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特開2024-155132非破壊検査方法および非破壊検査システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155132
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】非破壊検査方法および非破壊検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
G01N25/72 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069575
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100083725
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100140349
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 継立
(74)【代理人】
【識別番号】100153305
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 卓弥
(74)【代理人】
【識別番号】100206933
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 正樹
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 正
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大地
(72)【発明者】
【氏名】坂田 義太朗
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA07
2G040AB09
2G040BA14
2G040BA26
2G040CA02
2G040DA06
2G040DA12
2G040DA15
2G040EA06
2G040FA09
2G040HA02
2G040HA06
2G040HA14
(57)【要約】
【課題】 本開示は、たとえば、薄板に限らず比較的厚い金属板の背面の正常、非正常を短時間で検出することを目的とする。
【解決手段】 非破壊検査方法は、背面に異種部材が接合された金属板の前面に0.1~100μmの範囲のいずれかの波長を含む電磁波を照射して、前記金属板の前面に入熱を行う工程と、前記金属板の前面の温度上昇中に、入熱終了後の前記前面の温度下降中に、または前記温度上昇中および前記温度下降中に、前記金属板への入熱量、前記金属板の物性、および前記金属板と前記異種部材の接合部の物性に相関した表面温度差を生じさせる工程と、前記表面温度差、前記表面温度差に基づく時定数差、または前記表面温度差および前記時定数差から、前記接合部を正常部または非正常部に判別する工程と、を含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面に異種部材が接合された金属板の前面に0.1~100μmの範囲のいずれかの波長を含む電磁波を照射して、前記金属板の前面に入熱を行う工程と、
前記金属板の前面の温度上昇中に、入熱終了後の前記前面の温度下降中に、または前記温度上昇中および前記温度下降中に、前記金属板への入熱量、前記金属板の物性、および前記金属板と前記異種部材の接合部の物性に相関した表面温度差を生じさせる工程と、
前記表面温度差、前記表面温度差に基づく時定数差、または前記表面温度差および前記時定数差から、前記接合部を正常部または非正常部に判別する工程と、
を備える非破壊検査方法。
【請求項2】
前記金属板の厚さが4mm以上である請求項1に記載の非破壊検査方法。
【請求項3】
前記入熱を行う工程において、定常入熱が行われ、
前記判別する工程において、前記温度上昇中の前記表面温度差より解析した前記表面温度差の一次微分像、位相差像、各ピクセルの時定数、または解析により再構成された2次元像により、前記接合部を正常部または非正常部に判別する
請求項1または請求項2に記載の非破壊検査方法。
【請求項4】
前記入熱を行う工程において、過渡入熱が行われ、
前記判別する工程において、前記温度下降中の前記表面温度差より解析した前記表面温度差の一次微分像、位相差像、各ピクセルの時定数、または解析により再構成された2次元像により、前記接合部を正常部または非正常部に判別する
請求項1または請求項2に記載の非破壊検査方法。
【請求項5】
前記入熱を行う工程において、振幅を有する入熱が行われ、
前記判別する工程において、前記表面温度差、前記時定数差、または前記振幅を有する入熱信号との位相差像から、前記接合部を正常部または非正常部に判別する
請求項1または請求項2に記載の非破壊検査方法。
【請求項6】
前記入熱を行う工程において、振幅を有する入熱が行われ、
前記判別する工程において、前記温度上昇中または前記温度下降中の前記表面温度差より解析した前記表面温度差の一次微分像、位相差像、各ピクセルの時定数、または解析により再構成された2次元像により、前記接合部を正常部または非正常部に判別する
請求項1または請求項2に記載の非破壊検査方法。
【請求項7】
前記入熱を行う工程において、0.1mHz~1Hzの範囲の周波数の、振幅を有する入熱が行われ、
前記表面温度差を生じさせる工程において、前記温度上昇中および前記温度下降中に、前記金属板への入熱量、前記金属板の物性、前記接合部の物性、および前記周波数に相関した前記表面温度差の上下変動を生じさせ、
前記判別する工程において、前記表面温度差の上下変動から前記接合部を正常部または非正常部に判別する
請求項1または請求項2に記載の非破壊検査方法。
【請求項8】
前記表面温度差の上下変動から前記接合部の密度変化を評価する工程をさらに備える
請求項7に記載の非破壊検査方法。
【請求項9】
前記表面温度差の前記時定数から前記接合部の熱伝導率または密度変化を評価する工程をさらに備える
請求項1または請求項2に記載の非破壊検査方法。
【請求項10】
背面に異種部材が接合された金属板の前面に0.1~100μmの範囲のいずれかの波長を含む電磁波を照射可能であり、前記金属板の前面に入熱可能な入熱装置と、
前記電磁波を撮像可能な計測装置と、
計測装置により撮像された画像データを解析して、温度分布画像、温度変化の一次微分像、もしくは温度分布の位相差像を生成する解析装置と、
を備える非破壊検査システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非破壊検査方法および非破壊検査システムに関し、特に、金属板背面の正常、非正常の判別に関する。
【背景技術】
【0002】
製造物は、初期の品質確認または劣化状況の確認のために、製造後または定期的に検査されることがある。このような検査では、製造物を破壊しないように、非破壊検査が用いられる。
【0003】
検査される製造物には、板状部材も含まれる。たとえば、金属製の薄板(特に厚みが1mm以下の薄板)の表面または表面近傍にある欠陥を、薄板の加熱および赤外線像の撮像により検査する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-90801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、金属板が、薄板、特に厚みが1mm以下の薄板に限定され、検出対象が表面または表面近傍にある欠陥に限定されている。このように、非破壊検査において、検査対象の厚みおよび表面から欠陥までの距離は、検査の可否を決定する重要な要素である。たとえば、4mm以上の厚みを有する金属板の背面の欠陥を1分程度の短時間で検査する技術は知られておらず、検査業者らは、比較的厚い金属板の短時間での検査は困難であるとの認識を有している。
【0006】
そこで、本開示は、たとえば、薄板に限らず、4mm以上という比較的厚い金属板の背面の正常、非正常を短時間で検出することを第1の目的とする。
【0007】
また、本開示は、たとえば、異種部材が接合された金属板の接合部の接着状態の違いを、4mm以上という比較的厚い金属板の側から短時間で検出することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示の第1の側面によれば、非破壊検査方法は、背面に異種部材が接合された金属板の前面に0.1~100μmの範囲のいずれかの波長を含む電磁波を照射して、前記金属板の前面に入熱を行う工程と、前記金属板の前面の温度上昇中に、入熱終了後の前記前面の温度下降中に、または前記温度上昇中および前記温度下降中に、前記金属板への入熱量、前記金属板の物性、および前記金属板と前記異種部材の接合部の物性に相関した表面温度差を生じさせる工程と、前記表面温度差、前記表面温度差に基づく時定数差、または前記表面温度差および前記時定数差から、前記接合部を正常部または非正常部に判別する工程と、を含む。
【0009】
上記非破壊検査方法において、前記金属板の厚さが4mm以上でもよい。
【0010】
前記入熱を行う工程において、定常入熱が行われてもよく、前記判別する工程において、前記温度上昇中の前記表面温度差より解析した前記表面温度差の一次微分像、位相差像、各ピクセルの時定数、または解析により再構成された2次元像により、前記接合部を正常部または非正常部に判別してもよい。
【0011】
前記入熱を行う工程において、過渡入熱が行われてもよく、前記判別する工程において、前記温度下降中の前記表面温度差より解析した前記表面温度差の一次微分像、位相差像、各ピクセルの時定数、または解析により再構成された2次元像により、前記接合部を正常部または非正常部に判別してもよい。
【0012】
前記入熱を行う工程において、振幅を有する入熱が行われてもよく、前記判別する工程において、前記表面温度差、前記時定数差、または前記振幅を有する入熱信号との位相差像から、前記接合部を正常部または非正常部に判別してもよい。
【0013】
前記入熱を行う工程において、振幅を有する入熱が行われてもよく、前記判別する工程において、前記温度上昇中または前記温度下降中の前記表面温度差より解析した前記表面温度差の一次微分像、位相差像、各ピクセルの時定数、または解析により再構成された2次元像により、前記接合部を正常部または非正常部に判別してもよい。
【0014】
前記入熱を行う工程において、0.1mHz~1Hzの範囲の周波数の、振幅を有する入熱が行われてもよく、前記表面温度差を生じさせる工程において、前記温度上昇中および前記温度下降中に、前記金属板への入熱量、前記金属板の物性、前記接合部の物性、および前記周波数に相関した前記表面温度差の上下変動を生じさせてもよく、前記判別する工程において、前記表面温度差の上下変動から前記接合部を正常部または非正常部に判別してもよい。
【0015】
上記非破壊検査方法は、前記表面温度差の上下変動から前記接合部の密度変化を評価する工程をさらに含んでもよい。
【0016】
上記非破壊検査方法は、前記表面温度差の前記時定数から前記接合部の熱伝導率または密度変化を評価する工程をさらに含んでもよい。
【0017】
上記目的を達成するため、本開示の第2の側面によれば、非破壊検査システムは、背面に異種部材が接合された金属板の前面に0.1~100μmの範囲のいずれかの波長を含む電磁波を照射可能であり、前記金属板の前面に入熱可能な入熱装置と、前記電磁波を撮像可能な計測装置と、計測装置により撮像された画像データを解析して、温度分布画像、温度変化の一次微分像、もしくは温度分布の位相差像を生成する解析装置と、を含む。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、次のような効果が得られる。
【0019】
(1) 4mm以上という比較的厚い金属板と樹脂材料との接合部の接着状態の違いを、4mm以上という比較的厚い金属板の側から、有効かつ短時間で検出することができる。
【0020】
(2) 使用状態において異種部材側からの検査が容易でない検査対象を金属板側から検査でき、検査負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態に係る非破壊検査システムおよび検査対象の一例を示す図である。
図2】非破壊検査の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図3】解析モデルを説明するための図である。
図4】解析モデルの表面温度差画像の一例を示す図である。
図5】入熱時の過渡応答のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図6】入熱量と温度差の相関の一例および入熱量と時定数との相関の一例を示す図である。
図7】第1の検査結果のイメージの一例を示す図である。
図8】第2の検査結果のイメージの一例を示す図である。
図9】第3の検査結果のイメージの一例を示す図である。
図10】矩形波印加時の過渡応答のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図11】密度減少時の過渡応答のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図12】密度増加時の過渡応答のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図13】極性反転を説明するための図である。
図14】密度変化率と温度差の変動量との関係を示す図である。
図15】温度変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、実施の形態に係る非破壊検査システムおよび検査対象の一例を示している。図2は、非破壊検査の処理手順の一例を示すフローチャートである。図1に示す構成および図2に示す処理手順は一例であって、斯かる構成および処理手順に本開示の技術が限定されるものではない。
【0023】
積層板2は、非破壊検査の検査対象の一例であって、金属板4と、被接合部材6と、接着層8とを備えている。被接合部材6および接着層8は、金属板4に対する異種部材の一例である。
【0024】
金属板4は、ステンレス鋼(SUS)、鉄などの金属の板である。金属板4は、たとえば4mm以上、10mm以下の範囲の厚みを有し、4mm未満の厚みを有してもよく、10mmを超える厚みを有してもよい。
【0025】
被接合部材6は、金属とは異なる部材であって、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂部材である。被接合部材6は、たとえば、金属板4の保護のために金属板4の背面に接合される。被接合部材6の種類および厚みは、保護の目的に応じて決定される。被接合部材6は、板状部材に限定されず、保護フィルムなどでもよい。
【0026】
接着層8は、たとえば固化した接着剤である。接着層8は、金属板4と被接合部材6の間に配置され、被接合部材6を金属板4に接合する。つまり、接着層8は、金属板と異種部材(被接合部材6および接着層8)の接合部の一例である。接着剤は、金属板4および被接合部材6に接合可能なものから決定される。
【0027】
積層板2は、使用状態において、被接合部材6側からの検査が難しい場合がある。たとえば、図1に示されているように、被接合部材6が薬液Lに接触している場合、被接合部材6側からの検査のために、薬液Lを除去する必要がある。そのため、本開示の技術では、金属板4側からの検査を前提とする。つまり、金属板4の前面(つまり、被接合部材6が接合されている金属板4背面の反対面)側からの検査を前提とする。想定される異常は、たとえば、被接合部材6または接着層8の剥離、損傷、劣化、空間形成、薬液浸透などである。
【0028】
既に述べた通り、検査業者らは、4mm以上の比較的厚い金属板の短時間での検査は困難であるとの認識を有していた。そこで、本発明者らは、金属板の背面に存在する異種部材を上手く利用して異常を検査することに注力した。
【0029】
非破壊検査では、金属板4の前面から背面に向かう伝搬波10を生じさせる。伝搬波10が接合部(接着層8)に緩衝して接合部で反射されると、接合部の物性に応じて異なる伝搬波12が金属板4の前面に向かうことになる。伝搬波12が金属板4の前面に到達することで、接合部の相違による変化が、金属板4の前面に現れることになる。ところで、伝搬波10が異種部材側に伝搬すると、伝搬波12が弱くなる。そのため、積層板2の検査では、伝搬波10が樹脂などの異種部材よりも金属において高い透過性および伝搬性を有する検査波であると、異種部材を上手く利用して異常を検査することができる。このような伝搬波10を得るため、非破壊検査では、たとえば0.1~100μm(好ましくは0.75~14μm)の波長を含む電磁波を照射することとした。金属板4の前面には、接合部の物性の相違により、たとえば表面温度差が発生する。この表面温度差を用いて、接合部の物性の相違、ならびに接合部における正常部または非正常部を判別できる。
【0030】
非破壊検査は、本開示の非破壊検査方法の一例であって、入熱工程と、温度差発生工程と、判別工程とを含む。
【0031】
入熱工程では、金属板4の前面に、たとえば0.1~100μm(好ましくは0.75~14μm)の波長を含む電磁波を照射して(S101)、金属板4の前面に入熱を行う(S102)。0.1~100μmの波長を含む電磁波は、熱または熱放射に関連し、伝搬波10、伝搬波10と接合部との緩衝、および伝搬波12を生じさせることができる。0.75~14μmの波長を含む電磁波は、接合部の接着状態の変化による物性(密度、伝導率など)の違いに対して、良好に干渉可能な電磁波であって、伝搬波10の反射を効率的に生じさせることができる。
【0032】
温度差発生工程では、たとえば、金属板4の前面の温度上昇中に、金属板4の前面に表面温度差を発生させる(S103)。表面温度差は、同一時刻における正常部と非正常部の表面温度差を表す。温度の高い領域(たとえば非正常部)は、温度の低い領域(たとえば正常部)よりも高い温度上昇性を有することになる。つまり、正常部と非正常部との間では、最大温度到達時間(時定数)に差を発生させることになる。表面温度差および時定数差は、入熱終了後の前面の温度下降中に発生させてもよく、温度上昇中および温度下降中の両方で発生させてもよい。
【0033】
判別工程では、たとえば、表面温度差、時定数差の一方または両方から、金属板4の背面における正常部と非正常部とを判別する(S104)。正常部と非正常部は、表面温度差が表された温度分布画像から判別されてもよく、時定数が表された時定数画像から判別されてもよい。さらに、正常部と非正常部は、表面温度差より解析した表面温度差の一次微分像、位相差像、各ピクセルの時定数、または解析により再構成された2次元像から判別されてもよい。時定数画像、表面温度差の一次微分像、位相差像、各ピクセルの時定数、2次元像は、コンピュータ処理時より表面温度または表面温度差から生成可能である。
【0034】
このような非破壊検査を実現するため、非破壊検査システム22は、計測装置24と、入熱装置26-1、26-2と、解析装置28とを備える。解析装置28は、計測装置24および入熱装置26-1、26-2に接続され、情報端末30と有線または無線で通信する。
【0035】
計測装置24は、たとえば赤外線カメラであって、金属板4の前面の一定領域を撮像し、たとえば0.1~100μmの波長域において電磁波を画像化する。計測装置24は、0.75~14μmの波長域において電磁波を画像化してもよい。
【0036】
入熱装置26-1、26-2は、熱源であって、たとえば0.1~100μmの波長を含む電磁波を金属板4の前面に照射する。入熱装置26-1、26-2は、0.75~14μmの波長を含む電磁波を金属板4の前面に照射してもよい。
【0037】
解析装置28は、コンピュータを含み、既述の非破壊検査に関するコンピュータ処理を行う。つまり、解析装置28は、計測装置24から取得する電磁波画像データを解析して、たとえば、温度分布画像データ、時定数画像データ、表面温度差の一次微分像データ、位相差像データ、各ピクセルの時定数、再構成された2次元像データの少なくとも一つを生成する。正常部と非正常部の判別には、正常部と非正常部とを色差またはコントラストにより表す画像のデータを生成することも含まれる。
【0038】
解析装置28は、プロセッサ、記憶部、通信部などを含む。プロセッサは記憶部にあるオペレーションシステム(OS)および検査プログラムを実行して、計測装置24および入熱装置26-1、26-2を制御するとともに、表面温度差画像データを解析して解析画像を提示する。記憶部は、たとえばROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含み、オペレーションシステムおよび各種プログラムを記憶するほか、データの記憶に用いられる。通信部は、情報端末30に有線または無線で接続され、情報端末30から情報を取得し、または情報端末30に情報を出力する。
【0039】
実施の形態の特徴事項、利点および変形例等を以下に列挙する。
【0040】
(1) 薄板を含む積層板のみならず、4mm以上という比較的厚い金属板を含む積層板2の接着状態(正常、剥離、損傷、劣化、薬液浸透など)の違いを、従来困難であった4mm以上という比較的厚い金属板4の側から、有効かつ短時間で検出し、識別することができる。
【0041】
(2) 実施の形態では、表面温度差、時定数などから正常部と非正常部を判別しているが、他の指標から判別してもよい。たとえば、最大温度差到達時間から正常部と非正常部を判別してもよい。最大温度差到達時間は、入熱開始から、表面温度差が最大温度となるまでの時間である。
【0042】
(3) 被接合部材6および接着層8が異種部材を形成したが、接着層8のみが異種部材を形成してもよい。つまり、積層板2は、金属板4と接着層8とを含んでもよい。
【0043】
(4) 積層板2に照射される電磁波は、0.1~100μmの範囲または0.75~14μmの範囲の全ての波長を含む必要はなく、0.1~100μmの範囲または0.75~14μmの範囲のいずれかの波長または一部の波長を含んでいればよい。計測装置24は、積層板2に照射される電磁波の波長域の全体または一部において電磁波を画像化してもよい。
【0044】
(5) 判別工程では、解析装置28が、積層板2の表面に映るアーティファクトに起因する熱情報を除外するアルゴリズムを実行して、ノイズを抑制してもよい。アーティファクトは非破壊検査システム22、作業員、周囲の装置などである。アーティファクトが通常の入熱以外の熱や光を反射または放射すると、アーティファクトに起因する熱情報の映り込みが発生する。通常の入熱以外の熱や光による撮像強度は、入熱開始からの時間経過に対して、入熱装置26-1、26-2による通常の撮像強度とは異なる挙動を示す。通常の撮像強度は入熱装置26-1、26-2による入熱に応じて変化するのに対し、通常の入熱以外の熱や光による撮像強度は、入熱装置26-1、26-2による入熱に無関係であり、時間経過に対してたとえば一定である。そこで、解析装置28は、以下に示すアルゴリズムを実行することで、アーティファクトからの熱や光の影響を抑制することができ、検出の感度を向上させることができる。
〔アルゴリズム〕
・計測装置24により撮影された画像から、強度が変化しない像を除外する。たとえば、撮影された画像から、初期画像を除算する。
・撮影された画像から、通常の撮像強度とは異なる挙動を示す撮像強度を有する像を除外する。
【0045】
(6) 非破壊検査システム22は2台の入熱装置26-1、26-2を含んでいる。しかしながら、入熱装置の数は、1台でもよく、3台以上でもよい。
【実施例0046】
実施例1に係る非破壊検査では、温度上昇を利用して正常部と非正常部を判別する。実施例1に係る非破壊検査では、定常入熱が行われる。つまり、入熱工程において、表面温度が定常状態になるまで入熱が行われる。
【0047】
図3に示されている解析モデル32は、積層板2に相当するシミュレーションモデルである。解析モデル32の条件は、以下の通りである。
〔解析モデル32の条件〕
・寸法: 幅…100mm、長さ…250mm、厚さ…10mm(矩形形状)
・金属板4: 厚さ…6mm、熱伝導率…16.7W/mK(ワット毎メートル毎ケルビン)
・被接合部材6: 厚さ…3mm、熱伝導率…0.2W/mK
・接着層8: 厚さ…1mm、周囲部34の熱伝導率…0.2W/mK、中央部36の熱伝導率…0.0257W/mK
【0048】
金属板4の熱伝導率は、SUS304を想定して設定され、被接合部材6の熱伝導率は、PTFEを想定して設定された。接着層8の周囲部34の熱伝導率は、接着剤を想定して設定され、接着層8の中央部36の熱伝導率は、空間を想定して設定された。つまり、周囲部34は、正常部に相当し、中央部36は非正常部に相当する。
【0049】
解析条件は以下の通りである。
〔解析条件〕
・解析内容: 伝熱解析
・周囲の熱伝達率: 4.65W/m2K(静止空気を想定)
・熱輻射係数: 0.9
・入熱: 金属板4側から一定の熱流を印加
【0050】
図4は、解析モデルのシミュレーション結果であって、解析モデルの表面温度差画像の一例を示している。図4は、50Wの熱流を印加した場合のシミュレーション結果の一例である。図4において、ドットの粗密は温度を表し、ドットが密になるにつれて温度が高いことを表す。「a」は、正常部における検査位置を表し、「b」は非正常部における検査位置を表す。
【0051】
図4のAに示されているように、入熱前において、表面温度差はなく、均一温度である。図4のBに示されているように、入熱の第一段階では、中央部36(非正常部)の温度が周囲部34(正常部)よりも高くなる。図4のCに示されているように、入熱の第二段階では、中央部36から周囲部34に熱が伝搬し、最終的には温度が平均化される。そこで、非破壊検査では、たとえば、入熱の第一段階の表面温度差を解析することで正常部と非正常部を判別することができる。
【0052】
図5は、入熱時の過渡応答のシミュレーション結果の一例を示している。図5では、10W、30W、50W、70Wの熱流の印加結果が示されている。「接着剤あり」は、図4に示されているポイントaにおける表面温度であって、周囲部34の結果である。「接着剤なし」は、図4に示されているポイントbにおける表面温度であって、中央部36の結果である。図5において、横軸は印加時間〔単位:秒〕を表し、縦軸は表面温度〔単位:℃〕を表す。
【0053】
図5に示されているように、入熱量が大きくなると、周囲部34と中央部36の表面温度差が大きくなる。つまり、接着剤の有無により、時定数が異なることになる。
【0054】
非正常部の判断を容易にするため、周囲部34と中央部36の表面温度差を1.5度以上に設定すると、図6のAに示されているように、10W以上で入熱すればよいことが解かる。
【0055】
図6のBに示されているように、入熱量が10~70Wである場合、時定数は480秒から550秒になり、入熱量を上昇させると、時定数が減少する。図6のBに示されている時定数の減少傾向(傾き)から、時定数が約60秒になる入熱量を推定すると、約250Wになることが解かる。つまり、実施例1に示されているシミュレーションの結果として、入熱量を約250Wとすると、約60秒で表面温度が最大温度に到達して、過渡状態から定常状態に移行することになる。
【0056】
実施例1の特徴事項、利点および変形例等を以下に列挙する。
【0057】
(1) 従来、4mm以上という比較的厚い金属板4の裏側の状態を非破壊検査で検査することは困難であるとされてきた。しかしながら、接合部の接着状態の変化による物性の違いに対して干渉可能な電磁波を使用すれば、比較的厚い金属板4の裏側の状態を非破壊検査で検査することが可能である。すなわち、本開示の非破壊検査によれば、4mm以上という比較的厚い金属板4含む積層板2の接着状態の違いを、金属板4側から、有効かつ短時間に識別することができる。
【0058】
(2) 入熱量が10W以上であると、表面温度差が1.5℃以上となり、正常部と非正常部の判別が容易になる。
【実施例0059】
実施例2は、実施の形態で記述した非破壊検査システム22を用いて正常部と非正常部を判別させた例である。実施例2では、過渡入熱が行われる。つまり、入熱工程において、表面温度が過渡状態になるように入熱が行われる。
【0060】
実施例2に係る非破壊検査システム22は、実施の形態で記述した非破壊検査システム22と同様の構成を有する。実施の形態と同様の部分については、説明を割愛する。実施例2に係る非破壊検査システム22は、さらに、以下の構成または仕様を有している。
・入熱装置26-1、26-2: ハロゲンランプ(2台)、出力 2kW/台
【0061】
実施例2に係る非破壊検査は、入熱工程と、温度差発生工程と、判別工程とを含む。入熱工程は、実施の形態で記述した入熱工程と同様である。なお、入熱装置26-1、26-2の照射時間は5秒である。
【0062】
温度差発生工程では、入熱終了後の表面温度下降中に、表面温度差を発生させた(S103)。表層におけるノイズの混入を防止するため、入熱終了後25秒間は計測を行わなかった。
【0063】
判別工程では、非計測時間を経過後、サンプルの表面温度を30秒間(検査開始の30秒後から60秒後までの間)計測し、計測後に表面温度データを解析して、表面温度の位相像を生成し、生成した位相像から正常部と非正常部とを判別した(S104)。解析時間は、約60秒間(検査開始の60秒後から120秒後までの間)であった。
【0064】
図7のAにおいて破線円で示される位置に非正常部を有する積層板2を非破壊検査システム22で検査したところ、図7のBに示すような解析画像(位相像)が得られた。解析画像では、正常部と非正常部の間で位相差が異なることが示されている。非破壊検査システム22により、解析画像に示されている位相差から、正常部と非正常部の判別が可能である。また、検査開始から解析完了までの全体の時間は約3分であり、短時間で正常部位と非正常部位とを判別することができた。
【0065】
実施例2の変形例を以下に示す。
【0066】
(1) 実施例2に係る非破壊検査システム22では、入熱装置26-1、26-2がそれぞれ2kWの出力を有している。しかしながら、入熱装置26-1、26-2の出力は検査可能に調整されていればよく、2kW未満でもよく、2kWを超えてもよい。たとえば、非破壊検査システム22は、以下に示す入熱装置26-1、26-2を有してもよい。
・入熱装置26-1、26-2: ハロゲンランプ(2台)、出力 500W/台
【0067】
500W/台の出力を伴う非破壊検査システム22により、図8のAに示す積層板2を検査した。なお、入熱装置26-1、26-2の出力は、0.005Hzの周波数で矩形波状に変動させた。積層板2の構成は以下の通りである。積層板2には、直径Dおよび浮き高さHを有する変形部48が形成されている。
〔積層板2の構成〕
・金属板4: 材質…ステンレス鋼、厚さ…6mm
・被接合部材6: 材質…ポリテトラフルオロエチレン、厚さ…6mm
【0068】
直径Dが70mm、浮き高さHが0.5mmである積層板2の非破壊検査において、図8のBに示すように、変形部48の存在を確認可能な温度分布画像を得ることができた。直径Dが120mm、浮き高さHが6mmである積層板2の非破壊検査において、図8のCに示すように、変形部48の存在を確認可能な温度分布画像を得ることができた。直径Dが120mm、浮き高さHが6.5mmである積層板2の非破壊検査において、図8のDに示すように、変形部48の存在を確認可能な温度分布画像を得ることができた。また、直径Dが120mm、浮き高さHが6mmである積層板2の非破壊検査において、図9に示されているような画像を得ることができた。入熱停止から少なくとも140秒後、160秒後および180秒後に取得した画像において、変形部48の存在が確認できた。500W/台の出力を伴う非破壊検査システム22の有効性が確認された。
【実施例0069】
実施例1に示されている検査方法では、各時間において入熱量が一定である定量入熱が行われるのに対し、実施例3の検査方法では、入熱量が変動する変動入熱が行われる。
【0070】
実施例3の解析モデル32は、接着層8の中央部36を除き、実施例1の解析モデル32と同じである。同一部分の説明を割愛する。実施例3の解析モデル32では、接着層8の中央部36の熱伝導率を周囲部34と同じ熱伝導率(0.2W/mK)とし、この熱伝導率より想定される接着剤の物性値を変数としている。物性値の変動は接着剤の劣化により発生する。そのため、物性値を変数とするシミュレーションにより、接着剤の劣化についてのシミュレーションを行うことができる。接着剤が劣化すると、接着剤の密度が変化することになる。そのため、変数とする物性値は、密度に対して以下の式(1)で表される関係を有する熱容量になる。なお、実施例3では、接着剤の劣化を直感し易い密度を変数として説明する。
C=mc=ρVc ・・・(1)
C: 熱容量〔単位:J/K〕
m: 質量〔単位:kg〕
c: 比熱〔単位:J/(kg・K)〕
ρ: 密度〔単位:kg/m3
V: 体積〔単位:m3
【0071】
解析条件は、入熱条件を除き、実施例1の解析条件と同じである。同一部分の説明を割愛する。入熱条件は以下の通りである。実施例3では、入熱量が、0Wと50Wの間で100秒周期で変動し、矩形波を形成する。
・入熱: 金属板4側から、50Wの矩形波を入力(周期:100秒、周波数:0.01Hz)
【0072】
図10は、矩形波印加時の過渡応答のシミュレーション結果の一例を示している。図11は、密度減少時の過渡応答のシミュレーション結果の一例を示している。図12は、密度増加時の過渡応答のシミュレーション結果の一例を示している。図10図12に示されているグラフの横軸は印加時間〔単位:秒〕を表し、縦軸は温度〔単位:℃〕または温度差〔単位:℃〕を表している。図10図12において、「r」は中央部36における接着層8の密度であり、「Dr」は、周囲部34における接着層8の密度(1.25g/cm3)に対する密度変化率である。
【0073】
図10図12に示されているグラフには、表面温度および温度差の推移が示されている。表面温度は、図4に示されているポイントbにおける表面温度(つまり中央部36の表面温度)である。温度差は、ポイントbにおける表面温度と、図4に示されているポイントaにおける表面温度との温度差である。表面温度に対して温度差が十分に小さいため、ポイントaにおける表面温度(つまり周囲部34の表面温度)は、グラフに示されている表面温度と重なる。
【0074】
金属板4側から矩形波を入力すると、矩形波に応じて表面温度が上下に変動する。中央部36の密度が周囲部34の密度と同じである場合、図10に示されるように、温度差は上下に変動せず、位置の違いによるわずかな温度差が発生するのみである。
【0075】
金属板4は、被接合部材6および接着層8の時定数よりも早い時定数を有し、被接合部材6および接着層8よりも熱し易く冷め易い。つまり、金属板4は、被接合部材6および接着層8よりも矩形波の入熱に対する追従性が高い。同様に、密度が小さい接着層8は、密度が大きい接着層8よりも矩形波の入熱に対する追従性が高い。そのため、周囲部34と中央部36の間で密度が異なると、密度の差に応じて過渡応答が変化し、温度差の上下変動が発生する。
【0076】
中央部36と周囲部34の間の密度差(つまり密度変化率)が大きくなると、中央部36と周囲部34の間の追従性の差が大きくなる。そのため、図11図12に示されるように、密度差が大きくなると、温度差の上下変動が大きくなる。
【0077】
接着層8の密度が小さくなると、入熱に対する温度の追従性が良く(早く)なり、接着層8の密度が大きくなると、入熱に対する温度の追従性が悪く(遅く)なる。そのため、密度が小さくなる場合(図13のA、図13のC)と、密度が大きくなる場合(図13のB、図13のD)との間で、入熱に対する温度差の極性が反転する。つまり、入熱に対する温度の追従性を確認することにより密度が増加したのか、減少したのかを判断できる。
【0078】
図14は、密度変化率と温度差の変動量との関係を示している。温度差の変動量は、図10図12に示されている温度差のトップとボトムの差として定義される。図14に示されているグラフから、温度差の変動量は密度変化率に対してほぼ線形に推移する。そのため、温度差の変動量を判定すれば、密度変化率を判定でき、さらには密度を定量的に評価することができる。
【0079】
積層板2または解析モデル32への入熱量が一定である場合、実施例1で記述した通り、中央部36から周囲部34に熱が移動して、正常部と非正常部の間の温度差が一時的に表れることになる。しかしながら、矩形波などの振幅を有する波(入熱信号)により、入熱量が変動すると、正常部と非正常部の間の温度差が長時間持続し、正常部と非正常部の判別が容易になる。
【0080】
実施例3の特徴事項、利点および変形例等を以下に列挙する。
【0081】
(1) 正常部と非正常部の判別だけでなく、温度差の変動量から、接着層8の密度変化率ならびに密度を定量的に判定することができ、接着層8の劣化の程度を把握することができる。
【0082】
(2) 振幅を有する入熱の周波数の制御により、接着の剥離や劣化に伴う正常部と非正常部の間の表面温度差を継続させることができる。つまり、計測および解析の時期を厳選する必要がなく、入熱開始から計測開始までの待機時間を考慮する必要がない。
【0083】
(3) 金属板4の後方にある正常部と非正常部とを効率的に判別できる。
【0084】
(4) 実施例3では、矩形波(周期:100秒、周波数:0.01Hz)が入力されている。入熱は矩形波に限定されず、sin波、cos波、三角波などの振幅を有する波でもよい。振幅を有する波の周波数は、0.01Hzに限定されない。周波数は、たとえば、0.1mHz~1Hzであれば、上下に変動する温度差を生成でき、好ましくは10mHz~1Hzである。
【実施例0085】
図15は、温度変化の一例を示す図である。図15において、濃淡は温度を表し、濃度が濃くなるにつれて温度が高いことを表す。
【0086】
解析モデル42は、積層板2に相当するシミュレーションモデルであって、周囲に配置された周囲部44と、中央に配置された中央部46とを有する。周囲部44は実施例1の周囲部34と同じ条件に設定され、正常部に相当する。中央部46は実施例1の中央部36と同じ条件に設定され、非正常部に相当する。中央部46における接着層8の熱伝導率は、空間を想定して設定された。つまり、中央部46は、接着層8の最大損傷状態、すなわち100%損傷状態を表す。なお、周囲部44は、接着層8の無損傷状態、すなわち0%損傷状態を表す。
【0087】
解析モデル42において、金属板4側から入熱すると、中央部46の温度は、周囲部44の温度よりも早く上昇する。入熱開始後、最大温度差時間tfにおいて、周囲部44と中央部46の間の温度差が最大になる。最大温度差時間tf経過後、温度差は減少して、平準時間tiで温度差が最も小さくなる。最大温度差時間tfおよび平準時間tiは、入熱開始からの経過時間を表す。
【0088】
接着層8の損傷度が0%よりも大きく、100%よりも小さい場合、周囲部44と中央部46の間の温度差は、接着層8の損傷度に応じて、最大温度差時間tdで最大になる。最大温度差時間tdは、最大温度差時間tfと平準時間tiの間の時間となる。最大温度差時間tdは、図15の白抜き矢印で示されているように、中央部46の損傷度が高くなるにつれて平準時間tiから最大温度差時間tfに移行する。したがって、最大温度差時間がtdである解析モデル42の損傷度および余寿命率(百分率)は、式(2)、式(3)から算出できる。
損傷度=α×(ti-td)/(ti-tf) ・・・(2)
余寿命率=β×100×(td-tf)/(ti-tf) ・・・(3)
【0089】
積層板2の損傷度および余寿命率は、解析モデル42の損傷度および余寿命率と同様に式(2)、式(3)から算出できる。α、βの値は、たとえば、積層板2の繰り返しの検査データに基づき、検査される積層板2の特性に応じて設定される。
【0090】
実施例4の非破壊検査は、実施の形態で記述した入熱工程と、温度差発生工程と、判別工程とを含み、時間設定工程と、最大温度差時間判定工程と、損傷度または余寿命率の判定工程とをさらに含む。
【0091】
時間設定工程では、最大温度差時間tfおよび平準時間tiを設定する。最大温度差時間tfおよび平準時間tiは、たとえば解析装置28の記憶部に記憶される。最大温度差時間判定工程では、解析装置28が、正常部と非正常部の間の温度差が最大となる最大温度差時間tdを判定する。損傷度または余寿命率の判定工程では、解析装置28が、最大温度差時間tf、平準時間ti、および最大温度差時間tdから、式(2)または式(3)により損傷度または余寿命率を判定する。解析装置28は、損傷度または余寿命率を表示してもよく、損傷度または余寿命率を情報端末30に提供して、情報端末30で表示してもよい。
【0092】
実施例4の特徴事項、利点および変形例等を以下に列挙する。
【0093】
(1) 正常部と非正常部を判別するだけでなく、過渡応答から材料変性(剥離や劣化)の検知、過渡応答の温度差から密度変化率の絶対値が評価できる、つまり劣化の程度を評価することができる。また、損傷度および余寿命率を評価することができる。
【0094】
(2) 損傷度または余寿命率の判定工程では、式(2)および式(3)の代わりにルックアップテーブルを用いて損傷度または余寿命率を判定してもよい。ルックアップテーブルには、最大温度差時間tdと、最大温度差時間tdに対応する損傷度または余寿命率とを関連付けた状態で格納しておく。そして、検査において最大温度差時間tdを判定すると、ルックアップテーブルを参照して最大温度差時間tdに対応する損傷度または余寿命率を判定することができる。損傷度または余寿命率は、事前に、最大温度差時間tf、平準時間ti、式(2)、および式(3)から算出できる。
【0095】
(3) 判別工程において、解析装置28が、積層板2の表面に映るアーティファクトに起因する熱情報を除外するアルゴリズムを実行する場合、実施の形態で既述したアルゴリズムの他に、以下に示すアルゴリズムを実行してもよい。
〔アルゴリズム〕
・最大温度差時間tdが最大温度差時間tfと平準時間tiの間の時間とならない場合、最大温度差時間tdにおいて最大温度差となっている部分の像を撮影された画像から除外する。
【0096】
以上説明したように、本開示の最も好ましい実施の形態等について説明したが、本開示は、上記記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載され、又は明細書に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能であることは勿論であり、斯かる変形や変更が、本開示の範囲に含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本開示の技術は、半導体インフラストラクチャー(インフラ)、製造インフラストラクチャー、航空機、自動車、水素タンクなどの診断において、計測装置、診断サービスとして用いることができ、有用である。
【符号の説明】
【0098】
2 積層板
4 金属板
6 被接合部材
8 接着層
10、12 伝搬波
22 非破壊検査システム
24 計測装置
26-1、26-2 入熱装置
28 解析装置
30 情報端末
32、42 解析モデル
34、44 周囲部
36、46 中央部
48 変形部


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15