(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151918
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】マスク支持装置及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/04 20060101AFI20241018BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20241018BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C23C14/04 A
C23C14/24 G
C23C14/56 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065738
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡澤 昌毅
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029CA05
4K029HA03
4K029HA04
(57)【要約】
【課題】マスクの熱変形を抑制することのできるマスク支持装置及び成膜装置を提供する。
【解決手段】マスク16を支持するための支持部材としてのマスク台33と、マスク台33を通してマスク16の温度を制御するための温度制御手段としてのマスク冷却機構2と、マスク台33によるマスク16を支持する力を増強させる増強手段と、を備えることで、マスク16の面方向の温度分布がより均一化されて、マスク16の熱変形を抑制することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクを支持するための支持部材と、
前記支持部材を通して前記マスクの温度を制御するための温度制御手段と、
前記支持部材による前記マスクを支持する力を増強させる増強手段と、
を備えることを特徴とするマスク支持装置。
【請求項2】
前記マスクが取り付けられるマスクフレームを備えており、
前記増強手段は、前記マスクフレームと前記支持部材との接触圧力を増強させる接触圧力増強手段であることを特徴とする請求項1に記載のマスク支持装置。
【請求項3】
前記接触圧力増強手段は、前記マスクフレームを前記支持部材に向けて吸着する吸着機構を有することを特徴とする請求項2に記載のマスク支持装置。
【請求項4】
前記吸着機構は、磁石と、前記磁石を往復移動させる移動機構と、を有することを特徴とする請求項3に記載のマスク支持装置。
【請求項5】
前記接触圧力増強手段は、前記マスクフレームを前記支持部材に向けて押圧する押圧機構を有することを特徴とする請求項2に記載のマスク支持装置。
【請求項6】
前記温度制御手段は、前記支持部材の内部に設けられた冷却液通路を有することを特徴とする請求項1または2に記載のマスク支持装置。
【請求項7】
前記マスクフレームの外形の平面形状は矩形であり、
前記マスクフレームにおける4か所の角部付近と4辺付近における前記温度制御手段による単位時間当たりの温度変化量が等しくなるように、前記接触圧力増強手段による前記接触圧力が設定されることを特徴とする請求項2に記載のマスク支持装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載のマスク支持装置と、
前記マスクを介して基板上に薄膜を形成する成膜源と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク支持装置及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)においては、スマートフォン、テレビ、自動車用ディスプレイだけでなく、ヘッドマウントディスプレイなどにその応用分野が広がっている。特に、ヘッドマウントディスプレイに用いられるディスプレイは、ユーザーのめまいを低減するために画素パターンを高精度で形成することが求められる。
【0003】
有機EL表示装置の製造においては有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子:OLED)を形成する際に、成膜装置の成膜源から放出された成膜材料を画素パターンが形成されたマスクを介して基板に成膜することで有機物層や金属層が形成される。
【0004】
このような成膜装置においては、成膜精度を高めるために成膜工程の前に基板とマスクの相対位置を測定し、相対位置がずれている場合には、基板またはマスク、あるいは基板とマスクの双方を相対的に移動させて位置を調整(アライメント)する工程が行われる。
【0005】
特許文献1に開示された真空蒸着装置では、マスクの温度を制御する温度制御手段を利用して、マスクの温度変化による伸縮を防止し、パターン形状およびパターンピッチの精度を良くすることで成膜精度を高める方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、このような成膜装置では、マスクとマスクの温度を制御する温度制御手段との接触状態により、マスクの熱を冷却するまでに時間が掛かってしまう虞がある。そのため、マスクの面方向の温度分布が不均一となり、マスクが熱により変形してしまう虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-323364号公報
【特許文献2】特開2002-8859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、マスクの熱変形を抑制することのできるマスク支持装置及び成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0010】
本発明のマスク支持装置は、
マスクを支持するための支持部材と、
前記支持部材を通して前記マスクの温度を制御するための温度制御手段と、
前記支持部材による前記マスクを支持する力を増強させる増強手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、マスクの熱変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。以下の実施例においては、成膜装置の一例として、蒸発源を用いた真空蒸着装置を例にして説明する。しかしながら、本発明は、スパッタリングにより基板に薄膜を形成する成膜装置にも適用可能である。
【0014】
(実施例1)
図1~
図4を参照して、本発明の実施例1に係るマスク支持装置及び成膜装置について説明する。
図1は本発明の実施例1に係る成膜装置の概略図であり、成膜装置を正面から見た際の成膜装置の概略構成を示している。
図2は本発明の実施例1に係る成膜装置の拡大図であり、
図1中の一部(マスク冷却機構付近)を拡大した図である。
図3は本発明の実施例1に係る成膜装置の上面図であり、マスク冷却機構付近を上方から見た図である。
図4は本発明の実施例1に係る成膜装置の断面図であり、
図3中のAB断面図である。
【0015】
<成膜装置(真空蒸着装置)>
成膜装置1は、マスク16の温度を制御するための温度制御手段としてのマスク冷却機構2を備えている。マスク冷却機構2は、マスク台ベース6によって、真空チャンバの室内の上面角部あるいは側面上部に固定される。真空チャンバは、真空チャンバ側面3、真空チャンバ下面4、真空チャンバ天板11で構成され、全体としては6面体の構成を取るのが一般的である。真空チャンバ下面4に設置された成膜源としての蒸発源5から放出された成膜材料によって、マスク16を介して、基板7に薄膜が形成される。マスク16は、磁性を有しており、基板7や基板支持部材8(静電チャックなど)に対して相対的に上下移動可能に構成された吸引マグネット18によって吸引されるように構成されている。
【0016】
上記のマスク台ベース6は、真空チャンバ天板11上に置かれた不図示のマスク案内機構によって上下に往復移動するマスク支持軸13a,13bに支持されて、真空チャンバ内に配されている。マスク台ベース6の上方には、マスク16を支持する支持部材としてのマスク台33がマスク台ベース6に支持されている。このマスク台33に、マスク16が取り付けられたマスクフレーム15が載置される。なお、本実施例においては、マスクフレーム15にマスク16が貼り付けられることで、マスク16はマスクフレーム15に取り付けられている。マスク16が取り付けられたマスクフレーム15は不図示のロボットハンドによって成膜装置1内に搬入され、マスク台33上に載置される。マスクフレーム15や基板7を成膜装置1内に搬入するためにロボットハンドが装置に出入りする際には、マスク案内機構によってマスク台33はロボットハンドの妨げにならない位置まで下降する。マスク案内機構において、真空チャンバ天板11の上面側には、マスク支持軸13a,13bを囲うように不図示のベローズが設けられており、マスク台33の昇降に応じてベローズは伸縮する。このベローズによって、真空チャンバ内の真空度が維持される。
【0017】
<マスク冷却機構>
本実施例に係るマスク冷却機構2は、昇降ベース21を備えている。この昇降ベース21は、真空チャンバ天板11上に置かれた不図示の昇降案内機構によって上下に往復移動する昇降支持軸17a,17bに支持されて、真空チャンバ内に配されている。この昇降ベース21には、吸着マグネット19を備えたマグネット支柱20が設けられており、吸着マグネット19は昇降ベース21と共に昇降案内機構によって上下に往復移動可能に構成されている。
【0018】
マスク台33の内部にはマスク16を冷却するための冷却水を流す冷却液通路としての冷却水路34がマスクフレーム15を囲むように備えられている。そして、真空チャンバの外に設置された不図示の温調チラーや工場設備などから冷却水用配管を通してマスク台33の内部の冷却水路34に冷却水が供給されるように構成されている。なお、冷却水路34に流す冷却液は、水道水に限らず、冷媒等の流体でも良い。また、本実施例では、
図4に示すように、冷却水路34がマグネット支柱20よりも外側に配置されているが、冷却水路34はマグネット支柱20よりも内側に配置することもできる。以上のような構成により、マスク16は、支持部材としてのマスク台33を通して、その温度が制御される。
【0019】
マスク台33には、マグネット支柱20が進入できるように、下方に開放された空間35が設けられている。これにより、マグネット支柱20を上昇させることで、吸着マグネット19をマスクフレーム15の下面に近接させることができる。なお、空間35は、マスク台33の下面側にのみ開放した空間でもよいし、マスク台33の下面から上面に貫通した貫通孔により構成してもよい。
【0020】
上記のマスクフレーム15は磁性を有しており、マグネット支柱20が上昇して、吸着マグネット19をマスクフレーム15の下面に近接させた際には、マスクフレーム15は吸着マグネット19に磁気的な吸引力により吸引される。これにより、マスクフレーム15は、マスク台33に対して押し付けられる。マグネット支柱20が下降すると、吸着マグネット19がマスクフレーム15から遠ざかるにつれて磁気的な吸引力は減少し、マスク16が押し付けられる力は減少する。
【0021】
以上のように、吸着マグネット19とマグネット支柱20は、支持部材としてのマスク台33によるマスク16を支持する力を増強させる増強手段(マスクフレーム15とマスク台33との接触圧力を増強させる接触圧力増強手段)として機能する。そして、これら吸着マグネット19とマグネット支柱20は、マスクフレーム15をマスク台33に向けて吸着する吸着機構を構成するということもできる。この吸着機構は、磁石としての吸着マグネット19と、この吸着マグネット19を往復移動させるための移動機構とを備える。そして、この移動機構は、マグネット支柱20、昇降ベース21、昇降支持軸17a,17b、及び、これらを昇降させるための昇降案内機構等により構成される。昇降案内機構については、ボールネジ機構やラックアンドピニオン機構など各種公知技術を採用可能であるので、その説明は省略する。
【0022】
以上の構成により、マスクフレーム15を不図示のロボットハンドによって成膜装置1外に搬出する際には、マグネット支柱20を下降させておくことで、マスク台33にマスクフレーム15を押し付ける力を減少させることができる。一方、マスクフレーム15を不図示のロボットハンドによって成膜装置1内に搬入し、マスク台33に載置した後に、マグネット支柱20を上昇させることで、マスク台33にマスクフレーム15を押し付ける力を増強させることができる。
【0023】
<本実施例に係るマスク支持装置及び成膜装置の優れた点>
本実施例に係るマスク支持装置及びこれを備える成膜装置1においては、マスク台33によるマスク16を支持する力を増強させる増強手段を備える構成を採用している。より具体的には、マスクフレーム15とマスク台33との接触圧力を増強させる接触圧力増強手段を備えている。これにより、マスク16が取り付けられたマスクフレーム15と、内部に冷却水路34を有するマスク台33との接触圧力を増強することができる。すなわち、マスク台33にマスクフレーム15を載置させただけの場合には、マスクフレーム15及びマスク16の重量(自重)によってのみ、マスクフレーム15はマスク台33に押し付けられる。これに対して、本実施例の場合には、マグネット支柱20に備えられた吸着マグネット19による磁力分だけ接触圧力を増加させることができる。
【0024】
上記のように接触圧力を増加させることで、マスクフレーム15からマスク台33に伝わる単位時間当たりの熱流量が増加して、マスクフレーム15の冷却時間が短縮される。そのため、マスクフレーム15における面方向(マスクフレーム表面に平行な方向)の温度分布がより均一化される。従って、マスクフレーム15に取り付けられたマスク16の面方向(マスク表面に平行な方向)の温度分布も均一化されることにより、マスク16の熱変形を抑制することができる。以上のことから、マスク16の伸縮や変形が抑制されて、マスク16に設けられたパターン(基板7に薄膜を形成するための貫通孔に相当)の形状及びピッチの精度が安定的に保たれ、その結果、成膜精度も向上する。
【0025】
なお、吸着マグネット19を備えたマグネット支柱20は、
図3に示すように、マスクフレーム15の複数の角部にそれぞれ配置するのが望ましい。また、本実施例においては、マスクフレーム15の外形の平面形状は矩形である。そして、マスクフレーム15における4か所の角部付近と4辺付近における温度制御手段による単位時間当たりの温度変化量が等しくなるように、マスクフレーム15とマスク台33との接触圧力を設定するのが望ましい。この接触圧力は、マスクフレーム15とマスク台33との接触面積に応じて、吸着マグネット19の寸法形状や磁力、及び吸着マグネット19とマスクフレーム15との間隔等によって適宜設定することができる。なお、
図3においては、上記の角部付近の一か所を点線101で囲んで示しており、4辺付近の一か所を点線102で囲んで示している。
【0026】
(実施例2)
図5及び
図6には、本発明の実施例2が示されている。上記実施例1においては、接触圧力増強手段が吸着機構の場合について示したが、本実施例においては、接触圧力増強手段が、マスクフレームを支持部材(マスク台)に向けて押圧する押圧機構の場合について示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0027】
図5は本発明の実施例2に係る成膜装置の上面図であり、マスク冷却機構付近を上方から見た図である。
図6は本発明の実施例2に係る成膜装置の断面図であり、
図5中のAB断面図である。
【0028】
本実施例に係るマスク冷却機構2を支持する構成は、実施例1と同様であるので、その説明は省略する。本実施例に係るマスク冷却機構2においても、実施例1と同様に、真空チャンバ内に昇降ベース21が設けられている。この昇降ベース21を昇降させるための機構も実施例1と同様である。本実施例においては、この昇降ベース21には、実施例1とは異なり、押上支柱51が設けられている。この押上支柱51は、昇降ベース21と共に昇降案内機構(不図示)によって上下に往復移動可能に構成されている。
【0029】
また、本実施例においては、マスク台33の上面側に、回転軸53を中心に回転可能な
押付ブロック52が設けられている。この押付ブロック52は、その先端の押圧部がマスクフレーム15の上面を押し付けるように構成されており、押上支柱51が上昇すると、押圧部がマスクフレーム15を押し付ける方向に回転するように構成されている。なお、押上支柱51が下降すると、押付ブロック52は元の位置に戻っていくため、押付ブロック52によるマスクフレーム15を押し付ける力は減少する。
【0030】
以上のように、押付ブロック52と押上支柱51は、支持部材としてのマスク台33によるマスク16を支持する力を増強させる増強手段(マスクフレーム15とマスク台33との接触圧力を増強させる接触圧力増強手段)として機能する。そして、これら押付ブロック52と押上支柱51は、マスクフレーム15をマスク台33に向けて押圧する押圧機構を構成するということもできる。この押圧機構は、押付ブロック52と押上支柱51の他にも、押上支柱51を往復移動させるための移動機構を備える。そして、この移動機構は、押上支柱51、昇降ベース21、実施例1で説明した昇降支持軸、及び、これらを昇降させるための昇降案内機構等により構成される。昇降案内機構については、ボールネジ機構やラックアンドピニオン機構など各種公知技術を採用可能であるので、その説明は省略する。
【0031】
以上の構成により、マスクフレーム15を不図示のロボットハンドによって成膜装置1外に搬出する際には、押上支柱51を下降させておくことで、マスク台33にマスクフレーム15を押し付ける力を減少させることができる。一方、マスクフレーム15を不図示のロボットハンドによって成膜装置1内に搬入し、マスク台33に載置した後に、押上支柱51を上昇させることで、マスク台33にマスクフレーム15を押し付ける力を増強させることができる。
【0032】
なお、本実施例においても、実施例1で示したマグネット支柱20及び吸着マグネット19と同様に、マスクフレーム15の角部の4箇所に、押上支柱51及び押付ブロック52が設けられている。また、実施例1と同様に、マスクフレーム15における4か所の角部付近と4辺付近における温度制御手段による単位時間当たりの温度変化量が等しくなるように、マスクフレーム15とマスク台33との接触圧力を設定するのが望ましい。本実施例の場合には、この接触圧力は、押付ブロック52におけるマスクフレーム15に対する押圧面の寸法形状や、押上支柱51の押上量等によって適宜設定することができる。
【0033】
以上のように構成される本実施例に係るマスク支持装置及びこれを備える成膜装置においても、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0034】
1:成膜装置 2:マスク冷却機構 3:真空チャンバ側面 4:真空チャンバ下面 5:蒸発源 6:マスク台ベース 7:基板 8:基板支持部材 11:真空チャンバ天板 13a,13b:マスク支持軸 15:マスクフレーム 16:マスク 17a,17b:昇降支持軸 18:吸引マグネット 19:吸着マグネット 20:マグネット支柱 21:昇降ベース 33:マスク台 34:冷却水路 35:空間 51:押上支柱
52:押付ブロック 53:回転軸