(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152639
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】作業計画作成方法および作業計画作成装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20241018BHJP
【FI】
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024048418
(22)【出願日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2023066679
(32)【優先日】2023-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大角 壮弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 ひろえ
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中川 博視
(72)【発明者】
【氏名】中園 江
(72)【発明者】
【氏名】中野 聡史
【テーマコード(参考)】
5L050
【Fターム(参考)】
5L050CC01
(57)【要約】
【課題】作物栽培における作業計画を容易に設定する技術を実現する。
【解決手段】作業計画作成装置(10)は、植物の作目および品種の少なくとも一方を表す作物の発育ステージと、当該作物についての作業毎の作業可能速度とに基づいて、当該作物の作業スケジュールを決定する作業スケジュール決定部(15)、および、複数の前記作物の前記作業スケジュールを組み合わせて、前記作物を生育させる圃場における作業カレンダーを作成する作業カレンダー作成部(16)を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の作目および品種の少なくとも一方を表す作物の発育ステージと、当該作物についての作業毎の作業可能速度とに基づいて、当該作物の作業スケジュールを決定するスケジュール決定工程と、
複数の前記作物の前記作業スケジュールを組み合わせて、前記作物を生育させる圃場における作業カレンダーを作成するカレンダー作成工程と
を、情報処理装置が実行することを特徴とする作業計画作成方法。
【請求項2】
作付け時期を所定の期間としたときの前記作物の発育ステージを、前記作物を生育させる圃場における気象データに基づいて算出する発育ステージ算出工程をさらに包含する、ことを特徴とする請求項1に記載の作業計画作成方法。
【請求項3】
前記作物を生育させる圃場における気象データに基づいて、前記作業可能速度を算出する作業可能速度算出工程をさらに包含する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業計画作成方法。
【請求項4】
前記スケジュール決定工程においては、前記作物毎に実施する作業の優先度を基準として、一の栽培期間において、一の作物についての作業が、他の作物についての作業と、重複して実施されないように、当該一の作物の作業スケジュールを決定する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業計画作成方法。
【請求項5】
前記カレンダー作成工程においては、前記圃場において、一の栽培期間における前記作物についての作業が、その前の栽培期間および当該栽培期間における前記作物についての作業と重複して実施されないように、当該一の栽培期間の作業カレンダーを作成する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業計画作成方法。
【請求項6】
前記発育ステージは、作物毎に生成された発育予測モデルを用いて作物毎に予測されたものである、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業計画作成方法。
【請求項7】
前記スケジュール決定工程において、前記発育ステージおよび前記作業可能速度と、さらに、前記圃場における前記作物の作付面積とに基づいて、前記作業スケジュールを決定する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業計画作成方法。
【請求項8】
前記作業可能速度は、前記作物を生育させる圃場における気象データから算出された日毎の作業可能確率と、1日あたりの作業面積とに基づき算出される1日あたりの作業可能面積として表される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業計画作成方法。
【請求項9】
前記スケジュール決定工程においては、前記作業可能速度と前記圃場における前記作物の作付面積とに基づいて算出した作業開始日からの、前記作物の前記作業スケジュールを決定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の作業計画作成方法。
【請求項10】
前記作業カレンダーが所定の基準を満たしているか否かを判定する判定工程
を、情報処理装置がさらに実行する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業計画作成方法。
【請求項11】
前記カレンダー作成工程においては、前記作物毎に実施する作業の優先度を基準として、一の作物についての作業が、他の作物についての作業と、同一の期間内において重複して実施されないように、当該一の作物の前記作業スケジュールと他の作物の前記作業スケジュールとを組み合わせて、前記作業カレンダーを作成する、
請求項1または2に記載の作業計画作成方法。
【請求項12】
前記スケジュール決定工程においては、作業者ごとに、当該作業者に関連付けられた前記作業スケジュールを決定し、
前記カレンダー作成工程においては、前記作業者ごとに、当該作業者に関連付けられた前記作業カレンダーを作成する、
請求項1または2に記載の作業計画作成方法。
【請求項13】
作付け時期を所定の期間としたときの前記作物の予測収量を、前記作物を生育させる圃場における気象データに基づいて算出する収量算出工程を、情報処理装置がさらに実行する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業計画作成方法。
【請求項14】
前記予測収量と、前記圃場における前記作物の作付面積とに基づいて、予測収穫量を算出する収穫量算出工程を、情報処理装置がさらに実行する、
ことを特徴とする請求項13に記載の作業計画作成方法。
【請求項15】
前記カレンダー作成工程においては、前記予測収量に基づいて算出される予測収穫量が所定の目標収穫量に達するように、前記作業カレンダーを作成する、
ことを特徴とする請求項13に記載の作業計画作成方法。
【請求項16】
前記カレンダー作成工程においては、前記予測収量に基づいて算出される予測収穫量が所定の目標収穫量に達するように、前記圃場における前記作物の作付面積を決定する、
ことを特徴とする請求項13に記載の作業計画作成方法。
【請求項17】
植物の作目および品種の少なくとも一方を表す作物の発育ステージと、当該作物についての作業毎の作業可能速度とに基づいて、当該作物の作業スケジュールを決定するスケジュール決定部と、
複数の前記作物の前記作業スケジュールを組み合わせて、前記作物を生育させる圃場における作業カレンダーを作成するカレンダー作成部と
を備えたことを特徴とする作業計画作成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業計画作成方法および作業計画作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農業経営体の規模拡大が進むなか、農業機械の効率利用や作業分散のため、一作期でも複数品種を分散して作付けするような複雑な計画設定が求められている。また、一作期だけでなく複数年にわたる輪作体系であれば、前作の収穫作業を当作の計画に組み込む必要があるなど、作業計画の設定はさらに複雑化する問題がある。このような作業計画の策定を事前に行うことは、栽培経験が豊富な生産者や研究者でも容易ではないと考えられる。
【0003】
作物栽培情報と気象データから作物に対する作業適期を算出し、圃場内外の作業、移動に要する時間を考慮して一日に作業可能な圃場や作業順序を算出し、作業計画を提示することについて記載された先行特許がある(特許文献1)。また、気温、日長データと作物栽培情報から、作物の発育ステージを予測する技術は公知であり(非特許文献1)、その作目および品種の発育予測モデルパラメータが既知で、作付日が定まれば、その後の作業予定日は予測できる。当年の降水量により作業の可否を判定し、各作業に要する日数を算出する方法は文献で示されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】堀江・中川、1990、イネの発育過程のモデル化と予測に関する研究、日作紀、59:687-695
【非特許文献2】金谷ら「インターネットを利用した農作業シミュレーションプログラムの開発」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数年に渡って多種の作目および品種を作付ける輪作体系では、作物の発育段階に応じた各作業適期の重複および競合がしばしば問題となる。気象、日長データを用いて作物の発育段階を予測するモデルは広く活用されているが、複数作物および品種の発育予測モデルを組み合わせるアイデア、技術等はこれまで公表されていなかった。また、作物の発育が気温等の気象環境に影響を受けるのと同様に、農業機械作業の進行も降水量の多少に大きく影響される。作付け計画の策定において、単年の気象データを元に予測を行うとそれらの年次変動に結果が左右されるため、気象データについては平年値や確率的な値として扱うことが望ましいが、このような技術は公表されていない。
【0007】
本発明の一態様は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、作物栽培における作業計画を容易に設定する技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る作業計画作成方法は、植物の作目および品種の少なくとも一方を表す作物の発育ステージと、当該作物についての作業毎の作業可能速度とに基づいて、当該作物の作業スケジュールを決定するスケジュール決定工程と、複数の前記作物の前記作業スケジュールを組み合わせて、前記作物を生育させる圃場における作業カレンダーを作成するカレンダー作成工程とを、情報処理装置が実行する。
【0009】
また、本発明の一態様に係る作業計画作成装置は、植物の作目および品種の少なくとも一方を表す作物の発育ステージと、当該作物についての作業毎の作業可能速度とに基づいて、当該作物の作業スケジュールを決定するスケジュール決定工程と、複数の前記作物の前記作業スケジュールを組み合わせて、前記作物を生育させる圃場における作業カレンダーを作成する作業カレンダー作成部とを備えている。
【0010】
本発明の各態様に係る作業計画作成装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記作業計画作成装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記作業計画作成装置をコンピュータにて実現させる作業計画作成装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、作物栽培における作業計画を容易に設定する技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一態様に係る作業計画作成装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す作業計画作成装置における発育ステージの算出の一例を説明する図である。
【
図3】
図1に示す作業計画作成装置における作業可能速度の算出の一例を説明する図である。
【
図4】
図1に示す作業計画作成装置における作業スケジュール作成の一例を説明する図である。
【
図5】
図1に示す作業計画作成装置において作成する作業カレンダーの一例を説明する図である。
【
図6】
図1に示す作業計画作成装置における作業カレンダーの評価基準を示す表の一例を説明する図である。
【
図7】
図1に示す作業計画作成装置が実行する作業計画作成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の一態様に係る作業計画作成装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図9】
図8に示す作業計画作成装置における発育ステージおよび予測収量の算出の一例を説明する図である。
【
図10】
図8に示す作業計画作成装置が実行する作業計画作成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図8に示す作業計画作成装置の変形例において作成する作業カレンダーの一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、説明する。
【0014】
〔作業計画作成装置10〕
図1は、本発明の一態様に係る作業計画作成装置10の要部構成の一例を示すブロック図である。作業計画作成装置10は、作物栽培における作付けや収穫のような農作業を計画的かつ効率的に行うための作業計画の作成を支援する。作業計画作成装置10によれば、一作期において複数の作目および複数の品種を分散して作付けする場合や、輪作体系において前作の収穫作業を当作の作業計画に組み込む場合のような複雑な作業計画の作成も可能である。
【0015】
複数年に渡って多種の作目および品種を作付ける輪作体系では、作物の発育ステージに応じた各作業適期の重複および競合がしばしば問題となる。また、作物の発育が気温等の気象環境に影響を受けるのと同様に、農業機械作業の進行も降水量の多少や土壌環境に大きく影響される。作業計画作成装置10は、多種の作物の発育ステージ、および、農作業に及ぼす気象の影響を考慮して、作業計画を作成するので、作物栽培における作業計画を適切かつ容易に設定することができる。作業計画作成装置10は、作物栽培における作業計画を作成することにより、作付け体系策定を支援する農作業支援システムとして用いることができる。
【0016】
作業計画作成装置10は、複数の作物を栽培する圃場における作業計画を表す作業カレンダーを作成する。作業計画作成装置10が作成する「圃場における作業カレンダー」には、1つの圃場内において複数の作物を栽培する場合の当該圃場内の作業カレンダー、および、作物を複数の圃場において栽培する場合のこれらの圃場における作業カレンダーが含まれ得る。本明細書において、用語「作物」は、植物の作目および品種の少なくとも一方を表し、「複数の作物」は、複数の作目、複数の品種、ならびに、複数の作目および複数の品種が意図される。「複数の作物」は、例えば、イネ品種A、イネ品種B、ダイズ品種C、オオムギ品種D、および、オオムギ品種Eであり得る。
【0017】
作業計画作成装置10は、入力装置20、出力装置30、および記憶装置40に、相互に通信可能に接続されている。また、作業計画作成装置10、入力装置20、出力装置30、および記憶装置40は、それぞれ独立した装置として構成されていてもよいし、これらの少なくとも2つが一体の装置として構成されていてもよい。
【0018】
入力装置20は、ユーザによる作業計画作成装置10に対する入力操作を受け付ける。入力装置20は、一例として、作業計画作成装置10において作業計画を作成するために用いる各種データの入力を受け付ける。入力装置20は、タッチパネル、キーボード、マウス等のユーザが操作することによって、作業計画作成装置10に入力信号を送信する入力装置であり得る。また、入力装置20は、Web APIを介したユーザからの入力を受け付けるものであり得る。
【0019】
出力装置30は、一例として、作業計画作成装置10が作成した作業カレンダーおよびその評価結果を含む作業計画を出力する。出力装置30による出力の態様は特に限定されない。出力装置30は、例えば、作業計画を画像として表示する表示装置、作業計画を印刷する印刷装置、又は、作業計画を音声として出力する警報装置であってもよい。また、出力装置30は、作業計画作成装置10が作成した作業計画を表示する、スマートフォンのようなモバイルデバイスのディスプレイであってもよい。さらに、出力装置30は、Web APIを介してユーザに作業計画を出力するものであり得る。また、出力装置30は、作業計画をデータファイルとして出力する装置であってもよく、さらに、出力したデータファイルをハードディスクなどに保存するものであってもよい。
【0020】
記憶装置40は、作業計画作成装置10にて使用されるプログラムおよびデータを記憶する。記憶装置40は、一例として、入力装置20を介して入力された各種データを記憶している。また、記憶装置40は、一例として、作業計画作成装置10において作業計画を作成するために用いる入力情報および出力情報を記憶している。また、記憶装置40は、各種データを記憶するデータベースをクラウド又はサーバ上に有していてもよい。
【0021】
作業計画作成装置10は、制御部(情報処理装置)11を備えている。制御部11は、作業計画作成装置10の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサおよびメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部11の各部が構成される。当該各部として、制御部11は、受付部12、発育ステージ算出部13、作業可能速度算出部14、作業スケジュール決定部(スケジュール決定部)15、作業カレンダー作成部(カレンダー作成部)16、および判定部17を備えている。
【0022】
<受付部12>
受付部12は、ユーザから入力された入力データを受け付ける。入力データは、作業計画作成装置10による作業計画の作成に用いられるデータであり得る。入力データには、作業対象地点の緯度および経度、作業対象圃場面積、栽培期間毎の作付け作物、作付け希望日、収穫希望日、作付面積、作業能率(「作業速度」と呼ばれることもある)などの情報が含まれ得る。
【0023】
受付部12は、また、作業対象地点の気象データを取得する。受付部12は、外部のクラウドまたはサーバ上に保存された気象情報、Webサイト上において公開されている気象情報などを、気象データとして取得する。気象データには、作業対象地点の気温、日長、降水量、日射量、湿度、風速などの情報が含まれる。また、気象データは、過去の気象データであってもよいし、気象データの平年値または予測値であってもよい。
【0024】
<発育ステージ算出部13>
発育ステージ算出部13は、作物毎の発育ステージを算出する。発育ステージ算出部13は、一例として、作付け時期を所定の期間としたときの前記作物の発育ステージを、前記作物を生育させる圃場における気象データに基づいて算出する。発育ステージ算出部13は、作物毎に生成された発育予測モデルを用いて、作物毎の発育ステージを予測し得る。発育予測モデルは、一例として、気象データの日別値を説明変数とし、作物の発育速度の積算値を目的変数とする回帰モデルであり得る。得られた発育速度の積算値が発育ステージ毎に設定された基準値に達した日に基づいて、作物の発育ステージを予測することができる。一例として、発育速度の積算値が1の場合は出穂期、2の場合は成熟期のように予測することができる。
【0025】
図2を参照して、発育予測モデルを用いた発育ステージの算出について説明する。
図2は、作業計画作成装置10における発育ステージの算出の一例を説明する図である。
図2の表1001においては、C1-1~C1-4の作物を栽培期間1に作付けし、C2-1~C2-2の作物を栽培期間2に作付けする場合が例として示されている。また、
図2の表1001においては、C3-1~C3-4の作物を栽培期間3に作付けし、C4-1の作物を栽培期間4に作付けし、C5-1~C5-3の作物を栽培期間5に作付けする場合が例として示されている。異なる栽培期間は同じ年の期間であってもよいし、異なる年の期間であってもよい。
【0026】
これらの作物について、栽培期間1の作物はE1の気象データ、栽培期間2の作物はE2の気象データ、栽培期間3の作物はE3の気象データ、栽培期間4の作物はE4の気象データ、栽培期間5の作物はE5の気象データ、をそれぞれ用いて、発育ステージを算出する。気象データは、
図2の表1002に示すように、任意の年のデータを、一定期間の連続する開始日から任意の日数分のデータセットとして栽培期間毎に用意する。そして、
図2の表1003に示すように、気象データセットに対して計算した発育ステージをデータセットとして格納する。発育ステージのデータセットは、以降の計算で必要に応じて読み出して使用される。
【0027】
発育予測モデルは、作物毎に作成された公知の発育予測モデルであってもよく、また、統計モデルであっても機械学習モデルであってもよい。また発育ステージは、モデルによる計算値でなく、統計データや経験に基づく暦であってもよい。発育ステージをより正確に予測する観点から、発育予測モデルは、気象データのうち少なくとも気温を参照するモデルであることが好ましい。
【0028】
<作業可能速度算出部14>
作業可能速度算出部14は、作業可能速度を算出する。作業可能速度算出部14は、作物を生育させる圃場における気象データに基づいて、作物毎に、作業毎の作業可能速度を算出する。作業可能速度算出部14は、一例として、気象データから算出された日毎の作業可能確率と、1日あたりの作業面積を表す作業能率とに基づき算出される1日あたりの作業可能面積として、作業可能速度を算出する。1日あたりの作業面積を表す作業能率は、ユーザにより入力される値、予め設定されたデフォルト値などであり得、気象条件に影響されない値であることが意図される。
【0029】
図3を参照して、作業可能速度の算出について説明する。
図3は、作業計画作成装置10における作業可能速度の算出の一例を説明する図である。
図3の表1004に示すように、作物毎の各作業の1日あたりの作業面積を表す作業能率および作業判定降水量の情報を用いる。作物毎の各作業の1日あたりの作業面積を表す作業能率および作業判定降水量の情報は、公的機関などから公開されたものを、取得してもよい。
【0030】
作業能率は、各作物の各作業について、1日あたりに実行可能な作業面積を示しており、圃場間の移動時間、田植え機への苗のセット、収穫物の荷下ろし、乾燥調製時間などを考慮して設定することができる。作業能率は、耕起や収穫などの作業の種類や、作物の種類などに応じて異なり得る。また、作業能率は、作業機械の台数や、作業機械を操作するオペレータの人数を考慮して設定された値であり得る。これにより、例えば、経営規模を拡大する際に作付けしたい複数作物を、安全に作付けおよび収穫できるような作業能率を設定することにより、その作付体系に必要な作業機械の台数やオペレータの人数を算出することもできる。
【0031】
作業判定降水量は、作業を実施する2日前、1日前、または、当日に当該量の降水量以上の降水があった場合には、当該作業の実施適否の基準値を示すものであり、作業の性質や作業を実施する圃場の土性に応じて設定することができる。
【0032】
そして、
図3の表1005に示すように、気象データから算出された作業可能確率を日毎に算出したデータセットを作成する。このようなデータセットは、過去複数年について日毎に限界降水量を超えたか否かを表すデータから、日毎の平均値を作業可能確率として算出する。そして、1日あたりの作業面積を表す作業能率と日毎の作業可能確率とを乗算することで、作業可能速度を算出する。表1005に示す例では、水稲の移植作業について、作業可能確率を作業判定降水量から算出し、作業能率と乗算して、一日あたりの水稲移植面積として作業可能速度を算出している。なお、作業可能確率を算出するために用いる気象データは降水量に限定されず、積雪深や湿度などの他の気象データを用いてもよい。
【0033】
<作業スケジュール決定部15>
作業スケジュール決定部15は、作物毎の作業スケジュールを決定する。作業スケジュール決定部15は、作物の発育ステージと、当該作物についての作業毎の作業可能速度とに基づいて、当該作物の作業スケジュールを決定する。作業スケジュール決定部15は、発育ステージ算出部13が算出した作物の発育ステージと、作業可能速度算出部14が算出した作物の作業毎の作業可能速度とに基づいて、作物の作業スケジュールを決定し得る。作業スケジュールは、作付け開始日を0日として各作業日までの平均日数を表すものであってもよいし、作物毎に各作業を実施する期間をカレンダー上に表示したものであってもよい。作業スケジュール決定部15は、発育ステージおよび作業可能速度に加えて、さらに、圃場における作物の作付面積に基づいて、作業スケジュールを決定してもよい。
【0034】
図2に示す作物毎の発育ステージおよび
図3に示す作業可能速度を参照して決定される作業スケジュールについて説明する。例えば、作物毎に、出穂期、成熟期などの発育ステージと、移植、収穫などの作業可能速度とに基づいて、作付け開始日毎に作業スケジュールを作成する。なお、耕起などの作付け開始前に行う作業については、作物毎に実施してもよいが、複数の作物に対してまとめて実施するように作業スケジュールを作成してもよい。また、ユーザにより作付け希望日が入力された場合には、耕起、代かきなどの作業に要する日数を逆算し、耕起開始日を決定することもできる。
【0035】
図2の表1003に示す例を参照すると、3月1日を移植日(作付け日)、9月7日を成熟期とするような発育ステージの場合、9月7日を収穫作業開始日とし、9月7日の収穫作業の作業可能速度と栽培面積とを考慮して、収穫作業の作業スケジュールを算出する。このように各作業の作業スケジュールを算出し、作付け日から収穫までの全体の作業スケジュールを決定することができる。また、一の作物について、ユーザが入力した作付面積に到達するまで移植作業を行った後、他の作物についての移植作業を開始するように、作付け日毎の発育ステージから作業スケジュールを決定し得る。
【0036】
作業スケジュール決定部15は、ユーザにより入力された作付け希望日に対応する作業開始日を算出してもよいし、作物毎の作業能率とユーザにより入力された作物毎の作付面積とに基づいて算出してもよい。また、ユーザにより入力された作付け希望日に基づいて、耕起、代かきなどの作業に要する日数を逆算した耕起開始日を作業開始日としてもよい。作業スケジュール決定部15は、算出した作業開始日または作付け開始日に対応した発育ステージを抽出して、作業開始日からの各作業の作業スケジュールを決定し得る。
【0037】
作業スケジュール決定部15は、前記作物毎に実施する作業の優先度を基準として、一の栽培期間において、一の作物についての作業が、他の作物についての作業と、同一期間内において重複して実施されないように、当該一の作物の作業スケジュールを決定する。作業スケジュール決定部15による作業スケジュール決定の一例について、
図4を参照して説明する。
図4は、本発明の一態様に係る作業計画作成装置における作業スケジュール作成の一例を説明する図である。
【0038】
図4に示すように、作業スケジュール決定部15は、他の作物の作業スケジュールに基づき、各日の作業の有無を示すカレンダー配列を設ける。カレンダー配列は、日毎の作業の有無を表しており、例えば、他の作物の耕起作業や前作の作物の収穫作業がある日は「1」、作業のない日は「0」と設定する。そして、当該カレンダー配列を参照して作成する作業スケジュールは、暦の早い「0」の日を作業開始日として作成し、カレンダー配列を「1」に変更して更新する。なお、ユーザによる作付け希望日の入力があれば、耕起開始日以前を全て「1」に変更し、作付け希望日よりも前に作付け作業を行わないように設定することもできる。
【0039】
作業スケジュール決定部15が基準とする作物毎に実施する作業の優先度として、例えば、収穫可能な作物や圃場の有無と作業可能な面積とを日ごとに算出し、作付けた作物の順ではなく、成熟期を迎えた順に収穫作業を行うというような優先度を設定することができる。また、作業スケジュール決定部15は、ユーザにより入力された作付面積と算出された作業可能速度とに基づいて作業開始日を算出し、算出した作業開始日と作業可能速度とに基づいて、作業開始日からの作業スケジュールを決定するような優先度を設定してもよい。なお、ユーザによる作付け開始日の入力情報がない場合は、一つ前に行った作業完了日を作業開始日としてもよい。さらに、作業スケジュール決定部15は、各日の作業量が作業可能速度を超えないように、作物毎の作業スケジュールを決定し得る。
【0040】
このように、一の作物についての作業を、他の作物の作業スケジュールにおいて作業を実施しない期間に行うように、当該一の作物の作業スケジュールを決定することにより、作業の競合を回避した作業スケジュールを作成することができる。また、上述したようなカレンダー配列を作成することにより、全ての作物について作業スケジュールを決定した後にも作業無しの日を抽出し、他の作業を実施する日程を決定するために用いることができる。他の作業としては、薬剤散布、追肥、園芸作物の栽培などが例として挙げられる。
【0041】
また、作業スケジュール決定部15は、作物の栽培中にそれまでの気象値や実際の作業を行った期間の確定値を用いて、作業スケジュールを更新してもよい。これにより、その後の作業スケジュールの精度を高めることができる。
【0042】
<作業カレンダー作成部16>
作業カレンダー作成部16は、複数の前記作物の前記作業スケジュールを組み合わせて、前記作物を生育させる圃場における作業カレンダーを作成する。作業カレンダー作成部16は、作物毎に実施する作業の優先度を基準として、一の作物についての作業が、他の作物についての作業と、同一の期間内において重複して実施されないように、当該一の作物の作業スケジュールと他の作物の作業スケジュールとを組み合わせて、作業カレンダーを作成し得る。また、作業カレンダー作成部16は、作業の優先度に合わせて、全栽培期間の栽培スケジュールを修正しながら対象となる栽培期間までの作業カレンダーを作成してもよい。作業スケジュールは作物毎に決定し、これらを組み合わせて作業カレンダーを作成してもよい。作業カレンダー作成の一例について、
図5を参照して説明する。
【0043】
図5は、作業計画作成装置10において作成する作業カレンダーを図示化した一例を説明する図である。
図5に示すように、作物1~5のそれぞれの作物について作成した作業スケジュールをカレンダー上に配置して作業カレンダーの図を作成することができる。作業カレンダー作成部16は、所定の優先順位を基準として、作業スケジュールを組み合わせて、作業カレンダーを作成し得る。優先順位は、前作の収穫日、ユーザの作付け希望日などを優先するように設定することができる。
【0044】
また、作業カレンダー作成部16は、圃場において、一の栽培期間における作物についての作業が、その前の栽培期間における作物についての作業と重複して実施されないように、当該一の栽培期間の作業カレンダーを作成してもよい。作業カレンダー作成部16は、一例として、対象となる栽培期間の作付け日がその前の栽培期間の収穫日よりも後になるように、作業スケジュールを組み合わせて、作業カレンダーを作成する。
【0045】
また、作業カレンダー作成部16は、各日の作業量が作業量限界を超えないように、作物毎の作業スケジュールを組み合わせて、作業カレンダーを作成し得る。作業カレンダー作成部16は、作付面積、圃場の空き面積などを考慮して作業カレンダーを作成してもよい。さらに、作業カレンダー作成部16は、生育限界気温を迎える暦を基準に強制収穫するように作業スケジュールを組み合わせて、作業カレンダーを作成してもよい。
【0046】
ここで、生育限界気温は作物毎に存在し、当該生育限界気温以上の期間内に作付から収穫までを完了する必要がある。したがって、栽培期間は圃場の存在する地域毎に限界が存在する。作物毎の限界気温は公知の情報を参照できる。このような情報の例として、水稲の活着限界気温や登熟停止気温についての報告がある。
【0047】
作業カレンダー作成部16は、このような栽培期間の限界を考慮して、作業カレンダーを作成し得る。また、このような栽培期間の限界に関する情報を用いることにより、現状の栽培面積からどの程度の規模拡大(面積拡大)が可能か、また、どの程度栽培面積を縮小すれば他の品目を栽培する時間的余裕が確保できるかなどの情報を得ることもできる。
【0048】
<判定部17>
判定部17は、作業カレンダーが所定の基準を満たしているか否かを判定する。判定部17は、所定の評価基準に基づいて、作業カレンダーを判定する。作業カレンダーの評価基準の一例について、
図6に示す表を参照して説明する。
図6は、作業計画作成装置10における作業カレンダーの評価基準を示す表の一例を説明する図である。
図6に示すように、番号01~04の評価基準を設定することができる。例えば、番号02であれば、生育限界気温のうちに登熟が完了しているか否かを評価し、完了していないと判定する場合には、その問題点および作業カレンダーの改善方法を判定結果としてユーザに出力する。
【0049】
作業計画作成装置10によれば、一の栽培期間において複数の作目および複数の品種を分散して作付けする場合や、輪作体系において前作の収穫作業を当作の作業計画に組み込む場合のような複雑な作業計画の作成も可能である。作業計画作成装置10は、複数年の長期にわたる気象データから、各作業の実施の可否を確率的に考慮して、日毎の作業可能速度を算出し、作業カレンダーの作成に用いることができるので、複雑な作付け体系においてもより精度よく作業計画を作成することができる。
また、作業計画作成装置10は、作物の環境応答を説明する発育予測モデルを用いて、多様な地域や時期に作付けした作物の発育ステージを予測して作業カレンダーの作成に用いることができるので、より複雑な作付け体系においても作業を分散させるように作業計画を作成することができる。
【0050】
さらに、作業計画作成装置10は、複数年の気象データから作業可能速度を算出して作業カレンダーの作成に用いることができる。作業計画作成装置10は、作業開始日の逆算や、日毎の作業の有無を表すカレンダー配列を利用することにより、ユーザによる入力情報に対して柔軟に対応した作業カレンダーを作成することができる。また、作業計画作成装置10は、作物の生育限界気温に基づき、栽培期間の限界を算出することで、現状の農業機械などの設備を用いて管理可能な限界面積を算出することもできる。
【0051】
〔作業計画作成方法〕
本発明の一態様に係る作業計画作成方法は、情報処理装置により実行される、植物の作目および品種の少なくとも一方を表す作物の発育ステージと、当該作物についての作業毎の作業可能速度とに基づいて、当該作物の作業スケジュールを決定するスケジュール決定工程と、複数の作物の作業スケジュールを組み合わせて、作物を生育させる圃場における作業カレンダーを作成するカレンダー作成工程とを包含する。すなわち、本発明の一態様に係る作業計画作成方法は、作業計画作成装置10のような情報処理装置により実行される作業計画作成処理であり得る。
【0052】
作業計画作成装置10による作業計画作成処理の流れについて、
図7を参照して説明する。
図7は、作業計画作成装置10が実行する作業計画作成処理の一例を示すフローチャートである。
図7に示すように、まず、受付部12は、ユーザから入力された、入力データを受け付ける(ステップS11)。入力データには、作業対象地点の緯度および経度、作業対象圃場面積、前作および当作の作付け作目、作付け開始日(希望日)、収穫希望日、作付面積、作業能率などの情報が含まれ得る。次に、受付部12は、作業対象地点の気象データを取得する(ステップS12)。気象データには、作業対象地点の気温、日長、降水量、日射量、湿度、風速などの情報が含まれる。
【0053】
次に、発育ステージ算出部13は、作付けする作物毎に、発育ステージを算出する(ステップS13)。発育ステージ算出部13は、受付部12が取得した気象データを、作物毎の発育予測モデルに入力することによって、作物毎の発育ステージを算出する。
【0054】
そして、作業可能速度算出部14は、作業可能速度を算出する(ステップS14)。作業可能速度算出部14は、作物毎に作業毎の作業可能速度を算出する。まず、作業可能速度算出部14は、受付部12が取得した気象データから日毎の作業可能確率を算出する。そして、作業可能速度算出部14は、算出した日毎の作業可能確率と、各作業についての1日あたりの作業面積(速度)とに基づき、日毎の作業可能面積を作業可能速度として算出する。
【0055】
そして、作業スケジュール決定部15は、作業開始日を算出する(ステップS15)。作業スケジュール決定部15は、受付部12が受け付けた作付面積および作付け開始日と作業可能速度算出部14が算出した作業可能速度とに基づき、作業開始日を算出する。次に、作業スケジュール決定部15は、算出した作業開始日と作業可能速度とに基づいて、作業スケジュールを決定する(ステップS16)。なお、ユーザによる作付け開始日の入力がない場合は、1つ前の作業期間に行った作業の完了日が作業開始日となる。
【0056】
そして、作業カレンダー作成部16は、作業カレンダーを作成する(ステップS17)。作業カレンダー作成部16は、作業スケジュール決定部15が決定した作物毎の作業スケジュールを組み合わせて、圃場における作業カレンダーを作成する。次に、判定部17は、作業カレンダーの適否を判定する(ステップS18)。そして、判定部17は、作業カレンダーを、その判定結果と共に出力し(ステップS19)、処理を終了する。
【0057】
このような構成によれば、農業の維持および発展につながる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標2「飢餓をゼロに」や目標13「気候変動に具体的な対策を」等の達成にも貢献するものである。
【0058】
〔実施形態1の変形例〕
以下、実施形態1の変形例について、説明する。
【0059】
実施形態1において、作業者が複数いる場合、作業スケジュール決定部15は、作業者ごとに、当該作業者に関連付けられた作業スケジュールを決定し、当該作業者に関連付けられたカレンダー配列を作成してもよい。この変形例において、カレンダー作成部16は、作業者ごとに、当該作業者に関連付けられた作業カレンダーを作成する。このような変形例によれば、例えば、ある作業者が耕起を行っている圃場の隣の圃場で別の作業者が播種をする作業計画のような、複数の作業者が別の作業を同時に行う作業計画を作成することが可能である。
【0060】
本変形例において、作業可能速度算出部14は、作業者ごとに作業可能速度を算出してもよい。この場合、作業可能速度算出部14は、作業者ごとに、操作可能な作業機械の種類、および各種作業の熟練度等の作業者の能力に応じて、作業可能速度を算出する。また、作業スケジュール決定部15およびカレンダー作成部16は、作業者ごとの作業可能速度を参照して、複数の作業者が全体として行う作業量が最大となるように、作業者ごとに作業を割り当て、カレンダー配列および作業カレンダーを作成してもよい。
【0061】
なお、本変形例は、複数の作業者が構成する班が複数ある場合にも適用できる。この場合、作業スケジュール決定部15は、班ごとに、当該班に関連付けられたカレンダー配列を作成してもよく、カレンダー作成部16は、班ごとに、当該班に関連付けられた作業カレンダーを作成してもよい。
【0062】
〔実施形態2〕
以下、本発明の実施形態2について、説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0063】
図8は、本発明の一態様に係る作業計画作成装置10Aの要部構成の一例を示すブロック図である。作業計画作成装置10Aは、作物栽培における作付けや収穫のような農作業を計画的かつ効率的に行うための作業計画の作成を支援する。作業計画作成装置10Aによれば、一作期において複数の作目および複数の品種を分散して作付けする場合や、輪作体系において前作の収穫作業を当作の作業計画に組み込む場合のような複雑な作業計画の作成も可能である。また、作業計画作成装置10Aによれば、作成された作業計画に基づき予測収穫量を出力することができる。
【0064】
複数年に渡って多種の作目および品種を作付ける輪作体系では、作物の発育ステージに応じた各作業適期の重複および競合を回避するように作業計画を作成するが、この場合において、年ごとに作物の作付け時期および作付面積が変動するため、作物の収穫量の予測が容易でないことがある。作業計画作成装置10Aは、作業計画を作成すると共に当該作業計画に基づく収穫量を予測することにより、作付け体系策定を支援する農作業支援システムとして用いることができる。
【0065】
作業計画作成装置10Aは、入力装置20、出力装置30、および記憶装置40に、相互に通信可能に接続されている。入力装置20、出力装置30、および記憶装置40の構成は、実施形態1について上述したものと同一であるため、その説明を繰り返さない。
【0066】
作業計画作成装置10Aは、制御部(情報処理装置)11Aを備えている。制御部11Aは、作業計画作成装置10Aの各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサおよびメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部11Aの各部が構成される。当該各部として、制御部11Aは、受付部12、発育ステージ算出部13、作業可能速度算出部14、作業スケジュール決定部(スケジュール決定部)15、作業カレンダー作成部(カレンダー作成部)16、判定部17、収量算出部18、および収穫量算出部19を備えている。
【0067】
受付部12、発育ステージ算出部13、作業可能速度算出部14、作業カレンダー作成部(カレンダー作成部)16、および判定部17の構成は、実施形態1について上述したものと同一であるため、その説明を繰り返さない。
【0068】
<収量算出部18>
収量算出部18は、作物毎の予測収量を算出する。収量算出部18は、一例として、作付け時期を所定の期間としたときの作物の予測収量を、作物を生育させる圃場における気象データに基づいて算出する。本明細書において、収量とは、単位作付面積当たりの収穫量を指す。収量は、典型的には、作物毎、および作付け日毎に変動する。収量算出部18は、作物毎に生成された収量予測モデルを用いて、作物毎の作付け日ごとの収量を予測し得る。収量予測モデルは、一例として、気象データの積算値を説明変数とし、作物の収量を目的変数とする回帰モデルであり得る。収量予測モデルは、気温や日射量を説明変数とし、作付け日から日々の乾物生産量を予測するモデルと収穫部への乾物分配モデルとを組み合わせたモデルであってもよい。
【0069】
図9を参照して、収量予測モデルを用いた予測収量の算出について説明する。
図9は、作業計画作成装置10Aにおける発育ステージおよび予測収量の算出の一例を説明する図である。
図9においては、表1001Aのうち作物、当該作物の栽培期間、および気象データに関する入力、および表1002の気象データセットは、
図2に示す一例と同一である。また、
図9に示す発育ステージの算出は、発育ステージ算出部13によって実行され、その処理は実施形態1について上述したものと同一であるため、その説明を繰り返さない。
【0070】
これらの作物について、栽培期間1の作物はE1の気象データ、栽培期間2の作物はE2の気象データ、栽培期間3の作物はE3の気象データ、栽培期間4の作物はE4の気象データ、栽培期間5の作物はE5の気象データ、をそれぞれ用いて、予測収量を算出する。一例として、収量算出部18は、栽培期間1(例えば、春から秋まで)に栽培される作物C1-1について設定された収量予測モデルに対して、栽培期間1の気象データE1を説明変数として入力することにより、作物C1-1の予測収量Y1-1を算出する。そして、
図9の表1003Aに示すように、気象データセットに対して計算した発育ステージおよび予測収量をデータセットとして格納する。発育ステージおよび予測収量のデータセットは、以降の計算で必要に応じて読み出して使用される。
【0071】
収量予測モデルは、作物毎に作成された公知の収量予測モデルであってもよく、また、統計モデルであっても機械学習モデルであってもよい。また予測収量は、モデルによる計算値でなく、統計データや経験に基づく量であってもよい。収量をより正確に予測する観点から、収量予測モデルは、気象データのうち少なくとも気温、日長および日射量を参照するモデルであることが好ましく、気象データのうち降水量、湿度および風速の少なくとも1つをさらに参照するモデルであることがより好ましい。
【0072】
<作業スケジュール決定部15>
作業スケジュール決定部15の構成は、実施形態1について上述したものと類似であるため、その詳細な説明を繰り返さない。本実施形態において、作業スケジュール決定部15は、収穫作業の作業スケジュールを算出する際に、作業可能速度および栽培面積に加えて、収量算出部18が算出した予測収量を考慮してもよい。例えば、作業スケジュール決定部15は、収穫作業が行われる圃場について算出された予測収量が多い程、作業可能速度が小さくなるように調整し、作業スケジュールを補正してもよい。
【0073】
<収穫量算出部19>
収穫量算出部19は、作物毎の予測収穫量を算出する。収穫量算出部19は、一例として、予測収量と、圃場における作物の作付面積とに基づいて、予測収穫量を算出する。収穫量算出部19は、予測収量として、
図9の表1003Aに示される収量算出部18が算出した作付け日毎の作物の予測収量を参照し得る。また、収穫量算出部19は、作付面積を決定する要素として、作業カレンダー作成部16が作成した作業カレンダーにおける作付け作業日、および作業可能速度算出部14が算出した作業可能速度を参照し得る。収穫量算出部19は、作付け作業日1日における作業可能速度に当該作付け作業日の作物の予測収量を乗算し、作付け作業日1日当たり予測収穫量を算出する。また、収穫量算出部19は、作付け作業日1日当たり予測収穫量を全ての作付け作業日に渡って積算し、栽培期間全体での予測収穫量を算出する。
【0074】
収穫量算出部19は、算出した作物毎の予測収穫量を出力装置30または記憶装置40に出力する。収穫量算出部19は、作物の予測収穫量に、当該作物の売上単価または単位利益を乗算することにより、予測売上額または予測利益額を算出し、出力装置30または記憶装置40に出力してもよい。ユーザは、出力された作物毎の予測収穫量を参照することにより、収穫物の販売計画または加工計画を容易に作成することができる。また、ユーザは、出力された作物毎の予測売上額または予測利益額を参照することにより、農業経営に関する種々の投資、例えば農業機械の購入、土壌の改質または作業員の雇用、について、計画を容易に作成することができる。
【0075】
収穫量算出部19は、栽培期間全体での予測収穫量に加えて、収穫日ごとの予測収穫量を算出し、出力装置30または記憶装置40に出力してもよい。この場合において、収穫量算出部19は、収穫作業が行われる圃場について算出された予測収量に、収穫作業が行われる日の作業可能速度を乗算することにより、収穫日ごとの予測収穫量を算出する。ユーザは、収穫日ごとの予測収穫量を参照することにより、収穫物の販売計画または加工計画をより容易に作成することができる。農業経営においては、1日のうちに収穫と、その収穫物の乾燥調整、出荷または加工との両方の作業を行う場合がある。収穫日ごとの予測収穫量を出力する本実施形態は、このような場合に特に有用である。例えば、ユーザは、収穫作業より後の乾燥調整、出荷や加工の作業が律速になると見込まれる場合に、収穫作業者とは別に、出荷作業者を確保する等の対応を検討したり、律速を回避するように作業計画作成装置10Aに作業カレンダーを再作成させたりすることができる。
【0076】
〔作業計画作成方法〕
本発明の一態様に係る作業計画作成方法は、作業計画作成装置10Aのような情報処理装置により実行される作業計画作成処理であり得る。作業計画作成装置10Aによる作業計画作成処理の流れについて、
図10を参照して説明する。
図10は、作業計画作成装置10Aが実行する作業計画作成処理の一例を示すフローチャートである。
図10に示す作業計画作成処理は、ステップS11、ステップS12、ステップS13、ステップS20、ステップS14、ステップS15、ステップS16、ステップS17、ステップS21、ステップS18、およびステップS19を包含する。以下、
図10に示す作業計画作成処理について、説明する。ここで、ステップS11、ステップS12、ステップS13、ステップS14、ステップS15、ステップS16、ステップS17、ステップS18、およびステップS19の構成は、実施形態1について上述したものと同一であるため、その説明を繰り返さない。
【0077】
収量算出部18は、作物毎の予測収量を算出する(ステップS20)。収量算出部18は、一例として、作付け時期を所定の期間としたときの作物の予測収量を、作物を生育させる圃場における気象データに基づいて算出する。ステップS20は、ステップS11および12の後、且つステップS21の前に実行されればよい。例えば、作業スケジュール決定部15が、収量算出部18が算出した予測収量を考慮して作業スケジュールを算出する場合には、ステップS20は、ステップS11および12の後、且つステップS16の前に実行されればよい。収穫量算出部19は、作物毎の予測収穫量を算出する(ステップS21)。収穫量算出部19は、一例として、予測収量と、圃場における作物の作付面積とに基づいて、予測収穫量を算出する。ステップS21は、ステップS20およびS17の後に実行されればよい。
【0078】
〔実施形態2の変形例〕
以下、実施形態2の変形例について、説明する。本変形例では、作業計画作成装置10Aが、ユーザから入力された目標収穫量を参照して、予測収穫量が当該目標収穫量に達するように、作業計画を作成するので、所望の収穫量を達成すると期待される作業計画を適切かつ容易に設定することができる。以下、本変形例の構成のうち、実施形態2と異なる構成について、説明する。
【0079】
<受付部12>
受付部12は、ユーザから入力された入力データを受け付ける。ここで、入力データには、作物毎の目標収穫量の情報が含まれる。後述するように、本変形例において、作業カレンダー作成部16は、作付面積を参照せずに作業カレンダーを作成する。そのため、入力データは、作付面積の情報を含まなくともよい。しかしながら、本実施形態はこれに限定されず、入力データは、作付面積の情報、例えばユーザが保有する圃場であって、作付可能な圃場の総面積(作付可能総面積)の情報を含んでもよい。
【0080】
<作業カレンダー作成部16>
作業カレンダー作成部16は、予測収量に基づいて算出される予測収穫量が所定の目標収穫量に達するように、作業カレンダーを作成する。作業カレンダー作成部16は、一例として、作付け作業日1日における作業可能速度に当該作付け作業日の作物の予測収量を乗算し、作付け作業日1日当たり予測収穫量を算出する。そして、作業カレンダー作成部16は、作付け作業日1日当たりの予測収穫量の積算値(即ち、栽培期間中の予測収穫量)が目標収穫量に達するように、作付け作業日およびその他の作業日を決定し、作業カレンダーを作成する。ここで、作業カレンダー作成部16は、作物毎の優先度の順に作業カレンダーを作成する。具体的には、作業カレンダー作成部16は、第1作物について予測収穫量が所定の目標収穫量に達するように第1作物の作業カレンダーを作成した後、第1作物に次ぐ優先度である第2作物の作業カレンダーについて、同様の処理を実行する。本変形例において、作業カレンダー作成部16は、予測収穫量が所定の目標収穫量に達するように作業カレンダーを作成するため、作付面積を参照しなくともよい。優先度の一例として、作業カレンダー作成部16は、作物ごとの収穫作業を、作物の作付け順ではなく、成熟期(収穫可能となった日)を迎えた順に作業を設定してもよい。例えば、
図11に示す作業カレンダーの一例は、作物3が、作物4よりも先に作付けされ、作物4よりも後に刈り取りされる計画を示す。
【0081】
また、作業カレンダー作成部16は、予測収量に基づいて算出される予測収穫量が所定の目標収穫量に達するように、圃場における作物の作付面積を決定する。作業カレンダー作成部16は、一例として、上記のように作成した作業カレンダーを参照して、作物毎に、作業可能速度を作付け作業日について積算し、その積算値を作物の作付面積とする。決定された作付面積は、当該作物について所定の目標収穫量を達成するために必要な作付面積と考えることができる。
【0082】
本変形例における作業カレンダー作成の一例について、
図11を参照して説明する。
図11は、
図8に示す作業計画作成装置10Aの変形例において作成する作業カレンダーの一例を説明する図である。
図11に示すように、作業カレンダー作成部16は、作業カレンダーに加えて、表1006に示す処理結果を作成する。表1006は、ユーザから入力された目標収穫量と、作業カレンダーから算出される必要な作付面積、必要な作付面積の合計(作付総面積)、入力データに含まれた作付可能総面積、ならびに作付総面積と作付可能総面積との比較結果(作付総面積≦作付可能総面積なら「OK」、作付総面積>作付可能総面積なら「NG」と表示される)を表示する。ユーザは、表1006を参照することで、作物毎に必要な作付面積、および作付総面積を容易に把握し、圃場に各作物を割り当てることができる。
【0083】
〔ソフトウェアによる実現例〕
作業計画作成装置10および10Aそれぞれ(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部11に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0084】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0085】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0086】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0087】
また、上記実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0088】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
10 作業計画作成装置
15 作業スケジュール決定部(スケジュール決定部)
16 作業カレンダー作成部(カレンダー作成部)
17 判定部