(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154452
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20241024BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20241024BHJP
C08L 57/02 20060101ALI20241024BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20241024BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L9/06
C08L57/02
C08L7/00
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068258
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】由里 貴史
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131BA04
3D131BA05
3D131BA12
3D131BA20
3D131BB02
3D131BB11
3D131BC02
3D131BC12
3D131BC18
3D131BC19
3D131BC33
3D131BC51
4J002AC012
4J002AC021
4J002AC032
4J002AC062
4J002AC081
4J002BA013
4J002BB182
4J002BK003
4J002FD010
4J002FD140
4J002FD200
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】 ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性のバランス、特に耐摩耗性、更にアイスグリップ性にも優れるゴム組成物を提供する。
【解決手段】 ジエン系ゴム100質量部に対して、脂肪族-芳香族-DCPD類共重合石油樹脂5質量部以上40質量部以下を含むゴム組成物であって、該ジエン系ゴムがスチレン-ブタジエン共重合体ゴム50質量%を越えて含むものであり、該脂肪族-芳香族-DCPD類共重合石油樹脂が(1)(i)脂肪族性水素比率が85%を越えて89%以下、(ii)DCPD類二重結合性水素比率が7%以上10%以下、(iii)芳香族性水素比率が1%以上8%以下、(2)Mwが2000以上3000以下、Mw/Mnが2.0以上3.0以下、(3)臭素価が45以上60以下、(4)軟化点が85℃以上115℃以下、(5)ガードナー色相が5以上10以下のいずれをも満足するものであるゴム組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対して、石油類のC5留分とジシクロペンタジエン類とC9留分との共重合樹脂である脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂5質量部以上40質量部以下を含むゴム組成物であって、該ジエン系ゴムがスチレン-ブタジエン共重合体ゴム50質量%を越えて含むものであり、該脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂が下記特性(1)~(5)のいずれをも満足するものであることを特徴とするゴム組成物。
(1)プロトンNMRにより測定した(i)0.2~4.0ppmに観測される脂肪族成分に由来する脂肪族性水素比率が85%を越えて89%以下、(ii)4.4~6.3ppmに観測されるジシクロペンタジエン類成分の二重結合に由来するジシクロペンタジエン類二重結合性水素比率が7%以上10%以下、(iii)6.3~7.6ppmに観測される芳香族成分に由来する芳香族性水素比率が1%以上8%以下である。
(2)標準ポリスチレンを標準物質とし、JIS K-0124(2011)に準拠し、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフにより測定した重量平均分子量が2000以上3000以下、重量平均分子量/数平均分子量が2.0以上3.0以下である。
(3)JIS K-2605(1996)に準拠し測定した臭素価が45g-Br2/100g以上60g-Br2/100g以下である。
(4)JIS K-2207(1996)(環球法)に準拠し測定した軟化点が85℃以上115℃以下である。
(5)50質量%トルエン溶液として、ASTM D-1544-63Tに準拠し測定したガードナー色相が5以上10以下である。
【請求項2】
スチレン-ブタジエン共重合体ゴムが、スチレン含有量が25質量%以下のスチレン-ブタジエン共重合体ゴムであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
ジエン系ゴムが、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムとイソプレンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種以上のゴムとの混合ジエン系ゴムであることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
タイヤを構成する加硫ゴム組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のゴム組成物によりトレッドを構成することを特徴とするタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性のバランス、更にアイスグリップ性にも優れ、特にタイヤ用として適した新規なゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の高性能化、高機能化に伴い、タイヤ性能への要求が高まっている。例えば、相反関係にあるウェットグリップ性、転がり抵抗性及び耐摩耗性を向上したタイヤが求められている。また、駆動用バッテリーを搭載した電気自動車やプラグインハイブリッド車等は、車両重量の増加に伴い、タイヤに掛かる負荷が増加するため、耐久性を向上したタイヤが求められており、転がり抵抗性を改善するためゴムにシリカを配合する技術や、シリカの分散性を高めるため末端にシリカと親和性の高い、又は化学結合し得る官能基を導入した末端変性ゴムを使用する技術が利用されている。
【0003】
タイヤの機械特性の向上や未加硫のゴム組成物に良好な粘着性を付与することを目的に、ゴムに脂肪族/芳香族共重合樹脂(例えば特許文献1参照。)、脂肪族/脂環族共重合樹脂(例えば特許文献2参照。)、を配合することが提案されている。
【0004】
また、乾燥路面、湿潤路面の両方で高い制動性能を有することを目的に、天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分に対して、C5系樹脂、C5/C9系樹脂、C9樹脂などの熱可塑性樹脂を配合すること(例えば特許文献3参照。)が提案され、脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂を含むゴム組成物(例えば特許文献4参照。)、新規なC5-ジシクロペンタジエン共重合樹脂、それを含むゴム組成物(例えば特許文献5参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5309529号
【特許文献2】特許第5375101号
【特許文献3】特許第6346325号
【特許文献4】特開2020-203962号公報
【特許文献5】特開2022-55449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~2に提案の方法においては、主な充填剤としてカーボンブラックの配合について提案されたものであり、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性、そのバランスについては検討がされていないものであり、特にタイヤ組成物の性能としては改良の余地を有するものであった。また、特許文献3に提案のゴム組成物は、脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂、C5-ジシクロペンタジエン共重合樹脂の検討は何らなされておらず、その効果についても何ら提案はされていないものであった。さらに、特許文献4、5における提案は、脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂、新規なC5-ジシクロペンタジエン共重合樹脂を含むゴム組成物を提供するものであり、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性のバランスに一応の効果は見られるものであったが、特に耐摩耗性の改善に余地を有するものであった。
【0007】
そこで、本願発明は、特定の脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂を含み、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性のバランスに優れ、特に耐摩耗性、更にはアイスグリップ性にも優れる新規なゴム組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するため、鋭意検討を行った結果、特定のジエン系ゴムに特定の脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂を含むゴム組成物が優れたゴム特性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、ジエン系ゴム100質量部に対して、石油類のC5留分とジシクロペンタジエン類とC9留分との共重合樹脂である脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂5質量部以上40質量部以下を含むゴム組成物であって、該ジエン系ゴムがスチレン-ブタジエン共重合体ゴム50質量%を越えて含むものであり、該脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂が下記特性(1)~(5)のいずれをも満足するものであることを特徴とするゴム組成物に関するものである。
(1)プロトンNMRにより測定した(i)0.2~4.0ppmに観測される脂肪族成分に由来する脂肪族性水素比率が85%を越えて89%以下、(ii)4.4~6.3ppmに観測されるジシクロペンタジエン類成分の二重結合に由来するジシクロペンタジエン類二重結合性水素比率が7%以上10%以下、(iii)6.3~7.6ppmに観測される芳香族成分に由来する芳香族性水素比率が1%以上8%以下である。
(2)標準ポリスチレンを標準物質とし、JIS K-0124(2011)に準拠し、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフにより測定した重量平均分子量が2000以上3000以下、重量平均分子量/数平均分子量が2.0以上3.0以下である。
(3)JIS K-2605(1996)に準拠し測定した臭素価が45g-Br2/100g以上60g-Br2/100g以下である。
(4)JIS K-2207(1996)(環球法)に準拠し測定した軟化点が85℃以上115℃以下である。
(5)50質量%トルエン溶液として、ASTM D-1544-63Tに準拠し測定したガードナー色相が5以上10以下である。
【0010】
以下に、本発明に関して詳細に説明する。
【0011】
本発明のゴム組成物は、50質量%を越えてスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対して、(1)プロトンNMRにより測定した(i)0.2~4.0ppmに観測される脂肪族成分に由来する脂肪族性水素比率が85%を越えて89%以下、(ii)4.4~6.3ppmに観測されるジシクロペンタジエン類成分の二重結合に由来するジシクロペンタジエン類二重結合性水素比率が7%以上10%以下、(iii)6.3~7.6ppmに観測される芳香族成分に由来する芳香族性水素比率が1%以上8%以下、(2)重量平均分子量(以下、Mwと記す場合がある。)が2000以上3000以下、重量平均分子量/数平均分子量(以下、Mw/Mnと記す場合がある。)が2.0以上3.0以下、(3)臭素価が45g-Br2/100g以上60g-Br2/100g以下、(4)軟化点が85℃以上115℃以下、(5)ガードナー色相が5以上10以下を満足する石油類のC5留分とジシクロペンタジエン類とC9留分との共重合樹脂である脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂5質量部以上40質量部以下を含むゴム組成物である。
【0012】
本発明のゴム組成物を構成するジエン系ゴムとしては、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム50質量%を越えて含むものであり、該スチレン-ブタジエン共重合体ゴムとしては、例えばスチレン-ブタジエンランダム共重合体ゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体ゴム、スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体ゴム及びその水添物等を挙げることができ、中でも特にウェットグリップ性、耐摩耗性、アイスグリップ性とのバランスに優れるゴム組成物となることから、スチレン含有量が25質量%以下のスチレン-ブタジエン共重合体ゴムであることが好ましい。ここで、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムが50質量%以下である場合、得られる組成物は、相溶性に劣り加工性、アイスグリップ性が劣るものとなる。
【0013】
該ジエン系ゴムとしては、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム以外の成分として、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、オレフィン系エラストマー(TPO)、ウレタン系エラストマー(TPU)、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、ポリアミド系エラストマー(TPA)、ポリブタジエン系エラストマー(RB)、ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレン/酢酸ビニルコポリマー(EVA)等を含むものであってもよく、中でも、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性、加工性、アイスグリップ性のバランスに優れるゴム組成物となることから、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、更には、天然ゴム、イソプレンゴムを配合するものであることが好ましい。
【0014】
該ジエン系ゴムの製造方法は特に制限されず、アニオン重合品であっても、乳化重合品であっても良い。その分子量やミクロ構造は特に制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0015】
本発明のゴム組成物を構成する脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、石油の分離・精製により得られる脂肪族留分であるC5留分、芳香族留分であるC9留分及びジシクロペンタジエン(以下、DCPDと記す場合もある。)類留分を共重合してなる石油樹脂であり、中でも、(1)プロトンNMRにより測定した(i)脂肪族性水素比率が85%を越えて89%以下、(ii)ジシクロペンタジエン類二重結合性水素比率が7%以上10%以下、(iii)芳香族性水素比率が1%以上8%以下、(2)Mwが2000以上3000以下、Mw/Mnが2.0以上3.0以下、(3)臭素価が45g-Br2/100g以上60g-Br2/100g以下、(4)軟化点が85℃以上115℃以下、(5)ガードナー色相が5以上10以下を満足する脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂である。そして、該脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、C5留分に由来する脂肪族成分、C9留分に由来する芳香族成分、ジシクロペンジエン類留分に由来するDCPD類成分を共重合成分として構成される石油樹脂である。
【0016】
該脂肪族成分を構成する成分としては、例えばブテン、ブタジエン、イソブテン等の炭素数4の脂肪族化合物;2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、イソプレン、ピペリレン等の炭素数5の鎖状脂肪族化合物;シクロペンタジエン等の炭素数5の環状脂肪族化合物;1-ヘキセン、2-ヘキセン、3-ヘキセン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-メチル-2-ペンテン、3-メチル-2-ペンテン、4-メチル-2-ペンテン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン等の炭素数6の鎖状脂肪族化合物;メチルシクロペンタジエン等の炭素数6の環状脂肪族化合物;1-へプテン、2-へプテン、3-へプテン、2-メチル-3-ヘキセン、4-メチル-2-ヘキセン、3,4-ジメチル-2-ペンテン等の炭素数7の鎖状脂肪族化合物;これらの混合物、さらにはC5留分と称される混合物に基づく成分を挙げることができ、特に入手が容易であり、粘着付与剤として優れた性能を有することから、炭素数4以上6以下の鎖状脂肪族化合物に基づく成分であることが好ましい。
【0017】
該芳香族成分を構成する成分としては、例えばスチレン等の炭素数8の芳香族化合物;α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン等の炭素数9の芳香族化合物;1-メチルインデン、2-メチルインデン、3-メチルインデン等の炭素数10の芳香族化合物;2,3-ジメチルインデン、2,5-ジメチルインデン等の炭素数11の芳香族化合物;これらの混合物、さらにはC9留分と称される混合物に基づく成分を挙げることができ、特に入手が容易であり、粘着付与剤として優れた性能を有することから、炭素数8以上10以下の芳香族化合物に基づく成分であることが好ましい。
【0018】
DCPD類成分を構成する成分としては、例えばジシクロペンタジエン等の炭素数10の環状脂肪族化合物;メチルジシクロペンタジエン等の炭素数11の環状脂肪族化合物;ジメチルジシクロペンタジエン等の炭素数12の環状脂肪族化合物;これらの混合物、さらにはジシクロペンタジエン類留分と称される混合物に基づく成分を挙げることができ、特に入手が容易であり、粘着付与剤として優れた性能を有することから、炭素数10以上12以下のジシクロペンタジエン化合物に基づく成分が挙げられる。
【0019】
該脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、(1)(i)脂肪族性水素比率が85%を越えて89%以下、(ii)DCPD類二重結合性水素比率が7%以上10%以下、(iii)芳香族性水素比率が1%以上8%以下を示す脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂であり、それぞれの水素化比率は、クロロホルム-dを溶媒として用いたプロトンNMRにより測定・観測したスペクトルの面積百分率により下記(ア)~(ウ)の条件により測定することができる。
【0020】
(ア)0.2~4.0ppmに観測される脂肪族成分に由来する水素の面積比率により求める。
【0021】
(イ)4.4~6.3ppmに観測されるDCPD類成分の二重結合に由来する水素の面積比率により求める。
【0022】
(ウ)6.3~7.6ppmに観測される芳香族成分に由来する水素の面積比率により求める。
【0023】
これら上記(i)~(iii)のいずれをも満足する脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、ジエン系ゴムとの相溶性に優れるものとなる。
【0024】
該脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、(2)標準ポリスチレンを標準物質とし、JIS K-0124(1994年)に準拠し、GPCにより測定したMw/Mnが2.0以上3.0以下のものである。ここで、Mw/Mnが2.0未満のものである場合、又は3.0を超えるものである場合、ゴム組成物とした際の混合性(相溶性)に劣るものとなり、タイヤとした際にはその性能に劣るものとなる。また、ゴム組成物とした際に加工性に優れるものとなることから、Mwが2000以上3000以下のものである。
【0025】
更に、該脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、(3)JIS K-2605(1996)に準拠し測定した臭素価が45g-Br2/100g以上60g-Br2/100g以下、(4)JIS K-2207(1996)(環球法)に準拠し測定した軟化点が85℃以上115℃以下、(5)50質量%トルエン溶液として、ASTM D-1544-63Tに準拠し測定したガードナー色相が5以上10以下、とのいずれの特性をも満足するものである。
【0026】
該脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂は、これら(1)~(5)のいずれの特性をも満足することにより、ジエン系ゴム、更にはスチレン-ブタジエン共重合体ゴム50質量%を越えて含むジエン系ゴムとの相溶性に優れるばかりか、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性、アイスグリップ性のバランスにも優れるゴム組成物を提供することを可能とするものである。
【0027】
該脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂の製造方法としては特に制限はなく、いかなる方法で製造しても差し支えなく、例えば、石油類の熱分解により得られる、沸点範囲が20℃以上110℃以下の留分(C5留分;脂肪族成分)、沸点範囲が140℃以上280℃以下の留分(C9留分;芳香族成分)、ジシクロペンタジエン類留分を含む混合物を原料油として用い、この混合物に触媒を加え、加熱し重合することにより製造できる。重合に用いる触媒としては、特に限定はなく、例えば三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、三フッ化ホウ素あるいはその錯体等が挙げられる。中でも触媒活性に優れることから、三フッ化ホウ素のメタノール,プロパノール,ブタノール,イソブタノール、イソペンタノール、フェノール等のアルコール,フェノール錯体が選択される。中でも、ブタノール錯体、イソブタノール錯体、イソペンタノール錯体がより好ましく、特に三フッ化ホウ素ブタノール錯体であることが好ましい。また、錯体はそのまま又は三フッ化ホウ素とアルコール類,フェノール類より使用直前にin-suitで調製したものであってもよい。重合時の溶媒は、C5留分およびC9留分中の飽和炭化水素を挙げることができる。また、原料油としては、特に軟化点、色相に優れる脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂が得られることから、脂肪族成分35質量%以上45質量%以下、芳香族成分5質量%以上15質量%以下及びDCPD類成分45質量%以上55質量%以下を混合配合してなる原料油であることが好ましい。
【0028】
製造を行う際の重合温度としては、特に制限はなく、重合活性が高く生産性に優れるものとなることから、20℃以上80℃以下が好ましく、特に30℃以上60℃以下であることが好ましい。また、触媒量及び重合時間は、温度や原料油中の水分濃度により適宜選択可能であり、通常、例えば、原料油に対して触媒0.1質量%以上2.0質量%以下、重合時間0.1時間以上10時間以下が好ましい。反応圧力も特に制限はなく、大気圧以上1MPa以下が好ましい。雰囲気も特に制限はなく、中でも窒素雰囲気が好ましい。
【0029】
本発明のゴム組成物は、該ジエン系ゴム100質量部に対して該脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂5質量部以上40質量部以下、好ましくは8質量部以上30質量部以下を含むものである。ここで、脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂が5質量部未満のものである場合、得られる組成物は、ウェットグリップ性、耐摩耗性に劣るものとなる。一方、脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂が40質量部を越えるものである場合、得られる組成物は、転がり抵抗性、アイスグリップ性に劣るものとなる。
【0030】
また、本発明のゴム組成物は、転がり抵抗性の改良のためジエン系ゴム100質量部に対してシリカ5質量部以上200質量部以下を含むことが好ましく、特に10質量部以上150質量部以下が好ましく、更に20質量部以上120質量部以下を含むことが好ましい。その際のシリカとしては、特に制限はなく、市販のゴム組成物に使用されているものが使用でき、中でも湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、コロイダルシリカ等を使用することができ、特に、湿式シリカであることが好ましい。特に、脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂を含むゴム組成物は、粘度の低減化が可能となることから、シリカを70質量部以上含むような高含有率であっても加工性に優れると共に、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性のバランスに優れるタイヤを提供することが可能なゴム組成物となる。
【0031】
シリカを使用する際にはシランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤を併用することにより、シランカップリング剤を介してゴム成分とシリカとの結合が強化され、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性のバランスを高度に向上することが出来る。シランカップリング剤としては、例えばスルフィド系、メルカプト系、ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系等のシランカップリング剤、等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は単独、または2種以上用いることが出来る。
【0032】
本発明のゴム組成物においては、上記シリカ以外にも補強性充填剤として、例えばカーボンブラックなどを併用することができ、該カーボンブラックとしては、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFなどのグレードを用いることができる。また、該カーボンブラックの含有量としては、転がり抵抗性に優れるものとなることから、ジエン系ゴム100質量部に対し、10質量部以上60質量部以下であることが好ましい。
【0033】
本発明のゴム組成物は、さらに通常樹脂組成物やゴム組成物に配合される添加剤を使用してもよい。例えば、硫黄を始めとする架橋剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、ステアリン酸、亜鉛華、可塑剤、オイル、老化防止剤などの配合剤を加えても良い。これらの配合剤としては市販品を好適に使用することができる。
【0034】
本発明のゴム組成物は、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、通常樹脂組成物、ゴム組成物に配合される添加剤、例えばフェノール系抗酸化剤、リン系抗酸化剤、硫黄系抗酸化剤、ラクトン系抗酸化剤、紫外線吸収剤、顔料、炭酸カルシウム、ガラスビーズなどを配合しても良い。
【0035】
さらに本発明のゴム組成物とは、その形態、形状物をも含むものであり、架橋剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等を含み架橋(加硫)を行った架橋物(加硫物)であってもよい。
【0036】
そして、本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム、脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、バンバリー型ミキサー、加圧ニーダー、オープンロールなどの混合方法を用いて混合し得ることができる。さらに、得られた未加硫ゴム組成物は、例えば、カレンダー、ロール、押し出し機、プレス等を利用して、架橋することにより加硫ゴム組成物として製造することができる。
【0037】
本発明によれば、ウェットグリップ性、耐摩耗性に優れ、更に加工性に優れるゴム組成物を提供することができ、ロール、敷物、チューブ、グリップ、ハンドル等の各種ゴム用途に適用することができ、中でも優れたタイヤ構成材、特にトレッド、それを有するタイヤ、更にはスタッドレスタイヤ、オールシーズンタイヤ、電気自動車用タイヤを提供とすることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、ウェットグリップ性、転がり抵抗性と耐摩耗性のバランスに優れ、さらにアイスグリップ性にも優れるゴム組成物及びそれを用いたタイヤを提供することができ、工業的にも非常に有用である。
【実施例0039】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限を受けるものではない。なお、実施例、比較例において用いた分析、試験法は下記の通りである。
【0040】
脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂の分析方法を下記に示す。
【0041】
~プロトンNMR(核磁気共鳴スペクトル)測定~
共重合石油樹脂をクロロホルム-d(和光純薬工業(株)製)に溶解させ、通常のNMR測定法で測定した。得られたスペクトルについて、下記の計算式に基づき面積比率より水素比率を求めた。
面積比率(%)=(各ピーク面積)/(全ピーク面積の合計)×100
なお、各ピークの帰属は次の通りである。
脂肪族性水素ピーク:0.2~4.0ppm。
DCPD類二重結合性水素ピーク:4.4~6.3ppm。
芳香族性水素ピーク:6.3~7.6ppm。
【0042】
~重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mw)の測定~
ポリスチレンを標準物質とし、JIS K-0124(2011)に準拠してゲル・パーミエイション・クロマトグラフにて測定した。
【0043】
~臭素価~
JIS K-2605(1996)に準拠した方法で測定した。
【0044】
~軟化点~
JIS K-2207(1996)(環球法)に準拠した方法で測定した。
【0045】
~色相~
50質量%トルエン溶液として、ASTM D-1544-63Tに従って測定した。
【0046】
また、ゴム組成物の物性の評価方法、評価基準を下記に示す。
【0047】
~ウェットグリップ性~
粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度0℃、歪み5%、周波数15Hzでtanδを測定し、0℃の値をウェットグリップ性として評価した。
【0048】
0℃のtanδが0.29以上となった場合、ウェットグリップ性が良好であると判断した。
【0049】
~アイスグリップ性~
粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度-20℃、歪み5%、周波数15Hzで貯蔵弾性率(以下、E’と記す場合がある)を測定し、-20℃の値をアイスグリップ性として評価した。
【0050】
-20℃のE’が55MPa以下となった場合、アイスグリップ性が良好であると判断した。
【0051】
~転がり抵抗性~
粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度60℃、歪み5%、周波数15Hzでtanδを測定し、60℃の値を転がり抵抗性として評価した。
【0052】
60℃のtanδが0.12以下となった場合、転がり抵抗性が良好であると判断した。
【0053】
~耐摩耗性~
加硫ゴム試験片を作成し、JIS K-6264に準拠し、ランボーン摩耗試験機を使用して、23℃での摩耗量を測定した。
【0054】
23℃における摩耗量が22mm3/min以下の場合、耐摩耗性が良好であると判断した。
【0055】
製造例1
内容積2リットルのガラス製オートクレーブに、原料油としてナフサの分解により得た脂肪族成分40質量%、芳香族成分12質量%およびDCPD類成分48質量%からなる原料油を調製し仕込んだ。次に、窒素雰囲気下で40℃に調節した後、フリーデルクラフツ型触媒として三フッ化ホウ素ブタノール錯体を原料油100質量部に対して、1.4質量部加えて2時間重合した。その後、苛性ソーダ水溶液で触媒を失活・除去し、油相を回収し、該油相より未反応原料油を蒸留除去することにより脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂A(樹脂Aと称する場合がある。)を得た。評価結果を表1に示す。
【0056】
製造例2~7
原料油としてナフサの分解により得た脂肪族成分40質量%、芳香族成分12質量%およびDCPD類成分48質量%からなる原料油の代わりに、脂肪族成分、芳香族成分およびDCPD類成分の配合割合を表1に示す通りとした以外は、製造例1と同様の方法により、脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂(樹脂B、C、D、E、F、G、Hと称する。)を得た。評価結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
実施例1
バンバリーミキサー(容量1.7リットル)にて、溶液重合品の末端変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(変性S-SBR)((株)ENEOSマテリアル製、(商品名)HPR-340:スチレン含有量10質量%)55質量部、ポリイソプレンゴム(IR)((株)ENEOSマテリアル製、(商品名)IR2200)45質量部を配合し30秒間素練り後の合計ジエン系ゴム成分100質量部に対し、ステアリン酸(新日本理化製)2質量部、シリカ(東ソー・シリカ製、(商品名)Nipsil AQ)70質量部、シランカップリング剤(信越シリコーン製、(商品名)KBE46)5.6質量部及び製造例1で得られた樹脂A20質量部を投入し、全練り時間5分後取り出した。取り出し時のコンパウンド温度を140℃から150℃となるようにラム圧や回転数で調整した。得られたコンパウンドを室温にて冷却した後、更に老化防止剤(大内新興製、(商品名)810NA)1質量部、亜鉛華(井上石灰工業製)3質量部、加硫促進剤(1)(大内新興製、(商品名)ノクセラーCZ)1.2質量部、加硫促進剤(2)(大内新興製、(商品名)ノクセラーD)1.5質量部、加硫剤として硫黄(鶴見化学工業製)1.5質量部のそれぞれを添加して約1分間混練り(取り出し時の温度を110℃以下とする)後、8インチロールを用いてシーティングして未加硫ゴム組成物を得た。
【0059】
更に蒸気加熱プレスを用い、加硫温度150℃、加硫時間30分で加硫し加硫ゴム組成物を得た。得られた加硫ゴム組成物の特性(ウェットグリップ性、アイスグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性)を測定した。その結果を表2に示す。
【0060】
実施例2~4
樹脂Aの代わりに、樹脂B、C、Dを用いた以外は、実施例1と同様の方法により未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物を調製し、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0061】
実施例5~6
樹脂A20質量部の代わりに、樹脂Cを表2に示す量を用いた以外は、実施例1と同様の方法により未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物を調製し、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
実施例1~6により得られるゴム組成物は、ウェットグリップ性、転がり抵抗性と耐摩耗性のバランスに優れ、さらにアイスグリップ性にも優れるものであった。
【0064】
比較例1
樹脂Aを用いないこと以外は、実施例1と同様の方法により未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物を得た。その評価結果を表3に示す。
【0065】
比較例2~5
樹脂Aの代わりに、樹脂E、F、G、Hを用いた以外は、実施例1と同様の方法により未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物を調製し、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0066】
比較例6
樹脂Aの代わりに、石油樹脂((商品名)T-REZ RD104、ENEOS社製;樹脂Iと記す場合もある。)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物を調製し、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0067】
比較例7
樹脂Aの代わりに、石油樹脂((商品名)T-REZ RA100、ENEOS社製;樹脂Jと記す場合もある。)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物を調製し、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0068】
比較例8~9
樹脂A20質量部の代わりに、表3に示す量を用いた以外は、実施例1と同様の方法により未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物を調製し、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0069】
比較例10
変性S-SBR/IR=45/55(質量比)と変更した以外は、実施例1と同様の方法により未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物を調製し、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0070】
本発明によれば、特定のジエン系ゴムに特定の二重結合量を有する脂肪族-芳香族-ジシクロペンタジエン類共重合石油樹脂を配合することにより、ウェットグリップ性、転がり抵抗性、耐摩耗性のバランスに優れ、さらにアイスグリップ性に優れるゴム組成物を提供することができ、該ゴム組成物はタイヤのトレッド用ゴムとして使用したタイヤ、オールシーズンタイヤを提供可能であり、その産業的価値は極めて高いものである。