(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151221
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】動き追跡装置、放射線治療システム、および動き追跡方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20241017BHJP
A61B 6/00 20240101ALI20241017BHJP
【FI】
A61N5/10 M
A61B6/00 370
A61B6/00 350Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064449
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 凌峰
(72)【発明者】
【氏名】藤▲高▼ 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 孝明
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直樹
【テーマコード(参考)】
4C082
4C093
【Fターム(参考)】
4C082AC05
4C082AE01
4C082AJ08
4C082AJ14
4C082AP08
4C093AA01
4C093AA22
4C093AA25
4C093AA26
4C093CA35
4C093FA60
4C093FC25
4C093FC27
4C093FF42
4C093FF50
(57)【要約】
【課題】リアルタイムの画像を基に腫瘍の動きをマーカレスで高い精度で追跡することを可能にする。
【解決手段】特定領域における標的および組織の動きを追跡する動き追跡装置は、リアルタイムでの標的および組織の三次元の動きを推定した推定3D運動と、リアルタイムでの標的および組織の二次元の動きを推定した推定2D運動とを取得する動き推定器と、所定の参照時点での特定領域の二次元画像である参照2D画像と、リアルタイムでの特定領域の二次元画像であるリアルタイム2D画像とを取得する画像取得器と、推定2D運動と参照2D画像とを用いて、リアルタイムの特定領域の二次元画像を疑似する疑似リアルタイム2D画像を生成する画像シミュレータと、疑似リアルタイム2D画像とリアルタイム2D画像との比較に基づいて、推定3D運動を補正する推定補正器と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定領域における標的および組織の動きを追跡する動き追跡装置であって、
リアルタイムでの前記標的および前記組織の三次元の動きを推定した推定3D運動と、リアルタイムでの前記標的および前記組織の二次元の動きを推定した推定2D運動とを取得する動き推定器と、
所定の参照時点での前記特定領域の二次元画像である参照2D画像と、リアルタイムでの前記特定領域の二次元画像であるリアルタイム2D画像とを取得する画像取得器と、
前記推定2D運動と前記参照2D画像とを用いて、リアルタイムの前記特定領域の二次元画像を疑似する疑似リアルタイム2D画像を生成する画像シミュレータと、
前記疑似リアルタイム2D画像と前記リアルタイム2D画像との比較に基づいて、前記推定3D運動を補正する推定補正器と、
を有する動き追跡装置。
【請求項2】
前記動き推定器は、予め撮像された画像に基づいて構築された動きモデルを用いて、前記推定3D運動および前記推定2D運動を特定する、
請求項1に記載の動き追跡装置。
【請求項3】
前記動き推定器は、前記推定3D運動を三次元ベクトル場として推定し、前記推定2D運動を二次元ベクトル場として推定する、請求項1に記載の動き追跡装置。
【請求項4】
前記動き推定器は、前記推定3D運動の三次元ベクトル場を二次元平面に投影することにより前記推定2D運動の二次元ベクトル場を生成する、
請求項3に記載の動き追跡装置。
【請求項5】
前記動き推定器は、前記参照時点の三次元形状を二次元平面に投影した投影画像を、画像レジストレーションによって、前記推定3D運動に基づく三次元形状を前記二次元平面に投影した投影画像に一致させるように変形した変形画像における二次元形状の運動を示す二次元ベクトル場を、前記推定2D運動の二次元ベクトル場として生成する、
請求項3に記載の動き追跡装置。
【請求項6】
前記推定補正器は、複数の二次元平面について、前記疑似リアルタイム2D画像を前記リアルタイム2D画像に位置合わせする二次元補正ベクトルを算出し、
算出された複数の前記二次元補正ベクトルに基づいて三次元補正ベクトルを生成し、
前記三次元補正ベクトルを用いて前記推定3D運動を補正する、
請求項1に記載の動き追跡装置。
【請求項7】
前記動き推定器が、前記推定補正器により補正された前記推定3D運動を使用して、前記標的および前記組織の前記推定3D運動および前記推定2D運動を算出することにより、前記推定3D運動の補正を反復する、
請求項1に記載の動き追跡装置。
【請求項8】
請求項1に記載の動き追跡装置と、
前記追跡装置によって推定/補正された前記3D運動に基づいて、前記標的に治療用放射線を送達する治療コントローラと、
を有する放射線治療システム。
【請求項9】
特定領域における標的および組織の動きを追跡するための動き追跡方法であって、
コンピュータが、
リアルタイムでの前記標的および前記組織の三次元の動きを推定した推定3D運動と、リアルタイムでの前記標的および前記組織の二次元の動きを推定した推定2D運動とを取得し、
所定の参照時点での前記特定領域の二次元画像である参照2D画像と、リアルタイムでの前記特定領域の二次元画像であるリアルタイム2D画像とを取得し、
前記推定2D運動に従って、前記参照2D画像を変形することにより、疑似リアルタイム2D画像を生成し、
前記疑似リアルタイム2D画像と前記リアルタイム2D画像との比較に基づいて、前記推定3D運動を補正する、
を有する動き追跡方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は放射線治療の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療では、電離放射線が標的に照射される。例えば、癌細胞を死滅させるために高エネルギー粒子ビームが腫瘍領域に向けられる。治療の効果を最大化し、治療による副作用を最小限に抑えるには、周囲の健康な組織を温存しながら、放射線を腫瘍に集中させることが重要である。しかしながら、呼吸による人体の動きにより、治療線の精度が低下する恐れがある。したがって、放射線の正確な線量を腫瘍に確実に送達するために動き管理が必要とされる。
【0003】
X線イメージングなどのリアルタイムの医療イメージング技術は、体組織のリアルタイムの動きに関する情報を提供する。このような情報は、治療ビームを誘導し、腫瘍に線量を正確に送達するために使用することができる。リアルタイムの医用画像は通常、腫瘍のコントラストが低いため、外科手術によって基準マーカを患者の体内に挿入する場合がある。体内の基準マーカを使用すれば腫瘍の動きの追跡精度は向上するが、基準マーカ自体が侵襲的であり、また基準マーカが患者の体内で移動する恐れもある。
【0004】
特許文献1には、基準マーカを使用せずに標的のリアルタイムの動きを追跡する方法が開示されている。この方法は、予め標的領域を示す画像を生成し、生成された画像をリアルタイム画像と一致させる。例えば、治療前にまずCT画像からデジタル再構成画像(DRR)を作成する。次に、治療中に撮影されたリアルタイムのX線画像とDRRとの間で最適な一致を特定する。対応するCT画像を介して腫瘍の位置が決定される。
【0005】
特許文献2および3には、2D磁気共鳴画像法(MRI)画像などにより得られる2D運動から腫瘍の3次元(3D)運動を推定する技術を用いたマーカーレス追跡法が開示されている。特許文献2では、線形回帰によって変換モデルを構築し、2次元の動きと3次元の動きの関係を特定している。特許文献3では、機械学習によってその関係を特定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006-515187号公報
【特許文献2】特表2017-537717号公報
【特許文献3】特表2022-513427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されているようなマッチングベースの方法は、DRRとリアルタイムX線画像の両方の腫瘍のコントラストがそれらの画像の有効な一致を保証するのに十分となりうる、肺などの特定の位置の腫瘍の治療に対しては適用することができる。しかし、膵臓などの一部の腫瘍では、DRRとリアルタイムX線画像の両方において腫瘍領域周辺の十分なコントラストを得ることは困難であるため、該して有効な一致を得ることができない。さらに、DRRは、通常、CT画像を2次元(2D)平面に投影することによって作成されるので、DRRにおける特徴とリアルタイムのX線画像における特徴とが必ずしも一致しない。これらの理由から、現状ではマッチングベースのマーカーレス追跡方法の活用が制限されている。
【0008】
特許文献2および特許文献3のいずれの方法も、学習段階において、事前知識に基づいて2D運動と3D運動との関係性を確立する。しかし、2D運動と3D運動との関係性は治療中にも変化する可能性がある。そのため、事前知識に基づくこれらの方法では2D運動から3D運動への正確な変換が行われない可能性がある。
【0009】
本開示に含まれるひとつの目的は、リアルタイムの画像を基に腫瘍の動きをマーカレスで高い精度で追跡することを可能にする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に含まれるひとつの態様による動き追跡装置は、特定領域における標的および組織の動きを追跡する動き追跡装置であって、リアルタイムでの前記標的および前記組織の三次元の動きを推定した推定3D運動と、リアルタイムでの前記標的および前記組織の二次元の動きを推定した推定2D運動とを取得する動き推定器と、所定の参照時点での前記特定領域の二次元画像である参照2D画像と、リアルタイムでの前記特定領域の二次元画像であるリアルタイム2D画像とを取得する画像取得器と、前記推定2D運動と前記参照2D画像とを用いて、リアルタイムの前記特定領域の二次元画像を疑似する疑似リアルタイム2D画像を生成する画像シミュレータと、前記疑似リアルタイム2D画像と前記リアルタイム2D画像との比較に基づいて、前記推定3D運動を補正する推定補正器と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本開示のひとつの態様によれば、リアルタイムの画像を基にそのコントラストが明瞭でなかったとしても腫瘍の動きをマーカレスで高い精度で追跡することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態による粒子線治療システムの一例を示す構成図である。
【
図2】ガントリ回転軸から見た患者および治療台の概略配置を示す配置図である。
【
図3】動き追跡装置による動き推定のプロセスを説明するための図である。
【
図4】3D DVFおよび2D DVFを模式的に例示した図である。
【
図5】3D DVFから2D DVFを取得する処理の一例を説明するための図である。
【
図6】3D DVFから2D DVFを取得する処理の他の例を説明するための図である。
【
図7】粒子線治療システムの一連の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態による粒子線治療システムの一例を示す構成図である。本実施形態の粒子線治療システムは、一例として陽子線治療(Proton Beam Therapy:PBT)を行う治療システムである。
【0015】
図1を参照すると、粒子線治療システムは、動き追跡装置10、治療コントローラ15、加速器20、ビーム輸送システム21、ガントリ22、一対のX線源30、および一対のX線撮像検出器31を備える。追跡装置10は、動き推定器11と、医用画像取得器12と、医用画像シミュレータ13と、推定補正器14とを備える。
【0016】
図2は、ガントリ回転軸から見た患者および治療台の概略配置を示す配置図である。
図2には、
図1に示されたガントリ回転軸23の方向に見た患者43および治療台32が示されている。
【0017】
患者43は、治療台32上に載置される。ガントリ22はガントリ回転軸23の軸として回転し、患者43に照射する粒子線のビーム方向を変化させることができる。X線源30aおよび30bは、X線撮像検出器31aおよび31bをそれぞれ使用して特定の領域を含む患者43の身体の部分を撮像するために、患者43を通過するX線を放出する。特定の領域は具体的には関心領域(Region of interest、以下「ROI」ともいう)42である。ROI42には、標的40および組織が含まれる。標的40は、粒子線ビームを照射する対象となる癌細胞群である。組織は人体内で特定の機能を果たす細胞群である。
【0018】
粒子線治療システムの動作の一例では、適切なエネルギーを有する荷電粒子ビームが加速器20から抽出され、ビーム輸送システム21を介してガントリ22に輸送される。ガントリ22は、患者43の周りを回転して、治療用ビームをさまざまな角度で標的40に向けることができる。加速器20、ビーム輸送システム21、およびガントリ22は、治療コントローラ15により、治療計画と動き追跡装置10によって推定された患者43の動きとに基づき制御される。
【0019】
図3は、動き追跡装置による動き推定のプロセスを説明するための図である。
【0020】
患者43に対して治療を行う間のリアルタイム測定の前に、医用画像取得器12は参照時点の二次元画像(以下「参照2D画像」ともいう)を取得する。参照2D画像は、呼吸が所定の位相の時点で取得される二次元画像である。以下、所定の位相を参照位相ともいい、その参照位相の時点を参照時点ともいう。例えば、完全に息を吐ききった時点を参照位相とする。
【0021】
動き推定器11は、予め構築された動きモデルを用いて、ROI42内の組織のリアルタイム三次元の動きおよび二次元の動きを推定する。以下、推定される三次元の動きを「推定3D運動」ともいい、推定される二次元の動きを「推定2D運動」ともいう。
【0022】
医用画像シミュレータ13は、参照2D画像と推定2D運動とを用いて、疑似的なリアルタイムの二次元画像(以下「疑似リアルタイム2D画像」ともいう)を生成する。例えば、推定2D運動に従って参照2D画像を変形することにより疑似リアルタイム2D画像を生成することができる。医用画像シミュレータ13は、複数の平面における疑似リアルタイム2D画像を生成する。
【0023】
その後、実際の治療でリアルタイムの計測が行われるとき、医用画像取得部12は、リアルタイムの現実の二次元画像(以下「リアルタイム2D画像」ともいう)を取得する。医用画像取得部12は、複数の平面におけるリアルタイム2D画像を取得する。
【0024】
推定補正器14は、医用画像シミュレータ13で生成された複数の疑似リアルタイム2D画像と、医用画像取得部12で取得された複数のリアルタイム2D画像とを比較し、比較結果に基づいて、予め動き推定器11にて推定された推定3D運動を三次元空間上で補正する。疑似リアルタイム2D画像とリアルタイム2D画像との差分を基に推定3D運動を三次元空間上で補正することにより、推定3D運動は、現在の実際の標的40および組織の動きをより正確に表すものとなる。
【0025】
上述した動き推定器11にて用いられる動きモデルは、一例として、予め治療計画中に撮影された4DCT画像および/または治療前または治療中に撮影された4DコーンビームCT(4-dimensional cone-beam computed tomograpy:4DCBCT)画像に基づいて構築することができる。例えば、4DCT画像および/または4DCBCT画像に対して主成分分析(Principal Component Analysis:PCA)を行って動きモデルを構築してもよい。他の例として、4DCT画像および/または4DCBCT画像を学習データとして機械学習を行って動きモデルを構築してもよい。4DCT画像は、立体的な時間変化を表す四次元のCT画像である。4DCBCT画像は、立体的な時間変化を表す四次元のコーンビームCT画像である。動きモデルは、測定されたサロゲート41の動きを入力として、ROI42内の組織の三次元の動きを推定した推定3D運動を出力する。推定2D運動は、例えば推定3D運動から算出することができる。推定3D運動および推定2D運動は、一例として、変形ベクトル場(Deformation Vector Field:DVF)の形式で表される。以下、三次元のDVFを3D DVFともいい、二次元のDVFを2D DVFともいう。これらはそれぞれ三次元および二次元の運動を表す。
【0026】
図4は、3D DVFおよび2D DVFを模式的に例示した図である。
【0027】
図4を参照すると、3D DVFにおいては、各ボクセルに対して三次元変位の変位ベクトルを表す矢印が付加されている。これは、ROI内の特定位置の特定時刻における参照時点の位置に対する三次元の変位を示している。2D DVFにおいては、各ピクセルに対して二次元変位の変位ベクトルを表す矢印が付加されている。特定位置の参照時点の位置に対する特定時刻における投影軸に沿って平面に投影される組織の加重平均運動が示されると考えることができる。なお、DVFのベクトルの方向は、ボクセルあるいはピクセルを指すように逆方向にすることもできる。
【0028】
図5は、3D DVFから2D DVFを取得する処理の一例を説明するための図である。本例においては、3D DVFは、X線撮像検出器31bが画像を検知する二次元平面上に投影される。投影軸に沿って存在するボクセルの三次元ベクトルを加重平均して、画像検出器の平面上の対応するピクセルの二次元ベクトルとする。
【0029】
図6は、3D DVFから2D DVFを取得する処理の他の例を説明するための図である。本例においては、まず最初に、3D DVFを使用して、組織等の三次元形状を示す3Dボリュームをレンダリングする。次いで、3DボリュームをX線撮像検出器31bの二次元平面に投影することにより、デジタル再構成画像(以下「DRR」ともいう)を作成する。次に、非剛体画像レジストレーション(Deformable Image Registration:DIR)により、DRRを参照時点におけるDRRに変形可能に位置合わせすることにより、2D DVFを生成する。
【0030】
なお、本実施形態では、推定3D運動から推定2D運動を取得する例を示したが、これらに限定されることはない。他の例として、動きモデルとして、組織の三次元の動きを推定するための3次元動きモデルと、二次元の動きを推定するための二次元動きモデルとを構築し、それらを用いることにしてもよい。二次元動きモデルは、二次元の医用画像を用いて構築することができる。二次元動きモデルにより2D DVFを生成し、リアルタイム2D運動を記述することができる。
【0031】
推定されたリアルタイム2D DVFのリアルタイム2D運動は、参照時点で撮影された参照2D画像を変形させるために使用される。参照2D画像は、参照時点における3Dボリュームに対応する。リアルタイム2D運動を使用して変形された参照2D画像は、治療中に撮影されるリアルタイム2D画像を疑似した疑似リアルタイム2D画像として提供される。
【0032】
疑似リアルタイム2D画像と実際に測定されたリアルタイム2D画像との比較により、動き推定器11で生成された推定3D運動を補正するための補正情報が生成される。
【0033】
一例として、疑似リアルタイム2D画像を、実際に測定されたリアルタイム2D画像に厳密に位置合わせした結果として二次元の補正ベクトルが得られる。次に、その二次元の補正ベクトルを三次元に逆投影して、事前に生成された推定3D運動を補正するための三次元の補正ベクトルが作成される。
【0034】
また他の例として、疑似リアルタイム2D画像を、実際に測定されたリアルタイム2D画像に合うように変形した結果として2D DVFが得られる。2D DVFは、所定の変換プロセスによって3D DVFに変換することができる。3D DVFは、事前に生成された推定3D運動の補正に適用される。
【0035】
図7は、粒子線治療システムの一連の処理を示すフローチャートである。
【0036】
ステップ501にて、治療前に、4DCTおよび4DCBCTからの情報を使用して動きモデルが構築される。
【0037】
ステップ502にて、動きモデルと参照デジタル放射線写真(Digital Ragiograpy: DR)との間の対応づけが確立されるように、基準フェーズの4DCBCT画像を撮影するのと同じタイミングで、基準DRを撮影する。
【0038】
ステップ503にて、治療中に、サロゲートとして使用される横隔膜の動きが測定され、動きモデルの入力として使用される。次に、動きモデルは、ROI内の組織の動きを推定するリアルタイム3D DVF(以下「推定リアルタイム3D DVF」ともいう)を生成する。
【0039】
ステップ504にて、推定リアルタイム3D DVFを使用して、リアルタイムの3Dボリュームを生成する。更に、そのリアルタイムの3Dボリュームを二次元平面に投影してリアルタイムのDRRを作成する。更に、そのリアルタイムのDRRに対して、参照3Dボリュームから作成された参照DRRを非剛体画像レジストレーション(DIR)することにより、推定リアルタイム2D DVFを生成する。なお、ここでは一例として非剛体画像レジストレーションを用いたが、これに限らず、剛体画像レジストレーションを用いてもよい。
【0040】
ステップ505にて、参照DRに推定リアルタイム2D DVFを適用し、疑似的なリアルタイムDR(以下「疑似リアルタイムDR」ともいう)を生成する。
【0041】
その後、ステップ506にて、実際にリアルタイムDRの測定が行われる。
【0042】
そして、ステップ507にて、疑似リアルタイムDRと、実際に測定されたリアルタイムDRとが比較される。
【0043】
次いで、ステップ508にて、ステップ507の比較結果により、2つの画像間の各ピクセルの変位を記述した補正2D DVFを生成する。
【0044】
ステップ509では、補正2D DVFを三次元に逆投影して、予め生成された推定3D DVFのリアルタイムの補正を表す補正3D DVFを生成する。
【0045】
ステップ510では、補正3D DVFを用いて推定リアルタイム3D DVFを補正し、補正後の推定リアルタイム3D DVFを用いて腫瘍および組織の位置を決定する。決定された腫瘍および組織の位置の情報が治療コントローラ15に送られ、治療コントローラ15は、その位置の情報に応じて治療ビームの方向付けを行う。
【0046】
また、他の例として、複数回の補正を繰り返すことにより、より正確な3D DVFを生成し、そのより正確に補正された推定リアルタイム3D DVFを用いて腫瘍および組織の位置を決定することにしてもよい。ステップ510にて推定リアルタイム3D DVFを補正した後、ステップ504に戻り、その補正された推定リアルタイム3D DVFを使用して、リアルタイムの3Dボリュームおよび2Dボリュームを生成するという反復処理により、ステップ508にて生成される補正2D DVFとステップ509にて生成される補正3D DVFとをゼロに近づけることができる。これにより、処理に要する計算時間は増えるが、より正確な3D DVFにより腫瘍および組織のより正確な位置を得ることができる。
【0047】
上述した本発明の実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。また、以下に示す事項も本開示の技術的範囲に含まれる。ただし、本開示に含まれる事項が以下に示すものだけに限定されることはない。
(事項1)
【0048】
特定領域における標的および組織の動きを追跡する動き追跡装置は、リアルタイムでの前記標的および前記組織の三次元の動きを推定した推定3D運動と、リアルタイムでの前記標的および前記組織の二次元の動きを推定した推定2D運動とを取得する動き推定器と、所定の参照時点での前記特定領域の二次元画像である参照2D画像と、リアルタイムでの前記特定領域の二次元画像であるリアルタイム2D画像とを取得する画像取得器と、前記推定2D運動と前記参照2D画像とを用いて、リアルタイムの前記特定領域の二次元画像を疑似する疑似リアルタイム2D画像を生成する画像シミュレータと、前記疑似リアルタイム2D画像と前記リアルタイム2D画像との比較に基づいて、前記推定3D運動を補正する推定補正器と、を有する。
【0049】
これによれば、推定2D運動に従って参照2D画像を変形することにより生成した疑似リアルタイム2D画像と、現在のリアルタイム2D画像と、の比較に基づいて、推定3D運動を補正するので、リアルタイム2D画像のコントラストが明瞭でなかったとしても標的の動きをマーカレスで高い精度で追跡することが可能になる。
(事項2)
【0050】
事項1に記載の動き追跡装置において、前記動き推定器は、予め撮像された画像に基づいて構築された動きモデルを用いて、前記推定3D運動および前記推定2D運動を特定する。
【0051】
これによれば、事前知識に基づいて推定された運動を、リアルタイムの画像と、推定された運動に基づく疑似画像との比較に基づいて補正するので、治療中の運動が事前の推定から変化しても、腫瘍の動きを高い精度で追跡することができる。
(事項3)
【0052】
事項1に記載の動き追跡装置において、前記動き推定器は、前記推定3D運動を三次元ベクトル場として推定し、前記推定2D運動を二次元ベクトル場として推定する。
【0053】
これによれば、運動をベクトル場として推定することにより演算による加工が容易な情報として運動を推定することができる。
(事項4)
【0054】
事項3に記載の動き追跡装置において、前記動き推定器は、前記推定3D運動の三次元ベクトル場を二次元平面に投影することにより前記推定2D運動の二次元ベクトル場を生成する。
【0055】
これによれば、推定3D運動の三次元ベクトル場を二次元平面に投影することにより推定2D運動の二次元ベクトル場を生成することで、少ない演算量で推定2D運動の情報を得ることができる。
(事項5)
【0056】
事項3に記載の動き追跡装置において、前記動き推定器は、前記参照時点の三次元形状を二次元平面に投影した投影画像を、非剛体画像レジストレーションによって、前記推定3D運動に基づく三次元形状を前記二次元平面に投影した投影画像に一致させるように変形した変形画像における二次元形状の運動を示す二次元ベクトル場を、前記推定2D運動の二次元ベクトル場として生成する。
【0057】
これによれば、高い精度で推定2D運動の二次元ベクトル場の情報を得ることができる。
(事項6)
【0058】
事項1に記載の動き追跡装置において、前記推定補正器は、複数の二次元平面について、前記疑似リアルタイム2D画像を前記リアルタイム2D画像に位置合わせする二次元補正ベクトルを算出し、算出された複数の前記二次元補正ベクトルに基づいて三次元補正ベクトルを生成し、前記三次元補正ベクトルを用いて前記推定3D運動を補正する。
【0059】
これによれば、二次元補正ベクトルに基づいて三次元補正ベクトルを生成し、その三次元補正ベクトルを用いて推定3D運動を補正するので、高い精度で実際の標的および組織の動きを表すことができる。
【0060】
(事項7)
事項1に記載の動き追跡装置において、前記動き推定器が、前記推定補正器により補正された前記推定3D運動を使用して、前記標的および前記組織の前記推定3D運動および前記推定2D運動を算出することにより、前記推定3D運動の補正を反復する。
【0061】
これによれば、擬似リアルタイム2D画像がリアルタイム2D画像をより正確に再現するため、推定3D運動の正をより正確に行うことができる。
【符号の説明】
【0062】
10…動き追跡装置、11…動き推定器、12…医用画像取得器、12…医用画像取得部、13…医用画像シミュレータ、14…推定補正器、15…治療コントローラ、20…加速器、21…ビーム輸送システム、22…ガントリ、23…ガントリ回転軸、30…X線源、30a…X線源、30b…X線源、31…X線撮像検出器、31a…X線撮像検出器、31b…X線撮像検出器、32…治療台、40…標的、41…サロゲート、42…関心領域、43…患者