(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150592
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】眼科光学装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
A61B3/10 100
A61B3/10 300
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024114838
(22)【出願日】2024-07-18
(62)【分割の表示】P 2022551969の分割
【原出願日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2020161427
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 泰史
(57)【要約】 (修正有)
【課題】従来の光干渉断層撮影装置では、レンズアタッチメントが被検眼と対物レンズとの間に配置されるため、被験者が眼前で行われるアタッチメントの交換作業のために被検者の移動が必要であり、被検者にとって負担になると共に、検査に時間を要していた。
【解決手段】眼科光学装置は、被検眼の後眼部を撮影する後眼部観察時では、垂直走査部と共役な位置が被検眼の前眼部に形成され、かつ垂直走査部からの走査光束が被検眼の後眼部に集光され、被検眼の前眼部を撮影する前眼部観察時では、被検眼と対物レンズとの距離である作動距離が後眼部観察時における作動距離より大きくなり、垂直走査部からの走査光束が被検眼の前眼部に集光され、垂直走査部による走査光束の走査方向が後眼部観察時と前眼部観察時とで同一である。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光束で被検眼を走査する走査部材と、
前記光源からの光束を前記走査部材に導く導光光学系と、
前記走査部材からの走査光束を前記被検眼に導く対物光学系と、
を備え、
前記被検眼の後眼部を撮影する後眼部撮影状態では、前記走査部材と共役な位置が前記被検眼の前眼部に形成され、かつ前記走査部材からの走査光束が前記被検眼の後眼部に集光され、前記被検眼の前眼部を撮影する前眼部撮影状態では、前記被検眼と前記対物光学系との距離である作動距離が前記後眼部撮影状態における作動距離より大きくなり、前記走査部材からの走査光束が前記被検眼の前眼部に集光され、
前記走査部材による前記走査光束の走査方向が前記後眼部撮影状態と前記前眼部撮影状態とで同一である眼科光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許7830525号明細書には、被検眼の眼底等の後眼部の断層画像を取得する光干渉断層撮影装置において、対物レンズと、被検眼との間にレンズアタッチメントを配置して、角膜等の前眼部の断層画像を取得することが開示されている。この光干渉断層撮影装置によれば、レンズアタッチメントを用いることで、1つの装置で被検眼の後眼部及び前眼部の各々の断層画像を取得することができる。
【0003】
上記従来の光干渉断層撮影装置では、レンズアタッチメントが被検眼と対物レンズとの間に配置されるため、被験者が眼前で行われるアタッチメントの交換作業のために被検者の移動が必要であり、被検者にとって負担になると共に、検査に時間を要していた。
【発明の概要】
【0004】
本開示の技術の第1態様の眼科光学装置は、光源からの光束で被検眼を走査する走査部材と、前記光源からの光束を前記走査部材に導く導光光学系と、前記走査部材からの走査光束を前記被検眼に導く対物光学系と、を備え、前記被検眼の後眼部を撮影する後眼部撮影状態では、前記走査部材と共役な位置が前記被検眼の前眼部に形成され、かつ前記走査部材からの走査光束が前記被検眼の後眼部に集光され、前記被検眼の前眼部を撮影する前眼部撮影状態では、前記被検眼と前記対物光学系との距離である作動距離が前記後眼部撮影状態における作動距離より大きくなり、前記走査部材からの走査光束が前記被検眼の前眼部に集光され、前記走査部材による前記走査光束の走査方向が前記後眼部撮影状態と前記前眼部撮影状態とで同一である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】本実施形態の眼科光学装置の概略構成図である。
【
図2A】本実施形態の後眼部観察時の撮影光学系の概略構成を示す光路図である。
【
図2B】本実施形態の前眼部観察時の撮影光学系の概略構成を示す光路図である。
【
図3A】後眼部観察時における対物レンズを中心とした光学系の状態を示す概略光路図である。
【
図3B】前眼部観察時における対物レンズを中心とした光学系の状態を示す概略光路図である。
【
図3C】眼球内部観察時における対物レンズを中心とした光学系の状態を示す概略光路図である。
【
図4A】前眼部観察時における瞳共役位置に存在するスキャナ位置での光線角度算出の説明図である。
【
図4B】眼球内部観察時における瞳共役位置に存在するスキャナ位置での光線角度算出の説明図である。
【
図5A】後眼部観察時における固視標投影系及び対物レンズを中心とした光学系の状態を示した概略光路図である。
【
図5B】前眼部観察時における固視標投影系及び対物レンズを中心とした光学系の状態を示した概略光路図である。
【
図6】本実施形態に係る眼科光学装置における処理例を示したフローチャートである。
【
図7A】後眼部観察時において眼科光学装置のアライメントに係る光学系の構成を側方から見た光路図である。
【
図7B】後眼部観察時において眼科光学装置のアライメントに係る光学系の構成を上方から見た光路図である。
【
図8A】前眼部観察時において眼科光学装置のアライメントに係る光学系の構成を側方から見た光路図である。
【
図8B】前眼部観察時において眼科光学装置のアライメントに係る光学系の構成を上方から見た光路図である。
【
図9】後眼部観察時において眼科光学装置のアライメントに係る光学系の他の構成を側方から見た光路図である。
【
図10】前眼部観察時において眼科光学装置のアライメントに係る光学系の構成を側方から見た光路図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本開示の実施形態に係る眼科光学装置110について図面を参照して説明する。
図1には、眼科光学装置110の概略構成が示されている。
【0007】
説明の便宜上、走査型レーザ検眼鏡(Scanning Laser Ophthalmoscope)を「SLO」と称する。また、光干渉断層計(Optical Coherence Tomography)を「OCT」と称する。
【0008】
なお、眼科光学装置110が水平面に設置された場合の水平方向を「X方向」、水平面に対する垂直方向を「Y方向」、撮影光学系116Aの光軸方向を「Z方向」とする。このZ方向の光軸上に被検眼の瞳孔中心が位置するように装置が被検眼に対して配置される。そして、X方向、Y方向、およびZ方向は互いに垂直である。
【0009】
眼科光学装置110は、撮影装置14および制御装置16を含む。撮影装置14は、被検眼12の眼底12Aの画像を取得するSLOユニット18と、被検眼12の断層画像を取得するOCTユニット20とを備えている。以下、SLOユニット18により取得されたSLOデータに基づいて生成された眼底画像をSLO画像と称する。また、OCTユニット20により取得されたOCTデータに基づいて生成された断層画像をOCT画像と称する。なお、SLO画像は、2次元眼底画像と言及されることもある。また、OCT画像は、被検眼12の撮影部位に応じて、眼底断層画像、前眼部断層画像と言及されることもある。
【0010】
制御装置16は、CPU(Central Processing Unit(中央処理装置))16A、RAM(Random Access Memory)16B、ROM(Read-Only memory)16C、および入出力(I/O)ポート16Dを有するコンピュータを備えている。
【0011】
制御装置16は、I/Oポート16Dを介してCPU16Aに接続された入力/表示装置16Eを備えている。入力/表示装置16Eは、被検眼12の画像を表示したり、ユーザから各種指示を受け付けたりするグラフィックユーザインターフェースを有する。入力/表示装置16Eは、タッチパネル・ディスプレイを用いることができる。
【0012】
また、制御装置16は、I/Oポート16Dに接続された画像処理装置17を備えている。画像処理装置17は、撮影装置14によって得られたデータに基づき被検眼12の画像を生成する。
【0013】
上記のように、
図1では、眼科光学装置110の制御装置16が入力/表示装置16Eを備えているが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、眼科光学装置110の制御装置16は入力/表示装置16Eを備えず、眼科光学装置110とは物理的に独立した別個の入力/表示装置を備えるようにしてもよい。この場合、当該表示装置は、制御装置16のCPU16Aの制御下で動作する画像処理プロセッサユニットを備える。画像処理プロセッサユニットが、CPU16Aが出力指示した画像信号に基づいて、SLO画像等を表示するようにしてもよい。
【0014】
撮影装置14は、制御装置16の制御下で作動する。撮影装置14は、SLOユニット18、撮影光学系116A、およびOCTユニット20を含む。撮影光学系116Aは、CPU16Aの制御下で、撮影光学系駆動部116MによりX、Y、Z方向に移動される。撮影装置14と被検眼12とのアライメント(位置合わせ)は、例えば、撮影装置14のみばかりではなく、眼科光学装置110全体を、或いは撮影光学系116A内の一部の光学素子を、X、Y、Z方向に移動させることにより、行われてもよい。
【0015】
SLOシステムは、
図1に示す制御装置16、SLOユニット18、および撮影光学系116Aによって実現される。
【0016】
SLOユニット18は、複数の光源を備えている。例えば、
図1に示されるように、SLOユニット18は、B光(青色光)の光源40、G光(緑色光)の光源42、R光(赤色光)の光源44、およびIR光(赤外線(例えば、近赤外光))の光源46を備える。各光源40、42、44、46から出射された光は、各光学部材48、50、52、54、56を介して同一光路に指向される。光学部材48、56は、ミラーであり、光学部材50、52、54は、ビームスプリッタ―である。B光は、光学部材48、50、54を経由して、撮影光学系116Aの光路に導かれる。G光は、光学部材50、54を経由して、撮影光学系116Aの光路に導かれる。R光は、光学部材52、54を経由して、撮影光学系116Aの光路に導かれる。IR光は、光学部材56、52を経由して、撮影光学系116Aの光路に導かれる。なお、光源40、42、44、46としては、LED光源や、レーザ光源を用いることができる。なお、以下には、レーザ光源を用いた例を説明する。光学部材48、56として、全反射ミラーを用いることができる。また、光学部材50、52、54として、ダイクロイックミラー、ハーフミラー等を用いることができる。
【0017】
SLOユニット18は、G光、R光、B光およびIR光をそれぞれ個別に発する発光モードや、それらすべてを同時にもしくは幾つかを同時に発する発光モードなど、各種発光モードを切り替え可能に構成されている。
図1に示す例では、B光(青色光)の光源40、G光の光源42、R光の光源44、およびIR光の光源46の4つの光源を備えるが、本開示の技術は、これに限定されない。例えば、SLOユニット18は、更に、白色光の光源を更に備えていてもよい。この場合、上記各種発光モードに加えて、白色光のみを発する発光モード等を設定してもよい。
【0018】
SLOユニット18から撮影光学系116Aに入射されたレーザ光は、後述する走査部(120、142)によってX方向およびY方向に走査される。走査光は瞳孔27を経由して、被検眼12の後眼部(例えば、眼底12A)に照射される。眼底12Aにより反射された反射光は、撮影光学系116Aを経由してSLOユニット18へ入射される。走査部(120、142、168)は、後述するリレーレンズ装置140と共に、本開示の技術の「走査部材」の一例である。
【0019】
眼底12Aで反射された反射光は、SLOユニット18に設けられた光検出素子70、72、74、76で検出される。本実施形態では、複数の光源、すなわち、B光源40、G光源42、R光源44およびIR光源46に対応させて、SLOユニット18は、B光検出素子70、G光検出素子72、R光検出素子74およびIR光検出素子76を備える。B光検出素子70は、ビームスプリッタ64で反射されたB光を検出する。G光検出素子72は、ビームスプリッタ64を透過し、ビームスプリッタ58で反射されたG光を検出する。R光検出素子74は、ビームスプリッタ64、58を透過し、ビームスプリッタ60で反射されたR光を検出する。IR光検出素子76は、ビームスプリッタ64、58、60を透過し、ビームスプリッタ62で反射されたIR光を検出する。光検出素子70、72、74、76として、例えば、APD(avalanche photodiode:アバランシェ・フォトダイオード)が挙げられる。
【0020】
画像処理装置17は、CPU16Aの制御のもと、B光検出素子70、G光検出素子72、R光検出素子74、およびIR光検出素子76のそれぞれで検出された信号を用いて、各色に対応するSLO画像を生成する。各色に対応するSLO画像には、B光検出素子70で検出された信号を用いて生成されたB-SLO画像、G光検出素子72で検出された信号を用いて生成されたG-SLO画像、R光検出素子74で検出された信号を用いて生成されたR-SLO画像、及びIR光検出素子76で検出された信号を用いて生成されたIR-SLO画像である。また、B光源40、G光源42、R光源44が同時に発光する発光モードの場合、R光検出素子74、G光検出素子72、及びB光検出素子70で検出されたそれぞれの信号を用いて生成されたB-SLO画像、G-SLO画像およびR-SLO画像から、RGB-SLO画像を合成してもよい。また、G光源42、R光源44が同時に発光する発光モードの場合、R光検出素子74及びG光検出素子72で検出されたそれぞれの信号を用いて生成されたG-SLO画像およびR-SLO画像から、RG-SLO画像を合成してもよい。本実施形態では、SLO画像としてRG-SLO画像が用いられるが、これに限定されず、他のSLO画像を用いることができる。
【0021】
ビームスプリッタ58、60、62、64として、ダイクロイックミラー、ハーフミラー等を用いることができる。
【0022】
OCTシステムは、
図1に示す制御装置16、OCTユニット20、および撮影光学系116Aによって実現される三次元画像取得装置である。OCTユニット20は、光源20A、センサ(検出素子)20B、第1の光カプラ20C、参照光学系20D、コリメータレンズ20E、および第2の光カプラ20Fを含む。
【0023】
光源20Aは、光干渉断層撮影のための光を発生する。光源20Aとしては、例えば、スーパールミネセントダイオード(Super Luminescent Diode;SLD)を用いることができる。光源20Aは、広いスペクトル幅をもつ広帯域光源の低干渉性の光を発生する。光源20Aから射出された光は、第1の光カプラ20Cで分割される。分割された一方の光は、測定光として、コリメータレンズ20Eで平行光にされた後、撮影光学系116Aに入射される。測定光は、後述する走査部(148、168)によってX方向およびY方向に走査される。走査光は、被検眼の前眼部や、瞳孔27を経由して後眼部に照射される。前眼部又は後眼部で反射された測定光は、撮影光学系116Aを経由してOCTユニット20へ入射され、コリメータレンズ20Eおよび第1の光カプラ20Cを介して、第2の光カプラ20Fに入射する。なお、本実施形態では、光源20AとしてSLDを用いるSD-OCTが例示されているが、これに限定されず、SLDに替えて波長掃引光源を用いるSS-OCTが採用されてもよい。
【0024】
光源20Aから射出され、第1の光カプラ20Cで分岐された他方の光は、参照光として、参照光学系20Dへ入射され、参照光学系20Dを経由して、第2の光カプラ20Fに入射する。
【0025】
被検眼12で反射および散乱された測定光(戻り光)と、参照光とは、第2の光カプラ20Fで合成されて干渉光が生成される。干渉光はセンサ20Bで検出される。画像処理装置17は、センサ20Bからの検出信号(OCTデータ)に基づいて、被検眼12の断層画像を生成する。
【0026】
本実施形態では、OCTシステムは、被検眼12の前眼部又は後眼部の断層画像を生成する。
【0027】
被検眼12の前眼部は、前眼セグメントとして、例えば、角膜、虹彩、隅角、水晶体、毛様体、および硝子体の一部を含む部分である。被検眼12の後眼部は、後眼セグメントとして、例えば、硝子体の残りの一部、網膜、脈絡膜、及び強膜を含む部分である。なお、前眼部に属する硝子体は、硝子体の内、水晶体の最も眼球中心Oに近い点を通るX-Y平面を境界として、角膜側の部分であり、後眼部に属する硝子体は、硝子体の内、前眼部に属する硝子体以外の部分である。
【0028】
OCTシステムは、被検眼12の前眼部が撮影対象部位である場合、例えば、角膜の断層画像を生成する。また、被検眼12の後眼部が撮影対象部位である場合、OCTシステムは、例えば、網膜の断層画像を生成する。
【0029】
眼科光学装置110は、被検眼12の視線を所定方向に向かせるように点灯される発光装置(例えば、LED)により構成される固視標を点灯させる固視標制御装置90を備えている。
【0030】
図2Aは後眼部観察時の、
図2Bは前眼部観察時の各々の撮影光学系116Aの概略構成を示している。撮影光学系116Aは、被検眼12側から順に配置された対物レンズ130、光路合成部材であるダイクロイックミラー178、水平走査部142、リレーレンズ装置140、ダイクロイックミラー147、垂直走査部120、168、及びフォーカス調整装置150を備えている。対物レンズ130は、本開示の技術の「対物光学系」の一例であり、フォーカス調整装置150は、本開示の技術の「導光光学系」の一部である。
【0031】
ダイクロイックミラー178は、SLO光学系から出射された光とOCT光学系から出射された光と固視標投影系138から出射された固視標の光とを合成する光学部材である。ダイクロイックミラー178は、
図2A及び
図2Bに示したように、SLO光学系から出射された光、及びOCT光学系から出射された光の各々を透過すると共に、固視標投影系138から出射された固視標の光を反射して、SLO光学系から出射された光、OCT光学系から出射された光、及び固視標投影系138から出射された固視標の光の各々を対物レンズ130に導く。
【0032】
固視標投影系138は、固視標138Aと固視標138Aからの光を被検眼12の眼底に向けて供給する集光レンズ138Bとを有し、固視標138Aと集光レンズ138Bとを一体的に固視標投影系138の光軸138Cに沿って移動することにより、後眼部観察時と前眼部観察時とに対応する。固視標投影系138は、本開示の技術の「固視票光学系」の一例である。
【0033】
水平走査部142は、リレーレンズ装置140を介して入射したSLOのレーザ光、及びOCTの測定光の各々を水平方向に走査する光学スキャナである。
【0034】
OCTユニット20から出射した光が進むファイバの端部158から出射される測定光が入射されるフォーカス調整装置150は、複数のレンズ152、154を備える。被検眼12における撮影部位に応じて、複数のレンズ152、154それぞれを、適宜光軸方向に移動させることにより、被検眼12における測定光のフォーカス位置を調整する。例えば、
図2Aでは被検眼12の後眼部である眼底が、
図2Bでは被検眼12の前眼部である角膜が、各々OCTの測定光のフォーカス位置になるように、レンズ152、154を、適宜光軸方向に移動させる。なお、図示しないが、フォーカス検出装置を備える場合には、焦点検出の状態に応じてフォーカス調整装置にてレンズ152、154を駆動して、自動的に焦点合わせをおこなうようにして、オートフォーカス装置を実現することが可能である。
【0035】
垂直走査部168は、フォーカス調整装置150を介して入射したOCTの測定光を垂直方向に走査する光学スキャナである。
【0036】
垂直走査部120は、SLOユニット18から入射したレーザ光を垂直方向に走査する光学スキャナである。
【0037】
リレーレンズ装置140は、複数の正のパワーを有するレンズ144、146を備える。複数のレンズ144、146により、垂直走査部168の位置と水平走査部142の位置とが共役になるように、また、垂直走査部120の位置と水平走査部142の位置とが共役になるように、リレーレンズ装置140が構成されている。より具体的には、両走査部の角度走査の中心位置が共役になるように、リレーレンズ装置140が構成されている。
図2Aに示したように、後眼部観察状態では、フォーカス調整装置150により、ファイバの端部158から出射される測定光の集光位置が、リレーレンズ装置140内の2つの正レンズ群であるレンズ146とレンズ144との間に形成される。また、
図2Bに示したように、前眼部観察状態では、フォーカス調整装置150により、ファイバの端部158から出射される測定光の光束が、リレーレンズ装置140内の2つの正レンズ群であるレンズ146とレンズ144との間で略平行光束となる。
【0038】
ダイクロイックミラー147は、リレーレンズ装置140のレンズ144とレンズ146との間に配置されている。ダイクロイックミラー147は、SLOユニット18から出射されたSLO光をレンズ144を介して水平走査部142に向けて反射する。SLOユニット18から出射された光は、SLO光学系を構成する垂直走査部120および水平走査部142により2次元走査される。2次元走査されたSLOレーザ光は対物レンズ130を介して被検眼12へ入射される。被検眼12で反射されたSLOレーザ光は、対物レンズ130、ダイクロイックミラー178、水平走査部142、リレーレンズ装置140内の正レンズ群であるレンズ144、ダイクロイックミラー147および垂直走査部120を経由して、SLOユニット18に入射される。
【0039】
OCTユニット20から出射された測定光は、フォーカス調整装置150、垂直走査部168で2次元走査されて、ダイクロイックミラー147を透過し、水平走査部142によって垂直走査部168の走査方向とは直交する方向に2次元走査され、結果として2次元走査される。また、被検眼12で反射されたOCT測定光は、対物レンズ130、ダイクロイックミラー178、水平走査部142、リレーレンズ装置140、ダイクロイックミラー147、垂直走査部168、及びフォーカス調整装置150を経由して、OCTユニット20へ入射される。
【0040】
水平走査部142及び垂直走査部120、168としては、例えば、レゾナントスキャナ、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、回転ミラー、ダボプリズム、ダブルダボプリズム、ローテーションプリズム、MEMSミラースキャナー、音響光学素子(AOM)等が好適に用いられる。本実施形態では、垂直走査部168としてガルバノミラーが用いられ、また、垂直走査部120としてポリゴンミラーが用いられている。なお、ポリゴンミラーや、ガルバノミラーなどの光学スキャナに替えて、MEMSミラースキャナーなどの2次元光学スキャナを用いる場合には、入射光をその反射素子で2次元的に角度走査することが可能であるため、リレーレンズ装置140を無くしてもよい。また、垂直走査部120、168が水平方向にも走査可能に構成されているのであれば、水平走査部142を省略してもよい。
【0041】
垂直走査部120、168及び水平走査部142は、CPU16Aの制御のもと、被検眼12における走査範囲に応じて設定された垂直走査部120、168及び水平走査部142による走査光束の走査角度の範囲で、走査光束によって被検眼12を走査する。CPU16Aは、本開示の技術の「走査部材制御部」の一例である。
【0042】
対物レンズ130は、水平走査部142側から順に、第1レンズ群132と第2レンズ群134とを備える。第2レンズ群134は超広角による走査光を被検眼12の瞳孔に向けて出力するための機能を有する。そして、第1レンズ群132及び第2レンズ群134は全体として正のパワーを有する正レンズ群である。第1レンズ群132は、本開示の技術の「第1正レンズ群」の一例であり、第2レンズ群134は、本開示の技術の「第2正レンズ群」の一例である。
【0043】
固視標投影系138からの光束はダイクロイックミラー178での反射を介して対物レンズ130を通過し、被検眼12に向けて平行光束となる。これによって、被検眼12は固視標の像を凝視することができ、固視標の位置を変えることによって、被検眼12の向き変えることができ、被検眼12の後眼部、及び前眼部の必要な領域の撮影が可能となる。本実施形態では、後述するように、後眼部観察時と前眼部観察時とで、対物レンズ130と被検眼12との距離である作動距離WDが変化する。本実施形態では、
図2A及び
図2Bに示したように、固視標投影系138とダイクロイックミラー178との距離を変化させることにより、作動距離WDの変化に対応している。
【0044】
なお、対物光学系としては、
図2A及び
図2Bに示したような対物レンズ130のみならず、凹面楕円鏡などの反射鏡を含む光学系で構成してもよい。
【0045】
次に、
図3A、
図3B及び
図3Cを参照して、後眼部観察時、前眼部観察時、及び眼球内部観察時における各々の対物レンズ130を中心とした撮影光学系116Aの状態を説明する。
図3Aは後眼部観察時、
図3Bは前眼部観察時、
図3Cは眼球内部観察時の各々における対物レンズ130を中心とした光学系の状態を示す概略光路図である。本実施形態では、フォーカス調整装置150を備える上流光学系によって変化させる像共役位置に応じて対物レンズ130と被検眼12の距離を調整する。この上流光学系は、光源からの光束を走査部に導く導光光学系に対応する。
【0046】
図3Aに示した後眼部観察時では、水平走査部142に代表される走査面から供給される平行光束の3つの角度の平行光束が、2つの正レンズ群(第1レンズ群132及び第2レンズ群134)を通して被検眼12の眼底12Aで集光される光線の様子が示されている。これら3つの角度の光束は、垂直走査部120及び168による垂直走査と、水平走査部142とによる2次元走査の一方のみの走査光束の例示として示されている。そして図中の円形矢印は、走査部による走査光の角度走査の方向と、被検眼側での角度走査の方向をそれぞれ示している。以下の
図3B及び
図3Cでも同様。
【0047】
後眼部観察時では、垂直走査部120、168及び水平走査部142は、被検眼12の瞳孔位置Ppに共役となるように、
図3Aに示した瞳共役位置180に配置され、垂直走査部120、168及び水平走査部142の共役像が形成される瞳共役位置200は被検眼の瞳孔位置Ppと一致している。また、第1レンズ群132と第2レンズ群134との間の位置210に被検眼12の眼底像が形成され。即ち、被検眼12の眼底と接する面182と位置210の面が幾何光学的に共役になる。
図3Aに示した状態では、作動距離WDは、対物レンズ130の第2レンズ群134と瞳共役位置200との距離に略等しい。
【0048】
後眼部観察時は、被検眼のSLO光学系において、垂直走査部120および水平走査部142により走査されるSLOレーザ光は、対物レンズ130を経由して、被検眼12の瞳孔位置Ppを中心として2次元的に角度走査される。その結果、SLOレーザ光の集光点が、眼底12Aにおいて2次元走査される。後眼部観察時は、OCT光学系においても同様に、垂直走査部168および水平走査部142により走査される測定光は、対物レンズ130を経由して、被検眼12の瞳孔位置Ppを中心として2次元的に角度走査される。その結果、測定光の集光点が、眼底12Aにおいて2次元走査される。後眼部観察時では、SLOユニット18により眼底2次元画像が、OCTユニット20により眼底断層画像がそれぞれ取得される。
【0049】
図3Bに示した前眼部観察時では、水平走査部142から供給される同じく3つの角度の光束が2つの正レンズ群(第1レンズ群132及び第2レンズ群134)により、被検眼12の角膜に集光される光線が示されている。
【0050】
前眼部観察時では、後眼部観察時と同様に、垂直走査部120、168及び水平走査部142は、被検眼12の瞳孔位置Ppに共役となるように、
図3Bに示した瞳共役位置180に配置される。しかしながら、垂直走査部120、168及び水平走査部142の共役像が形成される瞳共役位置202は被検眼の瞳孔位置Ppと一致せず、被検眼と第2レンズ群134との間に形成される。また、第1レンズ群132と瞳共役位置180との間に被検眼12の前眼部像が形成される像共役位置212が形成され、被検眼12の前端部と接する面に像共役位置184が、形成される。
図3Bに示した状態では、作動距離WDは、対物レンズ130の第2レンズ群134と瞳共役位置202との距離よりも拡大している。なお、瞳共役位置180は前述のとおり、走査部120、142及び168との共役位置であり、後眼部観察時に被検眼12の瞳Ppと一致するが、前眼部観察時には
図3Bに示す通り、被検眼12の瞳Ppとは一致しない。眼底観察時の光学構成との比較を分かり易くするために、走査部との共役位置を以後も瞳共役位置と説明することがある。
【0051】
前眼部観察時は、被検眼のSLO光学系において、垂直走査部120および水平走査部142により走査されるSLOレーザ光は、対物レンズ130を経由して、瞳共役位置202を中心として2次元的に角度走査される。その結果、SLOレーザ光の集光点が、前眼部において2次元走査される。前眼部観察時は、OCT光学系においても同様に、垂直走査部168および水平走査部142により走査される測定光は、対物レンズ130を経由して、瞳共役位置202を中心として2次元的に角度走査され、OCT測定光の集光点が被検眼12の前眼部において2次元的に走査される。
【0052】
図3Cに示した眼球内部観察時では、水平走査部142から供給される同じく3つの角度の光束が2つの正レンズ群(第1レンズ群132及び第2レンズ群134)を有する対物レンズ130により、例として、被検眼12の水晶体12Lに集光される光線が示されている。
【0053】
眼球内部観察時では、後眼部観察時と同様に、垂直走査部120、168及び水平走査部142は、被検眼12の瞳孔位置Ppに共役となるように、
図3Cに示した瞳共役位置180に配置される。しかしながら、垂直走査部120、168及び水平走査部142の共役像が形成される瞳共役位置204は被検眼の瞳孔位置Ppと一致せず、被検眼と第2レンズ群134との間に形成される。また、第1レンズ群132と第2レンズ群134との間に像共役位置214が形成され、被検眼12の水晶体12Lの後端部と接する面に像共役位置186が形成される。
図3Cに示した状態では、作動距離WDは、対物レンズ130の第2レンズ群134と瞳共役位置204との距離よりも拡大しているが、
図3Bの場合ほどではない。即ち、
図3Aに示した後眼部観察状態の作動距離WDと、
図3Bの前眼部観察状態の作動距離WDとの間の値である。本実施形態では、
図3Aに示した状態から、
図3Cに示した状態を経て、
図3Bに示した状態に至るまで、作動距離WDを連続的に変化させることが可能である。
【0054】
眼球内部観察時は、被検眼のSLO光学系において、垂直走査部120および水平走査部142により走査されるSLOレーザ光は、対物レンズ130を経由して、瞳共役位置204を中心として2次元的に角度走査される。その結果、SLOレーザ光の集光点が、被検眼の眼球内部において2次元走査される。そして、眼球内部観察時は、OCT光学系においても同様に、垂直走査部168および水平走査部142により走査される測定光は、対物レンズ130を経由して、瞳共役位置204を中心として2次元的に角度走査され、測定光の集光点が被検眼の眼球内部を走査する。これにより、被検眼の眼底と角膜との間の眼球内部の任意の位置での観察が可能となる。
【0055】
図3A、
図3B及び
図3Cに各々示したように、垂直走査部120、168及び水平走査部142は矢印190の方向に角度走査される。かかる角度走査により、対物レンズ130を通過した光束は矢印192の方向に光路が変化し、瞳共役位置200、202、204を通過して被検眼12の後眼部を矢印194の方向に走査する。本実施形態では、後眼部観察時、前眼部観察時、及び眼球内部観察時のいずれにおいても、垂直走査部120、168及び水平走査部142の走査方向は同じであり、かつ被検眼12をSLOレーザ光、及びOCTの測定光が走査する方向は同じである。その結果、画像処理において、後眼部観察時、前眼部観察時、又は眼球内部観察時の別で、画像反転処理を要しない。このため、被検眼の前眼部、中間部、後願部の全ての観察において、走査方向が不変であり、観察者と走査の結果得られる画像との位置関係は変わることがなく、実用上の混乱がなく操作性が向上する。
【0056】
フォーカス調整装置150の、後眼部観察時から前眼部観察時に至るまでのフォーカス切り替え方法は、以下のとおりである。
【0057】
(1)フォーカス調整装置150の光学系を、後眼部観察時に対応した光学系と、前眼部観察時に対応した光学系とに交換可能に構成する。
(2)フォーカス調整装置150は、通常時は、後眼部観察時に対応した光学系を有し、前眼部観察時に挿抜可能な光学系を追加することにより前眼部観察時に対応する。又はフォーカス調整装置150は、通常時は、前眼部観察時に対応した光学系を有し、後眼部観察時に挿抜可能な光学系を追加することにより後眼部観察時に対応する。
(3)フォーカス調整装置150の光学系と、垂直走査部168との距離が変更可能なようにフォーカス調整装置150を構成する。
(4)フォーカス調整装置150の光学系の焦点距離が変更可能なようにフォーカス調整装置150の光学系を構成する。例えば、フォーカス調整装置150の光学系をズームレンズ又は液体レンズ等で構成する。
【0058】
図4Aは、前眼部観察時における瞳共役位置180に存在する垂直走査部120、168及び水平走査部142の位置(スキャナ位置)での光線角度算出の説明図である。
図4Aにおいて、θ
Aはスキャナ位置での光線角度であり、θ
A’は対物レンズ130から射出後の光線角度であり、WD
Pは後眼部スキャン時の作動距離であり、WD
Aは前眼部スキャン時の作動距離である。
【0059】
また、対物レンズ130の前眼部スキャン時の角度倍率をMAとすると、下記の式(1)の関係が成り立つ。作動距離WDA、WDP、及びMAの各々は、撮影光学系116Aに固有の数値である。
MA =θA’/θA …(1)
【0060】
前眼部上でスキャンしたい長さをLAとすると、下記の式(2)が成り立つ。LAは、後述するように、事前に取得していた前眼部の画像を被験者に提示し、当該画面において被検者が指示した走査範囲に基づいて決定する。
LA/2=(WDA-WDP) tanθA’ …(2)
【0061】
式(1)と式(2)とにより、スキャナ位置での光線角度θAは、下記の式(3)で算出される。本実施形態では、算出した光線角度θAに基づいてOCTでの角度走査が行われる。
θA=arctan {LA /2* (WDA-WDP)} / MA …(3)
【0062】
図4Bは、眼球内部観察時における瞳共役位置180に存在するスキャナ位置での光線角度算出の説明図である。
図4Bにおいて、θ
Mはスキャナ位置での光線角度であり、θ
M‘は対物レンズ130から射出後の光線角度であり、WD
Pは後眼部スキャン時の作動距離であり、G
Aは被検眼12の前眼部を単一の薄肉レンズとみなした屈折系であり、WD
Mは眼球内部スキャン時の作動距離で具体的には対物レンズ130から屈折系G
Aまでの距離である。そして、屈折系G
Aの焦点距離をf
A、屈折系G
Aから後眼部側の屈折率をn
A’とする。
【0063】
図4Bは、眼球内部をスキャンするのであるから、実際にスキャンする部分は対物レンズ130からWD
M+sの位置となる。
【0064】
また、対物レンズ130の眼球内部スキャン時の角度倍率をMMとすると、下記の式(4)が成り立つ。
MM =θM’/θM …(4)
【0065】
眼球内部でスキャンしたい長さをLMとすると、下記の式(5)が成り立つ。
LM/2=s * tanθM’×(1-s/S’) …(5)
ただし、S’= nA’/{1/(WDM-WDP)+1/fA} である。
【0066】
式(4)と式(5)とにより、スキャナ位置での光線角度θMは、下記の式(6)で算出される。
θM=arctan [LM /{2*s*(1-s/S’)}] / MM …(6)
(S’= nA’/{1/(WDM-WDP)+1/fA} )
【0067】
次に、
図5A及び
図5Bを参照して、後眼部観察時、及び前眼部観察時における各々の固視標投影系138及び対物レンズ130を中心とした撮影光学系116Aの状態を説明する。
図5Aは後眼部観察時、
図5Bは前眼部観察時の各状態における固視標投影系138及び対物レンズ130を中心とした光学系の状態を示している。なお、
図5A及び
図5Bにおいては、説明のために対物レンズ130を中心とした展開光路図としている。
図2A及び
図2Bに示した固視標投影系138の固視標138Aが図の左端面220に配置され、固視標投影系138の集光レンズ138Bも正レンズ224、226として示されている。固視標が配置される面220は、正レンズ224の焦点位置に対応し、固視標からの光線はほぼ平行光束となり、対物レンズ130により被検眼側へ平行光束として供給される。そして被検眼に入射して被検眼の眼底に集光される。なお、図中の縦の破線は、前述した瞳共役位置を参考として示している。
【0068】
図5Aに示した後眼部観察時では、固視標投影系138は眼底との共役位置に相当する面220に配置される。そして、第1レンズ群132と第2レンズ群134との間の眼底共役位置228に固視標138Aの像が形成され、さらに被検眼12の眼底と接する面が共役位置236として形成され、被検眼12により固視標が認識される。
【0069】
固視標投影系では面220として示した位置に固視標が配置され、この固視標からの光が、
図5Aに示した光路に沿って被検12に供給されるが、格別の走査部は必要としない。但し、図示したのは、固視標上の軸上の点と軸外の2点との3つの点からの光束を示しており、これら3点にLEDなどの点光源を置いて、独立に切換えて点灯させることによって、被検眼12の向きを変えることが可能となる。この構成によって、被検眼12の周辺部の観察が可能となり、結果として被検眼のより広い範囲の観察が可能となる。
【0070】
図5Bに示した前眼部観察時でも、固視標投影系138の固視標138Aは図示した像共役位置222に配置され、正レンズ226からの光束は後眼部観察時と同様にほぼ平行光束になっている。
図5Aに示した構成との比較から分かるとおり、固視標の配置される面220と正レンズ224が、一体的に対物レンズ130側に移動した状態となっている。このため、対物レンズ130に対して、縦の破線で示した正レンズ226近傍の共役位置は、被検眼12側では
図5Aの位置232より遠い位置234において共役となり、前眼部観察状態(
図5B)では、後眼部観察状態(
図5A)より大きな作動距離となることに対応している。
【0071】
前眼部観察時に、固視標投影系138から出射された光束は、瞳共役位置にある正レンズ226を経て、第1レンズ群132に入射し、像共役位置230を経て第2レンズ群134から出射する。そして、第2レンズ群134と被検眼12との間に形成される共役位置である位置234を経て、被検眼12に入射する。さらに被検眼12の眼底と接する面が共役位置238として形成され、被検眼12により固視標が認識される。
【0072】
前述のように、前眼部観察時は、後眼部観察時に比して、対物レンズ130の第2レンズ群134と被検眼12との距離が拡大するので、かかる距離の拡大に対応して固視標投影系138と対物レンズ130との距離を変更する。本実施形態では、前眼部観察時には、後眼部観察時に比して、固視標投影系138と対物レンズ130の第1レンズ群132との光学的な距離を短縮することにより、対物レンズ130の第2レンズ群134と被検眼12との距離の拡大に対応する。
【0073】
図6は、本実施形態に係る眼科光学装置110における処理例を示したフローチャートである。
図6に示した処理は、例えば、眼科光学装置110のOCTユニット20による被検眼12の撮影に際して開始される。
【0074】
ステップ600では、前眼部観察の指示がなされたか否かを判定する。ステップ600で、前眼部観察の指示がなされた場合は手順をステップ602に移行し、前眼部観察の指示がなされなかった場合は手順をステップ620に移行する。
【0075】
ステップ602では、前眼部観察における対物光学系(対物レンズ130)と被検眼12との距離を確保する。具体的には、対物光学系と被検眼の距離が後眼部観察時に対応した作動距離WDPである場合、当該距離を前眼部観察時に対応した作動距離WDAにすべく、対物光学系と被検眼とを前眼部観察時の作動距離WDAと後眼部観察時の作動距離WDPとの差分であるWDA-WDPを拡大する。
【0076】
対物光学系と被検眼12との距離の調整方法は、例えば、以下のとおりである。
(1)撮影光学系116Aを移動させて、作動距離WDAを確保する。
(2)眼科光学装置110全体を移動させて、作動距離WDAを確保する。
(3)被験者の顎を保持するチンレスト、又は被験者の頭部を保持するヘッドレストを移動させて、作動距離WDAを確保する。
【0077】
撮影光学系116A、眼科光学装置110全体、チンレスト及びヘッドレストの各々の移動は、モータで駆動してもよいし、手動で動かしてもよい。又は、チンレスト及びヘッドレストの各々を後眼部観察時に対応した厚さの物と、前眼部観察時に対応した厚さの物とを予め用意し、状況に応じて入れ替えてもよい。好ましくは、モータで対物光学系を移動させる方法である。
【0078】
ステップ604では、固視標投影系138を前眼部スキャンに対応した位置に設定する。具体的には、
図5Bに示したように、前眼部観察時には、後眼部観察時に比して、固視標投影系138と対物レンズ130の第1レンズ群132との光学的な距離を縮小することにより、対物レンズ130の第2レンズ群134と被検眼12との距離の拡大に対応する。
【0079】
ステップ606では、フォーカス調整装置150により、前眼部位置にOCTスキャンのフォーカスを切り替える。具体的には、
図3Bに示したように、被検眼12の前端部と接する面に像共役位置184が形成されるようにする。
【0080】
ステップ608では、走査角の設定を行う。具体的には、事前に取得していた前眼部の画像を被検者が確認可能な画面に表示し、被験者にスキャンする範囲を指示して貰う。そして、被験者が指示した範囲と、スキャンパターン(例えば、3Dスキャン又は直線状スキャンの別)に基づいて、前眼部上でスキャンしたい長さLAを算出する。さらに、長さLAと上述の式(3)とによってスキャナ位置での光線角度θAが自動的に算出され、走査角として設定される。
【0081】
ステップ610では、設定した走査角に従ってOCTスキャンを開始する。そして、ステップ612では、前眼部の任意の数点でフォーカスが合う位置を測定し、角膜の形状を計算する。
【0082】
ステップ614では、角膜形状に合わせてフォーカスを調整しながら指示されたスキャンパターン及びスキャン範囲でOCTスキャンを行う。
【0083】
ステップ616では、OCTスキャンを終了するか否かを判定する。ステップ616では、設定したスキャンパターンで指示されたスキャン範囲をすべてスキャンした場合に、OCTスキャンを終了すると判定するが、医師が指示されたスキャン範囲のすべてをスキャンすることを要しないと判断した場合も、OCTスキャンを終了すると判定する。ステップ616で、OCTスキャンを終了すると判定した場合は手順をステップ618に移行し、OCTスキャンを終了すると判定しない場合は手順をステップ610に移行する。
【0084】
ステップ618では、前眼部用の画像処理を行い、結果を表示して処理を終了する。具体的には、OCTスキャンにより得られた画像データからノイズ除去処理等を行って前眼部のOCT画像データを生成する。
【0085】
前述のステップ600で前眼部観察の指示がなかった場合は、ステップ620で後眼部観察における対物光学系と被検眼12との距離を確保する。具体的には、対物光学系と被検眼との距離を後眼部観察時に対応した作動距離WDPに設定する。
【0086】
対物光学系と被検眼12との距離の調整方法は、前眼部観察時と同様に、以下のとおりである。
(1)撮影光学系116Aを移動させて、作動距離WDPを確保する。
(2)眼科光学装置110全体を移動させて、作動距離WDPを確保する。
(3)被験者の顎を保持するチンレスト、又は被験者の頭部を保持するヘッドレストを移動させて、作動距離WDPを確保する。
【0087】
撮影光学系116A、眼科光学装置110全体、チンレスト及びヘッドレストの各々の移動は、モータで駆動してもよいし、手動で動かしてもよい。又は、チンレスト及びヘッドレストの各々を後眼部観察時に対応した厚さの物と、前眼部観察時に対応した厚さの物とを予め用意し、状況に応じて入れ替えてもよい。好ましくは、前眼部観察時と同様に、モータで対物光学系を移動させる方法である。
【0088】
ステップ622では、固視標投影系138を後眼部スキャンに対応した位置に設定する。具体的には、
図5Aに示したように、後眼部観察時には、前眼部観察時に比して、固視標投影系138と対物レンズ130の第1レンズ群132との光学的な距離を拡大することにより、対物レンズ130の第2レンズ群134と被検眼12との距離の縮小に対応する。
【0089】
ステップ624では、フォーカス調整装置150により、後眼部位置にOCTスキャンのフォーカスを切り替える。具体的には、
図3Aに示したように、被検眼12の後端部と接する面182に像共役位置が形成されるようにする。
【0090】
ステップ626では、スキャンパターン及びスキャン範囲を設定する。具体的には、事前に取得していた後眼部の画像を被検者が確認可能な画面に表示し、被験者にスキャンする範囲を指示して貰う。
【0091】
ステップ628では、OCTスキャンを開始する。そして、ステップ630では、後眼部の任意の数点でフォーカスが合う位置を測定し、網膜の形状を計算する。
【0092】
ステップ632では、網膜形状に合わせてフォーカスを調整しながら指示されたスキャンパターン及びスキャン範囲でOCTスキャンを行う。先述のように、本実施形態では、後眼部観察時、前眼部観察時、及び眼球内部観察時のいずれにおいても、垂直走査部120、168及び水平走査部142の走査方向は同じであり、かつ被検眼12をSLOレーザ光、及びOCTの測定光が走査する方向は同じである。その結果、画像処理において、後眼部観察時、前眼部観察時、又は眼球内部観察時の別で、画像反転処理を要しない。
【0093】
ステップ634では、OCTスキャンを終了するか否かを判定する。ステップ616では、設定したスキャンパターンで指示されたスキャン範囲をすべてスキャンした場合に、OCTスキャンを終了すると判定するが、医師が指示されたスキャン範囲のすべてをスキャンすることを要しないと判断した場合も、OCTスキャンを終了すると判定する。ステップ634で、OCTスキャンを終了すると判定した場合は手順をステップ636に移行し、OCTスキャンを終了すると判定しない場合は手順をステップ628に移行する。
【0094】
ステップ636では、後眼部用の画像処理を行い、結果を表示して処理を終了する。具体的には、OCTスキャンにより得られた画像データからノイズ除去処理等を行って後眼部のOCT画像データを生成する。
【0095】
続いて、本実施形態に係る眼科光学装置110における、対物レンズ130と被検眼12との位置関係の調整、すなわちアライメントについて説明する。眼科光学装置110は、観察部位の正確な位置合わせのために、被検眼12と眼科光学装置の対物レンズ130の光軸に対する被検眼の水平および垂直方向での位置の関係、そして対物レンズ130との距離、すなわちフォーカス調整を行う必要がある。
【0096】
図7Aは、後眼部観察時において眼科光学装置110のアライメントに係る光学系の構成を側方から見た光路図であり、
図7Bは、後眼部観察時において眼科光学装置110のアライメントに係る光学系の構成を上方から見た光路図であり、
図7Aから視点を上方に90°移した状態を示している。なお、図示した光線は、アライメントのための軸外光束の主光線のみである。
【0097】
図7A、
図7Bに示したように、被検眼12からの光は対物レンズ130の第2レンズ群132と第1レンズ群134とを介してダイクロイックミラー178に到達する。ダイクロイックミラー178に到達した光は、ダイクロイックミラー178で反射され、光軸196を挟んで左右対称に配置された一対の被検眼位置検出光学系240A、240Bの集光レンズ242A、242Bを介して被検眼位置検出光学系240A、240Bの画像センサ244A、244Bに各々入射する。画像センサ244A、244Bは被検眼12の像を形成し、それらの像位置から被検眼12の位置を検出することが可能である。
【0098】
本実施態様のように対物レンズ130を通して被検眼の位置を検出する構成は、言わばスルーザレンズ(TTL:Through the Lems)アライメント系と言える。このように対物レンズ130を通して被検眼の位置検出を行う構成は、広角の眼底像を得るための広画角の対物レンズを用いる場合に作動距離が極めて小さくなってしまう場合に有効であり、特に作動距離が20mm程度となる画角130度を超える超広角の所謂UWF眼底観察装置においては、極めて有用である。そして、このようなTTLアライメント系では、被検眼側の第2レンズ群134により広角による走査光を被検眼12の瞳孔に向けて出力するため、
図7Bに示す光路図のとおり、被検眼12の前眼部に対する主光線の角度が大きくなって、アライメントの位置検出精度を向上することが可能である。この構成はUWF対物レンズであるほど有利であることは言うまでもない。
【0099】
本実施形態では、CPU16Aの制御下で、対物レンズ130と被検眼12との光軸196方向の距離は、左右一対の画像センサ244A、244Bによって取得した画像から算出することができる。
【0100】
図8Aは、前眼部観察時において眼科光学装置110のアライメントに係る光学系の構成を側方から見た光路図であり、
図8Bは、前眼部観察時において眼科光学装置110のアライメントに係る光学系の構成を上方から見た光路図であり、
図8Aから視点を上方に90°移した状態を示している。なお、図示した光線は、アライメントのための軸外光束の主光線のみである。
【0101】
前述のように、前眼部観察時は、後眼部観察時に比して、対物レンズ130の第2レンズ群134と被検眼12との距離が拡大するので、かかる距離の拡大に対応して被検眼位置検出光学系240A、240Bと対物レンズ130との距離を変更する。本実施形態では、前眼部観察時には、後眼部観察時に比して、被検眼位置検出光学系240A、240Bと対物レンズ130の第1レンズ群132との光学的な距離を短縮することにより、対物レンズ130の第2レンズ群134と被検眼12との距離の拡大に対応する。
【0102】
図9は、後眼部観察時において眼科光学装置110のアライメントに係る光学系の他の構成を側方から見た光路図である。
図9では、被検眼位置検出光学系250A、250Bの各々は対物レンズ130と被検眼12との間に配置される。
図9に示したように、被検眼12からの光は対物レンズ130を介さずに、光軸196を挟んで左右対称に配置された一対の被検眼位置検出光学系250A、250Bの集光レンズ252A、252Bを介して被検眼位置検出光学系250A、250Bの画像センサ254A、254Bに各々入射する。画像センサ254A、254Bは被検眼12の像を形成し、それらの像位置から被検眼12の位置を検出することが可能である。被検眼位置検出光学系240A、240B、250A、250Bの各々は、本開示の技術の「被検眼位置検出装置」の一例である。
【0103】
図10は、前眼部観察時において眼科光学装置110のアライメントに係る光学系の構成を側方から見た光路図である。前述のように、前眼部観察時は、後眼部観察時に比して、対物レンズ130の第2レンズ群134と被検眼12との距離が拡大するので、かかる距離の拡大に対応して被検眼位置検出光学系250A、250Bの光軸196に対する角度を変更して、被検眼12からの光を受光する。
【0104】
本実施形態では、前眼部観察時には、後眼部観察時に比して、被検眼位置検出光学系250A、250Bの各々を矢印260で示した方向に動かすことにより、光軸196に対する角度を変え、対物レンズ130の第2レンズ群134と被検眼12との距離の拡大に対応する。
【0105】
なお、
図7A、
図7B、
図8A、
図8B、
図9、
図10に各々示した被検眼のアライメント系について、被検眼12への照明は、対物レンズ130の先端部に照明光源を設けることが可能であり、例えば対物レンズ130の光軸196を中心として対称な位置にLED等の光源を配置することや、対物レンズ130の先端部にリング状の光源を設けることも可能である。但し、本実施態様の眼科光学装置110においては無散瞳での眼底観察が可能となるため、装置の設置される室内の照明のみで十分とすることも可能である。
【0106】
以上説明したように、本実施形態では、後眼部観察時と前眼部観察時とで、対物レンズ130と被検眼12との作動距離WDを変更することにより、対物レンズ130と被検眼12との間に別途レンズアタッチメントを配置することを要しない。本実施形態では、作動距離WDの変更に対応して、フォーカス調整装置150でOCTの測定光の光束を調節すると共に、固視標投影系138及び被検眼位置検出光学系240A、240B、250A、250Bの各々における光学的な位置を変更する。また、作動距離WDの変更に対応してフォーカス調整装置150でSLOレーザ光、及びOCTの測定光の光束を調節しても、垂直走査部120、168及び水平走査部142の走査方向は同じであり、かつ被検眼12をSLOレーザ光、及びOCTの測定光が走査する方向は同じである。その結果、画像処理において、後眼部観察時、前眼部観察時、又は眼球内部観察時の別で、画像反転処理を要しない。
【0107】
以上説明した本実施形態における装置の構成はあくまでも一例である。従って、主旨を逸脱しない範囲内において不要な構成を削除したり、新たな構成を追加したりしてもよいことは言うまでもない。