(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151472
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】表面修飾ポリイミド多孔質膜、及び表面修飾ポリイミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/40 20060101AFI20241018BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C08J9/40 CFG
C08J7/00 306
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064824
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】植松 照博
(72)【発明者】
【氏名】細谷 守
(72)【発明者】
【氏名】秋山 智
(72)【発明者】
【氏名】川村 芳次
【テーマコード(参考)】
4F073
4F074
【Fターム(参考)】
4F073AA32
4F073BA31
4F073BB04
4F073CA02
4F073DA08
4F073HA03
4F073HA09
4F073HA12
4F074AA74
4F074CC10Y
4F074CE16
4F074CE56
4F074CE98
4F074DA23
4F074DA47
4F074DA59
(57)【要約】
【課題】良好な金属除去性を示す表面修飾ポリイミド多孔質膜、及び表面修飾ポリイミドの製造方法を提供すること。
【解決手段】金属吸着性官能基を有するグラフト鎖を表面に有し、20°以下の接触角と500nm以下の表面粗さRzとを有する表面修飾ポリイミド多孔質膜を用いる。また、(a)アルゴンよりも分子量の低い分子のガスを用いて、ポリイミドの表面の少なくとも一部にプラズマ処理を行う工程と、(b)プラズマ処理を行ったポリイミドを、金属吸着性官能基を有するモノマーに接触させる工程とを含む、方法により表面修飾ポリイミドを製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質ポリイミドと、前記多孔質ポリイミドの表面の少なくとも一部に形成されたグラフト鎖とを含む表面修飾ポリイミド多孔質膜であって、
前記グラフト鎖が、金属吸着性官能基を有し、
前記ポリイミド多孔質膜の表面の接触角が、20°以下であり、
前記ポリイミド多孔質膜の表面粗さRzが、500nm以下である、表面修飾ポリイミド多孔質膜。
【請求項2】
前記金属吸着性官能基が、スルホ基、-NR1R2(R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を表す)で表される基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、-N+R3R4R5(R3、R4、及びR5は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を表す)で表される基、及びホスホリル基からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の表面修飾ポリイミド多孔質膜。
【請求項3】
X線光電子分光法により求めた硫黄元素比率が1atm%以上である、請求項1又は2に記載の表面修飾ポリイミド多孔質膜。
【請求項4】
(a)アルゴンよりも分子量の低い分子のガスを用いて、ポリイミドの表面の少なくとも一部にプラズマ処理を行う工程と、
(b)プラズマ処理を行ったポリイミドを、金属吸着性官能基を有するモノマーに接触させる工程とを含む、表面修飾ポリイミドの製造方法。
【請求項5】
前記ポリイミドが、多孔質ポリイミドである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ガスが、ヘリウムガス、酸素ガス、及び窒素ガスからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記プラズマ処理のRF電力が100W以上である、請求項4又は5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面修飾ポリイミド多孔質膜と、表面修飾ポリイミドの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属イオンを含む液体から金属イオンを除去するために、種々の材料が検討されている。例えば、特許文献1には、特定の官能基を有する樹脂が基材表面に物理的に付着した金属イオン吸着体が提案されている。また、ナイロンも一定の金属吸着性を有することが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、樹脂の溶液を用いて基材表面の処理を行うことにより、基材に金属除去性を付与している。しかし、基材が多孔質材料である場合、特許文献1に記載の方法では、樹脂の溶液の粘度や、樹脂の溶液と基材との濡れ性次第では、基材の細孔の表面に十分な金属除去性を付与しにくかった。
そこで、本発明者らは、ポリイミドに対してプラズマグラフト重合を行い、金属吸着性の官能基を有する分子を化学的に結合させることを検討した。プラズマガスや、一般的に粘度が低いグラフトモノマーやグラフトモノマーの溶液が、多孔質材料の細孔に侵入しやすいためである。しかし、この方法についても、金属吸着性に優れるポリイミドを得にくいという問題があった。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、良好な金属除去性を示す表面修飾ポリイミド多孔質膜、及び表面修飾ポリイミドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、金属吸着性官能基を有するグラフト鎖を表面に有し、所定の接触角と所定の表面粗さRzとを有する表面修飾ポリイミド多孔質膜によって、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0007】
[1]多孔質ポリイミドと、前記多孔質ポリイミドの表面の少なくとも一部に形成されたグラフト鎖とを含む表面修飾ポリイミド多孔質膜であって、
前記グラフト鎖が、金属吸着性官能基を有し、
前記ポリイミド多孔質膜の表面の接触角が、20°以下であり、
前記ポリイミド多孔質膜の表面粗さRzが、500nm以下である、表面修飾ポリイミド多孔質膜。
【0008】
[2]前記金属吸着性官能基が、スルホ基、-NR1R2(R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を表す)で表される基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、-N+R3R4R5(R3、R4、及びR5は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を表す)で表される基、及びホスホリル基からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]に記載の表面修飾ポリイミド多孔質膜。
【0009】
[3]X線光電子分光法により求めた硫黄元素比率が1atm%以上である、[1]又は[2]に記載の表面修飾ポリイミド多孔質膜。
【0010】
[4](a)アルゴンよりも分子量の低い分子のガスを用いて、ポリイミドの表面の少なくとも一部にプラズマ処理を行う工程と、
(b)プラズマ処理を行ったポリイミドを、金属吸着性官能基を有するモノマーに接触させる工程とを含む、表面修飾ポリイミドの製造方法。
【0011】
[5]前記ポリイミドが、多孔質ポリイミドである、[4]に記載の製造方法。
【0012】
[6]前記ガスが、ヘリウムガス、酸素ガス、及び窒素ガスからなる群より選択される少なくとも1種を含む、[4]又は[5]に記載の製造方法。
【0013】
[7]前記プラズマ処理のRF電力が100W以上である、[4]~[6]のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好な金属除去性を示す表面修飾ポリイミド多孔質膜、及び表面修飾ポリイミドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1で得られた多孔質膜のSEM観察像を示す図である。
【
図2】比較例1で得られた多孔質膜のSEM観察像を示す図である。
【
図3】比較例2で得られた多孔質膜のSEM観察像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
≪表面修飾ポリイミド多孔質膜≫
表面修飾ポリイミド多孔質膜は、多孔質ポリイミドと、多孔質ポリイミドの表面の少なくとも一部に形成されたグラフト鎖とを含む。グラフト鎖は、金属吸着性官能基を有する。表面修飾ポリイミド多孔質膜の表面の接触角は20°以下であり、表面粗さRzは500nm以下である。以下、表面修飾ポリイミド多孔質膜について、単に「多孔質膜」とも記載する。このような表面修飾ポリイミド多孔質膜は、良好な金属除去性を示す。
【0018】
表面修飾ポリイミド多孔質膜により除去可能な金属イオンの種類、価数等は特に限定されない。金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、チタニウムイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、銀イオン、ヒ素イオン、ストロンチウムイオン、ジルコニウムイオン、カドミウムイオン、錫イオン、バリウムイオン、及び鉛イオン等が挙げられる。
【0019】
多孔質膜の表面の接触角は、20°以下であり、好ましくは10°以下である。接触角の下限は特に限定されない。20°以下であることにより、優れた金属除去性が得られやすい。
本明細書において、接触角は、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0020】
多孔質膜の表面粗さRz(最大高さ粗さ)は、500nm以下であり、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下である。表面粗さRzの下限は特に限定されないが、例えば、50nm以上である。500nm以下であることにより、多孔質膜の金属除去性が良好である。
多孔質膜の表面粗さRaは、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。表面粗さRaの下限は特に限定されないが、例えば、10nm以上である。200nm以下であると、多孔質膜の金属除去性が良好である。
本明細書において、表面粗さRz及びRaは、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0021】
多孔質膜の表面において、X線光電子分光法(XPS)により求めた硫黄元素比率は、好ましくは0.5atm%以上であり、より好ましくは1atm%以上である。硫黄元素比率の上限は特に限定されないが、例えば、0.25atm%以下である。0.5atm%以上であると、優れた金属除去性が得られやすい。
本明細書において、硫黄元素比率は、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0022】
多孔質膜の膜厚は特に限定されず、用途に応じて適宜決定される。典型的には、多孔質膜の膜厚は、20μm以上が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましく、30μm以上100μm以下がさらに好ましい。
【0023】
<多孔質ポリイミド>
多孔質ポリイミドは、ポリイミド樹脂、又はポリイミド樹脂を含有するポリイミド樹脂組成物からなる多孔質材料である。
多孔質材料における空隙の形状は、多孔質膜が、一方の主面から他方の主面へ流体を流通させることができる限り特に限定されない。
多孔質ポリイミドを構成する多孔質材料は、それぞれ所望の空隙率を有し、後述するように、球状孔が相互に連通した構造(以下、連通孔と略称する)を有するのが好ましい。
孔の形状に関する球状は、真球状を含む概念であるが、必ずしも真球のみに限定されない。球状とは、実質的に真球状であればよく、孔部の拡大像を目視により確認した場合に略真球状と認識できる形状も、球状に含まれる。
具体的には球状孔では、孔部を規定する面が曲面であり、当該曲面により真球状又は略真球上の空孔が規定されていればよい。
【0024】
例えば、多孔質ポリイミドについて、個々の球状孔は、典型的には、後述するポリイミド樹脂-微粒子複合膜中に存在する個々の微粒子が後工程で除去されることにより形成される。
また、連通孔は、多孔質ポリイミドの製造方法において、ポリイミド樹脂-微粒子複合膜中にそれぞれ接して存在する複数の微粒子が、後工程で除去されることにより形成される。連通孔における球状孔が連通する箇所は、除去される前の複数の微粒子が互いに接触する箇所に由来する。
【0025】
多孔質ポリイミドの開口部の直径は、優れた流体の通過速度と、多孔質ポリイミドの強度との両立の点で、50nm以上3000nm以下が好ましく、100nm以上2000nm以下がより好ましく、200nm以上1000nm以下がさらに好ましい。
開口部の直径は、連通孔を構成する球状孔の直径と同等又は略同等である。
多孔質ポリイミドは、多孔質膜を厚さ方向に貫通する、連通孔を流体の流路として内部に有する。これにより流体は、多孔質膜の一方の主面から、他方の主面へと透過できる。
また、多孔質膜をフィルターとして用いる場合、流体は個々の球状孔を規定する曲面に接触しながら多孔質膜の内部を通過する。多孔質膜の内部における流体の接触面積は、球状孔からなる連通孔を備えることに起因してかなり広い。このため、流体を多孔質膜を含む積層体を通過させると、多孔質膜内の球状孔に、流体内に存在する微小な物質が吸着しやすいと考えられる。
【0026】
多孔質ポリイミドの空隙率は、優れた流体の通過速度の点で、60%以上が好ましく、65%以上85%以下がより好ましく、70%以上80%以下がさらに好ましい。
【0027】
空隙率は、例えば、多孔質ポリイミドの単位体積あたりの空隙の割合を示す。空隙率は、以下の式(A)によって算出することができる。
空隙率(%)={試験片の体積(cm3)-[試験片の重量(g)/ポリイミド樹脂又はポリイミド樹脂組成物の比重(g/cm3)]}/試験片の体積(cm3)×100・・・(A)
後述するように多孔質ポリイミドを製造する際に用いられる微粒子の粒径や含有量を適宜調整することにより空隙率を所望の値に調整できる。
【0028】
[多孔質ポリイミドの製造方法]
好ましい多孔質ポリイミドである、球状孔が相互に連通した連通孔を内部に含む多孔質ポリイミドは、例えば、以下の方法により製造される。
【0029】
具体的には、
多孔質ポリイミド製造用組成物を用いて基板上に未焼成複合膜を成膜する未焼成複合膜成膜工程と、
未焼成複合膜を焼成してポリイミド樹脂-微粒子複合膜を得る焼成工程と、
ポリイミド樹脂-微粒子複合膜から微粒子を除去する、微粒子除去工程と、を含む方法である。
【0030】
以下、多孔質ポリイミド製造用組成物について詳細に説明する。
【0031】
〔多孔質ポリイミド製造用組成物〕
多孔質ポリイミド製造用組成物は、ポリイミド樹脂を生成し得る化合物を含有する。
ポリイミド樹脂を生成し得る化合物は、ポリイミド樹脂形成用の単量体であってもよく、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸であってもよい。
ポリイミド樹脂を生成し得る化合物としては、ポリアミド酸が好ましい。
【0032】
以下、多孔質ポリイミド製造用組成物に含まれる、必須又は任意の成分について説明する。
【0033】
(ポリアミド酸)
ポリアミド酸としては、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合して得られる樹脂を、特に限定なく使用できる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されない。テトラカルボン酸二無水物1モルに対するジアミンの使用量は、0.50モル以上1.50モル以下が好ましく、0.60モル以上1.30モル以下がより好ましく、0.70モル以上1.20モル以下が特に好ましい。
【0034】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよい。得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は1種類を単独で又は二種以上混合して用いることもできる。
【0036】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。ジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2個以上10個以下程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0038】
フェニレンジアミンはm-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン等であり、フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4-ジアミノトルエン、2,4-トリフェニレンジアミン等である。
【0039】
ジアミノビフェニル化合物では、2つのアミノフェニル基同士が結合している。例えば、4,4’-ジアミノビフェニル等である。
【0040】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合した化合物である。結合はエーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等である。アルキレン結合の炭素原子数は1~6程度である、アルキレン基の誘導体基は、1以上のハロゲン原子等で置換されたアルキレン基である。
【0041】
ジアミノジフェニル化合物の例としては、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルケトン、3,4’-ジアミノジフェニルケトン、2,2-ビス(p-アミノフェニル)プロパン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-1-ペンテン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-2-ペンテン、イミノジアニリン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)ペンタン、ビス(p-アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニル尿素、4,4’-ジアミノジフェニルアミド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等が挙げられる。
【0042】
これらの中では、価格、入手容易性等から、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0043】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基がいずれも他の基を介して結合した化合物である。他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様の基が選ばれる。ジアミノトリフェニル化合物の例としては、1,3-ビス(m-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。
【0044】
ジアミノナフタレンの例としては、1,5-ジアミノナフタレン及び2,6-ジアミノナフタレンを挙げることができる。
【0045】
アミノフェニルアミノインダンの例としては、5又は6-アミノ-1-(p-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダンを挙げることができる。
【0046】
ジアミノテトラフェニル化合物の例としては、4,4’-ビス(p-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’-ビス[p-(m-アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0047】
カルド型フルオレンジアミン誘導体は、9,9-ビスアニリンフルオレン等が挙げられる。
【0048】
脂肪族ジアミンの炭素原子数は、例えば、2~15程度がよい。脂肪族ジアミンの具体例としては、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0049】
なお、これらのジアミンの水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等の群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。
【0050】
ポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0051】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しない溶剤であれば特に限定されない。溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類、キシレン系混合溶媒等のフェノール系溶剤が挙げられる。
これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5~50質量%とするのが望ましい。
【0053】
これらの溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。
【0054】
重合温度は一般的には-10℃以上120℃以下、好ましくは5℃以上30℃以下である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3時間以上24時間以下である。
ポリアミド酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
(ポリイミド樹脂)
ポリイミド樹脂は、その構造や分子量が限定されることはなく、公知のポリイミド樹脂を使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。また、多孔質ポリイミド製造用組成物が溶剤を含有する場合、使用する溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドが好ましい。
【0056】
溶剤に可溶なポリイミド樹脂とするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するための単量体の使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2-メチル-1,4-フェニレンジアミン、o-トリジン、m-トリジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。さらに、上記ポリイミド樹脂の溶解性を向上するための単量体に加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記した単量体と同じ単量体を併用することもできる。
ポリイミド樹脂及びその単量体の各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
ポリイミド樹脂を製造する手段に特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸を化学イミド化又は加熱イミド化させる方法等の公知の手法を用いることができる。そのようなポリイミド樹脂としては、脂肪族ポリイミド樹脂(全脂肪族ポリイミド樹脂)、芳香族ポリイミド樹脂等を挙げることができ、芳香族ポリイミド樹脂が好ましい。芳香族ポリイミド樹脂としては、式(1)で示す繰り返し単位を有するポリアミド酸を熱又は化学的な手段で閉環反応させることによって取得したポリイミド、若しくは式(2)で示す繰り返し単位を有するポリイミド等が挙げられる。式中、Arはアリール基を示す。多孔質ポリイミド製造用組成物が溶剤を含有する場合、これらのポリイミド樹脂は、次いで、使用する溶剤に溶解させるとよい。
【化1】
【化2】
【0058】
(微粒子)
微粒子の材質は、多孔質ポリイミド製造用組成物に含まれる溶剤に不溶で、後にポリイミド樹脂-微粒子複合膜から除去可能であれば、特に限定されることなく公知の材質が採用可能である。例えば、無機材料としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al2O3)等の金属酸化物、有機材料としては、高分子量オレフィン(ポリプロピレン,ポリエチレン等)、ポリスチレン、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル等の有機高分子微粒子が挙げられる。
【0059】
具体的に微粒子としては、例えば、コロイダルシリカが挙げられる。中でも単分散球状シリカ粒子を選択する場合、均一な孔を形成できるために好ましい。
【0060】
また、微粒子について、真球率が高く、粒径分布指数が小さいのが好ましい。これらの条件を備えた微粒子は、多孔質ポリイミド製造用組成物中での分散性に優れ、互いに凝集しない状態で使用することができる。使用する微粒子の平均粒径は、多孔質ポリイミドの表面における開口径や多孔質膜の膜厚を勘案して適宜選択される。微粒子の平均粒径は、例えば、50nm以上が好ましく、100nm以上2000nm以下がより好ましく、200nm以上1000nm以下がさらに好ましい。これらの条件を満たすことで、微粒子を取り除いて得られる多孔質ポリイミドの孔径を揃えることができる。
微粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
(溶剤)
溶剤としては、溶剤が、ポリアミド酸及び/又はポリイミド樹脂を溶解させ、微粒子を溶解させなければ、特に限定されない。溶剤の好適な例としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応について例示した溶剤が挙げられる。溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
(分散剤)
多孔質ポリイミド製造用組成物の微粒子を均一に分散することを目的に、微粒子とともにさらに分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、微粒子を多孔質ポリイミド製造用組成物中に一層均一に混合でき、さらには、多孔質ポリイミド製造用組成物を成膜した膜中で、微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られる多孔質ポリイミドの表面に稠密な開口を設け、且つ、表裏面を効率よく連通させることが可能となり、多孔質膜の透気度が向上する。さらに、分散剤を添加することにより、多孔質ポリイミド製造用組成物の乾燥性が向上しやすく、また、形成された未焼成複合膜の基板等からの剥離性が向上しやすい。
【0063】
分散剤は、特に限定されることなく、公知の分散剤を使用することができる。例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記分散剤は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0064】
多孔質ポリイミド製造用組成物において、分散剤の含有量は、例えば、成膜性の点で、上記微粒子の質量に対し0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%がさらにより好ましい。
【0065】
<グラフト鎖>
グラフト鎖は、多孔質ポリイミドの表面の少なくとも一部に形成されている。すなわち、多孔質ポリイミドとは異なる分子が、少なくとも一部の表面に化学的に結合されている。なお、多孔質ポリイミドの表面には孔の表面も含まれる。
【0066】
グラフト鎖は金属吸着性官能基を有する。
金属吸着性官能基は、従来から金属吸着性を示すことが知られている官能基であれば特に限定されず、例えば、スルホ基、-NR1R2(R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を表す)で表される基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、-N+R3R4R5(R3、R4、及びR5は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を表す)で表される基、ホスホリル基、ボロニル基、イミダゾリウム基、ピリジニル基、チオール基、ニトリル基等のイオン交換基が挙げられる。なかでも、良好な金属除去性が得られやすい点から、スルホ基、-NR1R2で表される基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、-N+R3R4R5で表される基、及びホスホリル基からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、スルホ基がより好ましい。
【0067】
R1~R5において、アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよいが、好ましくは直鎖状アルキル基である。アルキル基の炭素原子数は1以上10以下が好ましく、1以上4以下がより好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0068】
金属吸着性官能基を有するグラフト鎖を形成可能なモノマーとしては、ラジカル重合性基と金属吸着性官能基とを有するモノマーが挙げられる。
ラジカル重合性基としては、典型的には、エチレン性不飽和二重結合基が挙げられる。エチレン性不飽和二重結合基としては、ビニル基、及びアリル基等のアルケニル基が好ましく、(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
モノマーの具体例としては、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸、ビニルスルホン酸、3-((メタ)アクリロイルオキシ)プロパン-1-スルホン酸等のスルホ基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、N-(2-アミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-アミノプロピル)(メタ)アクリルアミド等の-NR1R2で表される基を含有するモノマー;N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド、ドーパミン(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ基含有モノマー;6-(メタ)アクリルアミドヘキサン酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2-カルボキシエチル等のカルボキシ基含有モノマー;3-((メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、[2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等の-N+R3R4R5で表される基を含有するモノマー;11-ホスホノウンデシル(メタ)アクリレート、ビニルホスホン酸等のホスホリル基含有モノマー;等やこれらの塩が挙げられる。
【0069】
グラフト鎖には、ラジカル重合性基と金属吸着性官能基とを有するモノマー以外のモノマーに由来する構成単位が含まれていてもよい。
【0070】
グラフト化の方法は、例えば、後述する表面修飾ポリイミドの製造方法に記載された方法が挙げられる。
【0071】
<用途>
多孔質膜は、各種フィルターに加工することができ、例えば、液体に溶解した金属イオンを吸着・回収する分野へ適用できる。具体的には、例えば、半導体製造に用いられる純水に含まれる各種の金属イオンが多孔質膜に捕捉される。
【0072】
≪表面修飾ポリイミドの製造方法≫
表面修飾ポリイミドの製造方法は、(a)アルゴンよりも分子量の低い分子のガスを用いて、ポリイミドの表面の少なくとも一部にプラズマ処理を行う工程と、(b)プラズマ処理を行ったポリイミドを、金属吸着性官能基を有するモノマーに接触させる工程とを含む。
【0073】
<工程(a)>
工程(a)では、アルゴンよりも分子量の低い分子のガスを用いて、ポリイミドの表面の少なくとも一部にプラズマ処理を行う。これにより、ポリイミドの表面にラジカルを発生させ、次の工程(b)においてグラフト重合を進行させることができる。
また、このようにプラズマ処理を行うことにより、ポリイミドの表面におけるダメージの発生が抑制される。
【0074】
ポリイミドとしては、粉体、ビーズ、ペレット等の粒子、チューブ、単繊維、撚糸等の複合繊維、及び多孔質材料等が好ましく、多孔質材料(多孔質ポリイミド)がより好ましく、金属除去性を有する材料として用いる場合に、取り扱いが容易であり、且つ、金属イオンを含む液と接触面積を稼ぎやすい点から、多孔質材料からなる膜(ポリイミド多孔質膜)がさらに好ましい。
【0075】
プラズマ処理は、アルゴンよりも分子量の低い分子のガスを用いること以外は従来公知の方法により行うことができる。ポリイミドが膜状である場合、ポリイミド膜の両面をプラズマ処理してもよいし、いずれか一方の面をプラズマ処理してもよい。
【0076】
アルゴンよりも分子量の低い分子のガスとしては、例えば、ヘリウムガス、酸素ガス、窒素ガス、ネオンガス、水素ガス等が挙げられる。なかでも、特に良好な金属吸着性とダメージ抑制を示しやすい点から、ヘリウム、酸素、窒素が好ましく、ヘリウムがより好ましい。
【0077】
ポリイミドに対するプラズマ照射時間は、所望する性能が得られる限り特に限定されないが、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上であり、また、好ましくは20分以下、より好ましくは10分以下である。RF電力は、ダメージが生じやすいために本発明の効果が発揮されやすい点から、好ましくは100W以上、より好ましくは300W以上、さらに好ましくは400W以上であり、好ましくは2000W以下、より好ましくは1000W以下、さらに好ましくは600W以下である。処理室の圧力は、好ましくは1Pa以上であり、好ましくは15Pa以下である。
【0078】
<工程(b)>
工程(b)では、プラズマ処理を行ったポリイミドを、金属吸着性官能基を有するモノマーに接触させる。これにより、グラフト重合が進行し、少なくとも一部の表面にグラフト鎖が形成されたポリイミドを製造できる。
【0079】
金属吸着性官能基を有するモノマーとしては、上述の表面修飾ポリイミド多孔質膜において、金属吸着性官能基を有するグラフト鎖を形成可能なモノマーとして挙げた化合物を使用できる。
【0080】
接触方法は特に限定されず、浸漬法、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法等が挙げられる。なかでも、多孔質ポリイミドである場合に均一に処理しやすい点から、浸漬法が好ましい。
【0081】
接触後のグラフト重合条件としては、モノマーの反応性にもよるが、例えば、40℃以上100℃以下に加熱することが好ましい。また、グラフト重合時にはモノマー溶液を窒素等でバブリングすることが好ましい。これらにより、グラフト重合が良好に進行しやすい。
【0082】
工程(b)の後、洗浄や乾燥等の後処理を行うことができる。
洗浄により、得られた表面修飾ポリイミドにおいて、未反応のモノマーやその他の不要な成分を除去することができる。洗浄方法は特に限定されないが、浸漬あるいは圧入法で表面修飾ポリイミドに洗浄溶媒を浸透させ、その後、除去すればよい。洗浄溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、クロロホルム、およびこれらいずれか2つ以上の混合溶媒を挙げることができる。
乾燥の手段としては、加温、風、減圧等が挙げられ、特に限定されないが、製造工程の簡便性から風乾燥、加温乾燥が好ましく、風乾燥がより好ましい。乾燥は、単に放置することにより達成されてもよい。
【実施例0083】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
【0084】
〔実施例1〕
下記式で表される構造単位を有する多孔質ポリイミド膜を100mm×100mmにカットした。
【化3】
カットした多孔質ポリイミド膜を、プラズマ処理装置(TCE-4802、東京応化工業株式会社製)の処理室に設置し、以下の条件でプラズマ処理を行った。
・ガス:ヘリウム(100cc)
・RF電力:500W(13.56MHz)
・処理室圧力:2~3Pa
・処理時間:1分
・両面処理
【0085】
2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、エタノール、及び脱イオン水を10:20:70の質量比率で混合した。混合液に対して、泡立たない程度に室温で約3~5時間の窒素バブリングを行い、モノマー溶液を調製した。
モノマー溶液にプラズマ処理直後の多孔質ポリイミド膜を浸漬し、窒素バブリングを行いながら60℃で3.5時間反応させて、グラフト重合を行った。
モノマー溶液から取り出した多孔質ポリイミド膜に対し、水洗浄、エタノール洗浄、及び水洗浄を順に行った。洗浄した多孔質ポリイミド膜をエアブローで乾燥させ、表面修飾ポリイミド多孔質膜を得た。
【0086】
〔実施例2〕
プラズマ処理におけるガスとして、ヘリウムガスの代わりに酸素ガスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面修飾ポリイミド多孔質膜を得た。
【0087】
〔実施例3〕
プラズマ処理におけるガスとして、ヘリウムガスの代わりに窒素ガスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面修飾ポリイミド多孔質膜を得た。
【0088】
〔実施例4〕
モノマーとして、AMPSの代わりにアクリルアミドを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面修飾ポリイミド多孔質膜を得た。
【0089】
〔実施例5〕
モノマーとして、AMPSの代わりにN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面修飾ポリイミド多孔質膜を得た。
【0090】
〔実施例6〕
モノマーとして、AMPSの代わりに6-アクリルアミドヘキサン酸を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面修飾ポリイミド多孔質膜を得た。
【0091】
〔実施例7〕
モノマーとして、AMPSの代わりに(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面修飾ポリイミド多孔質膜を得た。
【0092】
〔実施例8〕
モノマーとして、AMPSの代わりにドーパミンメタクリルアミドを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面修飾ポリイミド多孔質膜を得た。
【0093】
〔比較例1〕
プラズマ処理を行わず、未処理の多孔質ポリイミド膜をモノマー溶液に浸漬したこと以外は、実施例1と同様にして、表面修飾ポリイミド多孔質膜を得た。
【0094】
〔比較例2〕
プラズマ処理におけるガスとして、ヘリウムガスの代わりにアルゴンガスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面修飾ポリイミド多孔質膜を得た。
【0095】
〔比較例3〕
多孔質ポリイミド膜の代わりにポリプロピレン膜を用いたこと以外は、比較例2と同様にして、プラズマ処理を行った。プラズマ処理の熱によりダメージが生じたので、モノマー溶液への浸漬は行わなかった。金属除去性は示さなかった。
【0096】
〔比較例4〕
多孔質ポリイミド膜の代わりにナイロン膜を用いたこと以外は、比較例2と同様にして、プラズマ処理を行った。プラズマ処理の熱によりダメージが生じたので、モノマー溶液への浸漬は行わなかった。
【0097】
<接触角>
Dropmaster700(協和界面科学株式会社製)を用い、表面修飾ポリイミド多孔質膜の表面に純水液滴(2.0μL)を滴下して、滴下2秒後における接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0098】
<表面粗さRz及びRa>
得られた表面修飾ポリイミド多孔質膜を平坦なガラス基板上に広げた。その際、PETフィルムを用いて、ガラス基板と多孔質膜との間の空気を抜くことにより、多孔質膜に生じた皺を伸ばした。そして、タカノ社製のワイドレンジAFM AS-7B-μXを用い、下記の条件に従って、表面粗さRz及びRaの測定を行った。結果を表1に示す。
測定範囲:10μm×10μm
【0099】
<硫黄元素比率>
K-アルファ(登録商標)XPSシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用い、得られた表面修飾ポリイミド多孔質膜の表面における硫黄元素比率を測定した。結果を表1に示す。
【0100】
<金属除去性>
試験液として、金属標準液XSTC-622B(SPEX社製)が、各金属元素について濃度20質量ppbになるように添加されたイソプロピルアルコール(IPA)30mLを用いた。
得られた表面修飾ポリイミド多孔質膜を、試験液に室温で6時間浸漬した後、取り出した。残された試験液を金属イオン濃度測定用のサンプルとした。
誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)により、サンプル中の28種類の金属イオン量C(質量ppb)を測定した。
得られた金属イオン量Cの値を用いて、下記式:
金属イオン除去率(%)=100-C(質量ppb)/20(質量ppb)×100
に従って、金属イオン除去率(%)を算出した。ステンレス鋼(SUS)成分に関係するクロムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、及びニッケルイオンの金属イオン除去率の算術平均値について、以下の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
〇:未処理のナイロンよりも除去率が高い
△:金属除去性を示すが、未処理のナイロンよりも除去率が低い
×:金属除去性を示さない
【0101】
<ダメージ>
得られた表面修飾ポリイミド多孔質膜の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、以下の基準に従って評価した。結果を表1に示す。また、実施例1、比較例1及び2のSEM観察像をそれぞれ
図1~3に示す。
〇:外観の変化なし
×:表面荒れ等の外観の変化がある
【0102】
【0103】
実施例と、比較例との比較によれば、アルゴンよりも分子量の低い分子のガスを用いたプラズマ処理により得られた表面修飾ポリイミド多孔質膜であって、金属吸着性官能基を有するグラフト鎖を含み、接触角が20°以下であり、表面粗さRzが500nm以下である多孔質膜は、優れた金属除去性を示し、ダメージ抑制されていることが分かる。
比較例1によれば、プラズマ処理を行わずにモノマーを反応させて得られたポリイミド多孔質膜が、金属吸着性官能基を有するグラフト鎖を含まず、金属除去性に劣ることが分かる。
比較例2によれば、接触角や表面粗さRzが上記数値範囲外であって、アルゴンガスを用いたプラズマ処理により得られた表面修飾ポリイミド多孔質膜は、金属除去性に劣っていたり、ダメージを受けていることが分かる。