(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152357
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】成形装置および該成形装置を用いた成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 49/64 20060101AFI20241018BHJP
B29C 51/44 20060101ALI20241018BHJP
B29C 49/06 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B29C49/64
B29C51/44
B29C49/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066504
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599154652
【氏名又は名称】龍江精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】桑垣 傳美
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 学
【テーマコード(参考)】
4F202
4F208
【Fターム(参考)】
4F202AA01
4F202AG07
4F202AH55
4F202AR06
4F202AR20
4F202CA15
4F202CB01
4F202CM13
4F202CN05
4F202CN12
4F208AA01
4F208AG07
4F208AH55
4F208AJ08
4F208AK02
4F208AR06
4F208LA07
4F208LA09
4F208LB01
4F208LD16
4F208LG03
4F208LG28
4F208LH01
4F208LH06
4F208LH09
4F208LJ14
4F208LJ22
(57)【要約】
【課題】再生可能な天然資源に由来する樹脂を使用しながら、PET樹脂を成形する際と同様の手法で容器を成形することを可能とする成形装置を提供する。
【解決手段】インジェクションブロー成形用の成形装置であって、成形対象物の一部である被保持部を保持部12に係止させて保持する金属製の保持部材10と、成形対象物の被保持部を通じて成形用の空気を送り込むブロー装置と、成形対象物を、当該成形対象物の状態を示す熱に関するパラメータが少なくとも所定値を超える程度にまで加熱する加熱装置と、加熱装置が生じさせる熱の影響によって成形対象物の一部が変形するのを抑制する冷却装置40,50と、を含む、成形装置である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジェクションブロー成形用の成形装置であって、
成形対象物の一部である被保持部を保持部に係止させて保持する金属製の保持部材と、
前記成形対象物の前記被保持部を通じて成形用の空気を送り込むブロー装置と、
前記成形対象物を、当該成形対象物の状態を示す熱に関するパラメータが少なくとも所定値を超える程度にまで加熱する加熱装置と、
前記加熱装置が生じさせる熱の影響によって前記成形対象物の一部が変形するのを抑制する冷却装置と、
を含む、成形装置。
【請求項2】
前記冷却装置は、前記保持部材に冷却水を流通させて冷却する水冷装置を含む、請求項1に記載の成形装置。
【請求項3】
前記冷却装置は、前記成形対象物の周囲に空気を流通させて冷却する空冷装置を含む、請求項1に記載の成形装置。
【請求項4】
前記空冷装置は、前記成形対象物の前記被保持部に向けて空気を排気する空気流路を含む、請求項3に記載の成形装置。
【請求項5】
前記冷却装置は、前記成形対象物の前記被保持部に向けて空気を排気する排気口を含む、請求項4に記載の成形装置。
【請求項6】
前記排気口が前記保持部に設けられている、請求項5に記載の成形装置。
【請求項7】
前記排気口が複数設けられている、請求項6に記載の成形装置。
【請求項8】
3つ以上の前記排気口が等間隔に配置されている、請求項7に記載の成形装置。
【請求項9】
前記空気流路が途中で分岐し、複数の前記排気口のそれぞれに連通している、請求項7に記載の成形装置。
【請求項10】
前記水冷装置は、前記保持部材に冷却水を流通させる流水路を含む、請求項2に記載の成形装置。
【請求項11】
前記流水路に、前記冷却水の給水口と排水口とが設けられている、請求項10に記載の成形装置。
【請求項12】
前記流水路は、前記給水口から前記保持部に向け前記冷却水を流通させる給水部と、前記保持部の近傍を流通した後の前記冷却水を前記排水口に向け流通させる排水部とを含む、請求項11に記載の成形装置。
【請求項13】
前記成形対象物をインジェクションブロー成形し、液状食品用の容器とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の成形装置。
【請求項14】
前記液状食品はしょうゆ含有調味料である、請求項13に記載の成形装置。
【請求項15】
前記成形対象物として、その原材料がセルロース樹脂であるものを成形の対象とする、請求項14に記載の成形装置。
【請求項16】
前記成形対象物として、その原材料が酢酸セルロースまたは硝酸セルロースであるものを成形の対象とする、請求項15に記載の成形装置。
【請求項17】
前記成形対象物の動的粘弾性率を前記パラメータとする、請求項16に記載の成形装置。
【請求項18】
前記成形対象物のガラス転移点Tgを前記パラメータとする、請求項16に記載の成形装置。
【請求項19】
前記成形対象物のガラス転移点Tgが110~135℃の範囲であり、かつ、前記成形対象物が180℃以上である場合における当該成形対象物の動的粘弾性率に対する、50℃以下である場合における当該成形対象物の動的粘弾性率の比が10e2以上である原材料を成形の対象とする、請求項16に記載の成形装置。
【請求項20】
請求項1から12のいずれか一項に記載の成形装置を用いた成形方法であって、
成形対象物の一部である被保持部を保持部に係止させて保持する工程と、
前記成形対象物の前記被保持部を通じて成形用の空気を送り込む工程と、
前記成形対象物を、当該成形対象物の状態を示す熱に関するパラメータが少なくとも所定値を超える程度にまで加熱する工程と、
前記加熱装置が生じさせる熱の影響によって前記成形対象物の一部が変形するのを抑制する工程と、
を含む、成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジェクションブロー成形用の成形装置および該成形装置を用いた成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋汚染や地球温暖化の影響がますます深刻化する状況下、持続可能な社会を実現するべくプラスチックを削減するための動きが活発化している。そういった動きのひとつに、石油資源等に由来する再生不可能な樹脂から、植物などの天然資源に由来する再生可能な樹脂へ置き換えようというものがある。
【0003】
石油資源等に由来する樹脂の代表的なものとしては、液体充填容器などに利用されるPET樹脂が挙げられる。PET樹脂は全世界で2000万t以上も生産されており、これを天然資源に由来する再生可能な樹脂へ置き換えることができれば持続可能な社会の実現に資することができることは明らかである。こういった状況下、着目される再生可能な樹脂のひとつに、非可食な植物を原料とするセルロース誘導体が用いられたセルロース樹脂がある。セルロース樹脂は、偏光板、光学フィルムをはじめ、フィルターなどに利用されており(例えば、特許文献1参照)、これを液体充填容器にも利用することができればPET樹脂の生産量をさらに削減することができるようになると期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、セルロース樹脂には特有の性質があることから、PET樹脂と同様の手法で液体充填容器を成形することが難しいというのが現状である。すなわち、PET樹脂はそのガラス転移点が70℃程度、ブロー温度が100℃前後であるのに対し、セルロース樹脂はガラス転移点が115~135℃、ブロー温度が180~200℃といったようにPET樹脂と比較してきわめて高く、伸びにくく成形しづらいという性質がある。現状、PET樹脂製の液体充填容器はプリフォームの口部をネックホルダーで保持した状態でインジェクションブロー成形されることが通常であるが、同様の手法でセルロース樹脂を成形しようとすればPET樹脂の場合(70℃程度)よりもきわめて高い200℃程度の高温で加熱しなければならず、ネックホルダー周辺の口部が高熱でただれて溶けてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、再生可能な天然資源に由来する樹脂を使用しながら、PET樹脂を成形する際と同様の手法で容器を成形することを可能とする成形装置および該成形装置を用いた成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、インジェクションブロー成形用の成形装置であって、
成形対象物の一部である被保持部を保持部に係止させて保持する金属製の保持部材と、
成形対象物の被保持部を通じて成形用の空気を送り込むブロー装置と、
成形対象物を、当該成形対象物の状態を示す熱に関するパラメータが少なくとも所定値を超える程度にまで加熱する加熱装置と、
加熱装置が生じさせる熱の影響によって成形対象物の一部が変形するのを抑制する冷却装置と、
を含む、成形装置である。
【0008】
上記のごとき成形装置は、セルロース樹脂のごとき再生可能な天然資源に由来する樹脂を成形対象物とした場合に、当該成形対象物を成形可能となる融点付近にまで加熱しつつ、熱の影響でその一部変形してしまうのを冷却装置によって抑制する。これによれば、例えばセルロース樹脂をインジェクションブロー成形する際、ネックホルダー周辺の口部が高熱でただれて溶けてしまうのを防ぐことができるようになるため、PET樹脂を成形する際と同様の手法で液体充填用等の容器を成形することが可能となる。
【0009】
上記のごとき成形装置において、冷却装置は、保持部材に冷却水を流通させて冷却する水冷装置を含むものであってもよい。
【0010】
上記のごとき成形装置において、冷却装置は、成形対象物の周囲に空気を流通させて冷却する空冷装置を含むものであってもよい。
【0011】
上記のごとき成形装置において、空冷装置は、成形対象物の被保持部に向けて空気を排気する空気流路を含むものであってもよい。
【0012】
上記のごとき成形装置において、冷却装置は、成形対象物の被保持部に向けて空気を排気する排気口を含むものであってもよい。
【0013】
上記のごとき成形装置において、排気口が保持部に設けられていてもよい。
【0014】
上記のごとき成形装置において、排気口が複数設けられていてもよい。
【0015】
上記のごとき成形装置において、3つ以上の排気口が等間隔に配置されていてもよい。
【0016】
上記のごとき成形装置において、空気流路が途中で分岐し、複数の排気口のそれぞれに連通していてもよい。
【0017】
上記のごとき成形装置において、水冷装置は、保持部材に冷却水を流通させる流水路を含んでいてもよい。
【0018】
上記のごとき成形装置において、流水路に、冷却水の給水口と排水口とが設けられていてもよい。
【0019】
上記のごとき成形装置において、流水路は、給水口から保持部に向け冷却水を流通させる給水部と、保持部の近傍を流通した後の冷却水を排水口に向け流通させる排水部とを含むものであってもよい。
【0020】
上記のごとき成形装置は、成形対象物をインジェクションブロー成形し、液状食品用の容器とするものであってもよい。
【0021】
上記のごとき成形装置において、液状食品はしょうゆ含有調味料であってもよい。
【0022】
上記のごとき成形装置における成形対象物として、その原材料がセルロース樹脂であるものを成形の対象としてもよい。
【0023】
上記のごとき成形装置における成形対象物として、その原材料が酢酸セルロースまたは硝酸セルロースであるものを成形の対象としてもよい。
【0024】
上記のごとき成形装置において、成形対象物の動的粘弾性率をパラメータとしてもよい。
【0025】
上記のごとき成形装置において、成形対象物のプリフォームを加熱する段階における成形対象物の動的粘弾性率が10e7Pa以下である原材料を成形の対象としてもよい。
【0026】
上記のごとき成形装置において、成形対象物の弾性成分を表す貯蔵弾性率E’と粘性成分を表す損失弾性率E”との比である損失正接tanδをパラメータとしてもよい。
【0027】
上記のごとき成形装置において、成形対象物のプリフォームを加熱する段階における当該成形対象物の損失正接tanδが0.1以上であり、昇温とともに損失正接tanδが0.1以上であって上昇を続ける原材料を成形の対象としてもよい。
【0028】
上記のごとき成形装置において、成形対象物のガラス転移点Tgをパラメータとしてもよい。
【0029】
上記のごとき成形装置において、成形対象物のガラス転移点Tgが110~135℃の範囲であり、かつ、成形対象物が180℃以上である場合における当該成形対象物の動的粘弾性率に対する、50℃以下である場合における当該成形対象物の動的粘弾性率の比が10e2以上である原材料を成形の対象としてもよい。
【0030】
本発明の別の態様は、上記のごとき成形装置を用いた成形方法であって、
成形対象物の一部である被保持部を保持部に係止させて保持する工程と、
成形対象物の被保持部を通じて成形用の空気を送り込む工程と、
成形対象物を、当該成形対象物の状態を示す熱に関するパラメータが少なくとも所定値を超える程度にまで加熱する工程と、
加熱装置が生じさせる熱の影響によって成形対象物の一部が変形するのを抑制する工程と、
を含む、成形方法である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、再生可能な天然資源に由来する樹脂を使用しながら、PET樹脂を成形する際と同様の手法で容器を成形することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施形態における成形装置の概略を示す図である。
【
図2】成形装置のアングル部材(保持部材)の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る成形装置について説明する。
【0034】
本実施形態に係る成形装置1はインジェクションブロー成形用の装置であり、アングル部材(保持部材)10、ブロー装置(図示省略)、加熱装置30、水冷装置(冷却装置)40、空冷装置(冷却装置)50などで構成されている(
図1~
図4参照)。以下では、セルロース誘導体100をインジェクションブロー成形してたとえばしょうゆ含有調味料や生しょうゆといった各種液状食品用の容器とするのに適した態様を例示しつつ説明する。なお、以下では、従来の成形装置と異なる特有の構成部分を中心に説明することし、従来同様の構成、たとえばインジェクション成形に係る射出用の金型やブロー成形に係る送気用の装置、成形装置1を制御するための制御装置などについての詳細な説明は省略する。
【0035】
<セルロース誘導体>
まず、セルロース誘導体100について説明しておく。本実施形態の成形装置1により成形される容器は、水酸基の一部又は全部が置換されたセルロース誘導体100を含む材料により構成される。「セルロース誘導体」とは、セルロースの水酸基の一部又は全部が置換された高分子を意味する。 セルロース誘導体としては、例えば、セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類などが挙げられる。これらのセルロース誘導体は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。セルロース誘導体のうち、通常、セルロースエステル類である場合が多い。セルロースエステル類には、セルロース有機酸エステル、セルロース有機酸エステル・エーテル、セルロース無機酸エステル、セルロース有機酸・無機酸混合エステルなどが含まれる。
【0036】
<成形装置>
アングル部材10は、セルロース誘導体100のプリフォーム(有底パリソン)102の一部である被保持部(例えば口部106の近傍の部分)104を係止させて保持するように形成された金属製の部材である。本実施形態のアングル部材10はステンレス製のアングルからなり、
図3に示す平面視、
図4に示す正面視において横方向に長い、側面視L字形の形状に形成されている。アングル部材10には、プリフォーム102の被保持部104を係止させて保持するための例えばU字形状のネックホルダー12が形成されている(
図3参照)。
【0037】
ブロー装置は、加熱したプリフォーム102の被保持部104を通じて成形用の空気を送り込みブロー成形するための装置である。ブロー装置から供給されたブロー成形用の空気は、プリフォーム102の口部106に装着された給気ヘッド(図示省略)からプリフォーム102内に供給される(
図4参照)。
【0038】
加熱装置30は、セルロース誘導体100を所定温度にまで加熱する装置である(
図1参照)。図では、プリフォーム102の片側の均等的に配置された複数のヒーター32で構成される加熱装置30を例示しているがこれは装置の構成の一例を概略的に示しているにすぎない。プリフォーム102の外側を全面的に覆うように複数のヒーター32を立体的に配置してもよいし、熱風を循環させる装置を併用した構成としてもよい。
【0039】
加熱装置30によりセルロース誘導体100を加熱するにあたり、成形装置1において、セルロース誘導体100の状態を示す熱に関するパラメータを用い、このパラメータが少なくとも所定値Tを超える程度にまで加熱し、あるいは成形加熱の対象を選択することとしてもよい。この場合のパラメータとしては後述するように種々のものを設定することができる。
【0040】
冷却装置は、加熱装置30が生じさせる熱の影響によってプリフォーム102の一部、とくに口部106の周辺が変形するのを抑制するように所定の部位を冷却してプリフォーム102の一部に達する熱を遮る装置である。本実施形態の成形装置1には、水冷装置40と空冷装置50とを含む冷却装置が設けられている(
図2等参照)。
【0041】
水冷装置40は、アングル部材10に冷却水(チラー水)を流通させて所定の部位を冷却する装置である。本実施形態の水冷装置40は、流水路41、給水口42、排水口43、給水装置44などで構成されている(
図3、
図4参照)。
【0042】
流水路41は、アングル部材10の内部に冷却水を流通させるように設けられている。流水路41の形状、大きさ、配置などは、プリフォーム102の一部が変形するのを抑制しうるように構成されている限り特に限定されることはない。一例として、本実施形態の流水路41は、アングル部材10の側部に設けられた給水口42からネックホルダー12に向かって延び、ネックホルダー12の近傍で正面側(
図3中における下側)に向かって折れ曲がり、ネックホルダー12に沿うように延びた後でさらに折れ曲がり、アングル部材10の側部に設けられた排水口43に向けて延びる、平面視においてコ字形状(チャネル形状)に形成されている(
図3参照)。かかる流水路41のうち、給水口42からネックホルダー12に向け冷却水を流通させる部分は給水部41iとして機能し、ネックホルダー12の近傍を流通した後の冷却水を排水口43に向け流通させる部分は排水部41oとして機能する(
図3参照)。
【0043】
空冷装置50は、成形対象物たるセルロース誘導体100の周囲に空気(エアー)を流通させて冷却する装置である。本実施形態の空冷装置50は、空気流路51と、該空気流路51の給気口52および排気口53と、給気装置54とで構成されている(
図3等参照)。
【0044】
空気流路51は、セルロース誘導体100のプリフォーム102の被保持部104に向けて(あるいは被保持部104の近傍に向けて)空気を流すようにアングル部材10に設けられている(
図3等参照)。本実施形態の空気流路51には給気口52と排気口53とが設けられており、給気装置54によって給気口52から給気された冷却用の空気は排気口53から排気される(
図2参照)。空気流路51は途中で分岐するように構成されていてもよい。本実施形態の成形装置1における空気流路51は途中2か所で分岐し、3つの排気口53のそれぞれに連通するように形成されている(
図3等参照)。
【0045】
排気口53は、ネックホルダー12に保持された状態のプリフォーム102の被保持部104に向けて排気して冷却することができるようにアングル部材10に形成されている(
図2等参照)。排気口53の数や配置は特に限定されるものではない。一例として、本実施形態では、3つの排気口53を、U字形状のネックホルダー12の内周面に沿って、
図3において9時、12時、3時の位置にそれぞれが周方向に沿って等間隔に位置するようにこれらを配置している(
図3参照)。
【0046】
上記のごとき成形装置1においては、セルロース誘導体100の一部である被保持部104をネックホルダー12に係止させて保持し、被保持部104を通じて成形用の空気をプリフォーム102内に送り込み、加熱装置1が生じさせる熱の影響によってセルロース誘導体100の一部が変形するのを抑制しつつ、セルロース誘導体100の状態を示す熱に関するパラメータが少なくとも所定値を超える程度にまで加熱するといった各種工程を経て、液体充填用等の容器が成形される。
【0047】
上記のごとき成形装置1によれば、セルロース誘導体100のごとき再生可能な天然資源に由来する樹脂を成形対象物とした場合に、加熱装置30によって当該セルロース誘導体100を成形可能となる温度付近にまで加熱しつつ、熱の影響でその一部、特に容器の口部106となる部分が熱でただれて変形してしまうのを冷却装置(水冷装置40、空冷装置50)によって冷却、遮熱することによって抑制することができる。しかも、本実施形態の成形装置1は、加熱装置30や冷却装置(水冷装置40、空冷装置50)を除けば、PET樹脂をインジェクションブロー成形する際に用いられてきた従来の成形装置と同様の構成の装置を適用することが可能なものである。したがって、新規に装置を導入するばかりでなく、従来の成形装置を利用して本実施形態のごとき成形装置1を構築し、PET樹脂を成形する際と同様の手法で液体充填用等の容器を成形するといった形で従来の装置の多くを活用することも可能である。
【0048】
なお、本発明の技術的範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態では液状食品用の容器をセルロース誘導体100でインジェクションブロー成形するに適した成形装置1について説明したがこれは用途の好適な一例にすぎない。上記のごとき成形装置1で成形された容器は、液状食品以外の液体を充填するための液体充填容器としても利用することができることはいうまでもない。
【0049】
また、本実施形態では、成形対象物がセルロース誘導体100である場合について説明したが、本明細書でいうセルロース誘導体100は、セルロースの水酸基の一部あるいはすべてを他に置換した物質のことであり、セルロース樹脂といった表現をされる場合もある。セルロース誘導体100の具体例としては酢酸セルロース、硝酸セルロース、などを挙げることができる。一般に、セルロース誘導体100はガラス転移点が高い。
【0050】
また、本実施形態では、冷却装置が水冷装置40と空冷装置50とで構成されている成形装置1を説明したがこれも好適な一例にすぎない。要は、加熱装置30が生じさせる熱の影響によってプリフォーム102の一部が変形してしまうのを抑制することが可能であれば冷却装置は水冷であっても空冷であってもよいし、それらの一方の装置のみで構成されるものであってもよい。
【0051】
本実施形態の成形装置1においては、加熱装置30によりセルロース誘導体100を加熱するにあたり、セルロース誘導体100の状態を示す熱に関するパラメータを用い、このパラメータの変化等に基づいて加熱成形を行うか、所定の挙動を示す原材料を加熱成形の対象とすることとしている。以下、パラメータの具体例を示しつつ具体例を説明する。
【0052】
[パラメータの例(その1)]
セルロース誘導体100の動的粘弾性率をパラメータとして加熱成形等をすることができる。この場合、セルロース誘導体100のプリフォーム102を加熱する段階における当該セルロース誘導体100の動的粘弾性率が10e7Pa以下であるような原材料を成形の対象とすることが好適である。プリフォーム102を所定の温度(例えば、180℃以上200℃以下)で加熱する際、セルロース誘導体100の弾性成分(力を加えると変形し、力を取り除くと元に戻る性質)を表す貯蔵弾性率E’と、粘性成分(流れに対する抵抗、ないしは流れを妨げようとする性質)を表す損失弾性率E”とがともに低下する。このときに、セルロース誘導体100(の原材料)の動的粘弾性率が急激に低下してしまうと、プリフォーム102の一部である被保持部(例えば口部106の近傍の部分)104が変形してしまう場合がある。この点、動的粘弾性率が10e7Pa以下であるような原材料を成形の対象とすることで、このような変形を抑えることが可能となる。
【0053】
[パラメータの例(その2)]
損失正接tanδをパラメータとして加熱成形等をすることができる。損失正接tanδとは、セルロース誘導体100の弾性成分を表す貯蔵弾性率E’と、粘性成分を表す損失弾性率E”との比である。セルロース誘導体100のプリフォーム102を所定の温度以上(例えば、180℃以上)に加熱すると、貯蔵弾性率E’と損失弾性率E”はともに低下する一方で、損失正接tanδは0.1以上で上昇を続ける。これは、成型温度以上でセルロース誘導体100の粘弾性が大きく低下することを示す。こういった点を考慮し、損失正接tanδをパラメータとしたうえで、加熱する段階における当該セルロース誘導体100の損失正接tanδが0.1以上であり、昇温とともに損失正接tanδが0.1以上であって上昇を続ける原材料を成形の対象としてもよい。
【0054】
[パラメータの例(その3)]
セルロース誘導体100のガラス転移点Tgをパラメータとして加熱成形等をすることができる。加熱する過程においてセルロース誘導体100の温度がガラス転移点Tg以上になると、貯蔵弾性率E’と損失弾性率E”が急激に低下する。これを抑えるには、セルロース誘導体100の温度が所定値以上(例えば180℃以上)である場合における動的粘弾性率に対して、温度がガラス転移点Tgに達する前の時点(例えば、50℃以下)における動的粘弾性率における動的粘弾性率の比が所定値以上であるとよい。本実施形態では、ガラス転移点Tgが110~135℃の範囲であり、かつ180℃以上のときの動的粘弾性率に対する50℃以下のときの動的粘弾性率の比が10e2以上であるセルロース誘導体100を成形の対象としている。この比が大きい原材料は、粘弾性が大きく変化するということがいえる。
【符号の説明】
【0055】
1…成形装置
10…アングル部材(保持部材)
12…ネックホルダー(保持部)
30…加熱装置
32…ヒーター
40…水冷装置(冷却装置)
41…流水路
41i…給水部
41o…排水部
42…給水口
43…排水口
44…給水装置
50…空冷装置(冷却装置)
51…空気流路
52…給気口
53…排気口
54…給気装置
100…セルロース誘導体(成形対象物)
102…プリフォーム
104…被保持部
106…口部
T…所定値
Tg…ガラス転移点(パラメータ)
E’…貯蔵弾性率
E”…損失弾性率
tanδ…損失正接(パラメータ)