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  • 特開-低誘電率樹脂形成用組成物 図1
  • 特開-低誘電率樹脂形成用組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151745
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】低誘電率樹脂形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/00 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
C08G73/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065388
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一浩
(72)【発明者】
【氏名】佐郷 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】安井 平
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA04
4J043QC09
4J043SA06
4J043SA47
4J043SB01
4J043TA73
4J043TB01
4J043UA131
4J043UA352
4J043ZA43
4J043ZB11
(57)【要約】
【課題】 低い誘電特性を有し、さらに耐熱性も高い低誘電率樹脂部品を形成可能な組成物を得ること。
【解決手段】 本願の低誘電率樹脂形成用組成物は、特定構造を有する重合性シルセスキオキサン化合物と、当該シルセスキオキサンと重合させることができる高分子またはモノマーの硬化成分とを共重合により硬化させることにより、当該シルセスキオキサンの大きな体積および大きな空隙率により、硬化樹脂中で誘電率の原因となる樹脂成分量を減少させることにより、10GHz以上の高周波領域においても極めて低い比誘電率を保持する低誘電率樹脂形成用組成物の作製が可能になる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性または光硬化性の重合性基を2個以上有する籠型のシルセスキオキサン(以下、2官能以上のシルセスキオキサンということがある。)と、マレイミド残基と重合することができる硬化成分を含む組成物であり、硬化成分は非シリコンの低誘電ポリマー、オリゴマーおよびモノマーの群から選択される少なくとも1つであり、該組成物に無機充填剤を添加しないで硬化した場合の硬化物の10GHzにおける比誘電率が3.0より低い低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項2】
前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(1)または式(2)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
ここに、Rは独立して炭素数1~16のアルキル、炭素数4~8のシクロアルキル、炭素数6~16のアリール、または炭素数7~16のアリールアルキルであり;このアルキルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-は-O-または-CH=CH-で置き換えられてもよく;
これらの環において、少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
アリールアルキル中のアルキレンにおいて、炭素数は1~12であり、そして少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよく;
そして、Yは独立して式(a)で表される基であり;
ここに、Xは独立して炭素数1~12のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、または炭素数7~16のフェニルアルキルであり;
このアルキル中、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
これらのフェニルおよびフェニルアルキル中の環において、少なくとも1つの水素がハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
は独立して式(X2)で表される基であり;
ここに、Zは独立して炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して単結合または炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-フェニレンであり、これらの環中の水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく、pは独立して0~2の整数であり、Mはマレイミド残基である。
ここに、Rは独立して炭素数1~16のアルキル、炭素数4~8のシクロアルキル、炭素数6~16のアリール、または炭素数7~16のアリールアルキルであり;このアルキルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-は-O-または-CH=CH-で置き換えられてもよく;
これらの環において、少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
アリールアルキル中のアルキレンにおいて、炭素数は1~12であり、そして少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよく;
そして、Yは式(b)、(c)、(d)または(e)のいずれかで表される基である。
ここに、Xは独立して炭素数1~12のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、または炭素数7~16のフェニルアルキルであり;
このアルキル中、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
これらのフェニルおよびフェニルアルキル中の環において、少なくとも1つの水素がハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
は独立して式(X2)で表される基であり;
ここに、Zは独立して炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して単結合または炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-フェニレンであり、これらの環中の水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく、pは独立して0~2の整数であり、Mはマレイミド残基であり、
そして式(e)におけるZは単結合、-O-または-CH-である。
【請求項3】
前記2官能以上のシルセスキオキサンが、請求項2に記載の前記式(1)で表される化合物であり、Rが独立してシクロヘキシルまたはフェニルであり;
これらの環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
は独立して請求項2に記載の前記式(a)で表される基であり;
は独立して炭素数1~12のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、または炭素数7~16のフェニルアルキルであり、これらフェニルおよびフェニルアルキルのフェニル環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
は独立して請求項2に記載の前記式(1)における式(X2)で表される基である、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項4】
前記2官能以上のシルセスキオキサンが、請求項2に記載の前記式(2)で表される化合物であり、Rが独立してシクロヘキシルまたはフェニルであり;
これらの環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
は独立して請求項2に記載の前記式(b)、(c)、(d)または(e)で表される基であり;
は、独立して炭素数1~12のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、または炭素数7~16のフェニルアルキルであり、これらフェニルおよびフェニルアルキルのフェニル環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
は独立して請求項2に記載の前記式(2)における式(X2)で表される基である、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項5】
前記2官能以上のシルセスキオキサンが、請求項2に記載の前記式(1)で表される化合物であり、Rがシクロヘキシルまたはフェニルであり;
これらの環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、メチルまたはメトキシで置き換えられてもよく;
は独立して請求項2に記載の前記式(a)で表される基であり;
はメチル、エチル、t-ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、または少なくとも1つの水素がハロゲンまたはメチルで置き換えられてもよいフェニルであり;
は独立して請求項2に記載の前記式(1)における式(X2)で表される基である、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項6】
前記2官能以上のシルセスキオキサンが、請求項2に記載の前記式(2)で表される化合物であり、Rがシクロヘキシルまたはフェニルであり;
これらの環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、メチルまたはメトキシで置き換えられてもよく;
は独立して請求項2に記載の前記式(b)、(c)、(d)または(e)で表される基であり;
はメチル、エチル、t-ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、または少なくとも1つの水素がハロゲンまたはメチルで置き換えられてもよいフェニルであり;
は独立して請求項2に記載の前記式(2)における式(X2)で表される基である、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項7】
前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(1-1)で表される化合物である、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
式(1-1)において、Zは独立して炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して単結合または炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-フェニレンであり、このフェニレン環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~4のアルキル、または炭素数1~4のアルコキシで置き換えられてもよく;
pは独立して0または1である。
【請求項8】
前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(2-1)または式(2-2)で表される化合物である、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。

式(2-1)および式(2-2)において、Zは独立して炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して単結合または炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-フェニレンであり、このフェニレン環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~4のアルキル、または炭素数1~4のアルコキシで置き換えられてもよく;
pは独立して0または1である。
【請求項9】
前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(2-3)または式(2-4)で表される化合物である、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。

式(2-3)および式(2-4)において、Zは独立して炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して単結合または炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-フェニレンであり、このフェニレン環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~4のアルキル、または炭素数1~4のアルコキシで置き換えられてもよく;
pは独立して0または1である。
【請求項10】
前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(1-1-1)または式(1-1-2)で表される化合物である、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。

式(1-1-1)および式(1-1-2)において、nは独立して1~12の整数である。
【請求項11】
前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(2-1-1)、式(2-1-2)、式(2-2-1)または式(2-2-2)で表される化合物である、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。



これらの式において、nは独立して1~12の整数である。
【請求項12】
前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(2-3-1)、式(2-3-2)、式(2-4-1)または式(2-4-2)で表される化合物である、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。



これらの式において、nは独立して1~12の整数である。
【請求項13】
前記硬化成分が、アミン系硬化剤、活性エステル硬化剤、酸発生剤、リン系硬化促進剤、またはアゾ系重合開始剤である、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物を硬化させて得られる低誘電率樹脂からなる、低誘電率樹脂部品。
【請求項15】
請求項14に記載の低誘電率樹脂部品と;
高周波を発信、変換、伝達、および信号処理する能力からなる群から選択される少なくとも1つの能力を有する電子デバイスと;
を備えた、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5Gや6Gに向けた高周波を扱う電子部品、電子基板および半導体パッケージに用いられる低誘電率樹脂を形成可能な組成物に関する。低い比誘電率と高い耐熱性を併せ持ち、高周波領域での伝送速度が速く、ロスの少ない信号伝達を可能にする低誘電率樹脂部品および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器の5G化さらにはbeyond5Gや6G化に伴い、情報通信機器やコンピュータ等の電子デバイスや電子基板上での電気信号の高周波化や、アンテナが送受信する電波も高周波化しており、信号処理回路基板やアンテナ基板において伝送速度が上がらない、また信号が減衰(損失)するなどが問題になっている。そのため、それらの基板に用いられる樹脂材料の低誘電率化、低誘電正接が求められており、従来のエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド(PI)シート、またはポリエチレンテレフタレート(PET)シートに代わり、液晶ポリマー(LCP),ポリフェニレンエーテル(PPE)、シクロオレフィンポリマー(COP)、フッ素樹脂(PTFE)などのこれまであまり使用されていなかった熱可塑性の樹脂や、従来の生産プロセスを活かせる改良型ポリイミド(mPI)などが使用され始めている。
低誘電基板は比誘電率が3.0以下、シリカや高熱伝導フィラーを含むものでは比誘電率3.5以下の材料がラインアップされており、これらの比誘電率および誘電正接よりも低い材料の開発が求められている。(非特許文献1)
【0003】
一方、現在のbeyond5Gや6Gに向けた10GHz~100THzの領域ではないが、極性が低く、透明性が高く、耐熱性の高い材料としてポリシルセスキオキサンまたはシルセスキオキサン(以下、これらを総称してPSQということがある。)化合物、およびそれらを用いた樹脂の開発が進められており(特許文献1)、官能基を付与して熱重合を可能にしたもの(特許文献2)、ポリイミドに組み込んだもの(特許文献3、4)、ラジカル反応性に対応したもの(特許文献5)、フィラーとの組み合わせによって高熱伝導化したもの(特許文献6)が開発されている。
【0004】
一方、通常の非シリコーン樹脂材料での低誘電率化は、嵩高い炭化水素分子を高分子鎖中に導入する(特許文献7、8)、シリコーン樹脂を使用する(特許文献9、10)、重合性基としてマレイミド基を使用する(特許文献10、11)、などが検討されている。また近年では、製品に必要な低吸水性や加工性など諸特性を満たすために、低誘電率の樹脂を組み合わせて使用する検討も進められており、例えばポリフェニレンエーテル樹脂とマレイミド樹脂を混合するような検討が多数報告されている(特許文献12、13)。
【0005】
様々な用途で開発されてきたPSQを、10GHz以上の領域で使用される電子デバイスに適用させる試みとして、特許文献14では、低誘電基板用樹脂として、籠型のPSQを鎖状シロキサンで繋いで高分子化したものが検討されている。高周波用の硬化性電子材料は、比誘電率や誘電正接の問題のため、広く用いられてきたエポキシ樹脂に代わって、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、またはビスマレイミド樹脂のようなラジカル反応性の樹脂に検討がシフトされつつあり、その中で耐熱性が高いマレイミド樹脂が重要視されている。本発明では、ラジカル重合が可能な重合性のシルセスキオキサン化合物を用いて、10GHz以上での比誘電率が3.0より低い低誘電率樹脂、およびこの樹脂を形成するための組成物の開発を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/024870号
【特許文献2】特開2007-332211号公報
【特許文献3】特開2010-152332号公報
【特許文献4】特開2004-331647号公報
【特許文献5】国際公開第2018/131565号
【特許文献6】国際公開第2017/150589号
【特許文献7】国際公開第2008/114880号
【特許文献8】特開2009-149528号公報
【特許文献9】特開2005―290155号公報
【特許文献10】国際公開第2020/182636号
【特許文献11】特開2021-021027号公報
【特許文献12】特開2022-156942号公報
【特許文献13】特開2020-169273号公報
【特許文献14】特開2022-49915号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】福永浩之/浜戸喜之、「高速/高周波基板の基礎と選び方」、RFワールド、CQ出版社、2017、No.40、p.p.97-111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、beyond5Gや6Gで使用される情報通信機器やコンピュータは高周波領域で駆動されるので、周辺部材には低誘電率であることが望まれている。また現在の半導体製造プロセスはこれまでの技術を積み重ねて成り立っているため、PTFEやLCPのようにフィルム化や多層化する際に300℃近い高温が必要な熱可塑性の樹脂ではなく、今までのエポキシ樹脂を用いた成形プロセスで使用できる熱硬化性や光硬化性の材料が求められている。
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物を用いることで、高周波領域における比誘電率が低く、従来の(メタ)アクリル樹脂と同様に、ラジカル重合によって硬化することができる好適な組成物を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、マレイミド残基を有するシルセスキオキサン化合物を少なくとも1種含み、その分子構造や硬化方法を検討することにより、比誘電率が3.0より低い比誘電率であって、かつ、これまでの電子部品用樹脂の硬化温度と同様に200℃以下で硬化可能な高耐熱性を有する組成物を実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
近年、ポリイミドに近い耐熱性を有し、誘電特性に優れる樹脂としてマレイミド樹脂が注目されている。しかしながら、マレイミド残基を有することに起因して誘電特性が向上しているわけではなく、一般的な低分子量のビスマレイミドモノマーをそのまま重合させても、LCPやmPIと比べ非常に特性の良好な樹脂が得られているわけではない。低誘電率は長鎖のアルキルおよび、ヘキサンやアダマンタンのような嵩高い炭化水素で実現し、マレイミド残基で耐熱性の良好な結合を実現する場合が多い。本発明では、このアルキルや環式炭化水素の部分を、耐熱性が高く誘電特性に優れたシルセスキオキサンで置き換え、優れた誘電特性と耐熱性を両立させることを目的としている。
本発明は以下の構成を有する。
【0011】
[1] 熱硬化性または光硬化性の重合性基を2個以上有する籠型のシルセスキオキサン(以下、2官能以上のシルセスキオキサンということがある。)と、マレイミド残基と重合することができる硬化成分を含む組成物であり、硬化成分は非シリコンの低誘電ポリマー、オリゴマーおよびモノマーの群から選択される少なくとも1つであり、該組成物に無機充填剤を添加しないで硬化した場合の硬化物の10GHzにおける比誘電率が3.0より低い低誘電率樹脂形成用組成物。
【0012】
[2] 前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(1)または式(2)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つである、[1]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
[ここに、Rは独立して炭素数1~16のアルキル、炭素数4~8のシクロアルキル、炭素数6~16のアリール、または炭素数7~16のアリールアルキルであり;このアルキルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-は-O-または-CH=CH-で置き換えられてもよく;
これらの環において、少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
アリールアルキル中のアルキレンにおいて、炭素数は1~12であり、そして少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよく;
そして、Yは独立して式(a)で表される基である。]
[ここに、Xは独立して炭素数1~12のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、または炭素数7~16のフェニルアルキルであり;
このアルキル中、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
これらのフェニルおよびフェニルアルキル中の環において、少なくとも1つの水素がハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
は独立して式(X2)で表される基である。]
[ここに、Zは独立して炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して単結合または炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-フェニレンであり、これらの環中の水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく、pは独立して0~2の整数であり、Mはマレイミド残基である。]
[ここに、Rは独立して炭素数1~16のアルキル、炭素数4~8のシクロアルキル、炭素数6~16のアリール、または炭素数7~16のアリールアルキルであり;このアルキルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-は-O-または-CH=CH-で置き換えられてもよく;
これらの環において、少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
アリールアルキル中のアルキレンにおいて、炭素数は1~12であり、そして少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよく;
そして、Yは式(b)、(c)、(d)または(e)のいずれかで表される基である。]
[ここに、Xは独立して炭素数1~12のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、または炭素数7~16のフェニルアルキルであり;
このアルキル中、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
これらのフェニルおよびフェニルアルキル中の環において、少なくとも1つの水素がハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
は独立して式(X2)で表される基である。]
[ここに、Zは独立して炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して単結合または炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-フェニレンであり、これらの環中の水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく、pは独立して0~2の整数であり、Mはマレイミド残基であり、
そして式(e)におけるZは単結合、-O-または-CH-である。]
【0013】
[3] 前記2官能以上のシルセスキオキサンが、[2]に記載の前記式(1)で表される化合物であり、Rが独立してシクロヘキシルまたはフェニルであり;
これらの環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
は独立して[2]に記載の前記式(a)で表される基であり;
は独立して炭素数1~12のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、または炭素数7~16のフェニルアルキルであり、これらフェニルおよびフェニルアルキルのフェニル環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
は独立して[2]に記載の前記式(1)における式(X2)で表される基である、[1]または[2]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【0014】
[4] 前記2官能以上のシルセスキオキサンが、[2]に記載の前記式(2)で表される化合物であり、Rが独立してシクロヘキシルまたはフェニルであり;
これらの環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
は独立して[2]に記載の前記式(b)、(c)、(d)または(e)で表される基であり;
は、独立して炭素数1~12のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、または炭素数7~16のフェニルアルキルであり、これらフェニルおよびフェニルアルキルのフェニル環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
は独立して[2]に記載の前記式(2)における式(X2)で表される基である、[1]または[2]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【0015】
[5] 前記2官能以上のシルセスキオキサンが、[2]に記載の前記式(1)で表される化合物であり、Rがシクロヘキシルまたはフェニルであり;
これらの環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、メチルまたはメトキシで置き換えられてもよく;
は独立して[2]に記載の前記式(a)で表される基であり;
はメチル、エチル、t-ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、または少なくとも1つの水素がハロゲンまたはメチルで置き換えられてもよいフェニルであり;
は独立して[2]に記載の前記式(1)における式(X2)で表される基である、[1]、[2]または[3]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【0016】
[6] 前記2官能以上のシルセスキオキサンが、[2]に記載の前記式(2)で表される化合物であり、Rがシクロヘキシルまたはフェニルであり;
これらの環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、メチルまたはメトキシで置き換えられてもよく;
は独立して[2]に記載の前記式(b)、(c)、(d)または(e)で表される基であり;
はメチル、エチル、t-ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、または少なくとも1つの水素がハロゲンまたはメチルで置き換えられてもよいフェニルであり;
は独立して[2]に記載の前記式(2)における式(X2)で表される基である、[1]、[2]または[4]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【0017】
[7] 前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(1-1)で表される化合物である、[1]、[2]、[3]または[5]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
[式(1-1)において、Zは独立して炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して単結合または炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-フェニレンであり、このフェニレン環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~4のアルキル、または炭素数1~4のアルコキシで置き換えられてもよく;
pは独立して0または1である。]
【0018】
[8] 前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(2-1)または式(2-2)で表される化合物である、[1]、[2]、[4]または[6]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。

[式(2-1)および式(2-2)において、Zは独立して炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して単結合または炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-フェニレンであり、これらの環中の水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく、pは独立して0~2の整数である。]
【0019】
[9] 前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(2-3)または式(2-4)で表される化合物である、[1]、[2]、[4]または[6]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。

[式(2-3)および式(2-4)において、Zは独立して炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して単結合または炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-フェニレンであり、これらの環中の水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく、pは独立して0~2の整数である。]
【0020】
[10] 前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(1-1-1)または式(1-1-2)で表される化合物である、[1]、[2]、[3]、[5]または[7]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。

[式(1-1-1)および式(1-1-2)において、nは1~12の整数である。]
【0021】
[11] 前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(2-1-1)、式(2-1-2)、式(2-2-1)または式(2-2-2)で表される化合物である、[1]、[2]、[4]、[6]または[8]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。



[これらの式において、nは1~12の整数である。]
【0022】
[12] 前記2官能以上のシルセスキオキサンが、式(2-3-1)、式(2-3-2)、式(2-4-1)または式(2-4-2)で表される化合物である、[1]、[2]、[4]、[6]または[9]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。



[これらの式において、nは1~12の整数である。]
【0023】
[13] 前記硬化成分が、アミン系硬化剤、活性エステル硬化剤、酸発生剤、リン系硬化促進剤、またはアゾ系重合開始剤である、[1]~[12]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【0024】
[14] [1]~[13]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用組成物を硬化させて得られる低誘電率樹脂からなる、低誘電率樹脂部品。
【0025】
[15] [14]に記載の低誘電率樹脂部品と;
高周波を発信、変換、伝達、および信号処理する能力からなる群から選択される少なくとも1つの能力を有する電子デバイスと;
を備えた、電子機器。
【発明の効果】
【0026】
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物から形成された低誘電率樹脂部品は、10GHz以上の高周波領域において、極めて低い比誘電率と高い耐熱性を有する。さらに、熱膨張率の制御性、化学的安定性、硬度および機械的強度などの優れた特性をも有する。当該低誘電率樹脂形成用組成物および低誘電率樹脂部品は、低誘電基板、低誘電率樹脂絶縁膜、低誘電率樹脂シート、低誘電率樹脂フィルムおよびその原料となるワニス、低誘電率接着剤などに適している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本願の低誘電率樹脂部品において、本願発明で用いる2官能以上のシルセスキオキサンが低誘電率に寄与する概念図である。
図2図2は、本願の[実施例]および[比較例]において、融解した組成物の厚みを制御し、融液が外部に流出するのを防ぐために、離型剤で処理した離型剤付きポリイミドフィルム上下に挟み込まれて使用される目的で作製したPTFEテープ製簡易金型の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について説明する。また、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0029】
本発明で用いる用語について説明する。式(1)で表わされる化合物を化合物(1)と表記することがある。他の式で表される化合物についても同様に簡略化して称することがある。「少なくとも1つのAはBまたはCで置き換えられてもよい」という表現は、少なくとも1つのAがBで置き換えられる場合および少なくとも1つのAがCで置き換えられる場合に加えて、少なくとも1つのAがBで置き換えられると同時に、その他のAの少なくとも1つがCで置き換えられる場合があることを意味する。本明細書および特許請求の範囲に記載される化学式において、Meはメチルであり、そしてPhはフェニルである。「液晶性化合物」は、ネマチック相やスメクチック相などの液晶相を有する化合物、および、液晶相を有しないが誘電率異方性、屈折率異方性、磁化率異方性などのような液晶に特有の物性を有し、液晶組成物の成分として有用な化合物の総称である。液晶温度範囲では配向処理が容易になり、熱可塑性樹脂における延伸処理のように分子の配向を制御することができる。実施例においては、電子天秤の表示データを質量単位であるg(グラム)を用いて示した。重量%や重量比はこのような数値に基づくデータである。
【0030】
[低誘電率樹脂形成用組成物]
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物は、重合性シルセスキオキサン化合物(2官能以上のシルセスキオキサン)と、当該シルセスキオキサンと重合させることができる高分子またはモノマーの硬化成分とを共重合により硬化させることにより、当該シルセスキオキサンの大きな体積および大きな空隙率により、硬化樹脂中で誘電率の原因となる樹脂成分量を減少させることにより、10GHz以上の高周波領域においても極めて低い比誘電率を保持する低誘電率樹脂形成用組成物の作製が可能になる。
【0031】
本発明の第1の実施の形態に係る低誘電率樹脂形成用組成物は、複数の環状シロキサンが閉じた空間を形成している籠型構造を有する基本骨格に、重合性の官能基としてマレイミド残基を有する特定構造の重合性シルセスキオキサン化合物を用いて、樹脂成分内の空隙が大きい、すなわち樹脂成分の密度が低い硬化物を作製することを目的として作製した、低誘電率の硬化性樹脂組成物である。
【0032】
<2官能以上のシルセスキオキサン>
2官能以上のシルセスキオキサンは、マレイミド残基を2個以上有する籠型構造のシルセスキオキサンの少なくとも1つである。この籠型構造は、複数の環状シロキサンが閉じた空間を形成している構造であり、その閉じた空間の形状は特に限定されない。さらに本発明では、籠型構造の少なくとも1箇所以上が塞がれていない構造を有するシルセスキオキサン(例えばダブルデッカー型)も包含する。
【0033】
このような構造の2官能以上のシルセスキオキサンの具体例として、化合物(1)および化合物(2)で示すことができる。本発明の低誘電率樹脂形成用組成物は、2官能以上のシルセスキオキサンとして、化合物(1)および化合物(2)の化合物の群から選択される少なくとも1つを用いることができ、化合物(1)および化合物(2)を併用して用いてもよい。

式(1)または(2)で表される化合物において、Rは独立して炭素数1~16のアルキル、炭素数4~8のシクロアルキル、炭素数6~16のアリール、または炭素数7~16のアリールアルキルから選択される基である。式(1)または(2)において、8個のRはすべてが同一の基であることが好ましいが、異なる2個以上の基で構成されてもよい。
が炭素数1~16のアルキルであるとき、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-は-O-または-CH=CH-で置き換えられてもよい。このアルキルの好ましい炭素数は1~12である。
なお、「アルキルにおける少なくとも1つの-CH-は、-O-で置き換えられてもよい」などの句の意味を一例で示す。C-における少なくとも1つの-CH-が、-O-で置き換えられた基としては、C3O-、CH-O-(CH-、CH-O-CH-O-などである。このように「少なくとも1つの」という語は、「区別なく選択された少なくとも1つの」を意味する。なお、化合物の安定性を考慮して、酸素と酸素とが隣接したCH-O-O-CH-よりも、酸素と酸素とが隣接しないCH-O-CH-O-の方が好ましい。アリールアルキル中のアルキレンにおいても、-O-の置き換えについては同様である。
【0034】
が炭素数4~8のシクロアルキルであるとき、架橋構造の基であってもよい。シクロアルキルの好ましい例はシクロペンチルおよびシクロヘキシルであり、シクロヘキシルが特に好ましい。
が炭素数4~8のシクロアルキル、炭素数6~16のアリール、または炭素数7~16のアリールアルキル中の環において、少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよく;
炭素数7~16のアリールアルキル中のアルキレンにおいて炭素数は1~12であり、そして少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよい。
【0035】
炭素数6~16のアリールの例は、フェニル、ハロゲン化フェニル、4-メチルフェニル、4-エチルフェニル、4-ブチルフェニル、4-オクチルフェニル、2,4-ジメチルフェニル、4-メトキシフェニル、4-ブトキシフェニル、4-トリフルオロメチルフェニル、4-トリフルオロメトキシフェニル、3-クロロ-4-メチルフェニル、3,5-ジクロロ-4-メチルフェニル、および2,3-ジフルオロ-4-メトキシフェニルである。これらのうちで、フェニルが特に好ましい。
前記の炭素数7~16のアリールアルキルの例は、フェニルメチル、フェニルエチル、3-フェニルプロピル、4-フェニルブチル、4-クロロフェニルメチル、4-フルオロフェニルメチル、2-(4-フルオロフェニル)プロピル、2-(4-クロロフェニル)エチル、4-メチルフェニルメチル、2-(4-メチルフェニル)エチル、2-(2,5ジメチルフェニル)エチル、4-トリフルオロメチルフェニルメチル、2-(4-トリフルオロメチルフェニル)エチル、2-(4-エテニルフェニル)エチル、4-メトキシフェニルメチル、4-エトキシフェニルメチル、2-(4-メトキシフェニル)エチル、3-(4-メトキシフェニル)プロピル、2-クロロ-4-メチルフェニルメチル、および2,5-ジクロロ-4-メチルフェニルメチルである。アリールアルキル中の好ましいアルキレンの炭素数は1~6である。
【0036】
式(1)におけるYは独立して式(a)で表される基である。2つ以上のYは異なる基であっても構わないが、同一の基であることが好ましい。
は独立して炭素数1~12のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、または炭素数7~16のフェニルアルキルであり;
このアルキル中、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
これらのフェニルおよびフェニルアルキル中の環において、少なくとも1つの水素がハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよい。
複数のXは異なる基であっても構わないが、同一の基であることが好ましい。Xの好ましい例は炭素数1~12のアルキル、炭素数1~12のアルコキシ、炭素数1~12のフッ素化アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、または炭素数7~16のフェニルアルキルである。これらのうちで、メチル、イソプロピル、tert-ブチル、シクロヘキシル、およびフェニルが特に好ましい。
【0037】
は独立して式(X2)で表される基である。
式(X2)において、Zは独立して炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよい。
は独立して単結合または炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素または炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよい。
好ましいZは、-(CH-、-(CF-、-O(CHO-、または-O(CFO-であり、nは1~12の整数である。これらのうちで、n=2~6のときが特に好ましい。
好ましいZは単結合、-(CH-、-(CF-、-O(CHO-、または-O(CFO-であり、nは1~12の整数である。これらのうちで、単結合またはn=2~6のときが特に好ましい。
【0038】
式(X2)において、Aは独立して1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-フェニレンであり、これらの環中の水素はハロゲン、炭素数1~6のアルキル、または炭素数1~6のアルコキシで置き換えられてもよい。これらのうちで、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレンが特に好ましい。
式(X2)において、pは独立して0~2の整数である。pが0のときは融点が低く、pが1または2のときは透明点が高い。
式(X2)において、Mはマレイミド残基である。マレイミド残基は下記の式(M-1)で表される。
式(M-1)中で、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、式中に複数あるRは、それらが同一であっても異なっていてもよい。Rがすべて水素のときが好ましい。
【0039】
式(2)におけるYは独立して式(b)、(c)、(d)または(e)で表される基である。2つのYは異なる基であっても構わないが、同一の基であることが好ましい。
ここに、式(b)、(c)、(d)および(e)のそれぞれにおいて、XおよびXは式(a)におけるXおよびXと同じ定義を有し、好ましい例は、式(a)におけるXおよびXの例に準ずる。そして式(e)におけるZは単結合、-O-、または-CH-であり、このうち-O-であるとき特に好ましい。
【0040】
式(1)または式(2)の特に好ましい組み合わせ範囲は、すべてのYまたはすべてのYが同一であって、RとXおよびXに関して次のように表される。
すなわち、Rがシクロヘキシルまたはフェニルであり;式(a)~式(e)のそれぞれにおいて、すべてのXがメチル、エチル、t-ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはフェニルであって、すべてのXが同一であって、Xがマレイミド残基を有する基である化合物である。
【0041】
式(1)または式(2)の好適な例は、下記の式(1-1)または式(2-1)~式(2-4)でそれぞれ表される化合物である。
(これらの式において、Zは独立して炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して単結合または炭素数1~12のアルキレンであり、このアルキレン中で少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-が-O-で置き換えられてもよく;
は独立して1,4-シクロヘキシレンまたは1,4-フェニレンであり、このフェニレン環中の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1~4のアルキル、または炭素数1~4のアルコキシで置き換えられてもよく;
pは独立して0または1である。)
【0042】
【0043】



【0044】
式(1)または(2)のさらに好適な例は、下記の式(1-1-1)、式(1-1-2)または式(2-1-1)~式(2-4-2)でそれぞれ表される化合物である。
(これらの式において、nは1~12の整数である。)

【0045】

【0046】

【0047】

【0048】

【0049】
これらの2官能以上のシルセスキオキサンは、
式(1-1):特許第5013127号公報(特開2009-167390号公報)
式(1-2):特許第4470738号公報(国際公開第2004/024741号)
式(2-1):特許第5408597号公報(特開2007-332214号公報)
式(2-2):特許第4379120号公報(国際公開第2003/024870号)
式(2-3)および式(2-4):特許第5018065号公報(特開2008-150478号公報)
を参照することにより容易に得ることができる。
【0050】
本発明に用いられる2官能以上のシルセスキオキサンは、マレイミド残基と重合することができる硬化成分(以下、単に「硬化成分」または「硬化剤」ということがある。)や反応性エラストマーなどと組み合わせて高分子鎖を形成するために2官能以上の官能基を有することが好ましく、3官能以上、または4官能以上である場合を含む。耐熱性や高硬度を実現するためには3官能や4官能の硬化成分を用いて3次元的に架橋することが好ましく、フレキシブル性を残すためには2官能で分子鎖長の長い硬化成分を用いることが好ましい。さらに、2官能以上のシルセスキオキサンの長辺の両端に官能基を有する化合物は、その両末端の分子鎖により固定され、分子の振動や回転による双極子モーメントが発生しにくいため好ましい。
【0051】
<その他の重合性化合物>
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物は、マレイミド残基と重合することができる硬化成分として、2官能以上のシルセスキオキサン以外の重合性化合物(以下、その他の重合性化合物ということがある。)を用いることができる。その他の重合性化合物としては、2官能以上のシルセスキオキサンに付与した重合性基と反応することができる重合性基を2個以上有する高分子または低分子化合物、すなわち非シリコンの低誘電ポリマー、オリゴマーおよびモノマーの群から選択される少なくとも1つの化合物を構成要素としてもよい。その他の重合性化合物は、以下の2官能以上のシルセスキオキサン以外の重合性非液晶性化合物(以下、「その他の重合性非液晶性化合物」ということがある。)の少なくとも1種、および2官能以上のシルセスキオキサン以外の重合性液晶性化合物(以下、「その他の重合性液晶性化合物」ということがある。)の少なくとも1種から構成される。その他の重合性非液晶性化合物およびその他の重合性液晶性化合物は、併用して用いることもできる。
【0052】
<その他の重合性非液晶性化合物>
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物は、マレイミド残基と重合することができる硬化成分として、その他の重合性非液晶性化合物の少なくとも1種を構成要素としてもよい。このようなその他の重合性非液晶性化合物としては、膜形成性および機械的強度を低下させない化合物が好ましい。その他の重合性非液晶性化合物は、液晶性を有しない化合物に分類される。液晶性を有しない重合性化合物であるその他の重合性非液晶性化合物としては、ビニル誘導体、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、ソルビン酸誘導体、フマル酸誘導体、イタコン酸誘導体、ビスマレイミド誘導体などの誘導体、変性ポリイミドオリゴマー、変性ポリマレイミドオリゴマー、変性ポリフェニレンエーテルオリゴマー、変性ポリフェニレンサルファイドオリゴマー、変性ポリブタジエンエラストマーなどの変性されたエンジニアリングプラスチックのオリゴマー、すなわち重合性官能基を有する高分子量化合物を意味するマクロマーが挙げられる。これらの誘導体の好ましい例を以下に示す。
文中、「(メタ)アクリロイルオキシ」は、アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシを意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0053】
好ましいビニル誘導体としては、塩化ビニル、フッ化ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2,2-ジメチルブタン酸ビニル、2,2-ジメチルペンタン酸ビニル、2-メチル-2-ブタン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2-エチル-2-メチルブタン酸ビニル、N-ビニルアセトアミド、p-t-ブチル安息香酸ビニル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸ビニル、安息香酸ビニル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルモノビニルエーテル、t-アミルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールメチルビニルエーテル、α,β-ビニルナフタレン、メチルビニルケトン、イソブチルビニルケトンなどが挙げられる。
【0054】
好ましいスチレン誘導体としては、スチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。
【0055】
好ましい(メタ)アクリル酸誘導体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールEO付加トリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ビスフェノールA EO付加ジアクリレート、ビスフェノールA グリジジルジアクリレート(商品名:大阪有機化学工業(株)製「ビスコート700」)、ポリエチレングリコールジアクリレートジメチルイタコネートなどが挙げられる。
【0056】
好ましいソルビン酸誘導体としては、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸リチウム、ソルビン酸1-ナフチルメチルアンモニウム、ソルビン酸ベンジルアンモニウム、ソルビン酸ドデシルアンモニウム、ソルビン酸オクタデシルアンモニウム、ソルビン酸メチル、ソルビン酸エチル、ソルビン酸プロピル、ソルビン酸イソプロピル、ソルビン酸ブチル、ソルビン酸t-ブチル、ソルビン酸ヘキシル、ソルビン酸オクチル、ソルビン酸オクタデシル、ソルビン酸シクロペンチル、ソルビン酸シクロヘキシル、ソルビン酸ビニル、ソルビン酸アリル、ソルビン酸プロパギルなどが挙げられる。
【0057】
好ましいフマル酸誘導体としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどが挙げられる。
【0058】
好ましいイタコン酸誘導体としては、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジイソプロピルイタコネートなどが挙げられる。
【0059】
好ましいビスマレイミド誘導体としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニルメタン)メタン、2,2-Bis[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンなどが挙げられる。
これらの他にも、ブタジエン、イソプレンなど、多くの重合性非液晶性化合物を用いることができる。
【0060】
2官能以上のシルセスキオキサンは、重合開始剤を用いてラジカル重合性により硬化させる場合は、その他の重合性非液晶性化合物として、末端にマレイミド残基、アクリル、メタクリル、ビニル、またはアリルを有し、反応性ポリフェニレンエーテルオリゴマー、反応性ポリイミドオリゴマー、反応性ポリマレイミドオリゴマー、反応性ビフェニルオリゴマー、反応性ビスフェノールオリゴマー、反応性ポリアルキルエーテル化合物、または反応性EPDM化合物などを組み合わせると、より低誘電率および高耐熱性で接着性を有する熱硬化樹脂を構成することができる。さらに、重合開始剤として、光重合開始剤を用いると光硬化性に、熱重合開始剤を用いると熱硬化性にすることができる。
【0061】
<その他の重合性液晶性化合物>
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物は、マレイミド残基と重合することができる硬化成分として、その他の重合性液晶性化合物の少なくとも1種を構成要素としてもよい。その他の重合性液晶性化合物は、分子の直線性がよく、規則性も高いため、分子の配向方向のフォノン振動の伝導に起因する熱伝導率が高く、分子鎖の柔らかさに起因する分子振動が原因となる誘電率や誘電損失の発現が抑えられるために低誘電率かつ低誘電損失が期待できる。例えば、特許第5084148号公報(特開2006-265527号公報)、特許第6653793号公報(国際公開第2015/170744号)、特許第6902193号公報(国際公開第2017/150589号)に記載のその他の重合性液晶性化合物が好ましい。
【0062】
<その他の構成要素>
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物中の2官能以上のシルセスキオキサンに直接結合していない、すなわち図1に示した高分子鎖12に組み込まれない有機化合物(例えば、その他の重合性化合物または結合していない高分子化合物)を含んでいてもよく、重合開始剤や溶媒等を含んでいてもよい。
【0063】
<結合していない高分子化合物>
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物中の2官能以上のシルセスキオキサンに直接結合していない、結合していない高分子化合物(以下、単に「高分子化合物」ということがある。)としては、膜形成性および機械的強度を低下させない化合物が好ましい。この高分子化合物は、2官能以上のシルセスキオキサンまたは硬化剤と反応しない高分子化合物であればよく、硬化剤がアミノを有する場合は、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、シリコーン樹脂、ワックスなどが挙げられる。低誘電率材料では分子鎖間に空隙があると誘電率が下がるという意味では好ましいが、直接結合しない誘電率が低く吸水性の低い高分子化合物を添加することにより空隙を塞ぐことが好ましい。また一般にマレイミド樹脂は硬く脆いといわれており、分子鎖が長く柔軟な高分子化合物を添加することにより、硬さや脆さを緩和することもできる。含有量は、まず結合していない重合性化合物を含まない、低誘電率樹脂形成用組成物を作製し、その空隙率を測定して、その空隙率を埋められる量の高分子化合物を添加することが望ましい。
【0064】
<重合開始剤>
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物は、重合開始剤を構成要素としてもよい。重合開始剤は、低誘電率樹脂形成用組成物の重合方法に応じて、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤などを用いればよい。
【0065】
光ラジカル重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、4-メトキシフェニル-2,4-ビス(トリクロロメチル)トリアジン、2-(4-ブトキシスチリル)-5-トリクロロメチル-1,3,4-オキサジアゾール、9-フェニルアクリジン、9,10-ベンズフェナジン、ベンゾフェノン/ミヒラーズケトン混合物、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ヘキサアリールビイミダゾール/メルカプトベンズイミダゾール混合物、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2,4-ジエチルキサントン/p-ジメチルアミノ安息香酸メチル混合物、ベンゾフェノン/メチルトリエタノールアミン混合物などが挙げられる。市販のものとしては、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)(現BASFジャパン(株))製商品名「ダロキュアーシリーズ1173、4265」、「イルガキュアーシリーズ184、369、500、651、784、819、907、1300、1700、1800、1850、2959」、富士フイルム和光純薬(株)製商品名「V―59、V-65、V-70、V―601、AIBN-HP」などが挙げられる。
【0066】
光カチオン重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、UCC(株)製商品名「サイラキューアーUVI-6990、6974」、(株)ADEKA製商品名「アデカオプトマーSP-150、152、170、172」、ローディア(株)製商品名「Photoinitiator 2074」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)(現BASFジャパン(株))製商品名「イルガキュアー250」、みどり化学(株)製商品名「DTS-102」などが挙げられる。
【0067】
熱ラジカル重合開始剤の好ましい例としては、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ-t-ブチルパーオキシド(DTBPO)、t-ブチルパーオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル(MAIB)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル(ACN)などが挙げられる。
【0068】
アニオン重合、配位重合およびリビング重合用の好ましい開始剤としては、n-CLi、t-CLi、RAlなどのアルカリ金属アルキル化合物、アルミニウム化合物、遷移金属化合物などが挙げられる。
【0069】
<硬化剤>
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物は、マレイミド残基と重合することができる硬化成分として、硬化剤を構成要素として含有してもよい。硬化剤としては、2官能以上のシルセスキオキサンに付与した重合性基と反応することができる重合性基を2個以上有する高分子または低分子化合物、すなわち非シリコンの低誘電ポリマー、オリゴマーおよびモノマーの群から選択される少なくとも1つの化合物を構成要素としてもよい。好ましい硬化剤の例を以下に示す。
【0070】
アミン系硬化剤として、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、o-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン、p-キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、3,9-ジプロパンアミン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-1,2-ジフェニルエタン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、ポリシクロヘキシルポリアミン、N-アミノエチルピペラジンなどが挙げられる。
【0071】
エポキシ(オキシラン)系硬化剤としては、ビフェノール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラクロロビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA等のビスフェノール類のジグリシジルエーテル類、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ブロム化フェノールノボラック、オルトクレゾールノボラック等のノボラック樹脂のポリグリシジルエーテル類、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等のアルキレングリコール類のジグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリス(2,3-エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ヘキサヒドロフタル酸のグリシジルエステルやダイマー酸のジグリシジルエステル等のグリシジルエステル類、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート((株)ダイセル製の商品名:セロキサイド2021P)、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル-3’,4’-エポキシ-6’-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、3,4-エポキシ-4-メチルシクロヘキシル-2-プロピレンオキサイド、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ジシクロペンタジエンジエポキシド、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)エーテル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)ブタンテトラカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)-4,5-エポキシテトラヒドロフタレート、1,2:8,9ジエポキシリモネン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)ジエチルシロキサン等の脂環式エポキシ化合物などが挙げられる。これらのエポキシ化合物を単独で用いてもよいし、複数のエポキシ化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
オキセタン系硬化剤としては、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(東亞合成(株)製の商品名:OXT-101)、3-エチル-3-(フェノキシメチル)オキセタン(東亞合成(株)製の商品名:OXT-211)、3-エチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタン(東亞合成(株)製の商品名:OXT-212)、1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン(東亞合成(株)製の商品名:OXT-121)、ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル(東亞合成(株)製の商品名:OXT-221)、脂肪族カルボン酸系オキセタン化合物(例えばアジペートビスオキセタン)、芳香族カルボン酸系オキセタン化合物(例えばテレフタレートビスオキセタン)、脂環式カルボン酸系オキセタン化合物(例えばシクロヘキサンジカルボン酸ビスオキセタン)、芳香族イソシアネート系オキセタン化合物(例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)ビスオキセタン)等が挙げられる。これらのオキセタン化合物を単独で用いてもよいし、複数のオキセタン化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
<硬化促進剤>
また、硬化促進剤として、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、5,6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン等のシクロアミジン化合物;該シクロアミジン化合物に無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂などのπ結合を有する化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン化合物;該3級アミン化合物の誘導体;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;該イミダゾール化合物の誘導体;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン化合物;該有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、上記キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合を有する化合物を付加してなる分子内分極を有するリン化合物;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、2-エチル-4-メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、N-メチルモルホリンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩;該テトラフェニルボロン塩の誘導体;トリフェニルホスホニウム-トリフェニルボラン、N-メチルモルホリンテトラフェニルホスホニウム-テトラフェニルボレート等のホスフィン化合物と該テトラフェニルボロン塩との付加物などが挙げられる。
【0074】
<溶媒>
低誘電率樹脂形成用組成物は溶媒を含有してもよい。重合させる必要がある構成要素を該組成物中に含む場合、重合は溶媒中で行っても、無溶媒で行ってもよい。溶媒を含有する該組成物を基板上に、スピンコート法などにより塗布した後、溶媒を除去してから熱重合や光重合を行ってもよい。また、塗布の際に表面張力や分散性の調整のために、極性溶媒を添加してもよい。
好ましい溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタノン、2-ブタノン、シクロヘキサノン、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル(PGMEA)などが挙げられる。上記溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、重合時の溶媒の使用割合を限定することにはあまり意味がなく、重合効率、溶媒コスト、エネルギーコスト、環境負荷などを考慮して、個々のケースごとに決定すればよい。
【0075】
<その他の添加剤>
低誘電率樹脂形成用組成物には、取扱いを容易にするために、安定剤を添加してもよい。このような安定剤としては、公知のものを制限なく使用でき、ハイドロキノン、4-エトキシフェノールおよび3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)などが挙げられる。
さらに、低誘電率樹脂形成用組成物の粘度や色を調整するために添加剤(酸化物等)を添加してもよい。例えば、白色にするための酸化チタン、黒色にするためのカーボンブラック、粘度を調整するためのシリカの微粉末を挙げることができる。また、機械的強度をさらに増すために添加剤を添加してもよい。ガラスファイバー、カーボンファイバー、カーボンナノチューブなどの無機繊維やクロス、または高分子添加剤として、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドなどの繊維または高分子を挙げることができる。
【0076】
<無機充填剤>
低誘電率樹脂形成用組成物には、熱伝導率向上、機械強度向上、粘度調整などのために、無機充填剤を加えることができる。熱伝導率の高い無機充填剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素などの金属窒化物、ダイアモンド、黒鉛、グラフェンなどの炭素の単体、炭化珪素、炭化ホウ素などの炭化物、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化珪素、酸化チタン、酸化錫、酸化ホルミニウム、酸化カルシウムなどの金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、コーディエライト、ムライトなどのケイ酸塩化合物、および金、銀、銅、白金、鉄、錫、鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、モリブデン、ステンレスなどの金属充填剤であってもよい。好ましくは、誘電率が低い、窒化ホウ素、酸化ケイ素が好ましく、特に六方晶系の窒化ホウ素(h-BN)は誘電率が低く熱伝導率が高いので好ましい。市販のものとしては、誘電正接の低い粉末状無機充填剤としては、デンカ(株)製商品名「デンカ溶融シリカFB-5D、GT130MC、GT5SDC」「デンカボロンナイトライドSGP、SP-2」、(株)アドマテックス製商品名「SO-C2、SO-E1」、MOMENTIVE社製商品名「MOMENTIVETM PTX25」、機械強度を付与するための低誘電ガラスクロスとしては日東紡績(株)製商品名「NEガラス2116、3313」などが挙げられる。
【0077】
無機充填剤の形状としては、球状、無定形、繊維状、棒状、筒状、板状、中空球状などが挙げられる。無機充填剤の形状は、重合性液晶性化合物が液晶相を発現した際の配向を妨げない形状のものが好ましい。無機充填剤の種類、形状、大きさ、添加量などは、目的に応じて適宜選択できる。低誘電率樹脂形成用組成物から得られる低誘電率樹脂成形体が絶縁性を必要とする場合、所望の絶縁性および誘電率、誘電損失が保たれれば導電性を有する無機充填剤であっても構わない。好ましくは、板状結晶の窒化ホウ素を用いると、重合性液晶性化合物が板状構造に垂直に配向され易い、または重合性液晶性化合物が板状構造に沿って配向され易いため好ましい。垂直に配向するか、平板に沿って配向するかは、重合性液晶性化合物と、無機充填剤の親和性に依存する。重合性液晶性化合物と微粒径の球状の酸化ケイ素を用いると溶融物や溶液の粘度を上げることができ、ケイ酸塩化合物を用いると成形体の熱膨張率を小さくできるので好ましい。
低誘電率化のためには少しでも空気の含有率を高くしたほうが、比誘電率が低くなるので、中空状のシリカや、多孔質状のシリカ、ケイ酸塩などを使用することが好ましい。また、粘度やチクソ性を調整するためには球状のシリカを使用することが好ましい。機械強度を高くする場合は、繊維状のシリカまたはケイ酸塩ガラスを用いることが好ましい。
【0078】
球状または不定形状の無機充填剤の平均粒径は、0.1~200μmであることが好ましい。より好ましくは、1~100μmである。0.1μm以上であると熱伝導率がよく、200μm以下であると充填率を上げることができる。繊維状の無機充填剤に関しては、繊維長が長いほど引張強度は向上するが、混練や分散は困難となる場合があるので、用途によって選択することが好ましい。分散させる場合は、繊維状無機充填剤の平均粒径は、0.01~200μmであることが好ましい。より好ましくは、0.1~100μmである。0.01μm以上であると熱伝導率がよく、200μm以下であると機械強度を上げることができる。
なお、本明細書において平均粒径とは、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定に基づく。すなわち、フランホーファー回折理論およびミーの散乱理論による解析を利用して、湿式法により、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量(体積基準)となる径をメジアン径とした。
無機充填剤の量は、硬化後の低誘電率樹脂成形体中の量が5~90体積%の無機充填剤を含有するように調整することが好ましい。より好ましくは、20~80体積%である。5体積%以上であると高熱伝導無機充填剤の場合は熱伝導率が高くなり、低誘電正接無機充填剤の場合は誘電正接が低くなるので好ましい。90体積%以下であると低誘電率樹脂成形体が脆くならず好ましい。
【0079】
[低誘電率樹脂]
本発明の別の実施形態である低誘電率樹脂は、上述の低誘電率樹脂部品であり、シート状、フィルム状、板状、繊維状、三次元形状の部品(コネクターの絶縁部分)などに用いられるほか、そのままコート剤、接着剤や充填剤として使用することもできる。該低誘電率樹脂は、上述の低誘電率樹脂形成用組成物の硬化物であるために低い誘電率を有するとともに、ポリマーとして重合性液晶性化合物の重合体を用いている場合、熱伝導率、耐熱性、剛性、弾性、成形流動性、耐薬品性、および寸法安定性等にも優れる。
【0080】
[低誘電率樹脂部品および電子機器]
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物は、低誘電率樹脂絶縁膜、低誘電率樹脂フィルム、低誘電率樹脂シートなどの低誘電率樹脂部品として用いることができる。さらには、低誘電率樹脂基板、低誘電率樹脂コーティング、低誘電率樹脂接着剤、低誘電率樹脂成形体などの各種電子機器としての用途に有用である。
【0081】
<製造方法>
以下、低誘電率樹脂形成用組成物を製造する方法、および該組成物から低誘電率高耐熱基板、低誘電率高耐熱絶縁層などの低誘電率樹脂部品を製造する方法について具体的に説明する。
【0082】
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物は、そのまま溶媒に溶解させて溶液として使用することもできる。低誘電率樹脂形成用組成物の溶液の調製は、2官能以上のシルセスキオキサン、硬化成分、必要に応じてその他の重合性液晶性化合物、溶媒、無機充填剤、上述した各種の添加剤などを加え、撹拌機を用いて組成ムラが無くなる程度まで撹拌・脱泡する。自転・公転ミキサーを用い、回転数2000rpmで10分間撹拌後、回転数2200rpmで10分間脱泡する。自転・公転ミキサーの他には、攪拌モーター、らいかい機、三本ロール、ボールミル、自転・公転ミル、遊星ミル、ビーズミル、ジェットミルなどを用いて分散させることができる。
【0083】
塗布方法には、低誘電率樹脂形成用組成物を均一にコーティングするために、ウェットコーティング法を用いることが好ましい。ウェットコーティング法のうち、低誘電率樹脂部品を少量作製する場合には簡便で均質な製膜が可能であるスピンコート法が好ましい。生産性を重視する場合には、グラビアコート法、ダイコート法、バーコート法、リバースコート法、ロールコート法、スリットコート法、ディッピング法、スプレーコート法、キスコート法、リバースキスコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ロッドコート法などが好ましい。ウェットコーティング法は、これらの方法から必要とする膜厚、粘度や硬化条件等に応じて適宜選択することができる。
【0084】
シートを製造する場合には、低誘電率樹脂形成用組成物の溶液を用いて離型処理した基材上に該組成物溶液を上記方法などでコーティングし剥離するキャスト成形法、構造物を製造する場合には低誘電率樹脂形成用組成物の原料粉末の混合物や、予め一部の重合性基を反応させプレポリマー化した樹脂を、必要に応じて金型を用い、プレス成形法、インジェクション成形法(射出成形法)、各種3Dプリンター成形法(吐出積層法)などの樹脂成形法を用いることができる。成形後、金型を外して本硬化することも、金型に入れたまま本硬化することも、または金型を用いない成形法の場合には成形体をそのまま本硬化することも可能である。
【0085】
[化合物(1)および化合物(2)の合成方法]
以下、本発明に用いられる化合物(1)および化合物(2)の合成方法について一般例を示す。なお、本発明に用いられる化合物の合成方法はこれらに限定されるものではない。
【0086】
<化合物(1-0-1)および(1-0-1M)の合成>
化合物(1-0-1)および(1-0-1M)で表される化合物は、特開2006-182650号公報に開示されている方法によって得ることができる。
(Rは独立して炭素数1~45のアルキル、炭素数4~8のシクロアルキル、炭素数6~16のアリール、または炭素数7~16のアリールアルキルであり;
この炭素数1~45のアルキルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH-は-O-または-CH=CH-で置き換えられてもよく;
これらの環において、少なくとも1つの水素はハロゲンまたは炭素数1~6のアルキルで置き換えられてもよく;
炭素数7~16のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、炭素数は1~12であり、そして少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよい。)
(Rは式(1-0-1)で表される化合物(1-0-1)におけるRと同じ定義を有し、Mは1価のアルカリ金属である。Rについては、以下、同様である。)
【0087】
<化合物(1-0-2)の合成>
化合物(1-0-2)は、国際公開第2004/024741号(特許第4470738号公報)に記載されている方法に従って、化合物(1-0-1M)を溶媒中でクロロジメチルシランを作用させることによって、容易に得ることができる。
【0088】
<化合物(2-0-2)の合成>
化合物(2-0-2)は、国際公開第2003/024870号(特許第4379120号公報)に記載されている方法に従って、化合物(1-0-1M)を塩基が存在する溶媒中で、メチルジクロロシランを作用させることによって、容易に得ることができる。
【0089】
<化合物(2-0-3)の合成>
化合物(2-0-3)は、特開2008-150478号公報(特許第5018065号公報)に記載されている方法に従って、化合物(1-0-1)から2段階の反応を経て、容易に得ることができる。
【0090】
<化合物(1A)、(2A)および(2B)の合成>
次に、上段で得られた化合物(1-0-2)、(2-0-2)、または(2-0-3)にKarstedt’s触媒の存在下で、適切なアリル誘導体を作用させることにより本願発明で用いられる化合物(1A)、(2A)または(2B)を合成することができる。なお、tert-ブトキシカルボニル保護基(N-BOC)で保護されたアミンを有するアリル誘導体、またはアミンを有するアリル誘導体を作用させた後に、一般的な有機合成方法に従って保護基を外してジアミン誘導体を得ることができ、さらに得られたジアミン誘導体を無水マレイン酸などと環化反応を行うことによりマレイミド誘導体を得ることもできる。
【0091】


(ここで、Xは式(X2)で表される基であり、式(1)または式(2)における式(X2)とそれぞれ同じ定義を有する。)
【実施例0092】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0093】
[合成例1] 化合物(1-1-1s)の合成
出発原料である化合物(1-1-1a)は国際公開第2004/024741号(特許第4470738号公報)に記載の方法によって得ることができる。tert-ブトキシカルボニル保護基(N-BOC)で保護されたアミンを有するアリル誘導体であるN-BOC-アリルアミン(tert-ブチル-N-アリルカルバメート、別名:N-(tert-ブトキシカルボニル)アリルアミン)は、東京化成工業(株)などで市販されている。

【0094】
(第1段)窒素気流下で、300mLの三口フラスコに、化合物(1-1-1a)(10.0g、7.68mmol)、N-BOC-アリルアミン(6.04g、38.4mmol)のトルエン(80mL)溶液を40℃まで加熱し、マイクロシリンジを使用してKarstedt’s触媒(1.0μL)を添加し、徐々に加熱して95℃で2時間攪拌した。反応混合物である反応液を40℃で減圧濃縮した。
窒素気流下で、300mLの三口フラスコに残渣のジクロロメタン(100mL)溶液を攪拌し、常温にてトリフルオロ酢酸(20mL)をゆっくりと滴下して7時間攪拌した。反応液にジクロロメタン(100mL)を加えてからその溶液を飽和食塩水に空け、有機層を取り出して40℃で減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィ(溶媒:ジクロロメタン/メタノール/濃度28重量%のアンモニア水=1/1/0.01(容積比))にて精製し、化合物(1-1-1b)(9.99g、6.53mmol)を得た。
【0095】
(第2段) 窒素気流下で、トリエチルアミン(1.96g、16.36mmol)とトルエン(100mL)の混合液にメタンスルホン酸(1.57g、16.36mmol)を10℃以下にてゆっくりと滴下し、30分間攪拌した。次いで、無水マレイン酸(1.60g、16.36mmol)、前段で得られた化合物(1-1-1b)(5.00g、3.27mmol)を少量ずつ加え、生成した水を水分留器で系外に除去しながら100℃で12時間加熱還流した。反応液にトルエン(100mL)および酢酸エチル(100mL)を加え、純水にて3回洗浄し、有機層を40℃で減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィ(溶媒:トルエン/酢酸エチル=5/1(容積比))にて精製し、化合物(1-1-1s)(3.50g、1.89mmol)を得た。
化合物のH-NMRシグナルは以下の通りであった。
δ(ppm;CDCl):7.50-7.21(m,40H)、6.61(s,8H)、3.50-3.39(t,8H)、1.62-1.57(tt,8H)、0.620-0.570(t,8H)、0.255(s,24H)
【0096】
[合成例2] 化合物(2-1-1s)の合成
出発原料である化合物(2-1-1a)は国際公開第2003/024870号(特許第4379120号公報)に記載の方法によって得ることができる。

前述の[合成例1]において、化合物(1-1-1a)の代わりに(2-1-1a)を使用し、同様の操作を行うことによって化合物(2-1-1s)(6.50g、4.55mmol)を得た。
化合物のH-NMRシグナルは以下の通りであった。
δ(ppm;CDCl):7.50-7.25(m,40H)、6.54(s,4H)、3.41-3.38(t,4H)、1.68-1.60(tt,4H)、0.690-0.650(t,4H)、0.278(s,6H)
【0097】
[合成例3] 化合物(2-1-2s)の合成
出発原料である化合物(2-1-1a)は国際公開第2003/024870号(特許第4379120号公報)に記載の方法によって得ることができる。アリルアニリン誘導体(101)はマトリクス・サイエンティフィック社(US)などで市販されている。

前述の[合成例1]において、化合物(1-1-1a)の代わりに化合物(2-1-1a)、そしてN-BOC-アリルアミンの代わりにアリルアニリン誘導体(101)を使用し、同様の操作にて化合物(2-1-2s)(3.25g、2.06mmol)を得た。
化合物のH-NMRシグナルは以下の通りであった。
δ(ppm;CDCl):7.50-7.12(m,48H)、6.60(s,4H)、2.48-2.44(t,4H)、1.58-1.48(tt,4H)、0.690-0.650(t,4H)、0.270(s,6H)
【0098】
[合成例4] 化合物(2-3-1s)の合成
出発原料である化合物(2-3-1a)は特開2008-150478号公報(特許第5018065号公報)に記載の方法によって得ることができる。アリル誘導体であるN-BOC-アリルアミンは、東京化成工業(株)などで市販されている。

前述の[合成例1]において、化合物(1-1-1a)の代わりに化合物(2-3-1a)を使用し、同様の操作にて化合物(2-3-1s)を得る。
【0099】
本発明の実施例および比較例に用いた、低誘電率樹脂形成用組成物を構成する材料は次のとおりである。
【0100】
<重合性シルセスキオキサン化合物(2官能以上のシルセスキオキサン)>
・PSQ1:上記式(2-3-1s)で表される化合物(JNC(株)製)
【0101】
<重合性シルセスキオキサン化合物(2官能以上のシルセスキオキサン)>
・PSQ2:上記式(2-1-1s)で表される化合物(JNC(株)製)
【0102】
<硬化促進剤>
・イミダゾール系硬化促進剤:2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)(東京化成工業(株)製商品名)
・複合系硬化促進剤:BTBP-ピロメリト酸(北興化学工業(株)製商品名)
【0103】
<硬化成分:硬化剤、その他重合性化合物>
・アミン系硬化剤:4,4’-ジアミノ-1,2-ジフェニルエタン(DDE)(富士フイルム和光純薬(株)製商品名)
・反応性ポリフェニレンエーテルオリゴマー(両末端水酸基):ノリルTMSA90樹脂(SABIC(合)製商品名)
・反応性ポリフェニレンエーテルオリゴマー(両末端メタクリル):ノリルTMSA9000樹脂(SABIC(合)製商品名)
・ビスマレイミド化合物:BМI(ケイ・アイ化成(株)製商品名)
・ビスマレイミド化合物:BМI-80(ケイ・アイ化成(株)製商品名)
・エポキシ重合性液晶性化合物:PLC1、下記式(H01)で表される化合物(H01)(JNC(株)製)
・ビフェニル型エポキシ樹脂:JER(登録商標)YX4000(三菱ケミカル(株)製商品名)
・ビフェニル型エポキシ樹脂:JER(登録商標)YL6121HA(三菱ケミカル(株)製商品名)
・エポキシ化合物:デコナールEX-810(ナガセケムテックス(株)製商品名)、エチレングリコールジグリシジルエーテル
・フェノール系硬化剤:ヒドロキノン(富士フイルム和光純薬(株)製商品名、試薬特級)
・イソシアヌル酸誘導体:イソシアヌル酸トリアリル、TAIC(東京化成工業(株)製商品名)
・イソシアヌル酸誘導体:ジアリルモノグリシジルイソシアヌル酸、DA-MGIC(四国化成(株)製商品名)
【0104】
重合性液晶性化合物1:PLC1
化合物(H01)は特開2006-265527号公報(特許第5084148号公報)に記載の方法で合成した。
【0105】
[実施例1]
<低誘電率樹脂部品の調製1>
以下に、4官能のシルセスキオキサン化合物(PSQ1)を用いた低誘電率樹脂部品の調製例を示す。
・低誘電率樹脂形成用組成物のシート化
まず、図2に示したとおり離型処理を行ったA5サイズのポリイミドフィルム(ニッパ(株)製商品名:J-2)の中央部分に、130μmの厚みの耐熱マスキングテープを用いて内側が80mmの膜形成部分を設けた、簡易金型兼基板を準備した。アミノと硬化剤のマレイミド残基の当量を合わせるように、2官能以上のシルセスキオキサンとしてPSQ1を1.426g、硬化成分としてDDEを0.396g、それぞれプラスチック製のシャーレの上に測りとり、さらに硬化促進剤として0.02gのBTBP-ピロメリト酸を加えて混合して低誘電率樹脂形成用組成物を得た後、薬さじを用いてこの組成物をポリイミドフィルムの耐熱マスキングテープで囲った内部に載せた。上記組成物を載せたポリイミドフィルムの上に、さらに同じフィルムの離型面を下側(組成物側)になるように載せた。その積層体をA4サイズで2mm厚のアルミ板で挟み、サンプルがズレないように気を付けながら、室温で株式会社東洋精機製作所製ミニテストプレスにセットした。220℃まで昇温する間に、脱気しながら最終的に5MPaまで徐々に加圧し、220℃に到達したのち60分硬化させた。硬化中に圧力が下がってくるので、都度追加で圧力を加えた。硬化終了後、ミニテストプレスの設定温度を20℃にし、加圧したまま1夜かけて室温まで冷却した。この組成では大きく曲げると割れてしまう膜になってしまったので、ポリイミドフィルムに載せたまま、2層構造の膜として誘電特性を測ることとした。
【0106】
<誘電特性の評価方法>
ベクトルネットワークアナライザー(アンリツ(株)製MS46522B-043型)に接続した、(株)エーイーティー(AET, INC.)製の空洞共振器(TEモード10GHz用、28GHz用)を用いて、作製した測定用試料の、共振周波数のシフト量と減衰量を測定し、同社製ソフトウエアを用いて比誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の誘電特性を計算して求めた。データの比較時に短冊中の水分量の影響を少なくするために、相対湿度10%RHに設定した電子デシケーター内で1日静置し、誘電特性の評価は温度20℃にエアコンを設定した実験室で、サンプルを60分以上静置したあとで開始した。また、本サンプルは前述のように割れやすく、剥がして単独膜を得ようとすると膜にひびが入ってしまったため、ポリイミドフィルムから剥がさずに誘電特性を測定し、別途熱履歴が同じポリイミドフィルムのみの誘電特性を測定し、(株)エーイーティー製の表計算シートを用いて、サンプル層のみの誘電特性を計算で求めた。また、他の柔軟性が低いサンプルでもクラックが入るものが存在したが、大きな隙間ができていない場合は誘電特性の測定にはほぼ影響はないので、そのまま測定した。また、酸素を遮断するために組成物をサンドイッチしたポリイミドを、更にアルミ箔で包み、縁を折り曲げて酸素が入らないようにして、硬化させた。
【0107】
<耐熱性の評価方法>
誘電特性を測定したポリイミド基材に載せたままの測定サンプルから、本発明の組成物の部分のみを剥がしとり、所定のアルミパンに入れ、株式会社リガク製8121/S-SL型TG/DTAで3%重量減の温度を測定し、耐熱温度とした。アルミパンを用いていることもあり、測定温度範囲は50℃~500℃とした。
【0108】
[実施例2]~[実施例6]
表1に示したように、4官能のシルセスキオキサン化合物はそのままで、硬化成分、硬化促進剤を適宜変えた以外は実施例1と同様にサンプル作製を行い、誘電特性を評価した。
【0109】
[比較例1]~[比較例4]
表2に示したように、4官能のシルセスキオキサン化合物を、比較のために2官能以上の硬化成分1に適宜変更し、硬化成分(硬化成分2、硬化成分3)、硬化促進剤を適宜変更した以外は実施例1と同様にサンプル作製を行い、誘電特性を評価した。
表1~4において、PSQ/硬化成分2/硬化成分3および硬化成分1/硬化成分2/硬化成分3の数字はモル比をそれぞれ表している。
<4官能のPSQ硬化物の誘電特性>
【0110】
【表1】
<非シリコン熱硬化樹脂の誘電特性1>
【0111】
【表2】
【0112】
実施例1~6と比較例1~4を比較すると、市販のエポキシ化合物やマレイミド化合物を使用する場合に比べ、本発明に用いられる4官能のシルセスキオキサン化合物(PSQ1)を使用する方が、比誘電率も誘電正接もかなり低く抑えられていることがわかる。したがって、本発明に用いられる4官能のシルセスキオキサン化合物と硬化成分を含む組成物を重合させることにより、一般的な熱硬化性樹脂組成物を硬化するよりも低誘電率かつ低誘電正接な低誘電率樹脂を得ることができる。
一方、実施例1から実施例6を比較すると、エポキシ化合物を硬化成分に用いるよりも、マレイミド化合物を用いるほうが、比誘電率はそれほど変わらないが、誘電正接が低い。本発明に用いられる4官能のシルセスキオキサン化合物は嵩高いため、本実施例のように主剤として用いると、そこに結合している重合性基の位置に、他のシルセスキオキサンや硬化成分の重合性基が存在しない場合が生じ、開環してしまったエポキシ部位や、硬化成分のアミンが重合せず酸化してしまった部位などが残りやすく、それらの部位の誘電正接に与える悪影響がマレイミドの方が小さいものと考えられる。
また、マレイミド化合物は、脆く割れやすく密着性も低いので、適宜柔軟な分子鎖を有するエポキシ化合物を加えたり、トリアジン化合物を加え3次元硬化を導入するなどにより、要求に応じて最適化することが好ましい。
【0113】
[実施例7]~[実施例8]
<低誘電率樹脂部品の調製2>
4官能のシルセスキオキサン化合物と同様に、2官能のシルセスキオキサン化合物(PSQ2)を用いて低誘電率樹脂部品を調製した。4官能から2官能になるのにともない、硬化成分をそれに合わせたモル比に調整する以外は、表3に示すように、実施例1と同様にサンプルを作製し、誘電特性を評価した。
<2官能のPSQ硬化物の誘電特性>
【0114】
【表3】
【0115】
[比較例5]
表4に示したように、本発明に用いられる2官能のシルセスキオキサン化合物と比較するために、市販のマレイミド化合物に変えた以外は実施例7と同様にサンプル作製を行い、誘電特性を評価した。なお、実施例7および8と比較するため、比較例2も表4に並記した。
<非シリコン熱硬化樹脂の誘電特性2>
【0116】
【表4】
【0117】
表3と表4を比較すると、官能基が2個のPSQの場合でも、4個の場合と同様に、本発明に用いられるPSQを使用することにより、比誘電率は市販の重合性化合物を用いた場合とくらべ大きな違いはないが、誘電正接はかなり小さくなっていることがわかる。
【0118】
PSQ化合物は一般に耐熱性が高いといわれており、本発明に用いられる2官能以上のシルセスキオキサン化合物も高耐熱性が期待できる。PSQ以外の成分が多いとPSQが分解する前に他の成分が分解してしまうため、PSQの耐熱性を評価していることにならない。そこで、最もシンプルな実施例8で作製したサンプルと、比較例2で作製したサンプルの3%重量減温度をTG/DTAを用いて測定した。その結果を表5に示す。
<3%重量減温度>
【0119】
【表5】
【0120】
表5より、本発明に用いられる2官能のシルセスキオキサン化合物を用いることにより、低誘電率化合物の耐熱性を向上させることができることがわかる。近年、鉛フリーはんだの使用により、リフロー炉の温度が上昇しているが、その温度でも分解しない絶縁材料を作製できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
以上のように、本発明に用いられる熱硬化性または光硬化性の重合性基を2個以上有する籠型のシルセスキオキサンと、硬化成分を含む低誘電率樹脂形成用組成物は、10GHz以上の高周波を取り扱う電子デバイスや電子機器の絶縁部品や耐熱部品として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0122】
11 シルセスキオキサンユニット(構成単位)
12 高分子鎖
13 重合性部位
21 離型剤付きポリイミドフィルム(A5サイズ)
22 耐熱PTFEテープ
図1
図2