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特開2024-153567トリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153567
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】トリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20241022BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20241022BHJP
   C12N 9/50 20060101ALI20241022BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20241022BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241022BHJP
   C12N 15/48 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C12N15/54
C12N9/10 ZNA
C12N9/50
C12N15/57
C12N15/63 Z
C12N15/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060519
(22)【出願日】2024-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2023066894
(32)【優先日】2023-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】田島(大熊) 里佳
(72)【発明者】
【氏名】野口 惇
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
(57)【要約】
【課題】トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素を発現可能な遺伝子組換え大腸菌を用いたAMV逆転写酵素の製造において、AMV逆転写酵素を効率的に生産可能な方法を提供すること。
【解決手段】AMV逆転写酵素をコードする遺伝子に加えて、プロテアーゼをコードする遺伝子を共発現させることで、前記課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素を発現可能な遺伝子組換え大腸菌を培養することで前記AMV逆転写酵素を発現させる工程と、
得られた培養物から前記AMV逆転写酵素を回収する工程とを含むAMV逆転写酵素の製造方法であって、
前記遺伝子組換え大腸菌がAMV逆転写酵素をコードする遺伝子とプロテアーゼをコードする遺伝子との共発現が可能である、前記製造方法。
【請求項2】
前記プロテアーゼの発現量が前記AMV逆転写酵素の発現量よりも低い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遺伝子組換え大腸菌が前記AMV逆転写酵素をコードする遺伝子を発現可能な第一の発現ベクターと、前記プロテアーゼをコードする遺伝子を発現可能な第二の発現ベクターとを含み、かつ
第二のベクターのプロモーター強度および/またはコピー数が、第一のベクターのプロモーター強度および/またはコピー数よりも低い、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記プロテアーゼがAMV由来のプロテアーゼである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記プロテアーゼがAMV由来のプロテアーゼである、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素の製造方法に関する。特に本発明は、AMV逆転写酵素およびプロテアーゼを共発現可能な遺伝子組換え大腸菌を培養し、前記AMV逆転写酵素を効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆転写酵素の一つであるトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素は、cDNA合成等に必要な遺伝子工学試薬や遺伝子診断用酵素などに利用されている。
【0003】
AMV逆転写酵素には、分子量約95kDaのβ鎖と、分子量約63kDaのα鎖(天然ではβ鎖の断片化によって生成)の2種類のサブユニットが存在し、β鎖のモノマーやホモダイマー、α鎖のモノマーやホモダイマー、ならびにα鎖とβ鎖とのヘテロダイマー(以下、「αβ体」とも表記する)などを構成することが知られている。このうち、αβ体は酵素活性が高く、TRC(Transcription-Reverse transcription Concertedreaction)法などの遺伝子増幅反応へ特に有用であることから(特許文献1)、AMV逆転写酵素αβ体の効率的な製造方法が求められていた。
【0004】
AMV逆転写酵素αβ体の製造方法として、タンパク質を安定的に大量生産可能な遺伝子組換え大腸菌を用いた製造方法が知られている。一例として、特許文献2には、AMV逆転写酵素α鎖およびβ鎖をコードする遺伝子をそれぞれ導入した遺伝子組換え大腸菌を用いて、前記遺伝子組換え大腸菌体内でα鎖およびβ鎖遺伝子を共発現させることで、AMV逆転写酵素αβ体を生産する方法が記載されている。しかしながら、前記方法ではAMV逆転写酵素の可溶性発現量が少なく、可溶化促進のためにAMV逆転写酵素との分離精製が難しいシャペロンタンパク質との更なる共発現を必要とすることから、精製純度の点で懸念があった。また、前記方法では、α鎖およびβ鎖が別々の遺伝子にコードされているため遺伝子工学的に複雑な発現系となっており、例えば進化分子工学的手法によるAMV逆転写酵素の改良などを行う上で、より簡便なAMV逆転写酵素の発現系が求められていた。
【0005】
シャペロンタンパク質との共発現を必要としないAMV逆転写酵素αβ体の製造方法として、特許文献3には、AMV逆転写酵素β鎖をコードする遺伝子のみを導入した遺伝子組換え大腸菌を用いて、前記遺伝子組換え大腸菌体内で発現させたβ鎖からα鎖を分解生成し、AMV逆転写酵素αβ体を生産する方法が記載されている。しかしながら、前記方法では前記遺伝子組換え大腸菌体内におけるAMV逆転写酵素β鎖の存在量に対して、α鎖の存在量が相対的に低く、さらに効率的なAMV逆転写酵素αβ体の製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-334095号公報
【特許文献2】特開2002-315584号公報
【特許文献3】特開2013-126402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素を発現可能な遺伝子組換え大腸菌を用いたAMV逆転写酵素の製造において、AMV逆転写酵素を効率的に生産可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、前記遺伝子組換え大腸菌において、トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をコードする遺伝子に加えて、プロテアーゼをコードする遺伝子を共発現させることで、前記AMV逆転写酵素を効率的に生産できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の<1>から<8>に記載の態様を包含する。
【0010】
<1>AMV逆転写酵素を発現可能な遺伝子組換え大腸菌を培養することでAMV逆転写酵素を発現させる工程と、
得られた培養物から前記AMV逆転写酵素を回収する工程とを含むAMV逆転写酵素の製造方法であって、
前記遺伝子組換え大腸菌がAMV逆転写酵素をコードする遺伝子とプロテアーゼをコードする遺伝子との共発現が可能である、前記製造方法。
【0011】
<2>前記プロテアーゼの発現量が前記AMV逆転写酵素の発現量よりも低い、<1>に記載の方法。
【0012】
<3>前記遺伝子組換え大腸菌が前記AMV逆転写酵素をコードする遺伝子を発現可能な第一の発現ベクターと、前記プロテアーゼをコードする遺伝子を発現可能な第二の発現ベクターとを含み、かつ
第二のベクターのプロモーター強度および/またはコピー数が、第一のベクターのプロモーター強度および/またはコピー数よりも低い、前記<1>または<2>に記載の方法。
【0013】
<4>前記プロテアーゼがAMV由来のプロテアーゼである、前記<1>から<3>のいずれかに記載の方法。
【0014】
<5>前記遺伝子組換え大腸菌がAMV逆転写酵素β鎖をコードする遺伝子とプロテアーゼをコードする遺伝子との共発現が可能な大腸菌である、<1>に記載の方法。
【0015】
<6>前記プロテアーゼの発現量がAMV逆転写酵素β鎖の発現量よりも低い、<5>に記載の方法。
【0016】
<7>前記遺伝子組換え大腸菌がAMV逆転写酵素β鎖をコードする遺伝子を発現可能な第一の発現ベクターと、前記プロテアーゼをコードする遺伝子を発現可能な第二の発現ベクターとを含み、かつ
第二のベクターのプロモーター強度および/またはコピー数が、第一のベクターのプロモーター強度および/またはコピー数よりも低い、前記<5>または<6>に記載の方法。
【0017】
<8>前記プロテアーゼがAMV由来のプロテアーゼである、前記<5>から<7>のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の遺伝子組換え大腸菌を用いたトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素の製造方法は、AMV逆転写酵素をコードする遺伝子とプロテアーゼをコードする遺伝子とを前記大腸菌体内で共発現させることを特徴としている。本発明の製造方法では、前記AMV逆転写酵素β鎖からα鎖への分解が促進され、AMV逆転写酵素αβ体の生産量が大幅に増大している。したがって本発明は、AMV逆転写酵素αβ体の工業的製造に有用といえる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】AMV逆転写酵素α体およびβ体の総量に占めるα体の割合(モル比)の経時変化を、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法で解析した結果を示す図である。
図2】プラスミドベクターpTrc_N-His-AMVbの構造を示す図である。
図3】プラスミドベクターpSTV_p15の構造を示す図である。
図4】プラスミドベクターpTrc_N-His-AMVb_p15の構造を示す図である。
図5】プラスミドベクターpTrc_p15_N-His-AMVbの構造を示す図である。
図6】培養液当たりのAMV逆転写酵素発現量を、ウェスタンブロッティング法で解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明においてAMV逆転写酵素とは、AMV(Avian Myeloblastosis Virus、トリ骨髄芽球症ウイルス等とも呼称される)が有する逆転写酵素のことである。AMV逆転写酵素の一例として、
(I)配列番号1(GenBank No.AAB31929)に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチドや、
(II)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性の少なくとも1つ以上の活性を有するポリペプチドや、
(III)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基に対して70%以上の同一性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性の少なくとも1つ以上の活性を有するポリペプチド、があげられる。
【0022】
前記(II)の一例として、配列番号2に記載のアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドがあげられる。配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドはAMV逆転写酵素の天然型バリアント(variant)であり、具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基からなり、ただし当該アミノ酸残基において、以下に示す3箇所のアミノ酸残基の置換が生じたポリペプチドである;
配列番号1の280番目(配列番号2では273番目)のアルギニンのメチオニンへの置換、
配列番号1の311番目(配列番号2では304番目)のアルギニンのグルタミンへの置換、
配列番号1の402番目(配列番号2では395番目)のアスパラギン酸のグルタミン酸への置換。
【0023】
なお、前記(II)の「1もしくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1~80個、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~10個、または1~5個であってよい。
【0024】
前記(III)において同一性とは、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等のアラインメント(alignment)プログラムを用いて決定できる。例えば、「アミノ酸残基の同一性」とは、blastpを用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してよく、具体的には、blastpをデフォルトのパラメータで用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してもよい。同一性は70%以上であればよく、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の同一性を有していてもよい。
【0025】
なお前述したAMV逆転写酵素はβ鎖と呼ばれるポリペプチドであってよい。一方、AMV逆転写酵素にはβ鎖よりも低分子のポリペプチドであるα鎖も存在してよい。AMV逆転写酵素α鎖の一例として、
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基からなるポリペプチドや、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性の少なくとも1つ以上の活性を有するポリペプチドや、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基に対して70%以上の同一性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性の少なくとも1つ以上の活性を有するポリペプチド、があげられる。
【0026】
前記(ii)の一例として、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちN末端側572残基からなるポリペプチドである、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドがあげられる。
【0027】
なお、前記(ii)の「1もしくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~10個、または1~5個であってよい。
【0028】
前記(iii)において同一性は、70%以上であればよく、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の同一性を有していてもよい。
【0029】
AMV逆転写酵素は、前述したβ鎖のモノマーやホモダイマー、前述したα鎖のモノマーやホモダイマー、ならびにα鎖とβ鎖とのヘテロダイマー(以下、「αβ体」とも表記する)などを構成することが知られているが、本発明では、活性が高く遺伝子増幅試薬などの原材料として有用なαβ体を、効率的に製造することが可能である。
【0030】
また、本発明におけるAMV逆転写酵素は、そのN末端側および/またはC末端側に、分析・精製を容易にするためのタグペプチドや、大腸菌での分泌発現を促すためのシグナルペプチド、ベクターの開始コドンやマルチクローニングサイト由来のペプチドなどが付加されていてもよい。一例として、前述したAMV逆転写酵素のN末端側に、開始コドン由来のメチオニン、精製を容易にするための6×Hisタグ(6残基のヒスチジン)およびそれらのリンカー配列から成る配列を付加したポリペプチド(配列番号5)があげられる。
【0031】
本発明においてAMV逆転写酵素をコードする遺伝子(以下、AMV逆転写酵素遺伝子とも表記する)とは、AMV逆転写酵素と実質的に同一なタンパク質が発現可能な範囲で、当該遺伝子のヌクレオチド配列と実質的に相同的な配列を含む遺伝子であってもよいし、当該遺伝子のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列を含む遺伝子であってもよい。
【0032】
ここで「AMV逆転写酵素と実質的に同一なタンパク質」とは、具体的には、AMV逆転写酵素が有する3つの酵素活性(逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性)のうち少なくとも1つ以上が、天然型AMV逆転写酵素と同等以上の活性を有するタンパク質のことをいう。例えば、AMVが本来有するAMV逆転写酵素遺伝子のヌクレオチド配列と、少なくとも70%以上(好ましくは80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上)の同一性を有したヌクレオチド配列を含む遺伝子から翻訳されたタンパク質であってよい。
【0033】
またここで「ストリンジェントな条件」とは、通常の状態と比較してDNA同士が二重鎖を形成し難い条件をいい、具体的には、42℃で、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%(w/v) Bovine Serum Albumin(BSA)、0.1%(w/v) フィコール(商品名)、0.1%(w/v) ポリビニルピロリドン、50mmol/L リン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mmol/L 塩化ナトリウム、または75mmol/L クエン酸ナトリウムが共存する条件が例示できる。
【0034】
本発明におけるAMV逆転写酵素遺伝子の一例として、
AMV逆転写酵素(β鎖)である、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードし、かつ宿主である大腸菌におけるコドン使用頻度に最適化されたポリヌクレオチド(配列番号4)があげられる。
【0035】
本発明のAMV逆転写酵素の製造方法では、AMV逆転写酵素をコードする遺伝子とプロテアーゼをコードする遺伝子とを遺伝子組換え大腸菌体内で共発現させることで、前記AMV逆転写酵素β鎖からα鎖への分解を前記プロテアーゼによって促進し、AMV逆転写酵素αβ体を効率的に高生産させる。
【0036】
本発明におけるプロテアーゼは、AMV逆転写酵素α鎖と実質的に同等な機能を有するポリペプチドを生成可能なプロテアーゼであれば特に限定はなく、大腸菌由来のプロテアーゼやAMV由来のプロテアーゼが例示できる。天然(AMVの宿主であるトリ細胞内)におけるβ鎖からα鎖への分解をより再現できるという点で、AMV由来のプロテアーゼ(以下、AMVp15プロテアーゼとも表記する)が好ましい。AMVp15プロテアーゼの一例として、
(A)配列番号6(GenBank No.AAB21262.1)に記載のアミノ酸配列のうち74番目のロイシンから204番目のロイシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチドや、
(B)配列番号6に記載のアミノ酸配列のうち74番目のロイシンから204番目のロイシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつプロテアーゼ活性の少なくとも1つ以上の活性を有するポリペプチドや、
(C)配列番号6に記載のアミノ酸配列のうち74番目のロイシンから204番目のロイシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基に対して70%以上の同一性を有し、かつプロテアーゼ活性の少なくとも1つ以上の活性を有するポリペプチド、があげられる。
【0037】
本発明においてAMVp15プロテアーゼをコードする遺伝子(以下、AMVp15プロテアーゼ遺伝子とも表記する)とは、AMVp15プロテアーゼと実質的に同一なタンパク質が発現可能な範囲で、当該遺伝子のヌクレオチド配列と実質的に相同的な配列を含む遺伝子であってもよいし、当該遺伝子のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列を含む遺伝子であってもよい。ここで「AMVp15プロテアーゼと実質的に同一なタンパク質」とは、具体的には、プロテアーゼ活性が天然型AMVp15プロテアーゼと同等以上の活性を有するタンパク質のことをいう。
【0038】
本発明におけるAMVp15プロテアーゼ遺伝子の一例として、AMVp15プロテアーゼである配列番号6の74番目のロイシンから204番目のロイシンまでのアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードし、かつ宿主である大腸菌におけるコドン使用頻度に最適化されたポリヌクレオチド(配列番号7)があげられる。
【0039】
本発明における、AMV逆転写酵素β鎖をコードする遺伝子とプロテアーゼをコードする遺伝子との共発現とは、前記2種類の遺伝子を人為的な制御下において同一宿主大腸菌体内で発現させることである。発現させる遺伝子は、AMVp15プロテアーゼのような異種タンパク質をコードする遺伝子であっても良いし、発現量を調節する目的で、大腸菌プロテアーゼ遺伝子のような宿主大腸菌がもともと有している遺伝子であってもよい。発現方法には特に限定はなく、AMV逆転写酵素遺伝子とプロテアーゼ遺伝子をそれぞれ別々のベクターに挿入して発現させても良く、単一ベクター上で同一または別々のプロモーターで制御して発現させても良く、染色体DNA上に組み込んで発現させても良い。前述した宿主大腸菌がもともと有している遺伝子を共発現させる場合には、前記遺伝子を宿主大腸菌へ新たに導入して発現させる代わりに、もともと宿主大腸菌が有していた前記遺伝子のプロモーター等を置換して人為的に制御可能な状態にすることで共発現させても良い。組換えプラスミドの構築や、それぞれの遺伝子の発現量の制御が容易という点で、別々のベクターに挿入して発現させる方法が好ましい。AMV逆転写酵素遺伝子およびプロテアーゼ遺伝子を発現させる時期については特に限定はなく、同時に発現を誘導しても良いし、それぞれ別々の時期に発現を誘導しても良い。操作の簡便性の点で、同時に発現を誘導する方法が好ましい。
【0040】
本発明において、プロテアーゼの発現量をAMV逆転写酵素の発現量よりも低く抑え、AMV逆転写酵素β鎖からα鎖への分解量を調整すると、AMV逆転写酵素αβ体を効率的に生産し、かつ可溶性発現量を向上できる点で好ましい。
【0041】
発現量の調整方法は特に限定はなく、それぞれの遺伝子発現を制御するプロモーターの強度によって調整する方法や、宿主大腸菌体内における各遺伝子のコピー数によって調整する方法(それぞれの遺伝子をコピー数の異なる別々のプラスミドに挿入して調整する方法、プラスミドや染色体DNA上に同一遺伝子を複数コピー挿入する方法)、これらを組み合わせた方法などが例示できる。これらの方法で使用するプロモーターやプラスミドベクターには特に限定はなく、プロモーターは例えばlacプロモーター、trcプロモーター、T7プロモーターなどの大腸菌で機能するプロモーターから必要に応じて転写強度を考慮して適宜選択すればよく、プラスミドベクターはpTrc系、pSTV系、pUC系、pBR系、pET系、広宿主域(Broad-Host-Range)プラスミドベクター系などの、形質転換する大腸菌内で安定に存在、複製できるプラスミドベクターから、必要に応じてプラスミド同士の不和合性やコピー数を考慮して適宜選択すればよい。一例として、2種類のプラスミドベクターを単一宿主大腸菌体内で安定的に保持可能であり、かつ発現量の調整が容易という点で、比較的コピー数が多いColE1複製起点(約40コピー/菌体)と強力なtrcプロモーターを有するpTrc系プラスミドベクター(pTrc99Aなど)へAMV逆転写酵素遺伝子を挿入し、比較的コピー数が少ないp15A複製起点(約20コピー/菌体)と温和なプロモーター(lacプロモーター)を有するpSTV系プラスミドベクター(pSTV28など)へプロテアーゼ遺伝子を挿入する方法が、好適な事例として例示できる。
【0042】
前述したAMV逆転写酵素遺伝子およびプロテアーゼ遺伝子の発現ベクターへの挿入は、挿入するベクターの適切な位置に遺伝子工学的に挿入すればよい。ここでいう適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、または伝達性に関わる領域を破壊しない範囲で自由に決定してよい。
【0043】
形質転換に用いる大腸菌の好ましい態様として、大腸菌MV1184株、大腸菌GM31株、大腸菌HB101株、大腸菌JM101株、大腸菌W3110株、大腸菌JM109株があげられる。中でも、より好ましくは大腸菌JM109株である。なお前述した大腸菌に対し、ニトロソグアニジンやメタンスルホン酸エチル等の化学物質、紫外線、放射線等の公知の方法により変異処理した大腸菌変異株を使用してもよい。
【0044】
本発明のベクターを用いて大腸菌を形質転換するには、公知の方法(例えば、Method in Enzymology,216,469-631,1992,Academic PressやMethod in Enzymology,204,305-636,1991,Academic Pressに記載の方法)で行なえばよい。
【0045】
前述した方法で得られた本発明の形質転換体の培養は、公知の方法を利用すればよく、例えばLB(Luria-Bertani)培地や2×YT培地を用いる方法があげられる。なお本発明のベクターに薬剤耐性遺伝子を有している場合、当該遺伝子に対応した薬剤を選抜剤として培地に添加すると、本発明の形質転換体を選択して培養できる点で好ましい。例えば、本発明のベクター2種がアンピシリン耐性遺伝子およびクロラムフェニコール耐性遺伝子を有している場合、培地にアンピシリンまたはカルベニシリンおよびクロラムフェニコールを添加すればよい。また培地には、炭素、窒素、無機塩や、適当な栄養源を添加してもよい。培養温度は、例えば10℃以上40℃以下の範囲であればよく、好ましくは25℃以上37℃以下の範囲、より好ましくは30℃以上37℃以下の範囲である。pHは例えば5.9以上8.1以下の範囲であればよく、好ましくはpH6.5以上7.5以下の範囲である。
【0046】
本発明のプロモーターとしてtrcプロモーターやlacプロモーターなどの誘導性プロモーターを用いる場合、IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)などの誘導剤を培地に添加し、AMV逆転写酵素やプロテアーゼの発現を誘導してもよい。この場合、培養開始時に誘導剤を添加して前記酵素の発現を誘導させてもよいし、良好なAMV逆転写酵素の生産性が得られる程度まで菌体を増殖させた後に誘導剤を添加し、AMV逆転写酵素および/またはプロテアーゼの発現を誘導させてもよい。AMV逆転写酵素をコードする遺伝子、およびプロテアーゼをコードする遺伝子を、それぞれ別々の誘導剤によって誘導されるプロモーターの制御下に挿入し、それぞれの誘導剤を各々適切な時期に培地に添加することで、前記AMV逆転写酵素遺伝子および前記プロテアーゼ遺伝子の発現を異なる時期に誘導してもよい。菌体の増殖を阻害せず、かつ操作が簡便という点で、培養液の濁度(600nmにおける吸光度)が概ね0.1以上20.0以下を示す期間、あるいは培養開始から1時間以上24時間以内の期間に、誘導剤を添加してAMV逆転写酵素およびプロテアーゼの発現を誘導する誘導操作を行ない、引き続き培養する方法が、好適な事例として例示できる。IPTGの添加濃度は、一例として終濃度で概ね0.1mmol/L以上10.0mmol/L以下の範囲の中から適宜選択すればよいが、好ましくは1.0mmol/L以上10.0mmol/L以下の範囲、より好ましくは2.5mmol/L以上7.5mmol/L以下の範囲である。なお、誘導操作後(誘導剤添加後)の培養温度を大腸菌の至適培養温度よりも低い温度まで下げると好ましく、具体的には10℃以上30℃以下の範囲、より好ましくは15℃以上25℃以下の範囲、さらに好ましくは20℃以上25℃以下の範囲である。誘導操作後の培養時間は、例えば3時間以上であればよく、好ましくは1日以上、より好ましくは2日以上、さらに好ましくは2日以上7日以下である。
【0047】
本発明の製造方法のうち回収工程は、AMV逆転写酵素の発現形態に応じて、公知の方法から適宜選択し、実施すればよい。例えば、発現したAMV逆転写酵素が大腸菌内に蓄積する場合は、遠心分離操作等により菌体を集めた後、酵素処理剤や超音波破砕等により菌体を破砕して抽出し、共沈殿法やクロマトグラフィー法を用いて適宜精製すればよい。共沈殿法としてはストレプトマイシン塩酸塩やポリエチレンイミン(商品名:Polymin P)などを添加してAMV逆転写酵素を沈殿回収する方法が、クロマトグラフィー法としてはイオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーといった種々のクロマトグラフィーを用いる方法が例示でき、これらを単独または組み合わせて適用することにより、AMV逆転写酵素を高純度に精製できる。前述した分析・精製を容易にするためのタグペプチドとして6×Hisタグを付加したAMV逆転写酵素を回収する場合、コバルトやニッケルを用いた固定化金属アフィニティクロマトグラフィーを用いて精製することで、AMV逆転写酵素を簡便に回収することができる。
【実施例0048】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1 プロテアーゼ共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌の作製(その1)
(1)配列番号4に記載のヌクレオチド配列からなるAMV逆転写酵素β鎖遺伝子の5’末端側に、開始コドン、6×Hisタグをコードする塩基配列、およびそれらのリンカーをコードする塩基配列(配列番号8)を、3’末端側に終止コドン(TAA)を、それぞれ付加したポリヌクレオチド(配列番号9)を合成した。
【0050】
(2)pTrc99Aプラスミドベクターのtrcプロモーター下流に、(1)で合成したポリヌクレオチドをIn-Fusion HD クローニングキット(タカラバイオ)を用いて挿入後、当該ベクターで大腸菌JM109株(タカラバイオ)を形質転換した。
【0051】
(3)(2)で得られた形質転換体から、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて組換えプラスミドを抽出し、AMV逆転写酵素発現用プラスミドpTrc_N-His-AMVbを調製した。
【0052】
(4)配列番号7に記載のヌクレオチド配列からなるAMVp15プロテアーゼ遺伝子の5’末端側に開始コドン(ATG)を、3’末端側に終止コドン(TAA)を、それぞれ付加したポリヌクレオチドを合成した。
【0053】
(5)pSTV28プラスミドベクターのlacプロモーター下流に、(4)で合成したポリヌクレオチドを挿入後、当該ベクターで大腸菌JM109株を形質転換した。
【0054】
(6)(5)で得られた形質転換体から、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて組換えプラスミドを抽出し、プロテアーゼ発現用プラスミドpSTV_p15を調製した。
【0055】
(7)(6)で得られたプロテアーゼ発現用プラスミドpSTV_p15を用いて大腸菌JM109株を形質転換した後、次いで(3)で得られたAMV逆転写酵素発現用プラスミドpTrc_N-His-AMVbを用いて前記形質転換体を形質転換することで、プロテアーゼ共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌を作製した。
【0056】
実施例2 AMV逆転写酵素の発現
(1)実施例1で作製したプロテアーゼ共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌、および実施例1(3)で調製したAMV逆転写酵素発現用プラスミドpTrc_N-His-AMVbのみで大腸菌JM109株を形質転換した形質転換体(プロテアーゼ非共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌)を、2×YT培地(トリプトン 16g/L、酵母エキス 10g/L、塩化ナトリウム 5g/L)3mLに植菌し、37℃、180rpmで一晩前培養した。
【0057】
(2)(1)の前培養液2mLを、2×YT培地200mLに植菌し、37℃、180rpmで16時間培養した。
【0058】
(3)IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を終濃度5mmol/Lとなるように添加し、25℃でさらに最長で7日間培養した。
【0059】
(4)培養液を遠心分離し、AMV逆転写酵素を発現した大腸菌を回収した。
【0060】
実施例3 AMV逆転写酵素発現量の評価(その1)
(1)実施例2で回収した各大腸菌を、破砕バッファー(xTractor Buffer (タカラバイオ)、1/8× Protease Inhibitor Cocktail (Promega)、25U/μL DNase、0.25mg/mL リゾチーム)に懸濁し、氷上でインキュベートすることで、菌体抽出液を調製した。
【0061】
(2)(1)で得られた菌体抽出液を遠心分離し、不溶性沈殿物を除去した後、含まれるAMV逆転写酵素をTALONコバルトレジン(タカラバイオ)に吸着させた。
【0062】
(3)10mM イミダゾールを含むpH7.5の洗浄液で洗浄した後、200mMイミダゾールを含むpH7.5の溶出液を用いてレジンからAMV逆転写酵素を溶出させ、溶出液を回収した。
【0063】
(4)(3)で回収した溶出液を、アミコンウルトラ限外濾過フィルター(メルク)で濃縮した。
【0064】
(5)(4)で得られた濃縮液を、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)に供し、泳動後のゲル中のバンド輝度を画像解析ソフトImageJで解析することでAMV逆転写酵素量を定量した。
【0065】
SDS-PAGE法におけるAMV逆転写酵素α体およびβ体のバンド輝度をそれぞれの分子量で除した。その値をそれぞれ<α>、<β>とすると、<α>を<α>および<β>の合計で除した値に100を乗じた数値を、α体の割合とした。当該数値はα体とβ体の総量に占めるα体のモル比に近似できる。誘導後の培養日数ごとのα体の割合の経時変化を、図1に示す。
【0066】
プロテアーゼ共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌では、プロテアーゼ非共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌に比べてAMV逆転写酵素α体の割合が誘導後1日目において1.41倍、誘導後2日目において1.28倍、誘導後3日目において1.23倍に向上した。また、その割合は誘導剤であるIPTGの添加から2日後に最大に達し、以後7日目までα体:β体のモル比が1:1の水準を維持した。なお、誘導後7日目のプロテアーゼ非共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌での培養結果は、α体のSDS-PAGEのバンドが検出限界となってしまった。本結果から、AMV逆転写酵素β体遺伝子に加えて、プロテアーゼ遺伝子を共発現させることで、AMV逆転写酵素β体からα体への分解が促進され、α体の生産量が向上することが分かる。したがって、本発明の製造方法により、AMV逆転写酵素αβ体を効率的に大量生産可能であるといえる。
【0067】
実施例4 プロテアーゼ共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌の作製(その2)
AMV逆転写酵素β鎖遺伝子およびAMVp15プロテアーゼ遺伝子を、pTrc99Aプラスミドベクターのtrcプロモーターの下流へ挿入し、当該ベクターで大腸菌を形質転換することで、AMV逆転写酵素とプロテアーゼを等量発現するプロテアーゼ共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌を作製した。
【0068】
(1)実施例1(4)で合成した開始コドンおよび終止コドンが付加されたAMVp15プロテアーゼ遺伝子を、pTrc99Aプラスミドベクターのtrcプロモーター下流に挿入後、当該ベクターで大腸菌JM109株(タカラバイオ)を形質転換した。
【0069】
(2)(1)で得られた形質転換体から、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて組換えプラスミドを抽出し、クローニング用プラスミドpTrc_p15を調製した。
【0070】
(3-1)(2)で調製したクローニング用プラスミドpTrc_p15を鋳型としたPCRにより、AMVp15プロテアーゼ遺伝子とその周辺領域を含むポリヌクレオチドを合成し、In-Fusion HD クローニングキット(タカラバイオ)を用いて実施例1(3)で調製したAMV逆転写酵素発現用プラスミドpTrc_N-His-AMVbのAMV逆転写酵素β鎖遺伝子の下流に挿入後、当該ベクター(以下、等量共発現プラスミドpTrc_N-His-AMVb_p15と表記)で大腸菌JM109株を形質転換することで、等量共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌Aを作製した。等量共発現プラスミドpTrc_N-His-AMVb_p15における、trcプロモーター配列からAMVp15プロテアーゼ遺伝子までの塩基配列を配列番号10に示す。
【0071】
(3-2)実施例1(3)で調製したAMV逆転写酵素発現用プラスミドpTrc_N-His-AMVbを鋳型としたPCRにより、AMV逆転写酵素β鎖遺伝子とその周辺領域を含むポリヌクレオチドを合成し、In-Fusion HD クローニングキットを用いて(2)で調製したクローニング用プラスミドpTrc_p15のAMVp15プロテアーゼ遺伝子の下流に挿入後、当該ベクター(以下、等量共発現プラスミドpTrc_p15_N-His-AMVbと表記)で大腸菌JM109株を形質転換することで、等量共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌Bを作製した。等量共発現プラスミドpTrc_p15_N-His-AMVbにおける、trcプロモーター配列からAMV逆転写酵素β鎖遺伝子までの塩基配列を配列番号11に示す。
【0072】
また、各プラスミドベクターの構造を図2~5に示す。
【0073】
実施例5 AMV逆転写酵素発現量の評価(その2)
(1)実施例4(3-1)で作製した等量共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌A、および(3-2)で作製した等量共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌Bを、実施例2に記載と同様の方法で培養し、AMV逆転写酵素を発現した大腸菌を回収した。なお、誘導後の培養日数は2日間とした。
【0074】
(2)(1)および実施例2で回収した共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌を、実施例3(1)に記載と同様の方法で処理し、菌体抽出液を調製した。
【0075】
(3)(2)で得られた菌体抽出液を遠心分離して不溶性沈殿物を除去した後、3-メルカプト-1,2-プロパンジオールを含むSDS-PAGEサンプル緩衝液に添加し、98℃で5分間熱処理後、5%(w/v)から20%(w/v)濃度勾配SDS-ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動した。
【0076】
(4)電気泳動後、トランスブロットTurbo転写システム(Bio-Rad)を用いて、ゲル中のタンパク質をPVDFメンブレンに転写した。
【0077】
(5)(4)のメンブレンに対して、1次抗体として抗AMV逆転写酵素ラビットポリクローナル抗体を、2次抗体として抗ラビットIgG抗体-HRP(Bethyl)を、発色試薬としてSuper Signal West Pico PLUS(サーモフィッシャー)を用いて染色し、ウェスタンブロッティング解析を実施した。
【0078】
(6)(5)で染色したメンブレンを、Amersham ImageQuant 800(Cytiva)を用いて撮影し、画像解析ソフトImageQuant TL(Cytiva)を用いて各バンドの輝度を定量解析した。
【0079】
等量共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌A、Bによる、AMV逆転写酵素の発現量(培養液当たりのα体およびβ体の総量)を、共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌(AMV逆転写酵素発現用プラスミドpTrc_N-His-AMVbおよびプロテアーゼ発現用プラスミドpSTV_p15で大腸菌JM109株を形質転換した形質転換体)での発現量(バンドの輝度に相当)を1とした相対値で表した。その結果を図6に示す。
【0080】
AMV逆転写酵素β鎖遺伝子をpTrc99Aプラスミドベクターのtrcプロモーターの下流に挿入した、AMV逆転写酵素発現用プラスミドpTrc_N-His-AMVbと、AMVp15プロテアーゼ遺伝子をpSTV28プラスミドベクターのlacプロモーター下流に挿入したプロテアーゼ発現用プラスミドpSTV_p15の、それぞれで形質転換したプロテアーゼ共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌は、等量共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌A、Bに比べて、AMV逆転写酵素の発現量が向上していることが分かる(等量共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌Aの1.66倍、等量共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌Bの1.76倍)。
【0081】
pSTV28プラスミドベクター(p15A型複製起点)はpTrc99Aプラスミドベクター(ColE1型複製起点)と比べて同等から同等以下のコピー数であることが(Quest map Vol.1、Merck社)、lacプロモーターはtrcプロモーターと比べて転写強度が低いことが(生物工学会誌、91、96-100、2013)報告されている。このことから前記2種類のプラスミドベクターを用いて形質転換したプロテアーゼ共発現型AMV逆転写酵素生産大腸菌では、AMVp15プロテアーゼの発現量がAMV逆転写酵素の発現量よりも低くなると考えられる。よって、前記プロテアーゼの発現量をAMV逆転写酵素の発現量よりも低く調整することで、AMV逆転写酵素を効率的に製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の製造方法により、遺伝子組換え大腸菌を用いたAMV逆転写酵素αβ体の大量生産が可能となるため、工業規模でのAMV逆転写酵素の製造を効率的に行なえる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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