IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社荏原製作所の特許一覧

特開2024-154545フロー反応用セル及びフロー反応方法
<>
  • 特開-フロー反応用セル及びフロー反応方法 図1
  • 特開-フロー反応用セル及びフロー反応方法 図2
  • 特開-フロー反応用セル及びフロー反応方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154545
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】フロー反応用セル及びフロー反応方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/24 20060101AFI20241024BHJP
   C07C 209/44 20060101ALI20241024BHJP
   C07C 211/27 20060101ALI20241024BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20241024BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
B01J19/24
C07C209/44
C07C211/27
B01J23/44 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068408
(22)【出願日】2023-04-19
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100168066
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】原川 裕章
(72)【発明者】
【氏名】小松 誠
(72)【発明者】
【氏名】大渕 真志
(72)【発明者】
【氏名】信田 昌男
【テーマコード(参考)】
4G075
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G075AA03
4G075AA13
4G075BA10
4G075BD03
4G075BD14
4G075BD16
4G075BD17
4G075CA54
4G075DA02
4G075EA01
4G075EB01
4G075EC09
4G075FA16
4G075FB02
4G075FB11
4G075FC01
4G169AA03
4G169AA15
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169CB02
4G169CB77
4G169DA06
4G169EA10
4G169EB14Y
4G169EB18Y
4G169EB19
4G169EC30
4G169EE06
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC52
4H006BA25
4H006BD81
4H006BE20
4H039CA71
4H039CB30
(57)【要約】
【課題】触媒反応を効率よく実施可能なフロー反応用セルを提供する。
【解決手段】第一の面と、第一の面の長手方向の一方の端部と接する第二の面と、第一の面の長手方向の他方の端部と接する第三の面と、を有する略直方体形状の触媒充填室と、シート面が第一の面と略平行となるように積層され、触媒充填室内の第三の面側に充填された、複数枚のシート状金属担持不織布の積層物と、触媒充填室内の第二の面側に設けられた、前記積層物が充填されていないバッファー部と、触媒充填室内のバッファー部と前記積層物との間に設けられた複数の孔を有する仕切り部と、を備えるフロー反応用セルであって、第二の面には液体及び気体の少なくとも一方を外部から触媒充填室内へ導入可能な導入孔が設けられ、第三の面には液体及び気体の少なくとも一方を触媒充填室内から外部へ排出可能な排出孔が設けられているフロー反応用セル。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の面と、該第一の面の長手方向の一方の端部と接する第二の面と、該第一の面の長手方向の他方の端部と接する第三の面と、を有する略直方体形状の触媒充填室と、
シート面が前記第一の面と略平行となるように積層され、前記触媒充填室内の第三の面側に充填された、複数枚のシート状金属担持不織布の積層物と、
前記触媒充填室内の第二の面側に設けられた、前記シート状金属担持不織布の積層物が充填されていないバッファー部と、
前記触媒充填室内の前記バッファー部と前記シート状金属担持不織布の積層物との間に設けられた、複数の孔を有する仕切り部と、
を備えるフロー反応用セルであって、
前記触媒充填室の第二の面には、液体及び気体の少なくとも一方を外部から触媒充填室内へ導入可能な導入孔が設けられ、
前記触媒充填室の第三の面には、液体及び気体の少なくとも一方を触媒充填室内から外部へ排出可能な排出孔が設けられている、フロー反応用セル。
【請求項2】
前記仕切り部が複数のスリット孔を有する、請求項1に記載のフロー反応用セル。
【請求項3】
前記シート状金属担持不織布が、ポリオレフィン繊維又はPET繊維を含む不織布と、金属粒子と、を含み、
前記不織布には、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、又は非共有電子対を有する官能基を有するポリマーで構成されるグラフト側鎖が結合しており、
前記金属粒子は、前記ポリビニルピロリドンのピロリドン基、前記ポリアクリル酸のカルボキシル基、又は前記非共有電子対を有する官能基を介して前記グラフト側鎖に担持されている、請求項1又は2に記載のフロー反応用セル。
【請求項4】
前記シート状金属担持不織布の平均繊維径が20~50μmである、請求項3に記載のフロー反応用セル。
【請求項5】
前記シート状金属担持不織布の空隙率が25~80%である、請求項3又は4に記載のフロー反応用セル。
【請求項6】
前記シート状金属担持不織布の積層物の積層方向における厚みが3~20mmである、請求項1~5のいずれか一項に記載のフロー反応用セル。
【請求項7】
前記第二の面と略垂直となるように前記導入孔に接続された導入管をさらに備える、請求項1~6のいずれか一項に記載のフロー反応用セル。
【請求項8】
前記第一の面の長手方向の長さが50~500mmである、請求項1~7のいずれか一項に記載のフロー反応用セル。
【請求項9】
前記第一の面の短手方向の長さが10~50mmである、請求項1~8のいずれか一項に記載のフロー反応用セル。
【請求項10】
前記第一の面の長手方向における、前記バッファー部の長さが5~30mmである、請求項1~9のいずれか一項に記載のフロー反応用セル。
【請求項11】
前記スリット孔の幅が1~2mmである、請求項2に記載のフロー反応用セル。
【請求項12】
前記複数のスリット孔の間隔が1~2mmである、請求項2又は11に記載のフロー反
応用セル。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のフロー反応用セルを用いてフロー反応を実施する、フロー反応方法。
【請求項14】
前記導入孔が上部、前記排出孔が下部となるように前記フロー反応用セルを配置してフロー反応を実施する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記導入孔から液体と気体との混合物を導入する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記導入孔から、不飽和化合物、ニトリル化合物又はニトロ化合物と、水素との混合物を導入し、前記不飽和化合物、前記ニトリル化合物又は前記ニトロ化合物の水素化反応を実施する、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記導入孔から、ベンジル基又はベンジルオキシカルボニル基で保護されたアルコール或いはアミンと、水素との混合物を導入し、前記アルコール又は前記アミンの脱保護を実施する、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロー反応用セル及びフロー反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の製造業界では、生産性、安全性の向上、廃棄物の削減、エネルギーの削減の観点から、現状のバッチ生産を連続生産(フロー反応)へ転換することが期待されており、連続生産システムの開発が進んでいる。
【0003】
化学合成プロセスの内、特に触媒を用いるプロセスは、バッチ反応では目的生成物の抽出の他に触媒自体を分離する必要があり、工数のかかる工程である。この触媒反応の工程をフロー反応化する方法として、例えば特許文献1には、円筒状のカラムに粉体の触媒を充填してフロー反応を実施する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006-509705号公報
【特許文献2】特開2021-186705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法では偏流が生じやすく、フロー反応用セルに充填された触媒が十分に活用されていないことが確認された。そのため、触媒反応を効率よく実施可能なフロー反応用セルの開発が望まれている。一方、特許文献2には、フロー反応に適用可能な金属担持不織布が開示されている。
【0006】
本発明は、触媒反応を効率よく実施可能なフロー反応用セル、及び該フロー反応用セルを使用したフロー反応方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の実施形態を含む。
【0008】
[1]第一の面と、該第一の面の長手方向の一方の端部と接する第二の面と、該第一の面の長手方向の他方の端部と接する第三の面と、を有する略直方体形状の触媒充填室と、
シート面が前記第一の面と略平行となるように積層され、前記触媒充填室内の第三の面側に充填された、複数枚のシート状金属担持不織布の積層物と、
前記触媒充填室内の第二の面側に設けられた、前記シート状金属担持不織布の積層物が充填されていないバッファー部と、
前記触媒充填室内の前記バッファー部と前記シート状金属担持不織布の積層物との間に設けられた、複数の孔を有する仕切り部と、
を備えるフロー反応用セルであって、
前記触媒充填室の第二の面には、液体及び気体の少なくとも一方を外部から触媒充填室内へ導入可能な導入孔が設けられ、
前記触媒充填室の第三の面には、液体及び気体の少なくとも一方を触媒充填室内から外部へ排出可能な排出孔が設けられている、フロー反応用セル。
【0009】
[2]前記仕切り部が複数のスリット孔を有する、[1]に記載のフロー反応用セル。
【0010】
[3]前記シート状金属担持不織布が、ポリオレフィン繊維又はPET繊維を含む不織布と、金属粒子と、を含み、
前記不織布には、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、又は非共有電子対を有する官能基を有するポリマーで構成されるグラフト側鎖が結合しており、
前記金属粒子は、前記ポリビニルピロリドンのピロリドン基、前記ポリアクリル酸のカルボキシル基、又は前記非共有電子対を有する官能基を介して前記グラフト側鎖に担持されている、[1]又は[2]に記載のフロー反応用セル。
【0011】
[4]前記シート状金属担持不織布の平均繊維径が20~50μmである、[3]に記載のフロー反応用セル。
【0012】
[5]前記シート状金属担持不織布の空隙率が25~80%である、[3]又は[4]に記載のフロー反応用セル。
【0013】
[6]前記シート状金属担持不織布の積層物の積層方向における厚みが3~20mmである、[1]~[5]のいずれかに記載のフロー反応用セル。
【0014】
[7]前記第二の面と略垂直となるように前記導入孔に接続された導入管をさらに備える、[1]~[6]のいずれかに記載のフロー反応用セル。
【0015】
[8]前記第一の面の長手方向の長さが50~500mmである、[1]~[7]のいずれかに記載のフロー反応用セル。
【0016】
[9]前記第一の面の短手方向の長さが10~50mmである、[1]~[8]のいずれかに記載のフロー反応用セル。
【0017】
[10]前記第一の面の長手方向における、前記バッファー部の長さが5~30mmである、[1]~[9]のいずれかに記載のフロー反応用セル。
【0018】
[11]前記スリット孔の幅が1~2mmである、[2]に記載のフロー反応用セル。
【0019】
[12]前記複数のスリット孔の間隔が1~2mmである、[2]又は[11]に記載のフロー反応用セル。
【0020】
[13][1]~[12]のいずれかに記載のフロー反応用セルを用いてフロー反応を実施する、フロー反応方法。
【0021】
[14]前記導入孔が上部、前記排出孔が下部となるように前記フロー反応用セルを配置してフロー反応を実施する、[13]に記載の方法。
【0022】
[15]前記導入孔から液体と気体との混合物を導入する、[13]又は[14]に記載の方法。
【0023】
[16]前記導入孔から、不飽和化合物、ニトリル化合物又はニトロ化合物と、水素との混合物を導入し、前記不飽和化合物、前記ニトリル化合物又は前記ニトロ化合物の水素化反応を実施する、[13]~[15]のいずれかに記載の方法。
【0024】
[17]前記導入孔から、ベンジル基又はベンジルオキシカルボニル基で保護されたアルコール或いはアミンと、水素との混合物を導入し、前記アルコール又は前記アミンの脱保護を実施する、[13]~[15]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、触媒反応を効率よく実施可能なフロー反応用セル、及び該フロー反応用セルを使用したフロー反応方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施形態に係るフロー反応用セルの一例を示す模式図である。
図2】比較例1のフロー反応用セルを示す模式図である。
図3】比較例2のフロー反応用セルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[フロー反応用セル]
本実施形態に係るフロー反応用セルは、第一の面と、該第一の面の長手方向の一方の端部と接する第二の面と、該第一の面の長手方向の他方の端部と接する第三の面と、を有する略直方体形状の触媒充填室と、シート面が前記第一の面と略平行となるように積層され、前記触媒充填室内の第三の面側に充填された、複数枚のシート状金属担持不織布の積層物と、前記触媒充填室内の第二の面側に設けられた、前記シート状金属担持不織布の積層物が充填されていないバッファー部と、前記触媒充填室内の前記バッファー部と前記シート状金属担持不織布の積層物との間に設けられた、複数の孔を有する仕切り部と、を備える。前記触媒充填室の第二の面には、液体及び気体の少なくとも一方を外部から触媒充填室内へ導入可能な導入孔が設けられている。また、前記触媒充填室の第三の面には、液体及び気体の少なくとも一方を触媒充填室内から外部へ排出可能な排出孔が設けられている。
【0028】
本実施形態に係るフロー反応用セルでは、複数枚のシート状金属担持不織布の積層物を触媒として用いる。ここで、前記積層物が充填される触媒充填室において、反応基質を含む液体及び気体の少なくとも一方の導入孔側に、前記積層物が充填されていないバッファー部(空洞部)が設けられている。また、前記バッファー部と前記積層物との間に、複数の孔(例えばスリット孔)を有する仕切り部が設けられている。本実施形態に係るフロー反応用セルはこのような構成を備えることで、触媒充填室に導入された前記液体及び気体の少なくとも一方が前記バッファー部を経由して前記仕切り部の孔を通過し、前記積層物内に均一に拡散することができる。したがって、本実施形態に係るフロー反応用セルを用いてフロー反応を実施することで、流路の短絡等がなく、担持されている触媒金属が無駄なく利用され、触媒反応を効率よく実施することができる。
【0029】
本実施形態に係るフロー反応用セルの一例を図1に示す。図1(A)はフロー反応用セル1の上面図、図1(B)はフロー反応用セル1の長手方向断面図を示す。
【0030】
図1において、フロー反応用セル1の反応セル14には、シート状金属担持不織布の積層物6が充填された触媒充填室5が設けられている。触媒充填室5は略直方体形状を有しており、第一の面2と、第一の面2の長手方向aの一方の端部と接する第二の面3と、第一の面2の長手方向aの他方の端部と接する第三の面4とを有する。「略直方体形状」とは、直方体形状及び直方体形状と同等の形状を含み、例えば直方体形状の角部が丸みを有する形状等を含み得る。
【0031】
シート状金属担持不織布は、そのシート面が第一の面2と略平行となるように複数枚積層されて積層物6を形成し、触媒充填室5内の第三の面4側に、第三の面4と接するように充填されている。「略平行」とは、平行な面に対して±10°の範囲内であることを示す。なお、図1では形式的にシート状金属担持不織布が5枚積層されているが、シート状金属担持不織布の積層枚数はこれに限定されない。一方、シート状金属担持不織布の積層
物6は、触媒充填室5の第二の面3側には充填されておらず、空洞であるバッファー部7が設けられている。シート状金属担持不織布の積層物6とバッファー部7との間には、複数の孔9を有する仕切り部8が設けられている。孔9は、シート状金属担持不織布の積層物6とバッファー部7とを連通する。
【0032】
反応セル14には、反応基質を含む液体及び気体の少なくとも一方を外部から触媒充填室5内へ導入する導入管11が設けられている。導入管11は、第二の面3と略垂直となるように設けられており、第二の面3の導入孔10から液体及び気体の少なくとも一方をバッファー部7内へ導入する。「略垂直」とは、垂直方向に対して±10°の範囲内であることを示す。また、反応セル14には、シート状金属担持不織布の積層物6を通過した後の液体及び気体の少なくとも一方を、触媒充填室5内から外部へ排出する排出管13が設けられている。排出管13は、第三の面4の排出孔12を通じて液体及び気体の少なくとも一方を外部へ排出する。反応セル14はシート状のシール材16を介して蓋15により密封され、フロー反応用セル1を形成する。
【0033】
反応基質を含む液体及び気体の少なくとも一方は、導入管11を通じて導入孔10よりバッファー部7へ導入される。その後、仕切り部8の複数の孔9を通じてシート状金属担持不織布の積層物6へ供給され、触媒反応が生じる。反応基質を含む液体及び気体の少なくとも一方は、シート状金属担持不織布の積層物6全体へ均一に供給されるため、触媒反応を効率よく実施することができる。シート状金属担持不織布の積層物6を通過した液体及び気体の少なくとも一方は、排出孔12、排出管13を通じて外部へ排出される。
【0034】
(シート状金属担持不織布)
本実施形態に係るシート状金属担持不織布は、触媒として機能し得るシート状金属担持不織布であれば特に限定されない。しかし、シート状金属担持不織布は、ポリオレフィン繊維又はPET繊維を含む不織布と、金属粒子と、を含み、前記不織布には、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、又は非共有電子対を有する官能基を有するポリマーで構成されるグラフト側鎖が結合しており、前記金属粒子は、前記ポリビニルピロリドンのピロリドン基、前記ポリアクリル酸のカルボキシル基、又は前記非共有電子対を有する官能基を介して前記グラフト側鎖に担持されていることが好ましい。
【0035】
このような金属担持不織布では、不織布に結合したグラフト側鎖であるポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、或いは非共有電子対を有する官能基を有するポリマーが有する、ピロリドン基、カルボキシル基、又は非共有電子対を有する官能基を介して金属粒子を担持させるため、粒径の小さな金属粒子を高分散な状態で不織布上に均一に担持(固定化)することができる。これにより、該不織布をフロー反応の触媒として用いた場合、反応基質と触媒金属との接触効率が高くなり、目的物を効率よく合成することができる。また、金属粒子は不織布上に担持されているため、フロー反応において触媒分離操作が不要である。さらに、担体として不織布が用いられているため、粒子状触媒と比較してフロー反応において圧力損失が低く、また取り扱い性に優れる。以下、前記金属担持不織布の詳細について説明するが、本実施形態に係るシート状金属担持不織布はこれに限定されない。
【0036】
<不織布>
担体である不織布は、ポリオレフィン繊維又はPET(polyethylene terephthalate)繊維を含む。不織布を構成する繊維の材料がポリオレフィン又はPETであることにより、後述するグラフト重合において不織布に放射線を照射した際にラジカルが生成しやすい。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとクロロトリフルオロエチレンの共重合体(ECTFE)等が挙げられる。
【0037】
不織布の目付としては、50~80g/mであることが好ましく、55~70g/m
であることがより好ましい。該目付が50g/m以上であることにより、触媒としての耐久性が向上する。また、該目付が80g/m以下であることにより、フロー反応において圧力損失を低減することができる。
【0038】
<金属粒子>
金属粒子の金属としては特に限定されないが、触媒として作用する金属であることができる。該金属としては、例えば貴金属等の遷移金属であることができる。具体的には、Pd、Pt、Au、Ag、Rh、Ru、Ir、Os、Cu、Ni、これらの金属の少なくとも一種の合金等が挙げられる。
【0039】
金属粒子の平均粒子径(D50)は、触媒として用いた場合に反応基質と触媒金属との接触効率が高くなり、触媒活性が向上する観点から100nm以下であることが好ましい。該平均粒子径(D50)は、2~50nmであることがより好ましく、2~20nmであることがさらに好ましい。また、粒径分布としては、より微細粒子(数nm)側に分布のピークがあるのが良い。なお、該平均粒子径(D50)は、走査透過電子顕微鏡(STEM)により測定される値である。
【0040】
<グラフト側鎖>
不織布には、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、又は非共有電子対を有する官能基を有するポリマーで構成されるグラフト側鎖が結合している。ここで、「グラフト側鎖」とは、モノマー(N-ビニル-2-ピロリドン、アクリル酸、又は非共有電子対を有する官能基を有するモノマー)を不織布の繊維表面にグラフト重合して形成される側鎖である。金属粒子は、該グラフト側鎖が有するピロリドン基、カルボキシル基、又は非共有電子対を有する官能基を介してグラフト側鎖に担持されている。例えば、金属粒子は、ピロリドン基の窒素原子、カルボキシル基の酸素原子、又は前記官能基の非共有電子対を有する原子と化学結合することでグラフト側鎖に担持されていることができる。化学結合としては、例えば配位結合、イオン結合、水素結合等が挙げられる。なお、金属粒子が、ポリビニルピロリドンのピロリドン基、ポリアクリル酸のカルボキシル基、又は前記非共有電子対を有する官能基を介してグラフト側鎖に担持されていることは、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察、走査透過型電子顕微鏡(STEM)暗視野像の観察により判断することができる。
【0041】
グラフト側鎖を構成するポリマーとしては、金属粒子をグラフト側鎖に多点で担持できる観点から、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、又は非共有電子対を有する官能基を有するポリマーを用いる。特に、ポリビニルピロリドンは、金属粒子の金属に対する配位性は弱いものの、複数のピロリドン基によって金属粒子をより多点で支持、固定化することができ、金属粒子の脱落を十分に抑制することができるため好ましい。
【0042】
前記非共有電子対を有する官能基は、官能基を構成する原子の少なくとも一つが非共有電子対を有する官能基であり、例えばアミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。非共有電子対を有する官能基を有するポリマーとしては、具体的には、一~三級アミノ基を持つスチレン系重合体やポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。
【0043】
グラフト側鎖はモノマーを不織布にグラフト重合することで形成されるが、この際放射線グラフト重合法を好適に用いることができる。放射線グラフト重合法とは、有機高分子基材(不織布)に放射線を照射してラジカルを生成させ、それにモノマーを反応させることによって、所望のグラフト側鎖を基材の高分子主鎖上に導入することのできる方法である。該方法では、グラフト側鎖の数や長さを自由にコントロールすることができ、また各種形状の既存の高分子材料にグラフト側鎖を導入することができる。
【0044】
放射線グラフト重合法において用いることのできる放射線としては、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができる。これらの中でも、本実施形態において用いるのにはγ線や電子線が適している。放射線グラフト重合法には、不織布に予め放射線を照射した後、モノマーと接触させて反応させる前照射グラフト重合法と、不織布とモノマーの共存下に放射線を照射する同時照射グラフト重合法とがある。また、モノマー溶液に不織布を浸漬させたまま重合を行う液相グラフト重合法、モノマーの蒸気に不織布を接触させて重合を行う気相グラフト重合法、不織布をモノマー溶液に浸漬した後、モノマー溶液から取り出して気相中で反応を行わせる含浸気相グラフト重合法などが挙げられる。本実施形態ではいずれの方法も用いることができる。
【0045】
本実施形態で基材として用いる不織布はモノマー溶液を保持し易いので、含浸気相グラフト重合法が好適である。不織布は、放射線グラフト重合法によってグラフト側鎖を導入しても大きな機械的強度の低下が生じないため、大量のグラフト側鎖を導入することが可能である。
【0046】
不織布に結合したグラフト側鎖の量は、不織布100質量部に対して10~200質量部であることが好ましい。前記量が10質量部以上であることにより、金属粒子をグラフト側鎖に十分に担持することができる。また、前記量が200質量部以下であることにより、不織布の変形や繊維の割れを抑制し、取り扱い上の容易さを維持することができる。また、繊維自体を脆くさせてしまうことによる触媒金属粒子の脱落を防ぐことができる。前記量は、グラフト重合反応前の不織布の質量と、グラフト重合反応後の不織布の質量を求めることにより測定される値である。
【0047】
<シート状金属担持不織布及びその積層物の形状、サイズ、物性>
シート状金属担持不織布のシート面の形状は、触媒充填室の第一の面と同様に長方形であり、シート面のサイズは、バッファー部及び仕切り部を除く触媒充填室の第一の面のサイズに準じたサイズとすることができる。シート状金属担持不織布の厚みは特に限定されないが、例えば0.3~0.6mmであることができる。
【0048】
シート状金属担持不織布の平均繊維径は20~50μmが好ましく、30~40μmがより好ましい。該平均繊維径が20~50μmの範囲内であることにより、シート状金属担持不織布の積層物内に液体及び気体の少なくとも一方をより均一に拡散させることができる。なお、シート状金属担持不織布の平均繊維径は以下の方法により測定される。繊維径は走査型電子顕微鏡(SEM)により任意の観察像に対し、その倍率におけるスケールから算出される。前記繊維径の測定方法により4~6本の繊維の繊維径を測定し、その平均値を平均繊維径とする。
【0049】
シート状金属担持不織布の空隙率は25~80%が好ましく、30~60%がより好ましい。該空隙率が25~80%の範囲内であることにより、シート状金属担持不織布の積層物内に液体及び気体の少なくとも一方をより均一に拡散させることができる。なお、シート状金属担持不織布の空隙率はセル内に充填された状態での空隙率を示し、以下の方法により測定される。シート状金属担持不織布を純水で浸漬した後、遠沈管に入れ3,000rpmで5分間遠心分離を行い、繊維に付着した水を分離する。この付着水を除いた湿潤状態の不織布を、20mlの純水を入れた50mlメスシリンダーに入れ、気泡を除いた後、増加分のメモリを読み、繊維容積とする。次に加重の異なる膜厚計による膜厚を測定し、ゼロ加重時の膜厚を求める。算出面積と膜厚から空隙を含む体積を計算し、先に求めた繊維容積を差し引くことでゼロ加重時の空隙率を求める。実際には圧縮して反応セル内に導入しているため、充填枚数とゼロ加重時の膜厚、及びセル幅の値から圧縮率を算出して換算する。
【0050】
本実施形態に係るフロー反応用セルの触媒充填室内に充填される、シート状金属担持不織布の積層物は、シート状金属担持不織布を例えば3~40枚積層したものであることができ、5~20枚積層したものであることが好ましい。シート状金属担持不織布の積層物の積層方向(厚み方向)における厚みは、3~20mmであることが好ましく、3~10mmであることがより好ましい。前記厚みが3mm以上であることにより、触媒反応を十分に実施することができる。また、前記厚みが20mm以下であることにより、フロー反応用セルを加熱して反応を行う場合に熱効率が高い。なお、前記厚みは、フロー反応用セル内に充填された状態における厚みを示す。
【0051】
(シート状金属担持不織布の製造方法)
本実施形態に係るシート状金属担持不織布の製造方法は特に限定されないが、例えば以下の工程を含む。ポリオレフィン繊維又はPET繊維を含む不織布に放射線を照射し、該不織布に、N-ビニル-2-ピロリドン、アクリル酸、又は非共有電子対を有する官能基を有するモノマーをグラフト重合する工程(以下、グラフト重合工程ともいう。);金属塩又は金属酸化物と、溶媒とを含む溶液に、グラフト重合後の前記不織布を浸漬する工程(以下、溶液浸漬工程ともいう。)。前記方法は、不織布が浸漬された前記溶液に還元剤を添加する工程(以下、還元剤添加工程ともいう。)をさらに含むことができる。前記方法によれば、前述したシート状金属担持不織布を好適に製造することができる。以下、各工程について説明するが、前記方法の各工程はこれらに限定されない。
【0052】
<グラフト重合工程>
本工程では、ポリオレフィン繊維又はPET繊維を含む不織布に放射線を照射することで、ポリオレフィン又はPETにラジカルを生成させ、該ラジカルと、N-ビニル-2-ピロリドン、アクリル酸、又は非共有電子対を有する官能基を有するモノマーとを反応させて、N-ビニル-2-ピロリドン、アクリル酸、又は該モノマーをグラフト重合する。放射線照射によりラジカルがより生成しやすい観点から、不織布を構成する繊維はポリオレフィンからなることが好ましい。グラフト重合は、前述した放射線グラフト重合法により行うことができる。
【0053】
<溶液浸漬工程>
本工程では、前記グラフト重合工程後の不織布を、金属塩又は金属酸化物と、溶媒とを含む溶液に浸漬する。金属塩及び金属酸化物としては、例えば前述した金属粒子の金属をカチオンとして含む塩、該金属の酸化物がそれぞれ挙げられる。該金属としては、具体的には、Pd、Pt、Au、Ag、Rh、Ru、Ir、Os、Cu、Ni等が挙げられる。金属塩としては、塩化物、塩酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。溶媒としては、水、アルカリ溶液等が挙げられる。溶液中の金属塩又は金属酸化物の濃度は、1~20mmol/Lが好ましい。
【0054】
金属塩として塩化パラジウムを用いる場合、前記溶液は、金属塩としての塩化パラジウムと、溶媒としての水と、塩化ナトリウムと、を含むことが好ましい。塩化ナトリウムを添加することで、金属の微粒子をより均一に形成し、担持することができる。
【0055】
<還元剤添加工程>
金属塩又は金属酸化物の金属を還元するために、溶液浸漬工程後の不織布が浸漬された溶液に、還元剤をさらに添加してもよい。還元剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ポリオール、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等が挙げられる。これらの還元剤は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。還元を促進するため、不織布が浸漬された溶液を加熱することができる。金属塩又は金属酸化物の金属が還元されていることは、例えばXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)等により確認することができる。
【0056】
(触媒充填室)
触媒充填室は略直方体形状を有し、その内面に、第一の面と、該第一の面の長手方向の一方の端部と接する第二の面と、該第一の面の長手方向の他方の端部と接する第三の面と、を有する。触媒充填室のサイズは実施するフロー反応の種類や規模により可変であるが、標準的には、触媒充填室の第一の面の長手方向の長さは50~500mmであることが好ましく、90~500mmであることがより好ましい。長手方向に触媒反応拡大する場合、500mm以上も可能であるが、反応セルを複数連結する方法も可能である。また、触媒充填室の第一の面の短手方向の長さは10~50mmであることが好ましく、25~30mmであることがより好ましい。触媒充填室の高さ方向の長さは、シート状金属担持不織布の積層物の積層方向の厚みと同じであることができ、3~20mmであることが好ましく、3~10mmであることがより好ましい。
【0057】
触媒充填室内において、シート状金属担持不織布の積層物は、第一の面の短手方向全体に充填されていることが、液体及び気体の少なくとも一方の偏流の発生を抑制する観点から好ましい。また、シート状金属担持不織布の積層物は、触媒充填室の第三の面と接するように充填されていることが、触媒反応の効率向上の観点から好ましい。
【0058】
(バッファー部)
バッファー部は、触媒充填室内の第二の面側に設けられ、シート状金属担持不織布の積層物が充填されていない空洞の領域である。バッファー部は、第二の面と接するように、また第一の面の短手方向全体に設けられることができる。フロー反応時には第二の面に設けられた導入孔から液体及び気体の少なくとも一方がバッファー部内に供給され、バッファー部内で滞留した後、仕切り部の複数の孔を通じてシート状金属担持不織布の積層物へ供給される。本実施形態に係るフロー反応用セルでは、このようにバッファー部内で一度液体及び気体の少なくとも一方を滞留させ、仕切り部の複数の孔全体に液体及び気体の少なくとも一方が行き渡るようにすることで、シート状金属担持不織布の積層物内に液体及び気体の少なくとも一方を均一に拡散させることができる。触媒充填室の第一の面の長手方向における、バッファー部の長さは、実施するフロー反応の種類や規模により可変であるが、標準的には5~30mmであることが好ましく、5~10mmであることがより好ましい。
【0059】
(仕切り部)
仕切り部は、触媒充填室内のバッファー部とシート状金属担持不織布の積層物との間に、第一の面の短手方向全体に設けられており、複数の孔を有する部材である。前記孔は、バッファー部とシート状金属担持不織布の積層物とを連通する。前記孔の断面形状は特に限定されないが、例えば円形、楕円形、三角形、矩形、多角形等が挙げられる。前記孔のサイズは特に限定されないが、例えば孔の径(差し渡し長さの最大値)が1~3mmであることができる。前記仕切り部の開口率は、シート状金属担持不織布の積層物内に液体及び気体の少なくとも一方をより均一に拡散できる観点から、20~50%であることが好ましい。仕切り部は、2段以上の設定も可能で、複数の仕切り部を設ける場合は、孔が仕切り部それぞれで相互に重ならない位置に設定される。なお、前記開口率は、前記孔による開口が設けられている前記仕切り部の表面の面積(開口部の面積を含む)に対する、開口部の面積の合計の割合を示す。
【0060】
前記仕切り部は、シート状金属担持不織布の積層物内に液体及び気体の少なくとも一方をより均一に拡散できる観点から、複数のスリット孔を有することが好ましい。スリット孔は、触媒充填室の高さ方向(シート状金属担持不織布の積層物の厚み方向)に開口することができる。シート状金属担持不織布の積層物内における液体及び気体の少なくとも一方の拡散性向上の観点から、スリット孔の幅は1~2mmであることが好ましく、複数の
スリット孔の間隔は1~2mmであることが好ましい。また、複数のスリット孔は等間隔で設けられていることが好ましい。触媒充填室の第一の面の長手方向における仕切り部の長さは、フロー反応の種類や規模により可変であるが、標準的には2~5mmであることができる。
【0061】
(導入孔、排出孔)
触媒充填室の第二の面には、液体及び気体の少なくとも一方を外部から触媒充填室内へ導入可能な導入孔が設けられている。具体的には、触媒充填室の第二の面に、液体及び気体の少なくとも一方を外部から触媒充填室内へ導入する導入管が接続されており、第二の面における該導入管による開口部が前記導入孔に該当する。導入孔の形状は特に限定されないが、例えば円形、楕円形、三角形、矩形、多角形等が挙げられる。前記導入孔のサイズは特に限定されないが、例えば導入孔の径(差し渡し長さの最大値)が1.5~6.5mmであることができる。第二の面において導入孔は一つ設けられていてもよく、複数(例えば2~5個)設けられていてもよい。しかし、導入孔の少なくとも一つは第二の面の中央部に設けられていることが、シート状金属担持不織布の積層物内に液体及び気体の少なくとも一方をより均一に拡散できる観点から好ましい。
【0062】
前記導入管は、第二の面と略垂直となるように導入孔に接続されていることが好ましい。導入管が第二の面と略垂直となるように配置されていることで、液体及び気体の少なくとも一方をバッファー部へより均一に供給することができる。
【0063】
触媒充填室の第三の面には、シート状金属担持不織布の積層物を通過した液体及び気体の少なくとも一方を触媒充填室内から外部へ排出可能な排出孔が設けられている。具体的には、触媒充填室の第三の面に、液体及び気体の少なくとも一方を触媒充填室内から外部へ排出する排出管が接続されており、第三の面における該排出管による開口部が前記排出孔に該当する。排出孔の形状、サイズ、数、配置位置については、前記導入孔と同様であることができる。
【0064】
[フロー反応方法]
本実施形態に係るフロー反応方法は、前述した本実施形態に係るフロー反応用セルを用いてフロー反応を実施する。該方法では、本実施形態に係るフロー反応用セルを用いてフロー反応を実施するため、触媒反応を効率よく実施することができる。
【0065】
本実施形態に係るフロー反応用セルを用いてフロー反応を実施する際には、図1に示されるように、導入孔10が上部、排出孔12が下部となるようにフロー反応用セル1を配置して実施することが、液体及び気体の少なくとも一方が、シート状金属担持不織布の積層物6全体へより均一に供給されるため好ましい。また、フロー反応用セル1を複数接続して実施してもよい。すなわち、フロー反応用セル1の排出管13と、他のフロー反応用セル1の導入管11とを接続し、シート状金属担持不織布の積層物6を複数回通過させることで、触媒反応をより効率よく実施することができる。また、フロー反応用セル1を外部から加熱し、加熱条件下でフロー反応を実施してもよい。加熱温度としては、フロー反応の種類にもよるが、例えば30~120℃であることができる。また、フロー反応は常圧下で実施してもよく、加圧下で実施してもよい。
【0066】
フロー反応用セルの導入孔から導入される導入物は、反応基質を含めばその形態は特に限定されず、液体であってもよく、気体であってもよく、液体と気体の混合物であってもよい。なお、本実施形態において「液体」は23℃、1atmにおいて液体であることを示し、「気体」は23℃、1atmにおいて気体であることを示す。特に、本実施形態に係るフロー反応用セルを用いてフロー反応を実施した場合、導入物が液体と気体の混合物であっても、液体と気体の両方をシート状金属担持不織布の積層物内に均一に拡散させる
ことができ、これにより触媒反応を効率よく実施できる。フロー反応用セルの導入孔から導入される導入物の導入速度(流速)は、フロー反応の種類にもよるが、0.01~5.00ml/minが好ましく、0.1~3.5ml/minがより好ましい。前記導入物は反応基質に加えて、水、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、メタノール等の反応溶媒を含んでもよい。
【0067】
本実施形態に係るフロー反応方法は、本実施形態に係るフロー反応用セルを用いたフロー反応であればその種類は特に限定されないが、例えば不飽和化合物、ニトリル化合物又はニトロ化合物の水素化反応、アルコール又はアミンの脱保護反応等に好適に用いることができる。
【0068】
(不飽和化合物、ニトリル化合物又はニトロ化合物の水素化反応)
本実施形態に係るフロー反応方法は、導入孔から、不飽和化合物、ニトリル化合物又はニトロ化合物と、水素との混合物を導入し、前記不飽和化合物、前記ニトリル化合物又は前記ニトロ化合物の水素化反応を実施する方法であることができる。不飽和化合物としては、例えばアルケン等が挙げられる。ニトリル化合物としては、例えばベンゾニトリル等が挙げられる。ニトロ化合物としては、例えばニトロベンゼン等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。不飽和化合物、ニトリル化合物又はニトロ化合物と、水素との混合割合(モル比)は、例えば1:3~1:10であることができる。反応温度は、例えば50~80℃であることができる。本方法では、前記シート状金属担持不織布が有する触媒の金属粒子の金属は、Pdであることが好ましい。
【0069】
(アルコール又はアミンの脱保護反応)
本実施形態に係るフロー反応方法は、導入孔から、ベンジル基又はベンジルオキシカルボニル基で保護されたアルコール或いはアミンと、水素との混合物を導入し、前記アルコール又は前記アミンの脱保護を実施する方法であることができる。ベンジル基又はベンジルオキシカルボニル基で保護されたアルコールとしては、例えばp-ベンジルオキシフェノール等が挙げられる。ベンジル基又はベンジルオキシカルボニル基で保護されたアミンとしては、例えばN-ベンジルアミノ酸等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。ベンジル基又はベンジルオキシカルボニル基で保護されたアルコール或いはアミンと、水素との混合割合(モル比)は、例えば1:3~1:10であることができる。反応温度は、例えば30~60℃であることができる。本方法では、前記シート状金属担持不織布が有する触媒の金属粒子の金属は、Pdであることが好ましい。
【実施例0070】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0071】
[実施例1]
(シート状金属担持不織布の作製)
ポリエチレン繊維からなるシート状の不織布(商品名:OX8901-T6、日本バイリーン社製、18cm×30cm、目付:62g/m)に対して電子線(245keV)を照射した(付与エネルギー:150kGy)。該不織布を50質量%N-ビニル-2-ピロリドン希釈溶液に含浸し、60℃で1時間反応することで、不織布100質量部に対して61質量部のN-ビニル-2-ピロリドンをグラフト重合させた(グラフト側鎖:ポリビニルピロリドン(PVP)、グラフト率:61%)。これにより、PVPグラフト不織布を得た。
【0072】
次に、純水100ml中に塩化パラジウム90.9mg(パラジウムとして約5mmo
l/l)、塩化ナトリウム152mg(約5倍当量)を添加し、混合することで、塩化パラジウムをテトラクロロパラジウム酸ナトリウムとして溶解させた金属塩溶液を調製した。該金属塩溶液50mlに、前記PVPグラフト不織布を浸漬させ、超音波洗浄器にて3分処理し、繊維への含浸処理を行った。この後、乾燥器にて60℃で乾燥させた。この金属溶液を含浸、乾燥させた前記不織布にエタノール100mlを加え、ガラス容器内で、窒素雰囲気下、80℃で撹拌、還流しながら還元反応を5時間、2回実施した。この金属塩溶液含浸から還元反応までの操作を2回繰り返した。これにより、見た目上色の均一な灰色のシート状金属担持不織布が得られた。シート状金属担持不織布のPd含有量は約0.2質量%、平均繊維径は約40μm、空隙率は77%(加重ゼロ時)であった。
【0073】
前記金属担持不織布についてSTEM(Scanning TransmissionElectron Microscope)による粒子分布の状態観察、X線分析を実施したところ、金属担持不織布にパラジウム(Pd)の金属ナノ粒子(D50(メジアン径):約2~3nm)が付着していることが確認された。XPSにより結合状態の分析を行ったところ、光電子スペクトルの335.4eVにパラジウムの金属結合(0価)に由来するピークが確認された。また、STEMによる観察により、グラフト側鎖であるポリビニルピロリドンとみられる位置にパラジウムの粒子も観察され、ピロリドン基を介してパラジウム粒子が担持されていることが確認された。
【0074】
(フロー反応用セルの作製)
図1に示されるフロー反応用セルを準備した。フロー反応用セル1のサイズは45mm×140mm×10mmであった。直方体形状の触媒充填室5のサイズは25mm×92mm×3mmであった。前記PVPグラフト不織布を触媒充填室5のサイズに合わせて切断し、5枚重ねて積層物6を作製し、これを図1に示されるように触媒充填室5内の第三の面4側に充填した(PVPグラフト不織布の積層物6の厚み:3mm、PVPグラフト不織布の空隙率(充填時):30%)。この時、触媒充填室5の上部に、第一の面の長手方向aの長さが5mmのバッファー部7が設けられるようにした(バッファー部7の体積割合:5.4%)。また、バッファー部7とPVPグラフト不織布の積層物6との間に、8個のスリット孔9を有する仕切り部8を配置した。スリット孔9の幅は2mm、間隔は2mmであった。また、第一の面の長手方向aにおける仕切り部8の長さは2mm、仕切り部8の開口率は約50%であった。触媒充填室5の第二の面3の中央部には、内径1/16インチ(約1.6mm)の円形の断面形状を有するテフロンチューブを導入管11として接続した。導入管11は第二の面3に対して略垂直となるように配置され、第二の面3に導入孔10を形成する。また、触媒充填室5の第三の面4の中央部には、内径1/16インチ(約1.6mm)の円形の断面形状を有するテフロンチューブを排出管13として接続した。反応セル14を、シリコンパッキン16を介して厚さ5mmの蓋15により密封することで、フロー反応用セル1を作製した。
【0075】
(フロー反応における導入物の拡散性評価)
前記フロー反応用セルに液体と気体の混合物を導入して流通させることで、PVPグラフト不織布の積層物における前記混合物の拡散性を確認した。具体的には、イソプロピルアルコール(IPA)と水とを4:1(体積比)で混合した溶液にインクを添加した溶液を準備した。該溶液と、水素ガスとの混合物をフロー反応用セルの導入管から導入して、PVPグラフト不織布の積層物における着色を確認した。前記溶液の流速は0.5ml/分、水素ガスの流速は5ml/分であった。
【0076】
その結果、前記溶液と水素ガスとの混合物は、バッファー部を経由して仕切り部のスリット孔全体から拡散し、流通初期の段階からPVPグラフト不織布の積層物全体に前記混合物が広がることが確認できた。その後も偏流は生じず、効率的にPVPグラフト不織布の積層物全体に前記混合物が行き渡ることが確認された。なお、本実施例では、インクに
よる着色の確認を容易にするために金属が担持されていないPVPグラフト不織布を使用したが、金属担持不織布を使用しても結果は同様であると考えられる。後述する比較例1及び2についても同様である。
【0077】
[実施例2]
(シート状金属担持不織布、フロー反応用セルの作製)
実施例1と同様の方法で、Pd含有量が約0.2質量%のシート状金属担持不織布を作製した。実施例1と同じフロー反応用セルの触媒充填室内に、前記シート状金属担持不織布を6枚充填し、フロー反応用セルを作製した(シート状金属担持不織布の積層物6の厚み:3mm)。
【0078】
(フロー反応評価)
前記フロー反応用セルを用いてベンゾニトリルの水素化反応を実施した。イソプロピルアルコール(IPA)と水とを4:1(体積比)で混合した溶媒に、ベンゾニトリルを100mmol/lの濃度で添加した溶液を調製した。該溶液と、水素ガスとの混合物をフロー反応用セルの導入管から導入した。前記溶液の流速は0.1ml/分、水素ガスの流速は3ml/分であった。背圧は0.2MPaに設定した。フロー反応用セルを80℃の恒温水槽内に配置し、反応温度80℃でフロー反応を行った。フロー反応開始から3時間後と5時間後に、排出管から排出される反応液をバイアル瓶に採取し、反応液中の成分をGC/MSにて測定した。その結果、3時間後の反応液では7.7mmol/l、5時間後の反応液では8.6mmol/lのベンジルアミンが検出され、フロー反応によるベンゾニトリルの水素化が確認された。
【0079】
[比較例1]
(フロー反応用セルの作製)
フロー反応用セルとして、図2に示されるフロー反応用セルを準備した。フロー反応用セル1のサイズは45mm×140mm×10mmであった。直方体形状の触媒充填室5のサイズは25mm×100mm×3mmであった。触媒充填室5内には、長さ18mm、幅2mmのジャマ板構造17を9ヶ所交互に設置した。実施例1の方法で作製したPVPグラフト不織布を8mm×25mmのサイズに切断し、5枚重ねて積層物6を作製し、これをジャマ板構造17の各間に充填した。触媒充填室5の第二の面3の左側から4mmの位置に、内径1/16インチ(約1.6mm)の円形の断面形状を有するテフロンチューブを導入管11として接続した。また、触媒充填室5の第三の面4の左側から4mmの位置に、内径1/16インチ(約1.6mm)の円形の断面形状を有するテフロンチューブを排出管13として接続した。反応セル14を、シリコンパッキン16を介して厚さ5mmの蓋15により密封することで、フロー反応用セル1を作製した。
【0080】
(フロー反応における導入物の拡散性評価)
実施例1と同様の方法により、IPAと水の混合溶液と、水素ガスとの混合物を導入して、PVPグラフト不織布の積層物における着色を確認した。その結果、前記溶液と水素ガスとの混合物は、流通初期の段階では導入孔付近からジャマ板構造17に沿ってPVPグラフト不織布の積層物に広がることが確認されたが、一部ジャマ板構造17端部の下部において短絡が生じることが確認された。前記短絡部分では前記混合物が十分に拡散していないため、着色せず、本フロー反応用セルでは前記混合物がPVPグラフト不織布の積層物全体に行き渡らなかった。
【0081】
[比較例2]
(フロー反応用セルの作製)
フロー反応用セルとして、図3に示されるフロー反応用セルを準備した。フロー反応用セル1のサイズは45mm×140mm×10mmであった。直方体形状の触媒充填室5
のサイズは25mm×100mm×3mmであった。実施例1の方法で作製したPVPグラフト不織布を触媒充填室5のサイズに合わせて切断し、5枚重ねて積層物6を作製し、これを図3に示されるように触媒充填室5内全体に充填した。触媒充填室5の第二の面3に、内径1/16インチ(約1.6mm)の円形の断面形状を有するテフロンチューブを4本、導入管11として接続した。具体的には、触媒充填室5の第二の面3の左側から3mmの位置に一本目の導入管11、該一本目の導入管と3mmの間隔を空けて二本目の導入管11、触媒充填室5の第二の面3の右側から3mmの位置に三本目の導入管11、該三本目の導入管と3mmの間隔を空けて四本目の導入管11をそれぞれ配置した。また、触媒充填室5の第三の面4に、導入管11と同じテフロンチューブを4本、導入管11と対応する位置に排出管13として接続した。反応セル14を、シリコンパッキン16を介して厚さ5mmの蓋15により密封することで、フロー反応用セル1を作製した。
【0082】
(フロー反応における導入物の拡散性評価)
実施例1と同様の方法により、IPAと水の混合溶液と、水素ガスとの混合物を4つの導入孔から導入して、PVPグラフト不織布の積層物における着色を確認した。前記混合物は、T字の継手を2段階用いて4流路に分岐させることで4つの導入孔から導入した。その結果、分岐の段階で前記混合物が右側の流路に流れず、左側2流路のみに前記混合物が流れた。流通初期の段階では左側導入孔付近から前記混合物が拡散し、徐々に前記混合物が流れていない右側導入孔付近のPVPグラフト不織布の積層物にも拡散していったが、拡散速度が遅く、遅れる傾向にあった。そのため、本フロー反応用セルを用いてフロー反応を実施した場合には、触媒反応を効率よく実施できないことが分かった。
【符号の説明】
【0083】
1 フロー反応用セル
2 第一の面
3 第二の面
4 第三の面
5 触媒充填室
6 シート状金属担持不織布の積層物(PVPグラフト不織布の積層物)
7 バッファー部
8 仕切り部
9 孔
10 導入孔
11 導入管
12 排出孔
13 排出管
14 反応セル
15 蓋
16 シリコンパッキン
a 第一の面の長手方向
b 第一の面の短手方向
図1
図2
図3