(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154754
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】混合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01F 23/53 20220101AFI20241024BHJP
B01F 35/511 20220101ALI20241024BHJP
B01F 27/00 20220101ALI20241024BHJP
【FI】
B01F23/53
B01F35/511
B01F27/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068774
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】堀田 友樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 直広
【テーマコード(参考)】
4G035
4G037
4G078
【Fターム(参考)】
4G035AB46
4G035AE02
4G035AE17
4G037DA12
4G037EA02
4G078AA21
4G078CA05
(57)【要約】
【課題】グラスライニング機器の破損を防止する。
【解決手段】1種類以上の固体及び1種類以上の液体を含む混合物を製造する混合物の製造方法が、Aは終末沈降速度であり、Bは溶剤抵抗の常用対数であり、Cは動力数であり、Dは浮遊限界速度比であり、Eは比表面積であり、Fは粉体抵抗の常用対数であり、a*A+b*B+c*C+d*D+e*E+f*F≦2.6となる条件で、原料混合物をグラスライニング機器に接触させる工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上の固体及び1種類以上の液体を含む混合物を製造する混合物の製造方法であって、
Aは終末沈降速度[m/s]であり、
Bは溶剤抵抗[Ω・m]の常用対数であり、
Cは動力数であり、
Dは浮遊限界速度比であり、
Eは比表面積[m2/m3]であり、
Fは粉体抵抗[Ω・m]の常用対数であり、
a=26.54、b=0.11、c=-1.71、d=-0.29、e=-0.50、f=0.22であり、
a*A+b*B+c*C+d*D+e*E+f*F≦2.6となる条件で、1種類以上の固体及び1種類以上の液体を含む原料混合物をグラスライニング機器に接触させる工程を含む、
混合物の製造方法。
【請求項2】
前記接触させる工程は、-3.8≦a*A+b*B+c*C+d*D+e*E+f*F≦2.6となる条件で前記原料混合物を前記グラスライニング機器に接触させる、
請求項1に記載の混合物の製造方法。
【請求項3】
Aは2.0×10-5以上8.4×10-2以下であり、
Bは10以上1.7×1015以下であり、
Cは0.2以上4.8以下であり、
Dは0.96以上5.38以下であり、
Eは1.8以上6.3以下であり、
Fは1.5×105以上6.0×1018以下である、
請求項1に記載の混合物の製造方法。
【請求項4】
前記混合物は、スラリーである、
請求項1から3のいずれかに記載の混合物の製造方法。
【請求項5】
前記スラリーは、高帯電スラリーである、
請求項4に記載の混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、混合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラスライニング機器は使用中に発生する静電気に起因して破損することがある。例えば、非特許文献1には、静電気によるグラスライニング撹拌槽の損傷事例及びグラスライニング機器における静電気対策が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】沢田雅光、「静電気によるGLの損傷とその対策」、神鋼パンテック技報、Vol.34、No.3、pp.22-27、1990年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のグラスライニング機器の静電気対策は破損防止の効果が不明である。例えば、非特許文献1に開示されている静電気対策は定性条件のみであり、グラスライニング機器の破損を防止するための基準が明確ではない。
【0005】
本開示の一態様は、グラスライニング機器の破損を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様による混合物の製造方法は、1種類以上の固体及び1種類以上の液体を含む混合物を製造する混合物の製造方法であって、Aは終末沈降速度[m/s]であり、Bは溶剤抵抗[Ω・m]の常用対数であり、Cは動力数であり、Dは浮遊限界速度比であり、Eは比表面積[m2/m3]であり、Fは粉体抵抗[Ω・m]の常用対数であり、a=26.54、b=0.11、c=-1.71、d=-0.29、e=-0.50、f=0.22であり、a*A+b*B+c*C+d*D+e*E+f*F≦2.6となる条件で、1種類以上の固体及び1種類以上の液体を含む原料混合物をグラスライニング機器に接触させる工程を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、グラスライニング機器の破損を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0009】
[実施形態]
本発明の一実施形態は、グラスライニング機器を用いて固体と液体とを含む混合物を製造する混合物の製造方法である。グラスライニング機器は、グラスライニングが施された機器である。グラスライニングは、鋼等の金属基材にグラス層を形成する表面処理法である。グラスライニング機器において、グラス層が形成された部位はグラスライニング面等とも呼ばれる。
【0010】
グラスライニング機器は、一例として、耐食性、不活性、耐熱性等を有し、化学工業、医薬品工業、食品工業、電子産業等の分野で広く用いられている。グラスライニング機器は、一例として、反応機(又は反応釜)、撹拌翼、撹拌槽、熱交換器、乾燥機、蒸発機、濾過機等が挙げられる。
【0011】
グラスライニング機器は、混合物を撹拌することで帯電し、その電荷が放電することでグラスライニング面にピンホールや剥離等の局部的な破損が生じることがある。グラスライニング面が破損したグラスライニング機器を継続して使用すると、その破損部から金属基材に腐食が進行し、金属の溶出による内容物の汚染や内容物の機器外への漏出等の問題が発生する。そのため、グラスライニング面に破損が生じた場合、グラスライニング機器の使用を停止し、破損部の補修や機器の更新等の対処を行う必要がある。
【0012】
例えば非特許文献1には、グラスライニング機器における静電気対策として、体積抵抗率の小さい材料を使用する、強い撹拌を避ける、内容物の量を減らす等が挙げられている。しかしながら、これらの静電気対策は定性条件であり、グラスライニング機器におけるグラスライニング面の破損(以下、「GL破損」とも呼ぶ)を防止するための明確な基準は示されていない。また、これらの静電気対策によりGL破損をどの程度防止できるかも不明である。
【0013】
本実施形態における混合物の製造方法は、GL破損を防止することを目的とする。本実施形態における混合物の製造方法では、GL破損を防止するために、グラスライニング機器に投入する混合物(以下、「原料混合物」とも呼ぶ)に関する帯電パラメータが特定の範囲となる条件で混合物(以下、「目的混合物」とも呼ぶ)を製造する。本実施形態によれば、GL破損が発生しない条件で混合物を製造するため、GL破損を防止することができる。
【0014】
本実施形態における混合物は、例えば、スラリーであってもよい。本実施形態におけるスラリーは、例えば、高い帯電性を有する高帯電スラリーであってもよい。高帯電スラリーとしては、例えば、グラスライニング機器に投入し、撹拌した際に、接地面と機器内のガラス面との電位差が0.1kV以上となるスラリーが例示される。高帯電スラリーの一例は、溶媒にヘプタン又はヘキサンを用いているスラリー等である。
【0015】
<帯電パラメータ>
帯電パラメータは、グラスライニング機器を用いて混合物を製造するときに、グラスライニング機器の帯電状態に影響を与えるパラメータ群である。帯電パラメータは、グラスライニング機器を帯電させる帯電因子と、グラスライニング機器を除電する除電因子とを含むパラメータ群である。帯電因子及び除電因子は、混合物の物性に関する因子、混合物に関する撹拌条件に関する因子、及びそれらの両方に関する因子を含む。
【0016】
本実施形態では、下記の帯電パラメータ(1)~(6)を用いる。なお、以下の説明は、グラスライニング機器がグラスライニング反応釜であり、混合物がスラリーである場合の候補パラメータの一例である。
【0017】
(1)粉体抵抗[Ω・m]:粉体抵抗は、固体の体積抵抗率である。体積抵抗率は、導電率とも呼ばれる。粉体抵抗は、対数値に変換して利用してもよい。
【0018】
(1)粉体抵抗は、試料を粉体用試料容器に充填し、電圧印加から1分経過後の値を測定すればよい。測定は、試料を入れ替えて3~10回行い、そのうち安定して得られた3回の結果を平均して粉体抵抗の測定値とするとよい。
【0019】
(1)粉体抵抗は、1.5×105[Ω・m]以上6.0×1018[Ω・m]以下であることが好ましい。(1)粉体抵抗は、1.5×107[Ω・m]以上6.0×1016[Ω・m]以下であることがより好ましい。(1)粉体抵抗は、1.4×109[Ω・m]以上3.7×1014[Ω・m]以下であることがさらに好ましい。
【0020】
(2)溶剤抵抗[Ω・m]:溶剤抵抗は、液体の体積抵抗率である。溶剤抵抗は、粉体抵抗と同様に、対数値に変換して利用してもよい。
【0021】
混合物が複数の溶媒を用いるスラリーである場合、(2)溶剤抵抗は、式(1)を用いて推算値として求めることができる。
【0022】
【0023】
ただし、kはスラリーの溶剤抵抗であり、ki(i=1,2,・・・)は純粋な成分iの溶剤抵抗であり、xiはスラリーの液相の成分iの組成である。
【0024】
各成分の溶剤抵抗は、例えば試料を液体用試料容器に充填し、電圧印加から1分経過後の値を測定すればよい。測定は、試料を入れ替えて3~10回行い、そのうち安定して得られた3回の結果を平均して溶剤抵抗の測定値とするとよい。
【0025】
(2)溶剤抵抗は、10[Ω・m]以上1.7×1015[Ω・m]以下であることが好ましい。(2)溶剤抵抗は、1.0×102[Ω・m]以上1.7×1014[Ω・m]以下であることがより好ましい。(2)溶剤抵抗は、1.0×103[Ω・m]以上3.3×1013[Ω・m]以下であることがさらに好ましい。
【0026】
(3)動力数:動力数は、撹拌翼の形状やバッフル板の種類及び枚数によって定まる。動力数は、グラスライニング反応釜固有の値である。
【0027】
(3)動力数は、0.2以上4.8以下であることが好ましい。(3)動力数は、0.3以上2.9以下であることがより好ましい。(3)動力数は、0.4以上1.0以下であることがさらに好ましい。
【0028】
(4)終末沈降速度[m/s]:終末沈降速度は、撹拌していない状態で、D50の固体をスラリーに用いる液体に入れたとき、固体が液体中を落下するときに到達する速度である。
【0029】
なお、D50とは、積算値が50%の地点の粒子径(「メジアン径」とも呼ばれる)である。粒子径は、乾燥状態の固体の粒子径(「ドライケーキ」又は「D/C」とも呼ばれる)を用いる。
【0030】
(4)終末沈降速度は、粒子レイノルズ数(Re数)の値に従って定められた各領域について、それぞれに適用される終末沈降速度を求める式を適用することで算出することができる。Re数は、式(2)を用いて計算することができる。
【0031】
【0032】
ただし、ρfは溶剤密度[kg/m3]であり、usは終末沈降速度であり、dpはD50の粒子径[m]であり、μfは溶剤粘度[Pa・s]である。
【0033】
終末沈降速度usは、ストークス域(Re<2)では、式(2-1)により計算し、アレン域(2<Re<500)では、式(2-2)により計算する。
【0034】
【0035】
ただし、ρsは粉体密度[kg/m3]であり、gは重力加速度[kg/・s2]である。
【0036】
(4)終末沈降速度は、2.0×10-5[m/s]以上8.4×10-2[m/s]以下であることが好ましい。
【0037】
(5)浮遊限界速度比:浮遊限界速度比は、回転数[rpm]と浮遊限界速度[rpm]との比である。浮遊限界速度比が1より大きいと、固体はグラスライニング反応釜内で均一に撹拌できる。一方、浮遊限界速度比が1より小さいと、グラスライニング反応釜の下部で固体が滞留しやすい。
【0038】
なお、回転数とは、グラスライニング反応釜における撹拌が1分間に回転する回数である。浮遊限界速度とは、グラスライニング反応釜で撹拌する際、グラスライニング反応釜の下部に沈降したD50の固体をグラスライニング反応釜の上部まで浮遊させるために必要な撹拌の回転数である。
【0039】
浮遊限界速度は、Zwieteringの式(3)によって計算される撹拌回転数を用いることができる。
【0040】
【0041】
ただし、Nfは浮遊限界速度であり、φは翼形状によって決まる係数であり、Dはグラスライニング反応釜の槽径[m]であり、dは翼スパン[m]であり、tは翼形状によって決まる係数であり、Δρは粉体と溶剤の密度差[kg/m3]であり、ρfは溶剤密度[kg/m3]であり、gは重力加速度[kg/m・s2]であり、μfは溶剤粘度[Pa・s]であり、dpはD50の粒子径[m]であり、Xは液体に対する固体の重量比(固形分濃度)[kg/kg]である。
【0042】
(5)浮遊限界速度比は、0.96以上5.38以下であることが好ましい。
【0043】
(6)比表面積[m2/m3]:比表面積は、スラリー液量[m3]の単位体積あたりの接液面積[m2]である。
【0044】
なお、スラリー液量とは、グラスライニング反応釜内のスラリーの体積である。スラリー液量は、液体のみの体積ではなく、液体の体積と固体の体積との和である。接液面積とは、所定の容積のグラスライニング反応釜に所定の体積のスラリーを入れた際に、グラスライニング面とスラリーとが接する面積である。
【0045】
(6)比表面積は、1.8[m2/m3]以上6.3[m2/m3]以下であることが好ましい。(6)比表面積は、1.8[m2/m3]以上4.8[m2/m3]以下であることがより好ましい。(6)比表面積は、1.8[m2/m3]以上4.2[m2/m3]以下であることがさらに好ましい。
【0046】
<混合物の製造方法>
本実施形態における混合物の製造方法の一例について説明する。本実施形態における混合物の製造方法は、グラスライニング機器を用いて目的混合物を製造する方法である。目的混合物の製造は、原料混合物をグラスライニング機器に接触させる工程を含む。原料混合物をグラスライニング機器に接触させる工程とは、例えば、原料混合物をグラスライニング反応釜に投入し、帯電パラメータが特定の範囲となる条件で原料混合物を撹拌することを含む。
【0047】
本実施形態における混合物の製造方法では、帯電パラメータが特定の範囲となる条件で、原料混合物をグラスライニング機器に接触させる。特定の範囲は、具体的には、式(4)で表される。
【0048】
【0049】
ただし、Aは終末沈降速度であり、Bは溶剤抵抗の常用対数であり、Cは動力数であり、Dは浮遊限界速度比であり、Eは比表面積であり、Fは粉体抵抗の常用対数であり、a,b,c,d,e,fは予め定めた定数である。定数a,b,c,d,e,fは、a=26.54、b=0.11、c=-1.71、d=-0.29、e=-0.50、f=0.22である。
【0050】
<検証結果>
本実施形態によるGL破損の有無を検証した結果について、表1を参照しながら説明する。表1は、検証結果の一例を示す表である。
【0051】
【0052】
GL破損の有無の検証では、多数の帯電パラメータとGL破損の有無を含む実績データを収集し、各実績データの条件で評価値Yを計算した。以下、GL破損無であった条件を実施例とし、GL破損有であった条件を比較例として説明する。
【0053】
表1に示されているように、比較例1,2では、評価値Yがそれぞれ4.0,2.4であり、-3.8以上2.6以下の範囲外となった。また、実施例1-3では、評価値Yがそれぞれ1.7,-0.018,-2.6であり、-3.8以上2.6以下の範囲内となった。
【0054】
上記のとおり、GL破損無であった実施例すべてで、評価値Yが特定の範囲内となった。一方、GL破損有であった比較例すべてで、評価値Yが特定の範囲外となった。本検証により、本実施形態における混合物の製造方法によれば、GL破損を発生せずに混合物を製造できることが示された。
【0055】
<実施形態の効果>
本実施形態における混合物の製造方法は、複数の帯電パラメータの重み付け和が特定の範囲となる条件で、原料混合物をグラスライニング機器に接触させる。混合物によるGL破損は、所定の帯電パラメータの重み付け和が特定の範囲内であるときには発生しないことが、GL破損の実績を分析した結果、判明している。したがって、本実施形態によれば、グラスライニング機器のGL破損を防止することができる。
【0056】
本実施形態における帯電パラメータは、終末沈降速度、溶剤抵抗、動力数、浮遊限界速度比、比表面積、粉体抵抗である。これらの帯電パラメータは、混合物をグラスライニング機器に接触させたときにグラスライニング機器の帯電状態を変化させる因子である。GL破損は、混合物を撹拌することで生じる静電気が一因であることが知られている。したがって、本実施形態によれば、静電気によるグラスライニング機器のGL破損を精度よく防止することができる。
【0057】
本実施形態における混合物は、1種類以上の固体及び1種類以上の液体を含む。1種類以上の固体及び1種類以上の液体を含む混合物は、スラリーであってもよい。スラリーは、高帯電スラリーであってもよい。したがって、本実施形態によれば、スラリーを製造するときのグラスライニング機器のGL破損を防止することができる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。