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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151254
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】採血装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/151 20060101AFI20241017BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20241017BHJP
【FI】
A61B5/151 100
G06T7/00 612
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064490
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長坂 晃朗
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】杉山 公一
(72)【発明者】
【氏名】入江 隆史
【テーマコード(参考)】
4C038
5L096
【Fターム(参考)】
4C038TA02
4C038UE05
4C038UE07
4C038UE10
5L096BA06
5L096BA13
5L096CA02
5L096FA66
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】
人手を介すことなく安定した採血を行い得る採血装置及び方法を提案する。
【解決手段】
被採血者の生体部位に光を照射する光源と、光源と同じ側又は反対側から生体部位の皮下を走行する血管を撮影するカメラと、生体部位に対する穿刺針の相対位置を移動させる移動機構と、カメラの撮影により得られた血管の撮影画像上の穿刺針が移動可能な範囲内の各点について、穿刺対象として適しているか否かの評価値である穿刺適合度を定量的な数値としてそれぞれ算出する演算部とを採血装置に設け、演算部が、撮影画像上の穿刺針が移動可能な範囲内の各点についてそれぞれ算出した穿刺適合度に基づいて生体部位における穿刺針の穿刺に最も適した位置を選択し、選択した位置に穿刺針を穿刺するよう移動機構を制御するようにした。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被採血者により提示された生体部位への穿刺針の穿刺により採血を行う採血装置において、
前記生体部位に光を照射する光源と、
前記光源と同じ側又は反対側から前記生体部位の皮下を走行する血管を撮影するカメラと、
前記生体部位に対する前記穿刺針の相対位置を移動させる移動機構と、
前記カメラの撮影により得られた前記血管の撮影画像上の前記穿刺針が移動可能な範囲内の各点について、穿刺対象として適しているか否かの指標である穿刺適合度を定量的な数値としてそれぞれ算出する演算部と
を備え、
前記演算部は、
前記撮影画像上の前記穿刺針が移動可能な範囲内の各点についてそれぞれ前記算出した前記穿刺適合度に基づいて前記生体部位における前記穿刺針の穿刺に最も適した位置を選択し、選択した位置に前記穿刺針を穿刺するよう前記移動機構を制御する
ことを特徴とする採血装置。
【請求項2】
前記演算部は、
前記撮影画像上の対象とする点が前記血管上にある場合に、当該血管の太さ及び濃さに応じた値を示す血管評価値に基づいて前記穿刺適合度を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の採血装置。
【請求項3】
前記演算部は、
前記撮影画像上の対象とする点を中心とする近傍領域内の血管上の各点の前記血管評価値の総和を前記穿刺適合度として算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の採血装置。
【請求項4】
前記演算部は、
前記近傍領域の中心からの距離に応じて当該近傍領域内の各前記点の前記血管評価値を重み付けして前記穿刺適合度を算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の採血装置。
【請求項5】
前記演算部は、
前記撮影画像上の血管上の前記点を起点として前記血管に沿って連続的に一定距離の追跡を行い、経由する前記撮影画像上の各点の前記血管評価値の総和を当該血管上の点の前記穿刺適合度として算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の採血装置。
【請求項6】
前記演算部は、
経由する前記撮影画像上の各前記点の前記血管評価値に、それぞれ前記起点からの追跡距離に応じた重み付けして前記穿刺適合度を算出する
ことを特徴とする請求項5に記載の採血装置。
【請求項7】
前記演算部は、
前記撮影画像内の血管上の点を中心とする近傍の部分画像と、当該点における前記穿刺適合度又は当該穿刺適合度に順ずる適合性の指標との組からなる学習データセットを利用した機械学習により学習モデルを生成し、生成した前記学習モデルを用いて前記撮影画像における前記血管上の各点の前記穿刺適合度を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の採血装置。
【請求項8】
前記演算部は、
前記撮影画像において、前記穿刺針の可動範囲外の血管上の各点についても前記穿刺適合度をそれぞれ算出し、前記穿刺針の可動範囲外の前記点の中に、前記穿刺針の可動範囲内の最大の前記穿刺適合度よりも前記穿刺適合度が高い前記点が存在した場合には、当該点を前記穿刺針の可動範囲内に移動するよう前記被採血者に対して前記生体部位を動かすべき旨の指示を与える
ことを特徴とする請求項1に記載の採血装置。
【請求項9】
前記演算部は、
前記被採血者が前記生体部位を動かすべき方向を可視表示する
ことを特徴とする請求項8に記載の採血装置。
【請求項10】
前記演算部は、
前記穿刺針の可動範囲外の前記点であって、前記穿刺針の可動範囲内の最大の前記穿刺適合度よりも前記穿刺適合度が高い前記点が前記穿刺針の前記可動範囲に入った場合に、当該点が前記穿刺針の前記可動範囲内に入ったことを前記被採血者に通知する
ことを特徴とする請求項8に記載の採血装置。
【請求項11】
被採血者により提示された生体部位への穿刺針の穿刺により採血を行う採血装置により実行される採血方法であって、
前記採血装置は、
前記生体部位に光を照射する光源と、
前記光源と同じ側又は反対側から前記生体部位の皮下を走行する血管を撮影するカメラと、
前記生体部位に対する前記穿刺針の相対位置を移動させる移動機構と、
前記カメラの撮影により得られた前記血管の撮影画像上の前記穿刺針が移動可能な範囲内の各点について、穿刺対象として適しているか否かの指標である穿刺適合度を定量的な数値としてそれぞれ算出する演算部と
を有し、
前記演算部が、前記撮影画像上の前記穿刺針が移動可能な範囲内の各点についてそれぞれ前記算出した前記穿刺適合度に基づいて前記生体部位における前記穿刺針の穿刺に最も適した位置を選択する第1のステップと、
前記演算部が、選択した位置に前記穿刺針を穿刺するよう前記移動機構を制御する第2のステップと
を備えることを特徴とする採血方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は採血装置及び方法に関し、例えば、自動で採血を行う自動採血装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
血液検査は、医療において様々な疾患の診断を行うための基礎情報として不可欠なものとなっている。また近年では、増大し続ける医療費の抑制に向けた早期の疾患予兆診断などにも血液検査の活用が期待されており、血液検査の需要は今後益々増えていくものと考えられる。
【0003】
このような需要の高まりに伴い、採血を行う医療従事者の負担増が懸念されている。このような背景のもと、近年では、人手を介すことなく血液採取を自動的に行う自動採血装置が注目されており、特に、医療現場の限られたスペースを圧迫することなく配置できる小型で省スペースな自動採血装置が求められている。
【0004】
この種の自動採血装置として、特許文献1に開示された採血装置が知られている。この採血装置は、被採血者が指先を装置上の所定位置に提示すると、針が自動的に動いて指先を穿刺することにより小さな傷を作り、そこから出た血液を採取容器で受け止めることにより採血を行うものである。この採血装置は、採血対象部位に指先を採用することにより装置の小型化を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6994910号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Li, X., Lin, J., Pang, Y., Huang, L., Zhong, L., Li, Z.,“FingertipBlood Collection Point Localization Research Based on Infrared Finger VeinImage Segmentation”, IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement,Vol.71, pp.1-12 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一般的に人の指の中でも採血に適した箇所とそうでない箇所とがある。しかしながら、特許文献1では、採血位置の適性については何らの考慮もされておらず、採血装置が機械的に固定位置に穿刺針を穿刺することのみが開示されている。このため被採血者の指の個人差や、提示する姿勢及び位置の変化などによって十分な量の採血を行えない可能性があるという問題があった。
【0008】
一方、安定した自動採血を目指した研究としては、例えば、非特許文献1に記載の研究例がある。実際上、この非特許文献1では、近赤外線カメラを用いて指の血管パターンを撮影し、その撮影画像について解析処理を行い、血管の分岐点を穿刺位置として抽出する方法が開示されている。
【0009】
医療従事者が手作業で採血を行う場合でも、腕の血管を狙って採血穿刺針を穿刺することが一般的に行われており、中でも血管の分岐点は複数の血管が集まった箇所であるために血流量も相対的に多いことが期待できる。そこで、採血穿刺針が指の任意の位置を穿刺できるようにロボットアームによる制御を可能とし、採血穿刺針がこの血管分岐点を穿刺するようにプログラムすることにより、安定な採血の実現を目指している。
【0010】
しかしながら、血管の分岐点は一本の指の中に複数存在することが多く、それらのうちのいずれを穿刺対象として選択すべきかといった優先順位付けの方法については、非特許文献1には開示も示唆もなされていない。このため最終的には人手による判断が必要になるという問題があった。
【0011】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、人手を介すことなく安定した採血を行い得る採血装置及び方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため本発明においては、被採血者により提示された生体部位への穿刺針の穿刺により採血を行う採血装置において、前記生体部位に光を照射する光源と、前記光源と同じ側又は反対側から前記生体部位の皮下を走行する血管を撮影するカメラと、前記生体部位に対する前記穿刺針の相対位置を移動させる移動機構と、前記カメラの撮影により得られた前記血管の撮影画像上の前記穿刺針が移動可能な範囲内の各点について、穿刺対象として適しているか否かの指標である穿刺適合度を定量的な数値としてそれぞれ算出する演算部とを設け、前記演算部が、前記撮影画像上の前記穿刺針が移動可能な範囲内の各点についてそれぞれ前記算出した前記穿刺適合度に基づいて前記生体部位における前記穿刺針の穿刺に最も適した位置を選択し、選択した位置に前記穿刺針を穿刺するよう前記移動機構を制御するようにした。
【0013】
また本発明においては、被採血者により提示された生体部位への穿刺針の穿刺により採血を行う採血装置により実行される採血方法であって、前記採血装置に、前記生体部位に光を照射する光源と、前記光源と同じ側又は反対側から前記生体部位の皮下を走行する血管を撮影するカメラと、前記生体部位に対する前記穿刺針の相対位置を移動させる移動機構と、前記カメラの撮影により得られた前記血管の撮影画像上の前記穿刺針が移動可能な範囲内の各点について、穿刺対象として適しているか否かの指標である穿刺適合度を定量的な数値としてそれぞれ算出する演算部とを設け、前記演算部が、前記撮影画像上の前記穿刺針が移動可能な範囲内の各点についてそれぞれ前記算出した前記穿刺適合度に基づいて前記生体部位における前記穿刺針の穿刺に最も適した位置を選択する第1のステップと、前記演算部が、選択した位置に前記穿刺針を穿刺するよう前記移動機構を制御する第2のステップとを設けるようにした。
【0014】
本発明の採血装置及び方法によれば、穿刺適合度に基づいて穿刺針の穿刺に最も適した位置を選択することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被採血者による生体部位の提示姿勢や、生体部位の状態及び形状などの個人差に依らずに安定した採血を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1~第4の実施の形態による自動採血装置の全体構成を示す図である。
図2】移動機構の一部構成例を示す上面図である。
図3】撮影画像の一例を示す図である。
図4】自動採血処理の処理手順を示すフローチャートである。
図5】第1の実施の形態による最適穿刺点抽出処理の処理手順を示すフローチャートである。
図6】血管強調処理の処理内容を表すダイアグラムである。
図7】最適穿刺点抽出処理による撮影画像の変化の様子を示す図である。
図8】血管評価値の算出方法の説明に供する特性曲線図である。
図9】近傍血管評価値総和算出処理の説明に供する図である。
図10】第2の実施の形態による最適穿刺点抽出処理の処理手順を示すフローチャートである。
図11】第2の実施の形態の説明に供する図である。
図12】第2の実施の形態による最適穿刺点抽出処理の処理手順を示すフローチャートである。
図13】第3の実施の形態の説明に供する図である。
図14】第4の実施の形態による自動採血システムの全体構成を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0018】
(1)第1の実施の形態
(1-1)穿刺適合度について
まず穿刺適合度について説明する。指内における血管の分岐点の位置は個人によって全く異なるため、針が移動して穿刺可能な範囲に分岐点が存在するかどうかを保証することができない。特に特許文献1で開示されたような小型の採血装置では、針を移動させるための機構も小型化する必要があり、可動の自由度を制約せざるを得ない。
【0019】
そのため血管の分岐点といった、その特徴が対象とする範囲内に存在しなければ、一切の評価を行うことができない情報に基づくのではなく、対象範囲内の任意の点について採血量の期待度に合わせた定量的な数値指標を求め、その指標の相対的な高低によって穿刺に適した点を選択できるようにすることが望ましい。これにより、穿刺に最適な位置が対象範囲内にない場合でも、範囲内における次善の位置を選択でき、大幅な採血量の低下が避けられることで、小型の採血装置であっても採血の安定性を高めることができる。以下においては、この数値指標を穿刺適合度と呼ぶものとする。
【0020】
穿刺適合度の算出にあたっては、採血量がどれだけ期待できるかを数値として反映させる必要がある。採血量は、概ね穿刺位置における血液量の多さに比例すると考えられることから、対象とする生体部位において血液が密に集まる血管上の点であることが穿刺位置の基本条件となる。そして穿刺適合度は、対象とする生体部位内にある血管のうち、最も多くの血液を蓄えた部分が高評価となるような指標である必要がある。
【0021】
対象となる生体部位における血液量の分布を計測する方法としては、上述の非特許文献1でも使われている近赤外線計測が利用できる。近赤外光を生体に透過させ、近赤外波長域に対応したカメラで撮影すると、血管が暗い線として映る。これは血液中に含まれるヘモグロビンが近赤外光を吸収する性質があり、近赤外光を透過させると、ヘモグロビンを多く含む血管を通る際に光が弱められ、血管が周囲に比べて相対的に暗く映るためである。このようにして得られた血管の撮影画像は、線が暗い部分ほど血液量が多いことを示し、基本的には、この撮影画像を解析することで血管上の各点の穿刺適合度をそれぞれ算出することができる。
【0022】
しかしながら、赤外光を用いた血管の撮影画像は、一般に不鮮明であり、血液量だけでなく、生体内の組織組成の差などによっても光の透過のし易さにムラが生じ易い。任意の点における穿刺適合度を求めるにあたって、その点の輝度が低いといった局所的な特徴のみでは、実際に血液が多いのか、又は、ムラによってそのような特徴がたまたま発現しただけなのかを正確に区別することが難しい。判定が不正確になれば、安定的な採血量の確保もできなくため、血液量が多い箇所をロバストに検出できる手段が不可欠である。そのため、穿刺対象となる点(以下、これを穿刺点と呼ぶ)の選択にあたっては、候補とする一点の局所的な特徴だけでなく、その近傍を含むより広い範囲における血液量の分布状態を反映させることで、局所的な変異の影響を抑えた穿刺適合度を設定して用いる必要がある。
【0023】
以下、このような穿刺適合度を考慮して被採血者が提示した生体部位のうちの最適な穿刺点(以下、これを最適穿刺点と呼ぶ)を選定し、選定した穿刺点に穿刺針を穿刺して採血を行う本実施の形態による自動採血装置について説明する。
【0024】
(1-2)本実施の形態による自動採血装置の構成
図1において、1は全体として本実施の形態による自動採血装置を示す。この自動採血装置1は、演算部2、光源制御部3、画像入力部4、機構制御部5及び通信部6と、カメラ7、近赤外光源8、移動機構9及び採血管10とを備えて構成される。
【0025】
演算部2は、内部バス20を介して相互に接続されたCPU(Central Processing Unit)21、メモリ22及び補助記憶装置23と、光源制御部3、画像入力部4、機構制御部5及び通信部6にそれぞれ対応させて設けられたインタフェース24とを備えて構成される。なおCPU21、メモリ22、補助記憶装置23及び各インタフェース24は、高速化などの目的で相互に専用バスで接続される場合もある。
【0026】
CPU21は、本自動採血装置1全体の動作制御を司るプロセッサである。またメモリ22は、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)などから構成され、処理に必要なプログラムを恒久的に保持したり、処理に必要なデータを一時的に保持するために利用される。メモリ22に格納されたプログラムをCPU21が実行することにより、後述のような自動採血装置1全体としての各種処理が実行される。
【0027】
補助記憶装置23は、例えばフラッシュメモリやハードディスク装置などから構成され、各恒久的に保存が必要なデータを格納するために利用される。補助記憶装置23へのデータの入出力は、CPU21の制御のもとにメモリ22を介して行われる。
【0028】
インタフェース24は、それぞれ演算部2と、対応する機能ブロック(光源制御部3、画像入力部4、機構制御部5又は通信部6)との間で必要なデータのやり取りが行えるように、これら演算部2及び機能ブロック間を接続する機能を有するデバイスである。
【0029】
このようなインタフェースの存在により、演算部2は、光源制御部3を介して近赤外光源8の発光状態を制御したり、画像入力部4を介してカメラ7の出力画像を入力したり、機構制御部5を介して移動機構9を駆動制御することができる。また演算部2は、通信部6を介してネットワーク11に接続された外部装置(図示せず)との間で通信を行うこともできる。そしてこのような通信により、例えば、採血に伴う処理の一部又は全部を外部装置(例えばホストとなる外部の演算装置)と分担したり、クラウド上の各種サービスと連携することができる。
【0030】
カメラ7は、例えばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサや、CMOS(Complementary metal-Oxide Semiconductor)イメージセンサなどから構成され、被採血者の採血対象となる生体部位(以下、指とする)12の皮下の血管パターンを撮影し、撮影画像の画像データを画像入力部4に出力する。
【0031】
また近赤外光源8は、例えば近赤外線LED(Light Emitting Diode)などから構成され、光源制御部3から与えられる駆動電力に基づいて、当該駆動電力の電力量に応じた強度の近赤外光を発射する。近赤外光源は、例えば図1のように被採血者の指12を挿入可能な程度の距離を離してその光軸がカメラ7の光軸と一致するように固定配置される。このように近赤外光源8とカメラ7とで被採血者の指12を挟み込む構成としたのは、人の指は近赤外光が十分に透過できる程度の厚みであり、カメラ7と対向する指面の反対側から近赤外光を透過させて撮影した方がコントラストの高い血管パターンが得られるためである。
【0032】
なお、カメラ7と同じ側に光源を配置し、指12の撮影対象面に光を照射して反射して戻ってきた光で血管パターンを撮影する方法もあるが、この場合、指12の皮膚表面での光の反射が強く、その奥にある血管で反射した光が相対的に弱められるため、コントラストの低い血管パターンとなる。このような反射光方式は、カメラ7と光源とを同じ側にコンパクトにまとめられるため、撮像系の大きさを抑えられるメリットがあり、装置の小型化を優先する場合に適した方式である。腕などの厚みがある生体部位が採血対象の場合についても、光を透過させる方式では光が生体中で減衰してしまい、十分な量の光が通り抜けられずに血管パターンのコントラストが得られないため、反射光方式の方が適している。
【0033】
移動機構9は、被採血者により所定位置に所定状態に提示された指12に対して穿刺針13を穿刺する方向及び指12に穿刺した穿刺針13を当該指12から抜く方向の位置を含む、指12に対する穿刺針13の相対位置を移動させる機構であり、先端部に穿刺針13が交換自在に取り付けられた押出し機構9Aを備えて構成される。押出し機構9Aは、図示しないモータ等のアクチュエータを備えており、当該アクチュエータにより穿刺針13を被採血者の指12に穿刺する方向及び穿刺した穿刺針を引き抜く方向に移動させることができる。
【0034】
光源制御部3は、CPU21が実行するプログラムから指定される目標値に基づいて、カメラ7の撮影画像において血管パターンが最も鮮明となるよう近赤外光源8が発射する近赤外光の明るさを制御する機能を有する機能ブロックである。具体的に、光源制御部3は、近赤外光源8に印加する駆動電力量を、CPU21が実行するプログラムから指定された目標値となるようPWM(Pulse Width Modulation)制御する。
【0035】
また画像入力部4は、カメラ7から与えられた上述の画像データを演算部2で取り扱いやすい形式に変換し、変換した画像データをメモリ22に格納する機能を有する機能ブロックである。また機構制御部5は、CPU21が実行するプログラムの指示に従って移動機構9を制御する。
【0036】
以上の構成を有する自動採血装置1において、CPU21は、メモリ22に格納されたプログラムに基づいて、上述のようにして得られた血管パターンの撮影画像を解析し、撮影画像上で最も穿刺に適していると判定した点(最適穿刺点)の座標値を求める。そして、CPU21は、求めた最適穿刺点の座標値を機構制御部5に通知する。
【0037】
機構制御部5は、CPU21から最適穿刺点の座標値が通知されると、移動機構9を制御して、被採血者が提示した指12におけるその座標値に穿刺針13を穿刺させる。これに先立ち機構制御部5は、カメラ7の撮影画像上に映し出された指12の任意の座標と、穿刺針13が穿刺する実際の指の点とが一致するように事前にキャリブレーションを行い、対応関係を記憶しておく。
【0038】
また機構制御部5は、被採血者の指12に対する穿刺針13の穿刺が行われると、穿刺針13を被採血者の指12から引き抜く方向に移動させるよう移動機構9を動作させ、この後、被採血者の指12における穿刺針13が穿刺された箇所の真下に採血管10を移動させるよう移動機構9を制御する。これにより被採血者の指12から出血した血液が採血管により受け止められ、規定容量の血液が採取されると、採血が完了する。
【0039】
なお、穿刺針13に注射針と同様の細い管状のものを採用すると共に、その穿刺針13と採血管とをチューブ等で連結して、穿刺針13を被採血者の指12に穿刺した状態のまま採血管10に規定容量の血液が貯まるのを待つようにしてもよい。
【0040】
図2は、移動機構9の一部構成例を示す。移動機構9は、モータ等によって回転するターンテーブル9Bと、所定位置に提示された被採血者の指12に向けて穿刺針13をターンテーブル9Bの上面から押し出す押出し機構9A(図1)とを備えて構成される。
【0041】
ターンテーブル9Bには、同じ円周起動上に複数の穴9BX(図2では4つ)が設けられており、これらの穴9BXのうちの少なくとも1つの穴9BXから被採血者の指に向けて押し出されるように穿刺針13が配置され、この穴9BXと隣接する他の穴9BXに嵌め込まれるようにして採血管10がセットされる。
【0042】
そして移動機構9では、採血時、機構制御部5(図1)の制御のもとに、所定位置に所定状態に提示された被採血者の指12の真下に穿刺針13が位置するようにターンテーブル9Bが回転され、その後、穿刺針13がターンテーブル9Bの穴9BXから押出し機構9Aにより押し出されて被採血者の指12の最適穿刺点に穿刺される。また、この後、穿刺針13が押出し機構9Aによりターンテーブル9Bの穴9BXの中に戻され、その後、かかる指12の真下に採血管10が位置するようにターンテーブル9Bが回転される。これにより、指から出血した血液が採血管10により採取される。
【0043】
このような本実施の形態の移動機構9によれば、ターンテーブル9Bの回転と、穿刺針13の穿刺方向及びこれと逆方向の移動との2つの自由度をもたせるだけで採血を行うことができ、穿刺針13や採血管10といった採血ごとに1回だけしか使用しない消耗品をターンテーブル9Bの上面側からまとめて簡単に管理(交換等)できるという利点がある。また本実施の形態の移動機構9によれば、構造もシンプルであるために小型化することができ、ひいては自動採血装置1全体の小型化にも貢献できるという利点もある。
【0044】
図3は、本実施の形態の自動採血装置1のカメラ7により撮影された被採血者の指12の撮影画像30の例を示す。この撮影画像30では、画像中央部に被採血者の指12の像31が映し出されており、その像31の内側にその指12内の血管パターン32が現れている。この血管パターン32上の点が相対的に血液量が多い箇所を表す。
【0045】
また図中の円弧軌道33は穿刺針13の可動範囲を表す。最適穿刺点は、この円弧軌道33上の各点の中から抽出する必要があり、中でも血液量が多いと推定される血管との交叉点34を選択することになる。一般に、血管パターン32は網の目状に形成されているため、円弧軌道33と、血管パターン32とは複数個所で交叉することが多い、このため、これら交叉点34の中でも、最も血液量が多いと推定される一点を抽出し、実際に穿刺針13を刺す点として決定する必要がある。
【0046】
なお、本実施の形態においては、穿刺針13の可動範囲が円弧軌道であるものとしたが、穿刺針13を移動させる移動機構9は図2で示した構成に限定されるものではなく、適用する移動機構9の構成に応じて穿刺針13の可動範囲も変化する。穿刺針13の移動の自由度を増やせば穿刺針13の可動範囲も広がり、図3のような線ではなく、幅を持った帯状の範囲とすることも可能である。また穿刺針13の可動範囲が円弧状である必要もなく、直線的、四角形状又は扇状であってもよい。ただし、以下においては、説明を分かり易くするため、撮影画像30における穿刺針13の可動範囲が水平の直線状であるものとする。
【0047】
図4は、採血の際に自動採血装置1の演算部2のCPU21(図1)により実行される一連の処理(以下、これを自動採血処理と呼ぶ)の流れを示す。この自動採血処理は、例えば被採血者や係員が本自動採血装置1に対して所定の操作を行うことにより開始される。
【0048】
そしてCPU21は、まず、これから実行する各種処理やハードウェアを初期化する(S1)。またCPU21は、カメラ7(図1)を起動して撮影を開始させ、かかる撮影により得られた撮影画像の画像データを画像入力部4(図1)に取り込ませる(S2)。このとき取り込まれた画像データは、画像入力部4により演算部2のメモリ22(図1)内の所定領域に格納される。
【0049】
続いてCPU21は、前回メモリ22に格納された画像データに基づく撮影画像と、今回ステップS2でメモリ22に格納された画像データに基づく撮影画像とを比較し(S3)、採血対象の生体部位(ここでは指)が所定位置に所定状態に提示されたことに起因して発生する大きな画像変化(予め定められた閾値以上の画像変化)を検知できたか否かを判定する(S4)。
【0050】
この判定で否定結果を得ることは、未だ被採血者が指12(図1)を所定位置に所定状態に提示していないことを意味する。かくして、このときCPU21は、ステップS2に戻り、この後、ステップS4で肯定結果を得るまでステップS2~ステップS4の処理を繰り返す。
【0051】
そしてCPU21は、やがて被採血者の指12が所定位置に所定状態に提示したことによりステップS4で肯定結果を得ると、採血を開始する旨を被採血者や係員に必要に応じて通知する(S5)。例えば、CPU21は、被採血者の指12を検知した旨のテキストやアイコンをディスプレイ等に表示したり、音声によるアナウンス又はアラーム音など適用環境に最適な方法で採血を開始する旨を被採血者や係員に通知する。なお、被採血者の指12が所定位置に所定状態に提示されたか否かを専用のセンサを用いてCPU21が検知するようにしてもよい。また、このステップS5の処理は省略してもよい。
【0052】
次いで、CPU21は、近赤外光源8(図1)が点灯を開始するよう光源制御部3(図1)に指示を与えると共に、被採血者の指12が適切な明るさで撮影される状態となるよう、光源制御部3を介して近赤外光源8の発光光量を調整する(S6)。被採血者の指12が適切な明るさであるか否かは、メモリ22に格納された画像データに基づく撮影画像を解析して、指12の像31(図3)の平均輝度が所定範囲内にあるか否かを判定することにより行うことができる。
【0053】
さらにCPU21は、被採血者の指12が適切な明るさとなるよう近赤外光源8の発光光量を調整し終えたか否かを判定し(S7)、否定結果を得るとステップS2に戻って、この後、ステップS7で肯定結果を得るまでステップS2~ステップS7の処理を繰り返す。
【0054】
そしてCPU21は、やがて近赤外光源8の発光光量の調光が完了することによりステップS7で肯定結果を得ると、撮影画像に表示された指12の像31の領域内から最適穿刺点を抽出する最適穿刺点抽出処理を実行する(S8)。またCPU21は、かかる最適穿刺点抽出処理により最適穿刺点を抽出すると、抽出した最適穿刺点に穿刺針13を移動させてその最適穿刺点に穿刺針13を穿刺するよう機構制御部5(図1)を介して移動機構9(図1)を制御する(S9)。
【0055】
これにより、かかる最適穿刺点に穿刺針が穿刺されて採血が開始され、この後、必要量の血液を採血し終えると採血が完了する。なお、必要量の血液を採血し終えたか否かは、採血管10(図1)の重さを監視し、採血管10の重さが一定以上となった場合や、センサ等により採血管10における血液の高さを監視し、当該高さが一定以上となった場合に必要量の血液を採血し終えたと判定するようにしてもよい。そしてCPU21は、必要量の採血を終了すると、この自動採血処理を終了する。
【0056】
図5は、上述した自動採血処理のステップS8においてCPU21により実行される最適穿刺点抽出処理の具体的な処理内容を示す。CPU21は、自動採血処理のステップS8に進むとこの図5に示す最適穿刺点抽出処理を開始する。
【0057】
そしてCPU21は、まず、そのときメモリ22に格納されている、直前のステップS2で取得した撮影画像に対して血管を強調する血管強調処理を実行する(S10)。これは、穿刺点は基本的に血管上の点であり、そのため解析処理に先立って血管の特徴がより明確になるように増幅処理を行うことで解析精度を高めることができるからである。
【0058】
そこでCPU21は、基本的にはガウス差分と呼ばれる輪郭抽出向けの一般的な手法をベースにして血管の強調処理を行う。ガウス差分は、輝度の局所的な変化を増幅強調する手法のため、輪郭だけでなく血管のような線も強調される。またガウス差分を利用して、同じ画像から生成する平滑化パラメータ(平滑化の際に参照する領域の半径)の異なる2枚の画像(以下、これらを画像G1、画像G2と呼ぶ)の差分をとることで、細やかなノイズの増幅を抑え、比較的太い血管を安定的に強調することができる。
【0059】
指などの生体の表面は指紋に代表されるように凹凸があり、肌荒れによる角質化の影響も加わることで、血管の撮影画像にも細かなノイズがのりやすい傾向がある。ガウス差分における平滑化の度合を適切に設定することで、このようなノイズは平滑化の際に取り除かれ、残された安定な血管だけが強調される。このような画像G1及び画像G2の差分画像(G1-G2)の各画素の画素値をN倍し、さらに各画素の画素値に定数Cをそれぞれ加算することで、Nを大きくするほど増幅率が高まる血管強調画像を得ることができる。なお、このときの定数Cは差分によって画素値が負の値をとることを回避するための補正項で、例えば撮影画像が256階調の画像である場合、中央値の128が定数Cとして設定される。
【0060】
図6は、かかる血管強調処理の具体的なダイアグラムの一例を示す。この例では、まず、メモリ22に画像データが格納された撮影画像Iに対して平滑化処理(ガウシアンフィルタ処理)を施し、かくして得られた第1の平滑化画像Gに対してさらに平滑化処理(ガウシアンフィルタ処理)を施して第2の平滑化画像Gを生成する。これは、異なる平滑化パラメータの画像差分を用いるという基本的な考え方は上述の流れと同様であるが、第1の平滑化処理で血管以外のノイズを除去した画像をまず生成し、ノイズのない状態の画像だけで差分処理を行うことで、ノイズの影響をさらに抑制するためである。
【0061】
一方、上述の穿刺適合度の算出にあたっては、血管の太さや濃さが指領域内のどの位置にあっても同じ基準で測れることが望ましい。例えば、本来同じ濃さの血管であるのにも関わらず、場所によって輝度が異なると、求まる穿刺適合度も位置依存の不安定な指標となり易い。特に、生体の近赤外撮影画像は、光源の配置と生体提示位置との関係や、生体組織内の組成のばらつきなどの影響によって光の強度に緩やかな不均等が生じやすい。
【0062】
そこで、このような不均等の補正を行うため、血管強調処理の過程に正規化処理を加える。具体的には、第1の平滑化画像G及び第2の平滑化画像Gの差分画像(G-G)の各画素の画素値をそれぞれN倍し、さらに各画素の画素値を平滑度の高い第2の平滑化画像Gにおける対応する画素の画素値で除算するようにして正規化する。平滑度が高いということは、局所的な特徴が失われ、より大局的な特徴だけが残っている状態であり、光の不均等は多くが大局的な特徴であるため、かかる除算処理によって正規化を行うことができる。このような正規化の方法は、単純ながら一定の効果が期待できるが、装置構成等により光の不均等をより安定に取り除くことが求められる場合には、他の正規化方法を採用してもよい。
【0063】
さらに血管強調処理では、正規化した画像の各画素の画素値に対して上述の定数Cをそれぞれ加算する。これにより血管を強調した画像(以下、これを血管強調画像と呼ぶ)Eを得ることができる。
【0064】
続いて、CPU21は、上述の血管強調処理によって得られた血管強調画像から血管パターン32(図3)を抽出する血管パターン抽出処理を実行する(S11)。血管パターン32の抽出については、生体認証の1つである静脈認証で用いられている種々の既存手法を利用できるが、最大変曲率に基づく方法など、血管の濃さや太さに関わらず一様に抽出できる手法を採用するとよい。後述の血管評価にあたっては、血管の濃さや太さを特徴として利用するが、血管パターンの抽出と、血管の評価とを段階に分けて処理することで、それぞれ処理の精度を高め、最終的な最適穿刺点の抽出精度を高めることができる。
【0065】
この後、CPU21は、細線化処理を実行することにより、血管パターン抽出処理を施した血管強調画像から、血管の太さに依存しない中心線だけのパターン画像を生成する(S12)。このような血管パターンの細線化を行うのは、血管の太さを維持したままだと、この後実行する血管評価の際に1本の血管に対して必要以上にたくさんの画素が関わることになり、処理量が増え過ぎるためこれを防止するためである。
【0066】
以上のステップS10~ステップS12の処理によって撮影画像がどのように変化していくのかを模式的に図7に示す。図7の最上段はカメラ7により撮影された撮影画像40であり、この撮影画像40がステップS10の血管強調処理によって血管のコントラストが全般に高められた血管強調画像41に変換される。この血管強調処理によって、見え難かった細く薄い血管が明瞭化され、生体の表面状態に起因するノイズも抑制される。
【0067】
この血管強調画像41にステップS11の血管パターン抽出処理を施すことにより、血管パターンをその濃さや太さに依らずに一様に抽出した血管パターン抽出画像42が得られる。血管パターンを一様に抽出したことにより、血管とそれ以外とに分けた2値化が可能になる。
【0068】
さらにこの血管パターン抽出画像42に対してステップS12の血管パターン細線化処理を施すことにより、血管パターンを最小の画素数で表現した細線化画像43が得られる。この細線化画像43は、最適穿刺点を決定するための前提条件として、各点が血管上の点であるかどうかを判別するための補助情報として利用する。このため、ステップS11の血管パターン抽出処理においては、血管である可能性のある個所は、なるべく漏れのないよう、抽出の条件を緩くして抽出するようにする。条件緩和で抽出漏れが十分に小さくできる方法であれば、過剰な検出は比較的許容できるため、より軽量で高速な方式などを採用してもよい。
【0069】
図5の説明に戻って、次いでCPU21は、ステップS10~ステップS12の処理で血管パターンとして抽出された細線化画像43内の各点(画素)について、血管としての評価値(以下、これを血管評価値と呼ぶ)をそれぞれ算出する各点血管評価値算出処理を実行する(S13)。血管評価値は、血液量の多さを推定する指標として用いるため、血管の撮影画像から定量評価が可能な血管の太さに着目する。
【0070】
図8を用いて血管評価値の算出方法の一例について説明する。図8において、曲線K1は、血管強調画像における血管周辺の輝度断面プロファイルの例を示し、曲線K2は、対応する変曲率を示す。変曲率は、輝度断面プロファイルの各点における輝度変化率を表したもので、輝度が最も低くなるピークで最大の正の値をとり、逆に輝度が最も高くなるピークで最小の負の値をとる。
【0071】
ここで輝度断面プロファイル上のx座標の点P(x)における変曲率C(x)は、幅をδとしたとき、次式
【数1】
により表すことができる。この変曲率C(x)を用いると、血管強調画像41(図7)における血管の範囲を求めることができる。血管強調画像41において、血管として暗く見えている部分は変曲率C(x)が概ね正の部分に相当し、変曲率C(x)が正負逆転する点を検出して、これらの点に挟まれた正の値が継続する部分の長さW(図8)の区間を求めることで血管の範囲を抽出することができる。以下、この長さWを血管幅Wと呼ぶ。
【0072】
このとき輝度断面プロファイルにおいて、かかる血管幅Wの区間の両端の輝度を結ぶ線を下回る面積は、血管の太さと濃さとを同時に反映する総合指標となり、これを血管評価値として利用する。この血管評価値は、血管幅Wが大きいほど、また血管が濃い、すなわち血管境界からの輝度の落差が大きいほど大きな値を示すため、当初の目的と合致する。
【0073】
このような血管評価値を、細線化画像43(図7)における細線化した血管パターン上の各点についてそれぞれ求め、血管パターン上の各点の画素値を血管評価値に置き換えた血管評価値画像44(図7)を以下の手順により生成する。まず、細線化画像43の全画素をスキャンし、画素ごとに細線化血管パターン上の点であるか否かをそれぞれ判定する。血管パターン上の点であると判定した画素については、その画素を中心とする輝度断面プロファイルを血管強調画像41から取得し、上述の方法によってその画素(点)における血管評価値を求める。
【0074】
ただし、血管評価値は、血管を幅方向に横断する輝度断面プロファイルからしか求めることができない。例えば、画像を水平方向に切った断面プロファイルからは、画像上を縦方向に走る血管に関する評価値しか得られない。横方向に走る血管の場合、血管の中を走査したプロファイルしか得られず、幅方向の情報がないので、その太さや濃さは計測できない。
【0075】
そこで血管評価値を、縦横2方向の輝度断面ファイルでそれぞれ求め、両者のうちの血管の幅方向に近い方向のプロファイルで算出した血管評価値をその画素(点)における最終的な評価値とする。どの方向が血管の幅方向に近いのかの判定については、血管は進行方向の輝度変化よりも幅方向の輝度変化の方が急激なため、その画素(点)における走査方向ごとの輝度の変曲率を比較し、より大きな値を示した方向が近いとみなす。必要に応じて斜め方向の輝度断面プロファイルを追加して血管評価値を求めるようにしてもよい。
【0076】
続いて、CPU21は、図9に示すように、血管評価値画像44における穿刺針13の可動範囲上にある各点(画素)について、その点を中心とする所定大きさの近傍領域45内に存在する血管上の各点の血管評価値の総和を穿刺適合度としてそれぞれ求める近傍血管評価値総和算出処理を実行する(S14)。このようにして穿刺適合度を求めるのは、穿刺針13の可動範囲内の一点だけで評価すると、ムラなどで生じた局所的な血管評価値の異常がそのままダイレクトに穿刺適合度に反映されてしまうことから、これを防止するためである。上述のように対象とする各画素(点)について、その近傍領域45内の該当する各画素(血管上の各点であり、以下、同様)について求めた血管評価値の総和をその画素(点)の穿刺適合度とすることで、そのような突発的な異常を統計的に排除することができ、安定した判定を行うことができる。
【0077】
ただし、単に領域を広げるだけでは、画素(点)ごとの評価のシャープさが失われ易いため、近傍領域45内の対応する各画素(点)の血管評価値に対してその画素の近傍領域45の中心からの距離に応じた重みを付けることによって、中心付近に血管評価値が高い点が集中している画素ほど高い穿刺適合度が得られるようにすることができる。
【0078】
次いでCPU21は、穿刺針13の可動範囲内のすべての該当する画素(点)についてそれぞれ求めた穿刺適合度を比較し、最も適合性が高い画素(点)を最適穿刺点として選択する最大評価値算出処理を実行する(S15)。
【0079】
最適穿刺点の選出にあたっては、単純に穿刺適合度の高低で選出してもよいし、穿刺のし易さに関する別の条件をさらに加味するようにしてもよい。例えば、穿刺対象の生体部位が指の場合、指が円筒状の形状をしているため、指の中央に近い位置の方が穿刺針に対して皮膚面が正対し易い傾向がある。また、逆に指の端になるほど、皮膚面とは角度が生じ易いために穿刺針を穿刺し難くなる。このため指の中央部分が選出され易いように、指の中央部に近い位置の穿刺適合度ほど適合性が高くなるように調整することができる。指の提示姿勢によって撮影画像における指領域の位置は変動するため、画像処理によって指の輪郭を抽出し、撮影画像における指領域の中央部ほど適合性が高くなるようにしてもよい。
【0080】
(1-3)本実施の形態の効果
以上の構成を有する本実施の形態の自動採血装置1によれば、穿刺針13の可動範囲内における血管上の任意の点について、血管の太さと濃さとを反映した血管評価値に基づく穿刺適合度を安定的に求めることができ、そのうちの最大の適合性を有する点を最適穿刺点として自動選択して穿刺針13を穿刺することができる。従って、本自動採血装置1によれば、被採血者による生体部位の提示姿勢や、生体部位の状態及び形状などの個人差に依らずに安定した採血を行うことができる。
【0081】
(2)第2の実施の形態
図10は、図5について上述した最適穿刺点抽出処理に代えて図1及び図2について上述した自動採血装置1のCPU21により実行される第2の実施の形態の最適穿刺点抽出処理の流れを示す。
【0082】
この最適穿刺点抽出処理は、ステップS24の処理が第1の実施の形態の最適穿刺点抽出処理のステップS14の処理内容と異なっており、これ以外のステップS20~ステップS23及びステップS25の処理内容は、それぞれ第1の実施の形態の最適穿刺点抽出処理のステップS10~ステップS13及びステップS15と同様である。
【0083】
つまり本実施の形態の最適穿刺点抽出処理は、ステップS24において、該当する画素(点)について近傍の血管評価値の総和を求める代わりに、血管追跡による近傍結果評価値の積算を行う点が第1の実施の形態の最適穿刺点抽出処理と相違する。
【0084】
ここで、第1の実施の形態の最適穿刺点抽出処理のステップS14の方法では、穿刺適合度の算出にあたって、近傍領域45(図9)内の血管の連続性については考慮されていない。例えば、穿刺適合度の算出対象の点の近傍に血管のように暗く映る暗点ノイズが多数生じたケースでも、穿刺適合度は高い適合性を示すことになる。このようなノイズは、血管が連続性をもつことを条件に加えることによって容易に除外が可能である。
【0085】
そこで本実施の形態においては、最適穿刺点抽出処理のステップS24において、図11に示すように、穿刺針13の可動範囲46における血管上の各点(画素)について、その点を起点として所定距離分だけ連続的に血管の追跡(図11の矢印a1,a2)を行い、このとき経由する各点の血管評価値を累計することでその点の穿刺適合度を求める。
【0086】
このようにすることによって、第1の実施の形態の最適穿刺点抽出処理におけるステップS14のように穿刺適合度の算出対象の点の近傍領域45(図9)を機械的に拡張するのではなく、かかる点を通っている血管に限定し、その連続性に従って近傍への調査範囲の拡張を行うため、起点となった点と血管で繋がっていない点の血管評価値の影響を受け難く、より安定に穿刺適合度を求めることができる。血管評価値の累計にあたっては、起点からの追跡距離に応じて距離が近いほど重みが増すように血管上の各点の血管評価値を重み付けするようにしてもよい。
【0087】
以上のような本実施の形態の最適穿刺点抽出処理によれば、第1の実施の形態の最適穿刺点抽出処理と比べてより安定した採血を行うことができる。
【0088】
(3)第3の実施の形態
第1及び第2の実施の形態では、血管の撮影画像40(図7)内における血管上の画素(点)の穿刺適合度の算出を、その近傍領域も含めた血管特性について事前に立てた論理的根拠に基づき推定を行う方式について述べた。しかしながら、最近では、学習データを多数用意することで、これらの学習データから規則性を学習して推定を行う機械学習に基づく認識方式も実用的に利用されるようになっている。そこで本実施の形態においても、穿刺適合度の算出に機械学習を適用する。
【0089】
具体的に、本実施の形態の場合、CPU21は、図12に示すように、図10について上述した第1の実施の形態の最適穿刺点抽出処理のステップS10や、図11について上述した第1の実施の形態の最適穿刺点抽出処理のステップS20で生成した血管強調画像41(図7)から、血管パターン上の点(画素)ごとに、ステップS14やステップS24の近傍血管評価値総和算出処理で設定した近傍領域45と同様の部分画像の切り出しをそれぞれ行い、これらの部分画像について、その中心点における穿刺適合度のラベル付けを行い、これらの部分画像と、その部分画像の中心点における穿刺適合度との組からなる学習データセットを利用した機械学習による学習モデルの生成を事前に行う。このとき部分画像にラベル付けする穿刺適合度は、その部分画像の中心点について算出された穿刺適合度である。
【0090】
そしてCPU21は、採血時には、図12に示す処理手順に従って、血管上の各点(画素)の穿刺適合度をそれぞれ算出する。なお、図12は、図5について上述した最適穿刺点抽出処理に代えて図1及び図2について上述した自動採血装置1のCPU21により実行される第3の実施の形態の最適穿刺点抽出処理の流れを示すフローチャートである。
【0091】
実際上、本実施の形態の場合、CPU21は、図4について上述した自動採血処理のステップS8に進むと、図12に示す最適穿刺点抽出処理を開始し、ステップS30~ステップS32を図5のステップS10~ステップS12と同様に処理する。そしてCPU21は、この後、ステップS32で得られた細線化画像43(図7)における穿刺針13の可動範囲上にある血管上の各点(画素)について、その点の穿刺適合度を上述の学習モデルを利用してそれぞれ推定する(S33)。またCPU21は、この後、穿刺針13の可動範囲内のすべての血管上の点についてそれぞれ求めた穿刺適合度を比較し、最も適合性が高い点を最適穿刺点として選択する(S34)。
【0092】
なお、穿刺適合度の学習にあたっては、高い精度での推定を実現するために大量のデータが必要になるが、1枚の血管強調画像41から図13のようにオーバラップさせながら多くのバリエーションの部分画像41Aを切り出すことができる。また穿刺適合度のラベル付けの際に第1及び第2の実施の形態で説明した理論的な算出方式の結果を用いて、誤り等が発生した場合には、必要に応じて人手で修正を加えて学習データのデータセットを作成するようにすることもできる。これによって学習データのデータセットの構築を迅速化することができる。
【0093】
以上のような本実施の形態の最適穿刺点抽出処理によれば、第1の実施の形態の最適穿刺点抽出処理と比べてより迅速に安定した採血を行うことができる。
【0094】
(4)第4の実施の形態
最適な穿刺点を選択する際、穿刺適合度が際立って高い点が穿刺針の可動範囲外に存在することがある。被採血者の協力が得られるのであれば、自動採血装置1に提示された被採血者の生体部位を穿刺針13の可動範囲内に移動してもらうことで、かかる生体部位のうちでより穿刺適合度が高い位置に穿刺針13を穿刺することができ、これによってより安定的な採血を行うことができる。
【0095】
図14は、このように被採血者に対して、必要に応じてその被採血者が提示した生体部位(ここでは指)の移動を促す機能が搭載された自動採血装置51を含む本実施の形態による自動採血システム50の構成を示す。この自動採血システム50は、ディスプレイ装置52及び自動採血装置51を備えて構成される。なお、図14では、ディスプレイ装置52を自動採血装置51とは別個の装置として記載しているが、自動採血装置51がディスプレイ装置52を含んでいてもよい。
【0096】
ディスプレイ装置52は、液晶ディスプレイ装置又は有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ装置などから構成される汎用の表示装置から構成される。ディスプレイ装置は、自動採血装置51と図示しないコードを介して接続され、自動採血装置51から与えられた画像データに基づく画像を表示する。
【0097】
自動採血装置51は、基本的には第1~第3の実施の形態による自動採血装置1と同様の構成を有する。ただし、本実施の形態の自動採血装置51のCPU53(図1)は、図5のステップS10~ステップS14、図10のステップS20~ステップS24又は図12のステップS30~ステップS33において、穿刺針13の可動範囲以外の血管パターン上の各点についても穿刺適合度をそれぞれ求める。
【0098】
またCPU53は、図5のステップS15や図10のステップS25又は図12のステップS34において、最も適合性の高い1つの点(画素)を選出し、選出した点が穿刺針13の可動範囲上にない場合には、その点が穿刺針13の可動範囲上に位置するように指12を移動させることを被採血者に促すメッセージ等をディスプレイ装置52に表示する。
【0099】
この際、ディスプレイ装置52には、カメラ7により撮影されている指12の撮影画像40(図7)と、それに対応する穿刺針13の可動範囲を表す線54又は矩形などの穿刺針の可動範囲を表す枠体と、上述のように選定された最も適合性が高い点(以下、これを範囲外穿刺候補点と呼ぶ)を表す点又はその範囲外穿刺候補点を通る穿刺針13の可動範囲を表す線(以下、これを基準線と呼ぶ)55や枠体とがリアルタイムで更新されながら表示される。これにより範囲外穿刺候補点と穿刺針13の可動範囲との距離がリアルタイムで視覚的に表示される。
【0100】
このような表示によれば、被採血者が指12を動かした場合に、ディスプレイ装置52に表示された穿刺針13の可動範囲を表す線54や枠体は固定のまま、指12の像のみが被採血者による指12の動きに合わせて撮影画像40内で移動し、これに伴って範囲外穿刺候補点を通る基準線55等もかかる指12の像と共に撮影画像40内で移動する。これにより被採血者がディスプレイ装置52に表示された穿刺針13の可動範囲を表す線54や枠体と、範囲外穿刺候補点を通る線(基準線)54や枠体とに基づいて、被採血者が指12をどの方向にどの程度動かせばよいかを容易に認識し得るようにすることができる。
【0101】
CPU53は、穿刺針13の可動範囲の座標と、範囲外最適穿刺点の座標とをリアルタイムに監視し、例えば穿刺針13の可動範囲が範囲外穿刺候補点よりも指先方向にある場合には、指12を指先方向に移動すべき旨の指示メッセージ又はアイコン等をディスプレイ装置52に表示する。またCPU53は、かかるメッセージ又はアイコン等に応じて被採血者が指12を動かし、この結果として範囲外穿刺候補点が穿刺針可動範囲と重なった(範囲外穿刺候補点が穿刺針可動範囲内に入った)場合には、指12が最適位置に到達したことをユーザにメッセージやアラーム音などにより伝え、その位置で指を止めるよう被採血者に促す。これによって、被採血者が直感的に最適穿刺点を穿刺針可動範囲内に収めることが可能になる。
【0102】
なお指12の血管パターンは個人情報であり、生体認証にも使用される情報であるため、撮影画像をそのまま表示することが不適切な場合もある。そのため指の外形は分かるように維持する必要はあるものの、血管パターンが分からなくなるように指の領域内を黒色等で塗り潰すなどの画像処理を施すようにしてもよい。
【0103】
以上のように本実施の形態の自動採血システムによれば、第1の実施の形態の自動採血装置1と比べてより安定的に必要量の採血を行うことができる。
【0104】
(5)他の実施の形態
なお上述の第1~第4の実施の形態においては、自動採血装置1,51を図1及び図2のように構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、この他種々の構成を広く適用することができる。
【0105】
また上述の第3の実施の形態においては、撮影画像内の血管上の点を中心とする近傍の部分画像と、当該点における穿刺適合度との組からなる学習データセットを利用した機械学習により学習モデルを生成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、撮影画像内の血管上の点を中心とする近傍の部分画像と、当該点における穿刺適合度に順ずる適合性の何らかの指標との組からなる学習データセットを利用した機械学習により学習モデルを生成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、被採血者により提示された生体部位への穿刺針の穿刺により採血を行う採血装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1,51……自動採血装置、2……演算部、3……光源制御部、4……画像入力部、5……機構制御部、7……カメラ、8……近赤外光源、9……移動機構、10……採血管、12……指、13……穿刺針、21,53……CPU、40……撮影画像、41……血管強調画像、42……血管パターン抽出画像、43……細線化画像、44……血管評価値画像、45……近傍領域、50……自動採血システム、52……ディスプレイ装置。
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