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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153813
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】無機酸化物粒子
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/626 20060101AFI20241022BHJP
   C04B 35/111 20060101ALI20241022BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20241022BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241022BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241022BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241022BHJP
【FI】
C04B35/626
C04B35/111
B28B1/30
B33Y70/00
B33Y10/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024123491
(22)【出願日】2024-07-30
(62)【分割の表示】P 2024520648の分割
【原出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2022208468
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022208408
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100210697
【弁理士】
【氏名又は名称】日浅 里美
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】都築 宏
(72)【発明者】
【氏名】杉本 洋輝
(57)【要約】
【課題】積層造形用粉末として用いる場合に、均一な粉末層を形成し得る良好な敷設性と、バインダーの適用から焼結処理までの間に形状を維持できる形状安定性とを両立する適度な流動性、及び粉末材料間にバインダーが入り込むことができ、かつ、焼結時の低収縮率を実現する適度なかさ密度を有する無機酸化物粒子を提供する。
【解決手段】D50が5.5~9.0μmであり、12kPaの圧力下における空気の透過に対する圧力損失が1.75~2.81kPaである無機酸化物粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D50が5.5~9.0μmであり、
12kPaの圧力下における空気の透過に対する圧力損失が1.75~2.81kPaである無機酸化物粒子。
【請求項2】
(D10+D90)/D50が2.7以上である請求項1に記載の無機酸化物粒子。
【請求項3】
BET比表面積が0.10~10.00m/gである請求項1に記載の無機酸化物粒子。
【請求項4】
粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合が4.3~33.5体積%である請求項1~3のいずれか1項に記載の無機酸化物粒子。
【請求項5】
粒径2.0μm以上の粒子の体積割合が90.0体積%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の無機酸化物粒子。
【請求項6】
アルミナである請求項1~3のいずれか1項に記載の無機酸化物粒子。
【請求項7】
円形度が0.90以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の無機酸化物粒子。
【請求項8】
粉末積層造形法に用いる請求項1~3のいずれか1項に記載の無機酸化物粒子。
【請求項9】
98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.45~2.54g/cmである請求項6に記載の無機酸化物粒子。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載の無機酸化物粒子の焼結体。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項に記載の無機酸化物粒子に対してバインダーを含む液体を適用して、3次元積層造形体を形成することを含む、バインダージェット式積層造形体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか1項に記載の無機酸化物粒子に対してバインダーを含む液体を適用して、3次元積層造形体を形成すること、及び
前記3次元積層造形体に、焼結処理を行うこと
を含む、焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の内容は、無機酸化物粒子、その焼結体、及びバインダージェット式積層造形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アディティブマニュファクチャリング(AM:Additive Manufacturing)技術、3Dプリンティング技術などと称される加工方法が注目されている。これは、目的とする造形体を、その3次元形状のデータに基づいて断面形状を作製し、積層することにより得る技術である。アディティブマニュファクチャリング技術としては、造形ステージにおいて粉末材料にバインダーを噴射して選択的に造形するバインダージェット式(特許文献1)、光硬化性樹脂などをインクジェットノズルから噴射して選択的に造形するマテリアルジェット式、金属粉末などを敷き詰めたパウダーベッドにレーザー又は電子ビームを照射して、選択的に溶融させて造形するパウダーベッド溶融式、液状の光硬化性樹脂と無機粉末とを混合したスラリーに光を照射して造形する光造形法(特許文献2)等の加工方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-117069号公報
【特許文献2】特開2021-11050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バインダージェット法は、「3Dインクジェット粉末プリント」という用語でも知られている。この方法は、例えば粉末材料をローラーを用いて造形ステージに供給し、均一な粉末層を形成する工程と、インクジェットプリントヘッドによって、粉末層に液状バインダーを適用し、粉末層の一部を選択的に結合する工程とを有する。これらの工程を繰り返すことにより、目的とする3次元積層造形体を得ることができる。その後、3次元積層造形体は、必要に応じて焼結処理に付される。バインダージェット法では、得られる3次元積層造形体に空隙などの構成材料の分布が不均一である構造が生じる場合がある。これを抑制するために、積層造形用粉末は、造形ステージに円滑に供給でき、均一に敷き詰めることのできる良好な敷設性を有することが望ましい。加えて、積層造形用粉末を高密度で充填することにより、均一性の高い3次元積層造形体を得ることができると考えられる。良好な敷設性と高密度での充填を達成するためには、粉末材料の流動性を高めることが有用である。一方で、バインダー適用時には、粉末層が乱れないこと、及び粉末材料間にバインダーが入り込むことができることも求められる。さらに、焼結時の収縮率が低いことも望まれる。
【0005】
本開示は、積層造形用粉末として用いる場合に、均一な粉末層を形成し得る良好な敷設性と、バインダーの適用から焼結処理までの間に形状を維持できる形状安定性とを両立する適度な流動性、及び粉末材料間にバインダーが入り込むことができ、かつ、焼結時の低収縮率を実現する適度なかさ密度を有する無機酸化物粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の内容は以下の事項に関する。
[1]
D50が5.5~9.0μmであり、
12kPaの圧力下における空気の透過に対する圧力損失が1.75~2.81kPaである無機酸化物粒子。
[2]
(D10+D90)/D50が2.7以上である[1]に記載の無機酸化物粒子。
[3]
BET比表面積が0.10~10.00m/gである[1]又は[2]に記載の無機酸化物粒子。
[4]
粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合が4.3~33.5体積%である[1]~[3]のいずれかに記載の無機酸化物粒子。
[5]
粒径2.0μm以上の粒子の体積割合が90.0体積%以上である[1]~[4]のいずれかに記載の無機酸化物粒子。
[6]
アルミナである[1]~[5]のいずれかに記載の無機酸化物粒子。
[7]
円形度が0.90以上である[1]~[6]のいずれかに記載の無機酸化物粒子。
[8]
粉末積層造形法に用いる[1]~[7]のいずれかに記載の無機酸化物粒子。
[9]
98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.45~2.54g/cmである[6]に記載の無機酸化物粒子。
[10]
[1]~[9]のいずれかに記載の無機酸化物粒子の焼結体。
[11]
[1]~[9]のいずれかに記載の無機酸化物粒子に対してバインダーを含む液体を適用して、3次元積層造形体を形成することを含む、バインダージェット式積層造形体の製造方法。
[12]
[1]~[9]のいずれかに記載の無機酸化物粒子に対してバインダーを含む液体を適用して、3次元積層造形体を形成すること、及び
前記3次元積層造形体に、焼結処理を行うこと
を含む、焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、積層造形用粉末として用いる場合に、均一な粉末層を形成し得る良好な敷設性と、バインダーの適用から焼結処理までの間に形状を維持できる形状安定性とを両立する適度な流動性、及び粉末材料間にバインダーが入り込むことができ、かつ、焼結時の低収縮率を実現する適度なかさ密度を有する無機酸化物粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明の代表的な例を示したものであり、それらに限定されるものではない。
【0009】
本明細書では、数値範囲について「~」を使用する場合には、両端の数値は、それぞれ上限値及び下限値であり、数値範囲に含まれる。上限値又は下限値が複数記載されている場合は、上限値と下限値の全ての組み合わせから数値範囲を作ることができる。同様に、複数の数値範囲が記載されている場合は、それらの数値範囲から上限値と下限値を個別に選択して組み合わせることで、別個の数値範囲を作ることができる。
【0010】
本明細書においてD10、D50、及びD90はそれぞれ、電気抵抗法式粒子径分布測定装置(ベックマン・コールター社、マルチサイザー4)を用いてアパチャーサイズを100μmとして測定した体積基準累積粒度分布における10%粒子径、50%粒子径、及び90%粒子径である。
【0011】
本明細書においてプレス成形かさ密度とは、内径30mmの円形の型枠内に試料を詰め、市販のプレス機にて所定の圧力下で加圧して成形した成形体の密度を意味する。プレス成形かさ密度は、ローラー等により粉末の薄層を形成した場合の粉末層のかさ密度の指標となる値である。
【0012】
本明細書において安息角は、JIS R 9301-2-2:1999(アルミナ粉末-第2部:物性測定方法-2:安息角)にて測定し、算出した値である。
【0013】
本明細書においてBET比表面積は、JIS R 1626:1996(ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)の「6.2 流動法 (3.5)一点法」に準拠して測定し、算出した値である。測定は、前処理としてサンプルを180℃に加熱し、20分間窒素ガスを流した後、吸着質として窒素ガスを用いて行う。
【0014】
本明細書において円形度は、画像式粒度分布測定装置により得られる粒子の投影図の面積をS、周囲長をLとしたときに、2000個以上の粒子について下記式(1)により算出される値の平均値である。
4πS/L (1)
【0015】
本明細書において所定の圧力下における空気の透過に対する圧力損失は、パウダーレオメータFT4(Freeman Technology社)を用いて測定される、常温(23℃)の空気を粉体層に線速度2mm/秒で通気した際の圧力損失である。具体的には、カラム直径25mm、及びカラム長さ20mmのカラムにサンプルを投入し、メッシュ状のピストンを用いて粉体層を所定の圧力で加圧した状態で測定を行う。なお、測定前にはカラムに入れた粉体に対して下向きのコンディショニング操作を3回行う。サンプル量は、コンディショニング後の体積に基づき、10mLとする。
【0016】
<無機酸化物粒子>
無機酸化物粒子は、D50が5.5~9.0μmであり、12kPaの圧力下における空気の透過に対する圧力損失が1.75~2.81kPaである。上記範囲を満たすことで、粉末材料の流動性とかさ密度の良好なバランスを達成できる。
【0017】
無機酸化物粒子の円形度は、好ましくは0.90以上である。円形度が0.90以上であれば、粒子間の摩擦が少ないため、良好な流動性が得られる。円形度が0.90以上であれば、粒子の充填性が高くなるため、プレス成形かさ密度を高くすることができる。同様の観点から、無機酸化物粒子の円形度は好ましくは0.93以上であり、より好ましくは0.95以上である。無機酸化物粒子の円形度の上限は、特に制限されないが、例えば、1.00、又は0.99としてよい。
【0018】
12kPaの圧力下における空気の透過に対する無機酸化物粒子の圧力損失は1.75kPa以上であり、好ましくは2.00kPa以上であり、より好ましくは2.20kPa以上である。12kPaの圧力下における空気の透過に対する無機酸化物粒子の圧力損失は2.81kPa以下であり、好ましくは2.79kPa以下であり、より好ましくは2.77kPa以下である。1.75kPa以上であると、焼結時の低収縮率を実現できると考えられる。D50が大きすぎず、12kPaの圧力下における空気の透過に対する圧力損失が2.81kPa以下である無機酸化物粒子は、かさ密度が適度であり、バインダーが粉末材料間に入り込みやすい。
【0019】
無機酸化物粒子のD50は、5.5μm以上であり、好ましくは6.0μm以上であり、より好ましくは6.5μm以上である。無機酸化物粒子のD50は、9.0μm以下であり、好ましくは8.5μm以下であり、より好ましくは8.0μm以下である。無機酸化物粒子のD50が5.5μm以上であれば、粒子の充填性が高くなるため、プレス成形かさ密度を高くすることができる。無機酸化物粒子のD50が5.5μm以上であれば、無機酸化物粒子を積層造形用粉末として用いた場合、形成された粉末層の形状安定性が良好であり、かつ、焼結時の収縮率を低減することができる。無機酸化物粒子のD50が9.0μm以下であれば、粒子の充填性と流動性を粉末積層造形及びコーティング用途に適切な範囲とすることができる。
【0020】
無機酸化物粒子のD10は、好ましくは1.0~4.0μmであり、より好ましくは2.0~3.8μmであり、更に好ましくは3.0~3.6μmである。無機酸化物粒子のD10が1.0μm以上であれば、粒子の充填性が高くなるため、プレス成形かさ密度を高くすることができる。無機酸化物粒子のD10が1.0μm以上であれば、無機酸化物粒子を積層造形用粉末として用いた場合、焼結時の収縮率を低減することができる。無機酸化物粒子のD10が4.0μm以下であれば、粒子の充填性と流動性を粉末積層造形及びコーティング用途に適切な範囲とすることができる。
【0021】
無機酸化物粒子のD90は、好ましくは13.0~40.0μmであり、より好ましくは15.0~30.0μmであり、更に好ましくは21.0~25.0μmである。無機酸化物粒子のD90が13.0μm以上であれば、粒子の充填性が高くなるため、プレス成形かさ密度を高くすることができる。無機酸化物粒子のD90が13.0μm以上であれば、無機酸化物粒子を積層造形用粉末として用いた場合、形成された粉末層の形状安定性が良好である。無機酸化物粒子のD90が40.0μm以下であれば、粒子の充填性と流動性を粉末積層造形及びコーティング用途に適切な範囲とすることができる。無機酸化物粒子のD90が40.0μm以下であれば、無機酸化物粒子を積層造形用粉末として用いた場合、形成された粉末層の均一性がより良好である。
【0022】
無機酸化物粒子における粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合は、好ましくは4.3体積%以上であり、より好ましくは10.0体積%以上であり、更に好ましくは15.0体積%以上である。無機酸化物粒子における粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合は、好ましくは33.5体積%以下であり、より好ましくは21.0体積%以下であり、更に好ましくは20.0体積%以下である。粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合が上記範囲であれば、無機酸化物粒子を積層造形用粉末として用いた場合の適度な流動性が期待できる。無機酸化物粒子における粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合は、電気抵抗法式粒子径分布測定装置(ベックマン・コールター社、マルチサイザー4)を用いてアパチャーサイズを100μmとして測定し、決定される値である。
【0023】
無機酸化物粒子における粒径2.0μm以上の粒子の体積割合は、好ましくは90.0~100体積%であり、より好ましくは93.0~100体積%であり、更に好ましくは95.0~100体積%である。粒径2.0μm以上の粒子の体積割合が90.0体積%以上であれば、無機酸化物粒子を積層造形用粉末として用いた場合、焼結時の収縮率を低減することができる。無機酸化物粒子における粒径2.0μm以上の粒子の体積割合は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社、MT3300EXII)によって決定される値である。
【0024】
無機酸化物粒子のD50とD10との比(D50/D10)は、好ましくは2.0~2.3である。D50/D10が上記範囲であれば、無機酸化物粒子をバインダージェット法に用いた場合、均一な粉末層を形成し得る良好な敷設性と、バインダーの適用から焼結処理までの間に形状を維持できる形状安定性とを両立する適度な流動性が期待できる。
【0025】
無機酸化物粒子のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは4.0~8.0であり、より好ましくは5.0~7.5であり、更に好ましくは5.5~7.0である。D90/D10が8.0以下であれば、無機酸化物粒子の粒度分布が一定の範囲に収まっているため、積層造形用粉末として用いた場合に粗粒間に微粒が適度に配置され、流動性を適切にできる。D90/D10が4.0以上であれば、無機酸化物粒子を積層造形用粉末として用いた場合に粗粒間に微粒が適度に配置され、かさ密度を適切にできる。
【0026】
無機酸化物粒子のD90とD50との比(D90/D50)は、好ましくは2.3~3.6であり、より好ましくは2.5~3.5であり、更に好ましくは2.8~3.4である。D90/D50が3.6以下であれば、無機酸化物粒子の粒度分布が一定の範囲に収まっているため、積層造形用粉末として用いた場合に粗粒間に微粒が適度に配置され、流動性を適切にできる。D90/D50が2.3以上であれば、無機酸化物粒子を積層造形用粉末として用いた場合に粗粒間に微粒が適度に配置され、かさ密度を適切にできる。
【0027】
無機酸化物粒子は、D10、D50及びD90が、下記式(I)の関係を満たすことが好ましい。
(D10+D90)/D50≧2.7 (I)
【0028】
(D10+D90)/D50は、無機酸化物粒子の粒度分布の指標であり、値が大きいほど、粒度分布幅が広いことを意味する。(D10+D90)/D50の値が2.7以上、すなわち、無機酸化物粒子が式(I)の関係を満たす場合、該粒子は、粒度分布幅が適度に広い。この場合、粉末材料間にバインダーが入り込むことができる適度な充填状態となりやすい。(D10+D90)/D50の値は、より好ましくは2.9以上、さらに好ましくは3.0以上である。(D10+D90)/D50の値は、好ましくは6.0以下、より好ましくは4.0以下である。
【0029】
無機酸化物粒子の安息角は、好ましくは55~59°であり、より好ましくは56~58°である。安息角は、粉末の流動性を示す指標の1つである。無機酸化物粒子の安息角が55°以上であれば、無機酸化物粒子を積層造形用粉末として用いて形成された粉末層の形状安定性が良好である。無機酸化物粒子の安息角が59°以下であれば、無機酸化物粒子を粉末積層造形法に用いた場合、無機酸化物粒子を造形ステージに円滑に供給し、均一に敷き詰めることができる。
【0030】
無機酸化物粒子のBET比表面積は、好ましくは0.10m/g以上であり、より好ましくは0.20m/g以上であり、更に好ましくは0.30m/g以上である。無機酸化物粒子のBET比表面積は、好ましくは10.00m/g以下であり、より好ましくは5.00m/g以下であり、更に好ましくは2.00m/g以下であり、特に好ましくは0.50m/g以下である。無機酸化物粒子のBET比表面積は、好ましくは0.10~10.00m/gであり、より好ましくは0.10~5.00m/gであり、更に好ましくは0.20~2.00m/gであり、特に好ましくは0.30~0.50m/gである。BET比表面積が0.10m/g以上であれば、無機酸化物粒子を積層造形用粉末として用いて形成された粉末層の形状安定性が良好である。BET比表面積が10.00m/g以下であれば、無機酸化物粒子を粉末積層造形法に用いた場合、無機酸化物粒子を造形ステージに円滑に供給し、均一に敷き詰めることができる。
【0031】
無機酸化物粒子の形状は、特に限定されない。例えば、球状、楕円体、鱗片状、不定形等が挙げられる。中でも、適切なかさ密度が得られやすいため、球状が好ましい。
【0032】
無機酸化物粒子は、好ましくはシリカ、アルミナ、ジルコニア、及びチタニアから選択される少なくとも一種であり、より好ましくはアルミナであり、より好ましくは球状アルミナである。アルミナは、熱伝導性、融点、及び硬度が高く、安価であり、酸及びアルカリに強い点で好ましい。無機酸化物粒子中のアルミナの体積割合は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは60体積%以上、更に好ましくは80体積%以上である。無機酸化物粒子中のアルミナの体積割合の上限は、特に限定されない。例えば、100体積%、98体積%、又は95体積%としてよい。
【0033】
無機酸化物粒子がアルミナである場合、無機酸化物粒子の98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度は、好ましくは2.45~2.54g/cmである。無機酸化物粒子の98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.45g/cm以上であれば、無機酸化物粒子を積層造形用粉末として用いた場合、焼結時の寸法安定性が良好である。無機酸化物粒子の98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.54g/cm以下であれば、無機酸化物粒子をバインダージェット法に用いた場合、バインダー適用時にバインダーが粉末材料間に入り込みやすく、造形体及び焼結体の強度を十分にできる。
【0034】
無機酸化物粒子は、粉末積層造形法に好適に用いられる。無機酸化物粒子を用いることで、空隙の少ない造形体を作ることができ、造形体焼結処理時の加熱収縮を低減する効果が期待できる。特に、無機酸化物粒子は良好な敷設性及び粉末層の形状安定性、並びに適切なかさ密度を有するため、敷き詰めた粉末材料に液状バインダーを噴射して固形化するバインダージェット法に好適に用いられる。無機酸化物粒子は、粉末材料を敷き詰めたパウダーベッドにレーザー又は電子ビームを照射して、選択的に溶融させて造形するパウダーベッド溶融法、及び他の粉末積層造形法にも適用することができる。
【0035】
無機酸化物粒子は適度な流動性と、液体が含侵しやすい適度なかさ密度を有するため、流動性と熱伝導性を付与するフィラー材料として使用することができる。具体的には、放熱材料中のフィラー、例えば、良好な塗工性が求められる放熱塗料、遮熱塗料及び耐摩耗性塗料等の塗料中のフィラー、接着性を有する熱伝導性樹脂組成物中のフィラー、並びに大気中で硬化する機能を有する熱伝導性コーティング材料中のフィラーとして使用することができる。
【0036】
<無機酸化物粒子の製造方法>
無機酸化物粒子は、例えば、無機酸化物粒子の粒度分布が所定の範囲となるように、異なる粒度分布を有する複数の無機酸化物粒子を混合することにより製造することができる。ふるい分け等により無機酸化物粒子の粒度分布を調整してもよい。無機酸化物粒子の粒度分布は、配合する無機酸化物粒子の種類及び配合量を選択することにより、適切な範囲に調整することができる。材料の混合方法は特に限定されず、例えば、材料を乾式混合又は湿式混合する方法が挙げられる。混合は、手動で行ってもよいし、ブレンダーを使用してもよい。
【0037】
より具体的な無機酸化物粒子の製造方法として、例えば、以下に示す粗粒無機酸化物粒子(A)と、D50が粗粒無機酸化物粒子(A)より小さい微粒無機酸化物粒子(B)とを混合する方法が挙げられる。粗粒無機酸化物粒子(A)と微粒無機酸化物粒子(B)は、異なる種類の無機酸化物粒子であってもよく、同じ種類の無機酸化物であってもよい。同じ種類の無機酸化物粒子であると、粒子を均一に混合分散しやすいため好ましい。
【0038】
[粗粒無機酸化物粒子(A)]
好ましく用いられる粗粒無機酸化物粒子(A)のD50は、9.0~25.0μmであり、より好ましくは12.0~20.0μmであり、更に好ましくは14.0~18.0μmである。粗粒無機酸化物粒子(A)のD10は、好ましくは1.0~8.0μmであり、より好ましくは2.0~7.5μmであり、更に好ましくは3.0~7.0μmである。粗粒無機酸化物粒子(A)のD90は、好ましくは28.0~40.0μmであり、より好ましくは28.5~38.0μmであり、更に好ましくは29.0~36.0μmである。
【0039】
粗粒無機酸化物粒子(A)のD50とD10との比(D50/D10)は、好ましくは1.5~3.5であり、より好ましくは1.7~3.2であり、更に好ましくは2.0~3.0である。粗粒無機酸化物粒子(A)のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは3.5~9.0であり、より好ましくは4.0~7.0であり、更に好ましくは4.5~6.0である。粗粒無機酸化物粒子(A)のD90とD50との比(D90/D50)は、好ましくは1.7~2.3であり、より好ましくは1.8~2.2であり、更に好ましくは1.9~2.0である。
【0040】
粗粒無機酸化物粒子(A)の形状は、特に限定されない。例えば、球状、楕円体、鱗片状、不定形等が挙げられる。中でも、適切なかさ密度が得られやすいため、球状が好ましい。
【0041】
粗粒無機酸化物粒子(A)は、好ましくはシリカ、アルミナ、ジルコニア、及びチタニアから選択される少なくとも一種であり、より好ましくはアルミナであり、更に好ましくは球状アルミナである。粗粒無機酸化物粒子(A)中のアルミナの体積割合は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは60体積%以上、更に好ましくは80体積%以上である。粗粒無機酸化物粒子(A)中のアルミナの体積割合の上限は、特に限定されない。例えば、100体積%、98体積%、又は95体積%としてよい。
【0042】
[微粒無機酸化物粒子(B)]
微粒無機酸化物粒子(B)のD50は、粗粒無機酸化物粒子(A)のD50より小さい。好ましく用いられる微粒無機酸化物粒子(B)のD50は、5.0~8.0μmであり、より好ましくは5.5~7.8μmであり、更に好ましくは6.0~7.5μmである。微粒無機酸化物粒子(B)のD10は、好ましくは1.0~4.0μmであり、より好ましくは2.0~3.8μmであり、更に好ましくは2.5~3.5μmである。微粒無機酸化物粒子(B)のD90は、好ましくは9.0~25.0μmであり、より好ましくは12.0~24.0μmであり、更に好ましくは14.0~23.0μmである。
【0043】
微粒無機酸化物粒子(B)のD50とD10との比(D50/D10)は、好ましくは1.5~5.0であり、より好ましくは1.7~4.0であり、更に好ましくは1.8~3.0である。微粒無機酸化物粒子(B)のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは3.5~9.0であり、より好ましくは4.5~8.0であり、更に好ましくは5.5~7.0である。微粒無機酸化物粒子(B)のD90とD50との比(D90/D50)は、好ましくは2.5~3.5であり、より好ましくは2.7~3.2であり、更に好ましくは2.9~3.1である。
【0044】
微粒無機酸化物粒子(B)の形状は、特に限定されない。例えば、球状、楕円体、鱗片状、不定形等が挙げられる。中でも、適切なかさ密度が得られやすいため、球状が好ましい。
【0045】
微粒無機酸化物粒子(B)は、好ましくはシリカ、アルミナ、ジルコニア、及びチタニアから選択される少なくとも一種であり、より好ましくはアルミナであり、更に好ましくは球状アルミナである。微粒無機酸化物粒子(B)中のアルミナの体積割合は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは60体積%以上、更に好ましくは80体積%以上である。微粒無機酸化物粒子(B)中のアルミナの体積割合の上限は、特に限定されない。例えば、100体積%、98体積%、又は95体積%としてよい。
【0046】
粗粒無機酸化物粒子(A)と微粒無機酸化物粒子(B)の混合前体積の合計体積に対する粗粒無機酸化物粒子(A)の体積割合は、無機酸化物粒子の粒度分布が適切な範囲となるように選択されるが、例えば9.5~29.0体積%としてよい。
【0047】
<3次元積層造形体の製造方法>
3次元積層造形体は、無機酸化物粒子を公知の粉末積層造形法により加工することで製造することができる。粉末積層造形法としては、例えば、バインダージェット法、及びパウダーベッド溶融法が挙げられる。無機酸化物粒子を積層造形用粉末として用いる粉末積層造形法は、一般的に、以下の工程を含む。
(1)粉末積層造形装置の造形ステージに無機酸化物粒子を供給する工程
(2)供給された無機酸化物粒子を、ローラー等により均一に薄く広げ、無機酸化物粒子の薄層を形成する工程
(3)形成された無機酸化物粒子の薄層に、レーザー若しくは電子ビームを照射し、又はバインダーを含む液体を適用して、無機酸化物粒子を結合する工程
(4)固化した無機酸化物粒子の上に、新たな無機酸化物粒子を供給する工程
以降、工程(2)~(4)を繰り返すことで、目的の3次元積層造形体を製造することができる。
【0048】
バインダーを含む液体を適用する方法としては、バインダーを含む液体を吐出する方法が好ましい。バインダーを含む液体を吐出する方法としては、特に制限はなく、例えば、ディスペンサ方式、スプレー方式、及びインクジェット方式が挙げられる。中でも、液滴の定量性が良好であり、大面積を塗布可能であることからインクジェット方式が好ましい。
【0049】
インクジェット方式を用いる場合、バインダーを含む液体は、液体を吐出するノズルを有するインクジェットヘッドにより適用することができる。インクジェットヘッドとしては、公知のインクジェットプリンターにおけるインクジェットヘッドを好適に使用することができ、例えば、産業用インクジェットRICOH MH/GHシリーズ(株式会社リコー)が挙げられる。
【0050】
バインダーとしては、特に制限されないが、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルブチラール、アクリル系樹脂、ポリアミド等の公知のバインダーを用いることができる。バインダーは、適当な溶媒により、粘度を調整して用いることができる。
【0051】
<焼結体の製造方法>
3次元積層造形体を公知の焼結方法によって焼結することにより、焼結体を製造することができる。焼結処理の前に、脱脂処理を行うことが好ましい。具体的な焼結体の製造方法を以下に例示する。
【0052】
3次元積層造形体を焼結炉に入れ、脱脂処理温度まで炉内の温度を昇温する。脱脂処理温度は、例えば、500~700℃の範囲で適宜設定することができる。その後、脱脂処理温度にて0.5~4時間炉内温度を保持して、有機成分を燃焼させる脱脂処理を行う。脱脂処理は空気雰囲気で行う。脱脂時間は、バインダーの種類、及び3次元積層造形体中の有機成分比率に応じて設定することができる。次に、焼結処理温度まで炉内の温度を昇温する。焼結処理温度は、例えば、900~1300℃の範囲で適宜設定することができる。その後、焼結処理温度にて1~7時間炉内温度を保持して、3次元積層造形体を焼結させる焼結処理を行うことで、焼結体が得られる。焼結温度及び焼結時間は、無機酸化物粒子の種類に応じて設定することができる。焼結処理は、不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、空気雰囲気下で行ってもよい。
【実施例0053】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
<使用材料>
粗粒無機酸化物粒子(A):球状アルミナ(アルナビーズ(商標)/CB、株式会社レゾナック):真密度 3.95g/m
粗粒無機酸化物粒子(B):球状アルミナ(アルナビーズ(商標)/CB、株式会社レゾナック):真密度 3.95g/m
【0055】
<評価方法>
(かさ密度)
かさ密度は、98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度から評価した。具体的には、内径30mmの円形の型枠内に試料を詰め、市販のプレス機にて98MPaの圧力下で成形体を作製した。得られた成形体の密度を、98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度として決定した。上記プレス成形かさ密度が2.45g/cm以上であると、無機酸化物粒子を用いて製造された3次元積層造形体の密度が高くなるため、焼結時の収縮率が低くなり、優れる。上記プレス成形かさ密度が2.54g/cm以下であると、バインダージェット法におけるバインダー適用時に、粉末材料間にバインダーが入り込むことができ、優れる。すなわち、プレス成形かさ密度が2.45~2.54g/cmの場合、かさ密度は良好であると評価した。
【0056】
(円形度)
面積Sと周囲長Lの測定は、FPIA-3000(マルバーンパナリティカル社)を使用して行った。前処理として、装置の測定範囲の関係上、試料約10gを直径200mmかつ目開き25μmの金篩の中に入れ、シャワー水で25μmより大きい粒子を取り除いた。篩下の試料をプラスチック容器に移し替え、測定試料とした。測定条件はLPF/HPF標準(20倍レンズ)、及び明視野とし、測定溶媒としてパーティクルシース(マルバーンパナリティカル社)を使用した。有効粒子数が2000個以上かつ有効粒子数/全粒子数が55~70%となるよう、50mLビーカーに試料を2g計り、純水を50mL入れ、200Wの超音波分散器にて3分間分散後、装置に投入し、測定した。測定後のデータ処理として、一画面上で複数粒あるものは削除し、円形度を算出した。
【0057】
(流動性)
流動性は、安息角から評価した。安息角が55°以上であれば、無機酸化物粒子をバインダージェット法に用いた場合、バインダーの適用から焼結処理までの間に形状を維持できる点で形状安定性に優れる。59°以下であれば、無機酸化物粒子をバインダージェット法に用いた場合、無機酸化物粒子を造形ステージに円滑に供給でき、均一に敷き詰めることのできる点で敷設性に優れる。すなわち、安息角が55~59°の場合、流動性は形状安定性及び敷設性のバランスの観点で良好であると評価した。
【0058】
(空気の透過に対する圧力損失)
空気の透過に対する圧力損失を12kPaの圧力下で測定した。
【0059】
[実施例1]
表1に記載の粒径及び粒径比を有する、粗粒無機酸化物粒子(A)と、微粒無機酸化物粒子(B)とを、粗粒無機酸化物粒子(A)と微粒無機酸化物粒子(B)の混合前体積の合計体積に対する粗粒無機酸化物粒子(A)の体積割合が11.1体積%となるような比率でロッキングミキサー(愛知電機株式会社 RMC-600(S)/LH)を用いて混合し、無機酸化物粒子を得た。表1には、下記式(2)により算出される粒径体積比率も記載する。
(粗粒無機酸化物粒子(A)の体積割合×粗粒無機酸化物粒子(A)のD50)/(微粒無機酸化物粒子(B)の体積割合×微粒無機酸化物粒子(B)のD50) (2)
得られた無機酸化物粒子の粒度分布、BET比表面積、円形度、流動性、空気の透過に対する圧力損失、及びプレス成形かさ密度を評価した。結果を表2に示す。
【0060】
[実施例2~4、比較例1~3]
粗粒無機酸化物粒子(A)及び微粒無機酸化物粒子(B)、並びに粗粒無機酸化物粒子(A)と微粒無機酸化物粒子(B)の混合前体積の合計体積に対する粗粒無機酸化物粒子(A)の体積割合を表1に記載のとおりとした以外は実施例1と同様に無機酸化物粒子を得た。表1には、上記式(2)により算出される粒径体積比率も記載する。得られた無機酸化物粒子の粒度分布、BET比表面積、円形度、流動性、空気の透過に対する圧力損失、及びプレス成形かさ密度を評価した。結果を表2に示す。なお、未評価のものは「‐」を記載する。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2-1】
【表2-2】
【0063】
実施例1~4及び比較例1~3から示されるとおり、D50が5.5~9.0μmであり、12kPaの圧力下における空気の透過に対する圧力損失が1.75~2.81kPaである無機酸化物粒子は、良好なかさ密度と流動性を有する。実施例1~4は、安息角が55~59°の範囲であり、バインダージェット法についての適度な流動性を有する。そのため、実施例1~4は、バインダージェット法に用いた場合、薄層を形成する際には均一な粉末層を形成でき、かつ、バインダー適用から焼結処理までの間には形状を維持できると考えられる。加えて、実施例1~4は、プレス成形かさ密度が2.45~2.54g/cmの範囲であり、バインダージェット法についての適度なプレス成形かさ密度を有する。そのため、実施例1~4は、バインダージェット法に用いた場合、バインダーが粉末材料間に入り込むことができ、かつ、焼結時の低収縮率を実現できると考えられる。
【0064】
比較例1は、プレス成形かさ密度が低い、これは、D50が小さいことから粒子間の付着性が高く、プレス時に空気を取り込みやすいためであると推測される。その結果、比較例1はバインダージェット法に用いた場合、焼結時の収縮率が大きいと予想される。比較例2は、D50が比較例1より大きいことから粒子間の付着性が比較例1より低く、プレス時の空気の取り込みが少ないと予想される。空気の取り込みが少ないことに加えて、比較例2は12kPaの圧力下における空気の透過に対する圧力損失が高いことから、高密度で充填されやすい材料である。このような材料は、プレス成形かさ密度が大きく、バインダーが粒子間に入り込みにくいため、バインダージェット法に用いた場合、所望の形状を得ることが困難であると予想される。比較例3はD50が大きく、粒子間の付着性が低い材料である。12kPaの圧力下における空気の透過に対する圧力損失が低いことからも、比較例3の粒子間の付着性が低いことが示唆される。このような材料は、流動性の指標である安息角が小さく、積層造形用粉末の薄層を形成する際に均一な粉末層を形成することが困難であると予想される。D50が大きく、12kPaの圧力下における空気の透過に対する圧力損失が低い材料は、プレスすることで粉体内の隙間が詰まりやすい材料であると推定される。このような材料は、プレス成型かさ密度が高く、バインダーが粒子間に入り込みにくいため、バインダージェット法に用いた場合、所望の形状を得ることが困難であると予想される。