(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152345
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】熱界面構造及び該熱界面構造の形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20241018BHJP
B23K 3/06 20060101ALI20241018BHJP
C22C 1/08 20060101ALI20241018BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20241018BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01L23/36 D
B23K3/06 Z
C22C1/08 Z
B32B5/18
B32B15/01 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066481
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】516319500
【氏名又は名称】株式会社ロータス・サーマル・ソリューション
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井手 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】村上 政明
(72)【発明者】
【氏名】沼田 富行
(72)【発明者】
【氏名】巽 裕章
【テーマコード(参考)】
4F100
5F136
【Fターム(参考)】
4F100AB21A
4F100AB21B
4F100AB21C
4F100AB31A
4F100AB31B
4F100AB31C
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DC12A
4F100DJ00C
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4F100JA04A
4F100JA04B
4F100JJ01A
4F100YY00A
5F136BC02
5F136BC07
5F136EA13
5F136FA01
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA34
(57)【要約】
【課題】上記先行発明の効果をさらに安定的に発現させるべく、発熱/冷却部材(二部材)と多孔ベース板との間隙へのはんだの充填不良の発生を防止し、発熱部材あるいは冷却部材と多孔ベース板との間隙に、不足なくはんだを浸透させることができる熱界面構造を提供せんとする。
【解決手段】 二部材91、92の各々に対面する表裏の板面を有し、厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔111を有する良熱伝導性の多孔ベース板11と、多孔ベース板の貫通孔内に充填されるとともに表裏の板面と部材との間にも介在し、二部材の対向面に密接する低融点金属層12とを備え、多孔ベース板11の板面に、貫通孔よりも小さく微細な多数の孔からなる微細ポーラス皮膜112が形成され、低融点金属層12が微細ポーラス皮膜112の孔に進入した状態で密着する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二部材の間に設けられ、熱伝導を促進する熱界面構造であって、
前記二部材の各々に対面する表裏の板面を有し、厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔を有する良熱伝導性の多孔ベース板と、
前記多孔ベース板の前記貫通孔内に充填されるとともに、前記多孔ベース板の前記表裏の板面の少なくとも一方の板面と部材との間にも介在し、前記二部材の対向面に密接する低融点金属層とを備え、
前記多孔ベース板の前記少なくとも一方の板面に、前記貫通孔よりも小さく微細な多数の孔からなる微細ポーラス皮膜が形成されており、
該板面と部材との間の低融点金属層が、前記微細ポーラス皮膜の孔に進入した状態で密着していることを特徴とする熱界面構造。
【請求項2】
前記多孔ベース板の前記貫通孔による空隙率が、30~80vol%である、請求項1記載の熱界面構造。
【請求項3】
二部材の間に設けられ、熱伝導を促進する熱界面構造の形成方法であって、
厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔を有する良熱伝導性の多孔ベース板と、該多孔ベース板の前記表裏の板面の少なくとも一方の板面側に配置される低融点金属の板材とを、前記二部材の間に挟み込み、
前記多孔ベース板の前記少なくとも一方の板面には、前記貫通孔よりも小さく微細な多数の孔からなる微細ポーラス皮膜があらかじめ形成されており、
当該挟み込んだ状態で、前記低融点金属を融点以上に加熱して溶融させることにより、該低融点金属を前記多孔ベース板の前記貫通孔内に充填させるとともに、当該充填部に連続して前記表裏の板面上に広がり、前記微細ポーラス皮膜に進入した低融点金属の膜を形成し、
当該状態で、前記低融点金属を融点以下に冷却して固化させることにより、前記膜が前記二部材の対向面および前記多孔ベース板の表裏面に密着した低融点金属層を形成することを特徴とする熱界面構造の形成方法。
【請求項4】
前記多孔ベース板の前記表裏の板面の一方の板面側に前記低融点金属の板材を配置し、他方の板面に前記微細ポーラス皮膜があらかじめ形成され、
前記低融点金属を融点以上に加熱して、前記低融点金属を前記多孔ベース板の前記一方の板面側から前記貫通孔内に充填させ、当該充填部に連続して他方の板面上に広がり、当該他方の板面とこれに対向する部材との間に、前記微細ポーラス皮膜に進入した前記低融点金属の膜を形成する、請求項3記載の熱界面構造の形成方法。
【請求項5】
二部材の間に設けられ、熱伝導を促進する熱界面構造の形成方法であって、
厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔を有し、且つ表裏の板面の少なくとも一方の板面に前記貫通孔よりも小さく微細な多数の孔からなる微細ポーラス皮膜が形成されている良熱伝導性の多孔ベース板と、該多孔ベース板の前記一方又は他方の板面上に、少なくとも一部が前記貫通孔に進入した状態で密着した低融点金属の板材とを有する熱界面構造材を構成し、
該熱界面構造材を、前記二部材の間に挟み込み、
当該挟み込んだ状態で、前記低融点金属を融点以上に加熱して溶融させることにより、該低融点金属が前記表裏の板面上に広がり、前記微細ポーラス皮膜に進入した低融点金属の膜を形成し、
当該状態で、前記低融点金属を融点以下に冷却して固化させることにより、前記貫通孔に前記低融点金属が充填され、且つ前記膜が前記二部材の対向面および前記多孔ベース板の表裏面に密着した低融点金属層を形成することを特徴とする熱界面構造の形成方法。
【請求項6】
前記多孔ベース板の前記表裏の板面の一方の板面に前記微細ポーラス皮膜が形成され、且つ前記熱界面構造材の前記低融点金属の板材が、前記多孔ベース板の他方の板面上に、少なくとも一部が前記貫通孔に進入した状態で密着しており、
前記低融点金属を融点以上に加熱して溶融させることにより、該低融点金属が前記表裏の板面上に広がり、前記微細ポーラス皮膜に進入した低融点金属の膜を形成する、請求項5記載の熱界面構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二部材の間に設けられ、二部材間の熱伝導を促進する(熱抵抗を下げる)熱界面構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の熱界面構造としては、従来から、半導体チップ等の発熱体とその冷却器であるヒートシンクとの間に、熱伝導性シリコーンシートや熱伝導性テープ、熱伝導性ペーストなどの熱界面材料を設けることが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。はんだ、とりわけSn基はんだで冶金的に接合することは界面熱抵抗を下げる上で有効である。しかしながら、Sn基はんだの熱伝導率50W/m K程度が限界である。
【0003】
冶金的に接合する他の手段として、金属微粒子の焼結反応を活用した接合技術が挙げられる。特にAgやCuの微粒子を用いることによって、冶金的接合による界面熱抵抗の低減と、材質そのものの高熱伝導率(200W/m K以上)が期待できる。しかしながら、接合時に焼結反応を促進するため加熱だけでなく加圧が必要であり、接合工程が複雑になるという問題がある。
【0004】
これに対し、本発明者らは、すでに、発熱部材と冷却部材とを熱的かつ機械的に堅持するために用いられる熱界面構造であって、(1)一方向に貫通した気孔を有し、主要な伝熱パスを担う異方性Cuポーラス材料(多孔ベース板)と、(2)発熱&冷却部材との冶金的接合界面を形成し、かつ前記多孔ベース板の有する気孔を充填する充填材料(はんだ)、から構成される熱界面構造を提案している(特願2022-133874号、以下「先行発明」と称す。)。
【0005】
この熱界面構造は、発熱部材と冷却部材との間に挟み込んだあとに、はんだの融点以上に加熱する。これにより、はんだが多孔ベース板の気孔、および発熱&冷却部材と多孔ベース板との間隙に自発的に浸透する現象を活用する。本先行発明を用いることによって、主要な伝熱経路を担う多孔ベース板による高熱伝導化と、部材/多孔ベース板間へのはんだの浸透による界面熱抵抗の削減を、加熱工程のみの簡便な手法によって実現することができる。
【0006】
この先行発明は、発熱部材あるいは冷却部材と多孔ベース板との間隙に、不足なくはんだを浸透させることが重要である。しかしながら、実際のところ、前記間隙にはんだが十分充填されないことが起こり得る。具体的には、発熱・冷却部材、あるいは多孔ベース板の表裏面の表面粗さによって間隙の大きさがばらつき、はんだの浸透性が不安定となる。このため、間隙が大きい箇所でははんだが十分に浸透できないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、上記先行発明の効果をさらに安定的に発現させるべく、発熱/冷却部材(二部材)と多孔ベース板との間隙へのはんだの充填不良の発生を防止し、発熱部材あるいは冷却部材と多孔ベース板との間隙に、不足なくはんだを浸透させることができる熱界面構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 二部材の間に設けられ、熱伝導を促進する熱界面構造であって、前記二部材の各々に対面する表裏の板面を有し、厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔を有する良熱伝導性の多孔ベース板と、前記多孔ベース板の前記貫通孔内に充填されるとともに、前記多孔ベース板の前記表裏の板面の少なくとも一方の板面と部材との間にも介在し、前記二部材の対向面に密接する低融点金属層とを備え、前記多孔ベース板の前記少なくとも一方の板面に、前記貫通孔よりも小さく微細な多数の孔からなる微細ポーラス皮膜が形成されており、該板面と部材との間の低融点金属層が、前記微細ポーラス皮膜の孔に進入した状態で密着していることを特徴とする熱界面構造。
【0010】
(2) 前記多孔ベース板の前記貫通孔による空隙率が、30~80vol%である、(1)記載の熱界面構造。
【0011】
(3) 二部材の間に設けられ、熱伝導を促進する熱界面構造の形成方法であって、厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔を有する良熱伝導性の多孔ベース板と、該多孔ベース板の前記表裏の板面の少なくとも一方の板面側に配置される低融点金属の板材とを、前記二部材の間に挟み込み、前記多孔ベース板の前記少なくとも一方の板面には、前記貫通孔よりも小さく微細な多数の孔からなる微細ポーラス皮膜があらかじめ形成されており、当該挟み込んだ状態で、前記低融点金属を融点以上に加熱して溶融させることにより、該低融点金属を前記多孔ベース板の前記貫通孔内に充填させるとともに、当該充填部に連続して前記表裏の板面上に広がり、前記微細ポーラス皮膜に進入した低融点金属の膜を形成し、当該状態で、前記低融点金属を融点以下に冷却して固化させることにより、前記膜が前記二部材の対向面および前記多孔ベース板の表裏面に密着した低融点金属層を形成することを特徴とする熱界面構造の形成方法。
【0012】
(4) 前記多孔ベース板の前記表裏の板面の一方の板面側に前記低融点金属の板材を配置し、他方の板面に前記微細ポーラス皮膜があらかじめ形成され、前記低融点金属を融点以上に加熱して、前記低融点金属を前記多孔ベース板の前記一方の板面側から前記貫通孔内に充填させ、当該充填部に連続して他方の板面上に広がり、当該他方の板面とこれに対向する部材との間に、前記微細ポーラス皮膜に進入した前記低融点金属の膜を形成する、(3)記載の熱界面構造の形成方法。
【0013】
(5) 二部材の間に設けられ、熱伝導を促進する熱界面構造の形成方法であって、厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔を有し、且つ表裏の板面の少なくとも一方の板面に前記貫通孔よりも小さく微細な多数の孔からなる微細ポーラス皮膜が形成されている良熱伝導性の多孔ベース板と、該多孔ベース板の前記一方又は他方の板面上に、少なくとも一部が前記貫通孔に進入した状態で密着した低融点金属の板材とを有する熱界面構造材を構成し、該熱界面構造材を、前記二部材の間に挟み込み、当該挟み込んだ状態で、前記低融点金属を融点以上に加熱して溶融させることにより、該低融点金属が前記表裏の板面上に広がり、前記微細ポーラス皮膜に進入した低融点金属の膜を形成し、当該状態で、前記低融点金属を融点以下に冷却して固化させることにより、前記貫通孔に前記低融点金属が充填され、且つ前記膜が前記二部材の対向面および前記多孔ベース板の表裏面に密着した低融点金属層を形成することを特徴とする熱界面構造の形成方法。
【0014】
(6) 前記多孔ベース板の前記表裏の板面の一方の板面に前記微細ポーラス皮膜が形成され、且つ前記熱界面構造材の前記低融点金属の板材が、前記多孔ベース板の他方の板面上に、少なくとも一部が前記貫通孔に進入した状態で密着しており、前記低融点金属を融点以上に加熱して溶融させることにより、該低融点金属が前記表裏の板面上に広がり、前記微細ポーラス皮膜に進入した低融点金属の膜を形成する、(5)記載の熱界面構造の形成方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、たとえば発熱部材と冷却部材などの二部材と多孔ベース板との間隙への低融点金属の充填不良の発生を防止し、発熱部材あるいは冷却部材と多孔ベース板との間隙に、不足なくはんだ等の低融点金属を浸透させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は本発明の熱界面構造を示す斜視図、(b)は断面図。
【
図2】本発明の熱界面構造の形成方法を示す説明図。
【
図4】本発明の熱界面構造の他の形成方法を示す説明図。
【
図5】本発明の熱界面構造の更に他の形成方法を示す説明図。
【
図6】同じく他の形成方法に用いる構造体を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
本発明に係る熱界面構造Sは、
図1に示すように、二部材91、92(たとえば発熱部材と冷却部材)の間に設けられ、熱伝導を促進する構造であり、二部材91、92の各々に対面する表裏の板面11a、11bを有し、厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔111を有する良熱伝導性の多孔ベース板11と、多孔ベース板11の貫通孔111内に充填されるとともに、多孔ベース板11の前記表裏の板面の少なくとも一方の板面と部材との間にも介在し、前記二部材の対向面に密接する低融点金属層12とを備えている。
【0019】
そして、特に、多孔ベース板11の前記少なくとも一方の板面に、貫通孔111よりも小さく微細な多数の孔からなる微細ポーラス皮膜112が形成されており、該板面と部材との間の低融点金属層12が、微細ポーラス皮膜112の孔112aに進入した状態で密着していることを特徴としている。このような熱界面構造Sによれば、多孔ベース板11に設けた微細ポーラス皮膜112において発現する、顕著な毛細管力(特異拡張濡れ)を駆動力とした浸透により、部材91、92との間の間隙への低融点金属の安定的な充填が可能となる。
【0020】
これにより、発熱部材/冷却部材(二部材)と多孔ベース板との間隙へのはんだの充填不良の発生を防止し、発熱部材あるいは冷却部材と多孔ベース板との間隙に、不足なくはんだを浸透させることが可能となり、したがって、工業的に歩留まりの高い熱界面構造、その形成プロセスを提供することができるものである。また、多孔ベース板11は厚み方向に延びる貫通孔111を有する板材であるため、水平方向に変形容易で、応力を緩和することができる。特に2部材の熱収縮の違い等により応力が生じてもこれを吸収し、破壊や破損を未然に防止できる。
【0021】
低融点金属層12と多孔ベース板11との間は、上記した微細ポーラス皮膜112の孔112aに進入することに加え、貫通孔111に充填された充填部121がアンカーとなり強固な一体性、密着性を維持する。また、設計通りの厚み、平行度等の精度で、低い熱抵抗、優れた熱伝導性の界面構造が実現できる。
また、部材に密着する低融点金属膜122を備えるが、貫通孔111の周囲は良熱伝導性の板材であるため、板厚方向に沿った熱抵抗は小さく、部材に対する優れた密着性及び熱伝導性を有する。
【0022】
低融点金属層12と多孔ベース板11との間も、貫通孔111に充填された充填部121を通じて、広い接触面積を有し、低融点金属膜122が受けた熱を多孔ベース板11に効率よく伝熱することができる。また、貫通孔111は厚み方向に延びているので、多孔ベース板11は厚み方向に優れた剛性を保つ。したがって、組み付けの際の精度も容易に得られる。すなわち、設計通りの厚み、平行度等の精度で、低い熱抵抗、優れた熱伝導性の界面構造が実現できるのである。
【0023】
多孔ベース板11は、アルミニウムや鉄、銅など、熱伝導性に優れた金属材料やその合金を広く用いることができる。銅などの場合は、好ましくは、金属凝固法で成形された一方向に伸びた複数の気孔を有するロータス型ポーラス金属成形体を、気孔の伸びる方向に直交する方向に切断加工した多孔板が用いられる。ただし、本発明の多孔ベース板には、ドリルやレーザ等で貫通孔を設けたものも勿論含む。ロータス型ポーラス金属成形体は、高圧ガス法(Pressurized Gas Method)(例えば特許第4235813号公報開示の方法)や、熱分解法(Thermal Decomposition Method)など、公知の方法で成形することができる。このようにロータス型ポーラス金属成形体から切り出した多孔板の貫通孔は、前記切断加工により分断された前記気孔である。
【0024】
貫通孔以外に貫通していない有底の孔も存在するが(気孔の途切れた位置で切断された場合の当該孔)、このような有底の孔も低融点金属層12との接触面積を増大させる効果がある。このように、ロータス型ポーラス金属成形体から切り出した多孔板を用いることで、多孔ベース板11を低コスト且つ容易に得ることができる。多孔ベース板11の貫通孔111による気孔率、すなわち多孔ベース板11に孔が存在しないと仮定した体積に対する、貫通孔111内部の合計体積の割合は、30~80体積%であることが好ましい。また、貫通孔111の開口径(直径)は、0.01~1.00mmであることが好ましい。
【0025】
多孔ベース板11の前記板面に形成される微細ポーラス皮膜112は、レーザ照射に伴う酸化還元による方法や、めっきを用いる方法が採用できる。レーザ照射による酸化還元方法は、たとえば次の(1)、(2)に記載の技術を用いることができ、めっきによる方法としては、次の(3)、(4)に記載の技術を用いることができる。
【0026】
(1) Atsushi Fukuda, et al., ”Metal-Metal Joining by Unusual Wetting on Surface Fine Crevice Structure Formed by Laser Treatment”, 56, 2015, 1852(https://doi.org/10.2320/matertrans.M2015301)
(2) Daxiang Deng, et al., ”Fabrication of porous copper surfaces by laser micromilling and their wetting properties”, 49, 2017, 428(https://doi.org/10.1016/j.precisioneng.2017.04.005)
(3) Farough Roustaie, et al., ”In situ synthesis of metallic nanowire arrays for ionization gauge electron sources”, Journal of Vacuum Science & echnology B, 34, 2016, 02G103(https://doi.org/10.1116/1.4939756)
(4) Y. Konishi, et al., ”Electrodeposition of Cu nanowire arrays with a template”,Journal of Electroanalytical Chemistry, 559, 2003, 149(https://doi.org/10.1016/S0022-0728(03)00157-8)
【0027】
低融点金属層12の低融点金属は、はんだ(はんだ合金)が好ましい。使用環境、たとえば接合対象の部材と授受する熱の温度や想定される応力等や、多孔ベース板11の素材、貫通孔の大きさ、板厚等により求められる濡れ性等の特性などに応じて、公知のものから適宜選択すればよい。たとえば、Sn、In、Bi、Gaなどのはんだ、あるいはこれらを含む合金が好ましく、特に、Sn-Ag系,Sn-Cu系,Sn-Bi系,Sn-In系,あるいはそれらを基に第3元素を含んだはんだ合金が好ましい。
【0028】
次に、
図2に基づき、本例の熱界面構造Sを形成する手順を説明する。まず、部材91のうえに、低融点金属の板材120と多孔ベース板11を重ねておく(図中(a)~(b))。そして、加熱炉などで、低融点金属の融点以上に加熱することで、板材120を溶融する(図中(c))。これにより、板材120の低融点金属は、
図3(a)~(b)に示すように、多孔ベース板11の貫通孔111を通じて下降し、
図3(c)に示すように多孔ベース板11の下面(11a)側に染み出る。
【0029】
染み出た低融点金属は、当該下面にあらかじめ形成されている微細ポーラス皮膜112により発現される毛細管力(特異拡張濡れ)を駆動力とした浸透により、
図3(d)に示すように部材91との間の間隙への低融点金属が充填され、微細ポーラス皮膜112内に一部が進入して密着する低融点金属膜122が形成される。そして冷却固化することで、
図2(d)に示すように、多孔ベース板11の上下の板面上に、部材91、92の対向面に密着し、且つ当該多孔ベース板11の板面上にも密着した低融点金属層12を有する熱界面構造Sが形成される。
【0030】
本手順においては、微細ポーラス皮膜112が多孔ベース板11の下面側に形成されていることが、下面側に低融点金属が充填される点で重要であるが、上面にも形成されることで、上面側の低融点金属膜122の密着性が向上する。また、本手順では、低融点金属の板材120を多孔ベース板11の上面側にのみ配置して形成したが、
図4に示すように、下面側にも配置して溶融させることも好ましい実施形態である。
【0031】
具体的には、まず、一方の部材91のうえに、はんだ板120、多孔ベース板11及びはんだ板120を順に重ね、さらにそのうえに他方の部材92を重ねておく。そして、ヒータ4や加熱炉に入れる等して加熱することにより、双方のはんだ板120を溶融する。これにより、はんだ板120のはんだは、上下からそれぞれ多孔ベース板11の貫通孔111に充填され、且つ両板面上に広がる低融点金属膜122、122が形成される。このような方法によれば、下面側の低融点金属膜122をより確実に形成することができる。
【0032】
その他、低融点金属の板材120を多孔ベース板11の下面側にのみ配置して、
図3と同様に加熱冷却して形成することもできる。この場合、低融点金属は上面側の部材92との間に充填されるため、多孔ベース板11の上面側に上記微細ポーラス皮膜112が形成されていることが重要になる。また、低融点金属の板材120に加えて貫通孔111内に低融点金属の粉末を充填しておくことも好ましい。
【0033】
さらに他の方法としては、
図5(a),
図6に示すように、多孔ベース板11の板面(本例では上面)上に、少なくとも一部が貫通孔111に進入した状態で密着した低融点金属の板材120Aとを有する熱界面構造材3をあらかじめ形成しておき、該熱界面構造材3を、二部材91、92の間に挟み込み、
図5(b)~(c)に示すように当該挟み込んだ状態で低融点金属を融点以上に加熱して溶融させることにより、
図5(d)に示すように、該低融点金属が表裏の板面上に広がり、微細ポーラス皮膜に進入した低融点金属膜122を形成して冷却固化させる方法も好ましい。
【0034】
これにより多孔ベース板11の上下の板面上に、部材91、92の対向面に密着し、且つ当該多孔ベース板11の板面上にも密着した低融点金属層12を有する熱界面構造Sが同じく形成される。この場合、微細ポーラス皮膜112は多孔ベース板11の下面側に形成されることが重要であるが、あらかじめ形成される熱界面構造材3の板材120Aとの密着性の為には上面側にも形成されていることが好ましい。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
S 熱界面構造
3 熱界面構造材
4 ヒータ
11 多孔ベース板
11a、11b 板面
12 低融点金属層
91、92 部材
111 貫通孔
112 微細ポーラス皮膜
112a 孔
120、120A 板材
121 充填部
122 低融点金属膜