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特開2024-1531アルミニウムドロスの無害化処理方法、及び処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001531
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】アルミニウムドロスの無害化処理方法、及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20231227BHJP
   C01F 7/30 20220101ALI20231227BHJP
   C01F 7/42 20220101ALI20231227BHJP
   B09B 101/55 20220101ALN20231227BHJP
【FI】
B09B3/70 ZAB
C01F7/30
C01F7/42
B09B101:55
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100241
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】313004414
【氏名又は名称】株式会社燃焼合成
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100174528
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 晋朗
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】原田 和人
(72)【発明者】
【氏名】鏡 好晴
(72)【発明者】
【氏名】能村 貴宏
【テーマコード(参考)】
4D004
4G076
【Fターム(参考)】
4D004AA44
4D004BA03
4D004CA04
4D004CA13
4D004CA22
4D004CA32
4D004CA34
4D004CA36
4D004CA37
4D004CA40
4D004CA42
4D004CB04
4D004CC01
4D004CC03
4D004DA01
4D004DA02
4G076AA02
4G076AB28
4G076BA17
4G076CA01
(57)【要約】
【課題】アルミニウムドロスの無害化及び再資源化を行うことができるアルミニウムドロスの無害化処理方法、及び処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、アルミニウムドロスの無害化処理方法であって、前記アルミニウムドロスに含まれるAl及びAlNを、COとテルミット反応及び酸化還元反応させ、前記前記テルミット反応及び前記酸化還元反応によって生じる発熱を利用して、前記アルミニウムドロスを無害化する、ことを特徴とする。また、アルミニウムドロスの無害化処理する処理装置であって、前記アルミニウムドロスを投入し、着火する合成炉と、前記合成炉にCOガスを導入するCOガス導入部と、を有する、ことを特徴とする。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムドロスの無害化処理方法であって、
前記アルミニウムドロスに含まれるAl及びAlNを、COとテルミット反応及び酸化還元反応させ、
前記テルミット反応及び前記酸化還元反応によって生じる発熱を利用して、前記アルミニウムドロスを無害化する、ことを特徴とするアルミニウムドロスの無害化処理方法。
【請求項2】
Al及びAlNと、COとの前記テルミット反応及び前記酸化還元反応により、アルミナを生成する、ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムドロスの無害化処理方法。
【請求項3】
水蒸気ガス化反応により、前記テルミット反応及び前記酸化還元反応で生じたCを除去する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアルミニウムドロスの無害化処理方法。
【請求項4】
前記テルミット反応及び酸化還元反応によって生じる発熱を、無害化処理とともに、発電、或いは、他の熱エネルギーへの応用に用いる、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアルミニウムドロスの無害化処理方法。
【請求項5】
アルミニウムドロスの無害化処理する処理装置であって、
前記アルミニウムドロスを投入し、着火する合成炉と、
前記合成炉にCOガスを導入するCOガス導入部と、を有する、ことを特徴とする処理装置。
【請求項6】
さらに、
着火された前記アルミニウムドロスの温度計測に基づいて、燃焼合成の終了を判断する判定部と、を有する、ことを特徴とする請求項5に記載の処理装置。
【請求項7】
さらに、
加熱された水蒸気を前記合成炉に導入する水蒸気導入部と、
前記合成炉から排出される合成ガスを回収し、回収された前記合成ガスの濃度計測に基づいて、ガス合成反応の終了を判定するガス回収部と、を有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の処理装置。
【請求項8】
前記合成炉から排出された水蒸気を、前記ガス回収部を介して前記水蒸気導入部に戻す、ことを特徴とする請求項7に記載の処理装置。
【請求項9】
さらに、
合成終了後の前記合成炉内を冷却し、前記合成炉内から排出される排熱を回収する冷却排熱回収装置と、を有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムドロスを無害化するための無害化処理方法、及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムドロス(以降、「ドロス」と称する)は、アルミニウムの溶解過程で不可避的に発生する副生成物である。副生成物は、金属アルミニウム(Al)、酸化アルミニウム(Al)、及び窒化アルミニウム(AlN)などを主成分とする粉粒状の物である。
【0003】
ところで、ドロス内部に残留するアルミニウム及びAlNは活性であるため、水と反応しやすい。したがって、ドロスの廃棄中、或いは、廃棄後に、雨水などと反応して、有害なアンモニアが発生し、公害を発生する恐れがあった。このため、ドロスの処理が問題とされた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-177556号公報
【特許文献2】特開平7-96265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献に記載されたドロスの無害化処理には、大きく分けて2種類の方法が示されている。
特許文献1には、ドロスを温水に浸漬させ、金属AlとAlNを加水分解により、水酸化アルミニウムに変化させ、無害化する方法を提案する。
【0006】
より具体的には、特許文献1では、温水温度を上げることで、反応速度を上げドロスを無害化する処理と、有毒であるアンモニアの回収とを同時に行うことが提案されているが、外部加熱によるエネルギー消費や、4MPaという高圧での処理が必要とされるため、設備コストが高くなり、また処理に時間がかかる問題があった。また、特許文献1では、有害なアンモニアが発生することを排除できない。
【0007】
特許文献2には、ドロス残灰中に残留するAlとAlN、また塩素成分の除去をするために、加熱処理を行い、処理物はセメント原料として使用することを提案している。この処理では塩素成分除去のための外部からの加熱温度が、1300℃~1450℃と高温であり、その熱を得るため石灰粉や重油等の化石燃料を使用する。したがって、大量のエネルギー消費が課題であり、現在のCO削減の観点からも好ましくない。
【0008】
COに関しては、工業的には、膜分離や深冷分離により、COを分離固定し、それを地中貯留、又は、海洋隔離する方法が行われている。しかしながら、この方法は、COを分解しているわけではないため、再び、大気中に放出される可能性があるなど完全なる固定化に至らない問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、アルミニウムドロスの無害化及び再資源化を行うことができるアルミニウムドロスの無害化処理方法、及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アルミニウムドロスの無害化処理方法であって、前記アルミニウムドロスに含まれるAl及びAlNを、COと前記テルミット反応及び酸化還元反応させ、前記テルミット反応及び前記酸化還元反応によって生じる発熱を利用して、前記アルミニウムドロスを無害化する、ことを特徴とする。
【0011】
本発明におけるアルミニウムドロスの無害化処理方法の一態様は、Al及びAlNと、COとの前記テルミット反応及び前記酸化還元反応により、アルミナを生成する、ことを特徴とする。
本発明におけるアルミニウムドロスの無害化処理方法の一態様は、水蒸気ガス化反応により、前記前記テルミット反応及び及び前記酸化還元反応で生じたCを除去する、ことを特徴とする。
本発明におけるアルミニウムドロスの無害化処理方法の一態様は、前記テルミット反応及び酸化還元反応によって生じる発熱を、無害化処理とともに、発電、或いは、他の熱エネルギーへの応用に用いる、ことを特徴とする。
【0012】
本発明は、アルミニウムドロスの無害化処理する処理装置であって、前記アルミニウムドロスを設置し、着火する合成炉と、前記合成炉にCOガスを導入するCOガス導入部と、を有する、ことを特徴とする。
【0013】
本発明における処理装置の一態様は、さらに、着火された前記アルミニウムドロスの温度計測に基づいて、燃焼合成の終了を判断する判定部と、を有する、ことを特徴とする。
【0014】
本発明における処理装置の一態様は、さらに、加熱された水蒸気を前記合成炉に導入する水蒸気導入部と、前記合成炉から排出される合成ガスを回収し、回収された前記合成ガスの濃度計測に基づいて、ガス合成反応の終了を判定するガス回収部と、を有することを特徴とする。
本発明における処理装置の一態様は、前記合成炉から排出された水蒸気を、前記ガス回収部を介して前記水蒸気導入部に戻す、ことを特徴とする。
【0015】
本発明における処理装置の一態様は、さらに、合成終了後の前記合成炉内を冷却し、前記合成炉内から排出される排熱を回収する冷却排熱回収装置と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアルミニウムドロスの無害化処理方法によれば、ドロス内に残留する金属Al及びAlNを、アルミナに変化させて無害化できるとともに、ドロスの再資源化を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本実施の形態におけるアルミニウムドロスの無害化処理方法を示す工程フロー図である。
図2図2は、本実施の形態におけるアルミニウムドロスの処理装置のブロック図である。
図3図3は、図2に示す処理装置を用いた合成フロー図である。
図4図4は、Alを含む原料を燃焼合成して得られた生成物のX線回折スペクトルである。
図5図5は、Alを含む原料を燃焼合成して得られた生成物(アルミナ)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、「~」の表記は、下限値及び上限値の双方の数値を含む。
【0019】
<本実施の形態におけるアルミニウムドロスの無害化処理方法の概要>
本実施の形態における無害化処理方法は、ドロス中に含まれる金属Al及びAlNをCOとのテルミット反応及び酸化還元反応により、アルミナに変化させて無害化し、且つCOをCに還元することによる炭素固定化に特徴がある。
【0020】
すなわち、以下の式(1)(2)が成立する。
2Al+3/2CO→Al+3/2C (1)
2AlN+3/2CO→Al+3/2C+N(g) (2)
【0021】
式(1)におけるエンタルピーΔHは、-1084KJ/molであり、断熱火炎温度は、4490℃である。また、式(2)におけるエンタルピーΔHは、-448KJ/molであり、断熱火炎温度は、2054℃である。式(2)に示す(g)は、ガスであることを示す。
【0022】
上記式(1)(2)により、Al及びAlNともに、COとの反応において発熱反応であることがわかる。また、一般的に、断熱火炎温度が1500℃以上であれば、燃焼伝播することができ、燃焼合成が可能とされる。
【0023】
このように、本実施の形態では、燃焼合成法の一つであるテルミット反応及び酸化還元反応を利用し、ドロスの無害化及び再資源化を行う。式(1)が、テルミット反応、式(2)が酸化還元反応と定義できる。
【0024】
再資源化に関しては、高純度のアルミナの生成に加えて、水蒸気ガス化反応により、Cを分離除去することが好ましい。水蒸気ガス反応では、以下の式(3)が成立する。
C+HO→CO+H (3)
【0025】
式(1)~(3)により、本実施の形態の無害化処理方法では、アルミナと、CO及びHの合成ガスを得ることができる。これらは有用な工業材料であり再利用が可能である。このように、本実施の形態では、有害廃棄物としてのドロスを無害化し、更に、再資源化することができる。
【0026】
<本実施の形態におけるアルミニウムドロスの無害化処理方法の工程フロー>
図1は、本実施の形態におけるアルミニウムドロスの無害化処理方法を示す工程フロー図である。
【0027】
まず、図1に示すステップST1では、ドロスを粉砕する。これにより、合成反応性を上げることができる。例えば、平均粒径が150μm以下となるまで粉砕する。
【0028】
次に、図1に示すステップST2では、ドロス中のAl量の調整を行う。一般的に、ドロスには、Alを、10質量%~30質量%程度、Alを、50質量%~75質量%程度、AlNを、15質量%~20質量%程度、及びドロスの圧搾処理中に添加されるハロゲン化物(KCl、NaCl、NaF等)を2質量%程度含む粒状体である。このうちAl量が少ないと自己燃焼が不十分となるため、本実施の形態では、ステップST2で、Al含有量を調整している。限定されるものではないが、Al含有量を25質量%~30質量%程度となるように調整及び混合を行う。混合には、ボールミルやブレンダーを用いる。なお、ドロス圧搾によるAl回収処理段階で、Alを自己燃焼可能な濃度(例えば、25質量%以上)で残留させることができれば、ステップST2をスキップすることができる。
次に、図1に示すステップST3では、ドロス原料を、合成炉中に投入する。
【0029】
次に、図1に示すステップST4では、ドロス原料を備えた合成炉中に、COガスを導入して燃焼合成を行う。燃焼合成により、上記の式(1)(2)のテルミット反応及び酸化還元反応が生じ、アルミナとCとが生成される。
【0030】
次に、図1に示すステップST5では、合成炉中に水蒸気を導入する。これにより、上記の式(3)の水蒸気ガス化反応が生じ、HとCOとの合成ガスが生成される。水蒸気温度を限定するものではないが、例えば、1000℃~1200℃である。
【0031】
次に、図1に示すステップST6では、水蒸気ガス化反応の終了後、炉内雰囲気を循環させて、合成物及び炉内を冷却する。この際、排熱が発生するので、それを回収して所望の用途に使用することができる。例えば、暖房や発電など、或いは、他の熱エネルギーへの応用に利用できる。
【0032】
次に、図1に示すステップST7では、合成物の排出を行う。合成炉に反転機構が設けられていると、排出作業を簡易的に行うことができる。ここで、合成物の主成分は、アルミナである。
【0033】
合成物は、塊状になっているため、図1に示すステップST8では、合成物を粉砕する。まず、合成物を、ジョークラッシャやロールミルなどで粗粉砕し、続いて、ハンマークラッシャなどで中粉砕する。限定するものではないが、合成物の平均粒径が20μm程度になるまで粉砕を行う。
【0034】
次に、図1に示すステップST9では、粉砕物を水中で一定時間、攪拌する。これにより、粉砕物の内部に残留しているハロゲン化物質を除去する。
次に、図1に示すステップST10では、粉砕物を含む液体を、フィルタープレスなどで固液分離し、粉砕物を乾燥炉で乾燥させる。
上記した各ステップを得ることで、ドロスから高純度のアルミナ粉末を得ることができる。
【0035】
<本実施の形態の効果について>
本実施の形態では、上記ステップのうち、ステップST4では、式(1)(2)のテルミット反応及び酸化還元反応を生じさせ、この反応は発熱反応であり、しかもその際の断熱火炎温度が1500℃以上であることから、燃焼合成を起こすことができる。また燃焼合成後の余熱は、ステップST5の水蒸気ガス化反応で、Cを除去するに十分な熱量を有している。
【0036】
このように、本実施の形態では、ドロス中の金属Al及びAlNを、COとテルミット反応及び酸化還元反応させ、テルミット反応及び酸化還元反応により生じる発熱を利用することで、高純度のアルミナ粉末、及び、好ましくは、該アルミナ粉末と、HとCOの合成ガスを回収でき、ドロスを無害化することが可能である。しかも回収したアルミナ粉末と、HとCOの合成ガスは、有用な工業材料であり、再利用が可能である。
【0037】
以上のように、本実施の形態のアルミニウムドロスの無害化処理方法によれば、ドロスの無害化と再資源化が可能である。
【0038】
<合成方法の詳細な説明>
本実施の形態における合成方法の詳細な説明を、図2及び図3を用いて説明する。図2は、本実施の形態におけるアルミニウムドロスの処理装置のブロック図である。図3は、図2に示す処理装置を用いた合成フロー図である。
【0039】
図2に示す処理装置1は、合成炉2と、COガス導入部3と、燃焼合成の終了を判断する判定部4と、水蒸気を合成炉2内に導入する水蒸気導入部5と、合成炉から排出される合成ガスを回収するガス回収部6と、合成炉2内を冷却し、排熱を回収する冷却排熱回収装置7と、を有して構成される。
図3のフローチャートを交えながら合成方法について説明する。
【0040】
図2に示す合成炉2内にドロス原料を設置(投入)する(図3のステップST11)。合成炉2の内壁は、アルミナファイバー、又は、ジルコニアなどの低熱伝導性の断熱材により構成されている。これにより、熱が合成炉2の外部に逃げにくい構造となっている。合成炉2の炉上面は、開閉式になっており、ドロス原料を炉上面より投入できる。
【0041】
投入の際に、ドロス原料と断熱材の間に、アルミナなどの既反応物を入れておき、ドロス原料と断熱材とが直接接触しないようにしておくことが好ましい。断熱材の耐熱温度は1800~2000℃であり、一方、燃焼温度は2500℃程度まで上がり、断熱材の耐熱温度を超えている。このため、断熱材が溶けて消耗するのを防ぐために、ドロス原料と断熱材の間に、アルミナなどの既反応物を入れることで、ドロス原料の燃焼熱による断熱材のダメージを低減でき、且つ、燃焼反応後にて生成される合成物(高純度のアルミナ)の排出性も向上できる。
【0042】
また、合成炉2内へのドロス原料の充填完了後に、ドロス原料の上面に、カーボンフィラメントやタングステンフィラメントなどの着火電極を設置し、炉上面を閉めて密閉する。
【0043】
図2に示すように、合成炉2の下部には真空ポンプ8が接続されている。この真空ポンプ8を用いて、炉内下部より、合成炉2内を真空引きする(図3のステップST12)。このときの真空度を限定するものではないが、例えば、1KPa程度まで真空引きを行う。
【0044】
図2に示すように、合成炉2の下部には、COガス導入部3が接続されている。COガス導入部3よりCOガスを合成炉2内に導入する。このとき、COガスのガス圧を所定圧になるまで引き上げる(図3のステップST13)。例えば、700KPaまでCOガスを導入する。
【0045】
続いて、合成炉2内では、フィラメント通電により着火させ、これにより、合成炉2の下部に向かい、燃焼合成が開始される(図3のステップST14)。このとき、燃焼合成の進行に伴い、合成炉2内のCOガスは減少するが、都度、COガスを導入し、700KPaを維持する。
【0046】
図2に示すように、合成炉2の下部付近には、燃焼合成の終了を判断する判定部4が設置されている。判定部4は、熱電対を有する。熱電対は、ドロス原料の端部付近(着火点より最も離れた場所)の温度を計測している。そして、熱電対により計測された温度が低下に転じることで、判定部4では、燃焼合成の終了を判断する(図3のステップST15)。燃焼合成の終了判定後、判定部4は、停止信号をCOガス導入部3に送り、COガスの供給を止める。
【0047】
燃焼合成終了後、判定部4は、例えば、合成炉2の下部に接続された水蒸気導入部5に開始信号を送り、水蒸気導入部5から加熱された水蒸気を連続導入する(図3のステップST16)。図2に示すように、水蒸気導入部5は、水蒸気発生器10と、Arガス導入部11と、加熱器12とを有して構成される。水蒸気発生器10からの水蒸気と、Arガス導入部11からのArガスとの混合ガス(例えば、モル比を、1:1とする)を、加熱器12により、1200℃程度まで加熱し、加熱された混合ガスを合成炉2内に導入する。これにより、合成炉2内部では、水蒸気ガス化反応が起こり、上記の式(3)により、HとCOとの合成ガスが生成される。この結果、上記の式(1)(2)にて生成されたCを除去できる。
【0048】
水蒸気ガス化反応は、吸熱反応である。しかしながら、アルミナとCとを有する合成物は、燃焼合成後の余熱により、1700℃程度の熱を有している。したがって、Cを除去するには十分な熱量を備えている。
【0049】
水蒸気導入部5により合成炉2内に導入された混合ガスの未反応ガス、及び、式(3)により生成された合成ガスは、合成炉2の上部から排出される。これにより、合成炉2内は、一定圧に保たれる。
【0050】
図2に示すように、合成炉2の上部には、ガス回収部6が接続されている。ガス回収部6は、コンデンサー15、ガスセンサー13、及び合成ガス回収装置14を有して構成される。
【0051】
合成炉2の上部から排出された合成ガス中に含まれる水蒸気は、コンデンサー15により除去されて液体になり、コンデンサー15を介して水が、水蒸気発生器10に戻される。このように、水蒸気(水)を、ガス回収部6を介して、合成炉2と水蒸気導入部5との間で循環させることができる。
【0052】
一方、合成ガス回収装置14に回収されたガスは、Ar、N、CO、H、及びCOから構成される。このうち、Arは、混合ガス由来であり、Nは、上記の式(2)により生成され、H、及びCOは、上記の式(3)により生成されたガスである。これらのガスのうち、例えば、PSA法などにより、H及び、COを分離して回収することができる。
【0053】
図2に示すように、ガスセンサー13は、合成ガス回収装置14の手前に配置されている。これにより、合成ガス回収装置14に導入されるH及びCOの濃度を、ガスセンサー13により計測できる。計測による濃度値により、水蒸気ガス化反応の終了を判定することができる(図3のステップST17)。終了判定後、合成炉2への混合ガスの導入を停止する。
【0054】
次に、合成炉2の上部と下部との間をつなぐ冷却排熱回収装置7により、合成炉2内のガスを循環させて冷却させる(図3のステップST18)。この際に放出される排熱を、例えば、排熱を暖房や発電など、或いは他の熱エネルギーへの応用に利用することができる。
【0055】
合成炉2内の温度が所定値以下、例えば、室温程度まで低下したら、合成炉2内の圧力を大気圧程度まで減圧し、合成炉2内より合成物を排出する(図3のステップST19)。このとき、合成炉2につながる各種配管及び電極類等の着脱を簡素化することで、合成炉2を反転させることが可能になり、合成物を合成炉2内から容易に排出することができる。
【0056】
<燃焼合成の最適条件の検討>
本実施の形態では、ドロス中に含まれる金属Al及びAlNを、COガスとテルミット反応及び酸化還元反応させることで燃焼合成を起こし、その際に生じる発熱でドロスを効果的に無害化させるための最適条件を実験により求めた。
【0057】
実験で使用したドロス成分として、Al(粒子径は15μm)、Al(粒子径は10μm)、及びAlN(粒子径は2μm)の各試薬をボールミルにて混合した原料を使用した。このとき、原料100gを、カーボン坩堝に入れ、燃焼合成炉内に設置後、真空置換を行い、CO(純度>99.5vol%、ガス圧:500KPa)の雰囲気下で燃焼合成を行った。
実験では、原料中、Al:AlNの混合比を、7:2で固定し、Al量を変化させて、燃焼温度と、得られた生成物とを測定した。
【0058】
燃焼温度の測定は、原料中にタングステン-レニウム熱電対を挿入し測定した。また、X線回折強度(XRD)分析には、Rigaku MiniFlex 600-Cを使用し、定性解析には、解析ソフトPDXLを用いた。その実験結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
生成物検出の判定方法は以下の通りとした。すなわち、同定無は「未検出」と判定し、主同定組成の最大ピーク積分強度に対し、最大ピークの積分強度が5%未満の組成は、「微量検出」と判定し、主同定組成の最大ピーク積分強度に対し、最大ピークの積分強度が5%以上の組成は、「検出」と判定した。
【0061】
表1に示すように、Al量が増加するに従い、燃焼温度が上昇し、その結果、AlNの残留量が低下し、Al量が30質量%以上では、AlNは、未検出となった。その一方で、Al量が30質量%以上になると、Al同士の溶着が起こり、未反応のAlが増加した。この結果より、ドロス中に含まれるAl量は、25~30質量%程度が適正量と考えられる。
【0062】
次に、ドロス中のAl量を30質量%に固定した原料100gを、カーボン坩堝に入れ、燃焼合成炉内に設置後、真空置換を行い、CO(純度>99.5vol%)の雰囲気下で燃焼合成を行った。実験では、COガス圧を変化させて、燃焼温度と、得られた生成物を測定した。その実験結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示すように、COガス圧を700KPa以上にすると、燃焼温度は1800℃以上になり、未反応の金属Al及びAlNは未検出となった。この結果により、COガス圧は、700KPa以上が適正値であると判断した。ガス圧を900KPa程度まで高めても同様の効果を得ることができるが、処理に要するコストや設備費用を考慮すると、COガス圧は、700KPa~900KPaの範囲内であることが好ましく、700KPa~850KPaの範囲であることがより好ましく、700KPa~800KPaの範囲であることが更に好ましい。
【0065】
以上により燃焼合成の最適化条件として、ドロス中の金属Al量を、25質量%~30質量%とし、COガス圧を、700KPa~900KPaとすることが好ましい。
なお、表2に示すように、AlOCNも検出されるが、最終的には熱により、アルミナとCに分解される。
【0066】
<坩堝の断熱性向上による燃焼温度変化と生成物について>
反応用坩堝を熱伝導性に優れたカーボン材質から、熱伝導性の低いアルミナファイバーからなる断熱材に変更して検証を行った。実験では、原料量300g中、Al量を30wt%とし、残りを、Al:AlN=7:2とした。また、COガス圧を700KPaとした。
【0067】
その結果、坩堝の断熱性が向上したことにより、燃焼温度は2320℃以上(熱電対の検出限界)となった。また、図4のX線回折スペクトル結果に示すように、生成物から、アルミナとCの2組成が検出された。図5に示すSEM写真に示すように、生成物としてのアルミナの表面は多孔質であることが確認された。これにより、水蒸気ガス化反応には有利に作用すると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のアルミニウムドロスの無害化処理方法によれば、設備コストを低く抑えるとともに、化石燃料を使用することなく、エネルギー消費も低減でき、高純度のアルミナと、CO及びHの合成ガスを生成でき、ドロスの無害化とともに再資源化を図ることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 :処理装置
2 :合成炉
3 :COガス導入部
4 :判定部
5 :水蒸気導入部
6 :ガス回収部
7 :冷却排熱回収装置
8 :真空ポンプ
10 :水蒸気発生器
11 :Arガス導入部
12 :加熱器
13 :ガスセンサー
14 :合成ガス回収装置
15 :コンデンサー
図1
図2
図3
図4
図5