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特開2024-150687アジュバントおよび該アジュバントを含むワクチン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150687
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】アジュバントおよび該アジュバントを含むワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20241016BHJP
   A61K 39/145 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 39/002 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A61K39/39
A61K39/145
A61K39/12
A61P37/04
A61P31/16
A61P31/14
A61P31/00
A61P35/00
A61P37/08
A61P37/06
A61K39/02
A61K39/002
A61K39/00 K
A61K39/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024119377
(22)【出願日】2024-07-25
(62)【分割の表示】P 2023077877の分割
【原出願日】2019-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2018059532
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業インキュベートタイプ「インフルエンザ制圧を目指した革新的治療・予防法の研究・開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(72)【発明者】
【氏名】河岡 義裕
(72)【発明者】
【氏名】フェン ホアパン
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 登喜子
(72)【発明者】
【氏名】山下 誠
(57)【要約】
【課題】本発明は、生体に対する安全性が高く、免疫機能を十分に増強する作用を有するアジュバントおよびそのアジュバントを含むワクチンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明は、インフルエンザウイルスに対する抗体価の上昇およびインフルエンザウイルスによる感染に対する防御効果を指標にして、145の食品添加物および51の注射添加剤を探索し、その中から、血中抗ウイルス抗体価の上昇機能およびウイルス感染に対する防御効果を有するものとして同定された、新規のアジュバント候補34化合物である。また、本発明はこれらのアジュバント候補化合物を含むワクチンである。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安息香酸ナトリウムを含むアジュバント。
【請求項2】
請求項1に記載のアジュバントおよび抗原を含むワクチン。
【請求項3】
前記抗原が、ウイルス、細菌、寄生虫、真菌、リケッチア、クラミジア、プリオンおよびがん細胞、ならびに、これらに由来する分子、がん抗原、自己免疫疾患関連抗原およびアレルギー関連抗原からなるグループから選択される少なくとも1つである、請求項2に記載のワクチン。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジュバントおよびそれを含むワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
「アジュバント」とは、元々ラテン語の”adjuvare(助ける)”に由来する用語で、抗原性補強剤、免疫賦活化剤などとも称されている。アジュバントは、免疫系、特に液性免疫機構において、樹状細胞を刺激し、抗体の産生やT細胞による免疫機能を高める働きする。そのため、アジュバントはワクチンと共に投与されその免疫原性を高める目的で使用されている。
【0003】
一般に、ワクチンの効果は、そのワクチンの免疫原性、安全性および製造コストに基づいて評価されるが、アジュバントの効果についても同様に評価される傾向にある。これまでに、アジュバントとして、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウム、リン酸カルシウムおよびリン酸アルミニウムなどの沈降性アジュバント、流動性パラフィン、ラノリンおよびフロイントなどの油性アジュバントなどが知られている。なかでも、水酸化アルミニウムゲルアジュバント(アラム(alum))は、1920年代における発見以来、ヒトワクチンのアジュバントとしてもっとも広く使用されており、スクアレンのoil-in-water 型エマルジョンを主成分とするMF59(登録商標)およびAS03は、近年ヒトインフルエンザウイルスワクチンのアジュバントとして認可された(非特許文献1)。
【0004】
ところで、従来使用されてきたアジュバントの安全性は必ずしも担保されているわけではない。例えば、スクアレンアジュバントを含むインフルエンザワクチンを接種された子供にナルコレプシーの発生率が増加することが報告され、アジュバントワクチンの安全性に対する懸念が生じてきた(非特許文献2および非特許文献3)。さらに、スクアレンアジュバントは局所性および全身性の反応源性を引き起こすとの報告もある(非特許文献4および非特許文献5)。
【0005】
以上のように、アジュバントがワクチンの免疫原性を増強する機能を発揮し、感染症や自己免疫疾患等の予防において非常に重要な剤であることは論を俟たないが、その安全性の問題が指摘されていることも事実であり、安全性が高く、免疫原性増強効果の優れたアジュバントの開発は、依然として免疫医療分野における重要な解決課題の一つである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Weirら, Influenza and other respiratory viruses 10:354-360 2016
【非特許文献2】Szakacsら, Neurology 80:1315-1321 2013
【非特許文献3】Nohynekら, PloS one 7: e33536 2012
【非特許文献4】Petrovskyら, Drug safety 38:1059-1074 2015
【非特許文献5】Foxら, Expert review of vaccines 12:747-758 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、生体に対する安全性が確認されている化合物であって、免疫機能を十分に増強する作用を有するアジュバントの開発を解決課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、インフルエンザウイルスに対する抗体価の上昇およびインフルエンザウイルスによる感染に対する防御効果を指標にして、145の食品添加物および51の注射添加剤を探索した結果、食品添加物由来の41化合物および注射添加剤由来の21化合物に、血中抗ウイルス抗体価の上昇機能およびウイルス感染に対する防御効果を有することを見いだした。本発明は以上の知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(1)~(4)である。
(1)ノルビキシン、ネオテーム、(R)-(+)-シトロネラール、クロシン、γ-ウンデカラクトン、アビエチン酸、ブリリアントブルーFCF、カルミン酸、(+/-)-シトロネロール、ファストグリーンFCF、ギ酸ゲラニル、ヒドロキシシトロネラール、インジゴカルミン、グルコン酸鉄(II)n水和物、イソオイゲノール、アントラニル酸メチル、ナリンギン、テルピネオール、ヒドロキシプロピルセルロース、エタノール、安息香酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、エマノーンCH-25、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、酢酸アンモニウム、エマノーンCH-60K、エマノーンCH-40、D-グルコン酸ナトリウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、臭化ナトリウム、1,1,1-トリクロロ-2-メチル-2-プロパノール0.5水和物およびキシリトールからなるグループから選択される1または複数を含むアジュバント。
(2)グリセロりん酸カルシウム水和物、ルチン水和物、セピオライト、β-D-グルカン、リボフラビン、サポニンおよびPoly(I:C)からなるグループから選択される1または複数を含む経粘膜ワクチン用アジュバント。
(3)上記(1)または(2)に記載のアジュバントおよび抗原を含むワクチン。
(4)前記抗原が、ウイルス、細菌、寄生虫、真菌、リケッチア、クラミジア、プリオンおよびがん細胞、ならびに、これらに由来する分子、がん抗原、自己免疫疾患関連抗原およびアレルギー関連抗原からなるグループから選択される少なくとも1つである、上記(3)に記載のワクチン。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかるアジュバントは、抗原に対する抗体の産生を上昇させ、ウイルスによる感染に対する優れた防御機能を発揮する。さらに、本発明にかかるアジュバントは、すでに生体に対する安全性が確認されていることから、副作用を引き起こす可能性が極めて低い。
【0011】
本発明にかかるアジュバントを含むワクチンは、感染症の予防等において生体に対し安全で、高い感染防御効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】アジュバント候補化合物のエボラGPタンパク質に対する抗体価への影響(1)。A:エマノーンCH-60K、B:ヒドロキシプロピルセルロース、C:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール (160E.O.) (30P.O.)。
図2】アジュバント候補化合物のエボラGPタンパク質に対する抗体価への影響(2)。D:グリセロりん酸カルシウム水和物、E:コンドロイチン硫酸ナトリウム、F:リボフラビン。
図3】経鼻(経粘膜)ワクチン用アジュバントとしての効果の確認。リン酸グリセロりん酸カルシウム(AおよびB)およびルチン水和物(CおよびD)を経鼻ワクチン用アジュバントとして配合してマウスに投与した場合における、体重(AおよびC)と生存率(BおよびD)に対する影響を調べた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の実施形態は、アビエチン酸、ブリリアントブルーFCF、カルミン酸、(+/-)-シトロネロール、(R)-(+)-シトロネラール、クロシン、ファストグリーンFCF、ギ酸ゲラニル、ヒドロキシシトロネラール、インジゴカルミン、グルコン酸鉄(II)n水和物、イソオイゲノール、アントラニル酸メチル、ナリンギン、ネオテーム、ノルビキシン、テルピネオール、γ-ウンデカラクトン、グリセロりん酸カルシウム水和物、ソルビン酸カルシウム、β-カロテン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、β-D-グルカン、グリチルリチン酸モノアンモニウム、ヘスペリジン、イソキノリン、ペクチン、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ルチン、ルチン水和物、テオブロミン、β-シクロデキストリン、ポリ-L-γ-グルタミン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン(分子量:3600,000)、プルラン、リボフラビン、サポニン、セピオライト、アルギン酸ナトリウム80~120、デキストラン 40、アラビアガム、ポリエチレングリコール 4,000、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール (160E.O.) (30P.O.)、レオドール AO-15V、酢酸アンモニウム 、エマノーンCH-25、エマノーンCH-40、エマノーンCH-60K、エタノール、D-グルコン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、臭化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、酸化亜鉛、1,1,1-トリクロロ-2-メチル-2-プロパノール0.5水和物およびキシリトールからなるグループから選択される1または複数を含むアジュバント(以下「本発明にかかるアジュバント」とも記載する)である。各化合物のCAS番号と入手先企業の例を表1および表5にまとめた。上記各化合物は、その塩またはそれらの溶媒和物もしくはそれらの水和物の形態であってもよい。
本発明にかかる「アジュバント」とは、抗原性補強剤または免疫賦活化剤などと称されるものと同義で、当該分野において、これらの剤の通常の使用目的に用いられるものである。また、本発明にかかるアジュバントを含むワクチンの投与方法は特に限定されず、例えば、筋肉注射による投与、経鼻(経粘膜)投与等、如何なる方法であってもよい。
【0014】
本発明にかかるアジュバントは、上述の化合物の1または複数を、限定はしないが、例えば、0.01~99.99重量%程度含んでおり、さらに、上述の化合物のいずれかそのものであってもよい。
本発明にかかるアジュバントには、上述の化合物以外のものであって、上述の化合物のアジュバントとしての機能を阻害しない成分が含まれていてもよい。そのような成分としては、例えば、安定化剤、pH調整剤、保存剤、防腐剤および緩衝剤などを挙げることができる。
また、本発明にかかるアジュバントは、上述の化合物以外のものであって、既存のアジュバントに含まれて免疫賦活化活性を有することが知られている成分が含まれていてもよく、そのような成分として、限定はしないが、例えば、水酸化アルミニウム、スクアレン、ミネラルオイル、パラフィンオイル、核酸およびトレハロース誘導体などを挙げることができる。
【0015】
本発明にかかるアジュバントは、免疫機構を有する全ての生物に対して使用することができ、そのような生物としては、限定はしないが、例えば、脊椎動物(哺乳類(ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ラマ、ラクダ、ヒツジおよびヤギなど)、鳥類(ニワトリなど)、爬虫類、両生類および魚類)や無脊椎動物(節足動物(昆虫類、甲殻類、クモ類および多足類)、軟体動物など)などが挙げられる。
【0016】
本発明の第2の実施形態は、本発明にかかるアジュバントおよび抗原を含むワクチン(以下「本発明にかかるワクチン」とも記載する)である。
抗原としては、免疫応答を惹起するものであれば特に限定されず、例えば、ウイルス、細菌、寄生虫、真菌、リケッチア、クラミジア、プリオンおよびがん細胞、ならびに、これらに由来する分子(例えば、タンパク質、核酸、糖および脂質)などの他、これら以外のタンパク質、核酸、糖および脂質などの生体分子および疾患関連抗原(がん抗原、自己免疫疾患関連抗原およびアレルギー関連抗原など)などを挙げることができる。
【0017】
ウイルス、細菌、寄生虫、真菌、リケッチアおよびクラミジアなどは、これらを弱毒化したものを抗原としてもよく(生ワクチン)、不活化したものを抗原としてもよい(不活化ワクチン)。また、これらに由来するトキソイドやキャプシド、表面に存在するタンパク質などを抗原としてもよい。
また、がん細胞に由来する抗原として、がん細胞特異的に発現するタンパク質(例えば、前立腺がんのPSA:prostate-specific antigenなど)などの、いわゆる、がん抗原を用いてもよい。
【0018】
ここで、ウイルスとしては、ヒトを含む動物に感染し疾患を引き起こすものであれば特に限定はされず、例えば、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、ニパウイルス、アデノウイルス、パピロマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、肝炎ウイルス(A型、B型、C型、D型、E型、F型およびG型など)、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、サポウイルス、エンテロウイルス、狂犬病ウイルス、黄熱ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、ムンプスウイルス、サイトメガロウイルス、コロナウイルス、ポリオーマウイルス、ヘルペスウイルス、日本脳炎ウイルス、デングウイルス、マールブルグウイルス、パルボウイルス、ラッサウイルス、ハンタウイルス、トゴトウイルス、ドーリウイルス、ニューキャッスルウイルス、トガウイルス、パラミクソウイルス、オルソミクソウイルス、ポックスウイルス、レオウイルスおよび口蹄疫ウイルスなどを挙げることができる。
【0019】
前記細菌としては、ヒトを含む動物に感染し疾患を引き起こすものであれば特に限定はされず、例えば、レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌、リステリア菌、病原性大腸菌、百日咳菌、ジフテリア菌、肺炎桿菌、プロテウス菌、髄膜炎球菌、緑膿菌、セラチア菌、淋菌、エンテロバクター菌、シトロバクター菌、マイコプラズマ、クロストリジウム、結核菌、コレラ菌、ペスト菌、赤痢菌、破傷風菌、炭疽菌、梅毒トレポネーマ、レジオネラ菌、レプトスピラ菌、ピロリ菌、ボレリア菌およびインフルエンザ菌などを挙げることができる。
【0020】
前記寄生虫としては、ヒトを含む動物に寄生して疾患を引き起こすものであれば特に限定はされず、例えば、マラリア原虫、トキソプラズマ、リーシュマニア、トリパノソーマ、クリプトスポリジウム、エキノコックス、住血吸虫、フィラリアおよび回虫などを挙げることができる。
【0021】
前記真菌としては、ヒトを含む動物に感染し疾患を引き起こすものであれば特に限定はされず、例えば、カンジダ真菌、アスペルギルス真菌、クリプトコッカス真菌、ヒストプラズマ真菌、白癬真菌、ニューモシスチス真菌およびコクシジオイデス真菌などを挙げることができる。
【0022】
前記がんとしては、ヒトを含む動物に発症するものであれば特に限定はされず、例えば、白血病、悪性リンパ腫、神経性腫瘍、メラノーマ、骨腫瘍、脳腫瘍、頭頸部がん、舌がん、甲状腺がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、胃がん、直腸がん、結腸がん、膀胱がん、肺がん、乳がん、肝がん、膵がん、胆嚢がん、胆管がん、腎臓がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、膣がん、精巣がんおよび前立腺がんなどを挙げることができる。
【0023】
前記疾患関連抗原の疾患として、上記がんの他、ヒトを含む動物に発症するアレルギー疾患(例えば、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性結膜炎、 アレルギー性胃腸炎、喘息、食物アレルギー、薬物アレルギーおよび蕁麻疹など)および自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、全身性強皮症、潰瘍性大腸炎、クローン病、乾癬、円形脱毛症、1型糖尿病、バセドウ病、橋本病、重症筋無力症およびIgA腎症など)などを挙げることができる。
【0024】
本発明にかかるワクチンに含まれるアジュバントは、ワクチン100重量%に対して、0.01重量%~99.99重量%程度含まれていてもよく、抗原1重量に対し、例えば、10重量~1000重量程度であってもよい。
【0025】
本発明にかかるワクチンは、組成物として、アジュバントおよび抗原以外の薬理学上許容された添加剤を含んでいてもよい。本発明にかかるワクチン組成物の剤形としては、特に限定はしないが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、吸入剤、液体製剤(点鼻剤および注射剤など)などが挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。なお、液体製剤にあっては、用時、水または他の適当な溶媒に溶解または懸濁するものであってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明の化合物を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水あるいはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また、緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
【0026】
本発明にかかるワクチン組成物に使用される製剤用添加物の種類、有効成分に対する製剤用添加物の割合等は、その剤形に応じて当業者が適宜選択することが可能である。製剤用添加物としては、無機または有機物質、あるいは、固体または液体の物質を用いることができ、一般的には、有効成分(抗原および/またはアジュバント)重量に対して、例えば、0.1重量%~99.9重量%、1重量%~95.0重量%、または1重量%~90.0重量%の間で配合することができる。
【0027】
本発明にかかるワクチン組成物が、固形製剤の場合、有効成分と賦形剤成分、例えば、乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウムおよび無水ケイ酸などと混合して散剤とするか、さらに必要に応じて白糖、ヒドロキシプロピルセルロースおよびポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式または乾式造粒して顆粒剤とすることができる。また、錠剤を製造するには、これらの散剤および顆粒剤をそのまま、あるいは、ステアリン酸マグネシウムおよびタルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒または錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびメタクリル酸-メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤またはエチルセルロース、カルナウバロウおよび硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。その他、カプセル剤を製造するには、散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま、または、グリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油およびオリーブ油などに溶解した後ゼラチンで被覆し軟カプセルとすることができる。
【0028】
本発明にかかるワクチン組成物が液体製剤の場合、有効成分を必要に応じて塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムなどのpH調整剤、塩化ナトリウムおよびブドウ糖などの等張化剤と共に製剤用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、さらに、マンニトール、デキストリン、シクロデキストリンおよびゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用事溶解型の製剤としてもよい。また、有効成分にレチシン、ポリソルベート80およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化せしめ、液体際剤用乳剤とすることもできる。
【0029】
本明細書において引用されたすべての文献の開示内容は、全体として明細書に参照により組み込まれる。また、本明細書全体において、単数形の「a」、「an」および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものを含むものとする。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0030】
1.実験方法および材料
1-1.細胞およびウイルス
MDCK(Madin-Darby canine kidney)細胞は、5%仔ウシ血清を添加したMEM培地(Gibco)中、37℃、5% CO2の条件で維持した。MDCK細胞はウイルスを希釈するためのプラークアッセイに用いた。
マウスに適化したA/California/04/2009ウイルス(H1N1;MA-CA04)は、既報(Sakabe ら, Virus research 158:124-129 2009)の方法で作製し、マウスへの感染に用いた。A/California/07/2009ウイルス(H1N1;CA07)は、2009年のパンデミックの初期に単離されたもので、国立感染症研究所より分与された。このウイルスは免疫したマウス由来の血清中のウイルス特異的抗体価を決定するELISAアッセイにおいて、抗原として使用した。
【0031】
1-2.ワクチン抗原およびその他の化合物
1-2-1.インフルエンザワクチン抗原
3価および4価スプリットインフルエンザHAワクチンは、デンカ生研株式会社(日本)から入手した。
3価インフルエンザHAワクチン(2014-2015のインフルエンザシーズンに使用)は、A/California/07/2009 (H1N1)、A/New York/39/2012 (H3N2)およびB/Massachusetts/2/2012 (B/Yamagata lineage)を含んでいる。このワクチンをマウスに接種し、血清中のウイルス特異的な抗体価を指標として、アジュバント候補の1次スクリーニングを行った。
4価スプリットインフルエンザHAワクチン(2015-2016のインフルエンザシーズンに使用)は、A/California/07/2009 (H1N1)、A/Switzerland/9715293/2013 (H3N2)、B/Phuket/3073/2013 (Yamagata lineage)およびB/Texas/2/2013 (Victoria lineage)のHAタンパク質を含んでいる。このワクチンをマウスに接種し、ウイルスを感染させたマウスにおける防御効果を指標として、アジュバント候補の2次スクリーニングを行った。また、4価スプリットインフルエンザHAワクチン(2016-2017のインフルエンザシーズンに使用)は、A/California/07/2009 (H1N1)、A/Hongkong/4801/2014 (H3N2)、B/Phuket/3073/2013 (Yamagata lineage)およびB/Texas/2/2013 (Victoria lineage)を含んでおり、2次スクリーニングの一部に使用した他、ウイルスを感染させたマウス中でのウイルス複製に対する効果を調べるために使用した。
【0032】
1-2-2.エボラウイルス抗原
エボラウイルス様粒子(VLP)の調製は、すでに報告されている方法(Warfieldら, PLoS One, 10(3): p. e0118881 2015;Margineら, J Vis Exp, (81): p. e51112 2013;Yeら, Virology, 351: 260-270 2006;Warfieldら, J Infect Dis, 196 Suppl 2: p. S421-9 2007)を参考にして行った。具体的には、Bac-to-Bac baculovirus expression system(Invitrogen)を使用して調製した。GP遺伝子およびVP40遺伝子は、BamH IとNot Iで切断したトランスファーベクターpFastBacに挿入した。DH10Bacを組換体pFastBac-GPおよびpFastBac-VP40で形質転換し、各々の組換体バクミドを作製した。エボラGP遺伝子またはVP40遺伝子が挿入された組換体バクミドを精製し、Cellfectin II reagent(Invitrogen)でsf90細胞に導入した。形質転換から6日後、培地から組換体バキュロウイルスrBV-GPおよび組換体バキュロウイルスrBV-VP40をP1ウイルスとして回収した。使用するウイルスストックは、sf9細胞中でP1ウイルスを2回増幅させることで調製した。
浮遊培養のHigh Five細胞にrBV-GPとrBV-VP40を共感染させた後、High Five細胞をmagnetic culture vessels(250 ml 培養液/1L 容量)中、 28℃で培養した。感染から60時間後、培地を回収して、3,500 rpmで4℃、15分間遠心した。得られた上清を濃縮し、25% スクロース上に重層して、28,000 rpmで、4℃、1.5時間遠心して得られた沈殿をPBSに懸濁した。精製したVLPは、分注し、使用時まで-80℃で保存した。総タンパク質濃度は、BCA Protein Assay kit(Thermo Fisher Scientific)で決定した。
【0033】
1-2-3.アジュバント候補化合物
水酸化アルミニウムゲルのAlhydrogel(登録商標) adjuvant 2% (Alum)は、InvivoGenから購入し、ポジティブコントロール(antigen: alum (v/v) =1:1)として使用した。食品添加物由来の化合物および注射添加剤由来の化合物は、各々、表1および表5に記載した企業から購入した。これらの化合物は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(カルシウムおよびマグネシウムフリー)にて、10 mg/mlまたは10μl/mlの濃度に希釈し、水浴中、15分間、室温にて超音波処理を行った。化合物のストックは使用時まで-20℃で保存した。ストックは、融解後、ワクチン抗原と混合する前に5分間超音波処理を行った。
アジュバント候補化合物の投与量は、100μg/dose(ただし、サポニンは10μg/dose)とした。
【0034】
1-3.ワクチンの接種
1-3-1.インフルエンザワクチン
(1)筋肉注射ワクチン用アジュバントとしての効果
5週齢のメスのBALB/cマウスは日本エスエルシー株式会社から購入した。1週間馴化させた後、ワクチンのみ、または、ワクチン+アジュバント候補化合物の至適投与量以下量(2014-2015 シーズン用ワクチン;0.01μg/dose、2015-2016シーズン用ワクチン;0.003μg/doseおよび2016-2017シーズン用ワクチン;0.001μg/dose)を、マウス大腿部に筋肉注射で接種した。1回目の接種から14日後に2回目の接種を行った。2回目の接種から14日後、Goldenrod アニマルランセット(5 mm)を用いて顔面静脈から採血し、ウイルス特異的抗体価の測定のために血清を調製して、1次スクリーニングを行った。2次スクリーニングにおいては、1次スクリーニングと同様にワクチン接種を行い、2回目の接種から21日後にMA-CA04ウイルスの10 MLD50 (感染したマウスの50%が死亡する量)を感染させた。ウイルス感染後14日間、体重および生存を毎日モニターした。感染前の体重の25%を超える量が減ったマウスは、安楽死させた。1グループあたり3または4匹のマウスを、スクリーニングに使用した。
【0035】
インフルエンザウイルスを感染させたマウスの気道中でのウイルス複製に対するアジュバント候補化合物の効果については、以下のように調べた。
各種抗原(PBSのみ、候補化合物のみ、ワクチンのみ、ワクチン+アジュバント候補化合物およびワクチン+Alum)100μlを6週齢のBALB/cマウス大腿部に筋肉注射で接種した。ワクチンの追加接種から3週間後に、MA-CA04ウイルスの10 MLD50 を2週間の間隔を置いて2回感染させた。感染後3日後と6日後にマウス(n=3)から鼻甲介と肺を摘出し、ホモジナイズ後、MDCK細胞を用いてプラークアッセイを行った。
【0036】
(2)経鼻ワクチン用アジュバントとしての効果
筋肉注射でアジュバント効果のあった添加剤について、経鼻ワクチン用アジュバントとしての効果について検討した。
ワクチン抗原を混合する前に、アジュバント候補化合物の懸濁液または溶液は、水浴中にて融解し、その後、超音波処理(20秒処理、30秒静置を10分間繰り返す)を行った。ワクチン抗原とアジュバント候補化合物の混合液を震盪させながら、4℃で3時間インキュベートした。調製したワクチン混合液をマウスに3回(0日、14日および28日)免疫し、42日後に血液、鼻洗浄液および気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar Lavage Fluid:BALF)を採取し、抗体価を測定した。免疫は、1鼻孔あたり5μlとして、10μl(100μg/dose)投与した。ただし、サポニンとpoly(I:C)(ポジティブコントロール)の投与量は、10μg/doseとした。2回目の接種から21日後にMA-CA04ウイルスの10 MLD50 (感染したマウスの50%が死亡する量)を感染させた。ウイルス感染後14日間、体重および生存を毎日モニターした。感染前の体重の25%を超える量が減ったマウスは、安楽死させた。1グループあたり3または4匹のマウスを、スクリーニングに使用した。
【0037】
1-3-2.エボラワクチン
(1)図1および図2に関して
5週齢のメスのBALB/cマウスは日本エスエルシー株式会社から購入した。1週間馴化させた後、ワクチンのみ、または、ワクチン+アジュバント候補化合物をマウス大腿部に筋肉注射で接種した。エボラワクチンの抗原として、エボラウイルス様粒子(Virus-like perticle:VLP)を10μg/doseで接種した。
アジュバントとしての添加化合物として、グリセロりん酸カルシウム水和物、コンドロイチン硫酸ナトリウムおよびリボフラビンを用いた場合は、1回目の接種から12日後に2回目の接種を行った。2回目の接種から12日後、Goldenrod アニマルランセット(5 mm)を用いて顔面静脈から採血し、ウイルス特異的抗体価の測定のために血清を調製して、エボラGPタンパク質に対する抗体価を測定した。
また、アジュバントとしての添加化合物として、エマノーンCH-60K、ヒドロキシプロピルセルロースおよびポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール (160E.O.) (30P.O.)を用いた場合は、1回目の接種から2週間後にエボラGPタンパク質に対する抗体価を測定した。
【0038】
(2)表11に関して
6週齢のBALB/cマウスに、2週間の間隔をあけて抗原(1μgエボラウイルス様粒子/dose)を筋肉内に100μl、2回接種した。各群(エボラウイルスVLPのみ接種群、エボラウイルスVLP+アジュバント候補化合物接種群、エボラウイルスVLP+AddVax(アジュバントのポジティブコントロール)接種群)あたり4匹のマウスを用いた。エボラGPタンパク質に特異的なIgG抗体価を測定するために、2回目の免疫から2週間後に血清を採血し血清を調製した。
【0039】
1-4.エボラGPタンパク質特異的抗体の抗体価の測定
(1)図1および図2に関して
血清中の抗体価の測定は、既報(Urakiら, Vaccine 32:5295-5300 2014)の通り、ELISAの変法を用いて実施した。ELISAで使用した可溶性GPタンパク質(GP変異体T42V/T230V GP1-632Δmuc)は、既報の方法(Leeら, Nature, 454:177-182 2008)により、オーバーラッピングPCRで合成したGP コード化DNAから調製した。
96ウェルELISAプレート(IWAKI)を精製したCA07ウイルス溶液(6μg/ml)またはエボラGPタンパク質(5μg/ml)で、4℃、一晩、コートした(50μl/ウェル)。プレートを200μlの20 % Blocking One(Nacalai)水溶液中、室温にて1時間、ブロッキングした。ブロッキング後、プレートを0.05% Tween-20を含むPBS(PBS-T)で1回洗浄し、2倍の段階希釈を行った血清サンプルをプレートに添加し、室温で1時間インキュベートした。結合したIgGは、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG(γ)抗体のF(ab’)2フラグメント(Kirkegaard & PerryLaboratory Inc.)を用いて検出した。プレートをPBS-Tで洗浄した後、100μlの2, 2'-azino-bis (3-ethylbenzothiazoline-6-sulphonic acid)基質溶液を各ウェルに添加し、呈色反応を開始した。反応完了後、405 nm波長でODを測定した。
【0040】
(2)表11に関して
エボラGPタンパク質特異的な抗体価(IgG抗体価)は精製したGP変異体をコーティング抗原として使用し、ELISA法で決定した。ODは、405nm波長で測定した。抗体価は、 OD405>0.1となる反応終末点の血清希釈度の逆数として定義した。値は、各群4匹の抗体価の平均値として示した。
【0041】
1-5.統計処理
抗体価およびウイルス感染マウスの生存率の有意差は、GraphPad Prism 6 softwareを使用して、一元配置分散分析法で求めた。ウイルス力価の有意差は、unpaired two-tailed t-testで評価した。P値< 0.05を統計的有意差有とした。
【0042】
1-6.倫理的取り扱い
マウスを用いた全ての実験は、東京大学動物飼育規則および日本学術会議による動物実験の適正な実施に向けたガイドラインに従って行い、東京大学医科学研究所動物実験委員会の承認を得て行った。
【0043】
2.結果
2-1.1次スクリーニング
新規アジュバントを探索するために、日本で承認されている食品添加物および注射添加剤由来の化合物に対し、マウスを用いてスクリーニングを行った。食品添加物および注射添加剤のリストから、酵素、塩、単体、タンパク質、生体低分子化合物、ワックス、炭化水素および土を除いた残りの食品添加物由来の145化合物および注射添加剤由来の51化合物スクリーニング対象とした。HAワクチンに市販のアラム(alum)を加えたものをポジティブコントロールとして使用した。
ワクチンの追加接種から2週間後、ワクチンを接種したマウスから採取した血清サンプルのインフルエンザウイルスに特異的な抗体価を測定した。PBSのみ、および化合物のみの接種では、CA07ウイルスに対する抗体は検出されなかった。また、HAワクチンのみを接種したマウスの血清では、ウイルス特異的抗体を検出できないか、できたとしても低いレベル(抗体希釈範囲<10~320)であった。そこで、1次スクリーニングでは、HAワクチンと共に接種した場合に、平均抗体価>320を誘導することができる化合物をヒット化合物とし、食品添加物由来の化合物から59化合物を選択し2次スクリーニングを行った。注射添加剤由来の化合物については、51化合物全てについて2次スクリーニングを行った。
【0044】
2-2.2次スクリーニング(アジュバント候補化合物の同定)
次に、1次スクリーニングで選択した化合物の中から、致死量のウイルスが感染したマウスにおけるワクチンの防御効果を指標として、2次スクリーニングを行った。2次スクリーニングでは、HAワクチンとして4価スプリットインフルエンザHAワクチン(2015-2016シーズン用または2016-2017シーズン用)を使用した。2015-2016シーズン用のワクチンは0.003μg/doseとなるように、2016-2017シーズン用のワクチンは0.001μg/doseとなるように接種した。2回目のワクチン接種から3週間後に10 MLD50のMA-CA04ウイルスをマウスに感染させ、体重および生存を14日間モニターした。2次スクリーニングでは、alumアジュバント(ポジティブコントロール)を接種したマウス群と同等またはより高い生存率を示したマウス群に接種した化合物を選択した。2次スクリーニングで同定した食品添加物由来の41化合物を表1に、注射添加剤由来の21化合物を表5に示す。また、食品添加物由来の41化合物の1次スクリーニングにおける抗体価を表2に示し、食品添加物由来の41化合物と注射添加剤由来の21化合物の2次スクリーニングにおける抗体価を、各々、表3および表6に、ウイルス感染防御効果を、各々、表4および表7に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
2次スクリーニングで同定された食品添加物由来の41化合物中、18化合物が新規のアジュバント候補化合物であり、15化合物はインフルエンザ以外のウイルスワクチンアジュバント候補としての報告があり、8化合物はインフルエンザウイルスワクチンアジュバント候補としての報告があった(表1)。新規アジュバント候補の18化合物のうち、カルミン酸、クロシン、ヒドロキシシトロネラール、アントラニル酸メチル、ネオテーム、ノルビキシン、テルピネオールおよびγ-ウンデカラクトンの8化合物をワクチンと共に接種したマウスは4匹全て生存しており、これらの8化合物はMA-CA04ウイルスによる攻撃に対して優れた防御効果を示した(表4)。また、ネオテーム、ノルビキシンおよびγ-ウンデカラクトンは、alumアジュバントと比較して、これと同等またはより高いウイルス特異的抗体価を誘導した(表2および表3)。なかでもノルビキシンは、18ヒット化合物中最も高い抗体価を誘導し(alumアジュバントに対するノルビキシンの抗体価の相対比は5.14、表3)、HAワクチンのみの接種グループと比較して、HAワクチン+ノルビキシン接種グループの病的状態と致死率(体重変化と生存率で評価)は、顕著に低下していた。
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
【表7】
【0053】
2次スクリーニングで同定された注射添加剤由来の21化合物中、16化合物が新規のアジュバント候補化合物であり、5化合物はインフルエンザ以外のウイルスワクチンアジュバント候補としての報告があった(表5)。新規アジュバント候補の16化合物のうち、エマノーンCH-25、エマノーンCH-60K、ヒドロキシプロピルセルロース、安息香酸ナトリウムおよび亜硫酸ナトリウムの5化合物をワクチンと共に接種したマウスは4匹全て生存しており、これらの5化合物はMA-CA04ウイルスによる攻撃に対して優れた防御効果を示した(表7)。また、これら5化合物は、alumアジュバントと比較して、これと同等またはより高いウイルス特異的抗体価を誘導した(表6)。なかでもヒドロキシプロピルセルロースは、21ヒット化合物中最も高い抗体価を誘導した。
【0054】
2-3.マウス気道におけるウイルス複製に対するアジュバント候補化合物の効果
ウイルス感染に対し優れた防御効果を示した、ネオテーム、ノルビキシンおよびγ-ウンデカラクトン(食品添加物由来)と、エマノーンCH-25、エマノーンCH-60K、ヒドロキシプロピルセルロース、安息香酸ナトリウムおよび亜硫酸ナトリウム(注射添加剤由来)のウイルス複製に対する影響を検討した。
HAワクチンと各候補化合物を接種したマウスに、2回目の接種から3週間後に、10 MLD50のMA-CA04ウイルスを感染させた。ウイルス感染後3日目および6日目に、安楽死させたマウスから器官サンプル(鼻甲介と肺)を採取した。感染後3日には、全てのグループの鼻甲介と肺の両方から高い力価のウイルスが回収された(表8;食品添加物由来および表9;注射添加剤由来)。これに対し、感染後6日においては、HAワクチンのみを接種したグループと比べて、HAワクチンとアジュバント候補化合物を接種したグループでは、鼻甲介と肺のウイルス力価は減少傾向にあり、特に、ネオテーム(表8)、エマノーン CH-25、エマノーン CH-60K、ヒドロキシプロピルセルロースおよび安息香酸ナトリウム(表9)を接種したマウスの中には、ウイルス力価が検出されないものもいた。これらの結果はネオテーム、エマノーン CH-25、エマノーン CH-60K、ヒドロキシプロピルセルロースおよび安息香酸ナトリウムなどのいくつかのアジュバント候補は、マウス体内からの速やかにウイルスを排除する機能を有することが示唆された。
【0055】
【表8】
【0056】
【表9】
【0057】
2-4.経鼻(経粘膜)ワクチン用アジュバントとしての効果
筋肉注射でアジュバント効果が確認できたアジュバント候補化合物の経鼻ワクチン用アジュバントとしての効果を検討した。
グリセロりん酸カルシウム水和物とルチン水和物の結果を図3(AおよびC)に示す。いずれの化合物についても体重への影響は、既知のアジュバントであるPoly(I:C)と同程度で、悪い影響はないものと考えられる。生存率についても(B:グリセロりん酸カルシウム水和物、D:ルチン水和物)、Poly(I:C)比較して同程度か若干低い程度で、経鼻ワクチン用アジュバントとしての機能を十分に果たしていると考えられる。
【0058】
経鼻ワクチン用アジュバントとして良好な効果(抗体価および生存率に関し)を発揮した上位8化合物(グリセロりん酸カルシウム水和物およびルチン水和物を含む)について、表10にまとめた。
【表10】
【0059】
2-4.エボラウイルスワクチンにおけるアジュバント効果
2次スクリーニングで同定された食品添加物由来の化合物と注射添加剤由来の化合物の中から、エマノーンCH-60K、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール (160E.O.) (30P.O.)、グリセロりん酸カルシウム水和物、コンドロイチン硫酸ナトリウムおよびリボフラビンを選択し、エボラウイルスワクチンのアジュバントとしての効果を検討した。エマノーンCH-60Kおよびヒドロキシプロピルセルロースはこれまでにアジュバントとしての効果は何も報告されておらず、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール (160E.O.) (30P.O.)、グリセロりん酸カルシウム水和物およびコンドロイチン硫酸ナトリウムはインフルエンザウイルスワクチン以外のアジュバントとしての効果が報告されており、フラビンはインフルエンザウイルスワクチンのアジュバントとしての効果が報告されている。MF59様化合物をアジュバントのポジティブコントロールとして使用した。
【0060】
新規アジュバント候補化合物であるエマノーンCH-60KおよびヒドロキシプロピルセルロースはMF-59様化合物よりも高いエボラGPタンパク質に対する抗体価を誘導し、他のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール (160E.O.) (30P.O.)、グリセロりん酸カルシウム水和物、コンドロイチン硫酸ナトリウムおよびリボフラビンについても、同様の効果を示すことが確認された(図1および図2)。
【0061】
また、表11には、GPタンパク質に対して誘導される抗体価が高い上位9化合物をまとめた。
【表11】
【0062】
本実施例で開示したアジュバントのスクリーニング方法でヒットした化合物の中には、すでにアジュバント効果が報告されているものもいくつか含まれていたことから、本スクリーニング方法は効果的なアジュバント候補化合物の探索法であることが示唆される。
また、本スクリーニングで同定された化合物のうちいくつかは、エボラウイルスワクチンアジュバントとしての効果も示していることから、本発明にかかる新規アジュバント候補の34化合物は、種々のウイルスワクチンのアジュバント候補化合物であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明にかかるアジュバント候補化合物は、安全性が承認されているものであり、十分な免疫機能を高める効果を有するもので、免疫医療分野においての利用が期待される。

図1
図2
図3