(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151806
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 75/04 20160101AFI20241018BHJP
C08G 63/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C08G75/04
C08G63/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065527
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】林 幹大
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 健斗
【テーマコード(参考)】
4J029
4J030
【Fターム(参考)】
4J029JC332
4J029JE152
4J030BA03
4J030BB06
4J030BB13
4J030BB67
4J030BC02
4J030BC14
4J030BC15
4J030BC17
4J030BD01
4J030BF07
4J030BF09
(57)【要約】
【課題】
分子間での結合交換反応を利用し、「熱可塑性樹脂から架橋樹脂へのシームレスな材料変換コンセプト」に基づく物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂を提供すること。
【解決手段】
主な物性変換型結合交換性ポリエステルである樹脂線状ポリマー2であって、線状ポリマー2はエステル交換反応を介した結合交換によって他の線状ポリマー2´との架橋点を生成しうる構成部分6を含み、構成部分6は好ましくはエステル結合5及び水酸基4を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状ポリマーであって、前記線状ポリマーはエステル交換反応を介した結合交換によって他の前記線状ポリマーとの架橋点を生成しうる構成部分を含む線状ポリマー。
【請求項2】
前記構成部分はエステル結合及び水酸基を含む、請求項1に記載の線状ポリマー。
【請求項3】
前記線状ポリマーの数平均分子量は5000以上であって、前記線状ポリマー中における前記エステル結合は分子鎖あたり15点以上、かつ前記水酸基は分子鎖あたり15点以上である、請求項2に記載の線状ポリマー。
【請求項4】
複数の請求項1~3の何れか一項に記載の線状ポリマーにエステル交換触媒を含む、物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂原料。
【請求項5】
前記水酸基に対する前記エステル交換触媒のモル比(前記水酸基:前記エステル交換触媒)は、0.01~0.15である、請求項4に記載の物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂原料。
【請求項6】
請求項1~3の何れか一項の何れか一つに記載の前記構成部分の少なくても一部分同士の架橋によって生成した、前記線状ポリマーと前記他の線状ポリマーとの架橋点を含む、架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂。
【請求項7】
所定の最大応力を有する架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂であって、前記架橋点を含むようになる前の前記架橋点を含まない線状ポリマーから成る樹脂の最大応力は1MPa以下である、請求項6に記載の架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂。
【請求項8】
前記架橋点を含むようになる前の前記架橋点を含まないときの線状ポリマーが有するヤング率に対して10倍以上のヤング率を有する、請求項7に記載の架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂。
【請求項9】
請求項6に記載の前記架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂の前記架橋点がさらに活性化された、活性化された架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂。
【請求項10】
エステル交換触媒を触媒とするチオール基とエポキシ基との反応を含み、チオール基:エポキシ基のモル比は1:0.75~0.75:1である、請求項2に記載の線状ポリマーの製造方法。
【請求項11】
チオール基:エポキシ基のモル比が1:1とするとき、前記触媒量のモル比は0.01以上0.15以下である、請求項10に記載の線状ポリマーの製造方法。
【請求項12】
エステル結合及び水酸基を含む線状ポリマーと、エステル交換触媒を混合し、加熱して架橋点を形成することにより得られる、架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子樹脂は、架橋結合(高分子鎖間の化学的連結)の有無により熱可塑性樹脂と架橋樹脂(熱硬化性樹脂)に大別される。架橋により高分子鎖間が連結されると弾性率が上昇し、その弾性率は架橋密度と相関関係にある。
【0003】
特許文献1には、エステル結合を多点で含む高分子主鎖と、エステル結合と水酸基(OH基)を含む多点の共有結合架橋部分を含むポリエステル樹脂、及びエステル交換触媒を含む架橋ポリエステル樹脂が記載されている。
【0004】
非特許文献1には、エポキシ硬化樹脂の網目構造内に、エステル交換反応型の結合交換架橋を導入することによる機能化について記述がある。
また、非特許文献2には、ポリエステル硬化樹脂の網目構造内に、エステル交換反応型の結合交換架橋を導入することによる機能化について記述がある。一方、これらの非特許文献には、結合交換架橋を含む樹脂の利点は再成形性や修復性に焦点が当てられているのみで、樹脂の物性変換についての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Montarnal, D.; Capelot, M.; Tournilhac, F.; Leibler, L., Science, 2011, 334, 965.
【非特許文献2】Hayashi, M.; Yano, R.; Takasu, A., Polym. Chem., 2019, 10, 2047.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の常識では、合成時のモノマー種や架橋剤の有無の選択により、得られる樹脂の物性が決定付けられる。つまり、樹脂の柔軟性や硬度は、初期段階で作り分けられており、重合後の調整はできないという問題があった。そこで、本発明では、分子間での結合交換反応を利用し、「熱可塑性樹脂から架橋樹脂へのシームレスな材料変換コンセプト」に基づく物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂を提供することを目的とする。ここで、物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂は、後述するように、主に線状ポリマーである物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂、線状ポリマーを含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂原料、及びその物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂原料において結合交換よって生成した架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂(以下、「架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂」と言う場合がある)を意味し、さらに架橋点が活性化された、活性化された架橋点含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂をも含む。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[1]線状ポリマーであって、前記線状ポリマーはエステル交換反応を介した結合交換によって他の前記線状ポリマーとの架橋点を生成しうる構成部分を含む線状ポリマーである。
[2]前記構成部分はエステル結合及び水酸基を含む、[1]に記載の線状ポリマーである。
[3]前記線状ポリマーの数平均分子量は5000以上であって、前記線状ポリマー中における前記エステル結合の割合は分子鎖あたり15点以上、かつ前記水酸基の割合は分子鎖あたり15点以上である、[2]に記載の線状ポリマーである。
[4]複数の[1]~[3]の何れか一つに記載の線状ポリマーにエステル交換触媒を含む、物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂原料である。
[5]前記水酸基に対する前記エステル交換触媒のモル比(前記水酸基:前記エステル交換触媒)は、水酸基(もしくはエステル結合)に対して0.01~0.15である、[4]に記載の物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂原料である。
[6][1]~[3]の何れか一つに記載の前記構成部分の少なくても一部分同士の架橋によって生成した、前記線状ポリマーと前記他の線状ポリマーとの架橋点を含む、架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂である。
[7]所定の最大応力を有する架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂であって、前記架橋点を含むようになる前の前記架橋点を含まない線状ポリマーから成る樹脂の最大応力は1MPa以下である、[6]に記載の架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂である。
[8]前記架橋点を含むようになる前の前記架橋点を含まないときの線状ポリマーが有するヤング率に対して10倍以上のヤング率を有する、[7]に記載の架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂である。
[9][6]に記載の前記架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂の前記架橋点がさらに活性化された、活性化された架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂である。
[10]エステル交換触媒を触媒とするチオール基とエポキシ基との反応を含み、チオール基:エポキシ基のモル比は1:0.75~0.75:1(=1:1.33)である、[2]に記載の線状ポリマーの製造方法である。
[11]チオール基:エポキシ基のモル比を1:1とするとき、前記触媒量のモル比は0.01以上0.15以下である、[10]に記載の線状ポリマーの製造方法である。
[12]エステル結合及び水酸基を含む線状ポリマーと、エステル交換触媒を混合し、加熱して架橋点を形成することにより得られる、架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明による物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂は、熱可塑性樹脂/熱硬化(架橋)樹脂のどちらにも属さない熱硬化型熱可塑性樹脂を含む。この場合、加熱条件(温度・時間)によって広範な力学物性を表現させられるため、物性変換型樹脂とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一つの実施形態である(a)物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂原料、(b)架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂、をそれぞれ模式的に示し、(c)エステル交換反応式を示す図である。
【
図2】水酸基含有ポリエステル(線状ポリマー)の合成を示す図である。
【
図3】加熱温度が(a)100℃(比較例3)、(b)130℃(比較例4)、(c)160℃(実施例3)、(d)190℃(実施例4)で製造した架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂の貯蔵弾性率(G´)と損失弾性率(G´´)の変化を、それぞれ示す図である。
【
図4】加熱温度が(a)100℃(比較例3)、130℃(比較例4)、160℃(実施例3)、190℃(実施例4)で製造した、架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂、(b)実施例1(線状ポリマー)の応力―ひずみ曲線を、それぞれ示す図である。
【
図5】実施例4(架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂)の200℃での応力緩和測定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0012】
本発明で得られる樹脂は、初期状態では熱可塑性樹脂に分類されるが、その後の熱処理により熱硬化性樹脂に変換させられる。さらに、最終架橋樹脂(架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂)において、結合交換が活性化する熱エネルギーを付与すると、架橋の束縛が一時的に弱まるために、再成形性などの機能を示す。つまり、本技術発明で得られる樹脂は、熱可塑性樹脂/熱硬化(架橋)樹脂のどちらにも属さない熱硬化型熱可塑性樹脂である。この場合、加熱条件(温度・時間)によって広範な力学物性を表現させられるため、物性変換型樹脂となる。
【0013】
架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂は、具体的には、水酸基含有ポリエステルに対し、適切な触媒添加と加熱により、エステル交換反応を介して分子間架橋が形成されるという発明である。エステル交換反応の進行度合いにより架橋密度が調整でき、ポリマー重合後でも樹脂の力学物性が自在に調整できる。
【0014】
また、架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂中では、エステル結合・水酸基・(エステル交換用)触媒が存在するため、再加熱によりエステル交換反応を介した結合交換が活性化される。結合交換によって一時的に分子運動性が活発化するため、架橋樹脂にも関わらず、再成形性などの有用機能を示す。
【0015】
すなわち、本発明で得られる樹脂は、初期状態では熱可塑性樹脂(物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂)に分類されるが、その後の熱処理により熱硬化性樹脂(架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂)に変換させられる。さらに、架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂において、結合交換が活性化する熱エネルギーを付与すると、架橋の束縛が一時的に弱まるために、活性化された架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂は再成形性などの機能を示す。
【0016】
図1(a)に示すように、線状ポリマー2は、エステル交換反応を介した結合交換によって他の線状ポリマー2´との架橋点7を生成しうる構成部分6を含み、構成部分6は、水酸基4とエステル結合5を含む。一方、物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂原料1は、線状ポリマー2(2´)と、所定量のエステル交換触媒3を含む。同図(b)に示すように、エステル交換反応を介した結合交換によって、架橋点7(7´)が生成されると、物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂原料1は、架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂8となる。
【0017】
図1(c)に示すように、エステル交換反応は、R
2に結合するOH基(水酸基)が、加熱(Δ)とその付近に存在するエステル交換触媒(cat.)の作用により、付近に存在する多数のエステル結合のうちの一つのエステル結合のR
1-0(C=0)結合にアタックすることによって起こる。そしてそのエステル交換反応によって、例えば線状ポリマー2と他の線状ポリマー2´が架橋した架橋点が生成することになり、形成された架橋点に対応して、架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂8は、物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂原料1に対比して所定の強度を有するようになる。
【実施例0018】
<水酸基含有ポリエステル(線状ポリマー)の合成>
図2に示すエステル結合を有するジチオールモノマー(2-SH、Ethylene glycol bis(3-mercaptopropionate))およびジエポキシモノマー(2-epoxy、2,2-Bis(4-glycidyloxyphenyl)propane)を出発物質として用い、オクチル酸スズ(Sn(Oct)
2)を触媒として利用したチオール-エポキシクリック反応を介して、水酸基含有線状ポリエステル(線状ポリマー)を調製した。エポキシ開環反応により、新しく水酸基が生成するため、得られる線状ポリマーにはエステル結合・水酸基が内在することとなる。反応は、チオール基:エポキシ基:Sn(Oct)
2=1:1:0.05のモル比となるように混合し、100oCで24時間加熱した。
【0019】
反応の進行はプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)測定により確認した。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量は約8000であった。得られた試料は、以下で実施例1と示す。なお、ジエポキシモノマーに関しては、他にも、1,7-octadiene diepoxide、1,5-hexadiene diepoxide、1,4-butanediol diglycidyl ether、2,2´-(2,2,3,3,4,4,5,5-octafluorohexane-1,6-diyl)bis(oxirane)など、2官能性のものであれば多種のものが利用可能である。ジチオールモノマーに関しては、他にも、Tetraethylene glycol bis(3-mercaptopropionate)やPolyethylene glycol bis(3-mercaptopropionate)など、2官能性でエステル結合を有するものであれば多種のものが利用可能である。
【0020】
得られた実施例1のポリエステルは良溶媒に容易に溶解する非架橋ポリマーであり、熱可塑性樹脂として振る舞う。また、上記重合を140℃以上で24時間行うと、重合と架橋(エステル交換反応)が同時に進行してしまうため、熱可塑性樹脂から熱硬化性樹脂への変換を行うことができないことがわかっている(比較例1)。他の対照実験としては、ジカルボン酸化合物(アジピン酸)と上記ジエポキシモノマーとの100℃での反応では、重合と架橋(エステル交換反応)が同時に進行してしまい、線状ポリエステルは得られなかった(比較例2)。つまり、水酸基含有線状ポリエステル(線状ポリマー)を得るために、チオール基とエポキシ基の反応が最適であると言える。
【0021】
<架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂の製造>
重合時に混合したSn(Oct)2はエステル交換反応の触媒としても作用するため、除去せずにそのまま物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂原料(実施例2)として利用して、架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂の製造を行った。
実施例1で得られたポリエステル(線状ポリマー)を、精製を経ずに100℃(比較例3)・130℃(比較例4)・160℃(実施例3)・190℃(実施例4)の4温度で加熱処理した(真空下)。以下では、加熱下での架橋反応の進行を調査するための時分割動的粘弾性測定、ゲル成分の調査のための膨潤抽出試験の結果、力学物性の変化を調査するための引張り試験の結果について説明する。
【0022】
測定条件:MCR302(Anton paar)を用いて測定した。N
2ガス雰囲気下で、貯蔵弾性率(G´)と損失弾性率(G´´)の変化を追跡した。測定周波数は1 Hzで、ひずみは0.5%である。
結果:
図3に、24時間以内のG´とG´´に対する変化を示す。100℃(比較例3)においては、G´が常にG´´を下回っており、本条件で十分な架橋が進行しないことがわかる。一方、130℃以上(比較例4、実施例3、4)では、ある時間でG´=G´´となる交点が観られ、時間ともに架橋が進行することが伺える。交点を迎える時間はゲル化時間(t
gel)と定義され、架橋の進行速度の指標として用いられる。
【0023】
tgelは、130℃反応(比較例4)では13.8時間(=830分)、160℃(実施例3)反応では2.5時間(=150分)、190℃反応(実施例4)では0.4時間(=24分)であった。つまり、高温ほど架橋形成速度が早くなっており、分子間エステル交換反応が効率的に進行することがわかる。また、24時間経過後のG´は、100℃(比較例3)では0.053MPa、130℃(比較例4)では0.49MPa、160℃反応(実施例3)では1.5MPa、190℃反応(実施例4)では6.1MPaであった。G´の数値は架橋密度を反映するため、高温で架橋処理すると、架橋形成速度の増加ともに架橋密度が上昇することがわかる。
【0024】
<膨潤抽出試験>
実施例1を100℃(比較例3)・130℃(比較例4)・160℃(実施例3)・190℃(実施例4)で24時間反応させた試料の膨潤抽出試験の結果について説明する。溶媒にはテトラヒドロフランを用い、試料を24時間浸漬させた後、溶媒を交換する手順を3回繰り返した。3回終了後、膨潤試料を取り出し、真空乾燥を経て、乾燥重量(m
d)を測った。初期重量(m
i)と比較し、ゲル分率(f
gel)を数式(1)と定義して算出した(単位:%)。
(数1)
【0025】
100℃(比較例3)と130℃(比較例4)で24時間処理した試料はすべて溶解し、fgelは0%であった。この結果から、系全体での架橋は十分に形成されていないことがわかった。一方で、160℃(実施例3)と190℃(実施例4)で24時間処理した試料はどちらもfgelは95%以上であり、系全体での架橋が形成されていることが確認できた。これらの結果から、非架橋状態から架橋状態への変換が達成できていることが言える。
【0026】
<力学物性>
測定条件:AGS-500NX(SHIMADZU)を用いて、室温で測定した。引張り速度は100mm/minとした。試験片は、厚み0.5mm、ゲージ幅4mm、ゲージ長さ13mmのダンベル型試験片とした。
結果:
図4に、実施例1を100℃(比較例3)・130℃(比較例4)・160℃(実施例3)・190℃(実施例4)で24時間反応させた試料に対する応力―ひずみ曲線を示す。比較として、熱処理をしていない実施例1の結果も示す。縦軸は公称応力、横軸は公称ひずみである。表1には、それぞれの試料のヤング率(5%ひずみ領域で計算)・最大応力についてまとめる
(表1)
【0027】
100℃で24時間処理した応力ひずみ曲線は、未処理の実施例1と同等であり、架橋が全く進行していないことがわかる。130℃(比較例4)では、多少応力の上昇はあるものの、架橋の効果は観られていない。一方160℃(実施例3)や190℃(実施例4)で熱処理した試料は、ヤング率と最大応力が著しい上昇を示し、架橋が十分に進行していることがわかる。なお、190℃(実施例4)で処理した試料は、ヤング率(320MPa)が典型的なゴム材料の数値(1-10MPa)と比較して著しく大きく、ガラス状架橋樹脂の挙動を示した。以上の結果から、非架橋・線状ポリマー状態から分子間結合交換を経た変換により、力学物性の大幅な改質が可能であることがわかった。また、その改質度合いは、加熱温度によって調整可能であることが示された。
【0028】
<架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂の結合交換特性評価>
実施例1(線状ポリマー)の試料を用い、190℃で24時間熱処理した後の架橋樹脂(架橋点を含む物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂、実施例4)に対する結合交換特性の評価結果を示す。
測定条件:MCR302(Anton paar)を用いて、190℃で測定した。直径8mm、厚み1mmのディスク状試料について、ずりひずみ3%下での応力緩和測定を行った。なお、測定はN2ガス雰囲気下で行っている。
【0029】
結果:
図5に、200℃での応力緩和測定の結果を示す。縦軸は初期応力(σ
0)で規格化した応力(σ)を示しており、横軸は経過時間(秒)を示している。ゲル成分のほぼ存在しない完全架橋樹脂にもかかわらず、著しい応力緩和が発現している。この結果から、架橋網目中でのエステル交換反応を介した結合交換の進行が伺える。結合交換の発現に伴い、再成形加工性や熱プレスを用いたメカニカルリサイクル性も示す。
具体的に、実施例1ではチオール基:エポキシ基:Sn(Oct)
2=1:1:0.05(モル比)と固定していたが、それぞれの比率を変化させた場合の結果について示す。シリーズAとして、チオール基:エポキシ基=1:X(X=0.25,0.5,0.75)を用意し、シリーズBとしてチオール基:エポキシ基=X:1(X=0.25, 0.5,0.75)と変化させた試料を用意した。なお、上記のA、Bシリーズにおいて、触媒はエポキシ基に対してエポキシ基:Sn(Oct)
2=1:0.05と固定した。またシリーズCとして、チオール基:エポキシ基=1:1で固定し、スズの触媒をチオール基:エポキシ基:Sn(Oct)
2=1:1:X(X=0.01,0.025,0.1,0.2)と変化させた試料を用意した。必要化合物の混合後、共通作業として、ポリマーの重合反応は100℃で24時間行っている。その後、架橋のための熱処理は160℃で24時間行っている。
【0030】
<線状ポリマーにおける他の仕込み比>
表2-4に、上記3つのシリーズの結果を示す。<重合結果>という項目は、重合反応後の試料の様子について示す。「溶解」は、良溶媒であるテトラヒドロフランに生成したポリマーが溶けることを意味する。「不溶」はポリマーが溶解しなかったことを意味しており、重合反応と架橋反応が同時に進行した結果を示す。この場合、熱可塑性樹脂から熱硬化性樹脂への変換は不可であるため、本発明には不適である。「不均一」は、触媒が凝集して不均一混合物となったことを意味する。
<熱処理結果>という項目は、重合反応後、架橋のための熱処理を160℃で24時間行った結果を示す。「溶解」「不溶」「不均一」の意味は上述の通りである。
<変換可否>の項目では、<重合結果>において「溶解」であり熱可塑性樹脂の性質を示し、且つ<熱処理結果>において「不溶」となり熱硬化性樹脂の性質を示したものについて「可」と示し、それ以外は「不可」と示す。
【0031】
(表2)
シリーズA:チオ―ル基:エポキシ基=1:X(X=0.25,0.5,0.75)
(表3)
シリーズB:チオ―ル基:エポキシ基=X:1(X=0.25,0.5,0.75)
(表4)
シリーズC:チオール基:エポキシ基:Sn(Oct)
2=1:1:X
【0032】
以上の結果をまとめると、チオール基の割合が化学等量より極端に少ない場合は、ポリマーは重合するものの、熱処理後に架橋体が得られないことがわかる。この理由は、生成するポリマーの分子量が小さすぎるためである。また、チオール基の割合が化学等量より極端に多い場合は、エポキシ化合物の単独重合が進行し、100℃の反応中で架橋物が生成してしまう。触媒に関しては、割合が多すぎる場合、他の成分と均一に混ざらず、白く着色した架橋体が生成してしまうことがわかった。
【0033】
上記結果等に基づき、線状ポリマー2(2´)の平均分子量は、熱処理後に架橋体を得るための観点から、5000以上が好ましい。
線状ポリマー2(2´)中におけるエステル結合5の割合は、架橋効率の観点から、分子鎖あたり15点以上が好ましく、25点以上がより好ましい。すなわち線状ポリマー中における前記エステル結合に対する前記水酸基のモル比は1:0.75~0.75:1(=1:1.33)である。
エステル交換触媒3の所定の含有量は、他の成分と均一に混ざらず、白く着色した架橋体が生成の観点から、チオール基又はエポキシ基に対するモル比は、0.01~0.15が好ましく、0.025~0.10がより好ましい。
物性変換型結合交換性ポリエステル樹脂が有する再成形加工性や熱プレスを用いたメカニカルリサイクル性を利用し、例えば熱硬化接着材による補強板圧着において弾性率を調整できる補強板として利用することができる。