(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153597
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】ポリエチレンテレフタレート由来物質の分解酵素
(51)【国際特許分類】
C12N 9/14 20060101AFI20241022BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20241022BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241022BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C12N9/14
C12N15/55 ZNA
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066081
(22)【出願日】2024-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2023067343
(32)【優先日】2023-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100103230
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 裕貢
(72)【発明者】
【氏名】黒田 恭平
(72)【発明者】
【氏名】成廣 隆
(72)【発明者】
【氏名】野口 太郎
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA16
(57)【要約】
【課題】ペットボトルや繊維などに用いられるポリエチレンテレフタレート(PET)のモノマーであるテレフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)(BHET)やPET原料である難分解性物質テレフタル酸ジメチル(DMT)の分解が嫌気性環境で生じることを培養によって明らかにする。
【解決手段】嫌気性環境を模擬して、BHETと分解機構が不明なDMTを分解する微生物を集積培養するとともに代謝産物の測定を行い、BHETとDMTの生分解が生じることを実証し、ショットガン・メタゲノム解析とタンパク質立体構造予測により、BHET分解活性またはDMT分解活性を有する特定のポリペプチドおよびそれをコードするポリヌクレオチドを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(a2)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a3)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a4)配列番号2、4または6に示される塩基配列にコードされるポリペプチド;
(a5)配列番号2、4または6に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a6)配列番号2、4または6に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;および
(a7)配列番号2、4または6に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド、
の中から選ばれるポリペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のポリペプチドを含有するBHET分解用組成物。
【請求項3】
好気性および嫌気性環境下でBHETを分解する活性を有する、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
BHETをモノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート、テレフタル酸およびエチレングリコールに分解する活性を有する、請求項2記載の組成物。
【請求項5】
(c1)請求項1の(a1)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c2)配列番号2、4または6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(c3)配列番号2、4または6に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c4)配列番号2、4または6に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c5)配列番号2、4または6に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
の中から選ばれるポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項5記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項7】
請求項6記載の発現ベクターを用いて、請求項1記載のポリペプチドを製造する方法。
【請求項8】
請求項1記載のポリペプチドまたは請求項2記載の組成物を用いて、BHETをモノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート、テレフタル酸およびエチレングリコールに分解する方法。
【請求項9】
(b1)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b2)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b3)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b4)配列番号8または10に示される塩基配列にコードされるポリペプチド;
(b5)配列番号8または10に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b6)配列番号8または10に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;および
(b7)配列番号8または10に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド、
の中から選ばれるポリペプチド。
【請求項10】
請求項9記載のポリペプチドを含有するDMT分解用組成物。
【請求項11】
好気性および嫌気性環境下でDMTを分解する活性を有する、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
DMTをモノメチルテレフタレート、テレフタル酸およびメタノールに分解する活性を有する、請求項10記載の組成物。
【請求項13】
(d1)請求項9の(b1)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d2)配列番号8または10に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d3)配列番号8または10に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d4)配列番号8または10に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d5)配列番号8または10に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
の中から選ばれるポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項13記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項15】
請求項14記載の発現ベクターを用いて、請求項9記載のポリペプチドを製造する方法。
【請求項16】
請求項9記載のポリペプチドまたは請求項10記載の組成物を用いて、DMTをモノメチルテレフタレート、テレフタル酸およびメタノールに分解する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願2023-067343号(2023年4月17日出願)に基づく、日本国特許法第41条に規定する優先権および利益を主張するものであり、ここに引用することによって、上記出願に記載された内容の全体が本明細書中に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート由来物質であるビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)およびテレフタル酸ジメチル(DMT)をそれぞれ分解するポリペプチド、それらをコードするポリヌクレオチド、それぞれの分解用組成物、および分解方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、約80年前に開発され、現在ではペットボトルの生産を中心に世界中で広く使用されている(非特許文献1、2)。PETは、プラスチック生産量全体の約10%を占め、2015年には3,300万トンが製造された(非特許文献3、4、5)。PETはポリエステルの一種であり、石油資源から得られる高純度テレフタル酸(PTA)やテレフタル酸ジメチル(DMT)にエチレングリコール(EG)を縮重合して製造される(非特許文献2)。近年、プラスチック廃棄物の地球上への放出・蓄積が世界的に関心を集めている(非特許文献2、5)。環境中に放出されたプラスチックは、紫外線や微生物分解などの生物/生物変換によってマイクロ・ナノプラスチックに分解され(非特許文献6)、水生・陸生動物の摂取や害につながる可能性がある。そのため、自然環境を保全するためには、放出されたプラスチックの動態をより深く理解することが必要である。近年、都市下水処理場から排出される活性汚泥を処理する嫌気性消化プロセスにおけるマイクロプラスチックの動態が研究されているが(非特許文献7、8)、その嫌気性分解を担う微生物と代謝についてはほとんど情報がない。
【0004】
PET、その三量体、二量体、モノマー、およびテレフタル酸(TA)やDMTなどの原料の生分解は、PET生産プロセス、PET廃棄物、およびそれらの分解副産物の環境影響と生物毒性を評価するために広く研究されている(非特許文献1、9)。PET加水分解酵素は、Thermobifida属、Saccharomonospora属、Streptomyces属の好熱菌やIdeonella属の中温性細菌由来のものが報告されている(非特許文献10、11)。好熱性PET加水分解酵素は、PETの優れた分解速度を示すことが報告されている(非特許文献11)。PETは安定で安全な材料と考えられているが、フタル酸エステルやDMTなどの合成前駆体およびPET三量体などの分解副産物には生物毒性がある(非特許文献1、9、12、13)。したがって、これらの前駆体や副産物の環境中における動態を明らかにすることが不可欠である。
【0005】
PETは、PETアーゼ/クチナーゼを介してビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)とモノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(MHET)に分解され、BHETとMHETは、MHETアーゼを介してTAとEGに分解され、DMTはエステラーゼDmtHを介してTAに分解されると報告されている(非特許文献9、14、15、16)。しかし、それらは好気性の生物に限られた研究であり、嫌気性微生物の知見は培養法で報告されていない。マイクロプラスチックのホットスポットには、埋立地(非特許文献4)や沿岸・深海堆積物(非特許文献5、17)などの無酸素環境を含みうる生息地が含まれる。嫌気性条件下でPETとDMTの加水分解に関与する生物と酵素、したがって、自然環境と人工環境におけるこれらの物質の運命は、まだほとんど分かっていない。これまで、PET関連物質の嫌気性条件下での生分解に関する情報は、DMTの分解確認(非特許文献18)、フタル酸分解嫌気性共生細菌(Pelotomaculum 属(非特許文献19)および Syntrophorhabdus属(非特許文献20))、およびPET分解クチナーゼを組換えさせた嫌気性細菌(Acetivibrio thermocellus [旧名Clostridium thermocellum](非特許文献21))に限られていた。
【0006】
なお、PET、PET原料、およびその分解副産物の分解に関連し、以下の文献がある。
PETの原料となるテレフタル酸ジメチル(DMT)を化学的に処理して分解する技術が知られている(特許文献1)。また、テレフタル酸ジメチルに関連し、その酵素処理によって脂肪族-芳香族コポリエステルの生分解を促進する方法が知られている(特許文献2)。PETの分解副産物であるビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を化学処理により分解することを含む、ポリエステル廃棄物より高純度テレフタル酸を回収する方法が知られている(特許文献3)。また、BHETに関連し、使用済みPETの分解のための酵素学的プロセスであって、プロセスの最後に得られる生成物流において、新しいPETの再重合プロセスで再利用できるBHETが富化されている、酵素学的プロセスが知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭53-077036公報
【特許文献2】特表2008-500424公報
【特許文献3】特開2004-277638公報
【特許文献4】特表2021-503035公報
【0008】
【非特許文献1】M. Djapovic, D. Milivojevic, T. Ilic-Tomic, M. Ljesevic, E. Nikolaivits, E. Topakas, V. Maslak, J. Nikodinovic-Runic, Synthesis and characterization of polyethylene terephthalate (PET) precursors and potential degradation products: Toxicity study and application in discovery of novel PETases, Chemosphere. 275 (2021), 130005, https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2021.130005.
【非特許文献2】M. Volanti, D. Cespi, F. Passarini, E. Neri, F. Cavani, P. Mizsey, D. Fozer, Terephthalic acid from renewable sources: Early-stage sustainability analysis of a bio-PET precursor, Green Chem. 21 (2019) 885-896, https://doi.org/10.1039/ c8gc03666g.
【非特許文献3】E. Barnard, J.J. Rubio Arias, W. Thielemans, Chemolytic depolymerisation of PET: A review, Green Chem. 23 (2021) 3765-3789, https://doi.org/10.1039/ d1gc00887k.
【非特許文献4】R. Geyer, J.R. Jambeck, K.L. Law, Production, use, and fate of all plastics ever made, Sci. Adv. 3 (2017) 25-29, https://doi.org/10.1126/sciadv.1700782.
【非特許文献5】A. Stubbins, K. L. Law, S. E. Munoz, T. S. Bianchi, L. Zhu, Plasticsintheearthsystem, Science. 373 (2021) 51-55, https://doi.org/10.1126/science.abb0354.
【非特許文献6】M.W. Kwan So, L.D. Vorsatz, S. Cannicci, C. Not, Fate of plastic in the environment: From macro to nano by macrofauna, Environ. Pollut. 300 (2022), 118920, https:// doi.org/10.1016/j.envpol.2022.118920.
【非特許文献7】Z.W. He, W.J. Yang, Y.X. Ren, H.Y. Jin, C.C. Tang, W.Z. Liu, C.X. Yang, A.J. Zhou, A.J. Wang, Occurrence, effect, and fate of residual microplastics in anaerobic digestion of waste activated sludge: A state-of-the-art review, Bioresour. Technol. 331 (2021), 125035, https://doi.org/10.1016/j.biortech.2021.125035.
【非特許文献8】X. Li, L. Chen, Y. Ji, M. Li, B. Dong, G. Qian, J. Zhou, X. Dai, Effects of chemical pretreatments on microplastic extraction in sewage sludge and their physicochemical characteristics, Water Res. 171 (2020), 115379, https://doi.org/ 10.1016/j.watres.2019.115379.
【非特許文献9】X. Cheng, S. Dong, D. Chen, Q. Rui, J. Guo, J. Dayong Wang, Jiang, Potential of esterase DmtH in transforming plastic additive dimethyl terephthalate to less toxic mono-methyl terephthalate, Ecotoxicol. Environ. Saf. 187 (2020), 109848, https:// doi.org/10.1016/j.ecoenv.2019.109848.
【非特許文献10】I. Taniguchi, S. Yoshida, K. Hiraga, K. Miyamoto, Y. Kimura, K. Oda, Biodegradation of PET: Current Status and Application Aspects, ACS Catal. 9 (2019) 4089-4105, https://doi.org/10.1021/acscatal.8b05171.
【非特許文献11】F. Kawai, T. Kawabata, M. Oda, Current state and perspectives related to the polyethylene terephthalate hydrolases available for biorecycling, ACS Sustain. Chem. Eng. 8 (2020) 8894-8908, https://doi.org/10.1021/ acssuschemeng.0c01638.
【非特許文献12】O. Yasin, I. Zelal, D. Nadir, Acetic acid and methanol recovery from dimethyl terephthalate process wastewater using pressure membrane and membrane distillation processes, J. Water Process Eng. 38 (2020) 101532, https://doi.org/ 10.1016/j.jwpe.2020.101532.
【非特許文献13】K.K. Garg, B. Prasad, Treatment of toxic pollutants of purified terephthalic acid waste water: A review, Environ. Technol. Innov. 8 (2017) 191-217, https://doi. org/10.1016/j.eti.2017.07.001.
【非特許文献14】S. Joo, I.J. Cho, H. Seo, H.F. Son, H.Y. Sagong, T.J. Shin, S.Y. Choi, S.Y. Lee, K. J. Kim, Structural insight into molecular mechanism of poly(ethylene terephthalate) degradation, Nat. Commun. 9 (2018) Article number: 382, https://doi.org/10.1038/ s41467-018-02881-1.
【非特許文献15】S. Yoshida, K. Hiraga, T. Takehana, I. Taniguchi, H. Yamaji, Y. Maeda, K. Toyohara, K. Miyamoto, Y. Kimura, K. Oda, A bacterium that degrades and assimilates poly(ethylene terephthalate), Science 351 (6278) (2016) 1196-1199, https://doi.org/10.1126/science.aad6359.
【非特許文献16】N.A. Samak, Y. Jia, M.M. Sharshar, T. Mu, M. Yang, S. Peh, J. Xing, Recent advances in biocatalysts engineering for polyethylene terephthalate plastic waste green recycling, Environ. Int. 145 (2020), 106144, https://doi.org/10.1016/j. envint.2020.106144.
【非特許文献17】I.A. Kane, M.A. Clare, E. Miramontes, R. Wogelius, J.J. Rothwell, P. Garreau, F. Pohl, Seafloor microplastic hotspots controlle by deep-sea circulation, Science 368 (6495) (2020) 1140-1145. https://doi.org/10.1126/science.aba5899.
【非特許文献18】R. Kleerebezem, L.W. Hulshoff Pol, G. Lettinga, Anaerobic biodegradability of phthalic acid isomers and related compounds, Biodegradation. 10 (1999) 63-73, https://doi.org/10.1023/A:1008321015498.
【非特許文献19】Y.-L. Qiu, Y. Sekiguchi, S. Hanada, H. Imachi, I.-C. Tseng, S.-S. Cheng, A. Ohashi, H. Harada, Y. Kamagata, Pelotomaculum terephthalicum sp. nov. and Pelotomaculum isophthalicum sp. nov.: two anaerobic bacteria that degrade phthalate isomers in syntrophic association with hydrogenotrophic methanogens, Arch. Microbiol. 185 (2006) 172-182, https://doi.org/10.1007/s00203-005-0081-5.
【非特許文献20】Y.L. Qiu, S. Hanada, A. Ohashi, H. Harada, Y. Kamagata, Y. Sekiguchi, Syntrophorhabdus aromaticivorans gen. nov., sp. nov., the first cultured anaerobe capable of degrading phenol to acetate in obligate syntrophic associations with a hydrogenotrophic methanogen, Appl. Environ. Microbiol. 74 (2008) 2051-2058, https://doi.org/10.1128/AEM.02378-07.
【非特許文献21】F. Yan, R. Wei, Q. Cui, U.T. Bornscheuer, Y.J. Liu, Thermophilic whole-cell degradation of polyethylene terephthalate using engineered Clostridium thermocellum, Microb. Biotechnol. 14 (2021) 374-385, https://doi.org/10.1111/ 1751-7915.13580.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記背景の下、本発明者らは、嫌気性条件下でのPET関連物質の生分解を理解することは、環境中での物質の運命を解明し、酸素供給を必要としないメタンガスとしてのエネルギー回収など、費用対効果の高い嫌気性処理バイオテクノロジーを開発するために有用であると考えた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明において、PET加水分解副産物および前駆体の嫌気性生分解に関する知見を得るため、テレフタル酸(TA)およびテレフタル酸ジメチル(DMT)模擬製造廃水を処理する嫌気性バイオリアクターから得られた汚泥に、それぞれビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)およびDMTを与えてBHETおよびDMT分解微生物コンソーシアムを活性化した(K. Kuroda, T. Narihiro, F. Shinshima, M. Yoshida, H. Yamaguchi, H. Kurashita, N. Nakahara, M.K. Nobu, T.Q.P. Noguchi, M. Yamauchi, M. Yamada, High-rate cotreatment of purified terephthalate and dimethyl terephthalate manufacturing wastewater by a mesophilic upflow anaerobic sludge blanket reactor and the microbial ecology relevant to aromatic compound degradation, Water Res. 219 (2022), 118581, https://doi.org/10.1016/j.watres.2022.118581.)。次いで、BHETおよびDMTの分解を促進する嫌気性微生物を同定するために、16S rRNA遺伝子アンプリコン解析およびショットガン配列を用いたメタゲノム解析と1H NMRを用いたメタボローム解析を実施した。
【0011】
その結果、BHETとDMTの嫌気性分解を担う微生物由来の酵素を明らかにし、この酵素を持つ微生物がBHETやDMTを効率的に分解できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
BHET関連発明
<ポリペプチド>
[1]
(a1)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(a2)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a3)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a4)配列番号2、4または6に示される塩基配列にコードされるポリペプチド;
(a5)配列番号2、4または6に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a6)配列番号2、4または6に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;および
(a7)配列番号2、4または6に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド、
の中から選ばれるポリペプチド。
【0013】
<組成物>
[2]
[1]記載のポリペプチドを含有するBHET分解用組成物。
[3]
好気性および嫌気性環境下でBHETを分解する活性を有する、[2]記載の組成物。
[4]
BHETをモノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート、テレフタル酸およびエチレングリコールに分解する活性を有する、[2]記載の組成物。
【0014】
<ポリヌクレオチド>
[5]
(c1)[1]の(a1)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c2)配列番号2、4または6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(c3)配列番号2、4または6に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c4)配列番号2、4または6に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c5)配列番号2、4または6に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
の中から選ばれるポリヌクレオチド。
[6]
[5]記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[7]
[6]記載の発現ベクターを用いて、[1]記載のポリペプチドを製造する方法。
【0015】
<分解方法>
[8]
[1]記載のポリペプチドまたは[2]記載の組成物を用いて、BHETをモノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート、テレフタル酸およびエチレングリコールに分解する方法。
【0016】
DMT関連発明
<ポリペプチド>
[9]
(b1)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b2)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b3)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b4)配列番号8または10に示される塩基配列にコードされるポリペプチド;
(b5)配列番号8または10に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b6)配列番号8または10に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;および
(b7)配列番号8または10に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド、
の中から選ばれるポリペプチド。
【0017】
<組成物>
[10]
[9]記載のポリペプチドを含有するDMT分解用組成物。
[11]
好気性および嫌気性環境下でDMTを分解する活性を有する、[10]記載の組成物。
[12]
DMTをモノメチルテレフタレート、テレフタル酸およびメタノールに分解する活性を有する、[10]記載の組成物。
【0018】
<ポリヌクレオチド>
[13]
(d1)[9]の(b1)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d2)配列番号8または10に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d3)配列番号8または10に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d4)配列番号8または10に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d5)配列番号8または10に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
の中から選ばれるポリヌクレオチド。
[14]
[13]記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[15]
[14]記載の発現ベクターを用いて、[9]記載のポリペプチドを製造する方法。
【0019】
<分解方法>
[16]
[9]記載のポリペプチドまたは[10]記載の組成物を用いて、DMTをモノメチルテレフタレート、テレフタル酸およびメタノールに分解する方法。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】
図1は全体として、集積培養物の
1H NMRスペクトルを示す。
図1Aは、継代20回後の非オートクレーブBHET添加培地(BC
20U)、2-ブロモエタンスルホン酸(BES)を加えたBC12U(BC
12U-BES)、および非オートクレーブBHET培養の基礎培地(BC
U)の集積培養物の
1H NMRスペクトルである。すなわち、BHET分解産物BHET、モノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(MHET)、およびテレフタレート(TA)の
1H NMRスペクトルを示している。
【
図1B】
図1Bは、継代20回後の非オートクレーブBHET添加培地(BC
20U)、2-ブロモエタンスルホン酸(BES)を加えたBC12U(BC
12U-BES)、および非オートクレーブBHET培養の基礎培地(BC
U)の集積培養物の
1H NMRスペクトルである。すなわち、副産物エチレングリコール、メタノールおよび酢酸の
1H NMRスペクトルを示している。
【
図1C】
図1Cは、BC
U、およびBHETを添加したオートクレーブ処理された基礎培地(BC
A)の集積培養の
1H NMRスペクトルをしている。すなわち、BHET、モノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(MHET)、およびテレフタレート(TA)のスペクトルを示している。
【
図1D】
図1Dは、9番目の継代後のオートクレーブ処理テレフタル酸ジメチル添加培地(DC
9A)、DC
1U、DC
A、およびDC
Uの集積培養の
1H NMRスペクトルを示している。すなわち、DMT、モノメチルテレフタレート(MMT)、およびTAのスペクトルを示している。
【0021】
【
図2A】
図2は全体として、優勢な操作上の分類単位(OTU)の豊富さを示す。
図2Aは、オートクレーブ処理/非オートクレーブBHET培地の集積培養を、バブル・プロットを使用して示した優勢なOTUの存在割合である。円の大きさは、図の下部に示す存在割合に対応する。
【
図2B】
図2Bは、オートクレーブ処理/非オートクレーブDMT培地の集積培養を、バブル・プロットを使用して示した優勢なOTUの存在割合である。円の大きさは、図の下部に示す存在割合に対応する。
【0022】
【
図3】
図3は、位相差顕微鏡写真である。(A)は、7回継代後の非オートクレーブBHET添加培地(BC
7U)での集積培養物、および(B)-(F)は、培養11日目におけるオートクレーブ処理DMT添加培地(DC
7A)での集積培養物の位相差顕微鏡写真である。白色の矢印は、BHET結晶に付着している微生物細胞を示す。(B)と(D)の白色の四角は、(C)と(E)において高倍率に拡大した箇所を示す。白い矢印は、メタノメチロボランス(Methanomethylovorans)様細胞に付着しているスピロヘータ(Spirochaeota)様細胞を示している。
【0023】
【
図4】
図4は、メタゲノム分別ゲノムの観察された割合を示す。(A)は、非オートクレーブ処理のビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)添加培地(BC7U)での集積培養物におけるメタゲノム分別ゲノムの観察された割合、および(B)は、オートクレーブ処理したテレフタル酸ジメチル(DMT)-添加培地(DC7A)での集積培養物におけるメタゲノム分別ゲノムの回収された割合である。
【0024】
【
図5A】
図5Aは、クチナーゼ、PETase、MHETase、リパーゼおよびBHET加水分解酵素を含むPET加水分解酵素の関係を示す、最大尤度法によって計算された系統樹を示す。太字の黒色の矢印で強調された酵素は、推定されるBHET加水分解酵素とDMT加水分解酵素を示す。黒、灰色および、白の円はそれぞれ、超高速ブートストラップ(1000回の複製)でサポートされる確率が>90%、>70%、および>50%であることを示す。
【
図5B】
図5Bは、DMT加水分解酵素(DmtH)と他のエステラーゼおよびリパーゼとの関係を示す、最大尤度法によって計算された系統樹を示す。太字の黒色の矢印で強調された酵素は、推定されるBHET加水分解酵素とDMT加水分解酵素を示す。黒、灰色および、白の円はそれぞれ、超高速ブートストラップ(1000回の複製)でサポートされる確率が>90%、>70%、および>50%であることを示す。
【0025】
【
図6A】
図6は全体として、酵素と基質の予測構造間の3Dドッキングモデルおよび2D相互作用図を示す。
図6Aは、BHETまたはMHETとドッキングしたPET加水分解酵素である。ドッキングモデルにおける触媒三残基(Ser、His、Glu/Asp)と基質はそれぞれ、灰色(近傍にアミノ酸名と番号を示す)と黒で強調表示している。
【
図6B】
図6Bは、BHETまたはMHETとドッキングしたPET加水分解酵素である。ドッキングモデルにおける触媒三残基(Ser、His、Glu/Asp)と基質はそれぞれ、灰色(近傍にアミノ酸名と番号を示す)と黒で強調表示している。
【
図6C】
図6Cは、DMTまたはMMTとドッキングしたDMT加水分解酵素である。ドッキングモデルにおける触媒三残基(Ser、His、Glu/Asp)と基質はそれぞれ、灰色(近傍にアミノ酸名と番号を示す)と黒で強調表示している。
【
図6D】
図6Dは、DMTまたはMMTとドッキングしたDMT加水分解酵素である。ドッキングモデルにおける触媒三残基(Ser、His、Glu/Asp)と基質はそれぞれ、灰色(近傍にアミノ酸名と番号を示す)と黒で強調表示している。
【0026】
【
図7】
図7は、Acetobacterium woodii DSM 1030およびSporomusales (BHET40.249)においてエチレングリコール(EG)分解に関与する遺伝子クラスターを示す。遺伝子ボックス内の数字は、A. woodii DSM 1030の対応する遺伝子とのアミノ酸配列の同一性(%)を示す。略語は次の通りである: A、pduA; E、pduE; H、pduH; K、pduK; M、pduM; N、pduN; T、pduT; U、pduU; V、pduV; V2、pduV2; V3、pduV3; HP:仮想タンパク質。遺伝子クラスターの遺伝子ラベルは、Chowdhury et al., 2020 [51]に従っている。pduA、pduB、pduK、pduNおよびpduTは、細菌のマイクロコンパートメント(BMC)である。pduCDEとpduGはそれぞれ、プロパンジオール脱水酵素と脱水酵素活性化タンパク質である。pduL、pduO、pduPおよびpduSはそれぞれ、リン酸プロパノイルトランスフェラーゼ、ATP-コバラミン アデノシルトランスフェラーゼ、CoA依存性アルデヒド脱水素酵素、およびコバラミン還元酵素である。pduCDEおよびpduPタンパク質は、Trifunovic et al., 2016 [50]に従った、推定EG脱水酵素(EGからアセトアルデヒドへ)である。
【
図8】
図8は、本発明において推定した嫌気性条件下におけるBHETとDMTの分解経路と分解微生物を示す模式図である。
【
図9A】
図9Aは、Cluster.64_00965精製組換えタンパク質におけるBHETおよびその代謝産物に対する分解活性を示すグラフである。
【
図9B】
図9Bは、DMT40.002_02674精製組換えタンパク質におけるDMTおよびその代謝産物に対する分解活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<ポリペプチド>
本発明は、第一の形態として、BHET分解活性を有する特定のポリペプチドに関する。
具体的には、本発明は、(a1)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(a2)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a3)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a4)配列番号2、4または6に示される塩基配列にコードされるポリペプチド;
(a5)配列番号2、4または6に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a6)配列番号2、4または6に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;および
(a7)配列番号2、4または6に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド、
の中から選ばれるポリペプチドに関する。
【0028】
この形態において、本発明はさらに、DMT分解活性を有する特定のポリペプチドに関する。具体的には、本発明は、
(b1)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b2)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b3)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b4)配列番号8または10に示される塩基配列にコードされるポリペプチド;
(b5)配列番号8または10に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b6)配列番号8または10に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;および
(b7)配列番号8または10に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド、
の中から選ばれるポリペプチドに関する。
【0029】
この形態において、本発明の(a1)ポリペプチドおよび(b1)ポリペプチドは、本発明者らによって特定された、それぞれBHET分解活性およびDMT分解活性を有するポリペプチドである。(a2)および(a3)ポリペプチドならびに(b2)および(b3)ポリペプチドは、(a1)ポリペプチドおよび(b1)ポリペプチドの変異体を表す。(a4)は、対応する塩基配列により特定された、ACCとCOP1-Trib1複合体との結合ドメインを形成しているポリペプチドである。(a5)~(a7)は、(a4)のバリアントの塩基配列により特定された、ACCとCOP1-Trib1複合体との結合ドメインを形成しているポリペプチドである。
【0030】
(a2)および(b2)に関し、アミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加される数個限は、(a2)のポリペプチドがBHET分解活性を、および(b2)のポリペプチドがDMT分解活性を有する限り、特に限定されないが、その上限値は、例えば4個、3個、2個または1個であり得る。(a3)および(b3)に関し、アミノ酸配列の同一性は、例えば80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上であり得る。
【0031】
(a5)および(b5)に関し、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、ある程度厳格な条件下においてハイブリダイズすることを意味し、当業者は、ハイブリダイゼーションを促進する適切なストリンジェントの条件を変化させ得ることを容易に理解するはずである。例えば、ハイブリダイズを約45℃にて、6.0×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)で行い、続いて50℃で2.0×SSCの洗浄を行うことができる。例えば、洗浄ステップにおける塩濃度は、約50℃で2.0×SSCの低ストリンジェンシーから、約50℃で0.2×SSCの高ストリンジェンシーまでより、選択できる。また、洗浄ステップにおける温度は、低ストリンジェンシー条件の室温約22℃から、高ストリンジェントの条件の約65℃まで上昇させることができる。温度および塩の両方を変えることができ、または温度や塩濃度を一定に保持しつつ、他の変数を変化させることができる。
【0032】
(a6)および(b6)に関して、塩基配列の同一性は、例えば80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上であり得る。
【0033】
ポリペプチドがBHET分解活性またはDMT分解活性を有するか否かは、例えば、後述する実施例に記載のアッセイによって判定できる。
【0034】
(a1)~(a7)のポリペプチドは、配列番号2、4または6で示されるポリヌクレオチドを利用して、遺伝子工学的な手法で製造することができる。あるいは、(a1)~(a7)のポリペプチドは、一般的なタンパク質の化学合成法(液相法または固相法など)で製造することもできる。(b1)~(b7)のポリペプチドは、配列番号8または10で示されるポリヌクレオチドを利用して、遺伝子工学的な手法で製造することができる。あるいは、(b1)~(b7)のポリペプチドは、一般的なタンパク質の化学合成法(液相法または固相法など)で製造することもできる。
【0035】
本発明では、まず、ペットボトル原料の製造廃水を効率的に処理するラボスケールリアクター(産総研プレス発表2022年5月13日)から汚泥と呼ばれる複合微生物試料を取り出し、嫌気性環境を模擬した培養瓶に添加し、BHETまたはDMTを基質として加えて集積培養を行った。PETモノマーなどについても嫌気性環境下での動態は未だ不明である。また、PETの分解微生物の集積を試みた場合、PETが高分子化合物であるため、それが分解されると様々な化合物が産出され、それにより加水分解微生物の特定が困難になる。また、BHET分解酵素はPETの三量体を分解する報告もあり(今回近縁のBacillusの酵素)、BHET分解酵素が同定できれば、嫌気性でのPET分解の可能性も視野にいれることができる。そのため、まずは下流のモノマーであるBHETまたはDMTに対する分解微生物を特定し、そこで特定した微生物情報を基に、PET分解微生物も明らかにする戦略を考えており、その最初の段階の実験と位置付けられる。
【0036】
1H NMRを用いてBHETとDMTの分解産物を評価したところ、BHETはモノヒドロキシエチルテレフタル酸(以下「MHET」という)とテレフタル酸(以下「TA」という)、DMTはテレフタル酸モノメチル(以下「MMT」という)とTAを生成することを確認した(
図1)。このことから、嫌気性環境においても、BHETとDMTが微生物による分解を受けることが明らかとなった。さらに、培養物内に添加したBHETおよびDMTの結晶周辺を顕微鏡により観察したところ、結晶に特異的に付着するスパイラル状の微生物を発見した。つまり、これら微生物が分解に関与していることが示唆された。
【0037】
そこで、BHETおよびDMTの分解機構を解明するため、培養物に含まれる複合微生物群のショットガン・メタゲノム解析を行った。その結果、BHETとDMTを分解する可能性のある新しい酵素、すなわちポリペプチドの存在を確認した(
図8)。これらの酵素は、BHETとDMTをそれぞれMHETとMMTに分解し、さらにTAにまで分解できることを確認した。これら全ての酵素は、スピロヘータ(Spirochaeota)門に属する微生物のゲノム上にコード化されていた。
【0038】
また、ファーミキューテス(Firmicutes)門に属する系統学的に新しい微生物が、BHETの分解過程で生じるエチレングリコールを酢酸にまで分解する代謝経路を持つことが推定され、さらに、メタノール利用性のメタン生成アーキアが、DMTの分解過程で生じるメタノールからメタンを生成することも明らかとなった(
図8)。
【0039】
上記の通り、PET、PET原料の分解に関連し、以下の文献があるが、それぞれ次のように本発明とは異なっている。
PETの原料となるテレフタル酸ジメチル(DMT)を化学的に処理して分解する技術が知られ(特許文献1)、また、テレフタル酸ジメチル関連し、その酵素処理によって脂肪族-芳香族コポリエステルの生分解を促進する方法が知られている(特許文献2)が、これらは処理方法であり、酵素、すなわちポリペプチド自体を開示するものではない。また、PETの分解副産物であるビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を化学処理により分解することを含む、ポリエステル廃棄物より高純度テレフタル酸を回収する方法が知られている(特許文献3)が、これは化学処理のため、本発明とは異なっている。さらに、BHETに関連し、使用済みPETの分解のための酵素学的プロセスであって、プロセスの最後に得られる生成物流において、新しいPETの再重合プロセスで再利用できるBHETが富化されている、酵素学的プロセスが知られている(特許文献4)が、これは、酵素によりPETを分解するプロセスであり、由来微生物が異なっている。
【0040】
本発明のポリペプチド配列をNCBIのデータベースに登録されている遺伝子がコードするアミノ酸配列と比較した結果は次の通りである。
【表1】
【0041】
表1では、配列の同一性で100%またはそれに近いものがNCBIに登録されていることを示している。しかし、これら登録されている配列は、機能が推定されているにとどまり、本発明のように酵素活性を有することまでは明らかになっていない。従って、本発明のポリペプチドおよびポリペプチドを含有するタンパク質分解用用組成物は、酵素活性を有することをもって新規性を有していると考える。
近縁の配列に関する公知の情報
NLX44628.1
アノテーション:MAG: carboxylesterase/lipase family protein [Treponema sp.]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NLX44628.1/
NLJ10833.1
アノテーション:MAG: carboxylesterase family protein [Treponema sp.]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NLJ10833.1
NLJ11370.1
アノテーション:MAG: alpha/beta hydrolase [Treponema sp.]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NLJ11370.1
記載論文
Campanaro, S., Treu, L., Rodriguez-R, L.M. et al. New insights from the biogas microbiome by comprehensive genome-resolved metagenomics of nearly 1600 species originating from multiple anaerobic digesters. Biotechnol Biofuels 13, 25 (2020) Article number: 25. https://doi.org/10.1186/s13068-020-01679-y
ここでは、ショットガン・メタゲノム解析によってゲノムが再構築され、GeneMarkS-2+を用いてアノテーションを行ったのみであり、アノテーションも「carboxylesterase/lipase family protein」と記載されていることから、どのような機能があるかも見いだされていない。論文中でもRAST、KEGG、CAZyなどを使用したオートアノテーションを行っているが、スピロヘータ門(本発明遺伝子を持つ微生物ゲノムが属する系統)の機能に関する言及はなく、機能未知のままである。
【0042】
MCE1158028.1
アノテーション:MAG: carboxylesterase family protein [Spirochaetia bacterium]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/MCE1158028.1
Kim, D.D., Han, H., Yun, T. et al. Identification of nosZ-expressing microorganisms consuming trace N2O in microaerobic chemostat consortia dominated by an uncultured Burkholderiales. ISME J 16, 2087-2098 (2022). https://doi.org/10.1038/s41396-022-01260-5
ここでは、ショットガン・メタゲノム解析によってゲノムが再構築され、GeneMarkS-2+を用いてアノテーションをおこなったのみであり、アノテーションも「carboxylesterase family protein」と記載されていることから、どのような機能があるかも見いだされていない。論文中でもKEGGのGhostKOALAを使用したオートアノテーションは行っているが、スピロヘータ門(本発明遺伝子を持つ微生物ゲノムが属する系統)の機能に関する言及はなく、機能未知のままである。
【0043】
VBB39098.1
アノテーション:putative Para-nitrobenzyl esterase [uncultured Spirochaetes bacterium]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/VBB39098.1
ここでは、Direct submissionであり、論文情報が見つからなかった。アノテーションは「putative Para-nitrobenzyl esterase」となっており、Para-nitrobenzyl esteraseである可能性を推定しているが、putativeと付いており、遺伝子情報からはその機能を確定することはできていないと考えられる。
【0044】
<組成物>
上記の意味において、本発明はひとつの形態として、(a1)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(a2)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a3)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a4)配列番号2、4または6に示される塩基配列にコードされるポリペプチド;
(a5)配列番号2、4または6に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a6)配列番号2、4または6に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;および
(a7)配列番号2、4または6に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド、
の中から選ばれるポリペプチド、
を含有するBHET分解用組成物に関する。
【0045】
この実施態様において、好気性および嫌気性環境下でBHETを分解する活性を有する、本発明の組成物、またはBHETをモノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート、テレフタル酸およびエチレングリコールに分解する活性を有する、本発明の組成物が好ましい。
【0046】
本発明のBHET分解用組成物に関連し、本発明は別の実施形態として、(a1)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(a2)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a3)配列番号1、3または5に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a4)配列番号2、4または6に示される塩基配列にコードされるポリペプチド;
(a5)配列番号2、4または6に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;
(a6)配列番号2、4または6に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド;および
(a7)配列番号2、4または6に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるポリペプチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチド、
の中から選ばれるポリペプチドにおけるBHET分解のための用途に関する。
【0047】
さらに、本発明はひとつの形態として、
(b1)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b2)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b3)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b4)配列番号8または10に示される塩基配列にコードされるポリペプチド;
(b5)配列番号8または10に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b6)配列番号8または10に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;および
(b7)配列番号8または10に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド、
の中から選ばれるポリペプチド、
を含有するDMT分解用組成物に関する。
【0048】
この実施態様において、好気性および嫌気性環境下でDMTを分解する活性を有する、本発明の組成物、またはDMTをモノメチルテレフタレート、テレフタル酸およびメタノールに分解する活性を有する、本発明の組成物が好ましい。
【0049】
本発明のDMT分解用組成物に関連し、本発明は別の実施形態として、(b1)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b2)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b3)配列番号7または9に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b4)配列番号8または10に示される塩基配列にコードされるポリペプチド;
(b5)配列番号8または10に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;
(b6)配列番号8または10に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド;および
(b7)配列番号8または10に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるポリペプチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチド、
の中から選ばれるポリペプチドにおけるDMT分解のための用途に関する。
【0050】
<ポリヌクレオチド>
本発明は、別の形態として、BHET分解活性を有する特定のポリペプチドをコードポリヌクレオチドに関する。
具体的には、本発明は、
(c1)本発明のBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c2)配列番号2、4または6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(c3)配列番号2、4または6に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって、かつBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c4)配列番号2、4または6に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドであって、かつBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c5)配列番号2、4または6に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつBHET分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
の中から選ばれるポリヌクレオチドに関する。
【0051】
この形態において、本発明はさらに、DMT分解活性を有する特定のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。具体的には、本発明は、
(d1)本発明のDMT分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d2)配列番号8または10に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d3)配列番号8または10に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって、かつDMT分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d4)配列番号8または10に示される塩基配列と80%の同一性を有するポリヌクレオチドであって、かつDMT分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d5)配列番号8または10に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつDMT分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
の中から選ばれるポリヌクレオチドに関する。
【0052】
本発明のポリヌクレオチド配列をNCBIのデータベースに登録されている遺伝子の塩基配列と比較した結果は次の通りである。
【表2】
【0053】
本明細書において使用している「集積培養」は、特定の微生物が好む生育条件や培地によって行う培養である。これにより、目的の微生物を増殖させて選抜する一方、他の微生物の生育を抑えることができる。
【0054】
本明細書において使用している「Operational taxonomi unit (OTU)」は、操作上の分類単位であり、ある一定以上の類似性(一般的には96-97%)を持つ配列同士を一つの菌種のように扱うためのものである。
【0055】
本明細書において使用している「blast」は、入力配列とデータベース上の配列の類似性を検索するプログラムである。塩基配列を検索するプログラムblastn (nucleotide BLAST)、アミノ酸配列を検索するプログラムblastp (protein BLAST)等が含まれる。
【0056】
<発現ベクター>
本発明は、他の形態として、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターに関する。
「ベクター」の用語は、宿主細胞内に組換え遺伝物質を移すための媒体として用いられるDNA分子を意味する。ベクターの主要な形態は、プラスミド、バクテリオファージ、ウイルスおよび人工染色体である。ベクター自体は一般に、導入遺伝子とベクターの「骨格」となるより大きな配列とからなるDNA配列である。宿主に遺伝子情報を送るベクターの目的は、通常、標的細胞において導入遺伝子を単離する、増やすまたは発現することである。発現ベクターは、特に標的細胞における異種配列の発現のために適用され、一般に、ポリペプチドをコードする異種配列を発現させるプロモーター配列を有する。一般に、発現ベクター内に存在する調節エレメントは、転写プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、および任意に存在するオペレーターを含む。好ましくは、発現ベクターは、宿主細胞における自律複製のための複製開始点、選択マーカー、限られた数の有用な制限酵素部位、および高コピー数のための潜在力をも含む。発現ベクターの例は、クローニングベクター、修飾型クローニングベクター、具体的には、設計されたプラスミドおよびウイルスである。異なる宿主における適切なレベルのポリペプチド発現を提供する発現ベクターは、当業界において周知である。例えば、周知の細菌性発現ベクターには、pET11a(Novagen)、lambda gt11(Invitrogen)が挙げられる。
【0057】
発現ベクターは、標準的な技術を用いて宿主細胞内に導入され得る。そのような技術の例は、トランスフォーメーション、トランスフェクション、リポトランスフェクション、原形質融合、及びエレクトロポレーションを含む。細胞内に核酸を導入し、タンパク質を生成するように核酸を発現するための技術の例は、Ausubel,Current Protocols in molecular biology, John wiley, 1987-1998、およびSambrook, et al., in Molecular cloning, A laboratory Manual 2ndEdition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989等の参考文献から得られる。
【0058】
<分解方法>
本発明は別の形態として、BHET分解活性を有する本発明のポリペプチドまたはそれを含有する組成物を用いて、BHETをモノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート、テレフタル酸およびエチレングリコールに分解する方法に関する。
かかる形態において、本発明は別の実施態様として、DMT分解活性を有する本発明のポリペプチドまたはそれを含有する組成物を用いて、DMTをモノメチルテレフタレート、テレフタル酸およびメタノールに分解する方法に関する。
【0059】
DMTおよびBHET分解の概要
本明細書に記載の実施例では、これまで未解明であった嫌気性BHETおよびDMT分解微生物が、集積培養とマイクロバイオーム解析により明らかになった(
図8)。興味深いことに、集積されたBHETおよびDMT分解メタゲノム分別ゲノムはすべてスピロヘータ門に属していた(Cluster.64, BHET.Bin.69, BHET_244_sub, および DMT40.002)。スピロヘータ門は、PTA(PET製造の原料)製造廃水を処理するいくつかの嫌気性バイオリアクターで頻繁に見つかっており([25], [55])、リアクター内で死細胞由来のアミノ酸代謝に参加することが予測されている[56]。我々の知る限り、スピロヘータがPETやPET関連物質を分解するとの報告はない。既知のプラスチック分解遺伝子をリファレンスとした最近の大規模な相同性検索では、スピロヘータ門にポリヒドロキシアルカン酸デポリメラーゼに関連する11の遺伝子が報告されているが、生化学的実験がないため、それらの機能はまだ不明である [57]。遺伝子発現や酵素活性は未解明であるが、本研究では、NMRによる代謝物の同定、メタゲノム解析、酵素モデリングを組み合わせ、BHETやDMTを加水分解する可能性のある未分類のスピロヘータ門を特定することで、集積培養でのBHETやDMT分解の観測を達成することに成功した。同定された加水分解酵素の活性を評価するためには、さらなる研究が必要である。
【0060】
BHETとDMTの分解率を先行研究と比較すると、本研究のDMT変換率(0.096-0.27 mM-MMT-産生/日、表4)は、DMT分解酵素であるエステラーゼDmtHを保有するSphingobium sp. C3(0.03 mM/day)よりはるかに高い[非特許文献9]。さらに、DMT集積培養からは0.025-0.091 mM-TA-産生/日が観察され、予測されるDMT分解酵素は、既知のDmtHが持たない性質であるMMTからTAに変換する可能性を示唆した(
図6)[非特許文献9]。BHETの分解については、本研究のBHET集積培養から0.31-0.41 mM-MHET-産生/日と0.015-0.025 mM-TA-産生/日が得られている。B. subtilis 4P3-11 由来の p-ニトロベンジルステラーゼ関連酵素 BsEstB は、MHET に対して TA よりも速い生変換速度を示したと報告されている [49]。本願のスピロヘータ門細菌由来酵素の酵素活性に関して理解が深まると、好気的条件と嫌気的条件でのBHETとDMTの分解挙動の違いとその適切な使用の態様を明らかにすることができる。
【0061】
BHET集積培養では、Negativicutes綱に属する2つのメタゲノム分別ゲノムがかなりの頻度で集積されており、16S rRNA遺伝子解析により、これら2つの系統(BHET001およびBHET004)の相対存在量は、全原核生物(
図2A)の87~97%、メタゲノム解析による全メタゲノム分別ゲノムの91%(BC7U、
図4A)を占めていることが明らかになった。これらの分別ゲノムからは16S rRNA遺伝子配列は回収されなかったが(BHET.Bin.209 およびBHET40.249)、アンプリコンシークエンスで得られたOTU BHET001とBHET004の最も近い近縁種は、それぞれMethylomusa anaerophila MMFC1(340/378 bp, 90%, NR_163640.1) [58] とDendrosporobacter quercicolus DSM 1736(352/375 bp, 94%, NR_041949.1) [59] であり、酢酸生成細菌ではないことが分かった。一方、Sporomusa属 [60] やAcetonema属 [61] など、Negativicutesクラスには酸生成細菌の系統が存在することから、本実施例で集積したBHET.Bin.209 (BHET001) とBHET40.249 (BHET004) は、酢酸生成能を持つ新規系統群に属することが考えられる。さらに、これらの系統はそれぞれ目レベル(UBA11029)および科レベル(UBA7701)の未培養系統群に位置づけられ(GTDBtk、r202データベースより参照)、これらの未培養系統群の新しい生理学およびゲノム情報を提供する。
【0062】
PETを含むほとんどのプラスチックは埋め立て処分されるため、好気的環境だけでなく嫌気的環境での分解性や副生成物を評価する必要がある。また、水環境におけるマイクロプラスチック汚染の主要な原因の一つと考えられている下水処理場におけるマイクロプラスチックの除去効率や、マイクロプラスチックの流出を防ぐための最適な運用/インフラについても研究されているが[62]、有効な解決策はまだ生み出されていないのが現状である。
【0063】
結論として、本研究では嫌気性条件下でBHETおよびDMT分解微生物コンソーシアムの集積に成功し、スピロヘータ門に属する微生物がBHET およびDMT を加水分解できること、その副産物がそれぞれ NegativicutesおよびMethanomethylovorans に利用されることを培養、マイクロバイオーム、メタボローム解析により明らかにした。これらの知見は、嫌気性プラスチック分解バイオプロセスや現場でのバイオレメディエーション戦略の開発に有用である。今後、スピロヘータの分離やPETおよびPET関連化学物質の分解に関連する酵素のin vitro発現による加水分解能力の評価に関する詳細な研究が、新規PET除去バイオテクノロジーの開発に不可欠である。
【0064】
本発明では、好気性および嫌気性条件下において本発明のポリペプチドを用いて、BHETをMHETとテレフタル酸、エチレングリコールに分解する、もしくは、DMTをMMTとテレフタル酸、メタノールに分解することを特徴とする。
以下、本発明を実施例により、より詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものでなく、単なる例示である点に留意すべきである。
【実施例0065】
実施例1
ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)およびテレフタル酸ジメチル(DMT)分解微生物の集積培養
BHET-およびDMT-加水分解微生物の集積に当たり、1-2週間間隔で培養物を順次新鮮な培地に移し、ガス生成量およびガス組成をモニタリングした。また、非生物学的な加水分解と水素資化性メタン生成菌の影響を確認するため、BHETとDMTの集積培養物をそれぞれ、非オートクレーブ/オートクレーブ処理/メタン生成阻害剤である2-ブロモエタンスルホン酸(2-bromoethanesulfonic acid;BES)を添加した新鮮な培地に移し替えた。
【0066】
詳細には、基本培地は、以前の報告 [23] に従って調製した。本実施例にて使用している基本培地の組成(1Lあたり)は以下の通りである [NH4Cl: 0.5035 g、KH2PO4: 0.136 g、MgCl2・6H2O: 0.204 g、CaCl2・2H2O: 0.147 g、NaHCO3: 2.52 g、Trace eleent solution: 1 mL(FeCl2 : 1.268 g/L、 CoCl2 : 0.130 g/L、MnCl2・4H2O : 0.198 g/L、ZnCl2 : 0.136 g/L、H3BO3 : 0.006 g/L、NiCl2 : 0.013 g/L、AlCl3 : 0.013 g/L、Na2MoO4 : 0.024 g/L、CuCl2 : 0.002 g/L)、Se/W Solution: 1mL(Na2SeO3 : 0.002 g/L、Na2WO4・H2O : 0.001 g/L)、Vitamin Solution: 2 mL((+)-ビオチン : 4.8862 mg/L、p-アミノ安息香酸:2.7428 mg/L、パントテン酸ナトリウム:4.8244 mg/L、ピリドキシン塩酸塩:4.1128 mg/L、ニコチンアミド:2.4424 mg/L、チアミン塩酸塩:6.7454 mg/L、(±)-1,2-ジチオラン-3-吉草酸:4.1266 mg/L、葉酸:8.8280 mg/L、シアノコバラミン:27.1074 mg/L、リボフラビン:7.5272 mg/L)] 。すべての集積培養は、20 mLの培地を入れた、密閉式のブチルゴム栓とアルミニウムクリンプで密閉した50 mL血清バイアル中、37℃で行った。培地と気相部の雰囲気は、0.1 MPaのN2/CO2 (80:20, v/v) ガスを5分間、流入させた。その後、0.05M-Na2S・5H2O溶液を培地20 mLに対して0.5 mL添加した。培地からの継代および試料採取には、1mL滅菌プラスチックシリンジを使用した。
【0067】
集積培養に用いたBHETとDMTの濃度はともに、3.6 g・L-1であった。
BHETの集積培地は、以下の3つの条件により調製した。なお、BHET培地およびDMT培地の組成は、炭素源となるBHETとDMT以外は基本培地の組成となっている。
1)汚泥接種前にオートクレーブ処理をしたBHET培地(BCA)、
2)非オートクレーブBHET培地(BCU)、
3)メタン生成阻害剤として5 mM BESを加えた非オートクレーブBHET培地(BCU-BES)。
【0068】
DMT集積培地は、以下の3つの条件により調製した。
1)汚泥接種前にオートクレーブ処理をしたDMT培地(DCA)、
2)非オートクレーブDMT培地(DCU)、
3)5 mM BESを加えたオートクレーブ処理DMT培地(DCA-BES)。
BCA培地とDCA培地は、121℃で20分間オートクレーブ滅菌(高圧蒸気滅菌)した。
【0069】
集積培養の種汚泥として、高純度テレフタル酸(TA)およびテレフタル酸ジメチル(DMT)製造模擬廃水を化学的酸素要求量(COD)除去効率81%(有機物負荷率1.0kg COD m-3day-1) [22] で処理するラボスケールUASBリアクターから採取したグラニュール汚泥試料を使用した。集積培養物の新鮮な培地への継代量は、10%(v/v)で行った。BCU-BESはBCUの10番目の集積培養物(BCU10)から継代したもの、DCUは8番目のDCA集積培養物から継代したもの、DCA-BESはDCAの8番目の集積培養物(DC8A)から継代したものである。集積培養物は、位相差顕微鏡(BX-53、オリンパス、日本)を用いて継続的に観察した。1番目、2番目、7番目、20番目のBCU(それぞれBC1U、BC2U、BC7U、BC20Uと称する)、1番目、7番目のBCA (BC1AとBC7A)、および12番目のBCU-BES(BC12U-BES)、1番目、7-9番目のDCA(それぞれDC1A、DC7A、DC8A、DC9Aと称する)、DC1UとDC4U、およびDC1A-BESとDC3A-BESの培地を、DNA抽出用に回収した。BC20U、BC12U-BES、9番目DC9A、DC1U、およびDC1A-BESの培地2mLを1H NMR分析に使用した。さらに、オートクレーブ処理または非オートクレーブの基本培地を、3.6 g・L-1 BHET、3.6 g・L-1 DMT、3.6 g・L-1 MMT、5 mM BES、または0.1-10 mM TA を用いて調製し、標準 1H NMR 分析に使用した。各実験における試料採取の日を、以下の表3にまとめた。
なお、「番目」における「1」、「2」などの数字は、種汚泥を接種し培養を行った培養系を1番目とし、それを継代培養するごとに番号を増やしている数字である。
【0070】
実施例2
接種培養物に対する分析方法
得られた集積培養物に対する評価項目は、次の通りである。
・ガス生成量 (CH4, CO2, N2, H2)
・1H NMR
・顕微鏡観察
・16S rRNA遺伝子解析
・ショットガン・メタゲノム解析
・酵素の立体構造予測
【0071】
以下、分析手法について、それぞれ説明する。
ガス生成量
実施例1-1から得られた集積培養物からのガス生成量を、10-50 mLガラスシリンジを用い、37℃で測定した。ガス試料採取の前に、培地を入れた血清バイアルのブチルゴム栓を70%エタノール(v/v)と火炎で滅菌した。バイオガス成分(CH4、CO2、N2、H2)は、SHINCARBON-ST50/80ステンレスカラム4.0m×3.0mm(ID)を装着した熱伝導検出器を用いたガスクロマトグラフ(島津製作所、京都、日本、GC-8A)により測定した。注入口、検出器およびカラムの温度は、それぞれ150℃、150℃および130℃であった。
【0072】
1H NMR
基質分解および中間産物の生成を、プロトン周波数600.13 MHzで動作するBruker 600 MHz AVANCE IIIスペクトロメーター(Bruker, Rheinstetten, ドイツ)および TopSpin 3.0ソフトウエア(Bruker, Rheinstetten, ドイツ)を用いた、1H NMRスペクトルによって解析した。測定対象の培養物と液体培地は、1.5mlマイクロチューブに入れて-20℃で凍結保存した。測定当日、これらを室温で解凍し、15,000rpm (20,600×g)、2℃、1分間の遠心分離を行った。各上清のうち540μLとリン酸緩衝保存液60μLを混合し、50mM NaP、0.5 mM 3-(トリメチルシリル)プロピオン酸-d 4ナトリウム塩 (TSP)、0.004% NaN3および10%D2Oを含むNMR試料を得た。1.5mLマイクロチューブ中、15,000rpm (20,600×g)、2℃で再度、1分間遠心し、上清550μLを5mm NMRチューブ(Shigemi,八王子,日本)に移した。1H NMRスペクトルは、試料温度298Kで記録した。すべてのNMRスペクトル測定は、スペクトル幅12ppm、取得時間2.27sで、128スキャン、データポイント32,768で積算した。水のピークを消去し、受信利得を最大化するために、低パワーの選択的パルスの水の周波数でnoesy1dプリサチュレーションパルスシーケンスを採用した。繰り返し時間[D1(Bruker表記)]は2.7秒、混成時間[D8(Bruker表記)]は0.1秒であった。90°のパルス長は、各試料分析時に自動的に計算された。すべての生スペクトルは、位相とベースラインの歪みを手動で補正し、TopSpin 4.1 ソフトウエア(Bruker, Rheinstetten, ドイツ)を使用し、δ=0.0ppmのTSP共鳴を基準とした。内部標準として、TSPのピーク面積値を参照し、スペクトルを規格化し、基質と中間産物によるピークの相対積分強度を算出した。試料チューブ内のTSP濃度(0.5 mM)、対象物質とTSPのプロトン数(H=9)、元の試料のリン酸緩衝液による90%希釈を考慮し、それらの濃度を半定量化した。
【0073】
16S rRNA遺伝子配列解析
16S rRNA遺伝子解析に当たり、DNA抽出とPCR増幅を行った。DNA抽出は、FastDNA Spin Kit for Soil(MP Biomedicals, Santa Ana, カリフォルニア, USA)を用いて、メーカーのプロトコルに従って実施した。抽出したDNAの品質は、電気泳動(135V, 20分)で確認した。DNA濃度は、Qubit dsDNA BR assay kit (Invitrogen, Carlsbad, CA, USA) を用いて、Qubit 3.0フルオロメーター(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)アッセイで測定した。原核生物の16S rRNA遺伝子は、先行研究 [22] および [25] に従って Univ515F-Univ909R [24] を用いて増幅した。PCR反応(20μL)は、1ngの鋳型DNA、0.5μMのフォワードおよびリバースプライマー、10μLのPremix Ex Taq Hot Start Version (Takara Bio, 滋賀, 日本)を用いてサーマルサイクラー(TP600, Takara Bio, 滋賀, 日本)で実施した。PCRサイクル数は25であった。PCR産物は、QIAquick PCR purification kit (Qiagen, Valencia, CA, USA)を用いて精製した。精製した16S rRNA遺伝子の配列解析は、MiSeq Reagent kit v3およびMiSeqシステム(Illumina, San Diego, CA, USA)を用いて実施した。生の16S rRNA遺伝子配列は、QIIME 2 ver. 2021.4 [26]、品質トリミング、プライマー配列除去、ペアエンドアセンブリ、キメラチェックは、DADA2 [27] を用いて行った。観測された高品質の16S rRNA遺伝子配列は、vsearchソフトウエア [28] を用いて、類似度97%以上の操作的分類単位(OTU)にクラスタリングした。OTUの分類は、SILVAデータベースバver. 138に対してclassify-sklearnを用いて分類した [29]。
【0074】
ショットガン・メタゲノム配列解析
1番目、2番目、7番目のBHET集積培養物と7番目のDMT集積培養物から抽出したDNA試料は、ThruPLEX DNA-Seq Kit(Clontech, USA)を用いて、273~418bpの範囲のライブラリー200長で調製した。調製したライブラリーの塩基配列は、NovaSeq6000(Illumina)を用いて決定した。得られた生の解読データは、Trimomatic 0.39 (SLIDINGWINDOW: 6:30 MINLEN: 100) [30]でトリミングした。De novoアセンブリは、Megahit v1.2.9 (--k-min 27 --k-max 141 --k-step 12) [31]を用いて実施した。BC1U、BC2U、BC7Uの集積培養物の共連結を行い、コンティグ(連結断片)の良好な網羅性(coverage)を取得した。長さが短い(<2,500 bp)連結断片は、ゲノム分別(ビニング)処理の前に除去した。ゲノム分別処理は、Metabat2 version 2.2.7 [32], MaxBin2 version 2.15 (-markerset 40) [33], MyCC (MyCC_2017.ova) [34], Vamb version 3.0.3 [35] を用いてデフォルトパラメータで実施した。高品質なメタゲノム分別ゲノムを得るために、Das Tool version 1.1.2 (--score_threshold 0.5 --duplicate_penalty 0.6 --megabin_penalty 0.5) [36] を用いてマルチビニング結果から得られた分別ゲノムを精製した。最後に、dRep version 3.2.0 (-comp 70 -con 10) により、脱複製とゲノム品質をチェックした[37]。
【0075】
メタゲノム分別ゲノムの相対的存在比は、Metabat2パイプライン(jgi_summarize_bam_contig_depths、デフォルトパラメータ)から生成された中央値カバー率に基づいて計算した。すべての分別ゲノムは、Prokka v1.14.6 [38]と手動アノテーションの組み合わせによってアノテーションした(注釈を付した)。BHETおよびDMTエステラーゼのアノテーションのために、メタゲノム分別ゲノムは、blastpバージョン2.6.0を用いて、既知のPETおよびMHET加水分解酵素(NCBI配列ID: 4oyy_a, aaz54920, aaz54921, ab728484, acy95991, acy96861, adh43200, adm47605, adv92525, adv92526, adv92527, adv92528, aev21261, afa45122, cah17554, bai99230, bak48590, cby05529, gap38373, 6qz2_a.BAIN, AZ58920, BAIN5892, BAIN5893, BAIN5893,BAIN6, BAIN6893,AID,AID,AID,AID,AID,AID,AID。JN129499, JN129500, MK681857, and QDD67397) [非特許文献11] およびエステラーゼ DmtH (AZI71502) [非特許文献9] に対して、≧25% アミノ酸相同性、≦1e-10 e-value、および≧70% query cover per subject (qcovs) (配列全長に対するアラインメントの長さの割合)の閾値で割り当てた。メタゲノム分別ゲノムのメタン生成代謝産物は、Methanobacterium(taxon_oid:2630968343、2645727909、2681813006、2684622658、2791355014、2913397459)、Methanolinea(2507262043、2775507284、2913416594)、Methanomassiliicoccus(GCF_000308215. 1 および GCF_000404225.1)、Methanomethylovorans(2509601008)、Methanoregula(2508501105)、Methanospirillum(2606217615)、Methanothrix(2724679722)に対して、60%以上のアミノ酸相同性、≦1e-20 および 70%以上qcovsの閾値で割り当てた。酢酸生成菌の代謝によるエチレングリコール、エタノールおよびメタノール分解のアノテーションでは、Acetobacterium woodii DSM1030 (GCA_000247605.1) のゲノムに、<1e-5 evalueの閾値で優先するメタゲノムを割り当てた。さらに、酢酸生成菌のコア遺伝子は、BlastKOALA [39] と DRAM ソフトウエア (--use_uniref オプション、デフォルト設定) [40] を用いて自動的にアノテーションを行った。taxon_oid を持つ参照ゲノムは、Joint Genome Institute (JGI) genome portal から入手した [41]。推定のBHETおよびDMT分解タンパク質はそれぞれ、既知のBHET/MHET分解酵素およびChengら[非特許文献9]から得たDMT分解酵素を持つ参照エステラーゼとアライメント(配列の位置合わせ)した。ここでは、アラインメントソフトウエアmafft-linsi v7.480 (default parameters) を使用した [42]。BHET/MHETおよびDMT分解タンパク質の系統樹はそれぞれ、iqtree2 version 2.1.2 (-B 1000) を用いて、自動的に最適化された置換モデルBlosum62+F+I+G4およびWAG+F+R4で構築した [43]。分別ゲノムの分類は、GTDBtk v1.5.1 (GTDB release202; default parameters) を用いて推定した [44]。
【0076】
酵素の立体構造予測:分子モデリングと結合シミュレーション
【0077】
構造モデルは、新たに開発されたニューラルネットワークベースのモデルであるAlphaFold2を用いて予測した [45]。その結果、予測局所距離差検定(pLDDT)値は、89以上であり、これは、高精度な予測と考えられる。酵素とリガンドの結合シミュレーションのために、Chimeraソフトウェアバージョン1.15のDocking prepツールを使用して、水素原子と電荷を追加した [46]。最後に、分子結合は、AutoDock Vina ver. 1.2.0 [47]を用いて実施した。2次元結合ポーズは、Maestro ソフトウエア ver. 13.0.137 (Schroedinger, LLC, NY) を用いて生成した。
【0078】
実施例3
BHETおよびDMT分解微生物の集積培養物に対する分析結果
実施例1にて調製したBHET-およびDMT-加水分解微生物の集積培養物について、実施例2に記載の分析方法を順次適用した。
3-1:ガス生成量 (CH4, CO2, N2, H2)、1H NMR、顕微鏡観察、16S rRNA遺伝子解析、ショットガン・メタゲノム解析の結果
BHET集積培養物については、汚泥接種前のオートクレーブ処理したBHET培地を用いた集積培養物(BCA)からは、培養期間を通して水素およびメタンガスの生成が確認できなかったが、オートクレーブ処理していない非オートクレーブBHET培地を用いた集積培養系(BCU)からはガス生成を確認した(表3)。また、BC17Uからメタンが生成されず水素ガス生成のみが確認された(表3)。BC10Uから継代したBCU-BESでは、メタンガス生成が完全に抑制され、水素生成のみが起きた。嫌気性共生的に分解が生じる場合はメタン生成と共生的に進行することから、BESを添加しメタン生成を阻害したときにはBHETの加水分解に伴ってH+が発生し水素ガスとなって培養系内に蓄積するため、BHETの分解は速やかに停止する。加えて、嫌気性条件下におけるテレフタル酸の分解も嫌気性共生的に進行するため、メタン生成が生じずに水素が蓄積する場合には、その分解反応は停止する。BHETの分解により発生する水素はメタン生成に伴って消費されずに残存すると、BHETの分解反応の平衡が分解の方向に進まないためである。
【0079】
1H NMR分析の結果、BC
20UおよびBC
12U-BESでは8.5mM モノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(MHET)および0.5mM テレフタル酸(TA)、または6.4mM MHETおよび0.3mM TAがそれぞれ、11.0または10.6mM BHETからBHET基本培地(BC
UおよびBC
U-BES)において生成された(
図1Aおよび表4)。MHETとTAが同程度の量で生成されたにもかかわらず、これらの培養物の副産物における大きな違いは、BES非存在下における、酢酸ではなくエチレングリコール(EG)(8.2mM)の蓄積であった(
図1Bおよび表4)。BC
Aでメタンガスや水素ガスが生成されなかったのは、BC
Aの培養前の培地ではBHETがほとんどMHET、EGおよびTAに変換されていたこと(
図1C、表4)が理由として考えられ、すなわち、比較的短い継代期間(1-2週間)では、SyntrophorhabdusやPelotomaculumなどのTAやEGをメタン生成菌と共生的に分解する成長の遅い嫌気性共生細菌(例えば、S.aromaticivoransの倍化時間として20日間:[非特許文献19]、[非特許文献20]、[48])の増殖が間に合わなかった可能性がある。
【0080】
DMTの集積培養系では、培養期間中においてDC
Aでメタンガスの発生が確認され、水素ガスは検出されなかった(表3)。DC
2U-DC
4Uでは、メタンガス量、水素ガス量はガスクロマトグラフィーの検出限界以下であった。DC
A-BESの集積培養では、メタン生成は完全に抑制された。NMR分析により、培養後のDC
9A、DC
1U、DC
1A-BESからは、それぞれ12.0mM、1.9mMおよび12.1mMのMMT、2.6mM、0.5mMおよび2.6mMのTA、11.0mM、0mMおよび11.1mMのメタノールを検出することができた。DMTは溶解度が低く(19mg-L
-1)、この溶解度より2桁多い量を添加したため、培養前後で濃度に変化はなかった(0.09-0.14mM)(
図1D、表4)。DC
Aの基本培地では、オートクレーブ処理により8.0mMのMMT、0.9mMのTA、6.8mMのメタノールが生成され、これが培養後のMMTとメタノール濃度を高くしている理由であると考えられる。DC
Uの培養系では、MMTとTAは培養後にしか検出されず(
図1D、表4)、DMTの生物学的分解が確認された。DC
1Uでは培養後にメタノールが検出されなかったが、これはDMTの加水分解によって生成したメタノールが培養中の微生物によって速やかに利用された可能性が高い。さらに、BESの有無にかかわらず代謝物濃度に大きな変化は見られなかったことから、BESは、DMTの分解にほとんど影響を及ぼさないことが示唆された。
【0081】
表3および表4として、得られた結果を以下に示す。
【0082】
【0083】
a 非オートクレーブBHET-添加培地
b オートクレーブ処理BHET-添加培地
c BESを加えた非オートクレーブBHET-添加培地
d オートクレーブ処理DMT-添加培地
e 非オートクレーブDMT-添加培地
f BESを加えたオートクレーブ処理DMT-添加培地
g 培養および継代日数
h 培養回数
i 測定されず
j データ無し
【0084】
【0085】
3-2:DNA抽出、PCR増幅、16S rRNA遺伝子配列解析
BHETとDMTを与えた培養液でどの微生物が集積されたかを特定するために、16S rRNA遺伝子を対象とした微生物群集構造解析を行った。
【0086】
得られた結果を
図2Aに示す。この結果から、BC
AとBC
Uを用いた集積培養では、微生物群集が大きく異なっていることがわかった。例えば、
図2Aにおいて、BC
7AではRalstonia (BHET003, 37%)、Rhodococcus (BHET005, 33%)、Spirochaetaceae (BHET002, 24%)のメンバーが優勢であり、他方、BC
7UではNegativicutes (BHET001, 85%)の未培養微生物、Methanospirillum (BHET013, 6.5%)、Spirochaetaceae (BHET015, 3.2%) およびSporomusaceae (BHET004, 1.9%) に属する未培養微生物群が優勢であった。顕微鏡観察では、BC
7UではBHET結晶に棒状の細胞が付着していたが(
図3A)、BC
7AではBHET様結晶や微生物細胞はほとんど観察されなかった(データ示さず)。さらに、BC
20Uでは、Negativicutes(BHET001)とSporomusaceae(BHET004)に属する未培養微生物群が97%を占めた(
図2A)。BC
20UおよびBC
12U-BESでは、BHET集積培養において、水素資化性および酢酸利用性のメタン生成古細菌は存在しなかった。
【0087】
16S rRNA遺伝子を標的としたアンプリコンシークエンス解析により、これらのDMT集積培養系はメタノール利用性メタン菌Methanomethylovorans(DMT001、73%)、Treponema(DMT004、18%)、Synergistaceae科JGI-0000079-D21(DMT012、6.9%)の未培養微生物で占められていた(
図2B)。顕微鏡観察の結果、DMT様結晶にはスピロヘータ様細胞が付着しており、集積培養物にはMethanomethylovorans様球菌のフロックが多く見られた(
図3B-3E)ことから、Treponema(DMT004)はDMTを分解し、副生したメタノールはMethanomethylovorans(DMT001)がメタンガスに変換できる可能性が示唆された。その後、8回および9回継代した集積培養(DC
8AおよびDC
9A)において、JGI-0000079-D21(DMT012)の存在量は減少し、Cloacimonadales(DMT006)の存在量が増加した(
図2B)。DC
1A-BESでは、Methanomethylovorans(DMT001)の存在量が40%(1回目)および7.4%(3回目)に減少し、Negativicutes(DMT005)とSpirochaetaceae OTU(DMT002、DMT004、DMT020)の未培養微生物の存在が増加した(
図2B)。また、DC
UとDC
Aでは、オートクレーブ処理に関わらず、Methanomethylovorans(DMT001)とSpirochaetaceae OTU(DMT002とDMT004)が優勢であった(
図2B)。
【0088】
3-3:BHET分解代謝
BC
1U、BC
2U、およびBC
7Uのショットガン・メタゲノム解析を実行して、BHET分解に関与する微生物の代謝機能を解明した。初期の集積培養系ではPatescibacteria (BHET40.001) やWOR-3 (BHET_531 and BHET40.002) などの未培養系統群が優勢であったが、7回継代後のメタゲノムでは、Firmicutes_C (BHET.Bin.209 とBHET40.249)、Halobacteriota (BHET.Bin.162) およびSpirochaetota (Cluster.64, BHET.Bin.69, BHET40.136, and BHET_244_sub)のゲノムが集積されていた(
図4A)。具体的には、Negativicutes綱の未培養グループUBA11029に属するBHET.Bin.209は、コミュニティ全体の88%を占め、BC
7Uで最も豊富なメタゲノム分別ゲノムであった。16S rRNA遺伝子解析の結果は、メタゲノム解析で得られた結果(
図2A)と同様であり、このことは、本実施例でBC
7Uにおける優勢な微生物のゲノムが正しく回収されていることを示している。
【0089】
BHET分解経路を特定するために、BC
7Uから採取したメタゲノム分別ゲノムについて、既知のPET分解関連遺伝子とのblastpによる相同性検索を実施した。その結果、Spirochaetota門に属するTreponematales (Cluster.64 and BHET40.136) とTreponema_G (BHET_244) は、36% (Cluster.64_00965, 6.9e-64), 34% (BHET40.136_00755, 7.1e-59), 29% (BHET_244_sub_02548, 3.4e-49) の相同性をBacillus subtilis 4P3-11(BsEstB, ADH43200.1) [49] のp-ニトロベンジルエステラーゼに示す遺伝子を有していた。これらの遺伝子は、既知のPET分解酵素と同様に、GxSxGモチーフと触媒三残基(Ser、His、Glu)を含む活性部位を保存していた。同定された3つの推定BHET分解酵素は、既知のPETおよびMHET分解酵素とともに系統解析した(
図5A)。その結果、これらの遺伝子は、B. subtilisのBsEstB(ADH43200.1)やHumicolaのCutinase(4OYY_tr と共に配置され、Thermobifida、ThermomonosporaおよびIdeonellaのPETアーゼやCutinaseとは異なるクレードであることが分かった。
【0090】
3-4:BHET分解酵素の配列特定
同定された3つの推定BHET分解酵素について、Prokka v1.14.6 [38]のデフォルトパラメータを用いてタンパク質コード領域を予測することによって、それぞれのアミノ酸配列を特定した。得られた結果は次の通りである:
Cluster.64_00965
MLIATSCATTRSDTSSAPAMTSYGAWNGSLTAATKFGLVAGKTDQKNTYAWLGIPYAAPPVGDLRWTAPQDPEPWQGVRPATKFGPKAVQAAALLGWTQGSEDSLYLNIWRPATGESNLPVYVWIHGGGNSSGSADASPSYQGFNLAANANAVFVSINYRLGLFGWFNHPALKTGTDPETDSGNFGTMDIIKALRWVNENIASFGGNPAMVTVGGESAGAFNILTLLMAPSAQGLFQRAVVESGYRTSTTPAQAEAFATDIAKKLLIKEGKAENDAEAEKLLSSMSKAELAGWLRSISAKKLMSVIKAGNSGMLPFPYPVFDGQVLPAEGFAALADSSKIAVVPLIIGTNKEETKIFQWLGGQKSSDPLYQPLAELTSARWKADGADSIADALVSAVPDYPVYVYRFDWGAPDLAGKSVMPGKLGAMFGAFHSLEIPFFLGSDTVLGKAVPIKFFTKENEAGRTALQAQMGQYLANLIHTGNPNQAGSQVPNASRSSLPVWERWNAAEQNPAFMVFDASLVQSKTRLEYGRTTRESVRARLETEFQEPLKSRLLAAYSKE(配列番号1)
【0091】
BHET40.136_00755
MEKNNNKLPLFLLAAAIALFFISCATLPPEPSEVFFSPAEWQGDTLVGTRYGLIQGMEDRDGTITWLGIPYAAPPVGERRWKAPEKPEPWQGIRQANRFGPKSAQRSFWTGTIIGSEDSLYLNVWRPAGREKSLPVYVWVHGGANTSGAANESKGYYGHSLASKANLIFVSINYRLDLFGWFSHPALKTKEDPESDSGNYGTLDIIAALEWVRENIGSFGGDPGNVTVAGESAGALNVLSLLIAPKAKGLFHRAVIESGYTHGPAVSPQAYAVNFGIRLALRQSKAETIEEASRLLAAQSDQELARWLRSASAGELLRLSKPAGKEILSIPSPIFDGHVLPSDGFEALADPRRRANVPILIGTNREETKLFLQLAMNPRNPHYQRLVELSSLLWKAEGADGVADAYGRNPAAGDAPPAGKVYLYRFDWGAPDEEEESVMGGIASRRLGACHAMEIPFFLQTDGLFGSGFPLRIYTKANKNGRQALQSAIGEYLAAFAWTGDPNHGIDSSRVGRIHWEPWDPASDKPSFLVLDAGFKELLLRKEEGRVRREDIVTEIADNSSPALKDHFIRLAPLFL(配列番号3)
【0092】
BHET_244_sub_02548
MIRIAETEYGLVKGLPAADPRITAFKGIPFAAPPVGENRWREPQPCSPWEGIRPAYEFGSISVQDTPGLGDDIYCREWHVDPDIPMSEDCLYLNIWTGAKSKEEKLPVLVWFFGGAFQWGYTAEMEFDGERLARRGIIVVSVNYRLNVFGFLAHPELTAEQRDTPTNFAHLDQQAGLLWVKRNIYNFGGDPENITLAGQSAGGMSVLVQITNPLNQGLFQKGIIQSGLIGSPYPSGFFGVPPKLQDAEALGTEFFAFLGVQSLSQARKLDPFYLLQKYNEFVQSHPRMMTVQDDKFCFGDPPYLYLKGHHVQVPLMAGNTSDEFLVGIQTETADEYKNKAAQCFGEEVDTFLRFKEAWHYREGIGYGAVNAIEFITKALILASSEMGNPNCAYYYQFMPEIPGWDKPGAFHSVDLWFSFETLAKCWRPFTGKHYDLARKMANYWANFIKSGDPNGLDHDGSPLPEWKPYTKDTPCQMLFTTEGPEPVIEQTSEFKRFLIEHITEDILQHTETNHAKETSL(配列番号5)
【0093】
さらに、同定された3つの推定BHET分解酵素をコードする塩基配列を、Prokka v1.14.6 [38]のデフォルトパラメータを用いてタンパク質コード領域を予測することによって特定した。得られた結果は次の通りである:
Cluster.64_00965
ATGCTGATTGCAACATCCTGCGCAACGACCAGATCCGATACTTCTTCCGCTCCGGCAATGACATCATATGGCGCCTGGAACGGCAGCCTGACAGCAGCGACAAAATTCGGTCTTGTCGCAGGGAAAACCGACCAGAAAAATACCTACGCCTGGCTCGGCATTCCGTATGCAGCGCCTCCCGTCGGCGATCTGCGCTGGACAGCGCCCCAGGACCCTGAACCATGGCAAGGCGTTCGGCCTGCAACAAAATTCGGCCCCAAAGCGGTTCAAGCTGCAGCCTTGCTTGGCTGGACTCAAGGGTCGGAAGATTCCTTATACTTGAATATCTGGCGACCCGCGACAGGCGAAAGCAACCTGCCAGTCTATGTCTGGATTCACGGCGGCGGCAACTCGAGCGGTTCAGCGGATGCCTCGCCCTCATATCAGGGATTCAACCTCGCAGCCAACGCGAACGCTGTCTTCGTCTCCATCAATTACCGCCTCGGGCTTTTCGGATGGTTCAATCATCCAGCGCTGAAAACTGGTACAGATCCAGAAACCGATTCCGGCAATTTTGGCACGATGGATATCATCAAAGCCCTGCGATGGGTCAATGAGAATATCGCGTCATTCGGCGGCAATCCTGCCATGGTTACAGTCGGCGGGGAATCAGCCGGCGCGTTCAACATTCTCACCCTCCTGATGGCCCCGTCGGCACAGGGGCTTTTCCAGCGCGCCGTTGTGGAAAGCGGCTACCGAACTTCCACAACTCCTGCACAGGCTGAGGCATTCGCCACTGACATTGCCAAAAAGCTCCTGATCAAAGAAGGCAAAGCCGAAAACGATGCGGAAGCGGAAAAACTACTCAGCTCCATGTCCAAAGCCGAATTGGCCGGCTGGCTGCGTTCGATTTCCGCTAAAAAGCTTATGTCGGTTATCAAGGCAGGCAATTCAGGCATGCTGCCATTCCCATATCCTGTTTTTGATGGTCAGGTGCTTCCAGCAGAAGGTTTCGCCGCACTCGCAGACAGCTCCAAAATTGCAGTCGTACCGCTCATCATCGGTACTAATAAAGAAGAAACTAAAATATTCCAGTGGCTGGGCGGCCAGAAATCCTCTGATCCGTTGTATCAGCCGCTAGCCGAGCTCACCAGCGCGCGGTGGAAGGCCGACGGTGCTGATTCAATCGCCGACGCCCTTGTCAGCGCGGTTCCGGATTATCCTGTTTATGTCTATCGATTCGATTGGGGAGCCCCGGATTTGGCGGGGAAAAGCGTCATGCCCGGCAAGTTGGGCGCAATGTTTGGCGCTTTCCACTCGCTGGAGATTCCATTTTTCCTCGGCTCGGATACAGTTCTCGGCAAAGCGGTGCCCATCAAATTCTTTACCAAAGAGAATGAAGCCGGGCGGACAGCGCTTCAAGCCCAGATGGGGCAGTATCTCGCAAACCTCATTCATACCGGCAATCCCAATCAGGCTGGCAGTCAGGTTCCGAATGCCAGCAGATCCAGCTTGCCCGTCTGGGAGCGATGGAATGCAGCTGAGCAGAATCCCGCATTCATGGTGTTCGACGCCAGCCTTGTGCAATCCAAAACTCGTCTTGAATATGGCCGGACAACACGAGAAAGCGTCCGCGCAAGGCTCGAGACCGAGTTTCAAGAACCGCTTAAAAGCCGTTTGCTCGCAGCCTACAGCAAAGAGTAG(配列番号2)
【0094】
BHET40.136_00755
ATGGAAAAAAATAATAATAAACTTCCGTTATTCCTCCTCGCCGCGGCAATCGCGTTATTCTTCATATCCTGCGCCACCCTTCCTCCGGAACCTTCTGAGGTTTTCTTCAGCCCCGCCGAATGGCAGGGCGATACCTTGGTGGGAACCCGCTACGGGCTCATTCAAGGCATGGAAGACAGGGACGGAACCATTACCTGGCTGGGAATTCCCTATGCCGCCCCTCCGGTAGGGGAACGTCGCTGGAAGGCGCCGGAAAAGCCGGAGCCCTGGCAGGGCATACGGCAGGCGAACCGATTCGGCCCCAAATCCGCCCAGCGCTCCTTTTGGACCGGGACGATAATCGGATCGGAGGATAGTCTCTATCTCAATGTCTGGCGACCCGCAGGCCGGGAAAAATCCCTGCCGGTCTATGTCTGGGTTCATGGGGGCGCGAATACCTCGGGGGCGGCCAACGAAAGCAAGGGATACTATGGTCATTCCCTGGCATCCAAGGCGAATCTCATCTTCGTATCCATCAACTACCGCCTGGACCTCTTCGGTTGGTTTTCCCACCCCGCGTTGAAAACCAAAGAGGACCCAGAGAGCGACTCGGGCAACTATGGAACTCTGGATATAATCGCCGCCCTGGAATGGGTGCGGGAAAACATCGGCTCCTTCGGCGGCGATCCCGGCAACGTAACCGTCGCCGGCGAATCGGCGGGAGCGCTCAACGTGCTCAGCCTTCTTATCGCTCCGAAAGCGAAAGGCCTTTTCCACAGGGCCGTGATCGAGAGCGGATATACCCATGGTCCGGCGGTAAGCCCCCAGGCCTACGCGGTCAATTTCGGCATACGGCTCGCGCTGCGACAAAGCAAAGCCGAAACCATCGAGGAAGCTTCCAGGCTGTTGGCCGCGCAGAGCGATCAGGAACTGGCCCGGTGGCTGCGTTCGGCCTCGGCGGGGGAACTGCTCCGTCTCAGCAAACCCGCGGGGAAGGAAATCCTATCCATTCCCTCTCCGATTTTCGATGGTCACGTGCTGCCCTCGGACGGCTTCGAAGCCCTGGCCGATCCCCGGCGGCGGGCTAATGTCCCTATCTTAATTGGAACGAATCGGGAAGAAACCAAGCTGTTCCTTCAATTGGCCATGAATCCCCGCAATCCCCACTACCAGCGGCTGGTCGAGCTGAGCAGCCTGCTCTGGAAGGCCGAGGGAGCGGACGGTGTCGCCGACGCTTACGGGAGAAATCCCGCCGCCGGGGATGCCCCGCCCGCCGGAAAGGTCTATCTCTATCGTTTTGACTGGGGTGCCCCGGACGAGGAGGAAGAAAGCGTCATGGGCGGCATAGCCAGCCGAAGACTGGGAGCTTGCCATGCCATGGAAATTCCCTTCTTCCTGCAGACCGACGGGCTTTTCGGCTCGGGATTCCCCCTTCGCATCTATACAAAGGCCAATAAAAACGGGAGGCAGGCTTTACAGTCCGCCATCGGCGAATACCTGGCCGCCTTCGCCTGGACAGGCGATCCAAACCACGGCATTGATTCCAGCCGGGTAGGAAGAATCCATTGGGAGCCCTGGGATCCGGCGTCGGATAAACCAAGTTTTCTCGTCCTGGACGCGGGATTCAAGGAACTATTGTTGCGCAAGGAAGAGGGGCGGGTGCGTCGGGAAGACATCGTTACCGAAATCGCGGACAATAGCAGCCCCGCTCTCAAGGATCATTTCATTCGGCTTGCCCCGCTCTTTCTTTAG(配列番号4)
【0095】
BHET_244_sub_02548
ATGATACGGATTGCTGAAACCGAGTATGGTCTTGTAAAGGGGCTGCCAGCGGCGGATCCCCGTATAACTGCTTTTAAGGGAATCCCCTTCGCAGCACCCCCTGTTGGAGAAAATAGATGGAGGGAGCCCCAACCCTGTTCTCCCTGGGAAGGAATTCGTCCTGCCTATGAATTTGGTTCTATTTCTGTACAGGATACTCCCGGATTGGGGGATGACATCTATTGCAGAGAATGGCATGTGGATCCGGATATTCCAATGAGCGAGGACTGTCTGTATCTCAATATCTGGACCGGTGCAAAGAGCAAAGAAGAAAAGTTACCCGTCCTTGTCTGGTTCTTTGGCGGCGCTTTCCAATGGGGCTATACGGCTGAAATGGAGTTTGATGGTGAACGCCTGGCTCGGCGAGGTATCATTGTGGTTTCCGTTAACTATCGCCTTAATGTATTCGGTTTTCTCGCCCATCCTGAGCTCACGGCAGAACAAAGGGATACCCCTACCAATTTCGCTCACCTGGATCAGCAGGCGGGACTCCTGTGGGTTAAAAGAAACATCTATAATTTTGGTGGAGATCCGGAGAACATTACCCTCGCCGGTCAGTCAGCCGGAGGCATGAGTGTACTGGTACAGATTACCAATCCTCTTAATCAGGGGCTTTTCCAGAAGGGGATCATACAAAGTGGCTTGATAGGAAGCCCCTATCCAAGCGGTTTCTTCGGAGTTCCACCCAAACTGCAGGATGCAGAAGCCTTAGGAACAGAGTTTTTTGCTTTTCTGGGAGTCCAGTCACTTTCCCAGGCACGGAAACTGGATCCTTTCTATCTCTTACAAAAATATAACGAATTTGTTCAATCCCATCCGAGAATGATGACGGTCCAGGATGACAAATTCTGCTTTGGTGATCCCCCATACCTTTATCTAAAGGGGCACCATGTACAGGTTCCTCTGATGGCTGGCAATACTTCCGATGAATTTCTTGTGGGCATTCAAACGGAAACAGCGGATGAGTATAAAAATAAGGCAGCCCAATGCTTTGGCGAAGAAGTCGACACCTTTTTACGTTTTAAAGAAGCATGGCATTATCGCGAAGGCATCGGATATGGGGCTGTGAACGCAATCGAGTTCATCACAAAAGCACTTATCCTTGCAAGCAGTGAAATGGGGAATCCTAATTGTGCTTATTACTATCAATTTATGCCAGAAATCCCTGGCTGGGATAAACCGGGGGCATTCCATTCGGTAGATCTCTGGTTTTCCTTTGAGACCCTGGCAAAATGCTGGCGGCCCTTTACAGGAAAACACTATGATCTTGCCCGTAAAATGGCTAATTACTGGGCAAATTTTATAAAAAGCGGAGATCCTAACGGTCTTGATCATGACGGAAGTCCCTTACCTGAATGGAAACCTTATACAAAGGACACCCCCTGCCAGATGCTCTTTACCACCGAAGGACCCGAACCAGTCATAGAACAGACCTCCGAATTTAAAAGATTCCTCATCGAACATATTACCGAAGATATATTACAACATACGGAGACTAACCATGCAAAAGAAACAAGCCTTTAA(配列番号6)
【0096】
3-5:分子モデリングとドッキングシミュレーション
これらの酵素とBHET、MHETとの相互作用をさらに検討するため、BsEstBとアミノ酸配列に基づき28%以上の相同性(e値として<1e-48)を示したTreponematales (Cluster.64 and BHET40.136) とTreponema_G (BHET_244) が保持する、GxSxGモチーフと触媒三残基(Ser、His、Glu)を含む活性部位を保存していた酵素Cluster.64_00965、BHET40.136_00755、BHET_244_sub_02548(酵素のアミノ酸配列参照)の分子モデリングを行い、これらの予測構造と基質のドッキングシミュレーションを実施した。
【0097】
得られた結果から、これらの酵素はBHETを結合するための結合ポケットを持ち、水素結合、π-πスタッキング相互作用、疎水性相互作用で基質と結合する可能性があることが示された。さらに、予測された立体構造において触媒三重鎖を構成する3つのアミノ酸残基(Cluster.64_00965はSer-217、His-432、Glu-353、BHET40.136_00755はSer-232、His-451、Glu-367、BHET_244_sub_02548はSer-200、His-411、Glu-323)は互いに近くにあり、Serが結合ポケットの表面上に位置している(
図6A、
図6B)。したがって、これら3つの酵素はBHETを分解することができる。興味深いことに、MHETの結合時にも、SerはMHETのエステル結合の近くに位置している(
図6A、
図6B)。Spirochaeota 由来の酵素と同様に触媒三重鎖を持つB. subtilis 由来のBsEstBは、BHETとMHETの両方を分解することが知られている[49]。したがって、これらの酵素はBHETだけでなくMHETも分解している可能性がある。
【0098】
集積培養と
1H NMR解析の結果から、BHETの加水分解後にMHETとEGが生成し、これらの化合物をさらに分解するとTAとエタノールが得られると予想された。さらに、エタノールは酢酸生成細菌によって酢酸に変換される可能性があった(表4、
図1A)。BHET代謝に関連する微生物とBHET集積培養におけるその役割をさらに明らかにするために、優占するメタゲノム分別ゲノムについて代謝経路の再構築を行った。EGの嫌気性分解は、嫌気性強制的分解 [48] または酢酸生成 [50] を通して進行することが知られている。メタン生成阻害剤としてBESを添加するとBHET分解が起こり(表4)、BC20Uではメタン生成菌が検出されなかったことから(
図2B)、EGは酢酸生成菌によって分解されると推測された。そこで、酢酸性細菌でありEG分解菌であるA. woodiiのゲノム配列に対してblastpによるアミノ酸配列の相同性検索を行った。その結果、BHET加水分解酵素を有すると予測される優占する系統(すなわち、Treponematales Cluster.64, BHET40.136, BHET_244_sub)はEG分解に関わる遺伝子(特にpduCDEとpduP)を欠損していたが、Sporomusalesの1集団(BHET40.249)はA. woodiiのEG分解の遺伝子と相同な遺伝子(
図7)を有しており[51]、この菌がEG利用に関係している可能性が示唆された(
図8)。
【0099】
EG分解により生成したアセトアルデヒドとエタノールは、二機能性アセトアルデヒド/エタノール脱水素酵素 (AdhE) またはアルデヒド脱水素酵素 (AldH) とアルコール脱水素酵素 (Adh) の組み合わせにより、更に分解されることが知られている。そして、生成されたアセチル-CoAは、ホスホトランスアセチラーゼ(Pta)とアセテートキナーゼ(AckA)を介して酢酸に変換される [50], [52]。最も豊富なメタゲノム分別ゲノムであるNegativicutes (BHET.Bin.209) は、AhdEとAdhの11のホモログとWood-Ljungdahl経路のコア遺伝子をほとんど持っている(表5)。このことから、本微生物はエタノールから酢酸生成を経てエネルギーを得ていることが示唆された。また、Sporomusales(BHET40.249)はMetV、acsE、CODH/ACS以外のコア遺伝子を有しており、BHET40.249はエタノールを介した酢酸生成により増殖することが示唆された。したがって、詳細なメカニズムは不明であるが、BC12U-BESで検出された酢酸は、Negativicutes(BHET.Bin.209)とSporomusales(BHET40.249)から生産されていることが示唆された(
図8)。酢酸菌のコア遺伝子の欠如がゲノムの不完全性によるものかどうかは、今後、ゲノムの完全な再構築を行い、明らかにする必要がある。推定したBHET分解酵素を持つTreponematales (Cluster.64), Treponematales (BHET40.136), Treponema_G (BHET_244_sub) はAdhE, Adh, AldH, Phosphotransacetylase (Pta) and Acetate kinase (AckA) のホモログを持っているが、ほとんどの酢酸生成のためのコア遺伝子は欠いていた (表5)。一方、これらの分別ゲノムには、分岐鎖アミノ酸輸送系、オリゴペプチド輸送系、糖輸送系などのグリコシドヒドロラーゼ、ペプチド、アミノ酸トランスポーターが複数存在する。今後さらなる検討が必要であるが、BHET分解物を代謝するNegativicutesなどの優勢な微生物の代謝物などを基質として、Spirochaeotaが生育のための栄養を獲得している可能性がある。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
3-6:DMT分解代謝
DMT 集積培養系について、DC7A 培養液のメタゲノム解析を実施した。その結果、Methanomethylovorans (DMT6_6, 93.9%)、Treponema_G (DMT40.002, 4.2%)、Synergistales (DMT40.003, 1.7%)、Treponemataceae_B (DMT.Bin.7, 0.2%) に属する4種類のメタゲノムが回収できた(
図4B)。回収されたメタゲノム分別ゲノムの系統と存在比は、16S rRNA遺伝子解析と顕微鏡観察の結果を反映している(
図2B、3B、3C)。Treponema_G (DMT40.002) 属はBHET集積培養から回収したBHET_244_subと98.9%のANIを示し、これらのゲノムは近縁種または同じ菌株由来である可能性が示唆された。
【0104】
新規なDMT分解酵素を同定するために、既知のエステラーゼDmtHに対してblastpに基づいた相同性検索を行った[非特許文献9]。その結果、Treponema_Gに属するメタゲノム分別ゲノムDMT40.002は31.6% (DMT40.002_02674, 8.5e-39) および26.6% (DMT40.002_00288, 5.7e-12) の相同性を有するエステラーゼを持っていた。また、これらの遺伝子は、その活性部位(Ser、Glu、His)とGxSxGモチーフを保存していた。さらに、これら同定された遺伝子の系統解析の結果、エステラーゼDMT40.002_02674は、DMT分解酵素として知られているDmtHと単系統群を形成していることがわかった(
図5B)。そこで、DmtHに最も近縁なDMT40.002_02674とDMT40.002_0288の基質との相互作用を評価するために、分子モデリングとドッキングシミュレーションを実施した。DmtHは触媒的な三叉構造を持ち、DMTを分解することが報告されている[非特許文献9]。モデリングとシミュレーションの結果、DMT40.002_02674とDMT40.002_0288は、水素結合、π-πスタッキング相互作用、疎水性相互作用に支えられたDMTとMMTの結合ポケットを持つことがわかった(
図6B)。MMTのエステル結合により活性型Ser(DMT40.002_02674はSer-108、DMT40.002_0288はSer-58)付近に結合できることから、これらの酵素はMMTを分解することができることが示唆された。
【0105】
3-7:DMT分解酵素の配列特定
同定された2つの推定DMT分解酵素について、Prokka v1.14.6 [38]のデフォルトパラメータを用いてタンパク質コード領域を予測することによって、それぞれのアミノ酸配列を特定した。得られた結果は次の通りである:
DMT40.002_00288
MCKYTTFFINCKGFGLTSRPMPGAWKGESPYSPRSQTKILISLMDALGIDKAYLIGNSAGGTVAMNTALEYPERVLGLILVDAAIYSGGGAPPWVLPLLRSPQARHVGPLVARQIAVKGDDFIKTAYHDSSLVTQYVLDGYRIPLQTQNWDRALWEFTIASYPLHLEKRLKELTMPVLVITGDDDRIVPTKDSIRLAQEIPGAKLAIISNAGHLPHEEQPEAFMTAILDFIADK(配列番号7)
【0106】
DMT40.002_02674
MAEQNQGNPEIGKTVLAGGIKVNYHDYGKGDPVVLIHGSGPGVTAWANWRIVLPKLAPHRRAIAPDIVGFGYTERPEGFEFTMDTWGKHLVDFLDALNLEKIDLVGNSFGGALALWLAIHHPERIRKLILMGAVGTEFKITKGLDNVWGYQPSIEAMRTGINSFVYNKAIATEELVKMRYEASIRPGYQETFGRMFPAPRQKGVDMMASKYADIAAIQHDTLIIHGREDEIIPTETSTTLFQLIPNAQLHMFGKCGHWTQIEQNERFVAVVEAFLEGAF(配列番号9)
【0107】
さらに、同定された2つの推定DMT分解酵素をコードする塩基配列を、Prokka v1.14.6 [38]のデフォルトパラメータを用いてタンパク質コード領域を予測することによって特定した。得られた結果は次の通りである:
DMT40.002_00288
ATGTGTAAATATACTACTTTTTTTATTAATTGCAAGGGCTTTGGTCTTACAAGCCGCCCCATGCCGGGAGCATGGAAAGGCGAAAGCCCCTACAGCCCCAGGTCCCAAACGAAGATACTTATCAGTTTGATGGATGCCCTTGGGATTGATAAGGCCTATCTCATTGGTAATTCCGCTGGCGGTACGGTGGCCATGAACACAGCCCTGGAGTATCCAGAACGCGTTTTGGGCCTCATACTGGTTGATGCTGCTATTTATTCCGGTGGGGGTGCTCCTCCTTGGGTGCTTCCGCTGCTACGAAGTCCCCAGGCTCGTCATGTGGGCCCTTTAGTGGCCCGTCAGATCGCAGTAAAGGGGGATGATTTTATCAAAACCGCCTATCATGACAGTTCACTGGTTACTCAGTATGTTCTCGATGGATACCGAATACCCTTGCAGACCCAAAACTGGGACCGGGCCCTCTGGGAATTCACCATTGCAAGCTATCCCCTGCATCTGGAAAAGCGGCTTAAGGAACTTACCATGCCGGTCCTTGTTATTACCGGAGATGATGACCGCATCGTTCCCACCAAAGATAGTATCCGCCTCGCTCAGGAAATACCTGGAGCAAAACTTGCCATCATATCAAATGCAGGACACCTTCCCCATGAGGAACAACCGGAAGCATTTATGACCGCAATCCTGGATTTTATTGCTGATAAGTGA(配列番号8)
【0108】
DMT40.002_02674
ATGGCTGAACAGAATCAGGGCAATCCCGAGATTGGCAAGACCGTTTTGGCGGGCGGCATCAAGGTCAACTATCACGATTACGGAAAGGGCGATCCCGTCGTCCTTATTCACGGCTCGGGTCCCGGAGTGACTGCCTGGGCTAACTGGCGCATTGTACTCCCCAAACTGGCTCCCCACCGGAGGGCTATCGCACCGGATATAGTCGGCTTCGGCTACACCGAACGCCCGGAGGGCTTTGAATTCACCATGGATACCTGGGGGAAACATCTCGTCGATTTTCTCGACGCCCTCAATCTCGAAAAGATCGATCTGGTCGGGAATTCCTTTGGCGGCGCGCTCGCACTCTGGTTGGCCATACACCATCCAGAGCGGATCCGGAAGCTCATTCTCATGGGCGCGGTGGGGACGGAGTTCAAGATAACGAAGGGACTGGATAATGTGTGGGGATATCAACCTTCGATCGAGGCGATGCGTACGGGGATCAACAGCTTTGTCTACAATAAGGCGATAGCGACCGAAGAGCTTGTGAAGATGCGCTACGAGGCGAGCATCCGCCCCGGTTACCAGGAGACTTTCGGCAGGATGTTCCCGGCGCCCCGTCAGAAGGGCGTGGACATGATGGCCTCGAAGTATGCCGACATTGCCGCGATTCAGCACGATACGCTCATCATTCACGGACGGGAAGACGAGATCATCCCCACTGAAACGTCGACGACTCTGTTCCAGCTCATACCGAATGCCCAGCTTCACATGTTCGGCAAATGCGGGCACTGGACGCAGATTGAACAGAACGAGCGATTTGTCGCGGTCGTCGAAGCCTTCCTTGAAGGGGCATTTTGA(配列番号10)
【0109】
集積培養と
1H NMR解析の結果から、DMT分解後にMMT、TA、メタノールが生成し、最終的にメタノールはメタンガスに変換されることが明らかとなった(
図1、表3)。また、顕微鏡観察により、DMT結晶にスピロヘータ様細胞が付着していることが確認され(
図3B、3C)、Treponema_G(DMT40.002)がDMTやMMTを加水分解する可能性がさらに高まった。最も多く存在する微生物であるMethanomethylovorans(DMT6_6)は、メタノールからのメタン生成に必要なMtaABCとMcrを保有しており(表6)、Methanomethylovorans DMT6_6がメタノール利用型メタン生成アーキアであることが、以前に報告されたように示された[53]。細菌による嫌気性メタノール利用は、いくつかの酢酸菌(A. woodii、Butyribacterium methylotrphicum、Moorella thermoaceticaなど)で確認されており、最近ではA. woodiiをモデル生物としてメタノール代謝とそのmtaオペロンによる電子伝達が明らかにされている [54](A. woodii, 1999)。Treponema_G (DMT40.002) のゲノムについて、A. woodii との blastp に基づく比較解析を行い、mta オペロンの存在を評価したが、ホモログは見つからず、Treponema_G (DMT40.002) には既知のメタノール利用関連遺伝子が存在しないことが示唆された(
図8)。また、Treponema_G (DMT40.002)は酢酸生成のコア遺伝子が欠損していたため、酢酸生成菌である可能性は低い(表5)。顕微鏡観察では、スピロヘータ様細胞はMethanomethylovorans様球菌のフロックと頻繁に結合していた(
図3Eおよび3F)。Treponema_G(DMT40.002)はゲノム上にアミノ酸や糖の代謝に関わる遺伝子を持っているため、Methanomethylovoransからアミノ酸などの栄養を獲得して増殖していることが示唆された。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
実施例4
配列を特定した分解酵素の調製
4-1:Cluster.64_00965タンパク質(配列番号1)発現プラスミドの設計
大腸菌において異種に由来する外来遺伝子を発現するために、GeneScript社のGenSmartコドン最適化ツールを用い、Cluster.64_00965のアミノ酸配列(配列番号1)を変えずにコードする塩基配列をデザインした。その際、Cluster.64_00965タンパク質のN末端に、産生されたタンパク質を精製するためのヒスチジンタグ、および当該タグを切断し、目的タンパク質部分のみを得るためのエンテロキナーゼ認識ペプチド配列(DDDDK:配列番号11)およびタバコEtchウイルス (TEV) プロテアーゼ認識ペプチド配列(ENLYFQG:配列番号12)を付加するための塩基配列を、Cluster.64_00965タンパク質のアミノ酸配列の核酸配列(配列番号2)の5’末端に付加した(タグ付きCluster.64_00965タンパク質をコードする塩基配列:配列番号13)。デザインした塩基配列を人工遺伝子合成により合成した後、大腸菌発現用のプラスミドpET45bのBamHI/SalI部位にクローニングし、得られた環状プラスミドベクターをpET45_Cluster.64_00965とした (GeneScript社)。
【0114】
タグ付きCluster.64_00965タンパク質をコードする塩基配列:配列番号13
ATGGCACATCACCACCACCATCACGTGGGTACCGGTTCGAATGATGACGACGACAAGAGTCCGGATCCAGAAAATTTATATTTTCAAGGAATGCTAATAGCGACGAGCTGCGCAACCACCAGATCTGATACCAGCTCCGCCCCCGCCATGACGAGCTACGGCGCGTGGAATGGTAGCCTAACTGCGGCGACCAAGTTTGGCTTGGTTGCAGGTAAGACCGACCAGAAGAACACCTATGCATGGTTGGGTATTCCGTATGCGGCTCCGCCAGTTGGTGATTTACGTTGGACCGCGCCGCAGGATCCGGAGCCGTGGCAGGGTGTTCGTCCGGCGACGAAGTTCGGACCGAAAGCTGTGCAAGCGGCGGCTCTTCTGGGCTGGACCCAGGGCAGCGAAGACTCGTTGTACTTGAATATCTGGCGTCCGGCGACTGGTGAGTCCAACTTGCCCGTGTACGTATGGATTCACGGCGGTGGTAACAGCTCAGGCAGCGCCGACGCCAGTCCGTCGTACCAGGGCTTTAACTTGGCAGCGAACGCAAACGCGGTCTTCGTGAGCATCAACTACCGTTTGGGCCTGTTCGGTTGGTTTAATCATCCGGCGCTGAAAACCGGTACTGACCCAGAAACCGATTCTGGCAACTTTGGGACGATGGACATTATCAAGGCCCTGCGTTGGGTTAATGAAAACATTGCATCCTTTGGCGGTAACCCTGCGATGGTGACCGTGGGCGGTGAGTCCGCAGGTGCGTTCAACATCCTGACCCTGTTAATGGCTCCGAGCGCTCAAGGTCTGTTTCAACGTGCGGTGGTGGAATCCGGCTATCGCACCTCAACCACCCCGGCTCAAGCTGAGGCATTCGCCACGGACATTGCTAAAAAACTGCTGATTAAGGAGGGCAAAGCTGAGAATGACGCTGAGGCCGAAAAACTGCTGTCAAGCATGAGCAAGGCGGAGCTGGCGGGTTGGCTGCGTAGCATCAGCGCGAAAAAGCTTATGTCCGTTATTAAGGCGGGCAATTCTGGTATGCTGCCGTTCCCGTACCCAGTTTTCGACGGTCAGGTCCTGCCGGCTGAAGGTTTTGCGGCGCTGGCAGATAGCAGCAAAATCGCTGTGGTTCCGCTGATCATCGGCACCAATAAAGAGGAAACCAAGATCTTCCAGTGGCTGGGTGGACAAAAGAGCTCAGATCCGCTGTACCAGCCGCTGGCGGAGTTAACATCCGCGCGCTGGAAAGCAGACGGTGCCGACTCCATTGCTGACGCACTGGTGAGCGCGGTGCCAGATTATCCGGTTTACGTTTACCGTTTTGATTGGGGCGCGCCTGATTTGGCGGGCAAGAGCGTTATGCCGGGTAAGCTGGGCGCTATGTTTGGCGCCTTCCATTCTCTGGAAATCCCGTTCTTCCTGGGCTCCGACACGGTCCTGGGTAAGGCGGTCCCGATTAAATTCTTCACCAAAGAGAACGAAGCTGGCCGTACCGCGCTGCAGGCGCAAATGGGTCAGTATCTTGCCAACTTGATCCACACCGGCAACCCGAACCAAGCTGGTAGCCAAGTTCCGAATGCAAGCCGCAGCTCCCTCCCGGTGTGGGAACGTTGGAACGCCGCAGAGCAGAATCCGGCGTTTATGGTTTTCGATGCGTCTTTGGTGCAGAGCAAAACTCGCTTGGAGTATGGTCGTACCACGCGTGAAAGTGTACGCGCACGGCTGGAGACCGAATTTCAAGAACCGCTGAAATCTCGCCTGCTCGCGGCGTATAGCAAGGAGTAA
【0115】
タグ付きCluster.64_00965タンパク質:配列番号14
MAHHHHHHVGTGSNDDDDKSPDPENLYFQGMLIATSCATTRSDTSSAPAMTSYGAWNGSLTAATKFGLVAGKTDQKNTYAWLGIPYAAPPVGDLRWTAPQDPEPWQGVRPATKFGPKAVQAAALLGWTQGSEDSLYLNIWRPATGESNLPVYVWIHGGGNSSGSADASPSYQGFNLAANANAVFVSINYRLGLFGWFNHPALKTGTDPETDSGNFGTMDIIKALRWVNENIASFGGNPAMVTVGGESAGAFNILTLLMAPSAQGLFQRAVVESGYRTSTTPAQAEAFATDIAKKLLIKEGKAENDAEAEKLLSSMSKAELAGWLRSISAKKLMSVIKAGNSGMLPFPYPVFDGQVLPAEGFAALADSSKIAVVPLIIGTNKEETKIFQWLGGQKSSDPLYQPLAELTSARWKADGADSIADALVSAVPDYPVYVYRFDWGAPDLAGKSVMPGKLGAMFGAFHSLEIPFFLGSDTVLGKAVPIKFFTKENEAGRTALQAQMGQYLANLIHTGNPNQAGSQVPNASRSSLPVWERWNAAEQNPAFMVFDASLVQSKTRLEYGRTTRESVRARLETEFQEPLKSRLLAAYSKE
【0116】
4-2:DMT40.002_02674タンパク質(配列番号9)発現プラスミドの設計
上記4-1項のCluster.64_00965と同様に、DMT40.002_02674のアミノ酸配列(配列番号9)を変えずにコードする塩基配列をデザインした。その際、DMT40.002_02674タンパク質のN末端に、産生されたタンパク質を精製するためのヒスチジンタグ、および当該タグを切断し、目的タンパク質部分のみを得るためのタバコEtchウイルス (TEV) プロテアーゼ認識ペプチド配列(GENLYFQG:配列番号15)を付加するための塩基配列を核酸配列の5’末端に付加した(タグ付きDMT40.002_02674タンパク質をコードする塩基配列:配列番号16)。デザインした核酸配列を人工遺伝子合成により合成した後、大腸菌発現用のプラスミドpET11aのNheI/BamHI部位にクローニングし、これをpET11a_ DMT40.002_02674とした (GeneScript社)。
【0117】
タグ付きDMT40.002_02674タンパク質をコードする塩基配列:配列番号16
ATGGCTAGCCACCATCACCACCACCACCATCATTCAAGTGGCGAAAACTTGTACTTCCAAGGTATGGCTGAGCAGAATCAGGGCAACCCGGAGATCGGCAAGACCGTTCTGGCGGGTGGTATCAAGGTGAACTATCATGACTATGGTAAGGGAGATCCGGTTGTCTTGATTCACGGCTCCGGTCCGGGGGTTACCGCGTGGGCAAATTGGCGTATCGTGTTACCGAAACTGGCTCCGCATCGTCGTGCAATCGCCCCAGATATTGTTGGCTTCGGCTACACCGAACGCCCGGAGGGTTTTGAATTCACGATGGACACGTGGGGTAAGCACCTGGTTGATTTTCTGGACGCTTTAAATCTTGAGAAGATTGACCTGGTAGGTAACTCTTTTGGCGGTGCGCTCGCGCTGTGGCTGGCGATCCACCATCCGGAGAGAATCCGCAAACTGATTTTGATGGGCGCGGTTGGTACTGAGTTTAAAATCACCAAAGGCCTGGACAACGTGTGGGGTTACCAGCCGAGCATCGAGGCTATGCGCACCGGTATCAACTCGTTCGTGTATAACAAGGCTATAGCGACCGAGGAACTGGTGAAAATGCGTTATGAAGCGAGCATTCGTCCTGGTTACCAAGAGACCTTTGGTCGCATGTTCCCGGCACCGCGTCAAAAAGGCGTCGACATGATGGCGAGCAAATACGCTGACATCGCGGCGATCCAACACGACACGTTGATTATTCACGGCCGTGAAGATGAAATTATTCCGACCGAAACGAGCACCACTCTGTTTCAGCTGATCCCAAATGCACAGCTGCACATGTTCGGTAAGTGCGGTCATTGGACGCAGATTGAGCAAAACGAACGTTTTGTGGCCGTGGTTGAAGCCTTCCTGGAGGGCGCGTTCTAA
【0118】
タグ付きDMT40.002_02674タンパク質:配列番号17
MASHHHHHHHHSSGENLYFQGMAEQNQGNPEIGKTVLAGGIKVNYHDYGKGDPVVLIHGSGPGVTAWANWRIVLPKLAPHRRAIAPDIVGFGYTERPEGFEFTMDTWGKHLVDFLDALNLEKIDLVGNSFGGALALWLAIHHPERIRKLILMGAVGTEFKITKGLDNVWGYQPSIEAMRTGINSFVYNKAIATEELVKMRYEASIRPGYQETFGRMFPAPRQKGVDMMASKYADIAAIQHDTLIIHGREDEIIPTETSTTLFQLIPNAQLHMFGKCGHWTQIEQNERFVAVVEAFLEGAF
【0119】
4-3:組換えタンパク質の精製
Cluster.64_00965組換えタンパク質およびDMT40.002_02674組換えタンパク質を得るため、大腸菌株BL21(DE3)に、4-3項にて作成したpET45_Cluster.64_00965およびpET11a_ DMT40.002_02674発現プラスミドを用いて、それぞれ形質転換した。得られた形質転換体を1 LのLB培地を用いて37℃で振盪培養した。DO600が0.4-0.6に達した時点でIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を終濃度1 mMになるように加え、37℃にてさらに3時間、振盪培養した。得られた菌体を遠心 (6,000×g, 10 分) により集菌した。以降の操作はすべて氷上、または4℃で行った。得られた菌体は50 mM Tris-HCl pH7.4を用いて洗浄し、細胞溶解緩衝液 (50 mM Tris-HCl pH7.4, 20 mM イミダゾール pH 7.4, 100 mM NaCl, 0.05% 2ME, プロテアーゼ阻害物質)中に懸濁した。懸濁液を超音波処理することで菌体を破砕し、遠心 (200,000×g, 10 分) により不溶成分を分離した。得られた上澄み液をHis60 Ni Superflow Resin (Takara社)と30分間混合することで組換えタンパク質を吸着させた。His60 Ni Superflow Resinを洗浄緩衝液 (50 mM Tris-HCl pH7.4, 40 mM イミダゾール pH7.4, 300 mM NaCl, 0.05% 2ME) で洗浄後、溶出緩衝液 (50 mM Tris-HCl pH7.4, 300 mM イミダゾール pH 7.4, 50 mM NaCl, 0.05% 2ME) を用いて組換えタンパク質を溶出させた。得られた溶出液は緩衝液の交換のために、透析緩衝液 (20 mM HEPES-KOH pH7.4, 100 mM KCl, 0.5 mM DTT) を用いて透析した。透析後、再度、遠心 (21,363×g, 5 分) し、上澄み液を精製組換えタンパク質溶液とした。
【0120】
実施例5
調製した分解酵素の分解活性の評価
実施例4にて調製した各組換えタンパク質の酵素活性評価のために、以下の実験を行った。
5-1:酵素反応
5 μM Cluster.64_00965精製組換えタンパク質および5 mM BHETを100 mMをリン酸緩衝液 (K2HPO4, KH2PO4) 中において、37℃で反応させた。試料の回収は、Cluster.64_00965精製組換えタンパク質を添加した条件では反応開始から20、40分後とした。回収した試料は直ちに85℃で15分間加熱し、酵素を失活させ、反応を停止した。室温へ戻してから遠心 (16,632×g, 10 分) を行い、上澄みを回収した。対照実験として、Cluster.64_0096精製組換えタンパク質を添加しない条件でも同様に操作を行った。ただし、Cluster.64_00965精製組換えタンパク質を添加しない条件では、試料の回収は反応開始から60分後とした。
また、5 μM DMT40.002_02674精製組換えタンパク質および5 mM DMTを100 mMリン酸緩衝液 (K2HPO4, KH2PO4) 中で、前記と同様に反応を行い、試料採取を行った。試料の回収は、DMT40.002_02674精製組換えタンパク質を添加した条件、DMT40.002_02674精製組換えタンパク質を添加しない条件共に24時間後とした。
【0121】
5-2:基質および分解産物の濃度測定
各試料中に含まれる基質BHETまたはDMTの濃度(単位mM)を、実施例2の1H NMRに記載のとおり、1H NMRスペクトルによって解析した。詳細には、次の通りである。
【0122】
Cluster.64_00965精製組換えタンパク質の酵素活性の評価
Cluster.64_00965精製組換えタンパク質とBHETを反応させた結果を表7-1および
図9Aに示す。
【表7-1】
【0123】
結果は、反応溶液中の基質BHETの濃度は減少し、BHETの分解速度は142 μM/分であった(
図9A)。反応40分後の、BHET濃度は、0.1 mM(以下)であるのに対し、対照実験では、60分経過後でも5.70 mMであった(表7-1)。このことから実施例4にて調製したCluster.64_00965精製組換えタンパク質がBHET分解活性能を有することが明らかになった。さらに、BHETの一次分解産物であるMHETの濃度が反応時間とともに増加することなく、テレフタル酸およびエチレングリコールの濃度が増加していることから、Cluster.64_00965精製組換えタンパク質はBHETをMHET分解し、さらに、MHETをテレフタル酸およびエチレングリコールに分解する活性を有することが明らかになった。すなわち、Cluster.64_00965精製組換えタンパク質は、BHET分解活性能およびMHET分解活性能の双方を有する酵素であることが示された。
【0124】
DMT40.002_02674精製組換えタンパク質の酵素活性の評価
DMT40.002_02674精製組換えタンパク質とDMTを反応させた結果を表7-2および
図9Bに示す。
【表7-2】
【0125】
結果は、反応24時間後の、DMT濃度は、0.10 mMであるのに対し、対照実験では、0.08 mMであった(表7-2)。使用した緩衝液におけるDMTの最大溶解度は19 mg/Lであるため、本評価法で測定されたDMT濃度に差は認められなかった。しかし、DMTの一次分解産物MMTの濃度は対照実験に対して増加していると同時に、テレフタル酸、メタノール濃度も増加していることから、DMT40.002_02674精製組換えタンパク質はDMTを分解し、さらにMMTをテレフタル酸およびメタノールに分解する活性を有することが明らかになった(
図9B)。すなわち、DMT40.002_02674精製組換えタンパク質は、DMT分解活性能およびMMT分解活性能の双方を有する酵素であることが示された。DMTの分解産物量 (MMTとテレフタル酸の合計) からDMTの分解量を見積もったところ24時間後のDMT分解量は0.17 mMとなり、反応速度は118 nM/分であった。
本発明では、嫌気性環境での分解挙動が不明であったBHETとDMTについて、その生分解性を明らかにし、その分解を担う微生物機能を特定した。本発明の成果は、嫌気性生物による廃プラスチック類の除去技術の開発やプラスチック類で汚染された自然環境の浄化につながる発見である。
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