(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151511
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】銅製錬の操業方法
(51)【国際特許分類】
C22B 15/00 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
C22B15/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064892
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】川上 明人
(72)【発明者】
【氏名】本村 竜也
(72)【発明者】
【氏名】佐野 浩行
(72)【発明者】
【氏名】大田 滉貴
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001BA10
4K001DA03
4K001GA04
(57)【要約】
【課題】 メタリックCu相の生成を抑制することができる、銅製錬の操業方法を提供する。
【解決手段】 銅製錬の操業方法は、自溶炉の反応シャフトにおいて、銅精鉱とメタリックCuを含む原料とを含む製錬原料を反応ガスと反応させて生成されるマットにおいて、前記メタリックCuのメタル相が生成される場合に、前記マットにS源を添加することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自溶炉の反応シャフトにおいて、銅精鉱とメタリックCuを含む原料とを含む製錬原料を反応ガスと反応させて生成されるマットにおいて、前記メタリックCuのメタル相が生成される場合に、前記マットにS源を添加することを特徴とする銅製錬の操業方法。
【請求項2】
前記マットにおける溶解度を超える量の前記メタリックCuが前記製錬原料に含まれる場合に、前記マットに前記S源を添加することを特徴とする請求項1に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項3】
前記マットのサンプリングによって、前記メタリックCuのメタル相が前記マットに確認された場合に、前記マットに前記S源を添加することを特徴とする請求項1に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項4】
前記S源を前記製錬原料に混合することによって前記S源を前記マットに添加することを特徴とする請求項1に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項5】
前記マットに向かって、インジェクションノズルから不活性ガスとともに前記S源を投入することで、前記S源を前記マットに添加することを特徴とする請求項1に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項6】
団鉱化した前記S源を前記マットに添加することを特徴とする請求項1に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項7】
前記S源を他の製錬原料と混合し団鉱化し、前記マットに添加することを特徴とする請求項1に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項8】
前記S源を他の製錬原料と混合し団鉱化する際に、団鉱の比重を調整することを特徴とする請求項7に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項9】
前記S源をリサイクル原料または他の製錬原料と混合し団鉱化することで、前記リサイクル原料の処理量を増量させることを特徴とする請求項1に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項10】
前記S源の比表面積は、20mm2/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項11】
前記メタリックCuの全量がマット化する量以上の前記S源を前記マットに供給することを特徴とする請求項1に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項12】
前記S源に含まれる全Sを100mass%とした場合に90mass%のSが前記メタリックCuのマット化に寄与すると想定した場合に、前記メタリックCuの全量がマット化する量以上の前記S源を前記マットに供給することを特徴とする請求項1に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項13】
前記S源は、単体硫黄または硫化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項14】
前記S源は、さらにFeを含有していることを特徴とする請求項1に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項15】
前記Feを含む前記S源が、chalcopyrite、pyrite、またはpyrrhotiteであることを特徴とする請求項14に記載の銅製錬の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬自溶炉の反応シャフトでは、精鉱バーナから銅精鉱、溶剤などの製錬原料とともに、反応ガスが投入される。銅精鉱が反応ガスによって酸化反応を起こすことで、反応シャフトの底部でマットおよびスラグが生成する(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-363659号公報
【特許文献2】特開平11-140554号公報
【特許文献3】特公平01-036539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、製錬原料としてリサイクル原料の比率が増加している。しかしながら、リサイクル原料には、メタリックCuが含まれていることがある。リサイクル原料の処理量が増加すると、銅製錬炉へ供給されるメタリックCuの割合が増加してくる。マット溶錬炉である自溶炉へのメタリックCu供給量が増加し、メタリックCuのマットへの溶解度を超過した場合、炉内にスラグ、マット、およびメタルの3相が共存する。自溶炉の炉底にメタルが滞留すると、不純物元素のメタル相への濃縮、低融点メタルの炉底レンガ目地への浸透、またレンガ自体への含浸が促進され、炉底部からの湯漏れ等のリスクが増加する。また、メタル量が一定量を超過してマットタップホールレベルに到達した場合、マットホールから突如メタルが排出され、メタル製のマット樋の溶損リスク、また転炉への高不純物メタルが供給されて操業に支障が生じるおそれもある。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、メタリックCu相の生成を軽減することができる、銅製錬の操業方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る銅製錬の操業方法は、自溶炉の反応シャフトにおいて、銅精鉱とメタリックCuを含む原料とを含む製錬原料を反応ガスと反応させて生成されるマットにおいて、前記メタリックCuのメタル相が生成される場合に、前記マットにS源を添加することを特徴とする。前記マットにおける溶解度を超える量の前記メタリックCuが前記製錬原料に含まれる場合に、前記マットに前記S源を添加してもよい。前記マットのサンプリングによって、前記メタリックCuのメタル相が前記マットに確認された場合に、前記マットに前記S源を添加してもよい。前記S源を前記製錬原料に混合することによって前記S源を前記マットに添加してもよい。前記マットに向かって、インジェクションノズルから不活性ガスとともに前記S源を投入することで、前記S源を前記マットに添加してもよい。団鉱化した前記S源を前記マットに添加してもよい。前記S源を他の製錬原料と混合し団鉱化し、前記マットに添加してもよい。前記S源を他の製錬原料と混合し団鉱化する際に、団鉱の比重を調整してもよい。前記S源をリサイクル原料または他の製錬原料と混合し団鉱化することで、前記リサイクル原料の処理量を増量させてもよい。前記S源の比表面積は、20mm2/g以上であってもよい。前記メタリックCuの全量がマット化する量以上の前記S源を前記マットに供給してもよい。前記S源に含まれる全Sを100mass%とした場合に90mass%のSが前記メタリックCuのマット化に寄与すると想定した場合に、前記メタリックCuの全量がマット化する量以上の前記S源を前記マットに供給してもよい。前記S源は、単体硫黄または硫化物を含んでいてもよい。前記S源は、さらにFeを含有していてもよい。前記Feを含む前記S源が、chalcopyrite、pyrite、またはpyrrhotiteであってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、メタリックCu相の生成を軽減することができる、銅製錬の操業方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る銅製錬用の自溶炉の構成を概略的に示す図である。
【
図3】マットに対するCuの溶解度を表す状態図である。
【
図4】インジェクションノズルを例示する図である。
【
図6】(a)は比較例の結果を示す写真であり、(b)は実施例1の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る銅製錬用の自溶炉100の構成を概略的に示す図である。
図1に示すように、自溶炉100は、精鉱と反応用ガスとが混合する反応シャフト1、セットラ2、アップテイク3を備える。反応シャフト1の天井部には、精鉱バーナ4が備わっている。精鉱バーナ4は、銅精鉱、溶剤、リサイクル原料等(以下、これらの固体原料を製錬原料と称する)とともに、反応用主送風ガス、反応用補助ガス、及び分散用ガス(反応にも寄与する)を反応シャフト1内に供給する。例えば、反応用主送風ガス及び反応用補助ガスは、酸素富化空気であり、分散用ガスは、空気または酸素富化空気である。
【0010】
図2は、精鉱バーナ4の詳細を例示する図であって、製錬原料、反応用主送風ガス、反応用補助ガス、および分散用ガスを反応シャフト1側へ投入する投入部10を示した説明図である。
【0011】
精鉱バーナ4の投入部10は、ランス16を備え、ランス16内には分散用ガスの通る第1通路11、反応用補助ガスが通過する第4通路14が形成されている。第4通路14は、ランス16の中心部分に設けられており、第1通路11は、第4通路14の周囲に設けられている。また、投入部10は、ランス16の外側、より具体的にランス16の外周に設けられた原料流路としての第2通路12を備えている。投入部10は、さらに、第2通路12の外側、より具体的には第2通路12の外周に設けられ、反応用主送風ガスが通過する第3通路13を備えている。第3通路13は、第2通路12を囲むように設けられた管状部分によって形成されており、その上方に設けられた漏斗状のエアチャンバー17と通じている。第2通路12と、第3通路13は、円筒状の仕切り壁21により、仕切られた状態となっている。
【0012】
第1通路11は、分散用ガスを反応シャフト1内へ供給する。第2通路12は、精鉱を反応シャフト1内へ供給する。第3通路13は、反応用主送風ガスをエアチャンバー17から反応シャフト1内へ供給する。また、第4通路14は、反応用補助ガスを反応シャフト1内へ供給する。
【0013】
なお、ランス16の先端部(下端部)には、中空円錐台状の分散コーン15が形成されている。分散コーン15の側面下部151には第1通路11を通過した分散用ガスを反応シャフト1内へ吐出する複数の供給孔152が形成されている。供給孔152は、ガスの吐出方向が分散コーン15の底面円の法線方向となるように設けられている。
【0014】
精鉱バーナ4から製錬原料が反応シャフト1内に投入されると、下記反応式(1)などにより、硫化物を含む銅精鉱が酸化反応を起こし、
図1で例示するように、反応シャフト1の底部でマット5およびスラグ6に分離する。なお、下記反応式(1)で、Cu
2S・FeSがマット5の主成分に相当し、FeO・SiO
2がスラグ6の主成分に相当する。溶剤として、珪酸鉱が用いられている。
CuFeS
2+SiO
2+O
2→Cu
2S・FeS+FeO・SiO
2+SO
2 + 反応熱 (1)
【0015】
リサイクル原料にはメタリックCuが含まれていることがある。メタリックCuの量が少なければ、精鉱バーナ4からの落下の過程でメタリックCuが硫化してマット5となる。したがって、メタル相は生成されない。
【0016】
しかしながら、リサイクル原料の処理量が増えてくると、製錬原料におけるメタリックCuの割合が高くなる傾向にある。近年では、製錬原料におけるCu成分中のメタリックCuの割合が、6.0mass%以上28.0mass%以下、または9.0mass%以上18.0mass%以下、または9.0mass%以上12.0mass%以下となることがある。
【0017】
製錬原料におけるメタリックCuの割合が高くなってくると、精鉱バーナ4からの落下の過程で、メタリックCuが硫化しきれず、メタリックCuのまま落下する。マット5において、ある程度まではメタリックCuがマット5に溶解するものの、溶解限度がある。
図3は、1250℃における、マットに対するCuの溶解度を表す状態図である。
図3において、「matte(l)」は、メタリックCuがマットに溶解可能な範囲を示している。「matte(l)+Cu(l)」は、メタリックCuがマットに溶解できずにメタル相が生成される範囲を示している。なお、
図3の状態図は、「高在越、矢沢彬 1983年 選研彙報」を出展としている。
【0018】
本実施形態においては、自溶炉100内へのメタリックCuの供給量がマット5への溶解度を超過する場合に、メタリックCuのマット化源として、FeおよびSを含む原料(以下、「S源」と称する)を供給する。例えば、
図3の状態図に基づいて、メタリックCuの全量がマット化する量以上のS源を供給する。それにより、メタリックCuが、FeおよびSを含む硫化物の形態となり、マット化してマット5に溶解する。その結果、自溶炉100の炉底におけるメタリックCu相の生成を抑制することができる。
【0019】
メタリックCuの供給量がマット5への溶解度を超過するか否かは、製錬原料に対するサンプリングを行って組成比率を測定することによって、判断することができる。または、反応シャフト1のマット5に対するサンプリングを行なってメタル相が確認された場合に、メタリックCuの供給量がマット5への溶解度を超過すると判断してもよい。
【0020】
S源として、FeS鉱物(pyrrhotite)、FeS2鉱物(pyrite)、CuFeS2鉱物(chalcopyrite)、FeS・FeS2を含有している鉱物、Sを含有する銅精鉱などを用いることができる。FeS鉱物とFeS2鉱物を比較した場合、マット化に必要な硫黄分をより多く含むとされるFeS2鉱物を用いることが好ましい。または、S源として、非鉄金属原料の選鉱工程で発生した、Sを含む排滓などを用いることができる。例えば、浮遊選鉱工程で発生した尾鉱などが、Sを含む排滓の例である。
【0021】
S源に含まれる全Sを100mass%とした場合に、当該100mass%のSがメタリックCuのマット化に寄与しないおそれがある。そこで、余分な量のS源を炉内に投入することが好ましい。例えば、S源に含まれる全Sを100mass%とした場合に90mass%のSがメタリックCuのマット化に寄与すると想定した場合に、
図3の状態図に基づいて、メタリックCuの全量がマット化する量以上のS源を供給することが好ましい。S源に含まれる全Sを100mass%とした場合に80mass%のSがメタリックCuのマット化に寄与すると想定した場合に、
図3の状態図に基づいて、メタリックCuの全量がマット化する量以上のS源を供給することが好ましい。S源に含まれる全Sを100mass%とした場合に70mass%のSがメタリックCuのマット化に寄与すると想定した場合に、
図3の状態図に基づいて、メタリックCuの全量がマット化する量以上のS源を供給することが好ましい。
【0022】
S源として比表面積の大きい粉状原料などを用いると、S源は、反応シャフト1内の反応ガスによる酸化力によって、メタリックCuと反応するよりも先に酸化してしまうおそれがある。そこで、塊状のS源を用いることが好ましい。S源は、比表面積の小さい塊状形状を有していれば、反応シャフト1内を通過する時間内での酸化ロスを抑制でき、そのまま反応シャフト1直下の溶湯落下エリアに着湯し、マット5およびメタリックCuと接触し、反応する。塊状形状を有するS源として、Sを含む粉状原料をペレタイズしたもの、天然鉱物、溶融形成されたものを用いることができる。
【0023】
一方、比表面積が小さすぎるとマット5内に未反応のS源が残留したまま自溶炉から抜き出される恐れがある。未反応であることによりマット化に寄与することができず、その結果、セットラ2の床部にメタル相が形成される恐れがある。そのため、具体的には、S源の比表面積は、20mm2/g以上であることが好ましい。
【0024】
S源は、製錬原料に混合することによって添加してもよい。または、不活性ガスをキャリアとして用いてS源を反応シャフト1内へ投入してもよい。不活性ガスを用いることで、S源の酸化を抑制したままで、マット5およびメタリックCuとS源とを接触させることができる。例えば、
図4で例示するように、反応シャフト1にインジェクションノズル40を設け、当該インジェクションノズル40からS源を反応シャフト1内へと投入することができる。または、反応シャフト1直下のセットラ湯浴に向かって団鉱化したS源または塊状のS源を添加してもよい。例えば、反応シャフト1で生成したスラグおよびマットを主とする溶融液滴は、上部からシャワーのようにセットラ湯浴面に降り注ぎ、溶融液滴が降り注ぐ部分の湯面部に上記団鉱したS源または塊状のS源を供給すると、S源がマット5と接触しSがマット5に供給される。S源の気相内での酸化を可能な限り低減するために比表面積が小さな団鉱とすることが有効である。また、S源のみを団鉱するのではなく、他の製錬原料と混錬、団鉱して比重を調整することで、より効率的にマット5へSを供給することが可能となる。例えばS源とCuを主成分とする粉状リサイクル原料を混錬することで、スラグの比重よりも大きな比重を有する団鉱を形成し、マット5へ到達しやすくすることが可能である。例えば、S源として、銅精鉱のみを団鉱した場合の比重は加圧条件によって異なり、1.4~3.8g/cm
3であるが、銅精鉱にCu系リサイクル原料を重量比5:3で混錬して団鉱化することで、比重は2.1~4.8g/cm
3へ増加する。混錬したリサイクル原料は、団鉱の比重を大きくする目的のみならず、マット内でマット化されるため、自溶炉でのリサイクル原料処理量を効率的に増加させる方法となる。団鉱した原料は、精鉱バーナーを介して炉内に供給してもよいし、セットラ2の天井部から炉内に供給しても良いが、反応シャフト1の直下で生成液滴がシャワー状に落下するエリアに着湯するように供給することが望ましい。また、団鉱した原料の安定性を増すため、バインダー添加や含水率の調整をしてもよく、S源とリサイクル原料の粒度分布と比率を調整してもよい。バインダーとして、自溶炉で処理している微粉原料や製錬所各工程で発生する粉体や液体などの副産物を使用してもよい。更に、団鉱した原料の安定性を増すため、不活性雰囲気化での高温処理や焼結などの工程を含めてもよい。
【実施例0025】
(実施例1)
図5で例示するように、事前に石英タンマン管51内にマット52を充填し、石英タンマン管51をアルミナ坩堝に固定した。次に、アルミナ坩堝ごと電気炉にセットし、溶湯温度1250℃まで昇温した。次に、溶融させたマット52に状態図上で溶解度を超過した量のメタリックCu53を添加し、2分間保持した。メタリックCu53としてφ5mmの球状Cu(純度100%)を使用した。このとき、石英タンマン管51内の溶体は、マット-Cuの2液相共存組成となった。
【0026】
次に、溶体中に共存状態のCuをマット化させるため、S源として、比表面積300~500mm2/g程度となるよう加圧成形したFeS2試薬54を石英タンマン管51内にアルゴンガスとともに添加し、10分間保持した。使用したFeS2試薬54中のFeS2濃度は、87.9mass%とした。次に、冷却過程でのCu析出を回避するため、電気炉からアルミナ坩堝を取り出し、石英タンマン管51ごと氷水に浸けて急冷した。
【0027】
(比較例)
比較例では、S源を添加しなかった。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0028】
(分析)
実施例1および比較例について、急冷後の試料内の残存Cu相(メタリックCu)の有無を確認した。残存Cu相は、CTスキャン及び試料断面の顕微鏡観察により評価した。試料断面の観察は、円柱状であって直径が17.0mmの試料に対して0.5mm単位で研磨し、観察を繰り返し、Cu相の有無を確認した。CTと併用することで評価精度を高めた。
【0029】
なお、試験に用いたマット52、メタリックCu53、FeS
2試薬54の組成を表1に示す。また、表2に、石英タンマン管51に充填したマット52のマット品位(銅品位)、石英タンマン管51に充填したマット52の量、石英タンマン管51に添加したメタリックCu53の量、石英タンマン管51に添加したFeS
2試薬54の量、急冷した試料における各成分の平均組成を示す。
【表1】
【表2】
【0030】
図6(a)は、比較例の結果を示す写真である。
図6(b)は、実施例1の結果を示す写真である。
図6(a)に示すように比較例の試料内ではCu相が確認されたものの、
図6(b)に示すように実施例1の試料内ではCu相が確認されなかった。なお、
図6(a)において、黒丸の下の小さい丸の部分がCu相である。
図6(b)では、Cu相がマット化していることがわかる。この結果から、状態図上で溶解度を超過した量のメタリックCuが存在しても、S源を添加することでマット化できることが確認された。
【0031】
なお、比較例の試料を用いて、マット相へのメタリックCuの溶解度を確認した。測定された溶解度は、おおむね、状態図と合致することが確認された。
【0032】
(実施例2,3)
次に、FeS2試薬54における寄与度を調べた。実施例2は、FeS2試薬54に含まれる全Sを100mass%とした場合に70mass%のSがメタリックCuのマット化に寄与すると想定した場合に、メタリックCuの全量がマット化する量以上のFeS2試薬54を供給した例である。実施例3は、FeS2試薬54に含まれる全Sを100mass%とした場合に90mass%のSがメタリックCuのマット化に寄与すると想定した場合に、メタリックCuの全量がマット化する量以上のFeS2試薬54を供給した例である。
【0033】
表3に、石英タンマン管51に充填したマット52のマット品位(銅品位)、石英タンマン管51に充填したマット52の量、石英タンマン管51に添加したメタリックCu53の量、石英タンマン管51に添加したFeS
2試薬54の量、急冷した試料における各成分の平均組成を示す。
【表3】
【0034】
実施例3では、比較例よりはCu相の量が少なくなっていた。この結果から、FeS2試薬54に含まれる全Sを100mass%とした場合に90mass%のSがメタリックCuのマット化に寄与すると想定した場合に、メタリックCu相の全量がマット化する量以上のFeS2を添加することでメタリックCuの生成が抑制されることが確認できた。実施例2では、Cu相が確認されなかった。この結果から、FeS2試薬54に含まれる全Sを100mass%とした場合に70mass%のSがメタリックCuのマット化に寄与すると想定した場合に、メタリックCuの全量がマット化する量以上のFeS2試薬54を供給することが好ましいことが確認された。
【0035】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。