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特開2024-153168熱安定性が向上したトリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素
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  • 特開-熱安定性が向上したトリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153168
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】熱安定性が向上したトリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20241022BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20241022BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241022BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C12N15/54
C12N9/10 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066893
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野口 惇
(72)【発明者】
【氏名】田島(大熊) 里佳
(72)【発明者】
【氏名】市川 智之
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AA97Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA29
(57)【要約】
【課題】 熱安定性が向上したトリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素、当該逆転写酵素の製造方法、および当該逆転写酵素を含む核酸増幅試薬を提供すること。
【解決の手段】 AMV逆転写酵素を構成するアミノ酸のうち、特定の位置にあるアミノ酸を他のアミノ酸に置換することにより、熱安定性が向上したAMV逆転写酵素を得ることができた。また前記逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体を培養することで、前記逆転写酵素を製造することができた。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)から(iii)のいずれかから選択される、トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において、以下に示すアミノ酸置換が少なくとも生じている、AMV逆転写酵素;
配列番号1の751番目のアルギニンがヒスチジンに置換
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において、配列番号1の751番目のアルギニンのヒスチジンへの置換が少なくとも生じており、さらに前記置換以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ酵素活性を有するAMV逆転写酵素;
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、配列番号1の751番目のアルギニンのヒスチジンへの置換が少なくとも生じたアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記置換が残存したアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を含み、かつ酵素活性を有するAMV逆転写酵素。
【請求項2】
請求項1に記載のAMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項4】
請求項3に記載の発現ベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体。
【請求項5】
宿主が大腸菌である、請求項4に記載の形質転換体。
【請求項6】
請求項4に記載の形質転換体を培養することでAMV逆転写酵素を発現させる工程と、得られた培養物から発現された前記逆転写酵素を回収する工程とを含む、AMV逆転写酵素の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のAMV逆転写酵素を含む、標的核酸の増幅試薬
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱に対する安定性を向上したトリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素に関する。
【背景技術】
【0002】
逆転写酵素の一つであるトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素は、RNA依存DNAポリメラーゼ活性、DNA依存型DNAポリメラーゼ活性、およびリボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有しているため、cDNA合成等に必要な遺伝子工学試薬や遺伝子診断試薬などに利用されている。AMV逆転写酵素には、分子量約63kDaのα鎖および分子量約95kDaのβ鎖の2種類のサブユニットが知られているが、α鎖とβ鎖のヘテロ二量体(αβ体)は、α鎖のみの場合(α体)またはβ鎖のみの場合(β体)と比較して酵素活性が高く、これら試薬の成分として特に有用である(特許文献1)。
【0003】
AMV逆転写酵素の反応効率に影響を及ぼす要因のひとつに、RNAの二次構造があげられる。例えば、RNA分子の塩基配列が分子内でハイブリダイズするのに十分な相補性を有し、二本鎖RNAを形成する場合に、このような二次構造が形成されることがある。一般的に、RNA分子を含む反応液の反応温度を上げることによって、RNAの二次構造の形成を減らし、反応効率を向上させることができる。反応温度の上昇はまた、プライマーのミスアニーリングやプライマーダイマー形成などに起因する非特異的な反応の進行の抑制にも効果的である。そのため、多くの場合、十分に高い温度(一例として、37℃を超える温度)で反応を行なうことが望ましい。しかしながら、野生型AMV逆転写酵素(例えば、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド)は熱に対する安定性が低く、RNAの二次構造形成や非特異的反応の進行が抑制されるような温度では、酵素活性を失うことがあった。
【0004】
前記課題を解決すべく、α鎖にある特定位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することで熱安定性が向上したAMV逆転写酵素が知られている(特許文献2)。しかしながら、特許文献2で開示のAMV逆転写酵素におけるアミノ酸置換は、α体より酵素活性の高いαβ体では熱安定性向上の効果が報告されていない。またα鎖および/またはβ鎖にある特定位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することで熱安定性が向上したαβ体またはβ体のAMV逆転写酵素も知られている(特許文献3)が、当該逆転写酵素におけるアミノ酸置換でも熱安定性の向上が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-334095号公報
【特許文献2】特開2013-165669号公報
【特許文献3】特開2014-209898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、熱安定性が向上したトリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素、当該逆転写酵素の製造方法、および当該逆転写酵素を含む核酸増幅試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため、鋭意検討した結果、トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素を構成するアミノ酸残基のうち、特定位置にあるアミノ酸残基を他の特定アミノ酸残基に置換することにより、熱に対する安定性が向上することを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本願は以下の<1>から<7>に記載の態様を包含する:
<1>以下の(i)から(iii)のいずれかから選択される、AMV逆転写酵素:
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において、以下に示すアミノ酸置換が少なくとも生じている、AMV逆転写酵素;
配列番号1の751番目のアルギニンがヒスチジンに置換
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において、配列番号1の751番目のアルギニンのヒスチジンへの置換が少なくとも生じており、さらに前記置換以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ酵素活性を有するAMV逆転写酵素;
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、配列番号1の751番目のアルギニンのヒスチジンへの置換が少なくとも生じたアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記置換が残存したアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を含み、かつ酵素活性を有するAMV逆転写酵素。
【0009】
<2><1>に記載のAMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチド。
【0010】
<3><2>に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【0011】
<4><3>に記載の発現ベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体。
【0012】
<5>宿主が大腸菌である、<4>に記載の形質転換体。
【0013】
<6><4>または<5>に記載の形質転換体を培養することでAMV逆転写酵素を発現させる工程と、得られた培養物から発現された前記逆転写酵素を回収する工程とを含む、AMV逆転写酵素の製造方法。
【0014】
<7>熱安定性が向上した、<1>に記載のAMV逆転写酵素を含む、標的核酸の増幅試薬
【発明の効果】
【0015】
本発明のトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素は、野生型のAMV逆転写酵素と比較して、残存酵素活性がより高いことを示しており、すなわち野生型のAMV逆転写酵素と比較して熱安定性が向上していることを特徴としている。このため、遺伝子工学試薬や遺伝子診断試薬で用いる酵素として有用といえる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のAMV逆転写酵素(AMV-RT_R751H、配列番号7)、野生型AMV逆転写酵素(AMV-RT wild、配列番号1)、および特開2014-209898号公報に記載の耐熱性AMV逆転写酵素(四重変異体、AMV-RT_m4-2、配列番号5)とで、耐熱性を比較した結果を示す図である。なお本図は、熱処理した抽出液中のAMV逆転写酵素残存量(ELISA測定における450nmの吸光度)を、それぞれ対応する熱処理なしの抽出液中のAMV逆転写酵素量を100%とした相対値で示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本明細書において、野生型トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(Avian Myeloblastosis Virus、AMV)逆転写酵素とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるAMV逆転写酵素β鎖、または配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるAMV逆転写酵素α鎖のことをいう。α鎖(配列番号3)は、β鎖(配列番号1)の1番目のスレオニン(T)から572番目のチロシン(Y)までの配列に相当し、天然ではβ鎖のタンパク質分解性プロセシングにより形成される。なお、野生型AMV逆転写酵素は、AMV逆転写酵素β鎖単独でもよく、AMV逆転写酵素α鎖単独でもよく、さらには両者からなる任意の複合体やそれらの混合物であってもよい。
【0019】
本発明のAMV逆転写酵素は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において、少なくとも配列番号1の751番目のアルギニンのヒスチジンへの置換が生じていることを特徴としている。
【0020】
本発明において言及されるAMV逆転写酵素のアミノ酸置換は、野生型AMV逆転写酵素β鎖のアミノ酸配列を表す配列番号1を基準として表されるが、配列番号1のアミノ酸配列における所定のアミノ酸置換(配列番号1の751番目のアルギニンのヒスチジンへの置換)のみを意図するものではなく、酵素活性を有している限り、前記所定のアミノ酸置換以外に、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加(以下まとめて、「変異」とも表記する)のうち、いずれか1つ以上をさらに有しても良い。本態様の一例として、配列番号2(GenBank No.AAB31929)に記載のアミノ酸配列のうち、8番目のスレオニン(T)から865番目のアラニン(A)までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチドがあげられる。当該ポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、以下に示す3箇所のアミノ酸残基の置換が生じたポリペプチド(天然型バリアント(variant))である;
配列番号1の273番目(配列番号2では280番目)のメチオニン(M)のアルギニン(R)への置換、
配列番号1の304番目(配列番号2では311番目)のグルタミン(Q)のアルギニン(R)への置換、
配列番号1の395番目(配列番号2では402番目)のグルタミン酸(E)のアスパラギン酸(D)への置換。
【0021】
前記変異が生じたAMV逆転写酵素は、前記所定のアミノ酸置換を含み、かつ酵素活性を有している限り、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、前記所定のアミノ酸置換が少なくとも生じたアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性があればよく、それ以上の相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上)を有してもよい。本明細書において相同性とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味し、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等のアラインメント(alignment)プログラムを用いて決定できる。例えば、「アミノ酸残基の同一性」とは、blastpを用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してよく、具体的には、blastpをデフォルトのパラメータで用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してもよい。
【0022】
本発明のAMV逆転写酵素は、その機能を損ねない範囲で、当該酵素のN末端および/またはC末端にタグペプチドがさらに付加されていてもよい。前記タグペプチドの一例として、分析・精製を容易にするためのタグペプチド(ヒスチジンタグ、FLAGタグなど)、宿主での分泌発現を促すためのシグナルペプチド(宿主が大腸菌の場合、OmpAシグナルペプチド、PelBシグナルペプチドなど)、ベクターの開始コドン(メチオニン)やマルチクローニングサイト(メチオニン-グルタミン酸-フェニルアラニン)由来のペプチドがあげられる。タグペプチドを付加した本発明のAMV逆転写酵素の一態様として、
配列番号7に記載の配列からなるAMV逆転写酵素β鎖のN末端にマルチクローニングサイト(メチオニン-グルタミン酸-フェニルアラニン)および開始コドン(メチオニン)を付加したポリペプチドである、配列番号9に記載の配列からなるポリペプチドや、
配列番号7に記載の配列からなるAMV逆転写酵素β鎖のN末端にヒスチジン6残基を含むヒスチジンタグを付加したポリペプチドである、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドがあげられる。
【0023】
AMV逆転写酵素は、前述したβ鎖のモノマーやホモダイマー、前述したα鎖のモノマーやホモダイマー、ならびにα鎖とβ鎖とのヘテロダイマー(αβ体)などを構成することが知られているが、本発明のAMV逆転写酵素はβ鎖を含むものであれば、これらのいずれの形態を有していてもよい。
【0024】
本発明のAMV逆転写酵素は、野生型AMV逆転写酵素と比較して、「耐熱性である」または「熱安定性が向上している」であることを特徴としているが、すなわち
(a)37℃より高い温度で、酵素活性の半減期がより長い、および/または、
(b)37℃より高い温度で保持した場合に、残存酵素活性がより高い、
ということである。
【0025】
本明細書において、酵素活性とは、AMV逆転写酵素が有する酵素活性のことを指し、すなわちRNA依存DNAポリメラーゼ活性、DNA依存型DNAポリメラーゼ活性、およびリボヌクレアーゼH(RNase H)活性のことである。
従って、本発明のAMV逆転写酵素が有する酵素活性は、
RNA依存型DNAポリメラーゼ活性のみであってもよく、
RNA依存型DNAポリメラーゼ活性およびDNA依存型DNAポリメラーゼ活性であってもよく、
RNA依存型DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性であってもよく、
RNA依存型DNAポリメラーゼ活性、DNA依存型DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性であってもよい。
中でも本発明のAMV逆転写酵素が、野生型AMV逆転写酵素が有する酵素活性と同じ酵素活性、すなわち、RNA依存型DNAポリメラーゼ活性、DNA依存型DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を全て有していると好ましい。
【0026】
前記(a)は、例えば、ある態様において、所定の温度、例えば37℃、好ましくは45℃、より好ましくは50℃、より好ましくは55℃において、野生型AMV逆転写酵素よりも酵素活性の半減期がより長いことを指す。
【0027】
前記(b)は、例えば、ある態様において、所定の温度、例えば37℃、好ましくは45℃、より好ましくは50℃、より好ましくは55℃で一定時間、例えば1分以上、5分以上、10分以上、20分以上、30分以上保持した場合に、野生型AMV逆転写酵素よりも残存酵素活性が高いことを指す。
【0028】
本発明において、AMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチド(以下、単に「本発明のポリヌクレオチド」とも表記)とは、mRNAへの転写と転写されたmRNAの翻訳によって、本発明のAMV逆転写酵素を製造し得るポリヌクレオチドのことをいう。本発明のポリヌクレオチドは、例えば前述した所定のアミノ酸置換が生じるよう、野生型AMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号4に記載の配列からなるポリヌクレオチド)を改変または変異を導入することで作製できる。ポリヌクレオチドへの変異導入は、例えば当業者に公知の方法である、エラープローンPCR法、部位特異的変異誘発法、縮重オリゴヌクレオチドを用いるPCR、核酸を含む細胞の変異誘発剤または放射線への露出などを適宜使用することで実施できる。本発明のポリヌクレオチドの一例として、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなる本発明のAMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドの3’末端に終止コドン(TAA)を付加した、配列番号8に記載の配列からなるポリヌクレオチドや、当該ポリヌクレオチドに、アミノ酸残基の変化をもたらさないサイレント変異が導入されたポリヌクレオチドがあげられる。
【0029】
本発明のポリヌクレオチドを適切なベクターに挿入することで本発明の発現ベクターを作製できる。本発明のポリヌクレオチドを挿入するベクターは、形質転換する宿主内で充分な期間安定に存在し、複製することができるものであれば特に制限はなく、AMV逆転写酵素を発現させる宿主を基にして適宜選択すればよい。例えば、宿主が大腸菌の場合、pUCベクター、pETベクター、pTrc99Aベクター、pBluescriptベクター、pBBRベクター、pBR322ベクターを例示できる。中でもtrcプロモータを有する点で、pTrc99Aベクターが大腸菌用のベクターとして好ましい。本発明のポリヌクレオチドのベクターへの挿入は、挿入するベクターの適切な位置に遺伝子工学的に挿入すればよい。ここでいう適切な位置とは、ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、または伝達性に関わる領域を破壊しない範囲で自由に決定してよい。またベクターに挿入する場合、例えばプロモータ機能を有するオリゴヌクレオチドを付加してもよい。宿主が大腸菌の場合、前記プロモータとして、lacプロモータ、trcプロモータまたはT7プロモータが例示できる。中でもtrcプロモータは、転写活性の調節が容易な点で、大腸菌用のプロモータとして好ましい。
【0030】
本発明において、宿主とは、AMV逆転写酵素を発現できる細胞であればよく、原核細胞においては大腸菌(Escherichia coli)、バチルス(Bacillus)属に属する菌、ロドコッカス(Rhodococcus)属に属する菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌、スタフィロコッカス(Staphyrococcus)属に属する菌などがあげられ、真核細胞としては酵母のサッカロマイセス(Saccharomyces)に属する菌、キャンジダ(Candida)属に属する菌、ポンベ(Pombe)属に属する菌、糸状菌のアスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌などをあげられる。さらには、昆虫細胞や動物細胞を宿主として用いてもよい。中でも好ましい宿主の一例として、培養や取り扱いが容易な大腸菌があげられる。さらに大腸菌の中でも、大腸菌MV1184株、大腸菌GM31株、大腸菌HB101株、大腸菌JM101株、大腸菌JM109株、大腸菌W3110株が好ましい。なお前述した大腸菌に対し、ニトロソグアニジンやメタンスルホン酸エチル等の化学物質、紫外線、放射線等の従来公知の手段により変異処理した大腸菌変異株を使用してもよい。
【0031】
本発明の発現ベクターを用いて宿主を形質転換し、本発明の形質転換体を得る方法については、本技術分野に知られている任意の方法が使用できる。例えば、宿主が大腸菌の場合、Method in Enzymology,216,p.469-631,1992,Academic PressやMethod in Enzymology,204,p.305-636,1991,Academic Pressに記載された方法により行なえばよい。
【0032】
前述した方法で得られた本発明の形質転換体を培養することでAMV逆転写酵素を発現させる工程と、得られた培養物から発現された前記逆転写酵素を回収する工程とを含む工法で、本発明のAMV逆転写酵素を製造できる。
【0033】
本発明の形質転換体の培養は、公知の方法を利用すればよく、例えば宿主が大腸菌の場合、LB(Luria-Bertani)培地や2YT培地(16g/Lトリプトン、10g/L酵母エキス、5g/L塩化ナトリウム)を用いる方法があげられる。なお本発明の発現ベクターが薬剤耐性遺伝子を有している場合、当該遺伝子に対応した薬剤を選抜剤として培地に添加すると、本発明の形質転換体を選択して培養できる点で好ましい。例えば、本発明の発現ベクターがアンピシリン耐性遺伝子を有している場合、培地にアンピシリンやカルベニシリンを添加すればよい。また培地には、炭素、窒素、無機塩や、適当な栄養源を添加してもよい。培養温度は、例えば宿主が大腸菌の場合、10℃以上40℃以下の範囲であればよく、好ましくは25℃以上37℃以下の範囲である。pHは例えば宿主が大腸菌の場合、pH5.9以上pH8.1以下の範囲であればよく、好ましくはpH6.0以上pH7.0以下の範囲である。培養時間は、例えば3時間以上であればよく、好ましくは16時間以上、より好ましくは50時間以上、さらに好ましくは72時間以上である。
【0034】
本発明の発現ベクターがtrcプロモーターなど誘導性のプロモーターを有している場合、IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)などの誘導剤を培地に添加し、AMV逆転写酵素の発現を誘導してもよい。この場合、培養開始時に誘導剤を添加してAMV逆転写酵素の発現を誘導させてもよいし、良好なAMV逆転写酵素の生産性が得られる程度まで菌体を増殖させた後に誘導剤を添加し、AMV逆転写酵素の発現を誘導させてもよい。好ましくは宿主が大腸菌の場合、培養液の濁度(600nmにおける吸光度)が概ね0.1以上20.0以下を示す増殖期間、より好ましくは濁度が0.5以上10.0以下を示す増殖期間に、誘導剤を添加する誘導操作を行ない、引き続き培養する方法が例示できる。IPTGの添加濃度は宿主が大腸菌の場合、一例として終濃度で概ね0.1mmol/L以上10.0mmol/L以下の範囲の中から適宜選択すればよいが、好ましくは1.0mmol/L以上10.0mmol/L以下の範囲、より好ましくは5.0mmol/L付近である。なお、誘導操作後(誘導剤添加後)の培養温度を宿主の至適培養温度よりも低い温度まで下げると好ましく、具体的には宿主が大腸菌の場合、10℃以上30℃以下の範囲、より好ましくは15℃以上25℃以下の範囲である。具体的には宿主が大腸菌の場合、特開2014-113106号公報に記載の方法を用いると、AMV逆転写酵素を効率的に生産できる点で好ましい。
【0035】
前述した方法で得られた本発明の形質転換体の培養物からAMV逆転写酵素を回収するには、当該形質転換体による発現の形態によって、適宜回収方法を選択すればよい。例えば、発現したAMV逆転写酵素が宿主内に蓄積する場合は遠心分離操作等により菌体を集めた後、酵素処理剤や超音波破砕等により菌体を破砕して回収すればよい。なお前記抽出段階では核酸など種々の夾雑物が混在しているが、ストレプトマイシン塩酸塩やポリエチレンイミン(商品名:ポリミンP)などの除核酸剤を添加し、前記核酸と共沈させることで、効率的にAMV逆転写酵素を沈澱回収できる。さらに、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーといったクロマトグラフィーを単独または組み合わせて適用することにより、回収したAMV逆転写酵素を高純度に精製できる。クロマトグラフィーを用いたAMV逆転写酵素精製の一例として、ポリプロピレングリコール基を導入した疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いてAMV逆転写酵素を精製後、ホスホセルロース担体を用いたイオン交換クロマトグラフィーを用いてさらに精製することで、AMV逆転写酵素α鎖と、AMV逆転写酵素β鎖と、αβ体のAMV逆転写酵素とを、分離精製できる。
【0036】
本発明のAMV逆転写酵素は、例えば遺伝子工学試薬や遺伝子診断試薬で用いる、標的核酸の増幅試薬に利用できる。標的核酸の増幅試薬には、前記逆転写酵素以外にも逆転写反応に必要な構成成分、例えば、増幅を望む標的核酸の特定塩基配列の一部に特異的に結合するプライマーセット、dNTP、反応緩衝液、選択的にはDNA重合酵素などをさらに含むことができる。当該試薬に野生型AMV逆転写酵素よりも耐熱性の高い、本発明のAMV逆転写酵素を用いることで、標的核酸の増幅反応をより高い温度で実施できるため、増幅反応効率の向上や、標的核酸の二次構造形成の抑制や、非特異的な核酸増幅反応の抑制が見込まれる。
【0037】
また、当該標的核酸の増幅試薬には、標的核酸の特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第一のオリゴヌクレオチドおよび前記特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第二のオリゴヌクレオチドからなるプライマーセット(ただし、少なくとも前記第一および第二のオリゴヌクレオチドのいずれか一方の5’末端にRNAポリメラーゼの転写が開始可能なプロモータ配列が付加されている)と、RNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素と、DNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素と、RNase H活性を有する酵素と、RNAポリメラーゼとを含む、TRC(Transcription Reverse-transcription Concerted)法を利用した標的核酸の増幅試薬も包含される。
【実施例0038】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1 トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素遺伝子の変異導入
(1)配列番号4に記載の核酸配列からなるAMV逆転写酵素遺伝子の5’末端側に制限酵素EcoRI切断サイト(GAATTC)および開始コドン(ATG)を、3’末端側に終止コドン(TAA)および制限酵素KpnI切断サイト(GGTACC)を、それぞれ付加したポリヌクレオチドを合成した。
【0040】
(2)予めEcoRIおよびKpnIで消化したpTrc99Aプラスミドベクターに、(1)で合成したポリヌクレオチド(予めEcoRIおよびKpnIで消化済)を挿入後、当該ベクターで大腸菌JM109株(タカラバイオ社製)を形質転換した。
【0041】
(3)(2)で得られた形質転換体から、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社製)を用いて組換えプラスミドを抽出し、野生型AMV逆転写酵素発現ベクターpTrcA-AMVEbを調製した。
【0042】
(4)(3)で得られたpTrcA-AMVEbの塩基配列に基づき、所定の位置に遺伝子変異を導入した。具体的には、配列番号1のうち751番目のアルギニン(R)をヒスチジン(H)への変異を導入した。(以降、当該変異を導入したAMV逆転写酵素を、耐熱性AMV逆転写酵素またはAMV-RT_R751Hと命名する)。AMV-RT_R751Hのアミノ酸配列を配列番号7に、塩基配列を配列番号8に、それぞれ示す。
【0043】
(5)AMV-RT_R751Hの発現ベクターpTrcA-AMV-RT_R751Hを作製し、キャピラリーシーケンサーにより、耐熱性AMV逆転写酵素遺伝子の塩基配列確認を行なった。
【0044】
比較例1 既知の耐熱性AMV逆転写酵素(四重変異体)の形質転換体の作製
(1)特開2014-209898号公報に記載した方法で、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる、耐熱性AMV逆転写酵素(四重変異体、AMV-RT_m4-2と命名)をコードするポリヌクレオチド(配列番号6)を、pTrc99Aプラスミドベクターに挿入し、発現ベクターを作製した。なお、AMV-RT_m4-2は、配列番号1に示す野生型AMV逆転写酵素において、65番目のセリン(S)がグリシン(G)に、583番目のアラニン(A)がスレオニン(T)に、626番目のグリシン(G)がアスパラギン酸(D)に、689番目のアラニン(A)がバリン(V)に、それぞれ置換されたポリペプチドである。
【0045】
(2)実施例1(2)と同様の方法で大腸菌HB101株を形質転換し、AMV-RT_m4-2発現株(形質転換体)を作製した。
【0046】
実施例2 AMV逆転写酵素の耐熱性評価
(1)実施例1(2)で得られた、pTrcA-AMVEbの形質転換体、
実施例1(5)で得られた、pTrcA-AMV-RT_R751Hの形質転換体、
比較例1(2)で得られたAMV-RT_m4-2発現株(形質転換体)を、
96穴ディープウェルプレートに分注した2×YT/Car培地(16g/Lトリプトン、10g/L酵母エキス、5g/L塩化ナトリウム、0.1mg/mLカルベニシリンナトリウム)200μLへそれぞれ植菌し、37℃・1000rpmで一晩振とう培養することで、前培養を行なった。
【0047】
(2)(1)の前培養液の一部を、4℃で3000rpmで30分間遠心分離を行ない、上清を除去することで菌体を回収し、-30℃で保存した。
【0048】
(3)(1)の前培養液を、96穴ディープウェルプレートに分注した2×PNa/Car培地(16g/Lトリプトン、10g/L酵母エキス、5g/L塩化ナトリウム、14.5g/L第一リン酸ナトリウム・二水和物、2.5g/L第二リン酸二ナトリウム・十二水和物、0.1mg/mLカルベニシリンナトリウム(pH6.0))500μLへ、10μL/wellずつ植菌し、37℃・1000rpmで4.5時間振とう培養を行なった。
【0049】
(4)IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を終濃度5mmol/Lとなるよう、各ウェルに添加し、25℃・150rpmでさらに3日間培養した。
【0050】
(5)(4)の培養液を4℃・3000rpmで30分間遠心分離を行ない、上清を除去することで菌体を回収し、-30℃で保存した。
【0051】
(6)(5)で回収した菌体に、BugBuster試薬(商品名)(メルク社製)を含む抽出用緩衝液を100μLずつ加え、25℃・1000rpmで1時間振とうした後、4℃・3000rpmで30分間遠心分離して上清を回収することで、抽出液を調製した。
【0052】
(7)TBS緩衝液(150mmol/L塩化ナトリウムを含む20mmol/L Tris-HCl(pH7.5))を用いて100倍希釈した(6)の抽出液を、96穴PCRプレートへ120μL/wellずつ分注し、サーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて55℃で10分間加熱した後、4℃で保持した。
【0053】
(8)(6)の抽出液中のAMV逆転写酵素量(熱処理なし)、および(7)で熱処理した抽出液中のAMV逆転写酵素量(熱処理あり)を、以下に示すELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法で評価した。
(8-1)96穴マイクロプレートに抽出液(熱処理なし、および熱処理あり)を分注し、30℃で1時間インキュベートすることで抽出液中のタンパク質をマイクロプレートに固定化した。
(8-2)固定化終了後、TBS-T緩衝液(0.05%(v/v)のTween20(商品名)を含むTBS緩衝液)で洗浄し、1%(w/v)のBSA(Bovine Serum Albumin)溶液(メルク社製)を加えて30℃で1時間インキュベートすることで、ブロッキングを行なった。
(8-3)ブロッキング終了後、TBS-T緩衝液で洗浄し、マウス由来の抗AMV逆転写酵素モノクローナル抗体を加えて30℃で1時間インキュベートすることで、1次抗体反応を行なった。
(8-4)1次抗体反応終了後、TBS-T緩衝液で洗浄し、Horse Radish Peroxidase(HRP)で標識された抗マウスIgG抗体(Bethyl Labiratories社製)を加え、30℃で1時間インキュベートすることで、2次抗体反応を行なった。
(8-5)2次抗体反応終了後、TBS-T緩衝液で洗浄し、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を加えて、室温で5分間インキュベートした。
(8-6)等量の1mol/Lリン酸水溶液を加えて反応を停止させた後、450nmの吸光度を測定することでAMV逆転写酵素量を評価した。
【0054】
(9)熱処理した抽出液中のAMV逆転写酵素量(450nmの吸光度)を、それぞれ対応する熱処理なしの抽出液中のAMV逆転写酵素量を100%とした相対値(残存酵素量)で比較した。
【0055】
耐熱性AMV逆転写酵素(AMV-RT_R751H)、野生型AMV逆転写酵素(AMV-RT wild)、および特開2014-209898号公報で既知の耐熱性AMV逆転写酵素(AMV-RT_m4-2)とで、残存酵素量を比較した結果を図1に示す。AMV-RT_R751H(配列番号7)は、親株であるAMV-RT wild(配列番号1)だけでなく、既知のAMV-RT_m4-2(配列番号5)よりも残存酵素量が多くなっている。耐熱性の低い酵素は、加熱により凝集や分解を引き起こされやすくなり、酵素量が少なく定量されると考えられることから、AMV-RT_R751H(配列番号7)は、熱に対する安定性がさらに向上していることが分かる。
【0056】
実施例3 ヒスチジンタグを付加した耐熱性AMV逆転写酵素発現株の作製
(1)pTrcA-AMV-RT_R751Hを鋳型プラスミドとして、表1に示す組成からなる試薬を調製後、サーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用い、94℃で2分加熱後、98℃で10秒、55℃で10秒、72℃で1分の温度サイクルを30回繰り返す、インバースPCRを行なった。
【0057】
【表1】
【0058】
(2)得られたPCR産物を0.7%(w/v)アガロースゲル電気泳動で泳動後、ゲルから目的産物のバンドを切り出すことで精製した。
【0059】
(3)(2)で精製したPCR産物を、In-Fusion HD Cloningキット(タカラバイオ社製)を用いて環状化させ、N末端にヒスチジンタグを付加したAMV-RT_R751H(6H-AMV-RT_R751Hと命名)発現ベクターを作製した。
【0060】
(4)(3)で作製した発現ベクターを用いて、AMV由来p15プロテアーゼ(配列番号14)を共発現する大腸菌JM109株を形質転換し、6H-AMV-RT_R751H(配列番号10)を発現可能な組換え大腸菌株(形質転換体)を作製した。
【0061】
比較例2 ヒスチジンタグを付加した野生型AMV逆転写酵素発現株の作製
pTrcA-AMVEbを鋳型プラスミドとした他は、実施例3と同様の方法で、N末端にヒスチジンタグを付加したAMV-RT wild(配列番号13、6H-AMV-RT wildと命名)を発現可能な組換え大腸菌株(形質転換体)を作製した。
【0062】
実施例4 AMV逆転写酵素生産大腸菌のフラスコ培養
(1)実施例3で作製した6H-AMV-RT_R751H(配列番号10)を発現可能な形質転換体、または比較例2で作製した6H-AMV-RT wild(配列番号13)を発現可能な形質転換体を、バッフル付き100mLフラスコに分注した2×YT/Car培地20mLに植菌し、37℃・130rpmで一晩振とう培養することで、前培養を行なった。
【0063】
(2)(1)の前培養液を、バッフル付き5Lフラスコに分注した2×YT/Car培地1Lに植菌し、37℃・100rpmで8時間振とう培養を行なった。
【0064】
(3)IPTGを終濃度5mmol/Lとなるよう添加し、25℃・100rpmでさらに3日間培養した。
【0065】
(4)(3)の培養液を4℃・8000rpmで20分間遠心分離を行ない、上清を除去することで菌体を回収し、-30℃で保存した。
【0066】
実施例5 AMV逆転写酵素の精製および耐熱性評価
(1)実施例4で回収した湿菌体1gあたり、BugBuster試薬(商品名)(メルク社製)を含む抽出用緩衝液5mL加え、氷冷しながら10分間撹拌することで、抽出液を調製した。
【0067】
(2)(1)で調製した抽出液を、TALON(Cobalt)レジン(タカラバイオ社製)1mLに添加し、10mmol/Lのイミダゾールを含む緩衝液25mLで洗浄した後、200mmol/Lのイミダゾールを含む緩衝液3mLで溶出した。
【0068】
(3)アミコンウルトラ限外濾過フィルター(メルク社製)を用いて、(2)の溶出液の脱塩および濃縮を行ない、濃度が1mg/mLとなるように希釈調整することで、ヒスチジンタグを付加したAMV逆転写酵素(6H-AMV-RT_R751H、または6H-AMV-RT wild)を取得した。
【0069】
(4)(3)で取得した精製AMV逆転写酵素を、サーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて55℃で2分間加熱した後、4℃で保持した。
【0070】
(5)TRC(Transcription Reverse-transcription Concerted)法による結核菌群rRNA検出試薬TRCReady MTB(東ソー社製)の構成成分のうち、AMV逆転写酵素のみを、(3)で調製したAMV逆転写酵素(熱処理なし)または(4)で熱処理したAMV逆転写酵素(熱処理あり)に置き換え、陽性標準RNA(濃度既知の検出対象RNA)を測定した。測定は、自動遺伝子検査装置TRCReady-80(東ソー社製)を用いて蛍光強度の変化をモニタリングすることで行ない、蛍光測定値が初期蛍光値の1.2倍になった時間を検出時間とした。当該検出時間が短いほど、AMV逆転写酵素の酵素活性が残存していることが言える。
【0071】
AMV逆転写酵素として、6H-AMV-RT_R751H(配列番号10)、および6H-AMV-RT wild(配列番号13)をそれぞれ用いた場合の検出時間を、表2に示す。熱処理ありAMV逆転写酵素での検出時間を比較すると、6H-AMV-RT_R751H(配列番号10)のほうが、6H-AMV-RT wild(配列番号13)よりも顕著に検出時間が短くなっており、6H-AMV-RT_R751H(配列番号10)の熱安定性が向上していることがわかる。
【0072】
以上の結果から、TRC法による標的核酸増幅試薬の構成成分であるAMV逆転写酵素として、本発明の熱安定性が向上したAMV逆転写酵素AMV-RT_R751H(配列番号7)を含むポリペプチドを用いることで、TRC法による標的核酸の増幅をより高い温度で実施できることができ、当該増幅をより迅速に、および/または、より正確に行なえることが示唆される。
【0073】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素は、野生型AMV逆転写酵素や既知の熱安定性AMV逆転写酵素と比較し、熱安定性がさらに向上した酵素であり、例えば、当該酵素を標的核酸の増幅試薬やcDNA合成試薬などの構成成分とすることで、遺伝子工学試薬や遺伝子診断試薬の性能を向上させることができる。
図1
【配列表】
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