(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152558
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】銅粉、導電性ペースト、低温同時焼成セラミックス基板及び積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20241018BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20241018BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20241018BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F1/102
B22F1/16
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023151688
(22)【出願日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2023066575
(32)【優先日】2023-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森脇 和弘
(72)【発明者】
【氏名】船橋 泰知
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018AB04
4K018AB07
4K018BA02
4K018BC28
4K018BC29
4K018BD04
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】焼結時に比較的緩やかな速度で収縮し、しかも焼結性に優れた銅粉、導電性ペースト、低温同時焼成セラミックス基板及び積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】銅粉は、珪素含有量が70質量ppm以上であり、炭素含有量が0.07質量%以上かつ0.45質量%以下であり、-(OC3H6)n-の構造を有する化合物及び-(OC2H4)n-の構造を有する化合物のうちの少なくとも一方の化合物を含有するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素含有量が70質量ppm以上であり、炭素含有量が0.07質量%以上かつ0.45質量%以下であり、-(OC3H6)n-の構造を有する化合物(nは1以上)及び-(OC2H4)n-の構造を有する化合物(nは1以上)のうちの少なくとも一方の化合物を含有する銅粉。
【請求項2】
珪素含有量に対する炭素含有量の質量比が7以上である請求項1に記載の銅粉。
【請求項3】
-(OC3H6)n-の繰り返し構造を有する重合体及び-(OC2H4)n-の繰り返し構造を有する重合体のうち少なくとも一方の重合体を含有する、請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項4】
プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールおよびポリエチレングリコールのうちの少なくとも1つの化合物を含有する請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項5】
熱機械分析(TMA)で室温から1000℃まで昇温した際の90%収縮温度が700℃以上である請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項6】
熱機械分析(TMA)で室温から1000℃まで昇温した際の10%収縮温度が400℃以上である請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項7】
熱機械分析(TMA)で室温から1000℃まで昇温する間の線膨張率の最小値が、その最小値が得られる温度での銅の真密度及び熱膨張率から計算される理論上の理想線膨張率の90%以上である請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項8】
BET比表面積が1m2/g~15m2/gである請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の銅粉を含む導電性ペースト。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の銅粉の焼結体を含む低温同時焼成セラミックス基板。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の銅粉の焼結体を含む積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、銅粉、導電性ペースト、低温同時焼成セラミックス基板及び積層セラミックコンデンサに関する技術を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
低温同時焼成セラミックス(Low Temperature Co-fired Ceramics、LTCC)基板や積層セラミックコンデンサ(Multi Layer Ceramic Capacitor、MLCC)の製造では、グリーンシートに導電性ペーストを塗布し、それらを同時に焼成することで、グリーンシート中のセラミック粉と導電性ペースト中の金属粉をともに焼結させることがある。
【0003】
この際に用いられる金属粉としては、たとえば銀粉や銅粉がある。なかでも、銅は銀に比して安価であり、マイグレーションが少ないとされていることから、LTCC基板やMLCCに適した銅粉の開発が求められている。
【0004】
銅粉を含む導電性ペーストをグリーンシートと同時に焼成する場合にセラミックの焼結体との密着性を高める上では、銅粉の焼結開始温度を高めることが有用であることが知られている。例えば、特許第5986117号公報(特許文献1)は、銅粉とアミノシラン水溶液を混合して、アミノシランを銅粉表面に吸着させることで焼結開始温度を高める技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、銅粉の焼結開始温度を高めることでセラミックの焼結体との密着性を高める技術は知られていたが、本発明者は新たに、導電性ペーストに含まれる銅粉の焼結時の収縮速度が速いと、その銅粉の収縮挙動によりグリーンシートに大きな応力が発生し得ることを見出した。このことは、焼成後にセラミック粉の焼結体からの銅粉の焼結体の剥離や、焼結体へのクラックの発生を招くおそれがある。このため、焼結時の収縮速度がある程度遅い銅粉が要求されることがある。
【0007】
また、焼成後に銅粉が十分に緻密な焼結体にならない場合は、その焼結体の表面の平滑性が損なわれたり、電気抵抗が増大したりすることが懸念される。それ故に、銅粉の焼結性を高めることが望まれる。
【0008】
この明細書では、焼結時に比較的緩やかな速度で収縮し、しかも焼結性に優れた銅粉、導電性ペースト、低温同時焼成セラミックス基板及び積層セラミックコンデンサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この明細書で開示する銅粉は、珪素含有量が70質量ppm以上であり、炭素含有量が0.07質量%以上かつ0.45質量%以下であり、-(OC3H6)n-の構造を有する化合物(nは1以上)及び-(OC2H4)n-の構造を有する化合物(nは1以上)のうちの少なくとも一方の化合物を含有するものである。
【0010】
この明細書で開示する導電性ペーストは、上記の銅粉を含むものである。
【0011】
この明細書で開示する低温同時焼成セラミックス基板は、上記の銅粉の焼結体を含むものである。
【0012】
この明細書で開示する積層セラミックコンデンサは、上記の銅粉の焼結体を含むものである。
【発明の効果】
【0013】
上記の銅粉は、焼結時に比較的緩やかな速度で収縮し、しかも焼結性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例2の銅粉の熱機械分析での昇温時の線膨張率の変化を表すグラフである。
【
図2】比較例2の銅粉の熱機械分析での昇温時の線膨張率の変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、上述した銅粉、導電性ペースト、低温同時焼成セラミックス基板及び積層セラミックコンデンサの実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
一の実施形態の銅粉は、珪素含有量が70質量ppm以上であり、炭素含有量が0.07質量%以上かつ0.45質量%以下であり、-(OC3H6)n-の構造を有する化合物(nは1以上)及び-(OC2H4)n-の構造を有する化合物(nは1以上)のうちの少なくとも一方の化合物を含有するものである。それにより、銅粉の焼結時の収縮速度が遅くなり、また銅粉の焼結性が向上する。その理由は必ずしも明確ではないが、実施例の項目で後述する試験で、そのような傾向を示す結果が得られたことによるものである。
【0017】
その結果、銅粉をLTCC基板やMLCCの製造に用いたときに、導電性ペースト中の銅粉の収縮に起因するグリーンシートへの応力を低減できて、銅粉の焼結体とセラミック粉の焼結体との剥離や、焼結体へのクラックの発生を抑制することができる。また、銅粉の焼結後に得られる焼結体が、高い表面平滑性を有するとともに、十分緻密になって導電性に優れたものになる。
【0018】
なお、導電性ペースト中の銅粉の焼結時の収縮速度を遅くするには、導電性ペーストにガラスフリットを混ぜることが考えられる。但し、この場合、銅粉の収縮速度を有効に低下させるべく、導電性ペーストにガラスフリットをある程度多く混ぜると、銅粉の焼結体の比抵抗が大きくなる。これに対し、上記の実施形態の銅粉では、焼結時に比較的緩やかな速度で収縮することから、導電性ペースト中のガラスフリットの含有量を減らすことができ、さらには導電性ペーストにガラスフリットを含ませることを要しない場合がある。この観点からも、上記の実施形態の銅粉は、焼結体の比抵抗を小さくすることができるものであるといえる。
【0019】
(銅粉)
銅粉は、銅(Cu)を含有するものであり、多くの場合、大部分が銅で構成されている。銅粉の酸化銅を除く銅含有量は、たとえば98質量%以上であり、典型的には99.5質量%以上である場合がある。銅粉が銅を含有することや、その銅含有量は、X線回折法(XRD)により確認及び測定が可能である。
【0020】
また銅粉は、珪素(Si)を含有するものである。珪素は、たとえば後述の製造方法のように、未処理銅粉に、テトラエトキシシラン(Tetraethoxysilane、TEOS)を用いた表面処理が施されたことにより、TEOSに由来して銅粉に含まれることがある。
【0021】
銅粉の珪素含有量は、70質量ppm以上、好ましくは100質量ppm以上である。銅粉は珪素がこのような含有量で含まれ、さらに所定の炭素含有量であって、-(OC3H6)n-の構造を有する化合物(nは1以上)及び-(OC2H4)n-の構造を有する化合物(nは1以上)のうちの少なくとも一方の化合物を含有する場合、焼結時の収縮速度の低下及び焼結性向上の効果が得られる。一方、珪素含有量が多すぎると、銅粉の焼結体の比抵抗値が高くなる可能性がある。そのため、銅粉の珪素含有量は、2000質量ppm以下、さらに1500質量ppm以下であることが好ましい。銅粉の珪素含有量は、銅粉を過酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウムを用いてアルカリ融解し、得られた溶融物を塩酸によって溶解させ、一定量にした溶液をICP発光分光分析法(日立ハイテクサイエンス社製ICP-OES:PS3500UVDD2)で分析することにより、表面処理粉の単位質量(g)に対する、付着したSiの質量(μg)を求める。ICP-OESによる測定時に使用する標準溶液は、濃度を0、0.1、1.0μg/mLにそれぞれ調製して検量線とし、試料中の濃度はこの範囲内になるように調整する。なお、試料採取量は0.5gとする。標準溶液は、試料溶液と同じ濃度になるように過酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウム及び塩酸をマッチングしたものを用いることができる。測定波長は251.687nm付近の発光線とし、バックグラウンドはピークトップから長波長側に0.020nm、短波長側に0.016nmとする。
【0022】
また銅粉には、炭素(C)が含まれる。後述するように、未処理銅粉に、-(OC3H6)n-の構造を有する化合物(nは1以上)、及び/又は、-(OC2H4)n-の構造を有する化合物(nは1以上)を用いた表面処理を施した場合、炭素はこれらの化合物に由来して銅粉に含まれる。-(OC3H6)n-の構造を有する化合物は、一例としてプロピレングリコール(Propylene Glycol、PG)、ポリプロピレングリコール(Polypropylene Glycol、PPG)が挙げられる。PPGは、-(OC3H6)n-の繰り返し構造を有する重合体である。また、-(OC2H4)n-の構造を有する化合物は、一例としてエチレングリコール(Ethylene Glycol、EG)、ポリエチレングリコール(Polyethylene Glycol、PEG)が挙げられる。PEGは、-(OC2H4)n-の繰り返し構造を有する重合体である。
【0023】
銅粉の焼結時の収縮速度を有効に低下させつつ、その焼結性を高めるため、銅粉は炭素をある程度多く含むことが望ましい。但し、炭素含有量が多すぎる場合は、銅粉の焼結性が不十分となることや、銅粉の焼結体の導電性が不十分となることが懸念される。それ故に、銅粉の炭素含有量は、0.07質量%以上かつ0.45質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上かつ0.40質量%以下である。
【0024】
銅粉の炭素含有量は、高周波誘導加熱炉燃焼-赤外線吸収法により測定する。具体的には、LECO製CS844型等の炭素硫黄分析装置を用いて、試料採取量を0.2gとして、検量線の強度範囲内になるように調整し、助燃剤をLECO製LECOCEL II及びFeチップとし、検量線に標準物質のスチールピンを使用して、銅粉の炭素含有量を測定することができる。なお、試料はアルミナ坩堝に入れて測定を行なったところ、このアルミナ坩堝は、事前に空気中で室温から1000℃まで2時間かけて一定の昇温速度で昇温した後に1000℃で2時間保持する前処理を行なった後に銅粉の炭素含有量の測定に供した。
【0025】
銅粉の珪素含有量に対する炭素含有量の質量比は、好ましくは7以上であり、より好ましくは10以上である。これにより、銅粉の焼結時の収縮速度を、より一層緩やかにすることができる。なお、当該質量比は「炭素含有量(質量%)÷(珪素含有量(質量ppm)÷10000)」にて算出することが出来る。
【0026】
また銅粉は、-(OC3H6)n-の構造を有する化合物、及び/又は、-(OC2H4)n-の構造を有する化合物を含有するものである。このことに加えて、銅粉は所定の珪素含有量及び炭素含有量であれば、焼結時の収縮速度が有効に低下するとともに、焼結性が高まる。-(OC3H6)n-や-(OC2H4)n-におけるnは、たとえば1~10、さらに11~100の整数になる場合がある。上記の化合物は、銅粉の製造時に、未処理銅粉に対して施した表面処理の成分であるPG、PPG、EG、及びPEGの少なくとも1つの化合物に由来して、銅粉に含まれることがある。典型的には、銅粉には、PPG、すなわちH[OCH(CH3)CH2]nOHや、R1OCH2CH(OR2)CH2OR3(R1=[CH2CH(CH3)O]xH、R2=[CH2CH(CH3)O]yH、R3=[CH2CH(CH3)O]zH、x+y+z=n、n=1~100)で表される化合物が含まれ得る。また、銅粉には、PEG、すなわちHO(CH2CH2O)nHで表される化合物が含まれ得る。
【0027】
銅粉が、-(OC3H6)n-の構造を有する化合物や、-(OC2H4)n-の構造を有する化合物を含有するものであるかどうかを確認するには、液体クロマトグラフィ-Orbitrap質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、LC-Orbitrap MS、LC:Vanquish分析精製LCシステム、Orbitrap MS:Orbitrap Exploris240質量分析計)を用いることができる。測定条件は次のとおりである。10mmol/Lの酢酸アンモニウム水溶液とアセトニトリルとを混合した溶液(体積比で1:1)に銅粉を入れ(銅粉1gに対して混合溶媒4mL)、振とう機および超音波洗浄機による攪拌操作を行い、遠心分離で銅粉と抽出液とに分離し、シリンジフィルターろ過(メルクミリポア社製、Millex(登録商標)-LCR、材質:親水性PTEF、ポアサイズ:0.45μm)により抽出液を採取する。この抽出液を上述の液体クロマトグラフィ-Orbitrap質量分析計にて測定する。カラムには、Hypersil GOLD(C18)を用い、移動相は10mmol/Lの酢酸アンモニウム水溶液からアセトニトリルへと変化させるように導入し、カラム温度は40℃とすることができる。一例として、銅粉が-(OC3H6)n-の繰り返し構造を有する重合体(例えばPPG)を含有する場合は、Positiveイオン検出モードにおいてm/z値が58間隔のピークが検出され得る。また、銅粉が-(OC2H4)n-の繰り返し構造を有する重合体(例えばPEG)を含有する場合は、Positiveイオン検出モードにおいてm/z値が44間隔のピークが検出され得る。また、銅粉がHO(C3H6O)Hで表されるPGを含有する場合は、Positiveイオン検出モードにおいてm/z値が76のピークが検出され得る。また、銅粉がR1OCH2CH(OR2)CH2OR3(R1=[CH2CH(CH3)O]xH、R2=[CH2CH(CH3)O]yH、R3=[CH2CH(CH3)O]zH、x+y+z=1)で表されるPGを含有する場合、Positiveイオン検出モードにおいてm/z値が150のピークが検出され得る。また、銅粉がEGを含有する場合は、Positiveイオン検出モードにおいてm/z値が62のピークが検出され得る。
【0028】
上述したような銅粉は、熱機械分析(Thermomechanical Analysis、TMA)を行ったとき、室温から1000℃まで昇温した際の90%収縮温度が700℃以上であることが好ましい。このように90%収縮温度が高い銅粉は、その焼結終了温度が、LTCC基板やMLCCの製造に用いるセラミック粉の焼結終了温度と近くなることがあり、焼結後におけるセラミック粉の焼結体との剥離やクラックの発生がさらに有効に抑制され得る。
【0029】
また、熱機械分析で室温から1000℃まで昇温した際の銅粉の10%収縮温度は、400℃以上であることが好適である。この場合、銅粉の焼結開始温度がセラミック粉の焼結開始温度と近くなり、焼結体での剥離やクラックの発生がより効果的に抑制されることが期待される。
【0030】
上記の熱機械分析は、具体的には次のようにして行う。すなわち、直径5mmの穴が開いたペレットダイに銅粉(約0.3g)を入れ、1kNの力で圧縮し、円柱状(高さ:約3mm、直径:約5mm)の銅粉ペレットを作製する。その高さをマイクロメーター(ミツトヨ社製、クーラントプルーフマイクロメータMDC-25MX、最大許容誤差±1μm)で測定し、これを初期ペレット高さとする。このペレットを、熱機械分析装置(NETZSCH社製、TMA4000SE)にセットし、-0.1MPa以下に真空引きした後、N2を導入して不活性雰囲気にし、N2を500mL/分の流量でフローしつつ、10g重の荷重をかけながら、10℃/分の昇温速度で室温(25℃)から1000℃まで昇温する。このとき40℃から1000℃までの加熱の間に、1秒毎にペレット高さを測定し、初期ペレット高さから最低ペレット高さまでの最大収縮幅に対して10%収縮した時の温度を10%収縮温度とし、90%収縮した時の温度を90%収縮温度とする。例えば、初期ペレット高さ3mmに対して、1000℃まで加熱した際の最低ペレット高さが2mmであった場合、最初にペレット高さ2.9mmになる温度を10%収縮温度とし、最初にペレット高さ2.1mmになる温度を90%収縮温度とする。
【0031】
また、銅粉は、熱機械分析で室温から1000℃まで昇温する間の線膨張率の最小値が、その最小値が得られる温度での銅の真密度及び熱膨張率から計算される理論上の理想線膨張率の90%以上になることが好ましい。上述した熱機械分析では、昇温時の銅粉ペレットのペレット高さを初期ペレット高さで除した値から1を引き、その後に100倍することにより、線膨張率が求められる。昇温時にペレット高さは低くなるので、線膨張率は負の値となる。そして、銅粉ペレットは昇温とともに収縮し、それに応じて線膨張率が昇温に伴って変化するところ、室温から1000℃まで昇温する間において線膨張率が最小になったときに、銅粉ペレットは焼結が最も進んで収縮が最大になったとみなすことができる。この線膨張率の最小値が、その最小値が得られる温度における塊状の銅の理論上の理想線膨張率に近い場合、銅粉は特に焼結性に優れたものであるといえる。理論上の理想線膨張率は、銅の真密度(8.96g/cm3)及び熱膨張係数(1.77×10-5/K)から、銅粉ペレットと同じ寸法及び形状のものについての線膨張率を求めることによって、温度に応じて変化する値として計算することができる。
【0032】
銅粉のBET比表面積は、たとえば1m2/g~15m2/g、典型的には3m2/g~7m2/gとする場合がある。銅粉のBET比表面積の測定は、JIS Z8830:2013に準拠し、マイクロトラック・ベル社のBELSORP-mini IIを用いて行うことができる。より詳細には、銅粉の3gのサンプルについて絶対圧10Pa以下の真空中にて70℃の温度で5時間にわたって脱気した後、静的容量法にて窒素吸着等温線を測定し、それにより得られた結果をBET法で解析することで、BET比表面積が算出される。
なお、銅粉のBET比表面積が大きくなると銅粉の表面エネルギーが増大することに伴い焼結温度の低下が予想されるが、焼結時の収縮速度には影響を及ぼさないと考えられる。
【0033】
上述した銅粉を製造するには、未処理銅粉に対し、TEOSならびに、PG、PPG、EG、及びPEGの少なくとも1つの化合物を用いた表面処理を施し、それぞれを付着させることにより行うことができる。かかる表面処理により、銅粉は、TEOSに由来する珪素と、上記化合物に由来する炭素及び、-(OC3H6)n-の構造を有する化合物及び/又は、-(OC2H4)n-の構造を有する化合物とを含有するものになる。なお、TEOSは、オルトケイ酸テトラエチルとも称され、Si(OC2H5)4で表される化合物である。
【0034】
TEOSによる表面処理では、たとえば、銅粉をTEOS水溶液に添加し、攪拌ないし混錬を行い、その後に乾燥させるとともに解砕することができる。また、PG又はPPGによる表面処理では、銅粉をPG水溶液又はPPG水溶液に添加して混合し、攪拌ないし混錬を行った後、乾燥させて解砕することができる。また、EG又はPEGによる表面処理では、銅粉をEG水溶液又はPEG水溶液に添加して混合し、攪拌ないし混錬を行った後、乾燥させて解砕することができる。TEOSによる表面処理、PGによる表面処理、PPGによる表面処理、EGによる表面処理及び/又はPEGを用いた表面処理は順不同であり、いずれの表面処理を先に行ってもよい。また、TEOSならびにPG、PPG、EG及びPEGの少なくとも1つを含む水溶液に銅粉を添加し、各表面処理を同時に行うこともできる。水溶液中の各化合物の量を適宜調整することにより、所望の珪素含有量及び炭素含有量の銅粉を製造することができる。最終的に得られる銅粉の珪素含有量を70質量ppm~2000質量ppmにする観点から、水溶液に添加するTEOSの量は、水溶液中に含まれる銅粉1gに対して0.52mg~22.59mgとすることができる。同様に、最終的に得られる銅粉の炭素含有量を0.07質量%~0.45質量%にする観点から、水溶液に添加するPPGの量は、化学式HO(C3H6O)nHで表されるPPGジオール型については、重合度に応じて炭素含有量が異なり、水溶液中に含まれる銅粉1gに対して、例えば、重合度1の場合(即ち、分子量62のPGである場合)、1.48~9.50mg、重合度10の場合、1.16~7.48mg、重合度100の場合、1.13~7.28mg、化学式R1OCH2CH(OR2)CH2OR3(R1=[CH2CH(CH3)O]xH、R2=[CH2CH(CH3)O]yH、R3=[CH2CH(CH3)O]zH、x+y+z=n、n=1~100)で表されるPPGトリオール型についても、重合度に応じて炭素含有量が異なり、例えば、重合度1(即ち、分子量150のPGである場合)の場合、1.46~9.38mg、重合度10の場合、1.19~7.64mg、重合度100の場合、1.13~7.38mgとすることができる。また、PEGは重合度に応じて炭素含有量が異なる。そのため、例えば、PEGの重合度が1の場合、最終的に得られる銅粉の炭素含有量を0.07質量%~0.45質量%にする観点から、水溶液に添加するPEGの量は、水溶液中に含まれる銅粉1gに対して1.81mg~11.63mgとすることができる。また、PEGの重合度が10の場合は、水溶液に添加するPEGの量は、水溶液中に含まれる銅粉1gに対して1.34mg~8.59mgとすることができる。また、PEGの重合度が100の場合は、水溶液に添加するPEGの量は、水溶液中に含まれる銅粉1gに対して1.29mg~8.29mgとすることができる。
【0035】
上記の表面処理に供する未処理銅粉は、購買等により入手してもよいが、たとえば、次に述べるような化学還元法または不均化法等の液相法で銅粒子を生成させて作製することもできる。
【0036】
化学還元法では、たとえば、原料溶液として、硫酸銅水溶液等の銅塩水溶液について、水酸化ナトリウムその他のアルカリの添加によってpHを調整した後、ヒドラジン等の還元剤を添加することで、4CuSO4+N2H4+8NaOH→2Cu2O+4Na2SO4+6H2O+N2等の還元反応に基づいて、スラリー中に亜酸化銅粉を生成させる。次いで、このスラリーを加熱し、pHを調整しつつ、さらにヒドラジンを添加して、たとえば2Cu2O+N2H4→4Cu+2H2O+N2の反応により亜酸化銅を銅に還元し、液体中に銅粒子を生成させる。
【0037】
不均化法では、たとえば、アラビアゴム、ゼラチン、コラーゲンペプチド等の分散剤を含む水溶液と、亜酸化銅粉を含むスラリーとを混合させ、そこに硫酸を添加することで、Cu2O+H2SO4→Cu↓+CuSO4+H2Oの不均化反応により、液体中に銅粒子を生成させる。
【0038】
ここでいう未処理銅粉とは、TEOSによる表面処理、PGによる表面処理、PPGによる表面処理、EGによる表面処理、及びPEGによる表面処理が施される前の銅粉を意味する。未処理銅粉は、銅粒子の生成後に、TEOSによる表面処理、PGによる表面処理、PPGによる表面処理、EGによる表面処理、及びPEGによる表面処理以外の他の処理が既に施されたものであってもかまわない。
【0039】
(導電性ペースト)
導電性ペーストは、上述した銅粉を含むものである。この導電性ペーストには、上記の銅粉と、バインダー樹脂と、溶剤とが含まれ得る。
【0040】
バインダー樹脂としては、たとえば、セルロース系樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール、ケトン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンを挙げることができる。
【0041】
溶剤としては、たとえば、アルコール溶剤(例えばテルピネオール、ジヒドロテルピネオール、イソプロピルアルコール、ブチルカルビトール、テルピネルオキシエタノール、ジヒドロテルピネルオキシエタノールからなる群から選択される一種以上)、グリコールエーテル溶剤(例えばブチルカルビトール)、アセテート溶剤(例えばブチルカルビトールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート、ジヒドロカルビトールアセテート、カルビトールアセテート、リナリールアセテート、ターピニルアセテートからなる群から選択される一種以上)、ケトン溶剤(例えばメチルエチルケトン)、炭化水素溶剤(例えばトルエン、シクロヘキサンからなる群から選択される一種以上)、セロソルブ類(例えばエチルセロソルブ、ブチルセロソルブからなる群から選択される一種以上)、ジエチルフタレート、又はプロピネオート系溶剤(例えばジヒドロターピニルプロピネオート、ジヒドロカルビルプロピネオート、イソボニルプロピネオートからなる群から選択される一種以上)等を用いることができる。
【0042】
(LTCC基板及びMLCC)
LTCC基板やMLCCを製造するには、たとえばコファイア法では、上記の導電性ペーストを、セラミック粉を含むグリーンシート上に印刷等により塗布し、それらの導電性ペーストとグリーンシートを交互に積層させてから同時に焼成することが行われ得る。
【0043】
このようにして製造されたLTCC基板やMLCCは、導電性ペーストに含まれていた銅粉の焼結体を含むものになる。
【0044】
ここでは、上述したような実施形態の銅粉を導電性ペーストに用いることにより、導電性ペーストとグリーンシートとの間での剥離の発生や、銅粉やセラミック粉の焼結体でのクラックの発生を有効に抑制することができる。またこの場合、焼成後に得られる銅粉の焼結体は、緻密で表面が平滑なものになる。それにより、そのような銅粉の焼結体で、高い導電性を有する銅配線を形成することができる。
【実施例0045】
次に、上述した銅粉を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0046】
<試験例1>
(実施例1)
比表面積の値が2.0m2/gである未処理銅粉25gに、5質量%TEOS水溶液を0.92g添加し、さらに純水を2g追加し、自転公転ミキサー(型式:ARE-310、株式会社シンキー製)で、公転2000rpm、自転800rpm、混錬時間5分の設定で混錬を行った。混錬後、スラリーを回収し、真空乾燥機(型式:AVO-250-SB、アズワン社製)で、70℃の状態を5時間保持する設定で真空乾燥(-0.1MPa以下)させた。真空乾燥後、温度が下がったことを確認して乳鉢で解砕し、銅粉Aを得た。この銅粉Aは、後述する比較例3の銅粉と同じである。
【0047】
また、純水45gにポリプロピレングリコール300(トリオール型、富士フィルム和光純薬株式会社製、以下PPGと記載)を5g加え、10質量%PPG水溶液を調製した。比表面積の値が2.0m2/gである未処理銅粉25gに、10質量%PPG水溶液を2.5g添加し、さらに純水を2g追加し、それ以降は、上記と同様の混錬、真空乾燥、解砕を行い、銅粉Bを得た。この銅粉Bは、後述する比較例2の銅粉と同じである。
【0048】
上記の銅粉Aと銅粉Bを1:1の重量比で乳鉢を用いて混ぜ合わせ、実施例1の銅粉を得た。
【0049】
(実施例2)
上記の銅粉Aと銅粉Bを2:1の重量比で乳鉢を用いて混ぜ合わせ、実施例2の銅粉を得た。
【0050】
(実施例3)
比表面積の値が2.0m2/gである未処理銅粉25gに、5質量%TEOS水溶液0.61gおよび、10質量%PPG水溶液0.83gを添加し、さらに純水2gを追加した。それ以降は、実施例1と同様の混錬、真空乾燥、解砕を行い、銅粉を得た。
【0051】
(実施例4)
比表面積の値が2.0m2/gである未処理銅粉25gに、5質量%TEOS水溶液0.77gおよび、10質量%PPG水溶液0.42gを添加したこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。
【0052】
(実施例5)
比表面積の値が2.0m2/gである未処理銅粉25gに、5質量%TEOS水溶液0.83gおよび、10質量%PPG水溶液0.23gを添加したこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。
【0053】
(実施例6)
比表面積の値が2.0m2/gである未処理銅粉25gに、5質量%TEOS水溶液0.69gおよび、10質量%PPG水溶液0.625gを添加したこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。
【0054】
(実施例7)
比表面積の値が1.7m2/gである未処理銅粉と純水を混合したスラリー(含水率:53.48質量%)6220gに、PPGを9.54gおよび、20質量%のTEOS水溶液を17.65g添加し、15分攪拌して表面処理後銅スラリーを得た。前記表面処理後銅スラリーを乾燥、気流解砕、真空乾燥を行って、銅粉を得た。
【0055】
(比較例1)
比表面積の値が2.0m2/gである未処理銅粉25gに、10質量%PPG水溶液1.25gのみを添加し、TEOS水溶液を添加しなかったこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。
【0056】
(比較例2)
実施例1の銅粉Bである。
【0057】
(比較例3)
実施例1の銅粉Aである。
【0058】
(比較例4)
比表面積の値が1.7m2/gである未処理銅粉であり、TEOSやPPGによる表面処理を施していないものである。
【0059】
(比較例5)
比表面積の値が1.7m2/gである未処理銅粉と純水を混合したスラリー(含水率:52.03質量%)4025gに、PPGを19.34g添加後、15分攪拌して表面処理後銅スラリーを得た。前記表面処理後銅スラリーを乾燥、気流解砕、真空乾燥を行って、銅粉を得た。
【0060】
(比較例6)
比表面積の値が2.0m2/gである未処理銅粉25gに、5質量%TEOS水溶液0.08gおよび、10質量%PPG水溶液2.27gを添加したこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。
【0061】
(比較例7)
比表面積の値が3.0m2/gである未処理銅粉を使用したこと以外は、比較例1と同様の操作を行った。
【0062】
(評価)
上記の各銅粉について、先述した方法により、珪素含有量、炭素含有量、BET比表面積をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0063】
比較例1、2及び7の銅粉の珪素含有量は測定していないが、TEOSによる表面処理を施していないことから、十分に少ないと推認される。なお、実施例1及び2の銅粉の珪素含有量及び炭素含有量は測定を行っておらず、銅粉A(比較例3)と銅粉B(比較例2)の混合比率、比較例3の珪素含有量、および比較例2の炭素含有量から求めた値を表1に示している。具体的には、銅粉A(比較例3)の炭素含有量を0質量%、銅粉B(比較例2)の珪素含有量を0質量ppmと仮定した上で混合比率に基づいて推定した。例えば、実施例2は、銅粉Aと銅粉Bとを質量比2:1で混合しているため、炭素含有量を「((銅粉Aの炭素含有量)×2+(銅粉Bの炭素含有量)×1)/3」として推定した。
【0064】
また、表1にBET値を示した実施例及び比較例を除き、表面処理後の銅粉のBET比表面積は測定していない。但し、表面処理後のBET比表面積は、表面処理前のものと大きく変わらないことを別途確認している。具体的には、実施例7の銅粉の比表面積は1.67m2/gであるが、表面処理前の銅粉の比表面積は、1.71m2/gであった。
【0065】
また、各銅粉が-(OC3H6)n-の構造を有する化合物を含有するものであるかどうかについて実際には確認してはいないものの、実施例1~7及び比較例1、2、5~7の銅粉はいずれも、-(OC3H6)n-の構造を有するPPGを用いた表面処理を行なっていることから、先述の方法で確認した場合は、-(OC3H6)n-の構造を有する可能性が極めて高い。
【0066】
また、先述した方法に従って熱機械分析を行い、表1に示す分析結果を得た。ここで、表1中、「理想収縮に対する割合」は、理論上の理想線膨張率に対する線膨張率の最小値の割合を意味し、「焼結性」では、その割合が90%以上であったものを「〇」とし、90%未満であったものを「×」としている。なお、表1には、上記割合が100%を超えているものがあるが、これは誤差によるものと考えられる。
なお、熱機械分析測定における、銅の理論上の理想線膨張率の具体的な算出方法について、実施例2を用いて説明する。実施例2において、初期ペレットの高さは2.861mmであり、直径は5.000mm、重量は0.3014gであった。ペレットは円柱状であるので、密度は5.37g/cm3と算出される。銅粉ペレットの高さおよび径は同じ比率で収縮するとしたとき、銅の真密度(8.96g/cm3)にまで収縮するには、線膨張率が-15.7%になったときであり、このとき、高さは2.412mm、径は4.215mm、重量は0.3014gと算出される。これを室温(25℃)における完全焼結体のサイズとする。なお、完全焼結体とは、空隙や表面処理剤などの不純物が存在せず、銅の真密度と同じ密度の焼結体を表す。ペレットは熱膨張するため、TMA測定結果で焼結が最も進んだ温度(895℃)のときの完全焼結体のペレット高さを、銅の熱膨張係数(1.77×10-5/K)を考慮して算出すると、初期長+(初期長×熱膨張係数×温度差)となり、2.449mmと算出される。ペレット高さが初期の2.861mmから完全焼結体のペレット高さ2.449mmとなるとき、線膨張率は-14.4%であるので、895℃のときの理論上の理想線膨張率は-14.4%とした。
【0067】
また表1中、「収縮速度」は、熱機械分析で得られた温度に対する線膨張率の変化を表すグラフで、10%収縮温度のプロットと90%収縮温度のプロットを結んだ直線の傾きを表している。収縮速度の絶対値が、0.5%/℃未満であった銅粉は、焼結時の収縮速度が十分緩やかなものであるといえる。
【0068】
実施例1~7の銅粉は、TEOS及びPPGの両方の表面処理を施し、珪素含有量及び炭素含有量がそれぞれ所定の値であり、-(OC3H6)n-の構造を有する化合物を含有するものである。その結果、実施例1~7の銅粉はいずれも、表1に示すように、焼結性が良好であり、また、いずれも収縮速度の絶対値が小さかったことから、焼結時に比較的緩やかな速度で収縮するものであると認められる。また、TEOSとPPGの表面処理を同時に行なった実施例3~7の結果から、銅粉の珪素含有量に対する炭素含有量の質量比が大きいほど、収縮速度の絶対値が小さくなる傾向が認められる。
【0069】
一方、PPGの表面処理しか行わなかった比較例1、2及び7の銅粉は、焼結性に劣るものであった。また、比較例6では、TEOS及びPPGの両方の表面処理を施したが、TEOSの量が少なすぎたことにより、銅粉は珪素がほぼ含まれず、焼結性に劣るものになった。比較例3及び4の銅粉は、TEOSの表面処理だけを施したもの、又は、いずれの表面処理も行わなかったものであり、収縮速度が速かった。
【0070】
参考までに、実施例2及び比較例2の各銅粉における線膨張率の変化を表すグラフをそれぞれ、
図1及び2に示す。グラフ中、破線は、理論上の理想線膨張率の温度変化を表す。
図1から、実施例2の銅粉は、焼結時の収縮速度が遅く、かつ、優れた焼結性を有していることが分かる。一方、
図2から、比較例2の銅粉は、焼結時の収縮速度は遅いものの、焼結性が不十分であることが分かる。
【0071】
【0072】
<試験例2>
(実施例1)
比表面積の値が1.9m2/gである未処理銅粉25gに、5質量%TEOS水溶液を0.92g添加し、さらに純水を2g追加し、自転公転ミキサー(型式:ARE-310、株式会社シンキー製)で、公転2000rpm、自転800rpm、混錬時間5分の設定で混錬を行った。混錬後、スラリーを回収し、真空乾燥機(型式:AVO-250-SB)で、70℃の状態を5時間保持する設定で真空乾燥(-0.1MPa以下)させた。真空乾燥後、温度が下がったことを確認して乳鉢で解砕し、銅粉Aを得た。この銅粉Aは、後述する比較例1の銅粉と同じである。
【0073】
また、純水45gにポリエチレングリコール400(富士フィルム和光純薬株式会社製、以下PEGと記載)を5g加え、10質量%PEG水溶液を調製した。比表面積の値が1.9m2/gである未処理銅粉25gに、10質量%PEG水溶液を2.5g添加し、さらに純水を2g追加し、それ以降は、上記と同様の混錬、真空乾燥、解砕を行い、銅粉Bを得た。この銅粉Bは、後述する比較例2の銅粉と同じである。
【0074】
上記の銅粉Aと銅粉Bを5:5の重量比で乳鉢を用いて混ぜ合わせ、実施例1の銅粉を得た。
【0075】
(実施例2)
上記の銅粉Aと銅粉Bを7:3の重量比で乳鉢を用いて混ぜ合わせ、実施例2の銅粉を得た。
【0076】
(実施例3)
上記の銅粉Aと銅粉Bを9:1の重量比で乳鉢を用いて混ぜ合わせ、実施例3の銅粉を得た。
【0077】
(比較例1)
実施例1の銅粉Aである。
【0078】
(比較例2)
実施例1の銅粉Bである。
【0079】
(比較例3)
上記の銅粉Aと銅粉Bを1:9の重量比で乳鉢を用いて混ぜ合わせ、比較例3の銅粉を得た。
【0080】
(評価)
上記の各銅粉について、先述した方法により、珪素含有量、炭素含有量、BET比表面積をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。
【0081】
比較例2の銅粉の珪素含有量は測定していないが、TEOSによる表面処理を施していないことから、十分に少ないと推認される。なお、実施例1~3及び比較例3の銅粉の珪素含有量及び炭素含有量は測定を行っておらず、銅粉A(比較例1)と銅粉B(比較例2)の混合比率、比較例1の珪素含有量、および比較例2の炭素含有量から求めた値を表2に示している。具体的には、銅粉B(比較例2)の珪素含有量を0質量ppmと仮定した上で混合比率に基づいて推定した。
【0082】
また、表2にBET値を示した比較例を除き、表面処理後の銅粉のBET比表面積は測定していない。但し、上述の通り表面処理後のBET比表面積は、表面処理前のものと大きく変わらないことを別途確認している。
【0083】
また、各銅粉が-(OC2H4)n-の構造を有する化合物を含有するものであるかどうかについて実際には確認してはいないものの、実施例1~3及び比較例2、3の銅粉はいずれも、-(OC2H4)n-の構造を有するPEGを用いた表面処理を行なっていることから、先述の方法で確認した場合は、-(OC2H4)n-の構造を有する可能性が極めて高い。
【0084】
また、先述した方法に従って熱機械分析を行い、表2に示す分析結果を得た。表2には、試験例1と同様にして求めた熱機械分析の結果を示している。
【0085】
実施例1~3の銅粉は、TEOS及びPEGの両方の表面処理を施し、珪素含有量及び炭素含有量がそれぞれ所定の値であり、-(OC2H4)n-の構造を有する化合物を含有するものである。その結果、実施例1~3の銅粉はいずれも、表2に示すように、焼結性が良好であり、また、いずれも収縮速度の絶対値が小さかったことから、焼結時に比較的緩やかな速度で収縮するものであると認められる。
【0086】
一方、TEOSの表面処理だけを施した比較例1の銅粉は、収縮速度が速かった。また、PEGの表面処理しか行わなかった比較例2の銅粉及び、銅粉Aの割合が少なかった比較例3の銅粉は、焼結性に劣るものであった。
【0087】
【0088】
以上より、上述した銅粉は、焼結時に比較的緩やかな速度で収縮し、焼結性に優れたものであることが示唆された。
また、試験例1および試験例2の結果より「-(OC3H6)n-の構造を有する化合物」又は「-(OC2H4)n-の構造を有する化合物」のどちらか一方で効果があるのだから、当然にその両者を含む「-(OC3H6)n-の構造を有する化合物及び-(OC2H4)n-の構造を有する化合物」の両方を含有する銅粉も所定の効果を有することが推察される。