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特開2024-152684半導体用処理液、該半導体用処理液を用いた基板の処理方法及び半導体素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152684
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】半導体用処理液、該半導体用処理液を用いた基板の処理方法及び半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
H01L21/308 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063777
(22)【出願日】2024-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2023066585
(32)【優先日】2023-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】置塩 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】野村 奈生人
(72)【発明者】
【氏名】沖村 孝史郎
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA37
5F043BB25
5F043DD07
(57)【要約】
【課題】SiCNを処理できる半導体用処理液等を提供すること。
【解決手段】硝酸化合物、沸点が105℃以上の酸、および水を含有する、SiCNの半導体用処理液を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸化合物、沸点が105℃以上の酸、および水を含有する、SiCNの半導体用処理液。
【請求項2】
前記硝酸化合物が、硝酸塩及び亜硝酸塩から成る群から選択される1種以上である、請求項1に記載の半導体用処理液。
【請求項3】
前記半導体用処理液における前記硝酸化合物の濃度が、0.1質量%以上20質量%以下である、請求項1又は2に記載の半導体用処理液。
【請求項4】
前記硝酸化合物が、硝酸アンモニウム、及び第四級硝酸アルキルアンモニウムから成る群から選択される1種以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体用処理液。
【請求項5】
前記沸点が105℃以上の酸が、リン酸、硫酸、硝酸、塩酸、ホウ酸、テトラフルオロホウ酸、及び有機酸から成る群から選択される1種以上の酸である、請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体用処理液。
【請求項6】
前記半導体用処理液が、SiCNのエッチング液である、請求項1~5のいずれか一項に記載の半導体用処理液。
【請求項7】
SiO面およびSiCN面を有する基板に、請求項1~6のいずれか一項に記載の半導体用処理液を接触させ、前記SiCN面を選択的にエッチングする基板の処理方法。
【請求項8】
前記エッチングを105℃以上200℃以下の範囲で行う、請求項7に記載の基板の処理方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の基板の処理方法を製造工程中に含む、半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCN(炭窒化ケイ素)を処理する半導体用処理液に関する。また、本発明は該半導体用処理液を用いた基板の処理方法に関する。また、本発明は該半導体用処理液を用いた半導体素子の製造方法に関する。なお、基板には、半導体ウエハ、又はシリコン基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造工程では種々の材料が用いられているが、その中でSiN(窒化ケイ素)やSiCNは、銅拡散バリア膜、パッシベーション膜、エッチストップ膜、表面保護膜、ガスバリア膜など様々な分野に有用であることが知られており、シリコンウエハやその加工体等の基材上に、SiN膜(窒化ケイ素膜、シリコン窒化膜)やSiCN膜(炭窒化ケイ素膜、シリコン炭窒化膜)を形成させ用いられている。ここでSiCNとは、例えば非特許文献1に示すようにケイ素、炭素、窒素の骨格からなる化合物にさらに水素や酸素を含む化合物も含む。
【0003】
半導体のパターン形成においては、基板上に形成されたSiN膜やSiCN膜を、SiまたはSiОに対して選択的にエッチングする工程が必要な場合がある。
【0004】
SiNのエッチングには、一般的にリン酸水溶液が用いられている。しかしながら、SiCNはSiNと異なりリン酸水溶液ではほとんどエッチングされず、特にSiCN中の炭素含有量が多いほどエッチングされにくくなる。
【0005】
SiCNをエッチングする方法に関しては、酸化剤、フッ素化合物、水を含む組成物を用いる方法が提案されているが(特許文献1)、実施例に記載されているSiCNのエッチング速度は250Å/30min未満であり、十分な速度は出ていない。またこのような組成物は、酸化ケイ素膜(SiO膜、シリコン酸化膜)もエッチングしてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-049145号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ECS Journal of Solid State Science and Technology, 8 (6) P346-P350 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体素子の製造において、SiCNの使用はより優れた性能を与えるが、上述のように特にSiCNを溶かす処理ができる、具体的にはSiCNをエッチングできる半導体用処理液が存在せず、その使用場面は極めて限られたものであった。したがって本発明の目的は、SiCNの半導体用処理液、該半導体用処理液を接触させる工程を含む基板の処理方法、及び該基板の処理方法を含む半導体素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み、SiCNを溶かす処理を行える組成物について鋭意検討した。その結果、従来からSiNのエッチングに使用されていた、リン酸などの沸点が1
05℃以上の酸に、さらに硝酸化合物を含有させることにより、SiCNのエッチング速度を向上させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下を要旨とする。なお、本明細書において、SiCNの半導体用処理液とは、SiCNを有する半導体を溶かす処理を行うための溶液である。
[1] 硝酸化合物、沸点が105℃以上の酸、および水を含有する、SiCNの半導体用処理液。
[2] 前記硝酸化合物が硝酸塩及び亜硝酸塩から成る群から選択される1種以上である、[1]に記載の半導体用処理液。
[3] 前記半導体用処理液における前記硝酸化合物の濃度が、0.1質量%以上20質量%以下である、[1]又は[2]に記載の半導体用処理液。
[4] 前記硝酸化合物が、硝酸アンモニウム、及び第四級硝酸アルキルアンモニウムから成る群から選択される1種以上である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の半導体用処理液。
[5] 前記沸点が105℃以上の酸が、リン酸、硫酸、硝酸、塩酸、ホウ酸、テトラフルオロホウ酸、及び有機酸から成る群から選択される1種以上の酸である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の半導体用処理液。
[6] 前記半導体用処理液が、SiCNのエッチング液である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の半導体用処理液。
[7] SiO面およびSiCN面を有する基板に、[1]~[6]のいずれか一項に記載の半導体用処理液を接触させ、前記SiCN面を選択的にエッチングする基板の処理方法。[8] 前記エッチングを105℃以上200℃以下の範囲で行う、[7]に記載の基板の処理方法。
[9] [7]又は[8]に記載の基板の処理方法を製造工程中に含む、半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硝酸化合物、沸点が105℃以上の酸、および水を含有する溶液を半導体用処理液として使用することにより、SiCNを処理、例えばエッチングすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(半導体用処理液)
本発明の一実施形態に係る半導体用処理液は、硝酸化合物、沸点が105℃以上の酸、および水を含む溶液からなり、SiCNの処理に用いるものである。
ここで、本発明において「処理」とは、前記半導体用処理液を用いた、半導体製造工程におけるエッチング、残渣除去、洗浄、CMP等の処理のことである。
本発明の半導体用処理液は硝酸化合物を必須成分とする。硝酸化合物とは、窒素酸化物(N:X,Yは独立して、1~6の整数)を含む化合物と定義する。該化合物は、塩、イオン、ガス、または水和物である。半導体用処理液中に硝酸化合物が存在することにより、SiCNに含まれるSi-C結合の開裂が促進され、SiCNのエッチング速度が上昇する。そのため、炭素含有量が多いSiCNのエッチングに効果的である。
【0013】
SiCN(炭窒化ケイ素)は硝酸化合物を含まないリン酸などの沸点が105℃以上の酸の水溶液ではほとんどエッチングされないが、これはSi-C結合とSi-N結合の極性の差に起因すると考えられる。Si原子との電気陰性度の差は、N原子よりもC原子のほうが小さい。よって、Si-C結合はSi-N結合と比較して分極が小さいため、酸による求電子付加反応が起こりにくく、SiCNのエッチングがほとんど進行しないと考えられる。一方、半導体用処理液がリン酸などの沸点が105℃以上の酸の水溶液に加えて硝酸化合物を含むと、硝酸化合物由来の活性種がSi-C結合に作用してSiCNのエッ
チングが進行すると考えられる。
【0014】
本発明の半導体用処理液において、硝酸化合物の含有量は0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。硝酸化合物の含有量が0.1質量%より少ないと、SiCNのエッチング速度が実用的に十分な速度とならないことがある。一方、硝酸化合物の含有量は多い方がSiCNのエッチングの促進効果は高いが、硝酸化合物の含有量が20質量%を超えると酸や水の配合量を十分なものとし難くなる。本発明の半導体用処理液における硝酸化合物の含有量は、より好ましくは0.5質量%以上18質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上15質量%以下である。
【0015】
上記濃度ではSiOに対してSiCNを選択的にエッチングすることができるが、さらにSiに対してSiCNを選択的にエッチングしたい場合、硝酸化合物の含有量は5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。硝酸化合物の含有量が5質量%より少ないとSiのエッチング速度は高いが、硝酸化合物の含有量を増やしていくとSiのエッチング速度が抑制され、SiCNのエッチング速度は上昇するため、Siに対してSiCNを選択的にエッチングすることができる。硝酸化合物の含有量は、より好ましくは5.5質量%以上18質量%以下、さらに好ましくは6質量%以上15質量%以下である。
【0016】
上記硝酸化合物としては特に限定はされないが、後述するように本発明の半導体用処理液には金属が含まれてない方が好ましいため、硝酸ナトリウムのような金属硝酸塩は避けることが好ましい。
このような硝酸化合物としては、硝酸塩、及び亜硝酸塩(いずれも金属塩を除く)から成る群から選択される1種以上を挙げられる。好ましくは、硝酸アンモニウム、及び第四級硝酸アルキルアンモニウムから成る群から選択される1種以上であることが挙げられる。第四級硝酸アルキルアンモニウムのアルキルの炭素数は、それぞれ独立して、1~5であってもよい。硝酸化合物の具体例としては、硝酸アンモニウム、硝酸テトラメチルアンモニウム、硝酸テトラエチルアンモニウム、硝酸テトラプロピルアンモニウム、及び硝酸テトラブチルアンモニウムから成る群から選択される1種以上を挙げることができる。これら硝酸化合物は1種類を単独で使用してもよく、種類の異なるものを複数混合して使用してもよい。
【0017】
本発明の半導体用処理液における酸は、SiCNのエッチング反応を進行させるために使用される必須成分である。SiCNのエッチングをより高温で行うため、前記酸は沸点が105℃以上のものを用いる必要がある。
前記酸は沸点が105℃以上(固体の場合は分解点が105℃以上)のものを用いる。これは、後述の通りSiCNのエッチングをより高温の105℃以上で行うことが好ましいためである。このような酸を具体的に例示すると、リン酸、硫酸、硝酸、塩酸、ホウ酸、テトラフルオロホウ酸、及び有機酸から成る群から選択される1種以上の酸等を挙げることができる。ここで、有機酸とは酸性を示す有機物のことである。有機酸として、炭素数1~8のものを挙げることができ、例えば、酢酸及びクエン酸のいずれか一種以上を挙げることができる。また、前記酸としては、リン酸、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、クエン酸、ホウ酸、テトラフルオロホウ酸、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸及びメタンスルホン酸から成る群から選択される1種以上がより好ましく、リン酸、硫酸がさらに好ましい。これらの酸は1種類を単独で使用してもよく、種類の異なるものを複数混合して使用してもよい。なお、本明細書における沸点が105℃以上の酸は、前述した硝酸化合物を含まない概念とする。
【0018】
半導体用処理液に含まれる沸点が105℃以上の酸の含有量は、55質量%以上98質量%以下である。沸点が105℃以上の酸が少なすぎるとSiCNのエッチング速度が十分なものとならない。さらにはSiCNのエッチングは高温で行った方が、エッチング速
度が速くて有利であり、酸の割合が多い方がより高温で安定して使用できる。一方、本発明の半導体用処理液には硝酸化合物や水が必須であり、沸点が105℃以上の酸の含有量が98質量%を超えると硝酸化合物や水の配合量が少なくなりSiCNのエッチング速度が低下する。本発明の半導体用処理液における沸点が105℃以上の酸の含有量は、好ましくは57質量%以上96質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上94質量%以下である。
【0019】
上記酸の中でもリン酸、及び硫酸からなる群から選択される1種以上の酸は沸点が高いこと、半導体製造用として高純度品が製造・販売されていることから、本発明の半導体用処理液に好適に用いられる。なお本明細書において、各成分の配合量が質量%で記載されている場合、該数値は半導体用処理液全体を100質量%とした場合の割合である。
【0020】
なおリン酸の濃厚溶液は、液中でオルトリン酸(HPO)とポリリン酸の平衡状態にあるが、上記含有量は全量がオルトリン酸として存在するとした場合の量である。ピロリン酸等として存在していた場合も同様である。
【0021】
本発明の半導体用処理液は水を必須成分とする。水が存在しないとSiCNのエッチングの反応が進行しない。水は不純物が少ない純水や超純水を使用することが好ましい。他の成分の種類や量にもよるが、水の含有量は1質量%以上44.9質量%以下、好ましくは2質量%以上42.5質量%以下、より好ましくは3質量%以上39質量%以下である
。なお、沸点が105℃以上の酸としてリン酸を用いる場合、上記の水の含有量は、前記リン酸が全てオルトリン酸として存在するとした場合の量である。
【0022】
さらに、本発明の半導体用処理液はセリウム化合物を含んでいてもよい。例えば、セリウム水酸化物、セリウム塩、並びにセリウム及びセリウム以外の陽イオン(例えばアンモニウムイオン)を含む複塩の一種以上を使用することができる。セリウム化合物として好ましくは、硝酸セリウム、硫酸セリウム、硝酸セリウムアンモニウム、硫酸セリウムアンモニウム等である。なおこれらは、水和物であってもよい。半導体用処理液がセリウム化合物を含む場合、SiOのエッチング速度をほとんど変化させることなく、SiCNのエッチング速度を向上させることができる。
【0023】
本発明の半導体用処理液は上記硝酸化合物、沸点が105℃以上の酸、および水のみからなっていてよく、この3成分で十分なエッチング速度と選択性を得ることができる。しかしながら本発明の目的を損なわない範囲で、有機溶剤や界面活性剤等の成分がさらに含有されていてもよい。有機溶剤としては、硝酸化合物、酸および水が溶解するものであればよい。後述の通りSiCNのエッチングを高温の105℃以上で行うことが好ましいため、沸点が105℃以上の有機溶剤であることが好ましく、例えばジメチルスルホキシド等が挙げられる。ジメチルスルホキシドを用いた場合、Siに対するSiCNの選択的なエッチングの能力が向上する。界面活性剤としては、エッチング液中で分解しないものであれば、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤のいずれを用いてもよい。このような界面活性剤はシリコン基板表面の濡れ性を改善して、SiCN面とエッチング液の接触をより均一なものとすることでSiCN面の均一なエッチングに寄与する。
【0024】
本発明の半導体用処理液は、配合される全ての成分が溶解している均一な酸性の溶液である。ここで均一溶液とは25℃で、水相と有機相などに分相していたり、目視で確認できる固形物が分散していたりしていない溶液である。均一溶液であるか否かは、目視で確認してもよいが、一般的なレーザーポインター(例えば、東心製TLP-3200、最大出力:1mw未満、波長:650~660nm)を半導体用処理液に照射し、光路が認められないことで均一溶液と判断することが好ましい。前記レーザーポインターを半導体用
処理液に照射し、光路が認められる場合は不均一溶液である。不均一溶液を半導体用処理液として用いた場合、溶解していない成分がウエハや装置等の汚染の原因となったり、不均一なエッチングの原因となったりする可能性があるため、半導体用処理液として使用することは好ましくない。さらに、例えばエッチング時の汚染を防ぐという意味で200nm以上のパーティクルが100個/mL以下であることが好ましく、50個/mL以下であることがより好ましい。
処理対象の汚染防止という観点からは、金属不純物も可能な限り少ない方が好ましく、具体的には、Ag、Al、Ba、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Ni、Pb、Zn、Prがいずれも1ppm以下であることが好ましい。
本発明の半導体用処理液には、配合される成分に由来する複合塩や分解物、不純物等が含まれていてもよい。例えば、リン酸、硝酸テトラブチルアンモニウム、水の3成分を配合した場合、該半導体用処理液中に亜硝酸イオンや二酸化窒素、トリブチルアミン等が含まれていてもよい。
【0025】
(製造方法)
本発明の半導体用処理液の製造方法は特に限定されるものではなく、例えば上述の硝酸化合物、沸点が105℃以上の酸、および水を、所定の濃度となるよう混合、均一になるように溶解させればよい。
沸点が105℃以上の酸は、前記したような金属不純物や不溶性の不純物が可能な限り少ないものを用いることが好ましく、必要に応じて市販品を再結晶、カラム精製、イオン交換精製、蒸留、昇華、濾過処理等により精製して使用できる。またリン酸や硫酸を用いる場合、半導体製造用として製造・販売されている高純度品を用いることが好ましい。
硝酸化合物もできるだけ純度の高いものを用いることが好ましく、必要に応じて市販品を再結晶、カラム精製、イオン交換精製、濾過処理等により精製して使用することができる。また例えば硝酸テトラメチルアンモニウムは、半導体製造用として製造・販売されているテトラメチルアンモニウム・ハイドロオキサイド(TMAH)水溶液と、同硝酸を中和させることで不純物の少ない高純度品を得ることができ、このような高純度品を用いることが好ましい。
水もまた不純物が少ない高純度のものを使用することが好ましい。不純物の多寡は電気抵抗率で評価でき、具体的には、電気抵抗率が0.1MΩ・cm以上であることが好ましく、15MΩ・cm以上の水がさらに好ましく、18MΩ・cm以上が特に好ましい。このような不純物の少ない水は、半導体製造用の超純水として容易に製造・入手できる。さらに超純水であれば、電気抵抗率に影響を与えない(寄与が少ない)不純物も著しく少なく、適性が高い。
【0026】
本発明の半導体用処理液の製造においては、各成分を混合溶解させたのち、数nm~数十nmのフィルターを通し、パーティクルを除去することも好ましい。必要に応じ、フィルター通過処理は複数回行ってもよい。またその他、半導体製造用薬液の製造方法として公知の種々の処理を施すことができる。
【0027】
(用途及び使用方法)
本発明の半導体用処理液は、半導体素子の製造に際して、SiCN面を含む基板の処理、例えば、エッチング、残渣除去、洗浄、CMP等に用いることができる。つまり、本発明の半導体用処理液は、SiCN面を含む基板のエッチング液、残渣処理液、洗浄液または研磨処理液として用いることができる。なお通常、SiCN面を有する基板は、CVD法、PVD法、ALD法、昇華再結晶等の方法でSiCN膜を基板上に形成することで得られる。本発明の半導体用処理液をSiCNのエッチング液として用いる場合、上記のような公知の方法で形成されたいずれのSiCN面でもエッチングすることができる。また半導体素子の製造時に用いられているSiCN膜は、その製法によっては、ケイ素に対して最大で133原子%の量の水素を含む場合があるが、そのような水素を含んだものも本
発明においてエッチング対象とするSiCNに該当する。さらに本発明でエッチング対象とするSiCNには、通常含まれる範囲で各種の不純物元素(例えば酸素)が含まれていてもよい。
さらに、本発明の半導体用処理液は、SiO面と、SiCN面とを有する基板の処理に用いることができる。本発明の半導体用処理液をエッチング液として使用すれば、SiO面のエッチングを抑制しながらSiCN面を選択的にエッチングすることができる。つまり、本発明の半導体用処理液を用いれば、SiOに対してSiCNを選択的にエッチングすることができる。
【0028】
本発明の半導体用処理液を用いた基板の処理方法は、基板を水平姿勢に保持する基板保持工程と、当該基板の中央部を通る、鉛直な回転軸線まわりに前記基板を回転させながら、前記基板の主面に本発明の半導体用処理液を供給する処理液供給工程とを含む。
本発明の半導体用処理液を用いた基板の他の処理方法は、複数の基板を直立姿勢で保持する基板保持工程と、処理槽に貯留された本発明の半導体用処理液に前記基板を直立姿勢で浸漬する工程とを含む。本発明の好ましい実施形態では、半導体用処理液をエッチング液として用いる場合、SiCN面、特にSiO面と、SiCN面とを有する基板をエッチングする際に、半導体用処理液を供給して、SiCN面部分を選択的にエッチングする工程を含む半導体素子の製造に用いる。
本発明の半導体用処理液を用いたエッチングの際の半導体用処理液の温度は、所望のエッチング速度、エッチング後の表面状態、生産性等を考慮して105℃以上200℃以下の範囲から適宜決定すればよいが、105℃以上190℃以下の範囲とするのが好適である。200℃を超える温度では、SiCN以外の半導体材料に対してダメージが発生することがあり、105℃未満の温度では、工業的に満足できる速度でSiCNをエッチングすることが難しい。
本発明の半導体用処理液を用いたエッチングの際、超音波等を使用し、エッチングを促進してもよい。
【0029】
本発明の半導体用処理液を用いた基板処理の後、基板の表面に残存する不純物がある場合、不純物を除去するために公知の種々の処理を施してもよい。例えば、リンス液を用いて基板にリンス処理を行う方法がある。リンス液としては公知のものが使用でき、塩酸、フッ酸、硫酸等の酸性水溶液、アンモニア水等のアルカリ水溶液、フッ酸と過酸化水素水との混合液(FPM)、硫酸と過酸化水素水との混合液(SPM)、アンモニア水と過酸化水素水との混合液(APM)、塩酸と過酸化水素水との混合液(HPM)等が挙げられる。これらを単独で使用してもよいし、複数のリンス液を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明の半導体用処理液を用いた基板の処理方法においては、基板の処理後のエッチング液を回収し、フィルターろ過や半導体用処理液の成分の濃度調整などの再生処理を行った後に別の基板の処理に使用してもよい。成分の濃度調整として沸点が105℃以上の酸や水分、硝酸イオン等の濃度をモニターしながらフレッシュな沸点が105℃以上の酸や水、硝酸化合物を追添加する機構を備えてもよい。また、水分の調製には水や水で希釈した低濃度の酸を使用してもよい。
【実施例0031】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例、比較例での実験方法/評価方法は以下の通りである。
【0032】
(半導体用処理液の調製方法)
硝酸化合物、沸点が105℃以上の酸、および水の所定量をフッ素樹脂製フラスコに入れ、所定の温度となるよう温度を設定したオイルバスに浸けて600rpmで液を攪拌し
ながら30分間加熱した。
【0033】
(エッチング速度の評価方法)
SiCNを成膜した2×1cmサイズのシリコンウエハ(SiCN膜)を用意し、分光エリプソメーター((J.A.Woollam社製M-2000D))で初期の膜厚を測定した。所定の温度に加熱した半導体用処理液300gに、SiCN膜を浸漬した。リンス処理によりウエハを洗浄し乾燥させた後、分光エリプソメーターで膜厚を測定した。エッチング速度は、初期と処理後の膜厚差からSiCNのエッチング量を求め、エッチング時間で除することにより求めた。
Siを成膜した2×1cmサイズのシリコンウエハ(Si膜)、および熱酸化膜を成膜した2×1cmサイズのシリコンウエハ(SiO膜)についても、上記SiCN膜と同様にして、Si膜、およびSiO膜を浸漬し、エッチング速度を算出した。
これらの測定結果から、SiCN膜とSiO膜のエッチング速度比(SiCN/SiO選択比)、SiCN膜とSi膜のエッチング速度比(SiCN/Si選択比)を求めた。
なお半導体用処理液の浸漬時間は、初期の膜厚と予想されるエッチング速度との兼ね合いで決定した。実施例ではSiCN膜は1分間と4分間とし、エッチング量とエッチング時間、それぞれの変化量からエッチング速度を算出した。SiO膜は5分間とした。Si膜は、実施例1は1分間、実施例5は2分間、それ以外の実施例で3分間とした。比較例ではSiCN膜は4分間、SiO膜とSi膜はともに10分間とした。
【0034】
(略号)
用いた硝酸化合物、その他添加剤は、表中では以下のように略記している。
TPANO:硝酸テトラプロピルアンモニウム
TBANO:硝酸テトラブチルアンモニウム
DMSO:ジメチルスルホキシド
【0035】
(実施例1)
実施例1ではリン酸と水に加え、さらに硝酸化合物として硝酸テトラブチルアンモニウムを配合した半導体用処理液を調製し、140℃に加熱して評価を行った。具体的な組成は表1、評価結果は表2に示した。硝酸化合物を添加していない場合(比較例1)と比較して、SiCNのエッチング速度が2倍以上になった。
【0036】
(実施例2~4)
実施例2~4では、硝酸テトラブチルアンモニウムと水の配合量を変えた以外は、実施例1と同様にして評価を行った。具体的な組成は表1、評価結果は表2に示した。硝酸化合物の濃度が増えるにつれてSiCNのエッチング速度が向上し、Siのエッチング速度は抑制された。このため、SiCN/Si選択比も向上した。
【0037】
(実施例5~7)
実施例5~7では、各成分の配合量を変えたことと、エッチングする温度を上げたこと以外は、実施例1と同様にして評価を行った。具体的な組成は表1、評価結果は表2に示した。エッチングする温度を上げるとSiCNのエッチング速度は大きく向上し、硝酸化合物の濃度を増やすとSiCNのエッチング速度はさらに向上した。
【0038】
(実施例8)
実施例8では、硝酸化合物として硝酸テトラプロピルアンモニウムを用いたことと、エッチングする温度を上げたこと以外は、実施例1と同様にして評価を行った。具体的な組成は表1、評価結果は表2に示した。同じ温度で処理した実施例7と比較すると、SiCNのエッチング速度は同様に良好であった。
【0039】
(実施例9、10)
実施例9、10では、硝酸テトラブチルアンモニウム、リン酸、水を表1に示す配合量とし、さらにジメチルスルホキシドを添加した以外は実施例1と同様にして評価を行った。具体的な組成は表1、評価結果は表2に示した。ジメチルスルホキシド未添加の実施例3と比較すると、Siのエッチング速度が抑制された。さらにジメチルスルホキシドの濃度を増やすとSiCNのエッチング速度が向上し、Siのエッチング速度は抑制された。このため、SiCN/Si選択比も向上した。
【0040】
(比較例1、2)
比較例1、2では、硝酸化合物を使用せずに、従来からSiN膜のエッチングに使用される、リン酸と水からなるエッチング液を調製した。具体的な組成、温度は表1、評価結果は表2に示した。この組成では、SiCNはほとんどエッチングされなかった。
【表1】
【0041】
【表2】