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特開2024-1548ロケットエンジン用のポンプ装置のための状態監視システムおよびプログラム、並びに状態監視システムを用いたロケットエンジン用のポンプ装置の監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001548
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ロケットエンジン用のポンプ装置のための状態監視システムおよびプログラム、並びに状態監視システムを用いたロケットエンジン用のポンプ装置の監視方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 51/00 20060101AFI20231227BHJP
   F02K 9/46 20060101ALI20231227BHJP
   F02K 9/96 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
F04B51/00
F02K9/46
F02K9/96
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100273
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 竜司
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 英樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽一
(72)【発明者】
【氏名】有吉 佑弥
(72)【発明者】
【氏名】ロカレ テジャス
(72)【発明者】
【氏名】向江 洋人
(72)【発明者】
【氏名】内海 政春
【テーマコード(参考)】
3H145
【Fターム(参考)】
3H145BA41
3H145CA03
3H145CA06
3H145CA19
3H145CA21
3H145EA13
3H145EA14
3H145EA16
3H145EA20
3H145EA38
3H145EA50
3H145FA17
3H145FA26
3H145FA28
(57)【要約】
【課題】ロケットエンジン用のポンプ装置の状態を監視することができる状態監視システムを提供する。
【解決手段】状態監視システムは、ポンプ装置の動作状態を示す状態指標値を生成する指標生成装置50と、状態指標値に基づいてポンプ装置の動作状態を判定する動作状態監視装置60を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進剤をロケットエンジンに移送するためのポンプ装置の状態監視システムであって、
前記ポンプ装置の動作状態を示す状態指標値を生成する指標生成装置と、
前記状態指標値に基づいて前記ポンプ装置の動作状態を判定する動作状態監視装置を備えている状態監視システム。
【請求項2】
前記動作状態監視装置は、
前記状態指標値の経時的変化を示す指標時系列データを作成し、
前記指標時系列データを参照時系列データと比較し、
前記指標時系列データと前記参照時系列データとの類似度がトレンドしきい値を上回ったときに、故障予測警報信号を生成するように構成されている、請求項1に記載の状態監視システム。
【請求項3】
前記動作状態監視装置は、
前記状態指標値を状態しきい値と比較し、
前記状態指標値が前記状態しきい値に達したときに、故障発生警報信号を生成するように構成されている、請求項2に記載の状態監視システム。
【請求項4】
前記状態指標値は、前記ポンプ装置の軸受、軸封装置、および羽根車のうちの1つの動作状態を示す状態指標値である、請求項1に記載の状態監視システム。
【請求項5】
推進剤をロケットエンジンに移送するときのポンプ装置の動作状態を、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の状態監視システムを用いて監視する方法。
【請求項6】
推進剤をロケットエンジンに移送するためのポンプ装置の動作状態を示す状態指標値を指標生成装置から取得するステップと、
前記状態指標値に基づいて前記ポンプ装置の動作状態を判定するステップをコンピュータに実行させるように構成されているプログラム。
【請求項7】
前記状態指標値に基づいて前記ポンプ装置の動作状態を判定するステップは、
前記状態指標値の経時的変化を示す指標時系列データを作成するステップと、
前記指標時系列データを参照時系列データと比較するステップと、
前記指標時系列データと前記参照時系列データとの類似度がトレンドしきい値を上回ったときに、故障予測警報信号を生成するステップを含む、請求項6に記載のプログラム。
【請求項8】
前記状態指標値を状態しきい値と比較するステップと、
前記状態指標値が前記状態しきい値に達したときに、故障発生警報信号を生成するステップをさらにコンピュータに実行させるように構成されている、請求項7に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロケットや宇宙船などの宇宙航行機のロケットエンジン用のポンプ装置のための状態監視システムに関し、特に上記ポンプ装置の故障予測または故障検出をするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、ロケットや宇宙船などの宇宙航行機に搭載される、一般的なロケットエンジンシステムの一例を示す模式図である。図7に示すように、酸化剤および燃料は、二系統のポンプ装置500によってロケットエンジンに供給される。各ポンプ装置500は、酸化剤または燃料を圧送するためのポンプ501と、ポンプ501の羽根車502を回転させるための電動機503を備えている。酸化剤用のポンプ501と、燃料用のポンプ501は、それぞれ独立に駆動され、酸化剤および燃料はロケットエンジン510の燃焼室に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-524851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、ロケットエンジンの設計上の寿命は数時間であり、ロケットエンジンの実際の使用時間は数分間である。したがって、ロケットエンジンの運転中にポンプ装置の故障を予測するという要請が存在しなかった。
【0005】
しかしながら、最近では、ポンプ装置の再利用、または有人宇宙船などの長時間の航行が可能なロケットエンジンに対する要請が高まっている。そこで、一例では、ロケットに多くのエンジンを装備し(クラスター化と呼ぶ)、万が一1つのエンジンが故障しても、そのエンジンを安全に停止させることによってトラブルを回避し、ミッションを完遂する、あるいは、安全な状態でロケットを帰還させるなどの方法が採用されることがある。
【0006】
ロケットエンジンの安全な運転を保証するためには、ポンプ装置の保全性を向上させることが重要となる。具体的には、適切なタイミングでポンプ装置のメンテナンスを実施し、あるいは必要に応じてポンプ装置を安全モードで運転する必要がある。このようなポンプ装置のメンテナンスおよび運転を実施するためには、ポンプ装置の状態を監視することが重要である。
【0007】
そこで、本発明は、ロケットエンジン用のポンプ装置の状態を監視することができる状態監視システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、推進剤をロケットエンジンに移送するためのポンプ装置の状態監視システムであって、前記ポンプ装置の動作状態を示す状態指標値を生成する指標生成装置と、前記状態指標値に基づいて前記ポンプ装置の動作状態を判定する動作状態監視装置を備えている状態監視システムが提供される。
【0009】
一態様では、前記動作状態監視装置は、前記状態指標値の経時的変化を示す指標時系列データを作成し、前記指標時系列データを参照時系列データと比較し、前記指標時系列データと前記参照時系列データとの類似度がトレンドしきい値を上回ったときに、故障予測警報信号を生成するように構成されている。
一態様では、前記動作状態監視装置は、前記状態指標値を状態しきい値と比較し、前記状態指標値が前記状態しきい値に達したときに、故障発生警報信号を生成するように構成されている。
一態様では、前記状態指標値は、前記ポンプ装置の軸受、軸封装置、および羽根車のうちの1つの動作状態を示す状態指標値である。
【0010】
一態様では、推進剤をロケットエンジンに移送するときのポンプ装置の動作状態を上記状態監視システムを用いて監視する方法が提供される。
【0011】
一態様では、推進剤をロケットエンジンに移送するためのポンプ装置の動作状態を示す状態指標値を指標生成装置から取得するステップと、前記状態指標値に基づいて前記ポンプ装置の動作状態を判定するステップをコンピュータに実行させるように構成されているプログラムが提供される。
一態様では、前記状態指標値に基づいて前記ポンプ装置の動作状態を判定するステップは、前記状態指標値の経時的変化を示す指標時系列データを作成するステップと、前記指標時系列データを参照時系列データと比較するステップと、前記指標時系列データと前記参照時系列データとの類似度がトレンドしきい値を上回ったときに、故障予測警報信号を生成するステップを含む。
一態様では、前記プログラムは、前記状態指標値を状態しきい値と比較するステップと、前記状態指標値が前記状態しきい値に達したときに、故障発生警報信号を生成するステップをさらにコンピュータに実行させるように構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、状態指標値(例えば、ポンプ装置の振動)に基づいて、ポンプ装置の動作状態が監視できる。ポンプ装置の動作状態が正常であれば、ポンプ装置のオーバーホールの必要はない。したがって、ロケットエンジンへのポンプ装置の再利用が可能になり、ロケットエンジンの長期運転にポンプ装置を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ポンプ装置および状態監視システムの一実施形態を示す図である。
図2】指標生成装置により生成された状態指標値に基づいてポンプ装置の動作状態を判定する一実施形態を説明するフローチャートである。
図3】状態監視システムの他の実施形態を示す図である。
図4】状態監視システムのさらに他の実施形態を示す図である。
図5】状態監視システムのさらに他の実施形態を示す図である。
図6】状態監視システムのさらに他の実施形態を示す図である。
図7】一般的なロケットエンジンシステムの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
以下に説明するポンプ装置は、酸化剤または燃料などの推進剤を、ロケットなどの宇宙航行機のロケットエンジンに移送するためのポンプ装置である。酸化剤の例としては、液体酸素が挙げられる。燃料の例としては、液体水素、液化天然ガス、液化メタンなどが挙げられる。以下の説明では、酸化剤および燃料を、総称して推進剤という。すなわち、本明細書において、特に説明がない限り、推進剤は、ロケットエンジン用の酸化剤または燃料のことを意味する。
【0015】
図1は、ポンプ装置および状態監視システムの一実施形態を示す図である。ポンプ装置は、液化ガスを圧送するための羽根車3を有するポンプ1と、羽根車3を回転させるための電動機5と、羽根車3と電動機5のロータ20とを連結する回転軸7と、回転軸7を回転可能に支持する軸受8,9を備えている。ポンプ1は、羽根車3を収容する羽根車ケーシング11と、羽根車3と、羽根車3と一体に回転可能なインデューサ12を備えている。インデューサ12は、羽根車3の上流に位置しており、羽根車3に流入する液化ガスを昇圧するために設けられている。インデューサ12は、省略されることもある。羽根車ケーシング11は、その内部にポンプ室15を有しており、羽根車3はポンプ室15内に回転可能に配置されている。
【0016】
羽根車ケーシング11は、吸込み口16と吐出し口(図示せず)を有している。羽根車3およびインデューサ12は、回転軸7によって電動機5に連結されている。電動機5により羽根車3およびインデューサ12が回転されると、推進剤(ロケットエンジン用の酸化剤または燃料)としての液化ガスは、吸込み口16を通じてポンプ室15内に流入し、羽根車3の回転により昇圧され、吐出し口(図示せず)を通じてポンプ1から吐出される。昇圧された液化ガスは、ロケットエンジンの燃焼室に移送される(図7参照)。
【0017】
電動機5は、回転軸7に固定されたロータ20と、ロータ20に対向して配置されたステータ21と、ロータ20およびステータ21を収容するモータハウジング22を備えている。ロータ20は、複数の永久磁石(図示せず)を有している。ステータ21は、ロータ20の周囲に配置された複数のコイル24を有している。コイル24は、電源としての蓄電池(図示せず)に電気的に接続されている。蓄電池からコイル24に電流が供給されると、ステータ21は回転磁界を発生し、ロータ20は回転磁界により回転される。ロータ20の回転は回転軸7を通じて羽根車3およびインデューサ12を回転させる。このようにして、ポンプ1は電動機5により駆動(回転)される。
【0018】
ポンプ装置は、ポンプ1と電動機5との間に配置された軸封装置30を備えている。本実施形態では、軸封装置30は、接触式軸封装置の一例であるメカニカルシールである。軸封装置30としてのメカニカルシールは、回転軸7と一体に回転する回転側要素(メイティングリング)31と、回転しない静止側要素(メカニカルシール)32と、静止側要素32を回転側要素31に対して押し付けるばね(図示せず)を備えている。静止側要素32は、羽根車ケーシング11とモータハウジング22との間に位置するシールハウジング35の内側に取り付けられている。
【0019】
他の実施形態では、軸封装置30は、フローティングリングシールなどの他のタイプの軸封装置であってもよい。羽根車ケーシング11、モータハウジング22、およびシールハウジング35は、一体構造物であってもよく、あるいは別体として構成されてもよい。羽根車ケーシング11、モータハウジング22、およびシールハウジング35は、ポンプ装置の外面を形成するポンプケーシング37を構成する。モータハウジング22は、その内部にモータ室27を有しており、ロータ20およびステータ21はモータ室27内に配置されている。軸封装置30は、ポンプ室15とモータ室27との間に位置しており、ポンプ室15とモータ室27の両方に面している。
【0020】
軸受8,9は、電動機5の両側に配置されている。より具体的には、軸受8は、羽根車3と軸封装置30との間に配置され、他方の軸受9は、回転軸7の端部に配置されている。一実施形態では、軸受8は、軸封装置30と電動機5との間に配置されてもよい。軸受8,9は、流体の通過を許容するように構成されている。軸受8,9のタイプは、特に限定されない。軸受8,9の例としては、転がり軸受(玉軸受、コロ軸受など)、滑り軸受などが挙げられる。
【0021】
羽根車3の回転によって昇圧された液体ガスの一部は、ポンプ室15から軸受8を通過して、軸封装置30に到達する。軸封装置30は、実質的に液化ガスの通過を許容しないが、微量の液化ガスは、回転側要素31と静止側要素32との間の微小な隙間を通過して、モータ室27内に移動する。微量な液化ガスが軸封装置30を通過するとき、回転側要素31と静止側要素32との摩擦熱により液化ガスは気化する。この気化した推進剤(以下、ボイルオフガスという)は、モータ室27内に流入し、モータハウジング22に形成されたガス排出口38を通ってモータ室27から排出される。ガス排出口38は、モータ室27に連通している。
【0022】
状態監視システムは、ポンプ装置の動作状態を示す状態指標値を生成する指標生成装置50と、状態指標値に基づいてポンプ装置の動作状態を判定する動作状態監視装置60を備えている。ポンプ装置の動作状態は、軸受8、軸封装置30、羽根車3などの状態に依存する。例えば、軸受8が摩耗または故障すると、ポンプ装置の全体の振動が大きくなる。別の例では、軸封装置30が摩耗または故障すると、回転側要素31と静止側要素32との間の微小な隙間を通過する液化ガスの流量が増加する。さらに別の例では、キャビテーションに起因して起こる羽根車3またはインデューサ12の壊食が進行すると、羽根車3の径方向の変位が大きくなり、ポンプ装置の全体の振動が大きくなる。
【0023】
このようなポンプ装置の過大な振動や、液化ガスの過度な漏洩が起こると、ポンプ装置をメンテナンスするか、またはポンプ装置を停止または低速運転させなければならない。したがって、ロケットエンジンの運転に影響を及ぼしうるポンプ装置の動作状態の具体例としては、軸受8の動作状態、軸封装置30の動作状態、および羽根車3の動作状態が挙げられる。
【0024】
一実施形態では、図1に示すように、指標生成装置50は、ポンプ装置の振動を測定する加速度ピックアップ装置(例えば加速度センサ)51と、振動の時系列データに対して高速フーリエ変換処理(FFT)を実行して振動の周波数成分の強度を算定するFFT振動分析装置52を含む。
【0025】
加速度ピックアップ装置51は、ポンプケーシング37に取り付けられている。具体的には、加速度ピックアップ装置51は、羽根車ケーシング11に取り付けられてもよいし、またはシールハウジング35に取り付けられてもよいし、またはモータハウジング22に取り付けられてもよい。
【0026】
FFT振動分析装置52は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。FFT振動分析装置52は、高速フーリエ変換処理を実行するためのプログラムが格納された記憶装置52aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置52bを備えている。記憶装置52aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置52bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、FFT振動分析装置52の具体的構成は本実施形態に限定されない。
【0027】
軸受8が摩耗または故障すると、ポンプ装置の振動が大きくなる。軸受8の摩耗に起因する振動は、羽根車3の回転速度と同じ周波数を持ち、その振幅は軸受8が正常状態にあるときの振動よりも大きいと予想される。軸受8の損傷に起因する振動は、平常時には存在しない周期的な振動と予想される。FFT振動分析装置52は、軸受8の摩耗または故障に起因する振動の周波数成分を抽出する。
【0028】
軸受8の摩耗または故障(不具合)が進行するにつれて、上記振動の周波数成分の強度は増加する。したがって、指標生成装置50によって得られた振動の周波数成分の強度は、軸受8の動作状態(すなわち、ポンプ装置の動作状態)を示す状態指標値として使用することができる。本実施形態では、動作状態監視装置60は、FFT振動分析装置52によって算定された振動の周波数成分の強度である状態指標値に基づいて軸受8の動作状態(すなわち、ポンプ装置の動作状態)を判定するように構成されている。
【0029】
動作状態監視装置60は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。動作状態監視装置60は、プログラムが格納された記憶装置60aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置60bを備えている。記憶装置60aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置60bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、動作状態監視装置60の具体的構成は本実施形態に限定されない。
【0030】
一実施形態では、FFT振動分析装置52と動作状態監視装置60は、一体構造物であってもよい。例えば、FFT振動分析装置52と動作状態監視装置60は、1台のコンピュータから構成されてもよい。この場合は、1台のコンピュータは、FFT振動分析装置52および動作状態監視装置60として機能する。
【0031】
動作状態監視装置60は、指標生成装置50に通信線で接続されたエッジサーバであってもよいし、指標生成装置50に無線で接続されたクラウドサーバであってもよい。動作状態監視装置60は、複数のサーバの組み合わせであってもよい。例えば、動作状態監視装置60は、インターネットまたはローカルネットワークなどの通信ネットワークにより互いに接続されたエッジサーバとクラウドサーバとの組み合わせであってもよい。
【0032】
軸受8の摩耗または故障(不具合)が進行するにつれて、上記振動の周波数成分の強度は増加する。言い換えれば、振動の周波数成分の強度のトレンドから、軸受8の状態が判定できる。そこで、一実施形態では、動作状態監視装置60は、振動の周波数成分の強度である状態指標値の経時的変化を示す指標時系列データを作成し、指標時系列データを参照時系列データと比較する。
【0033】
この参照時系列データは、振動の周波数成分の強度の実際の値を含むビッグデータに基づいて予め作成される。より具体的には、参照時系列データは、軸受が寿命に達するまで、または軸受が故障するまでの、ポンプ装置の振動の周波数成分の強度の経時的変化を示す時系列データである。参照時系列データは、動作状態監視装置60の記憶装置60aに予め電気的に格納される。
【0034】
動作状態監視装置60は、指標時系列データと参照時系列データとの類似度がトレンドしきい値を上回ったときに、故障予測警報信号を生成するように構成されている。指標時系列データと参照時系列データとの類似度は、コサイン類似度などの公知の技術を用いて算定することができる。類似度が高いということは、指標時系列データは参照時系列データに近いことを意味する。トレンドしきい値は、軸受8が寿命に近づいていることを示す数値であり、ビッグデータから作成された参照時系列データに基づいて(すなわち、過去の運転実績に基づいて)予め設定される。
【0035】
動作状態監視装置60は、故障予測警報信号をポンプ装置の図示しない動作制御部に送り、動作制御部は、故障予測警報信号を受けて、ポンプ装置を安全モードで運転させるか、またはポンプ装置を停止させてもよい。指標時系列データと参照時系列データとの類似度がトレンドしきい値を下回っているときは、軸受8は正常に動作していると推定される。このように、本実施形態によれば、動作状態監視装置60は、状態指標値の経時的変化を示す指標時系列データに基づいて、軸受8の動作状態を監視することができる。
【0036】
一実施形態では、動作状態監視装置60は、指標生成装置50によって得られた状態指標値を状態しきい値と比較し、状態指標値が状態しきい値に達したときに、故障発生警報信号を生成するように構成されている。状態しきい値は、軸受8が寿命に達したこと、または軸受8が故障したことを示す数値であり、ビッグデータに基づいて予め設定される。動作状態監視装置60は、故障発生警報信号をポンプ装置の図示しない動作制御部に送り、動作制御部は、故障発生警報信号を受けて、ポンプ装置を安全モードで運転させるか、またはポンプ装置を停止させてもよい。
【0037】
図2は、指標生成装置50により生成された状態指標値に基づいて軸受8の動作状態(すなわち、ポンプ装置の動作状態)を判定する一実施形態を説明するフローチャートである。
ステップ1では、指標生成装置50は、軸受8の動作状態(すなわち、ポンプ装置の動作状態)を示す振動の周波数成分の強度である状態指標値を生成する。状態指標値(振動の周波数成分の強度)は、動作状態監視装置60に送られ、動作状態監視装置60は、状態指標値(振動の周波数成分の強度)を指標生成装置50から取得する。
ステップ2では、動作状態監視装置60は、状態指標値の経時的変化を示す指標時系列データを作成する。
【0038】
ステップ3では、動作状態監視装置60は、指標時系列データを参照時系列データと比較し、指標時系列データと参照時系列データとの類似度を算定する。
ステップ4では、動作状態監視装置60は、指標時系列データと参照時系列データとの類似度がトレンドしきい値を上回っているか否かを判定する。
ステップ5では、動作状態監視装置60は、上記類似度がトレンドしきい値を上回ったときに、故障予測警報信号を生成する。上記類似度がトレンドしきい値を下回ったときは、動作状態監視装置60は、上記ステップ1~4を繰り返す。
【0039】
ステップ6では、動作状態監視装置60は、状態指標値を状態しきい値と比較し、状態指標値が状態しきい値に達したか否かを判定する。
ステップ7では、動作状態監視装置60は、状態指標値が状態しきい値に達したときに、故障発生警報信号を生成する。状態指標値が状態しきい値に達していなければ、動作状態監視装置60は、上記ステップ1~6を繰り返す。
【0040】
加速度ピックアップ装置51が故障すると、ポンプ装置の動作状態が正常であっても、動作状態監視装置60は上記故障予測警報信号を発することもある。このような誤検出を防止するために、一実施形態では、複数の加速度ピックアップ装置51を設けてもよい。動作状態監視装置60は、複数の加速度ピックアップ装置51を含む指標生成装置50によって生成された状態指標値から複数の指標時系列データを生成し、複数の指標時系列データと参照時系列データとの複数の類似度を算定し、複数の類似度をトレンドしきい値と比較するように構成されてもよい。
【0041】
以上説明したように、動作状態監視装置60は、状態指標値に基づいてポンプ装置の動作状態を判定することができる。より具体的には、動作状態監視装置60は、状態指標値に基づいてポンプ装置が正常に動作しているか否かを判定することができ、さらには、状態指標値に基づいてポンプ装置の故障を予測することができる。
【0042】
これらステップ1~7を動作状態監視装置60に実行させるためのプログラムは、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、記録媒体を介して動作状態監視装置60に提供される。または、プログラムは、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークを介して動作状態監視装置60に入力されてもよい。
【0043】
上記実施形態では、図1に示す軸受8の動作状態が監視されているが、軸受9の動作状態が監視されてもよい。
【0044】
次に、図3を参照して状態監視システムの他の実施形態について説明する。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、図1および図2を参照して説明した上記実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0045】
本実施形態では、状態指標値として、軸受8の温度が使用されている。軸受8が摩耗または故障すると、軸受8の温度が上昇すると予想される。図3に示すように、指標生成装置として、軸受8の温度を測定する温度測定装置(例えば温度計または温度センサ)70が使用されている。温度測定装置70は、軸受8に接触している。一実施形態では、温度測定装置70は、軸受8を保持しているポンプケーシング37に取り付けられ、ポンプケーシング37を介して間接的に軸受8の温度を測定してもよい。
【0046】
動作状態監視装置60は、指標生成装置としての温度測定装置70によって得られた軸受8の温度である状態指標値に基づいて軸受8の動作状態(すなわち、ポンプ装置の動作状態)を判定するように構成されている。図2に示すフローチャートは、図3に示す実施形態にも同様に適用することができるので、その重複する説明を省略する。
【0047】
次に、図4を参照して状態監視システムの他の実施形態について説明する。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、図1および図2を参照して説明した上記実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0048】
本実施形態では、状態指標値として、軸受8の摩耗または故障に起因する振動の周波数成分の強度に代えて、軸封装置30を通じて漏洩した、気化した推進剤であるボイルオフガスの流量が使用されている。図4に示すように、指標生成装置として、軸封装置30を通じて漏洩したボイルオフガスの流量を測定する流量測定装置(例えば流量計)80を備えている。流量測定装置80は、ガス排出口38に連通している。すなわち、軸封装置30を通じて漏洩したボイルオフガスは、ガス排出口38を通ってモータ室27から排出され、流量測定装置80は、ガス排出口38を流れるボイルオフガスの流量を計測する。
【0049】
軸封装置30が摩耗または故障すると、軸封装置30を漏洩するボイルオフガス(気化した推進剤)の流量は増加する。したがって、軸封装置30を漏洩したボイルオフガスの流量は、軸封装置30の動作状態(すなわち、ポンプ装置の動作状態)を示す状態指標値として使用することができる。本実施形態では、動作状態監視装置60は、指標生成装置としての流量測定装置80によって得られたボイルオフガスの流量である状態指標値に基づいて軸封装置30の動作状態(すなわち、ポンプ装置の動作状態)を判定するように構成されている。図2に示すフローチャートは、図4に示す実施形態にも同様に適用することができるので、その重複する説明を省略する。
【0050】
次に、図5を参照して状態監視システムの他の実施形態について説明する。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、図1および図2を参照して説明した上記実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0051】
本実施形態では、状態指標値として、軸封装置30を通じて漏洩した、気化した推進剤であるボイルオフガスの圧力が使用されている。図5に示すように、指標生成装置として、軸封装置30を通じて漏洩した推進剤の圧力を測定する圧力測定装置(例えば圧力センサまたは圧力計)90が使用されている。圧力測定装置90は、ガス排出口38に連通している。すなわち、軸封装置30を通じて漏洩したボイルオフガスは、ガス排出口38を通ってモータ室27から排出され、圧力測定装置90は、ガス排出口38を流れるボイルオフガスの圧力を計測する。一実施形態では、圧力測定装置90は、モータ室27内に配置されてもよい。
【0052】
軸封装置30が摩耗または故障すると、軸封装置30を漏洩するボイルオフガス(気化した推進剤)の流量が増加する。結果として、ガス排出口38を流れるボイルオフガスの圧力、またはモータ室27内のボイルオフガスの圧力は増加する。したがって、軸封装置30を漏洩したボイルオフガスの圧力は、軸封装置30の動作状態(すなわち、ポンプ装置の動作状態)を示す状態指標値として使用することができる。本実施形態では、動作状態監視装置60は、指標生成装置としての圧力測定装置90によって得られたボイルオフガスの圧力である状態指標値に基づいて軸封装置30の動作状態(すなわち、ポンプ装置の動作状態)を判定するように構成されている。図2に示すフローチャートは、図5に示す実施形態にも同様に適用することができるので、その重複する説明を省略する。
【0053】
次に、図6を参照して状態監視システムの他の実施形態について説明する。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、図1および図2を参照して説明した上記実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0054】
本実施形態では、状態指標値として、回転軸7の径方向の変位が使用されている。図6に示すように、指標生成装置として、回転軸7の径方向の変位を測定する変位測定装置(例えば変位センサ)100を備えている。変位測定装置100は、回転軸7の端部に近接して配置されており、回転軸7の径方向の変位を測定する。
【0055】
羽根車3が回転しているとき、羽根車3の上流側でキャビテーションが起こることがある。キャビテーションが起こると、羽根車3および/またはインデューサ12の表面に壊食が発生する。壊食が進行すると、羽根車3の回転バランスが崩れる。結果として、羽根車3の回転中の回転軸7の径方向の変位が大きくなり、回転軸7の全体が振動する。したがって、回転軸7の径方向の変位は、羽根車3の動作状態(すなわち、ポンプ装置の動作状態)を示す状態指標値として使用することができる。
【0056】
本実施形態では、動作状態監視装置60は、指標生成装置としての変位測定装置100によって得られた回転軸7の径方向の変位である状態指標値に基づいて羽根車3の動作状態(すなわち、ポンプ装置の動作状態)を判定するように構成されている。図2に示すフローチャートは、図6に示す実施形態にも同様に適用することができるので、その重複する説明を省略する。
【0057】
以上述べたように、状態監視システムは、ポンプ装置の振動の周波数成分の強度、軸受8(または軸受9)の温度、軸封装置30から漏洩したボイルオフガス(気化した酸化剤または気化した燃料)の流量または圧力、回転軸7の径方向の変位のうちの1つからなる状態指標値に基づいて、ポンプ装置の動作状態を監視することができる。
【0058】
上述した各実施形態のポンプ装置は、モータ室27がドライの状態にあるドライ型モータポンプ装置であるが、本発明はドライ型モータポンプ装置のみならず、モータ室27内が推進剤で満たされる浸漬型モータポンプ装置、およびポンプ室15とモータ室27との間が隔壁で仕切られたキャンド型モータポンプ装置あるいはマグネット型モータポンプ装置にも適用することができる。
【0059】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0060】
1 ポンプ
3 羽根車
5 電動機
7 回転軸
8,9 軸受
11 羽根車ケーシング
12 インデューサ
15 ポンプ室
16 吸込み口
20 ロータ
21 ステータ
22 モータハウジング
24 コイル
27 モータ室
30 軸封装置
31 回転側要素
32 静止側要素
35 シールハウジング
37 ポンプケーシング
38 ガス排出口
50 指標生成装置
51 加速度ピックアップ装置
52 FFT振動分析装置
60 動作状態監視装置
70 温度測定装置(指標生成装置)
80 流量測定装置(指標生成装置)
90 圧力測定装置(指標生成装置)
100 変位測定装置(指標生成装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7