(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153934
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】プロピオン酸前駆物質の大量生産に資する新規細菌
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20241022BHJP
A23K 50/10 20160101ALI20241022BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20241022BHJP
【FI】
C12N1/20 E ZNA
A23K50/10
A23K10/16
C12N1/20 E
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024134140
(22)【出願日】2024-08-09
(62)【分割の表示】P 2023530348の分割
【原出願日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2021101574
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究「畜産分野における気候変動緩和技術の開発」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、ムーンショット型農林水産研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願。
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】真貝 拓三
(57)【要約】
【課題】 反芻家畜の第一胃内におけるプロピオン酸産生増強やメタン産生低減を可能にする微生物を提供する。
【解決手段】 発酵産物中の有機酸におけるリンゴ酸と乳酸の占める割合が20%以上であるという性質を有することを特徴とするプレボテラ属の細菌。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号10に示す塩基配列に対して98.7%以上の相同性を有する塩基配列からなる16S rDNAを有することを特徴とする、反芻動物の消化管内に由来するプレボテラ属の細菌の使用方法であって、牛を対象とする飼料又は飼料添加剤としての使用方法。
【請求項2】
グルコースを含む培地で培養した場合において発酵産物中の有機酸におけるリンゴ酸と乳酸の占める割合が20%(mol/mol)以上であるという性質を有することを特徴とする請求項1に記載の反芻動物の消化管内に由来するプレボテラ属の細菌の使用方法であって、牛を対象とする飼料又は飼料添加剤としての使用方法。
【請求項3】
グルコースを含む培地で培養した場合において発酵産物中の有機酸におけるコハク酸、リンゴ酸、プロピオン酸、及び乳酸の占める割合が65%(mol/mol)以上であるという性質を有することを特徴とする請求項1に記載の反芻動物内の消化管に由来するプレボテラ属の細菌の使用方法であって、牛を対象とする飼料又は飼料添加剤としての使用方法。
【請求項4】
以下の1)~4)の性質を全て有することを特徴とする請求項1に記載のプレボテラ属の細菌の使用方法、
1)グラム染色が陰性の桿菌であり、胞子を形成しない、
2)カタラーゼテストは陰性で偏性嫌気性である、
3)D-グルコース、ラクトース、サッカロース、マルトース、サリシン、L-アラビノース、セロビオース、D-マンノース、又はD-ラフィノースを加えた場合に酸生成するが、D-マンニトール、グリセロール、D-メレチトース、D-ソルビトール、又はD-トレハロースを加えた場合には酸生成を行わない、
4)ゲノムDNAのGC含量は49.4%~49.9%である。
【請求項5】
受託番号NITE BP-03463で特定される菌株とのANI値が95%以上であることを特徴とする請求項1に記載の反芻動物の消化管内に由来するプレボテラ属の細菌の使用方法であって、牛を対象とする飼料又は飼料添加剤としての使用方法。
【請求項6】
受託番号NITE BP-03463で特定される菌株とのdDDH値が70%以上であることを特徴とする請求項1に記載の反芻動物の消化管内に由来するプレボテラ属の細菌の使用方法であって、牛を対象とする飼料又は飼料添加剤としての使用方法。
【請求項7】
配列番号1~11のいずれかの配列番号に示す塩基配列からなる16SrDNAを有することを特徴とする請求項1に記載の反芻動物の消化管内に由来するプレボテラ属の細菌の使用方法であって、牛を対象とする飼料又は飼料添加剤としての使用方法。
【請求項8】
受託番号NITE BP-03463で特定される菌株であることを特徴とする請求項1に記載の反芻動物の消化管内に由来するプレボテラ属の細菌の使用方法であって、牛を対象とする飼料又は飼料添加剤としての使用方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の反芻動物の消化管内に由来するプレボテラ属の細菌を含有することを特徴とする牛用の飼料添加剤。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の反芻動物の消化管内に由来するプレボテラ属の細菌を含有することを特徴とする牛用の飼料。
【請求項11】
配列番号10に示す塩基配列に対して98.7%以上の相同性を有する塩基配列からなる16S rDNAを有することを特徴とする、反芻動物の消化管内に由来するプレボテラ属の細菌であって、牛を対象とする飼料又は飼料添加剤としての使用のための細菌。
【請求項12】
以下の1)~4)の性質を全て有することを特徴とする請求項11に記載のプレボテラ属の細菌であって、牛を対象とする飼料又は飼料添加剤としての使用のための細菌
1)グラム染色が陰性の桿菌であり、胞子を形成しない、
2)カタラーゼテストは陰性で偏性嫌気性である、
3)D-グルコース、ラクトース、サッカロース、マルトース、サリシン、L-アラビノース、セロビオース、D-マンノース、又はD-ラフィノースを加えた場合に酸生成するが、D-マンニトール、グリセロール、D-メレチトース、D-ソルビトール、又はD-トレハロースを加えた場合には酸生成を行わない、
4)ゲノムDNAのGC含量は49.4%~49.9%である。
【請求項13】
受託番号NITE BP-03463で特定される菌株とのANI値が95%以上であることを特徴とする請求項11に記載の反芻動物の消化管内に由来するプレボテラ属の細菌であって、牛を対象とする飼料又は飼料添加剤としての使用のための細菌。
【請求項14】
受託番号NITE BP-03463で特定される菌株とのdDDH値が70%以上であることを特徴とする請求項11に記載の反芻動物の消化管内に由来するプレボテラ属の細菌であって、牛を対象とする飼料又は飼料添加剤としての使用のための細菌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレボテラ(Prevotella)属に属する新種細菌Prevotella lacticifex、並びにこれを用いた飼料添加剤及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
反芻家畜が摂取した牧草などの飼料成分は第一胃内に生息する微生物群によって分解、発酵され、酢酸やプロピオン酸などの有機酸に変換される。有機酸のうちプロピオン酸は反芻家畜体内でグルコースに変換され、反芻家畜の主要なエネルギー源になることから、家畜の飼料効率の改善の鍵となる発酵産物である。また、第一胃内でのプロピオン酸産生は、水素利用の観点からメタン(温室効果ガス)産生と競合関係にあることが知られており、反芻家畜から放出されるメタン削減技術としてのプロピオン酸産生増強への期待も大きい。
【0003】
プロピオン酸の増強技術としては、穀物飼料などの高エネルギー飼料の利用量増加やモネンシンなどの抗菌物質給与により行われてきた(非特許文献1)。また、メタンの削減技術としては、高エネルギー飼料への変更や生産性向上に伴う頭数の削減、3-ニトロオキシプロパノール(3-N0P)などの化学物質による低減方法も開発されてきているが(非特許文献2)、いずれの技術においてもルーメン微生物相の改変につながる生菌材については皆無である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Methanogens: methane producers of the rumen and mitigation strategies (2010) Sarah E Hook, Andre-Denis G Wright, Brian W McBride. Archaea. doi: 10.1155/2010/945785.
【非特許文献2】Effects of 3-nitrooxypropanol on rumen fermentation, lactational performance, and resumption of ovarian cyclicity in dairy cows (2020) Melgar A., M.T.Harper, J.Oh, F.Giallongo, M.E.Young, T.L.Ott, S.Duval, A.N.Hristov. Journal of Dairy Science 103(1):410-432. doi: 10.3168/jds.2019-17085.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
穀物飼料の給与は既に一般的な使用技術として定着しており、更なる増給はアシドーシスなどの生産病の発生につながるため、利用量の上積みは限定的である。抗菌物質利用については、薬剤耐性菌出現への懸念から世界的に使用が制限されてきている。反芻家畜のルーメン発酵や腸内微生物相を改善するための生菌剤として、バチルス属細菌を利用したカルスポリン(アサヒカルピスウェルネス社)、ボバクチン(ミリリサン製薬社)、ルミサン(日産合成工業社)などがもるが、いずれも生産性を高めるための微生物相のバランス改善を目的とした生菌剤であり、高プロピオン酸産生または低メタン産生という特定発酵への改変を目的としたものではないことから、プロピオン酸産生の増強やメタン産生の低減効果は期待できない。
【0006】
本発明は、このような背景の下でなされたものであり、反芻家畜の第一胃内におけるプロピオン酸産生増強やメタン産生低減を可能にする微生物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、プロピオン酸産生が多く、なおかつメタン産生が少ない牛から分離された細菌が、プロピオン酸の前駆物質を高い割合で産生し、また、前駆物質の中でもリンゴ酸及び乳酸を特に多く産生することを見出した。リンゴ酸や乳酸は水素を消費してプロピオン酸に代謝されるが、メタン生産菌も水素を消費してメタンを産生する。従って、リンゴ酸及び乳酸を大量に産生する上記細菌は、プロピオン酸産生量を増加させるだけでなく、水素の量を減少させることによって、メタン生産菌のメタン産生をも抑制すると考えられる。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔10〕を提供するものである。
〔1〕配列番号10に示す塩基配列に対して98.7%以上の相同性を有する塩基配列からなる16SrDNAを有することを特徴とするプレボテラ属の細菌。
【0009】
〔2〕発酵産物中の有機酸におけるリンゴ酸と乳酸の占める割合が20%以上であるという性質を有することを特徴とする〔1〕に記載のプレボテラ属の細菌。
【0010】
〔3〕発酵産物中の有機酸におけるコハク酸、リンゴ酸、プロピオン酸、及び乳酸の占める割合が65%以上であるという性質を有することを特徴とする〔1〕に記載のプレボテラ属の細菌。
【0011】
〔4〕以下の1)~6)の性質を有することを特徴とする〔1〕に記載のプレボテラ属の細菌、
1)グラム染色が陰性の桿菌であり、胞子を形成しない、
2)カタラーゼテストは陰性で偏性嫌気性である、
3)D-グルコース、ラクトース、サッカロース、マルトース、サリシン、L-アラビノース、セロビオース、D-マンノース、D-ラフィノースを加えた場合に酸生成するが、D-マンニトール、グリセロール、D-メレチトース、D-ソルビトール、D-トレハロースを加えた場合には酸生成を行わない、
4)主要なメナキノンはMK11である、
5)最も主要な菌体脂肪酸はanteiso-C15:0である、
6)ゲノムDNAのGC含量は49.4%~49.9%である。
【0012】
〔5〕受託番号NITE BP-03463で特定される菌株とのANI値が95%以上であることを特徴とする〔1〕に記載のプレボテラ属の細菌。
【0013】
〔6〕受託番号NITE BP-03463で特定される菌株とのdDDH値が70%以上であることを特徴とする〔1〕に記載のプレボテラ属の細菌。
【0014】
〔7〕配列番号1~11のいずれかの配列番号に示す塩基配列からなる16SrDNAを有することを特徴とする〔1〕に記載のプレボテラ属の細菌。
【0015】
〔8〕受託番号NITE BP-03463で特定される菌株であることを特徴とする〔1〕に記載のプレボテラ属の細菌。
【0016】
〔9〕〔1〕乃至〔8〕のいずれかに記載のプレボテラ属の細菌を含有することを特徴とする飼料添加剤。
【0017】
〔10〕〔1〕乃至〔8〕のいずれかに記載のプレボテラ属の細菌を含有することを特徴とする飼料。
【0018】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2021-101574の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、プレボテラ属に属する新種細菌Prevotella lacticifexを提供する。この新種細菌は、反芻家畜の第一胃内におけるプロピオン酸産生の増強及びメタン産生の低減のため、飼料添加剤や飼料に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】新規プレボテラ属細菌分離株の発酵産物の割合を示す図。左図はプロピオン酸及びその前駆物質(水素消費経路の発酵産物)の割合を示し、右図は酢酸などの水素生成経路の発酵産物の割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のプレボテラ属の細菌は、配列番号10に示す塩基配列に対して98.7%以上の相同性を有する塩基配列からなる16SrDNAを有することを特徴とするものである。
【0022】
配列番号10に示す塩基配列は、後述するプレボテラ属菌株R6014の16SrDNAの塩基配列である。R6014はプレボテラ属の新種であると考えられ、また、一般に16SrDNAの相同性が98.7%以上である菌株群は同種であると判断されることから、本発明のプレボテラ属の細菌は、プレボテラ属の新種を含むものである。この新種は、本願の優先権の基礎となる特願2021-101574の出願時(2021年6月18日)には名称がなかったが、その後、Prevotella lacticifexと命名された(Shinkai et al., Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 2022;72:005278)。
【0023】
同種であるかどうかは、16SrDNAの塩基配列のほか、DNA-DNAハイブリダイゼーションの相同値によっても判断され、一般にDNA-DNAハイブリダイゼーション試験の相同値が70%以上である菌株群は同種であると判断される。このことから、本発明のプレボテラ属の細菌は、プレボテラ属菌株R6014とのDNA-DNAハイブリダイゼーション試験の相同値が70%以上の細菌であってもよい。
【0024】
DNA-DNAハイブリダイゼーション(DDH)の相同値は実験的に求めるものであるが、熟練度によって値にばらつきが生じること、かつ実験精度が低いといったことから、近年はDNAシークエンスでドラフトゲノムを取得し、Average Nucleotide Identity(ANI)解析やデジタルDNA-DNAハイブリダイゼーション(dDDH)を代替手法として用いることが多くなっている。一般にANI値が95-96%以上である菌株群は同種であると判断され、また、dDDH値が70%以上である菌株群は同種であると判断される。このことから、本発明のプレボテラ属の細菌は、プレボテラ属菌株R6014とのANI値が95%以上、又はdDDH値が70%以上の細菌であってもよい。本発明者は、公知の文献(Rodriguez-R LM & Konstantinidis KT (2016). The enveomics collection: a toolbox for specialized analyses of microbial genomes and metagenomes. PeerJ Preprints 4:e1900v1.)に従ってANI解析を行っており、後述する新規分離株同士のANI値が98%以上であることを確認している。また、公知の文献(Meier-Kolthoff, J.P., Auch, A.F., Klenk, H.-P., Goker, M. Genome sequence-based species delimitation with confidence intervals and improved distance functions. BMC Bioinformatics 14:60, 2013.)に従ってdDDH解析も行っており、後述する新規分離株同士のdDDH値が89%以上であることを確認している。
【0025】
本発明のプレボテラ属の細菌は、発酵産物中の有機酸(プロピオン酸、コハク酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸、ギ酸、及び酪酸)におけるリンゴ酸と乳酸の占める割合が高いという性質を有する。具体的には、有機酸におけるリンゴ酸と乳酸の占める割合が、例えば、20%以上、25%以上、又は30%以上である。リンゴ酸と乳酸の占める割合が高いということは、プロピオン酸の前駆物質を供給し、プロピオン酸の産生を増強するだけでなく、水素の量を減少させることによって、メタン生産菌のメタン産生をも抑制するという好ましい効果をもたらす。
【0026】
また、本発明のプレボテラ属の細菌は、発酵産物中の有機酸におけるプロピオン酸及びその前駆物質(コハク酸、リンゴ酸、及び乳酸)の占める割合が高いという性質を有する。具体的には、有機酸におけるプロピオン酸及びその前駆物質の占める割合が、例えば、65%以上、70%以上、又は75%以上である。プロピオン酸及びその前駆物質の占める割合が高いということは、プロピオン酸の前駆物質を供給し、プロピオン酸の産生を増強するという好ましい効果をもたらす。
【0027】
更に本発明のプレボテラ属の細菌は、以下の1)~6)の性質を有する。
1)グラム染色が陰性の桿菌であり、胞子を形成しない、
2)カタラーゼテストは陰性で偏性嫌気性である、
3)D-グルコース、ラクトース、サッカロース、マルトース、サリシン、L-アラビノース、セロビオース、D-マンノース、D-ラフィノースを加えた場合に酸生成するが、D-マンニトール、グリセロール、D-メレチトース、D-ソルビトール、D-トレハロースを加えた場合には酸生成を行わない、
4)主要なメナキノンはMK11である、
5)最も主要な菌体脂肪酸はanteiso-C15:0である、
6)ゲノムDNAのGC含量は49.4%~49.9%である。なお、上記3)の酸生成試験の結果は、嫌気性菌生化学的同定キットであるAPI 20A(ビオメリュー社)を使用した場合の結果である。
【0028】
本発明者は、後述する新規分離株の遺伝子解析も行っており、これらの菌株がL-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子をゲノム上に保有することを確認している。このことから、L-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子をゲノム上に保有することも、本発明のプレボテラ属の細菌の特徴の一つである。
【0029】
本発明のプレボテラ属の細菌に含まれる菌株としては、本発明者によって分離されたR5003、R5019、R5025、R5027、R5052、R5064、R5067、R5076、R5107、R6014、及びR6025を挙げることができる。これらの中で、R6014は、下記の通り国際寄託されている。
【0030】
1)国際寄託機関の名称及び住所
名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター
住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8郵便番号292-0818
2)国内寄託日:2021年4月20日
3)国内受託番号:NITE P-03463
4)国際寄託への移管日:2022年5月6日
5)国際受託番号:NITE BP-03463
【0031】
菌株を16SrDNAの塩基配列によって特定することも可能であることから、配列番号1(R5003の16SrDNAの塩基配列)に示す塩基配列からなる16SrDNAを有する菌株、配列番号2(R5019の16SrDNAの塩基配列)に示す塩基配列からなる16SrDNAを有する菌株、配列番号3(R5025の16SrDNAの塩基配列)に示す塩基配列からなる16SrDNAを有する菌株、配列番号4(R5027の16SrDNAの塩基配列)に示す塩基配列からなる16SrDNAを有する菌株、配列番号5(R5052の16SrDNAの塩基配列)に示す塩基配列からなる16SrDNAを有する菌株、配列番号6(R5064の16SrDNAの塩基配列)に示す塩基配列からなる16SrDNAを有する菌株、配列番号7(R5067の16SrDNAの塩基配列)に示す塩基配列からなる16SrDNAを有する菌株、配列番号8(R5076の16SrDNAの塩基配列)に示す塩基配列からなる16SrDNAを有する菌株、配列番号9(R5107の16SrDNAの塩基配列)に示す塩基配列からなる16SrDNAを有する菌株、配列番号10(R6014の16SrDNAの塩基配列)に示す塩基配列からなる16SrDNAを有する菌株、配列番号11(R6025の16SrDNAの塩基配列)に示す塩基配列からなる16SrDNAを有する菌株を、本発明のプレボテラ属の細菌に含まれる菌株とすることもできる。
【0032】
本発明のプレボテラ属の細菌は、プロピオン酸の産生を増強し、メタン産生を抑制するという優れた効果を持つことから、この細菌を動物の消化管内に定着させるため、飼料添加剤や飼料として利用することができる。
【0033】
本発明の飼料添加剤は、公知の生菌剤と同様、本発明のプレボテラ属の細菌を凍結乾燥し、必要に応じて他の成分を添加して、調製することができる。また、凍結乾燥を行わず、本発明のプレボテラ属の細菌の培養液をそのまま飼料添加剤としてもよい。
【0034】
本発明の飼料は、一般的な飼料に本発明のプレボテラ属の細菌(凍結乾燥した細菌、細菌の培養液など)を添加することによって調製することができる。
【0035】
本発明の飼料添加剤や飼料はどのような動物に与えてもよいが、反芻家畜、例えば、乳牛、肉牛、羊、山羊などに与えることが好ましい。
【実施例0036】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
〔実施例1〕 菌株の分離と同定
低メタン産生牛に特徴的な新規Prevotella属細菌は、農研機構畜産研究部門が管理するホルスタイン種乳牛2頭を分離源とした。第一胃内容液採取用ゾンデ(ルミナー、三紳工業)を用いて、経口で第一胃内容液を採取し、三重にした滅菌ガーゼで濾過後、嫌気性希釈液(Bryant & Burkey, 1953)を用いて希釈した。希釈した細菌懸濁液を直ちに改良YTR寒天培地に接種し、ロールチューブを作製した。
【0038】
YTR寒天培地の調製方法はBryant & Burkey (1953) の方法に従った。改良YTR 寒天培地の組成は以下の通りである。1Lあたり: yeast extract, 1.2 g (Oxoid); Bacto peptone, 2 g (Difco); mineral solution I, 75 mL; mineral solution II, 75 mL; 培地用に調製した牛第一内溶液, 300 mL; グルコース, 1.5 g; セロビオース, 1.5 g; L-システイン塩酸塩, 3 g; 0.1% レサズリン溶液 1ml; 0.5 g /Lヘミン溶液, 10 mL; 8% NaHCO3 溶液, 50 mL; bacto agar 1.2 g (Difco); 蒸留水, 500 mL。ヘミン溶液は以下のように調製した。50 mg のヘミンを1 ml の1N NaOH 液中で溶解し、100 ml の蒸留水で希釈した。Mineral solutions I とII はBryant and Burkey (1953)に記載されている。
【0039】
ロールチューブを37℃、48-72時間培養後、生じたコロニーを釣菌し、新しい改良YTR 寒天培地に接種した。細菌増殖後、DNAを抽出し、Takara Ex Taq HS (Takara)、およびプライマーセット27f (5’-AGAGTTTGATCMTGGCTCAG-3’)(配列番号12) と1492r (5’-GGYTACCTTGTTACGACTT-3’) (配列番号13)を用いて16S rRNA遺伝子をPCR増幅した。PCR産物は電気泳動で特異的増幅を確認した後、精製し(ExoSAP-IT、 Applied Biosystems)、塩基配列を解読した(Eurofins Genomics Co.ltd.)。得られた塩基配列は、低メタン産生牛特異的Prevotella属として検出していたパイロシークエンスの塩基配列、および16S rRNA全長のクローンライブラリ解析により検出していたクローンの塩基配列と比較し、目的の細菌株であることを確認した。
【0040】
分離された新規Prevotella属菌株を、R5003、R5019、R5025、R5027、R5052、R5064、R5067、R5076、R5107、R6014、及びR6025と命名し、これらの菌株の16S rDNAの塩基配列を、それぞれ配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、及び11に示した。
【0041】
〔実施例2〕 菌株の培養と発酵産物解析
基準株(Prevotella ruminicola JCM8958, P. bryantii DSM11371, および Butyrivibrio fibrisolvens JCM6563) は菌株寄託機関から購入して入手した。基準株および分離した新規Prevotella 細菌株は改良YTRスラント寒天培地に接種し、37℃、嫌気条件下で経代培養した。
【0042】
増殖のモニタリング、および発酵産物の測定にはグルコース培地(DSMZ medium 104に示された改良PYG培地で、beef extract およびtween 80を除いた物)を用いた。菌株は、対数増殖期前期―中期(OD660 = 0.3-0.5)の細菌増殖培地0.2 mlを、5 mlの新しいグルコース培地に接種し経代培養し、前々培養、前培養、および本培養を増殖活性の高い状態を維持して行った。細菌増殖は、振とう恒温培養機(120 rpm, Bio-Shaker BR-40LF, TAITEC Co. Ltd.)内に設置した濁度測定計(OD-Monitor C&T, TAITEC Co. Ltd.)により10分毎に測定し、発酵産物は培養開始から44-48時間後の定常期の培地を回収して分析に供した。培養は3回繰り返した。培養液を精製し、HPLCによる有機酸分析システム(SHIMADZU Co. Ltd.)を用いて培養液中の有機酸を網羅的に定量した。
【0043】
各菌株培養液中の有機酸の割合を
図1に示す。新規Prevotella属細菌分離株の培養液中には、プロピオン酸及びその前駆物質(コハク酸、リンゴ酸、乳酸)の割合が高く、水素生成経路の発酵産物(酢酸、ギ酸、酪酸)の割合は低かった。また、新規Prevotella属分離株は、基準株と比較して、リンゴ酸及び乳酸の産生量が多かった。
【0044】
〔参考文献〕
Bryant MP & Burkey LA (1953) Cultural methods and some characteristics of some of the more numerous groups of bacteria in the bovine rumen. J Dairy Sci 36: 205-217.
【0045】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
本発明は、乳牛、肉牛、羊、山羊などの反芻家畜のルーメン発酵をプロピオン酸型発酵に改変する生菌剤として産業利用される可能性がある。将来的には、牛胃内発酵から生じるメタンの低減剤として利用できる可能性がある。