拡散接合、及びレーザアブレーション支援結合がある。
【0032】
[00032] ペリクルフレームは単一片で形成されてもよい。つまり、ペリクルフレームは、全体を形成するように(例えば接着剤又は機械的保持手段を介して)接続された複数の片を備えないようなものであってもよい。このようにすれば、ペリクルアセンブリの構成要素間の界接面の数が低減され、それによって粒子汚染が低減される。
【0033】
[00033] ペリクルフレームは、ガス放出を低減するための不活性コーティングを備えていてもよい。
【0034】
[00034] 上記の態様のうちいずれかのペリクルは、二珪化モリブデン(MoSi2)を備えていてもよい。ペリクル内の応力は、室温で、100MPaから250MPaの範囲内、例えばおよそ200MPaであってもよい。
【0035】
[00035] ペリクルは黒鉛系材料を備えていてもよい。ペリクル内の応力は、室温で、300MPaから450MPaの範囲内、例えばおよそ400MPaであってもよい。
【0036】
[00036] 本明細書に記載の第6の態様によれば、パターニングデバイスから基板上にパターンを投影するように配置されたリソグラフィ装置が提供される。粒子がパターニングデバイスに接触するのを防止するべく、前述のいずれかの態様によるペリクルが、パターニングデバイスの近傍に配置される。
【0037】
[00037] 本明細書に記載の第7の態様によれば、ペリクルアセンブリの製造方法が提供される。この方法は、基板上にペリクルを堆積させることと、ペリクルがペリクルフレームと基板との間にあるようにペリクルフレームをペリクルに結合することと、ペリクル及びペリクルフレームを残すように基板をエッチングすることとを備える。
【0038】
[00038] ペリクルフレームは、摂氏160度を下回る温度でペリクルに結合されてもよい。
【0039】
[00039] この方法は更に、ペリクルを基板上に堆積させた後、ペリクルフレームをペリクルに結合する前に、ペリクルをアニールすることを備えていてもよい。
【0040】
[00040] 本明細書に記載の第8の態様によれば、ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリが提供され、そのペリクルフレームの上又は中にはコンピュータ読み取り可能且つ書き込み可能な追跡デバイスが提供される。
【0041】
[00041] 追跡デバイスは、ペリクル及び/又はペリクルアセンブリの一意識別子を記憶するように構成されていてもよい。
【0042】
[00042] 追跡デバイスは、ペリクルの使用履歴及び/又はオフラインで測定されたパラメータ(例えば透過、反射率等)などそのペリクルに特有の情報を示す動作データを記憶するように構成されていてもよい。
【0043】
[00043] 本明細書に記載の第9の態様によれば、パターニングデバイスから基板上にパターンを投影するように配置された、コントローラを備えるリソグラフィ装置が提供され、コントローラはプロセッサを備えており、プロセッサは、コンピュータ読み取り可能命令を実行して、トランシーバ配置に、第8の態様によるペリクルアセンブリの追跡デバイスからの読み出し及びこの追跡デバイスへの書き込みを行わせるように構成されている。
【0044】
[00044] コンピュータ読み取り可能命令は、プロセッサに、追跡デバイスから1つ以上の動作データ項目を取得させるとともにその1つ以上の動作データ項目が閾値を超えるかどうかを判定させるように構成されていてもよい。
【0045】
[00045] コンピュータ読み取り可能命令は、プロセッサに、1つ以上の動作データ項目が閾値を超えるという判定に応答して、リソグラフィ装置にペリクルアセンブリをアンロードさせるように構成されていてもよい。
【0046】
[00046] コンピュータ読み取り可能命令は、プロセッサに、トランシーバ配置にペリクルアセンブリがアンロードされたことを示すデータを追跡デバイスに書き込ませるように構成されていてもよい。
【0047】
[00047] コンピュータ読み取り可能命令は、プロセッサに、1つ以上の動作データ項目が閾値を超えないという判定に応答して、トランシーバにリソグラフィ装置の使用時に追跡デバイスについての動作データを記録させるように構成されていてもよい。
【0048】
[00048] 本明細書に記載の第10の態様によれば、ペリクルアセンブリが提供され、このペリクルアセンブリは、ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームを備えており、ペリクルは使用時に1つ以上の皺を呈するように構成されており、1つ以上の皺は入射する放射ビームの一部を基板から遠ざかるように反射するように構成されている。
【0049】
[00049] ペリクルは、皺が、パターニングデバイスの表面によって定義される平面に対して、35mradよりも大きい最大角度を成すように構成されていてもよい。
【0050】
[00050] ペリクルは、皺が、パターニングデバイスの表面によって定義される平面に対して、300mrad未満の最大角度を成すように構成されていてもよい。
【0051】
[00051] ペリクルは、使用時に入射する放射ビームのおよそ0.4%を反射するように構成されていてもよい。
【0052】
[00052] 本明細書に記載の第11の態様によれば、ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームと、ペリクルの表面上に提供されペリクルフレームの内縁を越えて内向きに延びる1つ以上の張力層とを備えるペリクルアセンブリが提供される。1つ以上の張力層は、ペリクルアセンブリを強化するとともにペリクルの張力を維持するように作用する。
【0053】
[00053] 1つ以上の張力層のうち少なくとも1つは、ペリクルが張力層とフレームとの間に配置されるように、ペリクルの上側に提供されてもよい。1つ以上の張力層のうち少なくとも1つは、ペリクルの下側に提供されてもよい。1つ以上の張力層は、ペリクルの上側に提供された第1の張力層とペリクルの下側に提供された第2の張力層とを備えていてもよい。
【0054】
[00054] 1つ以上の張力層のうち少なくとも1つは、ペリクルフレームの内縁から内向きに延びる第1の部分と、ペリクルフレームの内縁から外向きに延びる第2の部分とを備えており、第2の部分は第1の部分よりも長い。このようにすれば、張力層の大部分がペリクルフレームと(直接又はペリクルを通じて)連通し、それによってペリクルアセンブリを更に強化し得る。
【0055】
[00055] 1つ以上の張力層のうち少なくとも1つは、多層構造を備えていてもよい。
【0056】
[00056] 本明細書に記載の第12の態様によれば、パターニングデバイスから基板上にパターンを投影するように配置された、第11の態様によるペリクルアセンブリを備えるリソグラフィ装置が提供される。
【0057】
[00057] 本明細書に記載の第13の態様によれば、上述したペリクルアセンブリのうちいずれか1つによるペリクルアセンブリを備えるリソグラフィ装置の動的ガスロックが提供される。
【0058】
[00058] 上述の態様のうち1つ以上に関連して説明した特徴は、他の態様と組み合わせて利用され得ることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
[00059] 次に本発明の実施形態を、単なる例として、添付の概略図を参照して説明する。
【0060】
図1】ペリクルアセンブリを含むリソグラフィ装置を備えるリソグラフィシステムを概略的に示す。
図2】ペリクルアセンブリを概略的に示す。
図3】応力下でのペリクルの展張を可能にする展張構造物を有するペリクルアセンブリの構築の段階を概略的に示す。
図4図3のペリクルを上から見た図を概略的に示す。
図5図3に示される展張構造物の剛性に応じてペリクルの応力がどのように変化するかを示すグラフ。
図6】異なる展張構造物を有するペリクルアセンブリの構築の段階を概略的に示す。
図7】複数の展張構造物を有するペリクルアセンブリを概略的に示す。
図8】2次元で作用する展張構造物を提供するようにエッチングされた基板を示す。
図9】ヘリンボン展張構造物を備える基板を示す。
図10】ペリクルアセンブリの縁部に沿ってヘリンボン展張構造物を有するペリクルアセンブリを概略的に示す。
図11】ペリクルの表面全体にわたってヘリンボン展張構造物を有するペリクルアセンブリを概略的に示す。
図12】ヘリンボン展張構造物を有するペリクルを概略的に示す。
図13】ペリクルの張力を低減させるためのペリクルアセンブリの機械曲げを概略的に示す。
図14】ペリクルの張力を増加させるためのペリクルアセンブリの機械曲げを概略的に示す。
図15】表面ラフネスによって提供される展張構造物を有するペリクルの構成を概略的に示す。
図16】表面ラフネスによって提供される展張構造物を有するペリクルの代替的な構成を概略的に示す。
図17】接着剤境界を備えるペリクルフレームを概略的に示す。
図18】接着剤境界を備えるペリクルフレームを示す。
図19a】開いた構成のペリクルアセンブリを示す。
図19b】閉じた構成のペリクルアセンブリを示す。
図19c】周囲の容積をフラッシュした後の図19bのペリクルアセンブリを示す。
図20a】一実施形態によるペリクルフレームの製造の段階を概略的に示す。
図20b】一実施形態によるペリクルフレームの製造の段階を概略的に示す。
図20c】一実施形態によるペリクルフレームの製造の段階を概略的に示す。
図21a】ペリクルフレームの代替例を概略的に示す。
図21b】ペリクルフレームの代替例を概略的に示す。
図22】一実施形態によるペリクルフレームを有するペリクルアセンブリを概略的に示す。
図23a】別の一実施形態によるペリクルアセンブリの製造の段階を概略的に示す。
図23b】別の一実施形態によるペリクルアセンブリの製造の段階を概略的に示す。
図24図23に示される方法において、ペリクル内の予応力が結合温度に対してどのように変化するかを示すグラフ。
図25】基板に向かう、ペリクルからの放射の反射を概略的に示す。
図26】基板から遠ざかる、皺の寄ったペリクルからの放射の反射を概略的に示す。
図27a】少なくとも1つの張力層の適用によって強化されたペリクルアセンブリの配置例を概略的に示す。
図27b】少なくとも1つの張力層の適用によって強化されたペリクルアセンブリの配置例を概略的に示す。
図27c】少なくとも1つの張力層の適用によって強化されたペリクルアセンブリの配置例を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
[00060] 図1は、本明細書に記載の一実施形態によるペリクルアセンブリ15を含むリソグラフィシステムを示す。リソグラフィシステムは、放射源SO及びリソグラフィ装置LAを備える。放射源SOは、極端紫外線(EUV)放射ビームBを生成するように構成されている。リソグラフィ装置LAは、照明システムILと、パターニングデバイスMA(例えばマスク)を支持するように構成されたサポート構造MTと、投影システムPSと、基板Wを支持するように構成された基板テーブルWTとを備える。照明システムILは、パターニングデバイスMAに入射する前に放射ビームBを調整するように構成されている。投影システムは、放射ビームB(今やマスクMAによってパターニングされている)を基板W上に投影するように構成されている。基板Wは先に形成されたパターンを含んでいてもよい。その場合、リソグラフィ装置は、パターニングされた放射ビームBを先に基板W上に形成されたパターンと整列させる。
【0062】
[00061] 放射源SO、照明システムIL、及び投影システムPSはすべて、外部環境から隔離され得るように構築及び配置されていてもよい。放射源SOにおいては大気圧を下回る圧力のガス(例えば水素)が提供されてもよい。照明システムIL及び/又は投影システムPSにおいては真空が提供されてもよい。照明システムIL及び/又は投影システムPSにおいては大気圧を大きく下回る圧力の少量のガス(例えば水素)が提供されてもよい。
【0063】
[00062] 放射源SOは任意の形をとってもよく、例えば、レーザ生成プラズマ(LPP)源と称され得る種類のものであってもよい。代替的な一例においては、放射源SOは1つ以上の自由電子レーザを備えていてもよい。1つ以上の自由電子レーザは、1つ以上のリソグラフィ装置に提供され得るEUV放射を放出するように構成されていてもよい。
【0064】
[00063] 放射ビームBは、放射源SOから、放射ビームを調整するように構成された照明システムIL内に進入する。照明システムILは、ファセット視野ミラーデバイス10及びファセット瞳ミラーデバイス11を含んでいてもよい。ファセット視野ミラーデバイス10及びファセット瞳ミラーデバイス11は、所望の断面形状及び所望の角度分布を有する放射ビームBを、併せて提供する。放射ビームBは照明システムILを通過し、サポート構造MTによって保持されるパターニングデバイスMAに入射する。パターニングデバイスMAは、ペリクルフレーム17によって定位置に保持されるペリクル19によって保護される。ペリクル19及びペリクルフレーム17は、併せてペリクルアセンブリ15を形成する。パターニングデバイスMA(例えばマスクであってもよい)は放射ビームBを反射しパターニングする。照明システムILは、ファセット視野ミラーデバイス10及びファセット瞳ミラーデバイス11に加えて又は代えて、他のミラー又はデバイスを含んでいてもよい。
【0065】
[00064] パターニングデバイスMAからの反射に続き、パターニングされた放射ビームBは投影システムPSに入る。投影システムは、基板テーブルWTによって保持される基板Wに放射ビームBを投影するように構成された複数のミラーを備える。投影システムPSはある縮小率を放射ビームに適用してもよく、パターニングデバイスMA上の対応するフィーチャよりも小さなフィーチャを有する画像を形成する。例えば、4という縮小率が適用されてもよい。基板W上に入射するパターニングされた放射ビームは、一筋の放射を含んでいてもよい。その一筋の放射は、露光スリットとも称され得る。スキャン露光の間、基板テーブルWT及び支持構造MTの移動は、露光スリットが基板Wの露光フィールド上を走行するようなものであり得る。図1では投影システムPSは2つのミラーを有しているが、投影システムは任意の数のミラー(例えば6つのミラー)を含んでいてもよい。
【0066】
[00065] 図1に示される放射源SOは、図示されていない構成要素を含んでいてもよい。例えば、放射源には分光フィルタが設けられていてもよい。分光フィルタは、EUV放射については実質的に透過性であってもよいが、赤外放射など他の波長の放射については実質的に遮断性であってもよい。
【0067】
[00066] 上記で簡単に述べたように、ペリクルアセンブリ15は、パターニングデバイスMAに隣接して設けられるペリクル19を含む。ペリクル19は、照明システムILからパターニングデバイスMAに接近するとき及びパターニングデバイスMAによって投影システムPSの方へ反射されるときのいずれも放射ビームBがペリクル19を通過するように、放射ビームBの経路内に提供される。ペリクル19は、EUV放射に対して実質的に透明な(しかし少量のEUV放射を吸収するであろう)薄膜を備える。ペリクル19は、パターニングデバイスMAを粒子汚染から保護するように作用する。ペリクル10は、本明細書においては、EUV透過ペリクル(EUV transparent pellicle)と称され得る。
【0068】
[00067] リソグラフィ装置LAの内部の清浄な環境の維持が図られるであろう一方で、リソグラフィ装置LAの内部には依然として粒子が存在し得る。ペリクル19が存在しなければ、粒子はパターニングデバイスMA上に堆積し得る。パターニングデバイスMA上の粒子は、放射ビームBに付与されるパターン及びひいては基板Wに転写されるパターンに悪影響を及ぼし得る。ペリクル19は、粒子がパターニングデバイスMA上に堆積するのを防止するために、パターニングデバイスMAとリソグラフィ装置LA内の環境との間にバリアを提供する。
【0069】
[00068] 使用時には、ペリクル19は、ペリクル19の表面に入射する粒子が放射ビームBの焦点面内に存在しないようにパターニングデバイスMAから十分な距離をとって配置される。ペリクル19とパターニングデバイスMAとの間のこの間隔は、ペリクル19の表面上にある粒子が放射ビームBにパターンを付与する程度を低減するように作用する。放射ビームB内であるが放射ビームBの焦点面内ではない(すなわち、パターニングデバイスMAの表面ではない)位置に粒子が存在している場合には、粒子の画像は基板Wの表面では合焦状態にはならないことが理解されるであろう。いくつかの実施形態においては、ペリクル19とパターニングデバイスMAとの間の間隔は、例えば、約2mm乃至3mm(例えば約2.5mm)であってもよい。いくつかの実施形態においては、下記で更に詳述するように、ペリクル19とパターニングデバイスとの間の間隔は調整可能であってもよい。
【0070】
[00069] 図2は、ペリクルアセンブリ15及びパターニングデバイスMAの断面のより詳細な概略図である。パターニングデバイスMAはパターン表面24を含む。ペリクルフレーム17は、ペリクル19の周縁部周りでペリクル19を支持する。ペリクルフレーム17は、ペリクルフレームがパターニングデバイスMAに取り外し自在に取り付け可能にするように(すなわち、ペリクルフレームがパターニングデバイスMAに取り付け自在且つ取り外し自在となることを可能にするように)構成された取付機構22を含んでいてもよい。取付機構22は、パターニングデバイスMAに設けられた取付フィーチャ(図示しない)と係合するように構成されている。取付フィーチャは、例えば、パターニングデバイスMAから延びる突起であってもよい。取付機構22は、例えば、この突起と係合してペリクルフレーム17をパターニングデバイスMAに固定する係止部材を備えていてもよい。なお、本明細書においてはペリクルフレームと称されているが、ペリクルフレーム17は他ではペリクル境界とも呼ばれ得る。また、ペリクルフレーム17(又は「境界」)は、更なるペリクルフレームを介してマスクに取り付けられてもよい。例えば、特許出願国際公開第2016079051号明細書の図4Bを参照すると、ペリクルメンブレン19と、境界部20(これは、いくつかの構成においては、本願の「フレーム17」の位置にある、特定のではなく一般的な構成要素に対応するであろう)と、国際公開第2016079051号の図12及び図31に示されるような取付機構を介してパターニングデバイスMAに取り付けられる追加的なフレーム17と、を備える配置が示されている。複数の取付機構及び関連する取付フィーチャが提供されてもよい。取付機構は、ペリクルフレーム17の周りに分配されていてもよい(例えばフレームの片側に2つ及びフレームの反対側に2つ)。関連する取付フィーチャがパターニングデバイスMAの周縁周りに分配されていてもよい。
【0071】
[00070] 図2には汚染粒子26が概略的に示されている。汚染粒子26はペリクル19に入射したもので、ペリクル19によって保持される。ペリクル19は、汚染粒子をマスクMAのパターン表面24から十分に遠くに保持するので、汚染粒子はリソグラフィ装置LAによって基板上に描像されない。
【0072】
[00071] 本発明の一実施形態によるペリクルアセンブリは、使用時に実質的に無欠陥のままである(パターニングデバイス上の)マスクパターンが提供されることを可能にし得る(マスクパターンはペリクルによって汚染から保護される)。
【0073】
[00072] ペリクルアセンブリ15は、(例えばポリシリコン(pSi)で作製され得る)ペリクル19を、フレーム17を提供する基板の上に直接堆積させることによって構築され得る。基板は、例えば、シリコンウェーハであってもよい。ペリクル19の膜の堆積後、基板は、ペリクル19を支持するためのフレーム17を形成するべく基板の中央部を除去して外周部のみを残すように、選択的にバックエッチングされ得る。ペリクル19は、例えば、15から50nm程度の厚さを有していてもよい。
【0074】
[00073] ペリクル19は、ある程度の「予応力」(すなわち、非使用時にペリクル19内に存在し、したがってスキャン動作の際に放射及びガス圧に曝されない、ある程度の応力)を必要とする。ペリクル19内の予応力は、ペリクル19がスキャン動作の際の温度及びガス圧の変化によって引き起こされる圧力差に耐えることを可能にする。しかしながら、予応力は、大きすぎると、ペリクルアセンブリ15の全体の寿命を短縮するであろう。したがって、ペリクル19には、ペリクル19に対する所与の圧力での(y方向での)偏向を限定するために、(図示されるx-y平面内で)最小の予応力を与えるのが望ましい。y方向のペリクル19の偏向が大きすぎると、ペリクル19は破損し及び/又はペリクル19の周囲の領域の他の構成要素に接触するかもしれない。
【0075】
[00074] ペリクル19の予応力は、好適には限定される。なぜなら、ペリクル19の応力は、ペリクル19を形成する材料の極限引張応力(ultimate tensile stress)又は降伏強度よりも有意に低いのが好適であるからである。ペリクル19の寿命及び信頼性を高めるためには、応力と極限引張応力との間のマージンは、可能な限り大きくなければならない。
【0076】
[00075] 予応力は、化学量論、水素化、結晶サイズの制御、ドーピング、及びウェーハ17へのペリクル19の堆積時の熱膨張率(CTE)の不一致を含む1つ以上のメカニズムを通じて、ペリクル19に組み込まれ得る。また、ペリクル19は、複数の層(例えば、ペリクル19を水素ラジカルなどから保護するためのキャッピング層)を備え得る。ペリクルアセンブリ15のペリクル19部分の層間のCTEの不一致と、ペリクル19の異なる層を堆積し得るヘテロエピタキシの処理とに起因して、多層ペリクル19の各層における応力は異なるかもしれない。
【0077】
[00076] 化学量論、水素化、結晶サイズ選択(すなわち粒界の数)、ドーピングなどの使用はすべて、ペリクル19の層の化学的安定性に影響を与えるであろう。一般に、(所望の予応力が比較的高い場合には)ペリクル19の製造に用いられる処理は所望の予応力をもたらし得るが、上記で概説した技術の使用は、ペリクル19が熱化学的観点から最も安定した構成を有さないようなものであり得る。例えば、二珪化モリブデン(MoSi2)から構築されたペリクルは、予応力の関数として指数関数的により速く酸化する。また、上記で概説した方法を用いる相補型金属酸化膜半導体(CMOS)ベースの製造処理においては、600MPaという値を下回る予応力を得ることは一般に困難である。いくつかの実施形態においては、およそ100~200MPa程度の予応力を有するペリクル19を得るのが望ましい。
【0078】
[00077] 更に、ペリクルフレーム17は一般にペリクル19と比較して不撓性であり、その結果、所望の予応力に加えて内部応力が生じる。よって、ペリクル19内の例えば100MPaの予応力は、実際には、100MPaの予応力±ペリクルフレーム15によって引き起こされる偏差となるであろう。換言すれば、ペリクル19のいくつかの部分は他の部分よりも高い応力下にあるかもしれず、その結果、ペリクル19には機械的弱点がより大きい点が生じる。
【0079】
[00078] ペリクル19内の平均予応力は、図示されるx次元及びy次元のいずれにおいても概ね同一である。一実施形態においては、(x-y平面とz次元との間の)角度が高い(300mrad程度)皺を防止することが望ましい。高角度の局所的な皺を低減する1つの手法は、スキャン(x)方向の予応力を低減することによるものである。スキャン(x)方向の応力は、ポアソン比ν(MoSi2に関してはおよそ0.17~0.25)に休止時の座屈を防止するためのy方向の応力σyを掛けたものよりも少量だけ大きければよい。すなわち、σx=ν*σyである。
【0080】
[00079] 露光時には、非スキャン(y)方向の応力σyはスキャン(x)方向の応力σxよりもおよそ10倍速く減退するであろう。しかしながら、σxはν*σyよりもずっと低いであろうから、ペリクル19上の露光スリット内で発生し得る座屈モードはより次数が低くなり、したがって局所的な高い皺角度の可能性も低くなる。最も低次の座屈モードは正弦の1周期、すなわち単一の皺である。ペリクル19をより高次の座屈モードに引き込む(pull)(すなわち、ペリクル19が複数の皺を含むようにする)にはエネルギがかかる。存在するエネルギが大きいほど、例えばペリクル192の不完全性によって、局所的にペリクル192が(局所的に)高い角度に引き込まれる可能性は高くなる。よって、本明細書に記載の技術を用いる実施形態においては、スキャン方向の予応力の量は低減され得る。
【0081】
[00080] ペリクル19の内部微細構造は、ペリクル19内の予応力から切り離すのが望ましい。つまり、ペリクル19の予応力は、ペリクル19の内的な微細構造を通じてではなく、機械的(又は外的)に制御されるのが有益である。これにより、ペリクル19を可能な限り化学的に不活性であるように製造することが可能となる一方で、ペリクル19内の予応力を所望のレベルに調整することは依然として可能である。
【0082】
[00081] 図3は、一実施形態によるペリクルアセンブリ35の製造の段階を概略的に図示している。ペリクルアセンブリ35は、図3aに示されるように、基板38(例えばシリコンウェーハ)に、フレームを提供することになる2つのノッチ36,37をエッチングすることによって、製造される。図3bに示されるように、ノッチを付けられた基板38上にペリクル19が堆積される。基板38は次にバックエッチングされて、図3cに示されるように、フレーム39を有するペリクルアセンブリ35を提供する。バックエッチング後、ノッチ36,37は、板バネの形をとる2つの展張構造物(例えばV字形の構成)36’,37’を備えるフレーム39となる。板バネ36’,37’は、x次元(すなわちスキャン方向)のペリクル19の予応力を低減させる。
【0083】
[00082] 板バネ36’,37’の長さ及び厚さは、ノッチ36,37の深さ(すなわちそれらのz次元における範囲)及び基板38のx-y平面上での位置を調整することによって制御され得る。このようにして、板バネ36’,27’によってもたらされる応力の低減は制御され得る。また、板バネの剛性は、スキャン(x)次元及び非スキャン(y)次元の両方において独立して調整され得る。例えば、図4に示されるように、ノッチは、基板上に、非スキャン方向(y)よりもスキャン方向(x)で低い応力を提供するように配置され得る。特に、図4においては、ノッチ40,41は所望の画像フィールド42に(x次元で)より近接して配置されており、それによって比較的可撓性の板バネがもたらされる。その一方で、ノッチ43,44は、より剛性の板バネを作り出すべく、所望の画像フィールド42から(y次元で)より離れて配置され得る。
【0084】
[00083] 図5は、ペリクルの応力がどのように変化するかを(板バネ36’,37’のような)板バネの剛性の関数として示すグラフである。図5からは、板バネ36’,37’の剛性を変化させることによって、ペリクル内の予応力を広帯域において制御することが可能であることがわかる。
【0085】
[00084] したがって、1つ以上の展張構造物の使用は、製造後のペリクル内の予応力とそのペリクルの極限引張応力との間のマージンを増大させることができ、それによってペリクルの寿命及び信頼性が向上する。また、ペリクルが破滅的不良である場合、展張構造物によって得られる張力の低減は、ペリクル内により少ない弾性エネルギが蓄積されていることを意味する。よって、ペリクルの破損がリソグラフィ装置の他の領域へのペリクルの破片の放出をもたらすであろう尤度は低くなる。
【0086】
[00085] 図3及び図4には単一のノッチを備える展張構造物が示されているが、追加的なノッチ及び/又は他のパターンを有する展張構造物が基板にエッチングされて、そこから、異なる特性の展張構造物を提供するようにペリクルフレームが形成されてもよいことが理解されるであろう。このようにすれば、異なる予応力を有するペリクルが提供され得る。いくつかの実施形態においては、より複雑な展張構造物を提供するために、ペリクルアセンブリの製造において、追加的な層が利用されてもよい。例えば、図6は、ペリクルアセンブリ55(図6d)の製造の段階を概略的に図示している。ペリクルアセンブリ55は、基板53(例えばシリコンウェーハ)にセレーション51,52をエッチングすることによって製造される。基板53の上にはバネ層54が堆積され、それによってバネ層54は、セレーション51,52内に収容されるとともにそれらの形をとる。バネ層54は、例えば銅、金、銀などのような金属で形成されてもよい。他の実施形態においては、バネ層54は、SiOx,SiN又はMoSiのような他の材料から形成されてもよい。基板53とバネ層54との間には、所望の画像フィールドを覆って、シールド層56が堆積される。シールド層53はセレーション51,52内に堆積される必要はない。バネ層54の堆積後にシールド層53を除去すると、図6cに図示される配置が得られ、ここで、バネ層54は概ねセレーション51,52内の領域に制限される。バネ層54及び基板53の上に、ペリクル層57が堆積される。基板53のバックエッチングが、2つの展張構造物58,59を有するペリクルアセンブリ55をもたらす。セレーション51,52の特性(例えば深さ、幅)に加え、バネ層54の特性は、ペリクル57内で所望の予応力を得るように選択されてもよく、非常に低い剛性レベルを有するペリクルフレームが得られ得る。図6の例示的な配置では単一のバネ層54が示されているが、他の実施形態においては2つ以上のバネ層が提供されてもよいことが理解されるであろう。2つ以上のバネ層が提供される場合には、異なる材料のバネ層が提供されてもよい。
【0087】
[00086] いくつかの実施形態においては、基板及び/又はバネ層は、展張構造物を相互に隔離するようにエッチングされてもよい。理論的に理想的な配置では、ペリクルは無数の展張構造物(例えばバネ)によってペリクルフレームから垂設されてもよく、各展張構造物は他の展張構造物のいずれとも内部接続を有さない。無数の展張構造物を提供することは不可能であるが、本明細書の教示からは、上述した一般的技術の範囲内で、各展張構造物を他の各展張構造物から隔離するために、異なるエッチングパターンが利用され得ることが理解されるであろう。図7はペリクルフレーム75の上面図を概略的に示しており、ここで、フレーム70は、ペリクル72を支持するバネ71の形をした複数の隔離された展張構造物を提供するようにエッチングされている。
【0088】
[00087] 上記の例は、図3及び図6のx軸に沿って伸縮する、単一次元内で動作する展張構造物を説明しているが、他の実施形態においては、x次元及びz次元の両方でペリクル内の応力を制御するように複数の次元で作用する展張構造物が形成され得る。図8は、図示されるx次元及びz次元の両方で作用する展張構造物を提供するようにエッチングされた基板の斜視図を示す写真である。
【0089】
[00088] 一実施形態においては、ペリクルフレームは「ヘリンボン」パターンと称されるものを提供するようにエッチングされ得る。これは、x-y平面内、z-y平面内及びz-x平面内に鋸歯状(又はジグザグ)の構造物を備えている。図9aは、破線の輪郭81で概略的に示される外郭を有するメンブレン80を示す写真である。図9bを参照すると、メンブレン80は、ヘリンボン構造80’を提供するように折り畳まれている。ヘリンボン構造80’によって、メンブレン80は外郭81よりも小さくなっていることがわかる。
【0090】
[00089] ヘリンボン構造は、ペリクルアセンブリ内で複数通りに利用され得る。一実施形態においては、ヘリンボン構造はペリクルアセンブリの外部に適用される。図10を参照すると、ペリクルアセンブリ90は、画像フィールド(又は中央)部92と、ペリクルアセンブリ90のフレーム(又は縁)部でヘリンボン部93の形をした展張構造物とを有するペリクル91を備えている。図10においては、ヘリンボン構造はハッチングによって概略的に図示されている。ヘリンボンパターンの縁部93は、図6を参照して上記で説明された技術により、例えば異なるエッチングパターンを用いて構築されてもよい。
【0091】
[00090] 別の一実施形態においては、ペリクルの全面がヘリンボン構造を備えるように形成され得る。図11を参照すると、画像フィールド部102を含むペリクル101全体がヘリンボン構造(ハッチングによって概略的に図示する)を備えるペリクルアセンブリ100が示されている。図11の例示的配置のようにペリクル101全体をヘリンボン構造で形成することによって、ペリクル101の全面がペリクル101全体の予応力の低減に寄与する。試験では、ヘリンボンパターンを有するペリクルが、有限要素法を用いてモデル化された。その結果、ヘリンボン構造を有さないペリクルと比較して、ペリクル内の平均応力は10分の1以下に低減され得ると同時に、ペリクルの任意の部分が経験する最大応力は6分の1以下に低減されることが示された。
【0092】
[00091] ヘリンボン構造がペリクルの全面にわたって(又はペリクルの表面の少なくとも大部分に)適用される場合、ペリクルは、全予応力がゼロPaになるように形成され得る。例示的な一実施形態においては、平面外構造(すなわち展張構造物のz次元における範囲)は0.1mm~0.5mm程度であり、ヘリンボンパターンは0.2mm~1mmの空間周波数を有する。そのような実施形態では、ヘリンボン構造によって提供される追加的な表面積が(平坦なペリクルと比較して)製造時のペリクルの収縮よりも桁違いに大きいため、構築後のペリクルは予応力を有さないであろう。驚くべきことに、予応力を有さないペリクルは通常、使用時に許容できないほど撓む(すなわち、撓みによってペリクル上の粒子が焦点面にもたらされる)であろうが、ヘリンボン構造には、平坦なペリクルに比べ、少なくとも1方向で、有意な曲げ剛性をペリクルに導入するという点で、追加的な利点があることがわかっている。図12を参照すると、ヘリンボン構造を有するペリクル120が図示されている。ペリクル120のヘリンボン構造は、軸121周りの曲げに関して比較的高い曲げ剛性を提供し、軸122周りのより低い曲げ剛性によってペリクル120の撓みの低減をもたらす。ヘリンボン構造によってもたらされる曲げ剛性は、使用時の平面外偏差(例えばz次元の撓み)を抑える。
【0093】
[00092] したがって、ペリクル全体にわたる又はペリクルの外側(例えばフレーム、縁又は非画像フィールド)部分におけるヘリンボン構造を備えた1つ以上の展張構造物の使用は、製造後のペリクル内の予応力とそのペリクルの極限引張応力との間のマージンを増大させることができ、それによってペリクルの寿命及び信頼性が向上する。また、ペリクルが破滅的不良である場合、ヘリンボン構造によって得られる張力の低減は、ペリクル内により少ない弾性エネルギが蓄積されていることを意味する。よって、ペリクルの破損がリソグラフィ装置の他の領域へのペリクルの破片の放出をもたらすであろう尤度は低くなる。
【0094】
[00093] ヘリンボンパターンは、概ね上述した方法を用いてペリクル内に形成され得る。つまり、ヘリンボンパターンは、まず、基板上へのペリクルの堆積前且つ基板のバックエッチング前に、基板(例えばシリコンウェーハ)にエッチングされ得る。図3及び図6を参照して上述した方法と比べ、ペリクルの全面にわたってヘリンボンを提供するためには、ペリクルフレームを形成する基板の外側部分のみではなく、基板の全面がプリエッチングされてもよい。他の実施形態においては、ペリクルの応力は、ペリクルが使用時に熱負荷に曝されるであろうことが予期される箇所にのみ局所的なヘリンボンパターンの部分を導入することによって調整され得る。
【0095】
[00094] 一実施形態においては、ペリクル内の応力は、基板上にペリクル材料を堆積する前に、基板の機械曲げを通じて制御されてもよい。例えば、図13aを参照すると、基板130は機械的に曲げられて弓型形状にされ得る。弓型の基板130の外(凸)面上にペリクル131が堆積され得る(図13b)。最後に、基板130内の機械負荷が解放され、それによってペリクル131に機械圧縮が導入され得る(図13c)。ペリクル131に導入される機械圧縮によって、更なる製造工程(例えばバックエッチング、アニールなど)に伴うペリクル131内の張力は、ペリクル131が当初平坦な基板上に堆積された場合よりも低くなるであろう。
【0096】
[00095] 基板上にペリクル材料を堆積する前に基板を曲げることは、張力を高めるためにも用いられ得る。例えば、図14aを参照すると、基板140は機械的に曲げられて弓型形状にされ得る。その後、弓型の基板140の内(凹)面上にペリクル141が堆積され得る(図14b)。最後に、基板140内の機械負荷が解放され、それによって機械張力が導入され得る。
【0097】
[00096] 製造時にペリクルを堆積される基板の曲率半径の関数として機械的にペリクルに追加又はペリクルから除去される応力は、いくつかの実施形態においては、「ストーニーの方程式」と同様に計算され得る。
【数1】
ただし、Esは基板のヤング率、hsは基板の厚さ、hfはペリクルの厚さ、νsは基板のポアソン比、そしてRは曲げによって機械的に導入された基板の曲率半径である。もっとも、追加又は除去される応力の量は、異なっていてもよいし、もっと少なくてもよいことがわかるであろう。
【0098】
[00097] 機械曲げを通じたペリクル内の応力の制御は単一の層に限定されるものではなく、基板上に堆積されるペリクルの追加的な層毎に再現可能であることが理解されるべきである。このようにすれば、ペリクルの個々の層の応力は、所望の通りに調整され得る。また、機械曲げの使用は、2方向以上の応力の制御に用いられ得る。例えば、基板は、複数の異なる方向に機械的に曲げられてもよい。曲げ方向はペリクルの異なる層毎に異なり得る。
【0099】
[00098] 更に、ペリクル層が厚く成長するにつれてペリクルの堆積時に発生する力を測定するためのセンサ(図示しない)が設けられたフィードバックループが提供されてもよい。すると、基板の機械曲げは、そのフィードバックに基づいて、ペリクル層の厚さ全体にわたって同一の応力を保証するように制御され得る。応力は最初の原子層とペリクルの「バルク」とでは異なって発達するので、フィードバックはペリクルの最初の原子層においては特に有益であろう。
【0100】
[00099] 上記では、図11,12を参照して、ペリクル表面の全体にわたってヘリンボンパターンが創出され得ることが説明された。代替的な一実施形態においては、ペリクルの最終的な予応力を下げるために、製造時にペリクルに他のパターン又はランダムな「ラフネス」が導入され得る。上述した方法と同様、ペリクルに「ラフネス」を導入するためには、ペリクルが堆積される基板の表面上にラフネスが導入されてもよい。基板の表面上にラフネスを導入するために、多数の機構が用いられてもよい。例えば、図15を参照すると、低温プラズマ励起化学気相堆積(PECVD)酸化物層152(例えば二酸化珪素)がシリコン基板150の表面上に提供されてもよい。PECVD酸化物層152はバック「エッチストップ」層を提供し、その上にペリクル151が堆積される。低温PECVD酸化物は、シリコンよりもずっと大きな固有のラフネスを有する。ペリクル151は、PECVD酸化物層152上に堆積されると、このラフネスを有するようになるであろう。
【0101】
[000100] 他の実施形態においては、ペリクルが堆積されるシリコン基板の表面をエッチングするために、水酸化カリウム(KOH)が用いられてもよい。具体的には、まずシリコン基板上にレジストが堆積され、堆積されたレジストはリソグラフィを用いてパターニングされ得る。例えば、レジスト内にはチェッカーボードパターンが形成されてもよい。レジスト内にリソグラフィ的にパターンを形成した後、シリコンは(例えばKOHを用いて)エッチングされ得る。例えば、シリコンは、逆ピラミッド形状を創出するようにエッチングされてもよく、この逆ピラミッド形状が所望のラフネスを提供する。その後レジストが除去され、基板が洗浄され得る。洗浄された基板は、エッチング時に生じた鋭い縁を丸めて「エッチストップ」を創出するべく、熱酸化によって酸化されてもよい。その後、通常のペリクル製造の準備ができた酸化された基板上にペリクルが堆積され得る。
【0102】
[000101] 他のエッチング剤が用いられてもよいことが理解されるであろう。例えば、他の実施形態においては、等方性のドライ又はウェットエッチングが用いられ得る。別の一実施形態においては、ラフネスは、レジストの除去前に、二酸化珪素の等方性エッチングによって作り出されてもよい。
【0103】
[000102] ペリクルへの「ラフネス」の追加は、ペリクルの全面にわたって提供されるのではなく、ペリクルの部分に限定されていてもよい。例えば、図3及び図6を参照して説明した実施形態においてバネが創出された手法と同様に、ラフネスは、ペリクルの1つ以上の縁部に沿って、又はペリクルの他の部分で、ペリクルに追加されてもよい。例えば、ペリクルの応力は、ペリクルが使用時に熱負荷に曝されるであろうことが予期される箇所にのみ局所的なラフネスの部分を導入することによって調整され得る。
【0104】
[000103] ペリクルへのラフネス又はパターンの追加によって創出されるフィーチャの横方向寸法は、好適には、ペリクルの厚さよりも大きい。例えば、図16を参照すると、フィーチャ(図16の例示的な配置においては三角形のパターンを形成するものとして示されている)の横方向寸法Xは、ペリクル層161の厚さyよりも大きい。
【0105】
[000104] いくつかの実施形態においては、ペリクルに追加されるラフネスの寸法及び構成は、平坦なペリクルによって提供されるよりもおよそ0.045~0.095%余分な表面積をペリクル全体にわたって提供するように選択され得る。(例えばバックエッチングなどペリクルアセンブリの製造の他の工程の後で)ペリクルが自立すると、応力は、ペリクル材料のヤング率で換算された余分な表面積の働きにより、平坦なペリクルによってもたらされるものと比較して低減されるであろう。
【0106】
[000105] ペリクルは接着剤を用いてペリクルフレームに取り付けられてもよい。ペリクルをペリクルフレームに取り付けるのに必要な少量の接着剤を手動で分注することは、工程変動及び操作者の不正確性に起因して、困難であるかもしれない。例えば、あまりに多くの接着剤が適用されるとき(工程変動)及び接着剤がフレームの内側からあまりに遠くに配置されるときには、問題が起こり得る。フレームとペリクルとの間の毛細管現象は、ペリクルとパターニングデバイスMAとの間の囲まれた容積の内部での接着剤の移動をもたらし得る。囲まれた容積内の接着剤は、パターニングデバイスの深刻な汚染をもたらす恐れがある。
【0107】
[000106] 図17はペリクルフレーム171を概略的に示す。ペリクルフレームは、内縁174を有するフレーム境界を備える。ペリクルの中央部は、内縁174の向こうにあって、フレームと直接接触しない。フレーム境界には円形の境界172が設けられる。円形の境界172は、フレームの材料(例えばシリコンであってもよい)内に彫り込まれている。フレーム境界に彫り込まれた円を提供することによって、この円が、サーカスの中央領域に供給される接着剤のためのセンタリング機能を提供することがわかっている。高い接触角を有する接着剤の液滴は、分注後、即座に湿潤を開始する。円形境界172は、接着剤を境界172内で自己センタリングさせるバリアとして作用する。
【0108】
[000107] 追加的な境界173も設けられる。図示される実施形態においては、追加的な境界173は、フレーム171に彫り込まれた直線の形をとる。この追加的な境界173は、多すぎる接着剤が適用された場合の更なるバリアとして作用する。図18aは、円形の境界172のセンタリング効果を示す写真であり、接着剤180が、円形の境界172と概ね同心の、概ねセンタリングされた接着剤の円形の点を形成しているのがわかる。図示される実施形態においては、円形の境界172の直径は1.4mm程度である。
【0109】
[000108] 円形の境界172及び追加的な境界173は、基板をエッチングすることによって提供されてもよい。例えば、境界172,173は、シリコン基板にレーザエッチングされてもよい。
【0110】
[000109] 図18bは、接着剤181の点が、ペリクルフレーム171に加えられたあまりに多量の接着剤を含んでいる状況を示す写真である。図18bでは、追加的な境界173が更なるバリアとして作用して、接着剤181がフレームの内側の境界174を越えて広がりペリクルとパターニングデバイスMAとの間の囲まれた容積を汚染するのを防止しているのがわかる。
【0111】
[000110] 円形の境界172及び/又は追加的な境界173を設けることで、接着剤が囲まれた容積に到達する危険性が低減され、手動で行われ得る接着剤の分注の容易性及び正確性が向上する。
【0112】
[000111] ペリクルが取り付けられるペリクルフレームは、ペリクル自体と比べて比較的剛性であることが理解されるであろう。フレームの剛性は、上述したように、ペリクルに加えられる予応力と相まって、スキャン動作時に温度が上昇するときにペリクルに皺が寄るという問題を引き起こす恐れがある。スキャン中、温度は最大で数百℃上昇し得る。
【0113】
[000112] 一実施形態においては、ペリクルとパターニングデバイスMAとの間の領域を閉じたり開いたりするように、パターニングデバイスMAに向かって及びパターニングデバイスMAから遠ざかる方向にペリクルフレームを並進移動させるための機構が提供される。図19を参照すると、ペリクルアセンブリ190がパターニングデバイスMAと共に示されている。ペリクルアセンブリ190は、ペリクルフレーム191及びペリクル192を備える。ペリクルアセンブリを図示されるz次元に沿って並進移動させるためのアクチュエータ(図示しない)が提供される。図19aにおいては、ペリクルアセンブリは、ペリクルアセンブリ190がパターニングデバイスMAから離隔した、開いた構成で示されている。開いた構成では、ペリクル192とパターニングデバイスMAとの間の容積における圧力は同一であり、図19aではP1と標示されている。
【0114】
[000113] アクチュエータは、当業者には自明であろう任意の適切な形をとり得ることが理解されるであろう。
【0115】
[000114] アクチュエータは、ペリクルフレーム191がパターニングデバイスMAと物理的に接触するまでペリクルアセンブリ190をパターニングデバイスMAの方へ並進移動させることによって、ペリクルアセンブリ190が閉じた構成へと遷移することを可能にするように構成されている。閉じた構成では、パターニングデバイスMAとペリクル192との間の容積は、パターニングデバイスMAを囲む外部環境から物理的に分離されている。ペリクルフレーム191は、パターニングデバイスMAと接触するように配置された表面193上に、密封部材(図示しない)を備えていてもよい。パターニングデバイスMAは、ペリクルフレーム191と界接するように、対応する密封部材(図示しない)を備えていてもよい。
【0116】
[000115] 図19aにおいて、ペリクル192とパターニングデバイスMAとの間の囲まれた容積における圧力は、依然としてパターニングデバイスMAの周囲の圧力と同一の圧力P1である。
【0117】
[000116] スキャン動作中、ペリクルアセンブリ190は閉じた構成へと遷移されてもよく、パターニングデバイスMA及びペリクルアセンブリ190を囲む環境からガスがフラッシュされ、それによってパターニングデバイスMAを囲む環境の圧力が低下し得る。図19cに図示されるように、周囲の領域をフラッシュした後、パターニングデバイスMAとペリクル192との間の容積における圧力は、パターニングデバイスMAを囲む圧力(図19cではP2と標示されている)よりも大きくなる。よって、ペリクル192は、z次元でパターニングデバイスMAから遠ざかるように弓型になるであろう。
【0118】
[000117] ペリクルアセンブリ190を開いた構成から閉じた構成へと遷移させるのに先立って、パターニングデバイスMAを囲む周囲圧力(図19aではP1と標示されている)は選択的に調整されてもよい。例えば、いくつかの実施形態においては、この圧力は、例えば水素ガスのようなガスの導入を通じて、およそ2Paにされるであろう。
【0119】
[000118] パターニングデバイスMAとペリクル192との間の圧力を高めることによって、パターニングデバイスへの熱接続が向上する。これは、パターニングデバイスMAとペリクル192との間の容積内のガスを通じた伝導による、より一層の冷却を可能にする。ペリクル192全体の圧力差を低減するために、圧力は、ペリクル192の反対側からも高められてもよい。このようにすれば、ペリクル192全体の圧力差、そしてひいてはペリクル192の張力が制御される。
【0120】
[000119] 圧力P1,P2の差によって誘起されるペリクル192の張力がフレーム191によって誘起されるペリクル192の張力よりも確実に大きくなるようにすることで、ペリクル192には、スキャン動作時の高い熱負荷に曝されるときよりも有意に少ない皺が寄るであろう。また、ペリクル192とパターニングデバイスMAとの間の容積を閉じることによって、スキャン動作中に継続はその容積に進入することができない。
【0121】
[000120] 上述の実施形態においては、ペリクルが堆積される基板は結晶シリコンウェーハであり得ることが示されている。当該技術分野における、結晶シリコンをペリクルの基板として用いる傾向には、業界が結晶シリコンウェーハの処理の豊富な経験を有していることを含め、多数の理由がある。また、結晶シリコンウェーハの熱膨張率(CTE)(2.6μm/m/K)は多結晶ペリクル材料のCTE(およそ4μm/m/K)に整合するので、製造処理中に導入される熱応力が比較的小さい。したがって、ペリクルが多結晶ペリクル材料とは異なるCTEを有する材料から構築される場合であっても、結晶シリコンはすぐに、ペリクルを成長させるデフォルトの表面となった。
【0122】
[000121] いくつかの実施形態においては、ペリクルは、およそ8μm/m/KのCTEを有するMoSi2又はおよそ1μm/m/KのCTEを有する黒鉛系材料から構築され得る。上述したように、ペリクルの微細構造を改良するための高温(例えばおよそ摂氏800度)でのアニールの際には、ペリクルアセンブリ内の内部応力は小さい(例えばゼロに近い)。しかしながら、(例えば室温への)冷却時には、ペリクルと基板との間に大きなCTEの不整合が生じ、その結果、応力が蓄積して、上述のように、ペリクルアセンブリ内の大きな予応力に寄与する。
【0123】
[000122] 一実施形態においては、ペリクルフレームのCTEは、複合材料から形成されたペリクルフレームを作成することによって調整される。図20aを参照すると、ペリクルアセンブリのペリクルフレームを形成するシリコンウェーハ200が示されている。他の実施形態においては基板は異なる材料であってもよいことは理解されるであろう。
【0124】
[000123] 基板200上には、ペリクルフレームの縁を定義する境界区域201が画定される。境界区域201は、図20aにおいては概ね長方形の形状を有するものとして示されているが、他の形状が用いられてもよいことが理解されるべきである。例えば、円形状のペリクルフレームは、ペリクルに内により少ない応力集中を導入し得るので、いくつかの実施形態においては特に有益であろう。基板200の境界区域201内からはシリコンの部分が除去され、別の材料を収容するための1つ以上の領域を含む区域202が形成される。除去された領域には、合成区域203を形成するべく、シリコンとは異なるCTEを有する第2の(又はフィラー)材料が充填される。その後、基板200を用いたペリクルアセンブリの構築が、通常通りに進められ得る。合成区域203は、基板200を用いて構築されたペリクルアセンブリのペリクルフレームが所望のCTEを有することを保証する。CTEは、フィラー材料を選択すること、及びフィラー材料が境界区域201内に分配される手法を選択することによって、調整され得る。
【0125】
[000124] 例えば、一実施形態においては、図21aに示されるように、シリコンが境界区域201から連続帯210として除去されてもよい。代替的な一実施形態においては、境界区域201は、複数の孔215を定義するように孔をあけられてもよい。その後、フィラー材料が、孔を充填するように適用され得る。図21a,21bに示される配置は例示的なものに過ぎず、材料は任意の配置で境界区域201から除去され得ることが理解されるであろう。
【0126】
[000125] 一実施形態においては、充填の後、フィラー材料は部分的に又は完全に境界区域を囲み得る。図22はペリクルアセンブリ223の断面を示していて、フィラー材料220はシリコン基板221内の孔の中及び周りにあり、それによってシリコン基板221を囲んでいる。シリコン基板221とフィラー材料220とは、併せてペリクルフレーム222を形成する。図22において、基板は、バックエッチングされて、ペリクル224を有するペリクルアセンブリ223を形成している。
【0127】
[000126] フィラー材料を用いて、ペリクルフレームのCTEは、ペリクル内の予応力を増加又は減少させるように増加又は減少される。
【0128】
[000127] フィラー材料は、ペリクルが堆積される基板材料(一例ではシリコン)及びペリクルフレームを形成する基板材料とは異なるCTEを有する、任意の適当な材料であり得る。単なる例に過ぎないが、フィラー材料は比較的高いCTEを有する材料であってもよい。好適には、フィラー材料は延性材料である。好適には、フィラー材料はガスを放出しない材料である。例示的な一実施形態においては、フィラー材料は金属である。特定の一例においては、フィラー材料は、例えばアルミニウム又はモリブデンである。一実施形態においては、境界部の異なる部分では異なる量の基板が除去されてもよい。このようにすれば、ペリクルアセンブリ内の予応力に対する追加的、局所的な制御が達成され得る。
【0129】
[000128] 上述したように、基板にフィラー材料が加えられた後は、ペリクルアセンブリを製造するためのすべての他の処理工程は、既存の製造処理に合成フレームの使用が容易に導入され得るように、変更されないのが有益であろう。一実施形態においては、基板を利用してペリクルフレームを形成するのではなく、ペリクルフレームが別個の動作でペリクルに結合されてもよい。その場合、基板は(ペリクルアセンブリに基板の部分が全く残らないように)完全にエッチングされてもよい。図23には例示的なペリクルアセンブリ230の構築段階が示されており、同図ではペリクル231が基板232上に堆積されている。基板は、例えば、結晶シリコンであってもよい。ペリクル231は、基板232に堆積された後、従来のペリクル製造方法によってアニールされ得る。しかし、アニールの後で、フレーム233がペリクル231に結合され得る。フレーム233は、ペリクルの、基板232と接触している側とは反対の側に結合される。次に、基板は、基板を除去するように全体がバックエッチングされ、ペリクル231及びフレーム234を備えるペリクルアセンブリ230が残される。このようにすると、製造後のペリクル内の予応力は、ペリクル231とフレーム234との間のCTEの差と、ペリクル231へのフレーム234の結合が起こった温度とに応じて決まる。
【0130】
[000129] 本明細書において用いられる「結合される」という用語は、ペリクルが基板上に堆積される処理と差別化するために使用されていることが理解されるであろう。つまり、従来の配置では、ペリクルは、基板上に堆積された後で基板に付着する。これは、ペリクルがアニールされた後でフレームがペリクルに結合される本願の配置とは異なる。
【0131】
[000130] フレーム234は、フレーム234のCTEが、予応力などペリクルアセンブリの所望の特性に応じて選択され得るように、任意の材料から構築されてもよい。また、フレーム234を結合する方法(及びひいては温度)は、ペリクルアセンブリ230の所望の特性を更に得るように選択され得る。例えば、一実施形態においては、ペリクルフレーム234は、ショット(Schott AG)社のゼロデュア(登録商標)のようなアルミノ珪酸リチウムガラスセラミックを備えていてもよい。ゼロデュアは非常に低いCTEを有し、したがってほとんど又は全く展張が無く、その結果、ペリクル及びパターニングデバイスMAに及ぼされる力が非常に低い。
【0132】
[000131] 一実施形態においては、フレーム234はシリコンを備えていてもよく、100から250MPaの範囲内、例えばおよそ200MPaというペリクル231内の予応力を提供するのが望ましいであろう。およそ200MPaの予応力を達成するために、フレーム234は、およそ摂氏160度を下回る温度でペリクル231に結合され得る。例えば、光学的圧着及び水素結合などの結合技術が用いられてもよく、これらはおよそ摂氏20度から25度の温度で動作する。およそ200MPaの予張力を得るためにシリコンフレームと共に用いられ得る他の例示的な結合技術は、金拡散接合(およそ摂氏50度の温度で動作する)及び陽極接合(およそ摂氏160度の温度で動作する)を含む。
【0133】
[000132] ペリクル内231で異なる量の予応力が望まれる場合には、異なる結合温度が選択され得ることが理解されるであろう。図24は、MoSiペリクル内の予応力が、シリコンフレームがペリクルに結合される温度によってどのように増加するかを示すグラフである。所望の予応力は、例えばペリクル231の構成を含む、多数の要因に応じて決定され得ることがわかるであろう。例として、黒鉛系ペリクル231を用いる一実施形態においては、300MPaから450MPaの範囲内、例えば400MPaの予応力が望ましく、ペリクルフレーム234の材料及び結合の温度はそれに従って選択されるであろう。具体的には、所与の温度Tにおけるペリクル231内の予応力σは、次の式によって求められるであろう。
【数2】
ただし、Epellicleはペリクルのヤング率、CTEpellicleはペリクルのCTE、CTEframeはペリクルフレームのCTE、νpellicleはペリクルのポアソン比、Tbondingは結合の温度である。
【0134】
[000133] 図23を参照して説明した方法は、フレームが任意の所望の寸法及び形状で構築され得るという点で、更に有利であろう。ペリクルアセンブリの他の構築方法においては、エッチングされた基板であってペリクルを成長させるものから形成されたペリクルフレームが、パターニングデバイス上への設置のために、更なるフレームの上に組み立てられてもよい。図23を参照して説明した方法は、更なる構築(例えば糊付け、組み立て)を有利に回避するとともに、構成要素間の界接面の数を減らし、それによって、汚染を引き起こし得る粒子の生成を低減させ、且つ製造時にペリクル231に及ぼされる応力を低減させる。つまり、ペリクルフレームは、残った基板境界と更なるフレーム要素の追加とによってではなく、単一片から形成され得る。また、フレーム234の構築は、他のペリクルアセンブリ構築技術よりも平易であろう。例えば、ペリクルフレーム234は機械加工されてもよく、フレーム材料の単一片から機械加工されてもよい。
【0135】
[000134] 一実施形態においては、ペリクルフレーム234は、ペリクル231に結合する前に、化学的に不活性なコーティングによって被覆されてもよい。このようにすれば、ペリクルフレーム234のガス放出が低減又は排除され得る。
【0136】
[000135] 一実施形態においては、ペリクルフレーム234全体が、基板232をエッチングするために用いられるエッチングに対して耐性のある化学的コーティングで被覆されてもよい。その後、基板232をエッチングする前にペリクルアセンブリ230全体が構築及び洗浄されてもよく、それによって歩留まりが向上する。
【0137】
[000136] 図23及び図24を参照して説明した上記の例においては、フレーム234はシリコンを備えていてもよいことが説明された。しかしながら、他の実施形態においては、フレームは、シリコンではない材料を備えていてもよい。例えば、その場合、フレーム234は、アルミニウム、チタン、ベリリウム、窒化アルミニウム、ゼロデュア(登録商標)、酸化シリコン及び炭化シリコンのうち少なくとも1つを備えていてもよい。フレーム材料の選択肢は、結合温度及び所望のペリクル予応力に応じて選択され得る。
【0138】
[000137] 一実施形態においては、ペリクルの予応力は、リソグラフィ装置の性能を向上させるために、ペリクルに特定の手法で皺が寄る(例えば特定の所望の大きさの皺を有する)ように選択され得る。図25を参照すると、ペリクル302によって保護されたパターニングデバイスMAが示されている。放射ビーム304が、ペリクル302を通過してパターニングデバイスMAに入射する。パターニングされた放射ビーム306がパターニングデバイスMAから反射し、ペリクル302を通過して、基板308の所望の領域に入射する。しかし、ペリクル302は放射ビーム304に対して完全に透明ではない。放射ビーム304の一部はペリクル302によって吸収され、その一方で一部310はペリクル302から反射される。反射部分310は、例えば、放射ビーム304の0.4%程度であろう。反射部分310は、パターニングされた放射ビーム306と同じ経路は辿らず、したがって基板308の所望の領域には入射しない。また、反射部分310はパターニングデバイスMAと一切相互作用しないので、反射部分310は所望のパターンでパターニングされない。よって、反射ビーム306は、オーバーレイエラー及び/又はコントラストの低減を引き起こし得る。
【0139】
[000138] 一実施形態においては、ペリクル特性は、基板と交わらない伝搬の経路に沿って入射する放射ビームの少なくとも一部を反射する皺の発生を引き起こすように選択される。図26は、図25に示されるものと類似の配置を示しており、同一の構成要素には同一の参照番号が付されている。しかし、図26では、ペリクル402が、反射部分310に基板308と交わらない経路を辿らせるべく皺が寄るように構成されている。よって、図26の実施形態においては、部分310はコントラストの低減又はオーバーレイエラーをもたらさない。ペリクル402から基板上へのすべての反射(例えば皺の谷の頂上から反射される部分)を防止することは不可能であろうこと、しかし、適当な皺を選択することによって、ペリクルから基板上へ反射される放射の量は低減され得ることは、理解されるであろう。
【0140】
[000139] ペリクル402の皺の品質は、本明細書に記載された、ペリクル402内に存在する予応力を制御するための技術のいずれかを用いて制御されてもよい。また、ペリクル402の温度も制御されてもよい。一実施形態においては、ペリクル402の予応力及び温度は、室温で、ペリクルの表面によって定義される平面に対しおよそ35mradよりも大きい角度αを有する皺を生じるように、選択される。もっとも、皺の所望の角度はパターニングデバイスと基板との間の光路長に応じて変化し得ることは理解されるであろう。
【0141】
[000140] 一実施形態においては、ペリクル402は、およそ240MPaの予応力に曝される。一実施形態においては、ペリクル402は、およそ200~450℃の(例えばパターニング動作時の)動作温度に加熱され得る。ペリクル402がおよそ240MPaの予応力を備えおよそ450℃に加熱される例示的な一実施形態においては、ペリクル402は、およそ40mradまでの最大局所角度α及び10μm程度の皺高さWhを有する皺を呈し得る。しかし、一般に、皺高さは異なっていてもよく、皺高さはペリクルの材料組成物に応じて決まり得ることが理解されるであろう。放射ビーム304の波長が13.5nm程度である一実施形態においては、ペリクルは、10μm程度の最小高さを有する皺を呈するように構成され得る。一般には、ペリクル402の皺は入射する放射ビーム304の吸収を高め得ることが予期されているかもしれないが、およそ300mradよりも小さい局所角度を有する皺による放射ビーム304の吸収の増加であれば満足であろうことが判明した。
【0142】
[000141] ペリクルが有する、ペリクルが有効である及び/又は不良の尤度が所望の閾値の範囲内にある時間は、有限であろう。例えば、いくつかのペリクルに関しては、ある一定の使用時間の後、ペリクルが十分に不良化しそうになり、使用を避けるのが好ましくなるであろう。ペリクルが破滅的不良である場合、ペリクル内に蓄積された弾性エネルギはペリクルの破損をもたらすかもしれず、これはひいてはリソグラフィ装置の他の領域へのペリクルの破片の放出をもたらし、それによってリソグラフィ装置のダウンタイムという結果になり得る。
【0143】
[000142] あるペリクルが使用されるべきかどうかについての決定がなされることを可能にするために、一実施形態では、無線で読み取り及び書き込み可能な追跡デバイスをペリクルのペリクルフレーム内に提供する。例えば、ペリクルフレームは、近距離通信(NFC)チップ(RFID「タグ」など)を含んでいてもよい。例えば、追跡デバイスは、製造時又はパターニングデバイスへの取り付け時にペリクルフレーム内に取り付けられてもよい。追跡デバイスは、ペリクル及び/又はペリクルアセンブリを一意に特定するシリアルナンバーを備えている。追跡デバイスは更に、ペリクルの動作履歴を追跡するために用いられ得る動作データを記憶してもよい。例えば、動作データは、ペリクルが露光された露光回数、製造の時刻、(例えば露光の回数及び各露光の既知のパワーに基づく)放射の総量、及び/又はペリクルがその使用寿命の終わりに達したかどうかを判定するために用いられ得る任意の他の情報を含み得る。追跡デバイスはまた、ペリクル固有の情報、例えばオフラインで測定されたパラメータ値(例えばEUV透過、反射など)のリストも記憶し得る。
【0144】
[000143] ペリクル/パターニングデバイスの組み合わせがリソグラフィ装置内に装着されると、リソグラフィ装置内に設けられたトランシーバ配置(例えば単一のトランシーバ又は別々のレシーバとトランスミッタとを備える)にペリクルのシリアルナンバー及び動作データを(すなわちコントローラによって)読み取らせてもよい。コントローラは、動作データ項目のうち1つ以上の特定の項目が閾値を超えるかどうかを判定し得る。例えば、コントローラは、ペリクルが露光された露光回数又は製造からの時間が閾値を超えるかどうかを判定し得る。コントローラが、動作データ項目のうち1つ以上が閾値を超えると判定する場合には、リソグラフィ装置はペリクル/パターニングデバイスの組み合わせをアンロードしてもよい。コントローラは更に、トランシーバにデータを追跡チップに書き込ませて、そのペリクルに使用不能なものとして印をつけるか、又は特定のリソグラフィ装置によって使用を拒絶されたことを表示してもよい。
【0145】
[000144] 特定の動作データ項目がその該当する閾値を超えないと判定される場合には、コントローラは、動作時のペリクルの使用を追跡する。例えば、コントローラは、ペリクルが露光された露光回数を記録してもよく、トランシーバにそのデータを追跡デバイスに書き込ませてもよい。追跡データは、使用時に、又はペリクル/パターニングデバイスがリソグラフィ装置から除去されるアンロード動作時に、追跡デバイスに書き込まれ得る。
【0146】
[000145] リソグラフィ装置から除去されると、ペリクル/パターニングデバイスの組み合わせ内の追跡デバイスは、ペリクルが使用不能なものとして印をつけられているかどうか、又は動作データ項目のうち1つ以上が閾値を超えているかどうかを判定するために、読み取られ得る。その後、パターニングデバイスのペリクルを交換するかどうかが判定され得る。
【0147】
[000146] 図27aから図27cは他の配置を概略的に示し、これらによってペリクルアセンブリは使用時又は製造時の破損を防止するように強化され得る。図27aを参照すると、ペリクルアセンブリ500は、ペリクル504を支持するペリクルフレーム502を備える。ペリクルフレーム502は、例えば上述のように製造され得る。張力層506が、ペリクル配置500の「前」又は「上」側に(すなわち、ペリクル504が張力層506とペリクルフレーム502との間に配設されるように)適用される。張力層506はペリクル504上に任意の適切な手法で(例えば任意の形態の堆積によって、又は張力層506をペリクル504上に成長させることによって)提供され得ることが理解されるであろう。
【0148】
[000147] 図27aに示されるように断面で見ると、張力層506は、横方向で内向きに、ペリクルフレーム502の内方縁508を越えて(例えば覆って又は跨って)延びている。ペリクルフレームの内方縁508の位置は、通常、ペリクルアセンブリの弱点であり、ペリクルアセンブリがしばしば機械的不良に曝される位置である。縁508の弱点を覆って延びる張力層506の存在は、ペリクル504の張力を維持するように及びペリクルアセンブリ500を強化するように作用する。このようにして、張力層506は、張力層506の存在なしに可能であろうよりも追加的な予張力にペリクル504が曝されることを可能にする。上記で詳述したように、適切かつ十分なレベルの予張力をペリクル504に印加することは、皺を防止することによってペリクルアセンブリの光学特性を向上させる。張力層508は、好適には、ペリクル504の非光学的能動部分のみを覆って内向きに延びる。つまり、張力層508は、放射ビームBのビーム経路と重なるであろう程度までは内向きに延びていないのが好適である。図27aに示される配置のように、張力層508は、より高い強度を提供するために、縁508から外向きの延びが縁508から内向きの延びよりも大きいのが好適である(が不可欠ではない)。こうして、図27aに示されるように、張力層506は、縁508から内向きに延びる第1の部分506aと、縁508から外向きに延びる、第2のより大きな部分506bとを備える。
【0149】
[000148] 図27bのペリクルアセンブリ510を参照して示されるように、代わりに張力層512がペリクル504の「底部」又は「下面」に適用されてもよい。ペリクルアセンブリ500の張力層506と同様、ペリクルアセンブリ510の張力層512は、ペリクルフレーム502とペリクル504との間の内部境界を横切って延び、それによってペリクルアセンブリ510を強化している。図27bの配置においては、張力層506の第1の部分512aが縁508から内向きに延び、第2のより大きな部分512bが縁508から外向きに延びている。また、配置510において、第2の部分512bはペリクルフレーム502の複数の面を覆って延びている。具体的には、図27aの例において、第2の部分512bはペリクルフレーム504のすべての露出された面(例えば、ペリクル504が適用される「上」面以外のすべての面)を覆って延びている。このようにすれば、張力層512は特に、ペリクルアセンブリ510を強化するとともにペリクル504のより高い予張力を可能にすることができる。
【0150】
[000149] 更に、図27cに示されるように、ペリクルアセンブリ514は、張力層506と張力層512との両方を備えていてもよい。張力層は任意の適当な材料を備えていてもよい。例えば、張力層は、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、例えばアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)等の接着性良好な金属層、例えばTiO2、Ta25等の酸化物、TiN,TaN,CrN,SiNなどの窒化物、又は例えばTiC,TaC,SiC等の炭化物を備え得る。一般に、十分に接着し、且つ(特定の用途の特定の要件によって決定される)十分な引張応力をもって堆積され得る任意の材料が用いられ得る。また、張力層は、各層が異なる材料を備える多層構造を備えていてもよい。例えば、張力層は、張力提供層の上にキャッピング・保護層(capping, protective layer)を備え得る。一例に過ぎないが、張力層は、張力を提供するためのモリブデンからなる第1の層と、保護層として作用するためのZrO2からなる第2の層とを備えていてもよい。更に、(張力層506のような)前に提供される張力層は、(張力層512のような)後ろに提供される張力層とは異なる構造及び組成を有し得る。これは、ペリクル504の「上方」と「下方」とで異なる動作条件に合致するように異なる材料が用いられることを有利に可能にする。また、張力層の厚さ及び張力層が縁508の両側に延びる距離は、用いられる特定の材料に応じて選択され得ることが理解されるであろう。
【0151】
[000150] 一般に、上述した配置は、非動作条件(例えば予応力)下の応力が適用要件に応じて選択され得るペリクルアセンブリを提供する。例えば、現在得られるよりも低い予張力を提供することが望まれる場合には、所望の熱化学的性質を可能にしつつ、ペリクルの寿命が向上され得る。つまり、上記の技術は、ペリクルの熱化学的性質とペリクルアセンブリの製造後にペリクルに存在する予応力とを分離することを可能にする。また、ペリクルが破滅的不良である場合、上記で開示された構成によって得られ得る張力の低減は、ペリクル内により少ない弾性エネルギが蓄積されているということである。よって、ペリクルの破損がリソグラフィ装置の他の領域へのペリクルの破片の放出をもたらすであろう尤度は低くなり、それによってリソグラフィ装置のダウンタイムが短縮される。更に、上述の配置はパターニングデバイスMAを保護するために用いられるペリクルに関して説明されているが、本明細書に記載された上記のペリクルアセンブリは、リソグラフィ及びより広範なものの両方に関して、他の用途に用いられてもよいことが理解されなければならない。例えば、上述の配置は、動的ガスロックにおいて用いられるペリクルアセンブリを提供するために用いられてもよい。
【0152】
[000151] 一実施形態においては、本発明はマスク検査装置の一部を形成し得る。マスク検査装置は、EUV放射を用いてマスクを照明し得るとともに、撮像センサを用いてマスクから反射された放射を監視し得る。撮像センサによって受信された画像は、マスクに欠陥が存在するか否かを判定するために用いられる。マスク検査装置は、EUV放射源からEUV放射を受けてそれをマスクに向けられる放射ビームにするように構成された光学部品(例えばミラー)を含んでいてもよい。マスク検査装置は更に、マスクから反射されたEUV放射を収集して撮像センサでマスクの画像を形成するように構成された光学部品(例えばミラー)を含んでいてもよい。マスク検査装置は、撮像センサのマスクの画像を分析するように、及びその分析からマスク上に何らかの欠陥が存在するかどうかを判定するように構成されたプロセッサを含んでいてもよい。プロセッサは更に、検出されたマスク欠陥が、そのマスクがリソグラフィ装置によって用いられるときに、基板上に投射される画像に許容できない欠陥を引き起こすかどうかを判定するように構成されていてもよい。
【0153】
[000152] 一実施形態においては、本発明はメトロロジ装置の一部を形成してもよい。メトロロジ装置は、基板上に既に存在するパターンに対する基板上のレジストに形成された投影パターンのアライメントを測定するために用いられ得る。この相対的アライメントの測定は、オーバーレイと称され得る。メトロロジ装置は、例えばリソグラフィ装置にすぐ隣接して位置していてもよく、基板(及びレジスト)が処理される前にオーバーレイを測定するために用いられてもよい。
【0154】
[000153] 本文中ではリソグラフィ装置の文脈における本発明の実施形態を特に参照しているかもしれないが、本発明の実施形態は他の装置において用いられてもよい。本発明の実施形態は、マスク検査装置、メトロロジ装置、あるいはウェーハ(若しくは他の基板)又はマスク(若しくは他のパターニングデバイス)などの物体を測定又は処理する任意の装置の一部を形成し得る。これらの装置は概してリソグラフィツールと称され得る。そのようなリソグラフィツールは、真空状態又は大気(非真空)状態を利用し得る。
【0155】
[000154] 「EUV放射」という用語は、4~20nmの範囲内、例えば13~14nmの範囲内の波長を有する電磁放射を包含するものと考えられてもよい。EUV放射は、10nm未満、例えば、6.7nm又は6.8nmなど、4~10nmの範囲内の波長を有していてもよい。
【0156】
[000155] 上記では放射源SOはレーザ生成プラズマLPP源であってもよいことが説明されているが、EUV放射を発生させるためには任意の適当な放射源が使用され得る。例えば、EUV放出プラズマは、放電を利用して燃料(例えばスズ)をプラズマ状態に変換することによって生成されてもよい。この種の放射源は、放電生成プラズマ(DPP)源と称され得る。放電は電源によって発生されてもよく、この電源は、放射源の一部を形成してもよいし、又は電気的接続を介して放射源SOに接続された別個のエンティティであってもよい。
【0157】
[000156] 本文中ではICの製造におけるリソグラフィ装置の使用を特に参照しているかもしれないが、本明細書に記載のリソグラフィ装置は他の用途も有し得ることが理解されるべきである。考えられる他の用途は、集積光学システム、磁気ドメインメモリ用のガイダンス及び検出パターン、フラットパネル表示器、液晶表示器(LCD)、薄膜磁気ヘッドなどの製造を含む。
【0158】
[000157] 上記では本発明の具体的な実施形態を記載したが、本発明は記載されたものとは異なって実施され得ることがわかるであろう。上記の説明は例示的なものであり、限定するものではない。したがって、以下に示す特許請求の範囲から逸脱することなく、記載された本発明に対して変更を加えることができることは、当業者には明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
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図19a
図19b
図19c
図20a
図20b
図20c
図21a
図21b
図22
図23a
図23b
図24
図25
図26
図27a
図27b
図27c
【手続補正書】
【提出日】2024-07-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクルが取り付けられる、又は取り付けられることになる、表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリであって、前記ペリクルフレームは、第1の熱膨張率を有する第1の材料と、第2の異なる熱膨張率を有する第2の材料とを備える、ペリクルアセンブリ。
【請求項2】
前記第1の材料はシリコンを備える、請求項1のペリクルアセンブリ。
【請求項3】
前記第1の材料は複数の孔を備え、前記第2の材料は前記複数の孔の中に位置している、請求項1のペリクルアセンブリ。
【請求項4】
前記第2の材料は少なくとも部分的に前記第1の材料を囲む、請求項1のペリクルアセンブリ。
【請求項5】
前記第2の材料は金属を備える、請求項1のペリクルアセンブリ。
【請求項6】
前記ペリクルフレームはシリコンの熱膨張率(CTE)よりも低いCTEを有する材料を備える、請求項1のペリクルアセンブリ。
【請求項7】
前記ペリクルフレームはガラスセラミック材料を備える、請求項1のペリクルアセンブリ。
【請求項8】
前記ペリクルフレームは単一片で形成される、請求項1のペリクルアセンブリ。
【請求項9】
前記ペリクルフレームはガス放出を低減するための不活性コーティングを備える、請求項1のペリクルアセンブリ。
【請求項10】
前記ペリクルフレームは、アルミニウム、チタン、ベリリウム、窒化アルミニウム、アルミノ珪酸リチウムガラスセラミック、酸化シリコン及び/又は炭化シリコンから選択される少なくとも1つを備える、請求項1のペリクルアセンブリ。
【請求項11】
前記ペリクルを備え、前記ペリクルは二珪化モリブデンを備えており、前記ペリクル内の平均応力は、室温で、100MPaから250MPaの範囲内である、請求項1のペリクルアセンブリ。
【請求項12】
前記ペリクルを備え、前記ペリクルは黒鉛系材料を備えており、前記ペリクル内の平均応力は、室温で、300MPaから450MPaの範囲内である、請求項1のペリクルアセンブリ。
【請求項13】
ペリクルが取り付けられる、又は取り付けられることになる、表面を定義するペリクルフレームを備えるペリクルアセンブリであって、前記ペリクルフレームの上又は中にコンピュータ読み取り可能且つ書き込み可能な追跡デバイスが提供される、ペリクルアセンブリ。
【請求項14】
前記コンピュータ読み取り可能且つ書き込み可能な追跡デバイスは、前記ペリクル及び/又は前記ペリクルアセンブリの識別子を記憶するように構成されている、請求項13のペリクルアセンブリ。
【請求項15】
前記コンピュータ読み取り可能且つ書き込み可能な追跡デバイスは、前記ペリクルの使用履歴を示す、及び/又はペリクル固有の特性を示す、動作データを記憶するように構成されている、請求項13のペリクルアセンブリ。
【請求項16】
ペリクルが取り付けられる表面を定義するペリクルフレームと、
前記ペリクルと機械的に連通し前記ペリクルフレームの内縁を越えて内向きに延びる1つ以上の張力層と
を備えるペリクルアセンブリ。
【請求項17】
前記1つ以上の張力層のうち少なくとも1つは、前記ペリクルが前記張力層と前記フレームとの間に配置されるように、前記ペリクルの上側に提供される、請求項16のペリクルアセンブリ。
【請求項18】
前記1つ以上の張力層のうち少なくとも1つは前記ペリクルの下側に提供される、請求項16のペリクルアセンブリ。
【請求項19】
前記1つ以上の張力層のうち少なくとも1つは、前記ペリクルフレームの前記内縁から内向きに延びる第1の部分と、前記ペリクルフレームの前記内縁から外向きに延びる第2の部分とを備えており、前記第2の部分は前記第1の部分よりも長い、請求項16のペリクルアセンブリ。
【請求項20】
前記1つ以上の張力層のうち少なくとも1つは多層構造を備える、請求項16のペリクルアセンブリ。
【外国語明細書】