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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152164
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】被覆層の物性予測方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/92 20190101AFI20241018BHJP
   B29C 48/154 20190101ALI20241018BHJP
   B29C 48/34 20190101ALI20241018BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/154
B29C48/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066199
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大賀 裕太
(72)【発明者】
【氏名】加賀 雅文
(72)【発明者】
【氏名】折内 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】笹村 達也
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AD03
4F207AD15
4F207AH35
4F207AM23
4F207AP05
4F207AR06
4F207KA01
4F207KA17
4F207KB18
4F207KK12
4F207KM03
4F207KM05
4F207KM13
4F207KM15
(57)【要約】
【課題】被覆層の物性を精度よく予測することが可能な被覆層の物性予測方法及び装置を提供する。
【解決手段】被覆層の物性予測方法は、導体10の周囲に押出機110を用いて押出成形される被覆層11の物性を予測する方法であって、少なくとも、被覆層11の製造条件と、被覆層11の物性との相関関係を機械学習して学習済モデル7を生成する学習済モデル生成工程と、学習済モデル7を用いて、被覆層11の物性を予測する物性予測工程と、を含み、被覆層11の製造条件は、押出機110に導入される導体10の温度を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の周囲に押出機を用いて押出成形される被覆層の物性を予測する方法であって、
少なくとも、前記被覆層の製造条件と、前記被覆層の物性との相関関係を機械学習して学習済モデルを生成する学習済モデル生成工程と、
前記学習済モデルを用いて、前記被覆層の物性を予測する物性予測工程と、を含み、
前記被覆層の製造条件は、前記押出機に導入される前記導体の温度を含む、
被覆層の物性予測方法。
【請求項2】
前記導体の温度は、前記押出機に導入される前記導体に接触して前記導体の温度を測定する接触式の温度センサの測定値である、
請求項1に記載の被覆層の物性予測方法。
【請求項3】
前記被覆層の製造条件は、前記押出機の出口部の温度をさらに含む、
請求項1に記載の被覆層の物性予測方法。
【請求項4】
前記学習済モデル生成工程では、前記被覆層の組成、前記被覆層の製造条件、及び前記被覆層の物性の相関関係を機械学習して前記学習済モデルを生成する、
請求項1に記載の被覆層の物性予測方法。
【請求項5】
導体の周囲に押出機を用いて押出成形される被覆層の物性を予測する装置であって、
少なくとも、前記被覆層の製造条件と、前記被覆層の物性との相関関係を機械学習して学習済モデルを生成する学習済モデル生成処理部と、
前記学習済モデルを用いて、前記被覆層の物性を予測する物性予測処理部と、を含み、
前記被覆層の製造条件は、前記押出機に導入される前記導体の温度を含む、
被覆層の物性予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆層の物性予測方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、押出成形で得られる成形品の物性を予測する技術が各種提案されてきた。例えば、特許文献1では、押出成形時の製造条件に基づいて成形品の物性を予測する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008-501837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、電線被覆材料である被覆層は、導体の周囲に被覆されるために、導体との関係で物理量が大きく変化する場合があり、このような場合、上記の従来方法では被覆層の物性を精度よく推定できないという課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、被覆層の物性を精度よく予測することが可能な被覆層の物性予測方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体の周囲に押出機を用いて押出成形される被覆層の物性を予測する方法であって、少なくとも、前記被覆層の製造条件と、前記被覆層の物性との相関関係を機械学習して学習済モデルを生成する学習済モデル生成工程と、前記学習済モデルを用いて、前記被覆層の物性を予測する物性予測工程と、を含み、前記被覆層の製造条件は、前記押出機に導入される前記導体の温度を含む、被覆層の物性予測方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体の周囲に押出機を用いて押出成形される被覆層の物性を予測する装置であって、少なくとも、前記被覆層の製造条件と、前記被覆層の物性との相関関係を機械学習して学習済モデルを生成する学習済モデル生成処理部と、前記学習済モデルを用いて、前記被覆層の物性を予測する物性予測処理部と、を含み、前記被覆層の製造条件は、前記押出機に導入される前記導体の温度を含む、被覆層の物性予測装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被覆層の物性を精度よく予測することが可能な被覆層の物性予測方法及び装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態に係る被覆層の物性予測装置の概略構成図である。
図2】(a)は学習済モデル生成処理、(b)は物性予測処理を説明する図である。
図3】学習用データの一例を示す図である。
図4】本発明の一実施の形態に係る被覆層の物性予測方法のフロー図である。
図5】(a)は学習済モデル生成処理のフロー図であり、(b)は物性予測処理のフロー図である。
図6】実施例における予測精度の検討結果を示す図であり、(a)は引張強さ、(b)は引張伸びの検討結果である。
図7】比較例における予測精度の検討結果を示す図であり、(a)は引張強さ、(b)は引張伸びの検討結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る被覆層の物性予測装置1(以下、単に物性予測装置1という)の概略構成図である。図1では、押出機110を含む電線の製造装置100も併せて示している。物性予測装置1は、導体10の周囲に押出機110を用いて押出成形される被覆層11の物性を予測する装置である。予測対象となる物性は、例えば、引張強さや引張伸びである。なお、予測対象となる物性は、例えば、耐熱試験や耐油試験等の耐久試験後の引張強さや引張伸びであってもよい。
【0012】
(電線の製造装置100)
まず、電線の製造装置100について説明する。電線の製造装置100は、導体10を予熱する予熱装置101と、予熱された導体10の周囲に押出成形により被覆層11を被覆する押出機110と、導体10及び被覆層11を冷却する水槽102と、水槽102で冷却されて得られた電線12の外径を測定する外径測定器103と、を有している。図示していないが、電線の製造装置100は、被覆層11に電子線を照射して被覆層11を架橋する架橋装置や、電線12を引き取る引取装置や、電線12をドラム等に巻き取る巻取装置等を有している。押出機110は、原料となるペレットを投入するホッパ111を有するスクリュ式の本体部112と、予熱された導体10が導入され、当該導体10に本体部112から供給された樹脂を被覆するクロスヘッド113と、を主に有している。また、電線の製造装置100は、電線の製造装置100の各部を制御する制御装置130を有している。制御装置130は、例えば、パーソナルコンピュータ等の演算装置からなる。
【0013】
本実施の形態では、電線の製造装置100は、押出機110に導入される導体10の温度を測定する導体用温度センサ120を有している。導体用温度センサ120は、押出機110に導入される導体10に接触して導体10の温度を測定する接触式の温度センサである。以下、導体用温度センサ120で測定した温度のデータを、導体温度データ61と呼称する。制御装置130は、導体用温度センサ120から導体温度データ61を取得し、取得した導体温度データ61を物性予測装置1に送信する。
【0014】
また、押出機110には、各部の温度を測定する押出機用温度センサ121が設けられている。図1では図示を簡略化して1つの押出機用温度センサ121のみを示しているが、本実施の形態では、本体部112における樹脂の流れの上流、中流、下流の3か所と、クランプ、ネック、クロスヘッド113、及びクロスヘッド113の出口に設けられたダイの合計7か所にそれぞれ押出機用温度センサ121を設けた。以下、押出機用温度センサ121で得られる押出機110の各部の温度のデータを押出機温度データ62と呼称する。制御装置130は、押出機用温度センサ121から押出機温度データ62を取得し、取得した押出機温度データ62を物性予測装置1に送信する。
【0015】
(物性予測装置1)
物性予測装置1は、少なくとも、制御部2と、記憶部3と、不図示の通信部とを有している。制御部2は、物性予測装置1の全体を統括的に制御しており、記憶部3は、制御部2による後述する各種処理に必要な情報等を記憶する。物性予測装置1は、例えば、サーバ装置等のコンピュータであり、CPU等の演算素子、RAMやROM等のメモリ、ハードディスク等の記憶装置、LANカード等の通信デバイスである通信インターフェースを備えている。
【0016】
制御部2は、設定処理部21、データ取得処理部22、学習済モデル生成処理部23、物性予測処理部24、及び予測物性提示処理部25を有している。各部の詳細については後述する。記憶部3は、メモリや記憶装置の所定の記憶領域により実現されている。
【0017】
また、物性予測装置1は、表示器4と、入力装置5と、を有している。表示器4は、例えば液晶ディスプレイ等であり、入力装置5は、例えばキーボードやマウス等である。なお、表示器4をタッチパネルで構成し、表示器4が入力装置5を兼ねる構成としてもよい。また、表示器4や入力装置5は、物性予測装置1と別体に構成され、無線通信等により物性予測装置1と相互に通信可能に構成されていてもよい。この場合、表示器4または入力装置5は、タブレットやスマートフォン等の携帯端末で構成されていてもよい。
【0018】
(設定処理部21)
設定処理部21は、物性予測装置1の各種設定を行うための設定処理を行うものである。設定処理部21では、例えば、データ取得処理部22によるデータ取得の方法や、各種制御に係る情報の設定を行うことができる。
【0019】
(データ取得処理部22)
データ取得処理部22は、機械学習に用いる各種データを取得するデータ取得処理を行う。データ取得処理部22は、電線の製造装置100の制御装置130から、導体温度データ61と押出機温度データ62とを受信し、学習用データ6として記憶部3に記憶する。なお、導体温度データ61と押出機温度データ62は、入力装置5により入力されてもよい。また、データ取得処理部22は、外部装置からの入力あるいは入力装置5からの入力により、物性データ63を取得し、学習用データ6として記憶部3に記憶する。さらに、データ取得処理部22は、物性の予測に用いる予測元データ8の取得も行う。予測元データ8は、例えば、入力装置5により入力される。
【0020】
(学習済モデル生成処理部23)
学習済モデル生成処理部23は、少なくとも、被覆層11の製造条件と、被覆層11の物性との相関関係を機械学習して学習済モデル7を生成する学習済モデル生成処理を行う。学習済モデル生成処理は、本発明の学習済モデル生成工程に相当する。図2(a)に示すように、学習済モデル生成処理では、学習済モデル生成処理部23が、記憶部3に記憶された学習用データ6に基づいて機械学習を行い、学習済モデル7を生成する。本実施の形態では、被覆層の製造条件を説明変数とし、被覆層11の物性を目的変数として、機械学習を行う。
【0021】
本実施の形態では、説明変数に用いる被覆層11の製造条件は、押出機110に導入される導体10の温度(ここでは、押出機110の近傍に設けられた接触式の導体用温度センサ120の測定値)である導体温度Tを含む。これにより、導体10の温度の影響を考慮して被覆層11の物性を予測することが可能になり、予測精度の向上を図ることが可能になる。導体温度Tのデータが導体温度データ61である。
【0022】
また、被覆層11の製造条件は、押出機110の出口部の温度である出口部温度Tをさらに含む。押出機110の出口部とは、押出機110における樹脂の出口近傍の部分を意味しており、より具体的には、ネック、クロスヘッド113、及びダイの温度を意味している。出口部温度Tは、押出機温度データ62として記憶部3に記憶されている。
【0023】
本実施の形態では、出口部温度T及び導体温度Tの2つのパラメータを説明変数としたが、さらに、押出機110のスクリュ形状、ニップル径、ダイ径等の装置の構造等に係るパラメータや、線速、スクリュ回転数、導体10の外径、電線12の外径等の製造条件に係るパラメータを説明変数に含んでもよい。さらに、被覆層11の組成、すなわち各材料の配合量等を説明変数に含めてもよい。また、本実施の形態では、被覆層11に電子線を照射して架橋を行ったが、このような場合、電子線の照射量を説明変数に含んでいてもよい。なお、目的変数である被覆層11の物性は、引張強さTSまたは引張伸びTEとした。
【0024】
学習済モデル生成処理では、説明変数(ここでは出口部温度T及び導体温度T)と、目的変数(ここでは引張強さTSまたは引張伸びTE)との相関性を表す学習済モデル7を生成する。学習済モデル生成処理は、本発明の学習済モデル生成工程に相当する。学習済モデル生成処理部23は、生成した学習済モデル7を記憶部3に記憶する。
【0025】
学習済モデル生成処理部23は、説明変数の各パラメータに対する目的変数のパラメータの相関性を、機械学習により自ら学習するための学習アルゴリズム等のソフトウェアを含んでいる。学習アルゴリズムは特に限定されず、公知の学習アルゴリズムを用いることができ、例えば、3層以上の層をなすニューラルネットワークを用いた所謂ディープランニング等を用いることができる。学習済モデル生成処理部23が学習するものは、説明変数と目的変数との相関性を表すモデル構造に相当する。
【0026】
より具体的には、学習済モデル生成処理部23は、学習用データ6を基に、説明変数と目的変数とを含むデータ集合に基づく学習を反復実行し、両者の相関性を自動的に解釈する。なお、学習の開始時には相関性は未知の状態であるが、学習を進めるに従って説明変数に対する目的変数の相関性を徐々に解釈し、その結果として得られた学習済モデル7を用いることで、説明変数に対する目的変数の相関性を解釈可能になる。
【0027】
本実施の形態では、下式(1)で表される簡易的な線形重回帰モデルを学習済モデル7として用いた。
(TS,TE)=C+C+C ・・・(1)
式(1)におけるC~Cは回帰係数であり、学習済モデル生成処理部23では、これら回帰係数C~Cを求める処理を行うことになる。
【0028】
(学習用データ6)
ここで、機械学習に用いられる学習用データ6について説明しておく。図3は、学習用データ6の一例を示す図である。図6に示すように、学習用データ6は、導体温度データ61と押出機温度データ62とを含む製造条件データ60と、物性データ63と、を含んでいる。ここでは、製造条件データ60が、押出機温度データ62として、本体部112の上流、中流、下流、及びクランプの温度を含む場合について示しているが、これらは省略可能である。また、製造条件データ60が、線速、スクリュ回転数、水槽距離、樹脂温度、及び照射量のデータを含むその他データ64を含む場合について示しているが、これらは省略可能である。また、学習用データ6は、製造条件データ60と物性データ63以外に、例えば、ダイ径、ニップル径等の装置の状態を示すデータや、被覆層11の組成(配合量等)のデータを含んでいてもよい。
【0029】
なお、図3の学習用データ6を取得する際には、押出機110として、スクリュ径20mm、ダイ径1.05mm、ニップル径1.65mmのものを用い、充実押出により被覆層11を形成した。導体10としては、0.5SQの撚線導体を用いた。被覆層11の材料としては、80℃で24時間以上真空乾燥を施したフッ素系材料(フッ素樹脂とフッ素ゴムとの複合材料)を用いた。被覆層11には電子線照射にて架橋を施した。電子線の照射量は75kGyとした。物性を実測する際には、電線12の導体10を除去した後、被覆層11に対してJIS3005に則った引張試験を実施し、得られた応力ひずみ線図の最大点応力を引張強度、破断点伸びを引張伸びとした。同様の引張試験を3回繰り返し、その平均値を引張強度TS、引張伸びTEとして学習用データ6に登録した。
【0030】
(物性予測処理部24)
物性予測処理部24は、学習済モデル生成処理部23が生成した学習済モデル7を用いて、被覆層11の物性を予測する物性予測処理を行う。物性予測処理は、本発明の物性予測工程に相当する。物性予測処理部24は、学習済モデル生成処理部23が生成した学習済モデル7(上記の式(1))を用いて、被覆層11の物性を予測することになる。
【0031】
図2(b)に示すように、物性予測処理では、物性予測処理部24は、学習済モデル7と、予測元のデータである予測元データ8とを基に、被覆層11の物性(引張強さTSまたは引張伸びTE)を求め、予測データ9として記憶部3に記憶する。予測元データ8は、例えば、入力装置5により入力される。
【0032】
(予測物性提示処理部25)
予測物性提示処理部25は、物性予測処理部24が予測した被覆層11の物性(すなわち、予測データ9)を、表示器4に表示する予測物性提示処理を行う。なお、予測物性提示処理では、表示器4以外の外部装置に、予測データ9を送信するように構成してもよい。
【0033】
(被覆層11の物性予測方法)
(メインルーチン)
図4は、本実施の形態に係る材料データ処理方法のフロー図である。なお、図4において、実線で示す矢印は、制御の流れを表しており、破線で示す矢印は、信号やデータの入出力を表している。
【0034】
図4に示すように、まず、ステップS1にて、データ取得処理を行う。データ取得処理では、データ取得処理部22が、例えば、通信により制御装置130から導体温度データ61及び押出機温度データ62を取得し、学習用データ6として記憶部3に記憶する。また、データ取得処理部22が、例えば、入力装置5からの入力により物性データ63を取得し、学習用データ6として記憶部3に記憶する。なお、データの取得方法は特に限定されない。
【0035】
その後、ステップS2にて、学習済モデル生成処理を行う。図5(a)に示すように、学習済モデル生成処理では、ステップS21にて、学習済モデル生成処理部23が、学習用データ6を機械学習に用いて、学習済モデル7を生成する(ここでは、上式(1)の回帰係数C~Cを求める)。その後、ステップS22にて、生成した学習済モデル7を記憶部3に記憶する。その後、リターンする。
【0036】
被覆層11の物性予測を行う際には、入力装置5等により、予測元データ8を入力する(ステップS6)。なお、予め予測元データ8となるデータを物性予測装置1に入力しておき、入力装置5により予測元データ8として用いるデータを選択するよう構成してもよい。
【0037】
ステップS3では、制御部2が、予測元データ8が入力されたかを判定する。ステップS3でNO(N)と判定された場合、ステップS3に戻り、予測元データ8の入力を待つ。ステップS3でYES(Y)と判定された場合、ステップS4に進む。
【0038】
ステップS4では、物性予測処理を行う。物性予測処理では、図5(b)に示すように、まず、ステップS41にて、物性予測処理部24が、学習済モデル7を用いて、予測元データ8に対応する被覆層11の物性を求める。その後、ステップS42にて、求めた被覆層11の物性を、予測データ9として記憶部3に記憶する。その後、リターンし、図4のステップS5に進む。
【0039】
ステップS5では、予測物性提示処理を行う。予測物性提示処理では、予測物性提示処理部25が、ステップS4の物性予測処理で得た予測データ9を、表示器4等に表示し、物性の予測結果を提示する。その後、処理を終了する。
【0040】
(予測精度の検討)
まず、本発明の実施例において、図3の学習用データ6を用い、上式(1)を用いて、引張強さTSと引張伸びTEのそれぞれを目的変数とした場合について学習済モデル7を生成した。その結果、以下の表1に示す回帰係数C~Cが得られた。
【0041】
【表1】
【0042】
次に、得られた学習済モデル7を用いて、図3の各サンプルの出口部温度T及び導体温度Tを予測元データ8として、引張強さTSと引張伸びTEの予測値を求め、実測値(図3中の引張強さTSと引張伸びTEの)との比較を行った。引張強さTSについての比較結果を図6(a)、引張伸びTEについての比較結果を図6(b)にそれぞれ示す。図6(a)に示すように、引張強さTSを目的変数とした場合には、予測値と実測値の相関係数Rは0.8533となり、非常に強い相関が得られることが確認できた。同様に、図6(b)に示すように、引張伸びTEを目的変数とした場合には、予測値と実測値の相関係数Rは0.9760となり、引張強さTSと同様に非常に強い相関が得られることが確認できた。これらの結果から、本発明の実施例によれば、高い精度で被覆層11の物性を予測できることが確認できた。
【0043】
本発明との比較のために、上式(1)において導体温度Tを含む項を除き、出口部温度Tのみを説明変数とした比較例について、上記の実施例と同様に予測値と実測値との比較を行った。結果を図7(a),(b)にそれぞれ示す。図7(a),(b)に示すように、比較例では、引張強さTSを目的変数とした場合の予測値と実測値との相関係数Rが0.6893、引張伸びTEを目的変数とした場合の予測値と実測値との相関係数Rが0.8170となっており、実施例と比較して予測精度が低下していることが確認できた。すなわち、本発明の実施例のように、導体温度Tを説明変数に用いることで、被覆層11の物性の予測精度を向上させることが可能である。
【0044】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る被覆層11の物性予測方法では、少なくとも、被覆層11の製造条件と、被覆層11の物性との相関関係を機械学習して学習済モデル7を生成する学習済モデル生成工程(学習済モデル生成処理)と、学習済モデル7を用いて、被覆層11の物性を予測する物性予測工程(物性予測処理)と、を含み、機械学習に用いる被覆層11の製造条件は、押出機110に導入される導体10の温度である導体温度Tを含んでいる。
【0045】
特に押出成形により形成される電線12では、押出機110の出口部の温度である出口部温度Tだけでなく、押出機110に導入される導体10の温度である導体温度Tが被覆層11の物性に大きな影響を与える。よって、導体温度Tを考慮することで、高い精度で被覆層11の物性を予測することが可能になる。その結果、押出成形時の手戻り(押出成形のやり直し)の低減や、製造コストの削減が可能になる。
【0046】
(変形例)
上記実施の形態では、被覆層11がフッ素系樹脂からなる場合について説明したが、被覆層11の材質はこれに限定されず、本発明は様々な樹脂に適用可能である。また、上記実施の形態では、充実押出について説明したが、これに限らず、本発明はチューブ押出、挿入押出にも適用可能であり、ダイ形状も特に限定されない。
【0047】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0048】
[1]導体(10)の周囲に押出機(110)を用いて押出成形される被覆層(11)の物性を予測する方法であって、少なくとも、前記被覆層(11)の製造条件と、前記被覆層(11)の物性との相関関係を機械学習して学習済モデル(7)を生成する学習済モデル生成工程と、前記学習済モデル(7)を用いて、前記被覆層(11)の物性を予測する物性予測工程と、を含み、前記被覆層(11)の製造条件は、前記押出機(110)に導入される前記導体(10)の温度を含む、被覆層の物性予測方法。
【0049】
[2]前記導体(10)の温度は、前記押出機(110)に導入される前記導体(10)に接触して前記導体(10)の温度を測定する接触式の温度センサ(導体用温度センサ120)の測定値である、[1]に記載の被覆層の物性予測方法。
【0050】
[3]前記被覆層(11)の製造条件は、前記押出機(110)の出口部の温度をさらに含む、[1]に記載の被覆層の物性予測方法。
【0051】
[4]前記学習済モデル生成工程では、前記被覆層(11)の組成、前記被覆層(11)の製造条件、及び前記被覆層(11)の物性の相関関係を機械学習して前記学習済モデル(7)を生成する、[1]に記載の被覆層の物性予測方法。
【0052】
[5]導体(10)の周囲に押出機(110)を用いて押出成形される被覆層(11)の物性を予測する装置であって、少なくとも、前記被覆層(11)の製造条件と、前記被覆層(11)の物性との相関関係を機械学習して学習済モデル(7)を生成する学習済モデル生成処理部(23)と、前記学習済モデル(7)を用いて、前記被覆層(11)の物性を予測する物性予測処理部(24)と、を含み、前記被覆層(11)の製造条件は、前記押出機(110)に導入される前記導体(10)の温度を含む、被覆層の物性予測装置(1)。
【0053】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…被覆層の物性予測装置(物性予測装置)
2…制御部
21…設定処理部
22…データ取得処理部
23 処理部
23…学習済モデル生成処理部
24…物性予測処理部
25…予測物性提示処理部
3…記憶部
6…学習用データ
61…導体温度データ
62…押出機温度データ
63…物性データ
7…学習済モデル
8…予測元データ
9…予測データ
10…導体
11…被覆層
12…電線
110…押出機
120…導体用温度センサ
121…押出機用温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7