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特開2024-151415浸漬式測定機器及び浸漬式測定機器使用方法
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  • 特開-浸漬式測定機器及び浸漬式測定機器使用方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151415
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】浸漬式測定機器及び浸漬式測定機器使用方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/28 20060101AFI20241018BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G01N27/28 341A
G01N27/416 353Z
G01N27/416 341Z
G01N27/416 316Z
G01N27/416 321
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064691
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】古賀 飛翔
(57)【要約】
【課題】測定部を流体の流れから保護しながら、作業安全性を向上させることができる浸漬式測定機器及び浸漬式測定機器使用方法を提供する。
【解決手段】流路内に浸漬させて流路内の被測定液の特性を測定する浸漬式測定機器10であって、被測定液の特性を測定する測定部11と、内部に測定部11を保持し、測定部11を流路内で生じる衝撃から保護する円筒状の保護管12と、保護管12上部に設けられたフランジ13を備え、保護管12は、底部に被測定液が通過する開口部14を有するとともに、測定部11が位置する上方の保護管側面に複数の切欠き15が設けられ、フランジ13には、保護管12を吊り上げるための吊部16と、保護管12を周方向に回転させる把持部17が設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路内に浸漬させて該流路内の被測定液の特性を測定する浸漬式測定機器であって、
前記被測定液の特性を測定する測定部と、
内部に前記測定部を保持し、前記測定部を前記流路内で生じる衝撃から保護する円筒状の保護管と、
前記保護管上部に設けられたフランジ
を備え、
前記保護管は、底部に前記被測定液が通過する開口部を有するとともに、前記測定部が位置する上方の保護管側面に複数の切欠きが設けられ、
前記フランジには、前記保護管を吊り上げるための吊部と、前記保護管を周方向に回転させる把持部が設けられていることを特徴とする、浸漬式測定機器。
【請求項2】
前記把持部は、前記開口部により前記被測定液が流れる方向と平行に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の浸漬式測定機器。
【請求項3】
前記測定部が、pH計、ORP計、導電率計、溶存酸素計、MLSS計、残留塩素計のいずれかであることを特徴とする、請求項2に記載の浸漬式測定機器。
【請求項4】
前記保護管は、ステンレス製であることを特徴とする、請求項3に記載の浸漬式測定機器。
【請求項5】
前記開口部は垂直方向に切欠けられており、前記保護管の上方の前記複数の切欠きは前記被測定液が流れる方向に沿って水平方向に設けられていることを特徴とする、請求項4に記載の浸漬式測定機器。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の浸漬式測定機器を用いた、浸漬式測定機器使用方法であって、
水路内の前記被測定液の流れ方向と前記保護管の切欠きの位置を、前記把持部を用いて設定可能であり、
前記水路の流れ方向に対して前記保護管の底部の前記開口部の位置が平行で、前記保護管の上部の前記切欠きに平行になるように設定することを特徴とする、浸漬式測定機器使用方法。
【請求項7】
測定流体が固形物を含んだスラリー流体であることを特徴とする、請求項6に記載の浸漬式測定機器使用方法。
【請求項8】
前記水路内の流体の流速が1.5m/sec以上、4.0m/sec以下であることを特徴とする、請求項7に記載の浸漬式測定機器使用方法。
【請求項9】
前記保護管の長さが、水路の深さ以上で、前記保護管の底面が、水路の底部に接するように配置されていることを特徴とする、請求項8に記載の浸漬式測定機器使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路内に浸漬させて流路内の被測定液の特性を測定する浸漬式測定機器及び浸漬式測定機器使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低品位なニッケル酸化鉱からのニッケルの回収方法として、硫酸を用いた高圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)法がある。この方法は、乾燥及び焙焼工程等の乾式処理工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利であるとともに、ニッケル品位を50重量%程度まで向上させたニッケル・コバルト混合硫化物を得ることができるという利点を有している。
【0003】
高圧酸浸出法は、鉱石のスラリーに硫酸を添加し、220~280℃の温度条件で撹拌処理して、浸出スラリーを形成する浸出工程、浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣を得る固液分離工程、浸出液の酸化を抑制しながら炭酸カルシウムを添加し、3価の鉄を含む中和澱物スラリーとニッケル回収用母液を形成する中和工程、及び、母液に硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケル及びコバルトを含む硫化物と貧液を形成する硫化工程、などを有する。
【0004】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの各工程においては、効率的な操業のためにpH、ORP(酸化還元電位)、MLSS(Mixed Liquor Suspended Solids)といった溶液又はスラリーの各種特性を測定し、管理する場面が生じる。一例として、樋などの水路において流体のpHを測定するために浸漬式pH計が設置される。pH計は測定流体の圧力を直接受け、測定箇所の条件(液質、流速、pH計の浸漬深さ)が過酷になるほどpH計ホルダ及びガラス電極が損傷を受けやすくなるため、pH計に保護管が必要となる。
【0005】
例えば、特許文献1では、被測定液等のpHを検出するセンサ部と、該センサ部からのリード線が収納された支持管と、該支持管に装着され該支持管と協働して前記センサ部を保持するとともに前記センサ部を外部衝撃波等から保護する保護筒とを具備し、前記保護筒がとりはずされ前記支持管から前記リード線がひき伸ばされることによって、校正時に前記センサ部が前記支持管と分離されるように構成されていることを特徴とする浸漬式pH計が記載されている。
【0006】
上述した湿式製錬プロセスにおいては、測定流体が鉱物などの固形物を含んだスラリー流体で、流速が早い場合、保護管並びに浸漬式pH計の破損や曲がりが発生して流体のpH測定が出来なくなる問題を有していた。そのため、湿式製錬プロセスで用いる測定機器の保護管は、金属製で1m以上の長さが必要なものもあり、測定機器全体の重量が重くなるため、設置や取出し等の作業を一人で行うことは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭58-57746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況を解決するためになされたものであり、測定部を流体の流れから保護しながら、作業安全性を向上させることができる浸漬式測定機器及び浸漬式測定機器使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、流路内に浸漬させて流路内の被測定液の特性を測定する浸漬式測定機器であって、被測定液の特性を測定する測定部と、内部に測定部を保持し、測定部を流路内で生じる衝撃から保護する円筒状の保護管と、保護管上部に設けられたフランジを備え、保護管は、底部に被測定液が通過する開口部を有するとともに、測定部が位置する上方の保護管側面に複数の切欠きが設けられ、フランジには、保護管を吊り上げるための吊部と、保護管を周方向に回転させる把持部が設けられている。
【0010】
本発明の一態様によれば、保護管により測定部を流体の流れから保護しながら、保護管上部のフランジに吊部及び把持部を設けることにより作業安全性を向上させることができる。
【0011】
このとき、本発明の一態様では、把持部は、開口部により被測定液が流れる方向と平行に設けられているようにしてもよい。
【0012】
このようにすることにより、把持部によって浸漬式測定機器を液中に浸漬する際の開口部の位置を容易に設定することができる。
【0013】
また、本発明の一態様では、測定部が、pH計、ORP計、導電率計、溶存酸素計、MLSS計、残留塩素計のいずれかとすることができる。
【0014】
本発明によれば、測定部のセンサー部分を保護する必要のある測定機器に対して好ましく適用することができる。
【0015】
また、本発明の一態様では、保護管は、ステンレス製であるとしてもよい。
【0016】
このようにすることで、被測定液がスラリー流体である場合のように固形物を含んでいても、内部の測定部を衝撃から保護することができる。
【0017】
また、本発明の一態様では、開口部は垂直方向に切欠けられており、保護管の上方の複数の切欠きは被測定液が流れる方向に沿って水平方向に設けられているとしてもよい。
【0018】
このようにすることで、浸漬式測定機器を流路中に設置しても、被測定液の流れを大きく阻害しないようにすることができる。
【0019】
本発明の他の態様は、上述した浸漬式測定機器を用いた、浸漬式測定機器使用方法であって、水路内の被測定液の流れ方向と保護管の切欠きの位置を、把持部を用いて設定可能であり、水路の流れ方向に対して保護管の底部の開口部の位置が平行で、保護管の上部の切欠きに平行になるように設定する。
【0020】
本発明の他の態様によれば、被測定液が通過する底部の開口部の位置を把持部の位置によって把握することができ、また、上部のフランジに設けた吊部によって浸漬式測定機器を吊り上げることも可能であるため、作業安全性を向上させることができる。
【0021】
このとき、本発明の他の態様では、測定流体が固形物を含んだスラリー流体であるとしてもよい。
【0022】
本発明では、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法のような、微小な鉱石や浸出残渣を含むスラリー状の液体の特性を測定する場合にも好適である。
【0023】
また、本発明の他の態様では、水路内の流体の流速が1.5m/sec以上、4.0m/sec以下であるとしてもよい。
【0024】
上記流速の範囲内であれば、測定部による測定のための定格流速の範囲内であることが多いため望ましい。
【0025】
また、本発明の他の態様では、保護管の長さが、水路の深さ以上で、保護管の底面が、水路の底部に接するように配置されているようにしてもよい。
【0026】
このようにすることで、浸漬式測定機器を水路の底部においても固定した状態で安定した測定を行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
このように本発明によれば、測定部を流体の流れから保護しながら、作業安全性を向上させることができ、保護管の吊り上げ作業及び浸漬時の方向調整作業が容易かつ安全に実施できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法のプロセスを示す工程図である。
図2】本発明の一実施形態に係る浸漬式測定機器を示した斜視図である。
図3】(A)は、本発明の一実施形態に係る浸漬式測定機器を示した正面図であり、(B)は、本発明の一実施形態に係る浸漬式測定機器を示した側面図である。
図4】(A)は、流路内の流体の特性を測定するために本発明の一実施形態に係る浸漬式測定機器を設置した状態を示す概略図であり、(B)は、流路に設置した本発明の一実施形態に係る浸漬式測定機器を上方から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る浸漬式測定機器及び浸漬式測定機器使用方法について図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
2.浸漬式測定機器
3.浸漬式測定機器使用方法
【0030】
<1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法>
先ず、浸漬式測定機器及び浸漬式測定機器使用方法のより具体的な説明に先立ち、本発明の一実施形態に係る浸漬式測定機器及び浸漬式測定機器使用方法が適用されるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について簡単に説明する。なお、本発明の一実施形態に係る浸漬式測定機器及び浸漬式測定機器使用方法は、一例として、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法におけるスラリーの特性の測定を対象としているが、必ずしもこの場合のみに限定されるわけではなく、これら以外の工業プロセスにおける流路等において、溶液やスラリーの特性の測定に適用することも可能である。図1に、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法の工程(プロセス)図の一例を示す。
【0031】
スラリー調製工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を用いて、数種類のニッケル酸化鉱石を所定のNi品位、不純物品位となるように混合し、篩にかけて所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石のみを水と混合してスラリー化する。
【0032】
浸出工程S2では、スラリー調製工程S1で得られたニッケル酸化鉱石のスラリーに対して、例えば高圧酸浸出法を用いた浸出処理を施す。具体的には、原料となるニッケル酸化鉱石を混合等して得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、例えば耐熱耐圧容器(オートクレーブ)を用いて、220~280℃の高い温度条件下で3~5MPaに加圧することによって鉱石からニッケル、コバルト等を浸出し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。
【0033】
浸出工程S2では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸を加えるようにしている。そのため、得られた浸出スラリーには浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸が含まれていて、そのpHは非常に低い。
【0034】
このことから、予備中和工程S3では、次工程の固液分離工程S4における多段洗浄時に効率よく洗浄が行われるように、浸出工程S2にて得られた浸出スラリーのpHを高めて所定の範囲に調整する。pHの調整方法としては、例えば石灰石(炭酸カルシウム)スラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲のpHに調整する。
【0035】
固液分離工程S4では、予備中和工程S3にてpH調整された浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素として亜鉛を含む浸出液と浸出残渣とを得る。
【0036】
中和工程S5では、固液分離工程S4にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。浸出液のpHは、石灰石(炭酸カルシウム)スラリー等の中和剤を添加することで調整される。
【0037】
脱亜鉛工程S6では、中和工程S5から得られた中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加する硫化処理を施すことにより亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。
【0038】
その後、硫化工程S7では、脱亜鉛工程S6後のニッケル回収用母液である脱亜鉛終液に対して硫化剤としての硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの混合硫化物と、ニッケル及びコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液とを生成させる。
【0039】
最終中和工程S8は、上述した固液分離工程S4から移送された遊離硫酸を含む浸出残渣と、硫化工程S7から移送されたマグネシウムやアルミニウム、鉄等の不純物を含むろ液(貧液)の中和を行う。浸出残渣やろ液は、中和剤によって所定のpH範囲に調整され、廃棄スラリー(テーリング)となる。生成されたテーリングは、テーリングダム(廃棄物貯留場)に移送される。
【0040】
<2.浸漬式測定機器>
これまで、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法のフローを一通り説明してきたが、本発明に係る浸漬式測定機器は、例えば、上述した最終中和工程S8後のテーリングダムへのスラリーの排水路や、予備中和工程S3や中和工程S5でのpHの測定、浸出工程S2における酸化還元電位(ORP)の測定などで適用することができる。もちろん、本発明に係る浸漬式測定機器は、上記ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法のみに限定されず、工業プロセスにおける樋などの水路での溶液の特性の測定や、反応槽やタンク、またその中間の流路における溶液の特性の測定など様々な場面で適用することが可能である。以下、本発明の一実施形態に係る浸漬式測定機器の構成について説明する。
【0041】
図2は、本発明の一実施形態に係る浸漬式測定機器を示した斜視図であり、図3(A)は正面図であり、図3(B)は側面図である。本発明の一態様は、流路内に浸漬させて流路内の被測定液の特性を測定する浸漬式測定機器10であって、被測定液の特性を測定する測定部11と、内部に測定部11を保持し、測定部11を流路内で生じる衝撃から保護する円筒状の保護管12と、保護管12上部に設けられたフランジ13を備え、保護管12は、底部に被測定液が通過する開口部14を有するとともに、測定部11が位置する上方の保護管側面に複数の切欠き15が設けられ、フランジ13には、保護管12を吊り上げるための吊部16と、保護管12を周方向に回転させる把持部17が設けられている。
【0042】
測定部11は、流路内において被測定液の特性を測定する。測定部11としては、水路やタンク内などでの被測定液の特性を測定するために、主に浸漬式測定機器が用いられ、一例として、電極を電極ホルダに取付て一体化させ、測定する位置に応じて電極ホルダの長さを調整できるものが用いられる。測定部11としては、pH計、ORP計、導電率計、溶存酸素計、MLSS計、残留塩素計などの被測定液の特性を測定する機器があげられる。本発明は、特に、pH計のように被測定液のpHを電極等のセンサーで測定する機器に適用することができる。
【0043】
保護管12は、内部に測定部11を保持し、測定部11を流路内で生じる衝撃から保護する円筒状の容器である。測定部11の外側を囲むように保護管12を設けることによって、流路内で生じる固形物等の衝撃から測定部11を保護することができる。一方で、測定部11によって流路内での溶液の特性を測定するためには、測定部11の近傍には被測定液の流れがあった方が良い。このため、本発明の一態様においては、保護管12は、底部に被測定液が通過する開口部14を有するとともに、測定部11が位置する上方の保護管側面に複数の切欠き15が設けられている。
【0044】
フランジ13は、保護管12の上部に設けられる。フランジ13は、測定部11の電極ホルダと保護管12とを固定することができ、一例として、電極ホルダを蓋部材に取付け、当該蓋部材をフランジ13にボルト留めすることなどによって測定部11を保護管12内に固定することができる。
【0045】
また、フランジ13には、保護管12を吊り上げるための吊部16と、保護管12を周方向に回転させる把持部17が設けられている。本発明の一態様に係る浸漬式測定機器10は、上述した工業プロセスのような大容量の水路やタンク等において用いられるため、浸漬式測定機器10は10kg以上の重さとなることがある。したがって、本発明においては、保護管12を吊り上げるための吊部16を設けることによって、簡易クレーン等の吊り具によって浸漬式測定機器10を持ち上げることができるため、作業者の負担を軽減することができる。また、フランジ13には、さらに把持部17を設けることによって後述するように、保護管12に設けられた開口部14の位置を設定することもでき、流路の流れに対する方向調整作業が容易となる。
【0046】
本発明の一態様では、把持部17は、開口部14により被測定液が流れる方向と平行に設けられていることが好ましい。すなわち、図3(A)に示すように、一方の開口部14aと他方の開口部14bを結ぶ線分と、一方の把持部17aと他方の把持部17bを結ぶ線分とが同一方向で平行になるように、開口部14及び把持部17を設置する。このようにすることで、浸漬式測定機器10を流路内に浸漬させる際に、開口部14の位置を視認することが困難な場合にも把持部17の位置関係によって開口部14の位置を設定することができる。もちろん、開口部14と把持部17との位置関係は必ずしも平行にする必要はなく、フランジ13に目印等を設置することによって開口部14の位置を把握するようにしてもよい。
【0047】
本発明では、測定流体が固形物を含んだスラリー流体であってもよい。例えば、上述のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法のように、被測定液が粒径1.4mm以下のニッケル酸化鉱石を含むスラリーや、硫酸浸出した後の浸出残渣を含むスラリーなどに対しても使用することができる。
【0048】
保護管12は、上記スラリーの流れによる衝撃から内部の測定部11を保護するために金属製であることが好ましい。また、酸性溶液中などにおいて保護管12が腐食するのを防止するために、保護管12は、ステンレス製であることが好ましい。
【0049】
本発明の一態様では、開口部14は垂直方向に切欠けられており、保護管12の上方の複数の切欠き15(15a,15b,15c,15d)は被測定液が流れる方向に沿って水平方向に設けられていることが好ましい。複数の切欠き15は保護管の全体に亘って設けることが望ましいが、数や間隔は特に限定はされない。保護管12の底部に垂直方向に切り欠いて設けられた開口部14は、図3(A)に示すように、流路内の被測定液が開口部の一方14aから他方14bへと通過する流路となっており、その流れの一部が開口部14の上方に設置された測定部11へと流れるようになっている。また、保護管の上方に複数設けられた水平方向の切欠き15(15a,15b,15c,15d)は、開口部14から測定部11へと流れた被測定液が上方の切欠き15から流れ出る抜け口の経路として形成するとともに、浸漬式測定機器10を流路内に浸漬させた際に、流路内の流れを妨げないようにすることもできる。
【0050】
開口部14及び複数の切欠き15の位置に関しては、保護管12を基点に流路の上流側に向かう方向を正面とすると、開口部14は保護管12底部の正面側(上流側)と背面側(下流側)にそれぞれ設け、複数の切欠き15は保護管12の側面側に設けることが好ましい。なお、複数の切欠き15は、図2図3(A)、(B)では4箇所に設けているが、この数に限定されるわけでは無く、流路の流速や測定の条件などに応じて適宜設定すればよい。また、それぞれの切欠き15は、保護管12の円周の約半分に亘って設けられていることが好ましい。一例として、外径160mmの保護管の場合、切欠き15は、少なくとも50mm×50mm以上の大きさであることが望ましい。なお、開口部14の位置として、流れの反対側に切欠きを設けることも考えられるが、反対側面のみでは開口部が小さく、つまりの原因となる恐れがある。そのため、流体による直接な流れが当たらず、かつ、開口部の面積を広くするために垂直方向に設けることが好ましい。
【0051】
<3.浸漬式測定機器使用方法>
次に、本発明の一態様に係る浸漬式測定機器使用方法について説明する。本発明の一態様は、上述した浸漬式測定機器10を用いた、浸漬式測定機器使用方法であって、水路内の被測定液の流れ方向と保護管12の切欠き15の位置を、把持部17を用いて設定可能であり、水路の流れ方向に対して保護管12の底部の開口部14の位置が平行で、保護管12の上部の切欠き15に平行になるように設定する。
【0052】
図4(A)は、流路内の流体の特性を測定するために本発明の一実施形態に係る浸漬式測定機器を設置した状態を示す概略図であり、図4(B)は、流路に設置した本発明の一実施形態に係る浸漬式測定機器を上方から見た平面図である。なお、図4(A)においては、図面の左側から右側へと流体が流れているとする。本発明では、保護管12により測定部11を保護することで、測定部11、例えば、センサーとしてのガラス電極及び電極ホルダが流体の流れから生じる衝撃によって損傷するのを防止する。また、測定部11(ガラス電極等)にスラリー等の流体が直接流れるのを防ぐために、開口部14及び複数の切欠き15(15a,15b,15c,15d)を測定部11(ガラス電極等)からずらした位置に設けている。
【0053】
例えば、流体が固形物を含んだスラリーの場合、浸漬式測定機器10を浸漬し続けると保護管12内に固形物が堆積して詰まりが生じ、流体が測定部11を通過せず正しい測定ができない場合がある。この状態を解消するためには測定部11及び保護管12の清掃が必要になるが、そのためには保護管12を水路より引き出さなければならない。
【0054】
保護管12は測定流体の流速が速い場合に、保護管12の破損や曲がりを防止するために、例えば上述したような金属製(ステンレス製)の材質を使用しており、20kgを超えるような重量物となる。このため、作業者一人での取り扱いが困難であり、人力であれば複数人で引き出すか、何らかの吊り具を使用して引き出す事となる。吊り具を使用しての引き出し(吊り上げ)には、保護管12に吊り具を接続する必要があるが、従来の保護管には吊り上げ用の属具がなく、吊り具を接続するために、人力によって一度、保護管を持ち上げる必要があった。また、吊り上げ時に保護管下部にある切欠き位置が見えないため、角度がずれると切欠き位置が電極部と重なってしまい、電極部の損傷が懸念されていた。
【0055】
このため、本発明の浸漬式測定機器10を使用する事により、上部のフランジ13に吊部16を設けることで、重量物である保護管12を一人で安全に取り扱うことができるようにした。すなわち、浸漬式測定機器10の点検、清掃が必要になった際には、保護管12の上部に装備されたフック等の吊部16に吊り具を接続し、チェーンブロックなどの吊り上げ装置を使用して吊り上げることができるため、作業安全性を向上させることができる。
【0056】
また、図4(A)、(B)に示すように、流路に蓋部材21が設置され、蓋部材21に設けた孔から浸漬式測定機器10を挿入して浸漬させるような場合、直接開口部14の位置を視認することができない。このため、本発明の一態様では、把持部17を開口部14により被測定液が流れる方向と平行に設けることによって、把持部17の位置を調整することで、水路内の被測定液の流れ方向と保護管12の切欠き15の位置を設定することが可能となる。したがって、保護管12の点検、清掃を終え、再度水路に浸漬させる際には、保護管12上部のフランジ13に設けたハンドル等の把持部17を把持し、図4(B)に示すように、把持部17を流体の流れの方向と平行になるように向けることで開口部14及び切欠き15の位置を設定することができる。
【0057】
本発明の一態様では、水路内の流体の流速が1.5m/sec以上、4.0m/sec以下であることが好ましい。上記流速の範囲内であれば、測定部11による測定のための定格流速の範囲内であることが多いため望ましい。
【0058】
また、本発明の一態様では、保護管12の長さが、水路の深さD以上で、保護管12の底面が、水路の底部に接するように配置されているようにしてもよい。保護管12の底面が、水路の底部に接するように配置することで、流れによって保護管12が振動して不安定になることを防止することができる。なお、保護管12の長さが水路の深さDを超える部分については、流路の蓋部材21の上面に出ることになる。
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、測定部を流体の流れから保護しながら、作業安全性を向上させることができる。
【実施例0060】
以下、本発明について、具体的な実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
(実施例)
一実施例として、測定部にpH計(Rosemount製、型番:5081-P-HT-20-67)を使用した。pH計の保護管は、ステンレス316L製で、内径160mm、外径168mmのものを使用し、pH計の電極部の上部に位置する保護管の側面に高さ50mm、幅80mmの切欠きを100mm間隔で5箇所に設けた。保護管の長さは、水路の深さと同様の1500mmとし、保護管の底面が、水路の底部に接するように配置した。この時の水路内の排水の流速は、定格流速である3.05m/sであった。
【0062】
従来の保護管は重量物のため、引き出し作業の際に二人の作業者が必要であったが、上述の本発明の一実施例に係る浸漬式測定機器を適用することにより、作業者一人でチェーンブロックを使用しての引き出し作業が可能になった。また、人力での引き出し作業が不要になったため、腰痛等のけがのリスクがなくなり、作業安全性が向上することを確認することができた。
【0063】
なお、上記のように本発明の一実施形態および各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0064】
例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、浸漬式測定機器及び浸漬式測定機器使用方法の構成も本発明の一実施形態および各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 浸漬式測定機器、11 測定部、12 保護管、13 フランジ、14,14a,14b 開口部、15,15a,15b,15c,15d 切欠き、16 吊部、17,17a,17b 把持部、21 蓋部材、D 水路の深さ
図1
図2
図3
図4