(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150728
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】流量制御装置
(51)【国際特許分類】
G05D 7/06 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024125707
(22)【出願日】2024-08-01
(62)【分割の表示】P 2020133738の分割
【原出願日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2019226733
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】徳永 和弥
(57)【要約】
【課題】流量制御装置において、第1容積の大きさについて正確に同定できるようにし、製造誤差等があったとしても第1容積の大きさから定められる各種パラメータを機器ごとに適切に設定して流量制御の精度をさらに向上させられるようにする。
【解決手段】診断器が、第1バルブが開放され、第2バルブが閉止されている状態において、所定期間に亘って流量算出部が算出する流量の積算値と、所定期間における第1圧力の変化量とに基づいて第1容積の大きさを算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に設けられた第1バルブと、
前記流路において前記第1バルブよりも下流側に設けられた第2バルブと、
前記流路において前記第1バルブと前記第2バルブの間に設けられた流体抵抗と、
前記流路において前記第1バルブと前記流体抵抗との間の容積である第1容積内の圧力を測定する第1圧力センサと、
前記流路において前記流体抵抗と前記第2バルブとの間の容積である第2容積内の圧力を測定する第2圧力センサと、
前記第1圧力センサで測定される第1圧力と前記第2圧力センサで測定される第2圧力に基づいて、前記流体抵抗を流れる流体の流量を算出する流量算出部と、
前記第1容積又は前記第2容積の容積について診断する診断器と、を備え、
前記診断器が、前記第1バルブが開放され、前記第2バルブが閉止されている状態において、所定期間に亘って前記流量算出部が算出する流量の積算値と、前記所定期間における前記第1圧力の変化量とに基づいて前記第1容積の大きさを算出する流量制御装置。
【請求項2】
前記診断器が、前記第2バルブが開放され、前記第1バルブが閉止されている状態において、所定期間に亘って前記流量算出部が算出する流量の積算値と、前記所定期間における前記第2圧力の変化量とに基づいて前記第2容積の大きさを算出する請求項1記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記所定期間が、前記第1圧力と前記第2圧力の差の絶対値が最大となってから前記第1圧力と前記第2圧力が等しくなるまでの期間である請求項1又は2記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記診断器が、前記所定期間の開始時点における前記第1圧力と前記所定期間の終了時点における前記第1圧力の差と、前記所定期間の開始時点における前記第2圧力と前記所定期間の終了時点における前記第2圧力の差に基づいて、前記第1容積と前記第2容積との間の容積比を算出する請求項1乃至3いずれかに記載の流量制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の例えば流量を制御する流量制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスでは、チャンバ内に各種ガスを所望の流量に制御した状態で供給することが行われている。近年、この分野では流量の高速制御や流量精度のさらなる向上が求められており(特許文献1参照)、このような要求に答えるために2つの制御バルブを用いた流量制御装置が提案されている。
【0003】
具体的にこの流量制御装置は、流路に対して第1バルブ、圧力式の流量センサ、第2バルブが上流側からこの順番で設けられたものである。例えば第1バルブは、流量センサを構成する層流素子の上流側に設けられた第1圧力センサの第1圧力がフィードバックされて、当該第1圧力が所望の設定圧力で一定になるように制御される。また、第2バルブは流量センサで測定される測定流量がフィードバックされ、測定流量が設定流量と一致するように制御される。なお、設定圧力は設定流量の大きさに関わらず常に一定の値が設定される。
【0004】
ところで、圧力式の流量センサは低圧であるほど感度が良くなるので、設定圧力をできるだけ小さい値に設定して、層流素子の上流側の圧力である第1圧力を低圧に保ったほうが、第2バルブによる流量制御の精度を向上できる。
【0005】
しかしながら、設定圧力を低くしすぎると、第1圧力が層流素子及び第2バルブでの圧損や第2バルブの下流側の圧力を十分に上回れず、第2バルブの下流側へ流体を大流量で流すことができなくなってしまう。かといって、設定流量のレンジを考慮して、設定圧力をある程度高い値に設定すると、設定流量が小さい場合には圧力式の流量センサの感度や測定精度が本来の実力と比較して悪化してしまう。具体的には
図6のグラフに示すように設定圧力の値が大きくなり流体抵抗の下流側の圧力である第2圧力P2の値が大きくなるほど、流量に対する差圧ΔP=P
1-P
2の感度は低下し、測定精度も低下することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、小流量においても流量センサの感度や測定精度を高く保つことができるとともに、大流量にも対応することができる流量制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る流量制御装置は、流路に設けられた第1バルブと、前記流路において前記第1バルブよりも下流側に設けられた第2バルブと、前記第1バルブと前記第2バルブとの間の前記流路における流体の流量を測定する流量センサと、前記流量センサで測定される測定流量と設定流量との偏差が小さくなるように、前記第2バルブに入力される操作量を制御する流量制御器と、前記流量制御器が前記第2バルブに入力する操作量又は前記第2バルブの開度を制御量とし、当該制御量と目標量との偏差が小さくなるように前記第1バルブを制御する第1バルブ制御器と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る流量制御方法は、流路に設けられた第1バルブと、前記流路において前記第1バルブよりも下流側に設けられた第2バルブと、前記第1バルブと前記第2バルブとの間の前記流路における流体の流量を測定する流量センサと、を備えた流量制御装置に用いられる流量制御方法であって、前記流量センサで測定される測定流量と設定流量との偏差が小さくなるように、前記第2バルブに入力される操作量を制御する流量制御ステップと、前記流量制御ステップにおいて前記第2バルブに入力される操作量又は前記第2バルブの開度を制御量とし、当該制御量と目標量との偏差が小さくなるように前記第1バルブを制御する第1バルブ制御ステップと、を備えたことを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、例えば設定流量が初期流量値から初期流量値よりも小さい維持流量値に変化した場合には、前記流量制御器は前記第2バルブの開度を小さくするように前記第2バルブに入力する操作量を変化させ、当該第2バルブを通過できる流体の流量を小さくしようとする。
【0011】
前記第2バルブの開度が変化すると、前記第1バルブ制御器では制御量と目標量との偏差が大きくなるので、当該第1バルブ制御器は前記第2バルブの開度をもとに戻すために前記第1バルブの開度を変化させる。この例の場合には、前記第1バルブと前記第2バルブとの間にある前記流量センサに流入する流体の流量を小さくし、設定流量よりも測定流量が小さくなる状態となる。そうすると、前記流量制御器は前記第2バルブを通過する流体の流量を増加させて偏差を小さくするために前記第2バルブの開度を大きくする。
【0012】
このような前記流量制御器と前記第1バルブ制御器の動作が制御周期ごとに繰り返されることによって、前記第2バルブの開度は、変化後の維持流量値においても初期流量値において維持されていた開度と同じ開度に戻すことができる。
【0013】
したがって、維持流量値のような小流量で流体を流す場合には、最終的には前記第1バルブの開度を小さくして流体の流入を小さくして、前記第2バルブは抵抗とならないように開度を大きくできる。この結果、前記流量センサにおける絶対圧を低くし、流量センサの感度や測定精度を高い状態に保てる。一方、初期流量値のように大流量で流体を流す場合には、前記第2バルブの開度が所定の開度で保たれるように、前記第1バルブの開度が大きくなるように変更されてより流体の流入が大きくなる。このため、前記流量センサや前記第2バルブの圧損や前記第2バルブの下流側の圧力を上回らせて大流量を流すことができる。このように本発明であれば小流量時には前記流量センサの感度や測定精度を高く保つことと、大流量を流すのに必要な差圧の実現も両立させることができる。
【0014】
前記流量センサが、前記第1バルブと前記第2バルブとの間に設けられた流体抵抗と、前記第1バルブと前記流体抵抗の間に設けられた第1圧力センサと、前記流体抵抗と前記第2バルブとの間に設けられた第2圧力センサと、前記第1圧力センサで測定される第1圧力と、前記第2圧力センサで測定される第2圧力とに基づいて、前記流体抵抗を流れる流体の流量を算出する流量算出部と、を備えたものである場合に、前記流量センサの感度や測定精度を十分に発揮できるようにするには、前記第1バルブ制御器に設定される前記目標量が、前記第2バルブの開度が全開側の所定開度に維持される一定値であればよい。このようなものであれば、前記第2バルブの開度が大きい状態が保たれるので、前記第2バルブの上流側にある前記流量センサの圧力を低下させることが可能となり、感度や測定精度を向上させることができる。
【0015】
前記第1バルブ制御器の具体的な制御則としては、前記第2バルブの開度が前記目標量に相当する開度よりも小さい場合には、前記第1バルブ制御器が、前記第1バルブの開度を小さくする方向に制御するものが挙げられる。このような、前記第2バルブの開度が目標とする状態よりも小さくなった場合には、前記第1バルブの開度が小さくなり、前記第2バルブに供給される流量を小さくなる。このため、前記流量制御器は流量を維持するために前記第1バルブの開度を大きくするように動作するので、前記第1バルブの開度を目標とする開度で保ち続けることができる。
【0016】
前記第1バルブ及び前記第1バルブ制御器の具体的な構成例としては、前記第1バルブがノーマルオープンタイプのピエゾバルブであり、前記第1バルブ制御器が、前記制御量が前記目標量よりも小さい場合には、前記第1バルブに印加する電圧を大きくする方向に制御するものが挙げられる。
【0017】
前記第1バルブ及び前記第1バルブ制御器の別の構成例としては、前記第1バルブがノーマルクローズタイプのピエゾバルブであり、前記第1バルブ制御器が、前記制御量が前記目標量よりも小さい場合には、前記第1バルブに印加する電圧を小さくする方向に制御するものが挙げられる。
【0018】
既存の流量制御装置に対してプログラムの更新を行うことにより、本発明に係る流量制御装置と同様の効果を発揮できるようにするには、流路に設けられた第1バルブと、前記流路において前記第1バルブよりも下流側に設けられた第2バルブと、前記第1バルブと前記第2バルブとの間の前記流路における流体の流量を測定する流量センサと、を備えた流量制御装置に用いられるプログラムであって、前記流量センサで測定される測定流量と設定流量との偏差が小さくなるように、前記第2バルブに入力される操作量を制御する流量制御器と、前記流量制御器が前記第2バルブに入力する操作量又は前記第2バルブの開度を制御量とし、当該制御量と目標量との偏差が小さくなるように前記第1バルブを制御する第1バルブ制御器と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする流量制御装置用プログラムを用いれば良い。
【0019】
なお、流量制御装置用プログラムは、電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、BD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されたものであってもよい。
【0020】
流路に設けられた第1バルブと、前記流路において前記第1バルブよりも下流側に設けられた第2バルブと、前記第1バルブと前記第2バルブとの間の前記流路における流体の物理量を測定する流体センサと、前記流体センサで測定される測定量と設定量との偏差が小さくなるように、前記第2バルブに入力される操作量を制御する流体制御器と、前記流体制御器が前記第2バルブに入力する操作量又は前記第2バルブの開度である制御量と、目標量との偏差が小さくなるように、前記第1バルブを制御する第1バルブ制御器と、を備えた流体制御装置であれば、流量、圧力、あるいは濃度といった流体の物理量を設定量と一致するように制御しつつ、第2バルブの開度を所望の開度で維持し続けて、流体センサを動作させるのに適した圧力を保つ事が可能となる。したがって、制御の対象となる物理量の種類に関わらず、制御精度を従来よりも向上させることが可能となる。
【0021】
例えばチャンバ内にガスを供給してプラズマを形成するようなプロセスの場合、チャンバ内でプロセスが休止している期間でも最低限のプラズマを生成し続ける。これは、チャンバ内の不純物等が空中に浮いた状態を維持し、基板には不純物が堆積しないようにするためである。このため、プロセス中には所定流量のガスをチャンバに供給しておき、休止期間に入るとガスの流量をプラズマが維持されるような最低限度の維持流量まで減少させて維持される。
【0022】
ところで、流量センサと、前記流量センサの下流側に設けられた制御バルブと、流量センサの測定流量と設定流量の偏差に基づいて制御バルブを制御する流量制御器とを備えた流量制御装置において、上記のような流量制御を実現するために前記流量制御器に対してステップ状に流量値が大きく低下する設定流量を設定し、維持流量に相当する前記制御バルブの開度が全閉に近い開度の場合には、瞬間的にチャンバ内にはガスが供給されていない状況が発生する可能性がある。
【0023】
具体的には前記流量センサは前記制御バルブの上流側に存在するため、前記制御バルブを実際に通過しているガスの流量に対して時間遅れが発生している。このため、前記流量制御器が維持流量を実現するために前記制御バルブの開度を小さくし、ある時点で前記制御バルブが維持流量を実現するのに適した開度となっていても前記流量センサは維持流量よりも大きい測定流量を出力することになる。そして、流量制御器は測定流量と設定流量の偏差を解消するために、さらに前記制御バルブの開度を小さくするので、前記制御バルブが全閉となってしまう可能性がある。すなわち、
図7のグラフに示すように前記流量センサの出力はゼロとなっていなくても、前記制御バルブの開度はゼロとなっているので、実際には
図8に示すように前記制御バルブの下流側にはガスは流れておらず、チャンバにおいてプラズマを維持できない状態になってしまう。
【0024】
このような問題を解決するには、流路に設けられ、当該流路を流れる流体の流量に応じた出力信号を出力するセンシング機構と、前記センシング機構の出力信号の示す測定値と、前記測定値に応じた流量特性値とに基づいて前記流量を算出する流量算出部と、を具備する流量センサと、前記流量センサの上流側又は下流側に設けられた制御バルブと、前記流量センサで測定される測定流量と、設定流量との偏差が小さくなるように前記制御バルブを制御する流量制御器と、指令流量に対して前記センシング機構の出力信号の示す測定値に応じた時間遅れを付与した前記設定流量を前記流量制御器に設定するリファレンスガバナと、を備えた流量制御装置を用いれば良い。
【0025】
このようなものであれば、前記リファレンスガバナが前記センシング機構の出力信号の示す測定に応じた時間遅れを付与して前記設定流量を前記流量制御器に設定するので、前記設定流量には前記流量センサの時間遅れを反映させることができる。したがって、前記流量センサの時間遅れによる測定流量と設定流量との偏差が発生しにくいため、前記流量制御器が全閉に近い開度に相当する流量を実現しようとする場合でも、前記制御バルブが全閉となるまで制御されるのを防ぐことができる。
【0026】
また、前記リファレンスガバナは前記センシング機構の出力信号の示す測定値に応じて前記設定流量に時間遅れを付与するので、例えば流量の大きさの違いにより前記流量センサに現れる時間遅れの大きさの違いも正確に反映させることができる。このため、一定の時間遅れが設定流量に対してそのまま与えられる場合と比較して、前記流量センサの時間遅れに起因する偏差を発生しにくくし、前記制御バルブが全閉となって低流量での流体の供給が途切れてしまうのを防ぐことができる。
【0027】
前記リファレンスガバナによって、前記設定流量に前記流量センサの時間遅れを正確に反映させるための具体的な構成例としては、前記センシング機構が、流体抵抗と、前記流体抵抗の上流側に設けられた第1圧力センサと、前記流体抵抗と下流側に設けられた第2圧力センサと、を具備し、前記流量算出部が、前記第1圧力センサ及び前記第2圧力センサの出力信号の示す測定値である第1圧力及び第2圧力に基づいて、前記流量特性値である流路抵抗を決定する係数決定部と、前記第1圧力、前記第2圧力、及び、前記流路抵抗に基づいて前記流量を算出する出力部と、を具備し、前記リファレンスガバナが、前記係数決定部で決定される前記流路抵抗と、前記指令流量に基づいて前記設定流量を算出し、前記流量制御器に当該設定流量を設定するように構成されたものが挙げられる。
【0028】
流路に設けられた第1バルブと、前記流路において前記第1バルブよりも下流側に設けられた第2バルブと、前記流路において前記第1バルブと前記第2バルブの間に設けられた流体抵抗と、前記流路において前記第1バルブと前記流体抵抗との間の容積である第1容積内の圧力を測定する第1圧力センサと、前記流路において前記流体抵抗と前記第2バルブとの間の容積である第2容積内の圧力を測定する第2圧力センサと、前記第1圧力センサで測定される第1圧力と前記第2圧力センサで測定される第2圧力に基づいて、前記流体抵抗を流れる流体の流量を算出する流量算出部と、を備えた流量制御装置において、前記第1容積の大きさについて正確に同定できるようにし、製造誤差等があったとしても前記第1容積の大きさから定められる各種パラメータを機器ごとに適切に設定して流量制御の精度をさらに向上させられるようにするには、前記第1容積又は前記第2容積の容積について診断する診断器と、を備え、前記診断器が、前記第1バルブが開放され、前記第2バルブが閉止されている状態において、所定期間に亘って前記流量算出部が算出する流量の積算値と、前記所定期間における前記第1圧力の変化量とに基づいて前記第1容積の大きさを算出するものであればよい。
【0029】
前記第2容積の大きさについても正確に同定できるようにするには、前記診断器が、前記第2バルブが開放され、前記第1バルブが閉止されている状態において、所定期間に亘って前記流量算出部が算出する流量の積算値と、前記所定期間における前記第2圧力の変化量とに基づいて前記第2容積の大きさを算出するものであればよい。
【0030】
大きさを同定した容積内への流体の流出又は流入が安定した状態となっており、同定誤差を発生しにくくするには、前記所定期間が、前記第1圧力と前記第2圧力の差の絶対値が最大となってから前記第1圧力と前記第2圧力が等しくなるまでの期間であればよい。
【0031】
同定された前記第1容積及び前記第2容積の大きさについて、別の方法でその正しいを検定できるようにするには、前記診断器が、前記所定期間の開始時点における前記第1圧力と前記所定期間の終了時点における前記第1圧力の差と、前記所定期間の開始時点における前記第2圧力と前記所定期間の終了時点における前記第2圧力の差に基づいて、前記第1容積と前記第2容積との間の容積比を算出するものが挙げられる。
【発明の効果】
【0032】
このように本発明に係る流量制御装置であれば、前記第2バルブが流量フィードバックにより制御され、前記第2バルブの上流側にある前記第1バルブが前記第2バルブの開度に関連する制御量が目標量と一致するように制御することにより、小流量を流す場合には流量センサの感度や測定精度が発揮されるような低圧を実現しつつ、大流量を流す場合には各種圧損や下流側の圧力を上回れるような圧力差を実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態における流量制御装置を示す模式図。
【
図2】同実施形態における流量制御装置の流量制御と第2バルブの開度維持に関連する構成を示した模式図。
【
図3】同実施形態における流量制御装置の第1バルブと第2バルブの動作を示す模式的グラフ。
【
図4】同実施形態における流量制御装置のリファレンスガバナに関連する構成を示した模式図。
【
図5】従来の流量制御装置における第1バルブと第2バルブの制御例を示す模式図。
【
図6】圧力式の流量センサにおける絶対圧に対する感度変化を示す流量-差圧のグラフ。
【
図7】従来の流量制御装置における第1バルブ及び第2バルブの開度変化を示す模式図。
【
図8】従来の流量制御装置における流量変化の例を示す模式図。
【
図9】本発明のその他の実施形態における流量制御装置を示す模式図。
【
図10】同定される第1容積又は第2容積のズレを示す模式図。
【
図11】プロセス停止時等に実施される第2容積の同定に関する動作を示すフローチャート。
【
図12】プロセス停止時等に実施される第1容積の同定に関する動作を示すフローチャート。
【
図13】プロセス中においてガスの供給が停止される場合等に実施される容積比、第1容積、及び、第2容積の同定に関する動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1実施形態における流量制御装置100について
図1乃至
図4を参照しながら説明する。
【0035】
一実施形態の流量制御装置100は、例えば半導体製造プロセスにおいてプラズマが生成されるチャンバ内に反応性ガスを予め定められた設定流量で供給するために用いられるものである。具体的にはこの流量制御装置100は、チャンバ内でドライエッチングを進行させるプロセス期間中は所定流量の反応性ガスを供給する。また、この流量制御装置100は、プロセスの休止期間中にはチャンバ内にプラズマを維持するために必要最小限の流量である維持流量で供給する。維持流量は、例えばチャンバ内に微粒子(ダスト)によりクーロン結晶が形成され、チャンバ内の基板に微粒子が休止期間中に堆積しないようにできる反応性ガスの流量となる。
【0036】
図1に示すように流量制御装置100は、流路に設けられたセンサ、バルブからなる流体機器と、当該流体機器の制御を司る制御演算機構COMと、を備えている。
【0037】
流体機器は、流路に対して設けられた、供給圧センサP0、第1バルブV1、第1圧力センサP1、流体抵抗FR、第2圧力センサP2、第2バルブV2からなる。各機器は上流側からこの順番で設けられている。
【0038】
ここで、流体抵抗FRは層流素子であり、その前後の差圧に応じて当該流体抵抗FR内に流れるガスの流量が生じる。第1圧力センサP1、流体抵抗FR、第2圧力センサP2、及び、後述する流量算出部FCは第1バルブV1と第2バルブV2との間の流路を流れる流体の流量を測定する流量センサFSを構成する。すなわち、第1圧力センサP1、流体抵抗FR、及び、第2圧力センサP2は流路に流れる流体の流量に応じた出力信号を出力するセンシング機構SMであり、流量算出部FCはセンシング機構SMの出力信号に基づいて流路を流れている流体の流量を算出する。この流量センサFSはいわゆる圧力式の流量センサであるため、各圧力センサで測定される圧力が低いほど測定される流量の測定精度が高くなる特性を有している。本実施形態では流量制御装置100の設けられている流路は真空引きされているチャンバに接続されている。したがって、第1バルブV1及び第2バルブV2との間の容積内の圧力を所定値以下に低下させるには、第1バルブV1は全閉側の開度に保ち流入する流体の量を減らし、第2バルブV2を所定開度に以上に保ち、容積内の流体が第2バルブV2を通過しやすくすればよい。
【0039】
供給圧センサP0は、上流側から供給されるガスの圧力をモニタリングするためのものである。なお、供給圧センサP0については供給圧が安定していることが保証されている場合等には省略してもよい。
【0040】
第1圧力センサP1は、流路において第1バルブV1と流体抵抗FRとの間における容積である第1容積VL1内にチャージされているガスの圧力(以下、第1圧力とも言う。)を測定するものである。
【0041】
第2圧力センサP2は、流路において流体抵抗FRと第2バルブV2との間における容積である第2容積VL2にチャージされているガスの圧力(以下、第2圧力とも言う。)を測定するものである。
【0042】
このように第1圧力センサP1と第2圧力センサP2は、第1バルブV1、流体抵抗FR、第2バルブV2で形成される2つの容積である第1容積VL1、第2容積VL2の圧力をそれぞれ測定している。また、別の表現をすると、第1圧力センサP1と第2圧力センサP2は、流体抵抗FRの前後に配置されたそれぞれの容積内の圧力を測定するものである。
【0043】
第1バルブV1、及び、第2バルブV2は、この実施形態では同型のものであり、例えばピエゾ素子によって弁体が弁座に対して駆動されるピエゾバルブである。なお、第2バルブV2は請求項における制御バルブにも相当する。この実施形態では第2バルブV2が流量センサの測定流量による流量フィードバック制御によってその開度が制御される。一方、第1バルブV1は第2バルブV2に印加されている電圧がフィードバックされ、その電圧が予め定めた一定値となるようにその開度が制御される。すなわち、第1バルブV1に対しては自身とは異なるバルブに印加されている電圧の情報がフィードバックされて、その開度が制御される。
【0044】
次に制御演算機構COMについて詳述する。制御演算機構COMは、例えばCPU、メモリ、A/D・D/Aコンバータ、入出力手段等を具備するいわゆるコンピュータであって、メモリに格納されている流体制御装置用プログラムが実行されて各種機器が協業することにより、流量算出部FC、流量制御器1、第1バルブ制御器2、リファレンスガバナ3としての機能を少なくとも発揮する。
【0045】
流量算出部FCは、センシング機構SMの出力信号の示す測定値と、測定値に応じた流量特性値とに基づいて流量を算出する。具体的には流量算出部FCは、センシング機構SMの出力信号の示す測定値である流体抵抗FRの上流側の圧力である第1圧力と下流側の圧力である第2圧力に基づいて、流体抵抗FR内を流れている流体の流量を算出する。ここで、流量算出部FCは、第1圧力と第2圧力だけでなく、流体抵抗FRの特性に応じて定まる流量特性値に基づいて流量を算出する。
【0046】
すなわち、流量算出部FCは、第1圧力、及び、第2圧力に基づいて流量特性値である流路抵抗を決定する係数決定部FC1と、第1圧力、第2圧力、流路抵抗とに基づいて流量を算出し流量制御器1に出力する出力部FC2とからなる。
【0047】
出力部FC2は、例えば流量をQ、流路抵抗をR、第1圧力をP1、第2圧力をP2とした場合にQ=(P1-P2)/Rの式に基づいて流量を算出する。ここで、流路抵抗Rは第1圧力P1及び第2圧力P2の影響を受けて変化する。
【0048】
係数決定部FC1は、例えば第1圧力P1と、第1圧力P1と第2圧力P2の差圧ΔPから流量特性値である流路抵抗Rを決定する。係数決定部FC1は、例えば流路抵抗Rを第1圧力P1、と差圧をパラメータとする多変数関数から算出するように構成してもよいし、予め実験等により決定した流路抵抗R、第1圧力、差圧のテーブルを参照して流路抵抗Rを決定するように構成してもよい。
【0049】
流量制御器1は、リファレンスガバナ3により設定される設定流量と、流量センサで測定されている測定流量との偏差が小さくなるように例えばPID制御によって第2バルブV2に入力される操作量である印加電圧を流量フィードバック制御する。
【0050】
この実施形態では設定流量は、ユーザによって例えばステップ関数や折れ線関数等として入力される指令流量がリファレンスガバナ3によって、流量センサの測定流量の時間遅れが反映された連続関数に変換されたものである。
【0051】
第1バルブ制御器2は、第2バルブV2に入力される操作量である印加電圧を制御量とし、当該制御量と目標量との偏差が小さくなるように前記第1バルブV1への印加電圧を制御する。ここで、目標量は例えばユーザによって設定される値であり、第2バルブV2において維持し続けたい開度に相当する維持電圧値である。本実施形態では維持電圧値に相当する開度は、第2バルブV2の全開側の開度であり、チャンバからの真空引きにより第1バルブV1と第2バルブV2との間の容積が、流量センサの動作に適した所定圧力以下の状態が実現される。また、維持電圧値は定数であり、常に一定の値として設定される。通常第1バルブV1の開度を制御するのであれば、第1バルブV1に関する情報、あるいは、第1バルブV1によって直接的に操作される流量の物理量をフィードバックして制御するところ、第1バルブ制御器2は第2バルブV2に関する情報をフィードバックして第1バルブV1の開度を制御する。
【0052】
より具体的には第1バルブ制御器2は、第2バルブV2が目標の開度で維持されるように第2バルブV2への印加電圧の大きさに応じて、流量センサ及び第2バルブV2へと供給される流体の流量を変化させる。つまり、第1バルブ制御器2は、維持電圧値に対して第2バルブV2への印加電圧が小さくなっており、第2バルブV2の開度が目標の開度よりも小さくなっている場合には、第2バルブV2への流体の供給量を減らすように第1バルブV1への印加電圧を減少させて、第1バルブV1の開度を小さくする。逆に第2バルブV2の開度が目標の開度よりも大きくなっている場合には、第2バルブV2への流体の供給量を増やすように第1バルブV1への印加電圧を増加させて、第1バルブV1の開度を大きくする。
【0053】
ここで、このように構成された流量制御器1と第1バルブ制御器2とが協調してどのように動作するかについて
図2及び
図3を参照しながら説明する。この説明では簡単のため、
図2に示すようにリファレンスガバナ3の影響については省略してある。また、設定流量については
図3に示すようにプロセス期間中の所定の流量から休止期間中の維持流量へと折れ線関数で変化する場合を例としており、グラフには第1バルブV1及び第2バルブV2への印加電圧の時間変化が示してある。
【0054】
プロセス期間中において所定の流量で安定供給されている間は、第1バルブV1への印加電圧V1及び第2バルブV2への印加電圧V2はそれぞれほぼ一定値で安定する。この期間における第2バルブV2への印加電圧V2の値は、第1バルブ制御器2に入力されている目標量の維持電圧値とほぼ一致する。
【0055】
次にプロセス期間と休止期間との間の遷移期間では、流量制御器1に入力されている設定流量は所定の流量から維持流量へと短時間で大きく変化するので、流量センサの出力する測定流量よりも設定流量のほうが小さくなり、偏差が発生する。このため、流量制御器1は測定流量が小さくなるように第2バルブV2の開度が小さくなるように印加電圧V2を低下させていく。
【0056】
図3に示すように遷移期間において第2バルブV2への印加電圧V2が変化すると、目標量である維持電圧値よりも制御量である印加電圧V2が小さくなり偏差が発生する。したがって、第1バルブ制御器2はこの偏差を解消するために、第1バルブV1への印加電圧V1を低下させて、第1バルブV1の開度を小さくして、第2バルブV2への流体の供給量を減少させ始める。
【0057】
休止期間の初期においては、第1バルブV1からの流体の供給が減少すると、流量センサで測定される測定流量も減少するので、維持流量よりも測定流量が小さくなり偏差が生じる。このため、流量制御器1は前記第2バルブV2を通過する流体の流量を増加させるために第2バルブV2の開度を大きくして、測定流量を維持流量に戻そうとする。また、第2バルブV2の印加電圧V2は維持電圧よりも小さい状態は維持されているので、第1バルブ制御器2は引き続き、第1バルブV1への印加電圧V1を低下させて、第2バルブV2への流体の供給量を減少させ続ける。このような動作が制御周期ごとに繰り返されることにより、第2バルブV2への印加電圧V2は上昇し続け、第1バルブV1への印加電圧V1は低下し続けることになる。このような傾向は最終的に第2バルブV2への印加電圧V2が目標である維持電圧と一致するまで継続されることになる。最終的には、第2バルブV2への印加電圧V2は維持電圧で保たれ、第1バルブV1への印加電圧V1は第2バルブV2の印加電圧V2が目標である維持電圧と一致した時点の電圧で一定に保たれる。
【0058】
このように休止期間の初期では第2バルブV2の開度が全閉近傍に変化することにより維持流量が実現され、その後は第1バルブV1の開度が徐々に小さく変更されるのに対応して、第2バルブV2の開度が徐々に大きく変更される。このため、第1バルブV1と第2バルブV2の開度がそれぞれ変更されても第2バルブV2から流出する流体の流量は維持流量で保たれる。このようにして、設定流量に変化がある場合でも最終的には第2バルブV2の開度は目標量である維持電圧値に収束することになる。また、小流量を流す場合には、流量センサFSの設けられている容積の圧力は感度や測定精度が最も良くなる圧力まで低下させることができる。一方、大流量を流す場合には、第1バルブV1の開度は大きい状態に保たれ、流体の流入が増加するので、第1圧力の値を流体抵抗FRである層流素子や第2バルブV2の圧損、及び、第2バルブV2の下流側の圧力を上回るようにして、大流量を実現できる。
【0059】
次にリファレンスガバナ3について
図1及び
図4を参照しながら説明する。
【0060】
リファレンスガバナ3は、ユーザにより入力される指令流量に対してセンシング機構SMの出力信号の示す測定値に応じた時間遅れを付与した設定流量を流量制御器1に設定する。具体的には
図1に示すようにリファレンスガバナ3には各制御周期において流量センサの流量算出部FCで使用されている流量特性値が逐次フィードバックされる。リファレンスガバナ3は、フィードバックされた流量特性値に応じた係数を使用して指令流量から設定流量を算出し、流量制御器1に対して入力する。
【0061】
具体的には
図4に示すようにリファレンスガバナ3は、流路抵抗をR、流量センサが測定対象とする容積をVとした場合に、1/(1+RVs)として表現される一時遅れ要素として作用するものである。ここで、Rは定数ではなく、第1圧力P
1と、第1圧力と第2圧力の差圧ΔPをパラメータとする変数である。このように指令流量に対して一時遅れ要素としてリファレンスガバナ3が作用すると、出力される設定流量には流量センサの時間遅れが反映されたものとなる。すなわち、第2バルブV2の上流側に流量センサが設けられているので、容積分だけ第2バルブV2に流れている流量に対して流量センサの測定流量には所定の時間遅れが第1圧力P
1と差圧ΔPに応じて発生している。本実施形態ではリファレンスガバナ3によって設定流量にもこのような流量センサにおける時間遅れが反映された値が入力されている。この結果、設定流量が所定の値から維持流量のような全閉に近い開度に相当する流量に変更されたとしても、流量制御器1において過剰な偏差が発生するのを防ぎ、瞬間的に第2バルブV2が全閉されてしまうのを防ぐことができる。したがって、休止期間においてプラズマを生成し続けるのに必要な最低限の流量を途切れることなく供給することが可能となる。
【0062】
このように本実施形態の流量制御装置100によれば、流量制御器1と第1バルブ制御器2の制御によって、設定流量に変化があったとしても第2バルブV2の開度は維持電圧に相当する全開側の開度で一定に保つことができる。したがって、流量制御装置100における下流側から十分な量の流体を排気し、流量センサのセンシング機構SMにおける圧力を測定精度が発揮される低圧に保つ事が可能となる。このため、流量制御装置100としての流量精度を従来よりも向上させることができる。また、大流量を流す場合には第1バルブV1の開度が大きくなるように変更され、流体の流入が増加し、大流量を実現するのに必要な差圧も実現できる。すなわち、本実施形態の流量制御装置100は、小流量を流す場合は低圧状態を実現でき、大流量を流す場合には高圧状態を実現できるので、小流量での流量制御精度と大流量の供給能力を両立させることができる。
【0063】
さらに、リファレンスガバナ3によって設定される設定流量は、第1圧力、第2圧力の影響を受ける流量センサの時間遅れについても忠実に再現しているので、設定流量が大きく変化する場合でも流量制御器1に過大な偏差が瞬間的に発生して全閉状態が発生するのを防ぐことができる。このため、プロセスの休止期間中において維持流量を実現するために第2バルブV2が閉じられていく場合に、瞬間的に全閉となるのを防ぐことができる。したがって、チャンバ内には常にプラズマを生成するのに必要な反応性ガスを供給し続けることができ、チャンバ内の微粒子等が基板に堆積するのを防ぐことができる。
【0064】
本発明のその他の実施形態における流量制御装置について説明する。
【0065】
図9に示す流量制御装置100は、第1容積VL1及び第2容積VL2の大きさを流量センサFSの各出力に基づいて同定する診断器Dを備えたものである。なお、
図9では前述した実施形態において説明した流量制御に関連する流量制御器1、第1バルブ制御器2、リファレンスガバナ3については省略表記している。また、この実施形態の診断器Dは、流路に対して第1バルブV1、第1圧力センサP1、流体抵抗FR、第2圧力センサP2、第2バルブV2がこの順番で設けられている流量制御装置100を診断対象としている。
【0066】
図9に示す診断器Dは、第1バルブV1と流量センサFSの一部である流体抵抗FRとの間に形成される内部空間である第1容積VL1及び第2容積VL2の大きさについて、第1圧力センサP1、第2圧力センサP2、流量センサFS、及び、図示しない温度センサの出力に基づいて同定する。ここで、流体抵抗FRは、
図10に示すように微細な溝が形成された流れ方向に沿って形成されたプレートPLを積層した層流素子である。第1容積VL1、及び、第2容積VL2の大きさは、
図10に示すように流体抵抗FRに関連する各種パラメータによって設計値からばらつきが発生する。すなわち、従来であれば流体抵抗FRの上流側端面において層流が成立すると考えられていたため、流体抵抗FRの下流端面は設計上の流体抵抗FRの上流端位置を基準として算出されていた。しかしながら、実際には流体抵抗FRの位置は加工機差等により設計上の位置からずれているととともに、層流LFが形成される面LF1も流体抵抗FRの端面よりも一定距離内側から発生する。このため、流体抵抗FRの設計上の端面位置及びシール面SLで第1容積VL1の大きさを算出すると実際の値からずれが生じていることを本願発明者らは見出した。また、同様に第2容積VL2の大きさも流体抵抗FRの下流側端面の位置ずれや、層流LFが最終的に破壊される面LF2が流体抵抗FRの外側に発生すること等により設計上の大きさからはずれが生じている。
【0067】
診断器Dは、例えば流量制御装置100において用いられる制御モデルの精度を向上させるために、上述したような第1容積VL1、第2容積VL2の大きさのずれを低減する。具体的に診断器Dは、
図9に示すように少なくとも診断動作制御部D1、第1容積算出部D2、第2容積算出部D3、容積比算出部D4、校正部D5としての機能を備えたものである。以下では
図11、
図12、
図13のフローチャートを参照しながら各部の構成及び動作について詳述する。
【0068】
最初に
図11に示すフローチャートに基づいて第2容積VL2の大きさの同定手順に基づいて説明する。なお、
図11に示す第2容積VL2の同定手順は、流量制御装置100によるチャンバへの各種ガスの供給が行われるプロセス期間中ではなく、例えばチャンバへの各種ガスの供給が停止されている休止期間中に実施される。
【0069】
まず、診断動作制御部D1は第1バルブV1を全閉状態に制御するとともに、第2バルブV2については全開状態に制御する。このように下流側にある第2バルブV2のみを全開状態に保ち、流量制御装置100内の第1容積VL1及び第2容積VL2のガス例えば排気流路等へ排気する(ステップS1)。
【0070】
次に診断動作制御部D1は第1バルブV1を全開状態に制御するとともに、第2バルブV2については全閉状態に制御する。すなわち、上流側にある第1バルブV1のみを開放した状態にすることで、流量制御装置100内の第1容積VL1及び第2容積VL2内にガスを充填して、昇圧を開始する(ステップS2)。
【0071】
また、ガスの充填が開始された時点から、第2容積算出部D3は、第1圧力センサP1及び第2圧力センサP2による各容積内の圧力の測定を開始する(ステップS3)。
【0072】
第2容積算出部D3は、第1圧力センサP1及び第2圧力センサP2で測定される各圧力の圧力差が最大となったかどうかについて判定し(ステップS4)、圧力差が最大となった時点からは第2容積算出部D3は、流量センサFSが出力する流量の積算を開始する(ステップS5)。第2容積算出部D3は、第1容積VL1及び第2容積VL2に十分な量のガスがチャージされ、第1圧力センサP1及び第2圧力センサP2で測定される各圧力が高圧側でほぼ等しくなったかどうかについて判定し(ステップS6)、各圧力が等しくなった時点で第2容積算出部D3は質量流量の積算を終了する(ステップS7)。最後に第2容積算出部D3は、算出された積算流量nを積算期間の間における第2圧力センサP2で測定される第2圧力の変化量ΔP2で割って、第2容積VL2の大きさを同定する(ステップS8)。
【0073】
上記の手順で第2容積VL2を算出できる根拠は以下の通りである。流体抵抗FRを通過して第2容積VL2に流入したガスの流量の積算値は、流量の積算を行った所定期間内に流入したガスのモル数の変化量に相当するので、第2容積VL2に流入したガスについて気体の状態方程式を当てはめると、ΔP2・VL2=nRGTとなる。ここでnは流量の積算値であり、RGは気体定数、Tはガスの温度であり、所定期間中は一定温度として扱う。この気体の状態方程式を変形すれば、VL2=(nRGT)/ΔP2であることが分かる。
【0074】
次に
図12に示すフローチャートに基づいて第1容積VL1の大きさの同定手順に基づいて説明する。なお、
図12に示す第1容積VL1の同定手順は、流量制御装置100によるチャンバへの各種ガスの供給が行われるプロセス期間中ではなく、例えばチャンバへの各種ガスの供給が停止されている休止期間中に実施される。また、第2容積VL2の同定では昇圧過程におけるガスの圧力と流量の変化を利用したが、第1容積VL1の同定では減圧過程におけるガスの圧力と流量の変化を利用する。
【0075】
まず、診断動作制御部D1は第1バルブV1を全開状態に制御するとともに、第2バルブV2を全閉状態に制御し、第1容積VL1及び第2容積VL2内の各圧力がほぼ平衡となるまで待機する(ステップST1)。次に診断動作制御部D1は第1バルブV1を全閉状態に制御するとともに、第2バルブV2を全開状態に制御し、第1容積VL1及び第2容積VL2からガスを排気させ、減圧を開始する(ステップST2)。
【0076】
また、第2バルブV2が開放された時点から、第1容積算出部D2は、第1圧力センサP1及び第2圧力センサP2による各容積内の圧力の測定を開始する(ステップST3)。
【0077】
第1容積算出部D2は、第1圧力センサP1及び第2圧力センサP2で測定される各圧力の圧力差が最大となったかどうかについて判定する(ステップST4)。圧力差が最大となった時点で第1容積算出部D2は、流量センサFSの出力する流量の積算を開始する(ステップST5)。
【0078】
次に第1容積算出部D2は、第1容積VL1及び第2容積VL2から十分に排気され、第1圧力センサP1及び第2圧力センサP2で測定される各圧力が低圧側でほぼ等しくなったかどうかについて判定し(ステップST6)、各圧力が等しくなった時点で第1容積算出部D2は質量流量の積算を終了する(ステップST7)。最後に、第1容積算出部D2は、算出された積算流量nを積算期間において第1圧力センサP1で測定される第1圧力の変化量ΔP1で割って、第1容積VL1の大きさを同定する(ステップST8)。具体的には第1容積算出部D2は、第2容積算出部D3と同様に気体の状態方程式から導出されるVL1=(nRGT)/ΔP1に基づいて第1容積VL1の大きさを同定する。ここで、nは流量の積算値であり、RGは気体定数、Tはガスの温度であり、所定期間中は一定温度として扱っている。
【0079】
次に容積比算出部D4による第1容積VL1と第2容積VL2の容積比の算出手順について
図13のフローチャートを参照しながら説明する。なお、
図13に示す手順は
図11及び
図12とは異なり、休止期間中ではなく、チャンバ内に各種ガスが供給されるプロセス期間中においても実施可能なものである。
【0080】
まず、第1バルブV1及び第2バルブV2が前述した実施形態において説明した第1バルブ制御器2及び流量制御器1による通常の流量制御が行われている状態から(ステップSP1)、診断動作制御部D1は、第1バルブV1を全閉状態に制御するとともに、第2バルブV2を全閉状態に制御する(ステップSP2)。なお、ステップSP2については診断動作制御部D1が各バルブを制御した結果ではなく、プロセス期間中に設定流量がゼロとなっている場合や、全閉指令が各バルブの制御器に入力されている結果、生じたものであってもよい。また、並行して第1圧力センサP1及び第2圧力センサP2による圧力測定が開始され(ステップSP3)、各圧力センサで測定される初期圧力について容積比算出部D4は記憶する(ステップSP4)。さらに第1容積算出部D2、及び、第2容積算出部D3は流体抵抗FRを流れるガスの流量である流量センサFSの出力する流量の積算を開始する(ステップSP5)。ここで、流量制御状態から各バルブが全閉された直後の状態では、流量制御装置100内には圧力差が存在し、第1圧力の方が第2圧力よりも高圧の状態となっている。
【0081】
容積比算出部D4は、第1圧力センサP1及び第2圧力センサP2の測定する圧力がほぼ等しくなったかどうかをについて判定する(ステップSP6)。第1圧力が低下し、第2圧力が上昇することで、各圧力がほぼ等しくなると、容積比算出部D4はその圧力を平衡点圧力として記憶するとともに(ステップSP7)、第1容積算出部D2、及び、第2容積算出部D3は流量センサFRの出力する流量の積算を終了する(ステップSP8)。
【0082】
容積比算出部D4は、記憶している各初期圧力と平衡点圧力に基づいて第1容積VL1及び第2容積VL2の比を算出する(ステップSP9)。具体的には、第1圧力センサP1で測定された初期圧力をP1S、第2圧力センサP2で測定された初期圧力をP2S、平衡点圧力をPEとすると、P1S-PE:PE-P2S=VL1:VL2に基づいて第1容積VL1と第2容積VL2の容積比VL1:VL2を算出することができる。
【0083】
また、第1容積算出部D2は積算流量nをP1S-PEで割って第1容積VL1の大きさを算出する(ステップSP10)。同様に第2容積算出部D3は積算流量nをPE-P2Sで割って第2容積VL2の大きさを算出する(ステップSP11)。より具体的にはRGは気体定数、Tはガスの温度とした場合にVL1=(nRGT)/(P1S-PE)、VL2=(nRGT)/(PE-P2S)に基づいて第1容積VL1及び第2容積VL2の大きさは算出される。
【0084】
さらに第1容積算出部D2、第2容積算出部D3、容積比算出部D4から算出される第1容積VL1及び第2容積VL2の大きさや比に基づいて、校正部D5は流量センサFRにおいて使用されている流量の算出のためのパラメータを校正したり、第1バルブ制御器2又は流量制御器1において使用されている各種パラメータを校正したりする。
【0085】
このように
図9乃至
図13に基づいて説明した流量制御装置100であれば、第1容積VL1及び第2容積VL2の大きさや比について流体抵抗FRの加工誤差等の器差や実際に層流が形成される面の位置のズレを反映した値で同定できる。したがって、第1容積VL1及び第2容積VL2がガスに対して作用する大きさを正確に得られるので、流量の算出や流量制御に用いられる各種パラメータの設定をより正確に行う事が可能となる。このため、より正確で精度の高い流量制御を実現できるようになる。
【0086】
なお、
図11乃至
図13において示した手順において流量の積分値を求める区間の開始点、終了点については前述したものに限られない。例えば各圧力の差圧が最大となってから所定時間経過後から、各圧力が平衡となる所定時間前までの区間を積分区間に設定してもよい。すなわち、同定精度によっては区間をより短く設定しても構わない。
【0087】
前記実施形態では、第1バルブ制御部にフィードバックされるのは第2バルブへ入力される操作量である第2バルブへの印加電圧であったが、第2バルブに変位センサを設けて第2バルブの開度を測定できるように構成しておき、変位センサで測定される測定開度を制御量として第1バルブ制御器にフィードバックするようにしてもよい。この場合、第1バルブ制御器に入力される目標量は第2バルブにおいて維持したい開度の値そのものであればよい。
【0088】
前記実施形態から例えば
図2の模式図に示したようにリファレンスガバナを省略して構成してもよい。この場合ユーザにより設定される指令流量と設定流量は完全に一致することになる。逆に
図4の模式図に示したように第1バルブを省略して、流量センサ、第2バルブ(制御バルブ)、流量制御器、リファレンスガバナからなる流量制御装置として構成してもよい。また、
図4の模式図に示すように流量センサの下流側に制御バルブが配置されるものに限られず、制御バルブが流量センサの上流側に配置されるものであってもよい。上流側に流量が配置されている場合には、流量センサ自体の特性による時間遅れや、制御バルブにより流量センサが上流側に設けられていることによる位相進みの両方又は一方がリファレンスガバナによって流量制御器に反映されるようにしてもよい。
【0089】
また、流量センサの流量算出部において用いられる流量算出式についても前記実施形態において説明したものに限られない。例えば、第1圧力をP1と、第2圧力をP2、流路抵抗をRとした場合に、P1
2-P2
2と流路抵抗Rに基づいて流量を算出するようにしてもよい。また、係数決定部で決定される係数は流路抵抗Rに限られるものではなく、その他の種類の流量を算出するために必要で第1圧力又は第2圧力の影響を受けて変化するようなパラメータの値を決定してもよい。また、リファレンスガバナもこのようなパラメータを逐次フィードバックして流量制御器に対して流量センサにおける時間遅れを反映させるようにしてもよい。
【0090】
流量センサについては圧力式の流量センサに限られるものではなく、熱式や超音波式等の様々な方式のものであっても構わない。なお、流量センサの方式に応じて第2バルブにおいて維持し続けたい圧力が異なる場合には、第1バルブ制御器に入力される目標量を適宜変更し、流量センサにおいて維持したい圧力に応じた開度が第2バルブで実現されるようにすればよい。また、第1バルブ及び第2バルブについてもノーマルクローズタイプのものに限られず、ノーマルオープンタイプのものであってもよい。バルブのタイプに応じて電圧の印加方向が逆となるので、それに合わせて第1バルブ制御器に入力される目標量を設定すればよい。
【0091】
本発明は流量制御装置に限られるものではなく、例えば圧力制御装置、濃度制御装置に適用することも可能である。すなわち、第1バルブ及び第2バルブの協業によって第2バルブを通過する流体の圧力を設定圧力に一致させながら、第2バルブの開度については所望の開度に保ち続けられるようにしてもよい。あるいは、第1バルブ及び第2バルブの協業によって第2バルブを通過する流体の濃度を設定濃度に一致させながら、第2バルブの開度については所望の開度に保ち続けられるようにしてもよい。すなわち、本発明に係る流体制御装置は、流路に設けられた第1バルブと、前記流路において前記第1バルブよりも下流側に設けられた第2バルブと、前記第1バルブと前記第2バルブとの間の前記流路における流体の物理量を測定する流体センサと、前記流体センサで測定される測定量と設定量との偏差が小さくなるように、前記第2バルブに入力される操作量を制御する流体制御器と、前記第2バルブに入力される操作量又は前記第2バルブの開度である制御量と、目標量との偏差が小さくなるように、前記第1バルブを制御する第1バルブ制御器と、を備えたものであってもよい。ここで言う物理量とは例えば流量、圧力、濃度を含む概念である。また、流体センサは流体の流量、圧力、濃度のいずれかを測定するものである。
【0092】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や、各実施形態の一部同士を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0093】
100・・・流量制御装置
V1 ・・・第1バルブ
V2 ・・・第2バルブ(制御バルブ)
FS ・・・流量センサ(流体センサ)
SM ・・・センシング機構
FC ・・・流量算出部
FC1・・・係数決定部
FC2・・・出力部
P1 ・・・第1圧力センサ
P2 ・・・第2圧力センサ
1 ・・・流量制御器
2 ・・・第1バルブ制御器
3 ・・・リファレンスガバナ
D ・・・診断器
D1 ・・・診断動作制御部
D2 ・・・第1容積算出部
D3 ・・・第2容積算出部
D4 ・・・容積比算出部