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特開2024-1546ロケットエンジン用のマグネットモータポンプ装置、およびそのようなマグネットモータポンプ装置を用いて推進剤をロケットエンジンに移送する方法
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  • 特開-ロケットエンジン用のマグネットモータポンプ装置、およびそのようなマグネットモータポンプ装置を用いて推進剤をロケットエンジンに移送する方法 図1
  • 特開-ロケットエンジン用のマグネットモータポンプ装置、およびそのようなマグネットモータポンプ装置を用いて推進剤をロケットエンジンに移送する方法 図2
  • 特開-ロケットエンジン用のマグネットモータポンプ装置、およびそのようなマグネットモータポンプ装置を用いて推進剤をロケットエンジンに移送する方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001546
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ロケットエンジン用のマグネットモータポンプ装置、およびそのようなマグネットモータポンプ装置を用いて推進剤をロケットエンジンに移送する方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 13/02 20060101AFI20231227BHJP
   F02K 9/46 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
F04D13/02 G
F02K9/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100271
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 竜司
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 英樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽一
(72)【発明者】
【氏名】有吉 佑弥
(72)【発明者】
【氏名】ロカレ テジャス
(72)【発明者】
【氏名】向江 洋人
(72)【発明者】
【氏名】今井 智大
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA04
3H130AA30
3H130AB07
3H130AB12
3H130AB22
3H130AB42
3H130AC17
3H130BA63G
3H130BA66G
3H130BA87G
3H130BA88G
3H130DA02X
3H130DD01X
3H130DE03X
3H130EA07G
(57)【要約】
【課題】ロケットエンジンに使用される酸化剤または燃料などの推進剤のポンプから電動機への侵入を防ぎ、小型で高出力を実現できるマグネットモータポンプ装置を提供する。
【解決手段】ロケットエンジンの推進剤を移送するためのマグネットモータポンプ装置は、ポンプ室15内に配置された羽根車3と、ポンプ室15内に配置され、羽根車3に連結された第1永久磁石21と、ロータ19室内に配置された第2永久磁石22と、第2永久磁石22を回転させる電動機5と、ロータ室19をポンプ室15から隔離する隔壁40を備え、第1永久磁石21と第2永久磁石22は、隔壁40を間に介在させた状態で互いに対向している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進剤をロケットエンジンに移送するためのマグネットモータポンプ装置であって、
ポンプ室内に配置された羽根車と、
前記ポンプ室内に配置され、前記羽根車に連結された第1永久磁石と、
ロータ室内に配置された第2永久磁石と、
前記第2永久磁石を回転させる電動機と、
前記ロータ室を前記ポンプ室から隔離する隔壁を備え、
前記第1永久磁石と前記第2永久磁石は、前記隔壁を間に介在させた状態で互いに対向している、マグネットモータポンプ装置。
【請求項2】
前記第1永久磁石は、前記羽根車に固定された被駆動ロータに保持されており、
前記被駆動ロータは、前記ポンプ室内に配置されており、
前記第1永久磁石および前記被駆動ロータは、前記羽根車と一体に回転可能である、請求項1に記載のマグネットモータポンプ装置。
【請求項3】
前記第2永久磁石は、前記第1永久磁石の径方向外側に配置されている、請求項1に記載のマグネットモータポンプ装置。
【請求項4】
前記第2永久磁石は、前記第1永久磁石の軸方向外側に配置されている、請求項1に記載のマグネットモータポンプ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のマグネットモータポンプ装置により、推進剤をロケットエンジンに移送する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロケットなどの宇宙航行機のロケットエンジン用のポンプ装置に関し、特に推進剤としての酸化剤および燃料をロケットエンジンに移送するためのマグネットモータポンプ装置に関する。また、本発明は、そのようなマグネットモータポンプ装置を用いて推進剤をロケットエンジンに移送する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、ロケットや宇宙船などの宇宙航行機に搭載される、一般的なロケットエンジンシステムの一例を示す模式図である。図3に示すように、酸化剤および燃料は、二系統のポンプシステム500によってロケットエンジンに供給される。各ポンプシステム500は、酸化剤または燃料を圧送するためのポンプ501と、ポンプ501の羽根車502を回転させるための電動機503を備えている。酸化剤用のポンプ501と、燃料用のポンプ501は、それぞれ独立に駆動され、酸化剤および燃料はロケットエンジン510の燃焼室に供給される。
【0003】
ロケットエンジン510用の上記ポンプシステム500には、その使用環境および移送対象液体の特殊性のため、以下のような要求がある。
・ロケットの打ち上げ時に大きな推力を得るために、一般的な産業用ポンプに比べて、小型で高出力が求められる。
・支燃性の高い酸化剤(液体酸素)を取り扱うために、爆発の危険性が伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6750730号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化剤および燃料(以下、これらを総称して推進剤ということがある)をポンプ501で加圧するとき、推進剤がポンプ501から電動機503に侵入することがある。そのような場合、電動機503のロータは推進剤に接触することになる。液体である推進剤と電動機503のロータとの間には摩擦が発生し、要求された出力を発揮するためには電動機503に投入される電力を増大させなければならない。特に、上述したように、ロケットエンジン510用の上記ポンプシステム500には、小型で高出力が求められるため、電動機503のロータは非常に高速で回転する。このため、電動機503のロータの摩擦損失は非常に大きく、ロケットに搭載される蓄電池の重量増加が顕著となる。このような蓄電池の重量増加は、ロケットにとっては不利である。
【0006】
酸化剤に使用される酸素は支燃性が高い物質である。このため、酸化剤が電動機503に侵入すると、電動機503の電線の絶縁不良によるスパークが生じた場合には、発火を引き起こすおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、ロケットエンジンに使用される酸化剤または燃料などの推進剤のポンプから電動機への侵入を防ぎ、小型で高出力を実現できるマグネットモータポンプ装置を提供する。また本発明は、そのようなマグネットモータポンプ装置を用いて酸化剤または燃料などの推進剤をロケットエンジンに供給する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、推進剤をロケットエンジンに移送するためのマグネットモータポンプ装置であって、ポンプ室内に配置された羽根車と、前記ポンプ室内に配置され、前記羽根車に連結された第1永久磁石と、ロータ室内に配置された第2永久磁石と、前記第2永久磁石を回転させる電動機と、前記ロータ室を前記ポンプ室から隔離する隔壁を備え、前記第1永久磁石と前記第2永久磁石は、前記隔壁を間に介在させた状態で互いに対向している、マグネットモータポンプ装置が提供される。
【0009】
一態様では、前記第1永久磁石は、前記羽根車に固定された被駆動ロータに保持されており、前記被駆動ロータは、前記ポンプ室内に配置されており、前記第1永久磁石および前記被駆動ロータは、前記羽根車と一体に回転可能である。
一態様では、前記第2永久磁石は、前記第1永久磁石の径方向外側に配置されている。
一態様では、前記第2永久磁石は、前記第1永久磁石の軸方向外側に配置されている。
【0010】
一態様では、上記マグネットモータポンプ装置により、推進剤をロケットエンジンに移送する方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
隔壁は、ポンプ室とモータ室を仕切り、推進剤(酸化剤または燃料)がポンプ室からロータ室内に流れることを完全に防止することができる。結果として、駆動ロータには推進剤との接触による摩擦抵抗は加わらず、電動機はより少ない電力で高速で回転することができる。また、所要電力が小さくなるので、蓄電池の容量も小さくできる。さらには、隔壁は、推進剤が電動機に侵入することを完全に防止できるので、電動機での発火を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】マグネットモータポンプ装置の一実施形態を示す断面図である。
図2】マグネットモータポンプ装置の他の実施形態を示す断面図である。
図3】一般的なロケットエンジンシステムの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
以下に説明するマグネットモータポンプ装置は、酸化剤または燃料などの推進剤を、ロケットなどの宇宙航行機のロケットエンジンに移送するためのポンプ装置である。酸化剤の例としては、液体酸素が挙げられる。燃料の例としては、液体水素、液化天然ガス、液化メタンなどが挙げられる。以下の説明では、酸化剤および燃料を、総称して推進剤という。すなわち、本明細書において、特に説明がない限り、推進剤は、ロケットエンジン用の酸化剤または燃料のことを意味する。
【0014】
図1は、マグネットモータポンプ装置の一実施形態を示す断面図である。マグネットモータポンプ装置は、推進剤を圧送するための羽根車3を有するポンプ1と、羽根車3を回転させるための電動機5を備えている。ポンプ1は、羽根車3を収容する羽根車ケーシング11と、羽根車3に連結され、羽根車3と一体に回転可能なインデューサ12を備えている。
【0015】
インデューサ12は、羽根車3の上流に位置しており、羽根車3に流入する推進剤を昇圧するために設けられている。インデューサ12は、省略されることもある。羽根車ケーシング11は、その内部にポンプ室15を有しており、羽根車3はポンプ室15内に回転可能に配置されている。羽根車ケーシング11は、吸込み口16と吐出し口(図示せず)を有している。
【0016】
マグネットモータポンプ装置は、羽根車ケーシング11に連結されたロータハウジング18を備えている。羽根車ケーシング11とロータハウジング18は、一体構造物であってもよいし、あるいは個別の部材として設けられてもよい。ロータハウジング18は、その内部にロータ室19を有している。マグネットモータポンプ装置は、ポンプ室15内に配置された複数の第1永久磁石21と、ロータ室19内に配置された複数の第2永久磁石22をさらに備えている。
【0017】
第1永久磁石21は、羽根車3に連結され、羽根車3と一体に回転可能である。より具体的には、マグネットモータポンプ装置は、羽根車3に固定された被駆動ロータ25を備えており、第1永久磁石21は、被駆動ロータ25に保持(固定)されている。この被駆動ロータ25は、ポンプ室15内に配置されており、第1永久磁石21および被駆動ロータ25は、ポンプ室15内で羽根車3と一体に回転可能である。被駆動ロータ25は、軸受27によって回転可能に支持されている。軸受27の構成は特に限定されないが、軸受27は、例えば、すべり軸受(動圧軸受)である。軸受27は支持軸28に保持されている。
【0018】
第2永久磁石22は、ロータ室19内に配置された駆動ロータ30に固定されている。駆動ロータ30および第2永久磁石22は、ロータ室19内で一体に回転可能に構成されている。電動機5は、ロータハウジング18に固定されている。ロータハウジング18は、羽根車ケーシング11と電動機5との間に位置している。駆動ロータ30および第2永久磁石22は、電動機5に連結されており、駆動ロータ30および第2永久磁石22は電動機5によって一体に回転されるようになっている。
【0019】
マグネットモータポンプ装置は、ロータ室19をポンプ室15から隔離する隔壁40をさらに備えている。隔壁40は、羽根車3の背面側に配置され、ポンプ室15とロータ室19との間に配置されている。隔壁40は、ロータ室19をポンプ室15から完全に分離しており、ロータ室19とポンプ室15との間の流体の連通を妨げている。したがって、ポンプ室15内の流体(ロケットエンジン用の推進剤)はロータ室19には漏洩しない。被駆動ロータ25を支持する支持軸28は、隔壁40に固定されている。隔壁40を構成する材料の例としては、樹脂、アルミニウム、磁性を持たない一部のステンレス鋼が挙げられる。本実施形態では、隔壁40は樹脂から構成されている。その理由は、第1永久磁石21と第2永久磁石22の磁束移動に起因する渦電流の発生を防止し、発熱を避けるためである。
【0020】
第1永久磁石21と第2永久磁石22は、隔壁40を間に介在させた状態で互いに対向している。すなわち、隔壁40は、第1永久磁石21と第2永久磁石22との間に配置されている。本実施形態においては、第2永久磁石22は、第1永久磁石21の径方向外側に配置されている。すなわち、第2永久磁石22は、第1永久磁石21を囲むように配列されている。第1永久磁石21と第2永久磁石22との間には磁力が作用し、第1永久磁石21と第2永久磁石22は磁力によって互いに引き寄せられている。
【0021】
電動機5が駆動ロータ30および第2永久磁石22を回転させると、磁力により第1永久磁石21および被駆動ロータ25が回転する。第1永久磁石21および被駆動ロータ25の回転は、羽根車3およびインデューサ12を回転させる。ロケットエンジン用の推進剤(酸化剤または燃料)は、吸込み口16を通じてポンプ室15内に流入し、羽根車33の回転により昇圧され、吐出し口(図示せず)を通じてポンプ1から吐出される。昇圧された推進剤は、ロケットエンジンの燃焼室に移送される(図3参照)。
【0022】
隔壁40は、推進剤(酸化剤または燃料)がロータ室19内に流れることを完全に防止することができる。結果として、駆動ロータ30には推進剤との接触による摩擦抵抗は加わらず、電動機5はより少ない電力で高速で回転することができる。また、所要電力が小さくなるので、蓄電池の容量も小さくできる。さらには、隔壁40は、推進剤が電動機5に侵入することを完全に防止できるので、電動機5での発火を防止することができる。
【0023】
図1に示す実施形態では、複数の第1永久磁石21と複数の第2永久磁石22が設けられているが、磁力により第1永久磁石21と第2永久磁石22とが一体に回転できるのであれば、単一の第1永久磁石21と単一の第2永久磁石22が設けられてもよい。
【0024】
図2は、マグネットモータポンプ装置の他の実施形態を示す断面図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、図1を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。図2に示す実施形態では、第2永久磁石22は、第1永久磁石21の軸方向外側に配置されている。より具体的には、第1永久磁石21および第2永久磁石22は、羽根車3の軸心方向に沿って配列されている。本実施形態でも、同様に、隔壁40は、第1永久磁石21と第2永久磁石22との間に配置されている。
【0025】
図1および図2に示すポンプ1は、単一の羽根車3を有する単段ポンプであるが、ポンプ1は、複数の羽根車を有する多段ポンプであってもよい。
【0026】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0027】
1 ポンプ
3 羽根車
5 電動機
7 回転軸
11 羽根車ケーシング
12 インデューサ
15 ポンプ室
16 吸込み口
18 ロータハウジング
19 ロータ室
21 第1永久磁石
22 第2永久磁石
25 被駆動ロータ
27 軸受
28 支持軸
30 駆動ロータ
40 隔壁
図1
図2
図3