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特開2024-151762スイング解析装置、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151762
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】スイング解析装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/36 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
A63B69/36 541W
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065419
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 弘祐
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 賢太
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
(57)【要約】
【課題】 ゴルフスイングをより多くのモードに分解することが可能なスイング解析装置を提供する。
【解決手段】 ゴルフスイングを解析するための解析装置2である。この解析装置2は、ゴルフスイングをしたプレーヤーPの身体各部位の挙動を時系列に表した時系列挙動データを取得する取得部と、時系列挙動データの時間平均が、予め定められた基準挙動に近づくように、時系列挙動データを疑似的に拡張した疑似拡張データを作成する作成部と、疑似拡張データを正規化した正規化済データを取得する正規化処理部と、正規化済データを特異値分解することにより、ゴルフスイングに含まれるモードごとに、ゴルフスイングの特徴的な挙動を示す協調動作データを抽出する抽出部とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフスイングを解析するための解析装置であって、
前記ゴルフスイングをしたプレーヤーの身体各部位の挙動を時系列に表した時系列挙動データを取得する取得部と、
前記時系列挙動データの時間平均が、予め定められた基準挙動に近づくように、前記時系列挙動データを疑似的に拡張した疑似拡張データを作成する作成部と、
前記疑似拡張データを正規化した正規化済データを取得する正規化処理部と、
前記正規化済データを特異値分解することにより、前記ゴルフスイングに含まれるモードごとに、前記ゴルフスイングの特徴的な挙動を示す協調動作データを抽出する抽出部とを含む、
スイング解析装置。
【請求項2】
前記基準挙動は、アドレス、インパクト及びトップの少なくとも1つの挙動を含む、請求項1に記載のスイング解析装置。
【請求項3】
前記時系列挙動データは、前記身体各部位の位置データを含む、請求項1に記載のスイング解析装置。
【請求項4】
前記協調動作データから前記ゴルフスイングを擬似的に表したスイングモデルを作成して、前記スイングモデルを表示装置に出力する出力部をさらに含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のスイング解析装置。
【請求項5】
ゴルフスイングを解析するための方法であって、
前記ゴルフスイングをしたプレーヤーの身体各部位の挙動を時系列に表した時系列挙動データを取得する工程と、
前記時系列挙動データの時間平均が、予め定められた基準挙動に近づくように、前記時系列挙動データを疑似的に拡張した疑似拡張データを作成する工程と、
前記疑似拡張データを正規化した正規化済データを取得する工程と、
前記正規化済データを特異値分解することにより、前記ゴルフスイングに含まれるモードごとに、前記ゴルフスイングの特徴的な挙動を示す協調動作データを抽出する工程とを含む、
スイング解析方法。
【請求項6】
ゴルフスイングを解析するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
前記ゴルフスイングをしたプレーヤーの身体各部位の挙動を時系列に表した時系列挙動データを取得する手段と、
前記時系列挙動データの時間平均が、予め定められた基準挙動に近づくように、前記時系列挙動データを疑似的に拡張した疑似拡張データを作成する手段と、
前記疑似拡張データを正規化した正規化済データを取得する手段と、
前記正規化済データを特異値分解することにより、前記ゴルフスイングに含まれるモードごとに、前記ゴルフスイングの特徴的な挙動を示す協調動作データを抽出する手段として機能させる、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイング解析装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、スイング解析装置が記載されている。この装置では、先ず、プレーヤーの身体の挙動を時系列に表す時系列挙動データが取得される。次に、時系列挙動データの時間平均が基準挙動に近付くように、時系列挙動データを疑似的に拡張した疑似拡張データが作成される。そして、疑似拡張データを特異値分解することにより、挙動に含まれる各モードに対応する特徴的な挙動が抽出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6554158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の装置では、ゴルフスイングを複数のモードに分解することができるものの、より多くのモードに分解したい場合には、さらなる改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、ゴルフスイングをより多くのモードに分解することが可能なスイング解析装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゴルフスイングを解析するための解析装置であって、前記ゴルフスイングをしたプレーヤーの身体各部位の挙動を時系列に表した時系列挙動データを取得する取得部と、前記時系列挙動データの時間平均が、予め定められた基準挙動に近づくように、前記時系列挙動データを疑似的に拡張した疑似拡張データを作成する作成部と、前記疑似拡張データを正規化した正規化済データを取得する正規化処理部と、前記正規化済データを特異値分解することにより、前記ゴルフスイングに含まれるモードごとに、前記ゴルフスイングの特徴的な挙動を示す協調動作データを抽出する抽出部とを含む、スイング解析装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスイング解析装置は、上記の構成を採用することで、ゴルフスイングをより多くのモードに分解することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のスイング解析装置を含むスイング解析システムを概念的に示す構成図である。
図2】本実施形態のスイング解析装置のブロック図である。
図3】本実施形態のスイング解析方法の処理手順を示すフローチャートである。
図4】プレーヤーの身体各部位の位置データを説明する図であり、(a)は、X軸方向(プレーヤーの正面)からみた位置データであり、(b)は、Y軸方向(プレーヤーの側面)からみた位置データである。
図5】時系列挙動データ[R]と疑似拡張データ[Ra]との関係を表す概念図である。
図6】表示装置に出力されたスイングモデルの一例を示す図である。
図7】第1モードの協調動作データに基づくスイングモデルを示す図であり、(a)は、従来のスイングモデルを示す図であり、(b)は、本実施形態のスイングモデルを示す図である。
図8】第1モードと第2モードとを合成した協調動作データに基づくスイングモデルを示す図であり、(a)は、従来のスイングモデルを示す図であり、(b)は、本実施形態のスイングモデルを示す図である。
図9】第1モードから第7モードを合成した協調動作データに基づくスイングモデルを示す図であり、(a)は、従来のスイングモデルを示す図であり、(b)は、本実施形態のスイングモデルを示す図である。
図10】第1モードから第8モードを合成した協調動作データに基づくスイングモデルを示す図であり、(a)は、従来のスイングモデルを示す図であり、(b)は、本実施形態のスイングモデルを示す図である。
図11】第1モードから第9モードを合成した協調動作データに基づくスイングモデル30を示す図であり、(a)は、従来のスイングモデルを示す図であり、(b)は、本実施形態のスイングモデルを示す図である。
図12】従来のスイングモデル及び本実施形態のスイングモデルについて、各モードが示す特徴的な挙動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0010】
図1は、本実施形態のスイング解析装置2を含むスイング解析システム1を概念的に示す構成図である。本実施形態のスイング解析システム1(スイング解析装置2)では、プレーヤーPのゴルフスイングが解析される。
【0011】
解析対象のプレーヤーPは、特に限定されるわけではなく、例えば、解析を希望するゴルファ自身、そのゴルファのインストラクター、ゴルファに適したゴルフクラブのフィッティングを行うフィッター、及び、ゴルフクラブの開発者等が挙げられる。
【0012】
本実施形態のゴルフスイングには、ゴルフクラブ3が用いられる。ゴルフクラブ3には、例えば、市販されている様々なものが用いられる。図1には、ウッド型のゴルフクラブ3が示されているが、特に限定されるわけではなく、例えば、アイアン型のゴルフクラブ等であってもよい。ゴルフクラブ3には、シャフト3aと、シャフト3aの一端(以下、「先端」ということがある。)に固着されたクラブヘッド3bと、シャフト3aの他端に固着されたグリップ3cとが含まれる。
【0013】
ゴルフスイングには、ゴルフクラブ3とともに、ゴルフボール4が用いられてもよい。ゴルフボール4には、市販されている様々なものが用いられるが、実際のゴルフボールよりも柔らかいゴルフボール(例えば、スポンジボールなど)が用いられてもよい。このような柔らかいゴルフボール4により、インパクト時のゴルフスイングへの影響が低減され、ゴルフスイングの安定した測定が可能となる。
【0014】
[スイング解析システム]
本実施形態のスイング解析システム1は、スイング解析装置2と、計測装置5とを含んで構成されている。スイング解析システム1(スイング解析装置2)は、後述のスイング解析方法の実行に用いられる。
【0015】
[計測装置]
計測装置5は、プレーヤーPのゴルフスイングを計測するためのものである。本実施形態の計測装置5は、モーションキャプチャシステム5Aとして構成されている。なお、計測装置5は、ゴルフスイングを計測できれば、モーションキャプチャシステム5Aに限定されるわけではなく、種々の装置が採用されうる。
【0016】
本実施形態のモーションキャプチャシステム5Aには、複数のマーカー6と、複数台のカメラ7と、コンピュータ8とが含まれる。
【0017】
複数のマーカー6は、例えば、光反射性の球体に形成されている。これらのマーカー6は、プレーヤーPの身体の所定の部位(以下、「身体各部位」という。)に取り付けられる。身体各部位としては、特に限定されないが、例えば、上記特許文献1と同様に、例えば、頭、手首、手の指先、肘、肩、腰、膝、踝、及び、脚の指先等が挙げられる。本実施形態では、53個のマーカー6が取り付けられているが、このような態様に限定されるわけではなく、一部のマーカー6が省略されてもよいし、他のマーカー(図示省略)が追加されてもよい。各マーカー6には、予め定められた識別番号(例えば、第1番~第53番)が設定されている。
【0018】
マーカー6は、ゴルフクラブ3の所定の部位に取り付けられてもよい。これにより、プレーヤーPの身体各部位と、ゴルフクラブ3の所定の部位を含めたゴルフスイングの計測が可能となる。ゴルフクラブ3において、マーカー6が取り付けられる部位としては、特に限定されないが、例えば、シャフト3a、クラブヘッド3b及びグリップ3cが挙げられる。
【0019】
複数台のカメラ7は、プレーヤーPのゴルフスイングを様々な方向から撮影することができる位置に配置されている。これらのカメラ7により、複数のマーカー6が取り付けられたプレーヤーPによるゴルフスイングの動画データが撮像されうる。
【0020】
コンピュータ8は、複数のカメラ7で撮像された動画データを、三角測量の原理で解析して、各マーカー6の三次元座標(位置データ)を計算するためのものである。このようなコンピュータ8により、ゴルフスイングの三次元計測が可能となる。モーションキャプチャシステム5Aには、例えば、VICON社製の三次元動作分析システムが好適に採用されうる。
【0021】
計測装置5は、有線又は無線の通信線20を介して、スイング解析装置2と通信可能に接続されている。このような通信線20により、計測装置5で計測された計測値が、スイング解析装置2に送信されうる。なお、計測値は、通信線20を介して送信される態様に限定されるわけではなく、例えば、通信ネットワーク(図示省略)を介して送信されてもよい。通信ネットワークには、例えば、WAN(Wide Area Network)やLAN(Local Area Network)等が含まれる。また、計測装置5が通信線20や通信ネットワーク等を介してスイング解析装置2に接続されない場合には、例えば、フラッシュメモリ等の記憶メディア(図示省略)等を介して、計測値がスイング解析装置2に入力されてもよい。
【0022】
[スイング解析装置]
スイング解析装置2は、例えば、コンピュータ10によって構成される。コンピュータ10の一例には、デスクトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン、及び、クラウドサーバ等が挙げられる。本実施形態のコンピュータ10には、デスクトップ型コンピュータが採用される。図2は、本実施形態のスイング解析装置2のブロック図である。
【0023】
本実施形態のスイング解析装置2は、例えば、入力装置11と、表示装置12と、通信装置13と、演算処理装置14とを含んで構成されている。
【0024】
[入力装置]
入力装置11には、例えば、図1に示したキーボード11aや、マウス11b等が用いられる。このような入力装置11により、図2に示した演算処理装置14に、スイング解析方法の実行に必要な命令等が入力されうる。
【0025】
[表示装置]
表示装置12は、例えば、図1に示したディスプレイ装置12aで構成されている。このような表示装置12により、スイング解析方法による解析結果が出力されうる。
【0026】
[通信装置]
図2に示されるように、本実施形態の通信装置13は、通信線20を介して、計測装置5(モーションキャプチャシステム5A)と通信可能に接続されている。これにより、通信装置13(スイング解析装置2)は、計測装置5の計測値を、通信線20を介して取得(受信)することが可能となる。また、本実施形態の通信装置13(スイング解析装置2)は、例えば、計測装置5を制御するための信号を、通信線20を介して計測装置5に送信しうる。
【0027】
[演算処理装置]
本実施形態の演算処理装置14は、例えば、各種の演算を行う演算部(CPU)15、データやプログラム等が記憶される記憶部16、及び、作業用メモリ17を含んで構成されている。
【0028】
[記憶部]
記憶部16は、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。本実施形態の記憶部16には、データ部18及びプログラム部19が含まれる。
【0029】
[データ部]
データ部18は、ゴルフスイングの解析に必要なデータ(情報)や、計算結果等を記憶するためのものである。本実施形態のデータ部18には、時系列挙動データ入力部18a、疑似拡張データ入力部18b、正規化済データ入力部18c、協調動作データ入力部18d、及び、スイングモデル入力部18eが含まれる。これらのデータ部18に入力されるデータの詳細は、後述される。なお、データ部18は、このような態様に限定されるわけではなく、これらの一部が省略されてもよいし、その他のデータが記憶されるデータ部が含まれてもよい。
【0030】
[プログラム部]
プログラム部19は、図1に示したプレーヤーPによるゴルフスイングの解析に必要なプログラム(コンピュータプログラム)である。プログラム部(プログラム)19は、演算部15によって実行されることにより、コンピュータ10を、特定の手段として機能させることができる。
【0031】
本実施形態のプログラム部19には、取得部19a、作成部19b、正規化処理部19c、抽出部19d、及び、出力部19eが含まれる。これらのプログラム部19の機能の詳細は、後述される。なお、プログラム部19は、このような態様に限定されるわけではなく、その他の機能を有するプログラム部がさらに含まれてもよい。
【0032】
[スイング解析方法(第1実施形態)]
次に、本実施形態のスイング解析方法が説明される。図3は、本実施形態のスイング解析方法の処理手順を示すフローチャートである。本実施形態において、スイング解析方法の各工程は、図1及び図2に示したスイング解析装置2(コンピュータ10)によって実行される。
【0033】
[ゴルフスイングの時系列挙動データを取得]
本実施形態のスイング解析方法では、先ず、ゴルフスイングをしたプレーヤーPの身体各部位の挙動を時系列に表した時系列挙動データが取得される(工程S1)。時系列挙動データは、プレーヤーPの身体各部位の挙動を定量的に表すことができれば、適宜取得される。本実施形態の時系列挙動データには、身体各部位の位置データが含まれる。
【0034】
本実施形態の工程S1では、先ず、図2に示したプログラム部19に含まれる取得部19aが、作業用メモリ17に読み込まれる。取得部19aは、ゴルフスイングをしたプレーヤーPの身体各部位の挙動を時系列に表した時系列挙動データを取得するためのプログラムである。この取得部19aが、演算部15によって実行されることで、コンピュータ10を、時系列挙動データを取得するための手段として機能させることができる。
【0035】
本実施形態の工程S1では、上記の特許文献1と同様に、図1に示したプレーヤーPによるゴルフスイングが計測される。ゴルフスイングの計測には、計測装置5(モーションキャプチャシステム5A)が用いられる。計測装置5による計測の開始及び終了などの制御は、スイング解析装置2(コンピュータ10)が行ってもよいし、オペレータ等が行ってもよい。
【0036】
本実施形態では、ゴルフスイングの計測に先立ち、図1に示したプレーヤーPの身体各部位に、複数のマーカー6が取り付けられる。
【0037】
次に、図1に示したプレーヤーPによるゴルフスイングが開始されてから終了するまで(例えば、アドレスからフィニッシュまで)の間、ゴルフスイングが、複数台のカメラ7で連続撮影される。これにより、ゴルフスイングが時系列(複数の時刻)で連続的に撮影された複数の画像を含む画像群(動画データ)が取得される。ゴルフスイングは、予め定められたサンプリング周波数に対応する時間間隔で撮影される。サンプリング周波数は、適宜設定することができ、例えば、500Hzに設定される。
【0038】
画像群(動画データ)に含まれる各画像は、例えば、計測装置5(モーションキャプチャシステム5A)のコンピュータ8に含まれる画像処理ソフトウェア等で画像処理される。これにより、複数のマーカー6の位置データのそれぞれが、サンプリング周波数に対応する時間間隔ごとに取得される。
【0039】
複数のマーカー6の位置データが取得されることにより、複数のマーカー6が取り付けられたプレーヤーPの身体各部位の位置(身体各部位の位置データ)が、時系列で特定される。これらの身体各部位の位置データが特定されることで、時系列挙動データが取得される。
【0040】
プレーヤーPの身体各部位の位置データ(本例では、53個)は、それらの身体各部位の関節中心を平均化することで、一部の位置データ(本例では、22個)に集約されてもよい。これにより、位置データが少なくなり、後述の特異値分解によって得られる協調動作データのモードの個数が、必要以上に増大することが抑制される。なお、このような集約を行わなくても、例えば、プレーヤーPの身体各部位の位置データ(本例では、53個)のうち、ゴルフスイングを解析する際に注目すべき身体各部位の位置データが限定されてもよい。
【0041】
図4は、プレーヤーPの身体各部位(本例では、頭、手首、手の指先など)25の位置データを説明する図である。図4において、(a)は、X軸方向(プレーヤーPの正面)からみた位置データであり、(b)は、Y軸方向(プレーヤーPの側面)からみた位置データである。
【0042】
プレーヤーPの身体各部位25の位置データは、三次元(直交座標系)の座標値として取得される。三次元の座標値は、例えば、図4(a)に示したプレーヤーPの正面視において、奥行方向(X軸方向)、左右方向(Y軸方向)、及び、高さ方向(Z軸方向)に基づいて特定される。これらの位置データが時系列で特定されることで、時系列挙動データが取得される。
【0043】
身体各部位25の座標値は、例えば、複数の身体各部位25から選択された一つの身体各部位25の座標値が、予め定められた基準位置24に一致するように、座標変換(移動)されてもよい。これにより、基準位置24に基づいて、身体各部位25の座標値が揃えられた時系列挙動データが取得されうる。このような時系列挙動データにより、例えば、体格やスイング位置等が異なる他のプレーヤー(図示省略)の時系列挙動データとの比較が容易となる。
【0044】
基準位置24は、例えば、X軸、Y軸及びZ軸の原点に設定されているが、任意の位置に設定されうる。また、基準位置24に一致させる身体各部位25は、左足先25aに設定されているが、任意の身体各部位25が選択されうる。
【0045】
身体各部位25の座標値は、例えば、プレーヤーPの右足先25bの位置から左足先25aの位置に向かうベクトル(図示省略)が、Y軸方向(左右方向)と平行となるように、座標変換されてもよい。これにより、プレーヤーPの身体の向きが揃えられた時系列挙動データが取得され、例えば、他のプレーヤーの時系列挙動データとの比較が容易となる。
【0046】
時系列挙動データは、例えば、以下の式(1)~(3)で定義される。先ず、式(1)では、第1時刻から第N時刻までの任意の時刻tにおいて、第i番のマーカー6の位置データ(原点を基準とする身体各部位25の位置ベクトル)が特定される。本実施形態において、第1時刻は、ゴルフスイングが開始された時刻である。また、第N時刻は、ゴルフスイングが終了した時刻である。
【0047】
【数1】
ここで、
i:マーカーの識別番号
t:時刻
【0048】
上記の式(1)のxi(t)、yi(t)及びzi(t)は、時刻tにおいて、第i番のマーカー6(身体各部位25)のX軸方向の座標、Y軸方向の座標、及び、Z軸方向の座標を示している。この位置データri(t)について、第1時刻から第N時刻まで作成し、これらを行ごとに並べた行列[ri]が、下記の式(2)で定義される。
【0049】
【数2】
【0050】
上記の式(2)の行列[ri]では、N行3列の行列であり、第1行から第N行に時系列に沿って順に、上記の式(1)で定義される三次元座標ri(1),ri(2),・・・,ri(N)が並べられている。そして、全てのマーカー6(身体各部位25)に対する22個の行列[r1]、[r2]…[r22]を、この順に列方向(横方向)に並べた行列[R]が、下記の式(3)で定義される。行列[R]は、N行66(=3×22)列の行列である。
【0051】
【数3】
【0052】
上記の式(3)の行列[R]は、第1時刻から第N時刻までの22個のマーカー6(身体各部位25)の位置を時系列に表す時系列の挙動データである。なお、行例[R]の第t行には、第t時刻でのプレーヤーPの身体における22個のマーカー(身体各部位25)の三次元座標が含まれている。
【0053】
この行列[R]の第t行において、第t時刻のプレーヤーPの身体各部位25の位置データ(プレーヤーPによるゴルフスイング)が表される。このような行列[R]により、時系列挙動データが特定されうる。
【0054】
本実施形態の工程S1では、図4(a)、(b)に示した行列[R]で特定される複数の身体各部位25をジョイントとし、これらのジョイントを連結するボーン(骨)27を含むスティックピクチャー(スイングモデル30)がさらに設定されてもよい。
【0055】
工程S1では、プレーヤーPによるゴルフスイングが複数回行われてもよい。この場合、ゴルフスイングごとに、時系列挙動データがそれぞれ取得されうる。時系列挙動データは、図2に示した時系列挙動データ入力部18a(コンピュータ10)に記憶される。
【0056】
[疑似拡張データを作成]
次に、本実施形態のスイング解析方法では、時系列挙動データを疑似的に拡張した疑似拡張データが作成される(工程S2)。工程S2では、上記の特許文献1と同様に、時系列挙動データの時間平均が、予め定められた基準挙動に近づくように、時系列挙動データが疑似的に拡張される。
【0057】
本実施形態の工程S2では、先ず、図2に示した時系列挙動データ入力部18aに入力されている時系列挙動データが、作業用メモリ17に読み込まれる。次に、プログラム部19に含まれる作成部19bが、作業用メモリ17に読み込まれる。作成部19bは、疑似拡張データを作成するためのプログラムである。この作成部19bが、演算部15によって実行されることで、コンピュータ10を、疑似拡張データを作成するための手段として機能させることができる。
【0058】
本実施形態の疑似拡張データは、後述の特異値分解の基準点を、基準挙動に近づけるために作成される。基準挙動は、ゴルフスイングから容易に特定可能な挙動から適宜選択され、アドレス、インパクト及びトップの少なくとも1つの挙動が含まれるのが好ましい。本実施形態の基準挙動には、アドレス時の挙動が選択される。
【0059】
本実施形態の工程S2では、先ず、第i番のマーカー6(図4に示した身体各部位25)の基準挙動の座標値(位置ベクトル)ri(1)が、上記の式(1)に基づいて求められる。次に、求められた基準挙動の座標値(位置ベクトル)ri(1)の行ごとに、第1時刻から第2N時刻まで並べた行列([ri(1)])が作成される。このとき、[ri(1)]の行ごとの要素は、全てri(1)となる。
【0060】
次に、本実施形態の工程S2では、上記の行列([ri(1)])が第1番~第22番のマーカー6(身体各部位25)について作成され、それらを列ごとに並べた行列([R(1)])が、以下の式(4)で定義される。
【0061】
【数4】
【0062】
次に、本実施形態の工程S2では、行列のデータ点数を増やして分解能を向上させるために、上記の式(3)の行列を時系列方向に反転した行列[Rt]が、以下の式(5)で定義される。
【0063】
【数5】
【0064】
そして、本実施形態の工程S2では、上記の式(3)の行列[R]に、上記の式(4)の行列[R(1)]、及び、上記の式(5)の行列[Rt]を結合した行列(観測行列)である疑似拡張データ[Ra]が、以下の式(6)で定義される。
【0065】
【数6】
【0066】
図5は、時系列挙動データ[R]と疑似拡張データ[Ra]との関係を表す概念図である。図5に示されるように、時系列挙動データ[R]のアドレスの時刻n=1の前に、アドレス時の挙動を時間長2Nだけ繰り返し複製した追加データ[R(1)]が追加されている。さらに、時系列挙動データ[R]のフィニッシュタイミングの時刻n=Nの後に、時系列挙動データ[R]を時系列方向に反転した時間長Nの追加データ[Rt]と、追加データ[R(1)]とが追加されている。このように、追加データ[R(1)]及び[Rt]は、時系列挙動データ[R]に連続するように結合される。このような疑似拡張データ[Ra]は、連続的に値が変化するデータとして構成される。本実施形態の疑似拡張データ[Ra]は、6N行66(=3×22)列の行列である。疑似拡張データ[Ra]は、図2に示した疑似拡張データ入力部18b(コンピュータ10)に記憶される。
【0067】
[正規化済データを取得]
次に、本実施形態のスイング解析方法では、疑似拡張データ[Ra]を正規化した正規化済データが取得される(工程S3)。
【0068】
本実施形態の工程S3では、先ず、図2に示した疑似拡張データ入力部18bに入力されている疑似拡張データ[Ra]が、作業用メモリ17に読み込まれる。次に、プログラム部19に含まれる正規化処理部19cが、作業用メモリ17に読み込まれる。正規化処理部19cは、疑似拡張データ[Ra]を正規化して、正規化済データを取得するためのプログラムである。この正規化処理部19cが、演算部15によって実行されることで、コンピュータ10を、正規化済データを取得するための手段として機能させることができる。
【0069】
本実施形態の工程S3では、先ず、疑似拡張データ[Ra]と基準挙動データ[R0]との差分[Ra-R0]が求められる。基準挙動データ[R0]は、疑似拡張データ[Ra]の時間平均であり、基準挙動(本例では、アドレスの挙動)を示す行列である。このような基準挙動データ[R0]は、疑似拡張データ[Ra]の時間方向(行方向)に平均をとり、その平均を行ごとに6N個並べた行列(6N行66(=3×22)列)として定義される。
【0070】
本実施形態では、疑似拡張データ[Ra]から基準挙動データ[R0]が差し引かれることで、疑似拡張データ[Ra]で表される身体各部位25(図4に示す)の挙動が、基準挙動(アドレス時の挙動)に近づけられる。そして、この差分データ[Ra-R0]が、アダマール積に基づいて、下記の式(7)を用いて正規化される。
【0071】
【数7】
【0072】
上記の式(7)において、変数iは、図1に示すマーカー6の識別番号であり、図4に示したプレーヤーPの身体各部位25が特定されうる。(Ra-R0diは、身体各部位25の成分時系列データである。Ndiは、身体各部位25のノルム時系列データである。
【0073】
本実施形態の工程S3では、上記の正規化により、差分データ[Ra-R0]が、成分時系列データ(Ra-R0diと、ノルム時系列データNdiとに分離される。成分時系列データ(Ra-R0diは、身体各部位の動きの大きさを表すノルムが1となっている。この成分時系列データ(Ra-R0diを含む行列が、正規化済データとして取得される。正規化済データは、図2に示した正規化済データ入力部18cに記憶される。
【0074】
[協調動作データを抽出]
次に、本実施形態のスイング解析方法では、ゴルフスイングの特徴的な挙動を示す協調動作データが抽出される(工程S4)。工程S4では、正規化済データ(上記の式(7)の成分時系列データ(Ra-R0diを含む行列)が特異値分解される。これにより、ゴルフスイングに含まれるモードごとに、協調動作データが抽出される。
【0075】
本実施形態の工程S4では、先ず、図2に示した正規化済データ入力部18cに入力されている正規化済データが、作業用メモリ17に読み込まれる。次に、プログラム部19に含まれる抽出部19dが、作業用メモリ17に読み込まれる。抽出部19dは、正規化済データを特異値分解することにより、協調動作データを抽出するためのプログラムである。この抽出部19dが、演算部15によって実行されることで、コンピュータ10を、協調動作データを抽出するための手段として機能させることができる。
【0076】
本実施形態の工程S4では、下記の式(8)に基づいて、正規化済データ(上記の式(7)に示した成分時系列データ(Ra-R0diを含む行列[Ra-R0dn)が、特異値分解される。これにより、n=1,2,・・・,J(Jは、66以下の整数)に対し、Udn、Γdn及びVdnが得られる。
【0077】
【数8】
【0078】
Γdnは、第nモード(第n番目)の特異値であり、正規化済データに対する第nモード(第n番目)の寄与の割合を表している。Udnは、正規化済データの左特異ベクトルであり、6N行66(=3×22)列となる。Vdnは、正規化済データの右特異ベクトルであり、66次元である。
【0079】
左特異ベクトルUdnは、右特異ベクトルVdnの時間情報を表す基底である時間基底である。一方、右特異ベクトルVdnは、図1に示したプレーヤーPにおける各マーカー6(身体各部位25)の位置情報を表す基底である空間基底である。この空間基底は、基準挙動データ[R0]で特定される基準挙動の姿勢(アドレスの姿勢)に対し、第nモード(第n番目)の動作の方向を示すベクトルである。このような空間基底の値により、ゴルフスイング中のプレーヤーPの動き(身体各部位25の動き)が、モード毎に数値化されうる。
【0080】
本実施形態の工程S4では、以上の特異値分解により、正規化済データから、ゴルフスイングに含まれる第1モードから第nモードの各モードに対応する特徴的な挙動を示す協調動作データが抽出される。第nモードの挙動を表す[Ranは、下記の式(9)で特定される。
【0081】
【数9】
【0082】
上記の式(9)では、正規化済データ[Udn(n)Γdn(n)dn(n)]に、ノルムの時系列データNdnが乗じられることで、身体各部位の動きの大きさを考慮した時系列データが取得される。この時系列データに、基準挙動データ[R0]が足し合わされることで、第nモードの挙動を表す[Ranが取得される。また、本実施形態の工程S4では、下記の式(10)に基づいて、第1モードから第nモードを合成した協調動作データが抽出される。
【0083】
【数10】
【0084】
上記の特許文献1のように、上記の式(6)に示した疑似拡張データ[Ra]がそのまま特異値分解された場合には、プレーヤーPの身体各部位25のうち、動きが大きい部位の挙動が強調されて抽出され、ゴルフスイングを多くのモードに分解できない傾向がある。一方、本実施形態では、疑似拡張データ[Ra]を正規化することで、ノルムが1となった正規化済データを取得して、その正規化済データが特異値分解される。これにより、身体各部位25のうち、動きが大きい部位の挙動が強調されて抽出されることが抑制される。したがって、ゴルフスイングをより多くのモードに分解された協調動作データの抽出が可能となる。協調動作データは、図2に示した協調動作データ入力部18d(コンピュータ10)に記憶される。
【0085】
[スイングモデルを表示装置に出力]
次に、本実施形態のスイング解析方法では、ゴルフスイングを擬似的に表したスイングモデルが、図1及び図2に示した表示装置12に出力される(工程S5)。スイングモデルの作成には、工程S4で抽出された協調動作データが用いられる。スイングモデルは、ゴルフスイングを擬似的に表すことができれば、特に限定されない。本実施形態では、図4に示したスティックピクチャー(スイングモデル30)が採用される。
【0086】
本実施形態の工程S5では、先ず、図2に示した協調動作データ入力部18dに入力された協調動作データが、作業用メモリ17に読み込まれる。次に、プログラム部19に含まれている出力部19eが、作業用メモリ17に読み込まれる。出力部19eは、スイングモデル30を表示装置12に出力するためのプログラムである。この出力部19eが、演算部15によって実行されることで、コンピュータ10を、スイングモデル30を表示装置12に出力するための手段として機能させることができる。
【0087】
本実施形態の工程S5では、ゴルフスイングに含まれるモード(本例では、第1モード~第66モード)ごとに、協調動作データの[Rn]に含まれる22個の観測点を結合することでスイングモデル30が作成される。スイングモデル30は、スイングモデル入力部18e(コンピュータ10)に記憶される。
【0088】
図6は、表示装置12に出力されたスイングモデル30の一例を示す図である。本実施形態では、ゴルフスイングのうち、アドレス、バック9時、トップ、ダウン9時、インパクト、フォロー3時、及び、フィニッシュのスイングモデル30がそれぞれ示されている。なお、スイングモデル30は、これらの一部が省略されてもよいし、その他のスイングモデル30が追加されてもよい。
【0089】
スイングモデル30の表示は、例えば、プルダウンメニューのようなコントロール要素31によって、モード毎に切り替えて表示されるのが好ましい。これにより、任意のモードのスイングモデル30が容易に表示されうる。また、各モードが示す特徴的な挙動に関する説明文32が表示されてもよい。
【0090】
図7は、第1モードの協調動作データに基づくスイングモデル30を示す図である。図7(a)には、上記の特許文献1に記載の手順に基づく従来のスイングモデル30Aが示されている。図7(b)には、本実施形態のスイングモデル30Bが示されている。
【0091】
図7(a)に示されるように、従来のスイングモデル30Aでは、トップにおいて、腕が振り上げられている。また、インパクトにおいて、腕が振り下げられており、フィニッシュにおいて、再び腕が振り上げられている。一方、バック9時、ダウン9時、及び、フォロー3時の姿勢は、略同一の姿勢(アドレスの姿勢)に収束している。したがって、従来のスイングモデル30Aでは、第1モードでの特徴的な挙動として、腕の上下運動が示されうる。
【0092】
図7(b)に示されるように、本実施形態のスイングモデル30Bでは、フィニッシュにおいて、ゴルフクラブが真上に持ち上げられているものの、トップにおいて、腕が振り上げられていない。さらに、本実施形態のスイングモデル30Bは、バック9時とフォロー3時において、微量ではあるものの、腕が振り上げられている。一方、トップ、ダウン9時及びインパクトの姿勢は、略同一の姿勢(アドレスの姿勢)に収束している。したがって、本実施形態のスイングモデル30Bでは、第1モードでの特徴的な挙動として、ゴルフクラブを真上に持ち上げる運動と、バック9時及びフォロー3時の腕の振り上げ運動とが示されうる。
【0093】
図8は、第1モード及び第2モードを合成した協調動作データに基づくスイングモデル30を示す図である。図8(a)には、従来のスイングモデル30Aが示されている。図8(b)には、本実施形態のスイングモデル30Bが示されている。
【0094】
図8(a)に示されるように、従来のスイングモデル30Aでは、図7(a)に示した第1モードでの従来のスイングモデル30Aと比べると、バック9時、トップ、ダウン9、及び、フォロー3時の肩の回転動作が、実際のゴルフスイングに近づいている。一方、インパクトの腕の姿勢は、図7(a)に示した第1モードから変化していない。したがって、従来のスイングモデル30Aでは、第2モードの特徴的な挙動として、肩の回転動作が示されうる。
【0095】
図8(b)に示されるように、本実施形態のスイングモデル30Bでは、図7(b)に示した第1モードでの本実施形態のスイングモデル30Bと比べると、従来のスイングモデル30Aと同様に、肩の回転動作が示されている。さらに、本実施形態のスイングモデル30Bでは、トップでの肘の持ち上げ動作が示されている。したがって、本実施形態のスイングモデル30Bでは、第2モードでの特徴的な挙動として、肩の回転運動と、肘の持ち上げ動作とが示されうる。
【0096】
図9は、第1モードから第7モードを合成した協調動作データに基づくスイングモデル30を示す図である。図10は、第1モードから第8モードを合成した協調動作データに基づくスイングモデル30を示す図である。図9(a)及び図10(a)には、従来のスイングモデル30Aが示されている。図9(b)及び図10(b)には、本実施形態のスイングモデル30Bが示されている。
【0097】
図10(a)に示されるように、従来のスイングモデル30Aでは、図9(a)に示した第1モードから第7モードを合成した従来のスイングモデル30Aと比べると、インパクトにおいて、右手が押し込まれている。したがって、従来のスイングモデル30Aでは、第8モードでの特徴的な挙動として、右手の押し込み動作(プッシュ)が示されうる。
【0098】
図10(b)に示されるように、本実施形態のスイングモデル30Bでは、図9(b)に示した第1モードから第7モードを合成した本実施形態のスイングモデル30Bと比べると、バック9時での右手首の背屈及び左手の掌屈が示されている。さらに、フォロー3時の右手首の掌屈及び左手の背屈が示されている。したがって、本実施形態のスイングモデル30Bでは、第8モードでの特徴的な挙動として、手首の掌屈及び背屈(ローテーションの動き)が示されうる。
【0099】
図11は、第1モードから第9モードを合成した協調動作データに基づくスイングモデル30を示す図である。図11(a)には、従来のスイングモデル30Aが示されている。図11(b)には、本実施形態のスイングモデル30Bが示されている。
【0100】
図11(a)に示されるように、従来のスイングモデル30Aは、第1モードから第8モードを合成した従来のスイングモデル30A(図10(a)に示す)から実質的に変化していない。このため、従来のスイングモデル30Aには、第9モードでの特徴的な挙動が示されない。したがって、上記の特許文献1に記載の手順では、第1モード~第8モードまでにおいて、ゴルフスイングの特徴的な挙動が抽出されうる。
【0101】
図11(b)に示されるように、本実施形態のスイングモデル30Bでは、第1モードから第8モードを合成した本実施形態のスイングモデル30B(図10(b)に示す)と比べると、トップからフォロー3時まで、両肘の間隔が保持されている。したがって、本実施形態のスイングモデル30Bでは、第9モードでの特徴的な挙動として、両肘の間隔を保つ動作が示されうる。
【0102】
図12は、従来のスイングモデル30A及び本実施形態のスイングモデル30Bについて、各モードが示す特徴的な挙動を説明する図である。図12に示されるように、従来のスイング解析方法では、ゴルフスイングに含まれるモードのうち、第1モード~第8モードまでの特徴的な挙動が抽出されうる。一方、本実施形態のスイング解析方法では、第1モード~第12モードまでの特徴的な挙動が抽出されうる。
【0103】
このように、本実施形態では、ノルムが1となった正規化済データが特異値分解されることにより、動きが大きい部位の挙動が強調されて抽出されることが抑制されうる。したがって、本実施形態では、疑似拡張データ[Ra]がそのまま特異値分解されていた従来に比べて、ゴルフスイングがより多くのモードに分解されうる。これにより、各モードで抽出される挙動ごとに、プレーヤーPのゴルフスイングの詳細な解析が可能となる。
【0104】
様々なゴルフスイングにおいて、図12に示した特徴的な挙動が抽出されるか否かを検証するために、図12に示した特徴的な挙動の抽出に用いられたゴルフスイングとは異なる複数のゴルフスイングを対象として、複数のモードごとに特徴的な挙動が抽出された。複数のゴルフスイングには、レベルが異なる複数のプレーヤーによるゴルフスイングや、種類が異なるゴルフクラブ3を用いたゴルフスイングが含まれている。その結果、図12に示した本実施形態のスイングモデルと同様の挙動が抽出された。したがって、図12に示した本実施形態のスイングモデルの各モードの挙動は、様々なゴルフスイングを解析する際に、注目すべき挙動として汎用的に用いられうる。
【0105】
図6に示した表示装置12には、例えば、図1に示した一人のプレーヤーPについて、種類が異なるゴルフクラブ3を用いてゴルフスイングをしたときのスイングモデルが、それぞれ表示されてもよい。これにより、これらのスイングモデルをモードごとに比較することが可能となり、ゴルフクラブ3の特性の違いなどが詳細に理解されうる。また、本実施形態の表示装置12には、例えば、互いに異なるプレーヤー(図示省略)について、同一のゴルフクラブ3を用いてゴルフスイングをしたときのスイングモデルが表示されてもよい。これにより、プレーヤーの特性の違いなどが、詳細に理解されうる。
【0106】
このように、本実施形態のスイング解析方法(スイング解析装置2)では、ゴルフスイングをより多くのモードに分解することができるため、ゴルフスイングの詳細な解析が可能となる。したがって、本実施形態のスイング解析方法では、例えば、ゴルフクラブ3の開発、ゴルフクラブ3のフィッティング、及び、ゴルフのレッスン等の様々な場面において、有効に活用することが可能となる。
【0107】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【0108】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0109】
[本発明1]
ゴルフスイングを解析するための解析装置であって、
前記ゴルフスイングをしたプレーヤーの身体各部位の挙動を時系列に表した時系列挙動データを取得する取得部と、
前記時系列挙動データの時間平均が、予め定められた基準挙動に近づくように、前記時系列挙動データを疑似的に拡張した疑似拡張データを作成する作成部と、
前記疑似拡張データを正規化した正規化済データを取得する正規化処理部と、
前記正規化済データを特異値分解することにより、前記ゴルフスイングに含まれるモードごとに、前記ゴルフスイングの特徴的な挙動を示す協調動作データを抽出する抽出部とを含む、
スイング解析装置。
[本発明2]
前記基準挙動は、アドレス、インパクト及びトップの少なくとも1つの挙動を含む、本発明1に記載のスイング解析装置。
[本発明3]
前記時系列挙動データは、前記身体各部位の位置データを含む、本発明1又は2に記載のスイング解析装置。
[本発明4]
前記協調動作データから前記ゴルフスイングを擬似的に表したスイングモデルを作成して、前記スイングモデルを表示装置に出力する出力部をさらに含む、本発明1ないし3のいずれかに記載のスイング解析装置。
[本発明5]
ゴルフスイングを解析するための方法であって、
前記ゴルフスイングをしたプレーヤーの身体各部位の挙動を時系列に表した時系列挙動データを取得する工程と、
前記時系列挙動データの時間平均が、予め定められた基準挙動に近づくように、前記時系列挙動データを疑似的に拡張した疑似拡張データを作成する工程と、
前記疑似拡張データを正規化した正規化済データを取得する工程と、
前記正規化済データを特異値分解することにより、前記ゴルフスイングに含まれるモードごとに、前記ゴルフスイングの特徴的な挙動を示す協調動作データを抽出する工程とを含む、
スイング解析方法。
[本発明6]
ゴルフスイングを解析するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
前記ゴルフスイングをしたプレーヤーの身体各部位の挙動を時系列に表した時系列挙動データを取得する手段と、
前記時系列挙動データの時間平均が、予め定められた基準挙動に近づくように、前記時系列挙動データを疑似的に拡張した疑似拡張データを作成する手段と、
前記疑似拡張データを正規化した正規化済データを取得する手段と、
前記正規化済データを特異値分解することにより、前記ゴルフスイングに含まれるモードごとに、前記ゴルフスイングの特徴的な挙動を示す協調動作データを抽出する手段として機能させる、
コンピュータプログラム。
【符号の説明】
【0110】
2 スイング解析装置
P プレーヤー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12