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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153198
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】被加工物の加工方法および加工装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20241022BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20241022BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20241022BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20241022BHJP
【FI】
H01L21/78 L
H01L21/66 N
B23K26/364
B23K26/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066957
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 翼
(72)【発明者】
【氏名】森數 洋司
【テーマコード(参考)】
4E168
4M106
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AD18
4E168CA05
4E168DA02
4E168DA46
4E168GA01
4E168GA02
4E168HA01
4E168JA12
4M106AA01
4M106BA05
4M106CA21
4M106CB21
4M106DJ18
5F063AA28
5F063AA48
5F063BA36
5F063DD01
5F063DD25
5F063DD58
5F063DE01
5F063DE11
5F063DE12
5F063DE16
5F063DE23
5F063DE32
5F063DE33
5F063FF33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被加工物の特性が変わる度に加工条件を探索しなければならず生産性が悪いと共に、煩に堪えないという問題を解消することがきる被加工物の加工方法を提供する。
【解決手段】方法は、被加工物に対しアブレーションを起こすパルスレーザー光線LB1を照射してプラズマ光PB0を発生させ、プラズマ光に基づき被加工物を構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンを生成する工程と、被加工物を加工する適正な加工条件を見出して設定する工程と、生成された分布パターンと設定された加工条件とを紐付けて記録する工程と、新たに加工すべき被加工物W’に対して分布パターンを生成すると共に、分布パターンと記録工程においてすでに記録された分布パターンとを照合して類似度が所定範囲にある分布パターンを選定する工程と、選定された分布パターンに紐付けられた加工条件に基づいて被加工物を加工する工程と、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の加工方法であって、
アブレーションを起こすパルスレーザー光線を被加工物に照射してプラズマ光を発生させ、該プラズマ光に基づき被加工物を構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンを生成する分布パターン生成工程と、
被加工物を加工する適正な加工条件を見出して設定する加工条件設定工程と、
該分布パターン生成工程によって生成された分布パターンと該加工条件設定工程によって設定された加工条件とを紐付けて記録する記録工程と、
加工すべき被加工物に対してアブレーションを起こすパルスレーザー光線を照射してプラズマ光を発生させ、該プラズマ光に基づき被加工物を構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンを生成すると共に、該分布パターンと該記録工程において記録された分布パターンとを照合して類似度が許容範囲にある分布パターンを選定する分布パターン選定工程と、
該分布パターン選定工程において選定された分布パターンに紐付けられた加工条件に基づいて被加工物を加工する加工工程と、
を含み構成される被加工物の加工方法。
【請求項2】
被加工物は板状物である請求項1に記載の被加工物の加工方法。
【請求項3】
該分布パターン生成工程において、被加工物の不要部分にパルスレーザー光線が照射される請求項1に記載の被加工物の加工方法。
【請求項4】
被加工物の加工装置であって、
アブレーションを起こすパルスレーザー光線を被加工物に照射してプラズマ光を発生させ、該プラズマ光に基づき被加工物を構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンを生成する分布パターン生成手段と、
該分布パターン生成手段によって生成された被加工物の分布パターンと被加工物を加工する適正な加工条件とを紐付けて記録する記録手段と、
該分布パターン生成手段によって加工すべき被加工物の分布パターンを生成すると共に該記録手段に記録された分布パターンと照合して類似度が許容範囲にある分布パターンを選定する分布パターン選定手段と、
該分布パターン選定手段によって選定された分布パターンに紐付けられた加工条件に基づいて被加工物を加工する加工手段と、
を含み構成される被加工物の加工装置。
【請求項5】
被加工物は板状物である請求項4に記載の被加工物の加工装置。
【請求項6】
該分布パターン生成手段は、被加工物の不要部分にパルスレーザー光線を照射する手段である請求項4に記載の被加工物の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の加工方法および加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画されて形成された表面を有するウエーハは、研削装置によって裏面が研削され所望の厚みに形成された後、切削装置、レーザー加工装置によって個々のデバイスチップに分割され、携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
研削装置は、ウエーハを保持する保持手段と、該保持手段に保持されたウエーハを研削する研削ホイールを回転可能に備えた研削手段と、該研削手段を該保持手段に保持されたウエーハに対して研削送りする送り手段と、ウエーハの厚みを計測する厚み計測手段と、を備え構成されていて、ウエーハを所望の厚みに研削することができる(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
切削装置は、ウエーハを保持する保持手段と、該保持手段に保持されたウエーハを切削する切削ブレードを回転可能に備えた切削手段と、該切削手段と該保持手段とを相対的に加工送りする加工送り手段と、切削すべきウエーハを撮像して分割予定ラインを検出するアライメント手段と、を備え構成されていて、ウエーハを高精度に個々のデバイスチップに分割することができる(例えば特許文献2を参照)。
【0005】
レーザー加工装置は、ウエーハを保持する保持手段と、該保持手段に保持されたウエーハにレーザー光線を照射して加工を施すレーザー照射手段と、該レーザー照射手段と該保持手段とを相対的に加工送りする加工送り手段と、加工すべきウエーハを撮像して分割予定ラインを検出するアライメント手段と、を備え構成されていて、ウエーハを高精度に個々のデバイスチップに分割することができる(例えば特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-021264号公報
【特許文献2】特開平11-026402号公報
【特許文献3】特開2004-322168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した加工装置によって加工される被加工物、例えばIC、LSI等のデバイスが形成されたウエーハを構成するシリコン基板には、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ボロン(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)等の不純物がドープされており、ドープされる不純物の種類、量、インゴットの製法の違い等によって、同種の素材として分類されるシリコン基板の硬さ、脆さ、柔軟性等の特性に違いが生じる。したがって、同種の素材からなる被加工物であっても、研削加工、切削加工、レーザー加工等の加工において、従前の加工条件をそのまま適用することができず、その都度、適正な加工条件の探索、調整をしなければならず生産性が悪いと共に、煩に堪えないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、被加工物の特性が変わる度に加工条件を探索しなければならず生産性が悪いと共に、煩に堪えないという問題を解消することがきる被加工物の加工方法および加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、被加工物の加工方法であって、アブレーションを起こすパルスレーザー光線を被加工物に照射してプラズマ光を発生させ、該プラズマ光に基づき被加工物を構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンを生成する分布パターン生成工程と、被加工物を加工する適正な加工条件を見出して設定する加工条件設定工程と、該分布パターン生成工程によって生成された分布パターンと該加工条件設定工程によって設定された加工条件とを紐付けて記録する記録工程と、加工すべき被加工物に対してアブレーションを起こすパルスレーザー光線を照射してプラズマ光を発生させ、該プラズマ光に基づき被加工物を構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンを生成すると共に、該分布パターンと該記録工程において記録された分布パターンとを照合して類似度が許容範囲にある分布パターンを選定する分布パターン選定工程と、該分布パターン選定工程において選定された分布パターンに紐付けられた加工条件に基づいて被加工物を加工する加工工程と、を含み構成される被加工物の加工方法が提供される。
【0010】
被加工物は板状物であることが好ましい。また、該分布パターン生成工程において、被加工物の不要部分にパルスレーザー光線が照射されることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、被加工物の加工装置であって、アブレーションを起こすパルスレーザー光線を被加工物に照射してプラズマ光を発生させ、該プラズマ光に基づき被加工物を構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンを生成する分布パターン生成手段と、該分布パターン生成手段によって生成された被加工物の分布パターンと被加工物を加工する適正な加工条件とを紐付けて記録する記録手段と、該分布パターン生成手段によって加工すべき被加工物の分布パターンを生成すると共に該記録手段に記録された分布パターンと照合して類似度が許容範囲にある分布パターンを選定する分布パターン選定手段と、該分布パターン選定手段によって選定された分布パターンに紐付けられた加工条件に基づいて被加工物を加工する加工手段と、を含み構成される被加工物の加工装置が提供される。
【0012】
被加工物は板状物であることが好ましい。また、該分布パターン生成手段は、被加工物の不要部分にパルスレーザー光線を照射する手段であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の被加工物の加工方法は、アブレーションを起こすパルスレーザー光線を被加工物に照射してプラズマ光を発生させ、該プラズマ光に基づき被加工物を構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンを生成する分布パターン生成工程と、被加工物を加工する適正な加工条件を見出して設定する加工条件設定工程と、該分布パターン生成工程によって生成された分布パターンと該加工条件設定工程によって設定された加工条件とを紐付けて記録する記録工程と、加工すべき被加工物に対してアブレーションを起こすパルスレーザー光線を照射してプラズマ光を発生させ、該プラズマ光に基づき被加工物を構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンを生成すると共に、該分布パターンと該記録工程において記録された分布パターンとを照合して類似度が許容範囲にある分布パターンを選定する分布パターン選定工程と、該分布パターン選定工程において選定された分布パターンに紐付けられた加工条件に基づいて被加工物を加工する加工工程と、を含み構成されることから、被加工物を形成する素材の物質的な特性によって変化する適正な加工条件が設定されて実施されることになり、被加工物の特性が変わる度に加工条件を探索しなければならず、生産性が悪いと共に煩に堪えないという問題が解消する。
【0014】
また、本発明の加工装置は、アブレーションを起こすパルスレーザー光線を被加工物に照射してプラズマ光を発生させ、該プラズマ光に基づき被加工物を構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンを生成する分布パターン生成手段と、該分布パターン生成手段によって生成された被加工物の分布パターンと被加工物を加工する適正な加工条件とを紐付けて記録する記録手段と、該分布パターン生成手段によって加工すべき被加工物の分布パターンを生成すると共に該記録手段に記録された分布パターンと照合して類似度が許容範囲にある分布パターンを選定する分布パターン選定手段と、該分布パターン選定手段によって選定された分布パターンに紐付けられた加工条件に基づいて被加工物を加工する加工手段と、を含み構成されることから、被加工物を形成する素材の物質的な特性によって変化する適正な加工条件が設定されて実施されることになり、被加工物の特性が変わる度に加工条件を探索しなければならず、生産性が悪いと共に煩に堪えないという問題が解消する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の切削装置の全体斜視図である。
図2図1に示す切削装置に装着される分布パターン生成手段の光学系を示すブロック図である。
図3図1に示す切削装置の制御手段に配設される記録部の構成を示す概念図である。
図4】分布パターン生成工程の実施態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に基づいて構成される被加工物の加工方法および加工装置に係る実施形態について、添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0017】
図1には、本発明の加工装置の実施形態の一例として示す切削装置1の全体斜視図が示されている。切削装置1によって加工される被加工物は板状物であって、例えば、シリコン(Si)からなる半導体のウエーハWであり、複数のデバイスDが分割予定ラインLによって区画された表面に形成されたものであって(図4も併せて参照)、環状のフレームFに粘着テープTを介して支持されている。
【0018】
切削装置1は、略直方体形状のハウジング2と、ハウジング2のカセットテーブル4aに載置されるカセット4と、カセット4からフレームFに支持されたウエーハWを吸引して仮置きテーブル5に搬出する搬出入手段3と、仮置きテーブル5に搬出されたウエーハWを保持するチャックテーブル22を備えた保持手段20と、ウエーハWをチャックテーブル22に搬送する旋回アームを有する搬送手段6と、チャックテーブル22の保持面22aに保持されたウエーハWに切削加工を施す加工手段として配設された切削ブレード81を含む切削手段8と、チャックテーブル22上に保持されたウエーハWを撮像し切削手段8よって切削すべき領域を検出するためのアライメント手段7と、図1においてチャックテーブル22が位置付けられた搬出入位置からウエーハWを洗浄装置12に搬送する洗浄搬出手段10と、ウエーハWを構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンを生成する分布パターン生成手段9(追って詳述する)と、表示手段14と、各作動部が接続された制御手段100と、を備えている。表示手段14には、アライメント手段7、分布パターン生成手段9によって検出される情報、及び加工条件等が表示され、表示手段14の表示画面はタッチパネルによって構成され、該表示画面をタッチして、加工条件を設定したり、加工の開始、停止を指示したりすることが可能である。
【0019】
ハウジング2の内部には、保持手段20を構成するチャックテーブル22と切削手段8とを相対的に移動させる送り手段が配設されている。該送り手段は、X軸方向に加工送りするX軸送り手段と、チャックテーブル22と切削手段8とを相対的に該X軸方向と直交するY軸方向に割り出し送りするY軸送り手段と、チャックテーブル22と切削手段8とを相対的に該X軸方向及び該Y軸方向と直交するZ軸方向に切り込み送りするZ軸送り手段と、チャックテーブル22を回転させる回転駆動手段とを含む(いずれも図示は省略する)。チャックテーブル22の保持面22aは、通気性を有する素材で構成されており、図示を省略する吸引手段に接続され、該吸引手段を作動することにより、保持面22aに負圧が生成されて、ウエーハWを吸引保持することができる。
【0020】
分布パターン生成手段9は、アライメント手段7に対しY軸方向の近傍に配設されており、図2に示す光学系を備えている。該光学系は、ハウジング2内に収容されており、例えば、ウエーハWを構成するシリコン基板に対して吸収性を有し、アブレーションを起こす波長のパルスレーザー光線LB0を発振するレーザー発振器91と、レーザー発振器91が発振したパルスレーザー光線LB0の出力を調整するアッテネータ92と、アッテネータ92によって出力が調整されたパルスレーザー光線LB1を所定倍率の平行光に変換するビームエキスパンダー93と、ビームエキスパンダー93から照射されたパルスレーザー光線LB1を反射する反射ミラー94と、反射ミラー94によって光路が変更されたパルスレーザー光線LB1を集光する集光レンズ95と、集光レンズ95によって集光されウエーハWに照射されたパルスレーザー光線LB1によって発生したプラズマ光PB0を集光する集光レンズ96と、該集光レンズ96によって集光されたプラズマ光PB0を、波長毎の成分に分光する回折格子97と、回折格子97によって波長毎に分光されたスペクトルPB1を受光し、その位置に応じた波長毎の光強度を検出可能なラインセンサ98と、を備えている。なお、図2に示すスペクトルPB1は、説明の都合上、波長毎の色の変化を7段階で示しているが、実際は、中間的な色も含まれており、波長に応じた色の変化はさらに多段階である。本発明の分布パターン生成手段9は、上記した構成により形成されることに限定されず、例えば、ビームエキスパンダー93は、コリメートレンズによって構成することも可能であり、また、回折格子97は、プリズムによって構成することも可能である。
【0021】
制御手段100は、コンピュータにより構成され、制御プログラムに従って演算処理する中央演算処理装置(CPU)と、制御プログラム等を格納するリードオンリメモリ(ROM)と、検出した検出値、演算結果等を一時的に格納するための読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)と、入力インターフェース、及び出力インターフェースとを備えている(詳細についての図示は省略する)。制御手段100は、追って説明する分布パターン生成部110、記録手段120、分布パターン選定手段130を備えている。制御手段100から指示される駆動信号に基づいて、切削装置1の各作動部が制御される。
【0022】
ラインセンサ98から出力された波長毎の光強度の信号は制御手段100に送られ、制御手段100に配設され分布パターン生成手段9の一部として機能する分布パターン生成部110によって図2の表示手段14に表示されているような分布パターンaが生成され、適宜のメモリに記憶される。なお、図4に示す分布パターンの横軸は波長(200~900nm)であり、縦軸は各波長に対応する光強度(例えばラインセンサ98によって検出される電圧値)を示している。分布パターン生成手段9は、図1に示すように、アライメント手段7に対してY軸方向の近傍に配設されている。これにより、分布パターン生成手段9によって照射される上記のパルスレーザー光線LB1は、チャックテーブル22に保持されるウエーハWの外周端部の領域、すなわち、デバイス等が配設されておらず、ウエーハWがデバイスチップに分割された後に廃棄される不要な部分に照射される。なお、前記した分布パターンaは、図示のウエーハWを形成するシリコン基板にドープされた、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ボロン(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)等の量、組合せ、インゴットの製法等に応じたものであり、ウエーハWを構成する物質固有の分布パターンである。
【0023】
制御手段100には、記録手段120が配設されている。記録手段120は、上記した分布パターン生成手段9によって生成されるウエーハWに基づく分布パターンとウエーハWを加工する際の適正な加工条件とを紐付けて記録する記録手段であり、物理的なメモリによって構成される。ウエーハWに基づく分布パターンとウエーハWを加工する適正な加工条件とを紐付けて記録する工程については追って詳述する。
【0024】
さらに、制御手段100は、上記した分布パターン生成手段9によって加工すべきウエーハWに応じた分布パターンを生成すると共に記録手段120に記録された分布パターンと照合して類似度が所定範囲にある分布パターンを選定する分布パターン選定手段130を備えている。そして、本実施形態の切削装置1においては、分布パターン選定手段130によって選定された分布パターンに紐づけられた加工条件に基づいて、ウエーハWを加工する加工手段、すなわち切削手段8によってウエーハWを切削する際の加工条件が設定される。加工条件を設定する際の工程についても追って詳述する。
【0025】
切削装置1は、概ね上記したような構成を備えており、切削装置1によって実施される本実施形態の被加工物の加工方法について、以下に説明する。
【0026】
本実施形態の被加工物(ウエーハW)の加工方法を実施するに際し、まず、図1、2に基づき説明したように、被加工物となるウエーハW(又はウエーハWと同一の素材からなるダミーウエーハであってもよい)を用意する。そして、ウエーハWをチャックテーブル22の保持面22aに載置して吸引保持し、ウエーハWを分布パターン生成手段9の直下に位置付ける。次いで、上記した分布パターン生成手段9を作動して、ウエーハWに対してアブレーションを起こすパルスレーザー光線LB1をウエーハWの表面に照射してアブレーションを生じさせて、プラズマ光PB0を発生させる。このとき使用するウエーハWに、デバイスが形成されている場合は、分布パターン生成手段9から照射されるパルスレーザー光線LB1を、ウエーハWにおいてデバイスが形成されていない領域である外周余剰領域に照射する。これにより発生したプラズマ光PB0を分光することによって得られるスペクトルPB1の波長と各波長の光強度に基づき、図2の表示手段14に表示されているような被加工物を構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンaを生成する(分布パターン生成工程)。
【0027】
上記した分布パターン生成工程を実行する際に、分布パターン生成手段9によってパルスレーザー光線LB1を照射してプラズマ光PB0を生じさせる際の加工条件は、例えば、以下のように設定される。
波長 :355nm
パルス幅 :10ps
繰り返し周波数 :10kHz
平均出力 :0.3W
ショット数 :1000ショット
【0028】
上記した分布パターン生成工程を実行したならば、該分布パターンaを分布パターン生成部110に一旦記憶する。次いで、ウエーハWを切削加工する際の適正な加工条件を見出すべく、ウエーハWの外周余剰領域に対する試験切削加工を実施する。
【0029】
上記した試験切削加工を実施する際の加工条件は、例えば、以下の設定範囲の中で変更、調整される。なお、以下に示す加工条件は一例にすぎず、他の加工条件も含め調整してもよい。
切削ブレードタイプ :タイプ1~タイプ10
スピンドル回転数 :5000~65000rpm
切削水 :1~3L/分
X軸方向の送り速度 :10~100mm/秒
【0030】
上記した加工条件の範囲で、切削手段8によって加工する際の加工条件を変更し、ウエーハWに対する試験切削加工を実施したならば、該試験切削加工による加工痕を確認する。切削加工痕の確認は、例えばアライメント手段7によって各加工溝を撮像して確認することができ、加工痕の良否は、例えばチッピングの数や、切削加工溝の幅、加工時間、加工結果の安定性等により評価される。該確認及び評価によって、ウエーハWに対する適正な加工条件を見出すことができる(加工条件設定工程)。
【0031】
上記したように、分布パターン生成工程と加工条件設定工程とを実施したならば、分布パターン生成工程によって生成した分布パターンaと加工条件設定工程によって設定された適正な加工条件Aとを紐付けて、図3に示すように制御手段100に配設される記録手段120に記録する(記録工程)。なお、上記した分布パターン生成工程、加工条件設定工程、および記録工程は、同一のインゴットから形成されたウエーハに対しては、1回実施すればよい。
【0032】
上記した分布パターン生成工程、加工条件設定工程、および記録工程は、異なる素材から形成されたウエーハを加工する度に実施することができるが、加工することが想定される複数種類のウエーハを予め用意できる場合は、後述する加工工程を実施する前に、纏めて実施することができる。その場合は、デバイスが形成されていないダミーウエーハであってもよい。図3には、ドープされた物質の種類、割合、インゴットの製造工程が異なる26種類の半導体ウエーハについて、予め分布パターン生成工程、加工条件設定工程、および記録工程を実施し、分布パターンa~zと、分布パターンa~zのそれぞれに対応する適正な加工条件A~Zとが紐付けられて記録され蓄積された記録部120が示されている。
【0033】
制御手段100の記録部120に、分布パターンa~zとそれに対応する適正な加工条件A~Zとが紐付けられて記録された状態で、図1に示す切削装置1に対して、新たに加工すべきウエーハW’を搬送し、チャックテーブル22の保持面22に該ウエーハW’を載置して吸引保持する。次いで、上記した送り手段を作動して、図4に示すように、ウエーハW’を、分布パターン生成手段9(一部を省略している)の直下に位置付け、分布パターン生成手段9を作動して、ウエーハW’に対してアブレーションを起こすパルスレーザー光線LB1を照射してプラズマ光PB0を発生させる。このとき、パルスレーザー光線LB1が照射されるのは、ウエーハW’においてデバイスDが形成されていない外周余剰領域である。プラズマ光PB0は、集光レンズ96を介して波長毎の成分に分光する回折格子97に導かれ、回折格子97によって波長毎に分光されたスペクトルPB1を生成してラインセンサ98に出力する。ラインセンサ98に出力されたスペクトルPB1に基づき、図4の表示手段14に表示されているようウエーハW’を構成する物質固有の光の波長と光強度とからなる分布パターンαが生成される。
【0034】
上記したように分布パターンαが生成されたならば、制御手段100に配設された分布パターン選定部130によって、分布パターンαと記録工程120に記録された分布パターンa~zとを照合し、分布パターンαに対して類似度が許容範囲にある分布パターンを選定する(分布パターン選定工程)。該分布パターン選定工程は、例えば、パターンマッチングによって実現することができ、該パターンマッチングによって類似度が許容範囲にあり(例えば、類似度の評価が85%以上)且つ類似度が最も高い分布パターンを選定する。本実施形態では、分布パターンαに対する類似度が所定範囲にあり類似度が高い分布パターンとして、例えば、図3に示す記録部120に記録された分布パターンyが選定される(分布パターン選定工程)。
【0035】
分布パターン選定工程により分布パターンyが選定されたならば、分布パターンyに紐付けられた加工条件Yを選択し、該加工条件Yを、切削装置1においてウエーハW’を切削加工する際の加工条件として設定する。なお、上記した分布パターン生成工程において、分布パターンαに対して類似度が許容範囲であるとは、記録部120に記憶された分布パターンを類似度が高いとして選定することで、同一の素材からなる被加工物とみなして加工条件が設定され適正な加工が実施されるとして許容される類似度の範囲を示すものである。
【0036】
上記したように加工条件YをウエーハW’の加工条件として設定したならば、アライメント手段7によってアライメントを実施して、ウエーハW’の分割予定ラインLを検出し、検出された分割予定ラインLの位置情報に基づき、切削手段8及び上記した送り手段を作動して、ウエーハW’に生成された全ての分割予定ラインLに沿ってウエーハW’を切削して、個々のデバイスチップに分割し、加工工程が完了する(詳細については省略する)。
【0037】
上記したウエーハW’に対する加工は、予め分布パターン生成工程、加工条件設定工程、および記録工程によって蓄積された加工条件の中から、適正な加工条件が選択されて実施され、ウエーハW’を形成する素材にドープされた不純物の種類、量、インゴットの製法等によって変化するシリコン基板の硬さ、脆さ、柔軟性等の特性に応じた加工となり、被加工物の特性が変わる度に加工条件を探索しなければならず、生産性が悪いと共に煩に堪えないという問題が解消する。
【0038】
また、上記した分布パターン選定工程において生成した加工すべきウエーハW’の分布パターンαと記録手段120記録された分布パターンa~zとを照合しても、類似度が高いと判断される許容範囲を満たさず、分布パターンa~zに紐づけられた加工条件A~Zを適正な加工条件として選択することができない場合は、改めてウエーハW’に対して、上記した加工条件設定工程を実施して適正な加工条件を見出し、新たに見出された適正な加工条件と分布パターンαを紐づけて記録手段120に記録して蓄積する。このような作業を繰り返すことにより、予め記録手段120に蓄積された分布パターンとそれに紐付けられた適正な加工条件が少なかったとしても、徐々に分布パターンと適正な加工条件が蓄積されて、従前の適正な加工条件を有効に利用することができるようになり、被加工物の特性が変わる度に一々加工条件を探索しなければならず生産性が悪いと共に煩に堪えないという問題が解消される。
【0039】
本発明の被加工物の加工方法では、必ずしも、記録部120において、分布パターンと、該分布パターンに紐づけられた適正な加工条件とが予め紐付けられて記録されていることに限定されない。例えば、上記した記録部120に分布パターンと、該分布パターンに紐づけられた適正な加工条件とを全く記録していない場合であっても、切削装置1において、新たなウエーハに対して加工を実施する度に、上記した分布パターン生成工程、加工条件設定工程、および記録工程を実施して、分布パターンと、該分布パターンに紐づけられた適正な加工条件を記録していけばよい。
【0040】
また、上記した実施形態では、被加工物に基づき生成された分布パターンと記録工程において記録された分布パターンとを照合して類似度を照合する際に、パターンマッチングによって該類似度を検出したが、本発明はこれに限定されず、深層学習(ディープラーニング)によって実施することもできる。また、上記した実施形態の分布パターン生成工程において生成される分布パターンは、横軸に波長を示し、縦軸に光強度を示す2次元グラフで表示されるものであったが、本発明はこれに限定されない。被加工物に対してアブレーションを起こすパルスレーザー光線を照射してプラズマ光を発生させる場合、該プラズマ光は、物質固有の特性に応じて、プラズマ光を構成する波長成分が発光の時関経過と共に変化する。よって、前記の波長、光強度に加え、時間をパラメータとする3次元グラフで分布パターンを表示するようにしてもよい。このように分布パターンを3次元グラフで表示する場合は、被加工物に基づき生成される分布パターンと記録工程において記録された分布パターンとを照合して類似度を照合する際の情報量が多くなることから、深層学習(ディープラーニング)を利用して照合することがより効果的である。
【0041】
上記した実施形態では、本発明を、切削加工を行う切削装置に適用して切削加工を実施する加工方法を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明の加工装置をレーザー加工装置に適用し、分布パターンに紐付けられる加工条件を、被加工物に対してレーザー加工を実施する際の加工条件とすることができる。その場合には、分布パターンと紐付けられ記録される加工条件は、例えば、レーザー光線の波長、平均出力、繰り返し周波数、パルス幅、加工送り速度等が、分布パターンと紐付けられて記録手段120に記録される。さらに、本発明を、研削加工を行う研削装置に適用することも可能であり、分布パターン選定工程において選定された分布パターンに紐付けられる加工条件を、被加工物に対して研削加工を実施する際の加工条件とすることもできる。
【符号の説明】
【0042】
1:切削装置
2:ハウジング
3:搬出入手段
4:カセット
5:仮置きテーブル
6:搬送手段
7:アライメント手段
8:切削手段
81:切削ブレード
9:分布パターン生成手段
91:レーザー発振器
92:アッテネータ
93:ビームエキスパンダー
94:反射ミラー
95、96:集光レンズ
97:回折格子
98:ラインセンサ
10:洗浄搬出手段
12:洗浄装置
14:表示手段
20:保持手段
22:チャックテーブル
22a:保持面
100:制御手段
110:分布パターン生成部
120:記録手段
130:分布パターン選定手段
図1
図2
図3
図4