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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151723
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】圧着接続装置及び圧着ダイス
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/048 20060101AFI20241018BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01R43/048 A
H01R4/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065315
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】505186706
【氏名又は名称】白山商事株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 芳春
(72)【発明者】
【氏名】土屋 一郎
(72)【発明者】
【氏名】西澤 滋
(72)【発明者】
【氏名】岡田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】桜井 裕士
(72)【発明者】
【氏名】森 澄人
(72)【発明者】
【氏名】伊美 志峰
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 久弥
【テーマコード(参考)】
5E063
5E085
【Fターム(参考)】
5E063CB02
5E063CC06
5E063XA01
5E085BB03
5E085BB12
5E085CC03
5E085DD16
5E085EE01
5E085EE11
5E085FF01
5E085HH06
5E085JJ03
5E085JJ36
(57)【要約】
【課題】アルミニウム電線が複数の素線の集合体からなるより線の場合であっても、良好な電気的接続を得ることができる圧着接続装置及び圧着ダイスを提供する。
【解決手段】圧着接続装置は、オス圧着ダイスと、メス圧着ダイスと、オス圧着ダイス及びメス圧着ダイス間に圧着すべき電線及び端子を挟んで押圧を行う押圧機構とを備えている。オス圧着ダイスは、押圧面に、電線の軸と交差する方向に伸長する少なくとも1つの凹溝を有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オス圧着ダイスと、メス圧着ダイスと、前記オス圧着ダイス及び前記メス圧着ダイス間に圧着すべき電線及び端子を挟んで押圧を行う押圧機構とを備え、前記オス圧着ダイスは、押圧面に、前記電線の軸と交差する方向に伸長する少なくとも1つの凹溝を有していることを特徴とする圧着接続装置。
【請求項2】
前記オス圧着ダイスの前記少なくとも1つの凹溝が、前記電線の軸と直交する方向に向かう少なくとも1つの凹溝を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の圧着接続装置。
【請求項3】
前記オス圧着ダイスの前記少なくとも1つの凹溝が、前記オス圧着ダイスの中央から両側端に向かう1対の凹溝を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の圧着接続装置。
【請求項4】
前記オス圧着ダイスの前記少なくとも1対の凹溝が、前記オス圧着ダイスの中央から両側端に向かう複数対の凹溝を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の圧着接続装置。
【請求項5】
前記オス圧着ダイスの前記押圧面において、前記少なくとも1つの凹溝の各々の前記電線の軸方向の両側に、面取りされた1対の突出部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の圧着接続装置。
【請求項6】
前記オス圧着ダイスが、押圧面の中央に前記電線の前記軸方向に伸長する凹条を備えていることを特徴とする請求項1に記載の圧着接続装置。
【請求項7】
前記メス圧着ダイスが、押圧面の中央に前記電線の前記軸方向に伸長し、圧着時に前記凹条に対向する凸条を備えていることを特徴とする請求項6に記載の圧着接続装置。
【請求項8】
前記電線が、アルミニウム又はアルミニウム合金製の複数の素線の集合体からなる電線であることを特徴とする請求項1に記載の圧着接続装置。
【請求項9】
前記圧着すべき端子が内面から突出する複数の突起を有するセレーション部材を内側に備えている端子であることを特徴とする請求項1に記載の圧着接続装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の圧着接続装置に装着される圧着ダイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムやアルミニウム合金製の電線を圧着接続するための圧着接続装置及びこの圧着接続装置に装着される圧着ダイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アルミニウム電線を圧着端子に圧着させるための圧着接続装置として、第1の押圧面を有する第1のダイスと、第1の押圧面に対向配置されこの第1の押圧面に向かって移動し押圧することによりアルミニウム電線を圧着端子に圧着させる第2の押圧面を有する第2のダイスとを備えた圧着接続装置が開示されている。第1のダイスの第1の押圧面は凸状断面の1対の第1の突出部を備えており、第2のダイスの第2の押圧面は1対の第1の突出部とそれぞれ対向する位置に凸状断面の1対の第2の突出部を備えていると共に中央部に凸状断面の第3の突出部を備えており、第1の押圧面は中央部に対して線対称の位置に第3の突出部を挟むように凸状断面の1対の第4の突出部を備えている。これら第1の突出部、第2の突出部、第3の突出部及び第4の突出部はいずれも電線の軸方向に伸長している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6387441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された圧着接続装置によれば、平角線のような単一体からなるアルミニウム電線又はこのような単一体のアルミニウム電線を2~3枚重畳してなる電線を圧着端子に圧着接続する場合には、問題は生じなかった。即ち、圧着接続時に変形する圧着部及び電線の両脇にダムが発生して空気を両側端から外側に押し出すので、圧着領域の内部に空隙が生じることはなく、良好な電気的接続を得ることができた。
【0005】
しかしながら、このような従来の圧着接続装置を、より線のアルミニウム電線(線径1mm~3mm程度の細い素線の集合体で構成)の圧着に用いた場合、圧着接続時の端子の変形によって充分な圧縮力を維持できず、良好な電気的接続を確保できない恐れが多分にあった。特に、より線のアルミニウム電線が、素線を中心から複数の層構造となるように構成されている場合、素線-素線間の接触抵抗が大きくなって良好な電気的接続を行うことができなかった。
【0006】
従って、本発明の目的は、アルミニウム電線が複数の素線の集合体からなるより線の場合であっても、良好な電気的接続を得ることができる圧着接続装置及びこの圧着接続装置に用いる圧着ダイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の圧着接続装置は、オス圧着ダイスと、メス圧着ダイスと、オス圧着ダイス及びメス圧着ダイス間に圧着すべき電線及び端子を挟んで押圧を行う押圧機構とを備えている。特に、本発明によれば、オス圧着ダイスは、押圧面に、電線の軸と交差する方向に伸長する少なくとも1つの凹溝を有している。
【0008】
オス圧着ダイスが、電線の軸と交差する方向に伸長する少なくとも1つの凹溝を押圧面に有しているため、押圧面において押圧方向に突出せず凹んでいる部分(凹部)の面積が増大する。この凹部は強い力での圧縮を行わないため、被圧着体における凹部に対応した部分は大きく変形されることがなく凸状態の肉厚の厚い状態で残ることとなり、電線に対する圧縮応力が充分に維持される。その結果、電線が複数の素線の集合体からなるより線の場合であっても、素線-素線間の接触抵抗が小さくなり、良好な電気的接続を行うことができる。
【0009】
オス圧着ダイスの少なくとも1つの凹溝が、電線の軸と直交する方向に向かう少なくとも1つの凹溝を含んでいることが好ましい。
【0010】
オス圧着ダイスの少なくとも1つの凹溝が、オス圧着ダイスの中央から両側端に向かう1対の凹溝を含んでいることも好ましい。
【0011】
オス圧着ダイスの少なくとも1対の凹溝が、オス圧着ダイスの中央から両側端に向かう複数対の凹溝を含んでいることも好ましい。
【0012】
オス圧着ダイスの押圧面において、少なくとも1つの凹溝の各々の電線の軸方向の両側に、面取りされた1対の突出部が設けられていることも好ましい。
【0013】
オス圧着ダイスが、押圧面の中央に電線の軸方向に伸長する凹条を備えていることも好ましい。
【0014】
この場合、メス圧着ダイスが、押圧面の中央に電線の前記軸方向に伸長し、圧着時に凹条に対向する凸条を備えていることが好ましい。
【0015】
電線が、アルミニウム又はアルミニウム合金製の複数の素線の集合体からなる電線であることも好ましい。
【0016】
圧着すべき端子が内面から突出する複数の突起を有するセレーション部材を内側に備えている端子であることも好ましい。
【0017】
本発明によれば、さらに、上述した圧着接続装置に用いる圧着ダイスが提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、オス圧着ダイスの押圧面に少なくとも1つの凹溝が設けられているため、押圧面において押圧方向に突出せず凹んでいる部分(凹部)の面積が増大する。この凹部は強い力での圧縮を行わないため、被圧着体における凹部に対応した部分は大きく変形されることがなく凸状態の肉厚の厚い状態で残ることとなり、電線に対する圧縮応力が充分に維持される。その結果、電線が複数の素線の集合体からなるより線の場合であっても、素線-素線間の接触抵抗が小さくなり、良好な電気的接続を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態の圧着接続装置における先端部のダイス装着部の構成を概略的に示す平面図である。
図2図1の実施形態におけるオス圧着ダイスの構成を示す斜視図である。
図3図1の実施形態におけるオス圧着ダイスの平面図である。
図4図1の実施形態におけるオス圧着ダイスの正面図である。
図5図1の実施形態におけるオス圧着ダイスに関する図3のA-A断面図である。
図6図1の実施形態におけるオス圧着ダイスの側面図である。
図7図1の実施形態におけるメス圧着ダイスの構成を示す斜視図である。
図8図1の実施形態におけるメス圧着ダイスの平面図である。
図9図1の実施形態におけるメス圧着ダイスの正面図である。
図10図1の実施形態におけるメス圧着ダイスに関する図8のB-B断面図である。
図11図1の実施形態の圧着接続装置を用いて圧着するアルミニウム電線及び圧着端子の構成例を示す分解斜視図である。
図12図1の実施形態の圧着接続装置を用いて圧着した後のアルミニウム電線及び圧着端子の一例を表す断面図である。
図13】従来技術の圧着接続装置を用いてアルミニウム電線を圧着端子に圧着した場合のヒートサイクル試験の結果を示している。
図14図1の実施形態における圧着接続装置を用いてアルミニウム電線を圧着端子に圧着した場合のヒートサイクル試験の結果を示している。
図15図1の実施形態の圧着接続装置を用いて圧着した後のオス圧着ダイス側の圧着端子の状態を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明の一実施形態の圧着接続装置において先端部のダイス装着部の構成を概略的に示している。なお、同図に示す構成は、ダイス装着部の単なる一例であり、本発明の圧着接続装置は、この例に限定されない種々の構成であっても良いことは明らかである。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の圧着接続装置は、先端部のダイス装着部10にオス圧着ダイス11及びメス圧着ダイス12を装着した電動油圧式圧着工具から構成されている。この種の電動油圧式圧着工具はオス圧着ダイス11及びメス圧着ダイス12を除いて市販されている。オス圧着ダイス11及びメス圧着ダイス12は、本実施形態では、熱間金型用の合金鋼SKD61を図示の形状に研削加工して形成されている。
【0022】
この電動油圧式圧着工具を使用するには、スライドピン13を引き抜き、ヨーク14を開いて、オス圧着ダイス11及びメス圧着ダイス12を装着し、ヨーク14を閉じスライドピン13を差し込んで固定する。なお、本実施形態では、オス圧着ダイス11をピストン側に、メス圧着ダイス12をヨーク側に装着する。次いで、圧着すべきアルミニウム電線及び圧着端子を圧着部15に挿入し、スイッチを入れると、ピストンロッド16が作動してオス圧着ダイス11がメス圧着ダイス12の方向(図にて左方向)に移動して圧着が行われる。
【0023】
図2は本実施形態におけるオス圧着ダイス11の斜めから見た構成を示しており、図3はオス圧着ダイス11の平面から見た構成を示しており、図4はオス圧着ダイス11を図3のA-A断面で示しており、図5はオス圧着ダイス11の正面から見た構成を示しており、図6はオス圧着ダイス11の側面から見た構成を示している。以下、これらの図を用いて、本実施形態におけるオス圧着ダイス11の構成を詳細に説明する。
【0024】
図2図6に示すように、本実施形態のオス圧着ダイス11は、その押圧面11aが、圧着される電線の軸方向11bに伸長する概略凸条形状となっており、その概略凸条形状の中央に凹条11cを有している。この中央の凹条11cが、圧着時は、メス圧着ダイス12の後述する中央の凸条12cと対向するように構成されている。
【0025】
オス圧着ダイス11の押圧面11aには、4つの凹溝(凹条)11d、11e、11f及び11gが設けられている。これら凹溝11d、11e、11f及び11gは、電線の軸方向11bと直交する方向に伸長している。より詳しくは、凹溝11d及び11eは、オス圧着ダイス11の中央の凹条11cから両側端に向かってそれぞれ斜め下方に伸長する1対の凹溝であり、凹溝11f及び11gは、軸方向11bに関して1対の凹溝11d及び11eから離隔した位置において、オス圧着ダイス11の中央の凹条11cから両側端に向かってそれぞれ斜め下方に伸長する他の1対の凹溝である。
【0026】
オス圧着ダイス11の押圧面11aには、凹溝11d、11e、11f及び11gの各々における電線の軸方向11bの両側に、面取りされた1対の突出部11h~11mが設けられている。より具体的には、凹溝11dの軸方向11bの両側に1対の突出部11h及び11iが設けられており、凹溝11eの軸方向11bの両側に1対の突出部11j及び11kが設けられており、凹溝11fの軸方向11bの両側に1対の突出部11i及び11lが設けられており、凹溝11gの軸方向11bの両側に1対の突出部11k及び11mが設けられている。これら1対の突出部11h~11mは、オス圧着ダイス11の押圧面を構成している。
【0027】
図7は本実施形態におけるメス圧着ダイス12を斜めから見た構成を示しており、図8はメス圧着ダイス12の平面から見た構成を示しており、図9はメス圧着ダイス12の正面から見た構成を示しており、図10はメス圧着ダイス12の構成を図8のB-B断面で示している。
【0028】
図7図10に示すように、本実施形態のメス圧着ダイス12は、その押圧面12aが、圧着される電線の軸方向12b(オス圧着ダイス11における電線の軸方向11bと同じ方向)に伸長する概略凹条形状となっており、その概略凹条形状の中央に凸条12cを有している。この中央の凸条12cは、前述したように、圧着時は、オス圧着ダイス11の中央の凹条11cと対向するように構成されている。また、メス圧着ダイス12の押圧面12aは、その全周が面取りされている。メス圧着ダイス12は、その全面が押圧面を構成している。
【0029】
図11は本実施形態の圧着接続装置を用いて圧着するアルミニウム電線及び圧着端子の構成例を示している。
【0030】
同図に示すように、本実施形態において、アルミニウム電線20は、アルミニウム材料又はアルミニウム合金材料等によって形成され、周囲に絶縁被膜が形成された線径1mm~3mm程度の細い素線の集合体からなり、これら素線が層状に積層して形成されている。圧着端子21は、クローズドバレル型の圧着端子であり、スリーブ状の圧着部(バレル部)21aを有している。圧着端子21は、銅材料又は銅合金材料で形成されており、表面に錫メッキが施されている。この圧着部21aの内周面には、圧着端子21とは別部材で形成された円筒状(スリーブ状)のセレーション部材22が配置されている。セレーション部材22は銅材料又は銅合金材料で形成されており、多数の貫通孔22aが設けられている。銅合金としては、黄銅合金、青銅合金、リン青銅合金又はその他の種々の銅合金が用いられる。セレーション部材22の貫通孔22aは、本実施形態では、直径がφ0.6mmの円形であり、深さが0.5mmとなっている。セレーション部材22には、このような貫通孔22aが中心間距離1mmで格子状に形成されている。圧着端子21は銅材料又は銅合金材料で形成されている。銅合金としては、黄銅合金、青銅合金、リン青銅合金又はその他の種々の銅合金が用いられる。
【0031】
図12は従来技術の圧着接続装置及び本実施形態の圧着接続装置を用いて圧着した後のアルミニウム電線及び圧着端子の断面の例を表している。図12(A)はオス圧着ダイスに凹溝が設けられておらず押圧面の凹んでいる部分(凹部)の面積が小さい従来技術の圧着接続装置を用いて圧着した場合のアルミニウム電線の軸と垂直な平面の断面を示しており、図12(B)はオス圧着ダイスに凹溝が設けられており押圧面の凹部の面積が大きい本実施形態の圧着接続装置を用いて圧着した場合のアルミニウム電線の軸に沿った平面による断面を示しており、図12(C)は本実施形態の圧着接続装置を用いて圧着した場合のアルミニウム電線の軸と垂直な平面において、凹溝の存在する位置における断面を示している。なお、これらの図において、30及び30′は圧着により変形したアルミニウム電線、31及び31′は圧着により変形した圧着端子の圧着部、32及び32′はセレーション部材の貫通孔をそれぞれ示している。
【0032】
図12(A)に示すように、オス圧着ダイスに凹溝が設けられておらず押圧面のほとんどが凸部で構成される従来技術の圧着接続装置を用いて圧着を行った場合、オス圧着ダイスによる圧縮力が強く作用するため、圧着端子の圧着部31における湾曲面の内側部分(図にて丸33の部分)が大きく変形し、その部分の肉厚が異常に薄くなってしまうため、アルミニウム電線30に対する圧縮応力を充分に維持することができなかった。
【0033】
これに対して、図12(B)に示すように、オス圧着ダイスに凹溝が設けられており、押圧面の凸部の面積が小さく凹部の面積が大きい本実施形態の圧着接続装置を用いて圧着を行うと、凹溝に対応する部分の圧着部31′にリブ(凸条)34が形成され、凹部の面積が大きくなる(逆に凸部の面積が小さくなる)。図12(C)に示すように、このリブ34に部分、即ち、押圧面の凹部の部分(図にて丸35の部分)は、強い力で圧縮されないので圧着部31′が大きく変形されることがなく、肉厚の厚い状態で残ることとなり、アルミニウム電線30′に対する圧縮応力が充分に維持される。その結果、アルミニウム電線30′が複数の素線の集合体からなるより線の場合であっても、素線-素線間の接触抵抗が小さくなり、良好な電気的接続を得ることができるのである。
【0034】
図13はオス圧着ダイスに凹溝が設けられていない従来技術の圧着接続装置を用いてアルミニウム電線を圧着端子に圧着した場合のヒートサイクル試験の結果、図14はオス圧着ダイスに凹溝が設けられている本実施形態における圧着接続装置を用いてアルミニウム電線を圧着端子に圧着した場合のヒートサイクル試験の結果をそれぞれ示している。
【0035】
ヒートサイクル試験は、JIS C2810に規定されている試験であり、アルミニウムのより線の場合、圧着した端子に関して「100mmの導体へ365Aの電流値にて既定の通電時間(60分)/休止時間(60分)で繰り返し通電した際の温度上昇値が、25サイクル時の端子温度に8Kを加えた値以下であること」と規定されている。今回のヒートサイクル試験においては、圧着した圧着端子の下表面に熱電対を貼りつけてその温度を測定した。ただし、今回の試験における通電電流は、導体温度が105℃を維持する試験電流を用いた。図13及び図14において、横軸はサイクル数(回)、縦軸は25サイクル時の温度との差(K)をそれぞれ示している。従来技術の圧着接続装置を用いた場合、及び本実施形態における圧着接続装置を用いた場合について、それぞれ4つのサンプルの試験を行った。
【0036】
図13に示すように、オス圧着ダイスに凹溝が設けられていない従来技術の圧着接続装置を用いた場合、サイクル数が増加すると、基準の8K以上に温度上昇するサンプルがあり、配線の接触抵抗が高くなっていることが分かる。これに対して、図14に示すように、オス圧着ダイスに凹溝が設けられている本実施形態の圧着接続装置を用いた場合、サイクル数が増加しても、いずれのサンプルも温度上昇が基準の8Kを超えることがなく、配線の接触抵抗が低く、良好な電気的接続が得られている。
【0037】
次に、本実施形態の圧着接続装置を用いて圧着した場合に、アルミニウム電線とセレーション部材との間で良好な電気的接続が得られる点について説明する。
【0038】
本実施形態の圧着接続装置によって圧着されるアルミニウム電線と圧着端子との電気的接続は、セレーション部材22の多数の貫通孔22aの内側面と、表面の絶縁皮膜が破られてこれら貫通孔22a内に充填される電線のアルミニウム導体との間で行われる。従って、貫通孔22aの内側面の導通に寄与する部分の合計面積が、アルミニウム導体の断面積より大きくなければならない。因みに、本実施形態におけるアルミニウム電線のアルミニウム導体の断面積は100mmである。
【0039】
図15は本実施形態の圧着接続装置を用いて圧着した後のオス圧着ダイス側の圧着端子の状態を示す写真である。同図に示すように、オス圧着ダイス11の押圧面は、凸部40と、凹溝の部分を含む凹部41とから構成されており、その凸部40の投影面積は本実施形態のオス圧着ダイス11では、101.7mmであった(顕微鏡を用いた実測値)。このオス圧着ダイス11の押圧部によって押圧した場合、セレーション部材22の貫通孔22aの内側面の押圧される面積は、101.7mm×0.942=95.8mmとなる。ここで、0.942(mm)は、セレーション部材22の1mm当たりの接触面積である。この接触面積は、セレーション部材22の貫通孔22aの直径がφ0.6mm、深さが0.5mm、貫通孔22aが中心間距離が1mmであることから、0.6mm×3.14×0.5mm=0.942mmで求められる。また、図示していないが、メス圧着ダイス12にも凸部が存在し、その投影面積は143mmであった(実測値)。このメス圧着ダイス12の押圧部によって押圧した場合、セレーション部材22の貫通孔22aの内側面の押圧される面積は、143mm×0.942=134.7mmとなる。その結果、オス圧着ダイス11とメス圧着ダイス12との押圧面によって押圧されるセレーション部材22の貫通孔22aの内側面の面積の合計は、230.5mmとなり、これは、アルミニウム導体の断面積である100mmの2倍以上あり、圧着部の発熱が少なく、良好な電気的接続を得られると考えられる。
【0040】
以上詳細に説明したように、本実施形態によれば、オス圧着ダイス11が、アルミニウム電線の軸11bと直交する方向に伸長する4つの凹溝11d、11e、11f及び11gを押圧面11aに有しているため、これら4つの凹溝11d、11e、11f及び11gによって、圧着端子に、軸11bと直交する方向の4つの凸条(リブ)が形成され、このリブの部分は強い力で圧縮されないので大きく変形されることがなく肉厚の厚い状態で残ることとなり、電線に対する圧縮応力が充分に維持される。その結果、電線が複数の素線の集合体からなるより線の場合であっても、素線-素線間の接触抵抗が小さくなり、良好な電気的接続を行うことができる。
【0041】
なお、オス圧着ダイス11における4つの凹溝11b、11c、11d及び11eの伸長方向は、上述した実施形態のごとく電線の軸方向11fと直交する方向が望ましいが、必ずしも直交する方向に伸長する必要はなく、電線の軸と交差する方向に伸長していれば良い。また、凹溝の数も、上述した実施形態のごとく、4つ(2対)に限定されるものではなく、オス圧着ダイス11の中央から両側端に向かう1対の凹溝であっても、3対以上の凹溝であっても良い。さらにまた、オス圧着ダイス11に、4つの凹溝11b、11c、11d及び11eに加えて、例えばその中央部に、任意の方向に伸長する少なくとも1つの凹溝や少なくとも1つの十字状の凹溝を設けても良い。さらに、4つの凹溝11b、11c、11d及び11eが図示のように連続して伸長する構造であっても、断続して伸長する構造であっても良い。
【0042】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0043】
10 ダイス装着部
11 オス圧着ダイス
12 メス圧着ダイス
13 スライドピン
14 ヨーク
15、31、31′ 圧着部
16 ピストンロッド
11a、12a 押圧面
11b、12b 電線の軸方向
11c 凹条
11d、11e、11f、11g 凹溝
11h、11i、11j、11k、11l、11m 突出部
12c 凸条
20、30、30′ アルミニウム電線
21 圧着端子
22 セレーション部材
22a、32、32′ 貫通孔
34 リブ
40 凸部
41 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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