(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153729
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】イチゴの栽培方法及びイチゴの栽培用の植物活力剤
(51)【国際特許分類】
A01G 22/05 20180101AFI20241022BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20241022BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20241022BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
A01G22/05 Z
A01G7/06 A
A01P21/00
A01N61/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024118007
(22)【出願日】2024-07-23
(62)【分割の表示】P 2020137851の分割
【原出願日】2020-08-18
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 信
(72)【発明者】
【氏名】内田 博
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一郎
(57)【要約】
【課題】イチゴの収穫物の収量及び品質を向上させる方法を提供する。
【解決手段】外生エリシター及び内生エリシターを含む植物活力剤を、幼苗に少なくとも1回与えることを含む、イチゴの栽培方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外生エリシター及び内生エリシターを含む植物活力剤を、幼苗に少なくとも1回与えることを含む、イチゴの栽培方法。
【請求項2】
前記植物活力剤を、発芽後2~15日の幼苗に少なくとも1回与えることを含む、請求項1に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項3】
前記植物活力剤を、さらに幼苗期後の植物体に少なくとも1回与えることを含む、請求項1又は2に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項4】
前記幼苗が、親株のランナーから発芽した子株である、請求項1~3のいずれか一項に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項5】
前記植物活力剤を、さらに前記親株に対して、生長したランナーから1番目の子株が発芽する前の期間に少なくとも1回与えることを含む、請求項4に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項6】
前記外生エリシターがキチンオリゴ糖であり、前記内生エリシターがセロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖から選択される少なくとも1種のオリゴ糖である、請求項1~5のいずれか一項に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項7】
前記植物活力剤中の前記内生エリシターに対する前記外生エリシターの質量比が、0.1~5である、請求項1~6のいずれか一項に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項8】
前記内生エリシターとしてキシロオリゴ糖を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項9】
前記内生エリシターとしてセロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖の両方を含む、請求項8に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項10】
前記植物活力剤中の前記キシロオリゴ糖に対する前記セロオリゴ糖の質量比が、0.2~5である、請求項9に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項11】
前記植物活力剤を、前記外生エリシター及び前記内生エリシターの合計含有量が0.1~500質量ppmとなる濃度で植物に与える、請求項1~10のいずれか一項に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項12】
前記植物活力剤を、葉面散布により植物に与える、請求項1~11のいずれか一項に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項13】
前記イチゴが一季なり性品種である、請求項1~12のいずれか一項に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項14】
イチゴの栽培において使用される、外生エリシター及び内生エリシターを含む植物活力剤であって、幼苗に少なくとも1回適用される、植物活力剤。
【請求項15】
発芽後2~15日の幼苗に少なくとも1回適用される、請求項14に記載の植物活力剤。
【請求項16】
さらに幼苗期後の植物体に少なくとも1回適用される、請求項14又は15に記載の植物活力剤。
【請求項17】
前記幼苗が、親株のランナーから発芽した子株である、請求項14~16のいずれか一項に記載の植物活力剤。
【請求項18】
さらに前記親株に対して、生長したランナーから1番目の子株が発芽する前の期間に少なくとも1回適用される、請求項17に記載の植物活力剤。
【請求項19】
前記外生エリシターがキチンオリゴ糖であり、前記内生エリシターがセロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖から選択される少なくとも1種のオリゴ糖である、請求項14~18のいずれか一項に記載の植物活力剤。
【請求項20】
前記植物活力剤中の前記内生エリシターに対する前記外生エリシターの質量比が、0.1~5である、請求項14~19のいずれか一項に記載の植物活力剤。
【請求項21】
前記内生エリシターとしてキシロオリゴ糖を含む、請求項14~20のいずれか一項に記載の植物活力剤。
【請求項22】
前記内生エリシターとしてセロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖の両方を含む、請求項21に記載の植物活力剤。
【請求項23】
前記植物活力剤中の前記キシロオリゴ糖に対する前記セロオリゴ糖の質量比が、0.2~5である、請求項22に記載の植物活力剤。
【請求項24】
前記外生エリシター及び前記内生エリシターの合計含有量が0.1~500質量ppmとなる濃度で植物に適用される、請求項14~23のいずれか一項に記載の植物活力剤。
【請求項25】
葉面散布により植物に適用される、請求項14~24のいずれか一項に記載の植物活力剤。
【請求項26】
前記イチゴが一季なり性品種である、請求項14~25のいずれか一項に記載の植物活力剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外生エリシター及び内生エリシターを用いたイチゴの栽培方法及びイチゴの栽培用の植物活力剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、日照時間、気温及び降雨量等の非生物的ストレス、ならびに病害虫等の生物的ストレスによって収穫量が減少する。例えば、イチゴの場合、豊富な日射量を好み、至適温度は17~25℃と比較的冷涼な気候が適し、高温下では生長障害、花芽分化の阻害などが生じやすくなる。また水はけが悪く過湿な条件下では根腐れや、着果不良、病害が発生しやすくなるなどの弊害が生じる。特に農業作物の収穫量を増加させるために、これまで、各種の肥料及び農薬が使用されてきた。肥料は、植物の生長に必要とされる栄養源であるがストレスを緩和する機能は有さない。農薬は、植物に寄生する病害虫を直接駆除し、生物的ストレスを排除するが、農薬を使用する場合には、安全性は十分確認されているとはいえ、過剰摂取による人体や環境への影響が懸念されるし、特に化学合成法によって製造される農薬等の薬剤は、いったん散布すると土壌中等に長期間残存する懸念もあり、出来れば他の方法により生物ストレスに対して耐性をつけることが望まれていた。このことから、近年これらに加えて、人体にも環境にも安全な物質としてバイオスティミュラントの利用が注目されている。
【0003】
「バイオスティミュラント」は、「生物刺激剤」や「植物活力剤」等とも称され、任意の物質群・微生物を含有し、植物体やその根系に施用された場合に、自然な状態の作物体内でも起こっている一連のプロセスを刺激することによって、養分吸収を向上させたり、施肥効率を高めたり、ストレス耐性を付与し、品質を向上させることができるものであって、病害虫に対して直接の作用は示さず、それゆえ、いかなる殺虫・殺菌剤にも分類されないものをいう。すなわち、自然界に存在する成分(微生物を含む)であって、植物ホルモンや栄養分ではないが、ごく少量でも植物の活力を刺激し、生育を促進する物質を指す。バイオスティミュラントを植物に施用することにより、植物の養分吸収と養分利用率を高め、生育が促進され、農作物の収量と品質が良くなるとされている。農業用バイオスティミュラントには、作物の生理学的プロセスを制御・強化するために、植物又は土壌に施用される化合物、物質及び他の製品等の多様な製剤が含まれる。バイオスティミュラントは、作物の活力、収量、品質及び収穫後の保存性を改善するために、栄養素とは異なる経路を通じて植物生理に作用する。
このように、バイオスティミュラントにより、従来の農薬や肥料による問題を生じることなく、植物が本来有する能力を刺激してその成長を促進することができる。
【0004】
このようなバイオスティミュラントに関連するものとして、これまでに、キチンオリゴ糖と抗菌活性を有するキトサン等とを組み合わせた植物活力剤(特許文献1)、食酢にオリゴ糖類及び植物抽出成分を配合した植物活力剤(特許文献2)、セルロースを含む植物成長促進剤(特許文献3)、ヘキソフラノース誘導体を含む植物生長調節剤(特許文献4)、低分子化したキチンやキトサンを用いて植物の耐病性を高める方法(特許文献5)、ならびにキチン及び/又はキトサン等を含む肥料(特許文献6)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-143013号公報
【特許文献2】特開2001-64112号公報
【特許文献3】特開2002-114610号公報
【特許文献4】特開2013-151438号公報
【特許文献5】特開2015-48436号公報
【特許文献6】特開2017-95352号公報
【特許文献7】国際公開第2017/104687号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、植物の栽培において、植物種によって植物活力剤の与え方を調節することで、その効果の発現を高めようとする検討はこれまで成されていなかった。特に、イチゴに適した植物活力剤の与え方は知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、イチゴの栽培において、植物活力剤の与え方について鋭意検討を重ねた。その結果、外生エリシター及び内生エリシターを含む植物活力剤を、イチゴの幼苗に与えることで、収量及び品質が顕著に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]~[26]を包含する。
[1]外生エリシター及び内生エリシターを含む植物活力剤を、幼苗に少なくとも1回与えることを含む、イチゴの栽培方法。
[2]前記植物活力剤を、発芽後2~15日の幼苗に少なくとも1回与えることを含む、[1]に記載のイチゴの栽培方法。
[3]前記植物活力剤を、さらに幼苗期後の植物体に少なくとも1回与えることを含む、[1]又は[2]に記載のイチゴの栽培方法。
[4]前記幼苗が、親株のランナーから発芽した子株である、[1]~[3]のいずれかに記載のイチゴの栽培方法。
[5]前記植物活力剤を、さらに前記親株に対して、生長したランナーから1番目の子株が発芽する前の期間に少なくとも1回与えることを含む、[4]に記載のイチゴの栽培方法。
[6]前記外生エリシターがキチンオリゴ糖であり、前記内生エリシターがセロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖から選択される少なくとも1種のオリゴ糖である、[1]~[5]のいずれかに記載のイチゴの栽培方法。
[7]前記植物活力剤中の前記内生エリシターに対する前記外生エリシターの質量比が、0.1~5である、[1]~[6]のいずれかに記載のイチゴの栽培方法。
[8]前記内生エリシターとしてキシロオリゴ糖を含む、[1]~[7]のいずれかに記載のイチゴの栽培方法。
[9]前記内生エリシターとしてセロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖の両方を含む、[8]に記載のイチゴの栽培方法。
[10]前記植物活力剤中の前記キシロオリゴ糖に対する前記セロオリゴ糖の質量比が、0.2~5である、[9]に記載のイチゴの栽培方法。
[11]前記植物活力剤を、前記外生エリシター及び前記内生エリシターの合計含有量が0.1~500質量ppmとなる濃度で植物に与える、[1]~[10]のいずれかに記載のイチゴの栽培方法。
[12]前記植物活力剤を、葉面散布により植物に与える、[1]~[11]のいずれかに記載のイチゴの栽培方法。
[13]前記イチゴが一季なり性品種である、[1]~[12]のいずれかに記載のイチゴの栽培方法。
[14]イチゴの栽培において使用される、外生エリシター及び内生エリシターを含む植物活力剤であって、幼苗に少なくとも1回適用される、植物活力剤。
[15]発芽後2~15日の幼苗に少なくとも1回適用される、[14]に記載の植物活力剤。
[16]さらに幼苗期後の植物体に少なくとも1回適用される、[14]又は[15]に記載の植物活力剤。
[17]前記幼苗が、親株のランナーから発芽した子株である、[14]~[16]のいずれかに記載の植物活力剤。
[18]さらに前記親株に対して、生長したランナーから1番目の子株が発芽する前の期間に少なくとも1回適用される、[17]に記載の植物活力剤。
[19]前記外生エリシターがキチンオリゴ糖であり、前記内生エリシターがセロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖から選択される少なくとも1種のオリゴ糖である、[14]~[18]のいずれかに記載の植物活力剤。
[20]前記植物活力剤中の前記内生エリシターに対する前記外生エリシターの質量比が、0.1~5である、[14]~[19]のいずれかに記載の植物活力剤。
[21]前記内生エリシターとしてキシロオリゴ糖を含む、[14]~[20]のいずれかに記載の植物活力剤。
[22]前記内生エリシターとしてセロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖の両方を含む、[21]に記載の植物活力剤。
[23]前記植物活力剤中の前記キシロオリゴ糖に対する前記セロオリゴ糖の質量比が、0.2~5である、[22]に記載の植物活力剤。
[24]前記外生エリシター及び前記内生エリシターの合計含有量が0.1~500質量ppmとなる濃度で植物に適用される、[14]~[23]のいずれかに記載の植物活力剤。
[25]葉面散布により植物に適用される、[14]~[24]のいずれかに記載の植物活力剤。
[26]前記イチゴが一季なり性品種である、[14]~[25]のいずれかに記載の植物活力剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のイチゴの栽培方法は、外生エリシター及び内生エリシターを含む植物活力剤を、イチゴの幼苗に与えることで、収穫物の収量及び品質を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明の代表的な例を示したものであり、それらに限定されるものではない。
【0011】
本実施形態のイチゴの栽培方法は、外生エリシター及び内生エリシターを含む植物活力剤を、イチゴの幼苗に与えることを含む。「植物活力剤」は、植物の生育に関わる温度、光、水、及び塩等の非生物的ストレスの緩和作用を有するものだけでなく、病害虫等の生物的ストレスの緩和作用を有するものも含む。
【0012】
エリシターは、高等植物の組織又は培養細胞に生体防御反応を誘導する物質の総称であり、植物の免疫機構において病害抵抗性を誘導する。植物は、葉面等に存在する受容体でエリシターを感知し、病原抵抗反応を発動する。これにより、各種の病原菌に対して、各種化合物が分泌される生体防御作用(免疫)が起こる。エリシターが植物に作用すると、ファイトアレキシンや感染特異的タンパク質の合成・蓄積、活性酸素生成、活性窒素生成、過敏感反応性細胞死、遺伝子発現変化などの防御反応が誘導され、これらの反応により植物は病原菌から身を守り耐病性を高めるものと考えられている。
ファイトアレキシンは、エリシターの作用によって植物体内で合成、蓄積される抗菌性化合物であり、植物種ごとに生産される抗菌性化合物は異なる。代表的なファイトアレキシンとして、フラボノイド、テルペノイド、脂肪酸誘導体などが挙げられる。活性酸素は病原微生物を殺す作用をもち、さらに、活性酸素及び活性窒素は単独で又は協調して様々な防御反応を発動するシグナルとして機能する。このようなエリシター効果による病害抵抗性は、幅広い病害に対して抵抗性を増強させることなどから農業利用に期待されている。
【0013】
[外生エリシター]
本明細書において、「外生エリシター」とは、植物以外の生物由来物質、例えば真菌、昆虫、甲殻類由来の成分のエリシターを意味し、エリシター効果を有する限り特に制限されないが、典型的には、キチン、キトサン、及びそれらのオリゴ糖、昆虫に由来する多様な生体分子等である。
本実施形態のイチゴの栽培方法に用いる植物活力剤は、外生エリシターとしてキチンオリゴ糖を含むことが好ましい。
【0014】
キチンオリゴ糖は、一部脱アセチル化したキトサンオリゴ糖を含み、N-アセチルグルコサミンが数個連なったオリゴ糖類であり、一般的には、甲殻類等由来のキチンを加水分解等することにより得られ、オリゴ-N-アセチルグルコサミンとも称される。
すなわち、キチンオリゴ糖はカニ、エビ等の甲殻類の殻等から常法によって調製されるキチンを、化学的又は酵素的に部分加水分解することにより得られる。キチンオリゴ糖としては、N-アセチルキトビオース、N-アセチルキトトリオース、N-アセチルキトテトラオース、N-アセチルキトペンタオース、N-アセチルキトヘキサオース、N-アセチルキトヘプタオース、N-アセチルキトオクタオース等から選ばれる一種又は複数の混合物が好ましく用いられる。これらの中では特にN-アセチルキトペンタオース、N-アセチルキトヘキサオース、N-アセチルキトヘプタオースがエリシター効果が高い。
【0015】
本実施形態において用いられるキチンオリゴ糖は、下記の化学構造を有するものが特に好ましい。
【化1】
なお、式中のアセチル基(-COCH
3)が一部脱落して、-NHCOCH
3が-NH
2になっているものも含まれる。
【0016】
[内生エリシター]
本明細書において、「内生エリシター」とは、植物由来物質のエリシターを意味し、エリシター効果を有する限り特に制限されないが、典型的には、植物から産出されるセルロース、キシラン及びそれらのオリゴ糖等である。
本実施形態のイチゴの栽培方法に用いる植物活力剤は、内生エリシターとしてセロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖から選択される少なくとも1種のオリゴ糖を含むことが好ましい。
【0017】
セロオリゴ糖は、複数のグルコースがβ-グリコシド結合により重合した少糖類であり、保湿性、べたつき抑制、清味付与、でんぷん老化低減、タンパク変性抑制などの機能性が近年見出され、医薬、化粧品、食品、飼料分野への利用が期待されている。特に、グルコースの重合度が3以上のセロオリゴ糖は、上記の機能性の増大、新たな機能性賦与という点でより大きな期待が寄せられている。現在工業的に利用されているセロオリゴ糖は、酵素反応によって製造されているが、主成分はグルコースと二量体のセロビオースであり、三量体のセロトリオース以上のオリゴマーはほとんど含有していない。しかしながら、近年、出願人らにより、炭素触媒を用いた植物性バイオマスの加水分解反応において、昇温速度、冷却速度、反応温度、反応時間を制御して水熱反応をさせることによりグルコースの重合度が3~6のオリゴマーを含有するセロオリゴ糖の製造方法が報告されている(特許文献7)。
【0018】
本実施形態において用いられるセロオリゴ糖は、下記の化学構造を有するものが特に好ましい。
【化2】
【0019】
キシロオリゴ糖は、キシロース数個がβ-グリコシド結合により重合した少糖類であり、一般的には、ヘミセルロースの主成分であるキシランの加水分解によって得られ、主に食品用途として販売されている。
【0020】
本実施形態において用いられるキシロオリゴ糖は、下記の化学構造を有するものが特に好ましい。
【化3】
【0021】
[植物活力剤]
本実施形態のイチゴの栽培方法に用いる植物活力剤中は、活性成分として少なくとも前記外生エリシターおよび前記内生エリシターを含む。植物活力剤中の、前記内生エリシターに対する前記外生エリシターの質量比(すなわち、外生エリシター含有量/内生エリシター含有量)は、好適には0.1~5であり、より好適には0.2~2であり、さらに好適には0.3~0.6である。
【0022】
植物活力剤は、より好適には内生エリシターとしてキシロオリゴ糖を含み、最適にはセロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖の両方を含む。植物活力剤中の前記キシロオリゴ糖に対する前記セロオリゴ糖の質量比(すなわち、セロオリゴ糖含有量/キシロオリゴ糖含有量)は、好適には0.2~5であり、より好適には0.3~3であり、さらに好適には0.4~1.2である。
【0023】
植物活力剤が、外生エリシターとしてキチンオリゴ糖を含み、内生エリシターとしてセロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖の両方を含む場合、キチンオリゴ糖とセロオリゴ糖とキシロオリゴ糖の合計含有量に対する各オリゴ糖の割合は、キチンオリゴ糖10~50質量%かつセロオリゴ糖10~50質量%かつキシロオリゴ糖10~60質量%であることが好ましい。各オリゴ糖の割合は、キチンオリゴ糖20~40質量%かつセロオリゴ糖20~40質量%かつキシロオリゴ糖20~55質量%であることがより好ましい。
【0024】
植物活力剤は、活性成分である外生エリシター及び内生エリシター以外の他の成分、例えば、防腐剤、展着剤、沈殿防止剤、増粘剤、賦形剤、溶剤をさらに含んでもよい。防腐剤としてはソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸エステル、安息香、デヒドロ酢酸ナトリウム、ヒノキチオール、フェノキシエタノール、ポリアミノプロピルビグアナイド、ポリリジン等が挙げられる。展着剤は界面活性剤を主成分とする粘稠な液体であり、植物活力剤の展着剤として使用できる限り特に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル等が挙げられる。沈殿防止剤としては、ポリりん酸又はポリりん酸の塩類、又はポリカルボン酸型高分子界面活性剤等が挙げられる。増粘剤としてはカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリルアミド、でん粉などの水溶性高分子、又は廃糖蜜、アルコール醗酵濃縮廃液、アミノ酸醗酵濃縮廃液等が挙げられる。賦形剤としては、乳糖やでんぷん等が挙げられる。溶剤は、活性成分を適切な濃度に希釈して液状とする目的や、植物への散布を容易にする目的で用いられる。溶剤としては、水が好ましい。
【0025】
本実施形態のイチゴの栽培方法に用いる植物活力剤は、粉状、顆粒状、液状等のいずれでもよいが、一般には散布しやすい液状であることが好ましい。液状の植物活力剤を用いる場合には、植物への散布時の植物活力剤中の活性成分濃度は、好適には0.1~500質量ppm、より好適には0.5~200質量ppm、さらに好適には1~100質量ppmである。なお、植物活力剤中の活性成分濃度とは、植物活力剤中の外生エリシター及び内生エリシターの合計含有量である。散布濃度が0.1質量ppm以上であると、植物活力剤としての効果が効率的に発現する。散布濃度が500質量ppm以下であると、植物の成長阻害を起こさずに病害抵抗を発現することができる。
【0026】
植物活力剤は、活性成分濃度があらかじめ上記濃度に調製された市販品を用いてもよいが、通常は、外生エリシター及び内生エリシターを高濃度で含有する植物活力剤原液を、水で希釈して用いる。植物活力剤原液を希釈(例えば1000倍に希釈)して用いる場合、植物活力剤原液中の外生エリシター及び内生エリシターの合計含有量は、好適には0.05~10質量%であり、より好適には0.1~8質量%であり、さらに好適には0.5~6質量%である。
【0027】
[イチゴ]
本実施形態の栽培方法により栽培するイチゴは、オランダイチゴ属に分類されるものが好適である。その種類は、特に制限されず、一季なり性品種、四季なり性品種のいずれも用いることができるが、なかでも一季なり性品種が好ましい。
【0028】
[栽培方法]
イチゴの栽培形態は特に制限されないが、露地栽培、ハウス栽培、水耕栽培などが挙げられる。イチゴの栽培においては、高品質果実や収量確保のために充実した苗づくりが重要となる。種子は圃場に直播きしてもよいが、充実した苗づくりを行うために、播種・育苗を分けて行うことが好ましく、苗は親株から伸びるランナーより採苗することがより好ましい。採苗した苗を苗床、育苗箱、または育苗ポットに植え付けて育苗し、生育した苗を本圃場へ定植して栽培することが好ましい。
【0029】
一例として、親株から伸びるランナーより採苗して栽培する場合、次のような方法が挙げられる。
日本国の関東地方近辺の場合、4月頃、肥料を施した親株用の圃場に親苗を植え付け、1週間程度は十分に潅水して活着を促進させる。また、新たに親苗を植え付けずに、前シーズンに収穫を終えた株をそのまま親株として栽培を行ってもよい。6~7月に親株からランナーが延び、延びたランナーからは順次発芽して子株(幼苗)が形成される。ランナーから発芽した子株を苗床、ポット、育苗箱等に誘引して固定し、発根、活着させる。活着した子株を8月頃に親株から切り離して採苗し、採苗した幼苗を約1か月間育苗する。幼苗は活着するまでは直射日光は避けて土壌水分をやや多めに保持し、活着後は根腐れを起こさないよう、次第に潅水を低減していくことが好ましい。育苗期間中は極度の高温や過湿を避け、10月頃に本圃場に定植する。定植した苗の管理として、活着するまでは土壌水分をやや多めに保持し、活着後は根腐れを起こさないよう、次第に潅水を低減していくことが好ましい。定植した株の充実を図るため、11月頃までの栄養生長の時期に発生するランナーやわき芽は摘み取ることが好ましい。12月~2月頃に冬季休眠期間に入り、冬季休眠が明けた後、気温の上昇とともに適宜潅水、追肥を行うと生殖生長が盛んになり、開花する。開花後、1カ月程度で収穫となる。
【0030】
本実施形態のイチゴの栽培方法は、前記植物活力剤を幼苗に与えることを含む。本明細書において「幼苗」とは、種子を圃場に直播きする場合は、発芽から3週間目までの苗のことをいい、播種・育苗を分けて行う場合は、発芽から定植までの苗のことをいう。また、親株のランナーから採苗する場合は、ランナーからの発芽~採苗~定植までの苗のことをいう。
【0031】
一実施態様では、充実した苗を得るために、植物活力剤は発芽後2~15日の幼苗に少なくとも1回使用することが好ましく、2~10日の幼苗に少なくとも1回使用することがより好ましく、3~7日の幼苗に少なくとも1回使用することがさらに好ましい。発芽後2~15日の期間における植物活力剤の使用回数は、1~2回であることが好ましく、1回であることがより好ましい。
【0032】
別の実施態様では、播種・育苗を分けて行う場合、または、親株のランナーから採苗する場合、発芽後16日~定植までの幼苗に少なくとも1回使用することが好ましい。発芽後16日~定植までの期間における植物活力剤の使用回数は育苗期間によるが、5日~30日に1回使用することが好ましく、10日~20日に1回使用することがより好ましい。
【0033】
また別の実施態様では、種子を圃場に直播きする場合に、発芽後16日~3週間までの幼苗に少なくとも1回使用することが好ましい。
【0034】
より充実した苗を得るために、植物活力剤を発芽後2~15日の幼苗に少なくとも1回使用し、かつ、その後の幼苗に、5日~30日に1回の頻度で少なくとも1回使用することがさらに好ましい。
【0035】
本実施形態のイチゴの栽培方法において、親株のランナーから採苗する場合、幼苗への使用に加えて、親株にも前記植物活力剤を使用することが好ましい。親株を定植する場合は、その1週間後から、生長したランナーから1番目の子株が発芽する前の期間に前記植物活力剤を使用することが好ましく、その後さらに、採苗のためにランナーを切断するまでの期間にも使用することがより好ましい。また、前シーズンに収穫した株をそのまま親株とする場合は、収穫後から、生長したランナーから1番目の子株が発芽する前の期間に前記植物活力剤を使用することが好ましく、その後さらに、採苗のためにランナーを切断するまでの期間にも使用することがより好ましい。使用する頻度は、5~30日に1回が好ましく、10~20日に1回がより好ましい。また、当該ランナーから1番目の子株が発芽した後、当該ランナーから2番目の子株が発芽した後、及び当該ランナーから3番目の子株が発芽した後に、前記植物活力剤を親株と子株の両方に対し、前述の使用頻度にて使用することがさらに好ましい。
【0036】
本実施形態のイチゴの栽培方法の別の実施態様としては、前記植物活力剤をさらに幼苗期後の植物体に与えることが好ましい。本明細書において「幼苗期後の植物体」とは、上記「幼苗」の期間を過ぎた後の植物体のことをいう。具体的には、種子を圃場に直播きする場合は、発芽から3週間経過以後の植物体をいい、播種・育苗を分けて行う場合は、定植後の植物体のことをいう。また、親株のランナーから採苗する場合は、ランナーから採苗した苗を定植した後の植物体のことをいう。
【0037】
一実施態様では、播種・育苗を分けて行う場合、または、親株のランナーから採苗する場合、定植は10月頃、本葉が5~8枚程度展開した苗で行うことが好ましい。日照確保のため密植を避けて浅植えとし、定植後には潅水して活着を促す。
植物活力剤は、定植1~2週間後の植物体に少なくとも1回使用することが好ましい。その後は、休眠期間に入る前まで、5~30日に1回の割合で使用することが好ましく、10~20日に1回の割合で使用することがより好ましい。休眠期間中は、前記植物活力剤を10~40日に1回の割合で使用することが好ましく、20~30日に1回の割合で使用することがより好ましい。さらに休眠期間明け~収穫期前の期間には、前記植物活力剤を5~40日に1回の割合で使用することが好ましく、10~30日に1回の割合で使用することがより好ましい。
【0038】
別の実施態様では、種子を圃場に直播きする場合、植物活力剤を発芽後3週間経過以後の植物体に少なくとも1回使用することが好ましい。発芽後3週間経過以後から休眠期間に入る前まで、5~30日に1回の割合で使用することが好ましく、10~20日に1回の割合で使用することがより好ましい。休眠期間中は、前記植物活力剤を10~40日に1回の割合で使用することが好ましく、20~30日に1回の割合で使用することがより好ましい。さらに休眠期間明け~収穫期前の期間には、前記植物活力剤を5~40日に1回の割合で使用することが好ましく、10~30日に1回の割合で使用することがより好ましい。
【0039】
(植物活力剤の適用)
植物活力剤のイチゴへ適用は、当業界に慣習的な方法により行うことができ、散布方法も特に限定されず、例えば、植物の葉、茎等に直接散布する方法、植物を栽培する培養基や土壌中に散布する方法、肥料等に配合して培養基や土壌中に散布する方法等のいずれであってもよい。なお、肥料中に配合する場合、肥料としては、窒素、燐酸、カリウムを含有する化学肥料、油カス、魚カス、骨粉、海藻粉末、アミノ酸、糖類、ビタミン類などの有機質肥料等、その種類は限定されない。散布方法としては、特に葉面散布により行われることが、エリシター活性を有効に発現させる上で好ましい。葉面散布は当業界に慣習的な手法、例えば動力噴霧器、肩掛け噴霧器、ブロードキャスター、スプレイヤー、有人又は無人ヘリコプター、煙霧器、ハンドスプレーなどにより行うことができる。
【0040】
植物活力剤の散布量は、葉面1cm2あたりへの活性成分の散布量が0.1ng~100ngとなる量であることが好ましく、葉面1cm2あたりへの活性成分の散布量が1ng~20ngとなる量であることがより好ましい。実際の圃場においては、葉面のみに選択的に散布すること、及び、散布したものをすべて葉面に付着させることは困難であるので、耕作面積100m2あたり0.01g~20gの活性成分を、植物活力剤中の濃度が1質量ppm~100質量ppmとなるように希釈して、植物体の上から均等に散布することが好ましい。より好ましくは、耕作面積100m2あたり0.1g~10gの活性成分を、植物活力剤中の濃度が10質量ppm~500質量ppmとなるように希釈することが好ましい。
【0041】
本実施形態のイチゴの栽培方法において、土壌管理は慣行農法により行うことが好ましい。
【0042】
(植物活力剤の効果)
本実施形態のイチゴの栽培方法は、外生エリシター及び内生エリシターを含む植物活力剤を、イチゴの幼苗に与えることを含む。また、外生エリシター及び内生エリシターを含む植物活力剤を、イチゴの幼苗期後の植物体に引き続き与えることが好ましい。このような構成の植物活力剤をこの時期に与えることにより効果が発揮される理由については、完全に解明されているわけではない。外生エリシター(例えば、キチンオリゴ糖由来)を与えることにより、植物体には植食者由来の病害抵抗性等が付与されるが、過度に作用すると生長阻害が生じると考えられる。一方、内生エリシター(例えば、セロオリゴ糖、キシロオリゴ糖由来)を与えることにより、植物体には自らの細胞ダメージや破砕成分(DAMPs:damage-associated molecular patterns)を認識させ、免疫力の獲得や細胞修復のために自ら生長を促進させることが期待できる。本実施形態のイチゴの栽培方法においては、特に初期の幼苗期に外生エリシター及び内生エリシターを含む植物活力剤を与えることにより、生長阻害を抑えながら病害抵抗性を付与された強靭な苗を育成できる、と考えられる。このようにして育苗された強い植物体に引き続き植物活力剤を使用することで、その後は外生エリシターの生長阻害作用を強く受けることなく内生エリシターの成長促進作用が活かされ、最終的には両者が相補的に作用した高い発育効果を実現できるものと思われる。したがって、イチゴを栽培するにあたり、幼苗に少なくとも1回、かつ幼苗期後の植物体に少なくとも1回、前記植物活力剤を与えることにより、植物体が強く生長し、収穫物の収量及び品質が向上するものと推定できる。
【0043】
以下の実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例0044】
[1.オリゴ糖の準備]
(1)キチンオリゴ糖
キチン粉末(和光純薬製、精製キチン)10gを、85%リン酸(和光純薬製、特級試薬)1.2gを含む水30mLに分散後に、減圧乾燥した粉末を、直径5mmのアルミナボール100gと共に容量250mLのアルミナポットに入れて、遊星ボールミル(フリッチュ社製、PULVERISETTE6)にセットして500rpmで連続6時間処理して反応物を取得した。なお、温度については室温で開始し、剪断発熱による温度上昇は成り行きに任せた。
続いて反応物を、水に懸濁し水酸化カルシウムで中和したスラリー液を、5Bろ紙を用いてヌッチェろ過器により濾過を行い、回収したろ液を、凍結乾燥してキチンオリゴ糖粉末を取得した。
【0045】
(2)セロオリゴ糖
コットンリンターパルプ(東工コーセン株式会社、セルロース含有率97%)271g(含水率1.8%、乾燥質量266g)を、フードブレンダー(型番:HBF500S、ハミルトンビーチ社製)を用いて85質量%リン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製特級試薬)38gと混合して、反応原料309g(含水率3.4%、リン酸含有率10.4%)を取得した。
続いて、反応原料309gを振動ミル(装置名:MB-1型、中央化工機株式会社製、ポットサイズ5L)にφ3/4インチカーボンスチールボール13kgと一緒に投入して全振幅8mm、振動数16.2Hz、ジャケット流通水温度75℃の条件で、24時間、乾式粉砕による加水分解反応を行った後、反応粉体を回収した。
この反応粉体10gとイオン交換水90gを200Lビーカーに入れて、マグネチックスターラーを用い25℃で1時間攪拌を行い、セルロース加水分解物の抽出液を得た。
続いて、抽出物に、40質量%水酸化カルシウム水溶液1.3gを加え、マグネチックスターラーを用い25℃で1時間攪拌を行って調製した中和液から、遠心分離装置により上清液を回収した後、凍結乾燥してセロオリゴ糖粉末を取得した。
【0046】
(3)キシロオリゴ糖
アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium Cellulolyti
cus)TN株(FERM P-18508)を、液体培地(アビセル50g/L、KH2O4 24g/L、硫酸アンモニウム5g/L、酒石酸カリウム1/2H2O 4.7g/L、尿素4g/L、Tween80 1g/L、MgSO4・7H2O 1.2g/L、ZnSO4・7H2O 10mg/L、MnSO4・5H2O 10mg/L、CuSO4・5H2O 10mg/L)100mLを入れた500mLフラスコで30℃、6日間振とう培養した。得られた培養液の遠心分離上清50mLに、コーンコブ粉末5gを懸濁し、50℃、72Hrで撹拌反応した。得られた反応液の遠心分離上清を、凍結乾燥してキシロオリゴ糖原末を取得した。
【0047】
[2.イチゴの栽培]
(1)植物活力剤の調製
[1.オリゴ糖の準備]で用意した各オリゴ糖を、表1中の実施例1~12及び比較例1~5に示した植物活力剤中の活性成分濃度(質量ppm)の1000倍になるよう、それぞれの組成比率でスターラー撹拌して水に溶解後、0.45μmフィルターで除菌したものを植物活力剤原液とした。この原液を水で1000倍に希釈して、以下の栽培試験に使用した。以下、原液を1000倍希釈した後の植物活力剤を「植物活力剤希釈液」という場合がある。なお、表中の各オリゴ糖の組成比率は、質量%を表す。
【0048】
(2)栽培試験1(実施例1~12、比較例1~5)
(親株栽培~幼苗栽培)
定植2週間前に施肥を行った圃場に、畝幅200cm、株間80cmで親株(一季なり性品種:章姫)を定植し、十分潅水した。親株は4株/区ずつ20区に分け、生長したランナーから発芽した苗を育苗用のポットに誘引し、ピンで押えて根付かせた。親株から生長したそれぞれのランナーの1~3番目の子株が活着して、本葉が2~4枚に展開した時点でランナーを切り離してそれぞれ独立の幼苗を28株/区(7株/親1株)ずつ採苗した。ポットに採苗した幼苗は十分に潅水して発根を促し、本葉が3~5枚となるよう摘葉しながら1.5ヵ月間栽培を行った。
(定植~収穫)
圃場栽培は、合計80m2のビニールハウス内の圃場を用いた。深耕した圃場に畝幅60cm、畝高10cmの畝を作り、株間30cmの2条植えとした。育苗したイチゴ苗の中から生長の良い幼苗を選び、20株/区ずつ、20区に定植した。定植後2週間は十分に潅水し、その後新葉が展開してからは、土壌面が乾いたら潅水する程度とした。定植~収穫までの栽培期間の土壌管理、植物体管理(摘葉、摘心、摘果等)は、慣行農法に従った。
(植物活力剤の使用)
親株、幼苗、及び幼苗期後の植物体に対して、表1に記載の条件で、植物活力剤希釈液を葉面及び土壌に湿る程度に散布した。
各条件の植物活力剤の活性成分濃度に調製した水溶液(植物活力剤希釈液)は毎回1.0kg/区準備し、ジョーロを用いた葉面散布と根本付近の土壌部への散布操作を行った。
赤く熟した果実を順次収穫し、20株(1区画)に対して、1株当たりの平均収穫量、及び平均糖度を測定し、各条件で比較した。なお、平均糖度は、各区20粒の平均糖度を、糖度計を用いて測定した。試験結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
[3.アブラナ科植物の栽培(参考例1~3)]
アブラナ科であるコマツナを用いた試験を行った。
堆肥を鋤き込んで耕した圃場に条間15~20cm程度を確保して畝立てを行い、1~1.5cm間隔でコマツナ(いなむら種)の種を条播きし、軽く覆土をして鎮圧した後、十分に潅水した。発芽したコマツナは適宜間引きを行い、表2に記載の条件で、植物活力剤希釈液を葉面及び土壌に湿る程度に散布した。草丈が20~25cmに達した時点で収穫を行い、20苗に対して1株当たりの収穫重量を比較した。試験結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
表1の結果から、イチゴの栽培において、幼苗に対して外生エリシターと内生エリシターの両方を含む植物活力剤を使用すると、収穫量が顕著に向上するとともに、糖度の高いイチゴが得られることが分かった。一方、表2の結果から、アブラナ科植物であるコマツナの栽培においては、収穫前の成長期に加えて幼苗に対して外生エリシターと内生エリシターの両方を含む植物活力剤を使用しても、1株当たりの重量に顕著な向上は確認できなかった。