IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大陽日酸株式会社の特許一覧

特開2024-151413粉末床溶融結合造形用粉末、その製造方法及び造形物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151413
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】粉末床溶融結合造形用粉末、その製造方法及び造形物
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/153 20170101AFI20241018BHJP
   C08J 3/16 20060101ALI20241018BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241018BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20241018BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241018BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241018BHJP
   C08L 1/28 20060101ALI20241018BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20241018BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B29C64/153
C08J3/16 CER
C08J3/16 CEZ
B33Y10/00
B33Y70/10
B33Y80/00
C08L101/00
C08L1/28
C08L1/00
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064686
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸田 祥人
(72)【発明者】
【氏名】高田 克則
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 弘
【テーマコード(参考)】
4F070
4F213
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA54
4F070AC04
4F070AC72
4F070AE14
4F070CB12
4F070DA39
4F070DB01
4F070DC02
4F213AA29
4F213AB18
4F213AB25
4F213AC04
4F213AD06
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL24
4F213WL25
4F213WL26
4J002AA011
4J002AB012
4J002AB032
4J002DA016
4J002FD016
4J002FD106
4J002FD116
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】流動性、造形性、得られる造形物の帯電防止性に優れる粉末床溶融結合造形用粉末、及びその造形物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ及びセルロース系分散剤を含む複合樹脂粒子を含み、前記カーボンナノチューブの平均長さが15μm以上であり、前記カーボンナノチューブの含有量が、前記熱可塑性樹脂の質量に対して0.01~0.2質量%である、粉末床溶融結合造形用粉末。前記粉末床溶融結合造形用粉末を粉末床溶融結合造形により造形した造形物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ及びセルロース系分散剤を含む複合樹脂粒子を含み、
前記カーボンナノチューブの平均長さが15μm以上であり、
前記カーボンナノチューブの含有量が、前記熱可塑性樹脂の質量に対して0.01~0.2質量%である、粉末床溶融結合造形用粉末。
【請求項2】
前記セルロース系分散剤がエチルセルロースである請求項1に記載の粉末床溶融結合造形用粉末。
【請求項3】
熱可塑性樹脂を含む樹脂粒子と、カーボンナノチューブと、セルロース系分散剤と、前記樹脂粒子を膨潤可能な分散媒とを混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合液を乾燥する乾燥工程と、を含み、
前記カーボンナノチューブの平均長さが、150~600μmであり、
前記カーボンナノチューブの含有量が、前記熱可塑性樹脂の質量に対して0.01~0.2質量%である、粉末床溶融結合造形用粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の粉末床溶融結合造形用粉末を粉末床溶融結合造形法により造形した造形物。
【請求項5】
体積抵抗率が10~1012Ω・cmである請求項4に記載の造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末床溶融結合造形用粉末、その製造方法及び造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
Additive Manufacturing技術と称される付加製造技術がある。付加製造技術の一例として、樹脂粉末、金属粉末等の粉末材料を用いる粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion:PFB)造形法が知られている。粉末床溶融結合造形法では、高精細かつ耐久性のある造形物を短時間で精度よく製造できる。そのため、粉末床溶融結合造形法による造形物は、半導体、航空機産業及び医療等の先端技術分野で使用される設備を構成する部品等への利用が期待される。
【0003】
粉末床溶融結合造形用の樹脂粉末としては、加熱すると軟化し冷やすと固化する性質を有することから、熱可塑性樹脂の粉末が利用される。
しかし、一般的に樹脂材料は絶縁体であるため、樹脂粉末を用いた造形物は、造形物同士又は他材との接触又は摩擦によって帯電しやすい。帯電した造形物が可燃性や引火性の高い液体と接触すると、静電気の放電が起こり、液体に着火して火災や爆発を引き起こすおそれがある。
【0004】
樹脂材料の帯電を防止する技術としては、カーボンブラック等のカーボン材料と樹脂材料とを複合化して導電性を付与する技術が知られている。導電性を付与する目的でカーボン材料と樹脂材料とを複合化する場合、一般的に多量のカーボン材料が添加され、例えばカーボンブラックの場合、樹脂に対して40~50質量%程度添加される。
しかし、カーボン材料は一般的に樹脂材料に比べて硬く、添加量が増加すると、樹脂粉末が本来持つ流動性が失われてしまう。また、樹脂同士の間に多量のカーボン材料が介在することで、樹脂間の密着性が損なわれ、造形性や樹脂本来の柔軟性が低下してしまう。
【0005】
特許文献1には、ポリアミド樹脂と、導電材としてカーボンブラック5~9質量%及びカーボンミドルファイバー1~5質量%を含む導電性ポリアミド樹脂組成物が提案されている。
しかし、特許文献1には、導電性ポリアミド樹脂組成物を粉末床溶融結合造形に用いることは記載されていない。また、特許文献1に記載の導電性ポリアミド樹脂組成物においては、導電性を付与するために、カーボン材料であるカーボンブラック及びカーボンミドルファイバーを合計で6質量%以上含む必要がある。そのため、導電性ポリアミド樹脂組成物の粉末は、ポリアミド樹脂の粉末に比べ、流動性、造形性、柔軟性に劣ると考えられる。粉末床溶融結合造形用の粉末は高い流動性や流動性が求められるため、特許文献1に記載の導電性ポリアミド樹脂組成物を粉末化したものは、粉末床溶融結合造形には適さないと考えられる。
【0006】
特許文献2には、摩擦によって第1の極性の帯電性を有する造形用の樹脂粉末と、予め第1の極性と反対の第2の極性に帯電させた帯電粉末とを有する粉末床溶融結合造形物の粉末材料が提案されている。特許文献2では、帯電粉末によって、粉末材料に発生する静電気を抑制して、造形物の作製の不具合を防止できるとされている。帯電粉末としては帯電させたシリカの粉末が用いられている。
しかし、特許文献2では、造形物の帯電を抑制することについては検討されていない。また、樹脂粉末に帯電防止剤としてカーボンブラックを添加して粉末材料を形成すると、カーボンブラックを介して樹脂粉末に発生した静電気を除去することができる旨の記載はあるが、樹脂粉末に単にカーボンブラックを添加した場合、得られる造形物は必ずしも、帯電を抑制するのに充分な導電性を持たない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-52201号公報
【特許文献2】特開2019-130854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、流動性、造形性、得られる造形物の帯電防止性に優れる粉末床溶融結合造形用粉末、その製造方法及びこの粉末床溶融結合造形用粉末を用いた造形物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ及びセルロース系分散剤を含む複合樹脂粒子を含み、
前記カーボンナノチューブの平均長さが15μm以上であり、
前記カーボンナノチューブの含有量が、前記熱可塑性樹脂の質量に対して0.01~0.2質量%である、粉末床溶融結合造形用粉末。
[2]前記セルロース系分散剤がエチルセルロースである[1]に記載の粉末床溶融結合造形用粉末。
[3]熱可塑性樹脂を含む樹脂粒子と、カーボンナノチューブと、セルロース系分散剤と、前記樹脂粒子を膨潤可能な分散媒とを混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合液を乾燥する乾燥工程と、を含み、
前記カーボンナノチューブの平均長さが、150~600μmであり、
前記カーボンナノチューブの含有量が、前記熱可塑性樹脂の質量に対して0.01~0.2質量%である、粉末床溶融結合造形用粉末の製造方法。
[4][1]又は[2]に記載の粉末床溶融結合造形用粉末を粉末床溶融結合造形法により造形した造形物。
[5]体積抵抗率が10~1012Ω・cmである[4]に記載の造形物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流動性、造形性、得られる造形物の帯電防止性に優れる粉末床溶融結合造形用粉末、その製造方法及びこの粉末床溶融結合造形用粉末を用いた造形物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書においては、「カーボンナノチューブ」を「CNT」とも記す。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
【0012】
本発明の一実施形態に係る粉末床溶融結合造形用粉末(以下、単に「造形用粉末」とも記す。)は、複合樹脂粒子を含む。
複合樹脂粒子は、熱可塑性樹脂、CNT及びセルロース系分散剤を含む。各成分については後で詳しく説明する。
【0013】
複合樹脂粒子において、CNTの含有量は、熱可塑性樹脂の質量に対して0.01~0.2質量%であり、0.05~0.20質量%が好ましい。CNTの含有量が上記下限値以上であると、造形用粉末の流動性、造形物の帯電防止性に優れる。CNTの含有量が上記上限値以下であると、造形用粉末の造形性に優れる。また、複合樹脂粒子からのCNTの脱落によるコンタミのリスク、CNTの増量によるコストの増加を抑制できる。
【0014】
セルロース系分散剤の含有量は、熱可塑性樹脂の質量に対して0.01~0.20質量%が好ましく、0.05~0.20質量%がより好ましい。セルロース系分散剤の含有量が上記下限値以上であると、CNTが良好に分散し、造形用粉末の流動性、造形物の帯電防止性が向上する。セルロース系分散剤の含有量が上記上限値以下であると、焼結時の分散剤のガス化による焼結阻害が起こりにくく、成形性が向上する。
【0015】
複合樹脂粒子は、典型的には、少なくとも表面及びその近傍が、熱可塑性樹脂、CNT及びセルロース系分散剤を含む混合物で構成される。
複合樹脂粒子としては、熱可塑性樹脂を含むコア部と、その表面を覆う表面層とを有し、表面層が前記混合物の層である粒子が好ましい。かかる粒子は、例えば、後述するように、熱可塑性樹脂を含む樹脂粒子と、CNTと、セルロース系分散剤と、前記樹脂粒子を膨潤可能な分散媒とを混合し、得られた混合液を乾燥することにより得られる。この方法では、分散媒により膨潤した樹脂粒子の表面にCNTの少なくとも一部が分散状態で埋設又は固着され、安定に固定される。
【0016】
混合層の厚みは10μm以下が好ましい。混合層の厚みが10μm以下であると、CNT量を少なくでき、コストを抑制できる。また、混合層の厚みが薄い場合、平均粒子径の小さい樹脂粒子を原料に用いることができ、複合樹脂粒子の平均粒子径を小さくできる。複合樹脂粒子の平均粒子径が小さくなると、均一にCNTが分散した造形物が得られ易くなる。混合層の厚みの下限は特に限定されないが、例えば1.0μmである。混合層の厚みは、原料の樹脂粒子のサイズや混合条件により調整できる。
【0017】
複合樹脂粒子の平均粒子径は、10~100μmが好ましく、20~60μmがより好ましい。複合樹脂粒子の平均粒子径が上記下限値以上であると、複合樹脂粒子の表面積の比率が小さくなるため、凝集が起こり難くなり、取り扱いが容易となる。複合樹脂粒子の平均粒子径が上記上限値以下であると、均一にCNTが分散した造形物が得られ易い。
平均粒子径は、レーザー回折法により測定されるメジアン径(D50)である。
【0018】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂は、加熱すると軟化し冷やすと固化する性質を有する樹脂である。ただし、本発明における熱可塑性樹脂は、セルロース系分散剤とは異なる。
熱可塑性樹脂は、PBF造形用樹脂粉末に用いられる熱可塑性樹脂として公知のものであってよい。
熱可塑性樹脂は、融点を有することが好ましい。結晶性の熱可塑性樹脂の融点は、150~350℃が好ましい。融点は、示差走査熱量測定(DSC)法により測定される。
【0019】
熱可塑性樹脂としては、結晶性の熱可塑性樹脂が好ましい。結晶性の熱可塑性樹脂は融点と結晶化温度を持つので、PBF造形に好適である。
結晶性の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアセタール(POM)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)が挙げられる。PAとしては、例えば、ポリアミド12(PA12)が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
熱可塑性樹脂としては、上記の中でも、PA、PEEKが好ましく、PAが特に好ましい。PAやPEEKは、優れた機械強度、靭性、耐摩耗性及び耐薬品性を持つため、これらを用いた造形物は、半導体・電子部品の製造装置を構成する部品や自動車部品等への適用が期待される。
【0020】
<CNT>
複合樹脂粒子に含まれるCNTは単層CNTでも多層CNTでもよく、これらの両方であってもよい。
複合樹脂粒子中のCNTの平均長さは好ましくは15μm以上である。平均長さが上記下限値以上であると、造形物の帯電防止性に優れる。複合樹脂粒子中のCNTの平均長さが長いほど造形物の帯電防止性に優れるため、平均長さの上限値は限定されないが、平均長さが600μm以下であると、CNTの製造コストを抑制できる。平均長さが600μmを超えるCNTを製造するには種々の付加的な工程が必要となり、製造コストが大きく増大する。
複合樹脂粒子中のCNTの平均直径は、例えば5~20nmである。
【0021】
複合樹脂粒子中のCNTの「平均長さ」及び「平均直径」は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により測定される。具体的には、複合樹脂粒子の断面をTEMで観察し、TEM画像からCNT10個を無作為に選択し、その長さ及び直径を測定し、長さの平均を算出して平均長さとし、直径の平均を算出して平均直径とする。
【0022】
複合樹脂粒子の製造に用いられるCNT(以下、「原料CNT」とも記す。)は公知の方法により製造したものであってもよく、市販品であってもよい。
原料CNTの平均長さは、150~600μmが好ましい。原料CNTの平均長さが150μm以上であると、得られる複合樹脂粒子中のCNTの平均長さが15μm以上になりやすい。原料CNTの平均長さが600μmを超えるCNTを製造するには種々の付加的な工程が必要となり、製造コストが大きく増大する。
平均長さが150~600μmの原料CNTは、例えば特許第4512750号公報に記載の方法により製造できる。平均長さが150~600μmのCNTの市販品の例としては、大陽日酸製長尺CNT(ELグレード:直径5~20nm、長さ50~800μmの多層CNT)が挙げられる。
【0023】
<セルロース系分散剤>
セルロース系分散剤は、CNTの分散性を高める。CNTの分散性が高まることで、複合樹脂粒子の表面にCNTが均一に分布し、造形用粉末の流動性、造形性、造形物の帯電防止性が向上する。
セルロース系分散剤としては、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の各種のセルロース誘導体が挙げられる。これらのセルロース系分散剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
複合樹脂粒子は、熱可塑性樹脂、CNT及びセルロース系分散剤以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
他の成分としては、CNT以外のカーボン材料、セルロース系分散剤以外の分散剤等が挙げられる。
【0025】
<複合樹脂粒子の製造方法>
複合樹脂粒子は、例えば、熱可塑性樹脂を含む樹脂粒子と、CNTと、セルロース系分散剤と、前記樹脂粒子を膨潤可能な分散媒とを混合する工程(混合工程)と、混合工程で得られた混合液を乾燥する工程(乾燥工程)と、を含む製造方法により製造できる。樹脂粒子は、熱可塑性樹脂、CNT及びセルロース系分散剤以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
この方法によれば、樹脂粉末に極めて少量のCNTを複合化することができ、樹脂粉末が本来有する優れた流動性及び造形性を損なうことなく、造形物に優れた帯電防止性を付与できる造形用粉末が得られる。
【0026】
混合工程で用いられるCNT、すなわち原料CNTは、単層CNTでも多層CNTでもよく、これらを併用してもよい。
原料CNTの平均長さは150~600μmである。平均長さが上記下限値以上であると、造形物の帯電防止性に優れる。平均長さが上記上限値以下であると、原料CNTの製造コストを抑制できる。平均長さが600μmを超える原料CNTを製造するには種々の付加的な工程が必要となり、製造コストが大きく増大する。
原料CNTの平均直径は、例えば5~20nmである。
原料CNTの「平均長さ」及び「平均直径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定される。具体的には、原料CNT粉末をSEMで観察し、SEM画像から原料CNT10個を無作為に選択し、それらの長さ及び直径を測定する。長さの平均を算出して平均長さとし、直径の平均を算出して平均直径とする。
【0027】
樹脂粒子の平均粒子径は、製造する複合樹脂粒子の平均粒子径に応じて設定される。
樹脂粒子の平均粒子径は、10~100μmが好ましく、20~60μmがより好ましい。樹脂粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、得られる複合樹脂粒子の平均粒子径が上述した好ましい範囲内となりやすい。
【0028】
分散媒が樹脂粒子を膨潤させることで、樹脂粒子の表面にCNTを固定化させることができる。
分散媒としては、樹脂粒子を膨潤可能であればよいが、樹脂、分散剤、CNTとの相溶性の点から、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤が好ましい。ケトン系溶剤としては、例えばメチルエチルケトン、アセトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロヘキサノンが挙げられる。アルコール系溶剤としては、例えばエタノール、メタノール、イソプロパノールが挙げられる。これらの分散媒は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0029】
混合工程において、樹脂粒子、原料CNT、セルロース系分散剤及び分散媒の混合方法は特に限定されないが、樹脂粒子と分散媒とを含む樹脂粒子分散液と、原料CNT、セルロース系分散剤及び分散媒を含むCNT分散液とを混合する方法が好ましい。樹脂粒子分散液の分散媒とCNT分散液の分散媒は同一でも異なっていてもよい。
【0030】
例えば、容器に樹脂粒子分散液及びCNT分散液を投入し、撹拌手段で撹拌することで、目的の混合液が得られる。
撹拌方法としては、ビーズミル法、超音波法、湿式微粒化法、乱流・撹拌法等の公知の各種の混合・分散方法を採用できる。これらの中でも、湿式微粒化法がより好ましい。撹拌中に原料CNTが切断され、混合液中のCNTの平均長さが原料CNTの平均長さよりも短くなることがあるが、湿式微粒化法を採用することにより、平均長さが短くなることを抑制できる。
【0031】
乾燥工程において、混合液の乾燥方法は、分散媒を除去できればよく、風乾、加熱等の各種の乾燥方法を採用できる。乾燥温度は、例えば30~90℃である。乾燥時間は、乾燥温度によって異なるが、例えば1~10時間である。
【0032】
本実施形態の造形用粉末は、上述の複合樹脂粒子のみからなるものであってもよく、上述の複合樹脂粒子と他の粒子との混合物であってもよい。
複合樹脂粒子の含有量は、造形用粉末の質量に対し、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0033】
本実施形態の造形用粉末は、粉末床溶融結合造形法により造形されて造形物とされる。粉末床溶融結合造形法では、例えば、造形用粉末を任意の形状に配置し、レーザー(レーザー焼結方式)や放電(放電焼結方式)で焼結させて層を造形し、造形した層の上に順次、次の層を積層していくことで、立体的な造形物を得る。粉末床溶融結合造形法の一例として、粉末焼結積層造形(Selective Laser Sintering:SLS)法が挙げられる。
粉末床溶融結合造形法による造形は、公知の粉末床溶融結合造形方式の3Dプリンターを用いて実施できる。
【0034】
造形物の体積抵抗率は、10~1012Ω・cmが好ましく、10~10Ω・cmがより好ましく、10~10Ω・cmがさらに好ましい。体積抵抗率が上記上限値以下であると、造形物の帯電防止性に優れる。
「体積抵抗率」は、JIS規格の導電性プラスチックの電気特性の評価法(JIS K 7194(低い体積抵抗率の測定方法)又はJIS K 6911(高い体積抵抗率の測定方法))に則り測定される。
【0035】
<作用効果>
以上説明した造形用粉末は、流動性、造形性に優れる。また、得られる造形物に導電性を持たせ、帯電防止性を付与することができる。導電性の範囲はCNT添加量を変更することによって、体積抵抗率10~1012Ω・cmの範囲で制御することが出来る。
【0036】
複合化されるCNTが、平均長さ15μm以上の長尺CNTであることと、CNTの量が適切であることが、造形用粉末の流動性及び導電性の向上に寄与すると考えられる。
短尺CNTを用いた場合、充分な導電性が得られないおそれがある。
CNTの含有量が0.2質量%よりも多い場合、造形性が低下するおそれがある。例えば、造形時に積層させた粉末同士が密に充填されず、得られる造形物の強度が弱く、容易に割れが生じるおそれがある。
粉末焼結積層造形法は粉末に圧力をかけないため、粉末の特性として流動性が高く密に充填されるような特性を持っていなければ、高い強度を持った造形物を作製することはできず、導電性を発現することはできない。
【0037】
分散剤がセルロース系であることは、CNTと熱可塑性樹脂とを強固に複合化し、造粒用粉末の流動性及び導電性の向上に寄与すると考えられる。
長尺CNTを使用した場合でも、分散剤がアクリル系の場合(後述の比較例4)、流動性が損なわれ、かつ導電性も得られないおそれがある。これはアクリル系の分散剤の場合、熱可塑性樹脂とCNTが強固に複合化されず、造形用粉末中に複合化されていない余分なCNTが凝集して樹脂中に混在するためと考えられる。このCNTの凝集体が樹脂の流動を阻害し、造形時に積層させた粉末同士が密に充填されないため、得られる造形物の強度は弱く、容易に割れてしまうと考えられる。また、熱可塑性樹脂とCNTが複合化されないことで、導電性も不充分となる。
セルロース系分散剤は、CNTを分散させる効果に加え、熱可塑性樹脂にCNTを付着させ、かつ取れにくくするバインダーとして作用し、これによって、造粒用粉末の流動性が大きく損なわれることなく、造形物を作製でき、かつ高い導電性が発現すると考えられる。
【実施例0038】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0039】
[使用材料]
樹脂粉末:マイクロテック社製の粉末焼結積層造形用のポリアミド(ナイロン)粉末(平均粒子径(D50)60μm、灰色、融点180℃)。
CNT-1:大陽日酸製の長尺カーボンナノチューブ(DLグレード)(直径5~20nm、長さ50~800μmの多層カーボンナノチューブ)。
CNT-2:大陽日酸製の長尺カーボンナノチューブ(DLグレード)(直径5~20nm、長さ50~150μmの多層カーボンナノチューブ)。
CNT-3:Nanocyl製のカーボンナノチューブ(平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm)。
MEK:メチルエチルケトン(純度99.5%)。
エチルセルロース:富士フイルム和光純薬製。
アクリル樹脂:BYK製。
【0040】
[実施例1]
以下の手順で、複合樹脂粉末(造形用粉末)を製造した。
まず、樹脂粉末とMEKとを樹脂粉末:MEK=1:5の質量比で混合して樹脂粉末分散液を得た。また、CNT-1とMEKとエチルセルロース(分散剤)とを混合してCNT濃度0.2質量%、エチルセルロース濃度0.2質量%のCNT分散液を得た。
次いで、樹脂粉末分散液及びCNT分散液をビーカーに投入した。CNT分散液の投入量は、樹脂粉末分散液の樹脂粉末の質量に対するCNTの割合(添加量)が0.05質量%になる量とした。得られた混合液を、マグネットスターラーを用いて室温にて60分間撹拌した。分散しているCNTは撹拌の過程で樹脂粒子表面に付着し、最終的に撹拌を停止すると、混合液の上澄みは透明となり、樹脂粉末は凝集沈殿した。
次いで、混合液の上澄みをスポイトで分取・回収したのち、残りの混合液をステンレス製のバットに移し、真空乾燥機(ヤマト科学製)にて一晩(12時間)乾燥させて、目的の複合樹脂粉末を得た。
得られた複合樹脂粉末の断面を透過電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、樹脂粒子の表面にCNTが分散状態で埋設されたCNT混合層が10μm以下の厚さで形成されていた。
【0041】
<評価>
得られた造形用粉末について以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0042】
(1)原料CNTの平均長さ
CNT分散液を得る前のCNT粉末を走査型電子顕微鏡観察(SEM)で観察し、SEM画像からCNT10個を無作為に選択し、その長さを測定し、平均を算出した。
【0043】
(2)複合樹脂粉末に付着したCNTの平均長さ
複合樹脂粉末の断面を透過電子顕微鏡(TEM)で観察し、TEM画像からCNT10個を無作為に選択し、その長さを測定し、平均を算出した。
【0044】
(3)フローレート
造形用粉末について、LPWテクノロジー社のPOWDERFLOW 粉体流動計測キットを用いてフローレート(FRPA/CNT)の評価を行った。フローレートの評価に使用した粉末の量は20.0g±0.1gとした。測定は3回行い、平均値を評価結果とした。
【0045】
(4)安息角
造形用粉末について、LPWテクノロジー社のPOWDERFLOW 粉体流動計測キットを用いて安息角の評価を行った。安息角の評価に使用した粉末の量は20.0g±0.1gとした。評価は3回行い、平均値を評価結果とした。
【0046】
(5)かさ密度
造形用粉末について、LPWテクノロジー社のPOWDERFLOW 粉体流動計測キットを用いてかさ密度(DPA/CNT)の評価を行った。かさ密度の評価用の評価器は容積20mLのものを使用した。評価は3回行い、平均値を評価結果とした。
【0047】
(6)タップ密度
造形用粉末について、LPWテクノロジー社のPOWDERFLOW 粉体流動計測キットを用いてタップ密度(DTPA/CNT)の評価を行った。タップ密度の評価用の評価器は容積20mLのものを使用した。評価は3回行い、平均値を評価結果とした。
【0048】
(7)造形性
レーザーを用いた粉末床溶融結合造形方式であるSLS方式の3Dプリンター(Sintratec社「Sintratec Kit」)を用いて、造形用粉末の造形を行った。作製する造形物は、30mm×30mm×厚み5mmの板状のものとした。印刷速度はレーザースピード:70mm/秒、印刷装置内温度:150℃とし、レーザーはダイオードレーザー(出力:2300mW、レーザー波長:445nm)を使用した。
このときの造形可否及び表面形状を評価した。造形可否に関し、具体的には、板状に成形できる場合を造形可能、成形物が板状でない場合や積層がゆるく層状に剥離する場合を造形不可とした。表面形状に関し、具体的には、造形物を目視にて観察し、板状の成形物の表面、裏面に1mm以上の突起あるいはへこみが5個以上ある場合は×、1~4個ある場合は△、0個の場合は〇とした。
【0049】
(8)導電性
上記造形性の評価で作製した造形物(形状:30mm×30mm×厚み5mm)について、JIS規格の導電性プラスチックの電気特性の評価法(JIS K 7194(低い体積抵抗率の測定方法)又はJIS K 6911(高い体積抵抗率の測定方法))に則り体積抵抗率を測定した。測定機は抵抗率計(三菱化学アナリテック社製「ロレスタGP」及び「ハイレスタUX」)を使用した。体積抵抗率の算出に用いた厚みはデジタルノギスにより計測した。
【0050】
[実施例2、3]
樹脂粉末の質量に対するCNT添加量をそれぞれ0.01質量%、0.2質量%とした以外は実施例1と同様にして造形用粉末の製造及び評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0051】
[実施例4]
CNT-1の代わりにCNT-2を用いた以外は実施例1と同様にして造形用粉末の製造及び評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0052】
[比較例1]
原料の樹脂粉末をそのまま造形用粉末とし、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0053】
[比較例2]
CNT-1の代わりにCNT-3を用いた以外は実施例3と同様にして造形用粉末の製造及び評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0054】
[比較例3]
樹脂粉末に対するCNT添加量を0.25質量%とした以外は実施例1と同様にして造形用粉末の製造及び評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0055】
[比較例4]
樹脂粉末に対してCNT添加量を0.005質量%とした以外は実施例1と同様にして造形用粉末の製造及び評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0056】
[比較例5]
分散剤として、エチルセルロースの代わりにアクリル樹脂いた以外は実施例1と同様にして造形用粉末の製造及び評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
実施例1~4の造形用粉末は、原料の樹脂粉末(比較例1)と同等以上の流動性を有していた。また、粉末床溶融結合造形法により造形物を作製でき、かつ得られた造形物が優れた導電性を示した。そして、実施例1~4の対比から、長尺CNTの添加量を調整することで、造形物の体積抵抗率を10~1012Ω・cmの範囲で制御することも確認できた。
複合樹脂粒子に付着したCNTの平均長さが0.1μmの比較例2は、CNT添加量は0.2質量%と実施例3と同等であるにもかかわらず、体積抵抗率が比較例1と同等で、導電性に劣っていた。
CNT添加量が0.25質量%の比較例3は、造形性に劣っていた。また、造形物の体積抵抗率が実施例3と変わらず、添加量に見合った効果が得られなかった。
CNT添加量が0.005質量%の比較例4は、造形物の体積抵抗率が比較例1と同等であり、導電性に劣っていた。
分散剤としてアクリル系のものを用いた比較例5は、原料の樹脂粉末に比べ、流動性、造形性に劣っていた。また、造形物の体積抵抗率が比較例1と同等であり、導電性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の造形用粉末は、流動性、造形性、得られる造形物の帯電防止性に優れる。
本発明の造形物は、帯電防止性に優れることから、静電気の発生が抑制リスクを低下できる。よって本発明の造形物は、半導体・電子部品業界、化成品業界、半導体業界などの装置設備の部品で危惧されている静電気破壊などのリスクを解消できる。またカーボンナノチューブの含有量が少ないため、接液や摩耗によるカーボンナノチューブの脱落リスクが低く、クリーン度に優れる。よって本発明の造形物は、様々な用途に有用である。例えば、流体制御機器の部材、フィルム、シート、継ぎ手、テーブル、チューブ、ロッド、ローラー、軸受等に有用である。