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▶ 旭化成エレクトロニクス株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151297
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】PLL回路
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/12 20060101AFI20241017BHJP
   H03L 7/099 20060101ALI20241017BHJP
   H03L 7/107 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
H03L7/12
H03L7/099 110
H03L7/107 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024004314
(22)【出願日】2024-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2023063861
(32)【優先日】2023-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤林 丈司
【テーマコード(参考)】
5J106
【Fターム(参考)】
5J106AA04
5J106BB05
5J106CC01
5J106CC21
5J106CC46
5J106CC52
5J106DD09
5J106DD13
5J106DD17
5J106DD33
5J106DD48
5J106EE10
5J106GG01
5J106GG07
5J106GG09
5J106HH03
5J106KK02
5J106KK05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】より高速なFMCW(周波数連続変調)方式の変調を行うためのPLL回路を提供する。
【解決手段】制御信号に応じて変調された周波数の信号を出力信号として出力するデジタル制御発振器400と、デジタル制御発振器400の出力信号と、基準信号との周波数の比率及び位相の少なくとも一方の差を検出する検出部100と、検出部100から出力される前記差を示す出力を平滑化して制御信号としてデジタル制御発振器400に出力するデジタルループフィルタ200と、チャープ動作期間の終了直前の予め定められた期間におけるデジタルループフィルタ200から出力される制御信号に基づくデジタル値を前回の制御信号として記憶する制御信号記憶部900と、チャープ動作期間の開始直後にデジタルループフィルタ200から出力される制御信号が前記前回の制御信号となるように、デジタルループフィルタ200を制御する制御部150Aと、を備える。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御信号に応じて変調された周波数の信号を出力信号として出力するデジタル制御発振器と、
前記デジタル制御発振器の出力信号と、基準信号との周波数の比率及び位相の少なくとも一方の差を検出する検出部と、
前記検出部から出力される前記差を示す出力を平滑化して前記制御信号として前記デジタル制御発振器に出力するデジタルループフィルタと、
チャープ動作期間の終了直前の予め定められた期間における前記デジタルループフィルタから出力される制御信号に基づくデジタル値を前回の制御信号として記憶する制御信号記憶部と、
前記チャープ動作期間の開始直後に前記デジタルループフィルタから出力される制御信号が前記前回の制御信号となるように、前記デジタルループフィルタを制御する制御部と
を備えるPLL回路。
【請求項2】
前記制御部は、前記チャープ動作期間の開始直後までに前記制御信号記憶部から前記前回の制御信号を前記デジタルループフィルタに入力することで前記デジタルループフィルタから出力される制御信号が前記前回の制御信号となるように、前記デジタルループフィルタを制御する
請求項1に記載のPLL回路。
【請求項3】
制御信号に応じて変調された周波数の信号を出力信号として出力するデジタル制御発振器と、
前記デジタル制御発振器の出力信号と、基準信号との周波数の比率及び位相の少なくとも一方の差を検出する検出部と、
前記検出部から出力される前記差を示す出力を平滑化して前記制御信号として前記デジタル制御発振器に出力するデジタルループフィルタと、
チャープ動作を行わない非チャープ動作期間における前記デジタルループフィルタのループ帯域幅を第1帯域幅となるように前記デジタルループフィルタを制御し、チャープ動作を行うチャープ動作期間における前記デジタルループフィルタのループ帯域幅を前記第1帯域幅より狭い第2帯域幅になるように前記デジタルループフィルタを制御し、さらに、前記ループ帯域幅を制御する期間、及び前記チャープ動作期間の開始直後に前記デジタルループフィルタから出力される制御信号が予め定められたデジタル値となるように、前記デジタルループフィルタを制御する制御部と
を備えるPLL回路。
【請求項4】
前記チャープ動作期間の終了直前の予め定められた期間における前記デジタルループフィルタから出力される制御信号に基づくデジタル値を前回の制御信号として記憶する制御信号記憶部をさらに備え、
前記制御部は、前記ループ帯域幅を制御する期間、及び前記チャープ動作期間の開始直後に前記デジタルループフィルタから出力される制御信号が前記前回の制御信号となるように、前記デジタルループフィルタを制御する、請求項3に記載のPLL回路。
【請求項5】
前記デジタル制御発振器は、
前記デジタルループフィルタからの出力に基づくデジタル信号をアナログ信号に変換するDAコンバータと、
前記DAコンバータから出力されるアナログ信号に応じた周波数のクロック信号を前記出力信号として生成する電圧制御発振器と
を有する、請求項1に記載のPLL回路。
【請求項6】
前記デジタル制御発振器は、
前記デジタルループフィルタからの出力に基づくデジタル信号をアナログ信号に変換するDAコンバータと、
前記DAコンバータから出力されるアナログ信号に応じた周波数のクロック信号を前記出力信号として生成する電圧制御発振器と
を有する、請求項4に記載のPLL回路。
【請求項7】
前記検出部は、
前記出力信号を分周する分周器と、
基準信号と前記分周器の出力信号との周波数の比率及び位相の少なくとも一方の差を示す信号を出力する比較器と
を有する、請求項1から6の何れか1つに記載のPLL回路。
【請求項8】
前記比較器は、
基準信号と前記分周器の出力信号との位相差に応じたパルス信号を出力するPFD回路と、
前記パルス信号のパルス幅に応じた信号を出力する時間デジタル変換回路と
を有する、請求項7に記載のPLL回路。
【請求項9】
前記制御部は、
前記デジタル制御発振器からチャープ動作中に出力させるべき周波数連続波に関する周波数情報を示す周波数情報信号と、チャープ動作のタイミングを示すタイミング情報信号とを出力する周波数変調連続波発生回路と、
前記デジタル制御発振器に入力される制御信号と前記デジタル制御発振器に出力させる出力信号の周波数との関係を示す関係情報を記憶する関係情報記憶部と、
前記周波数情報を前記関係情報に基づいてプレディストーションするプレディストーション回路と
を有し、
前記PLL回路は、
前記デジタルループフィルタからの出力と前記プレディストーション回路からの出力とを加算して、前記制御信号として前記デジタル制御発振器に出力する第4加算器をさらに備える、請求項7に記載のPLL回路。
【請求項10】
前記制御部は、
前記周波数変調連続波発生回路からの前記周波数情報信号をデルタシグマ変調することで得られる周波数設定信号を前記分周器に出力するフラクショナル変調回路をさらに有する、請求項9に記載のPLL回路。
【請求項11】
前記比較器は、
前記出力信号であるPLLクロックの数を累積してカウントする第1カウンタと、
前記基準信号である基準クロックが入力されるごとに前記周波数設定信号に応じた値を累積してカウントする第2カウンタと、
前記基準クロックと前記PLLクロックとの位相差を検出する時間デジタル変換回路と、
前記第2カウンタの出力を加算し、前記第1カウンタの出力及び前記時間デジタル変換回路の出力を減算した信号を前記検出部の出力として出力する加減算回路と
を有する、請求項10に記載のPLL回路。
【請求項12】
前記デジタルループフィルタは、
前記検出部から出力される信号を第1増幅率で増幅する第1アンプと、
前記検出部から出力される信号を第2増幅率で増幅する第2アンプと、
前記第2アンプの出力が入力される第1加算器と、
前記第1加算器の出力を1クロック分だけ遅延させて前記第1加算器に入力する第1遅延回路と、
前記第1加算器の出力と前記第1アンプの出力とが入力される第2加算器と、
前記第2加算器の出力を第3増幅率で増幅する第3アンプと、
前記第3アンプの出力が入力される第3加算器と、
前記第3加算器の出力を1クロック分だけ遅延させる第2遅延回路と、
前記第2遅延回路の出力を第4増幅率で増幅して前記第3加算器に入力する第4アンプと、
前記第1加算器の出力及び前記前回の制御信号が入力され、前記第1加算器の出力及び前記前回の制御信号の一方を前記第1遅延回路に出力する第1セレクタと、
前記第3加算器の出力及び前記前回の制御信号が入力され、前記第3加算器の出力及び前記前回の制御信号の一方を前記第2遅延回路に出力する第2セレクタと
をさらに有し、
前記制御部は、前記チャープ動作期間の開始直後だけ前記第1セレクタ及び前記第2セレクタに前記前回のデジタル値を出力させ、前記チャープ動作期間の開始直後以外の期間において前記第1セレクタに前記第1加算器の出力を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記第3加算器の出力を出力させる、請求項1または2または4の何れか1つに記載のPLL回路。
【請求項13】
前記制御部は、前記周波数変調連続波発生回路からの前記タイミング情報信号に基づいて、前記チャープ動作期間の開始時点を特定する、請求項9に従属する請求項12に記載のPLL回路。
【請求項14】
前記デジタルループフィルタは、
前記検出部から出力される信号を第1増幅率で増幅する第1アンプと、
前記検出部から出力される信号を第2増幅率で増幅する第2アンプと、
前記第2アンプの出力が入力される第1加算器と、
前記第1加算器の出力を1クロック分だけ遅延させて前記第1加算器に入力する第1遅延回路と、
前記第1加算器の出力と前記第1アンプの出力とが入力される第2加算器と、
前記第2加算器の出力を第3増幅率で増幅する第3アンプと、
前記第3アンプの出力が入力される第3加算器と、
前記第3加算器の出力を1クロック分だけ遅延させる第2遅延回路と、
前記第2遅延回路の出力を第4増幅率で増幅して前記第3加算器に入力する第4アンプと、
を有し、
前記制御部は、前記第1増幅率、前記第2増幅率、前記第3増幅率、及び前記第4増幅率を切り替えることで、前記デジタルループフィルタのループ帯域を前記第1帯域幅及び前記第2帯域幅の一方に切り替える、請求項3に記載のPLL回路。
【請求項15】
前記デジタルループフィルタは、
前記第1加算器の出力及び第1計算値が入力され、前記第1加算器の出力及び前記第1計算値の一方を前記第1遅延回路に出力する第1セレクタと、
前記第3加算器の出力及び第2計算値が入力され、前記第3加算器の出力及び前記第2計算値の一方を前記第2遅延回路に出力する第2セレクタと
をさらに有し、
前記制御部は、前記チャープ動作期間の開始直後に前記デジタルループフィルタから出力される制御信号が前記予め定められたデジタル値となるように、前記第1セレクタに前記第1計算値を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記第2計算値を出力させ、前記チャープ動作期間の開始直後以外の期間において、前記第1セレクタに前記第1加算器の出力を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記第3加算器の出力を出力させる、請求項14に記載のPLL回路。
【請求項16】
前記第1計算値及び前記第2計算値は、切り替え前の前記第3増幅率及び前記第4増幅率、並びに切り替え後の前記第3増幅率及び前記第4増幅率に基づいて定められる、請求項15に記載のPLL回路。
【請求項17】
チャープ動作期間の終了直前の予め定められた期間における前記デジタルループフィルタから出力される制御信号に基づくデジタル値を前回の制御信号として記憶する制御信号記憶部をさらに備え、
前記デジタルループフィルタは、
前記第1加算器の出力及び前記前回の制御信号が入力され、前記第1加算器の出力及び前記前回の制御信号の一方を前記第1遅延回路に出力する第1セレクタと、
前記第3加算器の出力及び前記前回の制御信号が入力され、前記第3加算器の出力及び前記前回の制御信号の一方を前記第2遅延回路に出力する第2セレクタと
をさらに有し、
前記制御部は、前記チャープ動作期間の開始直後に前記デジタルループフィルタから出力される制御信号が前記予め定められたデジタル値となるように、前記第1セレクタに前記前回の制御信号を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記前回の制御信号を出力させ、前記チャープ動作期間の開始直後以外の期間において、前記第1セレクタに前記第1加算器の出力を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記第3加算器の出力を出力させる、請求項14に記載のPLL回路。
【請求項18】
チャープ動作期間の終了直前の予め定められた期間における前記デジタルループフィルタから出力される制御信号に基づくデジタル値を前回の制御信号として記憶する制御信号記憶部をさらに備え、
前記デジタルループフィルタは、
前記第1加算器の出力と、第1計算値または前記前回の制御信号とが入力され、前記第1加算器の出力、前記第1計算値、及び前記前回の制御信号のいずれか1つを前記第1遅延回路に出力する第1セレクタと、
前記第3加算器の出力と、第2計算値または前記前回の制御信号とが入力され、前記第3加算器の出力、前記第2計算値、及び前記前回の制御信号の何れか1つを前記第2遅延回路に出力する第2セレクタとをさらに有し、
前記制御部は、前記ループ帯域幅を制御する期間、及び前記チャープ動作期間の開始直後の予め定められた期間において、前記第1セレクタに前記前回の制御信号を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記前回の制御信号を出力させ、前記チャープ動作期間の終了直前及び終了直後の予め定められた期間において、前記第1セレクタに前記第1計算値を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記第2計算値を出力させ、前記チャープ動作期間の前記開始直後並びに前記終了直前及び前記終了直後の前記予め定められた期間以外の期間において、前記第1セレクタに前記第1加算器の出力を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記第3加算器の出力を出力させる、請求項14に記載のPLL回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「電圧制御発振器の出力信号の出力周波数誤差を低減できるようにした周波数シンセサイザ」が開示されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特許第6392592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
より高速なFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave;周波数連続変調)方式の変調を行うためのPLL(Phase Lock Loop;位相同期ループ)回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、制御信号に応じて変調された周波数の信号を出力信号として出力するデジタル制御発振器と、前記デジタル制御発振器の出力信号と、基準信号との周波数の比率及び位相の少なくとも一方の差を検出する検出部と、前記検出部から出力される前記差を示す出力を平滑化して前記制御信号として前記デジタル制御発振器に出力するデジタルループフィルタと、チャープ動作期間の終了直前の予め定められた期間における前記デジタルループフィルタから出力される制御信号に基づくデジタル値を前回の制御信号として記憶する制御信号記憶部と、前記チャープ動作期間の開始直後に前記デジタルループフィルタから出力される制御信号が前記前回の制御信号となるように、前記デジタルループフィルタを制御する制御部と、を備えるPLL回路を提供する。
【0005】
前記PLL回路において、前記制御部は、前記チャープ動作期間の開始直後までに前記制御信号記憶部から前記前回の制御信号を前記デジタルループフィルタに入力することで前記デジタルループフィルタから出力される制御信号が前記前回の制御信号となるように、前記デジタルループフィルタを制御してよい。
【0006】
本発明の第3の態様においては、制御信号に応じて変調された周波数の信号を出力信号として出力するデジタル制御発振器と、前記デジタル制御発振器の出力信号と、基準信号との周波数の比率及び位相の少なくとも一方の差を検出する検出部と、前記検出部から出力される前記差を示す出力を平滑化して前記制御信号として前記デジタル制御発振器に出力するデジタルループフィルタと、チャープ動作を行わない非チャープ動作期間における前記デジタルループフィルタのループ帯域幅を第1帯域幅となるように前記デジタルループフィルタを制御し、チャープ動作を行うチャープ動作期間における前記デジタルループフィルタのループ帯域幅を前記第1帯域幅より狭い第2帯域幅になるように前記デジタルループフィルタを制御し、さらに、前記ループ帯域幅を制御する期間、及び前記チャープ動作期間の開始直後に前記デジタルループフィルタから出力される制御信号が予め定められたデジタル値となるように、前記デジタルループフィルタを制御する制御部と、を備えるPLL回路を提供する。
【0007】
何れかの前記PLL回路は、前記チャープ動作期間の終了直前の予め定められた期間における前記デジタルループフィルタから出力される制御信号に基づくデジタル値を前回の制御信号として記憶する制御信号記憶部をさらに備えてよい。前記制御部は、前記ループ帯域幅を制御する期間、及び前記チャープ動作期間の開始直後に前記デジタルループフィルタから出力される制御信号が前記前回の制御信号となるように、前記デジタルループフィルタを制御してよい。
【0008】
何れかの前記PLL回路において、前記デジタル制御発振器は、前記デジタルループフィルタからの出力に基づくデジタル信号をアナログ信号に変換するDAコンバータと、前記DAコンバータから出力されるアナログ信号に応じた周波数のクロック信号を前記出力信号として生成する電圧制御発振器と、を有してよい。
【0009】
何れかの前記PLL回路において、前記デジタル制御発振器は、前記デジタルループフィルタからの出力に基づくデジタル信号をアナログ信号に変換するDAコンバータと、前記DAコンバータから出力されるアナログ信号に応じた周波数のクロック信号を前記出力信号として生成する電圧制御発振器と、を有してよい。
【0010】
何れかの前記PLL回路において、前記検出部は、前記出力信号を分周する分周器と、基準信号と前記分周器の出力信号との周波数の比率及び位相の少なくとも一方の差を示す信号を出力する比較器と、を有してよい。
【0011】
何れかの前記PLL回路において、前記比較器は、基準信号と前記分周器の出力信号との位相差に応じたパルス信号を出力するPFD回路と、前記パルス信号のパルス幅に応じた信号を出力する時間デジタル変換回路と、を有してよい。
【0012】
何れかの前記PLL回路において、前記制御部は、前記デジタル制御発振器からチャープ動作中に出力させるべき周波数連続波に関する周波数情報を示す周波数情報信号と、チャープ動作のタイミングを示すタイミング情報信号とを出力する周波数変調連続波発生回路と、前記デジタル制御発振器に入力される制御信号と前記デジタル制御発振器に出力させる出力信号の周波数との関係を示す関係情報を記憶する関係情報記憶部と、前記周波数情報を前記関係情報に基づいてプリディストーションするプリディストーション回路と、を有してよい。前記PLL回路は、前記デジタルループフィルタからの出力と前記プリディストーション回路からの出力とを加算して、前記制御信号として前記デジタル制御発振器に出力する第4加算器をさらに備えてよい。
【0013】
何れかの前記PLL回路において、前記制御部は、前記周波数変調連続波発生回路からの前記周波数情報信号をデルタシグマ変調することで得られる周波数設定信号を前記分周器に出力するフラクショナル変調回路をさらに有してよい。
【0014】
何れかの前記PLL回路において、前記比較器は、前記出力信号であるPLLクロックの数を累積してカウントする第1カウンタと、前記基準信号である基準クロックが入力されるごとに前記周波数設定信号に応じた値を累積してカウントする第2カウンタと、前記基準クロックと前記PLLクロックとの位相差を検出する時間デジタル変換回路と、前記第2カウンタの出力を加算し、前記第1カウンタの出力及び前記時間デジタル変換回路の出力を減算した信号を前記検出部の出力として出力する加減算回路と、を有してよい。
【0015】
何れかの前記PLL回路において、前記デジタルループフィルタは、前記検出部から出力される信号を第1増幅率で増幅する第1アンプと、前記検出部から出力される信号を第2増幅率で増幅する第2アンプと、前記第2アンプの出力が入力される第1加算器と、前記第1加算器の出力を1クロック分だけ遅延させて前記第1加算器に入力する第1遅延回路と、前記第1加算器の出力と前記第1アンプの出力とが入力される第2加算器と、前記第2加算器の出力を第3増幅率で増幅する第3アンプと、前記第3アンプの出力が入力される第3加算器と、前記第3加算器の出力を1クロック分だけ遅延させる第2遅延回路と、前記第2遅延回路の出力を第4増幅率で増幅して前記第3加算器に入力する第4アンプと、前記第1加算器の出力及び前記前回の制御信号が入力され、前記第1加算器の出力及び前記前回の制御信号の一方を前記第1遅延回路に出力する第1セレクタと、前記第3加算器の出力及び前記前回の制御信号が入力され、前記第3加算器の出力及び前記前回の制御信号の一方を前記第2遅延回路に出力する第2セレクタと、をさらに有してよい。前記制御部は、前記チャープ動作期間の開始直後だけ前記第1セレクタ及び前記第2セレクタに前記前回のデジタル値を出力させ、前記チャープ動作期間の開始直後以外の期間において前記第1セレクタに前記第1加算器の出力を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記第3加算器を出力させてよい。
【0016】
何れかの前記PLL回路において、前記制御部は、前記周波数変調連続波発生回路からの前記タイミング情報信号に基づいて、前記チャープ動作期間の開始時点を特定してよい。
【0017】
何れかの前記PLL回路において、前記デジタルループフィルタは、前記検出部から出力される信号を第1増幅率で増幅する第1アンプと、前記検出部から出力される信号を第2増幅率で増幅する第2アンプと、前記第2アンプの出力が入力される第1加算器と、前記第1加算器の出力を1クロック分だけ遅延させて前記第1加算器に入力する第1遅延回路と、前記第1加算器の出力と前記第1アンプの出力とが入力される第2加算器と、前記第2加算器の出力を第3増幅率で増幅する第3アンプと、前記第3アンプの出力が入力される第3加算器と、前記第3加算器の出力を1クロック分だけ遅延させる第2遅延回路と、前記第2遅延回路の出力を第4増幅率で増幅して前記第3加算器に入力する第4アンプと、を有してよい。前記制御部は、前記第1増幅率、前記第2増幅率、前記第3増幅率、及び前記第4増幅率を切り替えることで、前記デジタルループフィルタのループ帯域を前記第1帯域幅及び前記第2帯域幅の一方に切り替えてよい。
【0018】
何れかの前記PLL回路において、前記デジタルループフィルタは、前記第1加算器の出力及び第1計算値が入力され、前記第1加算器の出力及び前記第1計算値の一方を前記第1遅延回路に出力する第1セレクタと、前記第3加算器の出力及び第2計算値が入力され、前記第3加算器の出力及び前記第2計算値の一方を前記第2遅延回路に出力する第2セレクタと、をさらに有してよい。前記制御部は、前記チャープ動作期間の開始直後に前記デジタルループフィルタから出力される制御信号が前記予め定められたデジタル値となるように、前記第1セレクタに前記第1計算値を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記第2計算値を出力させ、前記チャープ動作期間の開始直後以外の期間において、前記第1セレクタに前記第1加算器の出力を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記第3加算器を出力させてよい。
【0019】
何れかの前記PLL回路において、前記第1計算値及び前記第2計算値は、切り替え前の前記第3増幅率及び前記第4増幅率、並びに切り替え後の前記第3増幅率及び前記第4増幅率に基づいて定められてよい。
【0020】
何れかの前記PLL回路は、チャープ動作期間の終了直前の前記予め定められた期間における前記デジタルループフィルタから出力される制御信号に基づくデジタル値を前回の制御信号として記憶する制御信号記憶部をさらに備えてよい。前記デジタルループフィルタは、前記第1加算器の出力及び前記前回の制御信号が入力され、前記第1加算器の出力及び前記前回の制御信号の一方を前記第1遅延回路に出力する第1セレクタと、前記第3加算器の出力及び前記前回の制御信号が入力され、前記第3加算器の出力及び前記前回の制御信号の一方を前記第2遅延回路に出力する第2セレクタと、をさらに有してよい。前記制御部は、前記チャープ動作期間の開始直後に前記デジタルループフィルタから出力される制御信号が前記予め定められたデジタル値となるように、前記第1セレクタに前記前回の制御信号を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記前回の制御信号を出力させ、前記チャープ動作期間の開始直後以外の期間において、前記第1セレクタに前記第1加算器の出力を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記第3加算器を出力させてよい。
【0021】
何れかの前記PLL回路は、チャープ動作期間の終了直前の前記予め定められた期間における前記デジタルループフィルタから出力される制御信号に基づくデジタル値を前回の制御信号として記憶する制御信号記憶部をさらに備えてよい。また、何れかの前記PLL回路において、前記デジタルループフィルタは、前記第1加算器の出力と、第1計算値または前記前回の制御信号とが入力され、前記第1加算器の出力、前記第1計算値、及び前記前回の制御信号のいずれか1つを前記第1遅延回路に出力する第1セレクタと、前記第3加算器の出力と、第2計算値または前記前回の制御信号とが入力され、前記第3加算器の出力、前記第2計算値、及び前記前回の制御信号の何れか1つを前記第2遅延回路に出力する第2セレクタとをさらに有してよい。前記制御部は、前記ループ帯域幅を制御する期間、及び前記チャープ動作期間の開始直後の予め定められた期間において、前記第1セレクタに前記前回の制御信号を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記前回の制御信号を出力させ、前記チャープ動作期間の終了直前及び終了直後の予め定められた期間において、前記第1セレクタに前記第1計算値を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記第2計算値を出力させ、前記チャープ動作期間の前記開始直後並びに前記終了直前及び終了直後の前記予め定められた期間以外の期間において、前記第1セレクタに前記第1加算器の出力を出力させ、かつ前記第2セレクタに前記第3加算器の出力を出力させてよい。
【0022】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】レーダーにおける送信波及び反射波の時間及びRF(Radio Frequency)周波数の一例を示す図である。
図2】一般的なPLL回路10Aの構成の一例を示す。
図3】デジタルPLL回路10Bの構成の一例を示す。
図4図3に示した例とは異なる、デジタルPLL回路10Cの構成の一例を示す。
図5】PLL回路10BまたはPLL回路10CにFMCW変調動作をさせた場合のPLL出力信号の周波数の時間変化を示す。
図6】特許文献1における高速なFMCW変調が可能なPLL回路10Dの構成を示す。
図7】特許文献1に記載された技術を適用した場合の、FMCW変調動作をさせた場合のPLL出力信号の周波数の時間変化を示す。
図8A】PLL回路10Dの制御構成を示す。
図8B図8Aの制御構成を有する特許文献1の技術を適用した場合のFMCW変調動作時の周波数の時間応答の模式図を示す。
図9】点A及び点B付近でのデジタルループフィルタ200の出力、プレディストーション回路800の出力、及びDAC402への入力の時間応答の模式図を示す。
図10】第1の実施形態に係るPLL回路20Aを示す図である。
図11】第1の実施形態の別例に係るPLL回路20Bを示す図である。
図12】ループ帯域の動的な切り替えを説明する模式図を示す。
図13】デジタルループフィルタ200Aの構成の一例を示すブロック図である。
図14図13に係るデジタルループフィルタ200Aを用いてループの帯域を切り替えた時の周波数の振る舞いのシミュレーション結果を示す。
図15】デジタルループフィルタ200Bの構成の一例を示すブロック図である。
図16】デジタルループフィルタ200Bの動作のタイミング関係を示した図である。
図17】デジタルループフィルタ200A及びデジタルループフィルタ200Bの動作を適用させた場合のシミュレーション結果を示す。
図18図10に示したPLL回路20Aの構成における全体の動作について説明する図である。
図19】キャリブレーション動作中に動作しているブロックの一例を示す。
図20図18の変調動作において、前述したループ帯域の切り替え動作を行う場合のデジタルループフィルタ200の応答を模式的に示した図である。
図21】第2の実施形態に係るPLL回路30Aを示す図である。
図22】第2の実施形態の別例に係るPLL回路30Bを示す図である。
図23】FMCW動作における、チャープ動作開始時の周波数応答と、デジタルループフィルタ200の出力値と、の模式図を示す。
図24A】第1の実施形態で述べたループ帯域の切り替え動作を適用させ、さらにFMCW動作を極めて高速にした場合におけるPLL回路20AまたはPLL回路20Bのチャープ動作のシミュレーション結果を示す。
図24B図24Aの動作におけるデジタルループフィルタ200の出力のシミュレーション結果を示す。
図25】キャリブレーション動作中に動作しているブロックを示す。
図26】変調動作時のデジタルループフィルタ200のより詳細な動作を説明するための図である。
図27】第2の実施形態におけるデジタルループフィルタ200Cの例を示す。
図28】第3の実施形態における変調動作時の動作を説明するための図である。
図29】第3の実施形態におけるデジタルループフィルタ200Dの一例を示す。
図30】チャープ動作期間の終了タイミングである時刻T2より前から、チャープ動作期間の開始タイミングである時刻T3より後までの期間についてのデジタルループフィルタ200Dの動作を説明するためのタイミング図の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0025】
レーダーは、古くから航空、天文学、海洋観測、気象観測、高度測定等の広い分野で用いられ、近年では、自動運転等の様々な分野で広く用いられてきた。特に、近年では、79GHz帯の周波数を用いたレーダーが自動車分野で活用されている。さらに、レーダーは、物体の微小な変化を捉えられる特性から生物の呼吸等を非接触で測定する生体センサー用途、または薄い物体を透過する特性を活用した透過イメージングセンサー用途等の様々なアプリケーションに利用されてきている。
【0026】
図1はレーダーにおける送信波及び反射波の時間及びRF(Radio Frequency)周波数の一例を示す図である。レーダーは基本的に対象物との距離を測定するシステムであり、その測定方式は様々であるが、最近のアプリケーションではFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave;周波数連続変調)方式が広く用いられている。
【0027】
図中、FMCW方式の周波数の時間変化が表される。この方式では、電磁波の発信源は、ある周波数の連続波(CW:Continuous Wave)を一定期間にわたって周波数変調(FM:Frequency Modulation)しながら送信する。レーダーは、送信した電磁波が測定対象物にあたって跳ね返ってきた反射波を受信して測距を行う。
【0028】
FMCW方式の変調において、電磁波の発信源は、時刻tstartから徐々に一定の割合で送信波の周波数を変化させていき、時刻tstopまで変化させた後、周波数を時刻tstartの状態に戻す。以下、一定の割合で周波数を変化させていく変調動作をチャープ動作と称する。レーダーは、チャープ動作と周波数を時刻tstartの周波数に戻す動作とを何度も繰り返す。
【0029】
なお、周波数を時刻tstartの周波数に戻す動作においても、最初のチャープ動作のように一定の割合で最初のチャープ動作と逆方向に変化させる変調方法も存在する。この変調方法では、時刻tstartの周波数と時刻tstopの周波数との間の一度の周波数の往復で2回のチャープ動作が実行される。
【0030】
FMCW方式の変調において、レーダーの送信波は、レーダー装置によって測定対象物にむかって照射される。レーダーの送信波が測定対象物に照射されると、測定対象物は、照射された送信波に応じた反射波を発し、反射波は、レーダーへと戻ってくる。その際、レーダー装置と測定対象物との距離に応じた電波の伝搬時間ttofの分だけ遅れて反射波はレーダー装置に戻ってくることになる。ここで、伝搬時間ttofにおけるtofは、Time Of Flightの頭文字TOFに基づく。
【0031】
したがって、時刻tstartから時刻tstopの間に送信波の周波数の変化の割合、すなわちチャープ動作におけるチャープの傾きが一定であれば、時刻tstartから時刻tstopの間のある時刻tにおける送信波と反射波の周波数の差ΔfはそのままTOFに比例することとなる。よって、FMCW方式の変調におけるレーダーにおいては、周波数の差Δfに応じて、電磁波の発信源及び対象物の間の距離が算出可能である。
【0032】
実際のレーダーシステムでは、送信波及び反射波をミキサでダウンコンバートして得られた周波数Δfの成分で構成されるベースバンド信号を一定期間サンプリングし、そのサンプリングデータを高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformation)処理して周波数を割り出す。測定する対象物が複数ある場合には、ダウンコンバート後の信号にも対象物の距離に応じた複数の周波数が存在するので、FFT処理後には複数の周波数成分が抽出されることになる。その際、例えば2つの対象物からの反射によって得られるFFT結果から2つの物体を分離識別するためには、少なくとも2つの対象物によって得られる2つの周波数とがFFT処理後に別々の周波数binに分かれていればよい。
【0033】
FFT処理後の周波数binの分解能fbinは信号の計測時間Tで式(1)により決まる。
【数1】
また、FFT binが分かれるような最小の伝搬時間差をtTOF_min[s]、チャープの傾きをS[Hz/s]とすると、式(2)が成立する。
【数2】
ここで電波の伝搬速度c[m/s](速度cは真空中の光速。c=3.00×10[m/s]である。)を用いて、FFT binが分かれるような最小の距離差Rminは、次式(3)を満たす。
【数3】
したがって、式(2)及び式(3)により、式(4)が成立する。
【数4】
さらに、信号の計測時間の間に変化した周波数をBW[Hz]とすると、式(5)が成立する。
【数5】
式(1)、式(4)、及び式(5)から、次式(6)が成立する。
【数6】
FFT binが分かれるような最小の距離差Rminは、分離可能な距離、すなわちレーダーにおける距離分解能に対応する。したがって、距離分解能は、測定中に変化した周波数幅が広いほど向上する。なお、現実的にはFFT処理において適用する窓関数の影響で、実際に分離可能な距離分解能は式(6)で得られる値よりも大きくなるが、周波数幅が広いほど良い距離分解能が得られることに変わりはない。
【0034】
以上、述べたように、FMCWレーダーの分解能は測定時間によらず、チャープ信号のうちの測定に用いられた周波数幅で決まる。一方で、チャープ動作のスピード自体も高速化が求められている。チャープ動作の繰り返し間隔が短い方が測定可能な相対速度の限界が向上するので、例えば、自動車用のレーダーとしては想定する最大相対速度を捉えられる程度にチャープの繰り返し時間を短くすることが有用である。あるいは、透過イメージング等の用途では、得られる画像の解像度を向上させるために数多くの測定点で測定する必要があるので、1回の測定、すなわち1回のチャープの時間を可能な限り短くする必要がある。
【0035】
しかし、チャープ動作の時間を短くするためにチャープの傾きを急峻にすると、理想の線形応答からの周波数ズレが大きくなっていく。一般的な傾向として、チャープの傾きを2倍にすると、周波数のズレは2倍になっていく。つまり、チャープを高速に行うことと、線形性誤差を小さくすることとはトレードオフの関係になっている。この周波数ズレ、換言すれば、周波数変調の線形性誤差は、誤差が大きい場合には受信された際にノイズに変換される。線形性誤差は、受信信号のノイズを増大させ、精度の高い測定を阻害する場合がある。
【0036】
したがって、チャープ時間は短く、チャープの線形性誤差は小さく、かつ、測定に使う周波数幅は広くすることにより、高速かつ高精度なレーダーを実現することへの需要がある。FMCWレーダーにおいて周波数が変調された送信波を生成するために、周波数シンセサイザは、重要な役割を有する。ここで、FMCWレーダーにおいて、周波数シンセサイザは、一般的に位相同期ループ(PLL:Phase Locked Loop)を用いて実現されることがほとんどであり、PLLシンセサイザとも称される。
【0037】
図2に一般的なPLL回路10Aの構成の一例を示す。PLL回路10Aは、PFD回路52(Phase Frequency Detector Circuit;位相/周波数検出回路)と、チャージポンプ54と、ループフィルタ56と、VCO58(電圧制御発振器;Voltage Controlled Oscillator)と、分周器500と、を備え、これらの構成要素により閉ループ回路を構成する。さらに、PLL回路10Aは、変調器60を備える。
【0038】
PFD回路52は、分周器500が分周した信号と、基準となる基準クロックとの位相差を比較する。PFD回路52は、比較結果に基づいて、位相の情報を持った信号を出力する。例えば、PFD回路52の出力する信号は、パルス幅に位相差情報が与えられたパルス信号である。
【0039】
チャージポンプ54は、PFD回路52の出力した信号を電流に変換する。ループフィルタ56は、チャージポンプ54からの電流出力を積分及びフィルタリングする。
【0040】
VCO58は、ループフィルタ56から出力された信号に基づいて、発信周波数信号を生成する。VCO58は、生成した発信周波数信号をPLL回路10Aの外部と、分周器500とに出力する。
【0041】
分周器500は、VCO58の出力した発信周波数信号に基づいて、発信周波数信号の周波数を分周した信号を出力する。変調器60は、分周器500の分周比を制御する。分周器500が出力する信号は、PLL回路10Aにおいて、PFD回路52へとフィードバックされて、基準信号と比較されるので、変調器60による分周比の制御によって、PLL回路10A全体として出力する発信周波数信号が制御される。
【0042】
多くのPLL回路において、チャージポンプ54及びループフィルタ56は、アナログ回路設計技術で実現される。チャージポンプ54及びループフィルタ56をアナログ回路素子として実現した場合、アナログ素子は、特性ばらつき及びリーク電流等の影響を大きく受け、かつ、微細化による回路実装面積の低減効果が薄い。したがって、近年では、回路微細化技術の恩恵を受けやすいデジタル回路技術を用いて、PLL回路の一部または全部をデジタル回路に置き換えたデジタルPLL回路が盛んに用いられてきている。
【0043】
図3は、デジタルPLL回路10Bの構成の一例を示す。デジタルPLL回路10Bは、TDC100(時間デジタル変換回路;Time to Diginal Converter)と、デジタルチャージポンプ回路102と、変調補償回路62と、デジタルループフィルタ200と、DCO400(デジタル制御発振器;Digitally Controlled Oscillator)と、分周器500と、を備え、これらの構成要素により閉ループ回路を構成する。さらにデジタルPLL回路10Bは、変調器60を備える。したがって、図3のデジタルPLL回路10Bは、図2のPLL回路10Aに対し、PFD回路52に変えてTDC100と、変調補償回路62とを備え、各素子がデジタル回路である点において相違する。
【0044】
TDC100は、分周器500により発信周波数信号を分周した信号と、基準クロックの時間差をデジタル値に変換する。TDC100は、時間差に基づくデジタル信号を出力する。TDC100により出力されるデジタル信号は、デジタル値に変換された時間差情報を有する。
【0045】
デジタルチャージポンプ回路102は、TDC100の出力するデジタル信号を電流に変換する。デジタルループフィルタ200は、デジタルチャージポンプ回路102からの電流出力を積分及びフィルタリングする。したがって、TDC100によりデジタル値に変換された時間差情報は、デジタルチャージポンプ回路102及びデジタルループフィルタ200の積分及びフィルタリングを介して、DCO400に入力される。この時間差情報により、DCO400の発振周波数が調整される。
【0046】
DCO400は、デジタル値であるTDC100の出力するデジタル信号によって制御された発信信号を出力する。DCO400は、生成した発信周波数信号をPLL回路10Bの外部と、分周器500とに出力する。例えば、DCO400は、デジタル値を使って直接発振周波数を切り替えるものであってよい。
【0047】
なお、以下で、DCO(デジタル制御発振器)について言及される場合、デジタル制御発振器は、デジタル信号をアナログ信号に変換するDAコンバータ(DAC:Digital to Analog Converter;デジタル-アナログ変換器)と、DACから出力されるアナログ信号の電圧に応じた周波数のクロック信号を出力信号として生成するアナログ回路のVCOを有する構成であってもよい。
【0048】
本実施形態のデジタルPLL回路10Bは、デジタルチャージポンプ回路102及びデジタルループフィルタ200の間に挿入される、変調補償回路62を備える。PLL回路においては、小数点以下の分周数を実現するために分周数にデルタシグマ変調を行い、デルタシグマ変調により高周波数領域へとノイズシェープされた量子化ノイズが位相ノイズとしてPLL回路の出力信号に付加されることがある。変調補償回路62はそのデルタシグマ変調された量子化誤差を相殺し、位相ノイズにデルタシグマ変調によりノイズシェープされた量子化ノイズが現れないようにするための回路である。
【0049】
図4は、図3に示した例とは異なる、デジタルPLL回路10Cの構成の一例を示す。デジタルPLL回路10Cは、TDC100と、乗算器64と、加算器1200と、デジタルループフィルタ200と、ゲイン規格化回路68と、DCO400とを備え、これらの構成によって閉ループ回路が構成される。デジタルPLL回路10Cは、さらに周波数コントローラ66を備える。
【0050】
また、このデジタルPLL回路10Cにおいては、フリップフロップ1100,1101とカウンタ502,504とを備える。したがって、このデジタルPLL回路10Cにおいて、フリップフロップ1100及びカウンタ504、またはカウンタ502及びフリップフロップ1101と、加算器1200と、ゲイン規格化回路68と、DCO400とによっても閉ループ回路が構成される。カウンタ504には、デジタルPLL回路10C全体の周波数をコントロールするための信号が周波数コントローラ66から入力される。
【0051】
デジタルPLL回路10Cの構成は、DCO400の出力をカウンタ502でカウントする部分と、TDC100で位相差を測定する部分とを有する。これにより、デジタルPLL回路10Cは、DCO400の出力及び基準クロックの周波数の比率を整数部分及び小数部分に分けて測定する。これにより、このデジタルPLL回路10Cでは、測定した周波数比率と、設定したい周波数の比率との差が取られる。この出力が、デジタルループフィルタ200と、ゲインを規格化するゲイン規格化回路68と、再びDCO400とを介した閉ループ構成を通過し、デジタルPLL回路10Cの周波数は、設定したい周波数に収束していく。
【0052】
デジタルPLL回路10Cは、図4に示される構成を取ることができる。ただし、DCO400の出力信号と、基準クロックとの周波数の比率若しくは位相差、またはその両方を用いることにより、周波数のズレを検知し、その結果をデジタルループフィルタでフィルタリングしDCO400にフィードバックして周波数を収束させていく仕組みを有する他のデジタルPLL回路も構成可能である。
【0053】
PLL回路に周波数変調を行った際の周波数追従性またはセトリング(settling)時間等の時間的な応答性は、PLL回路のループの帯域設計に依存する。なお、PLL回路における「セトリング時間」とは、PLL回路が所定の周波数(及び位相)となるまでの時間を指す。
【0054】
ループ内のゲインが高い場合、すなわちループ帯域が広い場合、周波数変調により周波数を変更した際の追従性、すなわち応答速度は速くなる一方で、VCO58等の有する位相ノイズに対する抑制効果は下がり、PLL出力信号がもつ位相ノイズは増大する。逆に、ループ内のゲインが低い場合、すなわちループ帯域が狭い場合、周波数変調に対する応答速度が遅くなる一方で位相ノイズは相対的に減少する。したがって、応答速度と位相ノイズの大きさとの関係はループ帯域設計においてトレードオフの関係となっている。
【0055】
図5は、PLL回路10BまたはPLL回路10CにFMCW変調動作をさせた場合のPLL出力信号の周波数の時間変化を示す。破線82で示すグラフが理想的なFMCW変調における周波数応答であるのに対し、実線84で示すグラフがループ帯域が広い場合の応答であり、一点鎖線86で示すグラフがループ帯域が狭い場合の応答である。
【0056】
一点鎖線86のようにループ帯域が狭い場合には、FMCW変調にループの応答が間に合わず、理想的な応答からかけ離れたものになっている。また、実線84のように帯域が広い場合においても依然として理想の応答からはずれたものになっている。これは、ループの帯域設計が広いほど応答性が良くなる一方で、現実的な設計においてはループの安定性等の観点からループ帯域を広げるにも限界があることによる。極めて高速なFMCW変調においては、位相ノイズを犠牲にしてループ帯域を広げたとしても、変調動作中の周波数誤差を十分に小さく抑えることができない。
【0057】
特許文献1(特許第6392592号)では、周波数の変調における動作高速化及び周波数誤差の低減を目的として、デジタルPLL回路における閉ループパスにプレディストーションされた信号を加える構成を提案し高速化を実現している。図6は、特許文献1における高速なFMCW変調が可能なPLL回路10Dの構成を示す。PLL回路10Dは、PFD回路52と、TDC100、デジタルチャージポンプ回路102と、デジタルループフィルタ200と、加算器70と、DCO400と、分周器500とを備え、これらの構成により閉ループ回路を構成する。さらに、PLL回路10Dは、PLL回路10Dを制御する構成として、メモリ72と、フラクショナル変調回路600と、周波数変調連続波発生回路700と、プレディストーション回路800とを備える。
【0058】
FMCW変調の制御を行う周波数変調連続波発生回路700から得た周波数情報と、メモリ72に格納された各周波数に対するデジタルループフィルタ200の測定データとを用いてプレディストーション回路800で補間処理してデジタルループフィルタ200の出力に加算している。これにより、周波数設定を変更した際に、閉ループの応答よりも先にDAC402の入力値を設定した周波数に極めて近くなるように設定することができ、極めて高速な周波数変調応答を実現できる。
【0059】
DCO400は、DAC402と、アナログLPF404(Low Pass Filter)と、VCO58とを含む。以下、特許文献1の技術を用いた動作についてより詳細に説明する。実際にFMCW変調動作を行う前段階としてキャリブレーションが行われる。DAC402に入力されるデジタル値と、VCO58が発振する周波数の関係とをメモリ72に記憶させるために、プレディストーション回路800の動作を止めた状態(すなわち加算器で足される値が0の状態)で、各周波数におけるデジタルループフィルタ200の値を読み取り、メモリ72に格納していく。実際の運用においては、メモリ72は、使う周波数範囲でいくつかピックアップした周波数点に対するデジタルループフィルタ200の値を記憶する。
【0060】
キャリブレーションの完了後は、周波数設定が与えられた際に、メモリ72に格納された周波数とデジタルループフィルタ値との対応表から、その間の周波数におけるデジタルループフィルタ200の値をプレディストーション回路800において、内挿補間または外挿補間することで予測し、その予測値を加算器70へ入力させる。これにより、その周波数を実現する上でDCO400に与えられる値の大部分がプレディストーション回路800からの入力値になる。プレディストーション回路800が誤差の無い理想的な予測値を出力できる場合、閉ループによる負のフィードバックを伴わなくても設定した周波数に制御することができる。つまり、そのような理想状態においてはデジタルループフィルタ200の出力は0になる。
【0061】
しかし、実際にはキャリブレーション動作において測定したポイント数は有限であり、プレディストーション回路800における補間処理による予測は完璧ではないので、予測値は理想値と若干の誤差を有する。その残留した誤差を補正するために、PLL回路10Dの閉ループは、負のフィードバックをかける。PLL回路10Dの出力信号は、設定した周波数に収束する。すなわちPLL回路10Dの出力信号の周波数が収束している場合には、デジタルループフィルタ200の出力は、プレディストーション回路800で補正しきれなかった誤差分に相当する値を出力していることになる。
【0062】
図7は、特許文献1に記載された技術を適用した場合の、FMCW変調動作をさせた場合のPLL出力信号の周波数の時間変化を示す。実線88はプレディストーション回路800による補正を行わない場合で、破線90は補正を行った場合の応答である。プレディストーション回路800による補正を行った場合、さらに高速な応答性を実現できている。
【0063】
しかし、FMCW変調の動作速度をさらに高速にしていった場合、特許文献1の手法は、依然として課題を有することがある。図8Bは、図8Aの制御構成を有する特許文献1の技術を適用した場合のFMCW変調動作時の周波数の時間応答の模式図を示す。図中、上図の破線で囲った部分を、下図で拡大して表示している。下図において、破線が理想の応答であるのに対し、実線が実際の応答を模式的に示したものである。
【0064】
FMCW動作の周波数を急激に戻す動作において、周波数を戻した直後(図8B下の点A)に、周波数のオーバーシュートまたはアンダーシュートが起きる場合がある。これは、メモリに各周波数におけるループフィルタ出力の値を記憶させるキャリブレーション動作において、記憶させた値が量子化誤差若しくは位相ノイズの影響等でわずかな誤差を持っている場合、またはプレディストーション回路800によって補間された値が実際の値からズレを持ってしまっている場合等に生じる。他のオーバーシュートまたはアンダーシュートの原因として、アナログ回路の微小な遅延によって閉ループの応答が理想からずれ、不要な誤差を加算してしまう場合等がある。
【0065】
オーバーシュートまたはアンダーシュートの周波数誤差は、閉ループの応答によってセトリングすることにより対策される。しかし、セトリングの収束時間はループの帯域設計に依存したものとなる。レーダーシステムにおいてもPLL回路10Dで生成した信号の位相ノイズは、レーダーの性能に大きな影響を与える。したがって、出来る限り位相ノイズを低減することが望まれるが、一方で位相ノイズを低減させるためにループの帯域を狭くすると、このオーバーシュートまたはアンダーシュートの誤差のセトリング時間が長くなる。その結果、チャープ間の待ち時間が伸びるので、レーダーの測定間隔が長くなる場合がある。
【0066】
以上、述べた周波数を戻した直後(図8Bの下図の点A)に発生する周波数誤差に加えて、周波数が定常状態になった後にFMCW変調動作における、チャープ動作を開始した際(図8Bの下図の点B)においても周波数誤差が生じる場合がある。これは、周波数が一定の定常状態から、周波数が常に一定の割合で変化する状態に移行する際に、PLL回路10Dのループ内の遅延により、PLLループが一次遅れ系で追従していくことが要因である。
【0067】
図9は、FMCW変調を行う際の、図8Bの下図の点A及び点B付近でのデジタルループフィルタ200の出力、プレディストーション回路800の出力、及びVCO58に接続されるDAC402への入力の時間応答の模式図を示す。
【0068】
プレディストーション回路800によるフィードフォワード制御と、PLL回路10Dの閉ループの周波数制御とが同一のタイミングで動作している場合には一次遅れ系による閉ループの追従は発生しない。しかし、これらの制御のタイミングは、実際にはPLL回路10D内の微小な遅延、例えばVCO58の応答遅延等の影響によりわずかにタイミングがずれることがあり、一次遅れ系の追従動作が発生することがある。したがって、FMCW変調動作におけるチャープ動作を開始した際(図8Bの下図の点B、及び図9の点B)には、最終的にその状態におけるPLL回路10Dの閉ループでデジタルループフィルタ200の出力ノードが収束すべき値も変化するので、その値に収束するまでのセトリング時間が発生し、周波数誤差が生じることがある。
【0069】
セトリング時間は、PLLループの帯域設計に依存するので、やはり位相ノイズとのトレードオフが存在し、また高速化にも限界が存在する。セトリング時間が長いと、FMCWのチャープ期間における、許容できる周波数誤差に収まっている時間が減ってしまうので、レーダーに使うことができる周波数幅が減ってしまう。結果としてレーダーの距離分解能が劣化していくこととなり、このチャープ開始直後のセトリング時間を極力小さくすることが望まれる。
【0070】
(第1の実施形態)
図10は、第1の実施形態に係るPLL回路20Aを示す図である。PLL回路20Aは、TDC100と、デジタルループフィルタ200と、加算器300と、DCO400と、分周器500と、を備え、これらの構成要素により閉ループ回路を構成する。さらにPLL回路は、制御部150Aを備える。
【0071】
制御部150Aは、デジタルループフィルタ200の出力に基づいて、加算器300と、分周器500とを制御する機能を有する。制御部150Aは、フラクショナル変調回路600と、周波数変調連続波発生回路700と、プレディストーション回路800と、第1のメモリ900と、を備える。以下では、PLL回路10Aの閉ループの動作を説明してから、制御部150Aの制御を説明する。
【0072】
TDC100は、PLL回路20Aの動作基準となる基準クロックと、分周器500が分周した信号との周波数の比率及び位相を比較して、それらの差を検出する。TDC100は、比較結果に応じて、デジタル信号をデジタルループフィルタ200に出力する。基準クロックは、「基準信号」の一例であり、TDC100は、「比較器」の一例である。
【0073】
デジタルループフィルタ200は、TDC100の出力したデジタル信号に応じて、適切な伝達関数のフィルタリングを行う。すなわち、デジタルループフィルタ200は、TDC100から出力される位相の差を示す出力を平滑化する。デジタルループフィルタ200は、平滑化後の信号をDCO400に出力する。デジタルループフィルタ200によるフィルタリング後の出力が加算器300に入力される。
【0074】
加算器300は、デジタルループフィルタ200の出力と、プレディストーション回路800の出力とに基づいて、2つの入力を加算または減算した信号を出力する。加算器300の出力は、DCO400に入力される。加算器300は、デジタルループフィルタ200の出力と、プレディストーション回路800の出力とを加算して、DCO400に制御信号を出力する「第4加算器」の一例である。
【0075】
DCO400は、制御信号となるデジタル値の入力値に応じて、発振周波数を変化させる発振器である。DCO400は、発振周波数に応じて変調された周波数のクロック信号をPLL回路20Aの出力信号として出力し、一方で、この出力を分周器500にも出力する。
【0076】
分周器500は、フラクショナル変調回路600の制御に基づいて、DCO400の出力するクロック信号である出力信号を分周する。このように、分周器500と、TDC100とは、PLL回路20Aの動作基準となる基準クロックと、分周器500が分周した信号との周波数の比率及び位相のうち少なくとも一方を検出するための「検出部」をなす。以下、制御部が含む各回路の機能を説明する。
【0077】
フラクショナル変調回路600は、分周器500の分周数を制御する。フラクショナル変調回路600は、後述の周波数変調連続波発生回路700からの周波数情報信号をデルタシグマ変調することで得られる周波数設定信号を分周器500に出力することにより、分周器500の分周数を制御してよい。
【0078】
周波数変調連続波発生回路700は、FMCW変調動作の制御を行う。周波数変調連続波発生回路700は、PLL回路20Aが動作する周波数の情報をフラクショナル変調回路600、プレディストーション回路800、及び第1のメモリ900へと出力する。また、周波数変調連続波発生回路700は、並行して、FMCW動作のタイミング及び状態に関する情報をデジタルループフィルタ200へと出力する。
【0079】
すなわち、周波数変調連続波発生回路700は、PLL回路20Aの出力として、チャープ動作中にDCO400から出力させる周波数連続波に関する周波数情報を示す周波数情報信号を出力する。また、周波数変調連続波発生回路700は、チャープ動作のタイミングを示すタイミング情報信号を出力する。
【0080】
第1のメモリ900は、デジタルループフィルタ200の出力に基づいて、必要に応じて、デジタルループフィルタ200の出力に基づく情報を記憶する。第1のメモリ900の記憶した情報はプレディストーション回路800へと出力される。本実施形態の第1のメモリ900への入力はデジタルループフィルタ200の出力であるが、第1のメモリ900への入力は、加算器300の出力であってもよい。
【0081】
この場合、第1のメモリ900は、加算器300がDCO400へと出力する制御信号と、周波数変調連続波発生回路700から入力される周波数情報信号に基づく、DCO400に出力させる出力信号との周波数との関係を示す関係情報を記憶する。したがって、第1のメモリは、このような関係情報を記憶する「関係情報記憶部」の一例である。
【0082】
プレディストーション回路800は、周波数変調連続波発生回路700から受信した周波数情報に基づいて、第1のメモリ900から受信した関係情報を補間する。プレディストーション回路800は、関係情報に基づいて、周波数情報をプレディストーションしたプレディストーションデータを加算器300へと出力する。
【0083】
なお、図10には示されていないが、TDC100及びデジタルループフィルタ200の間に、フラクショナル変調動作でデルタシグマ変調された量子化誤差を相殺するための変調補償回路が挿入されてよい。
【0084】
PLL回路20Aは、TDC100の前に周波数位相比較を行うPFD回路52をさらに含んでもよい。したがって、PLL回路20Aは、基準クロックと分周器500の出力とをPFD回路52に入力し、基準クロックと分周器500の出力信号との位相差に応じたパルス信号をPFD回路52にて生成し、パルス信号のパルス幅をTDC100で検出するような構成であってもよい。したがって、この場合には、TDC100及びPFD回路52が、DCOの出力信号と、基準クロック信号との周波数の比率及び位相の差を示す「比較器」の一例となる。
【0085】
PLL回路20Aは、TDC100が出力する値の形式に応じて、TDC100及びデジタルループフィルタ200の間にデジタルチャージポンプ回路102等の演算回路を追加で含んでもよい。
【0086】
図10では分周器500及びTDC100を用いた構成で説明したが、図11に示す、第1の実施形態の別例のPLL回路20Bが用いられてもよい。図中、PLL回路20Bは、TDC100と、加算器1200と、デジタルループフィルタ200と、加算器300と、DCO400と、を備え、これらの構成要素により閉ループ回路を構成する。さらにPLL回路20Bは、フラクショナル変調回路600と、周波数変調連続波発生回路700と、プレディストーション回路800と、第1のメモリ900と、を含む制御部150Aを備える。
【0087】
また、PLL回路20Bは、カウンタ502,504と、フリップフロップ1100,1101と、を備える。この構成は、図4で説明した構成を本実施形態に適用した場合に相当する。
【0088】
カウンタ502は、DCO400の出力信号に基づいて、PLL回路20Bの出力であるPLLクロックの数を累積してカウントする。カウンタ502は、「第1カウンタ」の一例である。
【0089】
本実施形態においては、TDC100は、基準クロックと、DCO400の出力信号とに基づいて、PLL回路20Bの出力であるPLLクロックとの位相差を検出する。
【0090】
フリップフロップ1100は、基準信号である基準クロックが入力されるごとに、フリップフロップ1100は、その際のPLLクロックの値に基づく出力値を出力する。したがって、カウンタ504は、フリップフロップ1101と、フラクショナル変調回路600の出力である、周波数情報信号をデルタシグマ変調した周波数設定信号とに基づいて、位相差のカウントを行う。カウンタ504は、「第2カウンタ」の一例である。そして、カウンタ502と、フリップフロップ1100の出力とに基づいて、フリップフロップ1101は、カウンタ502のカウント値を出力する。
【0091】
加算器1200は、カウンタ504の出力を加算し、カウンタ502の出力及びTDC100の出力を減算した信号を出力する。加算器1200は、「加減算回路」の一例である。また、本実施形態において、カウンタ502,504、TDC100、及び加算器1200は、「比較器」を構成してよい。
【0092】
これにより、デジタルPLL回路20Bは、デジタルPLL回路10Cと同様に、DCO400の出力及び基準クロックの周波数の比率を整数部分及び小数部分に分けて測定する。これにより、このデジタルPLL回路20Bでは、測定した周波数比率と、設定したい周波数の比率との差が取られる閉ループ構成となっており、デジタルPLL回路20Bの周波数は、設定したい周波数に収束していく。
【0093】
図8Bを参照してすでに説明したように、FMCW動作においては、周波数を戻した直後(図8Bの点A)と、チャープ動作を開始した直後(図8Bの点B)とに周波数誤差を収束させるセトリング待ち時間が必要となる。このセトリング待ち時間を小さくすることが望まれる。セトリング時間を短くする手法として、ループ帯域を動的に切り替えることで高速化を図る。
【0094】
図12は、ループ帯域の動的な切り替えを説明する模式図を示す。FMCW変調において、レーダーの測定として用いるチャープ動作期間でPLL回路の位相ノイズ特性を改善するために、ループの帯域を狭めたループ帯域設計値が用いられる。
【0095】
一方で、チャープ動作期間が終了後(チャープ動作を行わない期間に相当する)に周波数を戻して、セトリングを待ってチャープ動作を開始し、チャープ動作期間の開始直後に発生する予め定められたセトリング待ち時間が完了するまでの期間では、ループ帯域を広げたループ帯域設計値を用いる。これにより、チャープ動作期間以外の期間(非チャープ動作期間)では、位相ノイズ特性は劣るもののセトリング時間が高速になる。
【0096】
ここで、本明細書において、チャープ動作期間における「チャープ動作期間の開始直後」のタイミングは、PLL回路のチャープ動作が始まる時点より後から、PLL回路を有するレーダーが、レーダーの測定としてのデータ取得を開始する時点より前までの期間における何れかのタイミングに定められてよい。
【0097】
チャープ動作の開始直後に発生するセトリング待ち時間が完了するまでの期間における、ループ帯域を広げたループ帯域設計値に基づく帯域幅は、「第1帯域幅」の一例である。一方で、レーダーの測定として用いるチャープ動作期間におけるループの帯域を狭めたループ帯域設計値に基づく帯域幅は、「第2帯域幅」の一例である。
【0098】
なお、ループ帯域幅が第1帯域幅に設定される期間は、チャープ動作期間の終了直前から、予め定められたセトリング待ち時間が経過し、チャープ動作期間が終了後、次のチャープ動作が始まるまでの間の期間であってもよい。
【0099】
ここで、本明細書において、チャープ動作期間における「チャープ動作期間の終了直前」のタイミングは、PLL回路を有するレーダーが、レーダーの測定としてのデータ取得を終了する時点より後のタイミングに定められる。さらに、「チャープ動作期間の終了直前」のタイミングは、PLL回路のチャープ動作期間が終了し、チャープ動作の終了後に、PLL回路が周波数をチャープ動作開始時点の周波数に戻し始める時点より前のタイミングに定められる。したがって、「チャープ動作期間の終了直前」のタイミングは、レーダーの測定としてのデータ取得を終了する時点より後から、PLL回路が周波数を戻し始める時点より前までの期間における、何れかのタイミングに定められてよい。
【0100】
このようにループの帯域を設計すると、実際のレーダーの測定時には低い位相ノイズとなり、レーダーの測定に用いない区間に発生するセトリングの待ち時間は短くすることも両立できる。以下では、このような技術を用いた具体的な手法について説明する。
【0101】
図13は、デジタルループフィルタ200Aの構成の一例を示すブロック図である。デジタルループフィルタ200Aは、アンプ201,202,203,204と、加算器211,212,213とを含む。
【0102】
デジタルループフィルタ200Aに入力された信号は、増幅率aのアンプ201と増幅率bのアンプ202とにより増幅される。アンプ202の出力は、加算器211に入力され、加算器211の出力がフリップフロップ等の第1遅延回路216で保存され、動作クロックの1クロック分だけ遅れて加算器211に入力される。
【0103】
また、加算器212は、加算器211の出力及びアンプ201の出力を加算する。デジタルループフィルタ200Aの入力から加算器212の出力までが、ゼロ点を含んだ積分器の機能を果たす。加算器212の出力は増幅率cのアンプで増幅され、加算器213に入力される。
【0104】
加算器213の出力は、第2のフリップフロップ等の第2遅延回路218により保存され、動作クロック1クロック分だけ遅れて増幅率dのアンプ204に入力され、その出力は加算器213に入力される。加算器213の出力は、そのままデジタルループフィルタ200Aの出力となる。
【0105】
このアンプ203以降の部分は、ローパスフィルタの役割を持つ。ループ帯域のパラメータは、デジタルループフィルタ200A内の各アンプ201,202,203,204の増幅率a,b,c,dの組み合わせによって設定される。
【0106】
図14は、図13に係るデジタルループフィルタ200Aを用いてループの帯域を切り替えた場合の周波数の振る舞いのシミュレーション結果を示す。図中では、ある特定の周波数にPLL回路が収束した状態において、時刻200μsまではループ帯域が広い設定で、時刻200μsでループ帯域が狭い設定に変更した場合をシミュレーションしている。シミュレーション結果が示す通り、単純に増幅率a,b,c,dを切り替えてループ帯域の設定を変更するだけでは、切り替えた瞬間に周波数が大きくずれることになる。以下では、この要因について説明する。
【0107】
周波数が収束した状態においては、デジタルループフィルタ200Aの入力は、理想的にはゼロとなり、出力がある一定値となる。つまり、図13のノードAではゼロで、ノードB,C,Dでは一定値となる。ここで、ループの帯域を決めるパラメータc,dの値が変化すると、ノードC、ノードD'の値が変化することとなる。したがって、出力の値もパラメータ変更に伴って大きく変化してしまうこととなり、周波数が変化を起こしてしまうことがある。その後、PLL回路の閉ループにより、徐々に値は、ずれのない値へと収束し、出力は最初と同じ値になる。
【0108】
以上、述べたように、単純にループ帯域を決めるループフィルタのパラメータを変更しただけでは切替直後に周波数の変化が起こってしまうことがあり、意図したような高速な切り替えは実現できない。それを解決する方法として図15に示すようなデジタルループフィルタ200Bの構成が考えられる。このデジタルループフィルタ200Bは、アンプ201,202,203,204と、加算器211,212,213と、というデジタルループフィルタ200と同様の構成に加えて、フリップフロップ221,222と、セレクタ231,232とを含む。
【0109】
これにより、図15に係るデジタルループフィルタ200Bは、セレクタ制御信号によってフリップフロップ221,222への入力を切り替えられる。また、デジタルループフィルタの定数であるアンプ201,202,203,204の増幅率a,b,c,dはループのパラメータ制御信号に応じて変更できるようになっている。
【0110】
この構成において、ループフィルタのパラメータを切り替える際、パラメータ変更に伴ってフリップフロップ221,222に記憶させる値をそれぞれセレクタ231,232の間で切り替えて、計算値X,Yがフリップフロップ221,222に記憶されるようにする。ここで、例えばループ帯域の変更前のパラメータをcbefore,before、変更後のパラメータをcafter,afterとすると、計算値X,Yは、以下のような計算式に基づく値になる。
【数7】
【数8】
式中、B及びDは、それぞれノードB及びノードDの値である。
【0111】
アンプ201は、検出部から出力される信号を増幅率aで増幅する。アンプ201は、「第1アンプ」の一例であり、増幅率aは、「第1増幅率」に相当する。
【0112】
アンプ202は、検出部から出力される信号を増幅率bで増幅する。アンプ202は、「第2アンプ」の一例であり、増幅率bは、「第2増幅率」に相当する。
【0113】
加算器211には、アンプ202の出力が入力される。加算器211は、「第1加算器」の一例である。
【0114】
加算器212には、加算器211の出力と、アンプ201の出力とが入力される。加算器212は、「第2加算器」の一例である。
【0115】
フリップフロップ221は、動作クロックとセレクタ231の出力とに基づいて、計算値Xまたは加算器211の出力を、加算器211に出力する。フリップフロップ221が加算器211の出力を出力する場合、動作クロックに基づいた出力を行うので、フリップフロップ221は、加算器211の出力を1クロック分だけ遅延させて加算器211に入力することとなる。フリップフロップ221は、「第1遅延回路」の一例である。
【0116】
アンプ203は、加算器212の出力を増幅率cで増幅する。アンプ203は、「第3アンプ」の一例であり、増幅率cは、「第3増幅率」に相当する。
【0117】
加算器213には、アンプ203の出力が入力される。加算器213は、「第3加算器」の一例である。
【0118】
フリップフロップ222は、動作クロックとセレクタ232の出力とに基づいて、計算値Yまたは加算器213の出力を、アンプ204に出力する。フリップフロップ222が加算器213の出力を出力する場合、動作クロックに基づいた出力を行うので、フリップフロップ222は、加算器213の出力を1クロック分だけ遅延させてアンプ204に入力することとなる。フリップフロップ222は、「第2遅延回路」の一例である。
【0119】
アンプ204は、フリップフロップ222の出力を増幅率dで増幅する。アンプ204は、「第4アンプ」の一例であり、増幅率dは、「第4増幅率」に相当する。
【0120】
本実施形態のデジタルループフィルタ200Bに接続された制御部150(不図示)は、セレクタ制御信号及びループのパラメータ制御信号を発する。制御部150は、増幅率a,b,c,dを切り替えることにより、デジタルループフィルタ200Bのループ帯域を、チャープ動作の開始直後に発生するセトリング待ち時間が完了するまでの期間における、第1帯域幅と、レーダーの測定として用いるチャープ動作期間における、第2帯域幅との間で切り替えることができる。
【0121】
セレクタ231には、加算器211の出力及び計算値Xが入力され、セレクタ231は、加算器211の出力及び計算値Xの一方をフリップフロップ221に出力する。計算値Xは「第1計算値」の一例であり、セレクタ231は「第1セレクタ」の一例である。
【0122】
セレクタ232には、加算器213の出力及び計算値Yが入力され、セレクタ232は、加算器213の出力及び計算値Yの一方をフリップフロップ222に出力する。計算値Yは「第2計算値」の一例であり、セレクタ232は「第2セレクタ」の一例である。
【0123】
図16は、デジタルループフィルタ200Bの動作のタイミング関係を示した図である。フリップフロップ221,222の入力はアンプ201~204のパラメータが変更される直前に計算値X,Yに切り替わり、パラメータが変更されると即座にフリップフロップ221,222に計算値X,Yが格納され、フリップフロップ221,222の入力が再び通常の入力値である加算器211の出力及び加算器213の出力に戻る。
【0124】
したがって、制御部150は、増幅率a,b,c,dを切り替えるタイミングの前の予め定められた前期間から切り替えタイミングの後の予め定められた後期間にかけて、セレクタ231に計算値Xを出力させ、かつセレクタ232に計算値Yを出力させる。制御部150はさらに、予め定められた前期間から予め定められた後期間以外の期間において、セレクタ231に加算器211の出力を出力させ、かつセレクタ232に加算器213の出力を出力させる。
【0125】
なお、計算値Xは、式(7)を満たし、計算値Yは、式(8)を満たす。したがって、計算値X及び計算値Yは、切り替え前の増幅率cbefore及びdbefore、並びに切り替え後の増幅率cafter及び増幅率dafterに基づいて定められる。
【0126】
図17は、デジタルループフィルタ200A及びデジタルループフィルタ200Bの動作のシミュレーション結果を示す。図中の破線92で示しているのはセレクタによる切替を行わない、図13で示したデジタルループフィルタ200Aによる帯域切り替えを行った場合である。図中の実線94はセレクタによる切替を行った、図15に示すデジタルループフィルタ200Bの構成にした場合である。
【0127】
図17の結果から明らかなように、帯域切り替え時にフリップフロップ221,222への書き込み値をセレクタで切り替える構成にすることにより、帯域切り替え時にも周波数のズレが発生せず、スムーズに帯域切り替えが行われる。これにより、レーダーの測定に使うチャープ動作中と、それ以外の区間とにおいて、PLL回路のループ帯域をスムーズに切り替えることが可能となる。スムーズな帯域切り替えは温度、電源電圧、または製造プロセスによらず、安定した性能を実現できるデジタルPLL回路であるからこそ容易に実現できるものであり、ループフィルタがアナログ回路で構成されるアナログPLL回路では、様々な誤差が影響する場合がある。
【0128】
次に、図18を参照して、図10に示したPLL回路20Aの構成における全体の動作について説明する。PLL回路20Aの動作は、主にキャリブレーション動作と、変調動作とに分けられる。
【0129】
図19は、キャリブレーション動作中に動作しているブロックの一例を示す。キャリブレーション動作においては、プレディストーション回路800は動作を停止する。したがって、加算器300は加算動作を行わず、デジタルループフィルタ200からの入力がそのまま出力される。
【0130】
キャリブレーション動作においては、PLL回路20Aの周波数が設定され、PLL回路20Aの周波数が収束するまでの安定化時間を待った後にデジタルループフィルタ200の値が第1のメモリ900に格納される。その動作をいくつかの周波数で実施していき、第1のメモリ900には離散的に選択された周波数に対するデジタルループフィルタ200の収束値の対応表が記憶される。
【0131】
図20は、図18の変調動作において、前述したループ帯域の切り替え動作を行う場合のデジタルループフィルタ200の応答を模式的に示した図である。図20のAは、FMCW変調における周波数の変化を示す。図20のBはその際のデジタルループフィルタ200の出力と、ループ帯域設定とを示す。
【0132】
FMCW変調において周波数を戻す際に、周波数の誤差が発生する。誤差発生からチャープ動作が始まるまでの区間Aの時間は、ループの帯域が広帯域設定となっているので、狭帯域設定よりも高速にセトリングする。したがって、区間Aの時間を短くすることができる。
【0133】
また、FMCW変調における誤差は、チャープ動作が始まった際に、一次遅れ系へと移行することでも発生する。このセトリング時間に相当する区間Bも、ループの帯域が狭帯域設定の場合よりも短くすることができる。誤差が十分セトリングした状態でループの帯域設定を、例えば既に述べた方法で広帯域設定から狭帯域設定に変更することにより、レーダーとして使わない区間の待ち時間を短くできる。一方で、レーダーとして使う区間は、位相ノイズ特性が良い狭帯域設定とすることができる。また、本実施形態においては、チャープ動作の開始直後の待ち時間を短くすることができるので、レーダーに使えるチャープ変調区間を広く利用できるようになり、チャープ動作におけるレーダーの測定に有効な周波数幅を広げることができる。さらには、本実施形態のPLL回路20Aまたは20Bを用いることにより、レーダーの距離分解能を向上させることができる。
【0134】
(第2の実施形態)
図21は、第2の実施形態に係るPLL回路30Aを示す図である。以下では、第1の実施形態のPLL回路20Aと、第2の実施形態のPLL回路30Aとの相違点に注目して説明する。第2の実施形態においては、第1の実施形態で説明したPLL回路20Aの構成の他に、制御部150Bの構成として、第2のメモリ1000を備える。
【0135】
第2のメモリ1000は、デジタルループフィルタ200の出力、及びデジタルループフィルタ200の適切な内部ノードの値を入力として用いて、周波数変調連続波発生回路700からのタイミング制御信号に従って記憶した値、または記憶した値から演算した結果をデジタルループフィルタ200に出力する。また、周波数変調連続波発生回路700は、FMCW動作のタイミング及び状態に関する情報を第2のメモリ1000へ出力する。
【0136】
なお、図21には示されていないが、PLL回路30Aは、第1の実施形態で説明したものと同様、例えば、TDC100及びデジタルループフィルタ200の間に、フラクショナル変調動作でデルタシグマ変調された量子化誤差を相殺するための変調補償回路62を備えてもよい。
【0137】
また、PLL回路30Aは、例えば、TDC100の前に周波数位相比較を行うPFD回路52を備えてもよい。PFD回路52には、基準クロックと分周器500の出力とが入力されてよい。PFD回路52は、基準クロックと分周器500の分周した信号とのタイミングの差に応じたパルスを生成してよい。TDC100は、PFD回路52の出力するパルスのパルス幅を検出する構成であってもよい。
【0138】
また、PLL回路30Aは、TDC100が出力する値の形式に応じて、TDC100及びデジタルループフィルタ200の間にデジタルチャージポンプ回路102等の演算回路を備えてもよい。TDC100の出力する値の形式としては、例えばTDC100が出力する値が基準クロックと分周器500の分周した信号とのタイミングの差の絶対値のみを出力する場合がある。
【0139】
この場合には、別途、PFD回路52は、基準クロック及び分周器500が分周した信号のどちらが先に入力されたのかのタイミングを検知してよい。TDC100の出力値が正負のどちらになるのかによって、デジタルチャージポンプ回路102は、値の正負を入れ替えて出力してよい。なお、TDC100が基準クロックと分周器500のタイミング順に応じて正負の値を出力する場合、デジタルチャージポンプ回路102は、省略されてよい。
【0140】
図19を参照して、PLL回路30Aの構成が説明された。ここで、PLL回路30Bは、図22に示すようなTDC100と、カウンタ502,504と、加算器1200と、フリップフロップ1100,1101と、を用いる構成であってもよい。この構成は、図4で説明した構成を本実施形態に適用した場合のものである。
【0141】
第1の実施形態では、ループ帯域の動的な切り替えによって、FMCW変調におけるセトリング待ち時間を短縮する方法を述べた。セトリングの速度はループ帯域設計で決まるが、ループ帯域を広げてセトリングを速くすることに上限がある場合がある。したがって、第1の実施形態で述べたループ帯域の動的な切り替えを行った場合に、ループ帯域を広げたパラメータにおけるセトリング時間が制約となりFMCW変調の繰り返し速度、またはチャープ動作の開始直後のセトリング待ち時間の低減に限界が生じることがある。仮に前述したループ帯域の動的な切り替えを行った場合において、チャープ動作の開始直後のセトリング時間を十分待たずにループ帯域の切り替えを行った場合の挙動について、図23を用いて説明する。
【0142】
図23のAは、FMCW動作における、チャープ動作の開始時の周波数応答の模式図を示す。図23のBは、図23のAの区間に対応したデジタルループフィルタ200の出力値の模式図を示す。図23のBにおいては、ループ帯域の切り替えは、チャープ動作が始まった直後に生じる誤差が十分セトリングしてから行われる場合が示される。
【0143】
図23のBの例では、デジタルループフィルタ200の出力値は、チャープ動作による一次遅れ系に変化した際に生じる誤差が十分小さくなってから帯域切り替えを行うので、前述した一定周波数における帯域切り替えの場合と同様に切り替えによる周波数の飛びは発生せず、スムーズに帯域切り替えが実行される。
【0144】
図23のCは、同様に図23のAの区間に対応したデジタルループフィルタ200の出力値の模式図を示す。図23のCにおいては、ループ帯域の切り替えは、チャープ動作が始まった直後に生じる誤差が十分セトリングする前に行われる場合が示される。
【0145】
図23のCの例では、デジタルループフィルタ200の出力値はチャープ動作中に取るべき収束値に対してずれているので、ループ帯域の切り替え時に行う計算値が、本来の理想値であるチャープ動作中の収束値ではなく、誤差が含まれた値になる。したがって、ループ帯域の切り替え時に行う計算結果にも誤差が含まれることとなり、ループ帯域切り替え時にデジタルループフィルタ200の値が不連続に飛んでしまい、周波数の誤差が発生する。したがって、誤差を狭いループ帯域の閉ループの応答によって収束させる場合、許容される周波数誤差以下になるまでに、切り替えを行わない場合よりも長いセトリング待ち時間がかかる場合がある。
【0146】
図24Aは、第1の実施形態で述べたループ帯域の切り替え動作を適用させ、さらにFMCW動作を極めて高速にした場合におけるPLL回路20AまたはPLL回路20Bのチャープ動作のシミュレーション結果を示す。図24Bは、図24Aの動作におけるデジタルループフィルタ200の出力のシミュレーション結果を示す。
【0147】
PLL回路20AまたはPLL回路20Bは、チャープ動作が始まった直後に一次遅れ系によって生じる誤差を閉ループによって収束させ始める。しかし、セトリングが完了する前に帯域切り替えが行われる場合には、PLL回路20AまたはPLL回路20Bは、計算結果に誤差を持ってしまうことがあり、デジタルループフィルタ200の出力値が大きく飛び跳ねることがある。
【0148】
さらに、チャープ動作中はループ帯域が狭く、セトリングが遅いので、チャープ動作区間中にセトリングが完了しきらずにチャープ動作が終了する場合がある。チャープ動作終了後に、狭いループ帯域から広いループ帯域への切り替えが行われ、切り替えの後でもセトリングが完了しきらなかった場合に、さらに計算結果がずれ、デジタルループフィルタ200の出力値が大きく飛び跳ねることがある。
【0149】
このような場合、ループ帯域が広い設定でもその誤差が収束しきらないうちに次のチャープ動作が開始され、再び帯域切り替えが行われる。結果として、計算に使う値の誤差が前回よりも大きくなり、計算結果がさらに大きい誤差を持ち、デジタルループフィルタ200の出力値がさらに大きく飛び跳ねることとなる。このようにFMCW変調動作が極めて高速な場合には、誤差がセトリングしきらないうちに次々とループ帯域切り替え動作が行われることになり、そのたびに誤差が増幅されていってしまう場合がある。
【0150】
以下では、第2の実施形態のPLL回路30AまたはPLL回路30Bの動作を詳しく説明する。第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様にPLL回路30AまたはPLL回路30Bは、図18に示すようなキャリブレーション動作と、変調動作とを行う。
【0151】
図25は、キャリブレーション動作中に動作しているブロックを示す。図25で示されるように、キャリブレーション動作においては、第2のメモリ1000とプレディストーション回路800は、動作を停止する。したがって、加算器300は加算動作を行わず、デジタルループフィルタ200からの入力がそのまま出力される。キャリブレーション動作においては、PLL回路30Aの周波数が設定され、PLL回路30Aの周波数が収束するまでの安定化時間を待った後にデジタルループフィルタ200の値が第1のメモリ900に格納される。その動作をいくつかの周波数で実施していき、第1のメモリ900には離散的に選択された周波数に対するデジタルループフィルタ200の収束値の対応表が記憶される。
【0152】
次に、変調動作においては、周波数変調連続波発生回路700からプレディストーション回路800に周波数情報が入力され、プレディストーション回路800は、第1のメモリ900から入力された周波数に対するデジタルループフィルタ200の収束値の対応表から補間処理を行う。プレディストーション回路800は、入力された周波数におけるデジタルループフィルタ200の収束予測値を出力する。
【0153】
加算器300は、収束予測値と、デジタルループフィルタの出力値とを加算してDCO400へ入力する。これにより、DCO400が所望の周波数を実現するための入力値の大部分は、プレディストーション回路800の出力によって実現され、デジタルループフィルタ200の出力には予測値の誤差またはチャープ動作中に一次遅れ系になることで生じる追従誤差等の誤差成分のみ現れる。
【0154】
以下では、図26を参照して、変調動作時のデジタルループフィルタ200のより詳細な動作を説明する。
【0155】
ある時刻T0において、FMCW変調のチャープ動作が開始すると、それに伴ってPLL回路30AまたはPLL回路30Bの閉ループは一次遅れ系になる。これにより、デジタルループフィルタ200の出力は、わずかに変化を始める。閉ループのループ帯域によるセトリング時間に対してチャープ動作時間が短い場合、チャープ動作が終了する時刻T2においてもデジタルループフィルタ200の出力はセトリングが完了しないままである。この場合、第2のメモリ1000は、時刻T2よりもわずかに手前の時刻T1におけるデジタルループフィルタ200の値Aを格納する。
【0156】
すなわち、第2のメモリ1000は、チャープ動作期間の終了直前の予め定められた期間におけるデジタルループフィルタ200から出力される制御信号に基づくデジタル値を記憶する。ここで、チャープ動作期間の終了直前の予め定められた期間とは、例えば、時刻T1からチャープ動作が終了する時刻T2までの期間を指す。第2のメモリ1000は、このように機能する「制御信号記憶部」の一例である。
【0157】
時刻T2でチャープ動作終了後に周波数を戻し、再びチャープ動作を開始する。この場合、チャープ動作開始の直後の時刻T3において、第2のメモリ1000に格納したデジタルループフィルタ200の出力値Aを用いて、デジタルループフィルタ200内にあるフリップフロップ等の記憶素子にフィルタ定数から適宜計算した結果が書き込まれることにより、デジタルループフィルタ200の出力値がAになるようにする。これにより、チャープ動作期間の開始直後にデジタルループフィルタ200から出力される制御信号が、前回の制御信号となるよう、デジタルループフィルタ200が制御される。
【0158】
このように、第2の実施形態の制御部150Bは、チャープ動作期間の開始直後までに制御信号記憶部である第2のメモリ1000から前回の制御信号をデジタルループフィルタ200に入力することでデジタルループフィルタ200から出力される制御信号が前回の制御信号となるように、デジタルループフィルタ200を制御する。
【0159】
これにより、時刻T3以降で前回のチャープ動作で完了しなかったセトリング動作が再開され、チャープ動作終了の時刻T5まで継続される。そして、第2のメモリ1000は、時刻T5よりもわずかに手前の時刻T4におけるデジタルループフィルタ200の値Bを格納する。この値Bが、次のチャープ動作の開始直後の時刻T6において利用される。
【0160】
時刻T6において、デジタルループフィルタ200の出力値は、値Bに設定されることでセトリング動作が再開され、セトリング動作は、時刻T8まで継続される。このような動作をチャープ動作ごとに繰り返していくことで、チャープ動作を重ねていったときにチャープ中におけるセトリング動作は完了し、チャープ開始直後から周波数誤差が抑えられた状態にすることができる。
【0161】
なお、時刻T1、T4、T7などは便宜上、チャープ動作期間の終了の時刻T2,T5,T8の直前の時刻として説明したが、この時刻はチャープ動作期間内で、かつ時刻T3、T6、T9などの前回チャープ結果を計算しループフィルタ内の記憶素子に適用させるタイミングよりも後であれば良い。たとえば時刻T3とT4との関係では、同一チャープ動作内で長い時間となればなるほど一回のチャープにおけるセトリング動作が早くなり、少ないチャープ数の経過で完全にセトリング動作が収束完了した状態となる。ただし、短い時間であっても数多くのチャープ数を経過することで最終的には同様の効果を発揮することとなる。
【0162】
結果として、従来であれば周波数誤差を十分小さくするためにはチャープ動作開始直後のセトリング待ち時間を十分長くとる必要があったところが、セトリング待ち時間を極めて短くしても、チャープ動作開始直後に一次遅れ系に起因する周波数誤差を小さくすることができる。このような制御部150Bを有するPLL回路30AまたはPLL回路30Bは、高速なFMCW変調においてもレーダーに使えるチャープ変調区間を広く利用できることを可能とし、チャープ期間におけるレーダーの測定に有効な周波数幅を広げることができる。さらには、本実施形態のPLL回路30AまたはPLL回路30Bを用いることにより、レーダーの距離分解能を向上させることができる。
【0163】
以上の説明において、第2のメモリ1000に格納する値は、デジタルループフィルタの出力としたが、第2のメモリ1000に格納する値はこの例に限定されない。第2のメモリ1000に格納する値は、デジタルループフィルタ200の内部ノードの値であってよく、デジタルループフィルタ200の内部ノードと出力との両方の値であってもよい。なお、制御部150Bは、周波数変調連続波発生回路700からのタイミング情報信号に基づいて、チャープ動作期間の開始時点T0,T3,T6等を特定してよい。
【0164】
図27に第2の実施形態におけるデジタルループフィルタ200Cの例を示す。
【0165】
アンプ201,202は、デジタルループフィルタ200Cの入力を増幅する。アンプ201の出力は、加算器212の一方の入力に入力される。アンプ202の出力は、加算器211の一方の入力に入力される。
【0166】
加算器211の出力は、セレクタ231の一方の入力として入力され、加算器212のもう一方の入力に入力されるとともに内部ノード出力として第2のメモリ1000に渡される。また、第2のメモリ1000から、格納された内部ノード出力値がセレクタ231のもう一方の入力として入力される。セレクタ231の出力は、遅延回路として動作するフリップフロップ221に入力される。フリップフロップ221の出力は、加算器211のもう一方の入力に入力される。
【0167】
アンプ203は、加算器212の出力を増幅し、加算器213の一方の入力に出力する。加算器213の出力は、セレクタ232の一方の入力として入力されるとともに、デジタルループフィルタ200Cの出力となる。デジタルループフィルタ200Cの出力は、第2のメモリ1000に渡される。第2のメモリ1000から、格納されたデジタルループフィルタ200Cの出力値がセレクタ232のもう一方の入力として入力される。
【0168】
セレクタ232の出力はフリップフロップ222に入力される。アンプ204は、フリップフロップ222の出力を増幅して、加算器213のもう一方の入力に出力する。
【0169】
なお、ここまでアンプ201,202,203,204は、「増幅する」と説明したが、これらのアンプ201,202,203,204の増幅係数は増幅を示す1より大きな値に限定されない。例えば、アンプ201,202,203,204の増幅係数は、所望に応じて、1以下や負の値であってもよい。
【0170】
フリップフロップ221,222には動作クロックが入力され、動作クロックが1クロック入力されるごとに、フリップフロップ221,222は、値を更新する。
【0171】
セレクタ231,232は、図16に示す周波数変調連続波発生回路700から入力されるセレクタ制御信号により、2つの入力のどちらかを選択し出力する動作をする。セレクタ制御信号は、図21で示す時刻T3,T6,T9等のチャープ動作開始直後においてその極性を変化させ、セレクタ231,232は第2のメモリ1000からの値を選択して、フリップフロップ221,222にその値を格納する。フリップフロップ221,222への値の格納後、セレクタ制御信号は、再び極性を戻す。これにより、セレクタ231,232は、内部ノード出力やデジタルループフィルタ出力がそれぞれセレクタ231,232で選択されるように動作する。
【0172】
ここで述べたデジタルループフィルタ200Cの構成はあくまで一例であり、デジタルループフィルタ200の構成は、この例に限定されない。デジタルループフィルタ200は、チャープ動作中のある時刻において内部のフリップフロップに値を書き込むことでデジタルループフィルタの出力値を前回のチャープの値と同じ値になるように設定することができるものであればどのような構成であってもよい。
【0173】
また、デジタルループフィルタ200は、出力値が前回のチャープ動作の値と同じ値にならなくても、デジタルループフィルタ200における安定化時間が最も長くかかる箇所のみに限定して、その箇所の値を前回のチャープの値と同じ値に設定することができるものであってもよい。
【0174】
以上の説明においては、第2のメモリ1000に格納する値は、便宜上デジタルループフィルタ200の出力と加算器211の出力としたが、第2のメモリに格納する値はこれに限定されない。例えば、第2のメモリ1000は、フリップフロップ221の出力、フリップフロップ222の出力、加算器212の出力、またはアンプ204の出力のようなデジタルループフィルタ200の一つまたは複数の内部ノードを格納してよい。あるいは、第2のメモリ1000は、デジタルループフィルタ200の内部ノード及び出力の両方を格納してもよい。
【0175】
(第3の実施形態)
図28は、第3の実施形態における変調動作時の動作を説明するための図である。第3の実施形態においては、変調動作中のチャープ動作時にはループ帯域を狭い設定にすることで位相ノイズを良化させるとともに、レーダーとして使わない期間にはループ帯域を広い設定にすることでセトリング時間を高速化させる。
【0176】
これにより、時刻T3,T6,T9におけるデジタルループフィルタ200への値の上書きタイミングにおいて、デジタルループフィルタ200の出力の変化量を減らすことができる。この変化量が大きいことは、DCO400の発振周波数がデジタルループフィルタの値の格納前において、期待する理想の周波数から大きくずれていることを意味する。このずれが大きい場合、デジタルループフィルタ200の値を格納した直後に、TDC100に入力される分周信号の位相が大きくずれている状態となる。
【0177】
結果として、この位相のずれ分がデジタルループフィルタ200に入力され、デジタルループフィルタ200の値を理想状態からずらしてしまう。このずれ分は前述の一次遅れ系に変化することにより発生する誤差、または、キャリブレーションの誤差に対して小さいものの、周波数の誤差となるので、減らすことが望ましい。
【0178】
図29は、第3の実施形態におけるデジタルループフィルタ200Dの一例を示す。また図30は、チャープ動作期間の終了タイミングである時刻T2より前から、チャープ動作期間の開始タイミングである時刻T3より後までの期間についてのデジタルループフィルタ200Dの動作を説明するためのタイミング図の一例を示す。以下では、図29及び図30を参照してループフィルタDの動作が説明される。
【0179】
第3の実施形態のデジタルループフィルタ200Dでは、第2の実施形態で示すデジタルループフィルタ200C構成に、さらにデジタルループフィルタ200Dのパラメータであるアンプ201,202,203,204の増幅率が制御信号によって変更できるようになっている。すなわち、第3の実施形態におけるPLL回路は、第2の実施形態に係るPLL回路30AまたはPLL回路30Bにおいて、デジタルループフィルタ200としてデジタルループフィルタ200Dを使用することによって実現される。
【0180】
また、第2の実施形態においては、セレクタ231,232の入力は、第2のメモリ1000からの値であった。第3の実施形態においては、セレクタ231,232には、第2のメモリ1000の値、または第1の実施形態において説明された計算値X,Yの値が制御信号の状態に応じて、選択されて入力される。
【0181】
したがって、セレクタ231は、加算器211の出力と、計算値Xまたは前回の制御信号の値を示す第2のメモリ1000の値とである入力に基づいて、加算器211の出力、計算値X、及び前回の制御信号を示す第2のメモリ1000の値のいずれか1つをフリップフロップ221に出力する。同様に、セレクタ232は、加算器213の出力と、計算値Yまたは前回の制御信号の値を示す第2のメモリ1000の値とが入力され、加算器213の出力、計算値Y、及び前回の制御信号を示すPLL回路の第2のメモリ1000の値のいずれか1つをフリップフロップ222に出力する。
【0182】
制御部150は、セレクタ制御信号を出力してよい。制御部150は、時刻T1及び時刻T2の間の時刻であって、時刻T2の直前の時刻(動作クロックの1クロック前より前のタイミングであり、例えば数クロック前)にセレクタ231,232へ入力されるセレクタ制御信号の論理レベルを切り替える。セレクタ制御信号の論理レベルの切り替えに応じて、セレクタ231は、出力を加算器211の出力から、計算値Xの出力に切り替える。同様に、セレクタ232は、出力を加算器213の出力から、計算値Yの出力に切り替える。
【0183】
図中、セレクタ制御信号の論理レベルは、説明の簡単のために時刻T2で切り替えられているが、チャープ動作期間の終了タイミングである時刻T2の終了直後の予め定められた期間(例えば動作クロックの数クロック後)の経過後に切り替えられてよい。これにより、チャープ動作期間の終了直前及び終了直後の予め定められた期間において、第1セレクタであるセレクタ231は、第1計算値である計算値Xを出力する。同様に、この期間において、第2セレクタであるセレクタ232は、第2計算値である計算値Yを出力する。制御部150はさらに、このセレクタ制御信号の論理レベルの切り替えタイミング以降であって時刻T2より以前のタイミングに、ループのパラメータの制御信号によって、アンプ201,202,203,204の増幅率を切り替えてよい。
【0184】
フリップフロップ221は、セレクタ231の出力値と、動作クロックとに基づいて、フリップフロップ221の入力を1クロック遅延させて、加算器211へと出力する。同様に、フリップフロップ222は、セレクタ232の出力値と、動作クロックとに基づいて、フリップフロップ222の入力を1クロック遅延させて、アンプ204へと出力する。
【0185】
次に、時刻T3の直前(時刻T3より前のタイミング。例えば時刻T3より動作クロックの数クロック前のタイミングであってよい)に、制御部150は、セレクタ制御信号の論理レベルを切り替えてよい。このセレクタ制御信号の論理レベルは、セレクタ231,232が、それぞれPLL回路の前回の制御信号を示す第2のメモリ1000の値を出力するために設定される論理レベルである。
【0186】
制御部150は、このタイミングの後であって、時刻T3までの間の期間に、ループのパラメータの制御信号によって、アンプ201,202,203,204の増幅率を切り替えてよい。また、図中、セレクタ制御信号の論理レベルは、説明の簡単のために時刻T3で切り替えられているが、チャープ動作期間の開始タイミングである時刻T3の終了直後の予め定められた期間(例えば動作クロックの数クロック後)の経過後に切り替えられてよい。
【0187】
これによって、制御部150がループ帯域幅を制御する期間及びチャープ動作期間の開始直後の予め定められた期間において、第1セレクタであるセレクタ231は、PLL回路の前回の制御信号を示す第2のメモリ1000の値を出力する。同様に、この期間において、第2セレクタであるセレクタ232は、PLL回路の前回の制御信号を示す第2のメモリ1000の値を出力する。
【0188】
他の期間(「チャープ動作期間の開始直後並びに終了直前及び終了直後の予め定められた期間以外の期間」に相当)において、制御部150は、セレクタ制御信号の論理レベルを、セレクタ231が第1加算器である加算器211の出力を出力し、セレクタ232が第3加算器である加算器213の出力を出力するように設定する。
【0189】
第3の実施形態においては、図28に示す時刻T2から時刻T3、時刻T5から時刻T6、時刻T8から時刻T9等の区間において、ループ帯域が広げられる。また、時刻T2等のチャープ動作期間の終了直前または終了直後の予め定められた期間においては、計算値X,Yがフリップフロップ221,222から出力されることにより、第2のメモリ1000に格納される前回の制御信号の値が調整される。これにより、時刻T2から時刻T3、時刻T5から時刻T6、時刻T8から時刻T9等の区間をさらに短くした場合でも、デジタルループフィルタの値格納時の位相の誤差を小さく抑えることができる。したがって、第3の実施形態のデジタルループフィルタ200Dを有するPLL回路においては、さらなる高速なFMCW動作が可能となる。
【0190】
なお、第1の実施形態、第2の実施形態、第3の実施形態において、FMCW変調を行う場合について説明がされたが、これらの実施形態に係る構成の適用範囲は、FMCW変調に限られない。これらの構成は、例えば、無線LAN、携帯通信端末、デジタル放送等の繰り返し使用する周波数チャンネルを変更するようなシステムにおいて、周波数変更後の安定化待ち時間を短縮するためにも適用可能である。
【0191】
例えば、第1の実施形態において説明した手法を用いることにより、周波数変更直前にループ帯域を広帯域設定へと変更し、セトリング時間を短縮したうえで、セトリング完了後にループ帯域を狭帯域設定へ戻される。これにより、通常時のループ帯域は位相ノイズ特性の良い狭帯域設定を使いつつ、周波数変更における待ち時間を短縮することができる。
【0192】
例えば、第2の実施形態において説明した手法を用いることにより、過去に特定の周波数チャンネルを選択した際のデジタルループフィルタ200の値を保持し、再びその周波数チャンネルに設定する際にその値を使ってデジタルループフィルタ200の安定化時間を短縮することができる。
【0193】
これにより、本実施形態のデジタルループフィルタ200を有するPLL回路は、高速なFMCW変調においてもレーダーに使えるチャープ変調区間を広く利用できることを可能とし、チャープ期間におけるレーダーの測定に有効な周波数幅を広げることができる。さらには、本実施形態のPLL回路を用いることにより、レーダーの距離分解能を向上させることができる。
【0194】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0195】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0196】
10,20,30 PLL回路
52 PFD回路
54 チャージポンプ
56 ループフィルタ
58 VCO
60 変調器
62 変調補償回路
64 乗算器
66 周波数コントローラ
68 ゲイン規格化回路
70 加算器
72 メモリ
82,90,92 破線
84,88,94 実線
86 一点鎖線
100 TDC
102 デジタルチャージポンプ回路
150 制御部
200 デジタルループフィルタ
201,202,203,204 アンプ
211,212,213,300,1200 加算器
216 第1遅延回路
218 第2遅延回路
221,222,1100,1101 フリップフロップ
231,232 セレクタ
400 DCO
402 DAC
404 アナログLPF
500 分周器
502,504 カウンタ
600 フラクショナル変調回路
700 周波数変調連続波発生回路
800 プレディストーション回路
900 第1のメモリ
1000 第2のメモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24A
図24B
図25
図26
図27
図28
図29
図30