(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151206
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】吸収性物品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 13/15 20060101AFI20241017BHJP
A61F 13/511 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
A61F13/15 142
A61F13/511 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064425
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】名村 有紗
(72)【発明者】
【氏名】植田 隆宏
【テーマコード(参考)】
3B200
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BA02
3B200BB01
3B200BB24
3B200DC02
3B200EA07
(57)【要約】
【課題】抗菌剤と有機溶媒とを含む抗菌液を備える吸収性物品において、尿や経血のような水分を含む体液と混合されても抗菌剤を結晶化させ難く、かつ、抗菌剤を体液と接触させ易くすることが可能な吸収性物品を提供する。
【解決手段】吸収性物品は、複数の繊維20を含むシート2と、シートに塗布された抗菌液10と、を備える。抗菌液は、有機性かつ親水性の抗菌剤と、親水性かつ不揮発性の有機溶媒と、を含む。抗菌液は、25℃での粘度が100~12000mPa・sであるか、又は、抗菌液は、複数の繊維の少なくとも二本の交差点20xに形成された交差点抗菌部10bと、複数の繊維の各々における複数の交差点から離間した位置に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部10aと、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維を含むシートと、前記シートに塗布された抗菌液と、を備える吸収性物品であって、
前記抗菌液は、
有機性かつ親水性の抗菌剤と、親水性かつ不揮発性の有機溶媒と、を含み、
25℃での粘度が100~12000mPa・sである、
吸収性物品。
【請求項2】
前記シートは、前記複数の繊維の各々のうちの少なくとも二本が互いに交差する複数の交差部を有し、
前記抗菌液は、
前記複数の交差点に形成された交差点抗菌部と、
前記複数の繊維の各々における前記複数の交差点から離間した位置に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部と、
を有する、
請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
複数の繊維を含むシートと、前記シートに塗布された抗菌液と、を備える吸収性物品であって、
前記シートは、前記複数の繊維の各々のうちの少なくとも二本が互いに交差する複数の交差部を有し、
前記抗菌液は、
有機性かつ親水性の抗菌剤と、親水性かつ不揮発性の有機溶媒と、を含み、
前記複数の交差点に形成された交差点抗菌部と、
前記複数の繊維の各々における前記複数の交差点から離間した位置に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部と、
を有する、
吸収性物品。
【請求項4】
前記シートは、前記吸収性物品の表面シートであり、
前記凸状抗菌部は、前記表面シートにおける肌面側よりも非肌面側に多く存在する、
請求項2又は3に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記シートよりも非肌面側に配置された吸収体を更に備え、
前記シートの肌面側から非肌面側に向かって前記吸収体に達する圧搾溝を有し、
前記圧搾溝の底面における前記シートよりも非肌面側に位置する前記抗菌液で形成された底面拡散抗菌部と、
前記圧搾溝の側面における前記シートよりも外側に位置する前記抗菌液で形成された側面拡散抗菌部と、
を更に備える、
請求項1又は3に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記抗菌剤の坪量は0.01~1.0g/m2である、
請求項1又は3に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記抗菌液は、0℃で24時間放置しても沈殿が生じない、
請求項1又は3に記載の吸収性物品。
【請求項8】
前記抗菌液において、前記有機溶媒を含む溶媒の質量は、前記抗菌剤の質量以上である、
請求項1又は3に記載の吸収性物品。
【請求項9】
複数の繊維を含むシートに、有機性かつ親水性の抗菌剤及び親水性かつ不揮発性の有機溶媒を含む抗菌液を塗布する工程と、
前記抗菌液を塗布された前記シートを用いて吸収性物品を製造する工程と、
を備え、
前記抗菌液は、25℃での粘度が100~12000mPa・sである、
吸収性物品の製造方法。
【請求項10】
複数の繊維を含むシートに、有機性かつ親水性の抗菌剤及び親水性かつ不揮発性の有機溶媒を含む抗菌液を塗布する工程と、
前記抗菌液を塗布された前記シートを用いて吸収性物品を製造する工程と、
を備え、
前記抗菌液は、
前記複数の交差点に形成された交差点抗菌部と、
前記複数の繊維の各々における前記複数の交差点から離間した位置に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部と、
を有する、
吸収性物品の製造方法。
【請求項11】
前記抗菌液は、0℃で24時間放置しても沈殿が生じない、
請求項9又は10に記載の吸収性物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品及びその製造方法に関し、特に、抗菌剤と有機溶媒とを含む抗菌液を備える吸収性物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌剤と有機溶媒とを含む抗菌液を備える吸収性物品が知られている。例えば、特許文献1には、有機性かつ疎水性の抗菌剤と、親水性かつ不揮発性の有機溶媒と、10質量%以下の水と、を含む吸収性物品用シートが開示されている。また、特許文献2には、複数の開孔を有する基材シートに、機能性材料(例えば、抗菌剤)及び親水性且つ不揮発性の有機溶媒を含む液を噴霧する工程を具備する吸収性物品用シートの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】特開2017-70515号公報
【非特許文献2】特開2022-114168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の吸収性物品では、シートに尿や経血のような水分を含む体液が放出されると、シートに含まれる抗菌液(抗菌剤と有機溶媒とを含む液)と体液が混ざり合うことになる。ところが、抗菌液に含まれる抗菌剤は、疎水性であるため、体液と混ざり合うと、凝集して結晶化し易くなる。結晶化した抗菌剤は、体液との接触面積が小さくなる等により、抗菌作用を十分に発揮できなくなるおそれがある。
【0005】
一方、特許文献2の吸収性物品では、抗菌液に含まれる抗菌剤が、親水性である場合には、体液と混ざり合っても、結晶化する可能性は低い。ところが、特許文献2では、抗菌液の拡散性の観点から、抗菌液の粘度を50mPa・sと低くしている。そのため、粘度が低い抗菌液は、基材シートの繊維上をその表面に沿って拡散し易くなるかもしれないが、重力により繊維から鉛直下方へ移動(又は落下)し易くなる。そうなると、抗菌液が意図した塗布位置と異なる位置に移動してしまい、体液と接触し得る抗菌剤が少なくなり、抗菌作用を十分に発揮できなくなるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、抗菌剤と有機溶媒とを含む抗菌液を備える吸収性物品において、尿や経血のような水分を含む体液と混合されても抗菌剤を結晶化させ難く、かつ、抗菌剤を体液と接触させ易くすることが可能な吸収性物品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、複数の繊維を含むシートと、前記シートに塗布された抗菌液と、を備える吸収性物品であって、前記抗菌液は、有機性かつ親水性の抗菌剤と、親水性かつ不揮発性の有機溶媒と、を含み、25℃での粘度が100~12000mPa・sである、吸収性物品、である。
【0008】
本発明の他の態様は、複数の繊維を含むシートと、前記シートに塗布された抗菌液と、を備える吸収性物品であって、前記シートは、前記複数の繊維の各々のうちの少なくとも二本が互いに交差する複数の交差部を有し、前記抗菌液は、有機性かつ親水性の抗菌剤と、親水性かつ不揮発性の有機溶媒と、を含み、前記複数の交差点に形成された交差点抗菌部と、前記複数の繊維の各々における前記複数の交差点から離間した位置に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部と、を有する、吸収性物品、である。
【0009】
本発明の更に他の態様は、複数の繊維を含むシートに、有機性かつ親水性の抗菌剤及び親水性かつ不揮発性の有機溶媒を含む抗菌液を塗布する工程と、前記抗菌液を塗布された前記シートを用いて吸収性物品を製造する工程と、を備え、前記抗菌液は、25℃での粘度が100~12000mPa・sである、吸収性物品の製造方法、である。
【0010】
本発明の更に他の態様は、複数の繊維を含むシートに、有機性かつ親水性の抗菌剤及び親水性かつ不揮発性の有機溶媒を含む抗菌液を塗布する工程と、前記抗菌液を塗布された前記シートを用いて吸収性物品を製造する工程と、を備え、前記抗菌液は、前記複数の交差点に形成された交差点抗菌部と、前記複数の繊維の各々における前記複数の交差点から離間した位置に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部と、を有する、吸収性物品の製造方法、である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抗菌剤と有機溶媒とを含む抗菌液を備える吸収性物品において、尿や経血のような水分を含む体液と混合されても抗菌剤を結晶化させ難く、かつ、抗菌剤を体液と接触させ易くすることが可能な吸収性物品及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る生理用ナプキンの構成例を示す模式図である。
【
図3】実施形態に係る生理用ナプキンの抗菌液の例を示す光学顕微鏡写真である。
【
図4】実施形態に係る生理用ナプキンの実施例及び比較例の抗菌液を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態は、以下の態様に関する。
[態様1]
複数の繊維を含むシートと、前記シートに塗布された抗菌液と、を備える吸収性物品であって、前記抗菌液は、有機性かつ親水性の抗菌剤と、親水性かつ不揮発性の有機溶媒と、を含み、25℃での粘度が100~12000mPa・sである、吸収性物品。
【0014】
本吸収性物品では、複数の繊維を含むシートに塗布された、有機性かつ親水性の抗菌剤及び親水性かつ不揮発性の有機溶媒を含む抗菌液における、25℃での粘度を100~12000mPa・sとしている。このように、抗菌剤を親水性にすることにより、尿や経血のような水分を含む体液に抗菌剤を馴染み易くすることができ、それにより、抗菌剤の結晶化を抑制できる。加えて、抗菌剤を不揮発性の有機溶媒と混在させることで、有機溶媒を揮発し難くすることができ、それにより、抗菌剤の結晶化をより抑制できる。更に、抗菌液の粘度を高くすることにより(100mPa・s以上)、抗菌液が重力により意図した塗布位置から移動することを抑制でき、すなわち、抗菌液を意図した塗布位置の繊維に多く留まらせることができ、それにより、抗菌剤と体液との接触を生じ易くすることができる。したがって、本吸収性物品において、尿や経血のような水分を含む体液と混合されても抗菌剤を結晶化させ難くでき、抗菌剤を体液と接触させ易くすることが可能となる。なお、抗菌液の粘度は、塗布が可能であれば特に上限は特にないが、12000mPa・s以下とすることで、使用者が粘性の高い抗菌液に対して覚える可能性のある違和感を低減できる。
【0015】
[態様2]
前記シートは、前記複数の繊維の各々のうちの少なくとも二本が互いに交差する複数の交差部を有し、前記抗菌液は、前記複数の交差点に形成された交差点抗菌部と、前記複数の繊維の各々における前記複数の交差点から離間した位置に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部と、を有する、態様1に記載の吸収性物品。
【0016】
本吸収性物品では、抗菌液は、少なくとも二本の繊維の交差点に形成された交差点抗菌部と、繊維における交差点から離間した位置に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部と、を有している。このように、抗菌液が、交差点抗菌部のほかに、繊維一本一本に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部を有しているので、体液と接触し得る抗菌液の表面積を増やすことができ、かつ、シートの繊維に抗菌液をより多く留まらせることができる。それにより、抗菌剤を体液とより接触させ易くすることができる。
【0017】
[態様3]
複数の繊維を含むシートと、前記シートに塗布された抗菌液と、を備える吸収性物品であって、前記シートは、前記複数の繊維の各々のうちの少なくとも二本が互いに交差する複数の交差部を有し、前記抗菌液は、有機性かつ親水性の抗菌剤と、親水性かつ不揮発性の有機溶媒と、を含み、前記複数の交差点に形成された交差点抗菌部と、前記複数の繊維の各々における前記複数の交差点から離間した位置に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部と、を有する、吸収性物品。
【0018】
本吸収性物品は、複数の繊維を含むシートを備え、そのシートに、有機性かつ親水性の抗菌剤及び親水性かつ不揮発性の有機溶媒を含む抗菌液が塗布され、その抗菌液は、少なくとも二本の繊維の交差点に形成された交差点抗菌部と、繊維における交差点から離間した位置に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部と、を有している。このように、抗菌剤を親水性にすることにより、尿や経血のような水分を含む体液に抗菌剤を馴染み易くすることができ、それにより、抗菌剤の結晶化を抑制できる。加えて、抗菌剤を不揮発性の有機溶媒と混在させることで、有機溶媒を揮発し難くすることができ、それにより、抗菌剤の結晶化をより抑制できる。更に、抗菌液が、交差点抗菌部のほかに、繊維一本一本に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部を有しているので、体液と接触し得る抗菌液の表面積を増やすことができ、かつ、シートの繊維に抗菌液をより多く留まらせることができる。それにより、抗菌剤を体液とより接触させ易くすることができる。したがって、本吸収性物品において、尿や経血のような水分を含む体液と混合されても抗菌剤を結晶化させ難くでき、抗菌剤を体液と接触させ易くすることが可能となる。
【0019】
[態様4]
前記シートは、前記吸収性物品の表面シートであり、前記凸状抗菌部は、前記表面シートにおける肌面側よりも非肌面側に多く存在する、態様2又は3に記載の吸収性物品。
【0020】
本吸収性物品では、表面シートに抗菌液が塗布されており、表面シートにおける非肌面側の凸状抗菌部は、肌面側の凸状抗菌部よりも多く存在している。このように、体液が直接排泄される表面シートに抗菌液を塗布することで、抗菌剤をより効果的に作用させることができる。その際、表面シートにおける非肌面側に凸状抗菌部が多く存在することで、吸収体からのリウェットにより体液が表面シートに戻ってきた際に、表面シートの非肌面側の凸状抗菌部に体液が触れ易くなるので、抗菌性を担保することができる。また、表面シートにおける肌面側に凸状抗菌部が少なく存在することで、抗菌剤の肌面への直接の接着を減らすことにより安全性を高めることができる。
【0021】
[態様5]
前記シートよりも非肌面側に配置された吸収体を更に備え、前記シートの肌面側から非肌面側に向かって前記吸収体に達する圧搾溝を有し、前記圧搾溝の底面における前記シートよりも非肌面側に位置する前記抗菌液で形成された底面拡散抗菌部と、前記圧搾溝の側面における前記シートよりも外側に位置する前記抗菌液で形成された側面拡散抗菌部と、を更に備える、態様1、3、4のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【0022】
本吸収性物品は、シートの肌面側から吸収体に達する圧搾溝を有しており、圧搾溝の底面のシートよりも非肌面側に位置する抗菌液で形成された底面拡散抗菌部と、圧搾溝の側面におけるシートよりも外側に位置する抗菌液で形成された側面拡散抗菌部と、を有している。圧搾溝では、体液は、集められつつ、圧搾溝に沿う方向に流通しながら、圧搾溝に交差する方向(底面の下側へ向かう方向及び側面の外側に向かう方向)に拡散する。その際、本吸収性物品は、体液が拡散する、底面の下側へ向かう方向及び側面の外側に向かう方向に、抗菌液で形成された底面拡散抗菌部及び側面拡散抗菌部を有している。そのため、集められた体液が拡散され到達した領域において、底面拡散抗菌部及び側面拡散抗菌部により、抗菌剤を体液と接触させ易くすることが可能となる。
【0023】
[態様6]
前記抗菌剤の坪量は0.01~1.0g/m2である、態様1、3乃至5のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【0024】
本吸収性物品では、抗菌剤の坪量が0.01~1.0g/m2である。このような吸収性物品は、JIS L 1902において、試験用細菌を、黄色ブドウ球菌・肺炎かん(桿)菌として抗菌性を評価した際に、対数2以上の有意差で抗菌性を示すことができる。また、その抗菌剤の坪量により、吸収性物品が繰り返し体液を吸収しても、抗菌剤がその効果を維持できる。
【0025】
[態様7]
前記抗菌液は、0℃で24時間放置しても沈殿が生じない、態様1、3乃至6のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【0026】
本吸収性物品では、0℃で24時間放置しても沈殿が生じない抗菌液を用いている。そのため、抗菌液自体に濃度勾配が生じ難いことから、放置されたり、体液と混ざり合ったりした場合でも抗菌液の結晶化をより抑制できる。
【0027】
[態様8]
前記抗菌液において、前記有機溶媒を含む溶媒の質量は、前記抗菌剤の質量以上である、態様1、3乃至7のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【0028】
本吸収性物品では、抗菌液において、溶媒(例示:有機溶媒、水)の質量が抗菌剤の質量と同等か、又は、それより多くなっている。そのため、薬液安定性を高くすることができ、それにより、塗布後の繊維上の抗菌液と抗菌作用を安定的に維持できる。また、抗菌液を均一に塗布することが出来る。
【0029】
[態様9]
複数の繊維を含むシートに、有機性かつ親水性の抗菌剤及び親水性かつ不揮発性の有機溶媒を含む抗菌液を塗布する工程と、前記抗菌液を塗布された前記シートを用いて吸収性物品を製造する工程と、を備え、前記抗菌液は、25℃での粘度が100~12000mPa・sである、吸収性物品の製造方法。
【0030】
本吸収性物品の製造方法では、抗菌液に、有機溶媒を用いていて、極力水を減らすことによって(好ましくは水を用いないことによって)、製造装置の錆び及び/又は腐食を抑制でき、製造装置の稼働率を上げることができる。また、抗菌剤を親水性にすることにより、体液との接触による結晶化を抑制できる。加えて、抗菌剤を不揮発性の有機溶媒と混在させることで、有機溶媒が揮発することによる抗菌剤の結晶化を抑制できる。更に、抗菌液の粘度を高めることにより(100mPa・s)、シートの繊維に抗菌液を多く留まらせることができ、それにより、抗菌剤と体液との接触を生じ易くすることができる。したがって、本吸収性物品において、尿や経血のような水分を含む体液と混合されても抗菌剤を結晶化させ難くでき、繊維の表面の抗菌剤の量を十分に確保でき、かつ、抗菌剤を体液と接触し易くすることが可能となる。なお、抗菌液の粘度は、塗布が可能であれば上限は特にないが、12000mPa・s以下とすることで、使用者が粘性の高い抗菌液に対して覚える違和感を低減できる。
【0031】
[態様10]
複数の繊維を含むシートに、有機性かつ親水性の抗菌剤及び親水性かつ不揮発性の有機溶媒を含む抗菌液を塗布する工程と、前記抗菌液を塗布された前記シートを用いて吸収性物品を製造する工程と、を備え、前記抗菌液は、前記複数の交差点に形成された交差点抗菌部と、前記複数の繊維の各々における前記複数の交差点から離間した位置に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部と、を有する、吸収性物品の製造方法。
【0032】
本吸収性物品の製造方法では、抗菌液に、有機溶媒を用いていて、極力水を減らすことによって(好ましくは水を用いないことによって)、製造装置の錆び及び/又は腐食を抑制でき、製造装置の稼働率を上げることができる。また、抗菌剤を親水性にすることにより、体液との接触による結晶化を抑制できる。加えて、抗菌剤を不揮発性の有機溶媒と混在させることで、有機溶媒が揮発することによる抗菌剤の結晶化を抑制できる。更に、繊維一本一本に、繊維表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部を有しているので、体液と接触し得る抗菌液の表面積を増やすことができ、かつ、シートの繊維に抗菌液をより多く留まらせることができる。それにより、繊維の表面の抗菌剤の量を更に十分に確保でき、かつ、抗菌剤を体液と更に接触し易くすることが可能となる。したがって、本吸収性物品において、尿や経血のような水分を含む体液と混合されても抗菌剤を結晶化させ難くでき、繊維の表面の抗菌剤の量を十分に確保でき、かつ、抗菌剤を体液と接触し易くすることが可能となる。
【0033】
[態様11]
前記抗菌液は、0℃で24時間放置しても沈殿が生じない、態様9又は10に記載の吸収性物品の製造方法。
【0034】
本吸収性物品の製造方法では、0℃で24時間放置しても沈殿が生じない抗菌液を用いている。そのため、製造装置内で沈殿物が詰まるなどの、不具合をより抑制でき、製造装置の稼働率を上げることができる。
【0035】
以下、本実施形態に係る吸収性物品及びその製造方法について説明する。
【0036】
まず、本実施形態に係る吸収性物品について説明する。吸収性物品は、複数の繊維を含むシートと、シートに塗布された抗菌液と、を備えている。吸収性物品としては、例えば、生理用ナプキン、使い捨てショーツ、使い捨ておむつ、尿取りパッド、及びベッド用シートが挙げられる。本実施形態では、吸収性物品として、生理用ナプキンを例に挙げて説明する。
【0037】
図1は、実施形態に係る生理用ナプキン1の構成例を示す模式図である。
図2は、
図1のII-II線に沿った断面図である。本実施形態の生理用ナプキン1は、互いに直交する長手方向L、幅方向W及び厚さ方向Tを有する。
図1に描かれた生理用ナプキン1では、図の上側及び下側をそれぞれ長手方向Lの前側及び後側とし、左側及び右側をそれぞれ幅方向Wの左側及び右側とし、紙面に対して手前側及び奥側をそれぞれ厚さ方向Tの上側及び下側とする。生理用ナプキン1は、幅方向Wの中心を通り長手方向Lに延びる長手方向中心線CL(仮想線)と、長手方向Lの中心を通り幅方向Wに延びる幅方向中心線CW(仮想線)とを有する。長手方向中心線CLに向かう向き及び側をそれぞれ幅方向Wの内向き及び内側とし、遠ざかる向き及び側をそれぞれ幅方向Wの外向き及び外側とする。一方、幅方向中心線CWに向かう向き及び側をそれぞれ長手方向Lの内向き及び内側とし、遠ざかる向き及び側をそれぞれ長手方向Lの外向き及び外側とする。長手方向L及び幅方向Wを含む平面上に置いた生理用ナプキン1を厚さ方向Tの上側から見ることを「平面視」といい、平面視で把握される形状を「平面形状」という。長手方向L及び幅方向Wを含む平面内の任意の方向を「平面方向」という。上に置いた装着者が生理用ナプキン1を装着したとき、厚さ方向Tにて相対的に装着者の肌面に近い側及び遠い側となる側を「肌面側」及び「非肌面側」という。これら定義は、吸収性物品1の各資材にも共通に用いられる。
【0038】
本実施形態において、生理用ナプキン1(ウイング部を除く)は、平面視にて、長手方向Lに長く幅方向Wに短い略矩形で、長手方向Lの両端縁が略半円形の形状を有する。ただし、その形状は、長手方向Lに長く幅方向Wに短ければ特に制限されず、例えば角丸長方形、楕円形、砂時計型又はそれらに類似の形状が挙げられる。吸収性物品1は略矩形の部分から幅方向Wの外側に延出するウイング部6を備えており、ウイング部6は略台形の形状を有する。ただし、ウイング部6の形状は、例えば半円形や半楕円形でもよい。
【0039】
本実施形態において、生理用ナプキン1は、生理用ナプキン1の肌面側の表面を構成する表面シート2と、生理用ナプキン1の非肌面側の表面を構成する裏面シート3と、表面シート2と裏面シート3との間に配置された吸収体4と、を備えている。生理用ナプキン1は、一般的な吸収性物品が備える他の部材を更に備えてもよい。他の部材は、表面シート2と吸収体4との間に位置し得る拡散シート、表面シート2の肌面側の幅方向Wの両側に位置し得るサイドシート、表面シート2の肌面側の幅方向Wの両側に位置し得る防漏壁シート、防漏壁シートに内包され得る弾性部材、吸収体4の吸収体材料を包摂し得るコアラップシート、及び裏面シート3の非肌面側に位置し得る外装シートに例示される。
【0040】
表面シート2の構成部材としては、液透過性の不織布が例示される。裏面シート3の構成部材としては、液不透過性の不織布、液不透過性の合成樹脂フィルム、及びこれらの複合シートが例示される。拡散シートの構成部材としては、液透過性の不織布が例示される。防漏壁シート及びサイドシートの構成部材としては、撥水性の不織布が例示される。外装シートの構成部材としては、液不透過性かつ通気性の不織布、液不透過性かつ通気性の合成樹脂フィルム、及びこれらの複合シートが例示される。弾性部材の構成部材としては、ゴム系の合成樹脂が例示される。不織布の種類としては、特に制限はないが、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、エアレイド不織布、及びエアスルー不織布が例示される。合成樹脂フィルムの種類としては、特に制限はないが、吸収性物品用の公知のフィルム材料が挙げられる。合成樹脂フィルムの材料としては、吸収性物品用として使用可能であれば特に制限はないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、6-ナイロン、6,6-ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンタレフタレート、及びポリブチレンテレタレート等のポリエステル系樹脂のような合成樹脂が例示される。不織布の材料としては、吸収性物品用として使用可能であれば特に制限はないが、合成樹脂フィルムと同様の合成樹脂の繊維、及び、セルロース系繊維のようなパルプ繊維が例示される。パルプ繊維については後述される。本実施形態では、液透過性の不織布の繊維が合成繊維の場合、親水性処理を施した親水性繊維が用いられる。
【0041】
吸収体4の構成部材として、吸収体材料、例えばパルプ繊維及び高吸水性ポリマーが挙げられる。パルプ繊維として、セルロース系繊維が例示される。セルロース系繊維として、木材パルプ、架橋パルプ、非木材パルプ、再生セルロース、及び半合成セルロースが例示される。高吸水性ポリマー(SuperAbsorbent Polymer:SAP)として、ポリアクリル酸塩系、ポリスルホン酸塩系、及び無水マレイン酸塩系の吸水性ポリマーが例示される。吸収体4がコアラップシートを含む場合には、コアラップシートの構成部材として、液透過性の不織布、パルプ繊維のシート、及びこれらの複合シートが例示される。不織布及びパルプ繊維の種類については、前述のとおりである。
【0042】
表面シート2や拡散シートの坪量としては、生理用ナプキン1の表面シート2や拡散シートとして用い得るものであれば特に制限されないが、例えば、5~200g/m2挙げられ、10~100g/m2が好ましい。コアラップシートの坪量としては、生理用ナプキン1のコアラップシートとして用い得るものであれば特に制限されないが、例えば、5~100g/m2挙げられ、10~50g/m2が好ましい。
【0043】
表面シート2や拡散シートやコアラップシートを構成する繊維の平均繊維径(直径)としては、生理用ナプキン1の前述の各シートとして用い得るものであれば特に制限されないが、例えば、5~50μmが挙げられ、10~40μmが好ましい。平均繊維径を5μm以上とすることで、繊維が細くなり過ぎず、抗菌液10が重力により繊維から鉛直下方へ移動(又は落下)し難くできる。平均繊維径を50μm以下とすることで、繊維が太くなり過ぎず、繊維の表面積が多くでき、多くの抗菌液10を保持し易くできる。
【0044】
本実施形態では、生理用ナプキン1は、表面シート2の肌面側から非肌面側に向かって吸収体4に達する複数の圧搾溝5を有している。圧搾溝5は、排泄口当接域に対して、幅方向Wの両外側及び長手方向Lの両外側に位置している。圧搾溝5は、表面シート2及び吸収体4が厚さ方向Tに圧搾されて形成される。拡散シート及び/又はコアラップシートが用いられている場合には、拡散シート及び/又は肌面側のコアラップシートも併せて厚さ方向Tに圧搾されて圧搾溝5が形成される。そのとき、圧搾溝5は、圧搾溝の側面を構成する側面部5aと、溝の底面を構成する底面部5bと、を有している。
【0045】
生理用ナプキン1において、抗菌液10を塗布される、複数の繊維を含むシートは、表面シート2、拡散シート、及び肌面側のコアラップシートの少なくとも一つに例示される。抗菌液10は、それらシートの少なくとも一つにおける、平面方向の一部又は全部に、厚さ方向Tの一部又は全部に塗布される。ただし、吸収体4、裏面シート3、サイドシート、防漏壁シート又は外装シートに塗布されてもよい。本実施形態では、抗菌液10は、表面シート2における塗布領域7の範囲に塗布されている。塗布領域7は、抗菌性能を広範囲に保持させる観点から、平面視で、幅方向Wにおいては吸収体4の右側の端縁から左側の端縁までの範囲とし、長手方向Lにおいては表面シート2の前側の端縁から後側の端縁までの範囲としている。ただし、塗布領域7はこの例に限定されるものではなく、要求される抗菌性能に応じて任意の領域に設定できる。また、本実施形態では、抗菌液10は、リウェットの抑制及び肌面の保護の観点から、厚さ方向Tで、表面シート2における肌面側よりも非肌面側に多く存在している。ただし、厚さ方向Tでの配置はこの例に限定されるものではなく、要求される抗菌性能に応じて任意の配置に設定できる。
【0046】
抗菌液10は、有機性かつ親水性の抗菌剤と、親水性かつ不揮発性の有機溶媒と、を含んでいる。抗菌液10の有機溶剤が不揮発性であるため、生理用ナプキン1が製造され、保管され、販売される各時点でも、有機溶媒の蒸発は少なく、当初予定している抗菌剤の効果を適切に発揮できる。ただし、親水性の抗菌剤とは、5時間以内に25℃の水100gに対して40g以上溶ける抗菌剤をいう。不揮発性の有機溶媒とは、25℃において50Pa以下の蒸気圧を有する有機溶媒をいう。親水性の有機溶媒とは、水と任意の比率で混和する有機溶剤をいう。
【0047】
抗菌剤は、有機性及び親水性を有し、抗菌機能、すなわち菌の増殖を抑える機能を有していれば、特に制限はない。抗菌剤の種類としては、例えば、カチオン性抗菌剤が挙げられる。カチオン性抗菌剤としては、例えば、グアニジン系抗菌剤、ビグアナイド系抗菌剤、及び四級アンモニウム塩が挙げられる。グアニジン系抗菌剤としては、例えば、ポリヘキサメチレングアニジン(PHMG)が挙げられる、ビグアナイド系抗菌剤としては、例えば、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、別名ポリアミノプロピルビグアニドが挙げられる。四級アンモニウム塩としては、例えば、塩化ベンザルコニウム及び塩化ベンゼトニウムが挙げられる。これらの抗菌剤は、一種類を単独で用いられてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
有機溶媒親は、親水性及び不揮発性を有し、抗菌剤を溶解可能であれば、特に制限はない。有機溶媒の種類としては、例えば、グリコール類及びアルコール類が挙げられる。グリコール類としては、例えば、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール(DPG)、1,3-ブチレングリコール(BG)、ポリエチレングリコール400(PEG400)が挙げられる。アルコール類としては、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールが挙げられる。これらの有機溶剤は、一種類を単独で用いられてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本実施形態では、抗菌液10において、25℃での粘度の下限としては、例えば、100mPa・sが挙げられ、120mPa・sが好ましい。粘度の下限をこの範囲にすることで、抗菌液10を、繊維の表面において鉛直下方へ移動(又は落下)することなく安定的に留まり易くできる。上限としては、塗布し易さの観点から、例えば、12000mPa・sであり、好ましくは、10000mPa・sである。なお、抗菌液10の粘度は、塗布が可能であれば特に上限はない。
【0050】
このように、本実施形態では、少なくとも、複数の繊維20を含むシート(例示:表面シート2)に塗布された抗菌液10が、有機性かつ親水性の抗菌剤及び親水性かつ不揮発性の有機溶媒を含んでおり、抗菌液10における25℃での粘度が100~12000mPa・sである。抗菌剤を親水性にすることにより、尿や経血のような水分を含む体液に抗菌剤を馴染み易くすることができ、それにより、抗菌剤の結晶化を抑制できる。加えて、抗菌剤を不揮発性の有機溶媒と混在させることで、有機溶媒を揮発し難くすることができ、それにより、抗菌剤の結晶化をより抑制できる。更に、抗菌液10の粘度を高くすることにより(100mPa・s以上)、抗菌液が重力により意図した塗布位置から移動することを抑制でき、すなわち、抗菌液10を意図した塗布位置の繊維に多く留まらせることができ、それにより、抗菌剤と体液との接触を生じ易くすることができる。したがって、上記技術を適用した生理用ナプキン1を含む吸収性物品において、尿や経血のような水分を含む体液と混合されても抗菌剤を結晶化させ難くでき、抗菌剤を体液と接触させ易くすることが可能となる。
【0051】
<抗菌液の粘度の測定方法1>
十分な量の抗菌液を測定対象とする場合、抗菌液の粘度は、以下のように測定する。
(1)以下の機器を準備する。
Thermo Fisher SCIENTIFIC株式会社製 HAAKE RheoStress 1(センサー:Cone φ60mm、1°angle C60/1)
(2)機器に付属の容器に、測定対象の抗菌液を38ml入れ、測定子を抗菌液に浸す。
(3)以下の条件で、粘度の測定を行う。
温度25℃、湿度50%、剪断速度:10.0(l/s)。
【0052】
<抗菌液の粘度の測定方法2>
吸収性物品のシートに付着した抗菌液を測定対象とする場合、抗菌液の粘度については、以下のように測定する。
(1)抗菌液を塗布されたシートを、所定面積(例示:3cm×3cm)の大きさに切り出して試料とする。
(2)試料を所定の試薬(例示:エタノール)に溶解し、その試薬を所定の分析方法で分析して、抗菌液の溶媒及び抗菌剤の同定及び定量を実施する。ただし、抗菌液の溶媒に関してはGC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析法)を用い、抗菌液の抗菌剤に関してはLC/MS(高速液体クロマトグラフ質量分析法)を用いる。
(3)同定及び定量された溶媒及び抗菌剤から、抗菌液を試作する。
(4)試作された抗菌液の粘度を上記<抗菌液の粘度の測定方法1>で測定する。
【0053】
例えば、溶媒BG及び抗菌剤PHMBから構成された抗菌液は、LC/MSでPHMBを同定及び定量することができ、GC/MSでBGを同定及び定量することができる。
【0054】
図3は、実施形態に係る生理用ナプキン1の抗菌液の例を示す光学顕微鏡写真である。本実施形態において、抗菌液10を塗布されるシート(本実施形態では表面シート2)は、当該シートを構成する複数の繊維20の各々のうちの少なくとも二本が互いに交差する複数の交差点20xを有している。抗菌液10は、複数の交差点20xの各々に形成された交差点抗菌部10bと、複数の繊維20の各々における複数の交差点20xから離間した位置に、繊維20の表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部10aと、を有している。ただし、繊維の交差点での繊維間距離は、繊維径の0~2倍(最近接の表面同士の距離)である。凸状抗菌部10aの有無は、この図に示すように、光学顕微鏡で確認できる。この図の例では、繊維20の直径が約20μm(19.6μm)であるが、繊維20を含めた凸状抗菌部10aの直径は約70μm(73.7μm)である。したがって、凸状抗菌部10aは、繊維20の表面から約25μm盛り上がっている。なお、抗菌液10は、その一部又は全部が、繊維を層状に覆っていてもよいし、凸状抗菌部10a及び/又は交差点抗菌部10bを有していなくてもよい。
【0055】
上記のように、本実施形態では、少なくとも、複数の繊維20を含むシート(例示:表面シート2)に、有機性かつ親水性の抗菌剤及び親水性かつ不揮発性の有機溶媒を含む抗菌液10が塗布され、その抗菌液10が、少なくとも二本の繊維20の交差点20xに形成された交差点抗菌部10bと、繊維20における交差点20xから離間した位置に、繊維20の表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部10aと、を有している。このように、抗菌剤を親水性にすることにより、尿や経血のような水分を含む体液に抗菌剤を馴染み易くすることができ、それにより、抗菌剤の結晶化を抑制できる。加えて、抗菌剤を不揮発性の有機溶媒と混在させることで、有機溶媒を揮発し難くすることができ、それにより、抗菌剤の結晶化をより抑制できる。更に、抗菌液が、交差点抗菌部10bのほかに、繊維20の一本一本に、繊維20の表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部10aを有しているので、体液と接触し得る抗菌液10の表面積を増やすことができ、かつ、シートの繊維に抗菌液10をより多く留まらせることができる。それにより、抗菌剤を体液とより接触させ易くすることができる。したがって、上記技術を適用した生理用ナプキン1を含む吸収性物品において、尿や経血のような水分を含む体液と混合されても抗菌剤を結晶化させ難くでき、抗菌剤を体液と接触させ易くすることが可能となる。
【0056】
本実施形態では、凸状抗菌部10aの厚さ(繊維20の表面を基準とした高さ)としては、例えば、繊維20の平均繊維径(直径)の0.6~5倍が挙げられ、0.6~4倍が好ましい。凸状抗菌部10aの厚さが平均繊維径の0.6倍以上であることで、体液に対する接触面積を多くすることができる。厚さが平均繊維径の5倍以下であることで、凸状抗菌部10aが繊維20の表面から脱落し難くすることができる。ただし、凸状抗菌部10aは、塗布後に変形したり部分的に移動したりするので、その寸法(厚さや長さなど)は、形状が安定する塗布後一定時間(本実施形態では65時間)経過した時点での寸法とする。
【0057】
言い換えると、凸状抗菌部10aの直径(繊維20を含めた直径:塗布後65時間の時点)としては、例えば、繊維20の平均繊維径(直径)の1.2~6倍が挙げられ、1.2~5倍が好ましい。凸状抗菌部10aの直径が平均繊維径の1.2倍以上であることで、体液に対する接触面積を多くすることができる。直径が平均繊維径の6倍以下であることで、凸状抗菌部10aが繊維20の表面から脱落し難くすることができる。
【0058】
本実施形態では、凸状抗菌部10aにおける繊維20の延在方向に沿った長さとしては、例えば、凸状抗菌部10aの高さ程度の長さが挙げられる。すなわち、凸状抗菌部10aにおける繊維20の延在方向に沿った長さは、例えば、繊維20の平均繊維径(直径)の1.2~6倍が挙げられ、1.2~5倍が好ましい。凸状抗菌部10aの長さが平均繊維径の1.2倍以上であることで、体液に対する接触面積の増加を確実に生じさせることができる。長さが平均繊維径の6倍以下であることで、凸状抗菌部10aが繊維20の表面から脱落し難くすることができる。
【0059】
本実施形態では、繊維20の表面における平面視の凸状抗菌部10aの個数は、特に制限はないが、繊維20の長さ1000μm当たり、例えば、1~20個が挙げられ、2~10個が好ましい。凸状抗菌部10aの個数が1個以上あることで、体液に対する接触面積の増加をより確実に生じさせることができる。20個以下であることで、凸状抗菌部10a同士が接触し一体化して脱落し易くなることを抑制できる。
【0060】
<繊維の繊維径及び凸状抗菌部の厚さ・直径の測定方法>
繊維の繊維径及び凸状抗菌部の厚さ・直径については、以下のように測定する。
(1)抗菌液を塗布されたシートを、所定時間経過後に1cm×1cmの大きさに切り出して試料とする。ただし、所定時間としては、例えば、塗布直後(実質的に0時間経過後)や、塗布後65時間経過後が挙げられる。
(2)光学顕微鏡(株式会社キーエンス製 VHX-7000)の試料台に、シートにおける抗菌液を塗布された面が上側に向くように試料を載置する。
(3)倍率10~100倍でシートの繊維(繊維上の抗菌液を含む)の画像を撮影する。
(4)撮影画像において、複数の繊維の各々について繊維径を測定すると共に、複数の繊維の各々上の凸状抗菌部について厚さ・直径を測定する。
(5)上記(1)~(4)を3つの試料について行い、その平均値を算出することにより、最終的な繊維の繊維径及び凸状抗菌部の厚さ・直径とする。
【0061】
本実施形態では、好ましい態様として、表面シート2に抗菌液10が塗布されており、表面シート2における非肌面側の凸状抗菌部10aは、肌面側の凸状抗菌部10aよりも多く存在している。したがって、概ね、表面シート2にが塗布されており、表面シート2における非肌面側の抗菌液10は、肌面側の抗菌液10よりも多く存在するといえる。
【0062】
このように、体液が直接排泄される表面シート2に抗菌液10が塗布されていることで、抗菌剤をより効果的に作用させることができる。その際、表面シート2における非肌面側に凸状抗菌部10aが多く存在することで、吸収体4からのリウェットにより体液が表面シート2に戻ってきた際に、表面シート2の非肌面側の凸状抗菌部10aに体液が触れ易くなるので、抗菌性を担保することができる。また、表面シート2における肌面側に凸状抗菌部10aが少なく存在することで、抗菌剤の肌面への直接の接着を減らすことにより安全性を高めることができる。
【0063】
<凸状抗菌部の厚さ方向の分布の測定方法>
抗菌液の厚さ方向の分布の測定方法については、以下のように測定する。
(1)抗菌液を塗布されたシートを、所定時間経過後に1cm×1cmの大きさに切り出して試料とする。ただし、所定時間としては、例えば、塗布直後(実質的に0時間経過後)や、塗布後65時間経過後が挙げられる。
(2)光学顕微鏡(株式会社キーエンス製 VHX-7000)の試料台に、シートの切断面が上側に向くように試料を載置する。
(3)倍率10~100倍でシートの切断面の繊維(繊維上の抗菌液を含む)の画像を撮影する。
(4)撮影画像において、シートの厚さ方向の肌面側の半分及び非肌面側の半分の各々について、複数の繊維の各々上の凸状抗菌部の数を測定する。
(5)上記(1)~(4)を3つの試料について行い、その平均値を算出することにより、最終的に、肌面側の半分及び非肌面側の半分のうちのどちらに凸状抗菌部が多いかを算出する。
【0064】
抗菌液10に対する抗菌剤及び有機溶媒の合計の割合の下限は、抗菌作用の観点から、例えば、90質量%が挙げられ、92質量%が好ましく、95質量%がより好ましい。上限は、例えば、100質量%が挙げられる。抗菌液10は、抗菌剤及び有機溶媒以外に、少量の水に例示される他の溶剤を更に含んでもよい。
【0065】
本実施形態では、抗菌剤及び有機溶媒の合計に対する抗菌剤の割合の下限は、抗菌剤や有機溶媒の種類にもよるが、抗菌作用の観点から、例えば、1質量%が挙げられ、2質量%が好ましい。上限は、有機溶媒への溶解の観点から、例えば、60質量%が挙げられ、50質量%が好ましい。
【0066】
本実施形態では、抗菌液10において、有機溶媒を含む溶媒(他の溶剤を含む)の質量は、抗菌剤の溶媒への溶解の観点から、抗菌剤の質量以上である。抗菌液10に対する溶媒の割合の下限は、溶媒への溶解の観点から、例えば、50質量%が挙げられ、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。上限は、抗菌作用の観点から、例えば、99質量%が挙げられ、98質量%が好ましい。
【0067】
このように、抗菌液10において、溶媒(例示:有機溶媒、水)の質量が抗菌剤の質量と同等か、又は、それより多くなっている。そのため、抗菌液10の薬液安定性を高くすることができ、それにより、抗菌液10をシートに均一に塗布することができる。それに加えて、塗布後の繊維20上の抗菌液10において、溶媒の蒸発等で抗菌剤が析出すること等を抑制でき、抗菌作用を安定的に維持できる。
【0068】
<抗菌液の組成の測定方法>
吸収性物品のシートに付着した抗菌液を測定対象とする場合、抗菌液の組成については、上記の<抗菌液の粘度の測定方法2>の(1)~(2)のように測定する。
【0069】
抗菌剤の坪量は、生理用ナプキン1に求められる抗菌性能に応じて、適宜設定可能である。本実施形態では、抗菌剤の坪量は、JIS L 1902:繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果に基づいて所定の抗菌性能が得られるように設定される。所定の抗菌性能は、抗菌性試験方法において、試験用細菌を黄色ブドウ球菌・肺炎かん(桿)菌として抗菌性を評価したとき、対数2以上の有意差で抗菌性を示すものとする。抗菌剤の坪量としては、0.01~1.0g/m2が挙げられ、0.02~0.8g/m2が好ましい。その場合、抗菌液10の坪量としては、例えば、0.1~50.0g/m2が挙げられ、0.3~40g/m2が好ましい。
【0070】
このように、抗菌剤の坪量を上記範囲にすることで、JIS L 1902:繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果において、試験用細菌を、黄色ブドウ球菌・肺炎かん(桿)菌として抗菌性を評価した際に、対数2以上の有意差で抗菌性を示すことができる。また、その抗菌剤の坪量により、吸収性物品が繰り返し体液を吸収しても、抗菌剤がその効果を維持できる。
【0071】
<抗菌剤の坪量の測定方法>
吸収性物品のシートに付着した抗菌剤の坪量については、以下のように測定する。
(1)~(2)は、上記の<抗菌液の粘度の測定方法2>の(1)~(2)と同じである。
(3)上記(2)で求められる抗菌剤の質量を、試料の所定面積で除算することで、抗菌剤の坪量を算出する。
【0072】
本実施形態では、0℃で24時間放置しても抗菌剤の沈殿が生じない抗菌液10を用いている。このように、抗菌液10の薬液安定性が高いため、抗菌液10自体に濃度勾配が生じ難いことから、放置されたり、体液と混ざり合ったりした場合でも抗菌液10における抗菌剤の結晶化をより抑制できる。
【0073】
<抗菌液における0℃24時間放置時の抗菌剤の沈殿の有無の測定方法>
抗菌液における0℃24時間放置時の抗菌剤の沈殿の有無は、以下のように測定する。
(1)抗菌液を所定量(例示:5g)を準備し、シャーレに入れる。
(2)抗菌液を含むシャーレを、0℃湿度50%で24時間放置した後に、抗菌液中に抗菌剤が析出して沈殿するか否かを目視観察で確認する。
【0074】
本実施形態では、25℃で2倍の質量を有する水を加えても抗菌剤が析出しない抗菌液10を用いている。このように、抗菌液10の薬液安定性が高いため、体液と混ざり合ったりした場合でも抗菌液10における抗菌剤の結晶化をより抑制できる。
【0075】
<抗菌液における水滴下時の抗菌剤の析出の有無の測定方法>
抗菌液における水滴下時の抗菌剤の析出の有無は、以下のように測定する。
(1)抗菌液を所定量(例示:5g)を準備し、シャーレに入れる。
(2)25℃で、抗菌液の2倍の質量を有する水(例示:10g)を、シャーレの抗菌液に滴下して、抗菌液中に抗菌剤が析出するか否かを目視観察で確認する。
【0076】
本実施形態では、
図2に示すように、好ましい態様として、圧搾溝5の底面部5aにおける表面シート2(又は拡散シート)よりも非肌面側に位置する抗菌液10で形成された底面拡散抗菌部50aと、圧搾溝5の側面部5bにおける表面シート2よりも外側に位置する抗菌液10で形成された側面拡散抗菌部50bと、を更に備えている。
【0077】
換言すれば、抗菌液10が表面シート2に塗布されている場合、底面拡散抗菌部50aは、圧搾溝5の底面部5aにおける表面シート2よりも非肌面側の拡散シート(存在する場合)及び/又は吸収体4に位置している。底面拡散抗菌部50aは、凸状抗菌部10aや交差点抗菌部10bのような構成を有する。ただし、繊維を薄く層状に覆うように形成されてもよい。同様に、側面拡散抗菌部50bは、圧搾溝5の側面部5bにおける表面シート2に対して溝と反対側の拡散シート(存在する場合)及び/又は吸収体4に位置している。側面拡散抗菌部50bは、凸状抗菌部10aや交差点抗菌部10bのような構成を有する。ただし、繊維を薄く層状に覆うように形成されてもよい。底面拡散抗菌部50aや側面拡散抗菌部50bは、底面部5aや側面部5bに位置する表面シート2上の抗菌液10が圧搾により押し出されて、移動、拡散したものである。
【0078】
圧搾溝5では、体液は、集められつつ、圧搾溝5に沿う方向に流通しながら、圧搾溝5に交差する方向(底面部5aの下側へ向かう方向及び側面部5bの外側に向かう方向)に拡散する。その際、上記のように、本吸収性物品(本実施形態では生理用ナプキン1)は、体液が拡散する、底面部5aの下側へ向かう方向及び側面部5bの外側に向かう方向に、抗菌液10で形成された底面拡散抗菌部50a及び側面拡散抗菌部50bを有している。そのため、集められた体液が拡散され到達した領域において、底面拡散抗菌部50a及び側面拡散抗菌部50bにより、抗菌剤を体液と接触させ易くすることが可能となる。
【0079】
次に、本実施形態に係る吸収性物品の製造方法について説明する。本製造方法は、複数の繊維を含むシート(本実施形態では表面シート2)に、有機性かつ親水性の抗菌剤及び親水性かつ不揮発性の有機溶媒を含む抗菌液10を塗布する工程と、抗菌液を塗布されたシートを用いて吸収性物品(本実施形態では生理用ナプキン1)を製造する工程と、を備えている。
【0080】
例えば、上述の実施形態の生理用ナプキン1の製造方法では、まず、表面シート2の非肌面側の面に、非接触塗布法(例示:スプレー装置で抗菌液を表面シート2に噴射)又は接触塗布法(例示:ノズルから抗菌液を表面シート2へ吐出)により、抗菌液10を塗布する。次いで、表面シート2と吸収体4とを任意の接合手段(例示:ホットメルト型接着剤)で接合することにより積層物を得る。次いで、その積層物の所定部分を表面シート2側から厚さ方向Tに圧搾することにより圧搾溝5を形成する。次いで、その圧搾溝5を形成した積層体の吸収体4側の表面に裏面シート3を任意の接合手段(例示:ホットメルト型接着剤)で接合する。それにより、上述の生理用ナプキン1を製造することができる。
【0081】
本実施形態では、抗菌液10を、25℃での粘度が100~12000mPa・sとすることができる。そして、抗菌液10としては、抗菌剤と有機溶媒とを合わせた質量よりも水の質量の方が少ない。
【0082】
このように、本吸収性物品(本実施形態では生理用ナプキン1)の製造方法では、抗菌液10に、有機溶媒を用いていて、極力水を減らすことによって(好ましくは用いないことによって)、製造装置の錆び及び/又は腐食を抑制でき、製造装置の稼働率を上げることができる。また、抗菌剤を親水性にすることにより、体液との接触による結晶化を抑制できる。加えて、抗菌剤を不揮発性の有機溶媒と混在させることで、有機溶媒が揮発することによる抗菌剤の結晶化を抑制できる。更に、抗菌液の粘度を高めることにより(100mPa・s)、シート(本実施形態では表面シート2)の繊維20に抗菌液10を多く留まらせることができ、それにより、抗菌剤と体液との接触を生じ易くすることができる。したがって、本吸収性物品において、尿や経血のような水分を含む体液と混合されても抗菌剤を結晶化させ難くでき、繊維の表面の抗菌剤の量を十分に確保でき、かつ、抗菌剤を体液と接触し易くすることが可能となる。なお、抗菌液の粘度は、塗布が可能であれば上限は特にないが、12000mPa・s以下とすることで、使用者が粘性の高い抗菌液に対して覚える違和感を低減できる。
【0083】
あるいは、本実施形態では、抗菌液10を、複数の交差点20xに形成された交差点抗菌部10bと、複数の繊維20の各々における複数の交差点20xから離間した位置に、繊維20の表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部10aと、を有するようにすることができる。そして、抗菌液10としては、水を含まないようにすることができる。
【0084】
このように、本吸収性物品(本実施形態では生理用ナプキン1)の製造方法では、抗菌液10に、有機溶媒を用いていて、極力水を減らすことによって(好ましくは水を用いないことによって)、製造装置の錆び及び/又は腐食を抑制でき、製造装置の稼働率を上げることができる。また、抗菌剤を親水性にすることにより、体液との接触による結晶化を抑制できる。加えて、抗菌剤を不揮発性の有機溶媒と混在させることで、有機溶媒が揮発することによる抗菌剤の結晶化を抑制できる。更に、繊維20の一本一本に、繊維20の表面から盛り上がるように形成された凸状抗菌部10aを有しているので、体液と接触し得る抗菌液10の表面積を増やすことができ、かつ、シート(本実施形態では表面シート2)の繊維20に抗菌液10をより多く留まらせることができる。それにより、繊維20の表面の抗菌剤の量を更に十分に確保でき、かつ、抗菌剤を体液と更に接触し易くすることが可能となる。したがって、本吸収性物品において、尿や経血のような水分を含む体液と混合されても抗菌剤を結晶化させ難くでき、繊維の表面の抗菌剤の量を十分に確保でき、かつ、抗菌剤を体液と接触し易くすることが可能となる。
【0085】
本実施形態の製造方法において、抗菌液は0℃で24時間放置しても沈殿が生じない。そのため、製造装置内で沈殿物が詰まるなどの、不具合をより抑制でき、製造装置の稼働率を向上できる。
【0086】
上述した不織布の坪量及び繊維の平均繊維径は、以下の測定方法で求められる。
【0087】
<不織布の坪量>
(1)不織布から所定サイズ(例示:50mm×50mm)の5個の試料を切り出す。
(2)切り出された5個の試料の質量を直示天秤(研精工業株式会社製 電子天秤HF-300)で測定する。
(3)5個の試料の質量の平均値から不織布の単位面積当たりの質量を算出し、不織布の坪量(g/m2)とする。
【0088】
<繊維の平均繊維径>
(1)不織布を10mm×10mmの大きさに切り出して試料とする。
(2)試料をプレパラートの上に配置し、試料にグリセリンを適量滴下して、試料全体がグリセリンで浸された状態にして、その上からカバーガラスを置く。
(3)光学顕微鏡(株式会社キーエンス製 VHC-100 Digital Microscope Lens VH-Z450)を用いて、倍率1000倍で試料の表面を観察する。
(4)試料の表面に露出している繊維の繊維径を50箇所測定し、平均値を平均繊維径とする。
【実施例0089】
以下、実施例に基づき、本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0090】
(1)試料
(a)実施例1~6
実施例1~6の抗菌液を、表1に記載の割合で調合した。実施例1の抗菌液での各剤の割合は、塩化ベンザルコニウム(BAC):2質量%、1,3-ブチレングリコール(BG):96質量%、及び水:2質量%である。実施例2の抗菌液での各剤の割合は、塩化ベンザルコニウム(BAC):2質量%、及び1,3-ブチレングリコール(BG):98質量%である。実施例3の抗菌液での各剤の割合は、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB):10質量%、及び1,3-ブチレングリコール(BG):90質量%である。実施例4の抗菌液での各剤の割合は、ポリヘキサメチレンビグアノイド(PHMB):30質量%、1,3-ブチレングリコール(BG):62.5質量%、及び水:7.5質量%である。実施例5の抗菌液での各剤の割合は、ポリヘキサメチレンビグアノイド(PHMB):40質量%、1,3-ブチレングリコール(BG):50質量%、及び水:10質量%である。実施例6の抗菌液での各剤の割合は、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB):50質量%、1,3-ブチレングリコール(BG):40質量%、及び水:10質量%である。これらの抗菌液の抗菌剤はいずれもカチオン系抗菌剤である。
(b)比較例1~3
比較例1~3の抗菌液を、表1に記載の割合で調合した。比較例1の抗菌液での各剤の割合は、ピロクトンオラミン(PO):10質量%、プロピレングリコール(PG):85質量%、及び水:5質量%である。比較例2の抗菌液での各剤の割合は、塩化ベンザルコニウム(BAC):10質量%、プロピレングリコール(PG):85質量%、及び水:5質量%である。比較例3の抗菌液での各剤の割合は、トリクロサン(TR):10質量%、プロピレングリコール(PG):85質量%、及び水:5質量%である。これらの抗菌液の抗菌剤のうち、ピロクトンオラミンはアニオン系抗菌剤、塩化ベンザルコニウムはカチオン系抗菌剤、トリクロサンはノニオン系抗菌剤である。
【0091】
(2)評価方法
実施例1~6及び比較例1~3の抗菌液の各々について、以下の特性を評価した。
(a)粘度
抗菌液の粘度(mPa・s)を、既述の<抗菌液の粘度の測定方法1>で測定した。
(b)安定性
抗菌液における抗菌剤の析出の容易性(表1中「水滴下」と記載)を、既述の<抗菌液における水滴下時の抗菌剤の析出の有無の測定方法>で測定した。更に、抗菌液における抗菌剤の沈殿の容易性(表1中「0℃-24hr」と記載)を、既述の<抗菌液における0℃24時間放置時の抗菌剤の沈殿の有無の測定方法>で測定した。表1において、「〇」は抗菌液の析出又は沈殿が観察されなかったことを示し、「×」は観察されたことを示す。
(c)凸状抗菌部
実施例1~6及び比較例1~3の抗菌液の各々を、エアスルー不織布のシート(坪量30g/m2、親水性加工したポリエチレン繊維で構成)に、坪量20g/m2だけ塗布した。
そして、繊維上の凸状抗菌部の有無(表1中「凸状部の有無」と記載)、繊維に塗布された直後の凸状抗菌部の直径(μm)(表1中「直径(μm)」と記載)、繊維に塗布されて65時間経過後の凸状抗菌部の直径(μm)(表1中「65hr直径(μm)」と記載)、凸状抗菌部が塗布された繊維の繊維径(μm)(表1中「繊維径(μm)」と記載)を測定した。測定方法は既述のとおりである。そして、凸状抗菌部が塗布された繊維の繊維径(μm)に対する、塗布されて65時間経過後の凸状抗菌部の直径(μm)の割合(表1中「倍率」と記載)を算出した。
【0092】
(3)評価結果
(a)粘度
実施例1~6の抗菌液の粘度は、それぞれ125、126、270、1760、1840、12000mPa・sとなり、100~12000mPa・sの範囲内にあることが分かった。一方、比較例1~3の抗菌液の粘度は、それぞれ59、46、48mPa・sとなり、100~12000mPa・sの範囲外にあることが分かった。
(b)安定性
実施例1~6の抗菌液では、水滴下時の抗菌剤の析出の有無を測定した結果、抗菌剤の析出が生じないことが判明した。それに加えて、実施例1~6の抗菌液では、0℃24時間放置時の抗菌剤の沈殿の有無を測定した結果、抗菌剤の沈殿が生じないことが判明した。一方、比較例1~3の抗菌液では、水滴下時の抗菌剤の析出の有無を測定した結果、比較例2以外は、抗菌剤の析出が生じることが判明した。それに加えて、比較例1~3の抗菌液では、0℃24時間放置時の抗菌剤の沈殿の有無を測定した結果、比較例2以外は、抗菌剤の沈殿が生じることが判明した。
(c)凸状抗菌部
実施例1~6の抗菌液は、シートに塗布された場合に、繊維上に凸状抗菌部を生じることが判明した。一方、比較例1~3は、シートに塗布された場合に、繊維上に凸状抗菌部を生じないことが判明した。主に、抗菌液の剤の種類が相違することや、抗菌液の粘度が相対的に低いためと考えられる。
図4は、実施形態に係る生理用ナプキンの実施例5及び比較例1の繊維の抗菌液を示す光学顕微鏡写真である。実施例5では、繊維20の表面からの抗菌液の盛り上がりの直径が80.6μm(繊維径19.3μm)であり、凸状抗菌部10aが存在しているのが明らかであった。一方、比較例1では、繊維120の表面からの抗菌液の盛り上がりの直径が21.5μm(繊維径19.4μm)であり、抗菌液110aは存在しているが、凸状抗菌部が存在していなかった。
【0093】
実施例1では、凸状抗菌部の直径が、塗布直後(76.4μm)と比較して、塗布65時間後(25.0μm)と減少しているが、繊維径(18.4μm)と比較して、1.4倍と、繊維の表面から十分に盛り上がっていることがわかった。同様に、実施例5では、凸状抗菌部の直径が、塗布直後(100.9μm)と比較して、塗布65時間後(80.6μm)と減少しているが、繊維径(19.3μm)と比較して、4.2倍と、繊維の表面から十分に盛り上がっていることがわかった。一方、比較例1では、凸状抗菌部の直径が、塗布直後(51.9μm)と比較して、塗布65時間後(21.5μm)と減少してしまい、繊維径(19.4μm)と比較して、1.1倍と、繊維の表面からほとんど盛り上がっていないことがわった。
【0094】
【表1】
抗菌剤の種類
・BAC:塩化ベンザルコニウム(Benzalkonium Chloride)
・PHMB:ポリヘキサメチレンビグアナイド(Polyhexamethylene biguanide hydrochloride)
・TR:トリクロサン(Triclosan)
・PO:ピロクトンオラミン(Piroctone olamine)
【0095】
本発明の吸収性物品及びその製造方法は、上述した実施形態に制限されることなく、本発明の目的、趣旨等を逸脱しない範囲内において、他の技術と適宜組合せや変更等が可能である。