(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151327
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】試験測定装置及び三相モータの欠陥検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/34 20200101AFI20241017BHJP
【FI】
G01R31/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024064081
(22)【出願日】2024-04-11
(31)【優先権主張番号】202321026736
(32)【優先日】2023-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(31)【優先権主張番号】18/629,865
(32)【優先日】2024-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】391002340
【氏名又は名称】テクトロニクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TEKTRONIX,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナ・エヌ・エイチ・スリ
(72)【発明者】
【氏名】ニランジャン・アール・ヘグデ
(72)【発明者】
【氏名】シュバ・ビー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ジェイ・ロバーグ
【テーマコード(参考)】
2G116
【Fターム(参考)】
2G116BA03
2G116BB01
2G116BB02
2G116BB06
2G116BB10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】誘導モータの欠陥を効果的に検出する。
【解決手段】試験測定装置102は、三相モータ106に印加される第1、第2及び第3相駆動信号を取得する1つ以上のプロセッサ108を有する。モータ駆動アナライザ104は、取得した第1、第2及び第3相駆動信号にDQZ変換を実行して、d軸(D)、q軸(Q)及び零相(Z)成分を生成し、D及びQ成分を示すオーバーラップDQフェーザ・プロットと、D及びQ成分の周波数領域表現とを生成する。モータ駆動アナライザ104は、ユーザ・インタフェース112上に、オーバーラップDQフェーザ・プロットとD及びQ成分の周波数領域表現から生成されたオーバーラップDQスペクトル・プロットとを表示することにより、ユーザは、オーバーラップDQフェーザ及びDQスペクトル・プロットの視覚的特徴によりモータの欠陥を検出できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験測定装置であって、
三相モータに印可される第1、第2及び第3相駆動信号を取得するように構成された1つ以上のプロセッサと、
モータ駆動アナライザと
を具え、
該モータ駆動アナライザが、
取得した上記第1、第2及び第3相駆動信号にDQ0(DQZ)変換を実行して、d軸(D)、q軸(Q)及び零相(Z)成分を生成する処理と、
上記D及びQ成分を示すオーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する処理と、
上記D及びQ成分の周波数領域表現を生成する処理と、
生成された上記オーバーラップDQフェーザ・プロットと上記D及びQ成分の周波数領域表現から生成されたオーバーラップDQスペクトル・プロットをユーザ・インタフェース上に表示することによって、ユーザが、上記オーバーラップDQフェーザ・プロットの視覚的特徴と上記オーバーラップDQスペクトル・プロットに視覚的に表示された周波数成分とによって、上記三相モータの欠陥を検出できるようにする処理と
を行うように構成される試験測定装置。
【請求項2】
上記モータ駆動アナライザが、上記D及びQ成分を示す上記オーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する前に、上記モータ駆動アナライザは、
上記D及びQ成分夫々のオフセットを計算する処理と、
計算された上記オフセットを上記D及びQ成分から除去して、上記オーバーラップDQフェーザ・プロットの生成に使用されるオフセット調整済みD及びQ成分を生成する処理と
を行うように更に構成される請求項1の試験測定装置。
【請求項3】
上記モータ駆動アナライザは、上記オフセット調整済みD及びQ成分をフィルタ処理してフィルタ処理オフセット調整済みD及びQ成分を生成し、該フィルタ処理オフセット調整済みD及びQ成分を使用して上記オーバーラップDQフェーザ・プロットを生成するように更に構成される請求項2の試験測定装置。
【請求項4】
上記モータ駆動アナライザは、フィルタ処理オフセット調整済みZ成分を生成し、該フィルタ処理オフセット調整済みZ成分を使用して、上記フィルタ処理オフセット調整済みD、Q及びZ成分の3次元オーバーラップDQZフェーザ・プロットを生成するように更に構成される請求項3の試験測定装置。
【請求項5】
実施例1の試験測定システムであって、上記モータ駆動アナライザは、ユーザの入力に応じて、生成された上記D及びQ成分の上記周波数領域表現における関心のある周波数を特定するように更に構成される請求項1の試験測定装置。
【請求項6】
上記三相モータは、回転子及び固定子を含み、上記ユーザは、表示された上記オーバーラップDQフェーザ・プロットと、上記D及びQ成分の周波数領域表現とにより、上記回転子の機械的亀裂を含む回転子の欠陥及び上記固定子のコイルの短絡巻線を含む固定子の欠陥を検出できる請求項1の試験測定装置。
【請求項7】
三相モータの欠陥を検出する方法であって、
上記三相モータに印加された第1、第2及び第3相駆動信号を取得する処理と、
取得した上記第1、第2及び第3相駆動信号にDQ0(DQZ)変換を実行して、d軸(D)、q軸(Q)及び零相(Z)成分を生成する処理と、
上記D及びQ成分を示すオーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する処理と、
上記D及びQ成分の周波数領域表現を生成する処理と、
生成された上記オーバーラップDQフェーザ・プロットと上記D及びQ成分の周波数領域表現に基づくオーバーラップDQスペクトル・プロットとをユーザが見るように表示することにより、上記ユーザが、上記オーバーラップDQフェーザ・プロットの視覚的特徴と上記オーバーラップDQスペクトル・プロットに視覚的に表示された周波数成分とによって、上記三相モータの欠陥を検出できるようにする処理と
を具える三相モータの欠陥検出方法。
【請求項8】
上記D及びQ成分を示す上記オーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する処理は、
上記D及びQ成分夫々のオフセットを計算する処理と、
計算された上記オフセットを上記D及びQ成分から除去して、上記オーバーラップDQフェーザ・プロットの生成に使用されるオフセット調整済みD及びQ成分を生成する処理と
を更に含む請求項7の三相モータの欠陥検出方法。
【請求項9】
上記オフセット調整済みD及びQ成分をフィルタ処理して、フィルタ処理オフセット調整済みD及びQ成分を生成する処理と、
上記フィルタ処理オフセット調整済みD及びQ成分を使用して上記オーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する処理と
を更に具える請求項8の三相モータの欠陥検出方法。
【請求項10】
試験測定システムであって、
三相モータと、
該三相モータに第1、第2及び第3相駆動信号を供給する三相電源と、
上記第1、第2及び第3相駆動信号を取得するように構成される1つ以上のプロセッサ及びモータ駆動アナライザを有する試験測定装置と
を具え、
上記モータ駆動アナライザが、
上記三相モータの欠陥の検出を可能にするために、取得した上記第1、第2及び第3相駆動信号にDQ0(DQZ)変換を実行して、d軸(D)、q軸(Q)及び零相(Z)成分を生成する処理と、
上記D及びQ成分を示すオーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する処理と、
上記D及びQ成分の周波数領域表現を生成する処理と、
生成された上記オーバーラップDQフェーザ・プロットと上記D及びQ成分の周波数領域表現に基づくオーバーラップDQスペクトル・プロットとを表示することによって、ユーザが、上記オーバーラップDQフェーザ・プロットの視覚的特徴と上記オーバーラップDQスペクトル・プロットに視覚的に表示された周波数成分とによって、上記三相モータの欠陥を検出できるようにする処理と
を行うように構成される試験測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して誘導モータに関し、より具体的には、誘導モータの欠陥を検出するための試験測定装置上でのモータ駆動信号の捕捉、処理並びに時間領域及び周波数領域での表示に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導モータは様々な用途で使用されており、三相誘導モータは、特に産業用途で普及している。誘導モータは、固定子のコアの周りに巻かれた絶縁ワイヤによって通常形成される多数のコイルを有する固定子(stator)を含む。これらコイルは、印加される時間変動電気信号又はAC(交流)電気信号に応答して、回転磁界を生成する電磁極を提供するように構成されている。これら極は、共同して、固定子の中心軸を中心に回転する回転磁場を生成する。固定子によって生成される回転磁界に応答して、回転子(rotor)に電流が誘導される。回転子は、中心軸を中心に回転可能であって、回転子の誘導電流により回転子にトルクが生じ、回転が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2022/0413051号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「電流兆候解析に基づくDCモーターのオンライン故障検知(Motor Current Signature Analysis Based On-Line Fault Detection of DC Motor)」、大窄直樹、神原弘之、 石浦菜岐佐、一般社団法人 電子情報通信学会、信学技報、2020年3月、[online]、[2024年4月11日検索]、インターネット<https://cs.kwansei.ac.jp/~ishiura/publications/T2020-03a.pdf>
【非特許文献2】「直軸(d軸), 横軸(q軸)」、モータ用語集、ニデック株式会社、[online]、[2024年4月11日検索]、インターネット<https://www.nidec.com/jp/technology/motor/glossary/item/direct_axis/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
誘導モータでは、固定子巻線の不規則性、回転子の不均衡、電気結合、負荷、効率、回転子軸受の不規則性など、製造中又は運転中に様々な種類の欠陥又瑕疵が発生する可能性がある。例えば、固定子の各コイルを形成する絶縁ワイヤの巻線は、絶縁が損傷すると電気的に短絡する可能性があり、モータの動作に悪影響を及ぼす。現在、誘導モータの製造を中断することなく、誘導モータの動作特性の欠陥を検出するために最も一般的に使用されている技術は、モータ電流徴候解析(MCSA:Motor Current Signature Analysis)として知られる手法である。MCSAは、誘導モータに印加される駆動信号の電流を検知し、検知された電流によってモータの欠陥を検出できる。
【0006】
MCSAは、誘導モータの欠陥検出には効果的であるが、通常、実装が比較的複雑な高度なアルゴリズムを利用する。従って、誘導モータの欠陥を検出するための改良された技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示技術の実施形態は、誘導モータを試験するための試験測定装置において、モータ駆動アナライザを使用して誘導モータの欠陥を検出する方法と、本開示の実施形態によるこれらの方法を実施するためのシステムに関する。モータ駆動アナライザは、試験測定装置上で、時間領域と周波数領域のモータ駆動信号を捕捉、処理、表示して、ユーザが試験対象の誘導モータの欠陥を検出できるようにする。本開示技術の実施形態による方法及びシステムは、誘導モータの動作の特性を表す駆動信号の可視化を可能にし、これにより、欠陥の早期検出を可能にし、ユーザは、モータの継続的な動作から生じる可能性のあるモータへの更なる損傷を防止するための適切な行動をとることができる。例えば、誘導モータの固定子のコイルに電気的に短絡したコイルの巻線が含まれている場合、これらの短絡したコイルの巻線を早期に検出することで、誘導モータの継続的な動作で起こりえる固定子の隣接するコイルの損傷を回避し、修理コストとモータの停止又は修理時間を短縮することができる。本開示技術の実施形態によって提供される可視化により、ユーザは、表示された駆動信号の視覚的特徴を通して、例えば、表示された信号の特定の形状及び周波数領域信号における特定の周波数成分の存在を通して、欠陥のある誘導モータを特定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示のいくつかの実施形態による、誘導モータの欠陥を試験及び検出するのに使用するモータ駆動アナライザを含む試験測定装置を有する試験測定システムを示す。
【
図2】
図2は、
図1の試験測定装置のユーザ・インタフェースによってレンダリングされる表示の例であって、これは、本開示技術のいくつかの実施形態によるモータの欠陥の検出を可能にするために視覚的に提示される誘導モータの種々の動作パラメータを示す。
【
図3】
図3は、欠陥のない誘導モータの固定子について、試験測定装置に表示された三相固定子駆動信号を示す信号図である。
【
図4】
図4は、欠陥又は瑕疵のある誘導モータの固定子について、試験測定装置に表示された三相固定子駆動信号を示す信号図である。
【
図5】
図5は、
図1のモータ駆動アナライザによって生成されたプロットであって、本開示技術のいくつかの実施形態による、欠陥又は瑕疵のある誘導モータのq軸成分に対するd軸成分を示す。
【
図6】
図6は、
図1のモータ駆動アナライザによって生成されたプロットであって、本開示技術のいくつかの実施形態による正常な誘導モータのq軸成分に対するd軸成分を示す。
【
図7】
図7は、
図1のモータ駆動アナライザによって生成されたプロットであって、本開示技術のいくつかの実施形態による欠陥又は瑕疵のある誘導モータのd軸成分及びq軸成分の周波数スペクトルを示す。
【
図8】
図8は、
図1のモータ駆動アナライザによって生成されたプロットであって、本開示技術のいくつかの実施形態による欠陥のある誘導モータと正常な誘導モータのq軸成分の周波数スペクトルを示す。
【
図9A】
図9Aは、
図1のモータ駆動アナライザによって提供されるグラフィカル・ユーザ・インタフェースの表示を示しており、これにより、ユーザは、
図5及び
図6のd軸及びq軸プロットと、
図7及び
図8の周波数スペクトル・プロットの生成を設定することができる。
【
図9B】
図9Bは、
図1のモータ駆動アナライザによって提供される別のグラフィカル・ユーザ・インタフェースの表示を示しており、これにより、ユーザは、
図5及び
図6のd軸及びq軸プロットと、
図7及び
図8の周波数スペクトル・プロットの生成を設定することができる。
【
図10】
図10は、
図1のモータ駆動アナライザによって生成されたフェーザ図プロットであって、本開示技術のいくつかの実施形態による、欠陥のある誘導モータのd軸成分、q軸成分及び零相成分を示す。
【
図11】
図11は、
図1のモータ駆動アナライザによって生成された3次元プロットであって、これは、本開示技術のいくつかの実施形態による誘導モータのd軸成分、q軸成分及び零相成分を示す3次元プロットである。
【
図12】
図12は、本開示技術のいくつかの実施形態による、
図1のモータ駆動アナライザによって生成された正常なモータ及び欠陥のあるモータのd軸(D)、q軸(Q)及び合成(R)成分フェーザ・プロットを重ねたものを示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本開示技術のいくつかの実施形態による、三相モータ106の欠陥を試験及び検出するのに使用するモータ駆動アナライザ104を含む試験測定装置102を有する試験測定システム100を示す。モータ(電動機)106は、試験測定システム100の実施形態におけるブラシレスDC(BLDC)モータに加えて、様々なタイプのACモータであっても良い。本開示技術の実施形態は、例として誘導モータである三相モータ106に関連して詳細に説明されるが、このタイプのモータにおける欠陥を検出することに限定されない。本開示技術の実施形態は、更に様々なタイプのAC及びBLDCモータにおける欠陥を検出しても良い。試験測定装置102は、1つ以上のメイン・プロセッサ108を有し、これは、メイン・メモリ110からの命令を実行するように構成されても良く、また、そのような命令によって示される任意の方法や関連ステップを実行しても良い。ユーザ・インタフェース112は、1つ以上のプロセッサ108に結合され、ユーザが試験測定装置102をインタラクティブに操作するために利用可能な、例えば、キーボード、マウス、タッチスクリーン、出力ディスプレイ、ファイル・ストレージやその他の任意の操作装置を含んでもよい。いくつかの実施形態では、ユーザ・インタフェース112は、リモート・インタフェース(図示せず)に接続されるか、又は、リモート・インタフェースによって制御されるので、ユーザは、試験測定装置から物理的に離れた遠隔な場所において試験測定装置102の動作を制御することができる。ユーザ・インタフェース112の表示部分は、波形、測定値及び他のデータをユーザに表示するためのLCDなどのデジタル・スクリーン又はその他の任意のモニタであっても良い。いくつかの実施形態では、ユーザ・インタフェース112のメイン出力ディスプレイは、試験測定装置102から離れた場所にも配置することができる。
【0010】
1つ以上の測定ユニット114は、試験測定装置102によって測定対象のデバイス106からの信号のパラメータ及び他の特性を測定する主要な機能を実行する。典型的な測定としては、入力信号の時間領域での電圧、電流及び電力の測定に加えて、この入力信号の周波数領域での特性の測定がある。測定ユニット114は、通常、試験測定装置上で行われる任意の測定を代表しており、モータ駆動アナライザ104は、そのような測定ユニット114内に統合されるか又はそのような測定ユニット114に結合されても良い。
【0011】
三相電源116は、典型的にはAC主電源であって、誘導モータ106を駆動(ドライブ)するために、位相駆動電圧信号Va、Vb、Vc及び位相駆動電流信号Ia、Ib、Icの形で位相駆動信号を供給する。試験測定装置102は、誘導モータ106に印可される位相駆動信号Va、Vb、Vc及びIa、Ib、Icを取得するのに適したケーブル118及びプローブ120を介して結合される。この位相駆動信号への結合は、
図1では、破線122で表されている。
【0012】
動作中、試験測定装置102は、位相駆動信号Va、Vb、Vc及びIa、Ib、Icを捕捉又は取得し、これらの駆動信号に対してDQZ変換を実行して、対応するd軸D、q軸Q及び零相Z成分を生成する。D、Q、Zの各成分は、時間領域信号である。当業者であれば、理解できるように、DQZ変換は、三相時間変動駆動信号Va、Vb、Vc及びIa、Ib、IcをDQZ成分の形で時間不変DC成分に変換するベクトル変換であって、パーク変換とクラーク変換の組み合わせによって形成される。DQZ変換は、本開示技術の実施形態の例で試験されている三相モータ106のような回転機械の解析を容易にする。なお、本説明及び付随する図では、DQZ変換は、DQ0変換とも呼ばれることがある。一旦、モータ駆動アナライザ104が、ABC基準座標系の位相駆動信号(Va、Vb、Vc及びIa、Ib、Ic)に対応するD、Q及びZ成分を生成するためにDQZ変換を適用したら、次いで、以下で詳しく説明するように、モータ駆動アナライザは、D、Q及びZ成分を処理し、この処理の結果を表示して、ユーザが誘導モータ106の欠陥を検出できるようにする。
【0013】
試験測定システム100のいくつかの実施形態では、三相モータ106は、BLDCモータである。これらの実施形態では、三相電源116は、第1、第2及び第3位相駆動信号のそれぞれに関して、第1、第2及び第3DCパルス駆動信号を供給する。第1、第2及び第3DCパルス駆動信号の夫々は、極性が交互に変化するDCパルスのシリーズで形成される。第1、第2及び第3DCパルス駆動信号を形成するDCパルスは、互いに位相がシフトされている、つまり、時間的にオフセットされている。当業者であれば、BLDCモータの動作と、BLDCモータ用の第1、第2及び第3相駆動信号を形成する適切なDCパルス駆動信号を理解できよう。
【0014】
図2は、
図1のモータ駆動アナライザ104のユーザ・インタフェース112によってレンダリングされた例示的な表示200であって、モータ駆動アナライザによるD、Q及びZ成分の処理を通じて生成される誘導モータ106の種々の動作パラメータを視覚的に示している。計算された又は生成された動作パラメータのこの視覚的な表示により、ユーザは、誘導モータ106の1つ以上の瑕疵又は欠陥を検出することができる。表示200は、左上にD成分の周波数領域表現(frequency domain representation:周波数領域表示、周波数領域で表したもの)202と、左下にQ成分の周波数領域表現204とを有している。モータ駆動アナライザ104によって計算されるD成分及びQ成分の夫々は、時間領域信号であって、モータ駆動アナライザは、これら時間領域信号を処理して、D及びQ成分の周波数領域表現202及び204を生成する。周波数領域表現202及び204を生成するために、モータ駆動アナライザ104は、例えば、時間領域のD成分及びQ成分の離散フーリエ変換(DFT)又は高速フーリエ変換(FFT)を計算する。D及びQ周波数領域表現202、204の特定の周波数において、十分な大きさを有するスペクトル成分は、モータ106の欠陥を示している可能性がある。これについては、
図7~
図9を参照して、以下で更に詳細に説明する。これらの周波数領域表現202、204は、
図7及び
図8を参照して、図示及び以下で更に詳細に説明されるように、同じプロットの形式で重ねて表示される場合、オーバーラップDQスペクトル・プロットとも呼ばれる。
【0015】
表示200は、更に、Q成分に対するD成分のプロットであるDQプロット206を含む。DQプロット206は、以下で説明する追加のDQプロットと同様に、本説明ではオーバーラップDQフェーザ・プロットと呼ばれこともある。DQプロットは、Q成分に対するD成分の変動を示しており、D成分及びQ成分の変化の比率は、モータ106の欠陥を示している。DQプロット206は、誘導モータ106に欠陥がある場合には、ある特定の共通の形状を有し、モータに欠陥がない場合には、別の共通の形状を有することになる。その結果、DQプロット206を表示200に視覚的に表示することにより、ユーザは、このような欠陥を視覚的に検出することができる。DQプロット206を生成する際に、モータ駆動アナライザ104は、D成分のオフセットDoffとQ成分のオフセットQoffを計算する。次いで、モータ駆動アナライザ104は、DQプロット206を生成する前に、計算されたオフセットDoff、QoffをこれらD及びQ成分から除去することにより、D及びQ成分を調整し、オフセット調整されたD及びQ成分を生成する。更に、モータ駆動アナライザ104は、DQプロット206を生成する前に、オフセット調整されたD成分及びQ成分をフィルタ処理して、不要なノイズを除去する。更なる実施形態の例では、モータ駆動アナライザ104が、プロット206に関する3次元DQZプロットを生成するが、このとき、D、Q及びZ成分のそれぞれが、上述のようにオフセット調整され、フィルタ処理される。DQプロット206については、オフセットDoff及びQoffの計算とD及びQ成分の調整、並びにD及びQ成分のフィルタ処理とともに、
図5及び
図6を参照して以下で更に詳細に説明する。
【0016】
図2の実施形態の例の表示200には、フェーザ
図208が含まれている。フェーザ
図208は、D、Q、Z成分と共にVa、Vb、Vc駆動信号のベクトルと、D、Q及びZ成分の合成ベクトルRを示しており、これは、
図10を参照して以下で更に詳細に説明される。DQプロット206と同様に、フェーザ
図208は、誘導モータ106が欠陥を有するかどうかを示す形状又は視覚的特徴を有しており、これについても、
図10を参照して以下で更に詳細に説明する。最後に、表示200は、
図2の例における時間領域信号210を含む。これらの時間領域信号210は、捕捉又は取得された位相駆動信号Va、Vb、Vc及びIa、Ib、Icに加えて、対応するD、Q及びZ成分を含む。表示200におけるプロット及び信号202~210の配置は、モータ駆動アナライザ104によって生成された表示用構成要素の配置の一例であって、この表示は、これらの構成要素の全てよりも少ないか又は更なる実施形態で追加の構成要素を含む代替の配置があってもよい。
【0017】
図3は、欠陥のない誘導モータの固定子について、試験測定装置に示された電流駆動信号Ia、Ib、Icの形式の三相固定子駆動信号を示す信号図である。電流駆動信号Ia、Ib、Icは、これら信号間で、ほぼ同じ振幅と位相シフト(120度)を持つ正弦波信号であることがわかる。これに対して、
図4は、瑕疵又は欠陥のある誘導モータの固定子駆動信号を示している。
図4は、電圧駆動信号Va、Vb、Vcを示しており、これらは、理想的には、
図1の電流駆動信号Ia、Ib、Icと同じ位相シフトを有する正弦波信号となる。しかしながら、これら駆動信号Va、Vb、Vcの振幅は、さまざまであり、これは、これらの信号によって駆動される誘導モータの欠陥を示している。
図3及び
図4は、誘導モータの駆動信号が、そのモータが正常なモータ(即ち、欠陥のないモータ)であるか又は瑕疵若しくは欠陥のあるモータであるかによって、どのように変化するか、また、モータ駆動アナライザ104(
図1)が、モータの駆動信号を視覚的に表示することにより、そのような欠陥の検出をどのように可能にするかを示す。
【0018】
図5は、本開示技術のいくつかの実施形態による、欠陥又は瑕疵のある誘導モータについて、
図1のモータ駆動アナライザ104によって生成されたDQプロット500である。DQプロット500は、本説明では、オーバーラップDQフェーザ・プロットと呼ぶこともある。DQプロット500は、垂直軸にd軸成分Dを、水平軸にq軸成分Qを示している。DQプロット500は、
図2の表示200におけるDQプロット206の一例である。DQプロット500は、モータが固定子の1つ以上のコイルに電気的短絡巻線などの欠陥又は瑕疵を有する場合の
図1のモータ106のQ成分に対するD成分を示している。
図6のDQプロット600は、誘導モータ106が、固定子にそのような瑕疵又は欠陥がない、正常な誘導モータである場合に、モータ駆動アナライザ104によって生成されたものであるが、
図5のDQプロット500は、
図6のDQプロット600とは対照的である。DQプロット600は、本説明では、オーバーラップDQフェーザ・プロットと呼ぶこともある。DQプロット600は、DQプロット500と比較して、より円形の形状を有することが観察され、ユーザは、モータ駆動アナライザ104によって生成されたDQプロット500、600の形状又は視覚的特徴によって、モータ106が欠陥品であるか又は正常であるかを特定することができる。本開示のいくつかの実施形態では、ユーザは、ユーザ・インタフェース112(
図1)を利用して、マスク座標を含むマスクを定義し、マスク定義に基づいて、モータ(回転子巻線)が欠陥状態にあるか又は正常な状態にあるかを分析しても良い。ユーザは、D及びQ成分のFFTを見て、最悪の場合のマスク座標を定義し、これを負荷動的及び定常状態(つまり、より長い)操作の両方に使用しても良い。
【0019】
図5及び
図6に加えて、以下の
図7~11において、モータ駆動アナライザ104は、これらの図のそれぞれに例示される特定のプロット又は表示を生成、レンダリング又は表示するものとして説明されている。これらの種々の表示又はプロットを表示するために、モータ駆動アナライザ104は、典型的には、モータ駆動アナライザが実行又は実装される試験測定装置102のユーザ・インタフェース112(
図1)を使用する。モータ駆動アナライザのプロット及び表示は、試験測定装置102の別個のユーザ・インタフェース112を通じて提供されるが、説明を簡単にするため、モータ駆動アナライザ104が、これらのプロット及び表示を提供するものとして、この説明では記述している。モータ駆動アナライザ104が、本開示技術の実施形態におけるこれらプロット及び表示を表示するユーザ・インタフェースを含んでも良い。
【0020】
DQプロット500、600は、モータ駆動アナライザ104によって生成されたオフセット調整され、フィルタ処理されたD及びQ成分を示す。このオフセット調整及びフィルタ処理は、
図2のDQプロット206に関連して上述している。動作中、モータ駆動アナライザ104は、モータ106のD及びQ成分を計算するが、次いで、これらの計算されたD及びQ成分に対応するDQプロットを生成する前に、モータ駆動アナライザは、まず、計算されたオフセットDoff及びQoffを計算されたD及びQ成分から除去して、オフセット調整済みD及びQ成分を生成することにより、モータ106の計算されたD及びQ成分を調整する。更に、計算されたD及びQ成分のDQプロットを生成する前に、モータ駆動アナライザ104は、次に、オフセット調整済みD及びQ成分をフィルタ処理して、不要なノイズを除去する。
図5及び
図6のDQプロット500、600は、モータ駆動アナライザ104によって計算又は生成されたモータ106のオフセット調整とフィルタ処理されたD及びQ成分のそれぞれのDQプロットを示す。
【0021】
D及びQ成分のオフセットDoff、Qoffを決定し、これらD及びQ成分のオフセット調整を行い、次いでオフセット調整された成分をフィルタ処理する際のモータ駆動アナライザ104の動作について、ここで更に詳細に説明する。モータ駆動アナライザ104は、D成分のオフセット調整を計算するために、以下の式を利用する。
DoffsetAdj=Dwfm-mean(Dwfm) 数式1
ここで、Dwfmは、モータ駆動アナライザ104によって計算された初期D成分に対応し、mean(Dwfm)は、初期D成分を形成する複数のデジタル値の平均であって、DoffsetAdjは、オフセット調整済みD成分である。数式1のmean(Dwfm)は、上記のオフセットDoffに対応する。数式1により、モータ駆動アナライザ104は、オフセット調整されたD成分、DoffsetAdjを生成する。D成分のオフセット、mean(Dwfm)は、対応するDQプロットを生成する前に補正する必要があり、そうしないと、複数の不要な円がプロットに生じる可能性がある。
【0022】
モータ駆動アナライザ104は、上述したような同じ補正を行って、モータ駆動アナライザ104によって実行されるDQZ変換から最初に計算されたQ成分及びZ成分を調整する。このため、モータ駆動アナライザ104は、オフセット調整済みD成分に加えて、数式1と同様の数式を使用して、オフセット調整済みQ成分QoffsetAdj及びオフセット調整済みZ成分ZoffsetAdjを計算する。上述したように、2次元DQプロットが
図5及び
図6に示されているが、モータ駆動アナライザ104は、本開示技術のいくつかの実施形態では、3次元DQZプロットを生成し、これらの実施形態では、D、Q及びZ成分のそれぞれは、数式1を使用して調整する必要がある。
【0023】
オフセット調整を行うことに加えて、モータ駆動アナライザ104は、対応するDQ又はDQZプロットを生成する前に、オフセット調整済みD、Q及びZ成分をフィルタ処理する。モータ駆動アナライザ104が、数式1によってD成分のオフセットを除去した後、オフセット調整済みD成分は、以下の数式を実行することによって、フィルタ処理される。
Dofiltered=MAV(DoffsetAdj) 数式2
ここで、Dofilteredは、フィルタ処理オフセット調整済みD成分、MAV(DoffsetAdj)は、数式1のオフセット調整済みD成分の移動平均(moving average)である。このフィルタ処理により、ユーザは、数式2の移動平均によって実行されるデジタル・フィルタを適用して、D成分の不要なノイズを除去できる。Q成分とZ成分についても、同じフィルタ処理が行われる。モータ駆動アナライザ104の異なる実施形態では、低次無限インパルス応答(low order infinite impulse response:low order IIR)フィルタのような異なるタイプのデジタル・フィルタが利用されても良い。
【0024】
図7は、
図1のモータ駆動アナライザ104によって生成された周波数領域プロット700であって、本開示技術のいくつかの実施形態による、欠陥又は瑕疵のある誘導モータのd軸D成分及びq軸Q成分の周波数スペクトルを示す。周波数領域プロット700は、Q成分の周波数F1において、大きな周波数成分を示している。プロット700において、D成分及びQ成分のスペクトルを重ね合わせる(オーバーラップする)ことにより、ユーザは、試験対象のモータ106における欠陥を視覚的に検出することが可能になる。本開示技術の別の実施形態では、
図8に示すオーバーラップ・スペクトルのような別のオーバーラップ・スペクトルが、モータ駆動アナライザ104によって表示されても良いが、これについては、以下で更に詳細に説明する。特定の周波数F1におけるD又はQ成分の周波数スペクトルの大きな成分又は「スパイク」が、試験対象の誘導モータ106(
図1)の特定のタイプの欠陥を示すことがある。例えば、電気的に短絡した固定子の巻線を有する誘導モータの場合、1kHzから10kHzまでの周波数レンジのD成分又はQ成分の周波数スペクトルにスパイクが現れることがあり、また、特に10Hz以下では、約0.3mVの振幅で明瞭に現れる。D及びQ周波数スペクトルのこれらのタイプの高調波は全て、回転子と固定子のスロット構造の磁束によるものである。
【0025】
図8は、
図1のモータ駆動アナライザ104によって生成された周波数領域プロット800であって、本開示技術のいくつかの実施形態による、欠陥のある誘導モータ及び正常な誘導モータのQ成分の周波数スペクトルを示す。プロット800では、正常なモータのQ成分の周波数スペクトルは、Qで示され、欠陥のあるモータのQ成分は、Qdで示される。周波数スペクトルQdのスパイク802及び804は、被試験モータ106の欠陥を示している。対照的に、周波数スペクトルQには、そのようなスパイクは存在せず、このQ成分が生成されたモータが正常なモータであることを示している。QスペクトルとQdスペクトルのオーバーラップ・スペクトルにより、ユーザは、プロット800を通じて、欠陥を視覚的に検出することが可能になる。Qスペクトルは、既知の良好なモータ106のタイプ又はモデルの一種のテンプレートとして使用することができよう。
【0026】
モータ駆動アナライザ104は、D、Q及びZ成分の周波数領域プロットを様々な方法で生成しても良い。一例の実施形態では、モータ駆動アナライザ104は、以下の数式により、これらの成分の周波数スペクトルを生成する。
fDspectra=FFT(D(t)) 数式3
fQspectra=FFT(Q(t)) 数式4
fZspectra=FFT(Z(t)) 数式5
ここで、信号D(t)、Q(t)及びZ(t)は、ABC基準座標の駆動信号Va、Vb、Vc(Ia、Ib、Ic)から計算された時間領域D、Q及びZ成分に対応し、FFTは、これらの時間領域信号の高速フーリエ変換である。モータ駆動アナライザ104は、代替の実施形態において、DFTを利用しても良い。
【0027】
誘導モータの最も一般的な固定子の欠陥は、固定子のコイルを形成するコイルの巻線に関連し、特に各コイルの端部又はスロット部分の巻線間の電気的短絡に関連している。このような瑕疵又は欠陥は、モータ駆動アナライザ104によって生成された周波数領域プロットの特定の周波数レンジ内又は特定の周波数において現れる。これらの周波数領域プロットを使用すると、欠陥が存在する場合に、特定の周波数成分を生成するモータの欠陥の検出が改善する。
【0028】
このような固定子の欠陥を検出するための従来のアプローチでは、このような欠陥を示す周波数成分が駆動信号に存在するかどうかを特定する必要がある。関心のある(対象の)周波数成分は、数式f=f1(nZr(1-s))/p+/-kで与えられ、このとき、fは、ヘルツ(Hz)単位の半径方向の力の高調波周波数(radial force harmonic frequency)、f1は、固定子に印可される三相電流駆動信号Ia、Ib、Icの周波数、nは、整数(n=1,2,3…)、Zrは、回転子のスロット数、「s」は、モータのスリップ、「p」は、モータの極数、kは、奇数(k=1,3,5 …(2p-1))である。この従来のアプローチの欠点は、処理される信号の過渡的な性質のために、上記の数式の利用は、k=1ではうまく機能するが、kの他の値(つまり、周波数fの他の高調波)ではうまく機能しないことである。上記の数式において、スロットZr、スリップs及び極pは、誘導モータに関連する標準パラメータであって、当業者であれば理解できよう。簡単に言うと、スロットZrは、固定子のコイルが巻かれている固定子の突起間の固定子の領域であり、スリップsは、回転子の回転速度と固定子の回転磁場の速度との差に関連するパラメータであり、極pは、誘導モータの各駆動信号又は位相に関する固定子の磁極の数である。
【0029】
図9A及び
図9Bは、
図1のモータ駆動アナライザによって提供されるグラフィカル・ユーザ・インタフェースの表示900及び902を示し、これらにより、ユーザは、
図5及び6のDQプロットと、
図7及び8の周波数スペクトル・プロットの生成を設定できる。表示900では、ユーザは、モータ駆動アナライザ104による生成に関して、フェーザ図プロット、周波数スペクトル・プロット又はDQプロットを選択するオプションが提供される。D、Q及びZ成分のフェーザ図プロットは、
図10を参照して以下で更に詳細に説明される。表示902により、ユーザは、周波数スペクトル・プロットに関して、特定の周波数又は関心のある周波数帯域を選択できる。この特定の周波数又は関心のある周波数帯域の選択により、モータ駆動アナライザ104が実装される試験測定装置102は、周波数領域プロットのより良いスケールを提供し、D、Q及びZ成分の周波数解析を改善できる。
【0030】
図10は、本開示技術のいくつかの実施形態によるモータ駆動アナライザ104によって生成された2次元の極プロット又はフェーザ図プロット1000であり、欠陥のある誘導モータのD、Q及びZ成分を示している。フェーザ図プロット1000の三角形の形状は、試験対象のモータ106(
図1)の不良を示している。正常なモータ106の場合、フェーザ図プロット1000は、
図10の三角形の形状ではなく、より円形の形状を有することになる。こうしたことから、フェーザ図プロット1000は、被試験モータ106が欠陥のあるモータであるか又は正常なモータであるかを、ユーザが検出できるようにするために、モータ駆動アナライザ104が提供する、もう1つ別のプロットである。
【0031】
図11は、本開示技術のいくつかの実施形態によるDQZプロット1100の一例であり、これは、
図1のモータ駆動アナライザ104によって生成されても良い。DQZプロットは上述したが、
図5及び
図6では、2次元のDQプロット500及び600のみが示された。
図11は、本開示技術のいくつかの実施形態において、モータ駆動アナライザ104によって生成されても良い3次元DQZプロット1100の一例を提供するに過ぎない。DQZプロット1100は、場合によっては、被試験モータ106における欠陥のユーザによる検出を改善又は簡素化することがあろう。
【0032】
図12は、正常モータ及び欠陥のあるモータのd軸(D)、q軸(Q)及び合成(R)成分のフェーザ・プロットを重ね合わせた(オーバーラップした)ものを示すプロット1200であり、本開示技術のいくつかの実施形態による
図1のモータ駆動アナライザ104によって生成される。合成成分Rは、D成分とQ成分を使用して導出された合成ベクトルである。プロット1200に加えて、
図10のプロット1000及び
図5を参照して上述したマスクの態様は、2022年6月24日に出願された米国特許出願公開第2022/0413051号「回転子のポジションを用いて、d軸、q軸、零相、合成ドライブ・ベクトルを算出するシステム及び方法」に記載されており、その内容は、参照により本開示に援用される。
【0033】
本開示技術の態様は、特別に作成されたハードウェア、ファームウェア、デジタル・シグナル・プロセッサ又はプログラムされた命令に従って動作するプロセッサを含む特別にプログラムされた汎用コンピュータ上で動作できる。本願における「コントローラ」又は「プロセッサ」という用語は、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、ASIC及び専用ハードウェア・コントローラ等を意図する。本開示技術の態様は、1つ又は複数のコンピュータ(モニタリング・モジュールを含む)その他のデバイスによって実行される、1つ又は複数のプログラム・モジュールなどのコンピュータ利用可能なデータ及びコンピュータ実行可能な命令で実現できる。概して、プログラム・モジュールとしては、ルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造などを含み、これらは、コンピュータその他のデバイス内のプロセッサによって実行されると、特定のタスクを実行するか、又は、特定の抽象データ形式を実現する。コンピュータ実行可能命令は、ハードディスク、光ディスク、リムーバブル記憶媒体、ソリッド・ステート・メモリ、RAMなどのコンピュータ可読記憶媒体に記憶しても良い。当業者には理解されるように、プログラム・モジュールの機能は、様々な実施例において必要に応じて組み合わせられるか又は分散されても良い。更に、こうした機能は、集積回路、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)などのようなファームウェア又はハードウェア同等物において全体又は一部を具体化できる。特定のデータ構造を使用して、本開示技術の1つ以上の態様をより効果的に実施することができ、そのようなデータ構造は、本願に記載されたコンピュータ実行可能命令及びコンピュータ使用可能データの範囲内と考えられる。
【0034】
開示された態様は、場合によっては、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア又はこれらの任意の組み合わせで実現されても良い。開示された態様は、1つ以上のプロセッサによって読み取られ、実行され得る1つ又は複数のコンピュータ可読媒体によって運搬されるか又は記憶される命令として実現されても良い。そのような命令は、コンピュータ・プログラム・プロダクトと呼ぶことができる。本願で説明するコンピュータ可読媒体は、コンピューティング装置によってアクセス可能な任意の媒体を意味する。限定するものではないが、一例としては、コンピュータ可読媒体は、コンピュータ記憶媒体及び通信媒体を含んでいても良い。
【0035】
コンピュータ記憶媒体とは、コンピュータ読み取り可能な情報を記憶するために使用することができる任意の媒体を意味する。限定するものではないが、例としては、コンピュータ記憶媒体としては、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、電気消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EEPROM)、フラッシュメモリやその他のメモリ技術、コンパクト・ディスク読み出し専用メモリ(CD-ROM)、DVD(Digital Video Disc)やその他の光ディスク記憶装置、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶装置やその他の磁気記憶装置、及び任意の技術で実装された任意の他の揮発性又は不揮発性の取り外し可能又は取り外し不能の媒体を含んでいても良い。コンピュータ記憶媒体としては、信号そのもの及び信号伝送の一時的な形態は除外される。
【0036】
通信媒体とは、コンピュータ可読情報の通信に利用できる任意の媒体を意味する。限定するものではないが、例としては、通信媒体には、電気、光、無線周波数(RF)、赤外線、音又はその他の形式の信号の通信に適した同軸ケーブル、光ファイバ・ケーブル、空気又は任意の他の媒体を含んでも良い。
実施例
【0037】
以下では、本願で開示される技術の理解に有益な実施例が提示される。この技術の実施形態は、以下で記述する実施例の1つ以上及び任意の組み合わせを含んでいても良い。
【0038】
実施例1は、試験測定装置であって、三相モータに印可される第1、第2及び第3相駆動信号を取得するように構成された1つ以上のプロセッサと、モータ駆動アナライザとを具え、該モータ駆動アナライザが、取得した上記第1、第2及び第3相駆動信号にDQ0(DQZ)変換を実行して、d軸(D)、q軸(Q)及び零相(Z)成分を生成する処理と、上記D及びQ成分を示すオーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する処理と、上記D及びQ成分の周波数領域表現(frequency domain representations:周波数領域表示、周波数領域で表したもの)を生成する処理と、生成された上記オーバーラップDQフェーザ・プロットと上記D及びQ成分の周波数領域表現から生成されたオーバーラップDQスペクトル・プロットとをユーザ・インタフェース上に表示することによって、ユーザが、上記オーバーラップDQフェーザ・プロットの視覚的特徴と上記オーバーラップDQスペクトル・プロットに視覚的に表示された周波数成分とによって、誘導モータの欠陥を検出できるようにする処理とを行うように構成される。
【0039】
実施例2は、実施例1の試験測定システムであって、上記モータ駆動アナライザが上記D及びQ成分を示す上記オーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する前に、上記モータ駆動アナライザは、上記D及びQ成分夫々のオフセットを計算する処理と、計算されたオフセットを上記D及びQ成分から除去して、上記オーバーラップDQフェーザ・プロットの生成に使用されるオフセット調整済みD及びQ成分を生成する処理とを行うように更に構成される。
【0040】
実施例3は、実施例2の試験測定システムであって、上記モータ駆動アナライザは、上記オフセット調整済みD及びQ成分をフィルタ処理してフィルタ処理オフセット調整済みD及びQ成分を生成し、該フィルタ処理オフセット調整済みD及びQ成分を使用して上記オーバーラップDQフェーザ・プロットを生成するように更に構成される。
【0041】
実施例4は、実施例3の試験測定システムであって、上記モータ駆動アナライザは、フィルタ処理オフセット調整済みZ成分を生成し、該フィルタ処理オフセット調整済みZ成分を使用して、上記フィルタ処理オフセット調整済みD、Q及びZ成分の3次元オーバーラップDQZフェーザ・プロットを生成するように更に構成される。
【0042】
実施例5は、実施例1の試験測定システムであって、上記三相モータは、ACモータとブラシレスDC(BLDC)モータのいずれかから構成される。
【0043】
実施例6は、実施例5の試験測定システムであって、上記三相モータは、三相誘導モータから構成される。
【0044】
実施例7は、実施例1の試験測定システムであって、上記モータ駆動アナライザは、ユーザの入力に応じて、生成された上記D及びQ成分の上記周波数領域表現における関心のある周波数(frequencies of interest)を特定するように更に構成される。
【0045】
実施例8は、実施例1の試験測定システムであって、試験測定装置は、オシロスコープである。
【0046】
実施例9は、実施例1の試験測定システムであって、上記モータ駆動アナライザは、上記D及びQ成分の高速フーリエ変換(FFT)又は離散フーリエ変換(DFT)のいずれかを実行することにより、上記D及びQ成分の周波数領域表現を生成する。
【0047】
実施例10は、実施例1の試験測定システムであって、上記第1、第2及び第3相駆動信号には、交流電圧駆動信号Va、Vb及びVcと、交流電流駆動信号Ia、Ib及びIcとが含まれる。
【0048】
実施例11は、実施例1の試験測定システムであって、上記三相モータは、回転子及び固定子を含み、上記ユーザは、表示されたDQプロットと、上記D及びQ成分の周波数領域表現とにより、上記回転子の機械的亀裂を含む回転子の欠陥及び上記固定子のコイルの短絡巻線を含む固定子の欠陥を検出できる。
【0049】
実施例12は、三相モータの欠陥を検出する方法であって、上記三相モータに印加された第1、第2及び第3相駆動信号を取得する処理と、取得した上記第1、第2及び第3相駆動信号に対してDQ0(DQZ)変換を実行して、d軸(D)、q軸(Q)及び零相(Z)成分を生成する処理と、上記D及びQ成分を示すオーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する処理と、上記D及びQ成分の周波数領域表現を生成する処理と、生成された上記オーバーラップDQフェーザ・プロットと上記D及びQ成分の周波数領域表現に基づくオーバーラップDQスペクトル・プロットとをユーザが見るように表示することにより、上記ユーザが、上記オーバーラップDQフェーザ・プロットの視覚的特徴と上記オーバーラップDQスペクトル・プロットに視覚的に表示された周波数成分とにより、上記誘導モータの欠陥を検出できるようにする処理とを具える。
【0050】
実施例13は、実施例12の方法であって、上記D及びQ成分を示す上記オーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する処理は、上記D及びQ成分夫々のオフセットを計算する処理と、計算された上記オフセットを上記D及びQ成分から除去して、上記オーバーラップDQフェーザ・プロットの生成に使用されるオフセット調整済みD及びQ成分を生成する処理とを更に含む。
【0051】
実施例14は、実施例13の方法であって、上記オフセット調整済みD及びQ成分をフィルタ処理して、フィルタ処理オフセット調整済みD及びQ成分を生成する処理と、上記フィルタ処理オフセット調整済みD及びQ成分を使用して上記オーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する処理とを更に具える。
【0052】
実施例15は、実施例14の方法であって、フィルタ処理オフセット調整済みZ成分を生成する処理と、上記フィルタ処理オフセット調整済みD、Q及びZ成分の3次元DQZプロットを生成する処理とを更に具える。
【0053】
実施例16は、試験測定システムであって、三相モータと、該三相モータに第1、第2及び第3相駆動信号を供給する三相電源と、上記第1、第2及び第3相駆動信号を取得するように構成される1つ以上のプロセッサ及びモータ駆動アナライザを有する試験測定装置とを具え、上記モータ駆動アナライザが、上記三相モータの欠陥の検出を可能にするために、取得した上記第1、第2及び第3相駆動信号にDQ0(DQZ)変換を実行して、d軸(D)、q軸(Q)及び零相(Z)成分を生成する処理と、上記D及びQ成分を示すオーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する処理と、上記D及びQ成分の周波数領域表現を生成する処理と、生成された上記オーバーラップDQフェーザ・プロットと上記D及びQ成分の周波数領域表現に基づくオーバーラップDQスペクトル・プロットとを表示することによって、ユーザが、上記オーバーラップDQフェーザ・プロットの視覚的特徴と上記オーバーラップDQスペクトル・プロットに視覚的に表示された周波数成分とによって、上記三相モータの欠陥を検出できるようにする処理とを行うように構成される。
【0054】
実施例17は、実施例16の試験測定システムであって、ここで、上記モータ駆動アナライザが上記D及びQ成分を示す上記オーバーラップDQフェーザ・プロットを生成する前に、上記モータ駆動アナライザは、上記D及びQ成分夫々のオフセットを計算する処理と、計算された上記オフセットを上記D及びQ成分から除去して、上記オーバーラップDQフェーザ・プロットの生成に使用されるオフセット調整済みD及びQ成分を生成する処理とを行うように更に構成される。
【0055】
実施例18は、実施例17の試験測定システムであって、上記モータ駆動アナライザは、上記オフセット調整済みD及びQ成分をフィルタ処理してフィルタ処理オフセット調整済みD及びQ成分を生成し、該フィルタ処理オフセット調整済みD及びQ成分を使用して上記オーバーラップDQフェーザ・プロットを生成するように更に構成される。
【0056】
実施例19は、実施例20の試験測定システムであって、上記試験測定装置は、オシロスコープである。
【0057】
実施例20は、実施例16の試験測定システムであって、上記第1、第2及び第3相駆動信号は、直流駆動信号である。
【0058】
本発明の上述の説明は、単に本発明を説明するために設定されたものであり、限定することを意図するものではない。本発明の要旨を組み込んで、開示された実施形態を改変することは、当業者であれば考えうるので、その発明は、本発明の範囲内の全てを含むと解釈されるべきである。
【0059】
開示された本件の上述のバージョンは、記述したか又は当業者には明らかであろう多くの効果を有する。それでも、開示された装置、システム又は方法のすべてのバージョンにおいて、これらの効果又は特徴のすべてが要求されるわけではない。
【0060】
加えて、本願の記述は、特定の特徴に言及している。特許請求の範囲、要約及び図面を含め、本明細書に開示される全ての特徴と、開示される全ての方法又は処理における全ての工程は、互いに少なくとも一部分が排他的でない限り、任意に組み合わせても良い。特許請求の範囲、要約及び図面を含め、本明細書に開示される特徴の夫々は、特に明記されていない限り、同じ、等価又は類似の目的に寄与する代替の特徴で置き換えても良い。
【0061】
また、本願において、2つ以上の定義されたステップ又は工程を有する方法に言及する場合、これら定義されたステップ又は工程は、状況的にそれらの可能性を排除しない限り、任意の順序で又は同時に実行しても良い。
【0062】
説明の都合上、本発明の具体的な実施例を図示し、説明してきたが、本発明の要旨と範囲から離れることなく、種々の変更が可能なことが理解できよう。従って、本発明は、添付の請求項以外では、限定されるべきではない。
【符号の説明】
【0063】
100 試験測定システム
102 試験測定装置
106 三相モータ
108 プロセッサ
110 メモリ
112 ユーザ・インタフェース
114 測定ユニット
116 三相電源
118 ケーブル
120 プローブ
【外国語明細書】