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特開2024-151837リチウム複合酸化物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151837
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】リチウム複合酸化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 45/02 20060101AFI20241018BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241018BHJP
【FI】
C01G45/02
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065577
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 大一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(72)【発明者】
【氏名】藪内 直明
(72)【発明者】
【氏名】高田 拡嗣
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電極の電気伝導度向上を目的とし、粒度分布を制御したリチウム複合酸化物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】組成式LiMnO(但し、0.80≦x≦1.20である)で示され、ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有し、なおかつ、下記計算式(1)で得られるスパン値Sが、1.0以上5.0以下であるリチウム複合酸化物、並びにその製造方法。
S=(D90-D10)/D50(1)
(式(1)中、D10、D50及びD90は、それぞれ体積基準の粒度分布における累積10%粒子径、累積50%粒子径及び累積90%粒子径を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式LiMnO(但し、0.80≦x≦1.20である)で示され、ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有し、なおかつ、下記計算式(1)で得られるスパン値Sが、1.0以上5.0以下である、リチウム複合酸化物。
S=(D90-D10)/D50 (1)
(式(1)中、D10、D50及びD90は、それぞれ体積基準の粒度分布における累積10%粒子径、累積50%粒子径及び累積90粒子%径を示す。)
【請求項2】
前記式(1)中のD50が5μm以上15μm以下である、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項3】
粉末X線パターン回折において2θ=15.3±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(A)と2θ=18.2±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(B)との強度比(A/B)が0.5以上である、請求項1又は2に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項4】
水酸化リチウム、酸化マンガン又はオキシ水酸化マンガン、及び水を混合してスラリーを調製する工程、得られたスラリーから水を蒸発させて顆粒乾燥粒子を作製する工程、及び、前記工程で得られた顆粒乾燥粒子を不活性ガス中で熱処理する工程を含む、請求項1又は2に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
顆粒乾燥粒子を作製する工程において噴霧乾燥により水を蒸発させる、請求項4に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のリチウム複合酸化物を正極活物質として含む、電極。
【請求項7】
請求項6に記載の電極を備えた、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム複合酸化物及びその製造方法に関するものであり、より詳しくは、粒度分布を制御したリチウム複合酸化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池用正極活物質としては、一般的にリチウム複合酸化物が使用されている。リチウム複合酸化物、具体的にはコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)等、は全世界に流通されているリチウム二次電池用正極活物質として多く使用されている。このようなリチウム複合酸化物は特性改善(高容量化、高出力化、サイクル安定化)や安全性改善に活発な研究が行われている。
【0003】
リチウム二次電池用正極活物質の特性改善を通じた性能向上については、例えば高容量化が注目されており、LiMnOで表され、結晶構造がジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有するリチウム複合酸化物(特許文献1)が開示されている。
特許文献2及び特許文献3には、直方晶及び単斜晶のうちの1種以上からなることを特徴とするLiMnO型化合物が開示され、当該化合物を用いて作製されたリチウムイオン二次電池の放電容量は170mAh/g程度と低容量であった。特許文献1では、メカニカルミリング後熱処理する工程により結晶構造が変化し、放電容量が260mAh/gまで向上したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6956039号公報
【特許文献2】特開2003-007297号公報
【特許文献3】特開2002-145619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなLiMnO型化合物は、高容量でありながら安価であるリチウム二次電池用正極活物質だが、LiMnO型化合物にメカニカルミリング法を適用すると、粒度分布が広範となるため、導電パスの形成が阻害され、電極の電気伝導度が低下する課題がある。
本開示は電極の電気伝導度向上を目的とし、粒度分布が制御されたリチウム複合酸化物及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は特許請求の範囲の記載の通りであり、また、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1]組成式LiMnO(但し、0.80≦x≦1.20である)で示され、ジグザグ層状構造を母構造としα-NaFeO型層状構造のドメインを有し、なおかつ、以下の計算式(1)で得られるスパン値Sが、1.0以上5.0以下である、リチウム複合酸化物。
S=(D90-D10)/D50 (1)
(式(1)中、D10、D50及びD90は、それぞれ体積基準の粒度分布における累積10%粒子径、累積50%粒子径及び累積90%粒子径を示す。)
[2]上記式(1)中のD50が5μm以上15μm以下である、上記[1]に記載のリチウム複合酸化物。
[3]粉末X線回折パターンにおいて2θ=15.3±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(A)と2θ=18.2±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(B)との強度比(A/B)が0.5以上である、上記[1]又は[2]に記載のリチウム複合酸化物。
[4]水酸化リチウム、酸化マンガン又はオキシ水酸化マンガン、及び、水を混合してスラリーを調製する工程、得られたスラリーから水を蒸発させて顆粒乾燥粒子を作製する工程、及び、前記工程で得られた顆粒乾燥粒子を不活性ガス中で熱処理する工程を含む、上記[1]~[3]のいずれかひとつに記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
[5]顆粒乾燥粒子を作製する工程において噴霧乾燥により水を蒸発させる、上記[4]に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
[6]上記[1]~[3]のいずれかひとつに記載のリチウム複合酸化物を正極活物質として含む、電極。
[7]上記[6]に記載の電極を備えた、リチウム二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本開示のリチウム複合酸化物は、これをリチウム二次電池用正極活物質に使用することにより、従来に比べて高い電気伝導度を有する電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ジグザグ層状構造を示した模式図である。
図2】層状構造(2a)及び岩塩型構造(2b)を示した模式図である。
図3】例1~例3のリチウム複合酸化物のXRDパターンを示した図である。
図4】例1~例3のリチウム複合酸化物の粒度分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、その一例を挙げて、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。本開示は、適宜変形して実施することができる。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
本実施形態のリチウム複合酸化物は、組成式LiMnO(但し、0.80≦x≦1.20である)で示される。上記組成式中、好ましくは0.90≦x≦1.10であり、より好ましくは0.95≦x≦1.05である。
【0011】
本実施形態のリチウム複合酸化物は、ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有する。このような構造を有することにより、初期活性充放電サイクルが必要なく、初期サイクルから高容量を発現することが可能であるので、数十サイクル程度充放電を行うことで活性化することによって、はじめて高容量を発現する直方晶LiMnOに対して有利である。
【0012】
ここに、ジグザグ層状構造の模式図を図1に示す。また、層状構造及び岩塩型構造の模式図を、それぞれ、図2の(2a)、(2b)に示す。図1及び図2からわかるように、ジグザグ層状構造は、α-NaFeO型層状構造における層が上下に交互に規則的に成長し、ジグザグ型の層状となっている結晶構造である。
【0013】
本実施形態のリチウム複合酸化物は、下記式(1)で得られるスパン値Sが、1.0以上5.0以下である。
S=(D90-D10)/D50 (1)
(式中、D10、D50及びD90は、それぞれ体積基準の粒度分布における累積10%粒子径、累積50%粒子径及び累積90%粒子径を示す。)
【0014】
体積基準の粒度分布において、累積10%粒子径、累積50%粒子径及び累積90%粒子径とは、それぞれ、小粒子側からの累積値が10体積%、50体積%及び90体積%となる粒子径である。
本実施形態において、体積基準の粒度分布は試料を純水中に投入したスラリーを使用し、一般的なレーザー回折・散乱法粒子径分布測定装置(例えば、MT3000IIシリーズ、MicrotracBEL社製)で、以下の条件により測定すればよい。
[測定条件]
・計算モード:HRA
・測定時間:30秒
・溶媒の屈折率:1.33
・粉末試料の屈折率:2.46
【0015】
上記スパン値Sは、リチウム複合酸化物の粒度分布の広がりを示す指標であり、低いほどリチウム複合酸化物の粒子径のばらつきが少ないことを示す。
本実施形態のリチウム複合酸化物において、計算式(D90-D10)/D50で表されるスパン値Sは、1.0以上5.0以下である。
【0016】
スパン値Sが上記範囲内であることにより、粒度分布が制御されたリチウム複合酸化物が得られるため、導電パスの形成を阻害することなく、得られる電極の電気伝導度を向上させることができる。この範囲を外れた場合、粗大粒子が含まれる。粒子内の電気伝導は導電材のそれより遅いため、粗大粒子が含まれる場合は、電極の電気伝導度が低下する。一方、微細粒子が存在する場合は、充放電に関与できない活物質量が増加し、電極の電気伝導度は低下する。
スパン値Sの好ましい範囲は1.0以上3.0以下であり、より好ましい範囲は1.0以上2.5以下である。
【0017】
式(1)中のD50は、好ましくは5μm以上15μm以下であり、より好ましくは8μm以上12μm以下である。
式(1)中のD50が上記範囲の上限値以下であることにより、活物質粒子の電気伝導性が高くなり、電極の伝導度が向上する。また、D50が上記範囲の下限値以上であることにより、活物質粒子の表面積が増加し、活物質粒子同士をつなぐ良好な導電パスが形成されやすい。
【0018】
式(1)中のD90は、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは10μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは15μm以上30μm以下である。
式(1)中のD90が上記範囲であることにより、粗大二次粒子の発生を抑制し、電気伝導度が高くなりやすい。
【0019】
式(1)中のD10は、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは1μm以上10μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上5μm以下である。
式(1)中のD10が上記範囲であることにより、微細粒子量が少なくなる。微細粒子量が少ないと、充放電に関与しない活物質、すなわち、導電パスに接続していない活物質を減少させることができ、電極の電気伝導度がより向上しやすくなる。
【0020】
本実施形態のリチウム複合酸化物は、以下の測定条件での粉末X線回折で2θ=15.3±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(A)と2θ=18.2±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(B)との強度比(A/B)は0.5以上であることが好ましい。
【0021】
[測定条件]
・X線源:CuKα線=1.5418Å
・出力:1.6kW(40mA-40kV)
・発散スリット:1°
・発散縦制限スリット:10mm
・散乱スリット:解放
・受光スリット:解放
・スキャン幅:0.04°(2θ/θ)
・スキャンスピード:4°/min
・測定範囲:10~90°(2θ/θ)
【0022】
上記強度比(A/B)が0.5以上であれば、主相がジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造が共存することとなり、活性化が速く、高容量を得られる。当該強度比(A/B)は、1.0以上150.0以下がより好ましく、2.0以上50.0以下がさらに好ましい。
強度比(A/B)が上記範囲であれば、ジグザグ層状構造とα-NaFeO型層状構造が共存する結晶構造を取ることで、活性化が早く、高容量のリチウム複合酸化物を得られるため好ましい。
【0023】
本実施形態のリチウム複合酸化物のBET比表面積は、2.0m/g以上20.0m/g以下であることが好ましく、3.0m/g以上10.0m/g以下であることがより好ましい。
BET比表面積が上記範囲内であれば、リチウム複合酸化物のスラリーが良好な粘度を有するため、ハンドリング性の点で好ましい。また、リチウム複合酸化物をリチウム二次電池の正極活物質として使用する際に、高温において優れた充放電特性を得ることが可能になるとともに、優れた出力特性を得ることが可能となる。本実施形態のリチウム複合酸化物において、比表面積は、長期の活性化サイクルを経ずに高容量を発現するために重要な因子である。BET比表面積値を上記範囲の下限値以上とすることで、高容量のリチウム複合酸化物を得ることができる。
【0024】
リチウム複合酸化物のBET比表面積は、JIS Z 8830に基づき、物理ガス吸着から求めた吸着等温線をBETプロットに変換し、BET等温式に基づいて単分子層のガス吸着量Vmを求め、物理吸着に使用したガスの分子サイズを基に比表面積を計算する方法、いわゆるBET法、により求めることができる。
【0025】
本実施形態のリチウム複合酸化物は、水酸化リチウム、酸化マンガン又はオキシ水酸化マンガン、及び水を混合してスラリーを調製する工程、得られたスラリーから水を蒸発させて顆粒乾燥粒子を作製する工程、及び、前記工程で得られた顆粒乾燥粒子を不活性ガス中で熱処理する工程を行うことにより、製造することができる。
【0026】
スラリーを調製する工程において使用される水酸化リチウムの種類は特に制限されないが、例えば、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)などの水和物、無水水酸化リチウム(LiOH)などの無水物などが挙げられる。なかでも、大気下で取り扱える点、合成時に水分混入による誤差低減の観点から、水酸化リチウム一水和物が好ましい。
スラリーを調製する工程において使用される酸化マンガンの種類は特に制限されないが、例えば、MnO、Mn、MnO、Mn及びMnの群から選ばれる1以上が挙げられるが、なかでも後の焼成工程において価数変化がない観点から、Mnが好ましい。
【0027】
スラリーを調整する工程の後に、粉砕混合をおこなってもよい。粉砕混合において使用される粉砕機としては、湿式媒体攪拌式ミル、ボールミル、振動ミル、ジェットミル及び遊星ミルの群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0028】
顆粒乾燥粒子を作製する工程において、水を蒸発させる方法として噴霧乾燥を行うことが好ましい。
噴霧乾燥はスラリーを噴霧し、液滴を熱風で乾燥するスプレードライヤーで行うことができる。顆粒化の方法として、噴霧乾燥以外の方法、例えば液中造粒法、及び転動造粒法の少なくともいずれかが適用できるが、噴霧乾燥が最も工業的に有利である。
【0029】
不活性ガス中で熱処理する工程における処理温度及び処理時間は、特に制限されないが、例えば500℃以上900℃以下で30分以上6時間以下行うことが好ましく、600℃以上800℃以下で1時間以上4時間以下行うことがより好ましい。
また、使用される不活性ガスとしては、例えば窒素、及びアルゴンの少なくともいずれかを使用することができる。
【0030】
本実施形態の電極(正極)は、本実施形態のリチウム複合酸化物を正極活物質として含んでいればよく、当該リチウム複合酸化物のほかに、さらに、導電材、バインダ及び集電体を含むことが好ましい。
【0031】
導電材とは、電極の導電性を向上されるために添加するものである。導電材としては、特に限定するものではないが、例えば、アセチレンブラック及びケッチェンブラックの少なくともいずれかのカーボンブラックが挙げられる。導電材が正極活物質の周辺に均一分布させて、電子が流れるネットワークを形成させることが、電池の出力特性向上の点で好ましい。
【0032】
本実施形態の電極のリチウム複合酸化物に対する導電材の含有量は、特に限定するものではないが、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0033】
上記のバインダとしては、リチウム二次電池用電極に使用され得るバインダであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリ塩化ビニル(PVC)カルボキシメチルセルロース(CMC)及びスチレン・ブタジエンゴム(SBR)の群から選ばれる1以上が挙げられるが、特に制限はない。
【0034】
本実施形態の電極におけるバインダの含有量は、特に限定するものではないが、例えば、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
集電体は、正極合材層と接する面が導電性を示す導電体であればよく、銅、金、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、及びそれらの合金、酸化インジウム、酸化スズ、並びに、導電性カーボンの群から選ばれる1以上が挙げられる。集電体の形状については特に制限はなく、フォイル状、フィルム状、シート状、ネット状、エキスパンドメタル、又はパンチングメタルが挙げられる。集電体の厚みについても特に制限がなく、1~100μmが例示できる。
【0035】
本実施態様の電極(正極)の製造方法としては、公知の方法が挙げられ、例えば正極活
物質と導電材とバインダとを混合均一化して、得られた正極合材インクを集電体の表面に塗布した後、乾燥する方法などが挙げられる。
【0036】
本実施態様のリチウム二次電池は、上記の正極に加えて、負極、電解質およびセパレータなどを有する。
負極としては、Liを可逆に吸蔵放出する材料、例えば、炭素系材料、酸化錫系材料、酸化ケイ素系材料、LiTi12、Liと合金を形成する材料の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0037】
電解質としては、有機溶媒にLi塩や各種添加剤を溶解した有機電解液や、イオン液体、Liイオン伝導性の固体電解質、これらを組み合わせたものが例示される。当該電解液の有機溶媒としては、特に限定するものではないが、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びジエチルカーボネート(DEC)の群から選ばれる1以上が挙げられ、電解質としては、テトラフルオロボレート(BF )、ヘキサフルオロホスファート(PF )、フルオロメタンスルホニルイミド(FSI)、トリフルオロメタンスルホニルイミド(TFSI)及びトリフルオロメタンスルホナート(CFSO )の群から選ばれる1以上が挙げられるが、特に制限はない。
【0038】
セパレータとしては、特に制限はなく、公知のものを使用することができるが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、又はその複合材料のシートが挙げられる。
【実施例0039】
以下に、本開示の実施例を挙げてより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されて解釈されるものではない。例1および例2が実施例であり、例3が比較例である。
【0040】
<結晶構造の同定>
粉末X線回折装置(商品名:UltimaIV、Rigaku社製)を用いて粉末X線回折(以下、「粉末XRD」ともいう。)をおこない、リチウム複合酸化物の結晶構造の同定をおこなった。
粉末XRDにおける計測条件は以下の通りとした。
・X線源:CuKα線=1.5418Å
・出力:1.6kW(40mA-40kV)
・発散スリット:1°
・発散縦制限スリット:10mm
・散乱スリット:解放
・受光スリット:解放
・スキャンスピード:4°/min
・スキャン幅:0.04°(2θ/θ)
・測定範囲:10~90°(2θ/θ)
【0041】
<組成分析>
試料を塩酸-過酸化水素混合水溶液に加熱溶解した後、誘電結合プラズマ発光分析装置(商品名:OPTIMA5300DV、パーキンエルマージャパン製)を用いて、リチウム複合酸化物試料の組成を分析した。
【0042】
<BET比表面積の測定>
試料0.3gをBET比表面積測定用のガラス製セルに入れ、窒素気流化で150℃、30分間脱水処理を行い、粉体粒子に付着した水分の除去を行った。処理後の試料を、B
ET測定装置(商品名:MiCROMETRICS DesorbIII、島津製作所製)で、吸着ガスとして、窒素30%-ヘリウム70%の混合ガスを用いて、JIS Z 8830に基づくBET流動法(1点法)でBET比表面積を測定した。
【0043】
<粒度分布の測定>
粒度分布測定装置(商品名:MT3000IIシリーズ、MicrotracBEL社製)を使用して、体積基準の粒度分布を得た。粒度分布測定は、粉末試料に適量の純水を加えて5分間超音波分散をかけた後に行った。
装置付属の試料循環器により試料を分散させ以下の条件で測定を行った。粒子径の計算は装置付属のソフトにより行った。
[測定条件]
・計算モード:HRA
・測定時間:30秒
・溶媒の屈折率:1.33
・粉末試料の屈折率:2.46
粒度分布の広がりを示す指標として、スパン値が知られている。スパン値は次式で算出される。
(D90-D10)/D50
但し、D10、D50及びD90は、それぞれ体積基準の粒度分布における累積10%粒子径、累積50%粒子径及び累積90%粒子径である。
【0044】
<電極の作製>
例1~例3で得られたリチウム複合酸化物と導電材(Denka black、デンカ社製)とバインダ(10wt%PvdF/N-Methyl-2-Pyrrolidone溶液)とを、リチウム複合酸化物:導電材:バインダ=80:10:10の質量比で混合器(AR-100、Thinky社製)を用いて混合均一化して、正極合材インクを作製した。得られた正極合材インクは、集電体であるアルミニウム箔に125μmの厚さで塗布し、80℃で30分乾燥し、更に150℃で1時間以上減圧乾燥後、直径15.956mmの円形に切断した。切断後の円形電極を3ton/cmで一軸プレスし、150℃で2時間減圧乾燥して、電極を作製した。
【0045】
<電極電気伝導度の測定>
電極電気伝導度は、交流インピーダンス法により評価した。SH2-Z型4端子サンプルホルダ(東陽テクニカ製)に円形電極を挟み、ポテンショスタット(製品名:SI1287、Solartron製)と周波数応答アナライザー(製品名:SI1260、Solartron製)によって、交流インピーダンス測定を行った。掃引周波数100000Hz~1Hz、振幅5mVの条件で、交流インピーダンスを測定し、抵抗値を求めた。
【0046】
この抵抗値と円形電極の厚み、面積から次式によって、電極の電気伝導度を算出した。
σ=L/(R・A)
σ:伝導度[S/cm]
L:電極厚み[cm](実測の電極厚みからアルミニウム箔の厚みを差し引いた値)
R:抵抗[Ω]
A:電極面積[cm2]
【0047】
<Li対極電池の作製>
上記の方法で作製した電極を正極に用い、ECとDMCを1:2の容積比で混合した溶液中にLiPFを1.0Mの濃度で溶解した溶液を電解液に用い、ポリプロピレンシート(商品名:セルガード2400、セルガード社製)をセパレータに用い、リチウム箔(
直径16.16mm、厚さ200μm、本城金属社製)を負極に用いて、CR2032型コインセル(Li対極電池)を作製した。
【0048】
<初期容量の測定>
上記の方法で作製したLi対極電池の初期容量の測定は、充放電装置(商品名:BTS2004W、NAGANO社製)を用いて25℃の温度で行った。まず、電圧範囲2.0V-4.5V、6mA/gの電流密度で2サイクルの充放電試験を行った後、電圧範囲2.0V-4.5V、0.3Cの電流密度で1サイクル充放電試験を行い、初期容量評価を行なった。Cレートは6mA/gの電流密度で充放電したときの放電容量を実用放電量1Cとして0.3Cの電流密度を算出した。
【0049】
(例1)
800gの電解二酸化マンガン(MnO)を600℃で12時間焼成し、726gの二三酸化マンガン(Mn)を得た。水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)338g及び上記で得られた二三酸化マンガン662gを、純水4000mLと混合して5kgのスラリーを調製し、これを粉砕機(商品名:ダイノーミルマルチラボ型、シンマルエンタープライゼス製)を使用して2時間粉砕した。上記スラリーにおける水酸化リチウム一水和物および二三酸化マンガンの混合物の平均粒子径(D50)を粒度分布測定装置(商品名:MT3000IIシリーズ、MicrotracBEL社製)により測定した結果、0.6μmであった。得られたスラリーをスプレードライヤー(商品名:SB39、プリス社製)を使用して90型ノズル噴霧圧0.2MPa、溶液速度3kg/hの条件にて噴霧乾燥し、球状の顆粒乾燥粒子を作製した。噴霧乾燥は熱風入り口温度220℃で行った。
【0050】
顆粒乾燥粒子の平均粒子径(D50)は、粒度分布測定装置(商品名:MT3000IIシリーズ、MicrotracBEL社製)により測定した結果、12μmであった。
顆粒乾燥粒子を窒素雰囲気で700℃2時間加熱して昇温後、室温まで冷却して降温することによる熱処理を行い、D50が10.3μmであり、主相が直方晶系ジグザグ層状構造で、単斜晶系α-NaFeO型層状構造のドメインを有するリチウム複合酸化物を得た。なお、上記熱処理において、昇温速度は10℃/min、降温速度は5℃/minとした。
得られたリチウム複合酸化物の組成を、上記の<組成分析>にしたがって分析したところ、その組成はLi1.01MnOであった。
【0051】
(例2)
水酸化リチウム一水和物338g及び二三酸化マンガン662gを、純水2600mLと混合し3.6kgのスラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様の方法でリチウム複合酸化物を得た。例2における、水酸化リチウム一水和物およびマンガン酸化物の混合物の平均粒子径(D50)は0.6μmであり、顆粒乾燥粒子の平均粒子径(D50)は10μmであった。また、熱処理後の顆粒乾燥粒子であるリチウム複合酸化物のD50は11.4μmであり、得られたリチウム複合酸化物の組成はLi1.05MnOであった。
【0052】
(例3)
10gの炭酸マンガン(MnCO)を850℃12時間、空気中で焼成し、6.8gの二三酸化マンガン(Mn)を作製した。Li/Mnモル比が1.0になるように、二三酸化マンガン2gと市販の炭酸リチウム0.92gを乳鉢で20分間乾式混合した。得られた混合粉を900℃12時間、窒素雰囲気で加熱して昇温後、室温まで冷却して降温することによる熱処理を行い、ジグザグ層状構造のLiMnOを得た。なお、上記熱処理において、昇温速度は10℃/min、降温速度は5℃/minとした。
得られたLiMnOに対して、アルゴン雰囲気の密閉容器中で、600rpmで36時間メカニカルミリングを行うことにより、岩塩型LiMnOを得た。メカニカルミリングにはジルコニア製の容器及びボールを使用し、ジグザグ層状構造のLiMnOを1.5gと、粉砕媒体として直径10mmボールを3個、直径5mmボールを10個、及び直径1mmボールを2g入れて行った。ボールミル機は、遊星型ボールミルP-7クラシックライン(FRITSCH社製)を使用した。
【0053】
次に、得られた岩塩型LiMnOを、700℃の温度で2時間、窒素雰囲気で加熱して昇温後、室温まで冷却して降温することによる熱処理することにより、主相が直方晶系ジグザグ層状構造で、単斜晶系α-NaFeO型層状構造のドメインを有する結晶構造のリチウム複合酸化物を得た。なお、上記熱処理において、昇温速度は10℃/min、降温速度は5℃/minとした。
得られたリチウム複合酸化物の組成を、上記の<組成分析>にしたがって分析したところ、その組成はLi0.97MnOであった。
【0054】
例1~3のリチウム複合酸化物に対して、上記の<結晶構造の同定>にしたがって粉末XRDをおこない、10~90°のXRDパターンを確認した。その結果を図3に示す。
例1~3のリチウム複合酸化物のXRDパターンは、直方晶系(010)面、(011)面、(200)面、(021)面に強いピークと単斜晶系(001)面に弱いピークを有していることがわかった。すなわち、本発明で作製したリチウム複合酸化物の結晶構造は、ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有する構造であることが確認できた。
【0055】
例1~例3のリチウム複合酸化物において、上記の測定条件にしたがって、粉末XRDで2θ=15.3±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(A)と2θ=18.2±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(B)との強度比(A/B)の算出を行った。その結果を表1に示す。
例1~例3のリチウム複合酸化物に対して、上記の<BET比表面積の測定>にしたがってBET比表面積を測定し、その結果を表1に示す。
例1~例3のリチウム複合酸化物に対して上記の<初期容量の測定>に従ってLi対極電池の初期容量を測定し、その結果を表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
図3、表1より、本開示で作製したリチウム複合酸化物は、ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有する構造であることを確認できた。また、BET比表面積を制御したことで、リチウムイオン二次電池に適用した際の初期容量を発現することを確認した。
【0058】
例1~例3のリチウム複合酸化物において、上記の<粒度分布の測定>にしたがって粒度分布を測定し、得られた粒度分布図を図4に示す。
図4に示されているように、例3では粒度分布が広範であるのに対して、例1および例2では、粒度分布が単一ピークを有しており、かつ平均粒子径D50はリチウム二次電池
用正極材料の粉末としての取り扱いに好ましい範囲に入っていることが分かる。
【0059】
上記の測定方法により得られた粒度分布に基いて、例1~例3のリチウム複合酸化物のD10、D50、D90及びスパン[(D90-D10)/D50]を算出し、その結果を表2に示した。
【0060】
【表2】
【0061】
例1~3のリチウム複合酸化物について、<電極電気伝導度の測定>に従って、電極の電気伝導度を算出した結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
表3から、実施例である例1および例2の電極電気伝導度は、比較例である例3の電極電気伝導度より高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本開示のリチウム複合酸化物は、これをリチウム二次電池用正極活物質に使用することにより、従来に比べて高い電気伝導度を有するため、リチウム二次電池用正極活物質の分野での使用が期待される。
図1
図2
図3
図4