(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151807
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】冷却構造
(51)【国際特許分類】
F28F 13/02 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
F28F13/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065528
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】高畑 一也
(57)【要約】
【課題】 液体窒素などの液体の冷媒を用いて被冷却物を極低温まで冷却する際に冷却に要する時間を短縮する。
【解決手段】 冷媒としての液体窒素を循環装置10および配管11を通じて循環させ、被冷却物20を冷却する装置を構成する。被冷却物20の表面には、樹脂層23が形成されている。樹脂層23には、切込部22が形成されている。冷媒である液体窒素は、冷媒層12で冷却構造の樹脂層23に接触し、被冷却物20を冷却する。被冷却物20の表面に切込部22を有する樹脂層23を形成した冷却構造とすることにより、ライデンフロスト現象、または液体冷媒の膜沸騰を抑制することができる。
この結果、被冷却物20を極低温まで冷却するのに要する時間を短縮することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却物の液体の冷媒による冷却を促進する冷却構造であって、
前記被冷却物が前記冷媒と接触する接触面上に形成された樹脂層と、
前記樹脂層に形成された切込部とを備える冷却構造。
【請求項2】
請求項1記載の冷却構造であって、
前記樹脂層は、フッ素樹脂で形成されている冷却構造。
【請求項3】
請求項1記載の冷却構造であって、
前記樹脂層は、25℃における粘度40m・Pa・s以上50m・Pa・s以下の樹脂を固めて形成されている冷却構造。
【請求項4】
請求項1記載の冷却構造であって、
前記樹脂層は、30μm以下の厚さである冷却構造。
【請求項5】
請求項1記載の冷却構造であって、
前記樹脂層は、7μm以上の厚さである冷却構造。
【請求項6】
請求項1記載の冷却構造であって、
前記樹脂層は、
前記切込部によって、複数の閉図形に分割されており、
前記閉図形の最小包含円の直径は100μm以上300μm以下である冷却構造。
【請求項7】
請求項1記載の冷却構造であって、
前記切込部は、前記被冷却物に前記樹脂層を構成する樹脂を塗布した後、冷却することによって当該樹脂層に生じた亀裂である冷却構造。
【請求項8】
請求項1~7いずれか記載の冷却構造と、
前記樹脂層の前記切込部が設けられた面に直接接触するように液体の冷媒を保持する冷媒室とを備える冷却装置。
【請求項9】
被冷却物の液体の冷媒による冷却を促進する冷却構造を製造する製造方法であって、
(a) 前記被冷却物を用意する工程と、
(b) 前記被冷却物が前記冷媒と接触する接触面上に樹脂を塗布する工程と、
(c) 前記樹脂が硬化して形成された樹脂層の表面に切込部を生じさせる工程とを備える製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の製造方法であって、
前記工程(c)は、前記樹脂層を冷却することにより、当該樹脂層の表面に亀裂状の切込部を生じさせる工程である製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の製造方法であって、
前記工程(c)における冷却温度は、220K以下である製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被冷却物を液体窒素などの液体の冷媒で極低温に冷却する際において、冷却を促進する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液体窒素などの液体の冷媒で極低温に冷却する場合、被冷却物と冷媒との温度差が大きいときには、両者の接触面で、ライデンフロスト現象、または膜沸騰と呼ばれる現象が生じ、冷媒と被冷却物との接触が阻害されるため、冷却に要する時間が長くなることが知られている。特許文献1は、被冷却物である金属の表面に、ガラスウール、カーボンファイバー、セラミックスなどの熱の不良導体の多孔質層を設けることにより、冷却に要する時間を短縮する技術を開示している。多孔質層ではなく、樹脂層を形成する技術も知られている。これらの技術は、多孔質層または樹脂層において、被冷却物に接触する面から冷媒と接触する面に向けて温度勾配が生じることにより、冷媒と接触する面において、冷媒との温度差を小さくし、ライデンフロスト現象の発生を抑制することを原理としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、十分な効果を得るためには、50μmを超える層を形成する必要があり、層の形成が困難であるという課題があった。
本願は、かかる課題を解決し、液体の冷媒による極低温の冷却に要する時間を短縮する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
被冷却物の液体の冷媒による冷却を促進する冷却構造であって、
前記被冷却物が前記冷媒と接触する接触面上に形成された樹脂層と、
前記樹脂層に形成された切込部とを備える冷却構造と構成することができる。
【0006】
本発明では、被冷却物と冷媒の接触面上に樹脂層を形成するだけでなく、その樹脂層に切込部が形成されている。発明者による実験の結果、このように切込部を設けることにより、従来に比して有意に薄い樹脂層でも冷却を促進することができることが確認された。
上述の効果が得られる原理は、完全に解明されている訳ではないが、樹脂層に接触して気化した冷媒が、切込部に入り込むことにより、気化した冷媒に妨げられることなく、液体の冷媒と樹脂層との接触が保たれることによるものと考えられる。
本発明においては、任意の冷媒を用いることができ、例えば、液体窒素を用いることができる。
本発明において、切込部の形状、寸法などは任意に定めることができる。もっとも、上述の原理を考えると、比較的、狭い幅であることが好ましいと考えられる。切込部は、幾何学的または規則的な模様として形成してもよいし、不規則なものであってもよい。また、切込部の幅、長さ、深さなどは、均一である必要もない。
【0007】
本発明において、
前記樹脂層は、フッ素樹脂で形成されていてもよい。
【0008】
発明者の実験により、フッ素樹脂が効果的であることが確認された。特に、フロロサーフ(登録商標)を用いることが好ましいが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることもできる。なお、エポキシ樹脂などフッ素樹脂以外を排除する趣旨ではない。
【0009】
本発明において、
前記樹脂層は、25℃における粘度40m・Pa・s以上50m・Pa・s以下の樹脂を固めて形成することが好ましい。
【0010】
かかる粘度の樹脂を用いることにより、適切な膜厚および切込部を有する樹脂層を比較的形成しやすいことが判明した。
【0011】
本発明において、
前記樹脂層は、30μm以下の厚さであることが好ましい。
【0012】
樹脂層が、この厚さを超えると剥離しやすくなることが懸念される。従って、樹脂層の耐久性という観点から、上記範囲が好ましい。
【0013】
本発明において、
前記樹脂層は、7μm以上の厚さであることが好ましい。
【0014】
実験の結果、樹脂層に有効な切込部を形成させる観点から、かかる厚さが好ましいことが確認された。
【0015】
本発明において、
前記樹脂層は、
前記切込部によって、複数の閉図形に分割されており、
前記閉図形の最小包含円の直径は100μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0016】
実験の結果、かかる範囲が好ましいことが確認された。
【0017】
本発明において、
前記切込部は、前記被冷却物に前記樹脂層を構成する樹脂を塗布した後、冷却することによって当該樹脂層に生じた亀裂であることが好ましい。
【0018】
実験の結果、樹脂層を冷却することにより、表面に亀裂を生じさせることができ、かかる亀裂が、冷却促進に有用であることが確認された。
【0019】
本発明において、上述した種々の特徴は全て備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり、組み合わせたりしてもよい。
また、本発明は、上述した冷却構造の他、種々の態様で構成することができる。
【0020】
例えば、本発明は、
上述したいずれかの冷却構造と、
前記樹脂層の前記切込部が設けられた面に直接接触するように液体の冷媒を保持する冷媒室とを備える冷却装置として構成してもよい。
【0021】
かかる冷却装置によれば、効果的に被冷却物を冷却することができる。
冷媒としては、例えば、液体窒素を用いることができる。
冷媒室は、冷媒を貯留する槽状のものであってもよいし、冷媒を循環させる配管等であってもよい。両者を組み合わせ、槽状の冷媒室に、冷媒を循環させる機構を別途追加してもよい。
【0022】
また、本発明は、被冷却物の液体の冷媒による冷却を促進する冷却構造を製造する製造方法であって、
(a) 前記被冷却物を用意する工程と、
(b) 前記被冷却物が前記冷媒と接触する接触面上に樹脂を塗布する工程と、
(c) 前記樹脂が硬化して形成された樹脂層の表面に切込部を生じさせる工程とを備える製造方法として構成してもよい。
【0023】
こうすることにより、比較的容易に冷却構造を実現することができる。
【0024】
また、上記方法において、
前記工程(c)は、前記樹脂層を冷却することにより、当該樹脂層の表面に亀裂状の切込部を生じさせる工程としてもよい。
【0025】
こうすることにより、比較的容易に切込部を形成することができる。また、実験の結果、こうして形成された亀裂状の切込部は、非常に有効に作用することが確認されている。
【0026】
さらに、上記方法においては、
前記工程(c)における冷却温度は、220K以下であることが好ましい。
【0027】
実験の結果、こうすることにより、効果的に亀裂状の切込部を形成することができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施例としての冷却装置の全体構成を示す説明図である。
【
図5】実施例における冷却促進効果を示すグラフである。
【
図8】膜厚による冷却促進効果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施例について説明する。
図1は、実施例としての冷却装置の全体構成を示す説明図である。被冷却物20を液体窒素で冷却する装置である。被冷却物20は金属が好ましい。
被冷却物20の表面には、樹脂層23が形成されている。樹脂層23には、切込部22が形成されている。被冷却物20、樹脂層23、切込部22が本発明における冷却構造に相当する。
冷媒である液体窒素は、冷媒層12で冷却構造の樹脂層23に接触し、被冷却物20を冷却する。
液体窒素は、配管11を通じて、循環装置10によって循環されている。
【0030】
図2は、冷却が促進される原理を示す説明図である。
まず、比較例として、
図2(a)には、樹脂層が形成されていない状態を示した。この状態では、被冷却物20に対して、冷媒が直接接触している。図中に、被冷却物20および冷媒の温度を示した。被冷却物20は、金属であり熱伝導率が非常に高いため、厚さ方向(図中の上下方向)に温度勾配は生じず、ほぼ均一の温度T1となる。一方、冷媒の温度はT0である。冷媒と被冷却物20との接触面では、両者の温度差はDT1となる。この温度差が大きい場合、両者の接触面では、ライデンフロスト現象、または膜沸騰と呼ばれる現象が生じ、冷媒は急激に気化することになる。この現象が生じると、接触面には、気化した冷媒が介在するようになり、液体の冷媒が被冷却物20に接触することが阻害されるため、効果的な冷却が行われなくなる。
【0031】
図2(b)には、実施例における冷却構造の場合を示した。冷却構造では、被冷却物20の表面に切込部22を有する樹脂層23が形成されている。被冷却物20の内部では、
図2(a)の場合と同様、ほぼ均一の温度T1となっており、冷媒の温度はT0となっている。しかし、この冷却構造では、樹脂層23の表面が、冷媒によって冷却される結果、樹脂層23において、被冷却物の温度T1から厚み方向に徐々に温度が低下する温度勾配が生じる。樹脂層23の表面の温度をT2とすると、冷媒との温度差DT2は、温度T2と温度T0の差となり、
図2(a)で示した温度差DT1よりも小さくなる。このように、樹脂層23を介在させることにより、冷媒と接触する面との温度差を小さくすることができるため、ライデンフロスト現象を抑制することができ、冷却を促進することができるのである。
そして、本実施例の冷却構造では、樹脂層23に切込部22が形成されている。切込部22による効果については、実験結果を踏まえて後述する。
【0032】
図3は、冷却構造製造工程の工程図である。まず、被冷却物を用意し、その表面に樹脂コーティングを行う(ステップS10)。樹脂コーティングは、スプレーや刷毛などによる塗布、または樹脂を蓄えた容器内に被冷却物を浸漬する方法などで行うことができる。樹脂としては、PTFEなど種々のフッ素樹脂を用いることができる。本実施例では、フロロサーフ(登録商標)FG-3650Cを用いた。
樹脂コーティングは、任意の膜厚で行うことができるが、後述する通り、7μm以上30μm以下の範囲とすることが好ましい。樹脂コーティングが、樹脂層23となる。
【0033】
樹脂コーティングを行った後、被冷却物を樹脂コーティングに亀裂が発生するまで冷却する(ステップS11)。この亀裂が切込部22となる。後述する通り、実験によれば、220K以下で亀裂が発生することが確認されているため、かかる温度に冷却することが好ましい。
樹脂コーティングに亀裂が生じたことが確認されれば、冷却構造の製造は完了する。
【0034】
もっとも、
図3で示したのは、冷却構造の製造方法の一例に過ぎず、この他の方法をとってもよい。例えば、樹脂コーティングに対して、型押しや切削などの方法で切込部22を形成してもよい。
【0035】
図4は、冷却温度による影響を示す説明図である。樹脂コーティングの表面の写真を示した。樹脂はフロロサーフ(登録商標)を用いており、樹脂コーティングの膜厚は15μmである。冷却は、表面に液体窒素をかけることで行った。
図4(a)は、樹脂コーティングを行った後、冷却する前の状態を表している。表面には、何の亀裂も生じていないことが確認できる。
図4(b)は、250Kに冷却した状態である。この時点でも、亀裂が生じていないことが確認できる。
図4(c)は、220Kに冷却した状態である。この時点で、亀裂が発生したことが確認できる。
図4(d)は200K、
図4(e)は170Kに冷却した状態である。それぞれ亀裂が発生していることが明瞭に確認できる。
図4(f)は77Kに冷却した状態の顕微鏡写真である。亀裂の発生により、樹脂コーティングの表面が、いくつかの不規則な閉図形からなる部分に分割されていることが明瞭に確認できる。閉図形の最小包含円の直径は100μm以上300μm以下であった。
【0036】
図5は、実施例における冷却促進効果を示すグラフである。縦横30mm厚さ2mmの正方形の銅板を被冷却物として用い、フロロサーフ(登録商標)FG-3650Cで樹脂層を形成し、樹脂層が形成されていない背面および側面を断熱材で覆った上で、77Kの液体窒素の浴槽に落下させたときの被冷却物の温度変化を計測した。
曲線C1は、樹脂コーティング、即ち樹脂層が形成されていない被冷却物の温度変化を表し、曲線C2は、膜厚15μmの樹脂コーティングを施した場合の温度変化を表している。図示する通り、290Kから90Kまで冷却するのに要した時間は、樹脂層が形成されていない場合は130秒であるのに対し、樹脂層が形成されている場合は26秒となっている。
この結果から、本実施例における樹脂層は、冷却に要する時間の短縮に有効であることが分かる。
【0037】
図6は、亀裂の発生による影響を示すグラフである。
図5と同様の実験における温度変化を示した。膜厚15μmの樹脂層を形成した試験片を用いて、冷却を5回繰り返した場合の結果である。曲線C11~C15は、それぞれ1回目~5回目の結果を表している。
先に工程図(
図3)で説明した通り樹脂層の表面の亀裂は、冷却によって生じるから、1回目の冷却時には樹脂層の表面には亀裂が生じていない。1回目の冷却によって樹脂層に亀裂が生じた後、2回目以降の冷却が行われている。
図示する通り、1回目の冷却(曲線C11)では、290Kから90Kまでの冷却に26秒を要しているのに対し、2回目~5回目の冷却(曲線C12~C15)では、20秒未満と短縮されていることが分かる。
この結果から、樹脂層の表面に亀裂が生じることにより、冷却時間を短縮できることが確認された。
亀裂が冷却を促進する原理は、解明されていないものの、樹脂層を冷却する際に気化した冷媒が、亀裂に吸い込まれることにより、樹脂層と冷媒との接触が阻害されにくくなるものと考えられる。この原理を踏まえれば、樹脂層の表面の切込部は、必ずしも冷却で生じた亀裂による必要はなく、型押しや切削など機械的に成形したものであっても良いと考えられる。もっとも、本実施例の方法によれば、冷却することで有効な亀裂を製造することができるため、簡便であるという利点がある。
【0038】
図7は、膜厚による影響を示す説明図である。フロロサーフ(登録商標)で樹脂コーティングを施した後、77Kまで冷却したときの亀裂の状態を示している。
図7(a)~
図7(e)は、それぞれ膜厚が5、7、12、15、21μmに対する結果である。
図7(a)に示す通り、膜厚5μmの場合、冷却しても亀裂は生じていない。
図7(b)~
図7(e)に示す通り、7μm以上の膜厚では、それぞれ亀裂が生じていることが分かる。
この結果から、亀裂による効果も合わせて冷却を促進させるためには、膜厚を7μm以上にすることが好ましいことが確認された。
【0039】
図8は、膜厚による冷却促進効果を示す説明図である。
図7に示したそれぞれの膜厚の試験片について、5回繰り返して冷却を行い、それぞれ290Kから90Kまでの冷却に要した時間をプロットしたものである。ただし、
図6で説明した通り、1回目の冷却は、亀裂が生じていない状態で行われたものであるため、
図8では、2回目~5回目の結果を示した。
図示する通り、膜厚5μmの場合の結果(点群P1)の所要時間は、膜厚7μm以上の結果(点群P2~P5)よりも明らかに長いことが分かる。これは、
図7で説明した通り、膜厚5μmでは、亀裂が生じないことが原因と考えられる。即ち、この結果から、樹脂層に亀裂が生じることにより、冷却促進が図られることが確認できた。
【0040】
また、点群P2~P5の結果によれば、膜厚15μm(点群P4)、21μm(点群P5)の結果は、大きな差がない。一方、点群P4、P5の結果は、膜厚7μm(点群P2)、12μm(点群P3)より有意に冷却が促進されていることが確認される。この結果から、膜厚は15μm以上にすることが、より好ましいということが言える。
一方、実験の結果、膜厚を30μm以上にした場合は、樹脂層が被冷却物から剥離してしまうことがわかった。この観点からは、膜厚は30μm以下とすることが好ましいと言える。
以上を総合的に踏まえると、冷却の促進効果および樹脂層の耐久性を両立させるため、膜厚は15μm~20μmとすることが最適であろうと考えられる。
【0041】
ここで、本実施例で用いた樹脂について説明する。既に説明した通り、本実施例では、樹脂として、フロロサーフ(登録商標)FG-3650を用いた。その物性は、表1の通りである。樹脂層を形成するためには、いずれを用いても差し支えないが、25℃における粘度が40~50mPa・sのものを用いれば、1回の塗布で、膜厚10~20μmとなるため、上述した最適の膜厚を実現することができる。かかる観点から、当該粘度のフロロサーフ(登録商標)FG-3650を用いることが好ましいと言える。
【表1】
【0042】
以上で説明した実施例の冷却構造および冷却装置によれば、被冷却物を短時間で極低温まで冷却することが可能となる。
なお、以上の実施例で説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりしてもよい。
実施例の実験では、樹脂としてフロロサーフ(登録商標)を用いたが、この他の樹脂を用いることもできる。
また、実験では被冷却物として銅板を例示したが、これ以外の金属を用いてもよい。また、金属に限らず、ライデンフロスト現象を生じさせ得る任意の物を被冷却物とすることができる。
実施例の冷却装置は、液体冷媒の移送や貯蔵のための設備の予冷や、液体燃料ロケットの配管の予冷、生体細胞の急冷凍結などのための装置として構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、被冷却物を液体窒素などの液体の冷媒で極低温に冷却するために利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 循環装置
11 配管
12 冷媒層
20 被冷却物
22 切込部
23 樹脂層