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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151549
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/88 20230101AFI20241018BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20241018BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20241018BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20241018BHJP
   H04R 17/02 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
H10N30/88
H10N30/87
H10N30/30
H10N30/853
H04R17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064987
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 悠也
(72)【発明者】
【氏名】山田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】桝本 尚己
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏
(72)【発明者】
【氏名】掛札 尚
(72)【発明者】
【氏名】臼井 孝英
【テーマコード(参考)】
5D004
【Fターム(参考)】
5D004CC08
5D004DD03
(57)【要約】
【課題】共振ピークの強度を低減することができる圧電素子を提供する。
【解決手段】圧電素子は、基板10と、基板10に積層された下部電極と、下部電極に積層された圧電膜と、圧電膜に積層された上部電極16と、を備え、基板10のうち下部電極とは反対側の面に形成された凹部17と、下部電極、圧電膜、上部電極16を貫通する貫通孔19とによって、下部電極、圧電膜、上部電極16で構成され、基板10に片持ち支持された複数の薄膜部181、182、183、184が形成されており、複数の薄膜部181、182、183、184のうち少なくとも2つの薄膜部は、共振周波数が互いに異なる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子であって、
基板(10)と、
前記基板に積層された下部電極(12)と、
前記下部電極に積層された圧電膜(13、15)と、
前記圧電膜に積層された上部電極(16)と、を備え、
前記基板のうち前記下部電極とは反対側の面に形成された凹部(17)と、前記下部電極、前記圧電膜、前記上部電極を貫通する貫通孔(19)とによって、前記下部電極、前記圧電膜、前記上部電極で構成され、前記基板に片持ち支持された複数の薄膜部(181、182、183、184)が形成されており、
複数の前記薄膜部のうち少なくとも2つの前記薄膜部は、共振周波数が互いに異なる圧電素子。
【請求項2】
少なくとも2つの前記薄膜部は、形状の差異により共振周波数が互いに異なる請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
少なくとも2つの前記薄膜部は、質量の差異により共振周波数が互いに異なる請求項1に記載の圧電素子。
【請求項4】
少なくとも2つの前記薄膜部は、ヤング率の差異により共振周波数が互いに異なる請求項1に記載の圧電素子。
【請求項5】
複数の前記薄膜部のうちの2つは台形状とされている請求項1ないし4のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項6】
前記薄膜部よりもヤング率が低く、少なくとも2つの前記薄膜部を覆う低ヤング率膜(20)を備える請求項1ないし4のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項7】
隣り合う2つの前記薄膜部の距離は1μm以下とされている請求項1ないし4のいずれか1つに記載の圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロフォン等として用いられる圧電素子は、基板と、基板に積層された下部電極、圧電膜、上部電極とを備えている。そして、基板の一部が除去され、下部電極、圧電膜、上部電極を貫通するスリットが形成されることにより、下部電極、圧電膜、上部電極の一部は、基板によって片持ち支持された薄膜部とされている。このような圧電素子において、残留応力によって薄膜部が上方または下方に反ると、薄膜部と基板によって支持された部分との隙間が大きくなり、感度が低下するおそれがある。
【0003】
例えば特許文献1に記載のMEMSトランスデューサは、同じ三角形状の4つの薄膜部を備えており、4つの薄膜部は、固定端と反対側の先端部が1箇所に集まるように、隣り合って配置されている。これによれば、残留応力によって薄膜部が変形する場合、隣り合う薄膜部も同様に変形するため、薄膜部同士の隙間の拡大が抑制され、感度の低下が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5936154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、複数の薄膜部を同じ形状とすると、各薄膜部の共振周波数が等しくなるため、複数の薄膜部で共振が強め合い、共振ピークの強度が大きくなり、共振ピークが雑音となるおそれがある。したがって、共振ピークの強度を低減する必要がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、共振ピークの強度を低減することができる圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、圧電素子であって、基板(10)と、基板に積層された下部電極(12)と、下部電極に積層された圧電膜(13、15)と、圧電膜に積層された上部電極(16)と、を備え、基板のうち下部電極とは反対側の面に形成された凹部(17)と、下部電極、圧電膜、上部電極を貫通する貫通孔(19)とによって、下部電極、圧電膜、上部電極で構成され、基板に片持ち支持された複数の薄膜部(181、182、183、184)が形成されており、複数の薄膜部のうち少なくとも2つの薄膜部は、共振周波数が互いに異なる。
【0008】
これによれば、少なくとも2つの薄膜部が互いに異なる共振周波数を有しているため、共振ピークが分散され、圧電素子全体での共振ピーク強度を低減することができる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態にかかる圧電素子の上面図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3】比較例の上面図である。
図4】第2実施形態にかかる圧電素子の上面図である。
図5】第3実施形態にかかる圧電素子の上面図である。
図6】比較例の共振ピークを示す図である。
図7】第3実施形態の共振ピークを示す図である。
図8】先端幅と共振周波数差との関係を示す図である。
図9】先端幅と感度との関係を示す図である。
図10】第4実施形態にかかる圧電素子の上面図である。
図11】第5実施形態にかかる圧電素子の上面図である。
図12】第6実施形態にかかる圧電素子の上面図である。
図13】第7実施形態にかかる圧電素子の上面図である。
図14】第8実施形態にかかる圧電素子の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。本実施形態の圧電素子は、マイクロフォンとして用いられるものであり、図1図2に示すように、基板10、絶縁膜11、下部電極12、第1圧電膜13、中間電極14、第2圧電膜15、上部電極16を備えている。基板10は、例えばシリコン(Si)で構成されている。絶縁膜11は、基板10の上面に積層されている。絶縁膜11は、例えばシリコン酸化膜(SiO)で構成されている。
【0013】
絶縁膜11の上面には、下部電極12、第1圧電膜13、中間電極14、第2圧電膜15、上部電極16が順に積層されている。下部電極12、中間電極14、上部電極16は、例えばモリブデン(Mo)等の導電性金属で構成されている。第1圧電膜13、第2圧電膜15は、例えば、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)や、窒化アルミニウム(AlN)等の鉛フリーの圧電セラミックス等を用いて構成されている。また、第1圧電膜13、第2圧電膜15は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等を用いて構成される。
【0014】
基板10には、凹部17が形成されている。凹部17は、基板10の一部を除去して絶縁膜11のうち基板10側の下面を露出させるように形成されている。基板10の上面に平行で互いに垂直な2方向をそれぞれX方向、Y方向とする。凹部17は、基板10の下面において、X方向に平行な2辺とY方向に平行な2辺とで構成された四角形状に開口している。凹部17によって基板10が除去されることにより、圧電素子の一部は薄膜化されている。この薄膜化された部分を薄膜部18とする。
【0015】
薄膜部18には、絶縁膜11、下部電極12、第1圧電膜13、中間電極14、第2圧電膜15、上部電極16を貫通するスリット状の貫通孔19が形成されている。図1に示すように、貫通孔19は、凹部17の内周部から各角部に向かって延設されており、凹部17が形成された部分は貫通孔19によって三角形状に4分割されている。貫通孔19が形成されることによって、薄膜部18を含む絶縁膜11、下部電極12、第1圧電膜13、中間電極14、第2圧電膜15、上部電極16の積層体は、凹部17の開口端部において基板10に片持ち支持されている。
【0016】
4分割された薄膜部18をそれぞれ薄膜部181~184とする。薄膜部181~184は、薄膜部181と薄膜部183とが対向し、薄膜部182と薄膜部184とが対向するように配置されている。具体的には、薄膜部181、183は、それぞれ、薄膜部18のうち貫通孔19の中心に対してX方向の一方側、他方側に配置された部分である。また、薄膜部182、184は、それぞれ、薄膜部18のうち貫通孔19の中心に対してY方向の一方側、他方側に配置された部分である。なお、ここでの貫通孔19の中心とは、貫通孔19のうち、凹部17の各角部に向かって延設された4つのスリットが集まっている部分である。
【0017】
薄膜部181~184のうち少なくとも2つは、共振周波数が互いに異なる。本実施形態では、薄膜部181と、薄膜部182および薄膜部184と、薄膜部183とが、形状の差異により、異なる共振周波数を有している。
【0018】
具体的には、貫通孔19の中心は、凹部17の中心からX方向の一方側にずれている。すなわち、薄膜部181は、固定端から先端までの長さ(以下、梁長さともいう)が、薄膜部183よりも短くなっている。貫通孔19の中心は、凹部17の中心とY方向の位置が等しく、薄膜部182と薄膜部184とは対称な形状とされており、梁長さが等しくされている。本実施形態では凹部17は基板10の下面において正方形状に開口しており、梁長さは、薄膜部181が最も短く、薄膜部183が最も長くされている。薄膜部181~184の共振周波数をそれぞれf1~f4とすると、上記の薄膜部181~184の形状により、f3<f2=f4<f1となっている。
【0019】
このような圧電素子では、薄膜部18に音圧が印加され、薄膜部181~184が振動すると、例えば薄膜部18の自由端側が上方に変位した場合、第1圧電膜13には引張応力が発生し、第2圧電膜15には圧縮応力が発生する。このとき下部電極12と上部電極16との間に発生する電圧を測定することにより、音圧が検出される。
【0020】
なお、隣り合う薄膜部181~184の距離が大きいと、圧電素子の感度が低下するため、この距離を小さくして、感度低下を抑制することが望ましい。例えば、この距離を1μm以下とすることが望ましい。すなわち、XY平面における貫通孔19の延設方向に垂直な方向の幅が1μm以下であることが望ましい。また、薄膜部181の先端部と薄膜部183の先端部との距離、すなわち図2に示す距離dが1μm以下であることが望ましい。また、薄膜部182の先端部と薄膜部184の先端部との距離が1μm以下であることが望ましい。
【0021】
本実施形態の効果について説明する。図3に示す比較例では、薄膜部181~184が同じ形状とされており、共振周波数が互いに等しくなっている。このような構成では、薄膜部181~184で共振が強め合い、共振ピークの強度が大きくなり、共振ピークが雑音となるおそれがある。
【0022】
これに対して、本実施形態では、薄膜部181と、薄膜部182および薄膜部184と、薄膜部183とが、異なる共振周波数を有している。これにより、共振ピークが分散され、圧電素子全体での共振ピーク強度を低減することができ、雑音を抑制することができる。
【0023】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0024】
(1)少なくとも2つの薄膜部は、形状の差異により共振周波数が互いに異なる。これによれば、パターン形成のみによって共振周波数の差を設けることができるので、圧電素子の製造が容易になる。
【0025】
(2)隣り合う2つの薄膜部の距離は1μm以下とされている。これによれば、圧電素子の感度低下を抑制することができる。
【0026】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して薄膜部181~184の形状を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0027】
図4に示すように、本実施形態では、貫通孔19の中心が凹部17の中心からX方向の一方側およびY方向の一方側にずれている。これにより、薄膜部181~184は、梁長さが互いに異なっており、共振周波数f1~f4は互いに異なっている。
【0028】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0029】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0030】
(1)4つの薄膜部181~184のすべてが、互いに異なる共振周波数を有する。これによれば、共振ピークがさらに分散されるため、共振ピーク強度をさらに低減することができる。
【0031】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して薄膜部18の形状を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0032】
本実施形態では、薄膜部181~184のうちの2つが台形状とされている。具体的には、図5に示すように、本実施形態の貫通孔19は、凹部17の中心からY方向の両側に延設されたスリットと、このスリットの端部から凹部17の各角部に向かって延設されたスリットとで構成されている。これにより、薄膜部181および薄膜部183は、固定端側の辺と先端側の辺とが平行な台形状とされている。薄膜部181と薄膜部183は同じ形状とされており、薄膜部182と薄膜部184とは同じ形状とされている。これにより、f1=f3、f2=f4となっている。薄膜部181、183の先端側の辺の長さを先端幅aとし、薄膜部181、183の梁長さをbとし、薄膜部182、184の梁長さをcとする。
【0033】
第1実施形態の図3に示す比較例の共振ピーク強度は、例えば図6のようになる。これに対して、本実施形態の共振ピーク強度は図7のようになる。図7の一点鎖線は薄膜部181、183の振動の強度の和であり、二点鎖線は薄膜部182、184の振動の強度の和であり、実線は圧電素子全体の振動の強度であり、破線は図6の共振ピーク強度である。図7に示すように、本実施形態の共振ピーク強度は、比較例に比べて低減する。
【0034】
この共振ピークが低減される大きさは、先端幅aによって変化する。図8図9は、本発明者らが行った実験の結果である。この実験では梁長さbを477μmとし、凹部17の大きさを固定して先端幅aを変化させ、共振周波数と感度を測定した。図8に示すように、先端幅aが長いほど梁長さcが短くなりf1、f3とf2、f4との差が大きくなる。これにより、共振ピークが小さくなる。そして、先端幅aが10μm以上になると、比較例と本実施形態との共振ピーク強度の差が6dB以上となる。
【0035】
なお、先端幅aをあまりに長くすると、圧電素子の感度が低下する。例えば、図9に示すように、先端幅aが50μm以下のときには感度が維持されるが、先端幅aが60μm以上になると感度が低下する。したがって、感度低下を抑制するために、先端幅aをある程度短くすることが望ましい。例えば、先端幅aを50μm以下とすることが望ましい。
【0036】
なお、f1、f3とf2、f4との差を大きくするために、b>cとすることが望ましい。先端幅の差に加えて梁長さに差をつけることにより、f1、f3とf2、f4との差がさらに大きくなり、共振ピークがさらに低減する。
【0037】
また、本実施形態においても、感度低下を抑制するために、第1実施形態と同様に隣り合う薄膜部181~184の距離を1μm以下とすることが望ましい。薄膜部181と薄膜部183との距離については、貫通孔19のうち凹部17の中心からY方向の両側に延設された部分のX方向の幅を1μm以下とすることが望ましい。
【0038】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0039】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0040】
(1)薄膜部181~184のうちの2つが台形状とされている。これによれば、薄膜部18全体を対称性の高い形状とし、均一に音圧がかかりやすい構造とすることができる。また、台形状とされた薄膜部181、183の先端幅を大きくすることにより、薄膜部181、183と薄膜部182、184とで先端部の質量の差を大きくすることができるため、共振周波数の差を大きくするのが容易になり、共振ピークの低減が容易になる。なお、上記の効果が得られる範囲であれば、薄膜部181~184のうちの2つが完全な台形状ではなく略台形状とされていてもよい。例えば、薄膜部181、183の先端側の辺が、固定端側の辺に対してわずかに傾いていてもよい。
【0041】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態は、第3実施形態に対して薄膜部181~184の形状を変更したものであり、その他については第3実施形態と同様であるため、第3実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0042】
図10に示すように、本実施形態の貫通孔19は、Y方向の両側に延設された中心部が、凹部17の中心からX方向の一方側にずれている。これにより、f1>f3となるため、共振ピークがさらに分散され、圧電素子全体の共振ピーク強度をさらに低減することができる。
【0043】
本実施形態は、第1、第3実施形態と同様の構成および作動からは第1、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0044】
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。本実施形態は、第3実施形態に対して凹部17の形状を変更したものであり、その他については第3実施形態と同様であるため、第3実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0045】
図11に示すように、本実施形態の凹部17は、Y方向を長手方向とする長方形状に開口している。具体的には、凹部17は、第3実施形態の凹部17と同じ開口面積となるように、X方向の長さが第3実施形態よりも短くされており、Y方向の長さは第3実施形態よりも長くされている。これにより、薄膜部181および薄膜部183は、梁長さが第3実施形態に比べて短くなっている。
【0046】
共振周波数を高くしたい場合には、薄膜部181~184の梁長さを短くすればよい。例えば、貫通孔19のうちY方向両側に延設された中心部のX方向の幅を大きくすることにより、薄膜部181および薄膜部183の梁長さを短くすることができるが、感度低下のおそれがある。また、基板10上の面積を有効活用できない。
【0047】
これに対して、本実施形態のように凹部17を長方形状とすることにより、貫通孔19の幅を狭くしたまま薄膜部181、183の梁長さを短くすることができる。したがって、感度低下を抑制するとともに、基板10上の面積を効率よく活用しながら、共振周波数を高くすることができる。
【0048】
本実施形態は、第1、第3実施形態と同様の構成および作動からは第1、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0049】
(第6実施形態)
第6実施形態について説明する。本実施形態は、第3実施形態に対して低ヤング率膜を追加したものであり、その他については第3実施形態と同様であるため、第3実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0050】
図12に示すように、本実施形態の圧電素子は低ヤング率膜20を備えている。低ヤング率膜20は、薄膜部18よりもヤング率の低い材料で構成されている。例えば、低ヤング率膜20はポリイミドで構成されている。低ヤング率膜20は、上面がY方向を長手方向とする矩形状とされており、薄膜部181~184の先端部を上面側から覆って連結している。
【0051】
本実施形態は、第1、第3実施形態と同様の構成および作動からは第1、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0052】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0053】
(1)薄膜部181~184を覆う低ヤング率膜20を備えている。これによれば、薄膜部181~184のうち一部の薄膜部が共振し、他の薄膜部が共振していないときに、共振している薄膜部の変位を低ヤング率膜20によって低減することができる。したがって、共振ピーク強度をさらに低減することができる。
【0054】
(第7実施形態)
第7実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して重り部を追加したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0055】
本実施形態では、薄膜部181~184は、質量の差異により共振周波数が異なっている。具体的には、図13に示すように、本実施形態では、貫通孔19の中心が凹部17の中心と重なっており、薄膜部181~184の上面が同じ形状とされている。また、薄膜部18は、重り部21を備えている。重り部21は、上部電極16の上面に積層されており、チタン、アルミニウム、モリブデン等で構成されている。重り部21は、薄膜部181~184のそれぞれにおいて、上部電極16の先端部に形成されている。薄膜部181~184の上部電極16上に形成された重り部21をそれぞれ重り部211~214とする。
【0056】
重り部211~214の上面は、薄膜部181~184の固定端に平行な辺と、貫通孔19の開口端に沿った2辺とを有する三角形状とされている。重り部211~214は、同じ材料で構成されており、厚さが等しくされている。重り部211、213は、重り部212、214よりも上面の面積が大きくされており、薄膜部181、183は、薄膜部182、184よりも質量が大きくなっている。これにより、f1=f3<f2=f4となっている。
【0057】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0058】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0059】
(1)薄膜部181~184は、質量の差異により共振周波数が異なる。これによれば、薄膜部181~184の上面が同じ形状とされた対称性が高い構造においても、共振ピークを分散させ、共振ピーク強度を低減することができる。
【0060】
(第8実施形態)
第8実施形態について説明する。本実施形態は、第3実施形態に対して重り部21を追加したものであり、その他については第3実施形態と同様であるため、第3実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0061】
第7実施形態では第1実施形態に対して薄膜部181~184の形状を変更し、重り部21を追加したが、図14に示すように第3実施形態に対して重り部21を追加してもよい。本実施形態の重り部21は、全体が長方形状となるように、重り部211、213が台形状とされており、重り部212、214が三角形状とされている。
【0062】
薄膜部181、183が台形状とされた本実施形態では、薄膜部181、183の先端部が薄膜部182、184よりも幅広になっている。そのため、重り部21を形成が容易な矩形状とした場合にも、薄膜部181、183と薄膜部182、184とに大きな質量差を設けることができ、共振周波数の差を大きくすることができる。
【0063】
本実施形態は、第1、第3実施形態と同様の構成および作動からは第1、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【0065】
圧電素子が中間電極14を備えていなくてもよい。
【0066】
第7、第8実施形態では重り部21によって薄膜部181~184の質量に差を設けたが、薄膜部181~184を構成する絶縁膜11~上部電極16の材料や密度によって質量に差を設けてもよい。また、重り部21の材料、密度、厚さによって質量に差を設けてもよい。
【0067】
薄膜部181~184がヤング率の差異によって共振周波数が互いに異なっていてもよい。例えば、下部電極12~上部電極16の材料を薄膜部181~184で変えることにより、ヤング率の差を設けることができる。
【0068】
薄膜部181~184の形状の差異、質量の差異、ヤング率の差異を組み合わせて共振周波数に差を設けてもよい。
【0069】
第1、第2、第4、第5実施形態において、第6実施形態の低ヤング率膜20を設けてもよい。第2、第4~第6実施形態において、第7、第8実施形態の重り部21を設けてもよい。
【0070】
低ヤング率膜20は、薄膜部181~184のうち、共振周波数が互いに異なる少なくとも2つの薄膜部を覆っていればよい。例えば、第6実施形態において、低ヤング率膜20が薄膜部181、182のみを覆っていてもよい。
【0071】
(本開示の特徴)
[第1の観点]
圧電素子であって、
基板(10)と、
前記基板に積層された下部電極(12)と、
前記下部電極に積層された圧電膜(13、15)と、
前記圧電膜に積層された上部電極(16)と、を備え、
前記基板のうち前記下部電極とは反対側の面に形成された凹部(17)と、前記下部電極、前記圧電膜、前記上部電極を貫通する貫通孔(19)とによって、前記下部電極、前記圧電膜、前記上部電極で構成され、前記基板に片持ち支持された複数の薄膜部(181、182、183、184)が形成されており、
複数の前記薄膜部のうち少なくとも2つの前記薄膜部は、共振周波数が互いに異なる圧電素子。
[第2の観点]
少なくとも2つの前記薄膜部は、形状の差異により共振周波数が互いに異なる第1の観点に記載の圧電素子。
[第3の観点]
少なくとも2つの前記薄膜部は、質量の差異により共振周波数が互いに異なる第1または第2の観点に記載の圧電素子。
[第4の観点]
少なくとも2つの前記薄膜部は、ヤング率の差異により共振周波数が互いに異なる第1ないし第3の観点のいずれか1つに記載の圧電素子。
[第5の観点]
複数の前記薄膜部のうちの2つは台形状とされている第1ないし第4の観点のいずれか1つに記載の圧電素子。
[第6の観点]
前記薄膜部よりもヤング率が低く、少なくとも2つの前記薄膜部を覆う低ヤング率膜(20)を備える第1ないし第5の観点のいずれか1つに記載の圧電素子。
[第7の観点]
隣り合う2つの前記薄膜部の距離は1μm以下とされている第1ないし第6の観点のいずれか1つに記載の圧電素子。
【符号の説明】
【0072】
10 基板
12 下部電極
13 第1圧電膜
15 第2圧電膜
16 上部電極
181 薄膜部
182 薄膜部
183 薄膜部
184 薄膜部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14