(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151688
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ゲル化物の素及び食品
(51)【国際特許分類】
A23L 29/256 20160101AFI20241018BHJP
A23L 15/00 20160101ALN20241018BHJP
A23L 2/00 20060101ALN20241018BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
A23L29/256
A23L15/00 Z
A23L2/00 A
A23L2/52
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065235
(22)【出願日】2023-04-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501149411
【氏名又は名称】キユーピータマゴ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】飛彈 真由美
(72)【発明者】
【氏名】和南城 祐未
(72)【発明者】
【氏名】小林 英明
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 正記
【テーマコード(参考)】
4B041
4B042
4B117
【Fターム(参考)】
4B041LC05
4B041LD01
4B041LH10
4B041LK01
4B041LK12
4B041LK18
4B041LK50
4B041LP01
4B042AC05
4B042AC06
4B042AD37
4B042AK01
4B042AK06
4B042AK09
4B042AK20
4B042AP02
4B117LC15
4B117LE05
4B117LG02
4B117LG03
4B117LG05
4B117LG06
4B117LG11
4B117LK08
4B117LK10
4B117LK13
4B117LK18
4B117LL06
(57)【要約】
【課題】長期間常温保存してもアルギン酸塩のゲル化機能が保持され、かつ適度な硬さのゲル化物を調製することができるゲル化物の素及びそれを用いたゲル化物の製造方法、並びにゲル化物を含む食品を提供する。
【解決手段】アルギン酸塩、食用油脂、乳化剤及び水分を含有する乳化状ゲル化物の素であって、アルギン酸塩の配合量が0.3~2.0%であり、アルギン酸換算量に対する一価金属イオンの質量比が0.3~1.3である、乳化状ゲル化物の素。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸塩、食用油脂、乳化剤及び水分を含有する乳化状ゲル化物の素であって、
アルギン酸塩の配合量が0.3~2.0%であり、
アルギン酸換算量に対する一価金属イオンの質量比が0.3~1.3である、
乳化状ゲル化物の素。
【請求項2】
食用油脂の割合が3~30%である、
請求項1に記載の乳化状ゲル化物の素。
【請求項3】
さらに糖アルコールを3~20%含有する、
請求項1又は2に記載の乳化状ゲル化物の素。
【請求項4】
メジアン径が1μm以上15μm以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の乳化状ゲル化物の素。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の乳化状ゲル化物の素を、
カルシウム溶液に添加する工程を含む、
ゲル化物の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法で調製したゲル化物を含む、
食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間常温保存してもアルギン酸塩のゲル化機能を維持したゲル化物の素及びそれを用いたゲル化物の製造方法、並びにゲル化物を含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸塩はカルシウムと反応するとゲル化する性質があるため、その性質を利用し、様々な食品が製造されている。しかしながら、アルギン酸塩は水に溶解したり、さらにこの水溶液をレトルト殺菌等の加熱処理を行うと、低分子化してしまうため、水溶液の状態で常温長期間保存することは困難であった。
【0003】
アルギン酸塩を用いた食品として様々あり、例えば、特許文献1には、アルギン酸ナトリウムを含む卵白液を塩化カルシウム溶液に放出するポートドエッグ様食品の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、ゲル化物と、流動状組成物とを含有するスクランブルエッグ様食品が記載され、植物性ミルクと、アルギン酸カルシウム等を含む溶液をカルシウム溶液に投入することで、スクランブルエッグ様のゲル化物を調製できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4251930号公報
【特許文献2】特許第7054763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献はいずれもポーチドエッグ又はスクランブルエッグを即時調製することを目的としたものであり、アルギン酸塩のゲル化機能を長期間常温で保存することができるものではなかった。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、長期間常温保存してもアルギン酸塩のゲル化機能が保持されたゲル化物の素及びそれを用いたゲル化物の製造方法、並びにゲル化物を含む食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく、ゲル化物の素について鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らは、所定量のアルギン酸塩、食用油脂、乳化剤、水分を配合し、乳化状にするとともに、アルギン酸換算量に対する一価金属イオンの割合を調整することによって、長期間常温保存してもアルギン酸塩のゲル化機能が保持されるとともに、様々な食品に利用しやすい適度な硬さのゲル化物を調製することができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)アルギン酸塩、食用油脂、乳化剤及び水分を含有する乳化状ゲル化物の素であって、
アルギン酸塩の配合量が0.3~2.0%であり、
アルギン酸換算量に対する一価金属イオンの質量比が0.3~1.3である、
乳化状ゲル化物の素、
(2)食用油脂の割合が3~30%である、
(1)に記載の乳化状ゲル化物の素、
(3)さらに糖アルコールを3~20%含有する、
(1)又は(2)に記載の乳化状ゲル化物の素、
(4)油滴のメジアン径が15μm以下である、
(1)から(3)のいずれかに記載の乳化状ゲル化物の素、
(5)(1)から(4)のいずれかに記載の乳化状ゲル化物の素を、
カルシウム溶液に添加する工程を含む、
ゲル化物の製造方法、
(6)(5)に記載の方法で調製したゲル化物を含む
食品、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期間常温保存してもアルギン酸塩のゲル化機能が保持され、かつ適度な硬さのゲル化物を調製することができるゲル化物の素及びそれを用いたゲル化物の製造方法、並びにゲル化物を含む食品を提供することにある。これにより、アルギン酸塩のゲル化機能を利用した食品の幅が広がり、食品産業が活性化することが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。また、本発明において、ある成分の「含有量」は、ゲル化物の素全体の質量を100質量%とした場合の当該成分の占める質量の割合を意味する。
【0011】
<ゲル化物の素>
本発明のゲル化物の素は、水中油型に乳化した液状組成物である。本発明のゲル化物の素は、カルシウムイオンを含むカルシウム溶液に添加されることで、手軽にゲル化物を製することができ、ゲル化物の性質を活かして、様々な食品を調製することができる。
本発明のゲル化物の素は、0℃以上10℃以下で保存される冷蔵品であってもよいが、レトルト処理やUHT処理等の高温加熱処理をしてもアルギン酸の機能を長期間保持することができるものであることから、レトルト処理済み又はUHT処理済みの常温品であることが好ましい。
また、本発明のゲル化物の素は、そのままカルシウム液に添加して用いることができるが、水等で希釈した後、添加して用いてもよい。
【0012】
<ゲル化物>
本発明のゲル化物の素で調製できるゲル化物の種類は特に限定しないが、他の食材で着色したり、ゲルの硬さを調整したり、カルシウム溶液への添加の方法を工夫することで、様々な食品を調製することができる。例えば、黄色く着色することで、凝固卵に似た凝固卵様ゲル化物を調製することができ、かきたま、スクランブルエッグ、ゆで卵、親子丼、卵丼、かつ丼、卵サンド、麺類等に用いることできる。また、湯葉や豆腐様のゲル化物や肉様のゲル化物、ゼリー、タピオカ様のゲル化物等を調製することもできる。特に、ふんわりとして適度に弾力のある食感を再現しやすいことから、凝固卵様ゲル化物であることが好ましい。
【0013】
本発明のゲル化物の素が、凝固卵様ゲル化物を調製するためのものである場合、卵を含有しない、又は卵を少量含有することが好ましく、卵を含有しないことがより好ましい。卵を含有しない、又は含有量を抑えることで、卵様の食品をより安価に調製することが可能になることや、卵アレルギーやビーガンの人など、卵の摂取を控えている人も安心して摂取することが可能となる。
「卵を含有しない」とは、鶏、鶉、アヒルの卵など、一般に食用に供される鳥類の卵由来の原料を含有していないことをいい、「卵を少量含有する」とは、上記鳥類の卵由来の原料を、ゲル化物の素中に5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下含有することをいう。
【0014】
<アルギン酸塩>
本発明のゲル化物の素は、アルギン酸塩を含む。本発明のアルギン酸塩とは、アルギン酸中のカルボキシル基の水素がイオンによって置換された塩をいう。本発明に用いられるアルギン酸塩は、1価のカチオン塩であるとよく、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、及びアルギン酸アンモニウムから選ばれる1種以上であるとよい。このうち、本発明に用いられるアルギン酸塩は、取り扱いや入手のしやすさから、アルギン酸ナトリウムであるとよりよい。
上記アルギン酸塩は、カルシウムイオンと反応してイオン架橋される。このイオン架橋によって構築されたゲルネットワークに水分が移行して保持されることで、弾力のあるゲル化物が生成される。
しかしながら、アルギン酸塩を溶解した水溶液を常温で保管したり、レトルト処理やUHT処理等の高温加熱処理をすると、アルギン酸塩の低分子化によりゲル化機能が低下してしまう。
本発明のゲル化物の素は、所定量の食用油脂、乳化剤を配合し、アルギン酸換算量に対する一価金属イオンの割合を調整することにより、意外にもアルギン酸塩の低分子化を抑制することができ、長期間常温保存してもアルギン酸塩のゲル化機能を維持できると考えられる。
【0015】
本発明のゲル化物の素は、アルギン酸塩を0.3~2.0%配合するものである。アルギン酸塩の配合量が前記範囲未満の場合、得られるゲル化物が軟らかくなりすぎて、目的のゲル化物を調製することが難しく、また、アルギン酸塩の配合量が前記範囲を超える場合、ゲル化物が硬くなりすぎること場合がある。適度な硬さのゲル化物を調製しやすいことから、アルギン酸塩の配合量は、0.4~1.0%であることが好ましく、0.4~0.7%であることがより好ましい。
【0016】
<一価金属イオン>
本発明のゲル化物の素は、一価金属イオンを含有するものである。一価金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオンが挙げられる。特に適度な硬さのゲルが得られやすく、ゲル化物の風味に影響しにくいことからナトリウムイオンであることが好ましい。一価金属イオンを含有させる方法は特に限定しないが、水溶液に溶解した際に一価金属イオンを生じる原料を適宜配合することで含有させることができる。例えば、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カリウムなどを用いることができる。特に長期間保存後も適度な硬さのゲルを調製しやすく、ゲル化物の風味を損ないにくい点で、塩化ナトリウムを配合することが好ましい。
【0017】
<アルギン酸換算量に対する一価金属イオンの割合>
本発明のゲル化物の素に含まれる一価金属イオンの割合は、アルギン酸換算量に対して0.3~1.3である。アルギン酸換算量に対する一価金属イオンの割合が前記範囲未満の場合、常温で長期保存した場合、適度な硬さやつながりのあるゲルを調製することが難しくなり、前記範囲を超える場合、配合量に応じた効果が得られないことや、一価金属イオンの影響によりゲルの風味が損なわる恐れがある。
長期保存によるアルギン酸のゲル化機能を保持し、良好な風味のゲル化物を調製しやすい点で、アルギン酸換算量に対する一価金属イオンの割合は、0.4~1.0%であることが好ましく、0.4~0.7%であることがより好ましい。
なお、本発明において、アルギン酸換算量とは、アルギン酸の質量と、アルギン酸塩の質量から塩の質量を除いた質量の合計値である。
【0018】
<食用油脂>
本発明のゲル化物の素は食用油脂を含むものである。食用油脂を含むことにより、長期間常温保存しても、つながりがあり適度な硬さのゲル化物を調製することができる。
本発明における食用油脂としては、例えば、動植物油及びこれらの精製油、化学的又は酵素的処理を施して得られた食用油脂等が挙げられる。動植物油としては、例えば、菜種油、コーン油、綿実油、大豆油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、ひまわり油、こめ油、えごま油、アマニ油、パーム油、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、卵黄油等が挙げられる。化学的又は酵素的処理を施して得られた食用油脂としては、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、酵素処理卵黄油等が挙げられる。
これらの食用油脂は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
特に、食用油脂は、植物性食品へのニーズに応える観点から、植物性油脂を含んでいるとよく、例えば、菜種油、コーン油、大豆油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、ひまわり油、こめ油、えごま油、アマニ油等を含んでいるとよい。
本発明のゲル化物の素に含まれる食用油脂の割合は限定しないが、つながりあり適度な硬さのゲル化物を調製しやすいことから3~30%であることが好ましく、5~20%であることがより好ましい。
【0019】
<糖アルコール>
本発明のゲル化物の素は、糖アルコールを含むことが好ましい。ゲル化物の素が糖アルコールを含むことで、糖アルコールの保水作用によって、アルギン酸塩によるゲルネットワークへの水分移行を抑制することができ、適度な硬さのゲル化物を調製しやすくなる。
上記作用効果をより効果的に得るため、本発明において、糖アルコールの含有量は、固形分換算で2~15%であるとよく、3~7%であるとよりよい。
本発明における糖アルコールとしては、還元澱粉糖化物、還元水あめ、エリスリトール、キシリトール、ソルビット、パラチノース等が挙げられる。
【0020】
<乳化剤>
本発明のゲル化物の素は、乳化剤を含有するものである。これにより、ゲル化物がつながりやすくなり、目的とする大きさのゲル化物を調製しやすくなる。
本発明の乳化剤とは、乳化機能を持つものであれば特に限定しない。例えば、卵黄レシチン、乳タンパク、大豆タンパク、モノグリセリド、モノグリセリド誘導体、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、植物レシチンが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
乳化剤としては、特に親水性の乳化剤を含むとよく、具体的にはリゾリン脂質又はHLB値が10以上の乳化剤の少なくとも一方を含んでいるとよい。このような親水性の乳化剤の乳化作用により、アルギン酸塩によるゲルネットワークへの水分移行を効果的に抑制することができ、しっとりした柔らかい食感のゲル化物を得ることができる。さらに、親水性の乳化剤がゲル化物の素の表面張力を低下させ、薄く広がる好ましい膜状のゲル化物を調製しやすくなる。
リゾリン脂質とは、グリセロ骨格を有したジアシルグリセロリン脂質であるリン脂質の1位又は2位が加水分解したモノアシルグリセロリン脂質をいう。リゾリン脂質の由来となる材料は、特に限定されず、例えば、卵黄等の動物性材料、あるいは大豆、ひまわり、米、菜種等の植物性材料、藻類、微生物等が挙げられる。
本発明に用いられるリゾリン脂質は、植物性食品に対するニーズに応える観点から、植物性材料由来のリゾリン脂質であるとよい。
また、前記リゾリン脂質は、リゾリン脂質を含有する脂質混合物として配合してもよい。このような脂質混合物としては、例えば、リゾレシチン、酵素処理油脂等が挙げられる。
HLB値が10以上の親水性乳化剤としては、食用として市場に流通しているものであれば特に限定されず、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル等が挙げられる。
本発明における乳化剤の含有量は、上記作用効果を効果的に得る観点から、0.05%以上5%以下であるとよく。0.05%以上1%以下であるとよりよい。
【0021】
<油滴のメジアン径>
本発明のゲル化物の素は、水相中に油相が油滴状に分散した水中油型の乳化液であり、前記油滴のメジアン径は、1.0μm以上15μm以下であることが好ましく、2μm以上10μm以下であることがより好ましい。油滴のメジアン径が前記範囲であることにより、常温で長期間保存しても、つながりのあり、適度な硬さのゲル化物を調製しやすくなる。
本発明のメジアン径とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置で乳化液中の粒子の粒度分布を測定し、粒子の累積積算体積が50%に達したときの粒径を意味する。測定については、溶媒にイオン交換水を用い、機器は例えばマイクロトラック MT3000II等を使用することができる。
【0022】
<ゲル化物の素の水分含有量>
本発明のゲル化物の水分含有量は特に限定しないが、ゲル化物の素に適度の流動性を付与し、そのままカルシウム液に添加しやすいことから60~95%であるとよく、80~95%であるとよりよい。
なお、ゲル化物の素の水分含有量は、原料として配合された水と、各原料に含まれる水分の合計の含有量とする。
【0023】
<その他の原料>
本発明のゲル化物の素は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の原料を含有することができる。このような原料としては、例えば、ペクチン、グルコマンナン、難消化性デキストリン、アラビアガム、難消化性オリゴ糖、セルロース、ヘミセルロース、発酵セルロース、キチン、サイリウム、大豆繊維等の食物繊維、醤油、胡椒、アミノ酸等の調味料類、グリシン、酢酸ナトリウム等の静菌剤、有機酸、有機酸塩等のpH調整剤、保存料、酸化防止剤、香料等が挙げられる。
【0024】
<ゲル化物の素の製造方法>
本発明のゲル化物の素は、一実施形態において、原料を混合して調製される。原料の混合は、例えば、ミキサーや撹拌機を用いて行うことができる。なお、原料の混合は、ゲル化物の素のゲル化性を均質化する観点から、全体が均質になるように混合するとよい。各原料の配合量は、製造後のゲル化物の素における各材料の含有量に基づいて調整することができる。
【0025】
<ゲル化物の製造方法>
本発明におけるゲル化物の製造方法は、上記ゲル化物の素を、希釈し又はそのままの状態でカルシウムイオンを含むカルシウム溶液に添加することを特徴とする。
これにより、アルギン酸塩とカルシウムイオンとが反応してゲル化力の高いアルギン酸カルシウムが生成され、この反応が進むことでゲル化物の素が徐々にゲル化する。これにより、ゲル化物を製することができる。
カルシウム溶液は、例えば、水等の溶媒にカルシウム塩を溶解させた液体である。カルシウム溶液は、例えば、ゲル化物を含む調理品の一部であるスープ、調味液等であるとよい。これにより、当該調理品の調理過程においてゲル化物の素を用いることができる。あるいは、カルシウム溶液は、調理品とは別途準備されたものでもよい。
カルシウム溶液におけるカルシウム塩の濃度は、調理品の種類などによって適宜設定されるが、例えば、0.1%以上4%以下であるとよい。
本発明では、カルシウム溶液を加熱せずに、ゲル化物を製することができるが、上記調理品の調理過程によってはカルシウム溶液が加熱されてもよい。
カルシウム溶液中でゲル化されたゲル化物は、例えば、カルシウム溶液であるスープや調味液とともに喫食される。あるいは、ゲル化物は、カルシウム溶液から取り出され、調理品に使用されてもよい。
さらに、本発明のゲル化物は、製造に加熱を要しないため、加熱源の有無によらず手軽に製することができる。
【0026】
以下、本発明について、実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定されない。
【実施例0027】
[ゲル化物の素の調製]
表1に示す配合の原料を攪拌混合して、実施例1~8及び比較例1~5のゲル化物の素を調製した。また、実施例1~4及び比較例1~3のゲル化物の素について、油滴のメジアン径を測定した結果、順に3.1μm、4.6μm、11.8μm、4.8μm、19.7μm、22.3μmであった。
【0028】
次いで、各ゲル化物の素100gをアルミラミネートパウチに充填後、118℃で30分レトルト処理を行った後、25℃4か月間の保存に相当する、35℃1か月間の条件で保存した。保存後、各ゲル化物の素を0.5%乳酸カルシウム溶液中に少量ずつ投入した。投入後のゲル化物の状態を5人の専門パネラーが下記評価基準で評価した。
【0029】
(各パネラーの評価基準)
◎:適度な硬さのゲル化物を調製することができた。
○:ゲル化物がやや硬い又はやや柔らかいが、問題なく調製することができた。
×:ゲル化物を調製することができない、又は調製できるが、硬すぎる、柔らかすぎる、つながりがない等の理由により食品への利用に不適であった。
【0030】
【0031】
表1の結果、実施例1~5のゲル化物の素は、保存後も問題なく、適度な硬さのゲル化物を調製することができた。実施例6、7のゲル化物の素は得られたゲル化物がやや硬めであり、実施例8のゲル化物の素は、得られたゲル化物がやや軟らかいものであったが、いずれも問題なくゲル化物を調製することができた。一方、比較例1~3のゲル化物の素は、ゲル様の物質はできるが、つながりがなく、凝固卵様ゲルなど食品への利用が難しいものであった。また、比較例4のゲル化物の素は、得られたゲル化物が細かく散ってしまい比較例3同様に食品への利用が難しいものであった。比較例5のゲル化物の素は、ゲル化物を調製することができなかった。
【0032】
[凝固卵様食品の調製]
実施例1のゲル化物の素に含まれる清水の一部を0.3%のカロチン色素に置き換えて、ゲル化物の素を調製した後、乳酸カルシウム0.5%の溶液に少量ずつ投入し、凝固卵様のゲル化物を調製した。得られたゲル化物は、液卵を熱水に投入し凝固させた凝固卵に似た外観、物性であり、かきたま汁や、スクランブルエッグ等に用いることができるものであった。
【0033】
[ゼリードリンク様飲料の調製]
牛乳、豆乳、アーモンドミルク、リンゴジュース又はオレンジジュースにそれぞれ2%の乳酸カルシウムを溶解した後、実施例1のゲル化物の素を少量ずつ投入した。いずれの飲料中でもゲル化物が調製され、ゼリー飲料の様な食感の飲料を得ることができた。
【0034】
[総括]
以上より、アルギン酸塩、食用油脂、乳化剤及び水分を含有し、アルギン酸塩の配合量が0.3~2.0%であり、アルギン酸換算量に対する一価金属イオンの質量比が0.3~1.3である、乳化状ゲル化物の素は、長期間常温で保存しても適度な硬さのゲル化物を調製することでき、様々な食品の調製に利用できることが分かった。