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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155047
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241024BHJP
   G03G 21/14 20060101ALI20241024BHJP
   G03G 21/20 20060101ALI20241024BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20241024BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G03G15/20 555
G03G21/14
G03G21/20
G03G21/00 398
H05B3/00 310B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069423
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】山下 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷 岳誠
(72)【発明者】
【氏名】吉浦 有信
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岩間 元孝
(72)【発明者】
【氏名】杉山 龍平
【テーマコード(参考)】
2H033
2H270
3K058
【Fターム(参考)】
2H033AA10
2H033AA41
2H033BA11
2H033BA12
2H033BA25
2H033BA31
2H033BE00
2H033BE03
2H033CA07
2H033CA22
2H033CA23
2H033CA27
2H033CA46
2H270KA35
2H270LA10
2H270LA25
2H270LC14
2H270MA35
2H270MA41
2H270MC44
2H270MC78
2H270MD02
2H270MG01
2H270MG02
2H270MH10
2H270ZC03
2H270ZC04
2H270ZC06
3K058AA53
3K058BA18
3K058CA07
3K058CA25
3K058CB04
3K058CB06
(57)【要約】
【課題】フリッカの抑制と良好な定着性を確保する。
【解決手段】互いに接触してニップ部Nを形成する一対の回転体21,22と、一対の回転体21,22の少なくとも一方を加熱する加熱源23とを備え、加熱源23が第一の加熱動作と第二の加熱動作とに切り替えて制御可能であって、ニップ部Nに進入する記録媒体Pを加熱し、記録媒体Pに画像を定着させる定着装置において、記録媒体Pがニップ部Nに進入する直前に、第一の加熱動作から第二の加熱動作に切り替えられる場合に、第二の加熱動作を、記録媒体Pがニップ部Nへ進入するタイミングよりも加熱源23の熱がニップ部Nに達するまでの遅延時間分だけ前に開始し、第二の加熱動作の直前に行われる第一の加熱動作を、加熱源23への供給電力のデューティが40%以下で、1制御周期以上継続して行う。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接触してニップ部を形成する一対の回転体と、
前記一対の回転体の少なくとも一方を加熱する加熱源とを備え、
前記加熱源が第一の加熱動作と第二の加熱動作とに切り替えて制御可能であって、
前記ニップ部に進入する記録媒体を加熱し、前記記録媒体に画像を定着させる定着装置において、
前記記録媒体が前記ニップ部に進入する直前に、第一の加熱動作から第二の加熱動作に切り替えられる場合に、
前記第二の加熱動作を、前記記録媒体が前記ニップ部へ進入するタイミングよりも前記加熱源の熱が前記ニップ部に達するまでの遅延時間分だけ前に開始し、
前記第二の加熱動作の直前に行われる前記第一の加熱動作を、前記加熱源への供給電力のデューティが40%以下で、1制御周期以上継続して行うことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記第二の加熱動作の直前に行われる前記第一の加熱動作を、前記加熱源への供給電力のデューティが10%以上40%以下で、1制御周期以上継続して行う請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
交流電源から前記加熱源への電力供給及び電力遮断を切り替えるスイッチ部と、
前記交流電源のゼロクロスタイミングを検知するゼロクロス検知部とを備え、
前記第一の加熱動作は、前記ゼロクロスタイミングに基づいて前記スイッチ部を前記交流電源の1半波のうち所定の位相角で通電制御する位相制御であり、
前記第二の加熱動作は、前記ゼロクロスタイミングに基づいて前記スイッチ部を前記交流電源の1半波ごとに全通電又は非通電に制御する半波制御である請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記第一の加熱動作及び前記第二の加熱動作のそれぞれの制御周期は、前記交流電源の連続する20個の半波を1制御周期とし、
前記交流電源の周波数が50Hzの場合、前記第一の加熱動作及び前記第二の加熱動作のそれぞれの制御周期を200msecとし、
前記交流電源の周波数が60Hzの場合、前記第一の加熱動作及び前記第二の加熱動作のそれぞれの制御周期を167msecとする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項5】
前記第二の加熱動作の直前に行われる前記第一の加熱動作を、前記加熱源への供給電力のデューティが40%以下で、1制御周期の整数倍の時間継続して行う請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項6】
記録媒体に画像を形成する画像形成部と、
前記記録媒体に画像を定着させる請求項1又は2に記載の定着装置とを備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタなどの画像形成装置として、トナー画像を用紙などの記録媒体に形成する電子写真方式の画像形成装置が知られている。
【0003】
電子写真方式の画像形成装置においては、トナー画像を用紙などの記録媒体に定着させるため、記録媒体上のトナー画像を加熱して、トナー画像を記録媒体に定着させる定着装置が設けられている。
【0004】
一般的に、定着装置は、互いに接触してニップ部を形成する一対の回転体、一対の回転体の少なくとも一方を加熱する加熱源などを備えている。交流電源から加熱源へ電力が供給されて、加熱源が発熱すると、回転体が画像を定着可能な目標温度となるまで加熱される。この状態で、回転体同士の間(ニップ部)に記録媒体が進入すると、記録媒体上の未定着画像が加熱され、未定着画像が記録媒体に定着される。
【0005】
ところで、加熱源に対する電力供給に伴って交流電圧に急激な変動が生じると、定着装置と電源系統を共にする蛍光灯がちらつくなどのフリッカと称される現象が発生することがある。
【0006】
このようなフリッカの発生を抑制するため、従来では、定着装置の加熱源の制御方法として、半波制御と位相制御を用いる方法が提案されている(例えば、特開2010-286649号公報参照)。
【0007】
しかしながら、従来の方法では、フリッカの発生を抑制しつつ、良好な定着性を確保することができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、フリッカの抑制と良好な定着性の確保を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、互いに接触してニップ部を形成する一対の回転体と、前記一対の回転体の少なくとも一方を加熱する加熱源とを備え、前記加熱源が第一の加熱動作と第二の加熱動作とに切り替えて制御可能であって、前記ニップ部に進入する記録媒体を加熱し、前記記録媒体に画像を定着させる定着装置において、前記記録媒体が前記ニップ部に進入する直前に、第一の加熱動作から第二の加熱動作に切り替えられる場合に、前記第二の加熱動作を、前記記録媒体が前記ニップ部へ進入するタイミングよりも前記加熱源の熱が前記ニップ部に達するまでの遅延時間分だけ前に開始し、前記第二の加熱動作の直前に行われる前記第一の加熱動作を、前記加熱源への供給電力のデューティが40%以下で、1制御周期以上継続して行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フリッカの抑制と良好な定着性の確保を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第一実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る定着装置の概略構成図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る加熱制御装置のブロック図である。
図4】本発明の第一実施形態に係る通紙及び温度制御のタイミングチャートを示す図である。
図5】フィードフォワード制御の開始タイミングとニップ部前の温度リップルとの関係を示す図である。
図6】フィードフォワード制御の開始タイミングに応じた温度リップルの変化の態様を示す図である。
図7】本発明の第一実施形態において、熱間時の温度制御のタイミングチャートを示す図である。
図8】本発明の第二実施形態に係る温度制御のタイミングチャートを示す図である。
図9】実施例1及び比較例1におけるジョブごとの定着ベルトの温度推移を示す図である。
図10】実施例1及び比較例1におけるジョブごとの画像の光沢度の推移を示す図である。
図11】実施例2及び比較例2におけるジョブごとの定着ベルトの温度推移を示す図である。
図12】実施例2及び比較例2におけるジョブごとの画像の光沢度の推移を示す図である。
図13】B4サイズの普通紙を通紙したときの通紙及び温度制御のタイミングチャートを示す図である。
図14】実施例3及び比較例3における通紙ごとの定着ベルトの温度推移を示す図である。
図15】実施例3及び比較例3における通紙ごとの画像の光沢度の推移を示す図である。
図16】用紙がニップ部に進入する前に必要な電力を供給するフィードフォワード制御のタイミングチャートの一例を示す図である。
図17】従来の熱間時の通紙及び温度制御のタイミングチャートを示す図である。
図18】従来の位相制御及び半波制御のタイミングチャートを示す図である。
図19】半波制御方式と位相制御方式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面に基づき、本発明について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材及び構成部品などの構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付し、一度説明した後ではその説明を省略する。
【0013】
<本発明の第一実施形態>
図1は、本発明の第一実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。ここで、本明細書中における「画像形成装置」には、プリンタ、複写機、ファクシミリ、印刷機、又は、これらのうちの二つ以上を組み合わせた複合機などが含まれる。また、以下の説明で使用する「画像形成」とは、文字及び図形などの意味を持つ画像を形成するだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を形成することも意味する。まず、図1を参照して、本発明の第一実施形態に係る画像形成装置の全体構成及び動作について説明する。
【0014】
<画像形成装置の全体構成>
図1に示されるように、本発明の第一実施形態に係る画像形成装置1000は、用紙などのシート状の記録媒体に画像を形成する画像形成部100と、記録媒体に画像を定着させる定着部200と、記録媒体を画像形成部100へ供給する記録媒体供給部300と、記録媒体を装置外へ排出する記録媒体排出部400を備えている。
【0015】
(画像形成部)
画像形成部100には、4つの作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkと、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkが備える感光体2に静電潜像を形成する露光装置6と、記録媒体に画像を転写する転写装置8が設けられている。
【0016】
各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの異なる色のトナー(現像剤)を収容している以外、基本的に同じ構成である。具体的に、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、表面に画像を担持する像担持体としての感光体2と、感光体2の表面を帯電させる帯電部材3と、感光体2の表面に現像剤としてのトナーを供給してトナー画像を形成する現像装置4と、感光体2の表面を清掃するクリーニング部材5を備えている。
【0017】
転写装置8は、中間転写ベルト11と、一次転写ローラ12と、二次転写ローラ13を備えている。中間転写ベルト11は、無端状のベルト部材であり、複数の支持ローラによって張架されている。一次転写ローラ12は、中間転写ベルト11の内側に4つ設けられている。各一次転写ローラ12が中間転写ベルト11を介して各感光体2に接触することにより、中間転写ベルト11と各感光体2との間に一次転写ニップが形成されている。二次転写ローラ13は、中間転写ベルト11の外周面に接触し、二次転写ニップを形成している。
【0018】
(定着部)
定着部200には、記録媒体を加熱して画像を記録媒体に定着させる定着装置20が設けられている。定着装置20は、互いに接触してニップ部を形成する一対の回転体21,22などを備えている。
【0019】
(記録媒体供給部)
記録媒体供給部300には、記録媒体としての用紙Pを収容する給紙カセット14と、給紙カセット14から用紙Pを送り出す給紙ローラ15が設けられている。以下、「記録媒体」を「用紙」として説明するが、「記録媒体」は紙(用紙)に限定されない。「記録媒体」は、紙(用紙)だけでなくOHPシート又は布帛、金属シート、プラスチックフィルム、あるいは炭素繊維にあらかじめ樹脂を含浸させたプリプレグシートなども含む。また、「用紙」には、普通紙以外に、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙及びアート紙など)、トレーシングペーパなども含まれる。
【0020】
(記録媒体排出部)
記録媒体排出部400には、用紙Pを画像形成装置外に排出する一対の排紙ローラ17と、排紙ローラ17によって排出された用紙Pを載置する排紙トレイ18が設けられている。
【0021】
<画像形成動作>
次に、図1を参照しつつ本発明の第一実施形態に係る画像形成装置1000の画像形成動作について説明する。
【0022】
画像形成動作が開始されると、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkの感光体2及び転写装置8の中間転写ベルト11が回転を開始する。また、給紙ローラ15が、回転を開始し、給紙カセット14から用紙Pが送り出される。送り出された用紙Pは、一対のタイミングローラ16に接触することにより静止し、用紙Pに転写される画像が形成されるまで用紙Pの搬送が一旦停止される。
【0023】
各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkにおいては、まず、帯電部材3によって、感光体2の表面が均一な高電位に帯電される。次いで、原稿読取装置によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント画像情報に基づいて、露光装置6が、各感光体2の表面(帯電面)を露光する。これにより、露光された部分の電位が低下して各感光体2の表面に静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像装置4がトナーを供給し、各感光体2上にトナー画像が形成される。各感光体2上に形成されたトナー画像は、各感光体2の回転に伴って一次転写ニップ(一次転写ローラ12の位置)に達すると、回転する中間転写ベルト11上に順次重なり合うように転写される。かくして、中間転写ベルト11上にフルカラーのトナー画像が形成される。なお、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkのうち、いずれか一つを使用して単色画像を形成したり、いずれか2つ又は3つの作像ユニットを用いて2色又は3色の画像を形成したりすることもできる。また、中間転写ベルト11へトナー画像が転写された後は、クリーニング部材5によって各感光体2上の残留トナーなどが除去される。
【0024】
中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像は、中間転写ベルト11の回転に伴って二次転写ニップ(二次転写ローラ13の位置)へ搬送され、タイミングローラ16によって搬送されてきた用紙P上に転写される。そして、用紙Pは、定着装置20へと搬送され、互いに接触する一対の回転体21,22の間(ニップ部)を通過する。このとき、用紙P上のトナー画像が一対の回転体21,22によって加熱及び加圧されることにより、トナー画像が用紙Pに定着される。そして、用紙Pは、記録媒体排出部400へ搬送され、排紙ローラ17によって排紙トレイ18へ排出される。これにより、一連の画像形成動作が終了する。
【0025】
<定着装置の構成>
続いて、図2に基づき、本発明の第一実施形態に係る定着装置20の構成について説明する。
【0026】
図2に示されるように、本実施形態に係る定着装置20は、一対の回転体21,22のほか、加熱源23、ニップ形成部材24、支持部材25、反射部材26、摺動部材27、温度検知部材28を備えている。
【0027】
一対の回転体21,22のうち、一方の回転体(第一回転体)21は、用紙Pの未定着画像担持面に接触して用紙Pに未定着画像(未定着トナーT)を定着させる定着回転体である。他方の回転体(第二回転体)22は、定着回転体21に接触して定着回転体21との間にニップ部Nを形成する加圧回転体である。
【0028】
本実施形態において、定着回転体21は、可撓性を有する無端状のベルト部材(定着ベルト)により構成されている。一方、加圧回転体22は、弾性層などを有するローラ(加圧ローラ)により構成されている。なお、定着回転体21としては、ベルト部材のほか、ローラを用いてもよい。また、加圧回転体22も、ローラである場合に限らず、ベルト部材により構成されてもよい。
【0029】
具体的に、定着回転体21は、例えば外径が30mm、長手方向の長さが360mmのベルト部材により構成される。また、定着回転体21は、その内側から順に、内側コート層、基材、高熱伝導層、弾性層、離型層を有する。内側コート層は、例えば厚さ10μmに構成される。基材は、例えば厚さ30μmのニッケル層により構成される。高熱伝導層は、例えば厚さ10μmの銅層により構成される。弾性層は、例えば厚さ120μmのシリコーンゴムにより構成される。離型層は、例えば厚さ7μmのPFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)層により構成される。
【0030】
加圧回転体22は、例えば外径が32mm、長手方向の長さが340mmのローラにより構成される。また、加圧回転体22は、その内側から順に、芯材22a、弾性層22b、離型層22cを有する。芯材22aは、例えば外径24mmの中実又は中空の鉄製の部材である。弾性層22bは、例えば厚さ4mmの発泡ゴム層により構成される。離型層22cは、例えば厚さ50μmのPFA層により構成される。
【0031】
加熱源23は、赤外線などの電磁波を含む加熱エネルギーを放射して対象物を加熱する非接触式の加熱源である。本実施形態においては、加熱源23として、赤外線(赤外光)を放射して対象物を加熱するハロゲンヒータを用いている。ハロゲンヒータは、定着回転体21の内側に配置されており、ハロゲンヒータから赤外線が放射されると、赤外線が定着回転体21の内周面に照射され、定着回転体21が内側から加熱される。また、加熱源23は、定着回転体21のほか、加圧回転体22を加熱するものであってもよい。
【0032】
ニップ形成部材24は、定着回転体21の内側に配置され、加圧回転体22との間に定着回転体21を挟んでニップ部Nを形成する部材である。ニップ形成部材24は、例えば耐熱性樹脂により構成される。ニップ形成部材24が、定着回転体21を介して加圧回転体22の外周面に接触することにより、定着回転体21と加圧回転体22との間にニップ部Nが形成される。
【0033】
支持部材25は、ニップ形成部材24を支持する部材である。支持部材25が、定着回転体21に接触するニップ形成部材24の面とは反対側の面を支持することにより、加圧回転体22からの加圧力が支持部材25によって受け止められる。これにより、ニップ形成部材24の撓みが抑制され、均一な幅のニップ部Nが得られる。本実施形態においては、ニップ部Nの長手方向中央部の幅が10mm、ニップ部Nの長手方向両端部の幅が10.5mmとなっている。また、ニップ部Nにおける加圧力は、例えば25kgfに設定される。
【0034】
反射部材26は、加熱源23から放射される加熱エネルギーを定着回転体21に向けて反射する部材である。加熱源23から加熱エネルギーが放射されると、反射部材26によって加熱エネルギーが定着回転体21へ反射されるため、定着回転体21が効率良く加熱される。また、本実施形態においては、反射部材26が加熱源23と支持部材25との間に配置されているため、加熱源23から支持部材25への不必要な加熱エネルギーの付与も抑制される。
【0035】
摺動部材27は、ニップ形成部材24と定着回転体21との間に介在する低摩擦性の部材である。摺動部材27は、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などにより構成される。摺動部材27がニップ形成部材24と定着回転体21との間に介在していることにより、定着回転体21とニップ形成部材24との間の摺動抵抗が低減される。
【0036】
温度検知部材28は、定着回転体21の温度を検知する部材である。温度検知部材28は、例えば定着回転体21の長手方向中央において、定着回転体21の外周面に対向するように配置される。温度検知部材28としては、例えば、サーモパイル、サーモスタット、サーミスタ又はNCセンサなどの公知の温度センサを用いることが可能である。なお、温度検知部材28は、定着回転体21に対して非接触に配置される非接触式の温度センサに限らず、定着回転体21に接触するように配置される接触式の温度センサであってもよい。
【0037】
本実施形態に係る定着装置20は、次のように動作する。
【0038】
画像形成動作が開始されると、加圧回転体22が図2中の矢印方向への回転駆動を開始し、これに伴って定着回転体21が従動回転する。また、加熱源23が発熱を開始し、定着回転体21が加熱される。そして、温度検知部材28によって検知された温度に基づいて加熱源23が制御されることにより、定着回転体21の温度が所定の定着温度(画像定着可能な温度)となるように維持される。その後、未定着画像Tを担持する用紙Pが定着装置20へ搬送されることにより、用紙Pが定着回転体21と加圧回転体22との間(ニップ部N)に進入し、用紙P及び未定着画像Tが加熱及び加圧される。これにより、未定着画像Tが用紙Pに定着される。
【0039】
<温度制御の課題>
ここで、従来の定着装置における温度制御の課題について説明する。
【0040】
一般的に、定着装置における温度制御は、温度検知部材によって検知された温度に基づいて加熱源の発熱を制御するフィードバック制御により行われる。詳しくは、検知された温度に応じて加熱源に対する通電のデューティを算出し、算出されたディーティに基づいて加熱源に対する通電を制御する。「デューティ」とは、加熱源に対する通電サイクルの1制御周期Cあたりの通電時間Wの比率(W/C)であり、デューティ比とも称される。このように、検知温度に応じて算出されるデューティに基づいて加熱源がフィードバック制御されることにより、定着回転体の温度が所定の定着温度となるように維持される。
【0041】
しかしながら、用紙がニップ部へ進入すると、定着回転体及び加圧回転体の熱が用紙に奪われるため、ニップ部において温度の落ち込みが発生する場合がある。特に、ローラに比べて熱容量が小さいベルトを定着回転体として用いる構成においては、用紙がニップ部へ進入することによる温度の落ち込みが顕著となる傾向がある。
【0042】
そのため、従来では、温度の落ち込みが生じないように、用紙がニップ部に進入する前に、あらかじめ必要な電力を所定のタイミングで加熱源へ供給するフィードフォワード制御が行われている。
【0043】
図16に、フィードフォワード制御のタイミングチャートの一例を示す。
【0044】
図16に示される例においては、用紙の先端がニップ部に進入するタイミングT1よりも所定時間Lだけ前に、フィードフォワード制御によって必要な電力W2が加熱源へ供給される。加熱源に電力が供給されてから、加熱源の熱がニップ部に達するまでには所定時間Lの遅れ、すなわち遅延時間Lが生じる。このため、必要な電力供給の制御周期の起点を、用紙の先端がニップ部に進入するタイミングT1(以下、「ニップ進入タイミング」という。)よりも遅延時間L分だけ前にリセットすることにより、必要な電力供給を、ニップ進入タイミングT1よりも遅延時間L分だけ前のタイミングT2で開始することができる。これにより、ニップ進入タイミングT1に合わせて用紙に熱量を付与することができるようになり、用紙先端部に対応した定着回転体の温度落ち込みが抑制される。
【0045】
ところで、図16に示される例においては、加熱源を制御する制御方式として半波制御方式が用いられている。半波制御方式とは、図19(a)に示されるように、交流電源の1半波ごと(斜線部分ごと)に電力供給を行う制御方式である。半波制御方式によれば、ニップ進入タイミングT1の前に必要な電力供給を行うことができる。しかしながら、定着装置が熱間状態である場合は、定着装置が十分に蓄熱されているため、供給される電力が小さくなる傾向にある。その場合、電力値が、加熱源としてのハロゲンヒータのフィラメントの劣化及び破損に不利となる電力閾値Whを下回ってしまう虞がある。そのため、熱間状態においては、加熱源の劣化及び破損を防止する観点から、電力閾値Whを下回る電力が供給されないように、一定値以下のデューティは0にして制御される。しかしながら、デューティが0の後、必要な電力を供給する際に急激な電力変動が生じて、フリッカが生じる虞がある。
【0046】
そこで、フリッカの発生を抑制するため、図17に示される例のように、半波制御方式とは別の位相制御方式によって電力供給を行う方法が提案されている。位相制御方式とは、図19(b)に示されるように、交流電源の1半波のうち所定の位相角ごと(斜線部ごと)に電力供給を行う制御方式である。
【0047】
位相制御方式の場合、微小なデューティで電力供給を開始することができるため、電力供給と電力遮断の割合を1制御周期内に分散させることができ、フリッカを抑制することができる。しかしながら、用紙のニップ部進入前に供給された微小な電力W3は必要な電力W2よりも小さいため、温度の落ち込みが発生し、画像光沢の低下などの定着不良が発生する虞がある。
【0048】
また、図18に示されるように、位相制御の途中で制御周期のリセットを行うと、フリッカを効果的に抑制するため、位相制御を1制御周期(Tperiod)以上の時間M、継続する必要がある。例えば、50Hzで20半波の200msecを1制御周期とする場合、位相制御による制御開始後、1半波分で制御周期のリセットを行うと、フリッカ抑制効果が不十分となるため、位相制御をさらに1制御周期分継続する必要がある。しかしながら、その場合、半波制御による電力供給開始タイミングT3が、ニップ進入タイミングT1よりも遅延時間L分だけ前のタイミングT2よりも遅れてしまうため、ニップ進入タイミングT1に合わせて用紙に熱量を付与することができず、温度の落ち込みが発生する。特に、近年の画像形成装置の高速化に伴い、定着装置における単位時間あたりの必要熱量が大きくなると共に、電力供給のタイミングのずれに伴う用紙先端位置からの熱伝達のずれも大きくなることから、熱間状態における温度の落ち込みが顕著となる懸念がある。
【0049】
そこで、本発明の第一実施形態に係る定着装置においては、フリッカの抑制と良好な定着性の確保を実現するため、次のような構成及び温度制御方法を採用している。以下、本実施形態に係る構成及び温度制御方法について説明する。
【0050】
<加熱制御装置の構成>
図3は、本発明の第一実施形態に係る加熱制御装置のブロック図である。
【0051】
図3に示されるように、本発明の第一実施形態に係る加熱制御装置30は、温度検知部材28と、スイッチ部31と、ゼロクロス検知部32と、制御部33とを備えている。加熱制御装置30は、定着装置20に設けられていてもよいし、画像形成装置本体に設けられていてもよい。
【0052】
スイッチ部31は、制御部33からの指示によって交流電源40から加熱源23への電力供給及び電力遮断を切り替える手段である。スイッチ部31がオン状態となった場合は、交流電源40から加熱源23への電力供給が開始され、加熱源23が発熱する。一方、スイッチ部31がオフ状態となった場合は、交流電源40から加熱源23への電力供給が遮断され、加熱源23の発熱が停止する。
【0053】
ゼロクロス検知部32は、交流電源40のゼロクロスタイミングを検知する手段である。すなわち、ゼロクロス検知部32は、交流電源40から供給される交流電圧が、プラス側(正電圧)からマイナス側(負電圧)へ移行するゼロクロスタイミングと、マイナス側(負電圧)からプラス側(正電圧)平行するゼロクロスタイミングとを検知する。また、ゼロクロス検知部32は、ゼロクロスタイミングを検知したとき、制御部33に対してゼロクロス検知信号を出力する。
【0054】
制御部33は、温度検知部材28によって検知された定着回転体21の表面温度と、ゼロクロス検知部32によって検知された交流電圧のゼロクロスのタイミングとに基づいて、交流電圧をスイッチングするタイミングを決定する。そして、制御部33は、決定したタイミングに基づいてスイッチ部31を動作させる。具体的に、本実施形態においては、制御部33が、ゼロクロスタイミングに基づいてスイッチ部31を交流電源40の1半波のうち所定の位相角で通電制御する位相制御と、ゼロクロスタイミングに基づいてスイッチ部31を交流電源40の1半波ごとに全通電又は非通電に制御する半波制御とを行う。すなわち、制御部33は、第一の加熱動作としての位相制御と、第二の加熱動作としての半波制御とを切り替え可能に実施する。
【0055】
具体的に、制御部33は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、入出力インタフェースとがバスを介して接続されたコンピュータとして実装される情報処理装置と同等のハードウェアにより構成される。また、制御部33において実現される機能ブロックは、ハードウェア資源としてのCPUが、ROMが記憶しているプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0056】
<温度制御方法>
続いて、本発明の第一実施形態に係る温度制御方法について説明する。
【0057】
図4に示されるように、本実施形態においては、画像形成装置の電源投入直後、定着装置のウォームアップ動作が行われる。ウォームアップ動作においては、定着装置の加熱源に対して電力供給が開始され、定着回転体が加熱される。これにより、定着回転体の温度(ニップ部前温度)が次第に上昇する。図4においては、定着回転体の温度として、図2に示される定着回転体21のニップ部Nよりも用紙搬送方向上流部分Qの温度であるニップ前温度が示されている。
【0058】
ウォームアップ動作における加熱源の制御は、検知された定着回転体の温度に基づいて電力供給のタイミングを決定するフィードバック制御により行われる。そして、定着回転体の温度が所定の定着温度に達すると、ウォームアップ動作が終了し、待機状態へ移行する。待機状態は一定時間Δt1継続される。そして、待機時間が経過すると、用紙搬送が開始される。これにより、用紙が給紙カセットから二次転写ニップへ搬送され、用紙に画像が形成される。そして、用紙が定着装置へ搬送され、画像の定着処理が行われる。図4中のΔt2は、用紙搬送が開始されてから1枚目の用紙が定着装置のニップ部に進入するまでの時間である。すなわち、用紙搬送の開始から一定時間Δt2経過後に、1枚目の用紙が定着装置のニップ部に進入し、定着処理が行われる。その後、2枚目以降の用紙が所定の時間間隔でニップ部へ進入し、同様に定着処理が行われる。
【0059】
ここで、本実施形態においては、フィードバック制御のほか、ニップ部への用紙の進入に伴う温度の落ち込みを抑制するため、ニップ部への用紙進入前にあらかじめ必要な電力を加熱源へ供給するフィードフォワード制御が行われる。すなわち、1枚目の用紙の先端がニップ部に進入するタイミングT1よりも所定時間Δtだけ前に、必要な電力を供給するフィードフォワード制御が行われる。また、定着装置が熱間状態となる前の冷間時においては、フィードフォワード制御及びフィードバック制御として、第二の加熱動作である半波制御が行われる。具体的に、フィードフォワード制御は、固定デューティとし、フィードフォワード制御開始のタイミングの水準を振り、定着回転体のニップ部前温度のプロファイルを比較して行われる。一方、フィードバック制御は、PID制御により行われる。そして、フィードフォワード制御とフィードバック制御との合計により最終的なデューティが決定される。ただし、デューティの合計が100%を超える場合は、100%をデューティとして決定する。
【0060】
図5は、フィードフォワード制御の開始タイミングとニップ部前の温度リップル(温度差)との関係を示す図である。
【0061】
図5において、横軸が、フィードフォワード制御によって必要な電力が加熱源に供給されてから1枚目の用紙がニップ部に進入するまでの時間Δt、すなわち、フィードフォワード制御の開始タイミングを示し、縦軸は、ニップ部前温度の温度リップルΔRを示す。この場合、時間Δtが0.5secのとき、温度リップルΔRが最も小さくなる。従って、このときの時間Δt(0.5[sec])が、加熱源の熱が供給されてからニップ部に達するまでの遅延時間Lに相当する。
【0062】
従って、図6(a)に示されるように、フィードフォワード制御の開始を、最適な時間Δt(0.5sec)、すなわちニップ進入タイミングT1よりも遅延時間Lだけ前に行った場合は(Δt=L)、用紙がニップ部へ進入するタイミングに合わせて必要な熱量を付与することができるため、温度リップルRが最も小さくなる。一方、図6(b)に示されるように、フィードフォワード制御の開始を、遅延時間L前よりも早いタイミングで行った場合は(Δt>L)、用紙がニップ部へ進入するタイミングよりも前に熱量が付与されるため、ニップ部前の温度が上昇し、温度リップルが大きくなる。また、図6(c)に示されるように、フィードフォワード制御の開始を、遅延時間L前よりも遅いタイミングで行った場合は(Δt<L)、用紙がニップ部へ進入するタイミングよりも遅れて熱量が付与されるため、ニップ部前の温度が低下し、温度リップル(温度の落ち込み)も大きくなる。このことから、本実施形態においては、フィードフォワード制御の開始から1枚目の用紙がニップ部に進入するまでの時間Δtを、遅延時間Lと同じ0.5secとしている。
【0063】
このように、フィードフォワード制御による電力供給開始のタイミングを、1枚目のニップ進入タイミングT1よりも遅延時間L分だけ前とすることにより、用紙がニップ部へ進入した後の温度の落ち込みを抑制できるようになる。しかしながら、定着装置が十分に蓄熱された熱間状態においては、半波制御によって電力供給を行うと、フリッカが発生する虞がある。一方で、フリッカの発生を抑制するために、半波制御から位相制御に切り替えると、温度の落ち込みが発生し、画像光沢の低下などの定着不良が発生する虞がある。
【0064】
そこで、本発明の第一実施形態においては、定着装置が熱間状態であっても、フリッカを抑制しつつ、良好な定着性が得られるように、以下の方法により温度制御を行うようにしている。
【0065】
図7は、本発明の第一実施形態において、熱間時の温度制御のタイミングチャートを示す図である。
【0066】
図7に示されるように、本発明の第一実施形態においては、位相制御による電力供給の開始を、1枚目のニップ進入タイミングT1よりも遅延時間L分だけ前のタイミングT2に対し、さらに1制御周期(Tperiod)以上の前のタイミングT4から行うようにしている。そして、位相制御による電力供給が1制御周期(Tperiod)以上の時間M、継続された後、半波制御による電力供給を、1枚目のニップ進入タイミングT1よりも遅延時間L分だけ前のタイミングT2で開始するようにしている。
【0067】
このように、半波制御を、ニップ進入タイミングT1よりも遅延時間L分だけ前から行うことにより、半波制御による必要な電力供給を適切なタイミングで行うことができるようになる。また、位相制御による電力供給の開始を、1枚目のニップ進入タイミングT1よりも遅延時間L分だけ前のタイミングT2に対し、さらに1制御周期以上の前のタイミングT4から行うことにより、位相制御による電力供給を、半波制御の前に1制御周期以上継続して行うことができる。これにより、フリッカの発生を効果的に抑制しつつ、適切なタイミングで必要な電力供給を行うことができるので、温度の落ち込みが抑制され、良好な定着性が得られるようになる。従って、本発明の第一実施形態によれば、フリッカの抑制と良好な定着性の両方を確保できるようになる。
【0068】
<本発明の第二実施形態>
また、図8に示されるように、位相制御を、1制御周期(Tperiod)の2倍の時間、継続して行ってもよい。すなわち、半波制御の直前に行われる位相制御の開始タイミングT4を、ニップ進入タイミングT1よりも遅延時間L分だけ前のタイミングT2に対し、さらに1制御周期(Tperiod)の2倍前のタイミングとしてもよい。なお、位相制御の開始タイミングT4は、1制御周期の2倍前のタイミングである場合に限らず、1制御周期の3倍又は4倍などの任意の整数倍前のタイミングであってもよい。
【0069】
<比較試験>
また、本発明の効果を確認するため、次のような比較試験を行った。本比較試験においては、本発明の実施例と比較例とを用意し、それぞれにおいて得られる画像の光沢度を測定した。
【0070】
(実施例1及び比較例1の比較試験)
まず、本発明の実施例1と比較例1とを用いて行った試験について説明する。
【0071】
実施例1と比較例1は、温度制御方法が異なる以外は、同じ構成の定着装置を用い、同じ条件で通紙を行って画像の定着処理を行った。具体的には、図2に示される定着装置20と同じ構成の定着装置を用い、LTRサイズの普通紙(具体的には、20lbの標準紙)を線速300m/sec、60cpmで横送りした。また、通紙を、定着装置が冷間状態のときから、3枚20秒の間欠条件で30ジョブ行った。用紙に形成される画像は、縦50mm、横50mmのレッドパッチ画像とした。そして、レッドパッチ画像が直径30mmの定着ベルト(定着回転体)の1周目で定着されるように、レッドパッチ画像を、用紙の幅方向中央で、用紙の先端から20mm間隔をあけて転写するようにした。また、レッドパッチ画像のトナー付着量は、M/A=0.8mg/cmとした。
【0072】
また、加熱源に電力供給する商用電源の電圧を120V、周波数を60Hzとした。加熱源の基本的な制御は、図4に示される制御方法と同じように、フィードバック制御とフィードフォワード制御により行った。また、定着装置が熱間状態である場合に、位相制御を行うときのデューティは20%に固定した。
【0073】
実施例1においては、位相制御による電力供給の開始を、用紙がニップ部に進入するタイミングよりも遅延時間分だけ前のタイミングに対して、さらに1制御周期分、すなわち167msec分だけ前のタイミングから行った。一方、比較例1においては、位相制御による電力供給の開始を、用紙がニップ部に進入するタイミングよりも遅延時間分だけ前のタイミングから行った。なお、遅延時間は0.5秒とした。
【0074】
以上の構成及び条件の実施例1及び比較例1において定着処理を行い、定着処理後の画像の光沢度を測定した。光沢度の測定は、光度計PG-1(60°、日本電色社製)を用いて行った。図9に、実施例1及び比較例1におけるジョブごとの定着ベルトの温度推移を示し、図10に、実施例1及び比較例1におけるジョブごとの画像の光沢度の推移を示す。図9に示される定着ベルトの温度は、適正な温度を0[deg]とし、適正な温度との温度偏差により表されたニップ前温度の相対値である。また、図9及び図10において、実線が実施例1を示し、点線が比較例1を示す。
【0075】
図9及び図10に示されるように、1回目のジョブから15回目のジョブまでの、定着装置の蓄熱があまりされていない冷間状態においては、実施例1と比較例1との間で定着ベルトの温度と画像の光沢度に大きな差は生じなかった。しかしながら、20回目以降のジョブでは、比較例1において、定着ベルトの温度が大きく落ち込み、画像の光沢度も低下した。ジョブが20回目以降になると、定着装置が蓄熱されて熱間状態となり、定着ベルトの温度が定着温度に維持されるため、デューティ=0となる区間が発生する。その場合、上述の通り、デューティ20%の位相制御中に用紙のニップ進入に伴う制御周期のリセットが入ると、供給される電力が小さくなる。特に、比較例1では、位相制御による電力供給の開始を、用紙のニップ進入タイミングよりも遅延時間分だけ前から行ったため、その後の半波制御による電力供給を、ニップ進入タイミングよりも遅延時間分前のタイミングから行うことができなかった。その結果、比較例1においては、適切なタイミングで必要な熱量を供給できず、温度の落ち込みが生じたものと考えられる。これに対して、実施例1においては、位相制御が1制御周期継続された後に、半波制御により必要な電力供給を、用紙のニップ進入タイミングよりも遅延時間分だけ前のタイミングから行えたため、温度の落ち込みを抑制でき、良好な光沢度が得られた。
【0076】
(実施例2及び比較例2の比較試験)
次に、本発明の実施例2と比較例2とを用いて行った試験について説明する。
【0077】
実施例2及び比較例2では、実施例1及び比較例1とは異なり、商用電源の周波数を50Hzとした。また、実施例2は、位相制御による電力供給の開始を、用紙がニップ部に進入するタイミングよりも遅延時間分だけ前のタイミングに対して、さらに2制御周期分、すなわち400msec分だけ前のタイミングから行った。一方、比較例2においては、位相制御による電力供給の開始を、用紙がニップ部に進入するタイミングよりも遅延時間分だけ前のタイミングから行った。なお、その他の構成及び条件は、実施例1及び比較例1と同じである。
【0078】
図11に、実施例2及び比較例2におけるジョブごとの定着ベルトの温度推移を示し、図12に、実施例2及び比較例2におけるジョブごとの画像の光沢度の推移を示す。なお、図11に示される定着ベルトの温度も、適正な温度との温度偏差により表されるニップ前温度の相対値である。また、図11及び図12において、実線が実施例2を示し、点線が比較例2を示す。
【0079】
図11及び図12に示されるように、比較例2において、20回目以降のジョブでは、実施例2と比べて定着ベルトの温度が大きく落ち込み、画像の光沢度も低下した。しかも、比較例2では、比較例1よりも、温度の落ち込みと光沢度の低下が顕著となった。これは、比較例2における商用電源の周波数が50Hzであることにより、周波数が60Hzの商用電源を用いた比較例1と比べて1制御周期が長くなり、位相制御の継続時間も長くなったことに加え、半波制御による必要な電力供給を適切なタイミングで行うことができなかったからと考えられる。これに対して、実施例2では、温度の落ち込みが抑制され、良好な光沢度も得られた。これは、実施例2の場合、位相制御が2制御周期の間継続された後、半波制御による必要な電力供給が、用紙のニップ進入タイミングよりも遅延時間分だけ前のタイミングで行えたからと考えられる。
【0080】
(実施例3及び比較例3の比較試験)
続いて、本発明の実施例3と比較例3とを用いて行った試験について説明する。
【0081】
実施例3及び比較例3を用いた試験では、定着装置が冷間状態のときから、B4サイズの普通紙を連続50枚通紙したときの定着ベルトの温度と画像の光沢度の測定を行った。
【0082】
図13に、B4サイズの普通紙を通紙したときの通紙及び温度制御のタイミングチャートを示す。
【0083】
B4サイズの場合、通紙幅が加熱源の発熱部全長に比べて小さいため、用紙が通過しない加熱源両端部側の非通紙領域において温度上昇が顕著となる。その場合、良好な画像定着が行えなくなる虞があるほか、定着回転体が劣化又は損傷する虞があるため、連続通紙の途中で、紙間をD1からD2へ広げ(PPMを下げ)、非通紙領域における温度上昇を抑制する制御が行われる。具体的に、実施例3及び比較例3においては、1枚目から14枚目までの用紙を25PPMで搬送し、15枚目以降の用紙は17PPMで搬送するようにした。また、PPMを下げて紙間が広がったときの紙間領域においては、供給熱量が過剰とならないように、フィードバック制御のみで加熱源の制御を行った。そして、後続の用紙がニップ部を通過するタイミングで固定デューティによるフィードフォワード制御とフィードバック制御とを行った。
【0084】
また、実施例3においては、実施例1と同じように、位相制御による電力供給の開始を、用紙がニップ部に進入するタイミングよりも遅延時間分だけ前のタイミングに対して、さらに1制御周期分だけ前のタイミングから行った。一方、比較例3においては、位相制御による電力供給の開始を、用紙がニップ部に進入するタイミングよりも遅延時間分だけ前のタイミングから行った。なお、その他の構成及び条件は、実施例1及び比較例1と同じである。
【0085】
図14に、実施例3及び比較例3における通紙ごとの定着ベルトの温度推移を示し、図15に、実施例3及び比較例3における通紙ごとの画像の光沢度の推移を示す。なお、図14に示される定着ベルトの温度も、適正な温度との温度偏差により表されるニップ前温度の相対値である。また、図14及び図15において、実線が実施例3を示し、点線が比較例3を示す。
【0086】
図14及び図15に示されるように、通紙開始後、1枚目から20枚目までは、実施例3と比較例3との間で定着ベルトの温度と画像の光沢度に大きな差は生じなかったが、25枚目以降では、比較例3において、定着ベルトの温度が大きく落ち込み、画像の光沢度も低下した。通紙枚数が25枚目以降になると、定着装置の蓄熱量が一段と高くなる。特に、紙間の領域においては、用紙への熱伝達がないことに加え、非通紙領域から通紙領域への熱伝達によって、電力供給のデューティが小さくなり、デューティ=0となる区間が生じる場合がある。このため、比較例3においては、25枚目以降のデューティ=0となる区間が生じた後に、位相制御に移行し、その後の半波制御による電力供給を、ニップ進入タイミングよりも遅延時間分だけ前のタイミングから行うことができなかったため、温度の落ち込みが生じたものと考えられる。これに対して、実施例3においては、位相制御が1制御周期継続された後に、半波制御により必要な電力供給を、用紙のニップ進入タイミングよりも遅延時間分だけ前の適切なタイミングで行えたことから、温度の落ち込みが抑制され、良好な光沢度が得られたものと考えられる。
【0087】
以上のように、本発明の実施形態によれば、第一の加熱動作である位相制御から第二の加熱動作である半波制御への切り替えが、ニップ部への用紙進入の直前に行われる場合、半波制御を、ニップ部への用紙進入のタイミングよりも遅延時間分だけ前に開始することにより、必要な電力供給を適切なタイミングで行うことができる。このため、温度の落ち込みが抑制されて、良好な定着性が得られるようになる。また、本発明の実施形態によれば、半波制御の直前に行われる位相制御を、40%以下のデューティで、1制御周期以上継続することにより、フリッカの発生を効果的に抑制できるようになる。
【0088】
位相制御によるデューティの上限側は、40%以下であればよい。位相制御によるデューティを40%以下とすることにより、フリッカの発生を効果的に抑制できる。一方、デューティの下限側は10%以上が望ましい。デューティが10%未満で、短い周期でハロゲンヒータのオンーオフを繰り返した場合、フィラメントから蒸発したタングステンとハロゲンランプ内に封入されたハロゲンガスとの熱化学的な循環反応であるハロゲンサイクルが不完全となり、フィラメントの寿命が短くなる不具合が生じてしまう。よって、位相制御によるデューティの下限はハロゲンサイクルが正常に行われるように10%以上とした。
【0089】
また、位相制御(第一の加熱動作)及び半波制御(第二の加熱動作)のそれぞれの制御周期を、交流電源の連続する20個の半波を1制御周期としてもよい。さらに、交流電源の周波数が50Hzの場合に、位相制御(第一の加熱動作)及び半波制御(第二の加熱動作)のそれぞれの制御周期を200msecとし、交流電源の周波数が60Hzの場合に、位相制御(第一の加熱動作)及び半波制御(第二の加熱動作)のそれぞれの制御周期を167msecとしてもよい。このように設定することにより、周波数帯によらずにフリッカの抑制と良好な定着性の両立を実現できるようになる。
【0090】
また、本発明は、図2に示されるような1つの加熱源を備える構成に適用される場合に限らず、複数の加熱源を備える構成にも適用可能である。例えば、本発明に係る定着装置は、加熱源として、定着回転体の長手方向中央側を加熱する第一のハロゲンヒータと、定着回転体の長手方向両端部側を加熱する第二のハロゲンヒータを備えるものであってもよい。このような定着装置においても本発明を適用することにより、フリッカの抑制と良好な定着性の両立を実現できるようになる。
【0091】
以上説明した本発明の態様をまとめると、本発明には、少なくとも下記の態様が含まれる。
【0092】
[第1の態様]
第1の態様は、互いに接触してニップ部を形成する一対の回転体と、前記一対の回転体の少なくとも一方を加熱する加熱源とを備え、前記加熱源が第一の加熱動作と第二の加熱動作とに切り替えて制御可能であって、前記ニップ部に進入する記録媒体を加熱し、前記記録媒体に画像を定着させる定着装置において、前記記録媒体が前記ニップ部に進入する直前に、第一の加熱動作から第二の加熱動作に切り替えられる場合に、前記第二の加熱動作を、前記記録媒体が前記ニップ部へ進入するタイミングよりも前記加熱源の熱が前記ニップ部に達するまでの遅延時間分だけ前に開始し、前記第二の加熱動作の直前に行われる前記第一の加熱動作を、前記加熱源への供給電力のデューティが40%以下で、1制御周期以上継続して行う定着装置である。
【0093】
[第2の態様]
第2の態様は、第1の態様において、前記第二の加熱動作の直前に行われる前記第一の加熱動作を、前記加熱源への供給電力のデューティが10%以上40%以下で、1制御周期以上継続して行う定着装置である。
【0094】
[第3の態様]
第3の態様は、第1又は第2の態様において、交流電源から前記加熱源への電力供給及び電力遮断を切り替えるスイッチ部と、前記交流電源のゼロクロスタイミングを検知するゼロクロス検知部とを備え、前記第一の加熱動作は、前記ゼロクロスタイミングに基づいて前記スイッチ部を前記交流電源の1半波のうち所定の位相角で通電制御する位相制御であり、前記第二の加熱動作は、前記ゼロクロスタイミングに基づいて前記スイッチ部を前記交流電源の1半波ごとに全通電又は非通電に制御する半波制御である定着装置である。
【0095】
[第4の態様]
第4の態様は、第1から第3のいずれか1つの態様において、前記第一の加熱動作及び前記第二の加熱動作のそれぞれの制御周期は、前記交流電源の連続する20個の半波を1制御周期とし、前記交流電源の周波数が50Hzの場合、前記第一の加熱動作及び前記第二の加熱動作のそれぞれの制御周期を200msecとし、前記交流電源の周波数が60Hzの場合、前記第一の加熱動作及び前記第二の加熱動作のそれぞれの制御周期を167msecとする定着装置である。
【0096】
[第5の態様]
第5の態様は、第1から第4のいずれか1つの態様において、前記第二の加熱動作の直前に行われる前記第一の加熱動作を、前記加熱源への供給電力のデューティが40%以下で、1制御周期の整数倍の時間継続して行う定着装置である。
【0097】
[第6の態様]
第6の態様は、記録媒体に画像を形成する画像形成部と、前記記録媒体に画像を定着させる第1から第5のいずれか1つの態様の定着装置とを備える画像形成装置。
【符号の説明】
【0098】
20 定着装置
21 定着回転体
22 加圧回転体
23 加熱源
31 スイッチ部
32 ゼロクロス検知部
40 交流電源
100 画像形成部
1000 画像形成装置
N ニップ部
S 用紙(記録媒体)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0099】
【特許文献1】特開2010-286649号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19